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3センチメンタル・ヤング・ピーポー
[8] -25 -50 

1:🎏 :2012/1/28(土) 22:24:39 ID:kbMCzVk3I2

高校生の馬鹿馬鹿しくて、

ちょっぴりセンチメンタルな

青春グラフィティ───開幕。



※登場人物が増える予定の為、名前を付けています。




168:🎏 ◆UTA.....5w:2012/2/11(土) 11:17:03 ID:Q7te1ItLPI

僕がこうなってしまったのにも、それなりの理由がある。

クラスの女子も言っていたように、僕には姉が一人居る。
一昨年の文化祭、当時中学三年生だった姉は、体育館のステージの上で王子様を演じていた。男子生徒を差し置いての、クラスの女子達の熱烈なラブコールによるものだったらしい。
結果、姉には多くのファンがつき、卒業式ではスターばりに囲まれる事となった。

すらりと高い身長に、中性的な顔立ち。男も羨む学園の王子様──それが僕の姉であり、僕がこうなってしまった最大の原因である。


169:🎏 ◆UTA.....5w:2012/2/11(土) 11:25:50 ID:Q7te1ItLPI

「お姉ちゃん、お祖母ちゃんから荷物が届いているわよ」

母さんのその一言に、姉さんはあからさまに表情を歪めて頭を掻いた。普段からポーカーフェイスな姉にこんな顔をさせるものと言えば、一つしかない。

父方の祖母からの贈り物。中身はずばり、洋服だ。

「うっ……」

贈り物の包装を解いた姉さんが、苦虫を噛み潰したような顔で仰け反った。


170:🎏 ◆UTA.....5w:2012/2/11(土) 11:49:47 ID:jNoOxKjX8o

「姉さん、どうしたの?」

凡その予想は付いているにも関わらず、白々しく僕は問う。箱の中身が見たいからだ。

「……これを見てくれ、弟よ」

指先で摘まれながら箱の中から現れたのは、淡い桃色のワンピース。襟元にまでフリルが施されており、何とも女の子らしい代物だった。

──わあ、可愛いー!

思わず口をついて出そうになった本音を呑み込む。本当は、喉から手が出そうな程に興味津々なのだけれど。


171:🎏 ◆UTA.....5w:2012/2/11(土) 11:55:47 ID:jNoOxKjX8o

「祖母は一体、私を幾つの子供だと思っているのか……」

「折角お祖母ちゃんが姉さんの為に買ってくれたんだ。有難く頂戴してあげなよ」

僕がそう言うと、姉さんは頭を押さえて項垂れた。やれやれ、と言うように溜め息を吐きながら、ワンピースを箱の中にしまう。

……要らないのなら、僕にください。なんて事は、流石に言えない。


172:🎏 ◆UTA.....5w:2012/2/11(土) 12:14:28 ID:jNoOxKjX8o

父方の祖母は年に二度程、こうして姉にプレゼントを郵送してくる。僕にはたまにしかないけれど、そこに不満は特にない。

僕の父さんは四人兄弟の末っ子で、上は全て男の、所謂男兄弟だ。皆、それぞれに結婚をして子供が出来たが、見事なまでに生まれてくるのは男、男、男のオンパレード。
ずっと女の子を欲しがっていた祖母は、末っ子である父さんの子供が待望の女の子である事に、それはそれは喜んだらしい。

そんな訳で、祖母は姉さんを人一倍可愛がり、こうしてプレゼントを送ってくる、という訳だ。
……当の本人はフリルのワンピースなどを一切着ない、学園の王子様だという事も知らずに。


173:🎏 ◆UTA.....5w:2012/2/11(土) 12:34:50 ID:jNoOxKjX8o

「あらぁ、着ないの?可愛いのに」

夕飯の支度をしながら、母さんが言った。姉さんの答えは聞くまでもない。

「母よ、私にあんなものが似合うと思うのか」

「じゃあ、そのワンピースどうするの?」

勿体ないわね、と母さん。

貴方の子供なのだから、このワンピースがどうなるのかは安易に想像がつくでしょう。
クローゼットの奥に押し込まれて眠る。これが毎度の贈り物の運命。嗚呼、可哀想なワンピースちゃん。


174:🎏 ◆UTA.....5w:2012/2/11(土) 12:45:54 ID:Q7te1ItLPI

「…祖母には後で電話で礼を言っておくよ」

「昔は写真に撮って送ってあげてたじゃない。似合ってたわよ?」

トントンと、包丁が俎板を叩く音がリビングに響き渡った。僕と姉さんの視線が静かにぶつかる。
バツが悪そうに眉を潜めて、姉さんがワンピースを手に自室へと引っ込んだ。

「可愛かったのにねぇ、お姉ちゃん。今でもきっと似合うのに」

「そうだね…」

はは、と渇いた笑みが零れる。自分の母親ながら、本当にこの人は抜けていると思う。

祖母に送った写真に写っていた少女。それは、姉さんではなく僕だ。母さんが言うワンピースが似合っていた子は、可愛かった子は──紛れもなく、この僕なのだ。


175:🎏 ◆UTA.....5w:2012/2/11(土) 13:02:55 ID:jNoOxKjX8o

物心もつかない内はされるがままになっていたであろう姉さんは、成長するにつれてスカートというものから遠ざかり、気付いた頃にはすっかりパンツスタイルが定番化していた。

姉さん曰く、

「あのような格好は私には不向きだ…」

(勿論、後日談である)だそうだ。
確かに姉さんの性格に、可愛らしい洋服は不似合いだった。それに、祖母の選ぶ洋服はあまりにも少女趣味の度が過ぎている。


176:🎏 ◆UTA.....5w:2012/2/11(土) 13:53:53 ID:LVNZjJhq3A

そうして僕が小学三年生になったある日、事件は起きた。
いつものように電話でお礼を言う姉さんに向かって、祖母が言ったのだ。

「そのお洋服を着たお姉ちゃんが見てみたいわ。そうだ、写真を送ってくれないかしら」

「勿論!」

子供ながらに気を遣ったのだろう。姉さんは明るく返事を返して電話を切り、早々に僕へと視線を移し、不敵な笑みを浮かべてこう言い放った。

「さあ、今すぐ着ているものを脱いでこれを着るんだ」

「えぇぇ!?」


桃山少年、九つの出来事であった──。


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