注意
この作品は「私は私」との関係性はほとんどありません。これ単体でも読むことが出来ます。
短いです。
2: ◆MEIDO...W.:2011/10/23(日) 22:20:24 ID:IdEq0R574.
「なあ、プリマリア……わざとなのか?」
男性が机を挟んで座っているプリマリアと呼ばれた女の子に話しかけた。
「私は至って真面目ですよ先生」
プリマリアは不満そうな顔で、先生の顔を見つめた。
「真面目なのはわかる。だが、お前、これで何回目だ?」
「三回?」
プリマリアは指を折って数え、そう答えた。
「違う。二十一回目だ。お前が魔法が苦手なのは知ってる。だが、爆発だけは勘弁してくれ」
先生は大きなため息をついた。
「中級魔法も禄に使えないのに、本で呼んだからって、エリクサーを作るのは諦めたらどうだ?」
「諦めたら何事も成せません」
「確かにそうだ。だが、お前は不祥事を起こしすぎた。もう庇ってやれん。これを」
先生は白い二つ折りの紙を机に置いた。
「校長の判断がそこに書いてある。お前にしか読めない魔法がかかってるから、俺は読めない」
プリマリアは白い紙を手にとって、ゆっくり開いてみた。
3: ◆MEIDO...W.:2011/10/23(日) 22:22:47 ID:IdEq0R574.
プリマリアは学生寮の自室でベットに横になっていた。紙には二週間の停学と書かれていた。
「ああ!もう!」
枕を思いっきり壁に投げつけた。それでも、プリマリアの興奮は収まらず、ベットから起き上がって、枕に跳び蹴りを決めた。
「……図書館に行こう」
学生寮から図書館まではそれほど遠くない。学生寮を出て、ホールを通り過ぎれば、すぐに図書館がある。
「おい、あいつって『歩く導火線』じゃないか?」
「止めろよ。お前も爆破されるぞ」
「違いない。ハハハハハ」
プリマリアは自分の事を言っているんだとわかっていても、徹底的に無視した。
4: ◆MEIDO...W.:2011/10/23(日) 22:22:55 ID:IdEq0R574.
「プリマリア、またやったそうだね」
図書館に入って、いきなりそんな言葉が飛んできた。
「ヒュー、五月蠅いわよ。はい、これ。借りてた本」
ヒューと呼ばれた眼鏡をかけた男性にプリマリアは本を渡した。
「で、今回は何をお探しだい?『オークでもわかる初級魔法』?」
「ヒュー!」
「じょ、冗談だよ」
プリマリアが杖を抜いた為に、ヒューは慌ててなだめた。
「むぅ……ねえ、また書庫に入れてよ」
「ダメだ。僕も校長に怒られてね。君を入れないようにってキツく言われてるんだ」
「そんな……」
プリマリアはヒューの言葉に俯いてしまった。
「ああ、でも、一般図書なら借りられるよ」
「ごめんなさい……私の所為でヒューまで……」
ヒューはプリマリアの謝罪に少し驚きながらも、立ち上がって、プリマリアの肩に手をおいた。
「僕は全く気にしてないよ。僕は君がここに来て、僕の話し相手になってくれれば良いんだ」
「ありがとう……じゃあ……」
「書庫はダメ」
プリマリアは舌打ちして、ケチと呟いて、一般図書の方へ歩いていった。
「あの性格をなんとかすれば、良い子なんだけどね……」
ヒューはプリマリアの背中を見つめて、呟いた。
5: ◆MEIDO...W.:2011/10/23(日) 22:23:48 ID:ScZrKHOJSw
一日二つまたは三つ程更新していきます。
6: 名無しさん@読者の声:2011/10/23(日) 22:34:52 ID:aw.NT1r60Y
つC
7: ◆MEIDO...W.:2011/10/24(月) 13:59:52 ID:dz7ykgEFtY
>>6
ありがとうございます。
「ヒューのケチ。良いじゃないちょっとくらい」
プリマリアは建物の二階ほどの高さの本棚を見上げながら、そう言った。
だいたいの目星をつけて、備え付けの梯子を上っていく。
「うーん……私の読み違いかしら?何かありそうだったんだけど」
諦めて梯子を降りようとした時に、プリマリアの見ていた本棚の隣の本棚にあった一冊の本が目に留まった。プリマリアはその本を手にとってみた。その本は目立った装飾など一切なく、ただ黒い。夜の黒さとも表現出来るかもしれない。不思議なことに、表紙にも背表紙にも何も書かれていない。疑問に思いながら、下でゆっくり読んでみることにした。
梯子を降りて、近くの椅子に座って、本を開いてみた。
「あ、あれ?」
開かない。さらに力を込めて引っ張ってみる。やはり開かない。引いてだめなら、押してみる。変化はない。スライド式かなと考えてみる。動かない。魔法で鍵がかかっているのかと疑ったが、魔力を感じない。プリマリアが知る方法を全て試してみたが、うんともすんとも言わない。
プリマリアは本を持って、ヒューの元へ走っていった。
「ヒュー!何なのよこの本は!」
ヒューの目の前に黒い本を突き出した。
「君……大丈夫?本なんて君は持ってないじゃないか」
「ヒュー、あなたふざけてる?」
「僕は至って真面目だ。君は本を持ってない」
見えない本。まだ確認はしてないが、プリマリアにはこの本は自分にしか見えないのだろうと言う、謎の自信があった。そして、この本はプリマリアの好奇心を大いに刺激した。
「じゃあ、この本は私が貰うわよ?」
「どうぞご自由に。見えない本に価値はないよ」
「ありがとう!」
プリマリアは本を腕に抱えて、走って図書館を出て行った。
「よっぽど、書庫立ち入り禁止がショックだったのかな……」
ヒューはそう言って、再び読んでいた本に目を落とした。
8: ◆MEIDO...W.:2011/10/24(月) 13:59:59 ID:dz7ykgEFtY
自室に帰って、また開かないかと色々試してみた。しかし、どれも何の変化も起こらなかった。
「荒っぽいけど、背表紙を切り取るって言う手も……」
ナイフはないかと机を漁ってみたが、ペーパーカッターくらいしか出てこなかった。
「ヒューなら持ってるかしら」
再び図書館に行くために廊下に出てみると、ちょうど日が沈む頃だった。
「あ、夕食食べてないなー」
プリマリアの腹が空腹を告げたので、しょうがなく図書館は後回しにして、食堂に向かうことにした。
9: 名無しさん@読者の声:2011/10/24(月) 14:12:04 ID:C.YeTEqF1I
つC
10: ◆MEIDO...W.:2011/10/25(火) 22:06:27 ID:s2iZiCbKVc
>>9
ありがとうございます。
食事を終えて、ナイフを借りて、自室に戻ってみると、ある変化に気づいた。
「本が……光ってる……?」
プリマリアが近づいてみると、真っ黒だった本の表紙に金色の文字が浮かび上がっていた。その部分が月明かりを反射して、光ってるように見えたのだった。
「『黒の書』……そのまんまね」
もしかしたらと思って表紙に手をかけて、ゆっくり開いてみた。
「開いた……月明かりが条件なのかしら?」
今はそんな事どうでも良かった。望んでいた物が目の前に広がっている。さっさと読み進めたかった。
『大切な物を失う覚悟がある者だけ読み進めろ。』最初のページにそう書かれていたが、プリマリアは好奇心に押されるままに読み進めていった。
プリマリアは元々本を読むのは好きであり、速読も出来たので、ほんの一時間足らずで読み終えた。
「……アハハハハハハ!すごい!すごいわこの本!これさえあれば、私は誰にも負けない!私が最強の魔法使いになれる!」
プリマリアを二週間の停学にした校長への恨みはいつの間にか感謝に変わっていた。
本が開く条件がわかっていない今、善は急げと言わんばかりに、部屋にある物を全て隅に寄せて、ある程度の広さを確保した。
「よし……落ち着きなさい、私。興奮して、失敗したら洒落にならないわよ」
机から取り出したチョークを持ったまま深く深呼吸をした後、床に円を描き始めた。
11: ◆MEIDO...W.:2011/10/25(火) 22:06:36 ID:s2iZiCbKVc
床に這いつくばって、手元の本に書いてある魔法陣を書き写す作業は既に二時間を過ぎようとしていた。
「…………はぁっ!」
魔法陣の最後の部分を息を止めて、一気に描きあげたらしく、少し呼吸が乱れていた。
今まで書いてきた魔法陣を消さないように慎重に歩いて、ベットに横たわった。
「少し眠ってから続きをやろう……」
ずいぶん重くなった瞼を下ろすと、あっという間に眠りに落ちてしまった。
〜〜〜
「うーん」
三時間ほどで目を覚ました。大きな欠伸をして、伸びをした後、自分の頬を力一杯叩いた。
「よし、やろう」
魔法陣の中心に移動して、本を拾い上げた。
「こんな風に魔法を使うなんて考えもしなかったわ」
魔法陣の中心に自分の杖を起き、借りてきたナイフを人差し指に軽く刺して、血を一滴だけ杖に垂らした。
「『我は我の杖となろう。我が身に魔の理を刻もう』」
本に書いてあるからと言っても恥ずかしいらしく、少し頬を赤くしていた。
すると、床に書かれた魔法陣が空中に浮かび上がった。そして、円の文字列は一列になり、プリマリアの周りを不規則に飛び回り始めた。
「よし……『我が心はすでに決まっている』!」
そう叫ぶと、文字列はプリマリアの体に張り付いた。そして、張り付いた場所に縄で強く締め付けられるような痛みが襲った。
「くっ!」
歯を食いしばって、痛みに耐えていたが、急に熱した鉄を押し付けられた様な熱を帯びた激痛に変わった。
「ああああああ!」
痛みに耐えられず、床をのたうち回り、悲鳴とは似つかない声をあげた。
「どうした!大丈夫か!」
誰かが呼んだのかわからないが、ドアを叩く音と共に、男性の声が聞こえた。
「ドアを壊すぞ!」
ドアを壊して、数人の大人が入ってくるのを見て、プリマリアは意識を失った
12: 名無しさん@読者の声:2011/10/25(火) 22:31:56 ID:tA6KOE9Ttw
おぉ...
なんか面白そうでござるよ
13: ◆MEIDO...W.:2011/10/26(水) 20:16:15 ID:cx7dQjLYV6
>>12
ありがとうございます。過度な期待はしないでくださいwww
目を覚ますと、白い天井に白い壁の部屋で白いベットに寝ていた。この白の占拠率から、保健室であると理解した。
「先生……」
「起きたのね。待ってなさい。すぐに校長を呼んでくるから」
白衣を着た女の先生は保健室を出て行ってしまった。
顔にかかっている髪をかき揚げるときに、自分の腕に文字が刻まれているのに気がついた。
「夢じゃなかった……」
自分の腕を見つめながら、そう呟いた。
「スペンサー君、無事か」
豊かな白髭をたくわえた老人が入ってきて、プリマリアのベットの横に置かれた椅子に座った。
「昨日の事は覚えているか?」
「はい……」
「君は苦痛を伴う幻術をかけられていた。おそらくかなり高位の魔法使いによるものだろう。何か見かけなかったか?」
「思い出してみます」
プリマリアにとって、この状況はありがたかった。存在しない魔法使いによって、自分の新しい魔法を隠すのにちょうど良いと、この場を乗り切る嘘を考えるために、頭を回転させた。
14: ◆MEIDO...W.:2011/10/26(水) 20:16:24 ID:hDHpJ5nbX.
「ふむ、わかった。今後警戒を強化しよう。しばらくはゆっくり休みたまえ」
そう言って、校長は保健室を出て行った。
「ちょろいわね」
口の端を軽く上げて、今はいない校長を見下すように小さく笑った。
「終わったようね」
保健室の先生が入れ替わるように、入ってきた。
「あ、そうだ。スペンサーさん、気になってたのだけど、右腕どうかしたの?」
「えっ、何がですか?」
プリマリアの心拍数が一気に上がった。それを悟られないように、平静を装うのに必死だった。
「ほら、ここ。青くなってるから、どこかにぶつけたのかなって」
確かに右腕にあざが出来ていた。少し安堵した後、プリマリアは少し危ないかと思いながらも、さらに踏み込んでみることにした。
「先生が見る限り、他に変なところは無いですか?」
「うーん、特に無いと思うけど、どうして?」
あの本もこの文字もプリマリアにしか見えていない。それは確固たるものになった。
「変なところに跡が残っていたら、結婚出来そうにないからです」
当然嘘だ。プリマリアには結婚する気など毛頭もない。結婚するくらいなら、一人で悠々自適に暮らし、魔法を研究したいと考えている。
「大丈夫よ、スペンサーさんは綺麗だから、すぐに結婚出来るわよ」
「そう言えば、部屋には戻れるんですか?」
「残念ながら無理よ。しばらくはここにいて経過を見るようにと言われているわ。けど、ただぼーっとしているのもつまらないと思うから、後で部屋に物を取りに行っても良いそうよ」
15: ◆MEIDO...W.:2011/10/29(土) 22:21:08 ID:XJFj.rwXLw
保健室に軟禁されて五日。昼間は持ってきた本や、見舞いに来てくれた友人が貸してくれた本を読んで過ごし、夜になると、当然あの本を何度も読み直した。校長から許可が出たので、部屋に戻れることになった。
プリマリアは部屋に戻ると、ベットに横になった。ベットは主の帰還を祝うように、プリマリアを適度な柔らかさで受け止める。正直に言うと、保健室のベットは硬くて嫌いだった。
「あぁ……やっぱりこれよね……」
感嘆のため息をついた。そのまま横になっていたら、睡魔に襲われそうだったので、しょうがなく起き上がった。
「さて、続きやろうかな」
プリマリアは床に這いつくばって、また文字を書き始めた。
16: ◆MEIDO...W.:2011/10/29(土) 22:21:15 ID:R93H4N5un6
「っ!」
プリマリアの体に新たに文字が刻み込まれていく。最初の物に比べると、文字列は非常に短く、痛みも一瞬で収まる。
プリマリアの両手、両足の甲まで文字は達していた。それをただ見つめて、しばらく動かなかった。
不意に右手を窓の方にかざしたかと思うと、炎、水、風、土が次々と放たれた。しかし、全て窓に達する前にお互いがお互いを相殺しあって、消えてしまった。
「あは……はははははははははは!ダメよ私。笑っちゃダメ。ふふふ、また先生を呼ばれたら私の力が試せない」
口を手で押さえて必死に笑いを堪えるが、笑いは水のように零れ落ちる。
「まぁ、人が魔法を使い始めてから、誰も達しなかった領域に一瞬でたどり着いちゃったんだから、笑うなという方が無理かな」
本当は大声で笑いたいのを何とか堪えて、短く含み笑いをして、再びベットに横たわった。
「続きは夜ね。あれなしじゃすぐにバレちゃう。魔法陣もうろ覚えだし」
日が傾き始めたばかりの頃、明日クリスマスを迎える幼い子供のように、目覚めるのが楽しみという顔で眠りについた。
17: ◆MEIDO...W.:2011/10/31(月) 23:19:44 ID:ldp/oNwss.
「ねえ、聞いた?門が壊されたんだって」
「知ってる知ってる。もしかして、例の魔法使いのせい?」
「おい、聞いたかよ」
「ああ、お前で四人目だよ」
図書館に向かう間、通り過ぎる生徒全員が全く同じ話題で持ちきりだった。
そして、話題の中心のすぐ隣のホールには野次馬で溢れかえっていた。
野次馬を鬱陶しそうにかき分けながら、チラッと門の方を見てみると、そこには人間二人が縦に並んでも余裕で通れそうなくらいの大きな穴がポッカリ開いていた。その門の前に自慢の髭をいじりながら何かを考えている校長が見えた。
プリマリアは少なからず、喜びを感じていたが、決してヘマしないためにと、その感情を無理やりねじ伏せた。
(どうした?架空の魔法使いはここだぞ?)
そんな事を考えていると、偶然、誰かの肘が服に入れていたナイフに当たり、プリマリアの体に軽く刺さった。
「痛っ!」
その瞬間、強い風が吹き込んできた。その風に驚く生徒が何人もいたが、気にせずに、ナイフがまた刺さらないように、押さえながら、人混みを抜けて、図書館にたどり着いた。
18: ◆MEIDO...W.:2011/10/31(月) 23:20:41 ID:DjGow5sBJA
「ヒュー!」
「プリマリア!久しぶりだね。魔法使いに襲われたんだってね」
プリマリアはヒューの目の前カウンターに腰掛けた。
「ええ、あの痛みは死ぬかと思ったほど。で、ヒューはどう思う?」
「ああ、あれか。僕は少し怖い。おそらく今回も君を襲った魔法使いだろ?あの様子だと中に侵入してるだろうしね」
ヒューは読みかけの本にしおりを挟んで、カウンターに置いた。
「何、ヒューはビビってるの?」
「いや、君も知ってるだろ?ここの門の堅さを」
この学校全体に攻撃魔法に対する防御がされているが、そんな中でも門は一番の堅さを誇っていた。
「それに、また君が襲われるかもしれない」
「大丈夫だと思うな」
「君はもう少し危機意識を持つべきだ」
「大丈夫よ。私には襲われる理由なんてもう無いもの」
そう言って、何かを思い出したように、ナイフを取り出した。
19: ◆MEIDO...W.:2011/10/31(月) 23:20:49 ID:ldp/oNwss.
「そうそう、今日はこれを返しにきたの。結局使わなかったけどね」
「ん?ちょっと血が付いてないかい?」
ヒューは心配そうにプリマリアを見つめた。
「ああ、さっき人混みを抜ける時にちょっとね」
「抜き身で渡した僕が悪かったよ」
ヒューはナイフを受け取り、服の内ポケットにしまった。
「いつも持ち歩いてるの?」
「基本的に五本は持ってる。杖を抜いて、詠唱して、魔法を使うよりは早く攻撃出来るからね」
「じゃあ、今目の前にあの魔法使いが現れたら、倒す自信は?」
ヒューは腕を組んで、しばらく考え込んだ後、口を開いた。
「杖を抜いていないで、射程圏内なら、勝てるかもしれないな」
「謙虚ね」
「違うよ。魔法が発動すれば、ナイフなんか無力だからね」
プリマリアはふーんと呟いて、カウンターから降りた。
「あの魔法使いは結構近くにいるかもね。じゃあ、私は帰るわ」
プリマリアの言葉に一瞬悪寒を感じたが、気のせいだろうと、プリマリアを見送った後、再び本を読み始めた。
20: ◆MEIDO...W.:2011/11/1(火) 21:55:01 ID:iuXlfLsjlI
「そういえば……」
自室で魔法の勉強しているとき、ふと例の本の一ページ目に書かれていた言葉を思い出した。
『大切な物を失う覚悟がある者だけ読み進めろ。』
「私は何か失ったのかしら……」
いつ雨が降ってもおかしくないというゃうな黒さの雲が埋め尽くしている空を見つめながら、そう呟いた。そして、机の隅に置いてあるさらに黒い本に目を移した。
現在、プリマリアは黒の書に書いてある事の四分の三を習得していた。だが、残りの四分の一に手を出すのは恐怖があった。最後の魔法、それは不老不死だった。永遠というものには興味はなかったし、永遠は恐怖だとも知っていた。しかし、この魔法があって、初めて黒の書の魔法は完成するらしい。部屋に戻って調べたところ、昼間のホールで起きた風は、ナイフで術式に傷がついたのが原因だった。傷つく度に暴発していたら、とても戦えない。
「……」
視線を教科書にもどして、再び手を動かし始めた。
21: ◆MEIDO...W.:2011/11/1(火) 21:55:17 ID:O5X0CHOlqg
夢を見た。目の前に広がる光景は、普段から見慣れた場所。プリマリアが生活している場所。だが、それを夢だと簡単に言い放てる理由は、色だった。清楚さなど微塵も感じられない薄汚れた白とあの本を彷彿とさせる黒の二色。
部屋の外に出てみても、やはり白黒だった。空も草木も廊下を歩く人も。しかし、そんなものはどうでもいいというように、構わず歩き出した。
そして、ホールに出る少し前に、光が見えた。白黒ではないちゃんとした色を持った光。
そこで目が覚めた。
「図書館……」
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