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歪世界トレイン
[8] -25 -50 

1:🎏 ◆e.A1wZTEY.:2017/4/30(日) 20:25:16 ID:4iSJ1d7xp2

乗客Yx1

戸野 千織(トノ チオリ)

目が覚めたらそこは、走る列車の中だった



2:🎏 ◆e.A1wZTEY.:2017/4/30(日) 20:27:44 ID:4iSJ1d7xp2

千織(・・・あれ、いつのまに電車なんて乗ってたんだろ・・・)

電車に乗る前の記憶が全くない

千織(無意識のうちに乗ってたのかな・・・。でも、これ何線だろう)

通学に使う山手線や総武線とは似つかない、一面茶色の車両

窓から見えるのは、真っ黒な景色

3:🎏 ◆e.A1wZTEY.:2017/4/30(日) 20:30:40 ID:4iSJ1d7xp2

千織(なんか、やばいかも・・・)

ぼんやりした目覚めの感覚から、徐々に危機の意識が湧いてくる

スマホを取りだし時間を見ると、午前 2時3分の表示

千織(ありえない、こんな時間に電車に乗ってるなんて)

他に乗客が数人いるが、皆うつむき表情が見えない

4:🎏 ◆e.A1wZTEY.:2017/4/30(日) 20:34:44 ID:4iSJ1d7xp2

ピーッ

千織「!?」

前方のドアが開き、奥から1人の男性が姿を現した

帽子を目深にかぶり、手を後ろに組んだままこちらに歩み寄ってくる

千織(車掌さんだ・・・!)

風貌をみるに、車掌のようである

無意識に安堵し、保護されたような気分になった

5:🎏 ◆e.A1wZTEY.:2017/4/30(日) 20:38:39 ID:4iSJ1d7xp2

千織「あっ、あのっ」

思わず話しかける

千織「これってなんていう電車ですか?すみません、知らないうちに乗ってしまっていて・・・」

車掌「・・・」

千織「あ、あの・・・?」

車掌「・・・電車ではありません」

千織「え?」

6:🎏 ◆e.A1wZTEY.:2017/4/30(日) 20:41:50 ID:4iSJ1d7xp2

車掌「電気で動いておりません。この列車は、全て精力を燃料にしております」

千織「せ、せいりょく・・・?」

車掌「お客さま、乗車券を拝見いたします」

男はすっと手を差し出した

千織「あっ、えっ、えっと・・・」

あわててポケットに手をつっこむと、乗車券らしきものはなかったが、財布があるのを確認できた

7:🎏 ◆e.A1wZTEY.:2017/4/30(日) 20:46:09 ID:4iSJ1d7xp2

千織「あの、乗車券持ってなくて・・・。現金でもいいですか?」

車掌「現金でのお支払いはお受けしておりません」

千織「そ、そうなんですか!?どうしよう・・・suicaならあるんですけど」

車掌「・・・」

男は小さく息を吐いた

車掌「お客さま、どこからお乗りですか?」

千織「ご、ごめんなさい、覚えてないんです・・・。住んでるところは東京の荒川区なんですけど・・・」

車掌「・・・わかりました」

8:🎏 ◆e.A1wZTEY.:2017/4/30(日) 20:50:25 ID:4iSJ1d7xp2

男は白い手袋をはめた手を伸ばし、優しく千織の髪にふれた

千織「え・・・?」

車掌「今回は、乗車賃としてこれを頂きます」

千織「へ・・・?あ、あの」

車掌「もう二度と、この列車に乗ることがありませんように。その時は、お送りできる保証はありませんので」

千織「・・・!?」

ふわりと風が吹き、一瞬、帽子の奥から男の瞳が見えた

――それと同時に、千織は気を失った


9:🎏 ◆e.A1wZTEY.:2017/4/30(日) 23:51:44 ID:8vQGUW9sCM


乗客Yx2

沖 恭太(オキ キョウタ)


10:🎏 ◆e.A1wZTEY.:2017/4/30(日) 23:53:44 ID:8vQGUW9sCM

恭太「――ちおちゃん!?!?」

千織「お、おはよう」

恭太「か、か、髪どうしたの!?なんか嫌なことでもあった!?」

千織「ううん、何もないよ。イメチェンしたかっただけ」

恭太「だ、だって、小学校のころからずっとロングだったのに」

千織「どうせ似合ってないですよーだ」

恭太「そんなことないよ!ボブのちおちゃんも超カワイイ!!」

千織「もー恥ずかしいからやめて」

11:🎏 ◆e.A1wZTEY.:2017/4/30(日) 23:58:18 ID:8vQGUW9sCM

――今朝

気がついたら、私は荒川区にある公園のベンチで寝ていた

胸まであった長い黒髪はばっさりと切られ、無造作なショートヘアになっていた

切られた髪は、どこにも見当たらない

千織(・・・あれは、夢じゃなかった・・・)

髪に触れ、車掌服を着た男の言葉を思い出す


『今回は、乗車賃としてこれを頂きます』


千織(・・・こんなのってアリ・・・?)

12:🎏 ◆e.A1wZTEY.:2017/5/1(月) 00:05:39 ID:spmolqlGjY

――どうやら私は高校が終わってから半日、夕方〜朝方の間行方不明になっていたらしい

親が帰宅しない私を心配し、捜索願を出すかどうかというところで帰ることができた

髪のことを含め散々問いただされたが、曖昧にごまかすしか術がなく、美容院で髪を整えてもらい午後から登校する次第となった

恭太「っていうかさー、昨日なんでLINE返してくれなかったんだよぉ。宿題教えてもらいたかったのにー」

千織「ごめんごめん。気づいたら寝ちゃってて」

どうやら、私が行方不明になっていたことを知らないらしい

13:🎏 ◆e.A1wZTEY.:2017/5/1(月) 00:11:41 ID:spmolqlGjY

恭太「確かに、昨日の帰り道でなんか疲れてるっぽかったもんねー」

千織(昨日の帰り道・・・)

千織「ねぇ沖くん、私昨日・・・」

恭太「ん?」

千織「ふ、普通に帰ってた?」

恭太「? どゆこと?」

千織「だからその、沖くんと別れるまで・・・」

恭太と途中まで一緒に帰り、別れるところまでは記憶がある

だが、帰り道を分岐してからは、断片的で、曖昧な記憶しかない

14:🎏 ◆e.A1wZTEY.:2017/5/1(月) 00:18:12 ID:spmolqlGjY

恭太「普通だったよ?なんで?」

千織「な、なんでもない。そうだよね、うん。なんでもない」

恭太「え、なに、気になるじゃーん!」

恭太「…あ!もしかして変質者がいたとか!?今日は俺が家まで送ったほうがいい!?」

千織「だ、大丈夫。大丈夫だから」

15:🎏 ◆e.A1wZTEY.:2017/5/1(月) 00:21:28 ID:spmolqlGjY
帰り道

恭太「−じゃあ、ちおちゃんまたね!」

千織「うん、またね」

手を振り、2人はT字路で左右の道へ分かれた

すぅっと息を吸う

別に怖くなんかない
いつも通り、普通に帰ればいいのだ

いつものように、人がまばらなマンション街を歩く

何もない 何も思い出さない


何も――



16:🎏 ◆e.A1wZTEY.:2017/5/1(月) 00:25:01 ID:spmolqlGjY

『お客さま』

ふっと、あの車掌の声が脳裏によぎる

最後に見た漆黒の瞳


千織(・・・あの人は)

千織(あの人は、誰なんだろう)

わからない でも、別にわからなくてもいい

気がつけば、自分の住むマンションの前に来ていた

千織(・・・何も、なかった)

千織は安堵すると、勢いよく階段を駆け上がった

17:🎏 ◆e.A1wZTEY.:2017/5/1(月) 21:54:52 ID:spmolqlGjY

――あれから、1か月たった

ショートヘアの違和感にも慣れ、あの時のことは忘れつつあった

自分の髪を見るたびふと思い出すこともあるが、あれは現実のような夢だったのだ

そう、夢だったのだ そう思うことにしていた


恭太「――ちおちゃん!」

千織「あ、沖くん」

恭太「待たせてごめんねー、先生の説教長くってさぁ。さぁ、かえろー!」

千織「ちゃんと宿題出さなきゃだめだよ?」

恭太「今回は家に忘れちゃっただけなんだよ〜」

千織「もう、それ何回目?」 クスクス

18:🎏 ◆e.A1wZTEY.:2017/5/1(月) 21:58:36 ID:spmolqlGjY

恭太「・・・あ!そうだ、大事なこと思い出した」

千織「大事なこと?」

恭太「はい、これ!」 スッ

カバンの中から、ピンク色の包装紙に包まれた小さな箱を取りだす

恭太「きょう、ホワイトデーでしょ!」

千織「あ・・・」

19:🎏 ◆e.A1wZTEY.:2017/5/1(月) 22:00:14 ID:spmolqlGjY

恭太「ちおちゃんには、バレンタインデーにおいしいクッキーもらったからね〜」 ニコニコ

千織「で、でも、沖くんもバレンタインにチョコくれたじゃない。私てっきり交換だと思って・・・」

恭太「いいのいいの!俺がホワイトデーにお返しあげたいだけなんだから!」

千織「あ、ありがとう・・・。また手作りしてくれたの?」

恭太「もち!愛情100%!」

千織「沖くんの女子力にはかなわないなぁ〜」

20:🎏 ◆e.A1wZTEY.:2017/5/1(月) 22:07:24 ID:spmolqlGjY

恭太「あーあ、ちおちゃんと帰ってると帰り道があっという間だなぁ」

千織「またすぐ明日会えるでしょ」

恭太「そうだけどさー、寂しいっていうか・・・」

千織「寂しい?」

恭太「うん」

千織「変なのー」クスクス

恭太「ほんとだよ、俺ちおちゃんがいないと…」

千織「あ、いけない!今日お母さんに夕飯の買い出し頼まれてたんだった!」

千織「じゃあ、沖くんまたね!チョコほんとにありがと!」 タタタッ

恭太「あっ・・・!」

21:🎏 ◆e.A1wZTEY.:2017/5/1(月) 22:14:05 ID:spmolqlGjY

恭太と別れてからいつも1人で帰る道を、今日は少し早足で歩いていく

千織(えっと…ネギと人参だっけ?も〜、お母さん、学校帰りに買い出し頼むのやめてほしいな〜)

少し閑散とした通りに出ると、小さな池が見えた

あの池を過ぎれば、自宅からもっとも近いスーパーがある

千織(・・・?)

1人の男の子が池の前でしゃがみこみ、じっと何かを見つめている

千織「ぼく、この池はけっこう深いから危ないよ」

なんとなく声をかける

そう、声をかけてしまった

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