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歪世界トレイン
[8] -25 -50 

1: ◆e.A1wZTEY.:2017/4/30(日) 20:25:16 ID:4iSJ1d7xp2

乗客Yx1

戸野 千織(トノ チオリ)

目が覚めたらそこは、走る列車の中だった



11: ◆e.A1wZTEY.:2017/4/30(日) 23:58:18 ID:8vQGUW9sCM

――今朝

気がついたら、私は荒川区にある公園のベンチで寝ていた

胸まであった長い黒髪はばっさりと切られ、無造作なショートヘアになっていた

切られた髪は、どこにも見当たらない

千織(・・・あれは、夢じゃなかった・・・)

髪に触れ、車掌服を着た男の言葉を思い出す


『今回は、乗車賃としてこれを頂きます』


千織(・・・こんなのってアリ・・・?)

12: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/1(月) 00:05:39 ID:spmolqlGjY

――どうやら私は高校が終わってから半日、夕方〜朝方の間行方不明になっていたらしい

親が帰宅しない私を心配し、捜索願を出すかどうかというところで帰ることができた

髪のことを含め散々問いただされたが、曖昧にごまかすしか術がなく、美容院で髪を整えてもらい午後から登校する次第となった

恭太「っていうかさー、昨日なんでLINE返してくれなかったんだよぉ。宿題教えてもらいたかったのにー」

千織「ごめんごめん。気づいたら寝ちゃってて」

どうやら、私が行方不明になっていたことを知らないらしい

13: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/1(月) 00:11:41 ID:spmolqlGjY

恭太「確かに、昨日の帰り道でなんか疲れてるっぽかったもんねー」

千織(昨日の帰り道・・・)

千織「ねぇ沖くん、私昨日・・・」

恭太「ん?」

千織「ふ、普通に帰ってた?」

恭太「? どゆこと?」

千織「だからその、沖くんと別れるまで・・・」

恭太と途中まで一緒に帰り、別れるところまでは記憶がある

だが、帰り道を分岐してからは、断片的で、曖昧な記憶しかない

14: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/1(月) 00:18:12 ID:spmolqlGjY

恭太「普通だったよ?なんで?」

千織「な、なんでもない。そうだよね、うん。なんでもない」

恭太「え、なに、気になるじゃーん!」

恭太「…あ!もしかして変質者がいたとか!?今日は俺が家まで送ったほうがいい!?」

千織「だ、大丈夫。大丈夫だから」

15: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/1(月) 00:21:28 ID:spmolqlGjY
帰り道

恭太「−じゃあ、ちおちゃんまたね!」

千織「うん、またね」

手を振り、2人はT字路で左右の道へ分かれた

すぅっと息を吸う

別に怖くなんかない
いつも通り、普通に帰ればいいのだ

いつものように、人がまばらなマンション街を歩く

何もない 何も思い出さない


何も――



16: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/1(月) 00:25:01 ID:spmolqlGjY

『お客さま』

ふっと、あの車掌の声が脳裏によぎる

最後に見た漆黒の瞳


千織(・・・あの人は)

千織(あの人は、誰なんだろう)

わからない でも、別にわからなくてもいい

気がつけば、自分の住むマンションの前に来ていた

千織(・・・何も、なかった)

千織は安堵すると、勢いよく階段を駆け上がった

17: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/1(月) 21:54:52 ID:spmolqlGjY

――あれから、1か月たった

ショートヘアの違和感にも慣れ、あの時のことは忘れつつあった

自分の髪を見るたびふと思い出すこともあるが、あれは現実のような夢だったのだ

そう、夢だったのだ そう思うことにしていた


恭太「――ちおちゃん!」

千織「あ、沖くん」

恭太「待たせてごめんねー、先生の説教長くってさぁ。さぁ、かえろー!」

千織「ちゃんと宿題出さなきゃだめだよ?」

恭太「今回は家に忘れちゃっただけなんだよ〜」

千織「もう、それ何回目?」 クスクス

18: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/1(月) 21:58:36 ID:spmolqlGjY

恭太「・・・あ!そうだ、大事なこと思い出した」

千織「大事なこと?」

恭太「はい、これ!」 スッ

カバンの中から、ピンク色の包装紙に包まれた小さな箱を取りだす

恭太「きょう、ホワイトデーでしょ!」

千織「あ・・・」

19: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/1(月) 22:00:14 ID:spmolqlGjY

恭太「ちおちゃんには、バレンタインデーにおいしいクッキーもらったからね〜」 ニコニコ

千織「で、でも、沖くんもバレンタインにチョコくれたじゃない。私てっきり交換だと思って・・・」

恭太「いいのいいの!俺がホワイトデーにお返しあげたいだけなんだから!」

千織「あ、ありがとう・・・。また手作りしてくれたの?」

恭太「もち!愛情100%!」

千織「沖くんの女子力にはかなわないなぁ〜」

20: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/1(月) 22:07:24 ID:spmolqlGjY

恭太「あーあ、ちおちゃんと帰ってると帰り道があっという間だなぁ」

千織「またすぐ明日会えるでしょ」

恭太「そうだけどさー、寂しいっていうか・・・」

千織「寂しい?」

恭太「うん」

千織「変なのー」クスクス

恭太「ほんとだよ、俺ちおちゃんがいないと…」

千織「あ、いけない!今日お母さんに夕飯の買い出し頼まれてたんだった!」

千織「じゃあ、沖くんまたね!チョコほんとにありがと!」 タタタッ

恭太「あっ・・・!」

21: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/1(月) 22:14:05 ID:spmolqlGjY

恭太と別れてからいつも1人で帰る道を、今日は少し早足で歩いていく

千織(えっと…ネギと人参だっけ?も〜、お母さん、学校帰りに買い出し頼むのやめてほしいな〜)

少し閑散とした通りに出ると、小さな池が見えた

あの池を過ぎれば、自宅からもっとも近いスーパーがある

千織(・・・?)

1人の男の子が池の前でしゃがみこみ、じっと何かを見つめている

千織「ぼく、この池はけっこう深いから危ないよ」

なんとなく声をかける

そう、声をかけてしまった

22: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/1(月) 22:23:29 ID:spmolqlGjY

男の子はゆっくりと立ち上がり、千織を見た

10歳にも満たないだろうか、まだ肌寒い時期だというのに半袖を着て半ズボンをはいている

眠そうな表情と、ぼさぼさの栗色の髪

男の子「――おねえちゃん」

男の子「おねえちゃん、ぼく、おなかすいたよ」

ぼそりと、かすれた声で言う

千織(もしかして、貧乏な子なのかな・・・上着着てないし)

千織「ぼく、おうちはどこ?お母さんは?」

男の子「・・・」

男の子「・・・ねぇおねえちゃん、おなか、すいた」

千織「・・・」

23: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/1(月) 22:26:15 ID:spmolqlGjY

千織「ご、ごめんね、今おねえちゃん何も食べ物持ってなくて・・・」

男の子「うそ。持ってる」

千織「え?」

男の子「そこに入ってる」

千織のカバンを指さす

千織(・・・もしかして)

カバンから、恭太からもらったチョコを取りだす

千織「こ、これはね、友だちからもらったものだから・・・」

そのとき

ふっと、脳内に記憶がよみがえった

24: 名無しさん@読者の声:2017/5/1(月) 22:33:43 ID:spmolqlGjY

千織(あれ・・・?こんなこと、前にもどっかで・・・)

男の子「・・・おねえちゃん、前はぼくに、それくれたよ」

千織「え?」

男の子「ぼく、それ好きなんだ。だから、今日ももらいにきたの」

千織「・・・!」

男の子の生気のない眼を見つめていると、ぞわぞわと忘れていたものが視界に、耳に、背筋にかけめぐる

1か月前、2月14日

あの日、私は同じように沖くんからもらったチョコを――


25: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/1(月) 22:37:56 ID:spmolqlGjY


「ちおちゃん!!」


はっとして振り向くと、恭太が息を切らしながら走ってきていた

千織「沖くん・・・!?」

恭太「あのねちおちゃん!俺、どうしても今日伝えたいことがあって」

千織「だめ、沖くん来ちゃだめ!!」

恭太「ホワイトデーだから、どうしても伝えたくて!俺、ちおちゃんのことが――」

千織「来ちゃだめ、戻って!!!」

次の瞬間

男の子が、千織の手からチョコをもぎとった

男の子「えへへ、またもらっちゃった・・・」

千織「・・・!」

男の子「お礼に、また、連れてってあげるね」


視界から、色が消えた


26: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/2(火) 18:59:58 ID:spmolqlGjY



――ガタンゴトン ガタンゴトン

――ガタンゴトン ガタンゴトン


千織(・・・・また・・・・)

ガタンゴトン

千織(・・・・来て、・・・・)


ガタン、


「お客さま」

千織「!」 ハッ

27: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/2(火) 19:02:30 ID:spmolqlGjY

目を開けると、そこは、”あの”列車のなかだった

目の前には、帽子を目深にかぶった、”あの”車掌

1か月前となんら変わりなく、背筋をのばし、手を後ろで組んで、千織を見下ろしている

車掌「・・・お客さま」

車掌「乗車券を、拝見いたします」

千織「っ・・・」

間違いない

また、あのよくわからない列車

現金も、suicaも使えない列車

28: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/2(火) 19:05:45 ID:spmolqlGjY

千織「・・・・・」

心臓がバクバクと音をたて、何も喋ることができない

車掌「・・・」

千織「・・・」

車掌「・・・お客さま」

千織「・・・・まっ・・・」

なんとか声をしぼりだす

千織「っま、また、髪をあげます!だから、元の世界へかっ、帰してください!」

車掌「・・・」

29: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/2(火) 19:12:19 ID:spmolqlGjY

千織「私、ほんとに何も知らないんです!知らなくて、乗ってしまって・・・」

千織「だから、乗車券とか持ってなく、て・・・」

車掌「・・・」

車掌「あなたの今の髪の長さでは、足りません」

千織「・・・!?」

車掌「毛根から根こそぎ頂くことになりますがよろしいでしょうか?」

千織「もっ、毛根!?」

車掌「・・・はい」

ゆっくりと、千織の髪に手を伸ばす――

そのときだった

30: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/2(火) 19:14:32 ID:spmolqlGjY

恭太「てめぇっ、ちおちゃんから離れろ!!」

ドゴッ!!

千織「!?」

突如視界に恭太が現れ、車掌を殴りとばした

車掌は勢いよく近くの座席シートに激突した

千織「おっ、沖くん・・・!?」

恭太「ちおちゃん、気をつけろ!こいつはさっき、俺を奥の車両に閉じ込めやがった!!」

千織「え・・・!?」

恭太「これは普通の列車じゃない!俺たちをどっかへさらおうとしてるんだ!!」

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