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さよならいおん「…ありがとうさぎ」
[8] -25 -50 

1: :2011/10/12(水) 18:10:39 ID:DjGow5sBJA
ぼくの名前は
さよならいおん

「さよならいおん」


ぼくはそれしか呟けない




2: :2011/10/12(水) 18:11:56 ID:ldp/oNwss.
さよなら、それは別れの言葉。お母さんがぼくに残した言葉。
両親はぼくが小さい頃、言葉を覚える前にポンデライオンと間違われて人間に食べられてしまった。ぼくはその光景を声を殺して見ていた。人間がお母さんを捕らえたときお母さんは言ったんだ。


「さよなら」 って。

3: 3:2011/10/12(水) 18:13:13 ID:DjGow5sBJA
両親を失ったぼくは親戚の犬のところに預けられた。
ぼくよりちょっと歳上の「こんにちわん」が口癖の茶色の犬。


いぬ「こんにちわん!」

らいおん「?」

いぬ「言える?こんにちわんって。」




4: :2011/10/12(水) 18:14:12 ID:DjGow5sBJA
>>3 名前ミスりました。1です
5: :2011/10/12(水) 18:15:03 ID:DjGow5sBJA
らいおん「…さ、…さよならいおん」


ぼくが初めて言った言葉は「さよなら」だった。今もさよならしか言えない。
こんにちわん君は、さよならしか言わないぼくを気味悪がったりせずに仲良くしてくれた。

6: :2011/10/12(水) 18:16:51 ID:ldp/oNwss.
いぬ「こんにちわん!」

らいおん「!」

いぬ「玉乗りしよう!玉乗り!」

らいおん「…!」コクコク


ぼくは大きく顔を縦にふって意思表示をする。表情もうまく作れなくて微かにしか変わらない。さよならしか言えないぼくができる意思表示は『動き』だけ。
7: :2011/10/12(水) 18:17:50 ID:DjGow5sBJA
いぬ「うん、その調子!」

らいおん「…」

いぬ「わ!待てそっちに毛虫が!」

らいおん「!?」グラッ

バターンッ!


8: :2011/10/12(水) 18:19:22 ID:DjGow5sBJA
いぬ「うはww騙されてやんのwwww」

らいおん「…!!」

いぬ「ごめんwwwでもさwww」

らいおん「?」

いぬ「おまえ、ちょっと笑ってるよw」


ぼくはちょっとだけ笑えたらしい。こんにちわん君はとっても嬉しそうだった。

9: :2011/10/12(水) 18:22:24 ID:ldp/oNwss.
こんにちわん君といると笑えるのかもしれない。ずっと一緒にいればいつかはちゃんと笑顔を作れるかもしれない。


いぬ「もう帰ろうぜwお腹減ったし」


ぼくはこんにちわん君とかけっこしながら家に帰った。もう辺りは薄暗くて少し怖い気がした。

10: :2011/10/12(水) 18:24:44 ID:ldp/oNwss.
いぬ「ただいまー」

いぬ母「おかえりー」

いぬ「な!風呂入ろ!」

らいおん「!」コクコク

いぬ母「あ、さよならいおんはちょっと待ちなさい!」


ぼくはちょっと驚いた。いつも笑顔のこんにちわん君のお母さんが寂しげな空気を出していたから。
11: :2011/10/12(水) 18:25:27 ID:ldp/oNwss.
台所に呼ばれてぼくは座る。こんにちわん君のお母さんは笑顔で、でも気まずそうに口を開く。


いぬ母「あのね、最後まで聞いて欲しいんだけどね、」

らいおん「…?」

いぬ母「あなたがお家に来たのは2才になるちょっと前だったわね…」

12: :2011/10/12(水) 18:25:57 ID:DjGow5sBJA
いぬ母「あの時はこんにちわんに弟が出来たみたいで嬉しかったわ…」

いぬ母「あれから5年くらいたって、毎日とっても楽しいわ…だけど、」

いぬ母「あなたをもう育てていけないの…!」


意味がわからなかった。

13: :2011/10/12(水) 18:26:52 ID:ldp/oNwss.
いぬ母「ごめんね…」


こんにちわん君のお母さんが泣いている。ガラリと玄関が開く音。「ただいま」とこんにちわん君のお父さんの声がした。お風呂場のほうから小さくだけどこんにちわん君の歌声が聞こえる。

そっか、ぼくは、ひとりぼっちになるのか。




14: :2011/10/12(水) 18:27:37 ID:ldp/oNwss.
いぬ父「さよならいおん、お土産だよ。」


こんにちわん君のお父さんが小さいリュックにお菓子をたくさん詰めた物とメモをくれた。ぼくはメモを握ってリュックをなるべくゆっくり背負った。
もうちょっと、もうちょっとだけここに居たい。
15: :2011/10/12(水) 18:28:35 ID:ldp/oNwss.
いぬ「さよならいおーん、お風呂あいたぜーって、なんで二人とも泣いてるの?」

いぬ母・いぬ父「……」

いぬ「なんでリュック背負ってるの?」


こんにちわん君の興味がぼくに移った。こんにちわん君はぼくが出ていく事を知らされていないのか不思議そうな顔をしてる。
16: :2011/10/12(水) 18:29:11 ID:DjGow5sBJA
いぬ「あ、なあ!明日も玉乗りしようぜ!」

らいおん「…」

いぬ「玉乗り楽しいよなあー!毎日やってる気がするけどwww」

いぬ母「こんにちわん…さよならいおんは…」

らいおん「!」


ぼくは急いでこんにちわん君のお母さんの口に手を当てて「言わないで」と合図した。こんにちわん君はぼくをじっと見ている。
17: :2011/10/12(水) 18:30:20 ID:DjGow5sBJA

らいおん「…さよな、らいおん……!!」


久しぶりに言葉を発した。なんだか辺りがぼやけて見える。生ぬるい水がほっぺをつたって行く。
きっとぼくは泣いているんだ。

18: 名無しさん@読者の声:2011/10/12(水) 18:31:09 ID:6leDSTZ1LQ
しエンマコオロギ
19: :2011/10/12(水) 18:32:06 ID:ldp/oNwss.
いぬ「……さよならいおん…?」


こんにちわん君が言い終わる前に、ぼくは走って家を飛び出した。お菓子が入ったリュックが揺れて重い。泣いているのに泣き声が上がらない自分が少し怖いと思った。

20: 名無しさん@読者の声:2011/10/12(水) 18:33:38 ID:OOPr.NLLso
(´;ω;`)っC
21: :2011/10/12(水) 18:55:45 ID:DjGow5sBJA
たくさん走った。なんで走ってるのか自分でもわからない。別に走らなくてもいいのに走った。涙が止まらない。足の裏が痛い。
こんにちわん君、ごめんね。明日は玉乗り出来ないや。だって足が痛いから。きっともう会えないから。

22: :2011/10/12(水) 18:56:38 ID:ldp/oNwss.
ドンッ


何かに勢いよくぶつかって転んだ。ぶつかった痛さがあまり感じられないのは足が痛すぎるからなのかな。
顔を上げようとするとその『何か』がゆっくりぼくに目線をあわせて口を開いた。

23: :2011/10/12(水) 19:00:17 ID:ldp/oNwss.
男の子「わあ、ごめんね。大丈夫?」

らいおん「!!!」


人間だ。ぼくのお父さんとお母さんを食べた人間だ。真っ暗闇の中、街灯でにこにこした顔が照らされてとても怖い。逃げなきゃ。はやく逃げなきゃぼくもきっと両親のように食べられてしまう。


24: :2011/10/12(水) 19:03:02 ID:ldp/oNwss.
男の子「どうしたの?ふるえてるよ?」

らいおん「!!」


人間の手がのびてきてぼくを撫でた。恐怖のあまり動けない。お母さんとお父さんが食べられてく光景を思い出してしまう。


男の子「きみ、ポンデライオン?」

25: :2011/10/12(水) 19:11:17 ID:DjGow5sBJA
人間の言葉が頭の中で繰り返される。ぼくはポンデライオンじゃない。似てるかもしれないけど全く違うんだ。


らいおん「さ、さよ、さよならいおん…!」

男の子「さよならいおん?なにそれwwwwww」


人間がゲラゲラと笑っている。逃げるなら今がチャンスだ。ぼくはふるえる足に力をいれて一生懸命走った。

26: :2011/10/12(水) 19:35:47 ID:DjGow5sBJA
人間の笑い声がどんどん小さくなっていく。それに比例して安心感が増していく。立ち止まって振り返ってみると誰もいなかった。ぼくは食べられずに済んだんだ。
一気に疲れが襲ってきてペタリとその場に座り込んだ。地面はとっても冷たくて気持ちがいい。



27: :2011/10/12(水) 19:36:35 ID:ldp/oNwss.
ぼくはとうとう一人になったんだと実感した。走った道を振り返っても誰もいない。本当に誰もいないんだ。こんにちわん君も、そのお母さんもお父さんも、いないんだ。
涙が出そうになったのを必死に堪える。


ぼくはこれからどうしよう



28: :2011/10/12(水) 19:37:09 ID:ldp/oNwss.

気持ちが落ち着いてきても何でぼくは捨てられたのか考えようとは思えなくて、これからどうしようということばかり考えた。
ずっと握ってた拳からメモが出てきた。握りしめてたことさえ忘れてたからちょっと驚く。



29: :2011/10/12(水) 19:37:50 ID:DjGow5sBJA

汗でシワシワになったメモを開いてみると、こんにちわん君のお父さんの文字で
『さよならいおんは大事な家族だ』と書かれていた。
じゃあなんでぼくを捨てたの?と思ったぼくの気持ちはもう届かない。でもそれの気持ちを上回るくらい嬉しいと感じた。嬉しいときなんて言うんだっけ。思い出せない。

30: 名無しさん@読者の声:2011/10/12(水) 19:38:43 ID:6BkTiQ0rv.
さよならいおん…(´;ω;`)
31: :2011/10/12(水) 19:51:57 ID:DjGow5sBJA
メモを丁寧に折りたたんでリュックの外ポッケにしまう。これは宝物になりそうだ。
リュックのチャックをジーッと開ける。中には大量のぼくの好きなお菓子と薄い毛布が1枚だけ入っていた。

毛布にくるまって空を見上げた。空がとっても暗くて広い。ひとりじゃ星の綺麗さもよくわからなかった。


32: 名無しさん@読者の声:2011/10/12(水) 19:59:53 ID:y0JEGigchQ
やばい、目から汗が
33: :2011/10/12(水) 20:25:56 ID:F4BvMARXc6
眩しい。そう感じて目を開けると太陽が登りだしていた。薄い毛布にくるまって地べたに寝たせいか体が痛い。のそのそと立ち上がって毛布のホコリをパタパタとはらって丁寧にたたむ。
お菓子の中からビーフジャーキーを取り出して少しだけ食べた。
いつもよりしょっぱい。ぼくはまた泣いていた。

34: :2011/10/12(水) 21:27:39 ID:jxhZHLJ7ek
落ちてくる涙を拭って涙をどうにか止める。
昨日はこんにちわん君の家を出てから走ってばかりいたのに何も飲んでいない。ぼくは公園を探すことにした。
とぼとぼと歩く。足が重くて上がらない。

今気づいたけどここは全く知らない土地だ。ぼくは昨日、どれくらい走ったのだろう。


35: :2011/10/12(水) 21:28:11 ID:QIyxlkKpbI
太陽が完全に登った頃にぼくは公園を見つけた。水道を探して水をがぶがぶと飲む。一息つこうとベンチに座ったら、隣に誰かが座ってきた。


うなぎ「おはようなぎ」

らいおん「…」ペコリ


おはようなぎと呟いたシルクハットを被ったうなぎさんはぼくの顔をチラリと見てまた口を開いた。

36: :2011/10/12(水) 21:28:50 ID:QIyxlkKpbI
うなぎ「手品を見せましょう」


いきなりの事にビックリした。唐突すぎて手品ってなんだっけと思ってしまうほどだ。ぼくは顔を縦にふる。うなぎさんはにっこりと笑ってシルクハットからステッキを取り出した。


うなぎ「ワン、ツー、スリー!」ポンッ


ステッキから花束が出てきてぼくは思わず拍手をする。うなぎさんは花束をプレゼントしてくれた。



37: :2011/10/12(水) 21:29:21 ID:QIyxlkKpbI
うなぎ「朝の散歩は楽しいです」


ベンチから降りて歩いていくうなぎさんの背中に向けてお礼を言おうと思った。でもお礼の言葉が出てこない。思い出せない。ぼくは精一杯大きい声で「さよならいおん!」と言ってみた。うなぎさんはステッキを大きく左右にふってくれた。

38: :2011/10/12(水) 21:29:48 ID:jxhZHLJ7ek
少しでも誰かと一緒に居れたこと、誰かの声が聞けたこと、それが今のぼくにはとても嬉しいことだった。
朝はいろんな人がいる。きっと何かの偶然でこんにちわん君と会えるかもしれない。そんなことを考えていたら昨日の疲れがまだ残っているのかだんだん瞼が落ちてくる。
夜に目が覚めるのは孤独を味わって嫌なのに、ぼくの意識はゆっくりと遠ざかって行った。
39: はりお ◆kd.jynLh5M:2011/10/12(水) 21:43:12 ID:jxhZHLJ7ek
1です。コテと酉をつけてみました。区切りがいいので続きは明日書きます。初スレなのでよくわからんw
支援とカキコと読んでくれてありがとうさぎ!
40: 名無しさん@読者の声:2011/10/12(水) 21:51:11 ID:WM.6ZBGSjg
悔しいがこれは良スレ
持っていってくれ
っC
41: 名無しさん@読者の声:2011/10/12(水) 21:51:37 ID:kmV.oNxA/.
支援だフォイ
42: 名無しさん@読者の声:2011/10/13(木) 00:41:59 ID:8ZziAPt4WU
なんでべらべら喋ってるの?
頭の中では思えても口には出せないとか?
43: 名無しさん@読者の声:2011/10/13(木) 05:25:09 ID:ymzI0KJTGY
さよならいおん
ウチに来いヾ(・ω・`)
44: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/13(木) 08:24:32 ID:I94awiT9bk
おはようなぎ 1です
支援ありがとうさぎ!朝のうちにちょっと投下。

>>42
そうです。考えられるけど声にはできないさよならいおん
45: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/13(木) 08:25:24 ID:S0L2PoK8to
ぼくが目を覚ましたのは夜だった。月に雲がかかっていて、ぼやけた光しかぼくの所に届かない。夜の公園がこんなにも寂しいものだとは知らなかった。
ぼくはなんとなくベンチからブランコへ移動した。

46: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/13(木) 08:26:12 ID:S0L2PoK8to
キーキーと小さくブランコを揺らす。ひとりじゃつまらない。


ねずみ「ねえ、何してるの?」


ぼくの後ろから声がした。びっくりしてブランコをとめて顔だけ振り返る。耳がお茶碗で出来たねずみさんがいた。お茶碗の中は空っぽだった。
47: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/13(木) 08:26:49 ID:I94awiT9bk
ねずみさんはトコトコ歩いてぼくのひざにちょこんと乗ってぼくを見上げる。


ねずみ「こいでよ」

らいおん「!」コクコク


誰かを乗せてブランコをこぐなんて初めてだから加減がわからない。はやくはやくと急かすものだからぼくは一生懸命ブランコをこいだ。

48: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/13(木) 08:27:26 ID:I94awiT9bk
ねずみ「はやいはやい!わっ!たかい!」

ねずみ「ねえ、もっと高くしてよ!」

らいおん「…」コクコク


1回転するんじゃないかと思うくらいスピードがでてる。ぼくは目が回りそうになる。しばらくするとねずみさんは「とめてとめて」と騒ぎだした。

49: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/13(木) 08:28:02 ID:S0L2PoK8to
ねずみ「あー楽しかった!僕ひとりじゃあんな速さだせないからね!」

ねずみ「実は僕ね、家出してきたんだ!すごいでしょ!」


ねずみさんが誇らしげに言った。それから家出の理由を語りだす。
50: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/13(木) 08:29:21 ID:S0L2PoK8to
ねずみ「ママがね、僕を怒ったんだ。『いただきます』を言い忘れただけで。」

ねずみ「今までずぅーっと言ってたんだけど今日だけ忘れちゃったのさ。」

ねずみ「今日だけ!今日だけだよ?それも1回忘れただけ!」

ねずみ「それぐらいで怒る? 頭にきたから、僕、一口も食べずに家を出てきちゃったんだ!お腹ペコペコ!」

51: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/13(木) 08:29:55 ID:I94awiT9bk
どうやらねずみさんのお母さんは教育ママらしい。
お腹へった、ペコペコだよ、と繰り返すねずみさん。ぼくはリュックからチーズかまぼこを取り出してスッと差し出した。


ねずみ「えっ、くれるの?」

らいおん「…」コクコク

ねずみ「半分こしようよ!…えへへ、いただきます!」ムシャムシャ

らいおん「…」モグモグ
52: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/13(木) 08:30:40 ID:S0L2PoK8to
ぼくにとっては半分こするような大きさではないけど、ねずみさんにはこのチーズかまぼこは大きいのかな? なんだかちょっと楽しい。


ねずみ「ごちそうさまうす!」

らいおん「!」ペコリ


ごちそうさまの代わりにぼくは小さくお辞儀をした。

53: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/13(木) 08:31:19 ID:S0L2PoK8to
ねずみ「僕今日は君と一緒にいようかな」

らいおん「!?」

ねずみ「だって家出してきたし!ママだってきっと心配なんかしてないし!」

らいおん「!」ブンブン


ぼくは顔を横にふってから、ねずみさんをひざの上から降ろした。
54: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/13(木) 08:31:50 ID:I94awiT9bk
ねずみ「心配してると思う?まだ怒ってるかなあ」

らいおん「…」コクコクブンブン


縦にふったり横にふったり忙しい。ねずみさんはわかってくれたのか、ハァとため息をついてから「帰ってあげようかなあ、ママのために。」と笑った。

55: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/13(木) 08:33:10 ID:I94awiT9bk
ねずみ「怒られるの嫌だから、一緒に僕んち行こうよ!」


ねずみさんがぼくの尻尾を見つけてグイッと引っ張る。

ねずみ「ね!一緒に行こうって!」

らいおん「…」コク


公園に居てもつまらないから、ぼくはついていく事にした。誰かと歩くのは久しぶりな気がした。
56: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/13(木) 08:33:57 ID:I94awiT9bk
ねずみさんはペラペラと沢山の話をする。ぼくはうっすらとそれを聞いていた。
ねずみさんは家族が居て、帰る場所があっていいなと思った。ぼくにはもうどちらもない。あいさつをしないからといって怒る人もいないんだ。
ぼくはちょっとだけ泣きそうになった。

57: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/13(木) 21:14:51 ID:7hZUJ7s.K2
ねずみ「ねえ、君も黙ってないでなんか話してよ!」

らいおん「…!」

ねずみ「?」


ねずみさんがぼくを見上げる。ぼくは好きで黙っているわけじゃない。好きで喋らないわけじゃない。
「さよなら」しか言えないから喋らないんだ。

58: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/13(木) 21:15:34 ID:ZcWpf5xQ5g
ねずみ「まあ君が喋らないなら僕が話してるからいいけどね!」


ねずみさんがアハハと笑った。ごめんね。ぼくも話したいんだ。誰かに聞いて欲しいんだ。お母さんのこと、お父さんのこと、こんにちわん君のこととその家族のこと、いきなり追い出されたこと。全部話したいのに、聞いて欲しいのに。
59: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/13(木) 21:19:09 ID:7hZUJ7s.K2
ぼくはなんでしゃべれないんだ。もんもんと考えながら夜の道を二人で歩く。ねずみさんは喋りながら。ぼくは頷いたり首を傾げたりしながら。


ねずみ「ここが僕の家!」


ねずみさんの大きな声にハッとして顔をあげる。目の前には二階建ての赤い屋根の一軒家。大きい家に住んでいるんだなあと思った。
60: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/13(木) 21:19:59 ID:7hZUJ7s.K2
ねずみ「入ろう!」

らいおん「!」コクコク


ねずみさんがドアを勢いよくあける。小さく「ただいま」とねずみさんが言うと奥のほうから赤い眼鏡をかけたねずみさんのお母さんが走ってきた。

61: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/13(木) 21:21:19 ID:ZcWpf5xQ5g

ねずみ母「おかえりなさい。ママ、心配してたのよ…?」

ねずみ「…ご、ごめんなさい……」


ねずみさんのお母さんがねずみさんを大切そうに抱き締める。優しそうに見えてとっても力強く。

なんだろう、この気持ち。幸せな光景を見てるのにとってもツライ。



62: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/13(木) 21:21:51 ID:7hZUJ7s.K2
らいおん「さよならいおん」


ぼくは小さく呟いてゆっくりその場を離れようとした。ねずみさんがそれに気づく。


ねずみ「…さよならいおん?」

らいおん「…」コクコク

ねずみ「さよならいおん!またね!」

らいおん「! さよならいおん…!」

63: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/13(木) 21:23:54 ID:7hZUJ7s.K2
ねずみさんと会話をした。ぼくはちょっと嬉しい。
だけどナゼだかそれ以上にツラくて胸が苦しい。なんでだろう。ねずみさんにはお母さんがいるから?家があるから? わからない。

ひとつだけ確かなのは、ぼくはまた泣きそうだということだ。ぼくはいつから泣き虫になったんだろう。
64: 名無しさん@読者の声:2011/10/14(金) 00:14:28 ID:Rz9dbpSQ4g
紫煙
65: 名無しさん@読者の声:2011/10/14(金) 14:51:16 ID:fKwTipKZmw
しえん
66: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/14(金) 18:56:17 ID:qtzPYBHBoM
なんでぼくはひとりなの?
お母さん、お父さん、ぼくは今すごくあなた達に会いたいです。


らいおん「さよならいおん…!さよならいおん…!」


お母さんに教えて貰った「さよなら」をいっぱい言ってみる。切ない。寂しい。苦しい。

67: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/14(金) 18:56:45 ID:qtzPYBHBoM
ぼくはいっぱい泣いた。雲がまったくないはずの空。月がぼやけて見えるのはぼくの涙のせいだ。
ぼくは泣きながら走る。帰る場所もないからデタラメにただただ走った。

行き着いた場所は月明かりしかない真っ暗な池だった。

68: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/14(金) 18:57:12 ID:qtzPYBHBoM
池の前に柵がある。ぼくはそれを乗り越える。池の真ん中に浮かぶ月に触りたかったから。
こんばんわん君のお父さんがくれた大切なリュックを地面に置いて、ちゃぷんと両足を池にいれる。冷たくて浅い。ちゃぷん、ちゃぷんと歩き続ける。どんどん池が深くなっていく。ぼくが歩くたび、月が揺れていた。

69: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/14(金) 18:57:59 ID:9OzucEzTfM
わくわくした。でもちょっとだけ怖かった。ぼくの体がどんどん水に浸かっていく。月まであと少しだ。
揺れる月にむかって手を伸ばす。届かない。もう肩の辺りまで水につかっているからとっても寒い。
きっと、もっと水の中を進まなきゃ月には届かないんだ。

70: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/14(金) 19:00:38 ID:9OzucEzTfM

支援ありがとうさぎです!今日はここまででさよならいおん(・∞・)
71: 名無しさん@読者の声:2011/10/14(金) 22:06:35 ID:cPmNuQJNtE
こんばんわん君って誰さww
支援!
72: 名無しさん@読者の声:2011/10/15(土) 00:00:51 ID:BhTm2YyXGU
暖かくて切ない…
良スレ(´;ω;`)つC
73: 名無しさん@読者の声:2011/10/16(日) 12:26:50 ID:UNNMTvFSy.
支援! 支援!
74: 名無しさん@読者の声:2011/10/17(月) 00:01:54 ID:lyASBkUlbw
はりま☆はりおさん頑張って!
75: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/17(月) 17:07:52 ID:8CvlVX4ZxU
>>71
>>68 こんばんわん君に気づいて吹いたwwwこんにちわん君ですねw

支援、応援ありがとうさぎ!全レスしたいくらい嬉しい///
ちなみに「はりお」のはりはハリネズミのはりです(・Å・)フシュッ


76: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/17(月) 17:09:31 ID:8CvlVX4ZxU
ゆっくりゆっくり進んでいく。口に水が入ってきて少し苦しい。

ドンッ

急にぼくの体に鈍い痛みが走った。何かがぼくの体をぐいぐいと押している。どんどん月から離れて陸に近づいていってしまう。もう少しで月に触れたのに。陸に打ち上げられると、ぼくを押していたものがぼくの目の前に立ち上がった。

77: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/17(月) 17:10:22 ID:pZldxr8Itg
わに「なにをしているんですか!もう少し深かったら溺れ死ぬところですよ!」

らいおん「…?」


意味がわからない。ぼくは月に触ろうと水に入っただけだ。死のうとなんかしていない。口に入ってしまった水をゲホゲホと吐き出した。
78: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/17(月) 17:11:17 ID:8CvlVX4ZxU
死のうとなんかしていないです。月に触りたかっただけなんです。伝えようがない思いを抱えながらぼくは黙りこむ。どうにか伝えようと月を指差してから水面を指差してみた。

79: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/17(月) 17:13:49 ID:pZldxr8Itg
わに「月?」

らいおん「…」コクコク

わに「…………」


わにさんに伝わったかはわからないけど、わにさんの瞳が優しくなりぼくの頭を。なぜか涙が出そうになる。ぼくはぐっと堪えた。


80: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/17(月) 17:14:24 ID:pZldxr8Itg
わに「何かあったんでしょうけど、らいおんは陸にいるべきですよ」

わに「月が好きなら星も好きですか?」

らいおん「…」コクコク


べつに月が好きなわけでも星が好きなわけでもないけどなんとなく頷いてみる。ぼくが頷いたのを見てわにさんがにこやかに口を開いた。
81: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/17(月) 17:15:39 ID:pZldxr8Itg
わに「しばらくここに泊まりませんか?」


ぼくはびっくりした。それと同時に嬉しさがこみあげてくる。『しばらく』はわにさんと一緒にいられるんだ。ひとりじゃないんだ。すっごくすっごく嬉しいな。
ぼくはわにさんにむかってペコリとおじぎをした。
82: 名無しさん@読者の声:2011/10/18(火) 05:19:38 ID:UDHBDcGQ6A
これは…やべぇ。もう朝方だけど(´;ω;`)つCあげ
83: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/18(火) 08:26:34 ID:kQZsiAi4Og
支援ありがとうさぎ!
今日も夕方か夜ごろに更新する予定です


>>79
『ぼくの頭を』のあと『撫でた』が抜けてましたw
84: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/18(火) 21:47:47 ID:qdMevyRfro
ぼくはわにさんのお家に入る。たくさんの本があった。『月』とか『星』とかがタイトルになっている本ばっかりだ。


わに「家は好きに使ってください。布団は僕の隣にひくようでいいですか?」

らいおん「!」コクコク

わに「ここに泊まるにあたって約束があります」

85: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/18(火) 21:48:21 ID:qdMevyRfro
わに「ごはんは僕と一緒にとること。夕食後は僕と天体観測をすること。いいですか?」

らいおん「!」コクコク


ぼくは嬉しかった。誰かとごはんが食べられるだけで、誰かと何かする約束があるだけで、ぼくはひとりじゃないんだと実感できる気がしたから。


86: 名無しさん@読者の声:2011/10/19(水) 07:15:47 ID:Cqwybl4PBQ
わに…(´;ω;)
87: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/24(月) 08:03:43 ID:rHFRB5t09Y
更新遅くてすみません
体調悪くて更新出来なかったけど今からちょっと書く!


88: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/24(月) 08:05:14 ID:rHFRB5t09Y
ぼくはその日からわにさんと過ごした。一緒にごはんの支度をしたり池で釣りをしたり。一番楽しいのは夕飯後の天体観測だった。
わにさんの仕事は星に関することらしくて色々な事を教えてくれた。ぼくはそれが楽しみでしかたなかった。
89: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/24(月) 08:05:55 ID:ZoYc6yK4vU
わにさんの家で過ごして1ヶ月くらいたった。
ぼくはいろいろ教わった。声が出なければ字を書けばいいということで字を書くことを教わった。月の遠さも知ったし、色々な星座があることも知った。

そういえば、ぼくはわにさんと過ごすようになってから涙を1回も流していない
90: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/24(月) 08:06:43 ID:rHFRB5t09Y
わに「今日は新しい星座を発見できたらいいですね」


わにさんの口癖だ。ぼくは大きく頷く。発見したらぼくが名前をつけると約束したからだ。ぼくはニコニコしながら空を眺める。わにさんは望遠鏡をのぞきこむ。

91: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/24(月) 08:14:11 ID:ZoYc6yK4vU
わに「今週中に流星群がくるらしいですよ」


望遠鏡をのぞきながらわにさんが言った。ぼくは流星群を見たことがない。
わにさんが言うには「流れ星の大群」らしい。
流星群は知らないけど、流れ星なら知っている。お願いをすると叶えてくれるんだ。

92: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/24(月) 08:15:04 ID:ZoYc6yK4vU
わに「いっぱい流れるから願い事が叶うかもしれませんね」


わにさんがニッコリ笑った。ぼくのお願い事はもう決まってる。
『お母さんとお父さんとこんにちわん君に会えますように』だ。

93: 名無しさん@読者の声:2011/10/24(月) 17:53:37 ID:GV4BA/9fro
うぅ…さよならいおん…
94: 名無しさん@読者の声:2011/10/24(月) 17:54:51 ID:YwvzYPQYpE
うぅ…わにさん…
95: 名無しさん@読者の声:2011/10/25(火) 07:00:59 ID:Cqwybl4PBQ
っC

頑張れ1(・∀・)
96: 名無しさん@読者の声:2011/10/26(水) 18:40:23 ID:k6FvNlv/QI
ACのSSは出だしが悲しいの多いな・・・
97: 名無しですが何か?:2011/10/26(水) 20:53:46 ID:Sxz12VfY0s
このままずっと
わにと暮らしてって欲しい…(;ω;)つCCCCC
98: 名無しさん@読者の声:2011/10/27(木) 18:10:29 ID:0oOlB2Ptb2
1よ来い

っC
99: 名無しさん@読者の声:2011/10/28(金) 00:12:35 ID:4N/yaiYbEA
1!!
みんな待ってるぞ!


こんにちわんと言ってくれつC
100: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/28(金) 07:42:50 ID:kQZsiAi4Og
亀更新だけど読んでくれてる人いっぱいみたいで嬉しいです。俺がんばっちゃうんだから///


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