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カロル「ボクが世界を変えてみせる」【完結編その3】
[8] -25 -50 

1: ◆WEmWDvOgzo:2017/4/29(土) 21:15:11 ID:.RxhzfPc96
あらすじ

永遠の命。その鍵となる救い主、カロル。
欲望に目覚めた西の国。狂気は果てしなく蠢く

遂に勃発してしまった戦争
強大な西の国に立ち向かうべく王国、東国、南国は6ヶ国同盟から成る平和協定を破り、3国連合軍を結成する

南国は多大な犠牲を払い、国王ローレンの命と引き換えに西帝国軍の主力を削った
東国は張り巡らされた罠を果敢に打破するも圧倒的な力の前に粉砕される

敵地にて孤軍となった王国軍
総指揮官フィクサーの戦略采配が功を奏し、帝都本拠地の制圧を完了した

一方で吉報を待ち、国内に留まる王国の国王ヒメ
迫り来る侵略の魔の手を退ける為、東国のホビット族と手を結ぶ
彼らによって明かされた最後の真実
アピシナの大樹の成り立ち

かつて癒しの力は破滅を導いた
人もホビットも共通する願い
永遠の命が野心をくすぐる

穢れなき無垢な愛情は火種となって注がれ、混沌とした世界を象徴するように大樹を巡る争いは止まなかった

忘れ去られた無残な過去
300年もの月日を経てなお繰り返される歴史
誰も止めることは叶わない

友情を取るか、安寧を取るか
時を追う毎に取捨選択を強いられる
捨てていいものなど一つもないのに


59: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:30:17 ID:lvGUj2/ilc
ヒメ「…僕たちは今、そういう局面にいるんだよ。無知な集団が手探りで道を探して理解しないまま状況だけが進んでる」

ヒメ「それなら憎くても、信用出来なくても、確実に何かを知るヤツを頼りたくなってしまうだろう…?」ブルッ

団長「うぅむ…」

ヒメ「…絶望だ。僕は今、本当の絶望を知った気がするよ」

団長「滅多なことを申されるな…。絶望とは絶たれた望みを指す。我らの望みは絶たれてなどおりません」

ヒメ「…そうだな。じゃあ挫折とでも言えばいいか」

団長「ヒメ様!」カッ

ヒメ「……ごめんな」

団長「」ハッ

ヒメ「ごめん…」シュン

団長「(ワシはまた……)」

団長「(だが…乗り越えていただかねばならん。乗り越えていただかねば……)」

ヒメ「…考えれば考えるほど訳が分からなくなるんだ」

団長「」ピクッ

ヒメ「どこに向かおうとしてるのか…」

団長「…自信をお持ちください。確実に正しい道を歩んでおられます」

ヒメ「正しい、か。僕はもう潔白じゃないのにな」

団長「そのような…」

団長「(…なぜこうも安らぐ間もなく試練が降りかかるのか。陛下には休息が必要だ)」

ヒメ「……」

団長「…今日のところはここまでにしておきましょう。ワシも出来うる限り情報を集めておきますゆえ」

ヒメ「…あぁ、そうだな」
60: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:32:15 ID:iNoKbPh17s
―――国王の間―――

ヒメ「(カロルは…最後まであいつらを救おうとしていた)」

ヒメ「(私欲に溺れ、自分勝手に振る舞い、大勢の命を奪ったファルージャたちを)」

ヒメ「(結局は何一つ改めようとしなかった愚かな連中だ)」

ヒメ「(それでもあいつは救おうとした。なんで…なんでそこまでして…)」

ヒメ「(フィクサーの命も庇った。あいつは敵だと何度も説明したのに…)」

ヒメ「(あんなのは慈悲とも呼べない…甘すぎるだけだ。それなのにどうして…)」

ヒメ「なんで今さら…こんなに深く考えてしまうんだ?壊れそうになってしまう事が…どうしてこんなに心地いい?」ブルブル

ヒメ「(僕は…何がしたいんだ?)」

ヒメ「カロル…カロル……」

ヒメ「こんな罪の意識と向き合いながら…おまえは……それでも救おうとしてきたのか?」

ヒメ「(狂ったように泣き出したおまえの気持ちが…今ようやく分かったよ)」

ヒメ「分かりたく…なかった」ポツリ

ヒメ「っ…くぅ…!」グシッ

ヒメ「ごめんなさい…ごめんなさい」ポロッ

ヒメ「ブルードル陛下…宰相殿…ローレン陛下…父上……」ポロポロ

ヒメ「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…!」ギュウウ

…………………
61: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:32:54 ID:iNoKbPh17s
〜〜〜二日後〜〜〜

―――城門前―――

宣教師「すみません…。キミを一人にしてしまって」シュン

カロル「ううん!気にしないで?宣教師さまには宣教師さまのお仕事があるんだもの!」

宣教師「ほ、本当に一人で大丈夫ですか!?ちゃんと歯磨きしてご飯もしっかり食べて…あ、身清めも忘れてはいけませんよ!?」

カロル「ありがとう!でもボクは大丈夫だよ?宣教師さまもお仕事がんばってね!」ニコッ

宣教師「うぅ…神よ。どうか彼を守ってください!」ギュッ

ラム「大げさだってば。城で過ごせるなんて羨ましい話じゃん」

カロル「…ラムくんも帰るんだよね」

ラム「うん。移民用の馬車で、ついでに送ってってくれるってさ」

カロル「みんなによろしくね…。ボクはまだ帰れないけど…お母さまには心配いらないよって言っておいて?」

ラム「いいよ。伝えとく」

カロル「ありがとう…」ホッ

ラム「本当はもうちょっと残っててもよかったんだけどねー。なかなかあんな豪華な生活する機会なんてないしさ」

カロル「えへへ!今度はみんなでお泊まりできたらいいね?」ニコニコ

ラム「そうだね。ヒメに頼んでみてよ?」クスッ

カロル「うん!」

宣教師「では…行きましょうか」

ラム「じゃ、またね!」

カロル「またね!宣教師さまもラムくんも気をつけて!」フリフリ

宣教師「えぇ!キミもいい子にしているんですよ?」フリフリ

ラム「ちょっとした贅沢だし楽しんでおいでよ!帰ったらルーボイたちにも自慢したらいいよー!」フリフリ

カロル「うん!そうする!」フリフリ

スタスタ スタスタ………

カロル「またねー!」フリフリ
62: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:33:54 ID:lvGUj2/ilc
―――王宮(議場)―――

政務官「周知の通り、北国は豪腕を振るった政略が目立ち、国家としての成り立ちも非常に強固だ」

政務官「その歴史は古く、王国や南国よりも以前から大国の基盤を築いていたとされている」

政務官「世界最古の王族と呼ばれる北国では独自の文化が根付いており、我が国を象徴する教団の信仰も受け入れられていない」

政務官「また西国が帝国主義を掲げていた当時に植民地とされていた北西の小国を援助し、解放に導いた功績が称えられている」

政務官「この小国と通じ合い、現在の平和協定加盟国である二国と、とある利益を共有している」

政務官「その利益というのが油だ。大陸の果てに位置する国々では寒冷に見舞われ、作物の育ちが悪い」

政務官「ゆえに植物性の油や燃料などの消費が激しく生産が困難だそうだ。だからこそ北西の小国から大量の油を輸入している」

政務官「熱帯域にある南国からも輸入していたそうだが一切停止された。これは経済的制裁措置と見られる」

政務官「実は我が国とも馴染み深く、鉄鋼資材の加工技術を交換し合うなど両国間の交流も行われていた」

政務官「先代の頃より私が先頭に立って進めていた計画の一つ、時計塔を目玉とした城下歓楽街建設計画にも北国の高官から意見を頂戴している」

政務官「だが軍事においては西国に次ぐ力の入れようだ。王国から取り入れた加工技術もそこに充てていると聞いている」

高官1「ふむふむ…」カリカリ

高官2「なるほど…」カリカリ

ネバル「(難しすぎて、ぜんぜん話入ってこないです…)」オロオロ

ヒメ「……」

ネバル「(? 珍しく陛下もボーッとしてるですね。疲れてるですだか?)」チラッ
63: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:35:37 ID:lvGUj2/ilc
政務官「さて、ここからが本題だ。まず北国は現在、三国協定を結び直し、東国に要求を迫っている」

政務官「東国はそれに対し、抗戦に臨む姿勢だ。しかし非は東国にあり、味方となる国々は存在しない」

政務官「そこへ我々が介入する訳にはいかない。同じく要求を差し迫られる上では入念に協議し、穏便に済ませられればと考える」

政務官「さしあたって東国、北国に使者を寄越し、南国にも協力を要請する。その任には2名の高官に出向いてもらうが…」

高官1「はっ!」

高官2「お任せください!」

政務官「うむ。万全を期しているようだな」

高官1「政務官より学ばせていただいた交渉技術と人脈を活用させていただきました!」

高官2「必ずや朗報をお持ちします!」

ネバル「(ひえー…西国との一件から皆さん、すごい熱意です。オイラも頑張らなきゃ!)」

政務官「ネバル。お前は何か用意していないのか?」

ネバル「は、はい!えーと…陛下が所有する専属農園のイチゴをブランド化する計画を立ててるです!」ガタッ

政務官「ほう!」

ネバル「今や陛下は国民の人気者です!陛下の名前を使って商売する業種が溢れるぐらいです!」

ネバル「なので陛下の名前に規制を掛けて認可を必要とさせるです!
そして改めて王国認可のブランド品として農園のイチゴを広めるです!」

ネバル「品名はヒメイチゴ!無料配布を取り止め、これを他国にも宣伝するです!」

政務官「ふむ、良い案だ。陛下は許可なされたのですか?」

ヒメ「ん…あぁ、話は通ってる。好きにしろ」

政務官「そうですか。ではその方向で進めておけ。食と娯楽は重要な文化だ。我が国の味覚を広められれば交流も大いに深まるだろう!」

ネバル「はいです!」ピシッ
64: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:36:19 ID:lvGUj2/ilc
政務官「では以上だな…。最後に陛下より…」チラッ

ヒメ「……」ボーッ

政務官「陛下?」

ヒメ「っ…!あぁ、すまない!」ハッ

政務官「議会を閉じる前に総評をお伺いしたく存じますが、いかがなされましたか?」

ヒメ「そ、そうか!うん!問題ない!みんなご苦労だった!」アセアセ

政務官「目の下に深く黒ずみが出来ておりますが…もしやご気分が優れないので?」

ヒメ「い、いや、大丈夫だ…」

政務官「ふむ、それならよいのですが…」

ネバル「(陛下…もしかしたらオイラがこの前、責めるような言い方したから…)」ハラハラ

政務官「ではこれにて議会は閉幕とする。各自、解散せよ!」

バラバラ バラバラ
65: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:37:07 ID:lvGUj2/ilc
ネバル「陛下!すみませんでしたです!」ペコッ

ヒメ「は…?な、なんだよ?」

ネバル「オイラそんなつもりじゃなくて…陛下は悪くないです!だから元気出してくださいです!」アワアワ

ヒメ「……?」

ネバル「と、とにかくですね!オイラも自分で頑張ろうって決めたです!心配しないで任せてくださいです!」

ヒメ「そ、そうか…?」

ゴチンッ!

ネバル「」プシュー

政務官「無駄口を叩いてないで自分の仕事に戻れ」コキッ

ネバル「うぅ…役人がこんなブラック環境だなんて…」シクシク

政務官「ところで陛下…この後、お時間はございますかな?」

ヒメ「構わないが…どうかしたのか?」

政務官「少々お耳に入れておきたい事が」

ヒメ「…分かった」
66: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:38:22 ID:lvGUj2/ilc
―――国王の間―――

政務官「敵対する貴族勢と大后様が通じております」

ヒメ「母上が…?」

政務官「大后様は上流貴族の生まれ、名家の令嬢ゆえ気位の高いお方です。以前より陛下の方針にも反感を示しておられました」

ヒメ「……」

政務官「此度の功績につきましても遺憾とのお言葉を頂戴しました。特に西国から勝ち取った国益はどうなさるおつもりかと」

ヒメ「…向こうは内紛の真っ最中だ。それどころじゃないだろ」

政務官「そのように説明申し上げましたが納得は得られませんでした。陛下は何か聞かされておりませんか?」

ヒメ「母上とは最低限、顔を合わせるだけだ。口出しされても鬱陶しいしな」

政務官「…ですが矛先が我々に向かい、強行策に移ろうとしておいでです。一度、話し合ってみられては?」

ヒメ「そんな暇はない!」

政務官「僭越ながら…この頃はあまり覇気が見られませんな」

ヒメ「なんだと…?」

政務官「ネバルら役人一同は心機一転、新たな努力をしようと試みています。東国の問題改善に取り組み、国内の繁栄にも尽力している」

ヒメ「……」

政務官「…いったい何があったのです?西国との一件に関わっているのでしょうか?」

ヒメ「僕だって、そういう時もある…」

政務官「それでは困るのです。我々もそうですが…何より陛下が先頭に立っていただかねば?」

ヒメ「……」

政務官「とにかく…母君とよく話し合ってください。いらぬ混乱を招く前に」

ヒメ「ちっ…」

政務官「!!!」

ヒメ「分かった!分かったよ!話せばいいんだろ!?」スタスタ

政務官「へ、陛下…?」オロオロ
67: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:39:33 ID:iNoKbPh17s
―――王宮(回廊)―――

ヒメ「……」イライラ

給仕1「あ、陛下!」

ヒメ「ん?」

給仕1「ちょうどよかった!いつもよりいいお砂糖使ったジャムを作ってみたんで良かったら召し上がっていきませんか?」

ヒメ「……」

給仕1「陛下の農園で採れたイチゴをブランドにするそうでネバル様に頼まれたんです!その名もヒメジャム!」

ヒメ「(ヒメイチゴと言い酷いネーミングセンスだな…)」

給仕1「お一ついかがですか?麦パンと合いますよ!」

ヒメ「今はちょっとな…。後で部屋に持ってきてくれ」

給仕1「そう言わず!とびきり美味しいですよ!ね?」チラッ

カロル「うん!」ヒョコッ

ヒメ「!!?」ギョギョッ

給仕1「ほら!救い主様のお墨付きですよ!」

カロル「ヒメくんも食べてごらんよ!とっても甘くておいしいよ!」

ヒメ「お、おまえ…なんで…」ワナワナ

カロル「?」キョトン

給仕1「あー!こんなに口いっぱいジャムつけて!行儀悪いって言われちゃいますよ?」

カロル「あ、ホントだ。つい夢中で食べちゃったから」ベタベタ

ヒメ「……!」プルプル

給仕1「もー拭いて拭いて!」キュッキュッ

カロル「ぅん!わぷっ!」ゴシゴシ

ヒメ「何してるんだよっ!?」カッ

給仕1「」ビクッ

カロル「」ビクッ
68: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:40:41 ID:lvGUj2/ilc
給仕1「あ、あの…陛下?」 オロオロ

カロル「ヒメくん…どうかしたの?」アセアセ

ヒメ「分かってないな…!おまえは…なんにも!」イライラ

給仕1「も、もしかして先に食べちゃったから…?」

カロル「へ?そ、そうだったの?ごめんなさい…!」アセアセ

ヒメ「……!」イライラ

給仕1「も、申し訳ございません!私が悪いんです!陛下にお出しする前に味見を頼んじゃって…」

カロル「ちがうよ!ボクがお城を探検してて!いい匂いがしたから勝手に入っちゃって…!」アセアセ

ヒメ「探検…?ふざけるなよ…!護衛は!?何も言わずに通したのか!?」

カロル「え?ちゃ、ちゃんと言ったよ…?探検したいって…」

ヒメ「ちっ…!」

カロル「ひ、ヒメくん、どうしたの?ホントに大丈夫?」ハラハラ

ヒメ「よくそんな能天気でいられるな!おまえ、本気で自分の立場分かってないのかよ!?」

カロル「ボク…?」

ヒメ「頼むから余計な心配かけないでくれよ!僕の許可なく城内を出歩くな!部屋で大人しくしてろ!」

カロル「……?」オロオロ

ヒメ「分かったな!?」

カロル「は、はい…?」コクッ

ヒメ「まったく…!」スタスタ

カロル「……」ポカーン

給仕1「す、すみません!私のせいで!」アセアセ

カロル「ううん…」
69: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:43:05 ID:iNoKbPh17s
〜〜〜数日後〜〜〜

―――王都(憲兵団本部)―――

政務官「陛下にいったい何があった?」

団長「……」

政務官「ここ最近、明らかに様子がおかしい。まるで魂が抜けてしまわれたかのようだ」

団長「そうか…」

政務官「何か知らないか?」

団長「…知らんな」

政務官「……」

団長「……」

政務官「話せ。何があった?」

団長「知らんと言っておるだろう」

政務官「マシな嘘をつけ。態度で筒抜けだ」

団長「ふん…」

政務官「あのままでは任せておけない。一刻も早く以前の陛下を取り戻していただかなくては…」

団長「陛下は常に国の行く末を考えておられるよ。考えているからこそ…今の状態になってしまったのだ」

政務官「それはどういう意味だ?」

団長「…頼りすぎたのかもしれん。陛下の心は幼い頃と変わらず孤独なままだった」

政務官「? 貴様も様子がおかしいな…。陛下の変調と関係があるのか?」

団長「疲れておるだけだ…。今回ばかりは…疲れた」

政務官「何を腑抜けた事を…!貴様も陛下もどうなっているんだ!」ギリッ
70: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:43:54 ID:iNoKbPh17s
政務官「いいか!危機はすぐそこまで差し迫っているんだ!落胆している暇などないぞ!」

団長「…思えば息子に正義とは何かと問われ、ワシは己に恥じぬ行いが正義だと答えた」

政務官「……?」

団長「…陛下もそうだ。己を信じられなくなっている。全ての行いが過ちに繋がっているのではないかと」

政務官「…疑心暗鬼に駈られていると?」

団長「あまり無理をさせないでやってくれ。陛下もああ見えて幼いのだ」

政務官「ふむ、分からんでもないが…そうもいかないだろう。少なくとも今の環境下では」

団長「…複数の役人以上の働きを陛下に課すのは酷だと言っておるのだ」

政務官「甘えた事を抜かすな。役人には役人の働きがあるんだ。陛下にはそれを取り纏める責務がある」

団長「その責務が…陛下を追い詰めているとなぜ分からん?」

政務官「そうされたのは陛下自身だ。我々は陛下の意思に倣い、立場を弁えている」

団長「しかし…いつまでも陛下をあてにする訳にはいかんだろう」

政務官「あてにするだと?誰があてにした?我々はそれぞれ独自に動き、考え、公務に殉じている。貴様の言い分こそ我々をあてにした甘えだ」

団長「……」

政務官「まさか…陛下までもがそのような言い訳を口にしているのではなかろうな?」

団長「勘繰るな。個人的な意思だ…」

政務官「ならばよいが…陛下の心労が深刻なようなら私も考えねばならんぞ」

団長「なにをだ…?」

政務官「王座の守護をだ」

団長「……?」
71: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:44:58 ID:iNoKbPh17s
政務官「陛下には現在、許嫁がおられない。前制度の悪政によるものだが…公務に集中させる意味もあった」

団長「い、許嫁…?」

政務官「もしもこれ以上、支障をきたすようであれば本来の位置に戻っていただき、王の務めを果たしていただく」

団長「陛下に…子を成せと言うのか?」

政務官「そうだ。然るべき相手と然るべき形でな」

団長「き、貴様…何を考えている?陛下に望まぬ婚約をさせようと言うのか?」

政務官「北国には姫君がおられる。長女は既に婚約済みだが…次女はまだ純潔を保っているそうだ」

団長「……!?」

政務官「長女と比べれば位は劣るが…それでも仲を取り成せれば北国との間に親睦が生まれるだろう」

団長「ま、待て!ま、まさか…」

政務官「歳もそう変わらず見目麗しい美少女と評判だ。決して悪い話ではあるまい」

団長「政略結婚ではないか…!陛下が納得する筈が…!」

政務官「これまで口出しせず自由にやらせていたのは、あくまで王としての資質を認めてのこと。だが腑抜けてしまったのなら話は別だ」

団長「っ…腑抜けだと!」

政務官「納得のいかぬ状況でも国の為に身を捧げる。それが政治というものだ。違うか?」

団長「早計だ…!今は大事を成されて間もなく気が落ち着かぬのは当然であろう!」

政務官「それでは示しが付かん。国王の態度一つでそれぞれの士気に関わる」

団長「ぐっ…!」
72: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:50:34 ID:iNoKbPh17s
政務官「それだけではない。もう間もなく国賊フィクサーの処刑執行日が迫っている。
民衆も見守る一大事ゆえ陛下にはなおのこと毅然としていただかねばならない」

団長「…貴様には人の心というものがないのか!これまでの功績を省みるに…陛下は十分役目を果たしている筈だ!」

政務官「…一つ果たせば終わりか?」

団長「な、なにぃ!?」

政務官「一つの役目を達すれば次の役目は放棄してもいいのかと聞いているんだ?」

団長「そ、そうは言わんが…」

政務官「そう言っているんだよ!貴様は!先ほどから!ずっとな!」

団長「うっ…ぐ」タジッ

政務官「多大な功績は認めている。役目の辛さも理解出来る。
だがそれを言い訳にしたところで危機を免れる訳ではない!」

団長「……!?」

政務官「世継ぎの件にしても…2、3年以内には決定しなければならない事だ。
陛下にその気がないと言うのなら強引にでも推し進めるのみ」

団長「な、何をしようと言うのだ…?」

政務官「何をしてでも、だ」

団長「っ……」ゴクリ
73: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:52:07 ID:lvGUj2/ilc
政務官「既に国内でも不穏な噂が出回っている」

団長「噂だと…?」

政務官「戦勝国となった王国に期待を抱き、民も血の気が強まっているらしい。
これまでのように不満を押し留めてもらえるとは限らない」

団長「ば、馬鹿な!内乱が勃発するとでも!?」

政務官「可能性は大いにあるだろう。陛下不在の間、実際に貴族勢が民を煽動しようと企てた」

団長「な、なぜだ!これだけ誠実な執政に務められておるというのに…何が不満だと!?」

政務官「不満など、どこからでも生まれるものだろう。民とは常に、これまで以上の国を欲する生き物なのだ」

団長「な、なんだと…これでは、これでは、いつになれば陛下に安らぎが訪れるのだ!?」

政務官「ふん…子を成し、世継ぎとして相応しい人物に育て、王位を返上すれば隠居も可能ではないか?」

団長「何十年先の話だ!それは!?」

政務官「ならば我々に任せるか?」

団長「で、出来るのか!?」

政務官「陛下の威光が絶対となりつつある現状において役人による国家百年の計を案じられるとすれば…それはもはや陛下が理想とした国家と程遠い物となるだろうがな」

団長「で、ではどうすればいい!何も王を降りさせよと言うのではない!休息を願い出ておるだけだぞ!」

政務官「自由に使える時間は設けてある。そこを有効に使っていただけばいいだろう」

団長「寝る間も惜しんで思案する陛下にそんな時間があると思うか!?」

政務官「皆も同じことだ。ましてや陛下には我々より比較的、多くの時間を取らせてある」

団長「ぬ、ぬ、ぐぅぅ…!!」ワナワナ
74: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 21:58:12 ID:lvGUj2/ilc
政務官「親心を抱くのは勝手だが…陛下の役目を妨げるのなら今すぐ退け。己の立場を誤解するな」

団長「…あ、甘やかしてやりたくもなるではないか!」

政務官「?」

団長「あのお歳であれだけの偉業を達成された。その達成感を噛み締める時間があってもよいではないか…!」ワナワナ

政務官「時間と人は同様に流れる。起こってしまった上は悲観しても仕方あるまい」

団長「っ…くそっ!」ググッ

政務官「私とて悩ましい。信頼していただけに…あのようなお姿は見たくなかった」

団長「どうしても…陛下を休ませる訳にはいかんのか…!?」

政務官「…陛下を通さねば役人の公務にも差し支える。王の働きはそれだけ重要なのだ」

団長「……!」

政務官「なにも我々が楽をしたいが為に言っているのではない。案ずればこそ…努力を強いているのだ。分かってくれ」

団長「……」

政務官「何より陛下自身が積み上げた努力を無駄にしない為にも、な」

団長「…すまん。ワシが間違っておった」
75: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 22:01:44 ID:iNoKbPh17s
政務官「気持ちはよく分かる。幼い頃より側に仕えてきた身としては…計り知れぬ想いがあろう」

団長「いや、これはワシの不手際だ。危うく陛下に堕落を覚えさせるところであった…」

政務官「…見守るのも一つの気配りだ。今は忍んで耐えろ」

団長「承知した…」

政務官「…安らぎとは平穏。望む未来は己で勝ち取るより他にないのだ」

政務官「…私は貴様も信頼している。あまり落胆させてくれるな」

団長「……すまんな。ワシに出来る事があればよいのだが」

政務官「では一つ頼んでおこう」

団長「む…なんだ?」

政務官「陛下専属の農園に護衛を配置し、強く警戒を促してくれ」

団長「の、農園に…?なぜだ?」

政務官「陛下が民へ無料配布されていた苺に仕掛けを施そうとする者がいるとも限らん」

団長「そ、そんな真似をして何になると言うのだ?」

政務官「あの苺は陛下と民にとって直接の絆を意味する。
もしも民意を剥ぎ取り、失墜させようと目論む者あれば真っ先に狙われる恐れがあるだろう」

団長「……!?」

政務官「人の心はたやすく、政治とは恐ろしいものだ。
私が陰で陛下をどれだけ支えてきたか少しは理解してもらえたか?」

団長「うむ…。そうだな。ワシは…政治には向かんようだ」ブルッ
76: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 22:04:58 ID:aJfL34ZFgU
〜〜〜処刑執行日〜〜〜

―――城下町(断頭台)―――

ワイワイガヤガヤ

ガタンガタン ゴゥンゴゥン

政務官「そこでいい。開け」

ギギギ…ギィィィ………

政務官「罪人をこちらへ」

ザッザッザッ

政務官「杭に縛り付けろ」

シュルシュル

フィクサー「」ギッギッ

政務官「ふん…」ジッ

ザワザワ ザワザワ

町民1「と、とうとう処刑されるのか…」ゴクリ

町民2「あいつのせいで俺達はさんざん怯えさせられたんだ。ざまぁみろだぜ!」

町民3「だ、だけど…いざ目の前でとなると、ちょっと…」ビクビク

町民4「国を裏切る奴が悪い!俺の従兄弟だって、あの戦争で死んだんだ!立派に戦ってな!」

町民5「…兵士になった友人がフィクサーに利用されて反逆者にされた。あいつはそんな奴じゃなかったのに!」ギリッ

町民6「よくも息子を不名誉に死なせたな…!地獄に落ちろぉ!!」

町民7「西国人を不必要に虐殺してきたと言うし、やっぱりまともな人間じゃなかったんだろうな」

町民8「ああいう奴は世の為にならないよ。死んでもらった方がいい」

町民9「父親を失って路頭に迷わされた遺族も大勢いるんだ!許せねぇよ!」

町民10「そこをいくと国王は俺達を戦場に行かせないようにこっそり解決してくれてたんだから本当に偉大なお方だよな!あの方を信じていれば間違いないよ!」

町民11「そうさ!あの野蛮な西の帝国軍を返り討ちにしたばかりかホビット族やレジスタンスもやり込めて反乱を食い止めてやったってんだからスゲーや!」
77: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 22:14:54 ID:aJfL34ZFgU
ブーブー ギャーギャー

政務官「…準備は整いましたな。始めるとしましょうか」

ヒメ「……」

ヒュンッ ヒュンッ ヒュンッ

フィクサー「……」ビシビシッ

ヒメ「…ある、のか」ボソッ

政務官「なにかおっしゃられましたか?」

ヒメ「ここまでする必要があるのか…?」

政務官「ここまで、とは?」

ヒメ「奴は罪人だ…許されてはいけない。でも…」

政務官「……?」

ヒメ「無抵抗の人間に容赦なく罵声と物を投げつけて…女子供も見守る場で…惨殺する必要が…」

政務官「恐れながら…王国軍全体の罪を補うには十分な落とし処かと」

ヒメ「…そうかも、しれないけど」

政務官「奴に関しましては生かしておく理由が見当たりません。むしろ早い内に始末を着け、民を納得させるのが先決」

ヒメ「これが民にとって…いい事なのか?」

政務官「彼らの浴びせる憎悪が目に写りませんか?」

ブーブー ギャーギャー!

政務官「罪と共に焼き払うのです。遺恨も…執着も…火種となって燃え盛りましょう」

ヒメ「……!」

政務官「しかとお見届けくださいませ。陛下にはその義務がございます」

ヒメ「…あぁ、僕が…そうさせたんだもんな」
78: ◆WEmWDvOgzo:2017/5/12(金) 22:16:33 ID:aJfL34ZFgU
政務官「罪人の身体に聖酒を注げ!」

バシャッバシャッ

政務官「……火を放て!」

ボッ

フィクサー「ぅむぅぅ!ムゥグゥゥゥ!!?」ジタバタ

ゴォォオオオオ

フィクサー「ムゥゥウ!!ムォオオオオ!!アァギィィィイイイイ!!!!」メラメラ

ワァーワァー! ヒューヒュー!

ヒメ「(なんて…むごたらしい光景だ)」

ギャアアアアアアアアアアアアア…………

パチパチ パチパチ

ヒメ「(喝采が起こるたび複雑になる…。僕が彼らをこうしてしまったんだ…)」

ヒメ「(僕が……)」プイッ
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うpろだ
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