高校生の馬鹿馬鹿しくて、
ちょっぴりセンチメンタルな
青春グラフィティ───開幕。
※登場人物が増える予定の為、名前を付けています。
192:🎏 ◆UTA.....5w:2012/2/14(火) 22:12:15 ID:bpXWVrAic2
梅川さんが何かを言っていたような気がするけれど、僕の足は止まる事なく学校へと向かっていた。
「……あった」
梅川さんの机に掛けられていた紙袋の中に、それはあった。まるで待ち侘びたと言うように、紙袋の中に納まっている。
それを優しく取出して、そろそろと周りを見渡す。廊下にひょっこり顔を出して人が居ないのを確認すると、滑らかなシフォン生地を目一杯抱き締めて僕は叫んだ。
「あーん、もうっ!可愛いー!」
193:🎏 ◆UTA.....5w:2012/2/14(火) 22:57:17 ID:YqGi4onR3Y
抱き締められたメイド服はふにゃりとしなり、その身を預けてくれる。
もしかすると、この子は文化祭で誰にも着て貰う事なく、紙袋の中で眠っているだけの運命かもしれない。
「可哀想にねぇ…」
こんなに可愛いのに。そう呟いて、ふと、いけない思考が脳を渦巻く。
少しくらい着てみても、罰は当たらないのではないか。その方が、このメイド服も喜ぶのではないか。
194:🎏 ◆UTA.....5w:2012/2/14(火) 23:45:49 ID:lcCo25KflM
「………」
ごくり。喉仏が緩やかに波打つ。
ほんのりと暗くなり始めたグラウンドに、運動部員の姿は見当たらない。電気の付いていない廊下は物音一つせず、まるで校内には僕しか居ないのではないかと思う程に静まり返っている。
今、僕を咎める者は誰も居ない。
「ほんの少し、本当に少しだけ…」
只今の身長、167センチ。体重は49キロ。まだ成長段階の細身の体なら、少し窮屈であっても入らない事はない筈だ。
195:🎏 ◆UTA.....5w:2012/2/14(火) 23:47:17 ID:lcCo25KflM
「う、わあぁぁー…」
冷気に触れて震える体を、メイド服は案外すんなりと受け入れてくれた。
贅沢に重なったシフォン生地が腰からふんわりと曲線を描く。少し骨張った男の肩は、パフスリーブが上手く隠してくれていた。
窓硝子に朧気に映る僕は、一見女の子のように思える。……胸がない事を除いては。
「もしかして、まだいけるんじゃないかしら」
ホワイトブリムを装着して、窓硝子をまじまじと見つめた。
本当に可愛い。メイド服って素晴らしい。何だか、自分が清楚に見えてくるのだから。
196:🎏 ◆UTA.....5w:2012/2/15(水) 00:08:10 ID:KSawvVPAPA
「うふふ、ふふふふ」
堪え切れず、口元からは笑みが零れる。数年ぶりに感じた、太股がむず痒くなる感覚。
窓硝子に映る自分に酔い痴れながら、スカートの裾を指先で摘んで広げた。
この格好をしたからには、一度は言ってみたい台詞がある。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
きゃーきゃーと一人で騒ぎ、地団駄を踏んだ。此処が教室であるという事をすっかり忘れ、はしゃいでいた時だった。
「桃山、くん……?」
不意に背後から聞こえた声に、僕の体は硬直した。
「梅…川……さん…」
197:🎏 ◆UTA.....5w:2012/2/15(水) 00:15:28 ID:KSawvVPAPA
教室の入り口に立っていたのは、口元を押さえ、目を見開いて固まってしまっている梅川さんだった。彼女の大きな瞳は僕を映し、まるで恐ろしいものでも見るかのように揺れている。
いや、彼女が見たものは紛れもなく恐ろしいものだろう。何せ、自分の彼氏がメイド服を着て、女子のようにはしゃいでいるのだから。
「……桃山くん、何をしているの」
「ち、違う。違うのよ梅川さん」
慌てて言い訳をしようとした僕の口調は、あろう事か女の子のものだった。
人間、隠し事をすればボロが出るものだ。
198:🎏 ◆UTA.....5w:2012/2/15(水) 00:19:03 ID:lcCo25KflM
嗚呼、彼女の物を身に付けて喜んでいるだけのシチュエーションなら、どれだけ良かったろう。
この衣装は彼女の物でもなければ、袖を通す事すらされていないというのに。自らの制服を脱ぎ捨て、きっちりとメイド服を着こなす僕の姿は、さぞや間抜けな事だろう。
「随分慌ててたようだったから、気になって後を追い掛けて来たの。……忘れ物って、それの事だったのね」
梅川さんの瞳が、驚愕から軽蔑へと変わる。僕はというと、何も上手い言い訳が浮かばず、ただただ血の気が引くばかりだった。
199:🎏 ◆UTA.....5w:2012/2/15(水) 00:20:45 ID:KSawvVPAPA
「梅川さん、あの……」
僕がどうにか言葉を発しようとすると、梅川さんはドアの縁を思い切り横に殴った。
思わず言葉を呑み込んだ僕を、梅川さんの潤んだ瞳が睨み付ける。
「最初から言ってくれれば……」
好きになんてならなかった。そう言い残して、梅川さんはバタバタと走り去ってしまった。
「………梅川、さん…」
突然の事に固まったまま動く事も出来ず、教室の真ん中で一人、呆然と立ち尽くした。
終わりだ。何もかも終わりだ。今までひた隠しにしてきた努力が、僕の人生が、音を立てて崩れ落ちてゆくようだった。
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