注意
・いつもの世界観です。物語としての関連性はちょっとだけあります。
・幼稚な文章で書かれた日常物のつもりです。
・タイトルに「私」って入ってるから、わたシリーズ。
・更新は一日二、三レスを目安にしています。
2:🎏 ◆MEIDO...W.:2011/12/26(月) 23:20:51 ID:bbAUQQPDiw
僕の名前はジャック・ブクリエ。故郷の片田舎を飛び出して、昔から夢だった騎士になるために王都のカフドに向かっている。
僕が騎士になりたい理由は「大切な人を守りたい」から。馬鹿にする奴が中にはいるが、僕は至って真面目だ。
しかし、唯一の心配はなれるかどうか。カフドで騎士になるためには騎士団の試験に合格しなければならないそうだ。だが、僕は剣の腕がとびきり上手いわけではないのだ。
絶対に騎士になると村で宣言してしまったので、戻るに戻れない。まあ、やれるだけの事をやってこよう。
3:🎏 ◆MEIDO...W.:2011/12/26(月) 23:21:11 ID:bbAUQQPDiw
「うわぁー凄いなー」
まだ城しか見えないが、逆にそれが城の大きさを表現しているように思える。
「なんだかワクワクしてきた」
気合いを入れて馬の腹を蹴った時、紐か何かが切れたような音が聞こえたような気がする。すぐに馬を止めて、恐る恐る振り向いてみると、見事に僕の持ち物が草原に散らばっていた。
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
慌てて馬から飛び降りて、拾い上げる。やっぱりもっと本を減らせば良かったかな。
「……馬の足音?ヤバい!」
カフドに近いと言っても、まだ馬で十分ほどかかる。盗賊だったら、恐らく僕に勝ち目はない。急いで、落ちた物を集めたないと。
4:🎏 ◆MEIDO...W.:2011/12/26(月) 23:21:17 ID:q72gOX8VmA
落ちた物は集め終わったが、肝心の荷物を縛る紐がなかった。僕の馬鹿。足音はだいぶ近づいている。しょうがない、必要な物だけ持って逃げよう。
詰められる所に全て詰め込み、馬に跨がって、さっさと逃げようと、走り出した時、視界の端に真っ黒な馬が見えた。逃げきれるか?
馬を走らせてわかったが、向こうの馬の方が圧倒的に早い。それにさっきちょっと振り返ったら、向こうの馬に乗っている奴――ローブを着ていて顔は見えないが――は剣を持っていた。
それからあっという間に抜かれて、回り込まれた。僕は大人しく馬を止めて、馬から下りた。
「何で馬から降りた」
驚くべき事に、声は女性の物だった。
「その……盗賊だと思ったので」
「……ハッハッハッ!こんな丸見えな草原で昼間から人を襲う盗賊など、ここらにはいないぞ。少年」
女性は僕の事を笑うだけ笑ってから、ローブを脱いだ。燃えるように赤い髪の綺麗な人だった。
「あ、あの……僕に何か用ですか?」
「ああ、忘れ物だ」
女性が大きな皮の袋を放り投げた。中を見てみると、さっき僕が捨てた荷物と一本のロープが入っていた。もしかして、この人は僕を追いかけながら、全部拾い上げたと言うのだろうか。
「おっと、こんな事している場合じゃないんだ。私は先に失礼する」
「えっ、ああ……行っちゃった」
名前も聞けないばかりか、お礼すら言えなかった。
5:🎏 ◆MEIDO...W.:2011/12/27(火) 23:54:32 ID:jh5/TJ2ymM
僕は宿屋に荷物を置いて、騎士団に向かうついでに観光がてらに色々な所を回ってきた。
「さすが都会……活気が違うなー」
市場は僕の想像以上の規模だった。村でお祭りをやらないとこの位集まらないだろうな。
そんな中、あの真っ赤な髪が目に入った。すぐに追いかけて、肩を掴んだ。
と、思ったのだが、僕の手はただ空を切っただけだった。そればかりか見失ってしまった。
「おや?さっきの少年じゃないか。あんまりキョロキョロしていると、スリに狙われるぞ」
いつ背後に回られたのか全くわからなかった。
「何か用か?」
「さっきお礼を言ってなかったので……」
「たまたま目に入っただけだから、気にすることはない。すまんが、私はもう行くよ。これでも忙しい身なんでな」
女性はそう言ってどこかに言ってしまった。とりあえず、僕も騎士団に向かおう。
6:🎏 ◆MEIDO...W.:2011/12/27(火) 23:54:53 ID:0Ipfh8jXB2
「すいませーん」
僕の声がただ反響するだけで、返事は返ってこなかった。
「すいませーん!」
さっきよりも大きな声で呼んでみたが、やはり返事はない。この屋敷には誰もいないのだろうか。
「今行くから待ってろー!」
返ってきた。ドタドタと廊下を走る音が近づいてくる。少しして、バスローブを着た男性が出てきた。
「すまん。風呂に入ってた。で、坊主は何のようだ?飼い猫でもいなくなったか?」
「いえ……僕をここに入れて欲しいんです」
僕の言葉を聞いて、男性は僕を足元から頭のてっぺんまで見た。
「あー……すまん。今団長いないんだわ。また明日来てくれるか?団長には俺から話を通しておくから」
「わかりました」
少し残念だが、しょうがない。僕が男性に背を向けると同時に、男性はドタドタ音を立てながら戻っていった。
7:🎏 ◆MEIDO...W.:2011/12/27(火) 23:54:59 ID:0Ipfh8jXB2
空が赤くなってきたので、途中サンドイッチを買って、宿屋に戻ると、赤い髪の人が店主と何かを話していた。
「それじゃ」
ちょうど話が終わったらしく、女性と目があった。
「おお!少年!三度目じゃないか!」
何故か女性はとても嬉しそうだった。
「何でそんなに嬉しそうなんですか?」
気になって、つい聞いてしまった。
「少年は『約束も無しに一日に三度も会う人には、自分の命を預けなければならない』という言葉知らないか?」
「知りません。誰の言葉です?」
「えっ?あー……まあ、あれだ。これは運命の出会いだ。少年の名前を教えてくれないか?」
どうやら思い出せなかったようだ。それにしても、運命の出会いか。確かに珍しい事だが、言い過ぎではないだろうか。まあ、教えるけど。
「ジャックです。ジャック・ブクリエ」
「私はフルールだ。よろしく少年」
この人は覚える気はあるのだろうか。フルールさんが、手を差し出してきたので、しっかり握った。
「おっと、すまない。そろそろ行かなければ」
「今日はお世話になりました」
フルールさんは右手を軽く振って宿屋を出て行った。
8:🎏 ◆MEIDO...W.:2011/12/28(水) 23:13:55 ID:PHb2NYku.U
「すいませーん!」
もしかして、ここにはあんまり人がいないのではないだろうか。
「うわぁぁぁぁぁぁ!やっちまった!」
と、思ったが何かが割れた音の後、悲鳴が聞こえてきた。多分、昨日の人。片付けより先に僕を選んだらしく、足音が近づいてきた。
「よお、団長は上に上がって、一番奥の部屋だ。俺はわけあって、案内出来ないから、一人でいってくれ」
男性はちょっと顔を出したと思ったら、すぐに引っ込めてしまった。何となくひどい目に会うんだろうなとあの表情からわかる。
ギシギシと音を立てる階段を上って、一番奥の部屋に向かった。扉には「団長の部屋」という子供が絵の具で書いたとしか思えないような看板がぶら下がっていた。
「失礼します」
「よく来たな少年」
部屋に入ると同時に、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「フ、フルールさん?フルールさんが団長なんですか?」
「言ってなかったか?」
「……言ってないです」
昨日一日を振り返ってみたが、確実に言ってない。
「まあ、良い。それで、少年はうちに入りたいそうだな。うちの仕事はただ警備していれば良いってわけじゃない。依頼があれば飼い猫探しから魔物討伐までやっている。まあ、ギルドのようなものだな。言っておくが、生半可な気持ちだとすぐに死ぬぞ。それでも入りたいか?」
言葉一つ一つにすごい重みがある。それだけ死線を乗り越えてきたのだろう。
「はい!」
「よし!合格!」
「えっ……あ、あの……」
カフド騎士団には入団試験があって、その試験はとてつもなく難しいと聞いていたのだが、僕いつの間に試験を通ったんだ?
「ああ、試験か?少年には必要ない。なんと言っても、私の命を預けなければならないからな」
僕の顔は呆気にとられているだろうが、内心で物凄くガッツポーズをしていた。
「少年、今から私の事は団長と呼ぶように。それと、少年がうちにいる間は少年の名前は『少年』と名乗るように。そういうルールだ。後の細かい事は下にいる青年に聞いてくれ。当面の仕事も青年のサポートだ」
「はい!団長!」
9:🎏 ◆MEIDO...W.:2011/12/29(木) 23:49:36 ID:T4cBKsgiVM
「あのー……青年さんですか?」
「よお、坊主。受かったのか?」
青年さんはキッチンでゆっくり休んでいた。
「はい。細かい事は青年さんに聞けと言われました」
青年さんは棚に並んでいる沢山のマグカップの中から、一つ取り出して、紅茶を注いだ。おそらくあの中のどれかを割ったのだろう。
「だろうな。名前は?」
「少年と名乗るように言われました」
「お前の本名当ててやろう。お前、ジャックだろ」
名前の書かれたものでも持ってたかなと、見回してみたが、何も見つからなかった。
「うちにはジャックって奴がお前を抜いて三人いるんだよ。老人、中年、青年だ」
「じゃあ、青年さんもジャックなんですね」
青年さんは「まあな」と呟いて、紅茶を飲み干した。
「坊主、行くぞ」
「どこに?」
「お前、ずっと宿屋で暮らすつもりか?お前の荷物を全部移動すんだよ」
「あ、はい!」
10:🎏 ◆MEIDO...W.:2011/12/29(木) 23:49:55 ID:T4cBKsgiVM
「馬は外に出て、左側に行くと馬小屋があるから、そこにいる」
「僕なんかが一人で部屋を使って良いんですか?」
はっきり言って、僕の部屋より広い。
「良いんだよ。空いてるんだから。ほら、出かけるぞ」
青年さんは僕を置いて、さっさと出て行ってしまった。僕は急いで後を追った。
11:🎏 ◆MEIDO...W.:2011/12/29(木) 23:50:27 ID:T4cBKsgiVM
「どこに行くんですか?」
「お前の装備を整えに行く。お前の荷物に剣も鎧も無かったからな。ああ、金なら気にすんな。経費だから」
「あ、でも……」
剣は持っていると言おうとしたが、慌てて口を塞いだ。非常時以外に見せるなときつく言われているので、今は隠しているが。
「何か問題あるか?」
慌てて首を振った。
「じゃあ、行くぞ」
青年さんの後ろを離れないようについていった。
12:🎏 ◆MEIDO...W.:2011/12/30(金) 23:41:46 ID:ebLLxrZbYQ
「毎度ありー」
装備を一式買って、店を後にした。鎧って重いし、物凄く動きづらい。
「そう言えば、青年さんは鎧着てませんね」
「ん?まあな」
皮のベストくらいしか目立ったものがない。騎士というより、木こりの方が似合ってるかもしれない。
「俺は鎧ってもんが嫌いでね。動き辛くて、俺の戦い方に合わないんだよ。お前は着てろよ」
「はーい……」
脱げるかもって期待した僕が馬鹿だった。
13:🎏 ◆MEIDO...W.:2011/12/30(金) 23:42:13 ID:hqo7jcjY7s
「もしかして……青年さんって暇なんですか?」
僕は今、青年さんの指導の下、中庭で剣をただひたすら振っている。
「暇だよ。だから、お前のお守りも引き受けたし、こうやって指導もしている。ほら、スピードを落とすな」
そうは言うものの、結構キツい。というか、これは指導なのか?青年さんはただボーっとしているだけじゃないか。
「なん……で、暇……なんですか!」
「俺の仕事は夜からだからだよ」
それならこの人、良く保つな。あ、ヤバい。手が痺れてきた。
14:🎏 ◆MEIDO...W.:2011/12/30(金) 23:42:23 ID:hqo7jcjY7s
「ハァ……ハァ……」
僕は剣を手放し、地面に大の字で寝転がっていた。しばらく動けそうにない。
「どうした?もうバテたか?」
三十分も鉄の塊を鉄の服着て振り回したら誰だってこうなるって。
「実戦じゃバテてる暇なんかないぞ。まあ良い。初めはこんなもんだろ。毎日やるから早くなれろよ」
「……」
水を貰いたいのだが、口が開閉するだけで、声が出ない。
「……水か?」
もしかして、この人心が読めるのだろうか。だが、そんな事はどうでも良い。僕は必死に首を縦に振った。
「ちょっと待ってな」
青年さんはどこかに走っていってしまった。ああ、なんて優しい人なんだろう。その後、青年さんが転んで、僕はびしょ濡れになったのだが。
15:🎏 ◆MEIDO...W.:2012/1/1(日) 00:14:01 ID:y4tJpZ5ZuI
「ハックション!さ、寒い」
別に風邪をひいたわけではない。僕は今、青年さんの仕事の見回りに付き添っている。想像より、夜のカフドが寒くて結構驚いている。
「大丈夫か?ごめんな」
青年さんは結構気にしているようで、ずっと謝ってくる。
「大丈夫ですって。それより、先導してくださいよ」
「ああ、すまん」
僕より年上なんだから、もう少ししっかりしてもらいたい。
16:🎏 ◆MEIDO...W.:2012/1/1(日) 00:14:20 ID:b4dYJxAukI
見回りを始めてからどの位経っただろうか、歩くのには慣れているはずだが、鎧と剣の所為でかなり疲れた。
青年さんは急に立ち止まって、辺りを警戒し始めた。青年さんに話しかけようとしたが、口を塞がれた。
「良いか、良く聞け。あそこの十字路見えるな?お前はそこを走りながら、右に回れ。俺は回り込むから。良いな?」
僕が頷いたのを見て、青年さんはどこかに行ってしまった。いったいあそこに何がいるのだろうか。回り込むということは何かを捕まえるのだろう。まさか泥棒?まさかな。考えていても始まらない。僕は走りながら、十字路を曲がった。
「ニャー!」
「ね、猫?」
どこにいたかわからないが、三毛猫が僕にびっくりして逃げ出した。
「逃がすかぁ!」
青年さんが猫が曲がろうとした道から飛び出して、猫を捕まえた。そして、すぐに大きめの皮袋に猫を入れた。
「おう、お疲れ。いやー、二人いると楽だね」
そう言えば、猫探しも仕事だって、団長が言ってたっけ。それでも、なんとなく残念だ。
17:🎏 ◆MEIDO...W.:2012/1/1(日) 00:14:39 ID:b4dYJxAukI
猫を飼い主の下へ届け、団長への報告を終えて、重たい鎧を脱ぎ捨てて、ベッドに寝転がった。本当はこのまま寝てしまいたかったのだが、ドアをノックされたので、しぶしぶ起き上がった。
「よお、一緒に飲もうぜ」
ビンと二つのコップを持った青年さんがいた。
「お酒はちょっと……」
「そう言うと思って、ブドウジュースにしといたよ」
なんて準備が良いのだろうか。しょうがなく、招き入れた。
「ほら、お前の取り分。ジュース代は俺の奢りだ」
それほど多くはないが、お金を手に入れた。初めて自分の手でお金を稼いだかもしれない。
「さっさと飲もうぜ」
テーブルの上にもうジュースが注がれたコップが用意されていた。僕は青年さんの対面に腰掛けた。
「坊主の入団と仕事の成功を祝って、乾杯!」
「乾杯!」
18:🎏 ◆MEIDO...W.:2012/1/1(日) 00:14:59 ID:b4dYJxAukI
「うー……頭痛い……」
昨日の赤ワインという名前のブドウジュースはおいしかった。そりゃあ、吐くくらいに。この恨み絶対に忘れない。
水を飲もうと井戸に向かうと、少し赤の混じった茶髪の女性が顔を洗っていた。
「あ、使う?」
僕が頷くのを見て、すぐに顔を拭いて、退いてくれた。
「あなた、名前は?」
「ジャ……少年です」
本名を言いそうになってしまった。
「ふーん、私は赤犬。よろしく」
団長が外見的特徴で名前をつけているとしたら、この人のどこが犬っぽいのか全くわからない。
「じゃあ、私は魔物退治に行かなきゃならないから、またね。もっとも、これが最後かもしれないけどね」
赤犬さんはとても不吉なことを言い残して、行ってしまった。僕は水を飲んで、部屋で寝ることにした。
19:🎏 ◆MEIDO...W.:2012/1/1(日) 00:15:11 ID:y4tJpZ5ZuI
昨日みたいに、猫を捕まえるようなことはなく、見回りを終えて、次の人達に交代した。
「青年さん」
「んー?」
酒場で青年さんは酒を飲みながら返事をした。
「さっきの人達はなんて名前ですか?」
「知らん。気になるなら聞けば良いだろ」
「知らないって……」
「五年くらいいて、初めてあったって奴も結構いるぞ。なかなか戻ってこない奴とかいるからな」
なるほど。僕はグラスに注がれたリンゴジュースを飲み干した。
僕が名前を気にしたのは、ただ名前の法則性をしりたかったと言うだけなんだが。
20:🎏 ◆MEIDO...W.:2012/1/3(火) 23:32:53 ID:OP.XoqQTrw
「少年!少年!」
僕を呼ぶ声とドアを叩く音で目が覚めた。まだぼやける視界を擦りながら、ドアを開けると、団長が立っていた。
「ああ、少年。悪いが、三日間は彼女と組んでくれ。詳しい事は彼女に聞いてくれ。私は城に行かなきゃならんのだ」
団長は忙しそうに走っていった。団長って仕事は大変なんだろうな。
「昨日ぶりかしら?」
「赤犬さんと組むんですか?」
「そう。部屋入って良い?」
チラッと部屋の様子を確認してから赤犬さんを招き入れた。
21:🎏 ◆MEIDO...W.:2012/1/3(火) 23:33:01 ID:WwpOb4s0Qo
「まあまあな部屋ね」
まだそんなにここで暮らしてないから、何ともいえない。赤犬さんは部屋を一通り見回した後、椅子に座った。
「単刀直入に言うわ。あなたは国直々の依頼のメンバーに選ばれたの」
「えっ?」
開いた口がふさがらないとは今まさに体験している事のようなものだろうか。僕がなんでそんなすごい依頼に選ばれたんだ。
「驚きたいのはこっち。団長は何を考えているのかわからないのが問題なのよ」
それには同意する。本当になんで僕なんかが。
「で、その依頼には炎魔法を覚えてないと絶対に出来ないから、私が教える事になったの」
炎魔法が必要って言うと、植物系の魔物でも退治するのかな。
「二日で覚えなさい。じゃあ、私は中庭にいるから、さっさと来なさいよ」
なんとなく二日というのは無茶ぶりのような気がしてならない。
22:🎏 ◆MEIDO...W.:2012/1/5(木) 23:59:05 ID:cYUoihoiOE
「剣貸して」
僕は言われたままに、赤犬さんに剣を渡した。赤犬さんは剣を抜いて、まじまじと見た後、返してくれた。
「魔法使いがなんで杖を持つか知ってる?」
しばらく考えた後、首を横に振った。
「あれは体の中の魔力を集める為。今は杖無しでできる奴もいるけど」
「じゃあ、僕がやるのは……」
「そ。剣で魔力を集める事。これが第一段階。イメージは剣を籠として、散らばった物を集めて入れる感じ」
わかりやすい様なわかりにくい様な何ともいえない表現だと思う。
「ほら、さっさと剣持って。これは三時間で終わらせなさい」
なんと無茶な。しかし、文句ばかり言っててもしょうがないから、良くわからないイメージを下に、意識を集中した。
23:🎏 ◆MEIDO...W.:2012/1/5(木) 23:59:11 ID:PegmcYVJcA
「……まあ及第点かしら」
赤犬さん指導のスパルタ教育の二日目終盤に、やっとまともな大きさの炎を飛ばせるようになった。
「つ、疲れたー……」
僕は地面に寝っ転がった。魔法を使うというのは、体を動かすのとはまた違った疲労感がある。
「残り一日はそれを極めるのよ。じゃあね」
赤犬さんは僕を気にせず、さっさと行ってしまった。赤犬さんに比べると、青年さんってすごく優しいんだな。
いつまでも寝てるわけにもいかないから、僕は部屋に戻ることにした。
24:🎏 ◆MEIDO...W.:2012/1/6(金) 23:59:23 ID:PfERAEOVGw
「良く集まってくれた。これから依頼内容を説明する」
団長の部屋に集まったのは僕と赤犬さんだけだが。他の人はいないのだろうか。
「団長、他のメンバーは……」
赤犬さんも僕と同じ疑問を持っていたようだ。
「残念ながら、先遣隊全員が重傷を負ってな。元々、先遣隊のメンバーと君達を加えて、行ってもらうつもりだった。君達の以外に二人いたが、一人は昨日落馬して骨折、もう一人は長期任務から帰ってこない」
「そんな……」
団長は咳払いをしてから、再び話し始めた。
「ソルシエール村及び魔法の森周辺の生物が急激に減少した原因の調査及び解決だったのだが、原因は先遣隊の証言から、スライムであるとわかった」
なるほど、だから炎魔法なのか。
「本当かはわからないが、女性がスライムを操っているのを見たと言っている者もいる。おそらく二人では足りないだろうから、私も出るぞ」
団長自らだなんて。僕にとっても団長の実力を見れる良い機会かもしれない。
25:🎏 ◆MEIDO...W.:2012/1/6(金) 23:59:42 ID:TjN7yFH2Ro
「すごいなー」
目の前に広がる森は別に緑色の壁と言ってもいいくらいに大きかった。
「団長行っちゃったわよ」
赤犬さんの声にはっと我に返った。
「す、すいません!」
「ぶらぶらして来いってさ」
赤犬さんはケラケラ笑いながら、どこかに行ってしまった。そうならそうとさっさと言って欲しい。
村を歩いていると、雑貨屋を見つけた。青年さんにお土産を頼まれていたから、ちょうど良い。僕は雑貨屋へと踏み入れた。
26:🎏 ◆MEIDO...W.:2012/1/7(土) 00:00:30 ID:TjN7yFH2Ro
「いらっしゃい」
僕以外にもう一人店の中にいた気がするのだが。まあ、気のせいだろう
それにしても、この店品揃えがかなり良い。カフドとあまり変わりはないのではないだろうか。
「あ、いらっしゃい」
店の奥からもう一人店員が出てきた。多分、在庫の確認でもしていたのだろう。
「お客さん」
僕が商品を見ていると薄い水色の髪の女性店員が話しかけてきた。
「何でしょうか?」
「最近、国の奴を良く見かけるが、何かあったの?」
この水色の店員さんの言葉は優しく尋ねるようでもあり、何としても喋らせると言う気持ちが籠もっている気がする。
「スライムが大量発生したらしいです。しかも、噂だと誰かが操っているって」
「ミ、ミシェルさん……ま、まさか……」
もう一人の店員がミシェルと呼ばれた店員を見ながら、困惑した顔をしていた。ミシェルさんにはスライムを操る力があるのだろうか。
「ち、違う!私じゃない!ルーシーが変なこと言うから、お客さんも私を疑ってるじゃないか!」
いや、まあそんなに簡単に犯人見つかるとは思ってないけどさ。
僕はお酒を二本買って、店を後にした。
27:🎏 名無しさん@読者の声:2012/1/7(土) 01:40:07 ID:2H6TeaeCB6
話が繋がってる!しえんです
28:🎏 ◆MEIDO...W.:2012/1/7(土) 23:29:32 ID:zpo9dpEiuU
>>27
ありがとうございます!
繋がっている?違うね、繋げたんだ←
静かだ。鳥の鳴き声の一つでも聞こえても良いのに。聞こえるのは僕達が草を踏み分けて進む音だけだというのが、不気味でしょうがない。
それでいて、全員何にも喋らない。集中しているのはわかる。わかるのだが、気まずい。
「ここだ」
巨大な洞穴が目の前に広がっていた。入り口は僕なんかがジャンプしても上に届かないくらいに高い。
「ここは元々ジャイアントアントが住んでいたが、全滅。今はスライムが巣くっているそうだ」
団長が松明に火をつけたのを見て、全員同じように火をつけた。
洞穴に踏み込んでみると、足元だけでなく、天井や壁にまで大量のスライムがいた。そいつらは僕達から一定の距離を保ったまま、襲ってこない。松明の火を恐れているのだろう。
不意に背後が明るくなったので振り返って見ると、今まで通った道をスライム達が壁を作って塞いでいた。
「ダメです。一発撃ってみましたが、変わりありません」
スライムは火に弱い。それは数が少ない時であって、こんな壁のようになっては最早関係ないのだろう。
「とにかく進むぞ。スライムを操っている者がいるならば、そいつを倒せば何となるはずだ」
団長は臆せずにどんどん進んでいった。僕達は置いて行かれないように、団長を追った。
29:🎏 ◆MEIDO...W.:2012/1/7(土) 23:29:43 ID:iqCPsQL3wQ
しばらく進むと半球状の開けた場所に出た。先に進む道が無いのを見ると、ここが最深部だろう。しかし、何もいない。先ほどまで沢山いたスライムは入り口を塞いでいるだけしかこの部屋にいない。
「何かに隠れているかもしれないから、気を抜くな」
団長は身構えたまま、辺りを見渡し始めた。しかし、松明三つの明かりでは、まだ薄暗い。
「確実に何かいます。私達以外の匂いがしますから」
赤犬さんが言うような匂いは僕にはわからなかった。赤犬さんの名前の由来って、もしかして鼻が良いからなのだろうか。
赤犬さんから団長に視線を移した時、団長の少し後ろに水が一滴だけ落ちたのが見えた。いや、水じゃない。地面に吸収されずに残っている。
「団長!上です!」
団長が横に跳ぶのとほぼ同時に、巨大な水色の塊が団長のいた場所に落ちてきた。
「助かったぞ、少年」
水色の塊はだんだん形を変わり、腰から上だけのセミロングの女性へと姿を変えた。
「あーあ、バレちゃった。本当なら、一人倒していたのになー」
悪魔などの人型をしている魔物なら喋ると言うのは聞くが、スライムが喋るなんて聞いたことがない。
「お前がここの主か?」
「そうだよ。けどさ……三人?後一人はどこ?」
「何を言っている。我々は三人でしかここに来ていない」
「あっそ。何のよう?」
魔法を唱えようとした赤犬さんを団長が抑えて、話を続けた。
「周辺の生物を食い荒らしたのはお前か?」
「そうだよ。全部私に変えてあげたの」
スライムは分裂以外に、相手をスライムに変えて数を増やすとも聞いたことがある。
「やめてくれないだろうか?」
「嫌だ。私はこれから世界を征服するの」
30:🎏 ◆MEIDO...W.:2012/1/9(月) 00:10:44 ID:gpeu.5Rw8g
「ならば、お前を倒さなければならない」
団長が右手をセミロングに向けたのを見て、僕も慌てて身構えた。
「あんた達が私を?篭の鳥のくせに?」
それにしても、このセミロング嫌に自信があるようだが、何か策でもあるのだろうか。
「赤犬、少年、広かれ!」
「はい!」
「あ、はい!」
団長の指示通りに広がって、セミロングを三人で囲い、いざ魔法を撃とうとした時に魔法が撃てない事に気づいた。
「魔法が!」
「何故だ!」
僕だけじゃない。団長も赤犬さんも魔法が撃てないようだ。
「アハハハハ!さっきまでの自信はどうしたの?ここはね、対魔法結界が張られてるの!私をただのスライムと思ったあんた達が悪いのよ!」
対魔法結界って上級の魔法使いが数人で使う大技じゃないか。それをセミロングが一人で張ったって言うのか。妙な自信の理由が良くわかった。
「来ないなら私から行く……よ……」
突然、セミロングの胸から手が伸びてきた。その手は球体状の何かを掴んでいた。おそらくスライムの核だ。手が引き抜かれると、セミロングは倒れて、地面に吸収されていった。
31:🎏 ◆MEIDO...W.:2012/1/9(月) 00:11:40 ID:gpeu.5Rw8g
セミロングを貫いた手の持ち主は団長ほどではないが赤毛の女の子だった。セミロングが言ってた四人目だろうか。
「動くな!」
女の子が球体を閉まって、歩き出そうとしのを団長が松明から剣に持ち替えて、止めた。
「何かしら?」
「どこから現れた!」
「どこって……そこ以外にあるのかしら?」
女の子は不思議そうに部屋の入り口の方をを指差した。ちらっと入り口を見てみると、入り口を塞いでいたスライムは跡形もなく消えていた。
「何者なんだ!」
「人に名前を聞くときは、自分から名乗れって教わらなかったの?」
「……フルールだ」
団長は少し躊躇っていたが、ゆっくり口を開いた。
「違う。フルネーム」
「……フルール……フルール・スリジェだ……」
団長は辛そうな顔をしていたが、やがて覚悟を決めたように、名前を言った。
「フルール・スリジェ。良い名前ね。私はプリマリア・スペンサー。もっとも、スペンサーは捨てたけどね」
僕は完全にプリマリアと言う女の子の気迫というかオーラというか、とりあえずそんなのに飲まれていた。何もできない。赤犬さんの方はわからないけど。
32:🎏 ◆MEIDO...W.:2012/1/9(月) 00:11:48 ID:gpeu.5Rw8g
「何故スライムを倒した……」
「あ、それ聞くの?私もあなた達も目的を達成した。それで良いじゃない」
プリマリアは笑顔でゆっくり団長へと近づいて行った。
「ダメだ……お前が敵ではないとわからない以上、剣を向ける……」
さっきから団長の様子がおかしい。手はふるえているし、息も上がっている。プリマリアは僕達に気づかないうちにもう攻撃したのか。
プリマリアが団長に手を伸ばした瞬間、赤犬さんが動いた。
「団長に触るなぁぁぁぁぁぁ!」
「私は私に向かってくる奴を全員敵と見なす」
赤犬さんは地面に倒され、プリマリアに首もとに剣を当てられていた。赤犬さんが何されたか見えなかった。瞬きを一回したら、状況が全く変わっていた。
「誰がこの場を支配しているかわからないようね。死にたいの?」
非常時としか言われていない。だが、僕が動くより早くに団長が動いた。
「やめてくれ……お願いだ……」
団長は持っていた剣を捨てた。金属を地面を叩いた音がただ響く中、団長は震える手を上に上げた。
「……元からお前等に興味はない」
プリマリアは剣を投げ捨て、団長の横を通り過ぎて、あっさりと出て行ってしまった。
33:🎏 ◆MEIDO...W.:2012/1/9(月) 23:14:10 ID:ypGmimbIno
「……すいませんでした」
村への帰り道で僕は団長に頭を下げた。僕はあの時何も出来なかった。
「気にするな。まともに戦っても勝てる相手じゃなかった」
団長は本当に気にしていないようだったが、それでも僕の気が済まなかった。
「でも、援護の一つも出来ずに見ていることしか出来ませんでした……」
「少年、確かに君は彼女の時は何も出来なかった。だが、その前はどうだ?君は私を救っている。それだけで十分だ。さ、帰るぞ」
団長は僕の頭を撫でて、早歩きで進んでいった。僕は何となく嬉しかった。
34:🎏 ◆MEIDO...W.:2012/1/9(月) 23:14:23 ID:CB1RoyqAtc
「よお、魔物退治ご苦労さん」
部屋に戻ると、青年さんが向かうてくれた。青年さんの目的は僕ではなく、僕のお土産だろうけど。
「お土産です」
「どうも」
青年さんはテーブルの下からグラスを取り出した。なんと準備が良い人だ。
「何か面白いことあったか?」
「面白くない事なら沢山」
「じゃあ、良いや」
青年さんはグラスに注いだお酒を一口飲んだ。
「上手い!良いもん買って来るじゃないか!」
「どうも。青年さんはどうなんです?」
「俺か?俺は……ある」
青年さんはしばらく考えこんだ後、満面の笑みを浮かべた。少し気持ち悪い。
「盗賊の親分捕まえた。どうだ!凄いだろ!」
「へー」
いつ自慢話しろと言ったか聞いてみたい。まあ、凄いけど。
「もっと驚けよー」
「だって、青年さんだけの手柄じゃないですよね?」
「いや、俺だけだよ。護送されてた奴が逃げてな。それを一人で捕まえたんだ」
それならそうとさっさと言ってくれれば良いのに。それだったら僕も素直に誉める。
「乾杯します?あ、お酒はいらないです」
僕もテーブルの下に置いてあったグラスを取って、ジュースを注いだ。青年さんはお酒を注げなくて少し残念そうだった。
「少年の次の仕事の成功と俺の手柄を称えて!乾杯!」
「乾杯!」
35:🎏 ◆MEIDO...W.:2012/1/11(水) 23:19:31 ID:zeZgsGkyLM
「坊主!逃がすなぁぁぁぁぁぁ!」
遠くから青年さんの声が響いてきた。どうやら捕獲に失敗したらしい。
ここに来てくれれば秘密兵器で何とか出来るはずだ。秘密兵器を持った左手をギュッと握りしめた。
来た!少し太った三毛猫が僕のいる道に入ってきた。猫は僕に気づいて、一瞬スピードを落としたが、後ろから青年さんが追いかけているのか、再びスピードを上げた。
猫が右に跳んだのを見て、僕も右に跳ぶ。しかし、猫は道の脇に置いてあった箱を蹴って、左に跳んだ。猫が通り過ぎざまに勝ち誇ったような顔をしていた。
「引っかかったのはお前だ!」
猫は着地した後、走り出すことなく、その場に寝転んだ。僕が持ってきた秘密兵器はマタタビ。これで捕獲成功だ。
36:🎏 ◆MEIDO...W.:2012/1/11(水) 23:19:38 ID:r0z5LpMv1A
「そう言えば、青年さんはどうして猫探しばかりやるんですか?」
練習と称して、青年さんと戦った事があるが、この人は強い。それなのに何故こんな事をしているかわからなかった。
「誰かがやんなくちゃならない仕事だってあるんだよ。それをやるのが俺だ。俺は子供が憧れるような格好いい騎士じゃなくて、みんなを助ける優しい騎士になりたいんだよ」
なるほど。そう言う人もいるのか。騎士はみんながみんな強くなりたいと思っていた。こういう考えをするのも良いかもしれない。
それと青年さんのイメージを乾杯好きの猫ハンターから変えておこう。
37:🎏 ◆MEIDO...W.:2012/1/13(金) 06:57:47 ID:tkNMPW.72o
リンゴジュースのビンを三つ抱えて、屋敷の扉を肘であけると、赤犬さんが尻餅をついているのが目に入った。
「赤犬さん!どうしたんですか!」
慌ててビンを落としそうになったが、落とさないように床に置いてから、赤犬さんの体を揺すった。
「少年……腰抜かしちゃった……手貸して」
僕は赤犬さんを引き起こした。赤犬さんが腰抜かすなんていったい何があったんだ。
「その……恥ずかしいんだけど、私ネズミが苦手で……急に上から飛び降りてきたから……」
なんだ結構普通の理由で安心した。腰を抜かした時の戦い方の練習だなんて言われたらどうしようかと思った。
「あなた、変なこと考えているでしょ」
「まさか」
僕はジュースを抱えて、その場を逃げるように後にした。
38:🎏 ◆MEIDO...W.:2012/1/13(金) 06:58:08 ID:J3epKGo4j.
「少年!」
部屋に入ろうとした所を、団長に呼び止められた。
「後で私の所に来てくれ」
「あ、すぐに行けます」
僕は部屋にジュースを置いて、団長と一緒に団長の部屋へと向かった。
団長は僕を招き入れると、鍵をかけた。普通に話だけだと思っていたが、少し不安になってきた。
「プリマリアという少女の事は覚えているか?」
あれは忘れようにも、忘れられない。僕は無言で頷いた。
「私の……フルネームは……?」
「確か、フルール……」
「言わないで良い……」
団長が僕に向けた手はやはり震えていた。
「少年……お願いだ……それは忘れてくれ……」
団長は床に手を付いて、頭を下げてきた。ここまでさせて、断るのなんてただの鬼だ。
39:🎏 ◆MEIDO...W.:2012/1/13(金) 06:58:15 ID:tkNMPW.72o
「どうして、団長はあんなに名前にこだわるんだろう……」
「さあな」
酒場で乾杯した後、ボソッと呟いたのを青年さんは聞こえていたらしい。
「でも、あれは異常ですよ」
名前を知られることを異様に恐れている様なそんな感じだ。
「坊主、何があったかは知らないが、団長の為にも忘れろ」
「……はい」
僕は残ったリンゴジュースを一気に飲み干して、もう一杯注文した。
40:🎏 ◆MEIDO...W.:2012/1/15(日) 23:34:21 ID:ESEv7C/AiU
二杯目のリンゴジュースを少し飲んで、青年さんに話しかけた。
「青年さん、僕が魔物退治の依頼書手に入れたら手伝ってくれます?」
確かに青年さんの騎士の考えには共感はしたが、一度くらい騎士っぽい事をしてみたい。
「取れるならな」
なんとなく「お前には取れない」と言ってるようにも聞こえる。
「約束ですよ」
「はいはい」
41:🎏 ◆MEIDO...W.:2012/1/15(日) 23:34:42 ID:ESEv7C/AiU
「うわっ……もうない……」
朝起きて、真っ先に依頼掲示板に向かったが、魔物退治の依頼は一つも残っていなかった。あるのは猫探し二つにかなり遠くへの荷物の護衛が一つ。というか、猫逃げすぎでしょ。毎回一件はある。
「あら?少年じゃない」
可愛らしい犬が描かれたマグカップを持った赤犬さんが台所の方から出てきた。
「赤犬さんは何かとれたんですか?」
「ん」
赤犬さんはまだ白い湯気の立つ紅茶を少し飲んでから、僕に依頼書を見せてくれた。魔物退治と運搬だった。別々の場所だが、方角は同じだった。場所もしっかり選んでいる。
「二つも……」
「ま、魔物退治はやりたい奴がいっぱいいるから、取りたかったら、せいぜい早起きする事ね」
「はーい……」
もっと早く起きないとならないのか……
僕は猫探しの依頼を二つとも取って、青年さんの所に持っていった。
42:🎏 ◆MEIDO...W.:2012/1/15(日) 23:35:05 ID:ESEv7C/AiU
「はい、今日の分取ってきました」
「どうも。ほー、明日もゆっくり寝てられるな」
依頼書に目を通してから、青年さんは大きく口を開けて笑った。明日こそは絶対に取ってやる!
「ま、せいぜい頑張りな」
三日間粘ってみたが、僕だけでは無理だと悟った。
43:🎏 ◆MEIDO...W.:2012/1/16(月) 23:31:18 ID:esCYXYNWfc
「赤犬さん!僕に依頼書を取る秘訣を教えてください」
確か赤犬さんはほぼ毎回魔物退治の依頼書取れていた気がする。
「やだ」
赤犬さんは僕に見向きもせずに通り過ぎていった。僕は回り込んで、土下座した。
「僕だって、魔物退治してみたいんです!お願いします!」
「嫌だ」
「何でもしますから!」
「じゃあ、私につきまとわないで」
この人犬じゃない、鬼だ。
44:🎏 ◆MEIDO...W.:2012/1/16(月) 23:31:46 ID:BwFwt3N5iE
「少年、赤犬に土下座したそうだな」
「まぁ……」
いくら狭い場所と言っても、情報が広がるの早いすぎでしょ。何で階段上がる間に団長にまで広がってるんだ。
「先ほど狼退治の依頼が届いてな、どうする?」
「や、やります!」
「ちょっと待て……これだ」
団長はどこから取り出したかわからない調査書の束をペラペラとめくっていく。半分いかないくらいで、目的の依頼書を見つけたらしく、僕に渡してくれた。
「今日中に準備を整えておけよ」
「はい!」
さっさと青年さんを起こさないと。僕は意気揚々と青年さんの部屋に向かった。
45:🎏 ◆MEIDO...W.:2012/1/16(月) 23:32:17 ID:esCYXYNWfc
「正規ルートじゃないにしろ、約束はだったからなー」
青年さんはまだ文句を言っている。正直、うるさい。
「青年さん、集中してくださいよ」
「はいはい」
かれこれ二時間ほど探しているが、一匹も見つからない。本当にいるのだろうか。
「狼は賢いからな。警戒して出てこない可能性もあるぜ」
目標の十匹を討伐し終えたのは、丸一日経った頃だった。とんでもない重労働だった。
46:🎏 ◆MEIDO...W.:2012/1/17(火) 22:25:38 ID:n8gUqnX.1k
青年さんが僕のマグカップを割ったのに、何で僕が買いに行かなければならないんだ。まあ、お金を貰えただけ良しとしよう。
「うわー……」
店を出ると、視界には真っ黒な雲が広がっていた。せめて僕が戻るまでは保って欲しい。
僕は少し急ぎ足で戻っていった。
47:🎏 ◆MEIDO...W.:2012/1/17(火) 22:25:54 ID:n8gUqnX.1k
雨が振る前に戻れたのは運が良かった。
「お前はここの人間か?」
さっさと屋敷に入ろうとした時、凛とした声が響いてきた。
「はい。何かご用ですか?」
振り返ってみると、腰まである金髪のメイドと対照的に短い銀髪のメイドがいた。
「人を捜してる。とりあえず、中に入れてくれないか?」
「あ、はい」
金髪のメイドさんは何となく高圧的だった。本当にこの人はメイドだろうか?
48:🎏 ◆MEIDO...W.:2012/1/17(火) 22:26:03 ID:tYrmy1Mm3k
「おや、少年。知り合いか?」
僕が二人を招き入れて、扉を閉めたときに、団長が降りてきた。
「人を捜してるそうです」
「お前は?」
「ここのしがない団長だ」
団長が差し出した右手を無視して、金髪のメイドさんは話を進めた。
「団長ならアテナという女を知ってるだろ?」
「アテナ」という名前を聞いて、団長の顔色が変わった。
「ここで話をするのも申し訳ない。あー……」
「エクレールだ」
「エクレール殿、私の部屋まで来ていただきたい。連れの方はお控え願いたい」
そう言われて、エクレールさんの後を付いていこうとした銀髪のメイドさんは一歩下がった。
「だそうだ。ネージュ、好きにしてろ」
「畏まりました」
「少年、もてなしてやれ」
「あ、はい!」
そして、僕は二人が階段を上るのを見送った後、客間にネージュさんを案内した。
49:🎏 ◆MEIDO...W.:2012/1/19(木) 23:56:59 ID:CtXxZyuyE.
「どうぞ」
「ありがとうございます」
どれがお客さん用のマグカップかわからなかったから、新しく買った奴に紅茶を入れて出した。
「あの……座らないんですか?」
「立っているのは慣れていますので」
ネージュさんは綺麗な姿勢を崩すことなく、立っていた。なんだか座っているのが申し訳ない。
「…………」
もてなせとは言われたものの、、何を喋ったら良いか全くわからず、何とも気まずい雰囲気だった。
「あ、あの!」
「何か?」
思い切って話し掛けてみたが、話題がない。かと言って、話を続けない訳にはいかない。
「あー……お二人はどこから来たんですか?」
とっさに出たのがこれだった。今度からもっと考えて喋ろう。
「東の方のクリマという小さな国です」
クリマって聞いたことがある。確か、十年くらい前に魔王に乗っ取られた国だ。
「クリマって今どうなっているんですか?国交が結んでない所為か、全然情報が入ってこないんですが」
「君主と人口比率が変わっただけで、後は変化はありません」
そこで会話が途切れてしまった。
50:🎏 ◆MEIDO...W.:2012/1/19(木) 23:57:07 ID:CtXxZyuyE.
「エクレールさんはメイド長なんですか?」
ふとそんな疑問が浮かんできた。エクレールさんとネージュさんの言動からそう思っただけなんだが。
「違います」
「じゃあ、何なんですか?」
「魔王です」
むせた。今、この人なんて言った。僕の耳が正常なら「魔王」って言ったよね。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないです。冗談ですよね?」
「何故私が冗談を言わなければならないのですか?」
「信じられないから……」
「私は事実しか言いません」
ネージュさん表情が全然変わらないけど、本当の事を言っているというのはなんとなくわかる。
「ああ、ここにいたか」
ふいに背後の扉が開いて、エクレールさんが入ってきた。団長との話は終わったようだ。
「悪いが私にも一杯くれないか?」
「は、はい!」
現役の魔王が目の前にいるという貴重な体験をしているのだが、全く喜べない。
とりあえず、僕はマグカップに残った紅茶を飲み干して、客間を後にした。
51:🎏 名無しさん@読者の声:2012/1/20(金) 23:52:02 ID:kCJ7IWQLus
CCC
52:🎏 ◆MEIDO...W.:2012/1/21(土) 23:47:16 ID:OVSWlYCIKk
「どうぞ」
やっぱりお客さん用のマグカップがわからなかったので、代わりに赤犬さんのマグカップを使わせてもらった。
「ありがとう。それと、マグカップ置いて、万歳してみろ」
僕は言われた通りにマグカップをテーブルに置いて、万歳した。何をするんだと思ったら、エクレールさんは突然、僕の体を撫で回し始めた。
「えっ、ちょと……」
「喋るな」
「はい……」
僕、こういう人は苦手かもしれない。
「だいたいわかった」
しばらくして文字通り魔の手から解放された。
と思ったら、僕の体は宙を舞っていた。何が起こったのかが全くわからなかった。辛うじて見えたのが、エクレールさんが腕を振りかぶっていた事。つまり、僕はエクレールさんに殴られたのだとやっと理解した。何故?わからない。ほどなくして、僕は壁に叩きつけられ、背中に鋭い痛みが襲った。
53:🎏 ◆MEIDO...W.:2012/1/21(土) 23:47:41 ID:OVSWlYCIKk
「……あれ?」
僕の体に起こった現象にやっと気づいた。エクレールさんに殴られた痛みはない。背中はものすごく痛いけど。夢かと思って頬を抓ってみたが、痛かった。
「さっさと抜け。抜かないと炭になるぞ」
エクレールさんは床に倒れる僕を見下ろしながら、僕に右手を向けていた。
「何の騒ぎだ!」
さっき僕が叩きつけられた音がかなり大きかったのか、団長を先頭に沢山人が集まって来た。
「エクレール殿!どういおつもりか!」
「ネージュ、遮断しろ」
「仰せのままに」
客間と言うか、僕等を分厚い氷の壁が包むのは一瞬だった。外から僅かに氷の壁を叩く音と団長の声が聞こえる。
「さっさと抜け」
「ぼ、僕丸腰ですよ!」
そんなの関係ないと言ったように、エクレールさんの手がバチバチと音を立て始めた。
非常時以外に見せるな。今がその非常時だ!
僕が決断した時とエクレールさんの手から雷が放たれたのは同時だった。
54:🎏 ◆MEIDO...W.:2012/1/22(日) 23:13:44 ID:D9txi/yolg
>>51
忘れてた。ありがとうございます!
「……やはりな」
本当に死ぬかと思った。決断と同時に出てきてくれなきゃ死んでたよ。
「対物理攻撃シールドに魔法吸収。そして吸収した魔法を使える。それに私のステータスを下げる魔法を自動で発動。全く……そんな面倒な物持ってるなんてな」
何でこの人こんなに詳しいんだ。僕を守る魔法の剣としか聞いていないのに。
「何故って顔しているな。それを作った奴が私の大嫌いな奴だからだ。ソリアっていう女だろ?」
僕は小さく頷いた。この剣をくれた人は確かにソリアさんという魔法使いだ。
「ほかの奴にバレたくなかったら、しまっとけ」
僕は言われた通りに剣をしまった。しまうというより消すの方が正しいかもしれない。
「ああそうだ」
エクレールさんが急に僕の頭を掴んで、眉間をぎゅっと押してきた。意味はわからなかったが、痛かった。
「それと……」
エクレールさんの意味不明な行動は続き、今度はさっきテーブルに置いたすっかり冷めたであろうマグカップに指を突っ込んだ。かと思うと、直ぐに指を抜き、メイド服についている白いエプロンに数滴紅茶を垂らさした後、ハンカチで指を拭いた。
「ネージュ、もう良いぞ」
「御意」
ネージュさんが指を鳴らすと、氷の壁がは跡形もなく消え去った。それと同時に包囲された。
55:🎏 ◆MEIDO...W.:2012/1/22(日) 23:13:52 ID:IGFgpVzJso
「エクレール殿、説明していただこう。事と次第によっては我々はあなたを討つ」
団長は剣をエクレールさんに向けて喋った。対して、エクレールさんは肩を竦めた。
「このメイド服、実はかなりのお気に入りでな。これ何だかわかるか?」
エクレールさんが急に服の事を話し始めたと思ったら、先ほど紅茶を垂らした場所を指差した。
「あのガキがつけたんだ」
僕は言い返そうとしたが、ネージュさんに口を塞がれてしまった。
「それで、軽くデコピンしたつもりが、少しばかり力加減を失敗してな。それで壁までふっ飛ばしてしまったというわけだ。まだ、眉間が赤いだろ?その後は、教育的指導だな」
「本当か少年?」
「ネージュ離してやれ」
僕は違うと言いたかった。言いたかったけど、ネージュさんに何か尖った物を背中に当てられていたので、僕はゆっくり頷いた。
「……大変失礼な事をしたのをお許しいただきたい」
団長が剣を下ろすと、次々に剣を下ろして客間から退散していく。
「紛らわしい事をした私が悪い。私達はそろそろ失礼しよう。ネージュ、行くぞ」
「はっ」
エクレールさん達は堂々とした足取りで屋敷を出ていった。僕は二人が出て行くのを見送り、部屋で休もうと思ったが、そうは問屋がおろさなかった。その後、僕は二時間ほど質問責めされる事となった。
56:🎏 ◆MEIDO...W.:2012/1/24(火) 22:55:32 ID:REyqDbJZgQ
結局、あまり休むことも出来ずに僕の仕事は平常運転となった。
「青年さんはアテナって言う人知ってますか?」
現役魔王が直接会いに来るほどの凄い人だから、気になってしょうがない。
「アテナ……」
青年さんは飲むのを止めて、腕を組ながら考え始めた。
「ああ、あれだ。前団長だ。英雄らしいぜ。ま、俺の入団前の人だから、詳しくは知らないけどな」
前団長か。英雄ともなると、なんとなく徹底的に調べてみたい。
「誰に聞けば、わかります?」
「んー……じっちゃんかな……」
「じ、じっちゃん?」
「そ、老人ジャックだよ」
ああ、なるほど。長年いる人に聞けば、そりゃわかるか。
「あ……ダメだ。じっちゃん今いないんだ」
なんとなく出鼻を挫かれた気がする。
「いつ戻るんですか?」
「一ヶ月後くらい」
それじゃダメだ。僕が待てない。他の人を探さないと。
「じっちゃんがダメだから……やっぱり団長じゃないか?」
やっぱりそこに行き着くか。でも、正直に話してくれるだろうか。エクレールさんが「アテナ」って口にした時の団長の顔は結構怖かったからな。
57:🎏 ◆MEIDO...W.:2012/1/24(火) 22:55:38 ID:cRgOqnAOPY
次の日、僕は意を決して団長の部屋の扉を叩いた。
「入れ」
「失礼します」
「何かあったのか?」
団長は何かを書きながら、僕に話しかけてきた。
「アテナさんについて教えてください」
「ちょっと待ってくれ。もうすぐ書き終わる」
団長はしばらくペンを動かした後、テーブルに乗っていた物を全て引き出しに閉まった。やっと団長と目があった。
「少年、好奇心は猫をも殺すぞ」
団長の目は所謂狩る者の目で僕を睨みつけていた。好奇心ではなく、団長に殺されそうだ。僕は無意識に足を引きそうなのをこらえて、団長の目をしっかり見据えた。
「教えてください!」
「……はぁ」
突然、団長は顔を押さえて、大きなため息をついた。
「良いだろう。ただし、君は私のトラウマに立ち入ろうとしている事だけ覚えていてくれ」
なんか予想以上の事を話すようだ。これは気を引き締めなければならないな。
58:🎏 ◆MEIDO...W.:2012/1/25(水) 22:55:54 ID:cRgOqnAOPY
「彼女は盲目で記憶を失った騎士だった。だから、彼女の本当の名前も出身もわからない。記憶を持ち合わせず、目も見えないのに、彼女は堂々としていた。後で聞いてみたら、彼女には全てが見えていたそうだ」
僕だったら、とてもじゃないが、堂々となんて出来ない。それが出来るのは一つの強みなんだろう。
「アテナという名前の女神を知っているか?」
聞いたことはあるが、詳しくは知らないので、僕は首を横に振った。
「戦と知恵の女神とされている。彼女はそのアテナが人間として生まれたような人だった。戦に出れば必ず勝ち、あらゆる事を知り尽くしていた」
とんでもない人だった。まだ序盤だから分からないが、もっと凄まじくなりそう。
「そういう功績があって、将軍にしようと言われていたが、それを断り彼女はここの団長になった」
そこまで口にして、団長は突然立ち上がった。
「私だけ座っていてすまない。そこに座ってくれ。ついでにお茶でも煎れてくる」
団長はそう言って、部屋を出て行ってしまった。僕は言われた通りに、窓際に置かれた椅子に座って、団長が戻って来るのを待つことにした。
59:🎏 ◆MEIDO...W.:2012/1/25(水) 22:56:01 ID:REyqDbJZgQ
「君のだ」
「ありがとうございます」
早速入れてもらった紅茶を一口飲んでみた。自分で煎れるよりはるかに美味しかった。
「彼女が団長になった所まで話したな。彼女は戦争によって荒れていたカフドの治安を戻す事に努めた。そして、それが今も続いている」
団長は紅茶を飲んで、小さくため息をついた。
「……彼女がとある依頼を終えた帰りに道端に捨てられていた私を拾ったそうだ」
「えっ」
「意外か?私は捨て子だったんだよ」
団長ほどの人が捨て子だったなんて、意外すぎる。
「私は彼女に育てられながら、騎士団の仕事に従事していた。彼女の指導の下、色々やった。彼女は私の憧れであり、母のような人だった。私の名前も彼女に貰ったんだ」
団長は遠い昔を思い出すような目をしていた。
「……少年、私が殺した中で一番強かったのはなんだと思う?」
「えっと……ドラゴン……?」
突然の質問だったので、何となくそう答えた。
「ハハハ、それなら私も英雄の仲間入りだ」
団長は少し笑った後、口を引き締め真っ直ぐ僕は見据えてきた。
「一番強かったのはアテナだ」
あまりの驚きに僕は声が出なかった。
60:🎏 ◆MEIDO...W.:2012/1/26(木) 23:21:25 ID:repttFbQKM
「二十歳の時の話だ。とある魔法使いを捕まえるという国からの依頼に参加していた。その魔法使いは私達にいち早く気づいたらしく、森に逃げていた。私達は森の中を虱潰しに探していき、私が一番最初にそいつを見つけたんだ……」
団長は辛そうな表情で、声を震わせながら話を続けた。
「そいつは抵抗してきたが簡単にねじ伏せる事が出来た。そうしたら、そいつは『自分を倒した奴の名前をしりたい』と言ってきた。だから、私は何のためらいもなく教えた。それが私の最大のミスだった。そいつの専門は呪いだったんだ」
確か呪いは相手の顔と名前を知っていればかけられる。そんな奴に名前を教えるのは自殺行為に等しい。
「それからあっという間だった……そいつに操り人形にされ、私の下にやってきた彼女を……」
団長は顔を手で隠しながら震えていた。そして、時々嗚咽が聞こえてきた。それでも団長は話を続けた。
「一回刺しただけじゃ私の体は止まらなかった……何度も何度も彼女を刺そうとする……彼女は抵抗はしたが、反撃はしてこなかった……最後に彼女を刺したとき、彼女は笑顔だった……そして、私の頭を撫でて二度と起きる事はなかった……それを見届けて、私の意識もどこかに飛んだ」
団長にかける言葉が何もなかった。何を言っても、マイナス方向に行ってしまう気がしてならなかった。
「目を覚ますと、自分の部屋のベッドだった。夢だと思って、すぐに彼女の下に向かったが、彼女はどこにもいなかった。夢ではなかった」
団長は顔を押さえるのを止めて、赤くなった目を擦り、また話を続けた。
「彼女が死ぬ前日に王に次の団長を私にするように頼んでいたらしく、私が団長になった。私が彼女を殺した事を知る者は少なく、皆が皆、私の団長就任を祝った。それが苦痛でしょうがなかった」
団長はマグカップに残っていた紅茶を一気に飲み干して、割れるのではないかという位の勢いでテーブルに置いた。
「私は怖いんだ。私の体がまた勝手に動いて、誰かを傷つけるのではないかということが。私の体が私の物ではないような気がしてならない……すまない。団長の私がこの様で……関係ない話もだいぶしてしまった」
「良いんです。ごめんなさい。変な事聞いちゃって」
僕は頭を下げ、マグカップを持って、部屋を出た。
61:🎏 ◆MEIDO...W.:2012/1/27(金) 23:33:47 ID:QccndbiQIY
僕はベッドに寝転がって、天井を見つめていた。僕はさっきの話のアテナさんの行動について考えていた。何故、アテナさんは初撃を食らったのだろうか。そればかりか、逃げずに戦ったのか。
あくまでも僕の勝手な考えだが、アテナさんが仮に二十歳の時に団長を拾ったとして、単純に考えてアテナさんは四十歳で死んだことになる。四十歳というと平均寿命位だ。つまり、初撃をかわさなかったのではなく、かわせなかったのではないだろうか。団長の座を譲るということは自分の体が限界だと悟っていたからではないか。
逃げなかった理由は簡単に想像つく。団長が人質だからだ。時間稼ぎをすれば、誰かが見つけてくれるかもしれない。だけど、死ぬまでやり続ける理由がわからない。とんでもなく運が悪い訳ではないはずだ。金属同士がぶつかり合う音は、かなり響くはずだ。刺されながらも、笑顔で頭を撫でたという事は、そうされる事を受け入れていた。自分の最期を任せたかったとかそういう系しか思いつかない。
62:🎏 ◆MEIDO...W.:2012/1/27(金) 23:34:04 ID:Cy2lQjXYBU
こんな幼稚な推理は団長も考えついているだろう。いや、案外そうでもないかもしれない。名前を知られるだけで、拒絶反応が出るんだから、わざわざ考えるだろうか。多分考えていないはずだ。
迷惑だとわかっているが、僕は僕の考えを聞いてもらうために、部屋を出ていった。
63:🎏 ◆MEIDO...W.:2012/1/27(金) 23:34:42 ID:Cy2lQjXYBU
「……どう思いますか?」
僕はさっき考えていた事を全て話してみたが、団長は下を向いたまま返事をしてくれなかった。
「団長、あんまり過去に捕らわれすぎないでください。無茶言っているのはわかりますが、団長にこういう雰囲気は似合いません。操られたとしても、僕が止めてみせます。団長の命は僕が任されているんですから」
我ながらとんでもないかとを言った気がする。
「……ハハハハハ!」
突然、団長は手をたたきながら笑い出した。まさかトラウマ思い出しすぎて、狂ったんじゃ……
「言ってくれるな、少年!すぐには無理でも努力しよう!」
空元気だとしても、団長はこういうキャラが一番似合う。
「さっそくだが、君にも手伝ってもらおうか。さあ、一緒に吸血鬼退治といこう」
「えっ」
「おや?私を手伝ってくれるのではないのか?」
いや、まあそういう意味では言ったが、いきなりというかなんというか。
「まさか二人じゃないですよね?」
「そこまで私は自惚れていない。ちゃんとメンバーを募るさ」
団長は壁に立てかけてあった剣を持って、僕の横を通り過ぎていった。
まだまだ力不足だが、何があろうとも僕は絶対に団長を守る。それが僕の夢だし、団長にも任された仕事なのだ。
「なにをぼさっとしている。いくぞ」
僕が決意をしていて、動かなかったせいか不思議そうな顔を向けていた。
「あ、はい!」
僕は急いで団長の背中を追いかけた。
64:🎏 ◆MEIDO...W.:2012/1/27(金) 23:35:50 ID:Cy2lQjXYBU
あとがき
どうも、終わり良くないから、全て良くないメイドです。
今回はわたシリーズ初めての男主人公!まあ、無理矢理わたシリーズに分類しましたけどねwww
わたシリーズ五作目という事で、頑張って今までのキャラ出そうとしたんですが、流石に真理と阿須面は無理でした。別に考えなかった訳じゃないですよ。考えたけど、これはないなって削りました。
何故こんな事考えたかが全くわからないですwww
とりあえず、ここまで読んでいただき誠にありがとうございました。
65:🎏 名無しさん@読者の声:2012/1/28(土) 13:10:52 ID:VonRWSEIcU
おつ
66:🎏 ◆MEIDO...W.:2012/1/29(日) 23:52:35 ID:an6g/2UWZA
>>65
ありがとうございます。
名前:ジャック・ブクリエ
性別:男
種族:人間
年齢:16
身長:163cm
長所:誰にでも優しくする
短所:マイペース
知性:普通
特技:稲刈り
一人称「僕」
二人称「あなた」
容姿:短めの茶髪、鎧
特徴:大陸の中央付近にあるガッシ国の王都カフドを守る騎士団に新しく入った新米騎士。剣の腕はあまり良くない。
結構抜けている所があるが、やるときはしっかりやる。
強い女性が好きで、そう言う人をいつか自分が守りたいと思っている。
騎士団でのあだ名は少年。
実家の三件隣にソリアが住んでいる。隠している剣はソリアから15歳の誕生日に貰った。
67:🎏 ◆MEIDO...W.:2012/1/29(日) 23:55:17 ID:G46YlDEqRg
名前:フルール・スリジェ
性別:女
種族:人間
年齢:27
身長:173cm
スリーサイズ:普通
長所:仲間思い
短所:精神が弱い
知性:高い
特技:死角からの攻撃
一人称「私」
二人称「君」
容姿:赤毛のショート、茶色のブーツ、
特徴:カフド騎士団の団長。幼い時から騎士団に所属している。団長就任は20歳の時。
20歳の時に犯罪に荷担していた魔法使いを捕まれる際に、うっかり名前を喋ってしまい、呪いをかけられそうになるが、前団長のアテナが庇ってなんとか生きている。アテナは死亡した。アテナの遺言で団長となる。これ以降、フルネームを知られる事がトラウマとなっている。
剣、魔法ともに非常に優れていて、一人で五十人近くの山賊を倒したという噂がある。
今は団長である事を誇りに思っているが、成り立ての頃は団長でいることが辛かった。ジャックとは本当に運命の出会いだと信じている。
自分の体がまた勝手に動いて、誰かを傷つけるのではないかという恐怖が常に心のどこかにある。
私の作品の中で最年長(ただし人外は除く)まだ若いように見えて、平均寿命考えると、結構高齢。
68:🎏 ◆MEIDO...W.:2012/1/29(日) 23:56:02 ID:G46YlDEqRg
名前:青年
性別:男
種族:人間
年齢:19
身長:178cm
長所:後輩思い
短所:心配性
知性:少し悪い
特技:賭事
一人称「俺」
二人称「お前」
容姿:茶色の皮のベスト
特徴:カフド騎士団の団員。主な仕事は夜中の民家周辺の警備と猫探し。昼は暇。魔物退治は気が乗らないとやらない。憧れの騎士より頼られる騎士になりたい。
気をつけていても、コップを割る。水を運べば転ける。
剣の腕は結構なもの。赤犬に勝てないのが最近の悩み。そろそろ魔法を覚えるかも考え中。
自分の非を結構引きずる。後輩にはかなり優しい。
乾杯をするのが大好きで、何でもかんでも乾杯しようとする。
69:🎏 ◆MEIDO...W.:2012/1/29(日) 23:56:54 ID:G46YlDEqRg
名前:赤犬
性別:女
種族:人間
年齢:20
身長:169cm
スリーサイズ:普通
長所:鼻が良い
短所:酔い癖
知性:やや高い
特技:炎魔法
一人称「私」
二人称「あなた」
容姿:少し赤の混じった茶髪
特徴:炎系の魔法を得意とする女騎士。名門の騎士の家系出身。
入団は青年、赤犬の順だが、腕前は赤犬、青年。
主な仕事は魔物退治。基本的に一人でこなしている。
将来の夢は自分を守ってくれるような人と結婚すること。だが、年下は嫌。
普段は犬っぽさは皆無だが、酔った時に犬みたいに他人を舐める。鼻は人より効く。炎を使い、犬みたいだから、赤犬。
団長が好きだが、団長からは犬の様に可愛がられてはいる。
70:🎏 ◆MEIDO...W.:2012/1/29(日) 23:59:33 ID:an6g/2UWZA
カフド騎士団
団長、フルール。所属人数78人。男女比、7:3。王都カフドを守るために結成された騎士団。だが警備だけでなく依頼すれば、猫探しから魔物討伐までやってくれる。そのため団員は大半が出払っているため、たまに同期でも初めて会うという事が起こる。掟の一つに本名を教えないというのがある。
ソルシエール村
魔法の森すぐ隣にある村。二軒の宿と品揃えの良い雑貨屋、鍛冶屋、薬屋などの店が揃っている。王都から離れているが、懸賞首を求めて、多くの冒険者がやってくる。ミシェルとルーシー在住。
魔法の森
ここにいると魔法の威力が上がると言われている不思議な場所。最深部には城があり、魔女が住んでいると言う噂がある。森の周りを一周するのに馬で半日ほどかかる。薬草などが豊富に育ち、ソルシエール村の収入源の一つである。プリマリア在住。
クリマ国
カフドより東にある国。馬で約二日ほどかかる。君主の性格の所為か、どことも国交を結べていない。エクレールとネージュ在住。
アテナ
カフド騎士団前団長。盲目であるが、見えているかのように戦ったと言う。戦争に指揮官として時々出ていた。アテナという名前は戦に出た時に、誰一人として戦死者を出さず、勝利したたという逸話から、「まさに知恵と戦争の女神のようだ」と王がたたえた事から。魔王討伐隊は一度だけ参加。その際、エクレールに敗北するも、多数の生還者がいた。
全体の設定からわかるように、結構薄いのと後付け満載。
71:🎏 名無しさん@読者の声:2012/2/1(水) 16:51:13 ID:A36.rRUHjU
赤犬の由来w
72:🎏 魔法冥土:2012/2/1(水) 16:59:11 ID:OEv/Nma8qg
>>71
嫌ぁぁぁぁぁぁ!上げないでよぉぉぉぉぉぉ!←
73:🎏 71:2012/2/1(水) 22:00:30 ID:urgSQxQXHw
>>72
ご、ごめんなさい(;´・ω・`)
74:🎏 真・スレッドストッパー:停止
停止しますた。ニヤリ・・・( ̄ー ̄)
55.27 KBytes
[4]最25 [5]最50 [6]最75
[*]前20 [0]戻る [#]次20
【うpろだ】
【スレ機能】【顔文字】