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ターミナルの神様
[8] -25 -50 

1: 1:2011/12/11(日) 16:14:42 ID:YW2VpLC90c
「出来、たー……!」

オフィス用の椅子を限界まで倒してのけ反ると、背骨と腰の辺りからばきぼきと嫌な音が鳴った。

うん。リアルだ。

ひとりで納得しながら腕を伸ばしていると、窓口に立っていた結さんが振り返る。

「お疲れ様、今日のノルマは終わりよ」

「死んでるのにドライアイになりそうですよ」

「私だって死んでから書類仕事する羽目になるとは思わなかったわよ」

お腹は空かない、でも眠れる。

肉体はないはずなのに、仕事をすれば疲れるし、物に触れることもできる。

死後の世界というものは、全くおかしな場所だった。


121: 1:2011/12/30(金) 10:47:23 ID:agmpcxXNZc
「そうね、でも――」

俺は奪われたクッションを目で追いながら結さんを見上げる。

結さんは俺と目が合うと、にこりと自然に笑ってみせた。

「あの子がよぼよぼのお年寄りになっていたら、会いたかったわ」

ああ、これが母親なんだ、と。

妙に腑に落ちるような気がして、俺は目を伏せた。

取り上げられたクッションの柔らかさは、まだ手のひらに残っている。

きっと幸せに暮らしているんだろうと、俺は彼女の子供に思いを馳せたのだった。
122: 1:2011/12/31(土) 16:30:17 ID:IZAkWz/mtQ
たまにはageてみたくなる。
そんな気分。

今年最後の更新にまいりましょー( ^ω^)
123: 1:2011/12/31(土) 16:31:18 ID:IZAkWz/mtQ
先日発掘したクッションは、晴れて結さんのお気に入りとなったらしい。

窓口仕事のときは結さんの背中に収まり、休憩中は腕に抱かれてむにむにと押し潰される。

そんなクッションが何故か今は、中身が飛び出さんばかりに締め付けられていた。

「あのですね、ですから貴方は亡くなってるんです。まずはそれを受け入れて頂かないと、こちらとしても対応が……」

「ふん、そんな馬鹿なことがある訳ないだろう。じゃあ何故俺はこのペンに触れるんだ」

知るかよそんなもん、と窓口に座る結さんの背中が毒づく。

机の下でクッションが、また一段と酷くひしゃげるのを見て、俺はやれやれと大きな欠伸をした。
124: 1:2011/12/31(土) 16:32:17 ID:XXnWtGX0ys
結さんが対峙しているのは、五十代半ばほどのおじさんだ。

生真面目そうなスーツ姿で、至って普通の常識人に見えるのだが。

「大体そんな阿呆な話が信じられる訳ないだろう。ここはどこの駅だ、責任者を出せ」

その生真面目さが仇となったようだった。

この調子でかれこれ十分が経つ。

結さんは貼り付いた営業スマイルの下でクッションに苛立ちをぶつけながら、辛抱強く同じ説明を繰り返していた。
125: 1:2011/12/31(土) 16:33:03 ID:XXnWtGX0ys
「ここは東京ターミナル駅、皆さんの死後の旅をお手伝いする場所です。貴方は亡くなっているんです」

「だから俺が死んでいる訳が」

まさに堂々巡りだった。

結さんがついに営業スマイルを崩して溜め息をつく。

「いい加減お分かりでしょう、現実を受け入れてください。いいお年なんですから、見苦しいですよ」

うわ言った、と俺は密かに身を縮める。

結さんの辛辣な言葉に、案の定男性は剣呑に目を細めた。
126: 1:2011/12/31(土) 16:33:58 ID:XXnWtGX0ys
「下っ端の分際で客に向かってその態度、詳細に報告してやるからさっさと責任者を出せ」

「私が責任者ですが何か?生憎と、規律を乱す利用者に注意を促すのも我々の仕事ですので」

「俺がそうだと言いたいのか」

「さあどうでしょうか」

ますます険悪になる雰囲気に、仲介に出るべきか迷う。

今俺が出て行っても状況を悪くするだけだろうけれど、果たしてこれ以上悪化することが有り得るのだろうか。

「ともかく、ここに必要事項を記入してください。話が進みません」

不機嫌を隠そうともしない結さんに、これはまずいと俺は立ち上がった。
127: 名無しさん@読者の声:2011/12/31(土) 17:05:38 ID:i20aHeWQRM
毎日見てるよ。支援
128: 名無しさん@読者の声:2011/12/31(土) 20:46:42 ID:adi9mYDq.Y
支援支援支援!!!
飛び切りの愛と期待を支援!!
どうしよwww
好み過ぎたwwww
これからの愛読書にします


129: ひととせ ◆EOQ3BRAmq.:2012/1/1(日) 13:05:13 ID:VMnJaffQ7E
名前変わってますが1です。
新年あけましておめでとうございます!(*゚∀゚)
昨年は大変お世話になりました。色々な方々に読んで頂いたり温かい言葉を掛けて頂いたり、とても幸せな一年でした。
今年も引き続き頑張って書いてゆきますので、何卒宜しくお願い致しますm(_ _*)m

すいません、これ以降は自分のキャラ作るの面倒になってきたので素に戻ります。コテもつけます。
敬語取るの難しいwwwww
130: ひととせ ◆EOQ3BRAmq.:2012/1/1(日) 13:05:50 ID:VMnJaffQ7E
>>127
支援ありがとうございます。すごい嬉しいです。
自分もずっと毎日見て頂けるように、毎日更新頑張らなきゃいけませんね!
今年もよろしくお願いします(*´ω`*)

>>128
IDにプギャーされたwww
愛と期待の支援ありがとうございます。正直押し潰されそうですw
今年もよろしくお願いします(´∀`*)
131: ひととせ ◆EOQ3BRAmq.:2012/1/1(日) 13:08:36 ID:tbpDYj2bNQ
「――そういう、人を見下した態度が気に食わないんだ」

男性が一際険しい顔をする。

そのまま振りかざした腕に、あ、やばい、と思ったのは一瞬のことで。

があん、と大きな音が響く。

咄嗟に庇った結さんの上、ちょうど俺の頭の辺り、窓口のガラスの上に、固く握られた拳が震えていた。
132: ひととせ ◆EOQ3BRAmq.:2012/1/1(日) 13:09:16 ID:tbpDYj2bNQ
安堵すると同時に、庇う必要などなかったことに気付く。

身体の緊張を解いて見上げてくる結さんにきまりが悪くなって顔を上げると、男性は驚いたように自分の拳を見ていた。

「……憩。大丈夫だから」

離れて、という結さんの声に、俺はようやく自分の体勢を思い出して身を引く。

男性はまだ何かを言いたげに口を開閉していたが、結さんと目が合うと、思い詰めたように舌打ちをして身を翻した。

「あっ、こいつ……!」

思わず声を荒げる俺を、冷静になったらしい結さんが制する。

「いいわ、憩、落ち着いて。今のは私が悪かった」
133: ひととせ ◆EOQ3BRAmq.:2012/1/1(日) 13:09:55 ID:tbpDYj2bNQ
結さんが自分を落ち着かせるように眉間を揉みほぐす。

俺も気持ちを鎮めようと一度深呼吸をして、それから結さんに向き直った。

「どうするんですか、あれ」

あれとは言わずもがなの男性のことである。

俺が投げ掛けると、結さんは小さく唸って腕を組んだ。

「やっぱり君が追いかけてくれないかしら。私が行っても刺激するだけだわ」

「懲らしめるんですか」

「いいえ、話を聞いてあげて」

結さんが静かに視線を上げる。
134: ひととせ ◆EOQ3BRAmq.:2012/1/1(日) 13:10:33 ID:tbpDYj2bNQ
「あの人少し、手を上げたことに戸惑っていたわ。きっと本意じゃなかったのよ」

本来悪い人間ではないはずだと、結さんは言い切った。

俺はそこまでお人好しな考えになれない。

でも、困惑したように拳を見つめたあの表情は、悪人には見えなかった。

「宮田敏明、五十六歳。それがあの人についての、情報の全てよ」

記入もしてくれないんだもの、と結さんが書類を持ち上げる。

俺はひとつ頷くと、行ってきますと言って案内事務所を後にした。
135: ひととせ ◆EOQ3BRAmq.:2012/1/2(月) 13:34:02 ID:99nh8st8DU
逃げるといっても駅構内のことである。

宮田の居場所は簡単に見つかった。

「宮田さん」

改札前の待合スペース、そこの長椅子に項垂れて座る宮田を視界に捉えて俺は歩み寄る。

宮田は俺の姿を認めるとぎょっとしたように腰を浮かせたが、少し迷って留まることにしたようだった。

「君は、さっきの」

「先程は上司が失礼しました」

自分で言っておきながら、その言葉がむず痒くて顔がひきつる。
136: ひととせ ◆EOQ3BRAmq.:2012/1/2(月) 13:34:40 ID:99nh8st8DU
人の言動にうるさそうな宮田に、俺まで面倒な小言を言われないか。

警戒しながら頭を下げると、やはり宮田も慎重にこちらを窺っているようだった。

「どうして追いかけてきたんだ。俺にまだ何か用か」

まだ信じていないのだろうか。

胡散臭い書類にサインなどしないぞ、と続ける宮田に、溜め息をつきたいのを堪えて。

「それもありますが、自分はお話を聞かせて頂きたくて伺いました」

俺は努めて冷静に話すよう心掛けた。

そうでもしないと横柄な態度を、すぐにでも見限ってしまいたくなった。
137: ひととせ ◆EOQ3BRAmq.:2012/1/2(月) 13:35:18 ID:99nh8st8DU
結さんの言葉だけを頼りに、俺は慎重に言葉を選ぶ。

「何かお悩みの、ようでしたから」

宮田はまだ俺を品定めするように眺めていた。

警戒を解くつもりはまだないようだ。

最初からこんなに難易度の高い人間に対応させるなんて、仕方ないとはいえ俺を仕向けた結さんを呪う。

冷静になった結さんだったら、この人を何とかできたのだろうか。

結さんなら、こんなときに何と言うだろうか。

「……俺は何もできない若造ですが、話を聞くことならできます。お力になりたいんです」
138: ひととせ ◆EOQ3BRAmq.:2012/1/2(月) 13:35:47 ID:99nh8st8DU
自然と口をついて出た言葉を、そのまま目の前の宮田に伝える。

俺が警戒してるからいけないんだ。

いつも結さんがするように、なるべくまっすぐに相手を見つめて。

相手と向き合いたいときは、自分から誠実にならなくてはいけない。

昔教えてくれたのは、彼女のお祖父さんだった。

「聞かせて、頂けませんか」

宮田が意表を突かれたようにこちらを見る。

やがて攻撃的ではない素の声が、初めて発された。
139: ひととせ ◆EOQ3BRAmq.:2012/1/3(火) 11:32:56 ID:RGDdi1MlWM
「そうは言っても、分からないんだ。通勤中に急に頭が痛くなって、気付いたらここに来ていた」

どう考えてもおかしいだろう、と宮田は同意を求める。

残念ながら、俺は同意できなかった。

ある日突然倒れることも、この年齢の人なら十分に有り得るだろう。

脳梗塞か何か、そういったよくある病気だろうか。

ここに来ている以上、宮田は間違いなく死んでいた。

「……宮田さんは、どんな仕事をなさっているんですか」
140: ひととせ ◆EOQ3BRAmq.:2012/1/3(火) 11:33:53 ID:RGDdi1MlWM
俺は迷った末に、やや無理矢理に話題を変えた。

本当は過去形だけれど、あえて現在形で。

宮田は少し気をよくしたように、大手電機メーカーの名前を告げた。

「すごい有名会社じゃないですか」

「そんなことはないさ」

そう言いつつも誇らしげな宮田に、俺はひとまず胸を撫で下ろす。

さしあたっては、まともな会話ができそうだ。
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