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カロル「ボクが世界を変えてみせる」【完結編その3】
[8] -25 -50 

1: ◆WEmWDvOgzo:2017/4/29(土) 21:15:11 ID:.RxhzfPc96
あらすじ

永遠の命。その鍵となる救い主、カロル。
欲望に目覚めた西の国。狂気は果てしなく蠢く

遂に勃発してしまった戦争
強大な西の国に立ち向かうべく王国、東国、南国は6ヶ国同盟から成る平和協定を破り、3国連合軍を結成する

南国は多大な犠牲を払い、国王ローレンの命と引き換えに西帝国軍の主力を削った
東国は張り巡らされた罠を果敢に打破するも圧倒的な力の前に粉砕される

敵地にて孤軍となった王国軍
総指揮官フィクサーの戦略采配が功を奏し、帝都本拠地の制圧を完了した

一方で吉報を待ち、国内に留まる王国の国王ヒメ
迫り来る侵略の魔の手を退ける為、東国のホビット族と手を結ぶ
彼らによって明かされた最後の真実
アピシナの大樹の成り立ち

かつて癒しの力は破滅を導いた
人もホビットも共通する願い
永遠の命が野心をくすぐる

穢れなき無垢な愛情は火種となって注がれ、混沌とした世界を象徴するように大樹を巡る争いは止まなかった

忘れ去られた無残な過去
300年もの月日を経てなお繰り返される歴史
誰も止めることは叶わない

友情を取るか、安寧を取るか
時を追う毎に取捨選択を強いられる
捨てていいものなど一つもないのに


2: ◆WEmWDvOgzo:2017/4/29(土) 21:17:06 ID:ItyqIbwMvc
かくして戦争に勝利した連合軍
しかし争いは終わらない
王国軍総指揮フィクサーの反逆
逆境を乗り越えた先に待つのは更なる窮地であった

西国に君臨する至上最悪の女帝ファルージャ
肉欲を愛と呼び、打算を恋とする魔性の持ち主
彼女の魅力は人々をことごとく誘惑し、自らの配下に取り込んだ

ファルージャは救い主を拉致し、大樹へと到達する
不朽の美を我が物に。
目的を遂げた彼女は大樹を焼き払った


友を奪還する
想いを一つに仲間たちは最後の戦いに赴く

抑圧と貧困に耐えかねた西国のレジスタンス組織イアマン
フィクサーに背き、王国軍を追われた元軍長ドレッド
彼らの協力を得て再び戦いは加速する

激しい戦いの末、国王とその仲間は国賊フィクサー、女帝ファルージャ打倒を果たした
友も無事に取り戻し、全ては決着した

1つの争いが終わり、世界に変革が訪れる
時代はまだ始まったばかりだ………


http://llike-2ch.sakura.ne.jp/bbs/test/mread.cgi/2ch5/1356265301/1-10

1スレ(少年「ボクが世界を変えてみせる」)

http://llike-2ch.sakura.ne.jp/bbs/test/mread.cgi/2ch5/1385288769/1-10

2スレ(カロル「ボクが世界を変えてみせる」)

http://llike-2ch.sakura.ne.jp/bbs/test/mread.cgi/2ch5/1416136192/l10#under
3スレ(カロル「ボクが世界を変えてみせる」【完結編】)

http://llike-2ch.sakura.ne.jp/bbss/test/mread.cgi/ryu/1438354858/l10

4スレ(カロル「ボクが世界を変えてみせる」【完結編その2】)
3: ◆WEmWDvOgzo:2017/4/29(土) 21:20:32 ID:ItyqIbwMvc
―――西国領内(山岳地帯)―――

ドドドッ ドドドッ

ウォォォオオオオオオ!!!!!

団長「ぬぅ…!わらわらと群がりおって!蹴散らすぞ!」ガガッ

護衛's「団長に続けぇっ!!」ガガガッ

ザシュッ ドバッ ズブッ ブシャッ
4: ◆WEmWDvOgzo:2017/4/29(土) 21:21:14 ID:ItyqIbwMvc
ワァーワァーギャーギャー

宣教師「またですか…」ジッ

ヒメ「いや、今回は野盗の集団だ。適当に追い払って先を急ぐ」

宣教師「この調子ではクーペさんの待つ廃村に着くのもいつになるか分かりませんね…」

ヒメ「…仕方ないだろ。僕たちがいるのは敵地のど真ん中だ。多少の妨害はやむを得ない」

宣教師「ですが兵の皆さんも連日の戦いで疲弊してますよ…」

ヒメ「クーペたちと合流出来れば医療班も確保できる。それまでの辛抱だ」

宣教師「……」

ヒメ「…カロルにも、ちゃんと言っておけよ。なんとか誤魔化しておいたが疑ってる奴もいる。あいつの力はなるべく知られない方がいい」

宣教師「はい…」

護衛15「陛下!後方から帝国軍の残党が!?」

ヒメ「ちっ…王国軍の兵で対処しろ!」

護衛16「その王国軍の兵なのですが…フィクサーの解放を求めて抗う者たちが出ました」

ヒメ「…恩赦の件を強調して説得に当たれ。反逆に加担する者は極刑に値するともな」

護衛16「ははぁっ!!」

宣教師「…このやりとりも既に二度目ですね」

ヒメ「つい先日まで争っていた敵を従えて行軍するんだ。今さら驚くことでもないだろ」

宣教師「……」

ヒメ「罪を背負って自国に帰る不安や単純な保身、諦めきれない野心…あいつらを突き動かす闇は深い。だからこそ僕らは冷静でいないとな」

宣教師「私達は無事に王国へ帰れるのでしょうか…」

ヒメ「帰るさ。やらなきゃならない事が山ほどあるからな」

宣教師「…そうですね」シュン

ヒメ「それに…反逆者の中には悔い改めようとしてる奴らもいる。恩赦を引き合いに出せば積極的に償おうとするだろう」

宣教師「……」

ヒメ「勝てば終わりじゃない。大事なのはその後だ。おまえにも力を貸してもらうぞ」

宣教師「はい…」
5: ◆WEmWDvOgzo:2017/4/29(土) 21:21:54 ID:ItyqIbwMvc
〜〜〜夜〜〜〜

―――西国領内(廃村)―――

ワラワラ ワラワラ

団長「今夜はこの村で休息を取る!貴様らは襲撃に備え、二時間毎に交代で見張りをしておけ!陛下の信用を得たければ忠を尽くす事だ!」

王国兵's「ははっ!!」

団長「お前達は陛下の身辺警護とフィクサーの監視だ。何があっても目を離してはならんぞ!」

護衛's「承知しました!」

団長「負傷者は合流した医療班に申し付け、手当てを受けろ!王国軍の者も遠慮なく言え!」

王国兵's「わ、我々も…?」

団長「…陛下が申されたことだ。傷付いた体では祖国まで辿り着けんだろう」

王国兵's「……!」

団長「以上だ!総員配置に着け!」

バラバラ バラバラ
6: ◆WEmWDvOgzo:2017/4/29(土) 21:25:33 ID:ItyqIbwMvc
宣教師「お待たせして申し訳ありません。大丈夫でしたか?」

クーペ「えぇ、変わりなく。司祭様達がご無事で何よりです」ニコッ

宣教師「いろいろと立て込んでて時間が掛かってしまいましたが…」

クーペ「ふふ、とんでもないですよ。ところで救い主様は…?」

宣教師「カロルくんでしたら国王の馬車に…」

クーペ「へぇ!国王様と!やっぱり救い主様は大切にされてるんですね!」

宣教師「…はい。二人は親友ですから」

クーペ「本当に良かったです!後は国に帰れば全て円満ですよね!」

宣教師「……」

クーペ「ココットも寂しがってるだろうし帰ったら、とびきり美味しいハンバーグ焼いてあげなきゃ!」

宣教師「円満、ですか…」ポツリ

クーペ「? どうかなさったんですか?」

宣教師「あ、いえ…」
7: ◆WEmWDvOgzo:2017/4/29(土) 21:30:10 ID:ItyqIbwMvc
クーペ「本当に大丈夫ですか?顔色もよくありませんし…」

宣教師「お構い無く。慣れない旅で疲れが出ただけですよ」

クーペ「…そうでしたか。あれだけの事があった直後ですもんね」

宣教師「…そういえば国王も感謝してましたよ。帝都の鎮圧に成功したのはひとえにクーペさんのおかげだと」

クーペ「そ、そんな?わたしはただ薬を調合しただけでなにも…」

宣教師「いえいえ、その薬が無ければ宮殿はおろか帝都にも入れなかったのですから」

クーペ「…でも」

宣教師「?」

クーペ「わたしの薬がたくさんの人の命を奪ってしまったんですよね…。敵だったとはいえ、医術をそういう手段に…」

宣教師「クーペさん…」

クーペ「もちろん仕方なかったんだと分かってます…分かってますけど…薬師の名を汚してしまったようで」シュン

宣教師「悔いを残したのは皆さんも同じですよ。この戦いに関わった全ての人が等しく苦悩を抱えているでしょう」

クーペ「そうですよね…。わたしだけではないですよね、やっぱり…」

宣教師「…この過ちはきっと良い方向に繋がりますよ。いや、繋げましょう」

宣教師「その一心で戦ってきたんですから…」

クーペ「はい…頑張りましょう」ニコッ

医療班1「クーペさん!ちょっと来てもらっていいですか!」

クーペ「あ、はーい!では司祭様、失礼します!」クルッ

宣教師「」ペコッ
8: ◆WEmWDvOgzo:2017/4/29(土) 21:32:27 ID:ItyqIbwMvc
宣教師「……」スタスタ

団長「む?」

宣教師「お一人ですか?」

団長「うむ。こればかりは譲れん役目だ」

宣教師「私も加えていただいても?」

団長「あぁ、構わんよ。馬車の警護など退屈だろうがな」

宣教師「中のヒメくんに聞かれたら怒られますよ?」クスッ

団長「う……し、失言だ。忘れてくれ」

宣教師「ふふ…どうしましょう?」

団長「ええい!要求はなんだ!?」

宣教師「では話し相手になっていただけますか?」

団長「…ふん、お安いご用だ」ニッ
9: ◆WEmWDvOgzo:2017/4/29(土) 21:44:30 ID:ItyqIbwMvc
宣教師「この村にいると…あの二人を思い出しますね」

団長「ドレッドとクンバヤか」

宣教師「えぇ」

団長「どちらも立派な最期だった。悔いはあるまい」

宣教師「そうでしょうか…」

団長「……」ジッ

宣教師「なにかを夢見て戦った人たちが望んだ未来を生きられないのは…本当に良いことだと言えるのでしょうか」

団長「ふぅむ……」

宣教師「……」

団長「……そうしてでも誰かに夢を繋ぎたかったのだろう。自分の生きた証を残したかったのだ」

宣教師「そうですよね。男の人って…」

団長「かくいうワシも…どこかでそう在りたいと思っている」

宣教師「…団長さんも夢追い人だったんですね。現実主義なのだとばかり」

団長「ふっ。男とはそうした生き物だ」

宣教師「なるほど…」クスッ
10: ◆WEmWDvOgzo:2017/4/29(土) 21:45:54 ID:ItyqIbwMvc
宣教師「とりあえず一段落…ですかね」

団長「いや、まだまだ国境を越えるまでは安心出来ん」

宣教師「算段はあるんですか?」

団長「…ない。が、なんとかしてみせる」

宣教師「ヒメくんはなんと?」

団長「限られた情報の中で最善の帰路を講じておられる」

宣教師「10日もかけて山越えしたのもヒメくんの考えで?」

団長「そうだ。身を潜められる上に突然、大勢の敵に囲まれる心配もなかろう?」

宣教師「…よく考えてますね。あんなに小さかった子が…たった数年でこんなにも」

団長「ワシは信じておったがな。陛下ならば必ずや賢く勇敢な国王となられる事を」

宣教師「まったく驚かされます…。いつの間にか私など彼に頼りきりで…」

団長「…ワシもだ。今となっては役人達を始め、全国民が陛下の身に寄りかかっている」

宣教師「…正直あそこまで立派になるとは思ってもみませんでした」

団長「先代であるお父君への想いもあるのだろう。あのお方も若い頃は立派だった。時代に恵まれなかっただけでな」

宣教師「…残酷ですね。なにを願っても環境に閉ざされるなんて」

団長「うむ。だが陛下は変えようとしておられる。残酷な現実をな」

宣教師「ヒメくんは本当に大変なのはこれからだと言ってましたが…どうなると言うのですか?」

団長「…どうなる、か。はたしてどうなるやら。戦争というものを経験したのは今回が初なんでな。ワシにはなんとも言えん」

宣教師「そうですか…。そうですよね」
11: ◆WEmWDvOgzo:2017/4/29(土) 21:49:23 ID:.RxhzfPc96
団長「ここから先は未知の領域だ。しかし何が起きようとワシは最後まで陛下を信じよう。それがワシに出来る最善だ」

宣教師「…呑まれないといいですけどね」

団長「……?」

宣教師「いくら成長したとはいえ、彼はまだ子供です。課せられた使命や人の期待をどこまで背負いきれるか」

団長「無論、ただ宛にするのではない。ワシらが支えるのだ」

宣教師「それでも重圧を抱えるのは彼ですよね」

団長「なにが言いたい?」

宣教師「いえ…ただ私は自分の不甲斐なさを実感しているだけです」

団長「止められなかった事を悔やんでいるのか?」

宣教師「…あそこで止められていれば何人の命が救われていたか。そう考えると、どうしても」

団長「ワシは後悔などしておらんぞ。成すべき事を成した。それで十分だ」

宣教師「心強い限りです…」

団長「君もだ。胸を張れ」

宣教師「へ…?」

団長「一度に止める事は出来なかっただろうが…レジスタンスの殺戮を止めたのはまさしく君の偉業だ」

宣教師「……」

団長「奴らが復讐に燃え、殺戮を許容したままでは陛下の思惑に沿わなかっただろう。
だが君が懸命に説得し、立ちはだかったおかげで奴らの意識が変わり、ひいては和睦を受け入れた」

宣教師「そんなつもりではなかったのですがね…」

団長「一時の感情だとしても結果は良い方向へと向かった。君の持ち前の気の強さと正義感が我々を救ったのだ」

団長「だから胸を張れ。君も大いに貢献した英雄の一人だ」

宣教師「ふふ、なんだか照れくさいです…」テレッ

団長「構わぬよ。余韻に浸るくらいは許されていい筈だ」ニコッ

宣教師「ふふ…」ニコッ
12: ◆WEmWDvOgzo:2017/4/29(土) 21:51:50 ID:.RxhzfPc96
―――馬車の中―――

ヒメ「」カリカリ

ラム「戻ってくるなり何書いてんの?」

ヒメ「今後の事だ」カリカリ

カロル「ねぇヒメくん。まだ外に出たらダメなの?」

ヒメ「あぁ」カリカリ

カロル「…どうして?」

ヒメ「どうしてもだ」カリカリ

カロル「……」シュン

ラム「まぁまぁ?帰ったら、いつもみたいに外で遊べるよ?」

カロル「うん…」

ヒメ「……」カリカリ

カロル「ヒメくん!あと何日で帰れるの?」

ヒメ「さぁな。国境まで約1ヶ月は掛かるとして…王都まで戻るのに最低でも10日以上は…」

カロル「そっか!楽しみだね?」

ラム「はぁ…1ヶ月以上かぁ。長いなぁ…」

カロル「お母さまたちにはどれくらいで会えるのかな?」

ラム「王都からだと…馬を借りても1ヶ月は掛かるんじゃない?」

カロル「へぇ!そうなの?ヒメくん?」

ヒメ「…悪いけど集中させてくれないか。今はこっちを優先させたいんだ」カリカリ

カロル「あ…ごめんなさい」シュン

ラム「少し静かにしてよっか…」

カロル「はーい…」
13: ◆WEmWDvOgzo:2017/4/29(土) 22:01:01 ID:ItyqIbwMvc
〜〜〜深夜〜〜〜

カリカリ カリカリ

カロル「ん、うぅ……ヒメくん、まだ起きてるの?」ムニャッ

ヒメ「? あぁ、起こしたか。悪いな」

カロル「ううん…ボクのことよりヒメくんは大丈夫?明日も早いんでしょ?」

ヒメ「心配するな。王宮では徹夜なんてしょっちゅうだった」

カロル「でも…ちゃんと寝ないと疲れが取れないよ?」

ヒメ「もうすぐ寝るよ。忘れない内に書き留めておきたいんだ」カリカリ

カロル「…すごく分厚いね。そんなにたくさんなにが書いてあるの?」

ヒメ「思い付いた事とか予想出来る事態への対策。ほったらかしにしてた公務の必要書類に今後の政務で行われる課題。とにかく色々だ」

カロル「ボクも手伝える?」

ヒメ「ありがたいけど、これは僕にしか出来ない事だからな。おまえは休め。拐われてた間、心労が祟っただろ」

カロル「…ヒメくんは優しいね」ニコッ

ヒメ「は?なんだよ、急に…」

カロル「こんなことしかできないけど…ボクからのお返し」スッ

ヒメ「!」ドキッ

フワッ

ヒメ「あ……」

カロル「助けてくれてありがとう」ニコニコ

ヒメ「い、いや…」

カロル「じゃあおやすみなさい。ヒメくんも早く寝た方がいいよ」バサッ

ヒメ「わ、分かってる…」

カロル「ふあぁ…一人で頑張りすぎないでね。ボクもみんなも…ヒメくんの助けになるよ」ムニャムニャ

ヒメ「…あぁ」

カロル「くぅ…」スヤスヤ

ヒメ「…バーカ。いつも助けられてるよ」クスッ
14: ◆WEmWDvOgzo:2017/4/29(土) 22:02:56 ID:ItyqIbwMvc
〜〜〜10日後〜〜〜

―――西国領内(平野)―――

ドドドドドドドッ!!!

西国軍長「現れたぞ!!王国の侵略者共だ!!」

ゾロゾロ ゾロゾロ

ヒメ「っ…多いな!各地の有力者が団結したのか!」ギリッ

団長「ぬぅ!何がなんでも我らを生きて帰さぬつもりのようですな」ジャキッ

西国軍長「よくもノコノコと間抜け面を引っ提げてやって来たな!将軍閣下の仇!今こそ討ち取ってくれるわ!掛かれ!!」バッ

ワァァァアアアアアアア!!!!

ヒメ「(帝国の覇権を奪われた奴らにとって僕の命は挽回に欠かせない…。死に物狂いで来るだろうな。さすがに手強そうだ!)」グッ

団長「陛下!指示を!」

ヒメ「この平野を抜ければ、いよいよ国境だ!僕達には後がない!突破するぞっ!!」カッ

団長「ははぁっ!!者共ワシに続けぇ!!」パカラッパカラッ

オォォオオオオオオ!!!!!

ドガガガガガガッ
15: ◆WEmWDvOgzo:2017/4/29(土) 22:04:38 ID:ItyqIbwMvc
ガキンッ ズバッ ドスッ ザンッ

西国軍長「弓隊放て!」

ヒュヒュヒュヒュヒュンッ

ズブッ ドスッ ザクッ ズンッ

団長「怯むなぁっ!!こちらも迎撃しろ!!」

ヒュヒュヒュヒュヒュンッ

ブスッ ズドッ グサッ バスッ

西国軍長「小癪な!一掃してくれるわ!大槍砲発射せよ!」ババッ

ボヒュンッ ドゴゴゴゴォッ!!

団長「なっ…!あれは国境城塞戦でカカドゥーラの軍勢が使った兵器か…!」

西国軍長「さらに絶望をくれてやる!投石砲台用意!偽善に満ちた王国人の石頭をカチ割ってやれぃ!!」ババッ

ヒューン ゴシャアッ!ゴシャアッ!

団長「く、く…おのれぇい!!」ギリッ
16: ◆WEmWDvOgzo:2017/4/29(土) 22:06:28 ID:ItyqIbwMvc
ヒメ「(…ヤツら、何日も前から待ち構えてたな。道理で難なく、ここまで来れた訳だ)」

ヒメ「(部隊配置。兵器の準備。攻撃展開。なにもかもが周到だ。その上、士気も尋常じゃなく高まっている…)」

ヒメ「(先日まで反逆者だった王国軍を主力にしているこちらの連携では分が悪い…!一旦退くか…!?)」

宣教師「ひ、ヒメくん!」タタタッ

ヒメ「な、なにやってるんだ!後方に隠れてろと言っただろ!?」

宣教師「物凄い轟音が鳴り響いてますが…いったいどうなってるんですか!?」

ヒメ「…襲撃だ!分かるだろ!いいから後ろに控えてろ!?」

宣教師「っ……!な、なんですか!あの大軍は?今までの比ではありませんよ!?」ゾクッ

ヒメ「だから控えてろって!何かあれば指示を出すから!」

宣教師「……!?」

ヒメ「ちっ…そうだよ!素人目に見ても明らかだろうな!はっきり言って一方的にやられてる!敵も馬鹿じゃないってことさ!」

宣教師「そ、そんな…」

ヒメ「それもそうさ!あいつらにしてみれば僕達は西国の尊厳も秩序も全てを奪い、破壊した憎むべき敵だ!負けられないのはお互い様なんだよ!」

宣教師「だ、大丈夫なのですか…?」

ヒメ「だから!その為に戦ってるんだろ!何度も言わせるな!?」

宣教師「……!」

ヒメ「下がってろ!こっちはそれどころじゃないんだよ!!」

宣教師「っ……」ダッ

ヒメ「……」

タタタッ………

ヒメ「(ごめんな…。でもこうしておいた方が…いざという時、気兼ねなく逃げられるだろ?)」

ウォォォォォオオアアァァアアアアア!!!

ヒメ「」ビクッ
17: ◆WEmWDvOgzo:2017/4/29(土) 22:08:48 ID:ItyqIbwMvc
西国軍長「な、なんだぁ!?」ギョギョッ

ズガガガガガガッ

団長「あ、あれは…!?」

ギャアアアアアアア!!!

ヒメ「敵陣を喰い破っていく…!なんなんだ、あの部隊は…!」ハッ

王国軍長「王国軍騎兵団!参上仕った!!」ガガガッ

団長「お、おぉ…!おぉ…!!」ググッ

王国軍長「我らが来たからには貴様らの好きにはさせんぞ!西の蛮人共め!?」バシュッ

西国軍長「うぅ…くそ!王国の羽虫なんぞ返り討ちにしてやれぃっ!?」

団長「勝機が見えたぞ!恐れず攻め込めぇ!!」ズバッ

オォォオオオオオオ!!!

ヒメ「え、援軍…なのか!?」
18: ◆WEmWDvOgzo:2017/4/29(土) 22:12:00 ID:ItyqIbwMvc
ドガガガガガガッ

ワァァァアアアアアアア!!!

西国軍長「これまでか…!出直すぞ!退け!退けぇい!?」パカラッパカラッ

ダダダダダダダッ…………

団長「ふぅ…なんとか退けましたな」

ヒメ「あぁ、正直もうダメかと思った…」

王国軍長「陛下!ご無事でなによりにございます!」ザッ

ヒメ「…助かったよ。おまえの名は?」

王国軍長「はっ!王国軍騎兵団を任されております!ロードホズ・アクナカイルと申します!」

ヒメ「騎兵団……貴族の配下じゃないか!なぜ僕を!?」

王国軍長「何を申されます!我らは貴族なれど陛下に仕える忠臣!陛下の危機となりますればいついかなる時も駆け付ける次第!!」

団長「…なぜここが分かった?表向きは陛下は城に籠っておられると、そう聞かされていた筈だが?」

王国軍長「政務官殿の仰せ付けにより陛下をお迎えするべく挙兵して参ったのだ。
我らも突然の事にて驚かされたが、なにやら政務官殿は逐一こちらの状況を探り、援軍の機会を待っておられたのだとか」

ヒメ「政務官…!そうか、リルラが!」パァァ

団長「ふん…奴もたまには良い事をするものだな」ニッ
19: ◆WEmWDvOgzo:2017/4/29(土) 22:12:51 ID:.RxhzfPc96
王国軍長「ダィール様やソメリア卿も大変、陛下の身を案じておられました。
此度はお二方の強いお力添えにより騎兵団を動かせたのです」

ヒメ「(? ダィールにソメリア……たしか貴族側の最高権力者ハリアンス家の派閥だったか。けど奴らは王族を毛嫌いしていたような…?)」

王国軍長「どうか今回の活躍につきましては陛下の一存にて格別に計らっていただきとう存じます!」

ヒメ「(……はっは〜ん?そういうことか?)」ジロッ

王国軍長「我ら騎兵団1万5千!これより陛下を警護し、王都まで無事に送り届けさせていただきます!」

ヒメ「よろしく頼む。後ほど卿にも感謝を伝えさせてもらうよ」

王国軍長「はっ!我が主も陛下の無事を確かめれば、さぞ喜ばれましょう!」

団長「奴らが陛下に力を貸すなど、どういう風の吹き回しでしょうな?」コショコショ

ヒメ「おそらくは僕が不在にしていた間に何か問題を起こしたんだろう。その弱味を政務官に握られて、といったとこじゃないか?」コショコショ

団長「ふっ!なるほど…?」プッ

ヒメ「政務官たちも必死に戦ってくれてたみたいだ。帰ったら礼を言わないとな」

団長「…頼もしき家臣に恵まれましたな」ニコッ

ヒメ「あぁ…これからも安心してやっていけそうだ」ニコッ
20: 投下終了 ◆WEmWDvOgzo:2017/4/29(土) 22:17:03 ID:ItyqIbwMvc
ワイワイガヤガヤ

ヒメ「待たせたな」スタスタ

宣教師「あ……戦いはどうなったのですか?」

クーペ「わたしたちは帰れるんですよね…?」オロオロ

ヒメ「……」

宣教師「……!?」ゴクリ

クーペ「え…?」ビクビク

ヒメ「喜べ!大勝利だ!」ニカッ

宣教師「〜〜〜!」パァァ

クーペ「……!」ウルッ

ヒメ「不安にさせて悪かったな。でも、もう大丈夫だ」

宣教師「クーペさん!」ダキッ

クーペ「やりましたね!司祭様!」ダキッ

ヒメ「皆、帰り支度は済ませたか!ここからは王都まで直進だ!一人足りとも欠かさず王国の地を踏もう!」

ワァァァアアアアアアア!!!
21: 名無しさん@読者の声:2017/4/29(土) 22:48:23 ID:/FBqKYUaXc
5スレ目突入乙です!最後まで突っ走ってください!
CCCCC
22: ◆WEmWDvOgzo:2017/4/30(日) 08:15:10 ID:WB3T0gfyVY
>>21
ありがとうございます!
ここまで来たらがむしゃらにスパートを切りたいと思います!
書くたびにゴールが遠ざかってるような気もしますがw
23: ◆WEmWDvOgzo:2017/4/30(日) 08:19:47 ID:WB3T0gfyVY
今から投稿する物は本編と一切関係ありません
イベント中&SS板統合直前ということで二日目も参加したいという浅はかな気持ちから生まれた駄文です
箸休め的な意味合いで捉えていただけたら幸いです


こんなカロルはイヤだ

【2スレ目の208での一幕】

母「坊やは宣教師様がお嫁さんだったらどう?」ニコニコ

カロル「宣教師さまが?」キョトン

宣教師「お、お母様!そんな…気が早いで……」アタフタ

カロル「うーん…無理!」

宣教師「え……」

カロル「ぜんぜん好みじゃないもん!」ヘラヘラ

母「そ、そう」

宣教師「(こ、このガキ…)」

【※はっきりフる】
24: ◆WEmWDvOgzo:2017/4/30(日) 08:20:27 ID:BMI.v0bS.A
こんな宣教師はイヤだ

【4スレ目、964の一幕】

ラム「ちょっと!話が違うじゃないか!あいつの一声で暴動が起こってるよ!」アセアセ

ヒメ「そんなバカな…!?」ガクガク

宣教師「えぇ、バカですね。男って本当……はぁっ」イライラ

ラム「どうするんだよ!なにか秘策はないの!?」

ヒメ「冗談じゃない…!こんな……これ以上どうしろって言うんだ!」

宣教師「……この手だけは使いたくなかったのですが」

ラム「え!?」

ヒメ「この危機を脱する手があるのか!?」パァァ

宣教師「魅力には魅力!私が全力で彼らを誘惑します!」カッ

ラム「えぇっ!?」

ヒメ「な、なに言ってんだよ!」

宣教師「私だって女なんです!やってやれないことはありません!」ヌギッ

ヒメ「バカ!よせ!脱ぐな!」アワアワ

ラム「そうだよ!聖職者が色仕掛けなんてしていいわけ!?」アセアセ

宣教師「聖職者を無理やり脱がせるのが好きな男もいます!(※1スレ目の最後らへん参照)」

ヒメ「いやいや聖職者が積極的に脱ぐのは違うんじゃないか!?」

宣教師「そう言っておきながら既に私の虜となっているんでしょう?」

ヒメ「なるかバカ!!」

宣教師「さぁ見なさい兵士の皆さん!!教団の司祭ともあろう者が脱ぎますよー!!」バサッ

ワァーワァー! ジョオウヘイカバンザーイ!

宣教師「……」スッポンポン

ヒメ「だーれも見向きもしないじゃないか」

ラム「おわったね」

『※このあとめっちゃバッドエンド』
25: ◆WEmWDvOgzo:2017/4/30(日) 08:21:07 ID:BMI.v0bS.A
こんな友達はイヤだ

【1スレ目、193の一幕】

パッチ「それにしても髪切ってるから分からなかったよ」

ルーボイ「そうだよ、昨日はもうちょっと長かったじゃんか?」

カロル「あはは。分かりにくくてごめんね?
でもアレはカツラだから髪を切った訳じゃないんだ」

ルーボイ「なんでカツラなんか被ったんだ?ハゲてないのに」

カロル「は、はは…ホビットだって思われない為に女の子のカッコをしてたの」

ルーボイ「へ?女の子のカッコ?」

パッチ「まさかキミ…男なの?」

カロル「う、うん。実はそうなんだ…」カァァ

パッチ「えぇ!気付かなかったよ!?」

ルーボイ「」ガーン

パッチ「(あ、ショック受けてる)」チラッ

ルーボイ「……」

パッチ「ドンマイ!」ポンッ

ルーボイ「最悪、男でもいいか…」ボソッ

パッチ「!!!」ゾクッ

カロル「?」キョトン

【※種族どころか性別も友情も越してくる】
26: ◆WEmWDvOgzo:2017/4/30(日) 08:22:23 ID:WB3T0gfyVY
こんなお母さまはイヤだ

【1スレ目、672の一幕】

―――大聖堂(地下牢)―――

ダガ「ふぅっ!ふぅっ!」ビクンビクン

母「手足を縛って目隠しをされながらお尻を踏まれる気分はいかが?」グリグリ

ダガ「ぐはぁっ!屈辱的だが…たまらんっ!」ビクンビクン

ジョー「こ、これは…」

神父「なんたる破廉恥な…!」

トト「うわぁ…」

母「来てくださいましたの?」

ダガ「なに!誰かいるのか!?」

母「」グリグリ

ダガ「おうつ!」ドピュッ

母「ふふ…もう出したの?情けない男…」

ダガ「んだとてめぇ!」

母「」グリグリ

ダガ「んはぁっ!?」ビクビク

母「ほら!もっと鳴きなさい!お客様にその不細工なあえぎ声を聞かせるのよ!この豚!あんたなんか豚なのよ!」ペシンペシン

ダガ「ブヒィィィイ!!」ガクガク

ジョー「………」

神父「………」

トト「………」

【※目的を忘れてヒートアップする】
27: ◆WEmWDvOgzo:2017/4/30(日) 08:23:14 ID:WB3T0gfyVY
こんな団長はイヤだ

【2スレ目、965の一幕】

団長「昨日の早朝から巡礼が始まり、日の出まで戦ってきた訳か…。長かったな」

ミシング「あーん!ミシングちゃん、動きっぱなしでもう眠たーい…。おじさまのたくましい腕枕が欲しいなー?なー?」チラチラ

ヒメ「言っとくが、こいつ妻子持ちだからな?」

ミシング「え!?そうだったの!?」

団長「…う…おっほん!」

ミシング「そんなー!あたしってば弄ばれたー!えーん!」

団長「」ポンッ

ミシング「ふえ?」

団長「第七夫人からで良ければ…」

ミシング「だ、ダイナナ……!?」

ヒメ「お、おまえ…」ドンビキ

団長「英雄色を好むと言いましょう?」

ヒメ「女性の気持ちをなんだと思ってるんだ!奥さんや子供に申し訳なくないのか!?」

団長「バレなければいいのでござる」

ヒメ「ござるじゃねーよ、絶対言い付けるからな」

ミシング「あたし…それでもいい!」

ヒメ「えっ」

ミシング「遊びでも好きな人といられるなら…」ポッ

団長「ふっ!また一人、都合のいい女ができた」ニィッ

ヒメ「(た、爛れてる…大人って……)」ズーン

【※武人なのに不倫しまくる】
28: ◆WEmWDvOgzo:2017/4/30(日) 08:25:59 ID:BMI.v0bS.A
こんなヒメはイヤだ

【3スレ目、898の一幕】

ヒメ「衛兵!そいつを地下に戻せ!」

衛兵1「はっ!来い!」グイッ

アントリア「っ…!扱いが乱暴じゃないか…!?」ギシッ

衛兵2「この者はいかがなさいますか?」

アリアス「えっ」ビクッ

ヒメ「そいつも牢に押し込め。もう用済みだ」

衛兵2「ははっ!」

アリアス「は!?証言したら罪を免除してくれる約束じゃないのよ!?」

団長「まことによろしいので…?」コショコショ

ヒメ「約束なんか知るか。罪人だぞ、そいつ」

団長「…承知しました」

衛兵2「神妙にしろ!」ガッ

アリアス「あぁぁ!!ちょっと陛下ぁぁ……」ズルズル

【※約束を守らない】


以上になります!SSフェスティバル二日目!本番はここから!もっと盛り上がりますように!
29: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/1(月) 23:21:09 ID:eI.uCZwLb.
〜〜〜1ヶ月後〜〜〜

―――王都(城下町)―――

門衛1「開門!開門せよ!」

門衛2「道を開けろ!!」

ザワッ

町民1「な、なんだなんだ…?やけに物々しいな?」

町民2「またどっかの国から使者でも来たのか?」

ギィィィィイイイイ………

ザッザッザッザッ

町民3「え…!?」

町民4「そ、そんなバカな!?」

町民5「あれはうちの国の旗印……じゃあ、あの兵士の集団は…!?」

町民6「王国軍は西の国に寝返ったんじゃなかったのか!?」

町民7「み、見ろ!馬車の中から誰か出てくるぞ!?」

ヒメ「ふぅ。たった数ヶ月でも離れてみると…ここの空気がいかに清潔だったかが分かるな」ストッ

宣教師「えぇ、ですがあの国で学んだ現実は私たちの糧になることでしょう」ストッ

ザワッ

町民5「こ、国王様!?」

町民8「司祭様もいるぞ!?」

町民3「ど、どうなってるんだ…!城にいらっしゃったんじゃなかったのか…?」

ヒソヒソ ヒソヒソ

ヒメ「民衆に説明を」

団長「はっ!」ザッ
30: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/1(月) 23:21:50 ID:eI.uCZwLb.
ザワザワ ザワザワ

団長「聞け!愛すべき王国の民よ!」

町民's「」オロオロ

団長「突然の事で驚かせただろうが、こちらにおわすのは正真正銘、我らが国王ヒメ様である!!」

町民's「……?」オロオロ

団長「既に聞かされているだろうが我が国は総指揮官フィクサーの裏切りに遭い、西の国と再びまみえる事となった!」

町民8「ヒッ…!?」サァァ

町民9「と、とうとう国王様が兵を徴収しに…!」ブルッ

町民10「司祭様もいるって事は教団も……やっぱり戦争は起こるのか…!?」ビクビク

団長「だがそれも、もはや過去の話だ!」

町民's「!?」

団長「国王陛下が自ら兵を率い、帝都に巣食う敵軍もろとも国賊フィクサーを成敗なされた!!」

町民's「え!?」ギョギョッ

団長「今日まで諸君らに不安を与えてしまい、まこと申し訳なく思う!しかしその不安も今この時、一点の曇り無く晴れるだろう!」

町民's「」ドキドキ

団長「此度の反逆は我々、国王直属軍の手により鎮圧!!西の国との戦も我が国の全面勝利で決した!!全ては国王陛下のお導きなり!!!」

町民's「〜〜〜!!!」プルプル

ヒメ「隠していて悪かったな。今日からは安心して、また日々を過ごしてくれ」ニコッ

ウオォォオオオオオ!!! ワァァァアアアアアアア!!!

宣教師「私まで顔を出す必要があったのですか?」

ヒメ「まぁそう言うなよ。僕らは一応、王国と教団の象徴だ。こうして威光を高める機会も必要なのさ」

宣教師「そういうものなのでしょうか…」ウーン

町民's「バンザーイ!!!国王陛下バンザーイ!!!」
31: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/1(月) 23:22:37 ID:W5Vcpfi1ZU
―――王宮―――

ヒメ「……」スタスタ

政務官「一同、出迎えよ!陛下の帰還である!!」

高官's&衛兵's「ハハーッ!!!」ザザッ

団長「」ザザッ

ネバル「お帰りなさいです!陛下ー!」フリフリ

ゴチンッ!

ネバル「」プシュー

政務官「なにを呑気に手を振っているんだ?皆に習って控えろ!」ピキッピキッ

ネバル「うぅ…お出迎えするって言うですもん」ヨロッ

ヒメ「ははは!相変わらずだな、おまえは?」クスクス

ネバル「へ、陛下!陛下もお変わりなくです!」パァァ

ヒメ「そうか?かなり泥臭くなったけどな?」クンクン

ネバル「オイラも畑耕してた頃はまいんち泥んこでしただよ!」

ヒメ「畑仕事と一緒にするなよ…。苦労して戦ってきたんだから」ヒクヒク

ネバル「なにを言うですか!畑仕事も立派な戦いです!年中せっせと手入れするのも大変な苦労ですだよ!?」

ヒメ「わ、分かった、分かった。悪かったよ」アセアセ

ネバル「分かればいいです!えへん!」ドヤッ

ゴチンッ!

ネバル「」プシュー

政務官「分かっていないのは貴様だ!控えろと言っているだろ!?」ギロッ

ネバル「はひぃ〜……パワハラですぅ…」シクシク
32: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/1(月) 23:26:36 ID:eI.uCZwLb.
政務官「まずはご無事で何よりに御座います…。役人一同、この日を待ちわびておりました」ペコッ

ヒメ「おまえが手を回していてくれたおかげだよ。援軍が到着していなければ今頃は西国の土に埋まっていたかもな」クスッ

政務官「当然の配慮です」

ヒメ「助かった。礼を言うぞ」

政務官「もったいなきお言葉…」

ヒメ「ハリアンス家からは何か求められたのか?」

政務官「要求はございませんが、こちらから勲章を授与し、関係の改善を図ろうと考えております」

ヒメ「そうか。じゃあ感謝状をしたためておこう。文はおまえに任せる」

政務官「承知しました」

ヒメ「見事な手際だった。おまえを推挙した僕の判断は間違ってなかったようだな」クスッ

政務官「……」ワナワナ

ヒメ「政務官…?」

政務官「よくぞ…ご無事で戻られました」グッ

ヒメ「な、なんだ?わざわざ改まって…?」

政務官「私は信じておりました…。家臣として心より賛美を述べさせていただきます」ペコッ

ヒメ「…あぁ、ありがとう」ニコッ

政務官「し、失礼…!」プイッ

ネバル「あー!リルラ様、ひょっとして泣いてるですかー!?」

団長「ほほう?鬼の目にも…というやつか」ニヤッ

政務官「や、やかましい!泣いてなどいない!」ガァーッ

ヒメ「はは…まったく帰って早々、騒がしいな」ニコニコ
33: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/1(月) 23:28:11 ID:eI.uCZwLb.
ヒメ「皆、僕が不在にしている間、きっちり役目を果たしてくれたみたいだな。本当にご苦労だった」

ハハーッ!!!

ヒメ「早速だが報告を聞かせてくれ。何か変わりはあったか?」

シーン

ヒメ「? どうした?」キョトン

政務官「…今日のところはひとまずお休みなされてはいかがでしょうか。長期に渡る戦を終えられ、疲れが残っておられるかと」

ヒメ「…何があったんだ」ジロッ

政務官「……」

ヒメ「答えろ。命令だ」

政務官「…北の国より書状が届いております」

ヒメ「内容は?」

政務官「三国連合の解散及び平和協定を破棄した国々に対する賠償要求に御座います」

ヒメ「対応は済ませてあるのか?」

政務官「いえ…見合わせております」

ヒメ「連盟国はどう対処したんだ?」

政務官「南の国は下ったとの報せが…」

ヒメ「…東の国は?」

政務官「……」

ヒメ「はっきりしろ。東の国はどうしたんだ」

政務官「軍備を…整えておられます」

ヒメ「!?」

団長「た、戦うと言うのか!?」

政務官「そう知らされている…」

ヒメ「ミリア王妃がそんな決断を…?なぜだ…?」

政務官「ホビット族への領地壌土。この約束を果たす為であるとか」

ヒメ「……!」
34: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/1(月) 23:31:18 ID:eI.uCZwLb.
団長「か、勝ち目はあるのか!東の国にはもはや戦い抜く力など残っておらんだろう!?」

政務官「…おそらくはホビット族が要となるだろうな」

団長「無理だ!たしかに彼らとは一時共闘し、城塞防衛戦を乗り切ったが…とても正面から軍を崩せるとは思えん!」

政務官「同感だ。だが私はあちらに関与出来る立場にない」

団長「な、なにを考えておるんだ…!自ら滅びようとしているのか…!?」

ネバル「あ、あの!」

政務官「なんだ?」

ネバル「た、助けない…ですか?」

団長「むぅ…」

政務官「……」

ネバル「み、ミリア様はブルードル陛下や宰相様を失って自棄になってるです!きっとそうです!王国が助けないと!」

政務官「…それは出来ない」

ネバル「ど、どうしてです!?」

政務官「我々が同盟間を無闇にこじらせ、禁を犯したのは事実。北の国の主張はもっともだ」

団長「うむ…」

ネバル「そ、そんな!」
35: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/1(月) 23:34:28 ID:eI.uCZwLb.
ネバル「助け合わないですか!?一緒に戦ったですよ!?」

政務官「…無論そうしたい。だが我々が戦犯であるのは明白だ」

団長「動き出しておるのは一国ではあるまい?」

政務官「察していたか…。そうだ。北の国の他に二つの国がこの件に乗り出している」

ネバル「む、向こうも三国連合をしたってことですだか…!?」

政務官「…正当だ。それだけに強引が目立つがな」

ネバル「そんなの…ズルいです!自分たちばっかりいい思いしようとして…何が正当ですか!?」

団長「平和を誓い、共に手を取り合った。かつての同盟が二つに割れた、か」

政務官「こうなる事は見越していた」

ネバル「どういうことです!?分かってたなら対策もあるですよね!?」

政務官「……」

ネバル「リルラ様!ねぇ!どうなんですだか!?」

政務官「東国、南国、それぞれの代表を失い、示し合わせていた流れが反故になる誤算があった」

ネバル「……!」

政務官「しかしまだ望みはあったのだ…。フィクサーの反逆さえなければな」

ネバル「!!!」ハッ
36: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/1(月) 23:35:53 ID:eI.uCZwLb.
ネバル「王国が…悪いですか?自分たちが…台無しにしてしまったですか?」ブルッ

政務官「…軍が機能していれば交渉の時間も大いに稼げた。東、南、両国の負担も減らしてやれただろう」

団長「国賊の名を着た王国軍に民も我々も信を置けん。一度解体し、再構築せねばならん」

ネバル「でも…でも!そんなことしてたら!」

政務官「…東の国は滅びるだろうな」

ネバル「なら…やっぱり…!」

団長「うぅむ……」

政務官「我々にも余裕はない。北の国と交渉し、同盟国との友好を再度取り成さねばならない」

団長「自国の安寧を維持し、移住を強いた民の土地を復興させてやるのも重要だ」

ネバル「見捨てるですか…?」

政務官「…冷静になり、改めて協議する必要があると文を寄越した。返事は来ていないが」

ネバル「ミリア様……死ぬ気でいるですね。お優しい方だから…オイラ達を気遣って関わらせないようにしてるです」

団長「ずいぶん思い入れがあるようだな」

ネバル「当たり前です…!オイラは陛下と二回、東の国に行ったです!ブルードル陛下ともミリア王妃とも…お酒を飲んで楽しく話したです!」ウルッ

団長「それは…残念だったな」

ネバル「残念だったな…!?残念で済ましていいですか!?これじゃ王国も北の国と変わらないですよ!?」

団長「…すまん」

ネバル「なんだったですか…。今まで……なんで戦ってきたですか」

ヒメ「……」
37: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/1(月) 23:39:40 ID:eI.uCZwLb.
ネバル「陛下は…なんで何も言わないですか?」ジッ

ヒメ「……」

ネバル「陛下も見捨てるですか?ブルードル陛下をあんなに慕っていたですよね!?」

政務官「…私情を口にするな。全ては王国の為だ」

ネバル「自分たちだけですか!?東の国もおんなじように人が暮らしてるですよ!?」

政務官「黙れ!!」

ネバル「」ビクッ

政務官「たかだか2、3年程度の経験で偉そうに語るな!どうにもならない事をごちゃごちゃと喋ってる暇があれば次を見据えて思考しろ!!」

ネバル「なっ…」

政務官「我々は王国の役人だ!王国の為に仕え、王国に住まう民を生かすのが我々の使命だ!!」

ネバル「う…っ……」

政務官「貴様のごとき素人に毛が生えたような木っ端役人が出る幕などない!」

ネバル「っ〜〜!!」キッ

政務官「なんだ、その目はぁ!?」

ネバル「……!!」ギュウウ
38: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/1(月) 23:41:23 ID:eI.uCZwLb.
ネバル「そ、その言いぐさはあんまりです!!」

政務官「……」

ネバル「オイラだって…一生懸命やってるです!王国の為に考えてるです!!」

政務官「ならば分を弁えろ!貴様が本来当たるべき管轄は民間への支援だ!国外情勢への意見など差し出がましいものと知れ!!」

ネバル「管轄はそれぞれでも意見はしていい筈です!口出ししちゃいけないなんて誰が決めたです!?」

政務官「ほう!では意見とやらを聞かせてもらおう!東の国と自国の安全を同時に保証する手立てがどこにある!?」

ネバル「そ、それは…全員で話し合って……」

政務官「話し合う余地などない!そんな方法はどこにもないのだからな!」

ネバル「だ、だけど…」

政務官「だけどではない!何も考えられない無能が口答えをするな!!」

ネバル「む、のう…」ガーン

ヒメ「やめろ!!」

政務官&ネバル「……!?」

ヒメ「二人ともそこまでにしておけ」

政務官「はっ…」

ネバル「……」シュン

ヒメ「…後日、改めて話し合おう。僕も少し休むことにする」

政務官「かしこまりました」

ヒメ「出迎えご苦労だった。皆は引き続き、公務に戻ってくれ」

ハハーッ!!!
39: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/1(月) 23:47:52 ID:eI.uCZwLb.
―――王宮(客室)―――

カロル「わー!」キラキラ

宣教師「これはまた…広い部屋に通されましたね」マジマジ

ラム「全体的にきらびやかだなぁ…。客室でこれならヒメはもっとすごい部屋に住んでるんじゃ…」

宣教師「い、いやぁ…彼の部屋はもう少し落ち着いていましたよ?」

カロル「あはは!すっごーい!!」ピョンッ ポフッ

ラム「あんなにはしゃいじゃって?よっぽど嬉しいのかな?」

宣教師「彼曰く"初めてのお泊まり"なので胸が昂っているのでしょう」

ラム「民家ならまだしも…お城だからね、ここ」

宣教師「それでも彼にとっては"友達の家"なのですよ」クスッ

ラム「…カロルくんらしいや」クスッ

カロル「ねぇ!見てみて!このベッド!とってもおっきいよ!」ポフン

ラム「うん。5人くらいで寝ても軋まなそう」

カロル「今日は三人で一緒に寝ようよ!いいでしょ?」キラキラ

ラム「だってさ?」

宣教師「もちろん構いませんよ」ニコッ

カロル「やったー!」
40: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/1(月) 23:50:41 ID:W5Vcpfi1ZU
ラム「うわー…横になってみるとますます広いね」フカフカ

宣教師「えぇ、それにとても柔らかで心地いいです…。これが最高級のぬくもりなのでしょうか…」ホワーン

カロル「ラムくん。もっとこっちにおいでよ!」モゾモゾ

ラム「へ?なんでさ?こんなに広いんだし空けた方がいいんじゃない?」

カロル「ぎゅっ!」ダキッ

ラム「わっ!な、なに!?」ビクッ

宣教師「ふふ、仲良しですね?」

カロル「えへへ!旅してた時もね、こうやってお母さまとマルクと三人で添い寝してたの!ちっちゃいベッドだったけど暖かかったよ!」

ラム「べ、別にくっつかなくてもいいと思うんだけど…せっかく大きいベッドで寝てるんだし」ヒクヒク

宣教師「ふむふむ、なるほど、身を寄せ合って暖め合うのですね。
しかし一つのベッドで事足りるとは…体の小さいホビットならではの術という訳ですか」

ラム「どこに感心してるのさ…。あと小さいのはコンプレックスだから、あんまり分析しないでよ…」

宣教師「小さくていいじゃないですか。二人とも可愛らしいですよ?」

ラム「全然嬉しくない…。むしろけなされた気分だよ」ムスッ

カロル「ぼ、ボクだって、いつかおっきくなるよ!夜更かししないもの!」アセアセ

宣教師「どうでしょうねー…。身長なんて意外と望んだようにはならないものですよ?」

ラム「そ、そんな言い方ないじゃん!たしかにもう10才を過ぎたから伸びないけどさ…!」イジイジ

カロル「うぅ…ずっとこのまんまだったら、みんなに笑われちゃう」グスンッ

宣教師「可愛いげがあっていいですよ。私なんて気付けば、こんな大女になってましたし…」ズーン

ラム「……ま、まぁそういう種族だからね。しょうがないよ」

宣教師「人であって巨人ではないのですが…」

カロル「うらやましいなー。ボクも宣教師さまみたいにおっきくてカッコいい人になりたい」

宣教師「私はキミたちが羨ましいですよ。はぁ…」

カロル「? どうしてため息つくの?」

ラム「女の人にもコンプレックスはあるんだよ…。そっとしてあげよ」

カロル「う、うん…?」オロオロ
41: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/1(月) 23:53:42 ID:eI.uCZwLb.
カロル「うぅん…むにゃむにゃ」ギュー

ラム「(すっごいしがみついてくる…。でも振りほどいたら可哀想だし…)」

宣教師「ぐっすり眠ってますね?」ニコニコ

ラム「僕は寝れないけどね…」

宣教師「安心しているんですよ。私やキミがそばにいて」

ラム「……」

宣教師「今回の件に関わらず…私たちは元々、繋がる筈のなかった者同士ですからね」

ラム「こうやって同じ布団にくるまるなんて考えられなかったよね」

宣教師「…これが彼の望む世界なのかもしれませんよ」

ラム「……?」

宣教師「分け隔てなく穏やかな一時…。この部屋には今、確かな平穏があります」ニコニコ

ラム「…朝になるまでの短い時間だけどね」チラッ

カロル「んんぅ……えへへ、ふやぁ」スヤスヤ

宣教師「ふふ…安らぎに満ちた寝顔ですね」クスッ

ラム「どんな夢見てるんだろ?」

宣教師「良い夢に違いありませんよ。こんなにあどけない笑顔なんですもの」

ラム「…僕も寝よっかな」

宣教師「それがいいでしょう。もう小窓から星空が見えています」

ラム「……おやすみ」フカッ

宣教師「はい、おやすみなさい」ニコッ

ラム「」スゥゥ

宣教師「良い夢を…」ポンポン
42: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 20:58:25 ID:iNoKbPh17s
―――王国(北の領土・最果ての町)―――

ゴォォオオオ……

北の民1「ヒークシュン!」

北の民2「さむっ…寒くね!?」

北の民3「さみぃなぁ〜。身も心もひもじぃぜ〜」

北の民2「モクある!?モク!!」

北の民3「ねぇよ〜。薄っぺらいあばら家にゃガバガバのクセェ壁しか〜」

北の民2「ぶるるるる!てかさむっ!寒くね!?」

北の民3「さみぃなぁ〜。なんでこんなに寒いんだろうな〜。王様はなぁにやってんだか〜」

北の民1「ふへっ!あひひ!ヒークシュン!」

北の民3「風邪か〜?死ぬ前に寝とけよ〜?」

ガラッ

ビュウウウウウ!!

北の民1「ヒィィ!!」ガチガチ

北の民2「さむっ!!寒いって絶対!?」ガタガタ

北の民3「お、お、おぉう!やめろよ〜閉めてくれよぉ〜」ブルブル

売人「くちゃっくちゃっ」

北の民1「な、なんだと思や……プチョリスフの旦那か」

売人(プチョリスフ)「ぺっ」
43: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 20:59:53 ID:iNoKbPh17s
北の民1「今日は勘弁してくれやせんかねぇ。ちょいと手持ちが…」

プチョリスフ「あ?吸わねーの?」

北の民1「吸いてーんですけど金が…」

北の民2「さむっ!寒くね!?なぁ寒くね!?」

北の民3「しっ!静かにしろ〜!旦那の前だぜ〜!」

プチョリスフ「チンケなツラァ並べやがって……」

北の民1「え、えへ!どうもチンケなツラでごぜぇやす」ヘラヘラ

プチョリスフ「ムカムカしてきやがるなぁ…」

北の民1「ふ、ふひ」ヘコヘコ

プチョリスフ「金に困ってんならよ。ちょいと付き合えよ」

北の民1「」ビクッ

プチョリスフ「まぁそう怖がるなって…むしり取ろうってんじゃねーんだ」ニヤニヤ

北の民1「!!!」ヒシッ

北の民2「」ガタガタ

北の民3「」ブルブル

プチョリスフ「ここはさみぃな。あったけぇとこに行くぞ」
44: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:00:55 ID:iNoKbPh17s
部下1「」シュボッ

プチョリスフ「ふー」スパスパ

部下2「…いいんですか?こんなことしちまって?」

プチョリスフ「しょうがねぇだろ。ここじゃもう商売にならねぇ」

部下1「うざってぇ…。それもこれも」

部下2「せっかくバックヤードに開拓した市場をクソガキ(※国王)に潰されちまったからなぁ」

部下1「こんな雪とささくれしかねぇ北の領土の最果てまで逃げたってのに……」

部下2「王都最大の歓楽街を仕切る筈だった俺達が…今じゃ場末のケチな粉売りだ。みっともねぇったらありゃしねぇ」

プチョリスフ「つまんねー話はよせよ。モクがシケらぁな」スパスパ

部下1「にしたって…こりゃまずいんじゃ?」

プチョリスフ「いいんだよ。貿易だ、貿易」

部下1「先方はなんつってんすか?」

プチョリスフ「うちに仕入れを取り付けた。なんつってもでけぇ取引だ。くれぐれも慎重にだとよ」

部下2「そんな計画をあんな奴らに任せて大丈夫ですか?くたびれた廃人ばっかですぜ?」

プチョリスフ「だからいいんだろうが?扱いに困らねぇ」

部下1「しっかし問題は量っすよねぇ。こんなとこじゃ…」

プチョリスフ「同業にも情報を売り回せ。こぎつけりゃいいんだ。どいつも今の王政に縛られてがんじがらめ。喜んで飛び勇むさ」

部下2「おぉそれはいい!別口で儲けが出るな!」

部下1「でもよぉ…あてにしていいのか?」

プチョリスフ「…金で買ったネタだ。払った分はしっかり稼がねぇとよ」スパスパ
45: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:03:01 ID:lvGUj2/ilc
―――王都(王宮)―――

宣教師「帰れない…?」

ヒメ「あぁ、しばらくは城に留まってもらう」

宣教師「…しばらくとはいつまでですか?」

ヒメ「僕がいいと言うまでだ」

宣教師「せめて理由を聞かせてください。そうでなければ説明のしようがありません」

ヒメ「説明する必要はない。おまえには教団の活動に専念してもらうからな」

宣教師「!? 二人だけで、ここに残すのですか!」

ヒメ「いや、一人だ。ラムは帰らせる」

宣教師「カロルくんはどうするんです!?」

ヒメ「どうもしない。いてもらうだけだ」

宣教師「だからそれはどうしてです!?」

ヒメ「声を荒げるな。決まったことだ」

宣教師「き、決まったこと…?」
46: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:03:22 ID:lvGUj2/ilc
宣教師「まさかキミが…彼から自由を奪うような真似をするなんて」

ヒメ「……」

宣教師「理由があってのことだとは分かります…。ですが私達にすら隠すとは思いませんでした」

ヒメ「別に隠してなんかない」

宣教師「……」

ヒメ「以上だ。下がれ」

宣教師「また…そうやって一人で抱えようとするんですね」

ヒメ「は?」

宣教師「そんなに私達は頼りないですか?お荷物なんですか?」

ヒメ「なにも言ってないだろ」

宣教師「教えてください。私達にできる事があるならなんでもします!」

ヒメ「そうか。気持ちだけで十分だ」

宣教師「…キミを疑いたくないんです」

ヒメ「……」

宣教師「お願いします!」ペコリ

ヒメ「はぁ…あのな。僕たちには守秘義務があるんだよ。なんとなく分かるだろ」

宣教師「それほどに大きな事態が予想されているのですか?」

ヒメ「だから探るなって…」

宣教師「私にだけ教えてください!誰にも言いませんから!ね!?」ガシッ

ヒメ「…あぁもう!しょうがないヤツだな!」ワシワシ

宣教師「……!」パァァ
47: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:04:36 ID:lvGUj2/ilc
ヒメ「本当になにも隠してないんだよ。どうなるか分からないから念のためだ!」

宣教師「???」

ヒメ「…これから先、国内が大きく乱れると予想される」

宣教師「……!」

ヒメ「その時、僕の選択が間違っていたか正しかったかが問われるだろう」

宣教師「何が…起きるというのですか?」

ヒメ「ぼんやりとしか浮かばないけど…今までにない何かだ。時代が変化する背景には必ず大きな影響が及ぼされる」

宣教師「なぜキミに分かるんですか…?そのような…体験した事もないのに」

ヒメ「…今、言えるのはそれだけだ」

宣教師「っ…分かりました。カロルくんにも、よく言っておきます」

ヒメ「あぁ、頼む」

宣教師「…でもこれだけは言わせてください」

ヒメ「なんだ?」

宣教師「カロルくんが変えた世界をキミが守ろうとしている…でも」

ヒメ「……」

宣教師「その為に自分が犠牲になろうとするなら私達は全力で止めます。たとえ何があろうとも…絶対に」

ヒメ「心配するな。そんな気はさらさらないさ」

宣教師「…分かりました。失礼します」スタスタ

ヒメ「……」
48: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:07:14 ID:lvGUj2/ilc
〜〜〜回想(ヒメ)〜〜〜

―――地下牢獄―――

カツンカツン カツンカツン

ヒメ「照らせ」

団長「はっ!」バッ

アントリア「うっ!うぅ……」ヨロッ

ヒメ「ふん…見ない間にずいぶん老けたな」

アントリア「ゆる…してくれ…もう……ゆるしてくれ」ワナワナ

ヒメ「…クサいんだよ。そんな芝居で僕が同情するとでも思ってるのか?」

アントリア「……」ピタッ

ヒメ「人を騙して生き抜いた末路がコレか。こうはなりたくないもんだな」

アントリア「ふっ…ずいぶん顔つきが変わったな」

ヒメ「?」

アントリア「よほど辛かったのだろうね。以前より厳しさが際立っている」

団長「…貴様が余計な真似をしてくれたせいだろうがぁ!?」カッ

アントリア「僕が?ハハ、違うだろう?なるべくしてなったのだよ。物事とは運命の兼ね合いだ」

団長「なにぃ!?貴様が大臣や政務官を操り、西の国を動かしたのが全ての発端であろうが!?」

アントリア「ほう?では僕以外にいなかったのか?この戦争に加担した人物は?」

団長「ぬ!?」

アントリア「一人の力で起こせるものなどタカが知れている。君たちもまた…加担した一人に含まれるのではないだろうか?」

団長「ぐ、ぬぅ!屁理屈ばかりこねおってぇ…!!」ワナワナ

アントリア「ここへ来たということは…目標を果たしたのかな?」

ヒメ「…そうだ。約束通り真実を話してもらうぞ」

アントリア「真実…?」

ヒメ「今さらとぼけるな。おまえの知る全てを打ち明けろ」

アントリア「クックッ…失われた歴史か」ニヤッ
49: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:08:13 ID:lvGUj2/ilc
アントリア「話すのは構わないが知ったからと言って、なんになると?」ニヤニヤ

団長「えぇい!忌々しい!減らず口を叩いとらんで陛下の問いに答えぬか!?」

アントリア「おやおや…むごいものだよ。人というのは…これだから恐ろしい」

団長「……?」

アントリア「ルフィアス殿。君も昔は僕に敬意を表していた筈だ。それが今となれば侮蔑の念しか抱かない」

団長「自業自得であろうが!己のした事も忘れたか?」

アントリア「ふむ、そうだろう、そうだろう。僕は罪深い。だから君は僕を憎むのだろうね」

団長「なにが言いたい…?」

アントリア「人は罪を憎み、赦す事を良しとしない。善悪など誰が決めていいものでもないのに…」

団長「回りくどいわ!はっきり答えろ!!」

アントリア「ふむ…要するに歴史とはその繰り返しさ」

団長「!?」

アントリア「罪が生まれ、裁かれる。罰は憎しみとなり、新たな罪を犯す。罪は裁かれ、また新たな罰という名の枷を背負う」

ヒメ「……」

アントリア「枷を外す為に…また新たな固定概念が生まれる。善悪は入れ替わり、立ち代わり、ただ繰り返す」

ヒメ「…終わらない争いは何を引き金に始まったんだ?」

アントリア「今の君たちと同じさ。いつの間にか、そうなっていた」

ヒメ「……!」

団長「むぅ…!」
50: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:09:05 ID:iNoKbPh17s
アントリア「たとえば政治も戦争も定石はあるが必勝の策はない。全ては結果の後付けでしかないのだよ」

アントリア「それと同様に…時代も未来の後付けでしかない。勝手な憶測で過去を語ろうと真実など見えはしないのだ」

アントリア「アピシナの争い、終わらない争い、西国との争い、どれも予兆などあったかい?」

アントリア「あれだけの大惨事になると誰が予想していた?」

ヒメ「……」

アントリア「アピシナは大陸に混沌をもたらそうと大樹を育てたのか?」

アントリア「かつての国々は最初から争うつもりで政を進めていたのか?」

アントリア「君はこうなると分かっていて癒しの力を持つホビットと友人でいようとしたのか?」

ヒメ「……!」

アントリア「違うだろう?皆、想像もしていなかったんだ。争わなければならないのは分かっていても…その結末までは見えていないんだ?」

ヒメ「(癪だけど…まさにその通りだ!)」ギリッ

アントリア「僕がいようといなかろうと起こっていたのさ。違う誰かが引き金となってね」

ヒメ「…どうやったら、その連鎖を断ち切れる?」

団長「へ、陛下!?」
51: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:10:27 ID:iNoKbPh17s
団長「このような男に教えを乞うなど…なりませぬ!また謀略の餌食となりますぞ!」

ヒメ「だが…こいつは知っている。一時代の始まりも終わりも」

団長「し、しかし!」

ヒメ「知恵が必要なんだ!歴史を失った王国には…最も大事な知恵が書かれていない!」

団長「む、うぅ…」

ヒメ「僕だって、こんな奴に頼りたくない!父上を斬ったこいつを…今すぐにでも殺してやりたい!」ググッ

団長「ヒメ様…」

ヒメ「だけどそれじゃダメなんだ!罪人だから…仇だから…そんな理由にこだわってたら何も生まれないんだよ!」

ヒメ「たった一つの国が世界に平和をもたらそうとするなら悪の言葉も吸収しなければならないんだ!」

ヒメ「悪を知らずに善を知ることは出来ない!ファルージャのように…理屈や倫理を台無しにする悪もいる!!」

ヒメ「きれいごとじゃ政は成り立たない!一人も悲鳴をあげずに笑ったまま過ごせる未来なんて作れっこないんだよ!」

団長「……」オロオロ

アントリア「クックッ!」ニヤニヤ
52: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:17:26 ID:iNoKbPh17s
ヒメ「なぁ…団長。おかしいか?僕はおかしいのか!?」

団長「い、いえ、滅相も」アセアセ

ヒメ「あぁそうか!僕はおかしくなりそうだよ!いいや、とっくにおかしくなってる!!」

団長「はっ…!?」

ヒメ「国を根本から作り直して!人類史から見ても大きな節目となるだろう決戦を終えて!それでもまだ時代は一歩も先に進んでないんだぞ!?」

団長「……!?」

ヒメ「…人を斬った!ためらいもなく!人の為に!人を斬った!」

ヒメ「平和な国を作ろうとしてやってきた事は殺戮だ!僕はただがむしゃらに剣を振るった!ただの愚か者だ!」

団長「ど、どうされたのですか!落ち着きなされ!」アセアセ

ヒメ「それもこれも運命で…時代の流れでしかなかったのなら…僕は何を守ろうとしているんだ?」ブルッ

団長「平和な世界を実現なされようとしておられるのではないですか!」

ヒメ「平和だったじゃないか!それまでは!?」

団長「」ビクッ

ヒメ「平和だった…そうだろ?差別があったって…ホビットを苦しめていたって…平和だったんだ。父上だって、そう言ってた!」

団長「…初心をお忘れか。犠牲の上に成り立つ平和など偽りだとおっしゃられたではございませぬか?」

ヒメ「今だって犠牲を強いてるじゃないか…。何人死んだ?僕のした事で……何十万の人々を殺した?」ガクガク

団長「それは…仕方なく」

ヒメ「仕方なく…?じゃあホビットを差別するのも仕方なくでいいんだよな?」ヘラッ

団長「なっ…!じ、自分が何を言ってるかお分かりか!?」

ヒメ「だって…だってそうだろ?ホビットを差別しておけば、こんな事にはならなかった…」

団長「…親友である小童にも今の言葉を伝えられるのですか?」

ヒメ「う……う、あう…あうぅ……」ガチガチ

団長「やはりやめておきましょう。今はまだ疲れが残っておられる。ゆるりと休まれよ」
53: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:20:02 ID:lvGUj2/ilc
ヒメ「そうだ…」ボソッ

団長「……?」

ヒメ「あいつじゃなければ…あいつ以外のホビットなら」

団長「っ……陛下!」イラッ

ヒメ「名案だろ!あいつだけは僕のそばに置いて、他のホビットに我慢してもらうんだ!」ヘラヘラ

団長「馬鹿げた事をおっしゃるな!」

ヒメ「なんだよ!そうすれば平和だろ!東の国も救われるだろ!誰も死ななくていいんだろ!?」

団長「くっ…ご無礼仕る!!」ガシッ

ヒメ「うわっ!な、なんだよ!やめろよ!僕に手を出すのか!家臣のくせに!」ジタバタ

団長「いい加減にしろぉ!!!」カッ

ヒメ「っ〜〜〜!!」ビリビリ

団長「それが貴方の決断か!?ご自分の意思を曲げてまで楽に逃げようとするのが貴方の目指す国家か!?」

ヒメ「……」

団長「申し訳ないが…そんな王に仕える気などワシはない!どうぞこの首跳ねてくだされ!?」

ヒメ「…うる、さい」ウルッ

団長「!?」

ヒメ「うるさい!うるさい…うるさい、ばかぁ」ポロポロ

団長「な、な、なんと…!?」ガクゼン

ヒメ「ひっ!ひっく……ふ、えぇん……」ポロポロ

団長「(泣いておられる…。幼い頃から気丈な…涙など見せた事もなかったヒメ様が……平凡な子供のように泣きじゃくっておられる!?)」ワナワナ
54: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:20:45 ID:iNoKbPh17s
『…呑まれないといいですけどね』

団長「(そうか…。そうだったのだな)」

ヒメ「どうすればいいんだよぉ…。僕だって、がんばってるのに…じゃあ、おまえがやれよぉ…」ポロポロ

団長「ヒメ様…」ヒシッ

ヒメ「ひぃ…!」ゾワッ

団長「申し訳ござらぬ…!いつの間にかワシは…貴方に全てを押し付けていたようだ」ギュッ

ヒメ「離せ!離せよぉ!死刑だぞぉ!」ジタバタ

団長「(耐えられる筈がなかったのだ。ようやく全てを終え、本当の意味で望んだ未来に向かえると思った矢先に…また一からやり直せなど)」

団長「(宣教師の言っておった通りだ。ワシは支えるなどと嘯きながら、その実ヒメ様がまたなんとかしてくださるだろうと緩みきっていた)」

団長「(こんな幼年期を過ぎたばかりの少年に…巨大な負荷を背負わせた。ワシも…皆も)」

団長「(友人とのふれあいさえ我慢し、政に思案を巡らせる。どれだけ寂しかっただろうか)」

団長「(周囲の大人を安心させる為、恐怖を隠して気丈に振る舞い続ける。どれだけ過酷だっただろうか)」

団長「(ひたすらに命を奪い合う日々が…どれだけ苦しかっただろうか)」

団長「(ワシは何も分かっていなかった。正義の旗を乱暴に振り翳し、痛め付けていただけだったのだ)」
55: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:23:28 ID:iNoKbPh17s
アントリア「なにやら揉めているようだが話は終わりかね?」

団長「」ギロッ

アントリア「……」ニヤニヤ

団長「貴様…どこまで狡猾なのだ」ビキィッ

アントリア「なんのことやら…」

団長「これが狙いか…!陛下の…決死の努力を踏みにじり、自信を打ち砕く…!」プルプル

アントリア「ふっ!クックッ!」

団長「貴様という奴は…男の風上にも置けぬ醜悪で陰湿な腐れ外道よぉっ!!」ガァーッ

アントリア「一つ助言をしてあげよう」

団長「助言だと!よくもぬけぬけと!?」

アントリア「繰り返される時代の背景には必ず多大な影響が及ぼされる。
元歴史学者として言えるのは…いかなる偉業の影にもそれに見合うだけの退廃が付きまとうという事だ」

団長「陛下…!」ジッ

ヒメ「ひっ…ぐす!」グシグシ

アントリア「君が本気で一時代を築き上げようと言うのなら…失う物を嘆いてはいけないよ」

団長「……!」

アントリア「何かを失い、何かを産み出す。それが時の流れだ」

アントリア「この程度の試練を越えたくらいでいい気になっていたのなら……」

ヒメ「〜〜〜……」ブルブル

アントリア「まだまだ破滅への道は続くとだけ言っておこうか」

ヒメ「」ゾクッ
56: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:25:43 ID:iNoKbPh17s
アントリア「君は差別という名の鎖を解き、真の平和を目指して歩み始めた」

アントリア「その歩みが絶望の一途であるとも気付かずに」

アントリア「知らないふりをしていればよかった。何も見ていなかったと思い込めばよかった。そうすればホビットが全て受け止めてくれる」

アントリア「実際どうなった?世界は良い方向へ向かったのか?否、更なる深みにはまってしまっている」

アントリア「永く護られた安全神話を崩してしまったのは君自身なのだ」

団長「耳を貸してはなりませぬ!」

ヒメ「……」

アントリア「君の言った通りさ。この世に恒久平和などない。あるのは幸か不幸か…その二つだ」

ヒメ「どうしようもないのか…?僕は…破滅に向かうしかないのか?」ゾワゾワ

団長「断じて!断じて違いまする!!」ジッ

ヒメ「!?」

団長「確かに其奴は我々の知らぬ過去を見てきた生き証人!だが…信用に値せぬ!!」

団長「どれだけ過去を知り尽くそうと未来は誰にも読めませぬ!陛下の成そうとされる未来こそが史上初の恒久平和となられるやもしれん!」

団長「なれば!その道を作るは我々、今を生きる者の使命です!」

団長「貴方の行く道が破滅となるか繁栄となるかは…我々が共に見届けましょうぞ!!」

ヒメ「おまえ…」

団長「…我々をもっと頼ってくだされ。必ずや応えてみせます。この男の言葉などより我々を信じてはいただけませぬか?」

ヒメ「……いいのか。さっき吐いた暴言も…紛れもない本音だぞ」

団長「ワシとて…いや、皆そうです。貴方が変化を受け入れなければ…誰も差別を正義と信じて疑わなかった」
57: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:26:45 ID:lvGUj2/ilc
ヒメ「…本当はカロルが拐われたと知った時に限界を感じたんだ」

団長「……」

ヒメ「それでも宣教師は諦めなかった…。おまえたちが支えると言ってくれた。だから…僕はっ…」ウルッ

団長「」ナデリ

ヒメ「僕は…弱いよ…。ずっと…ずっと……」グスッ

団長「強くなり申した」ギュッ

ヒメ「!」

団長「ローレン陛下や宰相殿も他国の者でありながら貴方に命を預け、力をお貸しくださった。もはや貴方を認めぬ者など一人もおりませぬ」

ヒメ「……」

団長「貴方の下で戦い死んだ息子さえ誇らしく思えるほど…ワシはヒメ様の家臣で良かったと…そう思えるのです」

ヒメ「…離れろ!」ドンッ

団長「は!?」ヨロッ

ヒメ「…分かった。もう十分わかったよ」カァァ

団長「へ、陛下…!」

ヒメ「…戻ろう。これ以上こいつの話を聞いても気が沈むだけだ」

団長「それがよろしいかと…」

アントリア「クックッ…ひどいなぁ。親切心から助言してあげたと言うのに」

団長「ちっ!黙っていろ!」ガンッ

アントリア「…せいぜい探すといい。閃きようもない答えとやらを」ニヤニヤ

団長「ぐっ…!?」
58: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:28:55 ID:iNoKbPh17s
―――王宮(公務室)―――

ヒメ「……」

団長「お気になされるな。奴の言葉など負け惜しみに過ぎませぬ」

ヒメ「いや、あいつの言葉は正しいよ。事実だけを淡々と述べてる」

団長「ま、まさかまだ…!?」

ヒメ「でもあいつは…悪意を持って伝える真実を選んでる。希望を隠して絶望だけに目を向けさせようと…」

団長「…よろしゅうござった。惑わされてはおらぬようですな」

ヒメ「僕に忠誠を誓ったリルラがヤツに洗脳されていたのは不自然だったけど、やっと分かった」

団長「む?」

ヒメ「王国の影に君臨してきたラーダの末裔。そして終戦後の時代を司った黒幕」

ヒメ「ヤツ以上に"王国"を知る者はいない。ヤツの記憶は……それだけ重要な宝だ」

ヒメ「…あいつしか知らないんだ。失敗も成功も…僕たちは何も知らないんだ」

団長「むぅ……」

ヒメ「字の読み書きや数の計算だって…教えられた事だから出来るだろ?」

団長「そ、それは一般教養では…」

ヒメ「ファルージャがそうだった。あの女は一般教養はおろか暦すら知らず年齢すら分からないと言った」

団長「なっ…そんなバカな!」

ヒメ「そんな女だから…何もかも常識はずれだったんだ!だから僕たちは読み損なった!」

団長「(ぬぅ…あの貧民街の様子を察するにあながち嘘とは思えん)」

ヒメ「そういう人間がたくさんいるんだ…。ファルージャのように…自分の価値観の中でしか生きていけない人間が…」
59: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:30:17 ID:lvGUj2/ilc
ヒメ「…僕たちは今、そういう局面にいるんだよ。無知な集団が手探りで道を探して理解しないまま状況だけが進んでる」

ヒメ「それなら憎くても、信用出来なくても、確実に何かを知るヤツを頼りたくなってしまうだろう…?」ブルッ

団長「うぅむ…」

ヒメ「…絶望だ。僕は今、本当の絶望を知った気がするよ」

団長「滅多なことを申されるな…。絶望とは絶たれた望みを指す。我らの望みは絶たれてなどおりません」

ヒメ「…そうだな。じゃあ挫折とでも言えばいいか」

団長「ヒメ様!」カッ

ヒメ「……ごめんな」

団長「」ハッ

ヒメ「ごめん…」シュン

団長「(ワシはまた……)」

団長「(だが…乗り越えていただかねばならん。乗り越えていただかねば……)」

ヒメ「…考えれば考えるほど訳が分からなくなるんだ」

団長「」ピクッ

ヒメ「どこに向かおうとしてるのか…」

団長「…自信をお持ちください。確実に正しい道を歩んでおられます」

ヒメ「正しい、か。僕はもう潔白じゃないのにな」

団長「そのような…」

団長「(…なぜこうも安らぐ間もなく試練が降りかかるのか。陛下には休息が必要だ)」

ヒメ「……」

団長「…今日のところはここまでにしておきましょう。ワシも出来うる限り情報を集めておきますゆえ」

ヒメ「…あぁ、そうだな」
60: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:32:15 ID:iNoKbPh17s
―――国王の間―――

ヒメ「(カロルは…最後まであいつらを救おうとしていた)」

ヒメ「(私欲に溺れ、自分勝手に振る舞い、大勢の命を奪ったファルージャたちを)」

ヒメ「(結局は何一つ改めようとしなかった愚かな連中だ)」

ヒメ「(それでもあいつは救おうとした。なんで…なんでそこまでして…)」

ヒメ「(フィクサーの命も庇った。あいつは敵だと何度も説明したのに…)」

ヒメ「(あんなのは慈悲とも呼べない…甘すぎるだけだ。それなのにどうして…)」

ヒメ「なんで今さら…こんなに深く考えてしまうんだ?壊れそうになってしまう事が…どうしてこんなに心地いい?」ブルブル

ヒメ「(僕は…何がしたいんだ?)」

ヒメ「カロル…カロル……」

ヒメ「こんな罪の意識と向き合いながら…おまえは……それでも救おうとしてきたのか?」

ヒメ「(狂ったように泣き出したおまえの気持ちが…今ようやく分かったよ)」

ヒメ「分かりたく…なかった」ポツリ

ヒメ「っ…くぅ…!」グシッ

ヒメ「ごめんなさい…ごめんなさい」ポロッ

ヒメ「ブルードル陛下…宰相殿…ローレン陛下…父上……」ポロポロ

ヒメ「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…!」ギュウウ

…………………
61: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:32:54 ID:iNoKbPh17s
〜〜〜二日後〜〜〜

―――城門前―――

宣教師「すみません…。キミを一人にしてしまって」シュン

カロル「ううん!気にしないで?宣教師さまには宣教師さまのお仕事があるんだもの!」

宣教師「ほ、本当に一人で大丈夫ですか!?ちゃんと歯磨きしてご飯もしっかり食べて…あ、身清めも忘れてはいけませんよ!?」

カロル「ありがとう!でもボクは大丈夫だよ?宣教師さまもお仕事がんばってね!」ニコッ

宣教師「うぅ…神よ。どうか彼を守ってください!」ギュッ

ラム「大げさだってば。城で過ごせるなんて羨ましい話じゃん」

カロル「…ラムくんも帰るんだよね」

ラム「うん。移民用の馬車で、ついでに送ってってくれるってさ」

カロル「みんなによろしくね…。ボクはまだ帰れないけど…お母さまには心配いらないよって言っておいて?」

ラム「いいよ。伝えとく」

カロル「ありがとう…」ホッ

ラム「本当はもうちょっと残っててもよかったんだけどねー。なかなかあんな豪華な生活する機会なんてないしさ」

カロル「えへへ!今度はみんなでお泊まりできたらいいね?」ニコニコ

ラム「そうだね。ヒメに頼んでみてよ?」クスッ

カロル「うん!」

宣教師「では…行きましょうか」

ラム「じゃ、またね!」

カロル「またね!宣教師さまもラムくんも気をつけて!」フリフリ

宣教師「えぇ!キミもいい子にしているんですよ?」フリフリ

ラム「ちょっとした贅沢だし楽しんでおいでよ!帰ったらルーボイたちにも自慢したらいいよー!」フリフリ

カロル「うん!そうする!」フリフリ

スタスタ スタスタ………

カロル「またねー!」フリフリ
62: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:33:54 ID:lvGUj2/ilc
―――王宮(議場)―――

政務官「周知の通り、北国は豪腕を振るった政略が目立ち、国家としての成り立ちも非常に強固だ」

政務官「その歴史は古く、王国や南国よりも以前から大国の基盤を築いていたとされている」

政務官「世界最古の王族と呼ばれる北国では独自の文化が根付いており、我が国を象徴する教団の信仰も受け入れられていない」

政務官「また西国が帝国主義を掲げていた当時に植民地とされていた北西の小国を援助し、解放に導いた功績が称えられている」

政務官「この小国と通じ合い、現在の平和協定加盟国である二国と、とある利益を共有している」

政務官「その利益というのが油だ。大陸の果てに位置する国々では寒冷に見舞われ、作物の育ちが悪い」

政務官「ゆえに植物性の油や燃料などの消費が激しく生産が困難だそうだ。だからこそ北西の小国から大量の油を輸入している」

政務官「熱帯域にある南国からも輸入していたそうだが一切停止された。これは経済的制裁措置と見られる」

政務官「実は我が国とも馴染み深く、鉄鋼資材の加工技術を交換し合うなど両国間の交流も行われていた」

政務官「先代の頃より私が先頭に立って進めていた計画の一つ、時計塔を目玉とした城下歓楽街建設計画にも北国の高官から意見を頂戴している」

政務官「だが軍事においては西国に次ぐ力の入れようだ。王国から取り入れた加工技術もそこに充てていると聞いている」

高官1「ふむふむ…」カリカリ

高官2「なるほど…」カリカリ

ネバル「(難しすぎて、ぜんぜん話入ってこないです…)」オロオロ

ヒメ「……」

ネバル「(? 珍しく陛下もボーッとしてるですね。疲れてるですだか?)」チラッ
63: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:35:37 ID:lvGUj2/ilc
政務官「さて、ここからが本題だ。まず北国は現在、三国協定を結び直し、東国に要求を迫っている」

政務官「東国はそれに対し、抗戦に臨む姿勢だ。しかし非は東国にあり、味方となる国々は存在しない」

政務官「そこへ我々が介入する訳にはいかない。同じく要求を差し迫られる上では入念に協議し、穏便に済ませられればと考える」

政務官「さしあたって東国、北国に使者を寄越し、南国にも協力を要請する。その任には2名の高官に出向いてもらうが…」

高官1「はっ!」

高官2「お任せください!」

政務官「うむ。万全を期しているようだな」

高官1「政務官より学ばせていただいた交渉技術と人脈を活用させていただきました!」

高官2「必ずや朗報をお持ちします!」

ネバル「(ひえー…西国との一件から皆さん、すごい熱意です。オイラも頑張らなきゃ!)」

政務官「ネバル。お前は何か用意していないのか?」

ネバル「は、はい!えーと…陛下が所有する専属農園のイチゴをブランド化する計画を立ててるです!」ガタッ

政務官「ほう!」

ネバル「今や陛下は国民の人気者です!陛下の名前を使って商売する業種が溢れるぐらいです!」

ネバル「なので陛下の名前に規制を掛けて認可を必要とさせるです!
そして改めて王国認可のブランド品として農園のイチゴを広めるです!」

ネバル「品名はヒメイチゴ!無料配布を取り止め、これを他国にも宣伝するです!」

政務官「ふむ、良い案だ。陛下は許可なされたのですか?」

ヒメ「ん…あぁ、話は通ってる。好きにしろ」

政務官「そうですか。ではその方向で進めておけ。食と娯楽は重要な文化だ。我が国の味覚を広められれば交流も大いに深まるだろう!」

ネバル「はいです!」ピシッ
64: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:36:19 ID:lvGUj2/ilc
政務官「では以上だな…。最後に陛下より…」チラッ

ヒメ「……」ボーッ

政務官「陛下?」

ヒメ「っ…!あぁ、すまない!」ハッ

政務官「議会を閉じる前に総評をお伺いしたく存じますが、いかがなされましたか?」

ヒメ「そ、そうか!うん!問題ない!みんなご苦労だった!」アセアセ

政務官「目の下に深く黒ずみが出来ておりますが…もしやご気分が優れないので?」

ヒメ「い、いや、大丈夫だ…」

政務官「ふむ、それならよいのですが…」

ネバル「(陛下…もしかしたらオイラがこの前、責めるような言い方したから…)」ハラハラ

政務官「ではこれにて議会は閉幕とする。各自、解散せよ!」

バラバラ バラバラ
65: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:37:07 ID:lvGUj2/ilc
ネバル「陛下!すみませんでしたです!」ペコッ

ヒメ「は…?な、なんだよ?」

ネバル「オイラそんなつもりじゃなくて…陛下は悪くないです!だから元気出してくださいです!」アワアワ

ヒメ「……?」

ネバル「と、とにかくですね!オイラも自分で頑張ろうって決めたです!心配しないで任せてくださいです!」

ヒメ「そ、そうか…?」

ゴチンッ!

ネバル「」プシュー

政務官「無駄口を叩いてないで自分の仕事に戻れ」コキッ

ネバル「うぅ…役人がこんなブラック環境だなんて…」シクシク

政務官「ところで陛下…この後、お時間はございますかな?」

ヒメ「構わないが…どうかしたのか?」

政務官「少々お耳に入れておきたい事が」

ヒメ「…分かった」
66: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:38:22 ID:lvGUj2/ilc
―――国王の間―――

政務官「敵対する貴族勢と大后様が通じております」

ヒメ「母上が…?」

政務官「大后様は上流貴族の生まれ、名家の令嬢ゆえ気位の高いお方です。以前より陛下の方針にも反感を示しておられました」

ヒメ「……」

政務官「此度の功績につきましても遺憾とのお言葉を頂戴しました。特に西国から勝ち取った国益はどうなさるおつもりかと」

ヒメ「…向こうは内紛の真っ最中だ。それどころじゃないだろ」

政務官「そのように説明申し上げましたが納得は得られませんでした。陛下は何か聞かされておりませんか?」

ヒメ「母上とは最低限、顔を合わせるだけだ。口出しされても鬱陶しいしな」

政務官「…ですが矛先が我々に向かい、強行策に移ろうとしておいでです。一度、話し合ってみられては?」

ヒメ「そんな暇はない!」

政務官「僭越ながら…この頃はあまり覇気が見られませんな」

ヒメ「なんだと…?」

政務官「ネバルら役人一同は心機一転、新たな努力をしようと試みています。東国の問題改善に取り組み、国内の繁栄にも尽力している」

ヒメ「……」

政務官「…いったい何があったのです?西国との一件に関わっているのでしょうか?」

ヒメ「僕だって、そういう時もある…」

政務官「それでは困るのです。我々もそうですが…何より陛下が先頭に立っていただかねば?」

ヒメ「……」

政務官「とにかく…母君とよく話し合ってください。いらぬ混乱を招く前に」

ヒメ「ちっ…」

政務官「!!!」

ヒメ「分かった!分かったよ!話せばいいんだろ!?」スタスタ

政務官「へ、陛下…?」オロオロ
67: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:39:33 ID:iNoKbPh17s
―――王宮(回廊)―――

ヒメ「……」イライラ

給仕1「あ、陛下!」

ヒメ「ん?」

給仕1「ちょうどよかった!いつもよりいいお砂糖使ったジャムを作ってみたんで良かったら召し上がっていきませんか?」

ヒメ「……」

給仕1「陛下の農園で採れたイチゴをブランドにするそうでネバル様に頼まれたんです!その名もヒメジャム!」

ヒメ「(ヒメイチゴと言い酷いネーミングセンスだな…)」

給仕1「お一ついかがですか?麦パンと合いますよ!」

ヒメ「今はちょっとな…。後で部屋に持ってきてくれ」

給仕1「そう言わず!とびきり美味しいですよ!ね?」チラッ

カロル「うん!」ヒョコッ

ヒメ「!!?」ギョギョッ

給仕1「ほら!救い主様のお墨付きですよ!」

カロル「ヒメくんも食べてごらんよ!とっても甘くておいしいよ!」

ヒメ「お、おまえ…なんで…」ワナワナ

カロル「?」キョトン

給仕1「あー!こんなに口いっぱいジャムつけて!行儀悪いって言われちゃいますよ?」

カロル「あ、ホントだ。つい夢中で食べちゃったから」ベタベタ

ヒメ「……!」プルプル

給仕1「もー拭いて拭いて!」キュッキュッ

カロル「ぅん!わぷっ!」ゴシゴシ

ヒメ「何してるんだよっ!?」カッ

給仕1「」ビクッ

カロル「」ビクッ
68: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:40:41 ID:lvGUj2/ilc
給仕1「あ、あの…陛下?」 オロオロ

カロル「ヒメくん…どうかしたの?」アセアセ

ヒメ「分かってないな…!おまえは…なんにも!」イライラ

給仕1「も、もしかして先に食べちゃったから…?」

カロル「へ?そ、そうだったの?ごめんなさい…!」アセアセ

ヒメ「……!」イライラ

給仕1「も、申し訳ございません!私が悪いんです!陛下にお出しする前に味見を頼んじゃって…」

カロル「ちがうよ!ボクがお城を探検してて!いい匂いがしたから勝手に入っちゃって…!」アセアセ

ヒメ「探検…?ふざけるなよ…!護衛は!?何も言わずに通したのか!?」

カロル「え?ちゃ、ちゃんと言ったよ…?探検したいって…」

ヒメ「ちっ…!」

カロル「ひ、ヒメくん、どうしたの?ホントに大丈夫?」ハラハラ

ヒメ「よくそんな能天気でいられるな!おまえ、本気で自分の立場分かってないのかよ!?」

カロル「ボク…?」

ヒメ「頼むから余計な心配かけないでくれよ!僕の許可なく城内を出歩くな!部屋で大人しくしてろ!」

カロル「……?」オロオロ

ヒメ「分かったな!?」

カロル「は、はい…?」コクッ

ヒメ「まったく…!」スタスタ

カロル「……」ポカーン

給仕1「す、すみません!私のせいで!」アセアセ

カロル「ううん…」
69: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:43:05 ID:iNoKbPh17s
〜〜〜数日後〜〜〜

―――王都(憲兵団本部)―――

政務官「陛下にいったい何があった?」

団長「……」

政務官「ここ最近、明らかに様子がおかしい。まるで魂が抜けてしまわれたかのようだ」

団長「そうか…」

政務官「何か知らないか?」

団長「…知らんな」

政務官「……」

団長「……」

政務官「話せ。何があった?」

団長「知らんと言っておるだろう」

政務官「マシな嘘をつけ。態度で筒抜けだ」

団長「ふん…」

政務官「あのままでは任せておけない。一刻も早く以前の陛下を取り戻していただかなくては…」

団長「陛下は常に国の行く末を考えておられるよ。考えているからこそ…今の状態になってしまったのだ」

政務官「それはどういう意味だ?」

団長「…頼りすぎたのかもしれん。陛下の心は幼い頃と変わらず孤独なままだった」

政務官「? 貴様も様子がおかしいな…。陛下の変調と関係があるのか?」

団長「疲れておるだけだ…。今回ばかりは…疲れた」

政務官「何を腑抜けた事を…!貴様も陛下もどうなっているんだ!」ギリッ
70: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:43:54 ID:iNoKbPh17s
政務官「いいか!危機はすぐそこまで差し迫っているんだ!落胆している暇などないぞ!」

団長「…思えば息子に正義とは何かと問われ、ワシは己に恥じぬ行いが正義だと答えた」

政務官「……?」

団長「…陛下もそうだ。己を信じられなくなっている。全ての行いが過ちに繋がっているのではないかと」

政務官「…疑心暗鬼に駈られていると?」

団長「あまり無理をさせないでやってくれ。陛下もああ見えて幼いのだ」

政務官「ふむ、分からんでもないが…そうもいかないだろう。少なくとも今の環境下では」

団長「…複数の役人以上の働きを陛下に課すのは酷だと言っておるのだ」

政務官「甘えた事を抜かすな。役人には役人の働きがあるんだ。陛下にはそれを取り纏める責務がある」

団長「その責務が…陛下を追い詰めているとなぜ分からん?」

政務官「そうされたのは陛下自身だ。我々は陛下の意思に倣い、立場を弁えている」

団長「しかし…いつまでも陛下をあてにする訳にはいかんだろう」

政務官「あてにするだと?誰があてにした?我々はそれぞれ独自に動き、考え、公務に殉じている。貴様の言い分こそ我々をあてにした甘えだ」

団長「……」

政務官「まさか…陛下までもがそのような言い訳を口にしているのではなかろうな?」

団長「勘繰るな。個人的な意思だ…」

政務官「ならばよいが…陛下の心労が深刻なようなら私も考えねばならんぞ」

団長「なにをだ…?」

政務官「王座の守護をだ」

団長「……?」
71: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:44:58 ID:iNoKbPh17s
政務官「陛下には現在、許嫁がおられない。前制度の悪政によるものだが…公務に集中させる意味もあった」

団長「い、許嫁…?」

政務官「もしもこれ以上、支障をきたすようであれば本来の位置に戻っていただき、王の務めを果たしていただく」

団長「陛下に…子を成せと言うのか?」

政務官「そうだ。然るべき相手と然るべき形でな」

団長「き、貴様…何を考えている?陛下に望まぬ婚約をさせようと言うのか?」

政務官「北国には姫君がおられる。長女は既に婚約済みだが…次女はまだ純潔を保っているそうだ」

団長「……!?」

政務官「長女と比べれば位は劣るが…それでも仲を取り成せれば北国との間に親睦が生まれるだろう」

団長「ま、待て!ま、まさか…」

政務官「歳もそう変わらず見目麗しい美少女と評判だ。決して悪い話ではあるまい」

団長「政略結婚ではないか…!陛下が納得する筈が…!」

政務官「これまで口出しせず自由にやらせていたのは、あくまで王としての資質を認めてのこと。だが腑抜けてしまったのなら話は別だ」

団長「っ…腑抜けだと!」

政務官「納得のいかぬ状況でも国の為に身を捧げる。それが政治というものだ。違うか?」

団長「早計だ…!今は大事を成されて間もなく気が落ち着かぬのは当然であろう!」

政務官「それでは示しが付かん。国王の態度一つでそれぞれの士気に関わる」

団長「ぐっ…!」
72: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:50:34 ID:iNoKbPh17s
政務官「それだけではない。もう間もなく国賊フィクサーの処刑執行日が迫っている。
民衆も見守る一大事ゆえ陛下にはなおのこと毅然としていただかねばならない」

団長「…貴様には人の心というものがないのか!これまでの功績を省みるに…陛下は十分役目を果たしている筈だ!」

政務官「…一つ果たせば終わりか?」

団長「な、なにぃ!?」

政務官「一つの役目を達すれば次の役目は放棄してもいいのかと聞いているんだ?」

団長「そ、そうは言わんが…」

政務官「そう言っているんだよ!貴様は!先ほどから!ずっとな!」

団長「うっ…ぐ」タジッ

政務官「多大な功績は認めている。役目の辛さも理解出来る。
だがそれを言い訳にしたところで危機を免れる訳ではない!」

団長「……!?」

政務官「世継ぎの件にしても…2、3年以内には決定しなければならない事だ。
陛下にその気がないと言うのなら強引にでも推し進めるのみ」

団長「な、何をしようと言うのだ…?」

政務官「何をしてでも、だ」

団長「っ……」ゴクリ
73: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:52:07 ID:lvGUj2/ilc
政務官「既に国内でも不穏な噂が出回っている」

団長「噂だと…?」

政務官「戦勝国となった王国に期待を抱き、民も血の気が強まっているらしい。
これまでのように不満を押し留めてもらえるとは限らない」

団長「ば、馬鹿な!内乱が勃発するとでも!?」

政務官「可能性は大いにあるだろう。陛下不在の間、実際に貴族勢が民を煽動しようと企てた」

団長「な、なぜだ!これだけ誠実な執政に務められておるというのに…何が不満だと!?」

政務官「不満など、どこからでも生まれるものだろう。民とは常に、これまで以上の国を欲する生き物なのだ」

団長「な、なんだと…これでは、これでは、いつになれば陛下に安らぎが訪れるのだ!?」

政務官「ふん…子を成し、世継ぎとして相応しい人物に育て、王位を返上すれば隠居も可能ではないか?」

団長「何十年先の話だ!それは!?」

政務官「ならば我々に任せるか?」

団長「で、出来るのか!?」

政務官「陛下の威光が絶対となりつつある現状において役人による国家百年の計を案じられるとすれば…それはもはや陛下が理想とした国家と程遠い物となるだろうがな」

団長「で、ではどうすればいい!何も王を降りさせよと言うのではない!休息を願い出ておるだけだぞ!」

政務官「自由に使える時間は設けてある。そこを有効に使っていただけばいいだろう」

団長「寝る間も惜しんで思案する陛下にそんな時間があると思うか!?」

政務官「皆も同じことだ。ましてや陛下には我々より比較的、多くの時間を取らせてある」

団長「ぬ、ぬ、ぐぅぅ…!!」ワナワナ
74: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:58:12 ID:lvGUj2/ilc
政務官「親心を抱くのは勝手だが…陛下の役目を妨げるのなら今すぐ退け。己の立場を誤解するな」

団長「…あ、甘やかしてやりたくもなるではないか!」

政務官「?」

団長「あのお歳であれだけの偉業を達成された。その達成感を噛み締める時間があってもよいではないか…!」ワナワナ

政務官「時間と人は同様に流れる。起こってしまった上は悲観しても仕方あるまい」

団長「っ…くそっ!」ググッ

政務官「私とて悩ましい。信頼していただけに…あのようなお姿は見たくなかった」

団長「どうしても…陛下を休ませる訳にはいかんのか…!?」

政務官「…陛下を通さねば役人の公務にも差し支える。王の働きはそれだけ重要なのだ」

団長「……!」

政務官「なにも我々が楽をしたいが為に言っているのではない。案ずればこそ…努力を強いているのだ。分かってくれ」

団長「……」

政務官「何より陛下自身が積み上げた努力を無駄にしない為にも、な」

団長「…すまん。ワシが間違っておった」
75: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 22:01:44 ID:iNoKbPh17s
政務官「気持ちはよく分かる。幼い頃より側に仕えてきた身としては…計り知れぬ想いがあろう」

団長「いや、これはワシの不手際だ。危うく陛下に堕落を覚えさせるところであった…」

政務官「…見守るのも一つの気配りだ。今は忍んで耐えろ」

団長「承知した…」

政務官「…安らぎとは平穏。望む未来は己で勝ち取るより他にないのだ」

政務官「…私は貴様も信頼している。あまり落胆させてくれるな」

団長「……すまんな。ワシに出来る事があればよいのだが」

政務官「では一つ頼んでおこう」

団長「む…なんだ?」

政務官「陛下専属の農園に護衛を配置し、強く警戒を促してくれ」

団長「の、農園に…?なぜだ?」

政務官「陛下が民へ無料配布されていた苺に仕掛けを施そうとする者がいるとも限らん」

団長「そ、そんな真似をして何になると言うのだ?」

政務官「あの苺は陛下と民にとって直接の絆を意味する。
もしも民意を剥ぎ取り、失墜させようと目論む者あれば真っ先に狙われる恐れがあるだろう」

団長「……!?」

政務官「人の心はたやすく、政治とは恐ろしいものだ。
私が陰で陛下をどれだけ支えてきたか少しは理解してもらえたか?」

団長「うむ…。そうだな。ワシは…政治には向かんようだ」ブルッ
76: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 22:04:58 ID:aJfL34ZFgU
〜〜〜処刑執行日〜〜〜

―――城下町(断頭台)―――

ワイワイガヤガヤ

ガタンガタン ゴゥンゴゥン

政務官「そこでいい。開け」

ギギギ…ギィィィ………

政務官「罪人をこちらへ」

ザッザッザッ

政務官「杭に縛り付けろ」

シュルシュル

フィクサー「」ギッギッ

政務官「ふん…」ジッ

ザワザワ ザワザワ

町民1「と、とうとう処刑されるのか…」ゴクリ

町民2「あいつのせいで俺達はさんざん怯えさせられたんだ。ざまぁみろだぜ!」

町民3「だ、だけど…いざ目の前でとなると、ちょっと…」ビクビク

町民4「国を裏切る奴が悪い!俺の従兄弟だって、あの戦争で死んだんだ!立派に戦ってな!」

町民5「…兵士になった友人がフィクサーに利用されて反逆者にされた。あいつはそんな奴じゃなかったのに!」ギリッ

町民6「よくも息子を不名誉に死なせたな…!地獄に落ちろぉ!!」

町民7「西国人を不必要に虐殺してきたと言うし、やっぱりまともな人間じゃなかったんだろうな」

町民8「ああいう奴は世の為にならないよ。死んでもらった方がいい」

町民9「父親を失って路頭に迷わされた遺族も大勢いるんだ!許せねぇよ!」

町民10「そこをいくと国王は俺達を戦場に行かせないようにこっそり解決してくれてたんだから本当に偉大なお方だよな!あの方を信じていれば間違いないよ!」

町民11「そうさ!あの野蛮な西の帝国軍を返り討ちにしたばかりかホビット族やレジスタンスもやり込めて反乱を食い止めてやったってんだからスゲーや!」
77: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 22:14:54 ID:aJfL34ZFgU
ブーブー ギャーギャー

政務官「…準備は整いましたな。始めるとしましょうか」

ヒメ「……」

ヒュンッ ヒュンッ ヒュンッ

フィクサー「……」ビシビシッ

ヒメ「…ある、のか」ボソッ

政務官「なにかおっしゃられましたか?」

ヒメ「ここまでする必要があるのか…?」

政務官「ここまで、とは?」

ヒメ「奴は罪人だ…許されてはいけない。でも…」

政務官「……?」

ヒメ「無抵抗の人間に容赦なく罵声と物を投げつけて…女子供も見守る場で…惨殺する必要が…」

政務官「恐れながら…王国軍全体の罪を補うには十分な落とし処かと」

ヒメ「…そうかも、しれないけど」

政務官「奴に関しましては生かしておく理由が見当たりません。むしろ早い内に始末を着け、民を納得させるのが先決」

ヒメ「これが民にとって…いい事なのか?」

政務官「彼らの浴びせる憎悪が目に写りませんか?」

ブーブー ギャーギャー!

政務官「罪と共に焼き払うのです。遺恨も…執着も…火種となって燃え盛りましょう」

ヒメ「……!」

政務官「しかとお見届けくださいませ。陛下にはその義務がございます」

ヒメ「…あぁ、僕が…そうさせたんだもんな」
78: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 22:16:33 ID:aJfL34ZFgU
政務官「罪人の身体に聖酒を注げ!」

バシャッバシャッ

政務官「……火を放て!」

ボッ

フィクサー「ぅむぅぅ!ムゥグゥゥゥ!!?」ジタバタ

ゴォォオオオオ

フィクサー「ムゥゥウ!!ムォオオオオ!!アァギィィィイイイイ!!!!」メラメラ

ワァーワァー! ヒューヒュー!

ヒメ「(なんて…むごたらしい光景だ)」

ギャアアアアアアアアアアアアア…………

パチパチ パチパチ

ヒメ「(喝采が起こるたび複雑になる…。僕が彼らをこうしてしまったんだ…)」

ヒメ「(僕が……)」プイッ
79: 名無しさん@読者の声:2017/5/13(土) 09:00:17 ID:sH/Q6vdCDA
>>23-28
腹抱えて笑ったw
カロルばっさり振りすぎwルーボイなんか吹っ切れてるしカロル逃げてー!こんな団長いやだwwラキアが熱血になったのは爛れた女性関係をおくる父親を反面教師にしてかと思ってしまったwww 
んでんで、お母様は…うっ……ふぅ。けしからんもっともっとやって下さい!フキフキ

ヒメ、まだ若いのに頭を抱える問題ばかりで心労で倒れないか心配だ…
5スレ目も楽しみにしてます
つC
80: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/14(日) 21:55:00 ID:GOHZ5LrNmo
>>79
勢い任せにあんなの投下するんじゃなかったと激しく後悔していましたが、そう言っていただけて何よりですw
一場面の改変なので読んでない人には不親切ですし状況とかネタ振りが分かりづらいですが、ちょこっとでも過去スレの描写を思い出していただけたら幸いです!

ヒメにはまだまだ苦労してもらう予定です!
まだ終わりが見えませんがお付き合いくださると嬉しいです!
支援ありがとうございました!
81: 名無しさん@読者の声:2017/5/15(月) 16:31:24 ID:N4KlrDl3c2
>>80
楽しく読ませてもらいましたよ!
読んでて思い出したし面白かったですwww

ヒメの苦労はまだまだ続くんですね、ならもっと苦労してもらいましょうw(このSSは愛と成長を描いた物語だと思ってるのでヒメには悩んだり苦労してかっこいい青年へとなってもらいましょー!w)
以前、作者への質問スレだったかな?でだいたい骨組みは出来てる、みたいなことをおっしゃってたのでそれに向かって展開していってください、応援してます!
この物語もキャラたちも作者さんのことも大好きなので、もちろんおわりとかかれるそのときまでついていきます!!
82: お返事遅れてごめんなさい! ◆WEmWDvOgzo:2017/5/17(水) 22:33:00 ID:1dMW/jb7SY
>>81
よかったです!w
番外編じゃないですけど、自分の書いたSSからこういうのを投稿する機会はなかなか無いので反応を貰えて本当に嬉しかったです!
いつも最高のタイミングでヤル気スイッチを押していただけて感謝のしようもありません!
おかげさまで今はとても捗ってます!いつもありがとうございます!

愛と成長…!深いテーマですね!自分に描けるか不安ですが頑張ります!
でもどんどんヒメが主人公街道を突き進むので最近はカロルの動かし方がめっちゃ難しくなっちゃいましたw
ヒメが愛と成長を経ていくたびにカロルの出番が無くなるような…どっちが主人公だか分からなくなりますねw

応援ありがとうございます!
読み手様にも納得いただけるエンドでおわりと書けるよう頑張ります!
83: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/19(金) 21:54:34 ID:mpOxahS5ac
〜〜〜夜〜〜〜

―――北の領土(雪原の隠れ里)―――

バッバッ ドサッドサッ

プチョリスフ「よーしよし、こっちだ。ガンガン積み込めー!こぼすなよー!」

部下1「ケェー!すっげぇ!ぶっ飛びそうな匂いがプンプンするぜ!」

部下2「こりゃあ入りきらねぇな。もちっと人手が要るぜ」

プチョリスフ「いいよ。どうせ急ぐもんでもねぇから」

部下1「つかあの話は本当なんすか?」

プチョリスフ「ん?」

部下1「北国と東国が一戦交えるっつーの」

プチョリスフ「わかんねぇ。多分そうなんじゃね?」

部下1「た、多分って…俺ら多分で密輸しようとしてんすか?」

プチョリスフ「情報屋から出回ってるネタじゃ貴族が大量のブツをダシに北国の連中と仲良くしたがってるとよ」

部下1「んなことしてなんになるんだか?偉いさんの考えるこたぁ分かりやせんね」

プチョリスフ「分からなくていいんだよ。俺達が頭使うことじゃねぇし」

部下2「一旦運び出しやしょうや!いっぺんにゃ無理だコレ!」

部下1「運ぶったって関門はどうすんすか?」

プチョリスフ「どうもしねーよ」

部下1「え?」

プチョリスフ「俺達はただ品を運ぶだけ。受け渡しまでは向こうが手配するこった」

部下1「うーん…大丈夫っすかねぇ」

プチョリスフ「んな事よか業者にしっかり口止めしとけよ。一匹間抜けがいたら、せっかくの儲け話がおじゃんだぜ」

部下1「うっす!」
84: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/19(金) 21:55:15 ID:gQj8L.R5T.
―――王宮(ダンスホール)―――

シャララララン

ワイワイガヤガヤ

貴族1「良ければ私と踊っていただけませんか?」スッ

令嬢1「まぁ嬉しい?」パシッ

ポロロロロン

ヒューヒュー! ピーピー!

公爵「ご機嫌麗しゅう、大后陛下…今宵もお楽しみいただけておりますかな?」カランッ

大后「こんばんは、ハリアンス公爵。本日も贅沢な夜会ね。心安らぎますわ?」ニコッ

公爵「素晴らしい演奏。美しい舞踊。芸術性溢れる装飾。絵になり肥やしともなる料理の数々。そしてなにより…素敵な貴婦人と堪能する上品な美酒。今夜はわたくし達の為にある」スッ

大后「あら…お上手ですこと?」カンッ

公爵「この一時が永遠となればどれほど報われましょうか」クイッ

大后「同感致しますわ。それこそ本来のあるべき形…」クスッ

公爵「んぅむ。大后陛下。やはり貴女様のお考えはわたくし共に通ずるようだ」

大后「公爵殿こそ、あたくしをよく理解しておいでよ?」クスクス

公爵「…今宵も国王は参られませぬか」

大后「えぇ、とても愉快な会ですのに…相も変わらず筆を取っておられますわ。お父上に似たのかしら」

公爵「まさか。先代はわたくしも知るところですが、ああも諦めの悪い御仁ではなかった」

大后「左様ね。名を上げるのは良い事だけれども…やり方がよろしくないわ?」

公爵「まさしく…」
85: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/19(金) 21:55:49 ID:gQj8L.R5T.
大后「王族とは何か…陛下は思い違いをしてらっしゃいますのよ」

公爵「大后陛下の心中を思えばわたくしも胸が痛みます。これではこの先、王国の未来は陰りを深めるばかり…」

大后「どうしたものでしょうねぇ」

公爵「大后陛下から説得なされてはいかがか?」

大后「そうしたいところですが困ったことにあたくしの忠告も聞き入れてはもらえませんの…」

公爵「それは益々、苦労されますな」

大后「王族…それは爵位の最上位であり、貴族の頂点に君臨する者。
所詮、民など貴族によって生かされる奴隷に過ぎませんわ?」

公爵「まことおっしゃる通り…」

大后「それなのに今の体制と言えば貴族を蔑ろにした品のない慈善事業の真似事ばかり。
まるでわたくし達が民の奴隷と成り果ててしまっているような…不愉快極まりない腐敗ぶりですこと?」フンスッ

公爵「然りも然り。この上ない屈辱に御座います…」

大后「されどもわたくしとて母の情がございますわ。願わくは荒事にならぬよう陛下に正しき道を諭して差し上げたいの」

公爵「…お話の途中、失礼致します。あれを」チラッ

執事「はっ…」バサッ

大后「……?」

ジャラララララ

大后「ま、マァァア!!」キラキラ
86: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/19(金) 21:56:24 ID:mpOxahS5ac
大后「なんて透明な輝き…!色とりどりの光沢が眩しく瞳を焦がしますわ…!?」キラキラ

公爵「以前に西国より買い付けた宝石類にございます。これはほんの一部でしかありませんが」

大后「……!」チラッチラッ

公爵「…僭越ながら、これらを大后陛下に献上致したく存じます」

大后「あぁらマァ〜!なんてこと!?そんなわたくしにだなんて!気が咎めますわ〜!?」ウヒョー

公爵「どうかお近付きの印に。確かな審美を知る大后陛下にこそ相応しく思います」

大后「え〜そうかしらぁ〜?そこまで仰っていただいたらぁ〜?受け取らないと失礼に当たりますわよねぇ〜?」ニヤァァ

公爵「わたくしにお気遣いなど滅相も…されど大后陛下に身に付けていただければ、それらの宝飾もなおのこと輝きましょう」

大后「そ、そぉう?」フンスッ

公爵「はい。次の夜会が待ち遠しく…美しく着飾った大后様のお姿を一刻も早くお目にかかりたいと」

大后「ま、まぁ〜?そんな大仰にお世辞を並べていただかなくともよろしくてよ!」ニタニタ

公爵「いえいえ、本心から…。先日、贈らせていただいたお召し物に合わせてくだされば、より栄えるというもの」

大后「うっふふ〜!次の夜が楽しみですわねぇ!」ルンルン

公爵「」ニヤリ
87: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/19(金) 21:58:15 ID:mpOxahS5ac
〜〜〜朝〜〜〜

―――城下町(バックヤード)―――

ワイワイガヤガヤ

宣教師「ふむふむ、この辺りの治安も安定してきたようですね」スタスタ

司教「はい。ミシング殿が筆頭となって興した慰霊活動や司祭様が積極的に発する融和の声が民衆に響いたのでしょう。喜ばしい限りです」スタスタ

宣教師「教団を任されて数年足らずですが…ようやく進歩を実感できた気がします」クスッ

司教「最近では孤児院への出資者も増加し、里親を願い出る声も多くなっているそうですぞ」

宣教師「それ以上に孤児が増えましたけどね…」

司教「む、うぅん……」オホンッ

宣教師「里親を名乗り出てくださった方々の多くが先日までの争いで実際に家族を失われ、それぞれに思うところがあったのでしょう…」

司教「…手放しに喜んでもいられませんな」

宣教師「良い変化の後には暗い陰が伴うものですよ…。以前の差別にしても、今回の件にしても」

司教「……」

宣教師「ですが変えようとしなければ何も変えられません。
私達はきっと…こうやって少しずつ正しい未来を歩んでいるのだと思います」ニコッ

司教「良きお考えかと」ニコッ

宣教師「それに何より今は民も国も一丸となって、あらゆる活動に前向きな姿勢を見せています」ニコニコ

司教「ほほほ!これからの王国には明るい兆しが見えますな」

宣教師「えぇ、国への信頼によるものでもありますが…何より誠実な王がいてこそ成り立つ期待でしょうね」

司教「ホビットと人間の差別意識を取り払い、真の平和を実現する…決して夢ではないと言えるところまで差し掛かりましたな」

宣教師「夢ではありませんよ。私達はずっとそこに向かって進んできたのですから」
88: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/19(金) 21:59:09 ID:gQj8L.R5T.
宣教師「おや…?あれは?」ピタッ

司教「んぅ?」

ゾロゾロ ゾロゾロ

宣教師「掲示板の前に人だかりが出来てますが…どうしたんでしょうか?」

司教「また何か発表が出たのでは?」

裏通りのホビット1「あ、司祭様!司教様!」オロオロ

宣教師「こんにちは。そんなに慌ててどうしたのですか?」

裏通りのホビット1「あそこに書いてある内容って本当なんですか!?」

宣教師「? 何が書いてあるのです?」

裏通りのホビット1「ば、バックヤードを取り潰して貴族専用の高級街にするって!?」

宣教師「はい?」

司教「き、貴族専用…?」

裏通りのホビット1「それにホビットは王都から追い出すとか!教団と国王は不正に繋がってるとか好き放題書かれてますよ!?」

宣教師「……」

司教「し、司祭様!これはどういう…!?」アセアセ

宣教師「行きましょう」スタスタ

司教「は!?い、行くとは…?あっ!お、お待ちくだされ!」アセアセ
89: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/19(金) 21:59:49 ID:mpOxahS5ac
ザワザワ ザワザワ

裏通りのホビット2「なんだよ、これ!あんまりじゃないか!」

裏通りのホビット3「僕達の居住区を取り潰すってなに!?」

裏通りのホビット4「どうして急に!?何も悪いことなんかしてないのに!」

裏通りのホビット5「教団と国王が繋がってる…?なんなんだろ?この件と関係あるのかな?」

裏通りのホビット6「とにかくこんなの絶対に反対だ!ただでさえ、こっちに追いやられて窮屈してるのにさ!」

裏通りのホビット7「俺なんて仲間とお金を貯めて、やっとお店を出せたばかりなんだぞ!困るよ!」

裏通りのホビット8「この前の争いにも協力したのに!俺たちだって戦ったんだぞ!」

裏通りのホビット9「そうだよ!しかも司祭様は戦いが終わったら僕達も王国民として認めてもらえるって言ったんだ!嘘だったのか!?」

宣教師「嘘なんかではありませんよ」ザッ

裏通りのホビット's「わぁぁ!?」ビクッ
90: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/19(金) 22:02:30 ID:gQj8L.R5T.
裏通りのホビット10「し、司祭様だ!」

裏通りのホビット11「これはなんなんですか!?」

裏通りのホビット12「僕達どうなっちゃうんだよ!?」

司教「お、落ち着きなさい!そんなに詰め寄るんじゃない!」アセアセ

裏通りのホビット13「いいから答えてくださいよ!」

裏通りのホビット14「教団!?王国!?どっちが決めたの!?」

宣教師「ここに書いてある内容は全くのデタラメです!」

裏通りのホビット's「え…?」

宣教師「おそらく誰かの悪戯でしょう。本気にしてはいけません」

裏通りのホビット2「じや、じゃあ居住区がなくなるっていうのは…?」

宣教師「ありえません」キッパリ

裏通りのホビット3「で、でもこれにはそう書いて…」

宣教師「ですからデタラメです。そんな話は聞いていません」

裏通りのホビット4「だ、だけど!」

宣教師「安心してください。もしそれが本当だとしたら私が許しませんから」

裏通りのホビット5「こ、ここには王国と教団が繋がってるって書いてあるぞ!裏でなんか企んでるんじゃ…」

宣教師「いいでしょう。この話が真実かどうか城に赴いて尋ねてみます」

裏通りのホビット's「……」

宣教師「教団と王国の繋がりは決して不正な物などではありません。これまで皆さんには隠し事のない活動を示してきたつもりです」

裏通りのホビット7「司祭様がそこまで言うんなら…」

裏通りのホビット8「うん…。司祭様は信用してる」

宣教師「ありがとうございます」ニコッ

司教「…いったいどうした事でしょうか?」

宣教師「今からそれを確かめに行くんです。付いてきてください!」ダッ

司教「は、走らずとも…!」ダッ
91: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/19(金) 22:03:17 ID:gQj8L.R5T.
―――城下町(表通り)―――

宣教師「」タタタッ

司教「い、急ぎすぎっ…です。も、もう少し…ペースを……」フラフラ

宣教師「急ぐべき事態です!皆さんの信用に関わるのですから!」タタタッ

司教「ひぃ!ひぃ…!し、司祭様…戦に出られてから、体力が尋常ではない…!」ゼェゼェ

ヒューヒュー! ピーピー!

宣教師「ん?」ピタッ

司教「も、もう…走れん…」バタッ

宣教師「」チラッ

町民1「見たか?このビラ?」ペラッ

町民2「おう!北国と戦争だってな!」

宣教師「……!?」

町民3「きっとまた国王様がなんとかしてくださるさ!」

町民4「そうだそうだ!俺達にはあの恐ろしい西の国を撃退した国王様が付いてるんだぜ!」

町民5「北の国がなんぼのもんよ!あんな奴らルフィアス団長を始めとした最強の軍がちょこっと摘まんでポイッてな具合だぁ!」

町民6「こいつはいい!早速前祝いに宴といこうぜ!」

町民7「王国バンザーイ!ヒメ様バンザーイ!」

町民8「このまま大陸まるごと王国にしちまえーい!」

ヒューヒュー! ピーピー!

宣教師「…司教さん。すみませんが先に行ってますよ」ダッ

司教「お、お気をつけて…」グッタリ
92: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/19(金) 22:04:37 ID:gQj8L.R5T.
―――城(応接間)―――

宣教師「……」

ガチャッ

宣教師「」ピクッ

ネバル「お、お待たせしてすみませんです!ネバルと申しますです!な、何とぞよろしくしますです!」ペコッ

宣教師「…はじめまして」ペコッ

ネバル「え、えっと!本日のご用件はなんですだか…?」

宣教師「このようなビラが城下で配られてました」ピラッ

ネバル「はいです…?」パシッ

宣教師「ご説明いただいてもよろしいですか?」

ネバル「な、なんです?これ…!?」ギョギョッ

宣教師「なんですって…あなた方が出されたのでは?」

ネバル「し、知らねーですだよ、こったらもん!オイラ聞いてねーです!」オロオロ

宣教師「…他の役人の方は?」

ネバル「ないです!役人は合議で動くから…オイラが知らねーってのはありえないです!」アセアセ

宣教師「確認を取れませんか?」

ネバル「そ、そりゃもちろん!すぐにご報告するです!」コクコク
93: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/19(金) 22:04:58 ID:mpOxahS5ac
宣教師「それからもう一件」

ネバル「ま、まだあるです!?」

宣教師「裏通りに作ったホビットの居住区を取り潰し、貴族の歓楽街にするとの話を耳にしました。これについても返答願います」

ネバル「ひょえー!?そ、そんなぶったまげた話…どこで!?」

宣教師「裏通りの掲示板に貼り出されていましたよ」

ネバル「〜〜〜!!」

宣教師「どういう事なのか、きちんと納得のいく説明をしていただけますか?」

ネバル「あわわ…お、オイラじゃなんとも…!リルラ様も出払ってるですし!」アワアワ

宣教師「国王はどうしているのです?」

ネバル「へ、陛下は…」

宣教師「?」

ネバル「と、とにかくオイラもその!じ、事情が分かり次第、連絡しますです!」

宣教師「…お願いします」
94: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/19(金) 22:05:45 ID:mpOxahS5ac
ネバル「わ、わざわざ教えてくださってありがとうございますです!教団の司祭様にご足労させちゃって!」アセアセ

宣教師「いえいえ、城下の騒ぎは知らされていなかったのですか?」

ネバル「は、はいです。そんなでっかい報せが打ち上がったなんて全く知らないです…」

宣教師「……」

ネバル「あ、もしかしたら…」ハッ

宣教師「心当たりが?」

ネバル「い、いやぁ!なんでもないですだよ!あ、あとはこっちでやっときますですから!あはは!」アワアワ

宣教師「そうですか…」

ネバル「じゃ、じゃあオイラはこの辺でおいとましますです!」ガタッ

宣教師「あ、待ってください!」

ネバル「は、はい!?」

宣教師「カロルくんの様子はどうですか?」

ネバル「…か、カロルくん?」キョトン

宣教師「はい。こちらにお泊まりしてる筈なのですが」

ネバル「あ、あ〜救い主様ですだね!え、え〜…元気ですよ!」

宣教師「それは良かった。来たついでにご挨拶に伺いたいのですが」

ネバル「え!?」

宣教師「はい?」

ネバル「い、今はちょっと!また今度じゃダメですか!?」アセアセ

宣教師「何か会わせられない理由でも?」

ネバル「そ、そうじゃ…ないですけど」モゴモゴ

宣教師「……」ジッ

ネバル「あ、いや…」オロオロ

宣教師「……」ジーッ

ネバル「うぅ〜…ご案内するですぅ」ショボン

宣教師「ありがとうございます」ニコッ
95: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/19(金) 22:06:42 ID:mpOxahS5ac
―――王宮(客室)―――

ネバル「こ、ここです…」シブシブ

宣教師「(先日、泊まった部屋ですね…)」

ネバル「お、オイラが会わせたって絶対言わないでくださいですよ!?」

宣教師「やはり会わせられない理由が?」

ネバル「あっ」

宣教師「今の発言はそうとしか取れませんが」

ネバル「あ、あ〜!もうこんな時間です!忙しい忙しい!じゃあ後はお任せしますです!」ピュー

タタタッ………

宣教師「……役人と思えないくらい素直な方ですね」
96: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/19(金) 22:07:18 ID:gQj8L.R5T.
宣教師「」コンコン

シーン

宣教師「カロルくん?」コンコン

シーン

宣教師「(…どうしたんでしょう?)」

宣教師「カロルくーん!私です!宣教師ですよー!」コンコン

ガチャッ

カロル「宣教師さま…?」オソルオソル

宣教師「はい」ニコッ

カロル「」キョロキョロ

宣教師「? どうかしましたか?」

カロル「う、ううん!なんでもないよ!」ニコッ

宣教師「……?入ってもいいですか?」

カロル「うん!入って!」アセアセ

宣教師「は、はぁ」スッ
97: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/19(金) 22:10:37 ID:mpOxahS5ac
宣教師「改めて見ても広い部屋ですね。一人ではもて余すでしょう?」

カロル「うん…でも慣れたよ!」

宣教師「ふふ。どうですか?お城での生活は?」

カロル「すごいよ!お城の人たちが毎日お部屋をキレイにしてくれるし、ごはんも見たことないのばっかり!」

宣教師「ふむふむ。居心地は悪くなさそうですね」ニコニコ

カロル「お風呂もね、こーんなに広いんだ!泳いでもぶつからないくらい!」

宣教師「それは楽しそうですね」ニコニコ

カロル「…た、楽しいよ。とっても!」

宣教師「?」

カロル「宣教師さまはどう?お仕事うまくいってる?」

宣教師「えぇ、順調ですよ。ホビット族との仲も良好になってます」ニコニコ

カロル「そっか!よかった!お母さまも大喜びするよ!」ニコニコ

宣教師「…それはそうと先ほど呼び掛けた時に応答がありませんでしたが何かしていたのですか?」

カロル「……!」ドキッ

宣教師「(分かりやすい)」
98: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/19(金) 22:12:07 ID:gQj8L.R5T.
カロル「あ、あの…えと…」シドロモドロ

宣教師「見たところ…こざっぱりしていますし退屈しそうですね?」キョロキョロ

カロル「…ほ、本があるよ!こんなに!」ビッ

宣教師「読書ですか。しかしこの棚にある本は難しい物ばかりですよ」

カロル「お母さまに教えてもらってるから読み書きはできるよ!ちょっぴりだけど…」モジモジ

宣教師「…歴史書に医学書、純文学ですか。キミにはまだ早いのでは?」

カロル「そ、そうかな?読んでみるとおもしろいよ!」アタフタ

宣教師「ではこの『氷の丘』という本はどんな内容でした?」スッ

カロル「え?こ、こおり……か、かき氷のお話だっけ!」メダパニ

宣教師「いいえ、これは身分ゆえに結ばれなかった男女の恋愛模様を文字に起こした物語です」

カロル「えっ」

宣教師「平民の男がどれだけ想いを成就しようともがいても、あらゆる障害が立ちはだかって、ささやかな逢瀬さえも叶わない」

宣教師「貴族の娘は抗うこともせず、ただ報われない恋を悲しみ、運命に翻弄されるまま咽び泣く」

宣教師「まるで氷の丘を這いずるように滑り落ちていく二人の男女…それがこの本の大まかな筋書きです」

カロル「……か、かき氷は?」

宣教師「出てきません」キッパリ

カロル「!?」ガーン
99: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/19(金) 22:14:21 ID:mpOxahS5ac
カロル「あう…」ズーン

宣教師「その様子では何かあったんですね」

カロル「うぅ…ウソついてごめんなさい…」シュン

宣教師「怒りませんよ。叱るまでもなくウソは良くないものだと分かっているでしょうから」

カロル「はい…」

宣教師「問題は…キミがウソをついてまで隠したいと思っている事です」

カロル「……」キュッ

宣教師「話したくないですか?それなら、それで構いませんよ?」

カロル「……」

宣教師「ただし…キミが打ち明けられず思い悩んでいるなら、いつでも相談してください」ニコッ

カロル「宣教師さま…!」ウルッ

宣教師「はい…?」ニコニコ

カロル「ボクね、ボク…!」ウルウル

宣教師「(彼が私に隠そうとした悩み…。あの一件から間もないですし、きっと重大なことなのでしょう)」

カロル「ヒメくんとケンカしちゃったの!」ブワッ

宣教師「」ズルッ

カロル「どうしよう!?宣教師さまぁ!?」ダキッ

宣教師「(そ、そうでした…。こういう子でしたね…!)」ヒクヒク
100: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/19(金) 22:15:35 ID:mpOxahS5ac
カロル「ボクがね、ヒメくんのおやつ…食べちゃったの。だから…だから…うわーん!」シクシク

宣教師「(喧嘩と言うから、どれほどの事かと思えば…なんて浅い…)」ヒクヒク

カロル「部屋から一歩も出ちゃダメって言われちゃって謝りたいのに出られないの…!」グスッ

宣教師「あぁ、なるほど…だからさっきは出てこなかったんですね」

カロル「イチゴのジャムおいしそうだったから…我慢できなくて!わぁぁん!」ビエー

宣教師「いつもの冗談ですよ。彼はそんなつまらない事で腹を立てたりしませんから、ね?」ナデナデ

カロル「ううん…ちがうの」ギュッ

宣教師「?」

カロル「いつものヒメくんじゃなかった…。目がすごく怒ってて怖かったもの…」グシッ

宣教師「……」

カロル「西の国から帰る時もピリピリしてた…。寝ないで、ずっとお仕事してて」

宣教師「…きっと疲れているんですよ。日を置いたら、またいつもの調子に戻ります」

カロル「でも…ちゃんと謝りたいよ。ボクがわるいんだもの」

宣教師「でしたら、こういうのはどうです?」

カロル「……?」

宣教師「一緒に食事をしようと誘うんです。おいしいご飯を食べながら談笑すれば怒りなんてどこ吹く風とばかりに仲直りできますよ」

カロル「!」パァァ

宣教師「部屋から出られないのなら使用人の方に頼んで伝言してもらうといいでしょう。
彼も気にしてるでしょうし二つ返事で応じてくれますよ!」

カロル「ホント!?」キラキラ

宣教師「えぇ」ニコニコ

カロル「宣教師さま、すごい!ボク、ぜんぜん思いつかなった!」

宣教師「それほどでも」ニコニコ

カロル「ありがとう!そうするね!」ニコッ

宣教師「いえいえ、どういたしまして」ニコニコ
101: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/19(金) 22:18:51 ID:gQj8L.R5T.
宣教師「ではそろそろ私は戻りますね」

カロル「うん!来てくれてありがとう!」ニコニコ

宣教師「……」

カロル「……?どうしたの?」キョトン

宣教師「いえ…ではまた?」ニコッ

カロル「えへへ!またね!」フリフリ

宣教師「」ガチャッ

バタンッ

カロル「……っ」キュッ
102: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/19(金) 22:19:52 ID:gQj8L.R5T.
―――城内(通路)―――

宣教師「」スタスタ

役人1「今夜もまたやりなさるそうだ」

役人2「またか。毎晩、毎晩、豪遊三昧…やや度しがたいものがあるな」

宣教師「」ピクッ

役人1「お誘いが来ているが…どうする?」

役人2「断ろうにもあまり無下には出来んしな…」

宣教師「」ソソーッ

役人1「だよな。はぁ…それどころではないがお家柄、私は公爵様に頭が上がらん」

役人2「俺もだ…。このところパーティーに付き合わされ、仕事が追い付かんよ」

役人1「ネバルの一派は平民出身だからいいよな。お誘いも来ないし、陛下に睨まれる事もない」

役人2「国王様は大の貴族嫌いだからな…。一時は積極的にパーティーに出席していたが関係は改善されていないらしい」

役人1「実際、役人の殆どは貴族出身だ。公爵様には逆らえんし、陛下からは嫌われる。陛下も立派な貴族だというのに」

役人2「まぁそう言うな。最初こそ快く思わなかったが陛下の志には胸を打たれる部分もある。真面目に働いてる者にはとても良くしてださるしな」

役人1「それにしたってやりにくい。陛下は貴族を押さえつけ過ぎたんだ。早い内から懐柔しておくべきだったんだよ」

役人2「…それが最も望ましかったがな」

役人1「大后様まで夜会に入り浸って引き抜かれる役人も少なくないんだ。政務官一人のお力ではいい加減……」

役人2「私とて…今の貴族に染まりたくはない」

役人1「…リルラ様はこの城で誰よりも現実的な政策を練られている。それなのに陛下は…いつになったら分かってくださるんだ!」

役人2「行き先は同じといえ理想を追う陛下と現実に抗うリルラ様の手段は別天地だ。我々は…どう動いたらよいのか」

役人1「くそっ!このままじゃ王族派は…」

宣教師「……」
103: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/19(金) 22:21:38 ID:gQj8L.R5T.
―――城下町裏通り(バックヤード)―――

宣教師「ただいま確認してきたところ、この掲示板に書かれている内容は全く信憑性のないデマだと判明しました」

裏通りのホビット1「や、やっぱり…」ホッ

裏通りのホビット2「そうだと思ってたよ!」

裏通りのホビット3「まったくひどいイタズラだよな」

裏通りのホビット4「疑ってすみませんでした!司祭様!」

宣教師「お気になさらず?疑いが晴れたなら、それでいいんです」ニコッ

バラバラ バラバラ

司教「解決して何よりですな。城下の騒ぎも憲兵が駆けつけ、説明を行ったそうで」

宣教師「そうですか…」

司教「しかし誰がこのような…イタズラにしてはタチの悪い」

宣教師「単なる悪ふざけではないかもしれませんよ」

司教「は?」
104: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/19(金) 22:22:21 ID:gQj8L.R5T.
宣教師「どうやら城内にも不穏な気配が漂っているようです」

司教「ふ、不穏な気配とは…?」

宣教師「カロ…救い主が軟禁状態にありました」

司教「軟禁ですと!?し、しかし国王様は親友関係にあるのでは!?」

宣教師「どうなっているかは分かりません。もしかしたら城内で貴族勢が何か働きかけている可能性もあります」

司教「…な、なぜ今になって」

宣教師「広場に出回っていた噂は北国と戦争をする、というものでしたね」

司教「は、はい…。呆れたことに民衆は浮かれ上がっておりましたな」

宣教師「もし噂の出所が貴族だとするなら…北国との間にただならぬやりとりがあったと見るのが筋でしょう」

司教「も、もしや…また…!?」

宣教師「調べる必要がありそうですね」スタスタ

司教「どちらへ!?」スタスタ

宣教師「一度、教会に戻って予定を立て直します」

司教「し、しかし活動は…」

宣教師「…いくつかは後回しにしてしまいますがやむを得ません」

司教「なぜこうも立て続けに…王国は平和を勝ち取ったのではなかったのか…!?」

宣教師「平和とは常に脅威に立ち向かう苦行なのかもしれませんね」

司教「くぅ…!」

宣教師「しかし逆を言えば…私達は平和を形にしているという事です」

司教「……!」

宣教師「まだまだ希望はありますよ。未来を明るくするのは私達の今ですからね」ニコッ

司教「…お供致します!」コクッ
105: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/19(金) 22:23:40 ID:gQj8L.R5T.
―――南の国(議場)―――

顧問官「……」ペラッ

高官1「」ドキドキ

顧問官「…ふむ」バサッ

高官1「い、いかかでございましょうか…?」

顧問官「いかが?」ジッ

高官1「っ…!」ゴクリ

顧問官「ふん…」

高官1「ど、どうか!もう一度、共に!我々は潔白であると証明していただきたい!」

顧問官「……」

高官1「確かに我々は禁を犯したかもしれませぬ!しかしそれは正当な理由あってのこと!此度の戦争は正義を通した結果であると理解頂きましょうぞ!」

顧問官「正義…」

高官1「北国の要求は明らかに倫理を逸脱しております!各々に正義を見出した連合軍の誇るべき勝利をこのような形で汚されてもよいのですか!?」

顧問官「声ばかり大きくしているが言いたい事はまるで聞き取れん」

高官1「!?」
106: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/19(金) 22:27:16 ID:gQj8L.R5T.
顧問官「正義も悪もない。この論争に答えを問えるのは主導権を握った者のみだ」

高官1「は…!?」

顧問官「そちらの国王が我らを掻き乱してくれたおかげで南の国はどうなったと思う?」

高官1「こ、国王を…失われました」

顧問官「そうだ。それだけではない。本来、王位に就くべきであったラフテン様も討ち取られ、今も玉座は空席となっておる」

高官1「し、しかし…ローレン様もご納得の上で陛下に望みを託されたのでは」

顧問官「だからなんだ?」ジロッ

高官1「」ビクッ

顧問官「お主らは我らの大敗をよそに大勝利を挙げ、浮かれておっただろうが…こちらは空席となった玉座を巡って混沌の極みとなっておるのだぞ?」

高官1「も、申し訳ない…」

顧問官「せめて王の血筋を立てるべく候補を探しているが…しきたりに則って覇を争った王族には正統なる王位を持つ眷属がおらん」

高官1「……」オロオロ

顧問官「長らく先代をお支えして参った私が代理を務め、どうにか秩序を保ってみせているが…もはや崩壊の時は近い」

高官1「崩壊…ですと?」

顧問官「このまま行けば国を維持する事が出来なくなる」

高官1「……!?」ギョギョッ

顧問官「だからこそ私は北国に下る道を選んだ」

高官1「そ、それは…困りまするぞ!」アセアセ

顧問官「……」

高官1「ど、どうか!どうか今一度お考え直しを!?」

顧問官「ラフテン様によって斬られた私はお二方の覇権争いを見届ける事が叶わなかった」

高官1「……!」
107: 投下終了 ◆WEmWDvOgzo:2017/5/19(金) 22:28:24 ID:mpOxahS5ac
顧問官「あの時の事が今でも心残りだ。私は何をしてでもローレン様を排除し、ラフテン様を王位に就かせるべきだった」

高官1「ば、バカな!ラフテン王子は私欲にまみれた野心家と聞き及んでおります!何より長年、王家に仕えてきた貴方をなんの躊躇いもなく切り捨てたのですぞ!?」

顧問官「南国は代々王位争いに勝ち残った王を奉り、しきたりを守る事で優秀な国王を輩出してきた」

高官1「……!?」

顧問官「王国が首を突っ込み、馬鹿正直だけが取り柄の国王に代わった途端、この有り様だ」

高官1「ろ、ローレン様は最期まで立派に戦い抜いたではありませぬか!?」

顧問官「お主らにとっては英雄でも…南国にしてみれば愚か者でしかないのだよ」ギリッ

高官1「お、愚か者…!?」

顧問官「幸いにも先代が産ませた姫君は健在であらせられる。姫には北国の王子と婚約を交わし、北国の姫となっていただく」

高官1「お、おま…お待ちください!」アセアセ

顧問官「我らはもう…ローレン様のような愚を犯す気はない。帰って国王にそう伝えるのだな」

高官1「そ、そう結論付けるのは早計!こちらの話を…!?」ガクガク

顧問官「…忘れておるようだが」

高官1「わ、わすれ…!?」

顧問官「西国から勝ち取った領地を南国に壌土する。その条件でローレン陛下は連合を承諾された」

高官1「」ハッ

顧問官「おめおめと反乱軍などに帝都を引き渡されたのでは取り入りようもない。先に約束を反故にしてくれたのは貴様らの方だ」

高官1「そ、それは…やむにやまれず」モゴモゴ

顧問官「失せよ。二度と南国の地を踏んでくれるな」

高官1「」ブルッ
108: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/27(土) 21:19:23 ID:H.1URhAHDs
〜〜〜朝〜〜〜

―――東の国(議場)―――

東の大臣「調べによると北国は我々を真似て三国連合を結成したようだ」

東の騎士「西の国ならいざ知らず国力も弱まり、規模も小さい我が国を相手にか。買い被られたものだな」

酋長「ふん!人間ごときが束になろうと関係ないわ。儂らは儂らでやるだけだ」

ルイ「もう!お爺ちゃんったら、またそんな事言って!」

東の大臣「実に頼もしいお言葉だが、そちらはいかほどの手勢で臨まれるおつもりか?」

酋長「13万は集められるだろうな」

東の大臣「13万!?」

東の騎士「さ、先の戦より多いのではござらぬか!?」

酋長「あれから各地に潜んでいた同族が移住を申し出てきてな。多部族を従え、我々の勢力も一層堅固になったわい」

ルイ「ウチらが国を作るのも噂になってたみたい!でもおかげで今の里じゃパンパンなんだよね…」

東の大臣「(ほ、本当にいいのだろうか…。今は共闘関係にあるが、このまま勢力を拡大され続ければ…)」

東の騎士「…余計な考えはなさいますな。疑惑は決裂に結び付く」コショコショ

東の大臣「う、うむ…そうですな」コホンッ

酋長「どうした?こそこそと気色の悪い?」

東の大臣「い、いえ、失敬…」
109: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/27(土) 21:20:56 ID:H.1URhAHDs
東の騎士「向こう方の戦力はいかほどと数えられる?」

東の大臣「…低く見積もっても20万単位は」

東の騎士「ふむ。難しいな」

酋長「たった7万の違いだろうが?恐れるに足らずだ!」

東の騎士「(…ほ、本気で言っておるのだろうか)」アセアセ

酋長「そうと決まれば戦支度だ!里に戻るぞ、ルイ!」

ルイ「お、お爺ちゃん!気が早いよ!」アセアセ

酋長「バカモン!善は急げと言うだろうが!」

ルイ「い、急がば回れとも言うし…」

酋長「なぁにぃ〜!?そんな腑抜けた御託を並べるのはどこのどいつだ!?」

ルイ「し、知らないよぉ!」

東の大臣「ほ、本当に彼らを信じていいのか?」ヒクヒク

東の騎士「い、いい…筈だ。おそらくは…」ヒクヒク
110: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/27(土) 21:24:02 ID:LXHCKgwcFk
東の大臣「おっと…大事なことを忘れるところだった。先日に王国の使者が参られ、王妃様に宛てた書状が届いた」

東の騎士「王国…!」

ルイ「ヒメからってこと!?やっぱり助けてくれんの!?」パァァ

東の大臣「…いや、協議を持ち掛けてきた。これ以上の争いを続ける意思はないのだろう」

ルイ「え!?そんなぁ!ウチらだって協力してあげたじゃんか!」

酋長「チッ!腰抜けが…!やる気のない輩の言葉に耳を傾ける意味などないわ!」

東の大臣「あちらも事情があるのですから仕方ないでしょう」

東の騎士「…王妃は読まれておるのか?」

東の大臣「無論だ…。返事をする気はないようだがな」

東の騎士「左様でござるか…」

東の大臣「…とにかく我々は速やかに拠点への配置を済ませなければな。
一ヶ所に充てられる兵が極端に少なく、それだけに守りが重要となる」

酋長「何が守りだ。狩りに守りもクソもあるまい。これだから人間は!」

東の大臣「(噛み合わん…彼らとは形だけの共闘になりそうだな。あまりあてにはしない方がよいか)」

ルイ「ま!守りはともかく待ちは大事だよね」

東の騎士「待ち?」

ルイ「そ!ただ闇雲に追っかけるだけじゃ獲物にありつけないし、その為にウチらは罠を張るの!」

酋長「ただ数を集め、悠長に待っているだけでは格好の標的よ。
城を持たぬ儂らホビットにとって山に聳える木々や川は防壁も同じ。それらを最大限に活かす工夫が罠だ」

東の騎士「なるほど…して、どのように?」

ルイ「山と森なら任せてよ!人っ子一人寄せ付けないから!」

東の大臣「うーむ。その確証が得られるなら…我が国の地形を察するに国土の7割を防衛出来ることになりますが」

酋長「土地によって生え揃う樹木も水源の出入りも幾重に異なる。うぬらの持つ情報を全て差し出し、早急に調査せい」

東の大臣「(もしも可能だとしたら何よりありがたい話だが…地形情報を渡すということはホビット族に手の内をさらけ出してしまう事を意味する)」

東の騎士「(迷っておられるな。やはり大臣殿はまだホビット族を信用しきれぬか)」

東の大臣「(罠を張るには我が領の山々に手を掛け、拠点を構えさせなければならない。頼らざるを得ない状況と言えども、それはさすがにリスクが高すぎる…)」

東の騎士「(この苦境を乗り切るには団結が不可欠…まず互いの猜疑心を取り払わねば戦いにすらならん…。しかし大臣殿も酋長も譲れる立場ではなかろうしな…)」
111: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/27(土) 21:27:03 ID:H.1URhAHDs
酋長「とっととカタを着けるぞ。ルイ!里の者を呼びつけろ!」

ルイ「あいあいさ〜!」

東の大臣「お待ちください」

東の騎士「!?」

東の大臣「その前に一つ約束していただきたい」

酋長「…なんだ、人間」ギロッ

東の大臣「そちらとの共闘を結ぶに当たり、我々は情報を差し出すばかり。それでは後々の不安が拭えません」

酋長「だったら白紙に戻すまでだ。誰もうぬらなどあてにしとらん」

東の大臣「っ…せめて保証してほしいのです。あなた方が裏切らないという絶対的な確信が」

酋長「裏切るもクソも…ハナから味方ではなかろうが?」

東の大臣「それでしたら我が領は明け渡せません!」

酋長「はぁ…!?」

東の大臣「ひとまずのところはそちらの里から200名ほど人質を頂戴したい。あくまでも信用を確かめる為の一時的措置です」

酋長「」ビキッ

東の騎士「だ、大臣殿!」アセアセ

東の大臣「戦いに打ち勝ったとしても、これでは戦後また国土を略奪されかねん!だいたいにして不平等だ!」

東の騎士「不平等ではござらぬ!某らは国を護る為に今出来る最善を提供し、彼らは力を以て防衛に尽くすのでござるぞ!」

東の大臣「黙れ!ブルードル陛下も宰相殿も倒れてしまった今、この国を護れるのは私達しかいないのだ…!」

東の騎士「しからば発言を慎重になされよ!決別しては元も子もあるまいに!?」

酋長「いぃぃや…よい」

東の騎士「!」

酋長「回りくどいのは好まん…。王妃の部屋に案内せい…!」ビキッビキッ

東の騎士「!!?」ギョギョッ

ルイ「や、ヤバっ!お爺ちゃんぶちギレてる!!」アワアワ
112: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/27(土) 21:29:01 ID:H.1URhAHDs
東の大臣「み、ミリア様に何をされるおつもりか!」

酋長「知れたこと!ごちゃごちゃと能書き垂れる人間など邪魔にしかならんわ!頭からカチ割ってやる!!」

東の騎士「お待ちあれ!今一度!今一度話し合おうではござらぬか!」アセアセ

酋長「くだらん!時間の無駄だ!」

ルイ「お、落ち着こ?ね?落ち着こ?やっぱりウチらだけってのも寂しいじゃん!?」アセアセ

酋長「あぁん!?」ギロッ

ルイ「あ、はい」スンッ

東の大臣「とうとう本性を表したな!ホビット族が我々と共闘する筈がなかったのだ!」

酋長「たわけぇ!!うぬらが勝手にほざいたんだろうがぁ!!儂は誰の指図も受けんわい!」

東の騎士「(くっ…どうしたものか!両者共に主張を覆す気がないでは…!)」

ルイ「(あっちゃ〜。こうなったら、もうダメだわ!お爺ちゃん、一回言い出したら絶対に曲げないし!)」

東の騎士「(まさに水と油…ヒメ殿もよくこの二つの陣営を結び付けたものよ)」

ルイ「(ヒメとか宣教師はすっごい上手にやってくれたんだけど…ウチらじゃどうにも)」

東の騎士&ルイ「(誰か…なんとかしてくれる誰かは!?)」アセアセ

「何事でしょう?」スタスタ

ザワッ

東の大臣「み、ミリア王妃…!?」

酋長「…出てきよったなぁ!」ギロッ
113: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/27(土) 21:30:30 ID:H.1URhAHDs
ミリア「あら、ルイちゃん!いらしてたの?」パァァ

ルイ「え、えっと…まぁ」オロオロ

ミリア「この前、頂いたリーフのブレスレット使ってますのよ?どう?似合うかしら?」スッ

ルイ「う、うん!似合います!似合いますんですけど…あの…今はちょっと取り込み中?」ヒクヒク

ミリア「? なにかございまして?」キョトン

東の大臣「お離れください!王妃様!?」

ミリア「?」

東の大臣「危害を加えられる前に!」

ミリア「まぁ!酋長さんもいらしてたのね。ご挨拶が遅れて申し訳ございません!」ペコッ

酋長「……!」ギリッ

東の大臣「お、王妃様!」

ミリア「この度は私共に力をお貸しくださり、まことにありがとうございます。
本来はこちらから出向くのが筋ですのに、わざわざ遠路はるばるお越しくださいまして…」ペラペラ

酋長「ん?お、おう…」

東の大臣「……!?」

ミリア「以前の戦でも勇猛果敢に敵方の兵を蹴散らし、王国の方々を救われた活躍ぶりは聞き及んでおります。
地形や道具の持ち味を存分に発揮された緻密な戦略も!とても私共には思い付かない鮮やかなものだったそうで?」

酋長「ま、まぁそうだな?10割方、儂が勝利に導いてやったようなもんだ?」ドヤッ

ルイ「(あ…お爺ちゃんの機嫌がだんだん良くなってる)」

ミリア「今回に置きましても私は何も心配しておりません。酋長さんが手腕を振るってくださるなんて、それ以上の安心はございませんもの!」

酋長「ふん!なかなか分かっとるな?」

ミリア「東の国はホビット族の皆様を信頼しています。私共にお手伝いさせていただける事がありましたら、なんなりと仰せ付けくださいましね!」ニコッ

酋長「わっはっは!よかろう!よかろう!」ゲラゲラ

東の騎士「(酋長殿が笑われた…!)」ハッ

東の大臣「な、なんと軽々しい…!」ワナワナ
114: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/27(土) 21:32:26 ID:LXHCKgwcFk
ミリア「あら、このポンチョ!私がルイちゃんに贈ったもの?」マジマジ

ルイ「は、はい!せっかく貰ったんで着てみちゃいました!」ファサッ

ミリア「嬉しい!絶対に似合うと思って選びましたのよ!酋長さんも見てあげて?」

酋長「うぅん?わ、儂はこういうのは分からん!服なんぞ寒さを凌げりゃなんでもよかろうが!」

ミリア「まぁ?そんなことありません!女の子は着飾るものですよ?
ほら、可憐な赤の布地に工夫を凝らした黄色い刺繍が合わさって可愛らしい!」

ルイ「え、えっへへ〜!可愛いなんて?そんな?またまた〜?」デレデレ

東の騎士「(か、完全に手懐けておられるとはさすが王妃様でござる!)」

東の大臣「い、いけませんぞ!そのような者らと馴れ合っては!?」

ミリア「」キッ

東の大臣「」ビクッ

ミリア「あなた達がそんなやりとりをする度に私が執り成しておりますのよ?」ジトー

東の大臣「し、しかし私は…」

ミリア「助けてもらう立場にありながら図々しい要求は控えなさい!敬意を以て信頼を築くのです!」ピシャリ

東の大臣「う……」タジッ

ミリア「私は東の国の代表としてホビット族を愛し、敬い、認めています。あなたはそれでも否定を唱え、協力を拒みますか?」

東の大臣「い、いえ…滅相もございません」シュン

ミリア「ではご相談の邪魔になりますので私はこれで…。お互いにより良い案が出る事を祈ります」ペコッ

東の大臣「しょ、承知致しました…」ズーン

酋長「うむ!全部儂に任せておけ!」ゲラゲラ

東の騎士&ルイ「(丸く収まった…)」ホッ
115: 名無しさん@読者の声:2017/6/15(木) 18:47:01 ID:ssz5K42WmA
東の騎とルイは苦労人だなぁ…二人とも頑張れーp(^-^)q

つ支援
116: 名無しさん@読者の声:2017/6/15(木) 18:48:21 ID:ssz5K42WmA
士落っことしてた
騎士、です東の騎士名前ミスってごめんね…
117: すみません!遅れた分ガッツリ更新します! ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 21:43:33 ID:e4mtUywSu.
〜〜〜数週間後〜〜〜

―――王国(議場)―――

高官1「申し訳ありません!!」ドゲザ

政務官「…謝らなくていい。南国の理解を得られなかったのは私の準備不足によるものだ」

高官1「いえ!政務官の責任では…!」プルプル

政務官「そうしていてもラチがあかない。顔を上げ、席に着け」

高官1「〜〜…は、はい!」ガタッ

政務官「東国はどうだ?」

高官2「書状は受け取っていただけましたが…門前払いを受けまして」

政務官「なにも得られなかったのか?」

高官2「同行させた役人達と都を中心に聞き取り調査をしてみましたが芳しい情報は得られませんでした」

政務官「つまりは…開戦間近か」

高官2「はっ…城にホビット族が出入りし、各地の防衛配置も行われているそうで」

政務官「ふぅー…難局だな。正直どちらにも賛同しかねる」

バァンッ!

政務官「」ビクッ

ネバル「た、大変!大変です!」ゼェゼェ

政務官「ネバル…貴様、南の山脈再開拓計画の最中ではないのか!?」

ネバル「そ、それが…すんごい事になって…急いで報告しなきゃと…」ゼェゼェ

政務官「先日のデマ騒動の件であれば貴様から寄越された手紙で確認しているが?」

ネバル「そ、そんなこっちゃねぇです!もっとえんれー事ですだ!」アセアセ

高官3「い、いったい何事だと言うのだ!?」

ネバル「東領の辺境地に…ホビット族の大群が押し寄せてきたって…!」

政務官「なっ…」

高官's「なぁにぃぃいいいいいい!!!!?」ギョギョッ
118: ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 21:45:49 ID:e4mtUywSu.
〜〜〜数日前〜〜〜

―――王国辺境地(国境の山脈)―――

ザザザザザッ

ホビットの若者「へっ!ここが王国さんかい!」

里のホビット1「すっげー!川!草原!林!なんでも揃ってる!」

里のホビット2「ほんとにここもらっちゃっていいのかな!ポルカさん!」

ホビットの若者(ポルカ)「おうともよ!じっちゃんが国王とかいう偉いのに約束させたんだ!」

ホビットの娘「で、でもー…酋長様やルイさんに言わなくていいの?」モジモジ

ポルカ「けっ!んなオドオドすんなよ、コロン!じっちゃんに限って、しち面倒くせぇ事ごちゃごちゃ言ったりしねぇって!」

ホビットの娘(コロン)「でもー…私達、まだお世話になって日が浅いし」モジモジ

ポルカ「だからだろ?新参の俺たちにゃ狩り場も水場も住み処も余っちゃいねぇ。他部族といっしょくたんなって狭苦しい生活させられてよ」

里のホビット1「そうそう!やってらんねぇよな!」

里のホビット2「それもこれも王国やら東の国やらが約束した土地をくれないからだ!」

コロン「でもー…ルイさんは絶対に約束を守ってくれる人たちだから大丈夫って言ってたよ?」モジモジ

里のホビット1「そんなの嘘っぱちだ!」

里のホビット2「人間が約束なんか守るかよ!」

里のホビット3「あのルイにしたって酋長の孫で余裕があるから俺たちなんかどうでもいいと思ってんだ!」

コロン「そうかなー…ルイさん、すごく明るくていいホビットだけどなー…」モジモジ

ポルカ「だー!もういいじゃねーか、こまけぇこたぁ?こんな肥沃な土地を貰えりゃじっちゃんだって大助かりだろうよ!」

コロン「……」モジモジ

ポルカ「心配すんなって?ここまで拡げりゃ俺達どころか他部族まで悠々と生活出来る。そうすりゃみーんな笑顔だ!な?」ポンポン

コロン「う、うん…」モジモジ

ポルカ「へへ!こうやってガッツリ土地拡げて、じっちゃんにも認めてもらってよ!将来はおめぇを酋長の嫁さんにしてやっからな!」ニカッ

コロン「……!」カァァ

ポルカ「まーずは…とっ散らかったとこから片付けてもらわねーとな」ジロッ
119: ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 21:48:02 ID:e4mtUywSu.
〜〜〜現在〜〜〜

―――王宮(議場)―――

高官4「な、何をしに来たんだ!そのホビット共は!?」

ネバル「約束した、土地をもらうって…そればっかりで!」ゼェゼェ

高官2「バカな!南の山脈の一部を明け渡すということで話は着けてあるんじゃないのか!?」

ネバル「そう言ってあるです!だからオイラも視察してたです!」

高官3「なぜだ!伝わっていないのか!?」

ネバル「だーから!オイラにもわかんねーですよ!」

政務官「予定では2ヶ月後には東のホビット族から一部が定住するのだったな」

ネバル「は、はいです!でもなんだか全然分かんなくて!」

高官5「東のホビット族から使者は出てないのか!?」

ネバル「例の北国と一触即発になってからは誰も顔を出さないです!」

高官1「なんでだ!クソォッ!?」ダンッ

政務官「落ち着け!それぞれの下から出払える役人はいないのか!?」

高官1「わ、私共は再度、南国との関係維持を呼び掛ける為、手が空きません!」

高官2「東国の問題に向き合っていく上では私の方で対処するべきなのでしょうが…残念ながらホビット族との交渉手段は持ち合わせていない」

高官3「こっちだって公爵家の圧力で役人たちは悲鳴をあげてますよ…」

高官4「今月に入って6名が引き抜かれ、公爵を後ろ楯に貴族制度の復権を掲げておりますし…毎夜のパーティーに付き合わされて過労で倒れた者も何人か」

高官5「私もだ!国内の協調を強めようと舞踊や絵画、武術の催しに行事の手配と人手が足りん!」

ネバル「お、オイラだってホビット族と特別な繋がりはないですし、陛下の決めた段取りに沿ってやってるだけですだよ!」

政務官「…生憎と私も北国含む三国との問題で余力がない」

ネバル「ど、どうするですか?」
120: ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 21:48:44 ID:e4mtUywSu.
政務官「確か東のホビット族の協力を執り成したのは陛下と司祭だったな」

ネバル「そ、そういえば陛下は…!?」

政務官「…暫く一人にしてほしいと仰せだ。自室で公務を行っておられる」

ネバル「え?こ、ここで議論しないですか?」

高官1「最近の陛下はどうもおかしい…」

高官2「うむ…西国から帰ってきて変わられた」

高官3「このところは妙に苛つかれていて声も掛けられないしな」

高官4「難問が同時多発している、この時にこそ凛々しくあってほしいものだが…」

高官5「あぁ、陛下があれでは我々も気力を削がれるというものだ」

ネバル「(あんなに頼もしかったのに…どうしちゃったですか、陛下?)」シュン

政務官「…教団と憲兵団に連携してもらい、解決を促そう。
苦肉の策だが我々は我々で集中しなければならない問題が山積みだからな」

高官's「ははっ!」ピシッ
121: ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 21:49:27 ID:e4mtUywSu.
〜〜〜夜〜〜〜

―――王宮(国王の間)―――

ヒメ「(どうしたらいい?どうしたら争いを避けられる…!?)」バサッ

ヒメ「(東国が話し合いの意思を見せない限り、王国の出る幕はない…!)」ワシワシ

ヒメ「(北国の無茶な要求が引き金だとしたら直接、北国に譲歩してもらえるよう取り計らうしかないが…)」

ヒメ「(それでもし要求が加速したら…それこそ大惨事だ!)」ギリッ

ヒメ「(どちらかと言えば、その可能性が高いか!北国にしてみたら利権を根こそぎ頂ける、またとない好機だもんな!)」

ヒメ「(それでなくても各国に政策じゃなく侵略で国を豊かにする思想が芽生え始めてる…!)」

ヒメ「(その流れを産み出してしまったのは……)」ググッ

ヒメ「(どう転んでも混沌だ。救いようのない…!)」ガバッ
122: ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 21:50:50 ID:VfV4LPRyvs
コンコン コンコン

ヒメ「…入れ」

給仕1「失礼します!ご公務捗ってますかー?」ガチャッ

ヒメ「……」

給仕1「お、お食事の支度が整いましたので!」アセアセ

ヒメ「そうか。ここに持ってきてくれ」

給仕1「あ、今日はその…食堂で召し上がられませんか?」

ヒメ「は?」

給仕1「す、救い主様が一緒に食べたいと…申し出てまして?」モジモジ

ヒメ「…悪いがそんな気分にはなれない。断ってくれ」

給仕1「あ、で、ですが…」アセアセ

ヒメ「なんだ?」ジロッ

給仕1「な、仲直りしたいとも…おっしゃられてました」

ヒメ「仲直り…?」

給仕1「陛下を怒らせてしまったのは、きっと自分が何か間違いを犯したから、と思い悩んでるみたいで…」

ヒメ「(…なんだよ。あいつ)」

給仕1「本当によろしいのですか…?」

ヒメ「いい。それよりもあいつを部屋から一切出すな。なるべく人の目に触れないよう注視しておけ」

給仕1「か、かしこまりました…」シュン

ヒメ「……」カリカリ

バタンッ
123: ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 21:52:18 ID:VfV4LPRyvs
ヒメ「……」カリカリ

ヒメ「(なんだよ。なんだよ…なんだよ!)」ピタッ

ヒメ「なんなんだよ!あいつはぁ!?」ブンッ

万年筆「」カンッ コロコロコロ

ヒメ「仲直りしたい…?怒らせたのは自分のせい…?なんにも分かってないな!!」ダンッ

ヒメ「(僕が…一人で悩んでるだけだ!勝手に必死になってるだけだ!)」ギリッ

ヒメ「(なんで、なんであんな大事に巻き込まれて…痛みを伴って…それでもヘラヘラ笑ってられるんだよ!?)」イライラ

ヒメ「(無事に帰れたのがそんなに嬉しいか!家族がそんなに愛しいか!平穏な生活がそんなに楽しいか!?)」

ヒメ「(それを守ってやる為に…頑張ってるのは誰なんだよ!?)」

ヒメ「(全て終わって一件落着なら、どんなに良かったか…!分かってないんだ!あいつは…なにも!)」ガバッ

ヒメ「(なんにも…!)」ブルッ

ヒメ「…どんな顔して会えばいいんだよ」ギュウウ

ヒメ「僕は…おまえとの約束を守れそうにないんだぞ?」ボロッ

コンコン

ヒメ「……!?」
124: ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 21:55:25 ID:e4mtUywSu.
「夜分に恐れ入ります。入ってもよろしいでしょうか?」

ヒメ「…あぁ」グシッ

ガチャッ

政務官「失礼…」ペコッ

ヒメ「…手短に言え」

政務官「では前置き無しに伺いますが大后様とは話し合われたのですか?」

ヒメ「…まだだ。予定が合わなくてな」

政務官「予定が合わない?大后様は毎晩、夜遊びに興じておられますが?」

ヒメ「僕が、だ。分かるだろ」

政務官「いいえ、分かりかねる」

ヒメ「……」

政務官「今日は議会を欠席されていましたが…私はてっきり大后様に会っていらっしゃるものとばかり?」

ヒメ「公爵家が余計な動きをしてるみたいだな…」

政務官「はい。正直に申し上げますが…貴族側が本腰を入れれば我々、政治に与する者にとって致命的です」

ヒメ「資金繰りか…それともコネか?」

政務官「それも重要ですが…もっと根本的な部分です」

ヒメ「役人の八割が貴族出身だと言いたいんだろ…?」

政務官「そうです。そして彼らは爵位に忠実でなければなりません」

ヒメ「くだらない…」

政務官「そのくだらない制度によって貴方は国王の地位を授かっているのです」

ヒメ「王族は貴族を束ねる官職で国民の代表だ。あいつらとは違う!」

政務官「……」
125: ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 21:56:10 ID:VfV4LPRyvs
政務官「…未だにお母上を恨んでらっしゃるか」

ヒメ「」ピクッ

政務官「確かに貴方から見れば行きすぎた価値観の持ち主かもしれないが…王族としての振る舞いを心掛ける上では当然の考え方です」

ヒメ「……」

政務官「あのお方も決して根の悪い人間ではございません。古い感覚が染み付いて時代錯誤しているだけなのですよ」

ヒメ「恨んでなんかない…。ただ…」

政務官「ただ?」

ヒメ「母上は頑としてホビットを認めようとしない…。僕とは正反対なんだ」

政務官「その食い違いは重々…しかし貴方が自ら説得を試みない限り溝も永遠に埋まりませんぞ」

ヒメ「母上は僕の話なんて聞こうともしない。一方通行で疲れるだけだ」

政務官「ですが、お父上とは和解なされた筈。その時のようにはいきませぬか?」

ヒメ「和解と言ったって…ほんの少しの間だ。それに父上も最後までホビットを認めてなかった」

政務官「…ではせめて議会には出席していただきたい。持ち寄った案も直接のお許しを頂けなければ実行に移せず手間となります」

ヒメ「……」コクッ

政務官「…今は私情に駈られている場合ではございません。お母上との件もよくご検討くださいますよう」

ヒメ「あぁ、考えておくよ…」

政務官「宜しくお願い申し上げます…。失礼しました」ガチャッ

バタンッ
126: ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 21:57:13 ID:VfV4LPRyvs
〜〜〜深夜〜〜〜

―――城(王立図書館)―――

ヒメ「……」ペラッ

「悩ましい事があると、書庫にこもって蔵書を読み耽る…変わりませんのね」スタスタ

ヒメ「」ビクッ

大后「そこに貴方の求める答えがありまして?」ニコッ

ヒメ「は、母上…!?」ハッ

大后「お隣、失礼しますわね」ストッ

ヒメ「…僕に何か?」ジロッ

大后「あら、なんて目をなさるの?わたくしは貴方の産みの親ですことよ?」

ヒメ「今夜も招かれているのでしょう。こんな場所にいてよろしいのですか?」

大后「今夜はいいの。陛下……いいえ、可愛い我が子と他愛もない話がしたくて参りましたのよ」

ヒメ「明日も早いので失礼します」ガタッ

大后「救い主…でしたわね」ボソッ

ヒメ「……!?」ピタッ

大后「聞くところによるとホビットの子供だとか」

ヒメ「それがなにか?」キッ

大后「解せないわ、とても…とても解せない」

ヒメ「っ……」ギリッ

大后「王国の救い主?ましてや国王の親友?なんて似つかわしくない響きかしら?」

ヒメ「母上には関係のないことです!」ダンッ

大后「……」ジッ

ヒメ「……!」ジッ
127: ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 21:58:48 ID:VfV4LPRyvs
ヒメ「話は以上でしょうか…。僕は母上と違い、多忙ですので用が無ければ…」

大后「この飾り…」チャラッ

ヒメ「は…?」

大后「美しいと思いませんこと?」クスッ

ヒメ「…宝飾を愛でる趣味はありません」プイッ

大后「王族らしからぬ発言ですわね。こんなにも煌めいて鮮やかですのに?」チャラッ

ヒメ「なんとでもお言いください…」

大后「このアメジストなど、ほら?素晴らしい…庶民には一生、手の届きませぬ代物よ?」

ヒメ「…その宝石が民の労働に値する対価たりえるとは到底、思えませんね」

大后「貴方は何も理解出来てませんのね…」ハァッ

ヒメ「なんですって…?」イラッ
128: ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 21:59:39 ID:e4mtUywSu.
大后「このラピスラズリも、エメラルドも、ルビーも、トパーズも、ダイヤモンドも…高貴なる者の証」チャラッ

大后「太古より宝石は身分の高い者にのみ行き渡りました。どの時代も、どの国でも」

大后「この輝きに価値があるのではなくて、この輝きを身に付けるに相応しい人間にこそ価値がありましてよ?」ニヤッ

ヒメ「……」

大后「貴方もそろそろ自覚なさい。この世は上下に分かたれる物…上位に生まれた誉れを存分に味わってはいかが?」

ヒメ「…この地位を授かれた幸運にはとても感謝しております」

大后「そう。それでいいのよ…?」ニィィッ

ヒメ「ですが…僕は地位に溺れる気はございません」

大后「」ピクッ

ヒメ「失礼します…」スタスタ

ガチャッ

バタンッ

大后「……」チラッ

本「」ポツン

大后「(何を熱心に読んでいるかと思えば、純愛小説……)」ヒョイッ

大后「愚かですわね…。王族に一途な恋が赦されると思っているのかしら…」ペラッ

大后「美しいだけの物語など、この世にありはしないというのに…」ポツリ

大后「あの子はまだまだ自覚が足りませんわ…」フッ
129: ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 22:00:50 ID:VfV4LPRyvs
〜〜〜昼〜〜〜

―――辺境地(川)―――

ピーン クククッ

ルーボイ「うおっ!来たぞ来たぞ!こりゃ大物だ!」グググッ

孤児1「わー!兄ちゃんすげー!」

孤児2「がんばれー!」

母「ふふ…」ニコニコ

ラム「網の準備できたよ」

ナラ「やさいから、やこっか」スッ

ミシング「んー!いい匂い!出来上がりが楽しみだねー!」

ルーボイ「おぉ!釣れた!」ピシャッ

孤児1「やったー!」

孤児2「兄ちゃんすげー!」

ナラ「わぁ!おっきい!」

ラム「やるじゃん」クスッ

ルーボイ「へっへーん!俺にかかればへっちゃらだぜ!」

母「じゃあそのお魚も捌いて焼きましょっか」ニコニコ

ルーボイ「やっりー!」グッ
130: ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 22:03:24 ID:VfV4LPRyvs
ジュージュー ジュージュー

ルーボイ「うんめぇ!やっぱ外で食う飯はちげーな!」ガツガツ

孤児1「兄ちゃんばっかり、お肉ずるい!」

孤児2「そうだよ!」

ナラ「ふたりのぶん、わたしがとりわけるね」スッスッ

孤児1「ありがとう!お姉ちゃん!」

孤児2「ナラ姉ちゃん大好き!」

ラム「同い年なのにこうも違うんだね」チラッ

ルーボイ「う、うっせぇ!男ってのは肉を食うんだよ!」

ラム「はいはい、そーですね」モグモグ

ルーボイ「へん!お前は野菜ばっか食ってるからチビなんだよ!」

ラム「」ムッ

ルーボイ「どーだ!言い返せねぇだろ、チビ!」

ラム「君こそ僕がいない間に太ったんじゃない?」

ルーボイ「は?」プヨッ

ラム「下品な食べ方してるから見た目まで下品なんだよ。みっともない」

ルーボイ「だ、誰が下品だってぇ!?」イラッ

ラム「だから君が」

ルーボイ「こ、こいつぅ〜!もうゆるさねぇ!」ワナワナ

ナラ「はい」スッスッ

ラム&ルーボイ「?」

ナラ「はやくとらないと、こげちゃうよ?」ニコッ

ラム&ルーボイ「」ドキンッ

ナラ「なかよくたべよ?みんなでピクニックにきたんだから!」ニコニコ

ラム「…一時休戦だね」

ルーボイ「お、おう…」
131: ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 22:04:27 ID:e4mtUywSu.
ミシング「あー!いいお天気!太陽がまぶしいにゃー!」ゴロゴロ

母「そんなに転がったら服が汚れてしまいますよ?」ニコニコ

ミシング「ん〜…だぁってマリーさんとナラちゃんがしっかり者だから、あたしのやる事ないんですもーん!」

母「たまにはいいじゃないですか。ゆっくりする時間があっても」ニコニコ

ミシング「まぁあたしは大助かりなんですけどねぇ!にしし!」ヘラヘラ

母「みんなも楽しそう…。近場でも普段と違うことをしてみると景色が変わるものね」ニコニコ

ミシング「子供たちも、そろそろ将来に目を向ける時期ですからねー。新鮮な気持ちで息抜きしてもらわなくちゃ!」

母「…将来、ですか」

ミシング「みーんな夢を見つけ始めてるみたいですよー!ナラちゃんはあたしみたいに孤児院で働きたいって言ってますし!」

母「まぁ、ナラちゃんが…きっと素敵な寮母さんになれるわ」ニコニコ

ミシング「あのルーボイくんも、こないだ教団で色んな人たちを支えられる仕事がしたいって言い出しちゃって」

母「あの子にとって宣教師様は姉みたいなものですものね。憧れた人のようになりたいのかも」

ミシング「それにラムくんも本に携わる仕事がしたくて勉強してるんですよー。えらい!」

母「…みんな素敵な夢を持っているのね」

ミシング「楽しいだけじゃないですけどねー」

母「えぇ、実際には辛いことも多くて厳しいけれど…やりたい事を見つけられるだけでも幸せなことだわ」
132: ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 22:05:04 ID:e4mtUywSu.
ミシング「子供の頃は大人になれば勝手になんでも出来るようになってると思ってたにゃー」

母「そうですよね…」

ミシング「ところがどっこい!未だに彼氏募集中ですよ!泣けちゃう!」ヒーン

母「作ろうとすれば、いくらでも相手がいるんじゃないですか?」

ミシング「いやいやいや!ぜんっぜん!もう普段から願望剥き出しにしてますけど、ぜんっぜん!」ブンブンッ

母「そうかしら?あなたはいつも子供たちの事で頭がいっぱいに見えるわよ?」クスッ

ミシング「子供たちも大事だけど自分の幸せも欲しいんですよーだ!」

母「あら?それならどうして作らないんです?あなたみたいな人なら、そんなに苦労しなさそうだけど…」

ミシング「んぅ。なかなかダンディーでワイルドでミラクルな渋ーいおじ様がいないんですよねー?あたしってほら、年上にリードされたいから?」キャピッ

母「お、おほほ…そうなの…(器量はいいのにもったいない…)」ヒクヒク
133: ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 22:06:06 ID:VfV4LPRyvs
孤児1「ママー!」タタタッ

母「あらあら」ニコニコ

孤児1「ママもあそぼー?」

母「えぇ、いいわよ。何して遊びましょっか」ニコニコ

ミシング「あれー?あたしはー?」

孤児1「ミシング姉ちゃんも!」

ミシング「んぅ!かわいいやつめ!」ナデナデ

孤児1「えへー」ヘラッ

母「ふふ」クスクス

孤児1「あ、そういえばカロル兄ちゃんは?」

母「」ピクッ

孤児1「ラム兄ちゃん帰ってきたのにどうしてカロル兄ちゃんはいないの?」

ミシング「それはねー。カロルお兄ちゃんが都にいるからだよー!」

孤児1「なんでー?」

ミシング「お友達のお家にお泊まりしてるんだってさ!」

孤児1「えー!いいなー?」

ミシング「おチビちゃんはも少しおっきくなってからだねー!」

母「……」
134: ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 22:23:53 ID:e4mtUywSu.
〜〜〜夕方〜〜〜

―――ミラルドの町(孤児院)―――

ミシング「今日は楽しかったですねー!子供たちも大満足だったみたいですし!」

母「えぇ、みんな喜んでくれてよかったわ」ニコッ

ミシング「ほんとカロルくんも来れたら良かったのにー!いつまであっちにいるのかにゃー?」

母「そうね…。いつまでかしら」

ミシング「…やっぱり寂しかったりします?」

母「いいえ、国王様のそばなら安全ですし信頼できますから何も心配は…」

ミシング「んー…けどラムくん一人だけ帰してっていうのはどういう事なんでしょ?」

母「深い意味はないと伺いましたから大丈夫とは思います…。坊やと国王様は親友ですもの」

ミシング「まぁそれに宣教師がちょくちょく様子見に行ってるみたいですから大丈夫ですかね!」

母「そ、そうね…。大丈夫、よね」ポツリ

ミシング「マリーさん?」キョトン

母「ごめんなさい…。不安な訳じゃないんですけど…」

ミシング「どうかしたんですか…?」

母「あの子とこんなに長い期間、離れたのは初めてなので…」

ミシング「もー!結局寂しいんじゃないですかぁ!このこのぅ?」ウリウリ

母「そうかもしれません…。このところ坊やの顔が見たい、会いたいと強く思うんです」

ミシング「西の国から解放されるまで半年くらい会ってませんもんね?」

母「…元気な顔を見せてくれたら、それでいいんです」

母「どんなに辛いことがあっても…あの子の笑顔が癒してくれるから」
135: ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 22:24:19 ID:e4mtUywSu.
ミシング「いいですね。親子って?」クスッ

母「?」

ミシング「あたしもいつかマリーさんみたいな家庭を作れたらいいなー!」ニコッ

母「家庭だなんて…今の生活があるのは皆さんのおかげですから、あたしは何も…」

ミシング「ご謙遜なさらずー!二人を見てると、なんだかこっちまで癒されますし素敵だなぁって思いますよ?」

母「そ、そんなこと…」モジモジ

ミシング「なーんて?あたしも今は院の子供たちの笑顔で胸いっぱいですけど?てへっ!」ペロッ

母「…うふふ、やっぱりミシングさんにとってはここが家庭なんじゃないかしら?」ニコッ

ミシング「うーん!あとは素敵な旦那様がいたらパーフェクトなんですけどねー!」

母「まだ若いんですもの。これからいい出会いがありますよ」クスクス

ミシング「それなら早速出会いを探しに冒険しちゃおっかなーん!」

母「出かけるんですか?」

ミシング「はい!今夜のパートナーをゲットしてきまーす!」

母「あらあら…頑張ってくださいね」クスクス

ミシング「もっちろん!行きずりだって大歓迎!」

母「え?そ、それはちょっと…」アセアセ

ミシング「いってきまーす!」ガチャッ

母「い、いってらっしゃい」

バタンッ

母「…じょ、冗談よね?」ヒクヒク
136: ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 22:31:44 ID:e4mtUywSu.
―――辺境地(草原)―――

ポルカ「あぁくそっ!ムシャクシャするぜ!」

コロン「ダメだったんでしょ?残念!」パァァ

ポルカ「じゃあなんで嬉しそうなんだよ!」

コロン「だってー…争い事とかイヤだもん」

ポルカ「バカ!俺たちは狩猟民族だぞ!欲しいもんは自分の力で奪い取るんだよ!」

コロン「でもー…何も言えずに帰ってきたんでしょ?」

ポルカ「うっ…あ、あいつら口ばっか達者なんだ!だから人間は嫌いなんだよ!」

コロン「ねぇ、せっかくだから人間の町を見てこうよ」

ポルカ「な、なぁに言ってんだぁ?正気か!?」

コロン「観光ならいいんでしょ?王国はホビットにも優しいって聞くし見てみたい!」

ポルカ「どうせウソだろ。人間なんか関わってもろくなこたねーよ」

コロン「…いいもん。一人で行くから」

ポルカ「え?」

コロン「ポルカたちは先に帰ってなよ。それじゃ」タタタッ

ポルカ「ま、待てよ!あぶねぇからやめとけって!」

タタタッ………

ポルカ「はぁ…別に行かねーたぁ言ってねぇだろ!」ダッ
137: ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 22:32:32 ID:VfV4LPRyvs
―――ミラルドの町(市場)―――

ワイワイガヤガヤ

ポルカ「な、な、なんだぁこりゃ…!?」ワナワナ

ガッガッ ザサッ ザサッ

コロン「わー!あれなぁに?大粒小粒の種や粉が色とりどりに運ばれてる!」

ンモー ヒヒーン

ポルカ「(う、馬や牛…見た事もねぇ品種だ!俺らの知ってる家畜より、よっぽどずしりとしてやがる!)」

モクモクモク

コロン「ねぇ見て!屋根に付いてる筒から煙が上がってる!」

ポルカ「け、煙!?ボヤじゃねぇのか!なんで誰も気にしねぇんだ!?」

ザカッザカッザカッ

コロン「ひゃっ!銀ぴか!あれも衣服なのかな?すごく頑丈そう!」

ゾロゾロ ゾロゾロ

ポルカ「い、いやにたくさん人間が群がってんな!こりゃひょっとすると人間の長の町なんじゃねぇか?」

コロン「わたし達と同じホビットもいるよ?」キョロキョロ

ガラガラガラ

ポルカ「わっと!あぶねぇっ!なんだ、あの馬鹿でけぇ馬が引く荷車は!?」

コロン「わたし達の里は家畜が小さいから軽い荷車をウォリードッグに引かせてるけど、あれなら一度にたくさん運べそう!」
138: ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 22:33:17 ID:e4mtUywSu.
ミシング「およよ?」スッ

ポルカ「!?」ビクッ

ミシング「あれー?あなた達、見ない顔だね?最近、越してきたの?」

ポルカ「な、なんだ、てめぇ!?」ズザザッ

コロン「わ、どうしよ!人間に声掛けられちゃった!」コショコショ

ポルカ「お、おたつくな!こっちだって天下のホビッツ部族だ!」

ミシング「?」キョトン

コロン「やっぱり大きいね…!」コショコショ

ポルカ「ば、バカヤロウ!心の広さなら負けてねーよ!(?)」アタフタ

ミシング「あ、分かった!ちょっとおいで!」グイッ

コロン「きゃっ!」アセアセ

ポルカ「なにしやがる!?」アセアセ

ミシング「まだ慣れてないんでしょー?親切な美人お姉さんがいろいろ教えたげる?」ニカッ

コロン「……?」

ポルカ「じ、自分で美人って図々しいにも程があんだろ…」シラー
139: ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 22:34:42 ID:e4mtUywSu.
ミシング「まずここでしょー!」

コロン「わぁ、野菜に果物がいっぱい!」

ポルカ「隣にゃ鳥や豚、羊の干し肉なんかが吊るされてるな?こんだけのもんをいっぺんに並べるなんて…どうなってやがんだ?」

ミシング「他にも魚、お菓子、ハーブとかスパイスもあるよん!食材とかはこういう市場のお店から買うの!」

コロン「買う…?」

ポルカ「交換じゃねーのか?」

ミシング「ノンノンノン!ヒューマニズムの理はキャッシュなのです!」チッチッチッ

コロン&ポルカ「???」

ミシング「それじゃまお手本を見せちゃいましょう!おじさん!山羊肉の薄切り一箱くださいな!」

肉屋「あいよ、銀貨2枚ね」

ミシング「あはーん!ミシングちゃんのお色気スペシャルに免じて〜?免じて〜?」チラッチラッ

肉屋「駄目。今日という今日はしっかり払ってもらうよ!」

ミシング「ぷくー!ケチー!いいもん!マリーさんにあっちの店のがいいって言い付けちゃうから!」

肉屋「え?ま、マリーちゃんに!?そりゃ困る!」アセアセ

ミシング「えー?どうしよっかなー?」

肉屋「あ、あんな可愛い見た目して貞淑な人妻だってんだから男としてはゴニョゴニョゴニョ…」モジモジ

ミシング「(どっちにしろ店は変えてもらお)」

肉屋「分かったよ!一箱おまけする!それでいいだろ!」

ミシング「サンキューおじさま!だーいすき!」チュッチュッ

肉屋「別にあんたの為じゃなく俺は一人のロリコ……紳士としてだな」

ミシング「じゃあお代は置いてくねー!(マリーさんに出入り禁止って言っとこ)」チャリッ
140: ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 22:39:53 ID:VfV4LPRyvs
ミシング「とまぁこういうことなんです!」

コロン「んー…分かったような、分からないような…」

ポルカ「なんであの親父は糞の役にも立たねぇ鉄屑と貴重な肉を交換するんだ?」

ミシング「うん、糞の役にもは言い過ぎだけど、まぁそうだよねー」

コロン「もしかしてあれがコイン…?」

ポルカ「なんか知ってんのか?」

コロン「うん。ルイさんに聞いたんだけど人間はコインっていう金属の欠片を集めてるんだって?」

ポルカ「んなもん集めてどうすんだ?」

コロン「コインをたくさん持ってる人が一番偉いみたい。それが人間の掟って言ってた」

ポルカ「な、なにぃ!?じゃあ俺らもコインを集めれば人間共を従えられるってのか!?」

ミシング「ぶっぶー!惜しいけど不正解!」

コロン「え?」

ミシング「コインっていうのは通貨以外にもギャンブルとか彫刻品に使われる物で用途は様々なのです!が!今あたしが出したのは純粋な貨幣!つまりはお金です!」

ポルカ「お、おかね?」

ミシング「お金というのは今みたいに欲しい物、必要な物の受け渡しを円滑に交渉する為に用いられます!」

ミシング「たとえば物々交換ではお互いが品物に納得しないと交渉不成立になるし、低価値、高価値の区別が付かないので不平等な結果になる事もしばしば!
しかも力関係を利用して立場でごり押しされるケースも少なくありません!」

ミシング「だけどもだっけぇど〜!お金という全く別種の物に付加価値を備わせる事で!
スムーズかつピースフルな交渉が出来る!イコール誰でも平等にお買い物が楽しめちゃうっていう寸法ですねぇ!」

コロン「え、えー…と」オロオロ

ポルカ「さっぱり分からん」

ミシング「詳しくは教団で無料配布してる"人とホビットの暮らし方"を参照!」ババッ

コロン「あ、どうも…」パシッ

ポルカ「人間の文字なんか読めねーよ」パシッ

ミシング「そんなあなたもご安心!ちゃんとホビット用にクレオール語で直したページも記載済み!イェイッ!」ピース

コロン「わぁ、ほんとだ」ペラッ

ポルカ「これなら読めるぞ!」スラスラ
141: ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 22:41:04 ID:e4mtUywSu.
コロン「へー…お金ってそういう物なんだ」ペラッ

ポルカ「ふんふん、為になるな……って、なんで人間の本なんか読まされてんだ!?」バサッ

ミシング「あ!路上に捨てちゃダメ!ちゃんと塵紙入れに捨てるか、紙屋さんに寄付しなきゃ!」

ポルカ「うるせぇ!人間に洗脳されてたまるか!あぶねぇとこだった!帰るぞ、コロン!?」

コロン「ねえ、これなぁに?」

ミシング「んー?これはねー」

ポルカ「おぉい!?」
142: ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 22:42:02 ID:VfV4LPRyvs
ミシング「こちらがミラルド名物!職人さんによる飴細工でござーい!」

コロン「わぁ、可愛い!本物そっくりの蝶々さん!」パァァ

ポルカ「かってぇな…。どうやって食うんだ、これ…」ツンツン

ミシング「口の中で転がしてみ!舌が踊っちゃうよ!」

コロン「ふわぁ!あまーい!」コロコロ

ポルカ「う、おぉ!なんだこれ、砂糖をまぶした小石か!?」コロコロ


ミシング「この町は畜産業が発展してるから他所との商いも充実してて、いろんな地域の物が売られてるんだよー!」

コロン「へー…どれも見たことない物ばっかり!」キョロキョロ

ポルカ「見てて飽きねぇなぁ」キョロキョロ


ミシング「最近ではホビットの皆さんもヤル気満々で店を構えてまーす!」

コロン「あ、これうちの里にもある素材の帽子!」

ポルカ「お!この部族のミサンガかっこいいな!」


ミシング「本も読めて勉強も出来ちゃう修道院!今は布教の代わりにホビットや人間の子供に道徳を教える学舎になってるよん!」

コロン「同族と人間が混ぜこぜに座って書き物してる…」

ポルカ「こ、ここはあんまり好きじゃねーな。雰囲気が…なんか」
143: ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 22:43:00 ID:VfV4LPRyvs
ミシング「と、いう訳で!ミシングちゃんによる超絶ウキウキ町案内はこれにておしまい!」

コロン「ありがとうございました!」

ポルカ「いやー楽しかったなぁ」

ミシング「それじゃ!楽しんでいってね!ばいびー!」スタスタ

コロン「さよならー」フリフリ

ポルカ「じゃあなー」フリフリ
144: ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 22:43:40 ID:VfV4LPRyvs
コロン「楽しかったね!」

ポルカ「おう、楽しかった楽しかった!いやぁ楽しかった!」

コロン「また来ようね!」

ポルカ「そうだな。また来よう。楽しかったしな。いやー」

ポルカ「ってそうじゃねーだろ!?」バンッ

コロン「あ、お土産が!なんで投げるの!?」ササッ

ポルカ「なに普通に楽しんでんだよ!俺たちはホビットだぞ!」

コロン「? うん」

ポルカ「人間はホビットを見下した敵だ!仲良くしちゃダメだろ!」

コロン「なんで?」

ポルカ「なんでじゃねーよ!じっちゃんにも言われたろ!」

コロン「でもー…ルイさんは人間と仲良くしたいって言ってたよ?」

ポルカ「あ、あいつは…酋長の孫だから、なんだって言えんだよ」

コロン「そう?わたしは今日、もっと人間を好きになったよ?」

ポルカ「うぐ…!」

コロン「ポルカも素直になったら?」

ポルカ「……!」ググッ
145: ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 22:44:20 ID:VfV4LPRyvs
ポルカ「…人間のせいで移住生活を強いられたのにか?」ボソッ

コロン「え…?」

ポルカ「迫害と逃亡の繰り返しだ。穏やかに隠れ棲む部族だって奴らの侵略を受けてきた」

コロン「昔の話でしょ…」

ポルカ「あぁ、とうの昔だよ。先代が若い世代を守る為に身を呈して人間から親父たちを遠ざけた。古い古い逸話さ」

コロン「……」シュン

ポルカ「いくつもの森が焼き払われて人間の住み処になった。行き場をなくした俺たちをそれでも狭めようと虐殺した」

コロン「うん…」

ポルカ「そんな話を聞いて育ったんだ…。ガキの頃から、ずっと…今さらなんだよ。優しくされたってよ」

コロン「だけど酋長さんは人間と一緒に戦ったよ…?」

ポルカ「じっちゃんは賢いから、うまく利用してるだけだ。腹の底じゃ人間なんざ毛嫌いしてるさ」

コロン「…昔より今じゃないの?」

ポルカ「あ?」

コロン「ルイさんは…今を必死に生きて未来に進もうとする人間に憧れてるって…」

ポルカ「…じゃあ何か?昔のこたぁ綺麗さっぱり忘れて人間と仲良くしろってか?」

コロン「そうだよ…」

ポルカ「おめぇは本当に優しいなぁ」

コロン「……?」
146: ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 22:45:24 ID:VfV4LPRyvs
ポルカ「このまま共存したって人間の掟に従わされる!」

ポルカ「人間の文字を覚えさせられて、人間の言葉を喋らされて、人間の一員になるだけだぜ!」

コロン「それがどうしたの…?」

ポルカ「どうしたの…?どうしたのってこたぁねーだろ!!」

コロン「」ビクッ

ポルカ「ホビットの培ってきた文化はどうなる…?暮らしは?尊厳は?先人達の記憶は!?」

コロン「あ……」

ポルカ「俺は人間として生きてくなんてまっぴらだ!誇りを持ってホビットの一生を終えてぇ!」

コロン「……」

ポルカ「憧れんなぁ勝手だがよ…。あんまりうつつ抜かしてっと自分がなんなのかも分からなくなっちまうぞ」

コロン「…それでも、争い事は嫌い」

ポルカ「そうかよ」スタスタ

コロン「どこ行くの!」

ポルカ「帰るんだよ!もう十分だろが!」スタスタ

コロン「ま、待ってよ…!」ダッ

ドンッ

コロン「わ!」ズサッ

ごろつき1「ってぇなぁ…」ジロッ

コロン「」ビクッ
147: ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 22:46:18 ID:e4mtUywSu.
ごろつき1「あぁ?なんだ、お嬢ちゃん、見かけねぇ顔だなぁ?」ジロジロ

コロン「ひっ…!」タジッ

ごろつき1「けっ!野良が紛れ込んだか。まぁいいや。ホビットの分際で俺様に肩ぁぶつけたんだ!詫び入れてもらおうか!」ガッ

コロン「やっ!」ジタバタ

ポルカ「てんめぇえ!!何してやがる!?」

ごろつき1「あぁ!?」

ポルカ「くっせぇ手を離しやがれ!バイ菌が移るだろうが!?」

ごろつき1「な、なんだとぉ!ナメやがって!ぶっ殺してやる!」

ポルカ「おぉやってやらぁ!?」

ゾロゾロ ゾロゾロ

ポルカ「!?」

コロン「っ……!」ブルッ

ごろつき1「ひひひ!タダじゃおかねぇぞ?袋にしてやらぁ!?」コキッコキッ

ポルカ「こんの卑怯者が!」

コロン「や、やめて!誰か!」

憲兵1「何事だぁ!?」ザッ

ごろつき1「ちっ!たれ込みやがったな!ずらかっぞ!」ダッ

憲兵1「待てぃ!!」ダッ

ダダダッ…………

コロン&ポルカ「」ポカーン
148: ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 22:47:47 ID:e4mtUywSu.
憲兵2「やあ、災難でしたね。この町もまだまだ物騒でして」

コロン「え、あ、はい…」オドオド

憲兵3「二人ともお怪我はありませんか?」

ポルカ「だ、誰なんだ、あんたら?」ジトッ

憲兵2「誰って…見ての通り憲兵ですが?」

ポルカ「けんぺー?」

憲兵3「あぁ、そうか。まだ人里に降りて日が浅いんだろう」

憲兵2「なるほど…えー…つまり我々は町民や人里に住むホビット族の皆様を犯罪から守る仕事をしておりまして」

コロン「わたし達を…」

ポルカ「守る…?」

憲兵3「はい。国王様の名声と共に信頼も高まり、新たな方針を受け入れられてきてはいるのですが…それでも先ほどのようにホビット族を邪険にする者もおります」

憲兵2「そういった危険を回避していただく為にも日夜、我々が見回りを務めているという訳です」

コロン「へぇ…!」パァァ

憲兵3「しかし…それとは逆に人間社会に慣れず適応出来なかったホビット族が盗みや暴行等の犯罪を重ねる例も少なくありません」

憲兵2「どうか安穏に満ちた生活を維持する意味でも同族の皆様に寄り添い、助け合ってください。
不明瞭な点や困る場面があれば教会や役場に相談していただければ良い助言を貰える筈ですので」

ポルカ「……」

憲兵2「我々に出来る事は目先の犯罪を抑制する。それだけです」

憲兵3「人間もホビットも共存する上では、どう接するか。自分で考えて生活の知恵を見つけなければなりません」

憲兵2「人を恨む気持ちや不慣れでままならない苛立たしさも度々あると思われますが、ここで生きていくのなら自分の感覚を改める覚悟も必要です」

憲兵3「説教がましくて申し訳ないが新生活を送るホビット族の皆様の励みになればと」

ポルカ「けっ!今度こそ帰るぞ!」スタスタ

コロン「あ、ありがとうございました!さよなら!」

憲兵2「お気をつけて。またいつでもお越しください」ペコッ

コロン「」ペコッ

ポルカ「ちっ…善良ぶりやがって」フンスッ
149: ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 22:50:08 ID:VfV4LPRyvs
コロン「いい人たちだったね?」スタスタ

ポルカ「そうか?」スタスタ

コロン「うん」スタスタ

ポルカ「……」ピタッ

コロン「?」ピタッ

ポルカ「じゃあ住んじまえよ」

コロン「え…?」

ポルカ「好きにすりゃいいじゃねーか。いちいち俺に言わなくてもよ」

コロン「そんなつもりじゃ…」

ポルカ「土産に森でも狩って回るかぁ!手ぶらじゃ帰れねぇしなぁ!」スタスタ

コロン「…王国の救い主」

ポルカ「あ?」

コロン「アピシナ様の生まれ変わりって言われてる…」

ポルカ「それがなんだよ?」

コロン「あの森は救い主が棲んでたんだって…さっき貰った紙に書いてある」パサッ

ポルカ「ちっ!まだ持ってんのか?」

コロン「今の司祭と救い主が出会い、心を通わせた始まりの地。人とホビットを繋ぐ大切な場所なんだって」

ポルカ「そりゃよかったな」

コロン「すごいよね。だって少し前はあんなに嫌い合ってた種族が一つになろうとしてるんだよ?」

コロン「打ち解けてるのが伝わる。町の活気にわたし達の声が溶け込んで混ざり合ってる…」

ポルカ「だからよ!そんな言うなら人間の町に……」

コロン「行かないよ」

ポルカ「!?」

コロン「わたしはホビッツの里が大好き。同胞のみんなも、豊かな自然も、だから…」

コロン「たまに遊びに来るにはいいかも。ルイさん達を誘って」ニコッ

ポルカ「ふん……好きにしろっての」プイッ
150: ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 22:51:39 ID:e4mtUywSu.
〜〜〜夜〜〜〜

―――大聖堂(司祭の間)―――

ミシング「やっほーい!ミシングちゃんが遊びに来たよー!」ガチャッ

教徒「あ、ミシングさん!こんばんは!」

修道女「こんばんは!こんな遅くにどうされたんですか?」

ミシング「あれ?宣教師は?」

教徒「宣教師…あぁ、司祭様ですか!」

修道女「司祭様でしたら夕方に発たれましたよ。また王都に戻られるそうで」

ミシング「もう!?せっかく久々に会えると思ったのにぃ!?」ガーン

教徒「ははは…僕らもゆっくりお話したかったんですけど、やっぱりお忙しいみたいです」

ミシング「はー…子供たちに内緒でサプライズしてあげたかったんだけどにゃー」ガックリ

修道女「あ!それより聞いてくださいよ!」

ミシング「ん?」

修道女「東側の山脈から大勢のホビットが押し寄せてきたんですけどね!なんと司祭様の説得であっさり帰っていったんですよ!」

ミシング「東のホビット?」
151: ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 22:52:00 ID:e4mtUywSu.
教徒「どうやら以前の戦いに加わってくれた部族のようなんですが…急に押し掛けて一帯の領地を寄越せと迫ってきましてね」

修道女「そうそう!領主様まで出張って突っぱねるものだから、もう聖堂中が大騒ぎでしたよ!」

ミシング「???」

教徒「あ、まだ公にはされてないそうなんですが、なんでも南の山脈を一部、ホビット族に明け渡すんですって」

修道女「それをよく理解してなかった若いホビットの集団が勝手に領地を奪おうと乗り込んできたらしいですよ!」

ミシング「へー…それは大変だねぇ」

教徒「まぁでも何事もなくてよかったですよ。西の国との戦いが済んで間もないですからね」

修道女「やっぱり司祭様ってすごいよねー!憧れちゃう!」

ミシング「…そっか!ところでお二人さん、こんな密室で…もしかしてお邪魔だった?」ニマー

教徒「え!?ち、違いますよ!?」ボンッ

修道女「そ、そうですよ!私達はただ日課の清掃を!」アタフタ

ミシング「にゃはは!お熱いねー!」

教徒「違いますってば!?」アセアセ

修道女「も、もう!ミシングさんったら!」カァァ

ミシング「じゃあ宣教師が帰ってきたら、またよろしく言っといて!チャオ!」ガチャッ

教徒「うぅ…本当に違いますからね!妙な噂流さないでくださいよ!?」

修道女「く、暗いのでお気をつけて…」モジモジ
152: ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 22:53:24 ID:VfV4LPRyvs
―――王国辺境地(町外れの橋)―――

サァァァ

ミシング「……」ピンッ

ポチャンッ

ミシング「」ジーッ

パシャン パシャン

ミシング「さざ波しか立たない川も餌を落としたら飛沫を散らして魚の群れが跳ね回る…」ポツリ

『ラム兄ちゃん帰ってきたのにどうしてカロル兄ちゃんはいないの?』

ミシング「どうして…そういえば深く考えなかったっけ」

『あの子とこんなに長い期間、離れたのは初めてなので…』

ミシング「(……)」

ミシング「(マリーさんがそう感じるくらいだから…母親想いのカロルくんなら、なおさらだよねー)」

ミシング「(親友の王様が一緒だから安心だと思ってたけど…)」

ミシング「(親友だからこそカロルくんの気持ちも分かってる筈で…それでも城に留まらせてるとなると)」

ミシング「なーんか…あたしって、いっつも変な方向に考えちゃうなぁ。考えすぎかしら?」

サァァァ

ミシング「…あらま。あんなに群がってた魚さん達が」

ミシング「はぁ…なんにもないといいんだけど?」
153: 投下終了 ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 22:54:09 ID:e4mtUywSu.
―――王国・北の領土(国境関門)―――

ガラガラガラ

プチョリスフ「さーて、商売を始めるとするか」

部下1「本当に大丈夫っすかねー」

部下2「憲兵に張られてんじゃ…」

カランカラン

部下1「」ビクッ

部下2「鈴…?」ドキドキ

ゴゴゴゴゴ

プチョリスフ「」ニヤリ

門番1「お待ちしておりました。我が主より話は伺っています」ペコッ

門番2「どうぞお通りくださいませ」ペコッ

プチョリスフ「おう」ザスッザスッ

部下1「ま、マジかよ…。関門って、こんな堂々と通れるもんなのか?」オロオロ

部下2「荷を改めもしねぇなんて…いったい主ってなぁ何者なんだ?」ドキドキ

門番1、2「」フカブカ

部下1「あそこまでザルじゃ逆にこえーな…」ビクビク

部下2「後ろから刺されんじゃねぇかって気になるぜ…」ビクビク

プチョリスフ「だから言ったろ。俺らが考えるこっちゃねぇとよ」ザスッザスッ

パラパラ パラパラ

プチョリスフ「はー…雪がシンシンと降りやがる。今夜は一段と冷えるぜ」

部下1「へーくしょい!」ブシッ

部下2「この雪道の向こうが北の国か…。もう後戻りはできねぇな」ザスッザスッ
154: ◆WEmWDvOgzo:2017/6/28(水) 23:05:44 ID:e4mtUywSu.
>>115-116
お待たせして申し訳ありません!
なかなかやりたい事が文字に起こせないですが頑張って更新していきたいです!
支援ありがとうございました!


東の騎士のようなモブに毛の生えた程度のキャラにご配慮くださるなんて…!
苦労が吹き飛びそうなくらいキャラも報われてると思います!
むしろこちらの方が全然進められなくてすみません!orz
155: ◆WEmWDvOgzo:2017/7/4(火) 14:46:32 ID:eonOpBEMpo
ヤバいヤバいヤバい
なんかおかしいなと思ったら間に投稿する筈だった部分をまるごと抜かしてた…
どうしましょう…スレ立てし直した方がいいですかね…
156: 名無しさん@読者の声:2017/7/8(土) 23:55:47 ID:MvNhZokrYY
龍さんに聞いたら?
157: 名無しさん@読者の声:2017/7/20(木) 23:44:08 ID:dDmHEwbJVw
わたしは立て直さなくて大丈夫だと思うけどな
抜かしちゃったところ投稿して153に繋がります、って解説いれたらいいと思うけど他の人は立て直した方が見やすいのかな
158: ◆WEmWDvOgzo:2017/7/24(月) 22:18:05 ID:254MBLl7AQ
>>156-157
お返事が遅れて申し訳ありません!
立て直そうかと考えたのですが、どなたかがまとめに依頼してくださったようですのでリンクの修正等のお手間を掛けさせてしまうかもしれませんので少し強引ですが御助言いただいた通り、抜かした部分を入れてみたいと思います!
ラストスパートどころか迷走しっぱなしで本当に申し訳ないです!
今日は時間がないので明日の夜、投稿したいと思います!
くだらないミスで頼ってしまい、すみませんでした!
159: ◆WEmWDvOgzo:2017/7/25(火) 23:23:41 ID:ZYNDGhvvpo
〜〜〜回想(宣教師)〜〜〜

―――王国辺境地(大聖堂)―――

ポルカ「で、なんだって?」

領主「ですから!辺境の地は我々、王国の領土です!無断で踏み入れるのはご遠慮願いたい!」

ポルカ「話にならないな」

領主「それはこちらの台詞だ!明け渡す領土は決定していると何度も説明しているだろう!?」

ポルカ「じゃあここも明け渡せよ」

領主「なんでそうなる!?」

ポルカ「ここは川もあるし森林は豊かだ。日光にも恵まれてる。だからここが欲しい。そう言ってるだろ」

領主「都合のよい事を抜かすな!ここは我々の土地だ!」

ポルカ「んなら酋長にも尋ねてやるよ。忙しない山腹とゆるやかな平地、どっちがいいかってな」

領主「もう決まった事を今さら曲げられるか!?」

ポルカ「交渉決裂だな。無理やりにでも明け渡してもらう」

領主「なに!?」

ポルカ「5000ぱかし腕の立つ部族を連れてきた。お前らなんかちょちょいのちょいさ」

領主「ふ、ふざけるな!そんな事が許されるとでも!?」

ポルカ「許しなんか乞わないね。俺たちは俺たちのやり方でやるだけだ」

領主「ぐ、ぬぬ!」ワナワナ
160: すみません!159から128と129の間に入る筈だった内容です! ◆WEmWDvOgzo:2017/7/25(火) 23:26:43 ID:iFM3aw6sIs
―――大聖堂(礼拝堂)―――

修道女「見た?外にいるホビットの大群!」

教徒「見たよ。獣の皮を纏った、いかにも野性的な目付きの連中だったね」

修道女「どうなっちゃうのかなぁ?まさか襲ったりしないよね?」ドキドキ

教徒「分からないよ。でもあいつらの様子…前に聖堂を襲撃したホビット族と瓜二つだ」

修道女「え?」

教徒「僕らを…人間を見る目が明らかに冷たい。不在にしてる司祭様に代わってミラルドの領主様が対応してるけど下手に刺激したらどうなるか…」

修道女「で、でも司祭様が国王様の要請で憲兵団とこっちに向かってるんだよね?」

教徒「そうだけど…一向に来る気配もないし」

修道女「〜…司祭様ぁ!!」ブルブル

宣教師「はい、なんでしょう?」

修道女「え…?」ビクッ

教徒「あっ!」ハッ
161: ◆WEmWDvOgzo:2017/7/25(火) 23:28:08 ID:iFM3aw6sIs
教徒「し、し、し…!」プルプル

修道女「司祭様ぁっ!!」ウルウル

宣教師「お久しぶりですね。聖堂での一件以来でしょうか?」ニコッ

教徒「はい!司祭様が国王陛下に付き添われてから早半年ほど!」

修道女「寂しかったですぅ!」ウルウル

宣教師「ふふ。そうでしたか。ところで…例の方たちは?」

教徒「奥の間にいます!領主様と話し合ってるみたいで!」

修道女「あれ?憲兵団の方々は?」キョロキョロ

宣教師「同行してくださった数名の憲兵さんには町で待機してもらってますよ」

修道女「えぇ!?なんでですか!?」

教徒「護衛も従えずに出歩くなんて危険です!」

宣教師「ありがとうございます。でも心配は入りませんよ。彼らに敵意を感じさせない為の措置です」

教徒「またそんな事を……仮にも司祭様は教団を束ねる立場にあるんですから、もう少し慎重になさった方がいいですよ」

修道女「そうですよ!あのホビットたちだって何するか分からないですし!」

宣教師「そう気負うものではありませんよ。話し合いをするだけですから」ニコニコ

教徒「そ、そうかもしれませんが…」

修道女「お気をつけて!」

宣教師「では失礼します」スタスタ
162: ◆WEmWDvOgzo:2017/7/25(火) 23:32:06 ID:ZYNDGhvvpo
―――大聖堂(謁見の間)―――

宣教師「失礼しま……」ガチャッ

領主「受けて立とうじゃないか!!」ダンッ

ポルカ「おぉ望むところだ!?」ダンッ

宣教師「(…もう縺れてますね)」

領主「私兵に呼び掛けろ!憲兵団にも助力を要請するんだ!」

付き人「かしこまりました。旦那様」

ポルカ「うーし!早速、外の仲間に知らせてやらぁ!」ガタッ

宣教師「あのー」

ポルカ「あ?なんだよ、お前?」

宣教師「えーと、私は一応、教団という組織の司祭をしているものですが」

領主「司祭様!?」

宣教師「あなたが領主の?」

領主「はい!辺境地を任されております、コドルド伯爵家のフザと申します!」
163: ◆WEmWDvOgzo:2017/7/25(火) 23:32:38 ID:ZYNDGhvvpo
宣教師「不在にしている間、この件を預かってくださり、感謝します。あとは私からお話しますので」

領主「そうは参りません!このホビット共は我が地を害そうと謀る悪しき者!捨て置く訳にはいきませんな!」

宣教師「捨て置くとは言ってません。私が引き継ぐと言ってるのです」

領主「高名なる猊下にこう申すのは憚られるが、領土を巡る問題は私の領分にございます!」

宣教師「(猊下……私のことでしょうか。いまいち判別しにくいですが)」

領主「このホビット共は私が責任を持って討伐します!どうかお引き下がりくださいませ!」

宣教師「私は国王の命を受けて彼らを説得するよう仰せつかりました」

領主「」ピクッ

宣教師「恐縮なのですが、ここは一度、私に任せてもらえないでしょうか?」

領主「王族の名を出せば私が怯むとでも?」ジロッ

宣教師「はい?」

領主「いつまでもその威光を掲げられると思わぬ事ですな」

宣教師「おっしゃっている意味が…?」

領主「王国は生まれ変わるのですよ…。あるべき形へと」

宣教師「…よく分かりませんが、こうしていても時間を浪費するだけです。お下がり願えますか?」

領主「ふん…よいでしょう。ひとまずは猊下の顔を立てるとしましょうか」ガタッ

宣教師「(やっぱり猊下って私のことなんですね)」
164: ◆WEmWDvOgzo:2017/7/25(火) 23:34:54 ID:ZYNDGhvvpo
宣教師「すみません。お待たせしました」ペコッ

ポルカ「だからなんなんだ、あんた」

宣教師「とりあえずお掛けになって。落ち着いて話しましょう」ストッ

ポルカ「いいから早く明け渡すと言えよ!それで全部、丸くおさまんだ!」

宣教師「? なにをですか?」

ポルカ「この土地をだよ!回りくどいのは性に合わねぇ!是か否か!?」

宣教師「強引に物事を推し進めようとなさる気性は酋長さんにそっくりですね」クスッ

ポルカ「あんた…じっちゃんを知ってんのか?」

宣教師「えぇ、共に力を合わせて窮地を脱した仲ですから。ルイさんはお元気ですか?」

ポルカ「ひょ、ひょっとして…あんたが噂の?」

宣教師「噂?」

ポルカ「王国の国王ヒメだなぁ!?」ガタッ

宣教師「違いますよ」

ポルカ「」ズルッ

宣教師「国王以前に女ですし先に司祭と名乗ってますし」

ポルカ「じゃ、じゃあ誰なんだよ、ちくしょう…」ムクッ
165: ◆WEmWDvOgzo:2017/7/25(火) 23:36:19 ID:iFM3aw6sIs
宣教師「ルイさんからは宣教師と呼ばれていますね」

ポルカ「宣教師…!?」

宣教師「はい」

ポルカ「ちょ、ちょっともっかい立ってみてくれ…」

宣教師「へ?まぁいいですけど…」スクッ

ポルカ「」ジーッ

宣教師「……?」

ポルカ「ほ、ホントだ!乳がでけぇ!?」

宣教師「は?」

ポルカ「ルイの言ってた通りだ!乳牛みてぇに乳のでけぇ女がいるって聞いてたがマジだったのか!」

宣教師「は?」

ポルカ「ちょ、ちょこっと試しに揉んでもいいか?」 ソーッ

宣教師「」パシンッ

ポルカ「ぶけっ!?」ヒリヒリ

宣教師「……」

ポルカ「な、なにしやがる!?」クワッ

宣教師「反対側の頬も差し出しなさい」

ポルカ「あぁ!?」

宣教師「」パシンッ

ポルカ「いたぁっ!?」ヒリヒリ

パシンッ パシンッ パシンッ
166: ◆WEmWDvOgzo:2017/7/25(火) 23:37:49 ID:ZYNDGhvvpo
ポルカ「痺れやがる…」パンパン

宣教師「ふぅ、それでは何から話しましょうか」パッパッ

ポルカ「よくここから話し合いに移ろうと思えるな…」ジトッ

宣教師「下心を取り払ってあげたんです。反省なさい」

ポルカ「くそっ…やってられるか!」ガタッ

宣教師「御手洗いは一階ですよ」

ポルカ「便所じゃねぇよ!!」
167: ◆WEmWDvOgzo:2017/7/25(火) 23:38:56 ID:ZYNDGhvvpo
ポルカ「ふざけやがって!手まで出しやがったんだ!こうなりゃ何がなんでも明け渡してもらうぞ!」

宣教師「その前に酋長さんの許可は取ってあるのですか?」

ポルカ「許可?そんなもん取ってねーよ」

宣教師「やはりそうでしたか」

ポルカ「は?」

宣教師「あの方は横柄な態度が目立ちますが横紙破りをするような卑劣漢には見えませんでした。再三の要求はあなたの独断ということでよろしいのですね?」

ポルカ「お、おう?」

宣教師「ではこちらに非がない以上、あなたの要求に応じる謂れはありません。領地の明け渡しは真っ向からお断りさせていただきます」

ポルカ「な、なんだとぉ!?」

宣教師「ですが観光なら自由ですよ。こちらの風土に興味がありましたら案内させますが」

ポルカ「ふざけるな!」

宣教師「ふざけているのはあなたでしょう」

ポルカ「あぁ!?」

宣教師「突然ずかずかと人様の敷地に上がり込み、気に入ったから明け渡せと言われても納得できるものですか」

ポルカ「うるせぇ!お前らがさっさとしねぇからだろ!」

宣教師「ではその足で南の山脈の開拓を手伝ったらいいじゃないですか」

ポルカ「はぁ!?」

宣教師「人任せにしている内は文句を言う資格なんてありませんよ。土地が欲しければ自分たちで耕して整地なさい」

ポルカ「く、くぬやろ〜〜〜!!!」ギリッ

宣教師「それとも私が直接、酋長さんと話しましょうか。彼らと信頼を築き、共闘を成し得た、この私が」

ポルカ「!?」
168: ◆WEmWDvOgzo:2017/7/25(火) 23:39:37 ID:ZYNDGhvvpo
宣教師「どうしますか?」

ポルカ「ど、どうするもこうするも!」

宣教師「今ならまだ無かったことにしてもいいんですよ」

ポルカ「っ…な、無かったことに?」タジッ

宣教師「はい。あなた方が独断専行した暴挙にも目を瞑ります。これまでと変わらず友情を育みましょう」

ポルカ「わっかんねーな!どういう意味だよ!」

宣教師「ご自分の立場を省みなさい。あなたは酋長さんに値する決定権をお持ちなのですか?」

ポルカ「け、決定権って…んなのは……」

宣教師「あなたのやろうとしている事を里の方々に説明すれば、きっと怒りに触れますよ」

ポルカ「お、俺は…ただ里の為を……」モゴモゴ

宣教師「なにせ自分たちの目を盗んで抜け駆けしようと目論む同胞がいたなんて知れれば…とても信用しきれませんからね」

ポルカ「そ、そんなんじゃ!」アセアセ

宣教師「そもそも種族を代表して交わした約束をあなた一人の意思で左右できる道理がありません。身勝手な判断は綻びに結び付きますよ」

ポルカ「く…く……!」ギリッ

宣教師「どうです?まだ食い下がりますか?」

ポルカ「〜〜〜!?」ワナワナ

宣教師「無かったことにしましょう。お望み通り、それで丸く収まります」

ポルカ「……!ちっくしょうめ!」バンッ

〜〜〜〜〜〜〜〜
169: ◆WEmWDvOgzo:2017/7/26(水) 21:48:38 ID:asMbRZfNT2
―――城下町(教会)―――

宣教師「ということがありましてね」

司教「無事に収拾が着いたようで何よりにございます」

宣教師「そうですね…。私のいない間、何か変わった事はありましたか?」

司教「それなのですが実に喜ばしい出来事がございましたぞ!」

宣教師「喜ばしい出来事?」

司教「なんとここ数日、ホビット族が裏通りに出店した木工品市場の売れ行きが良く民衆の間で密かな話題となっているのです!」

宣教師「それは良いことですね。木工品というと家具や玩具ですか?」

司教「はい。それだけに留まらず餅と呼ばれるハンマーのような物で米をついて作るおやつまで売り出してましてな。そちらも好調であるとか!」

宣教師「ハンマーで米を…あまり想像が付きませんね」

司教「私も一度いただいたのですが、あれはなかなか味わえない珍味でしたぞ」

宣教師「ふむふむ、それは興味深いですね」

司教「それはもう一時は不穏だった流れも盛り返す勢いで!是非、司祭様にもおすすめします!」

宣教師「司教さんのお墨付きでしたら間違いありませんね。私も今度、購入してみましょう」ニコッ

司教「それがよろしいかと!」
170: ◆WEmWDvOgzo:2017/7/26(水) 21:49:42 ID:asMbRZfNT2
宣教師「ところで…例の件はお願いできましたか?」

司教「はっ…教団に協力的な領主に声をかけ、承諾を得てまいりました」

宣教師「では…」

司教「すぐにでも夜会に参加出来るよう手筈を整えてあります」

宣教師「ありがとうございます。これで彼らの真意を探れますね」

司教「しかし貴族に限定された夜会である為、司祭様と言えど制限があるやもしれません」

宣教師「貴族ですか…。良識を持ち合わせた方も多くいますが…おおよそ良いイメージは浮かびませんね」

司教「ホルウィの町のような例もありますからな…」

宣教師「…ですが、このところ王都に漂う不気味な雰囲気はおそらく貴族の影響でしょう。大聖堂で会った領主も気になる事を言ってましたしね」

司教「気になる事とは?」

宣教師「"王国はあるべき形に生まれ変わる"とか…」

司教「あるべき形…?」

宣教師「それが何を意味するのか私には分かりません。けれど国内の不和を指しているのは確かでしょうね」

司教「…やはり内部に入り込まなければ明らかにはなりませんな」

宣教師「えぇ。差別、戦争と続いて今度は何が起こるのか…この目で見極めてきます」

司教「…今夜、城内のダンスホールで開かれるそうです」

宣教師「分かりました…。私も出席しますと領主様にお伝えください」

司教「かしこまりました…」コクッ
171: ◆WEmWDvOgzo:2017/7/26(水) 21:51:33 ID:asMbRZfNT2
〜〜〜夜〜〜〜

―――城内(ダンスホール)―――

シャララララン

公爵「なんと素晴らしい事でしょう!今夜は実に華やかだ!」

ヒューヒュー ピーピー!

公爵「紳士淑女の皆様!お喜びください!わたくし共の催しにかの高名な大司祭猊下が足をお運びくださったのです!」

パチパチ パチパチ

宣教師「」ペコッ

公爵「我らが大后陛下と司祭様が並ばれれば、まさに麗しき二輪の花!我々も今宵は瞬きを封じねばなりますまい!」

ハハハハハハハハ!

宣教師「(…一見すると愉しげな会に思えますが)」チラッ

料理人「」カチャッ ズラァァァ

宣教師「(これだけの豪勢な振る舞いを毎晩続けるには相当な出費が掛かる筈…)」

公爵「さて、それでは新たな出会いと益々の盛宴を祝して乾杯と参りましょう!」スッ

カンッ カンッ カンッ カンッ

公爵「さぁ司祭様!」スッ

宣教師「どうも」カンッ

大后「」ニコッ

宣教師「(この方がヒメくんの…)」ペコッ

大后「お初にお目に掛かります。こうして猊下と祝杯を交わす機会をいただけるなんて光栄ですわ?」クスッ

宣教師「大后様からそのような…恐縮です」

大后「今後ともよしなに?」ニコニコ

宣教師「こちらこそ…」

公爵「ほほほ!今夜は心いくまで楽しんでいかれてください」

宣教師「えぇ、そうさせていただきます」

172: ◆WEmWDvOgzo:2017/7/26(水) 21:52:52 ID:ac/TeR61HE
領主2「よう、司祭さん」

宣教師「あぁ、クライリー様、今日は我が儘を聞いてくださってありがとうございます」

領主2(クライリー)「はは!様はよせよ?他ならぬ司祭様の頼みとあらば断る訳には参りませぬってな!」

宣教師「相変わらず気さくなんですね」クスッ

クライリー「領主や貴族ったって屁もこきゃ臭う普通の人間さ。それに俺ぁ成り上がりなんでね。堅物ばったのはどーも苦手なんだ」

宣教師「ふふ、それでよく続けていられますね?」

クライリー「なぁに。ちょいとおだててケツ振っときゃどーにかなる」

宣教師「ではたびたび申し訳ないのですが、こうした会に疎い私にクライリーさん流の作法をご教示くださいませんか?」

クライリー「おう!俺が隣に立ってエスコートして差し上げるさ」ニィィ

宣教師「それは助かります」ニコッ

クライリー「しかしあんたでもこういった道楽に関心があんだな?」

宣教師「役目上、見聞を広めるのも仕事の一環ですから」

クライリー「なるほどなぁ…」ジッ
173: ◆WEmWDvOgzo:2017/7/26(水) 21:54:11 ID:ac/TeR61HE
クライリー「ほーん?」ジロジロ

宣教師「どうされました?」フリフリ

クライリー「普段から修道着姿を見慣れているだけにな。身なりを整えたあんたが新鮮だ」

宣教師「似合わないとお思いでしょう。もとより化粧っ気もない貧相な出で立ちですしね」

クライリー「謙虚なことだ。だが普段の色気ねぇサマが際立って、むしろ華が増してるぜ」

宣教師「どうも?でもお世辞は結構ですよ」

クライリー「世辞じゃねーんだがな…」

宣教師「それにしてもドレスコードというのは面倒なしきたりですね。
少々、窮屈です。引き締まった布地のハリに慣れないせいか胸が圧迫されますし…」パツンパツン

クライリー「ふぅん…」ニヤニヤ
174: ◆WEmWDvOgzo:2017/7/26(水) 21:55:50 ID:asMbRZfNT2
クライリー「まぁ強張りなさんな!夜会っても交流を楽しむのがメインだ!おっかねーのもいるけどな?」

宣教師「おっかないとは…?」

クライリー「女にだらしねーのもいりゃ亜人、貧民と区別しやがる高慢ちきもいる。
中には異国やら古代のあくどい宗教にハマって儀式と称した人浚いを斡旋すんのもいるしな」

宣教師「……!本当にそんな事をしている人がいるなら見過ごせません」

クライリー「無理だね。あいつらを叩けるほどの実権は政府にゃねぇ。貴族の財力を失えば王国の貯金箱にヒビが入る」

宣教師「っ……ですが」

クライリー「この夜会はあんたが想像してるより、ずっと乱れてる。油断してっとイチコロだぜ?」

宣教師「どうなると?」

クライリー「さぁね、しこたま酒飲まされて玩具にされるか。
はたまたあんたの弱味を握って教団の地位を利用してくるか…考えりゃいくらでも出てくるさ」

宣教師「」ゾワッ

クライリー「だから今夜は俺がエスコートしてやるってんだよ。そんかし礼は弾んでもらうぜ」

宣教師「もちろんお礼はさせてもらいます。なにをお望みですか?」

クライリー「そうさなぁ。あんたと食事がしてぇと言ったら?」

宣教師「? 食事くらいでしたら全然構いませんよ」

クライリー「ほぉう?男が女を食事に誘うってのがどんな意味か分かってんのか?」

宣教師「はい、美味しい物を一緒に食べて談笑するんですよね」

クライリー「くっふふ。たまんねぇな?その続きがあんだろうが?」

宣教師「続き…?」

クライリー「食後のデザート…いや、メインディッシュか」

宣教師「……?」

クライリー「要領わりーな。女のあんたと対話がしてぇと、そう言ってんだよ」ススー

宣教師「……あの、なぜ頬をなぞるんですか?」ゾゾッ

クライリー「カマトトぶりやがって…処女って訳でもねーんだろう?」ニヤニヤ

宣教師「!!!」ブッ
175: ◆WEmWDvOgzo:2017/7/26(水) 21:56:34 ID:asMbRZfNT2
クライリー「社交界じゃもっぱら評判さ。なんせ前のブタヤロウ(※大臣)がでけぇ声で語り回ってたからな」

宣教師「な、な…!?」カァァ

クライリー「なぁ、俺にも教えてくれねーか?あんたの旨い所をよ」ニヤニヤ

宣教師「…冗談半分でからかうと承知しませんよ」キッ

クライリー「本気だとしたら?」

宣教師「…残念ですが私は心に決めた人としか恋仲になるつもりはありません」プイッ

クライリー「でもファルージャとはキスしたんだろう?」

宣教師「!!!!!」ブーッ

クライリー「なぁ、どうだった?魔性の女帝様が繰り出す手練手管ってやつは?」

宣教師「それ以上聞くとひっぱたきますよ!」

クライリー「…なぁんてな。あんたのそういうとこが気に入ってんだ」

宣教師「はぁ…?」

クライリー「身分に左右されねぇで馬鹿話出来るってなぁ気持ちがいいだろう。お互い、成り上がりなんだからよ」ニカッ

宣教師「もう少しで軽蔑するところでしたけどね…」シラー
176: ◆WEmWDvOgzo:2017/7/26(水) 21:58:04 ID:ac/TeR61HE
男爵「お初にお目にかかる。わたくし、ビア家当主ゴードンと申します」

宣教師「はじめまして。私は……」

男爵「存じております。高名なる司祭殿に名乗らせる無礼は致しませんよ」

宣教師「自己紹介が失礼に当たるとはマナーの質が違うんですね…」コショコショ

クライリー「社交界なんてのは名を売ってなんぼの業界だからな。中には身分を尋ねるだけで激怒する爺もいるぜ」コショコショ

宣教師「ふむふむ、相手の機嫌を損ねないよう配慮しないとですね」

クライリー「心配すんな。司祭様のお立場はここでも飛び抜けて超一流だ。公爵様か大后陛下でもない限り、誰も口出し出来ねーよ」

宣教師「なぜです?私は平民の出身ですし爵位も持ちませんが…」

クライリー「国王陛下と並び立つ偉業の持ち主に誰が意見出来んだ?ちったぁ自分の威光を自覚しろよ」

宣教師「なんだかやりづらいですね…。勝手に持ち上げられても」

クライリー「へっ。結構じゃねーか。高いとこからじゃなきゃ目線の合わねぇ連中だ。偉そうにしてりゃいいんだよ」

宣教師「はぁ、そういうものですかねぇ…」
177: ◆WEmWDvOgzo:2017/7/26(水) 21:59:17 ID:ac/TeR61HE
宣教師「(さて、だいたいマナーは教えてもらいましたし、どなたから情報を聞き出しましょうか)」キョロキョロ

紳士「僕はラインタード家嫡男、ビュリフです。どうぞお見知りおきを」ナゲキッス

宣教師「どうも…」

紳士「貴女とは一度じっくりお話したいと思ってました。麗しきお方よ」ウインク

宣教師「(軽薄そうな方ですね。年は近そうですが話し相手としては不適切かもしれません)」

貴婦人「ンマァ貴女が司祭様?見るからに育ちのよさが窺えますこと?」ニヤニヤ

宣教師「(…なんか腹立たしいので却下します)」イラッ

令嬢「あたくし国王陛下とお近付きになりたいの。ねぇ、司祭様からもとりなしてしてくださらない?」ギラギラ

宣教師「(野心に燃える瞳が怖い)」

商人「私は複数の事業に成功してましてね!友人になったら損はさせませんよぉ!もちろん、ふかぁい仲に発展してもねぇ?」ニタニタ

宣教師「(複数のトラウマが蘇るので遠慮します)」

お坊ちゃん「おい、メス!ぼくの召し使いにしてやってもいいぞ!」

宣教師「(子供にこんな事を言わせる親にだけはなりたくありませんね)」

クライリー「はっはっは!会話が弾みまするな!ところでこのあと予定は…?」

お嬢様「ございませんわ…」ウットリ

宣教師「(あの人はいつの間にか私をほったらかして別の女性をエスコートしてますし)」

ワイワイキャッキャッ

宣教師「(やはり、夜会の主宰者を当たるのが良さそうですね)」チラッ
178: ◆WEmWDvOgzo:2017/7/26(水) 22:00:37 ID:asMbRZfNT2
公爵「いやぁまことに驚嘆致しました。まさか猊下が夜会に興味を示しておられたとは!これまで招待を怠った非礼、存分に詫びねばなりますまいな!」

宣教師「いえいえ、突然の申し出に応じていただいて感謝するばかりです」ペコッ

公爵「以前からこうした会に参加なされていたのですかな?」グビッ

宣教師「いえ、今回が初めてです」

公爵「ほう、ではどういった経緯で?」

宣教師「生まれが生まれなのでパーティーといった物に縁がなく、クライリー様からお声かけを受けましたので、せっかくの機会にと」

公爵「なるほど、クライリー君は雑草なりに花を咲かせた優秀な男だ。同じよしみの司祭様に通ずるものがあるのでしょう」ニコニコ

宣教師「雑草?」ピクッ

公爵「おっと失敬、口がすべ……いや、私とした事が言葉を間違えました」

宣教師「…公爵様は平民を雑草呼ばわりされるのですか?」

公爵「ふむ…彼らの暮らしのほとんどは私どもの資財から賄われている訳ですし、さながら花の栄養を吸い取って繁殖する雑草と相違ないかと」

宣教師「……」

公爵「ですがまぁ、やはり雑草は言い過ぎでしたかな」クスッ
179: ◆WEmWDvOgzo:2017/7/26(水) 22:01:36 ID:asMbRZfNT2
宣教師「…聞くところによりますと公爵様は、この会を毎夜に渡って主催されているとか?」

公爵「えぇ、そうですとも。バックヤードの封鎖に伴い、様々な改正が施され、最近は社交場が減りましてな」グビッ

ワイワイワガヤガヤ

公爵「ならばとこうして自ら執り行い、皆様に笑顔と賑わいを提供させていただいてる次第でございますよ」ニコニコ

宣教師「…あなたの仰る皆とは貴族に限定してのことですか?」

公爵「そこまでは?司祭様のような文化人も枠に入れて差し上げますよ」

宣教師「棘のある物言いですね」

公爵「そうですかな。癪に障ったのでしたら失礼」

宣教師「……」

公爵「おや?あまりお酒が進んでおられませぬが」

宣教師「普段は口にしないので…」

公爵「ははは!御聖職に就かれてる身では致し方ありませんか!」

宣教師「そうでもないですよ。少なくとも私はお酒に関して制限を課す事はしていません」

公爵「ほう?さすが寛容にございますな」

宣教師「趣味嗜好はそれぞれですからね。抑圧はせず自由性を尊重させています」

公爵「やはり徳の高いお方は心掛けからして違いまするな。国王にも是非、見習っていただきたいものです」

宣教師「なぜ国王に?」

公爵「いやいや、なんでもございませんよ。それよりお酒が苦手でしたら下げさせましょうか?」

宣教師「……ん、く」グビッ

公爵「? 飲まれないのでは?」

宣教師「ふぅ…私から無理を言って招いてもらったので少量程度ならお付き合いしますよ」ゴクンッ

公爵「ははは!気など遣わずとも!パーティーは楽しむ物です!ご無理は禁物ですぞ!」

宣教師「……えぇ、ほどほどにしておきます」ポワー
180: ◆WEmWDvOgzo:2017/7/26(水) 22:04:08 ID:asMbRZfNT2
宣教師「」スヤスヤ

大后「あらあらまぁ…大変ですこと。教団の司祭様ともあろうお人が?」

公爵「酔い潰れてしまわれたか。クライリー君、すまないが奥の部屋に運んで介抱してやってくれないか」

クライリー「お安いご用です。ハナから俺は付き添いですしね」

公爵「しかし…」チラッ

大后「えぇ…」チラッ

宣教師「しょ、しょんにゃ〜?わらし、へろへろじゃないですぅ〜?」ベロベロ

公爵「たった一口でよくもこうまで…」

大后「天性の下戸でいらっしゃいますのね…」

宣教師「ん〜?あとごふん…」ムニャムニャ
181: ◆WEmWDvOgzo:2017/7/26(水) 22:06:17 ID:ac/TeR61HE
―――ダンスホール(衣装部屋)―――

宣教師「ん、ん……?」パチッ

クライリー「目が覚めたか?」

宣教師「く、クライリーさん……っ!」ズキッ

クライリー「たった一口で頭痛かよ。よえーなんてもんじゃねーな」

宣教師「」ポワンポワン

クライリー「まだボーッとしてるか。しょうがねぇな…ほれ」スッ ピトッ

宣教師「!」ピクッ

クライリー「気付けの水だ。ひゃっこくて気持ちぃだろ?」

宣教師「すみません…」パシッ ゴクゴク

公爵「ほほほ。お目覚めですかな、司祭殿」

宣教師「公爵様…?」

公爵「迎え酒はいかがですか?」キュポッ

宣教師「いえ…もうお酒は結構です」

公爵「ではゆっくりとお喋りでもしてみましょうか?」

宣教師「…はい」

公爵「聞きたい事などありましたら、なんなりとどうぞ。お答えしますよ」

宣教師「……」

公爵「遠慮なさらず?何か尋ねようとなさっていましたよね?」

宣教師「…城下に貼り出されていた報せは公爵様が指示されたのですか?」

公爵「はい、そうですよ」

宣教師「役人の方に確認したところ、そんな話は聞いていないと…」

公爵「言ってませんからね」

宣教師「…戦いを終えて平和へ向かおうとしている今、なぜ歩調を乱すような真似をするのですか?」

公爵「はてさて?乱しているのは王政府側では?」

宣教師「……?」
182: ◆WEmWDvOgzo:2017/7/26(水) 22:07:11 ID:ac/TeR61HE
公爵「私達はね、あなた方のように慈善事業をしている訳ではないのですよ」

宣教師「……」

公爵「私どもは国に財を寄付し、国民の生活を潤し、円満に繁栄を遂げる」

公爵「その働きに応じた利益や地位を求めるのは当然ではございませんか?」

宣教師「…だから裏通りの居住区を取り潰してホビットの皆さんを追いやっても許されると?」

公爵「はい!」ニンマリ

宣教師「……!?」

公爵「あんな者らの居住区などあってもなくても同じでしょう。持つべき者が有効に利用する。それが最も自然です」

宣教師「彼らの生活は考えないのですか?」

公爵「興味がございませんな。元々、外界を縄張りにしていた種族ですから都合が良いのでは?」

宣教師「あなたは自分の生活を他者に奪われても同じ事が言えるのですか…?」

公爵「許せません。ですから我々に抑圧的な政をされる国王陛下に改心していただきたいと存じております」

宣教師「自分勝手な事ばかり…!」

公爵「あなたのような生まれつきの庶民は芋でもかじっていれば地べたでも生きていられるのでしょうが私達はそうはいかないんですよ」

宣教師「な、なんですか!その言い方は…!」

公爵「貴族というのはね、豪華な食事、広大な敷地、贅沢な装飾、心躍る娯楽、沢山の付き人。これがなければ生きていけないんですよ」

宣教師「呆れました…!」
183: ◆WEmWDvOgzo:2017/7/26(水) 22:08:51 ID:ac/TeR61HE
宣教師「クライリーさん、あなたからもなんとか…」

クライリー「ぷふぅ!やっぱ葡萄酒は高級品に限る!」グビッ

宣教師「……!?」

クライリー「俺も最初は信じなかったさ。だがな、半月もこうやって遊んでみろよ。抜け出せなくなるぜ?」ニィィ

宣教師「そんな……あなたは違うと……」

クライリー「あんたもせっかくいい立場にいるんだ。しゃぶりついてみろよ。この味を覚えたら世界が変わるってな!」

宣教師「……!」

公爵「そういうことです」

宣教師「何がどういうことなんですか…!」

公爵「人は誰しも優雅な暮らしを求めてやまない生き物なのですよ」

宣教師「堕落です!そんなの…一時の快楽に溺れているだけではありませんか!」

公爵「えぇ、なんとでもどうぞ」

宣教師「〜〜〜!」ムカムカ
184: ◆WEmWDvOgzo:2017/7/26(水) 22:09:51 ID:ac/TeR61HE
公爵「話は戻りますが、より良い暮らしの為にも私どもは社交場でもっと沢山の人脈……もとい友人を募りたい」

公爵「あなたのような美しく、聡明で、立派な地位を得る方と」

宣教師「あなたのような人となど、とても友人にはなれません!」

公爵「まぁまぁ。偉大なる我らが国王陛下にも共に国の上流に住まう者同士、友好を結びたいのですよ」

公爵「一部の者は貴族としての振る舞いを忘れ、国民だ国王だと建前ばかりのたまいますが…」

公爵「お互いに有益な関係を保つ為にも今一度、現状を見直してみましょうという話ですよ」

公爵「そこで司祭殿にも是非ご協力を賜りたいと」

宣教師「拒否します!」

公爵「……」ピキッ

宣教師「あなた方だけに都合のいい話を聞き入れる道理はありません!民に不平等を押し付けようと言うなら私は断固として戦います!」

公爵「ほぉ…?」イライラ
185: ◆WEmWDvOgzo:2017/7/26(水) 22:17:20 ID:asMbRZfNT2
公爵「少々おだててやれば、ずいぶんな物言いをされますな?」

宣教師「思い通りにならないからといって難癖を付けないでもらえますか?」

公爵「難癖ぇ…?」ビキビキ

宣教師「自制心の欠片もないんですね。あのような発言の後で堂々としていられる訳です」

クライリー「口が過ぎるぜ。司祭さんよ」

宣教師「喋りかけないでください。あなたの声など聴きたくありません」

クライリー「はんっ……」

宣教師「もはや話す事はないでしょう。失礼させていただきます!」スタスタ

公爵「後悔されますよ…」ジロッ

宣教師「しません!さようなら!」ガチャッ

バタンッ!

公爵「…ふぅ。若い方というのは気が短くていけませんな」

クライリー「始末しますか…?」

公爵「いいえ、品のないやり方は好ましくありません」

クライリー「どうされるので?」

公爵「そうですねぇ…。まずは国王陛下のお耳に入れてみましょうか」

クライリー「……?」

公爵「昨夜、司祭殿が私どもの主催する夜会に参加なされた、とでも」ニィィ
186: 名無しさん@読者の声:2017/10/2(月) 08:56:41 ID:TikUHgvq6k
支援、続きまったり待ってます
187: 名無しさん@読者の声:2018/7/1(日) 16:33:07 ID:EAeQA2YNyQ
つC
公爵たちの策略で宣教師ちゃんが今後とうなるのか…きになるなぁ

更新ずっと待ってます
188: 名無しさん@読者の声:2018/7/9(月) 12:13:10 ID:R9nJtCfaWI
もうすぐ一年かぁ…カロルたち〜!カムバーック!
189: 名無しさん@読者の声:2018/10/16(火) 18:22:52 ID:d1XuLDK5rw
支援!
190: 名無しさん@読者の声:2019/3/19(火) 16:07:14 ID:VDzu4f7wLA
待ってます!
つCCCCC
191: ◆WEmWDvOgzo:2019/11/26(火) 23:42:00 ID:Ulgjh/Ikt2
また書きたいけど、もうほとんど覚えてないし待たせすぎて、きっと覚えてる人もいない
申し訳なさすぎる
明らかにこのスレがダメすぎた
やるなら、また書き直さなきゃダメだorz
192: 名無しさん@読者の声:2019/11/27(水) 02:01:34 ID:TBSVoFNPAY
作者さんおかえりなさい!待ってました
大好きな作品だから、何度も読み返してるのでもちろん覚えてますよ
作者さんのペースで大丈夫ですので、またカロルくんの活躍を見させていただきたいです
193: ◆WEmWDvOgzo:2019/11/27(水) 22:41:25 ID:Ulgjh/Ikt2
お待たせしてしまい、本当に申し訳ありませんでした
お優しい言葉にかなりウルッときてます……
何年も放置してしまっていたのに未だに待っていただけていたなんて、とても感激です
お言葉に甘えて、また1から読み返して話やキャラを思い出しながら書きたいと思います
せめて待たせてしまった分、面白いものを書けるよう頑張ります!
194: 名無しさん@読者の声:2020/1/12(日) 13:25:23 ID:pjsmLUApJo
作者さん来てたのか!
ひたすら待ってます!
195: 名無しさん@読者の声:2020/3/16(月) 06:28:12 ID:yQBBVeWzHc
おかえりー
来ないより来たほうがいいなんてあったり前じゃない !?
カロルが決断に時間がかかるなんてわかってるからいちいち言わないっ!
さ。
書いてくれる?(ふんすっ)
196: 遅くなりすぎてすみませんorz ◆WEmWDvOgzo:2020/3/19(木) 22:38:27 ID:9xIGFRrFjE
〜〜〜朝〜〜〜

━━━教会━━━

ワイワイガヤガヤ

ダンッダンッ ダンッダンッ

神父「なんなんだ、この騒ぎは!?」

シスター「それが朝から教会の前に大勢詰めかけていて……」

ダァンッ!

シスター「ひっ!」ビクッ

「おい!この記事はどういうことだぁ!?」

「司祭が夜な夜な城に入り浸って豪遊してると聞いたぞぉ!?」

「しかも王都北の領主、クライリーと別室に消えたとか!」

「貴族を誘惑してカーテンの奥で密かに……なんて汚らわしい!」

「あなたを信じた私達を騙して裏では貴族との遊行に耽っていたんですか!まったくおぞましいお方だ!!」

「司祭を出せ!言い訳の一つもしてみたらどうだ!?」

ギャーギャー ギャーギャー!

神父「ラチがあかないな…。司祭様は?」

シスター「さぁ……まだ帰られていないみたいで」オロオロ

神父「まさか……い、いや!そんな筈はない!あのお方は清廉潔白だ!」

シスター「どうしましょう……?」オロオロ

神父「司祭様の帰りを待つしかないだろう…。きっと納得のいく説明をしてくださる」

シスター「そう……ですよね」
197: ◆WEmWDvOgzo:2020/3/19(木) 22:43:14 ID:9xIGFRrFjE
━━━裏通り(ホビット居住区)━━━

ザワザワ ザワザワ

裏通りのホビット1「ねえ、聞いた!?」

裏通りのホビット2「聞いたも何も……そこかしこ、その話で持ちきりだよ!」

裏通りのホビット3「こないだ城に抗議しに行ってくれたばかりなのに!」

裏通りのホビット4「し、信じないぞ!絶対に嘘だ!」

裏通りのホビット5「司祭様が僕らを騙す筈ないよ!」

新聞屋「号外!号外だよー!なんとホビットの居住区を裏で取り引きしていたのは司祭様だった!!」バサバサッ

商人1「早朝から、あの調子だ!新聞屋め!儲けようとしてやがんな!」

商人2「そりゃ儲かるだろうさ。誰だって買いたがるネタだ。チキショーめ」

商人3「国王様に並んで圧倒的支持を誇る教団の司祭が夜会に繰り出し、乱痴気騒ぎときたもんだ!こんな派手な噂はねぇ!」

商人4「これが事実だった日にゃ大ごとだぞぉ!今のうちに乗っかる算段を立てておかねぇとなぁ!」

商人5「おうよ!この裏通りが貴族御用達の歓楽街になるってんなら商売人にしてみりゃうってつけの狙い目だぁ!」

ギャハハハハハハハハハ!

裏通りのホビット’s「……!」ググッ
198: ◆WEmWDvOgzo:2020/3/19(木) 22:45:30 ID:9xIGFRrFjE
━━━王都北領地、領主邸━━━

ワァーワァーギャーギャー!

記者1「どういう事なのか説明してください!昨夜、城で何があったんですか!?」

記者2「司祭様と一夜を明かしたのは本当なんですか!?」

記者3「国民の税金で夜会が開かれているというのは事実なんですか!?」

憲兵1「下がれ!下がれ!」

憲兵2「通行の妨げになる!全員解散しろ!」

記者4「なら邸内に入らせてください!領主様に直接、取材したいんだ!」

憲兵3「ダメだ!領主との接触は一切禁止する!」

記者5「あ!今のは報道の自由を否定した発言として、しっかり記録させてもらいますよ!」カキカキ

憲兵3「なっ!よ、よせ!」アセアセ

憲兵4「いいから解散しろ!これ以上騒ぎを起こすなら署に連行するぞ!」

記者1「ちっ!この事は真っ先に記事にするからな!」

記者2「出直そう!また改めて発表がある!」

記者3「そう言って抜け駆けする気だろ!記事は鮮度が命だからな!」

記者4「絶対にウチが一番に書くぞ!他の新聞屋に遅れるなよ!」

憲兵1「帰れと言うのが分からないか!」

憲兵2「たく!これだから記者ってのは……」ブツクサ
199: ◆WEmWDvOgzo:2020/3/19(木) 22:50:11 ID:9xIGFRrFjE
━━━王都北領地(領主邸内)━━━

クライリー「なにもこんな厳重警備を敷いてくださらんでもなぁ」

団長「窮屈やもしれぬがご容赦願おう。我々とて予想し得ぬ事態に急遽、駆り出された次第だ」

クライリー「はは!そりゃご苦労なことだ。茶でも入れさせようか?」

団長「お気遣い痛み入る。が、結構だ。警護に集中したい」

クライリー「遠慮はいらないさ。それとも酒がお好みかな?」

団長「もってのほかだ」

クライリー「お堅いなぁ。司祭様は景気よく飲んでたものだが」

団長「」ピクッ

クライリー「そりゃもうたらふくと浴びるように酒を煽って……はは!いやぁいい飲みっぷりだったよ!」

団長「……」

クライリー「おっと!憲兵さんの前じゃまずかったか?」ニィィ

団長「くれぐれも迂闊な発言はなさらぬことだ」

クライリー「?」

団長「新聞屋がよからぬ記事を書き、面白おかしく囃し立てておる。彼らは想像力が豊かだ」

クライリー「別に構わんよ。なんなら取材に応じたっていい」

団長「出回った内容次第では己の首を絞める結果になりかねませぬぞ」

クライリー「ご冗談?書かれて困るのはおたくらだろ?」

団長「なに……?」
200: ◆WEmWDvOgzo:2020/3/19(木) 22:57:44 ID:9xIGFRrFjE
クライリー「身辺警護と謳っちゃいるが実際は情報規制だろ?
関係者を監視しといて余計な事は喋らせねぇ魂胆だ?」

団長「……」

クライリー「図星か。怖いなぁ、政治ってやつは?同じ国に仕える仲間でさえ圧力に掛けやがる」

団長「貴公がどう思おうと構わん。我々は任務をまっとうするまでだ」

クライリー「あきれるな。誤魔化す気もないか」

団長「誤魔化すとは?」ジロッ

クライリー「ジョークだよ。そう怖い顔なさんな?」

団長「……先に話したが我々の許しなく外出する事は許さん。外部との接触もだ。よろしいな?」

クライリー「領主の務めはどうするんだ?」

団長「室内で可能な公務をこなしてもらう。無論、我々も協力は惜しまん」

クライリー「ははぁ?そりゃいい?資料を検閲して外と通じ合うのを避けるお手伝いかい?」

団長「混乱を防ぐ為の一時的措置だ」

クライリー「あぁ、そう。そりゃありがたいな。鬱陶しくて助かりますよ」

団長「引き続き、部下を警護に当たらせる。後は任せたぞ」スタスタ

憲兵5「ハハッ!」ビシッ

クライリー「おいおい、領主の警護から指揮のあんたが離れるのか?」

団長「鬱陶しさがマシになっていいだろう?」ガチャッ

バタンッ

クライリー「(ふん……苦し紛れもいいとこだな。だが、もう遅いさ。公爵は徹底的なお方だ)」ニヤリ
201: ◆WEmWDvOgzo:2020/3/19(木) 23:05:18 ID:9xIGFRrFjE
━━王都議事堂━━━

高官1「この記事は本当なのか……!?」ワナワナ

高官2「どうやら事実らしい。付き合いで招かれた、こちら側の役人も昨夜、この目で見たと……!」

高官3「朝から城内は目撃者の証言で持ちきりだ!むしろ貴族連中が積極的に吹いて回り、そこら中の記者が飛びついてるぞ!」アセアセ

高官4「なぜ司祭殿はあのような夜会に出席したのだ!?」

高官5「分からん!しかし本人が希望したのは間違いないそうだ……!」

高官1「っ……この記事はどこまでが真実だ!?」クシャッ

高官7「さてな……。真偽の見分けもつかん程、証言が一致しているのは確かだ」

高官2「陛下は聞き及んでいるのか?」

高官4「相変わらず自室にこもり、粛々と公務をこなしておられるよ」

高官6「表舞台に姿を見せず幾月か……いったい、いつまでそうしている気なんだ……」

高官7「そんなものっ……我々は知る由もないわ!」ギリッ

高官8「……この場で騒ぎ立てても仕方ない。事実に関わらず収拾を図ろう」

高官1「だがっ……!」

高官8「後になってデマでした、では済まされんだろう」

高官1「事実であれば隠蔽と見なされるぞ!陛下の意に反する!」

高官6「許容の範囲内ではないか?」

高官2「当の陛下も議会を空けたままだしな」

高官1「そ、それはそうだが……」

高官5「司祭はどうしている!?当人から連絡はないのか!?」

高官4「報告は届いてないな。捜させてはいるが……」

高官1「と、とにかく司祭から話を聞いて事実確認をしたらどうだ!?」

高官3「しかし見つからんことにはなぁ……」

高官8「現状、出来ることから優先するべきではないか?」

ワァーワァーギャーギャー!
202: ◆WEmWDvOgzo:2020/3/19(木) 23:08:11 ID:9xIGFRrFjE
〜〜〜2日後〜〜〜

━━━西の領土・聖堂(廊下)━━━

ヒソヒソ ヒソヒソ

「ねぇ聞いた?」

「もちろん!」

「驚いたわよねぇ、まさか司祭様が……」

『あんな淫売だったなんて!』

「あたし知ってるのよ。司祭様ったらクライリー様だけでなくて以前の大臣とも関係があったの」

「やだぁ!そうなのぉ!?」

「誰とでもするのね。いやらしい」

「誰とでもなんて滅相もない。地位を得る方とだけよ〜?」ニヤッ

「不潔だわ!ひょっとしたら国王陛下から懇意にされてるのも……?」

「十分考えられるわね。特に陛下はまだ幼く純情な男児……慰めて籠絡するのなんて簡単でしょう」

「ふふ!範囲まで広いのね。ゾッとしちゃう」クスクス
203: ◆WEmWDvOgzo:2020/3/19(木) 23:14:07 ID:9xIGFRrFjE
「だけど……まずいんじゃない?このところ悪い噂ばかりで信者からの苦情も絶えないし、お布施もガクッと減ってるらしいよ?」

「それならまだしも改宗するって言い出す人達もいるとか?」

「え?」

「知らないの?最近、新しい宗派が立ち上がってるの」

「あ!あたし知ってるわよ?外で紙を寄越されたの!たしかぁ……」

「聖教新聞でしょ?」

「そう!それ!」

「へぇ……なんていう宗派なの?」

「えーと……名前は?」

「サイレンス大聖団、でしょ?」

「そうそう!よく覚えてんね!ところで、それって何を教えてるの?」

「さぁ?ただあの大聖団で支給してる修道着のデザインがすごくいいって評判なのよ」

「なにそれ気になる!」

「聖教新聞読まなかったの?」

「うん。あんまり興味もなかったから」

「なんでも担当する役目や位、それぞれに異なる衣装が用意されていて。
しかも一流のデザイナーら全面協力の上で作られた高級ブランドモデルの修道着がタダで支給されるんですって?」

「すご〜い!」

「ああ〜……この白地に青の刺繍が入った服も嫌いじゃないけど一種類だけっていうのは気になってた〜」

「ふふ。いいじゃない。改宗しちゃえば」

「え?」

「服、欲しくないの?新しい物を着なくちゃ異性に言い寄られないわよ?」

「で、でも……そんな簡単に……」

「そんなのあたし達の自由よ。それに……司祭様だって素敵なドレスを着て社交場にいたんだもの。なにが悪いの?」

「そう言われると、そうかも……」

『改宗、しちゃう?』
204: 名無しさん@読者の声:2020/3/19(木) 23:20:33 ID:9xIGFRrFjE
ーーー王都(噴水広場)ーーー

ワァーワァー ワァーワァー

聖団員1「はいはい押さない押さない!まだまだ新聞はありますからね!」バサッ

客1「1枚!」

客2「私も!」

客3「俺もだ!」

町娘1「サイレンス大聖団の聖教新聞読んだ?」

町娘2「うん、喜劇役者のリオーナが入信したってね。ファンだから嬉しい!」

青年1「はは!どうだ!この団服!イカしてるだろ!これでオレも聖団員の仲間入りだ!」ファサッ

青年2「いいな!俺も早く入りたいなぁ。入信希望者が多すぎてなかなか受け付けてもらえないよ」

聖団員1「さぁ、そこのあなたも!どうぞお手に取ってください!真実が書かれていますよ!」バサッ

老人1「うぅむ……そんなに教団が腐敗しきっとったとはな」ペラッ

老婆1「嫌な世の中になったもんじゃ。くわばらくわばら……」

聖団員1「悲しきかな!我々の信心を裏切った教団や王政から発行される記事は嘘にまみれています!
しかし我々サイレンス大聖団の聖教新聞は権力に屈せず真実を伝えますよぉ!」バサッバサッ

ワァーワァー! ワァーワァー!
205: ◆WEmWDvOgzo:2020/3/19(木) 23:33:54 ID:9xIGFRrFjE
お待たせしてすみませんでした!
また少しずつ書かせていただきます!
自分の執筆環境が以前と変わっていてペースが大幅に落ちるのですがお付き合いいただけましたら幸いですm(_ _)m
206: 名無しさん@読者の声:2020/4/23(木) 17:57:29 ID:LxsVJVnPGM
完結するまで見続けます
コロナで大変な時期ですので、ご自身の健康第一で執筆なさってください!
207: ◆WEmWDvOgzo:2020/5/5(火) 20:30:26 ID:LsHLnxDW2A
>>206
ありがとうございます!
自分の周囲でも影響が出てますが必死に頑張ってます
一緒にこの厳しい現状を乗り切っていきましょう!
208: 名無しさん@読者の声:2020/8/9(日) 00:27:22 ID:MreiM5x5Co
更新来てた!やったーありがとうございます!

クライリーめ…
サイレンス大聖団がとてもきになるなぁ

このようなご時世なので、お身体にはじゅうぶんお気をつけください
焦らず無理せず、作者さんのペースで頑張ってくださいね
209: 名無しさん@読者の声:2020/9/25(金) 20:17:55 ID:AEhVLUs8qo
更新されるまでの間にと思って最初から読み返してるけど、一番最初のスレの>>812のチキチキパンパン噴いたwwwシリアス展開だったのにwww
作者さんのこういうセンス大好きだ!
初登場時はただの駄々っ子だったヒメも、疑うことを知らなかったカロルもぐんぐん成長していってるし、物語の奥行きが深くて凄く考えさせられます
何度でも読み返しては新しい発見あるし、作者さんのこと尊敬してます
210: 東京名無しンピック2021?:2021/8/6(金) 01:44:24 ID:UI6QUue4Pc
やっと追い付いた!
支援
211: 名無しなのよ:2023/8/19(土) 22:29:45 ID:sLEViBNQkQ
支援
212: 名無しなのよ:2023/11/22(水) 15:52:26 ID:u7hIzhSTBs
更新待ってます!しえん
213: 名無しなのよ:2023/12/17(日) 08:09:57 ID:FfqO1ditts
何年だって待ってます
214: ◆WEmWDvOgzo:2023/12/18(月) 22:10:18 ID:hiov.r88ZA
ーーー王都(ハリアンス家の屋敷)ーーー

公爵「どうやら都は賑わっておるようですな」

総局長「はい!それはもう!うちの記事もとんでもない売れ行きで!」ヘコヘコ

公爵「ふふ、庶民というのは噂話が好きなものだ」

総局長「嘘か真かを問う前に感情が先走る生き物ですから!」

公爵「恐ろしいものですよ。私は君にほんの些細な出来事を耳打ちしただけなのだが、いつの間にやら都を揺るがす一大事なんだものなぁ」

総局長「当局のモットーは徹底的な真実の究明です!たとえ不確定だとしても疑惑あれば根掘り葉掘り世間に公表する!これぞ記者魂の賜物ですよ!」

公爵「んぅむ。物は言いようですね」

総局長「ははは!不透明な政治を嫌い、我々記者に報道の自由を与えてくださった国王陛下に感謝を込めて権利を行使しているまでです!」

公爵「まあ持ちつ持たれつといこうじゃありませんかね。記事に困ったらこうして茶を飲みながら私と世間話をしたらいい」

総局長「毎日と伺いたいところです!閣下のお屋敷では良い"茶葉"を使っておられますからね!」ヘラッ

公爵「いつでも来なさい。極上の"茶"でもてなしますよ」ニヤッ
215: ◆WEmWDvOgzo:2023/12/18(月) 22:11:52 ID:hiov.r88ZA
公爵「あぁ、ところで小耳に挟んだのだがね」

総局長「!」バッ

公爵「ふふ、さっそくメモを取り出して熱心なことだ」

総局長「良い茶葉を仕入れられましたか?」ヘラヘラ

公爵「口に合うかは君次第ですが」

総局長「」ゴクリ

公爵「サイレンス大聖団に名だたる有力者らが入信するらしい」

総局長「ほほう?近頃話題の尽きないあの謎の団体ですか」メモメモ

公爵「そこにダィール卿やソメリア卿を中心に貴族が名を連ねるとか」

総局長「ふむふむ!それはスクープですが……」

公爵「香りが足りませんか?」クスッ

総局長「いやぁなにしろ国民は鈍感ですからねぇ。鼻がバカになるくらい強い香りと刺激を求めてるんですよ。人気の役者や豪商たちの中に混じってはその名も霞むでしょうし」ポリポリ

公爵「フッ……ではそこに私の名も並ぶ予定だと言ったら?」

総局長「え!?」

公爵「しかも教皇の座に就くのですよ」ニンマリ

総局長「きょ、教皇ってもしや……サイレンス大聖団は……!?」

公爵「いかにも。私の作った組織ですよ」ニヤニヤ
216: 名無しなのよ:2023/12/18(月) 22:13:11 ID:hiov.r88ZA
総局長「こ、これはまさしく大スクープだ!!」カキカキ

公爵「おっと。待ちなさい」

総局長「」ハッ

公爵「まさか全てを記事にするつもりですか?」

総局長「も、もちろん公爵閣下の作られた組織である事は伏せておきます!」アセアセ

公爵「そうですね。それが良いでしょう」

総局長「題名は教皇に選ばれし神の代理人ハリアンス公爵、私達信徒に説いた福音とは?といった感じでいかがでしょう?」

公爵「構いませんとも。筋書きもお任せしますよ」

総局長「は、はい!考えておきます!」

公爵「さ、今日は茶を切らしてしまいました。また近いうちに仕入れておきましょう」

総局長「分かりました!今日のところはおいとまさせていただきます!いつも美味しい茶をありがとうございます!」ヘコヘコ

公爵「ええ、ではまた」

総局長「失礼します!」
217: 名無しなのよ:2023/12/18(月) 22:14:31 ID:hiov.r88ZA
ーーー王都(噴水広場)ーーー

総局長「……」タバコスパー

ワァーワァーキャーキャー!

女の子1「うちのママがね!サイレンス大せーだんに入れてくれたの!」

女の子2「いいなぁ!うちも入りたーい!」

男の子1「サイレンス大せーだんに入ると月1で馬車で楽しいとこに連れてってくれるんだってよ!」

男の子2「そうなんだー!俺も母ちゃんにお願いしよっかな!」

青年1「やっぱ今どき教団なんか古いよな。サイレンス大聖団に入信しなきゃ流行りに乗り遅れるよ」

青年2「お前流行りで宗派選ぶなよなー」

青年3「まあ実際、教団だって最近はそんな厳しい決め事はないし宗教なんて遊びのサークル感覚で選べばいいんじゃね?」

青年4「王国は一応宗教国家だからな。でもどの宗派にするか選ぶ権利は俺たちにあるんだ。面白い方にいこうぜ」

青年5「入信はホビット以外なら誰でも可だからな!気楽でいいや!」

老婆1「サイレンス大聖団はわしらのような年寄りにも居場所を与えてくれなさる。若い聖団員の方々も優しくしてくれるし会合が楽しみでしょうがないわい」

老婆2「うちの爺さんもすっかり夢中じゃて」

老人1「おぉ〜サイレンス神さま!なまんだぶなまんだぶ!」

総局長「子供から年寄りまですっかり骨抜きにされてやがる。どこまでも恐ろしいお方だよ……」タバコプカプカ

総局長「(まさか知らない間に俺たち新聞屋まで抱き込んで一大宗教を作ってたとはな。サイレンス大聖団の聖教新聞を扱ってるのはウチだぞ?)」

総局長「(一時期は国王陛下の英雄譚一色だった空気も呑まれ、キナ臭い香りが漂ってきやがった)」

総局長「(こりゃ政府が傾くのも時間の問題かもなぁ)」

総局長「ま、俺は売れる記事が書けりゃなんでもいいけどよ」ジュッ グリグリ
218: 名無しなのよ:2023/12/19(火) 07:34:09 ID:FfqO1ditts
更新来てた嬉しい
作者さまのペースで無理なく進めていってください

サイレンス大聖団の、というか公爵の手腕が素晴らしすぎて着々と世に広まっていってて怖いですね
219: ◆WEmWDvOgzo:2023/12/19(火) 22:48:03 ID:hiov.r88ZA
ーーー城内(副官室)ーーー

ガチャッ

侍女「コーヒー入りました」

政務官「置いてくれ」

侍女「はい。温かいうちにどうぞ」コトッ

政務官「ありがとう」ズズッ

侍女「……お連れ様はホットミルクでよろしかったですか?」コトッ

宣教師「ええ、ありがとうございます……」

侍女「いえ、では失礼します」ペコリ

バタンッ
220: 名無しなのよ:2023/12/19(火) 22:48:49 ID:hiov.r88ZA
政務官「知っているか?コーヒーというのは南の国が原産らしい」

宣教師「そうですか……」

政務官「我が王国領でも南には豆農家があり、栽培が盛んだそうだ」

宣教師「なるほど……」

政務官「私はコーヒーが好きでな。自分で配合した豆を挽いて味わうのがもっぱらの日課なんだ」
 
宣教師「そうなんですね……」

政務官「職業病とも言われるがね。この仕事はなにより睡魔との戦いでもある」

宣教師「はあ……」

政務官「人間、集中力を切らせば終わりだ。我々のような人種は特に」ジロッ

宣教師「……」

政務官「我々役人が眠気を押して働く最中にあなたは貴族との交流を嗜んでいたらしい」 

宣教師「……はい」

政務官「美味かったか?」

宣教師「……」

政務官「公爵と飲む酒は美味かったのかと聞いているんだ!?」ダンッ

宣教師「」ビクッ
221: 名無しなのよ:2023/12/19(火) 22:49:37 ID:hiov.r88ZA
政務官「なぜあんな真似をした……!?」

宣教師「……」

政務官「私が公爵派に忍ばせた間者から夜会に司祭が出席していると聞いた時は耳を疑ったぞ」

宣教師「……」

政務官「しかも公爵や太后陛下に接触し、潰れるまで酒に溺れていたと」

宣教師「……」

政務官「私がいち早く手配し、身柄を保護したからよかったものの万が一王都の民の前に変わらず姿を現していたら今頃は暴動になっていただろう」

宣教師「恐れ入ります……」
222: 名無しなのよ:2023/12/19(火) 22:50:00 ID:hiov.r88ZA
政務官「まんまとハメられたな。あなたの思惑がどうであれ夜会に出席した時点で公爵の手の内だったのだ」

宣教師「私は……自分の意思で参加したつもりでした」

政務官「だがそうではなかった。あなたが頼ったクライリーとかいう領主も公爵の一味だったのだろう」

宣教師「あの方は以前から教団の活動に協力的でボランティアやホビットの保護活動にも積極的に参加してくれて……」

宣教師「平民の出だった自分と同じように環境に恵まれなかった人たちを助けたいと熱心に語ってくれたんです」

政務官「またありがちな……」

宣教師「 親を失った子どもたちにも気さくに声を掛けて励ましたり年末の時期にはプレゼントをあげて喜ばせたり、ご自身も里親として教団で預かっていた子を引き取ってくれたんです……」

宣教師「そんな人が騙していたなんて……私には信じられなかったんです……!」ウルッ

政務官「……」ハァッ
223: 名無しなのよ:2023/12/19(火) 22:50:33 ID:hiov.r88ZA
政務官「典型的な"政治"だな……」

宣教師「……!」ググッ

政務官「あなたはヤツが夜会の恒例メンバーである事を知っていたのか?」

宣教師「……付き合いで仕方なくと話していました」

政務官「出席を促されたことは?」

宣教師「冗談混じりではありますが『試しに来てみるかい?』と持ちかけられた事がありました……」

政務官「分かりやすい呼び水だ。もし公爵との繋がりを持ちたい時には自らを頼るように仕向けている」

宣教師「今にして思えば軽率でした……」シュン

政務官「なぜ一言でも私や陛下を通そうと思わなかったんだ?」

宣教師「城下の混乱を聞きつけていても立ってもいられませんでした……」

政務官「っ……ことの重大さを分かっているのか!?」

宣教師「返す言葉もありません……」
224: 名無しなのよ:2023/12/19(火) 22:51:54 ID:hiov.r88ZA
政務官「ここにきて国民の信用を失うことは国王陛下の失墜を意味するのだ!!」ダンッ

宣教師「……すみません」

政務官「あなたの失態によって世論は今、完全に傾いているんだぞ!」

宣教師「っ……」

政務官「巷ではサイレンス大聖団だのいう新興宗教が幅を利かせ、教団を追いやる勢いだそうじゃないか」

宣教師「彼らのことはあまり知りませんが……そこまで意識していませんでした」

政務官「大勢の信者がそちらに流れ込んでいるようだぞ」

宣教師「信仰や教えは強制するものではないので……」

政務官「それではダメだ」

宣教師「……?」

政務官「教団もあくまで王政府の一部であって立派な政治的武器だ。信徒を減らすことはすなわち国王陛下の威光を下げることに他ならぬ」

宣教師「政治的……武器……?」

政務官「いいか。今の王国はある意味では先刻の西国との戦争を凌駕する大きな危機に瀕している」

政務官「悠長に構えていると瞬く間に崩壊するのだぞ」

宣教師「……」
225: 名無しなのよ:2023/12/19(火) 22:52:18 ID:hiov.r88ZA
宣教師「その……一つよろしいでしょうか」

政務官「なんだ?」

宣教師「教団が政治的武器というのはどういう意味ですか?」

政務官「……気に入らないか?」

宣教師「いえ、ただ私には分からなくて……」

政務官「……我が国の歴史を紐解けば分かることだ」

宣教師「……?」

政務官「王国は代々王政とは名ばかりの傀儡政権で実質宗教によって支配されていた」

政務官「その流れを断ち切ったのが国王陛下であり、救い主であり、教団の現司祭、つまりあなただ」

政務官「ここ数年で政治は国王の下に行われ、ホビットは人との融和を実現し、教団は支配から遠のいた」

政務官「あなたの教えに従う新生教団は伝統から生まれ変わり、新時代を象徴するものとなっていたのだ」

宣教師「皆さんが信じてくれたから実現したのであって私たち自身がどうという訳では……」

政務官「そうかもしれない。だが綺麗事を言ったところで仕方あるまい。国民は王政府と教団が協力関係にあると理解している」

宣教師「……教団を引き受けたのはヒメくんに頼まれたからですが活動そのものは私の理念に基づいていました。癒着とは違います」

政務官「しかしあなたも陛下も救い主に心動かされ、同じ理想を求めたのだろう?」

宣教師「それはそうですが……」

政務官「ならば同じ道を行く同志だ!違うのか?」

宣教師「だからと言って私達が作り上げた大切な団体をまるで道具のように扱われるのは……」

政務官「しかし……」

宣教師「以前あなたに説得されて戦争に協力した時にも王国のやり方は変わってないと揶揄しましたが……それでも気持ちの面では通じ合ってると信じていたから私達は良い関係を築いていられたんです」

政務官「……すまない。言い方が悪かった」
226: 名無しなのよ:2023/12/19(火) 22:52:43 ID:hiov.r88ZA
宣教師「私が悪いのは分かってます……。余計なことをしたばかりに迷惑をかけてしまって」

宣教師「でもあなたやヒメくんに相談出来なかったのは……不審に感じていたから」

政務官「不審……?」

宣教師「最近ヒメくんの様子がおかしいとカロルくんから聞きました」

政務官「そ、それは……」

宣教師「私も感じています。明らかに以前の彼ではなくなっていると」

政務官「……!」

宣教師「なぜ彼はカロルくんを軟禁しているのですか?」

政務官「わ、分からん……。私は直接救い主と関係していないのでな」

宣教師「街では北国との戦争が始まるとビラが撒かれていました」

政務官「ああ、そのようだな……」

宣教師「せっかく王都に馴染んでくれたホビットのみなさんを追い出そうとする動きも見られます。それも内部の縺れによるものなのですか?」

政務官「くっ……」

宣教師「城内では王政府側の派閥から何人も貴族側に引き抜かれてるとも聞いています。今この国では何が起こっているのですか?」

政務官「……順序立てて説明してやりたいが私も暇ではない。ただでさえ貴重な時間を奪われているんだ」

宣教師「全てを話すのが無理なら一つだけ聞かせてください」

政務官「……?」
227: 名無しなのよ:2023/12/19(火) 22:53:09 ID:hiov.r88ZA
宣教師「あなたの焦りもヒメくんの変化が関わっているのですか……?」

政務官「……ああ」

宣教師「ヒメくんに何が……?」

政務官「さあな……」

宣教師「彼に会わせてもらえませんか?」

政務官「それは無理だな。近頃の陛下は議会にすら出席されん」

宣教師「それなら直接……」

政務官「試みたよ。何度も話し合った」

宣教師「……」

政務官「あれは心の病だ。触れれば触れるほど悪化する……」

宣教師「……!」

〜〜〜回想〜〜〜

宣教師『…呑まれないといいですけどね』

団長『……?』

宣教師『いくら成長したとはいえ、彼はまだ子供です。課せられた使命や人の期待をどこまで背負いきれるか』

……………

宣教師「……現実になってしまったんですね」ボソッ
228: 名無しなのよ:2023/12/19(火) 22:53:39 ID:hiov.r88ZA
宣教師「分かりました……」

政務官「……?」

宣教師「私は何をすればいいですか?」

政務官「……」

宣教師「あなたにお任せします。たとえ道具のように扱われても……ヒメくんもカロルくんも、そしてたくさんの人たちが救われるのなら」

政務官「……すまない」

宣教師「こちらこそごめんなさい。頼ることしか出来なくて」

政務官「そんなことは……」

宣教師「私たちはいつも簡単に理想を口にするけれど、それを実現する為に動いてくれてるのは現実を口にするあなたのような人たちですから」

政務官「……その理想がなければ人々は付いてこない。今までもそうだったんじゃないか?」

宣教師「そうですね。あの大樹での永遠の命を巡る争いが遠い昔のよう。あれはまさに理想を追い求めた戦いでした」

宣教師「でも今は違います。理想を守る為にあらゆる現実に立ち向かっている」

宣教師「その結果、幼い子たちが絶望し、苦しんでいるのなら私も現実を見なくてはいけません」

政務官「幼子などとは思わんが……陛下を支えるのが私の務めだ。存分にあなたを利用させてもらう」

宣教師「遠慮なく使ってください。私に政治は向かないので」ニコッ

政務官「ふん……」クスッ
229: 名無しなのよ:2023/12/19(火) 22:54:08 ID:hiov.r88ZA



宣教師「まずは教団の信用回復を図りますか?」

政務官「もちろんだ。だが今はその時ではない」

宣教師「サイレンス大聖団を見極めてからですか」

政務官「まあな……」

宣教師「私の知る限り彼らは神や教えといった主張らしい主張をしていませんが、いったいどうやって信徒を募っているのでしょう?」

政務官「調べさせたいところではあるがあいにくと人手が足りなくてな。教団から一部の人間に声を掛け、調査させるのが妥当だろう」

宣教師「ふむふむ。それなら私が潜入しましょうか」

政務官「……本気か?」

宣教師「どのみち私はしばらく身を隠さなければなりません。下手に公爵派の目がある城内にいるより姿を変えて大聖団の一員として振る舞った方がよいのでは?」

政務官「それはそうかもしれんが万が一正体が割れたらどうするつもりだ?」

宣教師「サイレンス大聖団には各界から大物の方が入信されていると聞きますし私もその1人だと言えば信じるでしょう。なんせ世間から私は誰にでも身体を委ねる淫売と囁かれてますから」

政務官「そんな真似をしてみろ。教団の名が地に堕ちるぞ」

宣教師「経験上ですが危険を犯さなければ何事も成し得ません。私達の戦いはいつも0か100でした」

政務官「……」

宣教師「お願いします」

政務官「(たしかに彼女は1人の宣教師として教団の闇を暴こうと立ち上がり、幾度も死線を潜り抜けてきた。
私も北国の問題に掛かりきりで国内には目を向けられん……。ここは任せてみるべきか)」

宣教師「私にやらせてもらえませんか?」ジッ

政務官「……サイレンス大聖団の弱みを握り、教団の信頼を回復させる。それがあなたの役目だ」

宣教師「分かりました」ニコッ
230: ◆WEmWDvOgzo:2023/12/19(火) 22:58:49 ID:hiov.r88ZA
>>218
すみません。
前回も3年待たせてしまって今回も気付けば3年経っていました……。
正直、自分でも謝罪も感謝も薄っぺらな嘘に思えるほど毎回裏切ってしまっています。
ですが更新を待ってくれている人が1人でもいる事が心から励みになっています。
いつもありがとうございます。
待たせてしまってごめんなさい。
もしまた待たせてしまったらごめんなさい。
更新できるように頑張ります。
231: 名無しなのよ:2023/12/20(水) 13:57:56 ID:7fuLV14Ddo
>>230
大丈夫です。いつだって何年だって、完結するまで、ずっとここで待ってますから作者さんの気が向く時筆がのる時に進めてくだされば幸いです
日中との寒暖差があって風邪ひきやすい時期ですのでご自愛くださいね
232: ◆WEmWDvOgzo:2023/12/21(木) 21:28:12 ID:hiov.r88ZA
ーーー王国領北の町ーーー

キャッキャッ ワイワイ

宣教師「……」ザッ

『サイレンス大聖団は王都から外れた北の町に本部を置いている。今、分かっていることはそれだけだ』

『入信希望者は皆、一度ここを訪れて入団手続きを受け、無事審査を通れば正式な一員となれるらしい』

ゾロゾロ ゾロゾロ

聖団員1「はい、入信希望の方はこちらにお並びくださーい!」

宣教師「」スッ

聖団員2「順番の方こちらへどうぞ。まずは瞳を見させていただきますね」

宣教師「どうぞ」メガネハズシ

聖団員2「はい、問題ありません。係の指示に従って行ってください。次の方〜」

宣教師「(最初に瞳の色を見てホビットでないか確かめるんですね)」スタスタ

聖団員3「お待たせしましたー!こちらで採寸を取らせてくださいね!」テキパキ

宣教師「(あとは採寸を取り、サイズの合う団服を支給する。つまりたったあれだけで審査は通過してるのですね)」
233: 名無しなのよ:2023/12/21(木) 21:29:20 ID:hiov.r88ZA
宣教師「(拍子抜けするくらい簡単に潜入出来ちゃいました)」

聖団員4「採寸を終えた方どうぞ!最後に簡単な質問をさせてください!」

宣教師「分かりました」

聖団員4「教団の司祭……」

宣教師「!?」ドキッ

聖団員4「についてどんなイメージがありますか?」

宣教師「あ、ああ……そ、そうですね。司祭ですか。えーと(バレたかと思いました……)」ドキドキ

聖団員4「いえね、私達サイレンス大聖団はともかく教団の古参の方たちは異教を嫌うでしょう?
トラブルにならないよう入信前に教団の信者か確かめておかないといけないんで」

宣教師「異教を嫌う、ですか?私達……いえ、教団はそんなことを気にしないと思いますけど」

聖団員4「えーウソですよー。現に対立が生まれてますもん。熱心な教団の信者の人たちは私達を怪しい団体だって決めつけて腫れ物扱いしてくるんですよー?」

宣教師「それはサイレンス大聖団が一方的に教団を貶める内容の記事を流してるからでは?」

聖団員4「いやいや私達は真実しか伝えてませんしー?なんで私達が悪いみたいになってるんですかー?」プクー

宣教師「わ、悪いというか……」

聖団員4「あなたもしかして教団の信者です?」ジト

宣教師「……!」タジッ
234: 名無しなのよ:2023/12/21(木) 21:30:33 ID:hiov.r88ZA
宣教師「(ここはとりあえず自然に乗り切らなければ……)」

聖団員4「さっきから教団を庇うような言い方だしぃ?別にいいんだけどあんな終わってる宗派に義理立ててもしょうがなくない?」

宣教師「そ、そうですね。あなたのおっしゃる通りです……」

聖団員4「でしょ?今どきの若い子はみんなそうですよ?
サイレンス大聖団は難しい教えも厳しいルールもなくて誰でも歓迎だし団服もオシャレで信者同士も和気藹々としてるし楽しいイベントも充実してるんですから!」

宣教師「(たしかに宗教というより地域のコミュニティのような感じですが……)」

聖団員4「多いんですよ。あなたみたいに教団の信者だったっていう人。でも大丈夫!こっちの方が絶対楽しいですから!」

宣教師「……」

聖団員4「古いのは忘れて新しい事を楽しみましょ!ね?」

宣教師「そ、そうですね」ニコッ
235: 名無しなのよ:2023/12/21(木) 21:31:54 ID:hiov.r88ZA
宣教師「なんとか切り抜けられました……」フー

宣教師「(楽しい、か。私達は戒律こそ厳しくないものの差別を無くすというはっきりとした目標を持って活動してる)」

宣教師「(若い人たちにとってはそういうものが重苦しく感じるのかもしれませんね……)」

青年1「今日は入信した人気の役者たちが演劇を披露してくれるってよ!」

青年2「俺、生の女優見るの初めてだぜ!」

青年3「教団とはやる事が違うよな!あっちじゃ今頃ゴミ拾いだ草むしりだ炊き出しだとボランティアばっかやらされてんじゃないか?」

宣教師「(……ボランティア以外にも礼拝や孤児院の子供達がふれあいの場を作る院外活動など交流はしてますが新鮮味に欠けるのでしょうか)」

若い女1「見てみて!このアクセサリー!オシャレでしょう?」チャラッ

若い女2「すごーい!どこで買ったの?」

若い女1「ブランドに詳しい貴婦人が集会で教えてくれたの!貴族の間でこれが流行ってるんですって!」

若い女2「えー!私も参加したかった!」

若い女1「今度社交会で流行りのメイクを教えてくれるって言うから行こうよ!」

若い女2「やった!絶対行く!」

宣教師「(ふむふむ、若者が好む遊びや流行りをしっかり押さえている。なるほど、これは私たちにはない発想ですね)」

宣教師「町の住人にも聞き込みしてみますか」
236: 名無しなのよ:2023/12/21(木) 21:33:14 ID:hiov.r88ZA
店員1「ほらほら寄った寄ったー!サイレンス大聖団御用達の土産屋だよー!」

店員2「うちは今一番アツい競馬レースだ!勝ち馬を予想して当てたら賞金!まだやった事がないなら試しに賭けてみて!」

店員3「王国貴族ご推薦の素晴らしい品々をご覧あれ!王都広しとはいえこれだけの物を取り扱ってるのはウチだけですよ!」

宣教師「すごい賑わいですね」

町民1「ええ!そりゃもう!サイレンス大聖団様々ですわ!」

宣教師「この町に進出して日が浅いでしょうに」

町民1「そこですよ!私どもも頭が追いつかないくらい急速に変化しちゃって!」

宣教師「(急拵えでところどころテント張りやハリボテで賄っている店舗を豪華な飾りつけや目を引く商品で誤魔化してる訳ですか。
競馬場は広い牧場を借りたのでしょう。町の開発に携わった方々のアイデアと依頼主の徹底した節約が光ってます)」キョロキョロ

町民1「サイレンス大聖団が本部を置いてからこの町はめざましい発展を遂げましたよ。
今まで貴族の間だけで楽しまれた娯楽や贅沢品を惜しみなく私達庶民に流通させてくれたからです!」

宣教師「たしかに……普通なら手の届かないような品ばかり目に入りますね」

町民1「私も今じゃサイレンス大聖団のファンですよ。特に最近は教団も良い噂を聞かないしね」

宣教師「……やはり司祭は信用出来ませんか?」

町民1「俺は話したこともなきゃ会ったこともないからどんな人か知らないですけどねぇ。火のないところに煙は立たずとも言うし……」

宣教師「(今話してるのが噂の張本人だと知ったらどんな顔をするんですかね)」クスッ

町民1「どうしたんです?」

宣教師「あ、いえ。お話ありがとうございました」ペコリ
237: 名無しなのよ:2023/12/21(木) 21:35:15 ID:hiov.r88ZA
町民2「とにかくサイレンス大聖団には感謝してますよ!教団なんかにはもう付いていけません!」

宣教師「皆さんそうおっしゃいますね。聖団はずいぶんと教団を目の敵にしてるみたいですけど」

町民2「逆ですよ!逆!教団が聖団を敵視して頑なに拒んでるんだ!」

宣教師「そうなんですか?」

町民2「実はここだけの話、聖団員が信者に嫌がらせを受けてるんですよ」

宣教師「嫌がらせ?」

町民2「ウチんとこはポストにゴミを詰められたんです」

宣教師「なぜ教団の信者の仕業だと分かったんですか?」

町民2「そんなの簡単です!みんなやられてんですから!」

宣教師「みんなって……証拠はあるんですか?」

町民2「ええ!聖教新聞にしっかり書いてありますよ!教団の嫌がらせ被害が相次いでるってね!」

宣教師「その記事を書いた方はどうやって加害者の信者を特定したんですか?」

町民2「そんなのウチらは知りませんよ!とにかく書いてあるんだから間違いないんですよ!」

宣教師「なるほど……」

町民2「あなたも入信したってことは聖教新聞を取るんでしょう?ちゃんと読んだ方がいい!あれには真実が書かれてるから!」

宣教師「……そうですね。ぜひ読んでみたいです」
238: 名無しなのよ:2023/12/21(木) 21:36:57 ID:hiov.r88ZA
新聞屋1「はい!聖教新聞一部ですね!どうぞ!」バサッ

宣教師「お代はこちらに」チャリンッ

新聞屋1「まいどどーも!」

宣教師「(ずいぶんと分厚いですね。新聞というよりはパンフレットのような見た目ですが……)」ピラッ

『衝撃!!教団の悪事がまたも明るみに!!』

宣教師「(分かりやすい太文字で大袈裟に誇張した表現……これならたしかに目を惹きますね)」ペラッ

宣教師「(寄付金の不正な使い込み……孤児たちに過酷な強制労働……強引な勧誘……札や御守りの押し売り……非入信者への嫌がらせ行為の数々……)」イラッ

宣教師「……」ブンッ

聖教新聞「」バサッ

宣教師「」ハッ

宣教師「いけませんいけません!道ばたにゴミを捨てるなんて聖職者としてあるまじき行為!それこそ記事に書かれてしまいます!」アセアセ

宣教師「(それにしても酷い書かれようですね。以前までの教団ならいざ知らず現在は真っ当な活動しかしていないのに)」

宣教師「(だいたいにしてこの不正な使い込みというのも先日の夜会に出席した件を結びつけて色んな社交会に顔を出しては散財してるなんてでっち上げを並べて!
なんですか、関係者は語るって!あの夜、私以外に教団関係者なんていなかったじゃないですか!)」ムカムカ

宣教師「(孤児院の子供達の強制労働も院外学習でボランティアをした時の出来事を取り上げて悪く書いてますし強引な勧誘や押し売りに至っては私が引き継ぐ前の頃の話でしょうに!)」

宣教師「(非入信者への嫌がらせはさっき町の人も言ってましたね……。でもよく読むと"そうに違いない"とか"見ていた人の話によると"なんていう曖昧な情報や憶測を書き連ねてホントのように見せてるだけ!)」

宣教師「(やっぱりこの団体は何かおかしいですね……!必ず真実を突き止めなければ!)」メラメラ

???「」ジー

宣教師「ん?」

宣教師「(な、なんでしょう。人のことをじろじろ見て?)」ドキドキ

???「ねえ、もしかして」

宣教師「(まさか私の正体に気付かれた……!?)」ハッ

???「宣教師様?」

宣教師「違います!私は決して司祭では……へ?」キョトン

???「覚えてないの?ぼくだよ。ほら」フードヌギッ

宣教師「き、キミは!」
239: 名無しなのよ:2023/12/21(木) 21:39:51 ID:hiov.r88ZA
???「久しぶり」ニコッ

宣教師「ぱ…パッチくん!パッチくんじゃないですか!」パァァ

???(パッチ)「宣教師様ったらひどいや。村で毎日お話聞いてたのに忘れちゃったの?」

宣教師「ご、ごめんなさい!ずいぶん背も伸びて大人びていたので」

パッチ「あれから何年経ったのかな。村で過ごしてた頃が懐かしいね」

宣教師「ええ、キミもルーボイくんもまだ幼くてよく手を焼いていましたっけ」シミジミ

パッチ「ルーボイくんか。よく一緒に遊んでたなぁ」

宣教師「彼も元気にしてますよ」

パッチ「そうなんだ。まあそれくらいが取り柄だもんね」

宣教師「ふふ、本人に聞かれたら怒られますよ?」

パッチ「思い出すなぁ。魚屋のテパ兄ちゃんともよく遊んだし村長はよく勉強を教えてくれたっけ」

宣教師「そうですね。あの村にはとてもお世話になりました」

パッチ「……うん。そうだよね」

宣教師「それよりもパッチくんはなぜここに?今までどうしていたんですか?」

パッチ「僕?そうだね……。親切な人に拾われたんだ」

宣教師「そうでしたか。とにかく無事でなによりです。あなたと再会出来てどれほど嬉しいか……!」ウルッ

パッチ「ありがとう。僕もうれしいよ。宣教師様にまた会えて」ニコッ

宣教師「っ……ホントに、うれしいです」グスッ

パッチ「ここじゃなんだし僕の家においでよ。積もる話もあることだしさ」ニコニコ

宣教師「そうですね。お邪魔させてもらいます」ニコッ
240: 名無しなのよ:2023/12/22(金) 15:10:19 ID:6KwZzvLqkY
パッチ!!懐かしいなぁ元気そうでよかった
でもちょっと怖いぞこの登場の仕方…

つCCCC
241: ◆WEmWDvOgzo:2023/12/22(金) 21:51:40 ID:hiov.r88ZA
ーーー北の町(寄宿舎)ーーー

パッチ「ここだよ」

宣教師「へぇ、立派な建物ですね!学生寮ですか?」

パッチ「そんな感じ。親切な人が僕らの為に用意してくれたんだ」

宣教師「ここに住んでる人はみんな同じ人に拾われたんですか?」

パッチ「そうだよ。今どき僕みたいな境遇は珍しくないしね」

宣教師「キミを助けてくれた上に大勢の人たちを救ってるなんて、とても素晴らしい方なんですね!」キラキラ

パッチ「うん。いい人だよ」

宣教師「機会があれば是非会ってお礼をしたいです。こんなに素敵な再会が出来たんですから!」

パッチ「そうだね。今度会ったら伝えてみるよ」

宣教師「お願いしますね!」

パッチ「そろそろ中に入ろうか。少し歩かせちゃったし宣教師様も疲れたでしょ?」

宣教師「そうですね。キミとゆっくりお話したいですし上がらせてもらいます!」ウキウキ

パッチ「僕もだよ」ニコッ
242: 名無しなのよ:2023/12/22(金) 21:53:02 ID:hiov.r88ZA
バタンッ

宣教師「お邪魔します」

パッチ「どーぞ。狭いけどくつろいでって」ニコニコ

宣教師「綺麗にしてますね。さすがしっかり者のパッチくんです!」

パッチ「あはは、よしてよ。ただ無趣味で物が溜まらないだけなんだから?」

宣教師「そんなことはありませんよ。キミはいつもわんぱくなルーボイくんと対照的に落ち着いてましたし」

パッチ「そうだったかなぁ?」

宣教師「そうですよ。彼なんて未だにガキ大将気分が抜けてないんですから?」

パッチ「そっか。まあ座ってよ。今お茶入れるからさ」トポトポ

宣教師「ありがとうございます。失礼しますね」ストッ

パッチ「はい。大した物は出せないけど」コトッ

宣教師「いえいえ、キミが入れてくれたお茶を飲めるなんてこれほどの贅沢はありませんよ」ニコニコ

パッチ「ふふふ、大袈裟だなぁ。まるでもう会えないと思ってたみたいじゃん?」

宣教師「あ、いえ!そ、そんなつもりじゃ……」アワアワ

パッチ「ほらほら、慌てるとこぼしちゃうよ?」

宣教師「ご、ごめんなさい。でもホントにそういう意味じゃないんです」シュン

パッチ「分かってるよ。ちょっとからかってみただけだって?」クスッ

宣教師「ああ……それなら良かったです」ホッ
243: 名無しなのよ:2023/12/22(金) 21:54:13 ID:hiov.r88ZA
パッチ「僕のこともいいけどさ。宣教師様は何してたの?」

宣教師「私ですか?」

パッチ「うん。わざわざこんな所になんの用で来たの?」

宣教師「それは……王都で話題だったので興味本位で」

パッチ「ふーん。でもさ、宣教師様は今も教団の人なんでしょ?もしかして辞めちゃったの?」

宣教師「えーと、その……辞めたというか……」

パッチ「どうしたのさ?なんかはっきりしないね?」

宣教師「……」

パッチ「ひょっとして聞いたらまずかった?」

宣教師「そ、そんなことは……」ツツー

パッチ「ウソだー?すごい動揺してるもん?」

宣教師「ど、動揺ですか?あ、そうだ!森のくまさん歌いましょうか!」アセアセ

パッチ「それは童謡でしょ!」
244: 名無しなのよ:2023/12/22(金) 21:54:58 ID:hiov.r88ZA
パッチ「ショックだなぁ?久しぶりに会えたのに隠し事されるなんて?」

宣教師「か、隠し事だなんて……」

パッチ「だってそうでしょ?この町に来た理由も話せないなんておかしいじゃん?」

宣教師「で、ですから観光で……」

パッチ「観光ねぇ。サイレンス大聖団になんか入信して?」

宣教師「ど、どうしてそれを!?」ガタッ

パッチ「どうしても何も聖団の団服着てるじゃん」

宣教師「ハッ!そういえば支給されて着替えたんでした!」

パッチ「ははは……昔からそういうとこあるよね?」ヒクヒク

宣教師「これには深い訳があるんです!どうか私が教団の人間だという事はナイショにしててください!」アセアセ

パッチ「別に言わないよ?僕は聖団員じゃないし?」

宣教師「ありがとうございます……!」ホッ

パッチ「でもここに来た理由くらいは話してほしいな?」

宣教師「分かりました…」
245: 名無しなのよ:2023/12/22(金) 21:55:50 ID:hiov.r88ZA
パッチ「サイレンス大聖団を内側から探りに来た?」

宣教師「しっ!大きな声で言わないでください!隣の部屋に聞こえたら大変です!」

パッチ「いや、そんな大きい声出してないよ…」

宣教師「どこで誰が聞いてるか分からないんですから!」

パッチ「気にしすぎだよ。あんなの流行り好きな人たちの溜まり場じゃん」

宣教師「それでもです!なにせ今回の任務は王政府の勅命……あ、いや!勅命というか直面してるんですから!危機に!」アワアワ

パッチ「何言ってるのか分からないよ。お茶飲んで一息付いたら?」

宣教師「」ズズッ

宣教師「はぁ……沁みる……」ホッコリ

パッチ「どう?落ち着いた?」

宣教師「はい。見苦しいところをお見せしました……」

パッチ「とりあえず詳しく話してみてよ。僕も協力出来ることがあるかもしれないしさ」

宣教師「協力してくれるんですか!?」

パッチ「うん。するよ。だって僕は宣教師様の教え子だもん」ニコッ

宣教師「ぱ、パッチくん……キミという子は……!」ウルウル

パッチ「もー!泣かないでよ。相変わらず大袈裟だなぁ?」

宣教師「そんな風に言われたら……泣きたくなるに決まってますよ!」ゴシゴシ
246: 名無しなのよ:2023/12/22(金) 21:56:56 ID:hiov.r88ZA
パッチ「ふーん、そっか。サイレンス大聖団が教団を悪者にして勢力を拡大しようとしてるんだね」

宣教師「そうなんです。それも物凄い勢いで」

パッチ「勉強と仕事で忙しくてあんまりよく知らなかったけど、そんなことになってたんだ?」

宣教師「この町も聖団の台頭によって急成長したと聞いてます。住んでいて感じる事はありませんか?」

パッチ「うーん。どうかなぁ?町は賑わってるけど僕は別に高級服も競馬レースも興味ないし」

宣教師「住人からするとそんなものなんですかね」

パッチ「まあね。観光名所とかって地元の人は案外行かないでしょ?そういう感じだよ」

宣教師「そうですよね。となると町の人たちは聖団に入信してない人がほとんどなのでしょうか?」

パッチ「ううん、みんな入ってるんじゃないかな?」

宣教師「へ?でもあまり関心は持たれてないのでは?」

パッチ「僕なんかは元々よそ者だからね。ずっと住んでる人たちはいい町おこしになって喜んでるよ」

宣教師「なるほど……」

パッチ「それに入信してないと嫌がらせがあるからね。興味なかった人たちもそれで渋々入信してるみたい?」

宣教師「」ピクッ
247: 名無しなのよ:2023/12/22(金) 21:58:09 ID:hiov.r88ZA
宣教師「その話詳しく聞かせてください!」ズイッ

パッチ「ち、近いよ……」

宣教師「大事なことかもしれないんです!」

パッチ「そ、そう?ただ単に聖団入信者は優遇されてそうじゃない人たちは不遇な扱いを受けるってだけだよ?」

宣教師「具体的にお願いします!」

パッチ「たとえば買い物する時に聖団員じゃないと値段を高くされたり公園や厠が聖団の敷地になってて使えなかったりするんだ」

宣教師「町の施設を聖団が所有してるんですか?」

パッチ「うん。特に困るのは水だよ。町には6つの井戸があるんだけど、そのうちの4つを聖団が区切って見張りを立ててるんだ」

宣教師「な、なんて横暴な!元々は町の皆さんが使ってた物じゃないですか!」

パッチ「そうだけど聖団は資金力にものを言わせてるんだよ。町長も領主も抱きかかえられてるんだ」

宣教師「それで町の人たちは仕方なく聖団員に……」

パッチ「そういうこと。僕も聖団服持ってるんだよ?」ビッ

宣教師「あ、壁に掛かってますね。ん?」
248: 支援ご感想ありがとうございます!:2023/12/22(金) 21:59:48 ID:hiov.r88ZA
宣教師「(本棚に初代教団の聖書が……なぜ今さらあんな物を?)」ジー

パッチ「どうしたの?」

宣教師「あ、いえ、見たことのある本があったので」

パッチ「ああ、聖書?懐かしいでしょ。よく宣教師様が読み聞かせてくれたもんね」

宣教師「……そうですね。今となっては恥ずかしい限りですが」

パッチ「そうなの?僕は大切にしてるよ」

宣教師「思い出、ですものね」

パッチ「まあね」

宣教師「パッチくんは……今の教団についてどう思いますか?」

パッチ「僕?」

宣教師「はい。聖団や町の人たちは否定する声が多かったので」

パッチ「僕は……」

宣教師「」ゴクリ

パッチ「よく分かんない」

宣教師「」ガクッ

パッチ「ほら、僕って神様とか信じないから?」ヘラヘラ

宣教師「な、なるほど……」
249: 名無しなのよ:2023/12/27(水) 21:37:28 ID:FfqO1ditts
最後に出た時はみんな嫌いだみんな死んじゃえと言ってたパッチ、あれからどうしてたんだろう?どうやって生きてこれたんだろう?

年末年始お忙しいとは思いますが体調崩さぬようお気をつけください
つC
250: ◆WEmWDvOgzo:2024/1/1(月) 00:11:31 ID:PPdTfIjnZQ
明けましておめでとうございます。
更新遅くて申し訳ありません。
感想とても励みになっております。
来年もよろしくお願い致しますm(_ _)m
251: 名無しなのよ:2024/1/8(月) 17:39:21 ID:0H4X6K45kU
𝐻𝑎𝑝𝑦𝑁𝑒𝑤𝑌𝑒𝑎𝑟
作者さんにとって良い一年となりますように
更新頻度はお気になさらないでください!
待つ時間も楽しいですし読み返して理解を深める良い機会ですから
今年もよろしくお願い致します
252: 名無しなのよ:2024/3/3(日) 02:13:17 ID:OFbOhCPxzw
待ってます
つC
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