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1: ◆DPehMNPNeE:2012/8/8(水) 11:05:22 ID:6E1Q3FITdQ
今日は記念すべき日になるハズだった。

心踊らせる"宝"の予約は初日に済ませていた。そして本日!購入受け取りの後、体で"宝"を庇って帰宅。

追記するならば、事前準備として睡眠時間も環境設備も十二分に足りていた。

俺は自身の考え得る全ての手を打ったつもりだ。しかし、想定外の攻撃はあるもので。

"宝"ことゲームを進めて小一時間経過した頃。地雷。不吉な二文字が思考の隅を掠める。

嶺「なんだよコレ・・・・・・ハバキ様はこんな性格じゃないだろぉ」

自分でも情けなくなる声が出た。責めるような今にも泣き出しそうな。

落ち着け、少しでいいから冷静になるんだ俺。シナリオを全部見てから判断するのがマイルールだろ?


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


結局、傷口は広がってしまった。思い入れのあった作品の続編への期待には、評価は人それぞれ等と言う正論なんか意味を為さなくて。

嶺「まさか、このゲームでスキップ機能を使うとは思わなかった」

予約特典の制服が哀愁を誘う。前作の時に興が乗って作った、同學園の手作り制服と並べて写メを撮って悦に浸っていた時間が懐かしい。

嶺「俺の考察が間違っていたのだろうか」

認めたくない悔しさと、それと表裏の淡い希望を胸に抱き、前作"葦原學園探求会"を起動した。


30: ◆DPehMNPNeE:2012/8/19(日) 12:03:56 ID:Pj31ZiAoE.
翌日。何事もなかったかのように幼なじみは登校してきた。

嶺(朝に見かけなかったから、また休みかと思ってたんだけど)

喜ぶべきなんだろうけど、素直に喜べない。なんだか引っ掛かる。

いつもの待ち合わせ場所にいなかったから?そういえばどことなくぎこちないような・・・。よそよそしいような・・・。

気のせいか?そもそも登校以外で、学校では元からあまり話はしない。学校での男子と女子の活動区域は明確に分けられていて、被る点は僅かなのだ。

先日は存在すら忘れていたのに。一度気になると落ち着かない。理屈ではない、自分でも首を傾げる違和感満載な感覚。謎だ。

風が吹き、書きかけのメモ代わりのミニノートのページがめくれて、意図しない場所にインクを載せてしまい苛立ちは加速する。

「嶺君嶺君。ちょっとさー」

嶺「なに?」

上の空で返す。ただでさえ中身のない話が多い隣人だ。たまに気を抜いた返事しても罰は当たるまい。

「顔が怖い」

「いや、マジ怖いからやめて。小便ちびっちゃう」

意識して笑う。すると何故か頬が引き攣る。

「え?え!?なに?まさかマヨネーズの件バレてたり」

嶺「ごめん、なんの話?」

「いや、心当たりがないならいいんだ。アハハ。この前借りたタオル返したくってさ」

嶺「タオル・・・マヨネーズ・・・」
31: 熱砂にやられた。サラバダー ◆DPehMNPNeE:2012/8/19(日) 12:06:09 ID:Pj31ZiAoE.
手にしたタオルが心なしか黄ばんでいる気がする。悟ってしまった。堪えていた眉、口角の筋肉の緊張が頂点に達し、連鎖して大きく跳ねる。

事は迅速に。父から学んだ言葉だ。血走った目で、五日間睡眠時間ゼロで、カタカタと機械を操作していた父の気持ちが今なら理解できる。

隣人から話を聞く。丁寧に。細かく。正確な話を。

友人を捕まえる。屋上でフケていたのを有無を言わさず。

話に食い違いはないか。本当にマヨネーズを?他はないのか。タオルは雑巾ではない。繰り返す、タオルは雑巾ではない。

手洗いをした?見よう見真似で手洗いをするぐらいなら洗わず返せ。お前に使った素材の特徴がカケラでも分かるのか。

それ以前に触るだけで素材が分かるのか。何故素直に言えない。

俺は。信じて。貴女に。貸したのに。
俺は。信じて。貴女に。貸したのに。

言語道断。信頼を裏切り、買収を行い、隠蔽工作をするなど。もちろん買収に乗る我が友人も。

どれだけ苦労して買ったか。どれだけ愛情込めて手入れをしたか。ほんの少しでも脳裏を掠めてはくれなかったのか。

のしかかった全ての想いを表情で現わして、ただ一言どうして?と尋ねた。

しばし待つも答える者はなく、周囲にばらつく生徒達は土下座していた。肝心の隣人は土下座する余裕もなかったのか、不動だ。

足音。甘い。
逃げようとした友人の腕を掴む。逃げるのはルール違反だよ、正晴。

大丈夫。痛くしないから。
32: ◆DPehMNPNeE:2012/8/21(火) 12:42:34 ID:T7G1cXLFiQ
嵐は去った。地べたに座った、放心状態の正晴がぽつねんと残されている。

正晴「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

蛍光灯の光を遮る影。顔を上げずともその主が誰だか分かる。今回の引き金、嶺の逆鱗に触れてしまった御仁だ。

「これ絶対寿命縮む。てか、なにバックレようとしてたのさ」

正晴「無理なんだよ、あれだけは勘弁してくれ。バレるような真似するんじゃねえよ、まったく」

脚を組み替えようとするが、強張っていて中々言うことを聞いてくれない。どうせ労力を使うなら、飲み物でも買いに行った方が幾らかマシか。

正晴「飲み物買いに行くけど、なにかいるか?」

「ミルクティーお願い」

立ち上がる正晴。入れ代わり座る御仁。だらしなく床に寝そべる姿は見ていて自然と溜め息が零れる。

「しっしっ!さっさと行けぃ」

正晴「お前は・・・・・・ああ、もういいや」

文句を言うのも億劫だ、途中で投げる。着衣が乱れてわりと大変なことになっていても、今は見る輩もいまい。

ここで自分で悟るぐらい聡ければ、違う結果を迎えていたのだろうか。いや、変なところでだけ妙に鋭い嶺相手では微妙かもしれない。

嶺も、もっと分かりやすい、真っ当な部分で鋭いとこっちも助かるのだけど。

正晴(きっと、眼中にないからだろうな。どいつもこいつも面倒臭いことで)
33: ◆DPehMNPNeE:2012/8/21(火) 12:44:43 ID:T7G1cXLFiQ
途中、いつもの癖で購買でパンを買いそうになるも、珍しく弁当があった事を思い出して会計の前に思い留まった。

他には特に問題には出くわさず、多少の気分転換にもなって想像していたよりも気分は良くなった。

正晴「ほれ、ただいまさん」

「ありがとうさん」

早速ストローを刺してミルクティーに手を付ける。案外無頓着なのか着衣は教室を出たときより更に乱れていた。想定外だ。

「なあ、正晴君よ。君の机の辺りから生臭い臭いがするのだが」

正晴「生臭い?なんだ?」

心当たりと言えば弁当ぐらいか。嫌な予感しかしない。

机の横に引っ掛けていた鞄を慎重にまさぐる。異物はない。と、なるとやはり臭いは弁当か。

思い切って指の端に捕まえた包みを引っこ抜く。鞄の中にあるのは弁当だけ。既に強く臭いは感じられ、もはや疑う予知はない。

正晴「うわ」

「なんか垂れてる」

汁に触らないよう包みを開けて、蓋を取る。むわっと臭気が吹き出して軽く吐き気がする。食欲なんて明後日の空だ。

正晴「生物をそのまま弁当に入れやがって。ガキでもヤバいってわかるだろうがよ」

"生"のマグロが"生"温かいご飯の上に鎮座していた。区切る容器なんて上等な配慮の入り込む余地はなく、ご飯自身や煮物類が醤油の海に一体化した混沌を形作る。

トイレに流したいと本気で思いつつ、そっと包みを元に戻した。
34: 不人気さん程かわいいと思うこの頃。さらば ◆DPehMNPNeE:2012/8/21(火) 12:48:07 ID:T7G1cXLFiQ
待ちに待った日曜日、今までに過剰な程準備した物の多くを悩み、選び、切り捨てて行く作業が楽しい。

天気は晴れ、予定通り服は制服、葦原學園のものだ。鞄はどのサイズ?着替えを考慮するなら大きいの、でも大きいのは見映えが悪い。

ワンサイズ小さい鞄を手にしてしばし容量と相談。入るには入るけど、パンパンに詰めたらやっぱり見映えが悪い。

がさばる着替えは諦めるか。日帰りだし、最悪下着ぐらいなら簡単に買える。そうと決まれば小物類を詰めて荷は完成。

おっと。忘れないように、一応最低限の化粧品も。なんとなくだけど、こだわらなければいけない気がするから。

時間は余裕がある。机の上に置いた腕時計を確認、その時計も上着に袖を通してから着用。

些か早いが部屋を出よう。目的地は慣れない場所だ。乗り継ぐ電車も多い。

嶺(日曜だし、今なら通勤時間からはズレるよね)

最後の仕上げに送られてきたカードを社員証のように紐を通して首に掛ける。この場合だと、生徒証か。

玄関にあるのは履き慣れた靴とイメージに合った靴。今日履く靴はとうに決まっていた。後者だ。ここまで来て妥協は許されない。

本気である。イベント、冗談のようなイベントだからこそ手は抜かない。なにより、今の俺は一番好きな、あのハバキ様を背負っているのだから。

流石に靴のサイズまではハバキ様と一致しないので普通に男物なのが非常に残念で心残りではあるが、致し方ない。

これで全て纏まった。背筋をピンと伸ばし、出立。太陽の下、かつてなく胸が踊っていた。
35: ◆DPehMNPNeE:2012/8/23(木) 18:24:58 ID:Wi9FGxYElM
146:摩周◆MASYUuLIKE:2012/5/27(日) 5:32:18 ID:※※※※※※※※
噂の平面旅行、体験してきます。葦原學園の制服で璞浜を闊歩している人がいたらそれはきっと私ですw

147:名無しの探究者:2012/5/27(日)
5:46:31 ID:※※※※※※※※
久々に早起きしたらなんだか面白いものを見た

148:名無しの探究者:2012/5/27(日)
5:52:55 ID:※※※※※※※※
え、あれってマジだったん

149:名無しの探究者:2012/5/27(日)
6:11:25 ID:※※※※※※※※
>>147
こら、いくら相手が摩周さんだからって面白いもの扱いはいけません!人間ですよ(変態だけど)

150:名無しの探究者:2012/5/27(日)
6:19:22 ID:※※※※※※※※
摩周と旅行に行きたい

151:名無しの探究者:2012/5/27(日)
6:31:35 ID:※※※※※※※※
>>150
璞浜ですねわかります。

152:名無しの探究者:2012/5/27(日)
6:37:01 ID:※※※※※※※※
〜と旅行に行きたいの汎用性の高さww

153:名無しの探究者:2012/5/27(日)
6:42:08 ID:※※※※※※※※
いいなー。俺なんか休日出勤だよ。あ、リアル摩周見たら誰か写メ撮って置いてうp

154:神楽◆592HaRAM26:2012/5/27(日)
6:59:44 ID:※※※※※※※※
げえっ。神楽ちゃん流れに乗り遅れたでござる。ちきしょーめ。今日は一日ネトゲ廃人してやる!

155:名無しの探究者:2012/5/27(日)
7:00:00 ID:※※※※※※※※
ハァハァ、神楽たん。白鯖で待ってるよ・・・うっ・・・
36: ◆DPehMNPNeE:2012/8/23(木) 18:27:19 ID:Wi9FGxYElM
掲示板にも書いたように、平面旅行のイベント会場は璞浜だ。ありとあらゆる無茶が詰め込まれた街には相応しい。

科学者、発明家からベンチャー企業に遊園地。カルト宗教にマルチまで。他人事なら面白いことに満ちた街。その特異性から観光客というか、見物人は絶えない。

反面犯罪率は高く、治安が悪いと認知されてはいるものの、殺人などの凶悪事件だけはまったくと言っていい程起こらない不思議な街でもある。

中には都市伝説よろしく、隠蔽されていて科学実験の材料に・・・などと語られたり。もっとも語っているのも怪しげな占い師だったりするのだが。

なんにせよ、胡乱な噂がされる土壌はバッチリできていて。だからこそ信じていないにも関わらず、休みを潰してわざわざ今日訪れることにしたのだ。

で、参加するお祭りの首謀者、四ツ谷重工と言えば。

一応調べてみたけれど、検索に名前すら引っ掛からない。このご時世、ネットで検索して見つからないなんてほぼ実在しないと見ていい。

有名な会社をもじったと思われる名前は想像力を掻き立てられる。おそらく、元となった有名会社は、数多くのフィクション作品に置ける陰謀の元締のモチーフを勤める老舗だ。

事実、規模はとてつもなく巨大で、名前をもじるだけでもかなりの勇気が必要だったろう。ネタとして本気の程が窺える。

参加者の身としては、責任者のクビが飛ばされないよう祈るのみだ。近年稀に見るお祭りの幕がそれではあまりにも後味が悪い。

空気を読んでくれよ、大企業さん。

田舎特有の電車の待ち時間を消化して、時間つぶしは終わる。切りよくやってきた電車に乗り込んだ。
37: ◆DPehMNPNeE:2012/8/23(木) 18:30:11 ID:Wi9FGxYElM
璞浜に近付くにつれ、人が少しずつ増えて行く。そのうち席も埋まってしまうだろう。乗り換えが早いか、埋まるのが早いか。

幼い頃覚えた近くの駅の名前は出尽くして。背景は田園風景や山から住宅街やビルに移り変わる。

電車に乗るのも久しぶりだ。自身の行動範囲の狭さを思い知る。知らない、慣れない場所は気が引けるのだ。

突如。母が怒り、嘆くときの枕言葉が脳裏に浮かぶ。

GREAT-MOTHER「なまじなんでも熟す性格が災いして凝り固まった」

いまいち意味がわからない。いつか実感する日が来るのだろうか。

溜め息が一つ。幸せが逃げる。幸せってなにさ、不幸なら分かりやすいのに。車窓の一点を眺めて他愛もないことを考える時間は短くも長くも感じる。時間感覚が無くなる。

どれだけの間そうしていたか。意識の外から、不意に声を掛けられた。

女「すみませーん。その格好、葦原學園シリーズのハバキ様ですよね?」

やや過剰に付けられたアクセントに眉を潜める。わざとらしいのは嫌いだ。半ばげんなりとしながら、声の主に振り向いた。

女「あ、やっぱり。正面からだとより似てるー」

嶺「こんにちは。お知り合いだったかな」

まさか、掲示板の人間?とりあえずそれっぽく応対する。女を見ると、上下共にやけに厚着をしていて、なんだか毒気を抜かれた。

女「服装、気になりますか?お互い目立ちますね」

ごく自然に、ちゃっかりと向かいに座る辺り、奴は強者だ。上手には下手に逆らわない方が無難、と体内の警報が鳴っていた。
38: ◆DPehMNPNeE:2012/8/23(木) 18:34:28 ID:Wi9FGxYElM
多分これから遅くなるよ!申し訳ありませぬ。前の長編作品はもっと丁寧にやるべきだったと後悔したので、今回こそは・・・頑張ろ。
39: ◆DPehMNPNeE:2012/8/26(日) 04:52:53 ID:yX4GGgEJXQ
女「申し遅れました。私、鶴田カメコと申します。鶴は千年亀は万年、いやあ、縁起がいいですねえ」

持ちネタなのだろうか、陽気に自己紹介をする女はノリにノっている。背に負ったリュックサックからカメラを取り出し、"カメコ"で〜す!などとVサインをしていた。

嶺「随分と古めかしいカメラだね」

黙っているのも難なので、とりあえず話を振ってみる。

カメコ「父が無類のカメラ好きでして、譲り受けました。名前はアサヒペンタックスSP。こんな見た目ですけれど、まだまだ現役ですよ」

嶺「自分だったら、なんだか壊しそうで気を遣いそうだ」

曖昧な相槌しか打てなくて、情けない。畑違いの話なので仕方なくはあるのだけれど。

カメコ「あはは、必要以上に手入れしてるせいか、元気元気で頼もしい子です、この子は」

カメコ「おっと、話が明後日の方に。その格好、コスプレですよね。何かイベントでもありましたっけ?」

中々、説明し辛い質問だ。そもそも平面旅行とハバキ様の格好はイコールで結ばれる事象とは言えない。

悟ってくれる事を期待して首に掛けたカードを見せてみる。この時間、あの格好、同類の可能性は高い。

嶺「これで理解できるかな」

カードに視線を向けると、カメコは笑う。そして、再びリュックサックをまさぐり、同色のカードを私のカードに合わせてきた。

嶺「お仲間さんか」

カメコ「そのようです」
40: ◆DPehMNPNeE:2012/8/26(日) 04:55:07 ID:yX4GGgEJXQ
カメコ「実は最初からそうじゃないかと疑ってたんです。あなた、いやハバキ様?モノ凄く気合い入っていたから」

そうだ、名乗り返していなかった。以前冗談で作った名刺を渡す。ハバキ様親衛隊隊長北峰嶺、と黒字であっさり目に印刷された味気ない名刺だ。

カメコ「あ、はい。どうもご親切に・・・・・・」

カメコ「うはあ、なんて言ったらいいか。いや、うはあ」

カメコ「あの、もしかしてもしかしてなんですけど。その一張羅、既製品じゃなかったりします?」

いちいちオーバーリアクションなのも慣れてくれば面白い。揺れ動く武骨なカメラも滑稽に映り、自然と笑みが零れる。

嶺「ボタンと襟周り以外は手作り。あんまり慣れないうちに作ったものだから、アラも目立つかな」

カメコ「流石適合率72%・・・・・・格が違った」

自らのとカードを比べて大仰に嘆く。カメコのカードは56と刻印されていた。やはり、アレはパーセンテージを示すものらしい。

不意に会話が途切れたと思ったら、カメコは向かいに移動し、車窓から見を乗り出してシャッターを切り始めた。

嶺「ちょっと、ちょっと危ないって。樹が、ぶつかるから」

思わず素が出る。下手したら窓から落っこちるぞ。恥も外聞もかなぐり捨てて、カメコの体を引っ張り上げる。

カメコ「離して下さい!今オニヤンマがいたんですよ、それもこんな場所に。シャッターチャンスは一瞬しかないんですうー!」

剣幕に押されて手を離すと、苦笑いしているおばさんと目があった。互いの表情は愛想笑いに変わった。
41: 眠い、眠いのよん。さらばさらば ◆DPehMNPNeE:2012/8/26(日) 04:57:38 ID:yX4GGgEJXQ
都内を一周する路線に乗り換え、迷路のように複雑な地下鉄に乗り換え、地方線に乗り換えて璞浜にたどり着く。

厚着の服は体を守る為のものだったのだと気付くにはそう時間は掛からなかった。先程のような件は枚挙に暇がなく、その度に車掌さんの対応は私がする事になった。

嶺「結構時間があるな」

カメコ「ですねー、とりあえず下見しても時間単位で間が空く感じ」

前衛芸術のような駅前、ここならば私達の服装も違和感となることはないだろう。135゜に傾く合歓の木に比べたらどうってことはない。

嶺「喫茶店でも入ろうか。同じく早く来過ぎた人がいるかもしれない」

駅の並びに鎮座する璞浜唯一の喫茶店。璞浜なら、何処に店があっても客足が絶える事はなさそうだが、大抵は早晩潰れる。

そんな中生き延びたこの喫茶店は重宝されると同時に、よくメディアやミーハーの的にされている。

カメコ「そうですね。もっと遭遇するかなと思ってたのに拍子抜けな気分ですし、私」

言うが早いか足を向けた。行動派な人間は話が早い(byハバキ様)

チリーン、と扉の鈴を鳴らして入店。中では髭が立派な赤髪の老紳士が応対の準備をしていた。

老紳士「よくぞいらっしゃいました。喫茶フルールで御座います。御席は如何なさいましょう」

視線でカメコと相談する。彼女は特にこだわらないとのこと。ならば、こちらのハバキ様イメージを優先させて頂く。

嶺「カウンター席で頼む。空いているなら、奥から二番目で」
42: 1レスだけ。うがぁー ◆DPehMNPNeE:2012/8/28(火) 06:38:58 ID:M.eYQ7hfPE
滞りなく席への案内を受け、風情を感じるメニューを一人ずつ手渡しで渡される。

カメコ「観葉植物が丁寧に手入れされてますね」

嶺「分かるのかい」

門外漢の私にとっては差異がいまいち感じ取れない。そもそも、背景の一部としてしか認識していない時点で論外と思わなくもない。

カメコ「ええ、専門家ではないので上手く説明はできないのですけど、確かに」

嶺「そういうものか」

あれだけ写真に固執していれば自然と観察力が養われるのかもしれない。試しにメニューを畳み、植物を観察してみる。

嶺(アレ、変な動きしてないか!?)

窓際を平行移動している。小刻みに、速く。視線を向けるも、既にカメコはメニューにかじりついていて宛てにならない。

嶺「フルールはサンドイッチが美味しいらしい。雑誌やら口コミやらで話題になっていた」

話しながら植物に近付く。子供染みたいたずらに笑みを堪えて。

カメコ「えー、でもお菓子みたいなのばっかりですよ。これから戦場に向かうのに甘味て、わいわいがやがや学生の遊びならまだしも」

変なこだわりを持っているようだ。妙に漢らしい。きっと、恋人との初めての外食でも躊躇なく居酒屋やファストフードに入る人種だ。

嶺「名物を食べるのも醍醐味だと、そう思うよ」

カメコ「そうまで言われちゃ・・・・・・。食糧は多少は持参していますし、いいかあ」

嶺「それがいい。たまには騙されてみるのも悪くないさ」
43: ◆DPehMNPNeE:2012/8/31(金) 00:05:30 ID:s.U8wIemjU
嶺「動く植物とは面妖な。どれ、調べてみるか」

カメコ「はいい?何か言いましたー?」

まだカメコは悩んでいるようだ。それでも律義に返事を返してくれるのはありがたいことだが。

乱暴にならないように鉢に手を掛ける。すると、観念したのか鉢が乗っていた低い壁の向こうから男がひょっこり顔を出した。

男「なはははは、付き合ってくれてありがとうよ。暇で暇でなあ」

カメコ「暇なら腕立てでもしてればいいんですよ、うん」

私と勘違いしているのだろう、中々乱暴な意見をぶつけてきた。少なくとも眼前の男は体格から考えて、日常的に体を鍛えているようなのであながち見当ハズレでもないか。

男「面白い連れだ。いやあ、驚いた。腕立ては後でするから、まずは挨拶させてくれまいか」

男「俺の名は東郷。仲間内ではデュークと呼ばれている」

暗にデュークと呼べと言われた気がする。どうやら、今回は押しが強い人ばかりに縁があるようだ。

嶺「よろしくお願いします。あー、その、デュークさん」

言い終わる前にそれでいい、と肩を強く叩かれて少し咳込む。体重差があるんだから配慮をして欲しい。

カメコ「うちのお嬢様になんてことを」

デューク「む!貴様、俺の後ろに立つな」

小芝居が始まってしまった。自分のポジショニングに若干の不満を感じつつ、カメコの分も勝手に注文させて貰う。
44: 頑張らんと、ふぁいとー。さらばー ◆DPehMNPNeE:2012/8/31(金) 00:07:58 ID:s.U8wIemjU
デューク「実は徹夜組なのだ」

カードを胸ポケットから出して重々しくデュークは言葉を紡ぐ。カードには39と刻印されていた。

老紳士「長居するばかりの渋いお客様でほとほと困り果てている次第です。お待たせ致しました、こちら注文のランチセットAとBで御座います」

会話の間に自然に入り込んだ老紳士の技に内心で感嘆の声を挙げる。

カメコ「大体予想はしていました」

これは徹夜というではなくイベント仲間という意味だろう。まず徹夜組などと考えるハズもない。

デューク「ん、俺渋いって?」

老紳士の溜め息が聞こえた。後から「処置なし」との声も。同意である。

向かいにある肘と肘の隙間にランチセットAを押し込んで、こちらにBを置く場所を確保。老紳士の会釈に会釈で返した。お互い大変ですね、と視線もついでに送る。

嶺「時間は待つと長く感じる」

カメコ「食べ終わったら散策しますー?」

カメコも大分砕けた話し方になった。しかし、会って間もない男相手でこんなに無防備で大丈夫なのだろうか。

何はともあれ、思惑通りの流れになった。このままデュークも一緒に連れて行けば老紳士の心労もいくらか軽減されるだろう。

なんだかデュークに似た人をよく知っているような気がしてならない。ほら、ええと、学校の隣の席とかで。

頭が下がる。アレと何時間もとは。失礼にも程がある表現と想像をしながら食事を行うと砂を噛むようだった。
45: 名無しさん@読者の声:2012/8/31(金) 00:55:05 ID:Zq6czno8R2
自分は、今後も期待♪
っ‐CGL‐

46: ◆DPehMNPNeE:2012/9/1(土) 23:51:10 ID:Qp9ByFJ.6g
デューク「この街なら俺がよく知っている。案内は任せるがいい」

会計を済ませ、開口一番に出た言葉がこれだ。胸の隅に疑念はあったものの、そのまま話を促す。

嶺「小一時間程時間を潰すのにオススメの場所はありますかね」

デューク「健全なものなら、本屋かゲーセンだろう。ゴミ拾いのボランティアは事前に登録しなくてはいけないから、今回は無理だな」

怪訝な顔をしたのに気付いたのか、気付いていないのか。説明が続く。

デューク「去年、ボランティアルートの森林公園で大量の"白い粉"が発見されるという事件があった。まあ、調べてみると片栗粉で愉快犯の仕業だったとオチが付いた」

笑い話が一々洒落になっていない。広域指定暴力団のお膝元で"白い粉"、一歩間違えば命に関わるのではなかろうか。

デューク「実際五年前に本物の"白い粉"が見つかったからなあ。そりゃ、信じてしまうよ。・・・・・・こんな感じで毎年何かしら起こるのさ」

嶺「何段オチですか!?笑えませんよ」

思わず声を上げてしまう。いかん、イメージが崩れる。今日の私はハバキ様ハバキ様ハバキ様。

カメコ「ちなみに、不健全なものは」

デューク「カルト宗教乗り込み、ネズミ講のサクラ、裏治験、闇賭博とかかな」

指折り数えるデューク。彼が「もちろん俺はやったことないけどな」と笑ったところでようやく身体が弛緩した。

嶺「健全なのにしましょう。一時間で帰って来られる気がしません」

問題点が違うなどという正論は何処かへ飛んで行った。
47: 期待に応えられるよう、精進致す次第であります、はい。さらばー ◆DPehMNPNeE:2012/9/1(土) 23:53:20 ID:Qp9ByFJ.6g
悩む時間がもったいない。カメコ発案の二者択一あみだくじで行き先は本屋とゲームセンターから後者に決まり、国内最大と目されるゲームセンターに入場することになった。

嶺「はいはい、夢中になりすぎて時間を忘れないことー」

気分はまるで保護者だ。三人の中ではおそらく自分が年少なのに。お金とメダルを交換するカメコの背を見て思う。

デュークは似合いもしないダンスゲームでノリノリだ。開始間もなくで観客が居ることからして、技量は高いらしい。

見事に個人主義な面子の仲間達。でも、やはり自分も個人主義であって。格ゲーの筐体に自然と張り付いていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・。

歯ごたえがない。一部ゲーマーに聖地とまで言われているのは噂でしかなかったのか。連勝して席を独占してしまい、なんとなく居心地悪い。

魅せ技の奥義を放って終幕。これで上出来だろう。一段落入れようと息を吐いたとき、肩に手が掛かった。

デューク「凄いな、やるじゃない。負けなしかー。キリも良さそうだし俺と一戦だけしようぜ」

時計を見ればそろそろ時間だった。何だかんだで私も楽しんでいたらしい。折角なのでお誘いも気分良く受けることにした。

デューク「ライオンか執事、どうするかなー」

嶺「確かミリタリーがお好きでしたよね?執事さん、元軍属だしいいんじゃないかと」
48: 運動してぇ・・・さらば ◆DPehMNPNeE:2012/9/4(火) 00:18:29 ID:NrJvnvsrcI
甲高い声の男「これぞ我等が望んだ光である」

通る声で、厳かに語りたい様子と見て取れるが、如何せん地声が地声だ。耳を抑えている人がちらほらといる。

甲高い声の男「新たなる扉の先へ向かう、先駆者となる君達に心から祝福と称賛を贈ろう。君達は宝だ、希望だ、灯だ」

甲高い声の男「私は、私でさえ諸君達の立場であったら、今回の挙には疑いを持ったであろう。だからこそ存分に楽しんでいって頂きたい、私が返せる全ての礼を込めて」

ぱらぱらと拍手が上がる。鷹揚に応える檀上の人物が主催者の雇われ、形式上の責任者といった立場になる朝香清文主任だ。

胸に輝くネームプレートには流星がこしらえてあり大変派手な為、名前はすんなりと頭に入った。

逸般人「せんせー、その眼鏡何処で売ってるんですか?」

朝香「ンフ、残念ながらコレは市販されていないのだよ。漢なら何かしらのこだわりを持つと宜しいですね」

檀上にいかにもステレオタイプのオタク風情の中年男性が上る。質問の主だ。やがて、質問に応じた朝香の眼鏡を勝手に触って笑みを浮かべ始めた。

朝香「往年の特撮ヒーローをイメージした品です。馴染むように作って貰うまでに大分苦労しました」

ニコニコと朝香が営業スマイルを被る中、眼鏡は終には外され、中年男性がその眼鏡を掛けてVサインを掲げてしまった。

逸般人「こ、れ、は、タマラン。いやあ、やりますなお主」

一触即発の雰囲気。パァンと軽い音が響き渡り、中年男性は鈍い音を立てながら前面に倒れた。
49: ゼーット!!サラバダーZ ◆DPehMNPNeE:2012/9/6(木) 07:39:49 ID:/PTBg9h5qI
更に混迷へと舵は切られる。急に視界が失われた。停電だ。袖からはスモークが噴出し、観覧者達の混乱は極致に達した。

程なく、瞬きが如くぱちぱちと点滅を繰り返した後に照明が復旧。檀上、スモークの陰にうっすらと人影が滲み出ている。

そして、先刻朝香が言及した往年の特撮ヒーロー。彼が現れるときのテーマソングが大音量で流れ出した。いや、生で歌われている。

仮面の男「この声、もしかして倒れた奴の声か」

黒タイツ「うむ、そのように感じるな」

安心と共に疑念が生まれた。多分コレは最初から想定内なのだろう。しかし、目的は一体何だ。

アニキ「ゼーット!!」

全ての人間が瞬時にどよめく。あまりにも耳に馴染んだ声、今この場にいる者で気付かないような人間はいまい。

世紀末救世主「アニキ・・・・・・」

セーラー服美熟女戦士「アニキだわ!?」

腕にフリスビーを付けた少年「アニキ!!!」

紙吹雪を引き連れて空からアニキが舞い降りた。マイクもなしに歌に入り、聞く者は声の張りにただただ圧倒されるばかりだ。

流石はアニソンの帝王と呼ばれる男である。抜群の知名度と歌唱力は伊達ではないという事か。

アフロ「このイベント、伊達じゃない」

サビに入り、熱が最高潮に高まった頃。スモークが晴れて中年男性扮する特撮ヒーローとアニキが肩を組む姿があらわになり、見事にサプライズは成功で始まった。

アニキ「ゼーット!!」
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