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私と私
[8] -25 -50 

1:🎏 ◆MEIDO...W.:2011/11/5(土) 23:37:52 ID:Kwo9hE/z3E
注意

この作品は前作、前々作との関係は全くありません。

だいたい一日二、三レスを目安にしています。


2:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/5(土) 23:38:22 ID:Ix/8/HR8zU
私こと大豆生田 真理(おおまみゅうだ まり)が彼女と同棲を始めたのは、私が大学に入ったばかりの春の頃だった。

私は故郷の田舎は嫌いではなかったが、都会への憧れが強く、都会の大学に入りたかった。なんとか、両親を説得し、今年都会の中堅大学に入ることが出来た。

彼女との話に入る前に、もう一つだけ話さねばならない。私は大学に入ってすぐの頃、とある人に助けてもらった。私はその人に恋をした。いわゆる一目惚れという奴だ。なんと単純な脳なのだろうか。その後、大学内でその人を見かけることはなかった。

しかし、私は諦められなかった。相手の素性もわからないのに、恋愛の神様に頼ることにしたのだ。今思うと、我ながら馬鹿だと思う。

そして、ここからが私と彼女の物語の始まりである。
3:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/5(土) 23:38:41 ID:Kwo9hE/z3E
ネットで縁結びの神社を調べてみると、思っていた以上に近場に存在していた。そのどれもが、駅から近く、綺麗で、全体的な評価が高かった。

しかし、私はそういう場所は好きではない。むしろ、駅から遠く、薄汚れて、人気の少なそうな神社の方が好きだ。これだけで私の捻くれ具合がよくわかる。

そして、一カ所見つけた。少しばかり遠いが、行けない距離ではない。

阿須面神社。響きはなんとなく悪いが、電車で二時間。駅から徒歩で一時間。さらに、一時間弱の山登り。そんな場所は当然、薄汚れて、人気がないに決まってる。こんなにもはまり役があって良いのだろうか。
4:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/5(土) 23:38:49 ID:Kwo9hE/z3E
休日を利用して、神社のある麓までやってきた。始発に乗ってきたのに、すでに太陽はだいぶ高いところにきている。

一応山道らしきものはあるのだが、手入れされていないようで、ほとんど獣道と変わりがない。山登りの準備を整えておいて正解だった。

なかなか大変そうだ。緑の山にチラッと赤い物が見える。おそらくは鳥居だろう。

直線距離は近そうだが、おそらくそんなに簡単にはいかないだろう。

腰ほどまである邪魔な髪を団子にしてから、草をかき分け、山へと入っていった。
5:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/6(日) 20:57:05 ID:m5A7HqHqoI
「ふぅー……」

やっと神社にたどり着いた。少し疲れたので、鳥居に寄りかかるようにして座った。リュックからスポーツドリンクを取り出して、二口ほど飲んだ。なんとなく体全体に染み渡るような感じがした。

「……よし、行こう」

立ち上がって、参道を歩いて社殿に向かった。神主や巫女さんなどの人の気配はない。それでも、参道には塵一つ墜ちていないと言って良いほど綺麗だった。誰かが管理をしているのだろうか。

そんなこんな考えているうちに社殿にたどり着いた。財布から二十五円取り出して、賽銭箱に放り込み、鈴を鳴らす。例の人と恋仲になれますようにとまでは欲張らず、親しくなれますようにとお願いした。
6:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/6(日) 20:57:25 ID:m5A7HqHqoI
こういう不思議な場所はなんとなくワクワクする。少しばかり色々見ていくのも面白いかもしれない。

「ねえ」

背後から女性の声が聞こえてきた。いないと思っていた巫女さんだろうか。

「あ、こんに……えっ」

振り向いて、挨拶しようとしたが、そんな言葉は驚きの言葉にかき消された。

そこにいたのは紅白の巫女さんなどではなく、灰色のロングスパッツに、白い長袖のスポーツシャツ、邪魔になるからと団子にした茶色の髪の『私』だ

「ドッペルゲンガーって信じる?」
7:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/6(日) 20:58:13 ID:O9oYtu06ZI
ドッペルゲンガーを信じるかと聞かれたら、答えは当然Yes。オカルトは好きだが、自分で体験するのは嫌いだ。だから今の状況は非常に嫌だ。

「どっち?」

『私』が私に問いかけてくる。唯一の違いはリュックを背負っているかどうか。非常に良く似ている。

「信じる……」

私の答えを聞いて、『私』は笑顔で「そう」と答えた。目の前の『私』がドッペルゲンガーだとしても、なにもこんな神聖な場所で会わなくても良いじゃないか。

「じゃあ、ドッペルゲンガーに会ったらどうなるかも?」

「知ってる……」

ドッペルゲンガーに会ったら。死ぬ。死に方には諸説あるが、とりあえず死ぬ。

命の危険を感じながら、私の頭をある考えが過ぎった。殺られる前に殺れ。なんとも物騒な考えだが、今はそれしか思いつかない。幸い、私の左ポケットに催涙スプレーが入っている。

「じゃあ……」

『私』が次の言葉を放った瞬間に、私は『私』との距離を一気に詰めた。呆気にとられていた『私』の目を狙って催涙スプレーを吹きかけた。

「痛い!何これ痛い!」

「私はまだ死なない!じゃあね!」

催涙スプレーを放り投げ、痛みに涙を流している『私』を放置して、阿須面神社から逃げ帰った。
8:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/8(火) 00:10:54 ID:uI2Wh2UJdg
「ドッペルゲンガー?」

私は小中高大とも同じもはや腐れ縁と言って良い親友のゆかりに昨日の出来事を嘘偽りなく話した。

笑われた。

「何で笑うのよ」

「あんたがオカルト好きなのは知っているけど、流石にそれはないわ」

ゆかりには何度かオカルト話はしたことはあるが、今回のように笑われたのは初めてだった。

「もう良い」

ゆかりの反応を見て、二度とこの話を人に聞かせるものかと固く誓った。
9:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/8(火) 00:11:01 ID:uI2Wh2UJdg
阿須面神社での出来事から数日経ったある日の夜。未だに例の人に会うことはない。ドッペルゲンガーという負の妖怪のせいで私の正の願いが打ち消されたのだろうか。そんな事を考えてみたが、すぐに馬鹿馬鹿しいと思った。

ちょうどうどんを茹で終えて、さあ食べようという時にインターフォンがなった。こんな時間に、しかもタイミング良く、いったい誰だ。

うどんの魔力に抗っているうちに二回目のインターフォンが鳴らされた。しょうがなく腰を上げて、玄関に向かった。
10:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/9(水) 00:13:03 ID:X69mGgi7ZY
「全く……どちらさんです?」

サンダルの上に絶妙なバランスで立って、ドアを開けた。開けると同時に何かを顔に吹きかけられた。そして、私の目に強烈な痛みが襲ってきた。吹きかけられたものは催涙スプレーだった。

「目が!目がぁぁぁぁぁぁ!」

視力を失った私は誰かに無理矢理横にされた。立ち上がろうとしたが、何か良くわからない力で両手両足が動かせなかった。扉が閉まる音の後、鍵をかけ、チェーンをかける音が聞こえた。私は目の痛みに耐えながら、色々な事が頭を過ぎった。

「見ーつけた」

私の耳元で、『私』の声が響いた。

「この前はよくもやってくれたわね。だから、復讐に来ちゃった……」

自分の声をこんなにも恐ろしいと思ったことはない。こんなにも冷たく、殺意の籠もった言葉は初めてだった。
11:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/9(水) 00:13:41 ID:X69mGgi7ZY
「な、何をする気?」

「さぁ?」

『私』はクスクスと笑った後、部屋に向かったと思ったら、すぐに戻ってきた。そして、私の上に座って、 何かをすすり始めた。

「私のうどん!」

「私のでもあるわ。だって、私はあなただもの」

私は空腹だと言うのに、なんと美味しそうな音をたてて食べるのだろうか。

「ごちそうさま」

そう言って、『私』はまだ熱を帯びている丼を私の額に乗せた。

「熱っ!意外と熱い!」

「あははははは!惨めー」

端から見たら、本当に惨めなのだろうが、今は額が熱くてしょうがない。額を動かして、丼を落とそうとしてみたが、微動だにしなかった。

「はぁー……笑ったわー……そろそろ良いかしら」

『私』がどいた所為だろう、急に体が軽くなった。私ってこんなにも重かったのか。少し痩せなければ。

『私』は指を鳴らしてから、部屋へと行ってしまった。

「あんにゃろー……あれ?動ける……」

私を押さえつけていたなんだかよくわからない力と催涙スプレーによる痛みはいつの間にか消えていた。

すぐに起き上がって、『私』を追って、部屋に向かった。
12:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/9(水) 00:13:50 ID:3MiYLEePlw
部屋の中央にあるテーブルの窓側に『私』が座っていた。

「いったい何の用なの」

私が『私』に問いかける。今気づいたが、『私』は神社に行った時の格好をしていた。

「復讐って言ったじゃない」
「ダウト」

『私』は嘘をついている。

「何故?」

「私は嘘をつくとき、左眉が動くらしいの。あなたの左眉もよーく動いているわ」

復讐は嘘だ。ならば、何の用なのだろうか。

「確かに復讐なんかどうでも良い。あなた邪魔なのよ」

嘘。

『私』は立ち上がって、私の目の前に歩いてきた。

「だから……死んで」

嘘。

と、思った瞬間に私は『私』に突き飛ばされ床に倒れた。立ち上がろうとしたが、すぐに馬のりされてしまった。そして、『私』の手が私の首を絞めてきた。手加減なしの本気の力だ。振りほどこうと手を動かそうとするが、再びよくわからない力に押さえつけられて、動かせない。

息が出来ない。霞む視界で狂ったように笑っている『私』が見える。こんな所で私は死ぬのか。もう意識が保たない。そして、視界がブラックアウトした。

13:🎏 名無しさん@読者の声:2011/11/9(水) 00:25:00 ID:33JmzoLJSE
面白いじゃないかw
早く完結させてくれ。一気にざっと読みたい←
14:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/10(木) 00:03:26 ID:O5X0CHOlqg
>>13
私は貴様を絶対に許さん……だが、ありがとうとだけ言っておこう。← ここからの展開は目も当てられないよ!




気づいたら、私はまだ見慣れない天井を布団に横になりながら見上げていた。自分で自分の脈を確かめて、生きているのを確認する。

「夢……?」

現に私は生きている。生きていて、布団で目を覚ました。つまりはあれは夢だ。あんな夢二度と見たくない。

携帯を開いて、時間を確認すると九時四十七分だった。ゆかりから何回か電話がかかってきていた。ゆかりに「さぼる」とだけ書いたメールを送って、携帯を閉じた。

布団から出て、朝食を作ろうと、隣の部屋へのドアを開けると、『私』がテレビを見ながら、プリンを食べていた。
15:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/10(木) 00:03:36 ID:iuXlfLsjlI
「あ、おはよー」

私はビックリして、思わずドアを閉めてしまった。二回ほど深呼吸してから再びドアを開けると、やはり『私』がいた。髪は下ろして、私の普段着を着ていた。

「な、なんで!なんでいるのよ!」

「なんでって……私の家だし……」

『私』は不思議そうな顔で私の顔を見ていた。自分の顔だが、無性にビンタしてやりたくなった。

「ここは!私の家!」

「だから、私はあなただって言ってるじゃない」

そう言って、私が楽しみに取っておいたプリンを『私』が平らげた。本当にはった押したくなった。

「ねえ、話があるから座ってよ」

「はぁ?私には無いわよ!さっさと出ていきなさいよ!」

『私』は大きなため息をついた。ため息をつきたいのは私だ。

「『黙れ』そして、『座れ』」

『私』から大きな威圧を感じたかと思うと、私の口は開かず、いつの間にかその場に正座していた。

「悪いが無理矢理大人しくさせてもらったぞ。全く……いったい儂にどれだけ力を使わせる気じゃ」

『私』が再びため息をついた後、声は私のものでも、口調は私のものではなかった。一人称からして違うし。
16:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/10(木) 23:49:58 ID:svXBI68Hng
「良く聞くのじゃ。儂は阿須面神社に祭られている神。名は阿須面。色欲の阿須面じゃ!」

おかしいな。私は恋愛の神様に頼ったはずなのに、色欲の神様が来ちゃったよ。

「何故そんな格好しているのかと聞きたそうな顔じゃな」

いや、そんな事思ってません。まあ、確かに気になっていたが。

「神社があんな所にあるから暇でのぉ。そう言う力があるから、副業でドッペルゲンガーをやっているのじゃ」

そんな傍迷惑な副業やめてください。お願いします。現に私が困っている。というか、ドッペルゲンガーは副業で出来るものなのだろうか。

「で、どうせ暇じゃから、副業ついでにお主の願いも叶えてやる事にしたのじゃ」

なんと適当な神様だろうか。というか、色欲の神様がどうやって私の願いを叶えるのだろうか。

「儂の話はだいたいそんな感じじゃ。何か質問はあるかのぅ?」

そう言って、阿須面が指を鳴らすと、口が開けるようになった。
17:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/10(木) 23:50:05 ID:svXBI68Hng
「あなたが神様だってのはわかった。だから、一回ビンタさせて」

「何故じゃ!儂はお主を……」

阿須面の台詞など気にせずに思いっきり左頬をビンタしてやった。パーではなく、グーでビンタしたのは文字通り手違いという奴だ。

「おのれ!やりおったな!」

「私も昨日の復讐しただけよ。後、プリンの恨み」

どちらかと言うと、プリンの恨みが主だ。

「だいたい、なんで首絞められなくちゃならなかったのよ。本当に死ぬかと思ったわ」

阿須面が左頬を押さえながら、少し涙目になっていた。

「あ、あれはお主の記憶を手に入れるのにお主の意識が邪魔だったのじゃ」

「もっとマシな方法あったでしょ」

「じゃあ、儂が寝てくださいと言ったらお主は寝たか?」

「寝ない」

誰があんな状況で寝るものか。つまりは、マシな方法は無いようだ。

「だから、儂はああしたんじゃ。とりあえず、どういう男を探しているかは見せてもらったぞ。探すのはまかせるのじゃ」
18:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/11(金) 23:57:57 ID:X/e8SDb5uw
「おお、忘れるところじゃった。儂がこんな口調で喋る時は、神の仕事中」

そう言って、阿須面は咳払いをした。

「で、私がこういう口調の時は、ドッペルゲンガーの仕事中。わかった?普段はこっちね」

「わかったけど、わかりたくない」

普段はと言っている時点でこいつは居候するつもりだ。勘弁してほしい。高い酒と鯛を備えるから居候はやめてください。

「わかってると思うけど、しばらくは厄介になるわ」

考えたくないが、ただでさえ逼迫しているというのに食費が二倍になるわけだ。これが恋の代償か。

とりあえず、お腹が空いたので、うどんを茹でることにした。
19:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/11(金) 23:58:52 ID:QsZCryh2P.
「ねえ」

「何?」

『私』が読んでいる漫画から顔をあげずに、返事をした。

「テレビつけて」

主電源が切れていたので、リモコンでテレビをつけられなかった。

「やだ」

こいつ、テレビの前で横になってるクセになんと腰が重いのだろうか。

「ケチ」

しょうがなくうどんを啜るのをやめて、自分でテレビをつけた。わざと『私』を踏むのも忘れずに。

「私の悪口を言うのは結構だけど、全部あなたの事だっての忘れないでよ。この状態の時は性格とかも完全にあなたなんだから」

「私はもっと腰が軽い。あんたが軽いのは尻だけ」

返事は帰ってこなかった。

20:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/12(土) 23:39:43 ID:MD.Og/oBiw
「昼じゃ。腹が減った」

「私は減ってない」

私はさっき阿須面が読んでいた漫画を床に寝っ転がりながら読んでいた。

「それに居候に食わせるほど余裕ない」

阿須面に漫画を引ったくられた。せっかくの良いところなのに。

「別に私は人間の飯など必要無いわ。必要なのは精気じゃ」

「精気?」

上半身だけ起こして、阿須面の持っている漫画を取ろうとしたが、目一杯腕を上げられた。

「そう。人間ならば誰でも体液に含まれておる。さて、問題じゃ。一番精気を含んでる体液は何か?」

「んーと……精[自主規制]?」

考えてみたが、卑猥な体液しか思いつかなかった。

「……あっはっはっはっはっ!言うとは思ったが、本当に答えおった!あははははは!」

なんか笑われた。非常にムカつく。もう一度ビンタしてみようかな。

「正解はリンパ液じゃ。精[自主規制]など考えたら負けじゃ」

必死で笑いをこらえながら、答えを教えてくれた。
21:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/12(土) 23:39:52 ID:qf2Xyjydl2
「早速、リンパ液をくれ」

「やだ」

食費が変わらないのは嬉しいが、なんだか非常に馬鹿にされているみたいで、ムカつくから断る。

「だいたいリンパ液だけで生きていけるなら、なんで私のうどんとプリン食べたのよ」

「儂かて小腹が空くのじゃ」

それはそれで迷惑だ。結局、少なからず食費を圧迫するじゃないか。だが、リンパ液はやらん。

「ならば、お主に選択肢をやろう。一つ目は大人しく儂に精気を捧げる。二つ目は無理矢理精気をとられる。さあ、どっちじゃ?」

「あらが……」

「おっと、儂としたことが大事なことを伝え忘れておった」

抗うと言おうとしたのを、阿須面が遮った。

「精気を貰えないのは儂の命にも関わるからのぉ。だから、もし断られたりなんかしたら、ちょっと手が滑って、お主を万年発情期にしてしまうかもしれんのぉ」

まさかの直球の脅し。そう言えば、色欲の神様だったの忘れてた。私の顔してなんと恐ろしい事を言うんだ。私をアダルト分野に進出させる気か。

「はぁ……わかったわよ」

私だってアダルト分野になんか進出したくないから、大人しく脅しに屈する事にした。

22:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/13(日) 23:52:45 ID:29JW/UwDGk
「立って。そして、手を腰の高さで床と平行にして」

いつの間にか口調が私のに戻っていた。めんどくさいが、言われたとおりにした。

「ありがと」

そう言って、『私』は跪いて、猫のように頭を丸めて、私の右手の人差し指を舐め始めた。振り払おうとしたが、『私』がもの凄い力で手を動かないように押さえつけてきた。

「ちょっ!何やってんのよ!」

ただ吸われるだけだと思っていたので、指を舐められるとは思ってなかった。

「雰囲気よ雰囲気」

『私』は私の右手を優しく、それでも私が振り払えないように握り、舌で人差し指を舐め回す。正直嫌悪感を感じる。

「不満そうね」

「当たり前でしょ」

自分が自分の指を舐めているのを見て満足出来る奴なんていないだろう。

「なら、指を舐めるだけで感じるようにしてあげようか?」

『私』は人差し指を舐めながら、クスクス笑っていた。

「寝言は寝て言え」

私は左手で『私』の額にデコピンを食らわせた。

「いつでも言ってね」

そして、『私』は人差し指を根元まで口に咥えた。そして、人差し指を出し入れしながらさらに舐め始めた。しばらくして舌の動きが止まったと思った途端に、人差し指を咥えたまま吸い始めた。吸われる度に私の中から何かをとられているのがわかった。人差し指を口に含んだまま、『私』は何かを飲み込んだ。

「ごちそうさま」

ものの数分で私の人差し指は『私』の唾液でベトベトになった。私の手が解放されたので、すぐさま洗面所に手を洗いに行った。
23:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/13(日) 23:54:51 ID:29JW/UwDGk
「ねえ、あれ毎回やるつもり?」

「まあ、そのつもりだけど」

ただでさえ、同じ人間が二人うるという見られたらヤバい状況なのに、何故跪いて指をしゃぶるというさらなる危険を犯さないといけないのだろうか。

「別にただ吸う事も出来るけど……」

「出来るならそうしなさいよ」

「味気ないの。あんたが私を受け入れ、発情すればするほど上手くなるの。ただ吸うだけだと、お湯を飲んでいるような感じなの」

あ、こいつ今私に喧嘩売ってきた。こいつ今月の食事事情知らないな。お湯飲んで腹が膨れるなら、私は喜んで飲んでやる。

「さっきは何の味がした?」

「うどん……?」

当たり前だ。ここ最近うどんしか食べていない不健康のかたまりだからな。しばらくは一緒にうどん生活をしてもらおう。ちなみに私は香川県民ではない。
24:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/15(火) 23:50:17 ID:oaV8sFVAmA
「阿須面」

「何じゃ?」

阿須面は海外の大ベストセラーのファンタジー小説を読みながら、返事をした。

「あなた色欲の神様なのよね?じゃあ、どうやって私の恋を叶えるつもり?」

阿須面は顔を上げずに話し始めた。

「三通りある。まず、お主等に既成事実を作らせる。まあ、無理矢理交わってもらう方法じゃな」

一度病院で頭を見てもらった方が良いだろう。却下だ。

「次に、儂がお主の代わりに男と付き合い、程良いところで入れ替わる。内気な者などにオススメじゃ」


私は内気ではないから却下。

「最後に、お主と男が頑張る」

阿須面いらない子になった。この選択肢は阿須面は関係あるのだろうか。

「この場合、儂は徹底して裏方に回ろう」

「一番最後」

「了解じゃ」

結局、阿須面は顔を上げないまま会話が終了した。

その日は結局一歩も外に出ることなく一日が終わった。
25:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/15(火) 23:50:47 ID:OXmxEE5H02
翌日、特に変わった事もなく大学での授業を終え、いざ帰ろうとしたところをゆかりに捕まり、そのまま喫茶店にまで連れて行かれた。お金は私持ちだった。

「飲まないの?」

ゆかりはクッキーを一口かじってから、紅茶を流し込んだ。

「うどん生活の過酷さを教えてあげようか?」

当然私には優雅にクッキーを食べて、紅茶を飲む余裕はないので、何も頼んでいない。

「もしかして、まだ続けてるの?」

「もちろん」

「あんた馬鹿?使わない物集めて、食費を圧迫するなんて、馬鹿の極みね」

「なんなら語ってあげましょうか?小一時間ほど」

食費圧迫の原因の一つは私の収集癖だ。私は文房具を集めるのが小学生の頃から好きだった。最近は一般の文房具だけではなく、美術用の文房具にまで手を出し始めた。この前買ったのは、製図用コンパス。五千円強。これを見せた時には二歩引かれた。

「やめてよ。私はあんたほど変な趣味はないの」

よく言う。ゆかりだって人形の収集癖があるのに。ゆかりの部屋は気持ち悪い位に人形で溢れていると言うのに。
26:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/15(火) 23:50:58 ID:oaV8sFVAmA
「とりあえず、この紅茶とクッキーは情報料ね」

「何かしらの情報があるならさっさと言いなさいよ」

「わかってるって。昨日、あんたの思い人らしき人見かけたわ」

それを早く言ってくれれば、もっと気前よくおごったと言うのに。

「あんたの言うとおり、黒のショート、カッターシャツ、赤いネクタイ、黒いズボンだったから多分間違いないわ」

ゆかりは手に持ったクッキーを口に放り込み、また紅茶を一口飲んだ。

「どこ!どこで!」

私はそれを聞いて、思わず立ち上がってしまった。

「図書館。たまたま忘れ物を取りに行った時に出て来たの」

なるほど。あそこには個別の自習スペースがある。どうりで見つからないわけだ。

「情報ありがとう。私先帰るね」

「あ、ちょっと!」

テーブルに紅茶もう一杯分のお金を置いて、喫茶店を後にした。

27:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/17(木) 06:47:44 ID:qWiM/K5756
「ただいまー」

「おかえりー」

同じ声で返事が返ってきた。そうか、今は一人じゃないのか。

「飯を食わせてくれ。こっちは昼も食っておらんのじゃ」

部屋に入っていきなりそんな言葉が飛んできた。普通なら嫌がるだろうが、今は気分が良い。

「阿須面、今日は私を発情させて良いわよ」

「な、なんじゃ急に。気色悪いのぉ。まあ、言われたとおりにしてやるがの」

気色悪いと言われたが、気にしない。阿須面が指を鳴らした途端、体が熱くなるのを感じた。

「とりあえず軽めにしておいたぞ。いただきます」
28:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/17(木) 06:48:02 ID:qWiM/K5756
「ごちそうさま」

絶頂に達したというわけではないが、なんとなく気持ち良い。なんとなくまた味わいたい様な気持ちよさだ。

「お主にそれを覚えられると面倒じゃ」

阿須面が指を鳴らすと同時に、私の思考はピンク色から普通の色に戻された。

「私何やってるんだろう……」

止まらずに青色まで行ったように、ちょっとした後悔に襲われた。

「それを聞きたいのはこっちじゃ」

私は阿須面にさっき得た情報を伝えた。
29:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/17(木) 06:48:09 ID:0YxcWEDMGI
「なるほど。手がかりを得たか」

私は俯いたまま、阿須面が煎れてくれたお茶を啜った。

「あんなに嫌がっておったのに、急に発情させてなど言うから心配したぞ」

「ありがとう。もう大丈夫」

一応、ショックというか後悔からは立ち直れている。まあ、若気の至りという奴だろう。今日はもう寝よう。
30:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/17(木) 23:26:47 ID:bYbkJjNr/E
「おはよ」

「おはよ」

『私』と生活し始めてまだ三日目なのだが、なんとなくもう一人の自分がいるという状態に慣れてきた。慣れって怖い。

「うどん作ってあるよ」

さすが『私』だ。何を食べたいかわかるようだ。まあ、冷蔵庫には大量のうどんとネギ、野菜ジュースにめんつゆと調味料程度しか入っていないのだが。うどん以外食べようがない。

「ありがとう」

私の母もうどんなんか仕送りしないで、野菜の一つや二つ送っても良いと思う。そろそろ栄養失調起こすぞ。

「おいしい……」

ただ茹でただけなのになんでおいしいのだろうか。というか、そろそろ私の体もうどんを拒否しろ。

私の収集癖が悪いなんて誰にも言わせない。
31:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/17(木) 23:27:12 ID:bYbkJjNr/E
「真理」

「何?」

阿須面がそろそろ大学に行こうと準備をし始めたときに話しかけてきた。

「お主、うどん以外食べておるか?」

「食べてない」

昼も二百三十円の素うどん並盛りです。店のおじさんとはすっかり顔馴染みになった。

「そうか……ちょっと儂は出かけてくるぞ」

「ああ、いってらっしゃい」

私の言葉を聞いて、阿須面はさっさと出て行った。

「……私なんで送り出してるのよ!ちょっと!阿須面!」

部屋からちょうど阿須面が出て行く様子が見えた。すぐに走って追いかけたが、阿須面はいなかった。

私は馬鹿だ。何故、こうも簡単に私のドッペルゲンガーを街中に解き放ったのだろうか。信用してないわけではないが、少し不安だ。

そんなこと考えていると、遅刻しそうなので、私は思考を切り替えて、さっさと準備をして、急いで大学へと向かった。
32:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/19(土) 23:26:34 ID:a/d3N7/7Ow
講義が終わり、早速図書館に向かった。学生証を提示して、入り口のセキュリティーを難なく通過する。目的の自習スペースに向かって見ると、結構な数の人がすでにいた。例え名前を知っていたとしても、図書館で大声を出すわけにはいかない。こればかりは虱潰しに探していくしかない。

その日は結局見つからなかった。
33:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/19(土) 23:26:55 ID:CWEklJ2PMs
「ただいまー」

「おかえり」

阿須面はすでに帰ってきていた。


「どこ行ってたのよ」

「ちょっと知り合いの所に」
阿須面は例のファンタジー小説の四作目を読んだまま返事をした。

「私の姿で変なことしてないでしょうね」

「ん?してないから安心せい」

良かった。それだけが本当に心配だった。

座って、テレビを見ようとしたときにインターフォンがなった。
34:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/19(土) 23:27:03 ID:CWEklJ2PMs
「はいはい、どちらさん?」

サンダルの上と阿須面のと思われる運動靴を踏んで、ドアを開けた。

「こんに……」

私は相手の顔を見てすぐにドアを閉めて、鍵をかけて、チェーンをかけた。

「えっ、ちょっと!大豆生田さん!大豆生田さん!開けてください!」

ドアを叩く音なんか聞こえない。何にも聞こえない。私は何も見てないし、何も聞いていない。阿須面以外の『私』の登場なんて認めない。

35:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/21(月) 23:15:40 ID:OqXv9TpU5w
「すいませんでした!」

「……ごめんなさい」

私は『私』に頭を下げていた。いや、阿須面に無理矢理下げさせられたの方が正しい。ちょっと待て。この図は明らかにおかしい。何故、本物の私が偽物の『私』に謝らなければならないのだろうか。

「頭を上げてください」

その言葉で、私の頭を押さえつけていた阿須面の手が退かされた。

「ねえ、阿須面。誰こいつ」
私は思ったままの事を阿須面にぶつけてみたら、阿須面は急に血相を変えた。

「ば、馬鹿者!このお方をどなたと心得る!『ダブルウォーカー』、『影』、『もう一人の僕』、『悲しい恋心』、『祖なる者』などの二つ名で知られるリーベ・D・ティーフとはこのお方なるぞ!」

いや、知るわけない。というか、二個変なの入ってたし。

「阿須面さん、大袈裟ですよ。本来なら立てるべきは阿須面さんで、私じゃないですよ」

リーベは擽ったそうに笑っている。容姿こそ私なのだが、私はこんなに謙虚じゃない。私の性格を良くしたらこんな風になるのだろうか。

「あー……リーベさん?ティーフさん?まあ良いや。名前はわかったんだけど、普段何やってる人?」

阿須面も阿須面だ。もっとわかりやすい説明の仕方があるだろう。まあ、だいたいわかるけどさ。

「えっ、ああ、はい。主婦です」

これは驚いた。確かに左手の薬指に指輪があった。

「ふーん……あなたも阿須面と同じく、副業なの?」

「いえ、私は種族からしてドッペルゲンガーです」

あ、死んだ。今死んだ。さようなら私の今後の人生。
36:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/21(月) 23:15:58 ID:5tYfNPQVjY
「安心してください。真理さんは死にませんから。阿須面さん、説明お願いしてもよろしいですか?」

なんとなく生きた心地がしない。まだ首に刃物をあてがわれている感じがしてならない。

「任せろ。まずは、先入観を壊すぞ。種族としてのドッペルゲンガーはその人に変身して、現れることはまずない。彼女達は失恋したばかりの男の下に現れ、振られた女に変身し、その男の理想の女として付き合うのじゃ。その際、彼女達は男に本当に恋をしておる」

なるほど、それで悲しい恋心か。愛してくれているが、本当の愛はもらえない。なんとも辛い種族だ。

「さらに面白い事に、彼女達と本物が出会ってしまった場合、本物もドッペルゲンガーになるのじゃ。『祖なる者』つまり、彼女が一番最初のドッペルゲンガーじゃ」

あれ?なんか今死の宣告された気がしてならない。私は死なないけど、ドッペルゲンガーになるの?

「大丈夫ですよ。仲間に変えるかどうか自分の意志で出来るレベルにいますから」

安心した。と、同時にこの人は絶対に怒らせてはいけないと理解した。私は出来れば人間として一生を終えたい。
37:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/21(月) 23:16:11 ID:5tYfNPQVjY
「次に儂らのような副業としてのドッペルゲンガーは、ドッペルゲンガーの一般的なイメージを保つ為にいるのじゃ。それで儂らはリーベに雇われておる。まあ、中には勝手に成り変わる奴がおるがの」

「なんでそんなのが必要なの?」

何故そんなことをしてまで、ドッペルゲンガーのイメージを保とうとするのだろうか。私には良くわからない。

「それは私が。考えてみてください。ついさっき振った人が態度を変えて、好きですって言ってくるんですよ?怪しいと思いませんか?それでもなんとか結ばれるのは、それが本来のドッペルゲンガーだと知らないからです。もし、知っていたなら、相手にもされないでしょう」

リーベさんは悲しそうな顔をしていた。妖怪の世界も色々複雑らしい。
38:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/23(水) 00:25:57 ID:KdRzS59wow
「わかったんだけど、もう一個良い?なんでそんなドッペルゲンガー界のドンみたいな人が来たの?」

例えるなら、私の家にいきなり大統領が来るようなものだろう。

「その……阿須面さんが給料前借りしたいって頼んできたので」

何て事を頼んでるんだ。

「真理さんにせめて野菜を食べさせるって言っていたので、それならばおすそ分けしようと思って」

「べ、別に儂は……そろそろうどん味に飽きてきただけじゃ」

阿須面は少し頬を赤く染めて、顔を逸らした。なんだツンデレだったのか。

「私はそろそろ失礼します。野菜はダンボールに入って玄関に置いておきますから。お邪魔しました」

そう言って、リーベさんは部屋を出て行った。なんと親切な人だろうか。親切な私なんて想像出来ない。

その日の晩ご飯は、サラダうどんをおいしくいただいた。阿須面は少し涙目だったが、なに気にすることはない。
39:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/23(水) 00:26:15 ID:KdRzS59wow
うちの大学の図書館は何気に三階まであるため、それを何回か往復したせいでかなり疲れた。だから、今回は待つことにした。ちょうど出入り口近くには読書スペースがあるからそこで本を読みながら待つことにしよう。

見事に読みふけりました。
40:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/23(水) 00:26:46 ID:KdRzS59wow
「お、お主は!せっかくの野菜を全てサラダうどんにするつもりか!させん!させんぞ!」

阿須面が色々喚きながら、冷蔵庫にしがみついた。無理やり引き剥がそうかと思ったが、めんどくさい。

私は阿須面の眉間に人差し指を向けた。その瞬間、阿須面の顔が見るからに苦しそうになった。

「く、屈しぬ!屈しぬぞ!」

私はただ人差し指を向けるだけの簡単な作業をするだけだ。

「どきます!どきますから許してください!」

私が人差し指を向けて、一分も経たぬうちに阿須面は冷蔵庫から離れた。やはり私と弱点は同じようだ。

「安心しなさい。今日は鍋よ」

せっかくたくさん野菜をもらったし、季節は合わないが鍋にする。それを聞いた瞬間、阿須面の顔がパッと明るくなった。当然、締めはうどんだが。
41:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/24(木) 23:38:54 ID:m4Uz9RrgRI
風邪をひいてしまった。熱は八度五分。あまり柔らかくない布団に入りながら、ただただ見慣れない天井がだんだん見慣れた天井に変わっていくだけで、やることがない。

「普段から野菜を食べないからそうなるのよ」

『私』が私の頭に載せた濡れタオルを取り替えてくれた。

「うるさい……」

喉が痛くて、かすれた声がでるばかりだ。これでは私が一方的に罵倒されるだけじゃないか。

「まあ、とにかく、大人しく寝てなさい」

私がもう一人いるってかなり便利かもしれない。特に今のような状況。一人が寝込めば、もう一人が看病する。逆もまた然り。

とりあえずやることがないないので寝ることにした。
42:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/24(木) 23:39:12 ID:m4Uz9RrgRI
携帯のバイブで目が覚めた。携帯をとる前にふと外を見てみると、完全に夜だった。とりあえず、携帯が五月蠅いので、さっさと開いてみるとゆかりからの電話だった。

「もしもし……?」

「うわ、酷い声!」

うるさい。私はそっと音量を下げた。

「何の用……?」

「お見舞いにでも行こうかなって思って」

「別に良いよ……」

まず、私が二人いるという事を知られたくない。

「それは無理な話」

インターフォンの音が聞こえてきた。まさか……

「もう家の前にいるから」
43:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/27(日) 00:08:00 ID:VtaVdMdf4E
「ね、ねえ、真理。これ誰?あ、あんた双子だった?」

ゆかりは『私』を指差して、少し震えた声で言った。

「私?私は大豆生田真理だよ。ゆかりは良く知ってるでしょ?」

『私』は遊び始めたようだ。ゆかりは完全にビビってる。面白いのでこのまま見ておこう。

「ま、真理はこっちの熱を出して寝てる方よ」

「本当に?そっちが偽物かもしれない。もしかしたら両方偽物かもしれないのに?」

まあ、両方偽物も可能か。実際に私が三人いたことあったし。

「ほ、本当よ!私と真理の腐れ縁舐めるなよ!」

「ほぅ……で、どうなの私?」

私に振らないでいただきたい。この流れはもうあの選択肢しかないような気がする。

「はずれ……そっちが本物……」

「えっ」

「酷い……私とゆかりの仲はこんな程度だったなんて……」

『私』がわざとらしく泣き真似を始めた。対するゆかりはただオロオロしながら私と『私』を交互に見ていた。

「嘘よ……私が本物……」

そろそろかわいそうになったので、ネタバラしをしてあげた。何故か抱きつかれた。
44:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/27(日) 00:08:20 ID:VtaVdMdf4E
「あんたのドッペルゲンガーがピンピンしてるなら、ドッペルゲンガーに大学行かせれば良いじゃない」

確かにそれはちょっと考えたが、なんとなく不安だ。それに、私一人で無事過ごせるのかというのもある。

「テストも近いわけだし」

「えっ……初耳……」

聞いていないぞそんなこと。だが、ゆかりが嘘ついてるようにも思えない。

「でしょ?だから、行かせるべきじゃないの?私とあんたじゃとってる講義も違うし」

これはやむ終えないだろう。風邪をひいた自分が憎い。
45:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/27(日) 00:08:45 ID:VtaVdMdf4E
「それじゃあ、行ってくるね」

『私』は元気良く出て行った。対する私はまだ元気とは言えない。明日、最悪の場合は明明後日までは私は安静だろう。

しかし、まあ静かなものだ。ただ時計の秒針の音だけが聞こえる。私はこんな静かな所で生活していたのか。なんとも寂しい気がする。

とにかく寝よう。寝てさっさと風邪を治そう。
46:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/28(月) 00:22:21 ID:YvGSKaKD7o
「ビックニュースビックニュース!」

『私』が帰ってくるなりいきなり大声を出しながら部屋に入ってきた。

「明日、例の人と会う事になりました!」

「ほ、本当に?」

「もちろん!」

『私』は力強く頷いた。それを聞いたらおちおち寝ていられない。なんとなくもう風邪が治っている気がする。いや、治っている。絶対に私が会うんだ。
47:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/28(月) 00:22:37 ID:YvGSKaKD7o
「ねえ、変なところない?」

熱もすっかり下がって、今日からまた大学へと行くことになった。『私』が言うには、例の人と会うことになっている。別に普段と服装は変わらないが、妙に気になってしまう。

「大丈夫。病み上がりだからあまり無理しないでよ。また私の仕事が増えるから」

家を出るときに、『私』が軽く肩を押してくれた。少しだけ、自信がもらったような気がする。
48:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/28(月) 00:24:15 ID:YvGSKaKD7o
講義は黒板に書き足されていく謎の呪文を書き写しているうちに、終わってしまった。

約束の時間は四時。場所は図書館前。現在時刻、三時四十二分三十一秒。現在地、図書館前。少し早く来すぎてしまった。

会って何を話せば良いのだろうか。ふと、そんな考えが頭をよぎった。私はただ会うことだけしか考えていなかった。

天気は平凡すぎる。かといって、いきなり趣味の話は飛びすぎてる。いったい何の話をすれば良いんだ!

「大豆生田……さん?」
49:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/28(月) 00:24:30 ID:YvGSKaKD7o
「は、はい!」

いつの間にか、例の人が私の目の前にいた。現在時刻、三時五十三分五十秒。信じられないがいつの間にか十分経っていた。

「昨日はどうも」

待て。まあ、待て。落ち着け私。私昨日何があったか聞いてない!

「ああ、はい。どうも」

「昨日は楽しかったよ。久しぶりにあんな面白い話を聞いたよ」

あいつ何話したんだ。というか私にそんな話術はもネタもない。

「今日は何の用?」

「えっ、あー……付き合ってください」

「えっ」

「……違います!違います!間違えました!いや、間違ってないけど、間違いです!」

私は何を言っているんだ。パニクるな私。落ち着け私。

「ハハハ、僕も何回か告白された事があるけど、会って二回目で告白は初めてだよ」

ものすごく恥ずかしい。今すぐ逃げ出したい。

「あ、あの!メールアドレス教えてください!」

「ん?良いよ。こんな面白い人はそうそういないしね」

やった。今ものすごく歓喜の声をあげたい。さすがにいきなり叫んだら引かれるだろうから、抑えたけど。

その後、二時間近く話しに耽ってしまった。

50:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/29(火) 00:04:17 ID:u154Dzic7I
「ただいまー」

おかえりとは返ってこなかった。そればかりか、部屋の明かりがついていなかった。

「いないのー?」

部屋の明かりをつけてみたが、人の気配を全く感じない。

「出かけてるのかな……」

このまま阿須面が帰ってこないのではないかと、少しだけ不安だった。

部屋が静かで、広いのを実感すると、やはり寂しさがこみ上げてくる。

少しでも寂しさを紛らわそうと、テレビのリモコンを手にとって時に、ティッシュ箱の下に何かおいてあることに気がついた。

「何これ?」

『儂の役目は終わった。さらばだ。阿須面』

小さな紙にはそれだけしか書かれていなかった。それをそのままビリビリに破いて、ゴミ箱に捨てた。別に別れが悲しいとかそんなわけじゃない。

「……もしもし?ゆかり?」

私は電話をかけながら、家を飛び出した。
51:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/29(火) 00:04:24 ID:u154Dzic7I
夜の十一時過ぎに、私は阿須面神社にたどり着いた。電車代が足り無かったから、ゆかりの所に行った所為で少し到着が遅れた。

月明かりだけが、境内を照らしていた。普段だったら、ビビってこれ以上進まないが、今の私に恐れるものなど何もない。

「阿須面!出てきなさい!いるんでしょ!」

境内に虚しく言葉が響いただけで、なんの変化も起こらなかった。

「まさか、賽銭入れないと出てこないとかじゃないでしょうね」

賽銭箱に五円を放り込んで、これでもかという位に鈴を鳴らして、しっかり二礼二拍手一礼してやった。何の変化も起こらなかった。。

とりあえず、もう夜も遅いし、社殿の中で寝よう。四泊でも五泊でもしてやる。
52:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/29(火) 23:51:27 ID:9IAOdG2/VE
神社で目を覚ますのはこれで二回目だ。いちおう、賽銭を入れているが、特に何の変化もない。

何故かはわからないが、社殿には社殿の居間にテレビがあり、しかも映る。台所にあったお茶を飲みながら、時間を潰している。テレビがつまらない時は境内を掃除ついでに色々漁ってる。

そういえば、ここの神社は非常に綺麗だが、もしかして私の様な奴に掃除させているのではないだろうか。まあ、無いだろう。
53:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/29(火) 23:51:38 ID:9IAOdG2/VE
そして次の日の朝。拝借した布団で寝ている所を、無理矢理布団を奪い取られた。

「これは………団……」

聞き覚えのある声がするが、まだ意識がはっきりしない所為かよく聞こえない。
「それ………も、何……こに?」

まだぼんやりしている頭を思い切り左右に振って、ボーッとしている意識を連れ戻す。

目の前に『私』がいた。ずっと探し回ってやっと見つけた。

「あー……」

頭の中では色々な考えが纏まっているのだが、言葉として、出すことが出来ない。

「何か言いたそうじゃな」

「ちょっと後ろ向いて」

阿須面は頭に疑問符を浮かべながらも、私に背中を見せてくれた。

私は阿須面の腰に手を回して、精一杯の力で持ち上げ、さっきまで私が寝ていた布団に向かってジャーマンスープレックスを決めた。
54:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/30(水) 23:54:27 ID:9uEahCTKxM
「はっ!仕事が終わったら、挨拶なしに帰った罰よ!」

いくら布団がクッションになっているからと言え、結構痛いだろう。

「そ、それはすまんかった……」

阿須面は後頭部を押さえながら、ゆっくり起き上がった。

「で、どこに雲隠れしてたのよ」

「実家じゃ。無理矢理連れ戻されての。逃げてきたんじゃ。まあ、家庭の事情という奴じゃ」

神様というのも色々大変そうだ。違う。私はそんな事を言いに来たんじゃない。

「阿須面、あんた見ていると、たまにすごいムカつく時があった。けど、これが私なんだって思った。私の願いを叶えるだけじゃなくて、私の悪い所を客観的に見ることも出来た。その……なんだ……ありがとう」
これを言うためだけに、ここに来たのだ。言った後に急に恥ずかしくなってきた。

「わ、儂は自分の為にやったまでじゃ」

阿須面も恥ずかしそうに頭を掻いている。私もきっとこんな顔しているのだろう。

「短い間だったけど、楽しかった。……さようなら」

「ああ……」

もともと多くない荷物をまとめ、お互いに軽い挨拶を交わして、私は神社を後にした。
55:🎏
◆MEIDO...W.:2011/12/1(木) 23:14:55 ID:XIAVTAtKm2
「ただいま……」

部屋の電気をつけて、背負っていたリュックを壁に立てかけてから、ソファに体を預ける。二、三回深呼吸した後、キッチンに向かい、鍋でお湯を沸かす。野菜は少しだけ残っていたが、それには目もくれずにうどんを取り出して、冷蔵庫の扉を閉める。お湯が沸くのを待つ間に、テーブルを拭いて、丼を用意して、めんつゆを入れ、お湯で割る。そして、沸騰したお湯にうどんと少量の塩を加えて、待つ。うどんが茹で上がったら、水で洗って、しっかり水切りをする。そして、それを丼に入れて、素うどんの完成だ。
56:🎏
◆MEIDO...W.:2011/12/1(木) 23:15:13 ID:qIymICtQKA
作ったのは良いのだが、なんとなく食べるのが躊躇われた。食べようとする直前に、インターフォンが鳴って、また阿須面が戻ってくるのではないかという淡い希望が失われるのが怖かった。というか、私がこんなに別れにショックを受けているのに驚きだった。

しかし、何故か急に考えが変わった。これを食べて、淡い希望を捨てることが、私がこれから生活するために必要なのではないだろうか。そして、少しだけ冷たくなった素うどんを一気に食べた。
57:🎏
◆MEIDO...W.:2011/12/1(木) 23:15:27 ID:XIAVTAtKm2
鏡を見ながら、髪は跳ねていないか、化粧は変じゃないかを確認してから、朝の星座占いの途中でテレビの電源を消す。

そして、ブーツを履きながら、携帯で時間を確認してから、鞄を持ってドアを開けた。

「行ってきます」

私が私に見送られる。

「行ってらっしゃい」

私が私を見送った。最近まで良くあったことだ。

さて、今日も頑張ろう。
58:🎏
◆MEIDO...W.:2011/12/1(木) 23:22:40 ID:SWTCEKXycc
あとがき

どうも、ストーリーと落ちの酷さに定評のあるメイドです。

今回はドッペルゲンガー?を書いてみました。まあ、ただシーンが浮かんだから書き進めただけなんですがね。

だから、何か書くことがあるのかと言われると、何もないと答えるしかないんだ。

とりあえず、ここまで読んでいただき誠にありがとうございました。

もし良かったら、次もよろしくお願いします。
59:🎏 ◆MEIDO...W.:2011/12/3(土) 22:32:34 ID:KfqTBR3FlY
裏話もあんまり無いので、今回は無し。

名前:大豆生田 真理
性別:女
種族:人間
年齢:18歳
身長:168cm
スリーサイズ:貧
長所:雀鬼、強運
短所:下戸
知性:普通
特技:一度通った道を忘れない

特徴:田舎から都会に出てきた大学一年生。右も左もわからない大学で、たまたま優しくしてくれた人に恋をした。

ネットで調べた恋愛の神がいるという神社で、性の神を拾い、半ば強制的に共同生活をする事になった。

恋愛対象は男も女も両方いける両刀である。だが、どちらかというと女の方が好き。

幽霊や神は信じるが、幽霊は見たくないと思っている。

かなりの強運であり、ジャンケンや福引きなどではそのスキルを大いに発揮している。1ヶ月懸賞生活は余裕で達成出来る。

小学校の頃のクラスの男の子には「暴力女」と呼ばれていた。今も昔もあまり変わらない。得意技はビンタ。よく手違いが起こる。

中学、高校とも新体操をやっていて、体はかなり柔らかい。
60:🎏 ◆MEIDO...W.:2011/12/3(土) 22:34:47 ID:KfqTBR3FlY
名前:阿須面(アスモ)
性別:両性
種族:神
年齢:不明
身長:自由
スリーサイズ:自在
長所:信仰心のある願いをしっかり叶える
短所:子供っぽい
知性:普通
特技:姿を自由に変えられる

一人称「儂」
二人称「おぬし」


容姿:真理と同じ

特徴:悪戯好きの性の神様。ある日、神社を訪れていた真理を脅かす為に、真理に変身して、近づいた所をフルボッコにされた。復讐と偽り、真理の家に行き、なんやかんやで同居が始まった。

副業としてドッペルゲンガーをやっている。神社の収入より副業の収入の方が高いらしい。

主食は精気。主にリンパ液に多く含まれている。あまり卑猥な液体を飲んだりはしない。

かといって人間の食事が食べられない訳でもない。好きな物は太くて長くて堅いラーメン。三分のカップラーメンは二分で開ける。

性の神様だが、四六時中エロいわけではない。

実はソロモン七十二柱の一柱のアスモデウスの娘。悪魔になるのが嫌で家出。その後、日本で神様になった。位は結構低い。



結構いい加減な設定だったりする。←
61:🎏 真・スレッドストッパー:停止
停止しますた。ニヤリ・・・( ̄ー ̄)
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