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私には私の道がある
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1:🎏 ◆MEIDO...W.:2011/11/29(火) 00:10:33 ID:u154Dzic7I
注意
・この作品は第一作、第二作と同じ世界観です。しかし、物語としての関連性は全くありません。

・幼稚な文章で書かれるバトル物です。戦闘描写には過度な期待はしないでください。

・強キャラ沢山。

・人が死んだんだぞ!いっぱい人が死んだんだぞー!

・更新は一日二、三レスを目安にしています。


2:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/29(火) 00:12:40 ID:u154Dzic7I
「準備は良いか?」

全身銀色の鎧に身を包んだ男が自分の後ろに立っている数人の仲間に問いかける。

「ああ、行こう」

黒いローブを身にまとい、身長ほどある木の杖を持った魔法使いの男がそれに答えた。

鎧の男が扉を蹴破り、中に入った。それに続いて仲間達が中に入った。

「な、なんだ……ここ……」

踏み込んだ部屋は庭だった。いや、正確には部屋の中に作られた庭だ。その光景に男達は呆気にとられていた。

「うわっ!」

「どうした!」

鎧の男が仲間の声に反応して、剣の柄に手をかけながら振り返った。

「ご、ごめん。景色に見とれて、水路に足を突っ込んじゃった」

それを聞いて、鎧の男は安心して、柄から手を離した。

「すごいや、この部屋にあるもの全部に魔法がかかってる」

「罠なのか?」

魔法使いは首を横に振った後、植物に向かって炎の魔法を唱えた。一瞬にして植物は炎に包まれた。

「何がすごいんだ?」

「まあ、見ててよ」と魔法使いに言われた通りに全員が燃える植物に注目していた。そして、しばらくしてから魔法使いは水を植物にかけて、炎を消した。

「なっ! 全く燃えていない!」

そこには炎が付く前と何ら変わらない植物があった。

「僕が見たところ、防火防風防雷防音防寒の魔法が施されてる」

「感心している場合ではない。さっさと進まなければ」

鎧の男が手を叩いて、部屋を見渡す仲間達に合図する。仲間達はその音にハッと自分達の使命を思い出し、一人先に進んでいた鎧の男を追いかけた。
3:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/29(火) 00:12:48 ID:u154Dzic7I
「む?」

次の部屋へ続く扉の前で、花に水をあげる銀髪のメイドがいるのに気づいた。

「そこのメイド。魔王はこの先か?」

メイドはジョウロを持ったまま、鎧の男の方に向き直った。

「ええ。しかし、この先は通行止めでございます。魔王様にご用ならば、私(わたくし)がお伝えします」

メイドは抑揚のない声で答えた。

「ふざけるな! 我々は魔王を倒しに来たのだ!」

「それならば、なおさらお通し出来ません。出口はあちらになります。五秒以内に立ち去ってくださいませ」

メイドは男達がやってきた方向を指さした後、再び花に水をあげ始めた。

「どこまで我々を愚弄するつもりだ! そろそろ女とて容赦はせんぞ!」

鎧の男は剣を抜き、メイドに切っ先を向けた。

「あら? まだいらしたのですか? なんと卑しいお客様でしょうか。ですが、チャンスを与えましょう。私はここで立って、絶対に動きません。私を一太刀で倒したのならば、先にお進みください」

メイドはジョウロを持ったまま、鎧の男の前に移動した。

「良い覚悟だ」

鎧の男は助走をつけて、メイドの首を切り抜いた。

「残念でしたね」

はずだった。剣にはべったり血が付いているのに、メイドは平然と先ほどと変わらない体勢で立っていた。

「ば、馬鹿な……」

驚愕する鎧の男の足元から巨大な氷柱が生えて、鎧の男の胸を貫いた。

「う、うわぁぁぁぁぁぁ!」

誰かが悲鳴をあげたのとほぼ同時に部屋の中にメイド以外に生きている者はいなくなった。
4:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/29(火) 23:53:16 ID:9IAOdG2/VE
「ご苦労様。ネージュ」

死体の処理が終わった頃、通行止めの扉が開き、中から金髪のメイドが出てきた。

「見ていらしたのですか?」

「まあね。さっそくだけど出かけるわよ」

「どちらへ?」

「隣国。ついてきなさい」

「畏まりました」

ネージュは手に持ったジョウロを置いて、金髪のメイドの後をついていった。
5:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/29(火) 23:54:12 ID:9IAOdG2/VE
その日、城の中にはピリピリした空気が漂っていた。魔族との交渉。まだ小国とは言え、一人一人の戦闘力は人間よりもはるかに高い。そんな者を招き入れて、王に何かあっては大変だと多くの兵が謁見の間で備えていた。

「魔王の使者が来ました!」

「来たか……相手は魔族だ。気を抜くなよ。ここへ通せ!」

兵が命令を受け、数分後、使者を謁見の間に連れてきた。

「ようこそ。使者の方」

王は使者がメイドが二人だと言うことに、かなり呆れているのと同時に、使者にメイドを寄越した事に怒りを感じていた。

「単刀直入に我々の要求を言わせてもらう。我々はここと国交を結びたい」

「ならば、我が国と貴国との間にいる魔物を全て排……」

「交渉決裂だ」

王が全てを言う前に、メイドは口を開いた。

「な、何故だ」

「何故? 仲間を売る奴がどこにいる。頭逝ってるのか爺。行くぞネージュ」

メイドは中指を突き立てて、謁見の間を去ろうとした。

「……魔族でも話が通じると思った儂が馬鹿だった。構わん! そやつらを切れ!」

王の命令と共に、兵達は一斉に剣を抜き、二人に切りかかってきた。

「おい、爺。何か勘違いしてるようだが、私はメイドじゃない」

「何だと!」

「私が魔王だ! 跪け!」

皆ことごとく頭を床につけて、魔王と王以外に立っている者はいなかった。

「ネージュ。行くぞ」

「はっ」

その後、誰にも邪魔されることなく二人は自国へと帰って行った。
6:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/30(水) 23:56:07 ID:wUf5zKLk5A
「エクレール様、侵入者です。数は五人」

「強さは?」

エクレールはメイド服を着たまま、自分のベッドで横になりながら、本を読んでいた。

「試練の間を三分以内で突破いたしました」

「ふむ……案内しろ」

「畏まりました」

ネージュは会釈してから、エクレールの部屋を出て行った。
7:🎏
◆MEIDO...W.:2011/11/30(水) 23:56:27 ID:9uEahCTKxM
部屋に入ってきた五人はいずれも筋骨隆々の見るからに強者と言うような男達だった。

「ようこそいらっしゃいました。魔王様がお待ちです。ご案内いたします」

男達は少し不可解そうな顔をしながらも、ネージュの後をついていった。

「こちらです」

ネージュはエクレールの部屋に続く扉を開け、男達が中に入った後、扉を閉めた。

そして、ネージュは近くに置いてあったジョウロを手に取り、水路に水を汲み、いざ水をやろうとした時に、部屋の方から城を震わせるほどの大きな音がした。ネージュが扉を開けようとしたが、中から同じタイミングでエクレールが出てきた。

「二十二秒です」

「ただ力任せの作戦も何もない雑魚だったわ。片付けお願いね。私は水を浴びてくる」

「畏まりました」

エクレールはそう言って、部屋を出て行った。
8:🎏
◆MEIDO...W.:2011/12/3(土) 06:47:39 ID:JjbL7qVj/A
「ねえ、最近多くない?」

「八グループ、合計で二十七名です」

「ふむ……」

エクレールは口に手を当て、何かを考え始めた。かと思うと、不意に立ち上がって、クローゼットから世間一般で言う庶民の服を取り出して、着替え始めた。

「ちょっと、出かけてくる。留守番よろしく」

「行ってらっしゃいませ」
9:🎏
◆MEIDO...W.:2011/12/3(土) 06:48:21 ID:JjbL7qVj/A
「ああ、ネージュ様。お出かけですか?」

ネージュが城を出て行こうとした時に門番の男が話しかけてきた。

「ルヴァン。何度も言っていますが、私はただのメイドです。様付けされる身分ではありません」

「それでも俺らより強いじゃないですか。強い奴は敬わないと」

ネージュの背後から、ルヴァンと同じ声が聞こえてきた。

「クシャン。あなた達も十分強いじゃないですか。それでは私はこれで。少しの間城を頼みましたよ」

ネージュは二人の門番に別れを告げて、城下町へと向かって行った。
10:🎏
◆MEIDO...W.:2011/12/3(土) 06:48:29 ID:hN22NeG0qs
料理長に頼まれていた塩の買い付けした後、他に足りない物はないかと考えながら、城下町をうろついていた。

「お! ネージュさん! どうだい、うちの魚買っていかないかい?」

魚屋の店主に言われて、ふと最近の食事のメニューを思い出してみると肉ばかりだという事に気づいた。

「では、それとそれをあるだけ。後で城に届けてください」

「毎度あり!」

赤い魚と銀色の魚を頼んでから、店主に金を払い、城に戻ることにした。
11:🎏
◆MEIDO...W.:2011/12/3(土) 23:45:10 ID:4UXJhZjjGo
「あの爺面白いことしていやがった。私とお前に莫大な懸賞金かけてたよ」

エクレールは戻るやいなや、ベッドに倒れ込んだ。そして、すぐに上半身だけをあげて、ネージュの方へ向き直った。

「今後は侵入者がさらに増えるのですね」

「多分ね。雑魚戦は嫌いなんだけどな……」

エクレールは再びベッドに横になった。

「今より警備を強化しましょうか?」

「……ちょっと考えさせて」

エクレールはそう言って、目を閉じた。それを見て、ネージュはそっと部屋を出て行った。
12:🎏
◆MEIDO...W.:2011/12/3(土) 23:45:16 ID:f/SZ9qw8yc
目を覚ましたエクレールはさっそく自分の考えを話し出した。

「……というのはどうだ?」

「私もですか?」

「嫌か?」

エクレールは村娘の服を脱ぎ捨て、クローゼットから取り出した黒いサンドリヨンを身にまとった。

「いえ、お一人でそのような事を行うつもりでしたら、命令を無視してでも援護するつもりでした」

「そこまで私の事を思ってくれてたのね。私は幸せ者ね」

エクレールはケラケラ笑いながら、黒いリボンで髪を二つに分けて、それぞれを結んだ。

「さて、爺はどんな顔をするだろうか」
13:🎏
◆MEIDO...W.:2011/12/4(日) 23:21:07 ID:fr5BVVXGNc
いつ土砂降りになってもおかしくないほどの真っ黒な雲が空を覆っていた。

「良いね。私達の勝利が確定しているような天気だ。残念だが、お前の心配も杞憂に終わったな」

一週間前、エクレールが王に提示した事は、今日の正午、この丘の上で魔王を討伐するチャンスをやるというものだった。それを王は大々的に広めたらしく、どんどん人が集まってくる。

「さあ、始めようか。手出しは無用だ」

遠くから正午を告げる鐘の音が聞こえてきた。それを聞いて、雄叫びをあげながら、我先にとエクレールの元へと集まってきた。

そして、光が落ちた。

「ま、手出しをする時間などないがな」

「生き残った者はどういたしましょう」

丘に雷が落ちた。いや、落としたの方が正しい。先ほどまで、丘を埋め尽くすほどいたというのに、残っている者は数えるほどしかいなかった。

「生かしておけ。雑魚の選別は終わったんだ」

「御意」
14:🎏
◆MEIDO...W.:2011/12/4(日) 23:21:51 ID:Mrz11mMr26
「エクレール様、侵入者です。数は一人。現在、試練の間で四分ほど戦闘中です」

ネージュはいつもと変わらず、抑揚の無い声でエクレールに情報を伝えた。

「何のために振り分けたかわかりゃしない。だが、一人か……」

エクレールは読んでいた本を一度閉じて、クローゼットを漁りに行った。

「……あったあった。えっと……良かった。ネージュ、通せ。ただし、お前は侵入者と鉢合わせしないように、外に出ろ」

「仰せのままに」

エクレールは唇を釣り上げて笑った。
15:🎏
◆MEIDO...W.:2011/12/4(日) 23:22:08 ID:fr5BVVXGNc
「魔王覚悟しろ!」

赤いマントをまとった騎士が、エクレールの部屋に勢いよく入ってきた。

「……誰もいない?」

誰もいないはずなのに、ただならぬ殺気を感じていた。騎士が辺りを警戒しながら、少しずつ部屋の奥へと進んでいく。すると、クローゼットの方から音がした事に気づいた。騎士はゆっくりクローゼットに近づいて、扉を一気に開けた。

「ひぃ!」

クローゼットの中には、銀色のティアラを被り、純白のドレスを着た黒髪の少女がいた。

「あなたは?」

「私は今は無き国の第二王女のエクレアです……」

そう言って、エクレアは俯いてしまった。

「魔王は?」

エクレアは俯いたまま首を横に振った。

「まあ、良いでしょう。とにかく私と一緒に逃げましょう。さあ」

騎士はエクレアに手をさしのべた。エクレアはそれをしっかり握り締めて、クローゼットから出た。

「あ、あの!一つよろしいですか」

「何なりと」

「死ね」

次の瞬間、騎士の体から腰と呼ばれる部位が消え去った。騎士は驚きの表情のまま、息絶えた。

「あれだけ、殺気を出していたのに気づかない。その時点でお前に価値はない。だが、私はお前みたいに驚く顔が大好きだ」

エクレアもといエクレールは騎士の血で赤く染まったドレスを脱ぎ捨てて、クローゼットからメイド服を取り出して、着替えた。

「あ、後私のクローゼットを覗いた奴を生かしておくつもりもない」
16:🎏
◆MEIDO...W.:2011/12/6(火) 23:24:04 ID:P.ku6hFpEQ
「北の方で魔王が倒されたそうです」

「ふーん」

エクレールは興味ないという様子で、読んでいた本のページをめくる。

「魔王総会なる物の招待状が届いております」

「破り捨てろ」

「畏まりました」

ネージュは言われた通りに、白い手紙を破り、エプロンのポケットにしまった。

「魔王ランキ……」

「燃やせ」

「はっ」

ネージュは指から小さな炎を出して、小冊子を燃やした。

「エクレール様、少しよろしいでしょうか?」

「なんだ?」

「現在、地上にはどの程度の数の魔王がいるのでしょうか?」

エクレールは本から顔をあげ、手で頭を支えながらネージュとの方を向いた。

「お前にしては面白い事聞くじゃないか。良いだろう教えてやる。今、地上には魔王は二十三人いる。そのほとんどが、金だ世界だなどと抜かしやがる。そんな奴らの所為で、私の様にそんな物に興味ないのに討伐対象になる。良い迷惑だ。魔界ももっと地上に行く奴の選別をするべきだろ。だいたい魔王の定義もおかしいんだ。何故二十三人もいるんだ。王だぞ! 王! 城を持ってれば弱くても王か? 違うだろ! 王は民を守り、導く者だ! それに王は国があってこそだ。国の条件は領土、国民、法律だ。辺鄙な山に城を作って、城で生活する魔物が国民で、周辺は無法地帯。どこが国だ! 己の私利私欲しか考えない奴のどこが王だ。それにあの爺も爺だ。魔物は敵だ? 確かにそうだ。だがな、殺るか殺られるかの世界に身を置いてこそ、さらなる高みへと近づけるんだろうが。全く……」

途中からエクレールの愚痴に変わっていたが、ネージュは大人しく聞いていた。
17:🎏
◆MEIDO...W.:2011/12/8(木) 07:31:05 ID:1tzHlngH1c
エクレールはお気に入りの本を読み終えて、手持ち無沙汰だった。新しい本でも探しに行こうかとも考えたが、なんとなく面倒になったので、その考えを捨てた。

「うー……武術大会でも開くか……」

「予定は何時にいたしましょう」

「……よし! やる!」

エクレールの頭の中で何かの考えが纏まったらしく、急にベッドから飛び起きた。

「私は爺の所に行ってくる。あいつはあれでも良い仕事をしてくれる。お前は留守番だ」

「畏まりました」
18:🎏
◆MEIDO...W.:2011/12/8(木) 07:31:14 ID:hhgzO6fHys
「また懲りない雑魚共が沢山集まりやがった」

今日は白いワンピースに黒いエプロンとネージュとは真逆のメイド服を着て、丘の上から参加者を見下ろしていた。

エクレールが大きく息を吸ったのを見て、ネージュは耳をふさいだ。

「我が国主催の武術大会の参加者に告ぐ! 今から予選だ! ルールは簡単! ゴーレムを用意した! それを早く倒した八名が本戦に出場出来る! 良いか!」

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

エクレールの声は丘全域まで広がった。そして、返ってきたのは男達の威勢のいい声だった。

「帰るぞ。ああそうだ、帰り際にゴーレムを一個壊しておけ」

「御意」

19:🎏
◆MEIDO...W.:2011/12/10(土) 23:08:56 ID:FGq0e0WmdU
「エクレール様、本線出場者の名簿です」

エクレールは小冊子を受け取り、パラパラとめくった。

「ほう……門番の二人も出るのか。まあ、あいつらはゴーレムなど見慣れているからな」

さらに数ページ捲った所でエクレールの手が止まった。

「こいつは……」

「どうかしましたか?」

「いや、何でもない」

エクレールは小冊子を閉じて、ネージュに返した。

「さて、くじ引きをやろうか。それはそれは公平な奴をな」

エクレールはいたずらっ子のような笑顔で、ネージュの作ったくじを引き始めた。
20:🎏
◆MEIDO...W.:2011/12/10(土) 23:09:06 ID:L42.WERUbA
「第一試合は私とどこかの騎士。第二試合は門番二人。第三試合はどこかの武道家と魔女。第四試合はお前とどこかの騎士。」

ネージュはエクレールの言った試合予定を書き写して、簡易的なトーナメント表を完成させた。

「あくまで、公平なくじ引きの結果だ。ま、二回戦に行く奴はだいたい確定してるがな。爺に渡しに行ってくる」

「いってらっしゃいませ」
21:🎏
◆MEIDO...W.:2011/12/12(月) 00:00:58 ID:ovgO5aKipM
「ネージュさん! 手合わせ願います!」

門番のクシャンが花に水をあげているネージュに頭を下げた。

「クシャン。あなた自分の持ち場はどうしたのですか?」

ネージュはクシャンの方を見向きもせずに返事をした。

「その……腹が痛いと抜けてきました」

クシャンは少しネージュから目をそらして、頭を掻いた。

「では、すぐに戻りなさい」

「ま、待ってください! 明日大会の一回戦で兄貴と戦うんです! それで技の最終確認したいんです!お願いします! 兄貴としたんじゃ意味ないんですよ!」

クシャンはさらに深く頭を下げた。

「一度だけですよ」

ネージュはジョウロを置いて、クシャンの方へ向き直った。

「ありがとうございます!」

クシャンは木製の槍を何度か回してから、構えた。

「行きます!」

クシャンは床を蹴って、ネージュとの距離を詰め、一気に腕を伸ばして小細工なしでネージュを突いた。

しかし、その攻撃は氷の壁によって阻まれた。

「ふむ、一瞬で六回も。少し危なかったですね」

「ご冗談を。この程度じゃ、ネージュさんに触る事すら叶わないですね。それでも兄貴には有効です。ありがとうございました」

クシャンはネージュに頭を下げて、急いで自分の持ち場へと戻って行った。
22:🎏
◆MEIDO...W.:2011/12/12(月) 00:01:05 ID:ovgO5aKipM
「ルヴァン。あなたも私と手合わせしたいのですか?」

「ええ、まあ……」

ルヴァンはネージュに所為で調子が狂ったというような顔をしていた。

「クシャンも同じ事言ってきたので。あなたも腹痛で抜けてきたのでしょう?」

「あいつもか……考えることは同じだな」

ルヴァンもクシャンと同様にネージュから目をそらして、頭を掻いた。

「一度だけです。公平にしないといけませんから」

ルヴァンはクシャンの様に槍を回さずに構えた。

「細い氷で攻撃をお願いします」

そう言って、ルヴァンは真っ直ぐ突っ込んできた。ネージュは迎え撃つように、槍に見立てた氷を飛ばした。ルヴァンはそれをタイミング良く、回転して避け、その回転の勢いを利用して、槍を振り抜いた。しかし、それがネージュに届く前に、氷の壁が防いだ。

「くー、やっぱりこの氷は堅いなー」

ルヴァンは悔しそうに、槍をしまった。

「悔しがる必要はありません。普通の槍だったら、砕かれてましたよ」

「ははは、お世辞はいりませんよ。それでは」
23:🎏
◆MEIDO...W.:2011/12/12(月) 23:30:07 ID:Gvfm5vdFd6
本戦の日。城のすぐそばに作られた会場にはすでに沢山の人が集まっていた。

「エクレール様、そろそろお時間です」

「ちょっと待て……良し」

エクレールはクローゼットについている鏡で帽子のフリルを調節してから、クローゼットを閉じた。

「会場じゃ、賭は始まっているか?」

二人は移動しながら、話を続けた。

「はい。エクレール様の倍率は1.0002です」

「それは賭になってないぞ。お前は?」

エクレールはあまりの倍率に少し苦笑した。

「私は1.2倍です」

「じゃあ、私のポケットマネーで良いから、後で百万位かけとけ」

「仰せのままに」

「さあ、始めようか」

エクレールは門を蹴って開け、外に出て行った。
24:🎏
◆MEIDO...W.:2011/12/12(月) 23:30:14 ID:Gvfm5vdFd6
「これから、本線のルールを説明する」

エクレールは露骨にめんどくさそうな顔で会場の中央で説明し始めた。

「試合時間は十五分。十五分以内に決着がつかなかった場合は両者失格となる。ただし、決勝戦ではこのルールは適応されない。リング内でダウンし、十カウントとられた場合敗北となる。また、試合中、このリングから外に出た場合、場外となり敗北となる。なお、対戦相手が死亡しても、勝利になる。殺される覚悟がないのなら、今から棄権する事をオススメする。ああそうだ、ギブアップは自分の得物を捨て、手を挙げながら、ギブアップと宣言すれば認める。以上だ」

エクレールが席に戻ると、今度は若い男がリングの上に登った。

「私、今大会で審判を勤めさせてはいただきます、テムと申します。以後お見知り置きを。それでは早速第一試合に移りたいと思います。第一試合の選手はリングに集合してください」
25:🎏 名無しさん@読者の声:2011/12/13(火) 00:20:04 ID:1Ft0Jdn8EI
シエン
26:🎏
◆MEIDO...W.:2011/12/14(水) 07:00:52 ID:riAK.jgmGM
>>25
ありがとうございます!



「第一試合、始め!」

「魔王! 覚悟しろ!」

エクレールの対戦相手はいかにも歴戦の騎士というような風貌の男だった。が、騎士が剣を振り上げた瞬間に剣に雷が落ちて、騎士は倒れた。

「ふん」

「エクレール選手の勝利!」

エクレールはさっさと試合会場を立ち去り、主催者席へと戻って行った。
27:🎏
◆MEIDO...W.:2011/12/14(水) 07:01:00 ID:lPDOndQsx.
「第二試合、始め!」

「クシャァァァァァァン!」

「クソ兄貴ぃぃぃぃぃぃ!」

試合開始の宣言とほぼ同時に、お互いの槍がぶつかり合った。そして、お互い後ろに跳び、距離を開ける。

「おい、クソ兄貴。手前、いびきがうるせーんだよ!だいたい仕事中に寝てんじゃねーよ!」

「その言葉そのまま手前に返すぜ!」

ルヴァンが一気に距離を詰め、槍を横に凪いだが、クシャンは屈んでかわす。そして、ジャンプする勢いに乗せて、ルヴァンの胸めがけて槍を伸ばした。しかし、ルヴァンは体を後ろに傾け、槍をかわし、また後ろに跳んで距離を取った。しばらく睨み合いが続いた。

「……来いよクシャン」

「言われなくとも」

クシャンは槍を構えて、距離を一気に詰めてから、槍をルヴァンを突いた。しかし、ルヴァンは待ってましたと言わんばかりに笑みを浮かべて、回転してクシャンの突きをかわした。

「はっ!やってくると思ったよ!」

はずだった。クシャンは無理矢理槍を横に振った。そして、その攻撃は槍を振り上げていたルヴァンの胴体に衝撃を与え吹っ飛ばした。

「場外!クシャン選手の勝利!」

「よう、クソ兄貴。どんな気分だ」

「最悪だよ」

この試合を見ていたエクレールは「ただの兄弟喧嘩だな」と呟いたと言う。
28:🎏
◆MEIDO...W.:2011/12/15(木) 23:10:52 ID:Kh7lefFDCM
「場外!ソリア選手の勝利!」

第三試合は十五分ギリギリまで続いたが、最後の最後でソリアの魔法でばらまかれた水に相手が足を滑らせ、そこへソリアの魔法がヒットして場外へ押し出された。

「チッ……」

ソリアの勝利の宣言と同時に、エクレールは舌打ちをした。

「いかがされましたか?」

「何でもない。ほら、次はお前だ。行ってこい」

「行って参ります」

ネージュは小さくお辞儀した後、リングへと向かっていった。
29:🎏
◆MEIDO...W.:2011/12/15(木) 23:11:02 ID:Kh7lefFDCM
ネージュの対戦相手は反りのある剣を持った剣士だった。

「第四試合、始め!」

「我が名は森本一房! はるか東方より強者を求めこの地にやって来た! いざ、まいる!」

森本は柄に手はかけているが、剣を鞘に納めたまま、ネージュとの距離をゆっくり詰めてきた。ネージュは小手調べとして、数発氷弾を飛ばしたが、どれも簡単にかわされてしまった。

「……抜きませんか」

「あの程度の攻撃見ないでもかわせるわ!」

「では、見ないでかわしてください」

ネージュは先ほどより量を増やした氷弾を森本に飛ばした。自分で言ったのでプライドがあるのか、宣言通り目を瞑ってかわし始めた。

「ふん! なめるな!」

「あなた馬鹿ですね」

「…………!」

森本は何かを言おうと、口を開いたが、突如として襲った股関への衝撃により、言葉ではなく声にならない悲鳴が出た。森本の足元から生えた氷柱が森本の股関に当たったのだった。森本はそのまま倒れた。

「正直者がすくわれるのは足下だけですよ」

「九! 十! ネージュ選手の勝利!」

ネージュは倒れた森本を置いて、エクレールの下へと戻っていった。
30:🎏
◆MEIDO...W.:2011/12/16(金) 23:53:35 ID:wuCg8lvs3.
「一回戦はすべて終了いたしました。ここで一時間の休憩を入れたいと思います。準決勝に参加する選手は五分前には自席についていてください」

それを聞いて、会場にいた観客は一斉に移動を始めた。

「準決勝進出の四人の内三人が身内か。予測はしていたがな」

エクレールはニヤニヤしながら、自分の足元を見つめていた。そこには土下座をしているクシャンがいた。

「お願いします! 次の試合棄権させて下さい!」

「駄目だ。手加減はしてやるから、お前は次ちゃんと出るように」

エクレールは立ち上がって、どこかに行ってしまった。

31:🎏
◆MEIDO...W.:2011/12/16(金) 23:53:54 ID:5VSlvvt1jc
「私寝るから、好きなようにしてて良いわよ」

エクレールはそう言って、大きな欠伸をしてから扉を閉めた。


「あー! やっと見つけた!」

ネージュが植物の手入れをしようとした時、急に聞き覚えのない声が響いた。警戒しながら、声の主の方を向いてみると、ソリアがいた。

「ここへは入れない様にしておいたのですが」

「あ、ごめん。あの氷の壁壊しちゃった」

ソリアはあまり悪びれた様子はなく、ただ舐め回すようにネージュを見ていた。

「それで、何かご用でしょうか?」

ネージュは来てしまったものはしょうがないと諦め、ソリアに尋ねた。

「挨拶ついでに、ちょっと話をしたくて。駄目かしら?」

「……問題ありません」

「良かった。断られたらどうしようかと思ったわ」

ソリアは微笑みながら、胸をなで下ろした。
32:🎏
◆MEIDO...W.:2011/12/16(金) 23:54:21 ID:wuCg8lvs3.
「私はソリアよろしくね」

ソリアは右手を差し出した。

「……ネージュです」

ネージュは少しソリアの右手を見つめた後、軽く握った。

「早速なんだけど、自分が誰だかわかる?」

「哲学の話でしたら、私の専門外です」

「質問が悪かったわね。あなた、自分の種族わかる?」

「……」

わからなかった。自分が人間なのか魔族なのかはたまた別の何かなのか、考えたところで何も出てこなかった。

「知りたくない?私はあなたの知らない事を知ってる。私の所にくれば全部教えてあげる」

「お断りします」

ネージュはソリアの誘いに即答した。ソリアはネージュを興味深そうに見つめた。

「何故?」

「確かに私はエクレール様と出会った時以前の記憶は持ち合わせていません。ですが、私はそれで十分です。過去に興味はありません。要件はそれだけですか?」

「……あっはっはっはっ」

じっとネージュを見つけていたソリアが急に笑い出した。

「いやー、魅了効かないか。ま、それでこそか。じゃあ、私は行くわね」

ソリアは笑いながら、行ってしまった。
33:🎏
◆MEIDO...W.:2011/12/18(日) 23:37:56 ID:EmDmjrcbTQ
「準決勝第一試合、始め!」

「ハンデをやる。攻撃予告と、移動禁止だ」

「ありがとうございます」

クシャンはまるで嬉しくなさそうに返事をした。

「二秒後、雷!」

クシャンは咄嗟に後ろに跳んだ瞬間、雷が落ちてきた。

「さすがにかわせると信じてたよ」

「結構ギリギリですがね」

クシャンは苦笑するしかなかった。

「せいぜい頑張りな。二秒後、雷! 五秒後、着地点!」

「くっそ、近づけやしない」
クシャンとエクレールの距離は少しずつ離れていくばかりだった。

「二、五、七、九、十二、十四!」

そんな事お構いなしと言わんばかりに、エクレールはさらに攻撃をしていく。

五発目の雷が落ちた瞬間、クシャンは一気にエクレールとの距離を詰めるために、駆け出した。

「一秒後、二歩前!」

クシャンは左足に力を込めて、右に跳び、何とか雷をかわした。

34:🎏
◆MEIDO...W.:2011/12/18(日) 23:38:15 ID:UiUJFD97y6
「チャンスください……」

「なら、大チャンスだ!十五秒後にデカいの行くぞ!」

とんでもないハイリスクハイリターンだった。それでも、クシャンは槍で攻撃せず、エクレールに殴りかかった。しかし、それをあっさりとエクレールに止められた。さらに、クシャンは槍を投げ捨て殴った。これもエクレールには通らない。

「狂ったか?」

「まさか。このまま離れなかったらデカい雷はどこに落ちるんでしょうね?」

クシャンは少し笑っていたが、覚悟を決めた目をしていた。

「及第点だ」

エクレールはクシャンの胸ぐらを掴んで、場外に放り投げた。次の瞬間、雷がエクレールに落ちた。

「場外!エクレール選手の勝利!」

「発想は良かった。だが、相手の力を軽んじていたな。その程度対策が出来ていないわけがない」

エクレールは雷を纏いながら、平然と立っていた。そして、クシャンに背を向けて、自席に戻っていった。
35:🎏
◆MEIDO...W.:2011/12/18(日) 23:38:21 ID:EmDmjrcbTQ
「お怪我は?」

「ない。二歩下がれ。感電するぞ」

二歩下がっても、まだ静電気の様な物を時折感じていた。

「くっそ、見せるんじゃなかった。髪が直らん」

雷を纏っている所為なのか、エクレールの髪がだんだん逆立ってきていて、それを直すのに必死だった。

「そう言えば、次はお前だったな」

「はい」

「あいつに勝つなら、死角からの不意打ちで一発で仕留めろ」

「了解しました」

ネージュはエクレールに軽く頭を下げてから、リングに向かった。

36:🎏 名無しさん@読者の声:2011/12/19(月) 10:36:34 ID:72Oo58upPU
CCCCC
37:🎏
◆MEIDO...W.:2011/12/20(火) 09:34:29 ID:B6HkiMrp42
>>36
ありがとうございます!



「さっきぶりね」

ソリアが小さく手を振ってきたが、ネージュは無反応だった。

「準決勝第二試合、始め!」

「ちょっとは反応してくれても良いじゃない」

「……」

「あんまり冷たいと嫌われるわよ」

「氷使いですから」

試合は始まっているのに、二人とも動こうとはしなかった。

「もしかして、私が話し終わるの待っててくれたの?」

ネージュは小さく頷いき、左手をソリアに向けた。そして、氷塊をソリアに向けて飛ばした。

「それはどうも。でも、最大のチャンスを失ったわね」

ソリアも同じように左手をネージュに向けて、同じくらいの大きさの氷塊を飛ばした。二つの氷塊は空中でぶつかり、二つとも消え去った。

「今からあなたの攻撃全部を真似してあげる」
38:🎏
◆MEIDO...W.:2011/12/20(火) 09:34:39 ID:B6HkiMrp42
ネージュが氷弾を飛ばすと、ソリアも氷弾を飛ばして相殺する。氷柱を足元に生やすと、ネージュの足元にも生えてくる。

「だんだん攻撃が減ってきているけど、もしかして魔力切れ?」

「……」

ネージュはもう一度左手をソリアに向けて、氷塊を飛ばした。そして、ソリアの背後につららを形成して、ソリアの背中を狙った。

「残念」

ソリアは笑いながら左に一歩ずれて、つららをかわした。つららと氷塊は互いにぶつかり、砕け散った。

「昔の私だったら、確実に死んでたわ。でも、それはもう対策をとってある」

ソリアは持っている杖についている丸く透明な宝石を軽くたたいた。

「これには私の背後が映るのよ。誰かさんにお腹貫かれて以来手放せないわ。ねえ?エクレール」

ソリアはネージュに背を向けて、エクレールのいる主催者席を向いた。エクレールはそっぽを向いて、ソリアと顔を合わせようとしなかった。

「あらあら、相変わらず嫌われてるわね。で、どうする?どうやって私に勝つ?」

ネージュはソリアの話を聞かずに、ソリアに向かって走り出した。走りながら、氷の剣を作り上げ、右手で思いっきり剣を振り下ろした。

「魔法が効かないなら、接近戦。まあ、無難な考えね」

ソリアは杖で氷の剣を受け止める。

「でも、それも魔法の産物。そして、私に見せた」

いつの間にかソリアの左手には氷の剣が握られていて、それを何のためらいもなく振った。氷の剣はネージュの腹部を切り裂き、背骨によってその動きを止めた。

「読み間違いです。あなたの負けです。私があなたの顔を潰すのと、あなたが私を五回殺すのはどちらが早いですかね?」

ネージュは左手をソリアの顔に当てた。

「……」

ソリアは両手を開いて、自分の得物を捨てた。

「防ぎにくると思ったんだけどなー……まあ、良いわ。ギブアップ」

「ソリア選手ギブアップ!ネージュ選手の勝利!」

ネージュは体から氷の剣を引き抜いて、適当に投げ捨てた。破れたメイド服の間から見えていたおぞましい切り口は既に跡形もなく消えていた。

39:🎏
◆MEIDO...W.:2011/12/21(水) 21:09:15 ID:kwLgI0/6TA
「良くやったわね。褒美をあげても良いくらいに」

エクレールは後ろ髪を押さえながらそう言った。

「ありがとうございます」

「本当に良くやったわ。私からも誉めてあげる」

いつの間にかソリアがネージュの肩に手を回して、立っていた。ソリアの顔を見たとたん、エクレールは不快そうな表情になった。

「何の用だ。チート」

「あなたじゃなく、あなたのメイドに用があるの。だから、ちょっと貸してね」

「ふざけるな!誰がお前なんかに!」

エクレールは髪から手を離して、ソリアに攻撃しようとしたが、すぐに髪を押さえなおした。

「あなた、私の弱点教えたでしょ?だから、私もあなたの弱点教えるのよ。どうせハンデをあげるなら、一番のをあげないと」

「……変なこと吹き込むなよ」

「じゃあ、こっち来て」

ソリアはネージュの手を引いて、どこかに行ってしまった。
40:🎏
◆MEIDO...W.:2011/12/21(水) 21:09:41 ID:7RJL/fdGxQ
「決勝戦、始め!」

試合開始の合図と共に、ネージュは走り出した。

「あいつから何を教えてもらったか知らないが、威力は抑えといてやる」

エクレールは言い終わるとほぼ同時に雷を落とした。しかし、平然とネージュは雷を抜けてきた。

「ズレたか?」

エクレールは再び雷を落としてみたが、スピードを落とすことなくネージュは走っていた。

「私の雷を何かでズラしたな」

「はい。空中に氷塊を形成して、わずかに止めました。ですが、もう私の射程圏内です」

ネージュの手には巨大な氷のハンマーがあった。それを十二分についた助走のエネルギーを利用して、思いっきり横から振った。

「ハハハハ!流石だ!」

エクレールは後ろに跳んで、ハンマーをかわした。ネージュは右足だけを浮かせて、ハンマーを振った遠心力で体を一回転させてから、エクレールに向かってハンマーを投げた。しかしエクレールは、それを軽々とかわした。

「久しいな!お前と戦うのは!もっともお前は覚えていないだろうがな!」

エクレールは、笑いながらただ突っ立ていた。対してネージュは、両手に氷の剣を持って、再びエクレールと距離を詰めた。

「雷は空から。その思い込みは危険だ」

ネージュが左足に一瞬違和感を感じたときにはもう遅かった。雷が一気にネージュの体を駆け巡った。ネージュは為すすべもなく、倒れた。

「一回死んだか?まあ良い。まさか終わりじゃないだろうな」

ネージュはゆっくり立ち上がった。

「エクレール様……これ以上は私に不利しかありません。ですので、今、勝たせてもらいます」

「アッハハハハハハ!良いぞ!来い!」

「『エクレール様は今日も可愛らしいですね』」

ネージュは自分の凝り固まった表情筋を無理やり動かして、ぎこちない笑顔を浮かべた。

「わわわ私がか、可愛い?ば、馬鹿言うんじゃない!私は魔王だぞ!」

エクレールは耳まで真っ赤にして、恥ずかしがっていた。そこをすかさず、ネージュは勢い良く氷柱を生やして、エクレールを場外まで無理やり飛ばした。

「あ……」

「場外!ネージュ選手の勝利!優勝はネージュ選手です!」

激戦を予想された決勝戦はあっという間に勝負が付いてしまった。
41:🎏
◆MEIDO...W.:2011/12/21(水) 21:09:49 ID:7RJL/fdGxQ
「おめでとー」

「このチートアマ!とんでもない事吹き込みやがったな!」

エクレールがソリアに飛びかかろうとしたが、あっさりかわされてしまった。

「本当は私もエクレールと戦いたかったけど、それはまた今度ね」

ソリアが杖を掲げると、どこからともなく青いドラゴンが現れた。ソリアはそのドラゴンの背中に跨がった。

「エクレール、あなたのメイドは過去に興味はないって言ってたけど、いずれ教えてやりなさい。それじゃあ」

ソリアが言い終わると、ドラゴンは西の方へ飛んでいった。

「言われなくても」

ドラゴンが飛んでいった方を見ながら、呟いた。
42:🎏 名無しさん@読者の声:2011/12/21(水) 21:37:41 ID:yvEPXiu.Rw
っCCCCCCCCCC
43:🎏
◆MEIDO...W.:2011/12/22(木) 22:51:53 ID:lvsJdXSM9o
>>42
ありがとうございます!



「どうした?何か言いたそうだな」

エクレールはベッドに腰掛けながら、本をゆっくり読んでいた。

「……少し顔が痛いです」

「顔が筋肉痛になる奴なんているんだな」

本から顔をあげて、呆れた顔でネージュを見た。

「申し訳ありません」

「謝ることはない」

エクレールは本を閉じて立ち上がった。

「ちょうど新しい本を探しに行こうと思っていた所だ。ついでに何か探してきてやる」

椅子にかけておいた黒いローブを着込んで、部屋を出て行った。
44:🎏
◆MEIDO...W.:2011/12/22(木) 22:52:02 ID:apUuk9iOiY
城を出るとき、門番二人が上を見上げているのに気づいた。

「空に何か浮かんでいるのか?」

「エクレール様、先ほど冒険者が来たのです」

「通そうとしたら、『中にどんな罠があるかわからない!』と言って、壁を登って行きました」

エクレールが上を見上げてみると、確かに何かがよじ登っているのが見える。

「あー……まれにいるよなああいう馬鹿……まあ、良いんじゃないか?私は買い物してくる」

これから起こるであろう事を想像しながら、城下町に向かって行った。
45:🎏
◆MEIDO...W.:2011/12/23(金) 23:23:07 ID:kwLgI0/6TA
「痛い……」

別段我慢できない痛みではないのだが、顔に断続的な痛みがあるのが嫌だった。

エクレールのベッドを整えてから、植物達の世話をするために、部屋を後にした。

部屋の扉を閉めると同時に、天窓が割れる音が響いた。

「はっはぁ!魔王め!一番上にこんな天窓を作るなど入ってくださいと言っているようなものじゃないか!」

赤いマントをはためかせながら、男が植物をクッションにして着地した。男が着地の時に何かが折れる音が響いた。

「……す」

「なんだお前は!魔王の手下か!死にたくなかったら、そこで大人しくしていろ!」

男はネージュを指差して、そう叫んだが、もうネージュの耳には入っていなかった。

「殺す」

ネージュは氷で男の足を貫いた。

「ぐあっ!」

男に反撃の隙を与えず、返しのついた氷で手を貫き、男の体を固定した。そして、助走をつけて、男の顔に向かって、跳び蹴りを決めた。

「殺す。たとえお前の骨が砕け、肉が裂け、血が枯れようとも、私はお前を許さない」

ネージュは倒れた男の顔を踏みつけながら、男の足を体から分離させた。

「ああああああ!」

男は叫んだが、すぐに口に氷を詰められて叫ぶことが出来なくなった。

その後、男はゆっくりいたぶられながら殺されたという。
46:🎏
◆MEIDO...W.:2011/12/23(金) 23:23:13 ID:7RJL/fdGxQ
「ほら、薬だ。飲めば治りが早まるそうだ」

「ありがとうございます」

エクレールはネージュに薬を渡すとすぐにベッドに横になり、新しい本を読み始めた。

「そう言えば、何かあっただろ?」

「異常はありませんでした」

「なら良い」

エクレールはただうっすら笑っていた。
47:🎏
◆MEIDO...W.:2011/12/24(土) 23:16:24 ID:D5RR5P0qOU
「ようこそ……」

「邪魔だぁ!」

ネージュが迎え入れようとしたが、重そうな鎧に身を包んだ男がいきなりネージュの腹を切り裂いた。

「おい、こいつは何にもやってないだろ」

鎧の男の後ろから、弓を持った男が口を出した。

「魔王に味方する奴は全員敵だ」

「門番に逃げられた癖に良く言う」

「行くぞ」

二人は更に奥へと進んでいった。

「扉が凍ってる?」

「ぶっ壊せって事か?」

「それは私の魔法です」

二人は突然背後から聞こえた声に驚き、それぞれの得物を構えて、振り返った。
「手前!なんで生きてる!」
鎧の男がもう一度、ネージュを切ろうと、剣を振り上げた。

「私、ちゃんと礼には礼をお返いしますよ」

そして、その剣は振り下ろされることなく、男は倒れた。

「当然、無礼には無礼をお返しします」

ネージュは鎧の男から、弓使いへと顔を向けた。

「攻撃しないのですか?」

「ああ……俺だけじゃ勝てねえ」

弓使いは弓と矢筒を捨てて、降伏の意を表した。

「ならば、遺体を持ってお帰りください。元々あなた方に挑戦権はありません」

「りょーかい。最後に良いかい?どうやって殺した?」

「汗とだけお答えします」

弓使いは鎧の男を引きずって出て行った。
48:🎏
◆MEIDO...W.:2011/12/24(土) 23:16:31 ID:D5RR5P0qOU
「ネージュ……」

エクレールは眠そうに目をこすりながら、ネージュに話しかけた。

「なんでしょうか」

「お前は盲目の戦士は強いと思うか……?」

エクレールはベッドに倒れ込んでも、話を続けた。

「いいえ。視覚は重要です。森本が良い例です」

「ハズレだ……あの人間は強かった……見えないのに見える……そんな奴だった……」

エクレールは目を擦って、なんとか寝ないように頑張っているが、だんだんまぶたが下りてきていた。

「あの人間は……私……が……」

エクレールは目を閉じたまま、小さな寝息をし始めた。ネージュはそれを確認すると、エクレールをしっかりベッドに寝かせてから
、部屋を後にした。

「唯一……しとめ損ねた……人間だ……」

49:🎏
◆MEIDO...W.:2011/12/25(日) 23:04:06 ID:CX5LhhRtAI
「……ここは?」

自室で寝ていたはずなのにいつの間にか、薄汚れた壁に囲まれた部屋にいた。

探索をするために、部屋を出て、どこまで続くかわからない薄暗い廊下をゆっくり歩いていった。

しばらく歩くと誰かの話し声が聞こえてきた。その部屋の中をこっそり覗いてみると、白髪頭の老人が液体の入った巨大なガラスの筒に向かって話しかけていた。

「お前は魔王を倒す存在だ……ネージュ」

興味ないと通り過ぎようとしたが、足を止めた。そして、もう一度中を見た。老人が話しかけている筒の中には確かに銀髪の少女がいた。

「魔王を倒すのは勇者でも百戦錬磨の騎士でもない。お前だ」

ネージュが部屋に音を立てずに入って、老人を捕まえようとしたが、後少しというところで、老人も少女も消え去った。

そこで目が覚めた。
50:🎏
◆MEIDO...W.:2011/12/25(日) 23:04:28 ID:CX5LhhRtAI
「夢を見ました。おそらく私の過去の」

エクレールはそれを聞いて、しばらくネージュの顔を見つめた後、本を閉じた。

「どんな?」

そして、ベッドから起き上がって、ネージュの前まで移動した。

「私が魔王を倒す存在だと」

「展開が早いのはあんまり好きじゃないんだがな……」

エクレールは大きな溜め息をついた後、クローゼットから白いワンピースを取り出してきた。

「それはお前のだ。サイズは合うはずだから、それに着替えろ」

「畏まりました」

ネージュは言われたとおりに、メイド服を脱ぎ、ワンピースを着た。

「今からお前を私のメイドとしてではなく、ネージュという一人の人間として話をする」
51:🎏
◆MEIDO...W.:2011/12/25(日) 23:04:43 ID:DHgqDkt.zs
「お前は魔王を倒す存在として、作られた人間だ。ホムンクルスと言った方が正しいかもしれんな」

エクレールは椅子に座って、話を続けた。

「長くはならないが、お前も座れ」

エクレールの対面にある椅子を引いて、腰を下ろした。

「お前を作った男はどこかの魔王に家族を殺されたそうだ。その復讐を果たすために、全てを投げ捨てホムンクルスを作り始めた」

ネージュは全く相槌を打つことなく、話を聞いていた。

「その中の唯一の成功作がお前だ。男はお前を解き放った後、死んだ。その後、お前は三人の魔王を倒した後、私の所に来た。お前を屈服させるのに三回も殺したんだ」

エクレールは楽しそうに笑ったが、すぐに真面目な顔に戻った。

「お前の存在理由から言うと、お前と私は敵だ。お前が進む道はお前が決めろ。私を倒しても、普通の村娘になっても良い」

ネージュはエクレールの話を嘘だとは微塵も思っていない。正直に言うとどうでもよかった。

「私は依然変わりなく、エクレール様に仕えるつもりです。私を生み出した男の望みなど私は覚えておりません。私があなた様に仕えているのは、敗者だからだとか恩だとかそんなものではありません。あなた様に仕えろと私の本能がそう言ったからです。これが私の道であり、私が歩むべき道です」

ネージュは言い終わると、ワンピースを脱ぎ捨てて、再びメイド服をまとった。

「……変わったな。初めて会った時は、ゴーレムと大差なかったのに、今でははっきり自分の意志を持っているくらいだ」

エクレールは立ち上がって、ゆっくりと部屋の奥に歩いていった。そして、クローゼットからメイド服を取り出して、着替えた。

「本当に良いんだな?」

ネージュはエクレールの問いに小さく頷いた。

「ネージュ!出かけるぞ!ついて来い!」

「畏まりました」

52:🎏
◆MEIDO...W.:2011/12/25(日) 23:11:20 ID:DHgqDkt.zs
あとがき

どうも、竜頭蛇尾のメイドです。

今回は感情が希薄な子を書きたかったから、書きました。別に酉がメイドだから、メイドにしたわけじゃないよ。

バトル物と言ってもほとんど一方的だったからあんまり練習になってないような……

まあ、とにかく終わりです。ここまで読んでいただき誠にありがとうございました。


えっ、伏線?なにそれ?美味しいの?この話は終わりだから、書かないよ。この話には。
53:🎏 ◆MEIDO...W.:2011/12/27(火) 23:45:41 ID:0Ipfh8jXB2
裏話も特にないので、これを置いていこう


城の中の部屋
天井は全て天窓になっていて、外の光を取り入れる。部屋の中央には噴水があり、そこから水路によって、色々な部屋へと繋がっている。植物の世話はネージュ一人で行っている。この部屋にある物全てに防火防風防雷防音防寒の魔法が施されている。

試練の間
エクレールが直接戦うかどうかを決める部屋。目標時間は三分。
部屋には巨大なゴーレムが一体いるだけ。


魔王の中でもっとも攻略が簡単な城。ほぼ一直線で魔王の部屋に行ける上に、警備は数体のゴーレムのみ。城で働いているのは九割が人間。




エクレールのクローゼット
ただのクローゼットだが、様々な種類の衣服が入っている。しかし、明らかにクローゼットの大きさと入っている量が合わない。この中身はネージュも知らない。

門番
城を守る双子の門番
向かって左側が弟のクシャン。右側が兄のルヴァン。
エクレールの方針で、ある程度戦ったら通すことになっているので、あまり本気で仕事が出来ない。エクレール、ネージュが揃っていないときにだけ仕事をしている。

城下町
エクレールが前の国を潰した時には、王族のみを倒したので、実質以前と変わっていない。最初は魔族がいる事に不満を漏らす者が多かったが、今はそんな者はほとんどいない。人口比は人間:魔族=7:3。

魔王総会
主催、魔界連合。地上に進出している魔王全員に送られる。魔王で集まって、情報交換など様々な目的としている。出席率は悪い。

魔王ランキング(地上)
制作、魔界連合。地上に進出している魔王全員に送られる。地上の魔王の力を国力、力、魔力、知力など様々な分野をランキング形式にした物。調査方法は一切不明だが、結構当たっている。
54:🎏 ◆MEIDO...W.:2011/12/27(火) 23:46:27 ID:0Ipfh8jXB2
名前:ネージュ
性別:女
種族:人間(ホムンクルス)
年齢:不明
身長:157cm
スリーサイズ:まな板
長所:家事を完璧にこなす
短所:冷淡
知性:普通
特技:氷魔法

一人称「私(わたくし)」
二人称「あなた」


容姿:銀髪のショート、青い瞳、メイド服

特徴:エクレールに仕えるメイド。忠実で、受けた命令を徹底する。が、極端で、柔軟性がない。また、感情がないので、非常に冷淡に思われる。

礼を持って接すれば、ちゃんと礼を返してくれるが、無礼には無礼で返す。

一日に五回まで、瀕死の怪我からも無傷の状態に回復出来る能力を持つ。

エクレールに仕える前の記憶はない。

実は対魔王用に作られた人間。本能でエクレールに仕えたらしいが、エクレールは何も言わない。

基本的には留守番していて。部屋の植物達の世話は彼女が全部やっている。

「畏まりました」「御意」「はっ」「仰せのままに」など返事を変えるのは、彼女なりの遊び心。だが、気づいてもらえない。
55:🎏 ◆MEIDO...W.:2011/12/27(火) 23:49:46 ID:0Ipfh8jXB2
名前:エクレール
性別:女
種族:魔族
年齢:不明
身長:163cm
スリーサイズ:普通
長所:高いカリスマ
短所:不真面目
知性:高い
特技:雷魔法

一人称「私」
二人称「お前」


容姿:金髪ロング、メイド服

特徴:辺境の地ではなく、海に近い国を潰して、新たに城を作った魔王。人間とは国交を結びたいのだが、なかなか上手くいかない。

不真面目であり、戦闘中も遊ぶ。例:手は使わない。
殺る殺られるかの世界でこそ、人も魔族もさらなる高みへと近づけると信じている。

服に関してのこだわりが一切なく、世間一般で言う庶民の服など平気で着る。クローゼットは唯一のプライベートで誰にも見せない。

非常に口が悪い。

「可愛い」「綺麗」など言われることに慣れていないので、それを言われると照れる。ただし身内限定。




茄子さんに、ネージュとエクレール描いていただいた時に、私髪の長さとかどこにも書いてなかったのに、ぴったり一致したんだよね。結構びっくりしました。
56:🎏 ◆MEIDO...W.:2011/12/27(火) 23:51:46 ID:0Ipfh8jXB2
名前:ソリア
性別:女
種族:魔族
年齢:不明
身長:166cm
スリーサイズ:
長所:圧倒的な魔力量
短所:体力が低い
知性:高い
特技:見た物をすぐ覚える

一人称「私」
二人称「あなた」


容姿:黒髪ロング、白いローブ

特徴:魔王ランキング一位の魔王。圧倒的な魔力量とラーニング能力を武器に戦う。エクレール曰わく、チート。

エクレールとは旧知の仲で、お互いを良く知っている。エクレールは嫌っているが、ソリアの方は結構好いている。

得意な魔法はドラゴンの召喚(移動用)。基本的に相手が魔法を使うならば、同じ魔法で返し、格闘系なら同じ技で返す。

唯一の弱点である体力の低さだが、常に魔法でステータスアップしている為、無いも同じ。素の体力は人間の子供程度。




モデルは一番でチートの方。
57:🎏 真・スレッドストッパー:停止
停止しますた。ニヤリ・・・( ̄ー ̄)
45.23 KBytes

名前:
sage:


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