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3センチメンタル・ヤング・ピーポー
[8] -25 -50 

1:🎏 :2012/1/28(土) 22:24:39 ID:kbMCzVk3I2

高校生の馬鹿馬鹿しくて、

ちょっぴりセンチメンタルな

青春グラフィティ───開幕。



※登場人物が増える予定の為、名前を付けています。




216:🎏 ◆UTA.....5w:2012/2/17(金) 21:56:33 ID:LVNZjJhq3A

姉さんの身代わりで女装をしていた事、その内それを楽しんでいた事、そして、胸の内で演じていたもう一つの僕の顔の事。僕は今まで決して人に話す事はなかった事の経緯を、洗い浚い梅川さんに話した。

梅川さんは相槌を打つ事もなく、黙って僕の話を聞いていた。いつもにこにこと笑って僕の話を聞いてくれていた彼女には表情はなく、別人と話しているような気になる。

全てを話し終えると、梅川さんは小さく息を吐いた。

「……そう、分かった」

キィ、と音を立てて、梅川さんを乗せたブランコが揺れる。


217:🎏 ◆UTA.....5w:2012/2/17(金) 22:16:04 ID:LVNZjJhq3A

「私ね、」

ブランコを揺らしながら、梅川さんは夕日に目を細めた。

「桃山くんって手も繋いでこないし、私の事を全然見てくれてないって思ってたの」

小さく笑みを浮かべると、梅川さんはブランコの上に立ち上がった。スカートの中が見えそうになるのも構わず、膝を使って漕ぎ始める。
風に靡く髪は激しく乱れ、折角の綺麗なストレートヘアはぐちゃぐちゃ。それでも彼女の表情は、何処か晴れ晴れとしているようだった。

「短小包茎ヤリチン。ふふ、びっくりしたでしょう?」


218:🎏 ◆UTA.....5w:2012/2/17(金) 22:21:34 ID:Ga85pR.zOs

梅川さんの体がブランコから勢いよく離れた。両手を広げて綺麗に着地を決めると、満足気な笑顔で振り返る。
其処に僕が知っている大和撫子の姿はなく、活発で明るい女の子の笑顔があった。

「これが本当の私。がさつで色気のない、本当の梅川弥生なの」

知らなかったでしょう。と、僕の驚いた顔を見てケラケラと笑う。
愛らしく微笑む人形のような梅川さん。それは、彼女の作り込まれたほんの上辺の姿だったのだろう。

何も知らなかった、僕は彼女の事を何一つ知らなかったのだ。


219:🎏 ◆UTA.....5w:2012/2/17(金) 22:25:13 ID:LVNZjJhq3A

「全然見ていなかったのは、お互い様だったのね。私達、ずっと上辺だけで付き合ってた」

「ごめん……」

梅川さんが首を横に振る。

「謝らないで。私だって、桃山くんに好かれたくて本当の自分を隠してたもの」

梅川さんは僕に背を向け、夕日に向かってゆったりと歩み始めた。


220:🎏 ◆UTA.....5w:2012/2/17(金) 22:35:38 ID:LVNZjJhq3A

──少しずつ、少しずつ、僕と梅川さんの距離が広がってゆく。

「私、碧葉女子に行くつもりなの。此処から少し遠いけれど、きっと楽しい高校生活が送れると思うわ。桃山くんは?」

──二人の心のように、少しずつ。

「…双羽高校、かな」

「桃山くんも遠いんだね。私と逆方向。知らなかった」

ふふ、と笑って、梅川さんの足が止まる。振り返った彼女の表情がくしゃりと歪んでいるように見えたけれど、その背後から照らす夕日が眩しくて直視出来ない。


221:🎏 ◆UTA.....5w:2012/2/17(金) 22:48:29 ID:LVNZjJhq3A




「ねぇ、桃山くん。私達、付き合っていたと言えるか分からないけれど──」





222:🎏 ◆UTA.....5w:2012/2/17(金) 22:52:50 ID:LVNZjJhq3A

────‐‥


キィ、キィ、と僕を乗せたブランコが、苦しそうな音を立てて揺れる。
すっかり日が沈んだ公園に人の気配はない。野良猫や虫なんかを除けば、今、此処に居るのは恐らく僕だけだろう。

「……っふ、くぅう…ッ」

僅かな電灯と月明かりに照らされながら、僕は泣いた。どういう感情から来るものなのか、僕にも分からない。
それでも、溢れ出る涙を制御出来ない程に、僕は噎び泣いていた。

──別れましょう。


そう言った梅川さんの笑顔が、脳裏に焼き付いているようだった。


223:🎏 ◆UTA.....5w:2012/2/17(金) 22:58:34 ID:LVNZjJhq3A

僕は振られたのだ。約半年間付き合ってきた彼女に、やはり理解する事は出来ないと、別れを告げられた。
しかし、それは決して嫌味なものではなかったように思う。

僕も彼女も“本当の部分”を見せ合う事なく、上辺で恋人同士を演じていただけにすぎなかったのだから。

では、僕は彼女の事が好きではなかったのか。その質問に関しては、答えはきっとNOだ。


224:🎏 ◆UTA.....5w:2012/2/17(金) 22:59:47 ID:Ga85pR.zOs

だって、こんなにも涙が止まらない。

「う、うぅ…っぐ、ぅ……」

こんなにも、胸が痛い。


上辺だったのかもしれない。本当に想い合ってはいなかったのかもしれない。

それでも、きっと。


きっと、僕は恋をしていた。
僕は、恋をしていたんだ。



桃山少年、十五歳──失恋の、秋である。


225:🎏 ◆UTA.....5w:2012/2/17(金) 23:03:15 ID:LVNZjJhq3A

 ***


春。出会いと別れの季節。
僕は高校生になった。

新しい出会いに胸を膨らませ、門の中へと足を踏み入れる。

「…少しくらい、本当の自分を出してもいいわよね」

まだ見ぬ僕の友達よ、君達は僕を受け入れてくれるだろうか。


ありのままの、この僕を──


  桃山少年の憂鬱‐fin.


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