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3センチメンタル・ヤング・ピーポー
[8] -25 -50 

1:🎏 :2012/1/28(土) 22:24:39 ID:kbMCzVk3I2

高校生の馬鹿馬鹿しくて、

ちょっぴりセンチメンタルな

青春グラフィティ───開幕。



※登場人物が増える予定の為、名前を付けています。




203:🎏 ◆UTA.....5w:2012/2/16(木) 21:23:28 ID:qL3BUknhLU

翌日から一週間、僕は学校を無断欠席した。梅川さんに合わせる顔がないのと、皆に会うのが怖かったからだ。

──もし、クラスの連中があの話を聞いていたら。もし、それが学校中に広まっていたら。
彼女が言い触らすような事はしないだろうと思いつつも、不安要素は拭いきれない。

すっかり怯えきってしまった僕は、電源を切った携帯電話を机の奥底にしまい込み、学校が終わる頃合いを見計らって帰宅する毎日を送っていた。


204:🎏 ◆UTA.....5w:2012/2/16(木) 21:38:01 ID:As22E0pO8E

そんな生活も二週目に突入したある日、僕はあっさり姉さんに見付かってしまった。

「何をしているのだ、弟よ」

頭上からの声に顔を上げれば、その声の主とがっちりと視線がぶつかる。一人寂しくブランコに揺られていた僕を、背後から姉さんが見下ろしていた。

「姉さん…」

「……学校、欠席続きだそうだな。母が心配していた」

なんだ、バレていたのか。当然の事と言えば当然の事だから、さほど驚きはしないけれど。


205:🎏 ◆UTA.....5w:2012/2/16(木) 21:51:58 ID:qL3BUknhLU

「学校から連絡があったそうだ。父はまだ何も知らされていない。ちゃんと登校するのなら、私も黙っていてやろう」

そう、と軽く返事を返してブランコを揺らす。
前を向いていては、背後の姉さんの表情は伺えない。しかし、頭上から聞こえる溜め息から察するに、煮え切らない態度の僕にほとほと呆れている事だろう。

「何があった、弟」

「………」

「黙っていては何も分からないだろう」


206:🎏 ◆UTA.....5w:2012/2/16(木) 22:13:42 ID:As22E0pO8E

姉さんのその質問に、僕が答えられる筈がない。僕の隠し持つ裏の顔は可愛いものが大好きなオカマキャラで、コスプレ衣装を着てはしゃいでいるところを彼女に見られた、だなんて。
いくらポーカーフェイスな姉さんでも、贈り物以上に顔を歪ませてドン引きする事だろう。

「弟、」

「あのっ…!」

姉さんが僕の正面に回り込もうとした時、誰かがそれを遮るようにして現れた。


207:🎏 ◆UTA.....5w:2012/2/16(木) 22:19:14 ID:As22E0pO8E

「む。君は…?」

「突然すみません。私、桃山くんのクラスメイトで、梅川といいます」

がしゃり、と音を立ててブランコの鎖が揺れる。
涼やかで透き通るように美しく、張り上げているようでしおらしい。間違いなく、梅川さんの声だった。

「…ふむ、梅川さん、か。弟が世話になっているね。私はこの子の姉だ」

どうも、と梅川さんの影が会釈をしているのが見えた。僕は顔を上げる事も出来ず、鉄臭い鎖を力を込めて握り締める。


208:🎏 ◆UTA.....5w:2012/2/16(木) 22:45:59 ID:As22E0pO8E

「それで、何用かね。私は今、不登校になりつつある弟に説教をしようというところなのだが」

「待って下さい。その事なんですが……」

梅川さんが申し訳なさそうに姉さんを制止した。
いよいよ本題だ。僕は顔を伏せたまま、ぎゅっと目を瞑った。

ついに、家族に軽蔑される時が来てしまったのだ。


209:🎏 ◆UTA.....5w:2012/2/16(木) 22:55:10 ID:qL3BUknhLU

「桃山くんが学校に来ないのは、私の所為なんです。私が彼に、酷い事を言ってしまったから……」

好きになんてならなかった──あの日、去り際に放った梅川さんの言葉がチクリと胸に突き刺さる。
彼女はわざわざそんな事を、二度も言いに来たのだろうか。確かに酷い事といえば酷い事なのだろうが、僕が学校に行かないのはそんな事が理由ではない事くらいは分かるだろうに。

そんな下らない僕の思考は、柔らかい手の感触でストップした。
どうやら力が入った僕の手を、梅川さんの両手が優しく包み込んでいるらしい。

「桃山くんは人気者だから、つい嫉妬してしまっていたの。短小包茎のヤリチン野郎だなんて、随分酷い事を言ってしまったわね」

「……へっ?」


210:🎏 ◆UTA.....5w:2012/2/16(木) 22:56:50 ID:As22E0pO8E

梅川さんが余りにも身に覚えのない事をさらりと言ってのけるものだから、つい間抜けな声が出てしまった。
ポカンと口を開けたままの僕に構わず、僕の手を握りながら梅川さんは続ける。

「私達は健全な付き合いだからそんな事、分かる筈もないのに……“包茎ヤリチンマン”だなんて変なあだ名が広まってしまったのは、私の所為だわ。本当にごめんなさい」

「や、ヤリチ…?」

……この子は一体、何を言っているのでしょう。
短小、包茎、ヤリチン──普段の梅川さんなら耳を塞いで恥じらいそうな言葉を、彼女自身の口から聞くだなんて。

唖然とする僕の後ろで、待ったをかけるように姉さんが咳払いをした。


211:🎏 ◆UTA.....5w:2012/2/16(木) 22:59:54 ID:qL3BUknhLU

「あー…つまり、痴話喧嘩で一週間も登校拒否をしていた、と。そういう事か」

「いや、姉さん、」

思わず身を乗り出した僕に間髪入れず、梅川さんが肯定する。

「実の弟ながら呆れたものだな。母には心配いらないと伝えておくとしよう。……君達の恋愛話など聞くに堪えないから、私は此処で失礼する」

僕の横を通り過ぎ、姉さんは家の方向へと去って行った。あだ名ごときで駄々を捏ねる器の小さい男だと、随分な誤解をされてしまったようだ。
しかし、結果的に梅川さんに助けられたという事には違いない。


212:🎏 ◆UTA.....5w:2012/2/16(木) 23:11:21 ID:qL3BUknhLU

「桃山くんのお姉さん、本当に素敵よね。二年前よりも王子様度が増したみたい」

格好良いわね。そう言って、隣のブランコに腰掛けた梅川さんが楽しげにコロコロと笑う。
ふう、と息を一つ吐くと、改めて僕に向き直り、真剣な面持ちで口を開いた。

「……どうして、あんな事をしていたの?」

ざわざわ、と木々が揺れる音が酷く耳を突く。真っ直ぐに僕を見つめる梅川さんの瞳を見て、もう逃げられないのだと悟った。

激しく脈打つ心臓を押さえ、僕は口を開いた。


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