高校生の馬鹿馬鹿しくて、
ちょっぴりセンチメンタルな
青春グラフィティ───続行。
【前スレ目次】
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【登場人物】
>>2-3
【当スレ目次】
>>768-769
253: ◆UTA.....5w:2012/9/30(日) 00:21:48 ID:xC9Uh9m4Ek
ナツと別れて、ぼんやりと家の前で立ち竦む。
空は相変わらず灰色で、今にも真っ暗になってしまいそうだ。
どんより曇った空に、白い雪。ナツが綺麗だと褒めた雪も、アスファルトに触れてしまえばただの黒い染みになる。なんと脆くて弱い美しさだろう。
このまま、この雪に同化してアスファルトに溶けてしまえたら、俺の歪んだ心も救われるのだろうか。
「クリスマスに、ハルに告白しようと思うの」
帰り道、ナツは照れ臭そうに締まりのない顔でえへへ、と笑った。鼻を赤くして笑う彼女は、何処か昔を思い出させるようだった。
眩しい眩しい、太陽のような笑顔。
そんな顔で俺を見ないで。
本心とは裏腹に、俺の口角は上へと上がる。眉が下がりそうになるのを堪えるのがやっとだった。
「きっと上手くいくよ。応援してる」
254: ◆UTA.....5w:2012/9/30(日) 00:23:57 ID:xC9Uh9m4Ek
テレビの中の芸能人も、こんな気分だったのだろうか。
本心ではないのに、脳が笑えと命令する。そうしなければ、彼女を苦しめるだけなのだと。
……最悪の気分だ。
「アキ?何してるの?」
玄関のドアを半分開けて、訝しげにハルが顔を出す。
今、一番見たくない顔だった。
「別に何も」
「何もって……うわ、傘持ってなかったの?びしょ濡れだよ」
待ってて、とハルが風呂場に走る。きっとバスタオルでも持ってきてくれるのだろう。
ぱたり、ぱたりと雫が落ちてゆく。ナツが綺麗だと褒めた雪は、もう一粒も残っていなかった。
あるのはただ、身体を濡らす水滴だけ。心まで温度を奪われるような、冷たい水滴だけだ。
255: ◆UTA.....5w:2012/9/30(日) 00:24:55 ID:Zpv536Y7As
「はい、どうぞ」
両手に持ったカップを一つ、ハルが差し出す。ゆらゆら揺れる湯気の向こう側には、たっぷりとホットミルクが入っていた。
「ありがと」
「どう致しまして」
ハルはにこりと微笑んで、俺の隣に腰掛けた。
時折辛そうに舌を出しながら、ちびちびとホットミルクを口に含む。猫舌のハルには温かい飲み物は不向きなようだ。
「寝てなくていいの?」
カップの中の乳白色を見つめながら、素っ気なくハルに問う。
何となく、ハルの顔を見たくない。身体を気遣う振りをして、本当は何処かへ行ってほしいと思っていた。
ほう、と熱を帯びた息を吐き出して、ハルがソファの上で両膝を立てる。
「雪、見てたんだー」
256: ◆UTA.....5w:2012/9/30(日) 00:29:39 ID:xC9Uh9m4Ek
両手をカップに添えて、時折息を吹き掛けながらハルは続けた。
「雪って綺麗だよね」
ひくりと喉が引き攣る。
ついさっき、同じ台詞を聞いたばかりだ。
「今日、初めて綺麗だと思ったよ、俺も」
キラキラ光る、ナツの髪に反射する光の粒。思い出すだけで胸が擽られる思いだった。
眩しい笑顔でナツが言った言葉が、耳の奥でリフレインする。
どくん、と心臓が嫌な音を立てた。
「そうなんだ。だからアキ、家の前でじっとしてたんだね」
カップの中のミルクが音を立てて揺れる。どうやら自分で思うよりも平静を保てていないらしい。
257: ◆UTA.....5w:2012/9/30(日) 00:32:06 ID:xC9Uh9m4Ek
ハルは見ていたのだ。
何も考えられず、雪の中でただ立ち竦む俺を。
涙が出そうになるのを堪える、情けない俺を。
ハルは、見ていた。
「……やっぱり身体冷えてるからシャワー浴びてくる」
テーブルにカップを置いて、すっくと立ち上がる。
「ミルク飲まないの?」
「後で飲むから置いといて」
ハルは納得のいかない表情で俺を上目に見た。
折角出してくれたホットミルクに、俺はまだ一度も口を付けていない。ハルがむくれるのも当然だ。
砂糖の甘い香りに眩暈すら覚えて頭が痛い。兎に角この場から逃げ出したかった。
258: ◆UTA.....5w:2012/9/30(日) 00:34:47 ID:xC9Uh9m4Ek
その日はすぐにやってきた。
十二月二十五日、終業式が終わって、明日から冬休みだと学校中の生徒が浮かれていた。
受験生でもない中学二年生の俺達に焦りなどなく、頭の中はせいぜいお年玉で一杯だったに違いない。
ざわざわと騒がしい廊下に、ぽつんと一人でハルが待っていた。
俺に気付いたハルが壁から背中を離して此方に手を挙げる。隣にナツの姿はない。
「ナツ、今日は友達の家にお昼ご飯呼ばれるんだって」
「ああ、そう」
短く返事を返して歩きだすと、ハルは黙って俺の後に続いた。
「……あ、雪だ」
下足室から外を指差してハルが言う。
いつの日かナツと見た空のように、どんよりとした灰色が広がっていた。
259: ◆UTA.....5w:2012/9/30(日) 00:45:32 ID:xC9Uh9m4Ek
「アキ、傘持ってる?」
「持ってないよ。濡れるのやだなー」
口ではそう言いつつも、両手を広げて空を仰ぐ。
ぴしゃりぴしゃり、と雪が頬に当たって痛い。今日の雪は前とは違って随分固いものだった。
直径2、3ミリの氷の粒子がグラウンドの上でコロコロと跳ねる。
ホワイトクリスマスになるかも──なんてクラスの女子がはしゃいでいたけれど、こうもその通りになってしまうと面白くない。
雪が降ったから何だと言うんだ。ただ濡れて身体を冷やすだけじゃないか。
それも、わざわざクリスマスにだなんて。
十二月二十五日、終業式の日。
ホワイトクリスマスという、女子達がいかにも喜びそうなシチュエーションで、ナツは思いを告げるのだ。
『きっと上手くいくよ。応援してる』
そうだ、きっと上手くいく。
俺の入り込む余地なんて最初からなかったんだ。
260: ◆UTA.....5w:2012/9/30(日) 00:51:03 ID:xC9Uh9m4Ek
「風邪引くよ、アキ」
何かが俺の視界を遮る。淡い紺色のそれは、雪を直に受けてぱたぱたと音を鳴らしていた。
「傘持ってたんだ」
「うん。折り畳み傘だから小さいけどね」
にっこりと頬を持ち上げて、くるくると傘を回してみせる。
男二人で肩を並べるには確かに狭いけれど、雪を避けるには十分といえるだろう。
「兄弟で相合傘なんて恥ずかしいから、早く帰ろう」
「あはは、誰もそんなの気にしないって」
照れ屋さんだね、とハルが笑う。
「だったら手でも繋いで帰る?」
「え、それは流石に……」
ほら、と俺もハルに返す。
口をつぐんで悔しがるハルを、からかうように俺は笑った。
261: ◆UTA.....5w:2012/9/30(日) 01:01:34 ID:Zpv536Y7As
十二月も半ばになってからはイルミネーションがあちこちに飾られていて、街は随分色付いている。今日はその本番だからなのか、まだ日も落ちていないというのにマンションやアパートのベランダは既にチカチカと点滅していた。
「綺麗だねー」
ハルは嬉しそうに声を上げながら、目を細めてマンションを見上げた。
「うん、家もツリーくらい飾ればよかったね」
「アキも思った?俺、母さんに言ったんだけど片付けが面倒だって言われてさ」
そういえば、ここ数年ツリーを飾っているのを見た事がない。男二人の兄弟だし、もうクリスマスだサンタクロースだと騒ぐ年齢でもないから、母さんが面倒臭がるのもよく分かる。
262: ◆UTA.....5w:2012/9/30(日) 01:06:15 ID:Zpv536Y7As
「来年はツリー飾ろうか、二人で」
そう言うと、ハルは嬉しそうに目を輝かせながら力強く頷いた。
「わーい、約束だからね!アキ!」
ハルの表情はころころ変わる。
素直な感情を表すそれは、見ていて飽きる事がない。
だから、ハルの笑顔には勝てないのだろう。ナツや母さん、多くの人を惹き付けるのだろう。
それなのに、俺ときたら。
いつから平気で嘘を吐くようになったのだろうか。貼りつけたような笑顔で、本音を隠して。
本当はハルの事が憎らしい。
ハルさえ居なければ、誰に比べられる事もない、ただの中学生でいられたのに。勉強が出来なかろうが、字が汚かろうが、誰も気にもしないのに。
何も考えずに、ナツの傍にいられたのに──
「うん、約束」
嗚呼。
俺はあと何回、嘘を吐けばいいのだろう。どれだけ他人を、自分を欺けば気が済むのだろう。
嗚呼。限界だ。
もう、爆発してしまいそうだ。
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