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カロル「ボクが世界を変えてみせる」【完結編その3】
[8] -25 -50 

1: ◆WEmWDvOgzo:2017/4/29(土) 21:15:11 ID:.RxhzfPc96
あらすじ

永遠の命。その鍵となる救い主、カロル。
欲望に目覚めた西の国。狂気は果てしなく蠢く

遂に勃発してしまった戦争
強大な西の国に立ち向かうべく王国、東国、南国は6ヶ国同盟から成る平和協定を破り、3国連合軍を結成する

南国は多大な犠牲を払い、国王ローレンの命と引き換えに西帝国軍の主力を削った
東国は張り巡らされた罠を果敢に打破するも圧倒的な力の前に粉砕される

敵地にて孤軍となった王国軍
総指揮官フィクサーの戦略采配が功を奏し、帝都本拠地の制圧を完了した

一方で吉報を待ち、国内に留まる王国の国王ヒメ
迫り来る侵略の魔の手を退ける為、東国のホビット族と手を結ぶ
彼らによって明かされた最後の真実
アピシナの大樹の成り立ち

かつて癒しの力は破滅を導いた
人もホビットも共通する願い
永遠の命が野心をくすぐる

穢れなき無垢な愛情は火種となって注がれ、混沌とした世界を象徴するように大樹を巡る争いは止まなかった

忘れ去られた無残な過去
300年もの月日を経てなお繰り返される歴史
誰も止めることは叶わない

友情を取るか、安寧を取るか
時を追う毎に取捨選択を強いられる
捨てていいものなど一つもないのに


219: ◆WEmWDvOgzo:2023/12/19(火) 22:48:03 ID:hiov.r88ZA
ーーー城内(副官室)ーーー

ガチャッ

侍女「コーヒー入りました」

政務官「置いてくれ」

侍女「はい。温かいうちにどうぞ」コトッ

政務官「ありがとう」ズズッ

侍女「……お連れ様はホットミルクでよろしかったですか?」コトッ

宣教師「ええ、ありがとうございます……」

侍女「いえ、では失礼します」ペコリ

バタンッ
220: 名無しなのよ:2023/12/19(火) 22:48:49 ID:hiov.r88ZA
政務官「知っているか?コーヒーというのは南の国が原産らしい」

宣教師「そうですか……」

政務官「我が王国領でも南には豆農家があり、栽培が盛んだそうだ」

宣教師「なるほど……」

政務官「私はコーヒーが好きでな。自分で配合した豆を挽いて味わうのがもっぱらの日課なんだ」
 
宣教師「そうなんですね……」

政務官「職業病とも言われるがね。この仕事はなにより睡魔との戦いでもある」

宣教師「はあ……」

政務官「人間、集中力を切らせば終わりだ。我々のような人種は特に」ジロッ

宣教師「……」

政務官「我々役人が眠気を押して働く最中にあなたは貴族との交流を嗜んでいたらしい」 

宣教師「……はい」

政務官「美味かったか?」

宣教師「……」

政務官「公爵と飲む酒は美味かったのかと聞いているんだ!?」ダンッ

宣教師「」ビクッ
221: 名無しなのよ:2023/12/19(火) 22:49:37 ID:hiov.r88ZA
政務官「なぜあんな真似をした……!?」

宣教師「……」

政務官「私が公爵派に忍ばせた間者から夜会に司祭が出席していると聞いた時は耳を疑ったぞ」

宣教師「……」

政務官「しかも公爵や太后陛下に接触し、潰れるまで酒に溺れていたと」

宣教師「……」

政務官「私がいち早く手配し、身柄を保護したからよかったものの万が一王都の民の前に変わらず姿を現していたら今頃は暴動になっていただろう」

宣教師「恐れ入ります……」
222: 名無しなのよ:2023/12/19(火) 22:50:00 ID:hiov.r88ZA
政務官「まんまとハメられたな。あなたの思惑がどうであれ夜会に出席した時点で公爵の手の内だったのだ」

宣教師「私は……自分の意思で参加したつもりでした」

政務官「だがそうではなかった。あなたが頼ったクライリーとかいう領主も公爵の一味だったのだろう」

宣教師「あの方は以前から教団の活動に協力的でボランティアやホビットの保護活動にも積極的に参加してくれて……」

宣教師「平民の出だった自分と同じように環境に恵まれなかった人たちを助けたいと熱心に語ってくれたんです」

政務官「またありがちな……」

宣教師「 親を失った子どもたちにも気さくに声を掛けて励ましたり年末の時期にはプレゼントをあげて喜ばせたり、ご自身も里親として教団で預かっていた子を引き取ってくれたんです……」

宣教師「そんな人が騙していたなんて……私には信じられなかったんです……!」ウルッ

政務官「……」ハァッ
223: 名無しなのよ:2023/12/19(火) 22:50:33 ID:hiov.r88ZA
政務官「典型的な"政治"だな……」

宣教師「……!」ググッ

政務官「あなたはヤツが夜会の恒例メンバーである事を知っていたのか?」

宣教師「……付き合いで仕方なくと話していました」

政務官「出席を促されたことは?」

宣教師「冗談混じりではありますが『試しに来てみるかい?』と持ちかけられた事がありました……」

政務官「分かりやすい呼び水だ。もし公爵との繋がりを持ちたい時には自らを頼るように仕向けている」

宣教師「今にして思えば軽率でした……」シュン

政務官「なぜ一言でも私や陛下を通そうと思わなかったんだ?」

宣教師「城下の混乱を聞きつけていても立ってもいられませんでした……」

政務官「っ……ことの重大さを分かっているのか!?」

宣教師「返す言葉もありません……」
224: 名無しなのよ:2023/12/19(火) 22:51:54 ID:hiov.r88ZA
政務官「ここにきて国民の信用を失うことは国王陛下の失墜を意味するのだ!!」ダンッ

宣教師「……すみません」

政務官「あなたの失態によって世論は今、完全に傾いているんだぞ!」

宣教師「っ……」

政務官「巷ではサイレンス大聖団だのいう新興宗教が幅を利かせ、教団を追いやる勢いだそうじゃないか」

宣教師「彼らのことはあまり知りませんが……そこまで意識していませんでした」

政務官「大勢の信者がそちらに流れ込んでいるようだぞ」

宣教師「信仰や教えは強制するものではないので……」

政務官「それではダメだ」

宣教師「……?」

政務官「教団もあくまで王政府の一部であって立派な政治的武器だ。信徒を減らすことはすなわち国王陛下の威光を下げることに他ならぬ」

宣教師「政治的……武器……?」

政務官「いいか。今の王国はある意味では先刻の西国との戦争を凌駕する大きな危機に瀕している」

政務官「悠長に構えていると瞬く間に崩壊するのだぞ」

宣教師「……」
225: 名無しなのよ:2023/12/19(火) 22:52:18 ID:hiov.r88ZA
宣教師「その……一つよろしいでしょうか」

政務官「なんだ?」

宣教師「教団が政治的武器というのはどういう意味ですか?」

政務官「……気に入らないか?」

宣教師「いえ、ただ私には分からなくて……」

政務官「……我が国の歴史を紐解けば分かることだ」

宣教師「……?」

政務官「王国は代々王政とは名ばかりの傀儡政権で実質宗教によって支配されていた」

政務官「その流れを断ち切ったのが国王陛下であり、救い主であり、教団の現司祭、つまりあなただ」

政務官「ここ数年で政治は国王の下に行われ、ホビットは人との融和を実現し、教団は支配から遠のいた」

政務官「あなたの教えに従う新生教団は伝統から生まれ変わり、新時代を象徴するものとなっていたのだ」

宣教師「皆さんが信じてくれたから実現したのであって私たち自身がどうという訳では……」

政務官「そうかもしれない。だが綺麗事を言ったところで仕方あるまい。国民は王政府と教団が協力関係にあると理解している」

宣教師「……教団を引き受けたのはヒメくんに頼まれたからですが活動そのものは私の理念に基づいていました。癒着とは違います」

政務官「しかしあなたも陛下も救い主に心動かされ、同じ理想を求めたのだろう?」

宣教師「それはそうですが……」

政務官「ならば同じ道を行く同志だ!違うのか?」

宣教師「だからと言って私達が作り上げた大切な団体をまるで道具のように扱われるのは……」

政務官「しかし……」

宣教師「以前あなたに説得されて戦争に協力した時にも王国のやり方は変わってないと揶揄しましたが……それでも気持ちの面では通じ合ってると信じていたから私達は良い関係を築いていられたんです」

政務官「……すまない。言い方が悪かった」
226: 名無しなのよ:2023/12/19(火) 22:52:43 ID:hiov.r88ZA
宣教師「私が悪いのは分かってます……。余計なことをしたばかりに迷惑をかけてしまって」

宣教師「でもあなたやヒメくんに相談出来なかったのは……不審に感じていたから」

政務官「不審……?」

宣教師「最近ヒメくんの様子がおかしいとカロルくんから聞きました」

政務官「そ、それは……」

宣教師「私も感じています。明らかに以前の彼ではなくなっていると」

政務官「……!」

宣教師「なぜ彼はカロルくんを軟禁しているのですか?」

政務官「わ、分からん……。私は直接救い主と関係していないのでな」

宣教師「街では北国との戦争が始まるとビラが撒かれていました」

政務官「ああ、そのようだな……」

宣教師「せっかく王都に馴染んでくれたホビットのみなさんを追い出そうとする動きも見られます。それも内部の縺れによるものなのですか?」

政務官「くっ……」

宣教師「城内では王政府側の派閥から何人も貴族側に引き抜かれてるとも聞いています。今この国では何が起こっているのですか?」

政務官「……順序立てて説明してやりたいが私も暇ではない。ただでさえ貴重な時間を奪われているんだ」

宣教師「全てを話すのが無理なら一つだけ聞かせてください」

政務官「……?」
227: 名無しなのよ:2023/12/19(火) 22:53:09 ID:hiov.r88ZA
宣教師「あなたの焦りもヒメくんの変化が関わっているのですか……?」

政務官「……ああ」

宣教師「ヒメくんに何が……?」

政務官「さあな……」

宣教師「彼に会わせてもらえませんか?」

政務官「それは無理だな。近頃の陛下は議会にすら出席されん」

宣教師「それなら直接……」

政務官「試みたよ。何度も話し合った」

宣教師「……」

政務官「あれは心の病だ。触れれば触れるほど悪化する……」

宣教師「……!」

〜〜〜回想〜〜〜

宣教師『…呑まれないといいですけどね』

団長『……?』

宣教師『いくら成長したとはいえ、彼はまだ子供です。課せられた使命や人の期待をどこまで背負いきれるか』

……………

宣教師「……現実になってしまったんですね」ボソッ
228: 名無しなのよ:2023/12/19(火) 22:53:39 ID:hiov.r88ZA
宣教師「分かりました……」

政務官「……?」

宣教師「私は何をすればいいですか?」

政務官「……」

宣教師「あなたにお任せします。たとえ道具のように扱われても……ヒメくんもカロルくんも、そしてたくさんの人たちが救われるのなら」

政務官「……すまない」

宣教師「こちらこそごめんなさい。頼ることしか出来なくて」

政務官「そんなことは……」

宣教師「私たちはいつも簡単に理想を口にするけれど、それを実現する為に動いてくれてるのは現実を口にするあなたのような人たちですから」

政務官「……その理想がなければ人々は付いてこない。今までもそうだったんじゃないか?」

宣教師「そうですね。あの大樹での永遠の命を巡る争いが遠い昔のよう。あれはまさに理想を追い求めた戦いでした」

宣教師「でも今は違います。理想を守る為にあらゆる現実に立ち向かっている」

宣教師「その結果、幼い子たちが絶望し、苦しんでいるのなら私も現実を見なくてはいけません」

政務官「幼子などとは思わんが……陛下を支えるのが私の務めだ。存分にあなたを利用させてもらう」

宣教師「遠慮なく使ってください。私に政治は向かないので」ニコッ

政務官「ふん……」クスッ
229: 名無しなのよ:2023/12/19(火) 22:54:08 ID:hiov.r88ZA



宣教師「まずは教団の信用回復を図りますか?」

政務官「もちろんだ。だが今はその時ではない」

宣教師「サイレンス大聖団を見極めてからですか」

政務官「まあな……」

宣教師「私の知る限り彼らは神や教えといった主張らしい主張をしていませんが、いったいどうやって信徒を募っているのでしょう?」

政務官「調べさせたいところではあるがあいにくと人手が足りなくてな。教団から一部の人間に声を掛け、調査させるのが妥当だろう」

宣教師「ふむふむ。それなら私が潜入しましょうか」

政務官「……本気か?」

宣教師「どのみち私はしばらく身を隠さなければなりません。下手に公爵派の目がある城内にいるより姿を変えて大聖団の一員として振る舞った方がよいのでは?」

政務官「それはそうかもしれんが万が一正体が割れたらどうするつもりだ?」

宣教師「サイレンス大聖団には各界から大物の方が入信されていると聞きますし私もその1人だと言えば信じるでしょう。なんせ世間から私は誰にでも身体を委ねる淫売と囁かれてますから」

政務官「そんな真似をしてみろ。教団の名が地に堕ちるぞ」

宣教師「経験上ですが危険を犯さなければ何事も成し得ません。私達の戦いはいつも0か100でした」

政務官「……」

宣教師「お願いします」

政務官「(たしかに彼女は1人の宣教師として教団の闇を暴こうと立ち上がり、幾度も死線を潜り抜けてきた。
私も北国の問題に掛かりきりで国内には目を向けられん……。ここは任せてみるべきか)」

宣教師「私にやらせてもらえませんか?」ジッ

政務官「……サイレンス大聖団の弱みを握り、教団の信頼を回復させる。それがあなたの役目だ」

宣教師「分かりました」ニコッ
230: ◆WEmWDvOgzo:2023/12/19(火) 22:58:49 ID:hiov.r88ZA
>>218
すみません。
前回も3年待たせてしまって今回も気付けば3年経っていました……。
正直、自分でも謝罪も感謝も薄っぺらな嘘に思えるほど毎回裏切ってしまっています。
ですが更新を待ってくれている人が1人でもいる事が心から励みになっています。
いつもありがとうございます。
待たせてしまってごめんなさい。
もしまた待たせてしまったらごめんなさい。
更新できるように頑張ります。
231: 名無しなのよ:2023/12/20(水) 13:57:56 ID:7fuLV14Ddo
>>230
大丈夫です。いつだって何年だって、完結するまで、ずっとここで待ってますから作者さんの気が向く時筆がのる時に進めてくだされば幸いです
日中との寒暖差があって風邪ひきやすい時期ですのでご自愛くださいね
232: ◆WEmWDvOgzo:2023/12/21(木) 21:28:12 ID:hiov.r88ZA
ーーー王国領北の町ーーー

キャッキャッ ワイワイ

宣教師「……」ザッ

『サイレンス大聖団は王都から外れた北の町に本部を置いている。今、分かっていることはそれだけだ』

『入信希望者は皆、一度ここを訪れて入団手続きを受け、無事審査を通れば正式な一員となれるらしい』

ゾロゾロ ゾロゾロ

聖団員1「はい、入信希望の方はこちらにお並びくださーい!」

宣教師「」スッ

聖団員2「順番の方こちらへどうぞ。まずは瞳を見させていただきますね」

宣教師「どうぞ」メガネハズシ

聖団員2「はい、問題ありません。係の指示に従って行ってください。次の方〜」

宣教師「(最初に瞳の色を見てホビットでないか確かめるんですね)」スタスタ

聖団員3「お待たせしましたー!こちらで採寸を取らせてくださいね!」テキパキ

宣教師「(あとは採寸を取り、サイズの合う団服を支給する。つまりたったあれだけで審査は通過してるのですね)」
233: 名無しなのよ:2023/12/21(木) 21:29:20 ID:hiov.r88ZA
宣教師「(拍子抜けするくらい簡単に潜入出来ちゃいました)」

聖団員4「採寸を終えた方どうぞ!最後に簡単な質問をさせてください!」

宣教師「分かりました」

聖団員4「教団の司祭……」

宣教師「!?」ドキッ

聖団員4「についてどんなイメージがありますか?」

宣教師「あ、ああ……そ、そうですね。司祭ですか。えーと(バレたかと思いました……)」ドキドキ

聖団員4「いえね、私達サイレンス大聖団はともかく教団の古参の方たちは異教を嫌うでしょう?
トラブルにならないよう入信前に教団の信者か確かめておかないといけないんで」

宣教師「異教を嫌う、ですか?私達……いえ、教団はそんなことを気にしないと思いますけど」

聖団員4「えーウソですよー。現に対立が生まれてますもん。熱心な教団の信者の人たちは私達を怪しい団体だって決めつけて腫れ物扱いしてくるんですよー?」

宣教師「それはサイレンス大聖団が一方的に教団を貶める内容の記事を流してるからでは?」

聖団員4「いやいや私達は真実しか伝えてませんしー?なんで私達が悪いみたいになってるんですかー?」プクー

宣教師「わ、悪いというか……」

聖団員4「あなたもしかして教団の信者です?」ジト

宣教師「……!」タジッ
234: 名無しなのよ:2023/12/21(木) 21:30:33 ID:hiov.r88ZA
宣教師「(ここはとりあえず自然に乗り切らなければ……)」

聖団員4「さっきから教団を庇うような言い方だしぃ?別にいいんだけどあんな終わってる宗派に義理立ててもしょうがなくない?」

宣教師「そ、そうですね。あなたのおっしゃる通りです……」

聖団員4「でしょ?今どきの若い子はみんなそうですよ?
サイレンス大聖団は難しい教えも厳しいルールもなくて誰でも歓迎だし団服もオシャレで信者同士も和気藹々としてるし楽しいイベントも充実してるんですから!」

宣教師「(たしかに宗教というより地域のコミュニティのような感じですが……)」

聖団員4「多いんですよ。あなたみたいに教団の信者だったっていう人。でも大丈夫!こっちの方が絶対楽しいですから!」

宣教師「……」

聖団員4「古いのは忘れて新しい事を楽しみましょ!ね?」

宣教師「そ、そうですね」ニコッ
235: 名無しなのよ:2023/12/21(木) 21:31:54 ID:hiov.r88ZA
宣教師「なんとか切り抜けられました……」フー

宣教師「(楽しい、か。私達は戒律こそ厳しくないものの差別を無くすというはっきりとした目標を持って活動してる)」

宣教師「(若い人たちにとってはそういうものが重苦しく感じるのかもしれませんね……)」

青年1「今日は入信した人気の役者たちが演劇を披露してくれるってよ!」

青年2「俺、生の女優見るの初めてだぜ!」

青年3「教団とはやる事が違うよな!あっちじゃ今頃ゴミ拾いだ草むしりだ炊き出しだとボランティアばっかやらされてんじゃないか?」

宣教師「(……ボランティア以外にも礼拝や孤児院の子供達がふれあいの場を作る院外活動など交流はしてますが新鮮味に欠けるのでしょうか)」

若い女1「見てみて!このアクセサリー!オシャレでしょう?」チャラッ

若い女2「すごーい!どこで買ったの?」

若い女1「ブランドに詳しい貴婦人が集会で教えてくれたの!貴族の間でこれが流行ってるんですって!」

若い女2「えー!私も参加したかった!」

若い女1「今度社交会で流行りのメイクを教えてくれるって言うから行こうよ!」

若い女2「やった!絶対行く!」

宣教師「(ふむふむ、若者が好む遊びや流行りをしっかり押さえている。なるほど、これは私たちにはない発想ですね)」

宣教師「町の住人にも聞き込みしてみますか」
236: 名無しなのよ:2023/12/21(木) 21:33:14 ID:hiov.r88ZA
店員1「ほらほら寄った寄ったー!サイレンス大聖団御用達の土産屋だよー!」

店員2「うちは今一番アツい競馬レースだ!勝ち馬を予想して当てたら賞金!まだやった事がないなら試しに賭けてみて!」

店員3「王国貴族ご推薦の素晴らしい品々をご覧あれ!王都広しとはいえこれだけの物を取り扱ってるのはウチだけですよ!」

宣教師「すごい賑わいですね」

町民1「ええ!そりゃもう!サイレンス大聖団様々ですわ!」

宣教師「この町に進出して日が浅いでしょうに」

町民1「そこですよ!私どもも頭が追いつかないくらい急速に変化しちゃって!」

宣教師「(急拵えでところどころテント張りやハリボテで賄っている店舗を豪華な飾りつけや目を引く商品で誤魔化してる訳ですか。
競馬場は広い牧場を借りたのでしょう。町の開発に携わった方々のアイデアと依頼主の徹底した節約が光ってます)」キョロキョロ

町民1「サイレンス大聖団が本部を置いてからこの町はめざましい発展を遂げましたよ。
今まで貴族の間だけで楽しまれた娯楽や贅沢品を惜しみなく私達庶民に流通させてくれたからです!」

宣教師「たしかに……普通なら手の届かないような品ばかり目に入りますね」

町民1「私も今じゃサイレンス大聖団のファンですよ。特に最近は教団も良い噂を聞かないしね」

宣教師「……やはり司祭は信用出来ませんか?」

町民1「俺は話したこともなきゃ会ったこともないからどんな人か知らないですけどねぇ。火のないところに煙は立たずとも言うし……」

宣教師「(今話してるのが噂の張本人だと知ったらどんな顔をするんですかね)」クスッ

町民1「どうしたんです?」

宣教師「あ、いえ。お話ありがとうございました」ペコリ
237: 名無しなのよ:2023/12/21(木) 21:35:15 ID:hiov.r88ZA
町民2「とにかくサイレンス大聖団には感謝してますよ!教団なんかにはもう付いていけません!」

宣教師「皆さんそうおっしゃいますね。聖団はずいぶんと教団を目の敵にしてるみたいですけど」

町民2「逆ですよ!逆!教団が聖団を敵視して頑なに拒んでるんだ!」

宣教師「そうなんですか?」

町民2「実はここだけの話、聖団員が信者に嫌がらせを受けてるんですよ」

宣教師「嫌がらせ?」

町民2「ウチんとこはポストにゴミを詰められたんです」

宣教師「なぜ教団の信者の仕業だと分かったんですか?」

町民2「そんなの簡単です!みんなやられてんですから!」

宣教師「みんなって……証拠はあるんですか?」

町民2「ええ!聖教新聞にしっかり書いてありますよ!教団の嫌がらせ被害が相次いでるってね!」

宣教師「その記事を書いた方はどうやって加害者の信者を特定したんですか?」

町民2「そんなのウチらは知りませんよ!とにかく書いてあるんだから間違いないんですよ!」

宣教師「なるほど……」

町民2「あなたも入信したってことは聖教新聞を取るんでしょう?ちゃんと読んだ方がいい!あれには真実が書かれてるから!」

宣教師「……そうですね。ぜひ読んでみたいです」
238: 名無しなのよ:2023/12/21(木) 21:36:57 ID:hiov.r88ZA
新聞屋1「はい!聖教新聞一部ですね!どうぞ!」バサッ

宣教師「お代はこちらに」チャリンッ

新聞屋1「まいどどーも!」

宣教師「(ずいぶんと分厚いですね。新聞というよりはパンフレットのような見た目ですが……)」ピラッ

『衝撃!!教団の悪事がまたも明るみに!!』

宣教師「(分かりやすい太文字で大袈裟に誇張した表現……これならたしかに目を惹きますね)」ペラッ

宣教師「(寄付金の不正な使い込み……孤児たちに過酷な強制労働……強引な勧誘……札や御守りの押し売り……非入信者への嫌がらせ行為の数々……)」イラッ

宣教師「……」ブンッ

聖教新聞「」バサッ

宣教師「」ハッ

宣教師「いけませんいけません!道ばたにゴミを捨てるなんて聖職者としてあるまじき行為!それこそ記事に書かれてしまいます!」アセアセ

宣教師「(それにしても酷い書かれようですね。以前までの教団ならいざ知らず現在は真っ当な活動しかしていないのに)」

宣教師「(だいたいにしてこの不正な使い込みというのも先日の夜会に出席した件を結びつけて色んな社交会に顔を出しては散財してるなんてでっち上げを並べて!
なんですか、関係者は語るって!あの夜、私以外に教団関係者なんていなかったじゃないですか!)」ムカムカ

宣教師「(孤児院の子供達の強制労働も院外学習でボランティアをした時の出来事を取り上げて悪く書いてますし強引な勧誘や押し売りに至っては私が引き継ぐ前の頃の話でしょうに!)」

宣教師「(非入信者への嫌がらせはさっき町の人も言ってましたね……。でもよく読むと"そうに違いない"とか"見ていた人の話によると"なんていう曖昧な情報や憶測を書き連ねてホントのように見せてるだけ!)」

宣教師「(やっぱりこの団体は何かおかしいですね……!必ず真実を突き止めなければ!)」メラメラ

???「」ジー

宣教師「ん?」

宣教師「(な、なんでしょう。人のことをじろじろ見て?)」ドキドキ

???「ねえ、もしかして」

宣教師「(まさか私の正体に気付かれた……!?)」ハッ

???「宣教師様?」

宣教師「違います!私は決して司祭では……へ?」キョトン

???「覚えてないの?ぼくだよ。ほら」フードヌギッ

宣教師「き、キミは!」
237.43 KBytes

名前:
sage:


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