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ドラえもん のび太の電脳大戦記
[8] -25 -50 

1: :2012/5/2(水) 22:55:37 ID:NeNQDk43GY
ドラえもんのSSを書いていきます。
映画風なタイトルですけど、一つ問題があるとすると、俺映画のドラえもんは見たことないです。
なので、本当に映画っぽくするとかそういう作風ではないはずです。お気を付け下さい。
それでも良いという方は、最後まで頑張るつもりなので、何卒よろしくお願い致します。


2: :2012/5/2(水) 22:56:30 ID:NeNQDk43GY
時は22世紀。終身刑を言い渡された5人の時空犯罪者が脱獄をした。

「はあ……はあ……ほ、本当にうまくいくんだろうな?」

大柄な男は、その巨体を揺らしながら小柄な男に問いかけた。

「ああ、間違いない。1日程度時間を稼げれば……俺達は自由の身だ」

小柄な男はそう答え、空きビルへと姿を消していく。残りの4人もそれに続き、巨大な箱に自らを隠した。
それは追手を振り払うための手段であり、事実、5人を追っていたタイムパトロールは彼らを見失ってしまった。
3: :2012/5/2(水) 22:57:09 ID:NeNQDk43GY
「くそ、見失った!」
「まだ近くにいるはずだ!いいか、絶対に逃すんじゃないぞ!」

そんなやり取りの後、タイムパトロール達は街中に散らばっていった。……秘密道具使えばすぐ見つかるんじゃねーの?ってツッコミは御遠慮願いたい。
何はともあれ、一時的に追手をやり過ごした時空犯罪者達。しかしこのままでは再逮捕も時間の問題なのは誰の目からも明らかである。

「本当に大丈夫なの?私、ちょっと怖いんだけど」

薄汚れたビルの一室で、埃を払って腰掛けながら、5人の中の唯一の女が再確認を行う。
それに対して小柄な男は再度答える。

「大丈夫だ。間違いなく成功するはずだ……」
4: :2012/5/2(水) 22:57:51 ID:NeNQDk43GY
答えてから小柄な男はノッポな男にある物を調達するよう指示した。
彼らはたった今脱獄してきた身である。当然、金銭の類は持ち合わせていない。
となれば、調達方法は強奪しかないのである。それも、タイムパトロールがうろつく街中でやらなくてはならない。
当然ノッポな男は拒否したが、彼に拒否権はないようで、しぶしぶ調達に向かったのだった。

「はあ……はあ……と、取ってきたよ」

時空犯罪者達にとっては永遠とも思える長い時間、静寂。それらを打ち破ってノッポな男は戻ってきた。
その手には、小柄な男が指示した物があった。それを確認し、小柄な男の口角が上がる。

「よくやった。これで……これで全てうまくいくはずだ」
5: :2012/5/2(水) 22:58:29 ID:NeNQDk43GY
小柄な男が、調達してきたそれに向かって何か作業を始めてから数時間が経過した。
小柄な男の脱獄計画は順調に進んでいた。しかし、いつの世も悪事はなかなかうまくいかないもので……

「やばいぞ!ここがパトロール共に見つかった!」

計算外の事態を知らせたのは5人の中の1人、猫背の男の言葉だった。
その発言とほぼ同時にタイムパトロールがビル内になだれ込む。

「ここにいたぞ!」
「1人も逃がすな!」

計算ではもう少し時間が取れるはずだったが、この計算の狂いは想定外で、小柄な男の作業も途中だった。
6: :2012/5/2(水) 22:59:06 ID:NeNQDk43GY
「まずいな。まだ完成してないんだが……」
「ど、どうするのよ!?あんたがうまくいくって言うから脱獄に付き合ったのに!」

弱気な発言に女は思わず努号を浴びせた。それに臆する様子のない小柄な男は、冷静に残り4人にこう告げた。

「未完成なのは確かだ。不完全ではあるが……しかし脱獄には問題ないだろう。計画を実行するぞ」

そしてノッポを除く3人に、調達した物に近づくよう指示した。
7: :2012/5/2(水) 22:59:38 ID:NeNQDk43GY
「未完成」「不完全」という言葉に恐怖を覚えたのか、女はその指示に従おうとはしなかった。
しかし、
「時間がない!刑務所に戻りたいのなら勝手にしろ!」
と、小柄な男に言われ、しぶしぶ指示に従ったのだった。
こうして調達した物を取り囲んだ4人。それを確認して小柄な男はそれを起動する。
それと同時にタイムパトロールが部屋に飛び込んだ。

「もう逃げられないぞ!」

そう叫びながら銃口を時空犯罪者達に向けた。
8: :2012/5/2(水) 23:00:13 ID:NeNQDk43GY
突入したタイムパトロールが目にしたのは、バタバタと倒れる4人の姿だった。
その手にある銃を時空犯罪者に発射したわけではない。勝手に倒れてしまったのだ。
それに動揺したタイムパトロールは、調達した物を持って走るノッポをまたも逃してしまった。

「くそ、俺は奴を追う!お前はそこの4人を頼む!」
「あ、ああ。頼む!」

逃げたノッポを残りの仲間に託し、空きビルに残されたタイムパトロールは倒れた4人の安否を確認。その結果、絶句する他なかった。

「……う、嘘だろ?」

4人は既に事切れていたのだ。
9: 今日はここまで:2012/5/2(水) 23:01:14 ID:NeNQDk43GY
一方、唯一逃亡を図ったノッポもまた、謎の死を遂げた。何故かデパートに逃げ込んだノッポは、ホビーコーナーの一画で亡き者となっていた。
何人かのタイムパトロールが、彼が逃亡の際に何かを持っていたのを確認していた。しかし、彼の死体からはそれが見つからなかった。
何か重要な物である可能性も考慮し、死体収集を終えた後、近辺の捜索を行ったが、結局それらしい物は見つからなかった。
当の5人も死亡しているし、もう真相を知る術はないと判断、タイムパトロールは捜査を切り上げたのだった。

こうして時空犯罪者の脱獄劇は死という形で幕を閉じた。……少なくとも、タイムパトロールは、世間は、そう思っていた。
しかし彼らは知らなかった。この5人の脱獄計画は未だ終わっておらず、最悪な形で実行されてしまうことを……
10: :2012/5/3(木) 14:17:18 ID:NeNQDk43GY
「ドラえも〜ん!」

ジャイアンに苛められた僕はいつものようにドラえもんに泣きつく。
腕力で敵わない僕にはドラえもんしか対抗手段がない。馬鹿で間抜けな僕の唯一の味方で、僕の人生に希望を灯してくれた頼れる狸型ロボットさ!

……一応自己紹介をしておこうと思う。僕の名前は野比のび太。自分で言うのも悲しいけれど、何の取り柄もない小学5年の男の子だ。
だけど今の僕には大切な存在がいる。さっき言った狸型ロボット、ドラえもんだ。……猫?何のこと?
ドラえもんは遠い未来……22世紀からタイムマシンでやってきた。何でも、悲惨な僕の未来を変えるためにやってきたそうな。
このドラえもんのおかげで僕の人生は一変したんだ!ダメな僕を支えてくれる、とても便利なロボットなんだ。
……ケチケチしてるのがたまにきずなんだけど。

「何?言っておくけど、秘密道具は貸さないよ」

ほらね。
11: :2012/5/3(木) 14:17:57 ID:NeNQDk43GY
「何でだよ!僕、ジャイアンに苛められたんだよ!ドラえもんの道具がないと仕返しできないじゃないか!」
「何でのび太くんは自分の力で解決しようとしないの!」
「僕だけの力でジャイアンに勝てるわけないじゃない!」
「なんで最初から諦めるの!男の子でしょ?自分の力で立ち向かう努力をしようよ!」
「何で無駄な努力をする必要があるのさ?ドラえもんの力を頼って何が悪いのさ!」
「無駄じゃないよ!のび太くんが努力を続ければ、最後には絶対にうまくいくよ!努力しても駄目だったら、その時は僕だって力になるよ!」

……今日はなかなかにしぶとい。こうやって協力してくれない時は、あの作戦に限る。
12: :2012/5/3(木) 14:18:43 ID:NeNQDk43GY
「あ、ドラえもん。そこ、ネズミがいるよ」

それを聞いた瞬間、ドラえもんは飛び跳ねた。
ドラえもんには苦手な物がある。それは今のでわかると思うけど、ネズミだ。
こうしてネズミがーって叫んでおけば、後は勝手に混乱してくれるんだ。ドラえもんをディズ○ーランドに連れてったらどうなるんだろうね。ハハッ!

「ネズミー!いやー!ネズミー!」
などとはしゃいでるドラえもんの腹部から、ポケットをお借りする。大丈夫、死ぬまで借りる、なんて言いだしたりはしないから。
13: :2012/5/3(木) 14:19:32 ID:NeNQDk43GY
ドラえもんの腹部にあるポケット。これは普通のポケットではない。
このポケットの正式名称は四次元ポケットっていうんだ。何でも入っちゃう魔法のポケットさ。
そしてその中には不思議な秘密道具が詰まってるんだ。
一瞬で遠くまでいけるようになるドア、空を自在に飛べるようになる装置など、夢のようなアイテムがたくさん詰まってる。いいでしょう?
僕はこれを用いて、苛めたジャイアンに報復するんだ。今日もばっちり仕返ししたよ。

こんな感じで僕らの日々は流れていた。僕の人生にはいつだってドラえもんが傍にいて、ぐちぐち文句を言いながらも協力してくれる。
だからダメ人間な僕でも輝かしい未来を夢見て毎日を過ごせるんだ!

……こういう風に思ってた。でも、人生の転機って本当に突然来るんだなあって、思い知らされる日が来るんだ……
14: :2012/5/3(木) 14:20:18 ID:NeNQDk43GY
その日、僕はスネ夫に呼ばれて、家に向かっていた。その道中で1人の女の子と出会った。

「あら、のび太さん。のび太さんもスネ夫さんに呼ばれたの?」
「あ、しずかちゃん!そうなんだよ〜」

今僕がしずかちゃんと呼んだ女の子、名前は源静香っていうんだ。本当にかわいい女の子で、僕はもうメロメロ。
これが本当に映画作品で、映像がついてたら皆にも見せてあげられるのにね。残念!しずかちゃんの可愛さは僕が独り占めするよ。

「急に呼び出して何なんだろうね?」
「スネ夫さん、何か見せたい物があるって言ってたわ」

また自慢か。あの金持ちは本当にろくなことしないんだから。
でもまあその見せたい物には純粋に興味があるし、しずかちゃんと並んで歩ける今は至福でしかない。だったら行くよ、スネ夫ん家にだってさ。
15: :2012/5/3(木) 14:21:21 ID:NeNQDk43GY
そうこうしてるうちにスネ夫の家に到着。相変わらず豪邸だなあ、ここの家は。
そしてその玄関前にはあいつの姿が。

「ようのび太!しずかちゃんも一緒か」

さっきから名前だけはちらほら出ているこの男、ジャイアンである。
ジャイアンっていうのはあだ名で、本名は剛田武っていうんだ。この男が傍若無人のド畜生で、僕は度々こいつの暴力の犠牲になってる。
だけどたまに、本当にたまに、ごく稀に、良い奴になっちゃうから憎みきれない。普段はドラえもんの道具で仕返しもできるしね。
その腐れ外道、ジャイアンと合流した僕達は、三人そろって呼び鈴を押した。
16: :2012/5/3(木) 14:22:11 ID:NeNQDk43GY
「やあ、よく来たね君達」

出てきたのはとんがりコーンひじき味、じゃなかった、僕達を呼び出した張本人、スネ夫だ。
この骨川スネ夫は金持ちの息子だ。世紀末リーダー伝たけしで言うと、社長の息子ポジション。
自分の手柄でもないのに、金の臭いをばらまいては自慢する、世紀末ヘアファッションのおぼっちゃまだ。

「よう、スネ夫。見せたい物ってなんだよ?」
「まあまあジャイアン慌てないで。ほら、皆上がりなよ」

言われて僕達はお邪魔する。いつものように遊ぶ時の部屋へと歩を進める。
こうしていつもの豪華な部屋へとたどり着いた。ただ、そこには見慣れない物もあった。
17: :2012/5/3(木) 14:22:57 ID:NeNQDk43GY
「おお!それプレステ3じゃねえか!」

ジャイアンの発言で僕はテレビ方向へ目をやった。でかいテレビの前に何か機械が設置されてる。
それは先日発売されたばかりのゲーム機「プレイステッカー3」だった。……決してステーションではない。決して。

「実は僕のパパの知りあいにゲーム会社の社長がいてね。最新ゲーム機をソフトとセットでプレゼントしてもらったのさ」

スネ夫は早速得意技を繰り出した。そう、それは「パパの知りあい」である。
顔の広いスネ夫のパパは、何故かいろんな物を恵んでもらえる立場にあるらしい。そしてその甘い汁をこのとんがりコーンひじき味が啜るシステムだ。
18: :2012/5/3(木) 14:23:36 ID:NeNQDk43GY
「セットでもらえたソフトはなんだよ?」
と、ジャイアンが確認すると、とんがり(ryは後ろ手で隠していたソフトを高々と掲げた。

「名作間違いなしと言われてるRPG、ドラクエ10さ!」

なんとスネ夫の持ってたソフトは発売前から話題になってたゲームソフト「ドラコンクエスト10」だった。……決してドラゴンではない。決して。
19: :2012/5/3(木) 14:24:26 ID:NeNQDk43GY
ジャイアンがおーっと声を上げる中、スネ夫はプレステにソフトを入れて起動した。

「せっかくだから皆で楽しもうと思って皆を呼んだんだ」

その発言に、ウィンドミルで喜びを表現しようとした(ウィンドミルできないけど)その時だった。
そう、僕は忘れていたのだ。スネ夫にはもう一つ得意技があったことを。

「……ただ、残念なことに、このゲーム3人用なんだ。悪いけどのび太は帰ってもらえるかな?」

……これだよ。いつもこれだよ。なんか知らないけどいつも僕だけ仲間外れにするんだよ、この気違いヘアーは。
20: 今日はここまで:2012/5/3(木) 14:25:30 ID:NeNQDk43GY
「な、何でだよ!僕も一緒にやったっていいじゃないか」
「だから言ってるだろう?このゲーム、3人用だって」
「そんな中途半端な人数制限あるかよ!パッケージにだって4人用って……違う、そもそも1人用じゃないか!」
「そんなの誤植だよ。3人用だって言ってるだろう?」

この言いあいにジャイアンも参戦する。

「のび太のくせに往生際が悪いぞ!いいから帰れよ!」

拳を振り上げた状態でそう言われると、僕にはもう従うことしかできない。
その拳が自らの頭に落ちる前に、僕は回れ右して退散するしかなかった。
21: :2012/5/4(金) 00:53:03 ID:NeNQDk43GY
仕方なくスネ夫ハウスを後にした僕。その瞬間に悔しさがこみ上げる。

「う……うぅ……うわああぁぁん!!」

僕は泣きながらその場を駆け出した。この時のスピードは尋常じゃなかったなあ。
たぶんウサイン・ボルトと100m勝負しても互角に渡り合うような、それくらい速かったと思う。
そんな超スピードで僕が向かったのは、ドラえもんが待っている愛しの我が家である。そう、こんな時はドラえもんに泣きつくに限る。
僕は自宅に戻ると即座に階段を駆け上がり、狸型ロボットの待つ自室へ帰還した。

「ドラえも〜ん!」
「どうしたの、のび太くん?」

どうやら今日は案外素直に話を聞いてくれる日のようだ。そういう日は話がサクサク進むからいいんだよね。

「スネ夫の奴が……詳しくは読んできてよ」
「わかったよ。ふむ……こ、これは酷い!」
22: :2012/5/4(金) 00:53:47 ID:NeNQDk43GY
ドラえもんは話を読み返してくれ、更には僕に賛同してくれた。これは非常に良い流れだ。
この好機をやすやす見逃すほど僕は落ちぶれてはいない。最強機械人形を味方にすべく一気にたたみかける。

「あの腐れ坊ちゃんをも黙らせるような素晴らしい秘密道具を出してよー」
「それが……ちょっと該当するような秘密道具がないんだ」
「あらら」ズコー
「……ドラえもんに詳しい読者の諸君、この場面に相応しい道具があったとしてもツッコまないでね」
「ドラえもん、何を言ってるのさ?」
23: :2012/5/4(金) 00:54:48 ID:NeNQDk43GY
とち狂ったピザ狸が変なことを言い出したけど問題はそこじゃない。どうやらスネ夫をぎゃふんとかひぎいとか言わせるような道具はないみたいだ。
それならこの狸に用なんてない。使えないこの狸にどう天罰を与えてやろうかと考えてた時、機械は再び音声を流し始めた。

「……そうだ!スネ夫が持ってたゲームはなんていうタイトルだった?」

それを知ってどうするつもりだ、と言いかけたけど、言ったところでやり取りが2、3行増えるだけだ。無駄な労力を好まない僕は素直にタイトルを告げた。
するとハゲ狸はタイムマシンに乗ってどこかへと出かけていってしまった。逃げたかな?
すぐに帰ってくる様子もなく、無駄に時が流れるのを好まない僕は、時間を有効活用するべく眠りにつくことにした。
24: :2012/5/4(金) 00:56:35 ID:NeNQDk43GY
僕が夢の中で素敵な時間を送っていると、やっと帰ってきたのだろう、ドラえもんの声によって起こされた。

「もう、なんだよ。せっかく夢の中でジャイアンをカナディアンデストロイで倒したところだったのに」
「どういう技だよ、それ。それより、ほら!これ見てよ!」

ドラえもんの手には見慣れない機械があった。新しい秘密道具だろうか?

「これは22世紀から買ってきた最新ゲーム機のプレステ20だよ!」

なんとドラえもんがタイムマシンに乗ってどこかへ行ったのは、ゲーム機購入が目的だったそうな。
更にドラえもんは続ける。……続けるんだけども、ちょっと長くなりそうだから詳しくは次のレスで書こう。
25: :2012/5/4(金) 00:57:50 ID:NeNQDk43GY
以下、ドラえもんの説明。

のび太くんが言ったタイトル……ドラクエは僕にも聞き覚えがあった。
だから未来でもシリーズが続いてるソフトじゃないかと考えたんだ。
そこで未来に帰ってみると、案の定、最新作のドラクエ50が売られてたよ。
現代ではスネ夫の持ってるプレステとドラクエが最新作……同じ物を買ってもスネ夫に対抗するには弱いかもしれない。
でも、未来の最新作ならスネ夫は買うことはできない。これなら対抗し得る力となる。スネ夫に自慢し返せるでしょ。

……だってさ。
26: 今回はここまで:2012/5/4(金) 00:58:40 ID:NeNQDk43GY
「これでスネ夫にらめえおかしくなっちゃうぅって言わせることができるよ!」
「ありがとうドラえもん!愛してるよ!」

さっすがドラえもん。ここぞって時に頼りになるんだからあ。
もうホント……青色が素敵。よっ、狸界のプリンス!マジでブルーコスモス。青き清浄なる世界のために。
27: :2012/5/4(金) 12:00:40 ID:NeNQDk43GY
ドラえもんのファインプレイに気を良くした僕は、自慢するために行動に出た。
ドラクエ50購入から数日が経過して、その日は日曜日だった。
僕は休日を利用してしずかちゃんとブタゴリラとひじきバランを家へと招待した。
スネ夫はこないだの件を掘り返して自慢げにアヒル口をしてきたけど、プレステ20を見た途端に愕然としていた。アヒル口は直らなかったけど。

「の、のび太!これどうしたんだよ!?」

僕はうろたえるスネ夫へと経緯を説明してやった。これは本当に気持ちいい。今日この瞬間のために生まれてきたと錯覚するくらいだ。
悔しがるスネ夫の横で、デブとしずかちゃんは未来のゲーム機に興味津津だ。

「おい、のび太!これ、俺にやらせろよ!」
「のび太さん、私達もやっていいの?」

僕はorz状態になってるスネ夫を横目に、
「いいよ!僕はどこかの勝手に人数制限かける腐ったとんがりコーンとは違うからね!」
と言ってやった。スネ夫がorzからor2に進化している。ざまあないぜ!
28: :2012/5/4(金) 12:01:38 ID:NeNQDk43GY
とにもかくにもゲーム開始だ。しかしここで根本的な疑問が生まれた。

「……ドラえもん、プレステ20ってどうやるの?」

現代に輝く僕が、遥か未来のゲーム機のことなどちんぷんかんぷんで、うまいこと扱えるわけがなかったのだ。
じゃあどうするのかって?こうするしかないでしょう。

「ドラえもん、プレステ20は任せたよ!」

こういう時はドラえもんに任せるに限る。大丈夫、大体のことはドラえもんが解決するように世界はできてるんだ。
ドラえもんも自分が設置することは覚悟していたのか、案外素直に作業に取り掛かった。

……さて、ここから少しの間、ドラえもんが語り手ポジションの方が都合がいいと思う。そんなわけでちょっと交替するよ。ドラえもん!
29: :2012/5/4(金) 12:02:44 ID:NeNQDk43GY
僕、ドラえもんです!というわけで、ここから少しの間、僕が語り手となるよ。

未来のゲーム機を扱うのは厳しいと判断してか、のび太くんは僕に任せた。僕も最初からそのつもりだったし、さっさと取り付けるとしよう。
と言っても、やることは現代とそう変りないんだ。機械とテレビをケーブルでつないで、コンセント刺して起動。ほらね、変わらないでしょう?
のび太くんはもっと未来的なハイテクを期待していたのか、露骨にがっかりしていた。
……うふふふふ。すごいのはここからなんだよ?

「あとはソフトを入れて……はい、これで準備完了だよ!」
「なんだか普通だね。拍子抜けしちゃった」

こんな感じでがっかりしてるのび太くんにコントローラーを握らせる。
テレビ画面には起動したドラクエ50の画面が出ている。「最初から」「続きから」「オプション」の文字が並び、矢印は「最初から」を指している。
30: :2012/5/4(金) 12:04:00 ID:NeNQDk43GY
当然僕達は初めてやるのだから、最初からを選ぶよう指示する。

「わかったよ。さーて、どんなゲームなのか……」

と言っていたのび太くんが突然その場に倒れ込んだ。
当たり前だけど皆は慌てていた。

「お、おい!のび太!?」

のび太くんの元に駆け寄るジャイアン。普段はイジワルしちゃうけど、本当は気にかけてくれてるんだよなあ。なんだかんだいい友達だよ。
そんな良きお友達を安心させるため、ゲームの仕組みをジャイアンに教えてあげた。

「うふふふふ……実はね、今のび太くんはゲームの世界に移動しているんだ」
31: :2012/5/4(金) 12:05:17 ID:NeNQDk43GY
ワッツハプン状態のジャイアンに理解させるため、僕は少し長めの説明に入った。

未来では画期的なプログラムのシステムが導入された。
それは、人間の魂をゲーム世界に移すというものだ。簡単に言えば魂限定のグリードアイランドだ。
これによって様々な利点が生まれた。
まず、画面前でプレイするよりリアルで迫力あるプレイが可能となったこと。当たり前だ、ゲームの世界に入ってるのだからリアルに違いない。
更に、生身で画面を直視する必要がないため、視力低下の問題が生じなくなった。
極めつけは、ゲーム時間と現実の時間は流れが別なのだ。精神と時の部屋のようで、長い間大冒険に身を投じても現実では数分しかかからない。
導入当初こそ魂を移すのは危険ではないかと問題視されたが、導入後に死亡事故などが起こることもなく、やがてゲームの主流となるまでに至ったのだ。

「……というわけだから、のび太くんの魂がゲーム世界にいってるんだよ」
「最初から、続きからが選ばれたときに、コントローラーを持ってる人間の魂をゲーム世界に移すようにプログラムされてるんだ」
「今ここにあるのはのび太くんの抜け殻ってわけさ」
32: :2012/5/4(金) 12:06:12 ID:NeNQDk43GY
一気に説明したことで、とりあえずは理解してもらえたようだ。

「ドラえもん、これは俺達もできるのか?」
「もちろん!入るのは1人ずつだけど、特に人数制限が定めてあるゲームじゃないからね!」

それを確認したジャイアンは、勢いよくコントローラーを握ると、
「待ってろのび太!今そっちに行くぜ!」
などと言いながらゲーム世界へと旅立った。
しずかちゃんも恐る恐るジャイアンに続いて冒険へ。残るは僕とスネ夫だ。
33: 今回はここまで:2012/5/4(金) 12:07:05 ID:NeNQDk43GY
いじけてるスネ夫に向かって僕はこう言った。

「スネ夫はやらなくていいの?」
「……やるよ畜生!」

そういってコントーラーを握ると、間もなくゲーム世界へ出発した。
さて、最後は僕だ。そろそろ語り手ものび太くんに戻ってもらおう。
……最後に一応言っておくけど、僕は猫型ロボットだからね!誰が狸だ!
と、言っておいて……ゲーム世界へ向かうと同時に語り手をのび太くんにバトンタッチだ。
34: :2012/5/5(土) 00:38:18 ID:NeNQDk43GY
もう、何これ!?なんなのここ!?
僕さっきまでゲームやろうと思ってたのに、何か草原に投げ出されてさあ!泣きそうだよもう!
ゲームって家で画面に向かってやるものでしょう!?マジここどこなの?
くっそー、あの糞狸、わけわからんもの買ってきやがって!ぜってー許さんからな!

……みたいな感じで突然知らない土地に投げ出され、泣きそうになってたわけだけど、しばらくしてから豚饅頭、しずかちゃん、トゲ頭がやってきた。
そしてドラえもんが教えてくれたという説明を受けた。最初に言えよ!怖いだろ、急にこんなことなったら!
やがて戦犯の狸もやってきた。事情を知った僕は怒りの言葉を吐きかけた。
35: :2012/5/5(土) 00:38:58 ID:NeNQDk43GY
「ごめんごめん。驚かしてやろうと思ってさ」

驚くってレベルじゃなかったよ、ホントに。……まあ無事だったからいいけどさ、もう。
少し落ち着いたのでゲーム世界を見回してみる。

そこは広大な草原だった。
透き通った青い空の下に広がる生い茂った緑。地平線の彼方まで続く綺麗な緑に僕は思わず息を呑んだ。
生い茂った草原という景色はきっと地球上にいくつも存在するのだろうが、ここはそのどれよりも美しい。
全てを知ってるわけでもないのに、そう確信させるまでに幻想的な草原だった。
36: :2012/5/5(土) 00:39:28 ID:NeNQDk43GY
「見ろよ、あそこに街があるぜ」

余韻に浸ってるところを豚ボイスで邪魔された。

「きっとあそこが最初の街だね。行ってみよう!」

そう言ってドラえもんが駆け出したので、僕らはそれに続いた。
記念すべきドラクエ50の初めての街へと向かって。
37: :2012/5/5(土) 00:40:14 ID:NeNQDk43GY
その街は城壁に守られたいた。
草原に住み着いているであろう魔物共の侵入を拒む高き壁。外から確認できるのは、その壁から飛び出るほどの高さを誇る城だけだ。
その出入り口を見張る2人の兵士からチェックを受け、それから街中へと歩を進めた。
中の様子は古代を思わせる石畳とレンガの街並みだった。ああ、異空の地に冒険へ来たのだという気分が強まる。良い感じだ。

「すっげーなあ!」

ジャイアンがその世界観に驚嘆している。僕だってそうだ。
その気持ちは皆も共通のようなんだけど、ドラえもんだけはなんだか慣れた様子だった。ホントに未来じゃこれが当たり前なのか。
38: :2012/5/5(土) 00:41:05 ID:NeNQDk43GY
「最初の街に来たんだから、イベントが起こってもいいのにね」

ってドラえもんが言った瞬間に、そのイベントとやらが起こったようだ。

「おお、あなた方はもしや異境からやってきた勇者様では?」

やってきた馬車から声がすると思ったら、ある人物が下りてきた。
僕は彼を知らないけどこれだけは間違いない。この人、王様だよ。THE王様って感じの格好をした小太りのおじさんだった。
39: :2012/5/5(土) 00:41:54 ID:NeNQDk43GY
イエスもノーも言ってないのに、王様ルックのおじさんは勝手に勇者だと解釈していた。

「やはり勇者様でしたか!ようこそおいでくださいました!」

王様と思われるおじさんは僕らを勇者と決めつけると、大げさにかしこまった。。
だがしかし、僕は勇者のゆの字にすら心当たりがない。仕方なく僕はドラえもんに尋ねる。

「僕らって勇者なの?」
「説明書を読んできたからね、プレイヤーはそういう設定なんだって」
40: :2012/5/5(土) 00:42:58 ID:NeNQDk43GY
ドラえもんから確認すると同時に、王様は馬車内に入るよう促した。

「実は勇者さまに折り入って相談したいことがございます。よければ城まで来てくださいませんか?」
「……どうする?」
「いや、こりゃ断ってもループするパターンだぞ。ゲームも進めたいし素直に聞こうぜ」

僕が皆に訊いたところ、ジャイアンに先ほどのように言われたので、僕達は馬車で城に移動することにした。
馬車に揺られて間もなく城に到着した。外から見ても巨大だったのだ。近くから見るともっと大きく見える。
あんまり立派な城だから、僕なんかが入っていいのか?と疑問に思えてくるほどだ。
しかし王様は微塵もそんなことは考えてないようで、皆も皆で堂々入っていったから、僕はそれについていく形で入城したのだった。
41: :2012/5/5(土) 00:43:43 ID:NeNQDk43GY
RPGで王様と女王様がセットになって居るような、いわゆる王の間につれてこられた。
王様はそこの豪勢な椅子に腰かけると、僕達に向けて言葉を発し始めた。

「さて、相談というのは他でもありません。……魔王のことです」

こちらもRPGではお約束の存在、魔王という単語が出てきた。
それから王様は本格的にこのゲーム世界の現状を語り始めた。
42: :2012/5/5(土) 00:44:41 ID:NeNQDk43GY
平和に過ごしてた人々の生活を突然魔物達が脅かし始めた。
平和な人の世を守ろうと、人々は魔物に立ち向かったが、まるで歯が立たなかった。
人は魔物に殺され、村や町も潰され、ついにはこの王都陥落の危機にまで陥った。
人々が絶望にまみれたその時、有名な王都の予言士の言葉から、わずかな希望が産声を上げた。
異境の地よりやってきた勇者(僕達のことみたい)が世界を救うという予言が読まれたのだ。
そして予言通り勇者はこの世界にやってきた。だからこの世界を救ってほしい……王様が言うには、こういう世界観だそうだ。

……普通だ。僕は率直にそう思った。
50までシリーズが続いてるんだから、世界観ってどうなってるんだろうと思ったけど……いつの世もストーリーは王道がいいってことなのかな。
43: 今回はここまで:2012/5/5(土) 00:45:36 ID:NeNQDk43GY
「どうか……どうか世界を救ってください!」

そう言って王様は頭を下げた。
こちとらゲームプレイのために、すなわち世界救済のためにこの世界に舞い降りたのである。断る理由がどこにあるもんか。
ということで、僕達は快くそれを引き受けた。

「王様、邪悪なる魔王は僕達が討ちとってみせます!」

僕らを代表してドラえもんがそう告げる。ドラえもんってどう見ても魔物側だよねって言ったらドラえもん怒るかな?
けっこうシリアスなこの場面で怒られても仕方がないので口には出さなかった。そんなことを思ってる間に話はついて、僕達の冒険に明確な目的が誕生した。

「シンプルに魔王を倒せばクリアってわけだね」

今スネ夫が言った通りである。これから世界を救う冒険が始まるんだ。わくわくするなあ。
44: :2012/5/5(土) 22:09:44 ID:NeNQDk43GY
城を後にした僕達は、今後について相談していた。

「これからどうしたらいいのかしら?」
「まずはお店に寄ってみるべきじゃないかな?」
「武器屋に行こうぜ!魔王をなぎ倒す力は必要だろ!」

小学生各位が思うところを好き勝手ぶちまける。……特に書いてないけど、どれが誰の台詞かはわかるよね?
それを聞いてた僕はある疑問が浮かんだので、ドラえもんにひとつ訊ねてみた。

「……僕達、お金って持ってるの?」

それを聞いてスネ夫が言葉が重ねてきた。

「ていうか、ステータス画面とかはどうやって確認するのさ?」

僕とスネ夫のツイン質問に動じる様子もなく、ドラえもんは説明書知識をひけらかし始めた。

「うふふふふ。皆、目を瞑ってごらん」
45: :2012/5/5(土) 22:10:59 ID:NeNQDk43GY
もったいぶってねーでストレートに教えろや、なんて考えたけど、こんなところでもめても仕方ない。僕は素直に従って目の前を暗くした。
するとあら不思議。暗くなるどころか目の前には鮮明なるある景色が広がっていた。

「目を瞑ることでステータス画面が脳裏に浮かぶように設定されてるんだ」

狸の言うとおり、そこにはRPGでよく見る画面が映し出されていた。
そこにある項目は「つよさ」「所持金」「経験値」「マップ」の四つ。
「話す」や「調べる」、「装備」はないのかと一瞬思ったが、当たり前だ。ゲーム世界に入ってるんだからそんなの自分でできる。でもないのはちょっと寂しい。
感覚を説明するのは難しいが、脳裏に浮かんだその画面はコントローラー操作のように自在に動かせた。
僕は早速所持金を調べてみる。50Gだった。まあこんなものだろう。
とんがりひじきはマップを調べたようで、あそこにあんな店がある、とか言っていた。
その発言を頼りに僕達はある場所へと向かった。

それは「ダーマの酒場」と呼ばれる酒場だった。……混ざってない?
まあそれはともかく、ここではキャラクター、つまり僕達のゲーム内での職業を決められるそうだ。
46: :2012/5/5(土) 22:11:30 ID:NeNQDk43GY
「RPGではメンバー全員でバランス良くなるよう職業を決めるのがいいんだ」

当たり前のことをブラックバランがドヤ顔で喋り出した。
うるせえそのアヒル口縫い付けるぞって言おうとしたが、しずかちゃんの発言に遮られた。

「まあ、スネ夫さんって物知りなのね」

僕がドヤ顔で喋ればよかった。
まあ後悔しても仕方がない。とりあえず皆と相談しながらの職業決めが始まった。
47: :2012/5/5(土) 22:12:36 ID:NeNQDk43GY
まずジャイアン。これは本人含めて意見が全員一致したのでさっさと転職。
「これで俺は戦士だぜ!魔物を片っ端からぶっ殺してやる!」

次にしずかちゃん。本人は皆に任せるといい、皆の意見も一致したのでこれに。
「私は僧侶かあ……皆を回復してあげればいいのね?」

ここから少しもめた。本人の希望と皆のイメージが一致しなかったのだが、多数決でスネ夫はしぶしぶこの職についた。
「商人って全然勇者一行っぽくないじゃないか!ママー!」

僕も多数決の餌食となった。僕は勇者になりたかったのに、最終的には強制されてこんなことに……
「何で僕は遊び人なのさ!皆みたいにちゃんとしたのになりたかったよ!」

最後はドラえもん。魔物という職業がなかったのと、勇者一行なのに勇者が一人もいないのはまずいということで、
「僕が勇者だ!うふふふふ、世界を救うぞお!」

……なんかいろいろと納得できない。ていうかこれもうイメージの問題じゃないか。バランスはどこいった?
48: :2012/5/5(土) 22:13:21 ID:NeNQDk43GY
こうして僕達は奇妙な勇者達へと変貌を遂げた。装備などに関しては、まだお金が少ないということでこの街では見送り。
このゲームのセーブポイントだという宿屋でセーブしてから、ついに本格的な冒険が始まりを告げた。

「相変わらずすごい草原だな〜」
と漏らしつつ、僕は目を瞑ってマップを確認する。
視認ではどこまでも草原が続く感じだが、マップ確認によって、この街から西に行けば村があることがわかった。

「まずはここが目的地だね」

ドラえもんがそう言うと皆はそれに頷く。考えることは皆一緒だ。
というわけで、僕達はこの村を目指して歩き出したのだった。
49: :2012/5/5(土) 22:14:02 ID:NeNQDk43GY
今まで触れなかったけど、この草原、普通に魔物がいる。
マップ上を自由気ままに魔物達がうろついてるのを見る限り、シンボルエンカウント制のようだ。

「敵を倒して金と経験値を集めようぜ!」

とジャイアンが言ったから、今日は魔物記念日。そんな記念日を飾る魔物はRPGのお約束、スライムである。
マップ上のスライムに接触して早速バトル開始。すると僕達の頭上に突然数字が浮かんだ。
50: :2012/5/5(土) 22:14:38 ID:NeNQDk43GY
「これがHPだよ。0にされないように気をつけてね」

僕らの説明書、ドラえもんはそう説明した。
ぷるぷるしている目前の魔物を半ば無視して、僕は戦闘における疑問をぶつけてみた。

「ドラえもん、バトルってどうやるの?」

これは普通のRPGではない、ゲーム世界に自分が来て、自分が戦うのだ。
となれば、この世界でのバトルルールがよくわからない。だから説明が欲しいところなのだ。
51: :2012/5/5(土) 22:15:51 ID:NeNQDk43GY
「うふふふふ、よく見ててね」

と言ってドラえもんはスライムと向き合った。自ら手本を見せる気らしい。勇者になったから浮かれてんのかな?

「ゲームだけど、基本的には現実的な戦いと一緒だよ。ターンはなく、攻撃で相手を懲らしめるんだ」

ターン制でないのはわかった。んで、攻撃も相手を倒せるならなんでもいいのかい?
って思ってたら、そうじゃなくて、ダメージを与えるルールは次のような物が存在するらしい。
1、自分の体で直接攻撃。
2、この世界の武器を用いて攻撃。
3、この世界の魔法を用いて攻撃。
……以上の三つが「HPの数字を減らす」のに有効な行動だそうだ。
一応ドラえもんには四次元ポケットがあって、攻撃的な道具も使えるけど、それではHPの数字を減らすことはできないらしい。
事実、ドラえもんの空気砲ではスライムを倒すことができなかった。

「……こんな感じで戦闘していけば大丈夫だよ」

スライムの頭上に表示されたHPを0にして、ドラえもんはそう言った。結局は疑似リアルファイトじゃないか。何このジャイアン無双。
52: :2012/5/5(土) 22:17:03 ID:NeNQDk43GY
とりあえずこれらの戦闘で痛みは感じないらしい。ただし、HPの数字はしっかり減るので、その辺は気をつけないといけない。
レベルをあげまくる!と張り切って魔物に突っ込むジャイアンを放置して、僕はあることを確認した。

「ねえドラえもん。HPが0になるとどうなるの?」

そう、ゲーム内での僕達の命、HPのことである。

「大丈夫。魂がゲーム機の前にある体に戻るだけだよ。やられたプレイヤーは「続きから」でセーブしたところからやり直せるよ」
53: :2012/5/5(土) 22:17:51 ID:NeNQDk43GY
そんなことを言ってる間に、メンバーの中の1人が危篤状態にまで陥っていた。

「ねえドラちゃん、私のこの数字、少なくなってきてるんだけど大丈夫?」

……そう、しずかちゃんである。どうやらスライムがかわいくて戯れてるうちに危篤状態になったみたいで。
ドラえもんは丁寧に、さっき僕にした説明を皆にしていた。よくよく聞くと死ぬことでの所持金のペナルティなどもないみたい。イージーだね。

「じゃあしずかちゃんがやられたら、さっきの街まで迎えにいくとして、今は修行しようぜ!」

脳筋肉団子がそう提案し、確かにペナルティがないならそれもいいかと、僕達はレベル上げに勤しむことにした。
54: :2012/5/5(土) 22:18:44 ID:NeNQDk43GY
順調にレベルが上がり、皆がレベル5くらいになった時、それは訪れた。

「あ……0になっちゃった」

しずかちゃんのHPが0になったのだ。
すると、しずかちゃんの姿が足元から砂のようにさらさらと空気に溶け始めた。これがゲームオーバーの演出らしい。
やがてその全身は完全に空気と同化、この場から綺麗さっぱり消えてしまった。

「これでしずかちゃんは今現実世界に戻っているはずだよ。皆で宿屋まで迎えに行こう」
「ついでに貯まった金で装備やアイテムを買おうぜ!そして次の村へレッツゴーだぜ!」

ドラえもんやジャイアンにそう言われ、反対する理由も見つからないので、その方向で行動しようとした、その時だった。
55: :2012/5/5(土) 22:19:51 ID:NeNQDk43GY
「あー、あー、聞こえてるかね?プレイヤー諸君」

知らない誰かの声が頭に直接響いたのだ。
それは僕だけじゃないようで、皆の表情にも動揺が見て取れた。
中でも一番動揺しているのはドラえもんのようで、それで僕はこの声がイレギュラーなものなのだと理解した。
56: :2012/5/5(土) 22:20:59 ID:NeNQDk43GY
「君達の仲間が今、HP0になったはずだ。いやあ残念だったね」
「だけど君達にはもっと残念な報告をしなくちゃならないんだ」
「実はこのゲーム、正規な物じゃないんだ」
「こっちの都合でね、HPが0になると魂が体に戻るんじゃなくて、このゲーム内に縛りつけられるよう改造しちゃってんだ」
「ホント悪いねえ、でもこっちにも都合があるから」
「たぶん君達のうち一人でもクリアする奴が出たら、HP0になった仲間は現実に戻れるはずだ。これから先0になる奴も含めて」
「だけど、君達全員ゲームオーバーになれば、皆で仲良くゲーム世界に閉じ込められるってわけだ」
「デバッグしてねえから何とも言えないけど、たぶんちゃんとそういう感じでプログラム働くだろうよ」
「ま、そういうことだ。精々クリア目指して頑張ってくれ。俺は全員ゲームオーバーを願っておくよ」

長々と喋ってから、謎の声は響かなくなった。まあそれはいいや。
……今、この声はなんて言った?もう現実には戻れない?
57: :2012/5/5(土) 22:21:54 ID:NeNQDk43GY
「……街に戻ろう!しずかちゃんの安否を確認するんだ!」

突然の事態に呆然としていた僕達だったが、ドラえもんの声が僕らの意識をここに呼び戻した。
そうだ、今の言葉が本当なんて証拠はない。全くのでたらめだってこともあるじゃないか。
するべきことは、しずかちゃんが今どうなってるかの確認だ。それですべてがはっきりする。

「ドラえもん、どう確認するの!?」
「普通のゲームオーバーなら今頃コンティニューして戻ってるはずだよ!ゲーム世界に戻ってなかったら、現実世界に戻って確認すればいい!」
「現実世界に戻るにはどうすればいいの!?」
「セーブポイントから戻れるよ!とにかく今は街に急ごう!」

ドラえもんからそう教えてもらった僕は、街へと向かう足に力を込め直し、その速度を更に速めた。
真っすぐ戻ってきたから街に着くのも早かった。僕らは街の人にぶつかるのもためらわず、がむしゃらに走った。
58: 今回はここまで:2012/5/5(土) 22:23:07 ID:NeNQDk43GY
「しずかちゃん!」

叫びながら宿屋のドアを開けた僕だったが、セーブポイントにしずかちゃんの姿はなかった。
そこに在ってほしかった姿がなくて、僕はがくっと膝をついた。そんな僕の横を通り過ぎてドラえもんがセーブポイントに向かう。しかしこれが更なる混乱を生むこととなる。

「……な、なんでゲーム世界から出れないんだ!?」

ドラえもんは確かにそう言った。それを聞いてジャイアンが詰め寄る。

「どういうことだよ!?セーブポイントから戻れるんじゃなかったのか!?」
「ぼ……僕だってわからないよ!普通だったら、こんなことにはならないんだ!」

お互い感情が高ぶってるせいか、いとも簡単に口論へと突入した。汚い言葉が僕らを支配する。
この異常な空気に耐えられず、スネ夫は泣き出してしまった。それでも二人の罵声が消えることはなかった。
僕はというと、膝をついたままそれを静観していた。なんていうか、わけがわかんなかった。
どういうことなんだよ、これ……?誰か、誰か教えてよ……
59: :2012/5/6(日) 22:49:49 ID:NeNQDk43GY
源静香は混乱していた。
未来の猫型ロボット・ドラえもんが言うには「HPが0になると魂は現実世界の体に戻る」とのことだった。
しかし、今彼女がいる場所は現実とは到底思えない場所だった。
荘厳な城、その王の間の空に浮かぶ牢獄に彼女は捕らえられていた。暗く汚い雰囲気から、先ほど入ったあの城とは違う場所だとわかる。
ひとつだけ確かなのは、自分は未だゲーム世界に身を置いているということだけだった。

「最初の生贄は可愛い女の子か。君もついてないね」

知らない声に静香は驚き振り向く。何故今まで気付かなかったのだろう、静香はそう思った。この牢獄には彼女以外に5人の人間が入っていたのだ。
60: :2012/5/6(日) 22:51:05 ID:NeNQDk43GY
「あ、あなた達は誰ですか?」

静香がそう訊ねると、5人の中で一番小柄な男性がその問いに答えた。

「誰ですか、か。本名を名乗るつもりはないけど……アインスとでも名乗ろうか」

アインスと名乗る小柄な男性のこの自己紹介に続く形で、残りの人も名前を自己紹介を始めた。

「じゃあ僕はツヴァイと名乗るかな」と、ノッポな男性。
「それでは俺はドライを選ぼう」と、猫背の男性。
「……ああ、なるほどね!じゃあ私はフィーアだ!」と、女性。

本名ではない、何か規則性のあるコードネームのようだが、大柄な男性はそれに気付いてないようで、頭の上に?を浮かべていた。
いつまでたっても名乗る様子のない大柄な男性の代わりに、アインスと名乗った男が名前を告げた。

「……君はフュンフだな。呼び名ぐらいあった方がいいだろ。覚えておいてくれ」

フュンフという名前を貰ったものの、ピンと来ないのか、大柄な男性は首を傾げっぱなしだ。
61: :2012/5/6(日) 22:52:07 ID:NeNQDk43GY
そんなフュンフを無視してアインスは静香に話しかけた。

「わざわざ君に事情を説明する必要はないが……この牢獄に入った以上、何もできないのも事実だ。ここはひとつ、余興として小話を聞かせてあげよう」

以下はアインスが静香に語った内容である。

時空犯罪者として逮捕されたアインス。しかしアインスには犯罪の意識はなく、むしろ世のために活動を続けなければと考えていた。
そのような思考から、脱獄をしようという結論に至るまで、多くの時間は要さなかった。
だが問題があった。無策で脱獄したところで、再逮捕が落ちである。
ではどうするか。その答えは、彼にとっては簡単なことだった。

「ゲームを改造すればよかったわけだよ」
62: :2012/5/6(日) 22:53:03 ID:NeNQDk43GY
22世紀のゲームは魂を移す物が主流だ。このプログラムは先人達の努力によって安全を約束されたものだった。
しかし、アインスの頭脳を以てすれば、危険な内容に書き換えることなど容易だった。
彼はさきほどのび太達が説明を受けたような内容の改造を1本のゲームソフトに施していたのだ。
自らの魂をそれに封じ、後は売れるのを待つだけでいい。実際、ドラえもんが購入し、今このような状態になっている。

しかし疑問も生じる。何故プレイヤーをゲーム世界に縛りつけることが脱獄の策となるのだろうか?
静香もそう思ったようで、気付けばアインスに説明を要求していた。
63: :2012/5/6(日) 22:54:42 ID:NeNQDk43GY
「今、俺達が入ってるこの牢獄があるだろう?ここがプレイヤーの魂を閉じ込めておく場所さ」

静香のHPが0になった時、気がつけば彼女はここにいた。
通常、HPが0になると、現実世界の抜け殻に魂が戻るよう設定してあるのだが、アインスの改造によってゲーム内に作ったこの牢獄に移るようになっているのだ。

「ただ……実はこの牢獄、人数制限が設定してある。ゲーム終了時に、牢獄に5人以上いたら、古い魂から放出されて5人に調整されるんだ」

アインスが言うには、ゲームが終了した時……すなわち、クリアした時か、セーブポイントから全員が終了した時か、全員がゲームオーバーになった時に5人以上牢獄にいると、制限人数に収まるように前もって束縛されてた魂から解放するそうである。
64: :2012/5/6(日) 22:55:57 ID:NeNQDk43GY
「そしてこのゲームは改造によってセーブポイントで終了する機能を潰している。つまり、君達全員がゲームオーバーになると、5人制限のルールによって俺達は全員解放されるわけだ」
「いきなり全員分の生贄が揃うなんてね。私達、かなりいけてるんじゃない?」

アインスとフィーアが談笑しているところに、静香はまだ納得していないのか、割って入って質問を重ねた。

「待ってください。今ゲーム機の前にあるのは私達の体です。あなた達は自分の体に戻れないんじゃないですか?」
「それだよ!」

待ってましたと言わんばかりの大声を炸裂させるアインス。突然の咆哮に静香は耳を押さえる。

「俺達は指名手配の身だ。その体には、本名には、逃れられない呪縛があるというわけだ」
65: :2012/5/6(日) 22:56:45 ID:NeNQDk43GY
そこまで聞いて静香は気付いた。この者達の恐ろしい脱獄計画、その全貌に。

「まさか……体を、名前を変えて、指名手配から逃れようって?」
「その通りさ!体や名前が変わろうと、記憶は残る……魂は変わってないのだからな。これでタイムパトロールから追われることなく改革を続けられるのさ!」

アインス達はアインス達としての脱獄など考えてなかった。タイムパトロールにマークされた名前や容姿を捨て、別人として生まれ変わるつもりだった。

「加えて時代まで変えられるとは思ってもみなかったよ。これならより安全に脱獄できるな」
「私の体は可愛い女の子ね。よかったー、アインスの脱獄話に乗っかって」
「我々時空犯罪者は……タイムパトロールのせいで犯罪者などといわれるが、実際は次代を切り開く革命家だ。俺の技術が革命家の救出に役立って良かったよ」

再び談笑を始めたアインスやフィーアとは対照的に、静香の表情はみるみる曇っていった。
ゲームに閉じ込められるばかりか、自分自身の存在すら奪われようとしているのだ。事態を把握した今、恐怖に打ち震えるしかなかった。
66: :2012/5/6(日) 22:57:36 ID:NeNQDk43GY
「……助かる方法はないんですか?」

絞り出すように静香は呟いた。声から元気は感じられない。
それもそのはず、ここは敵地のようなものだ。そんな敵の本拠地で、天才と思われるこの男が自分に不利な設定を残すはずがない。
絶望にまみれながら、諦め気味に訊ねてしまった言葉だった。
しかし返事は予想の物とは違った。

「あるよ」

アインスが簡単に言ってのけたその発言内容に思わず静香は呆気にとられた。

「あ、あるんですか!?」
「本当はそんな方法残したくなかったけど、改造時間が足りなくって、細工できなかったんだよ」

ここまできたら最後まで説明してあげよう。アインスはそう言ってプレイヤー側が助かる方法を説明しだした。
67: :2012/5/6(日) 22:58:50 ID:NeNQDk43GY
このゲームでは、ラスボスを倒すとイベントが起こってクリアとなる。
そしてクリアすればゲームは終了、プレイヤーの魂はゲーム機の前の体に戻るというわけである。
なにより重要なのは、最後のイベントは強制的にメンバーが集まるという点である。
メンバーのうち、誰か一人でもラスボスを倒せば、残りのメンバーがどこで何をしていようと、強制的にイベントに参加させられるのだ。

「つまり、この牢獄にいようと、君も最後のイベントに参加することになるだろう」
「本当ですか!?」
「HPは0だけど、このゲーム内にプレイヤーとして存在する以上はそのプログラムが働くはずだ」
「つまりドラちゃん達がゲームをクリアすれば……」
「君はイベントに参加するためこの牢獄を出る。そして牢獄から出たままイベントによってゲームが終了する。つまり牢獄のルールから解放されてゲームから出れる」
68: :2012/5/6(日) 22:59:56 ID:NeNQDk43GY
それを聞いて、静香の中で希望が灯った。打って変わって笑顔になっている。
その様子を見てアインスも笑う。ただし、静香のそれとは決定的に違う、邪悪に満ちた笑顔であったが。

(クリアすればお前達は全員助かるよ。クリアすれば……ね)

本心は隠したままに、アインスは笑顔のまま静香に話しかけた。

「そうそう、女は笑顔の方がいいよ。これからしばらくは一緒にいるんだ。険悪になるより仲良くしようぜ」
「そうよ。せっかく可愛い顔してるんですもの。楽しい牢獄ライフを送りましょ!」

フィーアも続いて語りかけてきたが、静香はそれらを無視して、力強くこう言った。

「強がっていられるのも今のうちですよ!きっと……ドラちゃん達が助けに来てくれるんだから!」
(それはこっちの台詞だ……いつまで希望を見てられるかな?)

こうして源静香は牢獄に囚われたのだった。ドラえもん達のクリアを信じて、彼女はひたすらに待ち続けるのだった。
69: :2012/5/6(日) 23:01:19 ID:NeNQDk43GY
……僕達がこの事態を把握できる術はなく、汚い言葉はいつまでも飛び交っていた。
ただ、さすがに喋りつかれたのか、ジャイアンの口数は減っていて、両者ともに口論を始めた時よりは冷静になっていた。
スネ夫もいつしか泣きやんでいた。ここぞとばかりにドラえもんが健全的な提案をした。

「とにかく僕たちには、あの謎のナレーションしか手がかりがない。確証がなくて不安かもしれないけど、今はあの言葉を信じて活動しよう」

そう、悪い情報だけが先行してしまったけど、あの声は確かに言っていた。「クリアすれば全員が助かる」と。

「じゃあ魔王とやらをぶっとばせば、しずかちゃんは助かるんだな?」

ジャイアンの問いかけに、ドラえもんは力強く頷く。

「きっとそうだよ。僕達で魔王を倒して、しずかちゃんを助け出そう!」
70: 今回はここまで:2012/5/6(日) 23:02:06 ID:NeNQDk43GY
ドラえもんの発言に、ジャイアンはおう!と力強く返事をした。
泣いていたスネ夫も、いつしか決意の表情を浮かべていた。
そうだ。こうなったらやるしかない。
今までだって、ドラえもんは数々の困難を乗り越えてきた。ドラえもんがいれば、僕らはきっと無敵だ。
だから今回だって、たぶん僕らは大丈夫なんだ。
しずかちゃんを救う、僕達だけのドラクエ50は今始まったのだ。
71: :2012/5/7(月) 23:40:20 ID:NeNQDk43GY
激昂して暴言を浴びせてしまったことを謝りながら、ジャイアンは今後について相談し始めた。

「この後はどうすればいいんだ?」
「せっかく最初の街に戻ってきてるんだからね。職業をちゃんとした方がいいと思うよ」

セーブポイントからの脱出を図って僕らは始まりの街に戻ってきた。
最初にこの街に到着した時は、ダーマの酒場にてイメージで職業を決めた。
しかし、今はあの時とは立場が違う。今の僕達には絶対にクリアしないといけない義務がある。
そこで、真剣にクリアを目指す職業にしようとドラえもんは提案したのだ。
特に異議はなく、僕たちは再びダーマの酒場に足を運んだのだった。
72: :2012/5/7(月) 23:41:11 ID:NeNQDk43GY
ジャイアンとドラえもんは特に変更しなかったけど、僕とスネ夫は職業を変えた。
スネ夫は遠距離からの攻撃が出来る魔法使い。
そして僕は僧侶だ。後方から味方の補助や回復を務めるサポート役の立ち回り。
戦闘は主に戦士のジャイアンが務める。普段から僕達にふるってる暴力を活かすわけだ。
そして勇者のドラえもんが戦況に応じて適切な動きをしていく。
僕達の基本的な戦法はこのように決まった。
死ぬわけにはいかない。戦闘に関しては細かく役割を決めて、生き残るようにしないといけないのだ。
買い物も、生き残るために防具や回復アイテムの購入を優先する。ガンガン攻撃派のジャイアンは不満げだが、我慢してもらうしかない。
73: :2012/5/7(月) 23:42:17 ID:NeNQDk43GY
こうして準備を整えた僕たちは、新たな目標を胸に秘め、草原を歩き出したのだった。
一歩一歩を確かに踏みしめながら、ドラえもんは僕達に再度確認をする。

「いいかい?僕達が今後のゲームプレイで何より優先しなくてはならないのは、生き残ることだ」

青き勇者の後方を歩く僕達三人はその言葉に頷く。後ろを向いてそれを確認したドラえもんは言葉を連ねる。

「だからしばらくは弱いスライムでレベル上げをしようと思う。目標は……そうだね、レベル10にしよう」
「ええ〜!あんな弱いモンスターじゃ戦った気にならないぜー!?」
「それでいいじゃない。どうせジャイアンは現実でも僕らを一方的に殴るんだから、ここでぐらい我慢してよ」

スネ夫の発言にジャイアンの拳は自然と弧を描いた。終着点は言うまでもない、スネ夫の尖った頭部だ。どっちが痛いのかよくわからない絵面だ。
74: :2012/5/7(月) 23:43:20 ID:NeNQDk43GY
「痛っ!……くはないんだった。でも何するんだよ!?」
「スネ夫のくせに生意気言うからだ」

普段通りのやり取りに僕は思わず笑った。
笑ってから気がついた。なんだか久し振りに笑った気がする。
実際の時間で考えたらそんなに久しいものではないだろうが、感覚だけで言っていいなら、遙かなる時間を越えてようやく楽になれたような、そんな感じだ。
ドラえもんもジャイアンの暴力ショーを楽しんでから、僕にこう言ってきた。

「何やら大変なことになったけど、だからって普段から強張る必要はないよ。楽しむぐらいの気持ちで、しずかちゃんを助けるとしよう」

確かにあのイレギュラーが起きてから、皆の心から余裕は消え、緊張に支配され重苦しい空間に僕らはいた。
でも、それでは心身が持たない。確かにドラえもんの言うとおりだ。ぼくも普段通り、内心では毒付くとしよう。
75: :2012/5/7(月) 23:45:37 ID:NeNQDk43GY
青狸と会話を交えた後、なんちゃって勇者はスネ夫を見て何やら呟いた。

「……味方の攻撃ではHPは減らないみたいだね」

言われて気付いた。確かにジャイアンはとんがりひじきを攻撃したが、その頭部の上に表示されるHPの数字に変動はなかった。

「命大事にって言ってるそばから攻撃して、これでHP減ってたらジャイアンをぶちのめすところだったよ」
「仮に減っちゃうシステムだったら、それでジャイアンのHPも減って……壊滅騒ぎになるとこだったんだね」

物騒なことを言い出したドラえもんに僕は軽く反応しといてあげた。
76: :2012/5/7(月) 23:46:22 ID:NeNQDk43GY
よくよく考えると、わからないことだらけのゲーム世界で、ジャイアンの行動はあまりにも軽率で褒められたものではないけど。
まあでもそのおかげで戦闘ルールがひとつ明確になった。
以前ドラえもんが説明書を以て披露した戦闘ルール三ヶ条に、次の一文を加えてよさそうだ。
4、味方からの攻撃で味方のHPは減らない。
……この情報が何の役に立つかは知らないけどね。

「つまり俺様はいくらでもスネ夫を殴っていいわけだな!」
「やめてよ!痛くないしHPも減らないけど、気持ちのいいもんじゃないんだから!」
77: 今回はここまで:2012/5/7(月) 23:47:32 ID:NeNQDk43GY
ジャイアンとスネ夫の主従漫才を楽しみながら、スライムだけを相手に慎重に慎重にレベル上げをしていった。
そして僕らはとうとうレベルを10とした。主にはジャイアンとドラえもんが頑張って、恩恵だけは僕とスネ夫もちゃっかり受け取り、いまや全員が二桁突入済みだ。
僕は目を瞑ってステータス画面を確認した。こんな僕にも使える魔法ができたんだ。
僕が覚えたのはホミイという回復魔法だ。決して文字の順番が違うとケチをつけてはならない。
魔法使いをやってるスネ夫もいくつか攻撃魔法を覚えた。これなら序盤はもう怖くないだろう。
ドラえもんもそう判断したようで、高らかに声をあげた。

「そろそろ次に進もう!これだけ強くなればHPがなくなる心配もないだろうしね」

それに異を唱える者もなく、僕達の次なる目的地は決定した。
始まりの王都より西に進んだ村である。強くなった僕たちは、意気揚々と村へと向かうのだった。
78: :2012/5/8(火) 22:26:03 ID:NeNQDk43GY
意気揚々な気分も、村につくとみるみる下がってしまった。

その村にテーマを一つ加えるならば、間違いなくそれは絶望になるだろう。
ずらっと並ぶ木製の家は、例外なく全てが破壊され、家としての機能を失っていた。
壁のところどころに見える赤い染みは……想像通りの物だろう。
田畑も荒され、作物が実る状況ではないのは素人目にも明らかである。
そこにあるのは人間の集落ではなかった。とても住めないその荒れ地に、それでもここの村の人達は、苦しみに目を濁ませつつも確かに在るのだった。

ゲーム世界の、架空の集落だと頭のどこかでは理解してても、その光景からは悲しみを禁じ得ない。
王都で王様が言っていた通り、ここの世界は魔物によって苦しみのどん底に突き落とされてるようだ。
79: :2012/5/8(火) 22:26:47 ID:NeNQDk43GY
村に入ってしばらく呆然としていると、男性の老人から話しかけられた。

「もしやあなたがたは……予言の勇者様では?」

予言の勇者?と疑問に思ったが、そこで王様の言ってたことを思い出す。そういえば予言で読まれた異世界からの勇者って設定だったね。

「はい。僕達は魔王を倒す旅の途中にここに立ち寄ったのです」

ドラえもんが勇者として100点満点の受け答えをする。すると、重い静寂に包まれた村に歓喜の声があがる。

「おお!魔王を倒す勇者様がついに!」
「この村を御救いください!」
「このままでは村はおしまいです!どうか救いの手を!」

どこにいたんだと思うほどに村人たちが駆け寄ってきた。それぞれが僕達に希望を託そうとする。
しかし僕たちは聖徳太子ではなく、一度に聞き分けられるほど器用でもないので、とりあえず皆が落ち着くのを待つしかなかった。
80: :2012/5/8(火) 22:27:37 ID:NeNQDk43GY
しばらくして、村人たちを代表して、最初に話しかけられた老人から詳細を聞くことに成功した。
魔物の侵攻が著しい今日、この村も同様に魔物の狂気に晒されてしまった。
たび重なる襲撃に村は壊滅状態。王都から派遣された戦士も既にこの世から去ってしまった。
そうして防衛の手段もなく一方的に攻撃され、今のこの惨状に陥っているらしい。

「その魔物達の住処はわからないのですか?」

ドラえもんが老人に訊ねると、彼は村人達を苦しめる魔物の巣窟の場所を教えてくれた。

「この村から南に向かうと、そこに洞窟がございます。魔物はそこを住処とし、この村を襲っているようです」

どうやら次の目的地が定まったようだ。絶対にストーリー本編にかかわるイベントだろうし、何よりこの惨状を見て何もしないのは心苦しい。
皆も同じ気持ちのようで、何となくその表情からは決意が見て取れる。
やがてドラえもんの口から次のような発言が飛び出した。

「わかりました!魔物は僕達が倒すので安心してください!」
81: :2012/5/8(火) 22:28:35 ID:NeNQDk43GY
僕たちは村を出た。もちろん例の洞窟へと向かっているのだ。
目を閉じてメニュー画面を表示し、マップを選んで確認する。

「あ、洞窟があったよ。おそらくこれがそれだろうね」

ブラックとんがりがそんなことを言ってた。言われなくても皆もう自分で確認してるって。
そう思いながら目をあけると、老人との会話後にもらったアイテムであるランプを振り回してるジャイアンの姿が飛び込んできた。

「洞窟へ向かうならってランプをもらったけど、そんなに暗い洞窟なんかな」
「村でのイベントを先にこなさないと攻略できないんだろうね」

ジャイアンの疑問をゲーム的に答えるドラえもん。夢がないとガキ大将に不満を言われているさなか、青いのは急に歩を止めたのだった。

「……どうやらついたみたいだよ」
82: :2012/5/8(火) 22:29:36 ID:NeNQDk43GY
言われて前方を確認してみる。
岩壁に穴が出来てる様は、紛うことなき洞窟の姿だった。
なるほど、相当に奥まで続いてるのがわかる。入口より差された光が、瞬く間に闇に飲まれていることからそれが容易に想像できる。

「……こりゃランプがないと詰むなあ」

ジャイアンがぽつりと呟いた。確かにランプの灯がなければ迷子は免れないだろう。
しかし僕らはランプを手にしてる。照明係になるのが嫌だったのか、ジャイアンはスネ夫にランプを押しつけて洞窟内へと進んで行った。

「何で僕が持つんだよ!?おい、のび太!お前が持てよ!」

当然僕はそれを無視してジャイアンを追う。観念してくれ、とんがりコーン。
83: :2012/5/8(火) 22:30:20 ID:NeNQDk43GY
最後にスネ夫が入ると、洞窟内部はランプによって照らされ、僕らは初めて洞窟内を見たのだった。
中に入ってみると、意外に広いなと僕はそう思った。
しかしゲームではよくあることだ。外見と内部で大きさが違うなんてことは。
それよりも、何故洞窟がここまで広いのかが気になる。そこでドラえもんに訊ねてみると、次のような返事がきた。

「たぶん戦闘になってもうまいこと動けるようにってことだと思うよ」

それはつまり、この洞窟内で魔物に襲われるということだよね?
まあでも当たり前か。ダンジョンに魔物が出るのは当然だし、そろそろ最初のボスが出てくる頃だろう。
84: :2012/5/8(火) 22:31:13 ID:NeNQDk43GY
ドラえもんの言った通り、洞窟内には魔物が現れた。
シンボルエンカウント制なので戦う前から魔物の姿が確認できるのだが、洞窟に入ったということで、真新しい魔物ばかりだ。
生き残り優先な僕達の旅なので、なるべく戦闘は控えようか?僕がそうドラえもんに提案すると、ドラえもんは首を横に振った。

「とりあえず今のレベルで通用するか、一回戦った方がいいかも。今ならのび太君が回復してくれるしね」

そう言われるとそうかもと思い、コウモリ型の魔物と接触して戦闘を開始した。
だけど心配なんて何もなかった。レベル二桁は伊達じゃないということか。ジャイアンはコウモリを簡単に片づけてしまった。
少しだけダメージを負ったが、誰がどう見ても圧勝という、あっぱれな勝ちっぷりだ。
85: :2012/5/8(火) 22:32:32 ID:NeNQDk43GY
「おう、ドラえもん!これなら心配しなくてよさそうだぜ!」
「そうみたいだね。でも少しだけHPを減らされちゃったね。一応回復しておこう」

そう言うとドラえもんは僕の方を見てきた。何だよ青狸僕にときめいたか?なんて思ってから数秒、ようやく僕が回復魔法担当だったことを思い出した。
何気に初となる僕の回復魔法・ホミイでジャイアンを癒してやろう。そう思った僕にひとつの疑問が生まれた。

「……魔法ってどうやるのさ?」

そう問うと、ドラえもんは説明書知識をさも自分の手柄のように話し出した。

「確か……手ぶらなら指さして、武器を装備してたらそれを対象者に向けた上で呪文名を発すれば発動するよ」

非戦闘員の僕はしっかりばっちり手ぶらなので、ジャイアンを指さしてホミイ!と叫んでみた。
すると指先から青い霧みたいなのが発生し、瞬く間にジャイアンを包んだ。
そしてジャイアンのHPは無事に回復したのだった。
86: :2012/5/8(火) 22:35:42 ID:NeNQDk43GY
「へー、呪文ってこうやるんだね」
「魔法使いのスネ夫にも関係あることだから覚えておいてね」

ドラえもんがそう言うと、黒いトゲトゲはランプを持ってる手とは反対の手を軽く挙げて了解の意を示した。喋ろや。
まあ何はともあれ、コウモリとの実験的戦闘は大成功に終わった。初めてのボス戦(たぶん)の前に僕達の戦闘知識も深まった。
これで怖いものなど何もない。後は洞窟を進んでボスを倒すだけだ。

じめじめとした岩肌の洞窟をどれだけ進んだだろう。現実的にはランプの燃料が持つのか心配になってくる頃だ。ゲームなのでたぶん大丈夫だと思うが。
しかし、何もない洞窟を歩くだけの作業によって、ジャイアンの落ち着き度はわかりやすいほどに擦り減っていた。今にも怒りの鉄拳が炸裂しそうな、その時だった。
87: :2012/5/8(火) 22:38:51 ID:NeNQDk43GY
「あ!大広間に出た!」

先頭を歩いていたドラえもんがそう叫んだ。程なくして、僕は自分の目で広間の存在を確認した。電気が通ってるかのように明るかったせいか、一瞬洞窟の中ということを忘れそうになった。
そんな洞窟内の特別空間に、見たこともない大きな魔物はいた。間違いない。ボスという奴だろう。

「愚かな人間が私に何の用だ?」

今までの魔物と違ってこいつは喋れるみたいだ。
88: :2012/5/8(火) 22:39:52 ID:NeNQDk43GY
威厳たっぷりにそう言った魔物は、人とゴブリンを足して2で割ったような外見をしていた。
バイオでハザードなあのゲームの4つ目に出てくるエルヒなにがしみたいな感じだ。
なんていうか、最初のボスとは思えないほどの威圧感である。本当にこれ最初のボスか?などと思ったが、あのゲームでも彼は序盤のボスだったな、そう言えば。

「人間の村を襲って困らせてるのはお前だな!許さないぞ!」

ドラえもんはボスキャラの威圧感にも負けずに啖呵を切った。この御方は本当に恐怖を知らぬ御方やで。
89: 今回はここまで:2012/5/8(火) 22:40:55 ID:NeNQDk43GY
「人間風情が私に歯向かうか……面白い!」

巨人が勝手に面白がってると、突然ゴゴゴと大きな地響きが僕達を襲った。
音と振動でうまく身動きできずにいると、スネ夫の真後ろ、つまり広間の出入り口が壁で塞がれてしまった。

「退路を封じたわけか……」

ドラえもんの言うとおり、僕たちはこの広間に閉じ込められてしまった。
目の前に巨人。周りは岩壁の密室空間。逃げ場は無し。生きるために残された選択肢など一つしかない。
こいつを倒す!ただそれだけだ。
90: :2012/5/9(水) 22:52:16 ID:NeNQDk43GY
かくして初のボス戦は洞窟の密室空間で開始された。
巨人の頭上にHPが表示される。さすがはボスといったところで、雑魚敵とはリアルに桁が違った。
それに僕たちは一瞬だけ怖気づいたが、一人だけお構い無しな男が。

「うおおおお!先手必勝だぜ!」

我らがガキ大将、ジャイアンである。あんな巨人に突っ込んでいけるのは素直に関心する。怖くないのか?
巨人の足元に真っすぐ駆け込み、実は王都で買っていた安物の剣を振り下ろす。
安かろうと扱うのは我が学び舎の暴力魔人・ジャイアンだ。初戦のボス戦では高いであろう10というレベルも相俟って、相当なダメージが期待できる。
……そう僕は思っていたわけだが。
我がパーティで一番の力を誇るジャイアンの攻撃でも巨人に与えたダメージは10だった。あと30回くらいは攻撃しないと巨人のHPは0にならない。

「マジかよ!?」

攻撃した当人もこのように驚くしかない状態である。
91: :2012/5/9(水) 22:53:02 ID:NeNQDk43GY
ダメージ量がショックだったのか、ジャイアンは巨人のHPに釘付けになっていた。
そのため、その間に巨人が何をしようとしていたか、ジャイアンは気付くのが遅れてしまった。

「あっ!ジャイアン!」

ドラえもんの声で我に返ったジャイアンの目が捉えたのは、迫りくる巨人の大きな足だった。
迫力満点のキックを全身で浴びたジャイアンはそのまま壁まで吹き飛ばされてしまった。
壁に叩きつけられ、地面に倒れたジャイアン。その光景は凄まじく、思わず僕は彼の名を叫んでいた。

「ジャイアン!!」
「おう、大丈夫だ!」

普通に立ちあがった。あ、そうか。この世界では痛みは感じないんだ。それをわかってても、あれくらってピンピンしてるジャイアンが超人に見える。
92: :2012/5/9(水) 22:53:44 ID:NeNQDk43GY
「それより俺のHPはどうなってる!?」

そうだった。何より確認しなくてはならないのはHPである。
言われて僕はジャイアンの頭上を確認した。

「……うわあ!ジャイアン、残りが2しかないよ!」
「マジかよ!?のび太、ホミイ!ホミイ!!」

大事なことなので二回言ったジャイアンに対して、慌てた僕も二回ホミイをかけてしまった。
しかしそれでちょうどダメージ分を補うくらいの回復となった。
うちのパーティで一番タフネスなジャイアンがたった一撃で死亡手前まで追い込まれてしまった。
つまりそれは……

「ジャイアンでこれなら……僕達は一撃で死んでしまうんじゃないか!?」

あ、ドラえもんが言いたかったこと言ってくれた。そう、僕達の場合は一撃で終わってしまうのだ。
93: :2012/5/9(水) 22:54:48 ID:NeNQDk43GY
「何で!?レベルがまだ足りないっていうの!?」
「いや、でも雑魚敵は問題なく倒せて……」

予想外のピンチにスネ夫とドラえもんがもめはじめた。正直なところ、僕も混乱してるから混ざってやろうかとも思った。
そのため、その間にも巨人が接近していることに気付いてなかった。気付いていたのはただ一人。

「……試したいことがある。のび太、失敗した時は、またホミイ頼むぞ!」

僕にそう告げると、再びジャイアンは巨人に突っ込んで行った。
リプレイかと思うくらい同じ動作で巨人の足元を切りつける。巨人も同じく足元のジャイアン目掛けてキックを放つ。
ところが今回はジャイアンがそれを回避した。キックに対して左方向に飛び込んだのだ。
転がりながらも着地はしっかりとし、すぐさま姿勢を整えた。そしてジャイアンは僕らの方を見て叫んだ。

「やっぱりだ……こいつの攻略法つかんだ!ノーダメで倒せるぞ!」
94: :2012/5/9(水) 22:55:49 ID:NeNQDk43GY
ジャイアンの口から驚きの言葉が生まれたので、僕たちは詳細を訊ねずにはいられなかった。
巨人の動きに注意しつつ、ジャイアンは僕達の疑問を解決すべく、早口気味に説明を開始した。

「いいか!?あいつは接近戦しか仕掛けてこない!それにその直接攻撃も動作が大きくて軌道を読むのは容易い!つまり相手を良く見て先読みすれば攻撃を受けることはないんだ!」

普段から争いに身を投じるジャイアンならではの見事な考察である。

「さっすがジャイアン!よっ、暴力大将!」
「安雄をアームロックでギプス生活に追い込んだだけはあるね!」

その洞察眼を褒めたたえるため、僕やスネ夫はこう発言したのだが、何だか悪口にしか聞こえない。まあ言われた本人が喜んでるからいいか。
気を良くしたジャイアンは、攻撃にドラえもんとスネ夫も参加させて、一気に巨人を倒しにかかったのだった。
95: :2012/5/9(水) 22:56:43 ID:NeNQDk43GY
ドラえもんとジャイアンの直接攻撃に加え、スネ夫の「ラメ」という、大人向け作品で女性が言ってそうな炎系攻撃魔法で巨人を攻め立てた。
その甲斐あって、巨人のHPも半分を切り、折り返し地点に到達したのだった。

「いける!これならこいつを倒せるよ!」

ドラえもんがフラグのような発言をしてしまった。
そしてそのフラグを即座に回収するように、HPが折り返し地点を回ったところで、巨人の動きに変化が起こった。
巨人が突然背伸びをするように両手を掲げたのだ。
これは今までに見たことのない動きで、暴力大将ことジャイアンは警戒して巨人から距離を取った。
結果論で言えばこれがまずかった。
96: :2012/5/9(水) 22:57:39 ID:NeNQDk43GY
高く掲げたその両手を、巨人は素早く地面に叩きつけた。
するとどうしたことか、地面が激しく揺れ出したではないか。その揺れはすさまじく、僕達四人はその場から動けなくなってしまった。
しかも、巨人の方は揺れを苦にせず真っすぐ僕達に向かってきている。逃げなくてはならないが、地面の揺れのせいで足が言うことを聞いてくれない。
一方的に自由を得た巨人が向かった先は、スネ夫の方だった。
97: :2012/5/9(水) 22:58:25 ID:NeNQDk43GY
「スネ夫、逃げろ!」

逃げられないのは身を以て理解してるというのに、それでも叫ばずにはいられなかった。冷静に考えれば酷なことを言ってしまってる。
案の定移動ができるはずもないスネ夫は、すぐそばで自身を蹴ろうとしている巨人の姿を見届けることしかできなかった。
そして、

「あ……ああ……ママアァァー!!」

巨人の蹴りはスネ夫を吹き飛ばしたのだった。
98: :2012/5/9(水) 22:59:33 ID:NeNQDk43GY
ジャイアンの時と同じように、壁に叩きつけられ、地面に落ちる。
スネ夫には悪いかなと思いつつ、僕は当人の安否よりも頭上の数字の確認を優先した。

「そんな……」

スネ夫のHPは0になっていた。
つまりそれは、スネ夫の消失を意味していた。

「ママァー……」

叫びも途中のまま、しずかちゃんの時と同様にスネ夫は消えてしまった。
またも仲間を失ってしまったのだ。それも、今度は真剣に死なないように心がけた上で。
なおも地面は揺れている。だけど、揺れ以上に今はショックで動けなかった。
しかし巨人は待ってくれない。なんということだろう、巨人は次なるターゲットに僕を選んで歩きだしたのだ。
99: :2012/5/9(水) 23:01:47 ID:NeNQDk43GY
近づく巨人を見て、二人の最後の姿が脳裏に浮かんだ。
しずかちゃん、そしてたった今消えてったスネ夫。二人が砂となり空気に溶けゆく瞬間。
僕も今からそうなるのだろうか?ああなると、現実に戻れない僕の魂はどうなってしまうのか?
いろいろ考えてたら、それはいつしか僕の中で死の恐怖と化していった。
嫌だ、怖いよ……動けよ!僕の体!消えたくない、怖いよ!

「助けてよ、ドラえもん!!」
「のび太くん!!」

声のする方を向くと、視界はタケコプターで塞がれた。ドラえもんがこっちに投げてきたのだ。
顔面にあてながらもどうにかキャッチすると、ドラえもんは僕に指示してきた。

「本来は反則だろうけど、そうも言ってられない!ここは空中戦に持ち込もう!」
100: :2012/5/9(水) 23:02:34 ID:NeNQDk43GY
なるほど、咄嗟に秘密道具でやり過ごす作戦を思いついたのか。
迷ってる暇などない。僕はタケコプターを用いて揺れる地面から脱出したのだった。
空を飛んでから確認すると、ドラえもんもジャイアンも既に脱出を終えた後だった。

「ちくしょう!スネ夫の弔い合戦だ!覚悟しろよ豚野郎!!」

そう言ってジャイアンは巨人に突撃したのだった。
持ち場を空に変えても、ジャイアンの戦いっぷりは見事だった。
さすがははる夫をアンクルホールドで松葉杖生活に追い込んだだけはある。天性の戦闘センスというべきか。
地震は巨人の切り札だったのだろうが、空中戦でそれを封じた以上、もはやジャイアンの敵ではなかった。
数分後、我が方の戦士が巨人のHPを0にしたのだった。
101: 今回はここまで:2012/5/9(水) 23:04:09 ID:NeNQDk43GY
巨人が苦しみだし、地面の揺れは止まり、出入り口を塞いでいた壁が砕けた。
最初のボスを撃破したのだ。普通なら喜ぶところだろう。普通なら。
しかし僕達を支配する感情は、スネ夫を失った絶望の方がはるかに上回っていた。

「くそ……人間で私を倒すほどの者が現れるとは!魔王様に報告するほかあるまい……!」

イベントをこなして消えゆく巨人もそっちのけで、僕たちはまたも口論へと突入することなったのだった。

「どういうことだよ!最初のボスだろ!?レベル二桁まであげて何でこんなことになるんだよ!」
「何故だろう……ボス戦の経験値でもレベルが上がらないことを考慮すると、決して低いレベルだったとは思えないのに……」

ジャイアンの怒鳴り声に対して弱弱しく呟くことしかできないドラえもん。
何でだろう。十分にレベル上げをしたはずなのに、どうしてこんなダメージになってしまうのだろう。
102: 名無しさん@読者の声:2012/5/9(水) 23:35:14 ID:GB2l8BsnBs
各キャラをディスる発言は…
103: :2012/5/10(木) 00:21:33 ID:NeNQDk43GY
>>102
レスありがとうございます!
俺、このまま誰からもレス貰えないで終わるのかなーって思ってたんで、すっげー嬉しいですwww
意見内容も、ちゃんと読んでないと出来ないような意見で……本当にありがとうございました!

意見に関してなんですけど、キャラをディスるのはネタ的な意味でやってます。
俺、版権物を書く時は大体キャラをディスります。言うほど版権物書いたことないですけどwww
とにかく、よくそういうのをネタにして話を展開します。そういうのを書くのも読むのも好きなんですwww
原作再現重視よりは、もうオリジナル作品っつーくらい自由に狂ってるSSの方が好きなんです。こちらも、書くのも読むのもですwww
一応このSSはシリアスに仕上げたいなーって思ってますので、後半はディスりネタも減りますけども。
書き溜めを大雑把に読みなおしてみたところ、たぶん今後30レスから50レスくらいはディスるノリが続くと思います。書き直す予定もありません。
そういうネタが不快でしかなく、耐えられそうにないのであれば、今後読まれるに当たって注意した方がいいかもしれません。
104: 嬉しいからもうちょっと更新しますwww:2012/5/10(木) 00:23:14 ID:NeNQDk43GY
「早くも二人目が来たな。ついてないね、おたくも」
「スネ夫さん……」

気がつくと、骨川スネ夫は牢獄の中にいた。先ほどまで、薄暗い洞窟の中で巨人と戦闘していたのに、と困惑していた。
混乱しているスネ夫に対して、先輩囚人のアインスが余興と称してスネ夫に説明した。
こうしてスネ夫も今回の騒動の真相を知るところとなった。

「しかし奇抜な髪型だな。俺はパスだな。ツヴァイあたりに譲るよ」
「えー嫌だよ、こんな頭。嫌なことを何でも僕に押し付けるのはやめてくれよー」

悠長にも体を乗っ取った後の話をしているアインスとツヴァイ。スネ夫としてはイケてると思ってる髪型を馬鹿にされたのが悔しかったのか、ついつい叫んでしまった。

「馬鹿にするなよ!かっこいいだろ!こんなにイケてる髪型なんてそうそうないだろ!だよね、しずかちゃん!?」
「……」
「……しずかちゃん?何で目を逸らすの?ねえ、何でそんな悲しそうな顔してるの?」
105: :2012/5/10(木) 00:24:33 ID:NeNQDk43GY
静香の反応が芳しくないことを悟ったスネ夫は、意見を変えて再度アインス達に噛みつくのだった。

「とにかく、お前達が僕の体を手に入れることはできないぞ!」
「何故だ?」
「何故って……ドラえもんが、僕の仲間が助けてくれるからだよ!」
「無理だな」

一言で淡々と否定するアインスの態度に、カチンときたスネ夫は掴みかかろうとした。
それを巨漢の先輩囚人、フュンフが取り押さえる。ほどなくしてスネ夫は牢獄の床に伏す形となった。
痛みのない世界だから別にいいのに、と呟いてから、見下しながらアインスはこう告げた。

「このゲームは一際難しいんだ。まだ二人しか死んでないってことは、恐らくおたくらは慎重に進めてるんだろう。しかし、それでも二人が既に死んでいるのだからな」
106: :2012/5/10(木) 00:26:21 ID:NeNQDk43GY
「そんなに難しいゲームなのか、これは?」

見上げる形でも力強く睨むことはやめず、アインスに訊ねた。そんなスネ夫の質問に、相変わらず律義に答えていった。

「俺達も脱獄後の僅かな時間で得た知識だから詳しくはないけどね」
と前置きを入れた上で、このゲームが22世紀でどのようなポジションに置かれているのかを説明し始めた。

「僕達は今、始まりを思い出す」……現在ドラえもん達がプレイしているドラクエ50のキャッチコピーである。
未来のゲームは技術が進んでおり、表現やシステムは格段に進化している。
その一方で、難易度やストーリーにおいては、不満を持つゲームファンが多かった。
ストーリーがよくないという批判、ライトユーザー向けの過度なヒントに手緩い難易度……そのせいで作業的に感じるユーザーが増えていったのだ。
彼らは新作を認めようとせず、昔は良かった、と過去作品としか向き合わなかった。
107: :2012/5/10(木) 00:27:14 ID:NeNQDk43GY
そこで記念すべき50作品目の今作は、テーマを原点回帰とした。
表現やシステムは進化した物を取り入れた上で、話や難易度は最初期のRPGを参考に作り出した。
その結果、シンプルなストーリーに沿って展開される理不尽な難易度のゲームが完成したのだった。

「ボスの強さはかなり高めに設定してあって、後半になれば雑魚敵だって異常に強くなるらしい。ターン制の戦闘ではないから一応パターンさえ掴めばノーダメージで倒せるらしいが、ボスのほとんどは初見殺しを一つか二つは持ってるみたいだ」

確かに、とスネ夫は納得するしかなかった。あの巨人が繰り出した地震攻撃は凄まじく、スネ夫は何もできないままHPを0にされた。
あんなものは事前にそういう攻撃があると把握してなければ対処などできないだろう。
身を以て理不尽な難易度を体験しているスネ夫にとって、それは受け入れるしかない残酷な事実だった。
108: :2012/5/10(木) 00:28:46 ID:NeNQDk43GY
「軽く攻略サイトをチェックしてみたが、初見プレイでゲームオーバー無しでのクリアは不可能とされてたぜ。今作は逆に難しすぎと批判されてたくらいだ」

アインスの説明に、更にスネ夫の気持ちは沈む。
クリアまでに全員が死亡すれば、自分達はおそらく永遠にゲーム世界に閉じ込められてしまうのだから。
このゲームの難易度を知れば知るほど、スネ夫の感情は絶望にまみれていった。
そんな中、囚われのお姫様は未だ諦めることを知らなかった。

「不可能なんて、ドラちゃんは幾多もの冒険の中で打ち破ってきたわ!今回だって、無事にクリアして私達を救ってくれるわ!」

静香の前向きな発言で、スネ夫の気持ちも少しだけ晴れた。
しかし、そんな二人の希望をアインスの不快な笑いが濁していく。

「ふあははは!そうか、精々クリアできるといいなあ!」
「何がおかしいんですか!」

怒鳴る静香に対して、ごめんごめんと中身のない謝罪を済まして、今もスネ夫を押さえてるフュンフにもういいと指示して床伏せ状態から解放させた。
109: :2012/5/10(木) 00:29:32 ID:NeNQDk43GY
「不可能を打ち破る。そんな凄い仲間だというなら、本当に打ち破ってクリアする瞬間を是非とも見てみたいものだよ」
「だったらもう少し待っててください。私達はドラちゃん達の隣で、あなた達はこの牢獄からその瞬間を見ることができるでしょうから」

全幅の信頼から成る強気の姿勢にアインスは素直に関心しながらも、内心では次のように考えていた。

(どんなに頑張ろうと、初見プレイヤーがクリアできないのは決まってるんだ。その表情が絶望に染まる瞬間が楽しみだ……)
110: 今回はここまで:2012/5/10(木) 00:30:45 ID:NeNQDk43GY
こうして口論は一応終わりとなり、時空犯罪者の面々は気楽に談笑し始めたのだった。

「私の体になる子は本当に良い子ねー。私ってば本当についてるね!」
「いいなあフィーア……ねえ、アインス。僕は本当にこの変な頭じゃないと駄目なの?」
「諦めろツヴァイ。たぶんお前の性格的にも似合ってるって」

その一方で、二人の空気は重く、言葉など生まれはしなかった。
しかし気持ちは共にあり、同じことを胸に秘めているのだった。

(ドラえもん(ドラちゃん)なら、きっとなんとかしてくれる……)
111: :2012/5/10(木) 01:17:50 ID:NeNQDk43GY
>>102
>>103で返レスしたのに、重ねて返レスして申し訳ないです。
書き溜めをちゃんと読み返してみたんですけど、案外これからディスりネタ少なくなるかもしれません。
次の更新で詳しく明かしますけど、今回のボス戦を通じてのび太の心境に少しだけ変化が起こります。
基本的にのび太視点で進む話ですので、そんなのび太の心境が少し変わったことでディスり表現が減ったのかもしれませんね。
正直言うと、俺SSでは大概キャラをディスってて、意見されるまで意識すらしてなかったことなので、判断に迷ってますwww
これってディスってるうちに入るのかな?って感じです。その辺が俺もうよくわかんないですwww
よくわかんないんですけど、まあ読まれるに当たって注意はした方がいいかもしれないっていう気持ちは今も同じですね。

それが書きたかっただけですwww寝ます。おやすみなさい!
112: :2012/5/10(木) 23:10:09 ID:NeNQDk43GY
大広間の首領だった巨人を倒した今なお、僕達はこの場に留まっていた。
ジャイアンがいろいろとドラえもんを責めてるところだ。レベルの判断を見誤ったんじゃないか、何故スネ夫がやられる前にタケコプターを出さなかったか、そんな内容。
レベルに関してはドラえもんだけでなく僕達全員の失敗だろうし、秘密道具の件については突然の意表を突いた地震攻撃で即座に冷静な判断を下すのは難しかっただろう。仕方ないと僕は思う。
だけど僕はドラえもんに加勢するほどの元気はなかった。これだけ入念に用意して、なお仲間を失ったショックは大きいんだ。察してほしい。
そんな中、ドラえもんはふと思い出したように突然口論を切り上げたのだった。
113: :2012/5/10(木) 23:10:43 ID:NeNQDk43GY
「……行こう。ここで言い争ってても仕方ない。村の人に報告しよう」
「待てよ!責任から逃げる気か!?」
「レベルや戦闘の判断を誤ったのは認めるよ!でも、それらに関してもめてても、しずかちゃんやスネ夫は助からないだろ!」

これを聞いてジャイアンはハッとした表情を見せて言葉を引っ込めた。
その機を逃さず、ドラえもんは諭すように優しくこう言った。

「仲間のためにここまで怒れるジャイアンの優しさは嬉しいけど、仲間のために僕達はやるべきことをやろう。ね?」
114: :2012/5/10(木) 23:13:23 ID:NeNQDk43GY
このように言われてしまっては、傍若無人戦士ジャイアンも従うしかない。
悪かった、と一言で謝ると、持ち主をなくして地に落ちてたランプを拾って帰路につこうとした。

……すごいや。正直僕は今もそこまで立ち直れてない。
後ろ向きな思考がドンドンと湧き出て止まらないんだ。
あれだけ入念に準備して、それでも僕たちはスネ夫を失ったんだよ。
そしてスネ夫を奪ったあの巨人より強いボスが、これから先たくさん待ち受けているんだ。
そんなの一回もゲームオーバー無しでクリアなんてできっこないじゃないか。
ましてや僕はのろまだ。内心毒づいて他人を見下そうとするクズだ。ドラえもん無しじゃ何もできない無能なんだよ。
巨人との戦いだって、ドラえもんがタケコプターで助けてくれないと、きっと僕も死んでいた。
そんなのが、仲間を救うなんて、そんな大それたことできるわけないじゃないか。

……こんな感じで、負の感情が渦巻いてる。ドラえもん、ジャイアンという希望の道標がなければ、きっと前進もままならない。
こんなメンバーの中で僕なんかが混ざってていいのだろうか。怖いけど……いっそあの時死んでた方がまだよかったのではないか。
不安は尽きることなどないけど、僕には希望を抱かせる者達の後を追うことしかできなかった。
115: :2012/5/10(木) 23:14:13 ID:NeNQDk43GY
「うわあ!」

後を追おうとして走り出すと、僕は何かに躓いて転んだ。
僕の悲鳴に心配して戻ってきてくれたドラえもんは、僕を躓かせた何かを発見したのだった。

「これは……宝玉っていう奴かな?」

よく見ると、確かに綺麗な球体がそこに転がっていた。
はて、このような物がこの広間にあっただろうか。いや、なかったはずだ。
そうなると、考えられるのは一つくらいだろう。

「……あの巨人が置いてったのか?」

新しいランプの所持者であるジャイアンも戻ってきてそう発言した。
僕もそう思う。要するにこれは巨人に勝つともらえるイベントアイテムということだろう。
僕達はスネ夫を失った動揺で気付かなかったけど、あの巨人がイベントで宝玉をここに残していったのだ。
116: :2012/5/10(木) 23:14:55 ID:NeNQDk43GY
「重要なアイテムのように思えるね。持っていった方がいいだろうね」

ドラえもんがそう提案し、僕もジャイアンも首を縦に振った。
こうして僕達は戦利品を手にして暗闇の洞窟から脱出したのだった。
村につくと、僕達の心情とは裏腹に明るく希望に満ちた村人達が歓迎してくれた。

「邪悪なる魔物の気配が消えました!」
「ありがとうございます!これで私達は平穏に暮らせていけます!」

次々に村人達からお礼の言葉が生まれるけど、前も言ったように僕らは聖徳太子じゃない。正直聞き取れへんよ。
というわけで、村人たちには悪いなあと思いつつ、攻略に必要そうな情報にだけ耳を傾けることにした。
117: :2012/5/10(木) 23:15:55 ID:NeNQDk43GY
攻略に必要そうな情報を吐きだしたのは、最初に語りかけてきた老人だった。

「勇者様方は世界を救われる御方。次の町を目指して進むのでしょう。しかし、一つ残念なお知らせが……」

絶対これ必要な情報だろって思って、僕は身を乗り出した。
ドラえもん同じように思ったみたいで、こちらは言葉にして訊ねていた。

「残念なお知らせとは?」
「ここから次の町を目指す場合、険しい山々が阻む故、ここより北にある湖を渡るしか方法はありません」
「それは、泳ぐなり船を用意するなりで解決するのでは?」
「昔はそれでよかったのですが、最近は魔物が侵攻し、なんと毒の湖に変えてしまったのです」

毒という、あまりよくないキーワードに軽くテンションが下がる。
毒なんて代物は昔からRPGプレイヤーを苦しめるものだと相場が決まっているのだ。
118: 今回はここまで:2012/5/10(木) 23:16:50 ID:NeNQDk43GY
老人が言うには、浸かった人間を毒に侵し、木船も忽ち腐らせてしまうそうで。

「魔物が毒の湖にしてからというものの、この村から隣町に行く方法は断たれてしまいました。何か方法があればいいのですが……」

その発言を受けて、僕達三人の視線はあるものに集中する。
そう、今は僕が持っている、巨人の落とし物である宝玉だ。
誰一人として発言こそしなかったが、自然と皆が何を思ってるかは理解できた。
これ、湖用のアイテムじゃね?って。
僕らの思いは一つとなった。これから復興してみせると前を向く村人達に別れを告げて、僕達は北の湖を目指すことにした。
119: :2012/5/11(金) 22:39:05 ID:NeNQDk43GY
湖に到着した。
老人から毒の湖と聞いてはいたが、想像以上に毒の湖だ。
透き通った水の色とはかけ離れた禍々しい紫はまさに毒をあらわしてる。これは目に毒だと、思わず誤用させるほどのインパクトだ。
沸騰してるわけでもないのに、水面にブクブクと気泡が生じているのが見られる。こんな中で生物が暮らしてるとも思えないので、一体全体どういうことなのか。
実際に見たわけではないが、確かにこれは木船も腐らせるわ、と無条件で信じられるほどに気持ち悪い湖が僕らを出迎えたのだ。

「のび太くん、宝玉を使ってみて」

ドラえもんに言われて、僕は宝玉を取り出した。
使うと言ってもどう使えばいいのかわからず、とりあえず宝玉を両手で掲げてみた。
120: :2012/5/11(金) 22:39:51 ID:NeNQDk43GY
すると宝玉はまばゆい光を放ち始めた。
そして光は毒の湖を照らし始めた。するとあら不思議。
モーゼの十戒よろしく湖が割れ始めたのだ。ただ、こちらは真っすぐではなく、何やら入り組んで割れている。
やがて宝玉が役目を終えて砕け散る頃には、立派な迷宮が出来あがっていた。

「次なるダンジョンってわけか」

ジャイアンが迷宮を前に呟いた。ゲームに言っても仕方ないけど、真っすぐ普通に通してくれよって感じだ。
まあ愚痴っても何も始まらないか。洞窟に続いて、僕たちは毒湖の迷宮に挑むのだった。
121: :2012/5/11(金) 22:40:41 ID:NeNQDk43GY
挑む、と仰々しくは言ったものの、やはりレベルが高いのか、出現する雑魚敵は何ら問題なく退けることができた。
新たな敵として蟹や水草のようなモンスターが現れはしたが、ジャイアンの敵ではない。
あとはただただ迷路を攻略するだけっていう場面で、ドラえもんが一つ提案してきた。

「敵が落とす経験値もお金も多いし、しばらくはここで次に備えるとしようよ」

実に合理的な提案だが、気持ちとしては萎える。
紫色の毒の湖が割れてできた迷宮にいるのだ。当然僕らを囲う壁も気持ち悪い紫で構成されてる。
そんなとこにいつまでもいれば気が滅入るというものだが、当然こんな我儘が通るわけもなく、気持ち悪い環境での作業が始まった。
122: :2012/5/11(金) 22:41:48 ID:NeNQDk43GY
レベルを上げる作業に勤しむ傍らで、ドラえもんは二つほど確認したいことがあると言いだした。
それは何だと素直に聞いてあげたところ、青き勇者は次のように答えた。

「まずは戦闘の逃亡について確認したいんだけど」

最初に跳び出したのはRPGのお約束コマンド「逃げる」だった。

「え?これ戦闘逃げたりできるのか?」
「できるよ。今まで説明してなかったけど」

ジャイアンの質問にさらっと答えるドラえもん。
ガキ大将は、どうして今まで説明しなかったのかと詰め寄ったが、こちらもさらっとかわすのだった。

「今までは雑魚敵に圧倒してたから必要性を感じてなかったんだけど、これから先、あいつみたいに強いのが雑魚で出てきたら大変だろうしね」

ドラえもんがそう言うと、僕はとあるゲームを思い出していた。
なんていうか、母という単語を英語にした感じのゲームだ。あれは後半の雑魚が鬼畜だ。このゲームもそうだとしたら、確かにやばい。
死が許されない僕達にとって、その辺を警戒するということは確かに必要かもしれない。
123: :2012/5/11(金) 22:42:51 ID:NeNQDk43GY
「じゃあ具体的に逃げるってどうすればいいの?」
と、僕は訊ねた。

「シンボルエンカウントで接触して雑魚戦が始まった場合、敵から30m離れれば逃げたと見なされて戦闘が終わるみたいだよ」
と、ドラえもんは答えた。
30mかー長いか短いか判断に迷うなーって思ってると、今度はジャイアンが意見してきた。

「それって機動力ある敵が相手だと厳しくないか?よほど鈍重だったり、そもそも戦う素振りのない奴じゃないと通用しないだろ」
「それなんだよ。だから二つ目の確認したいことを言うよ」

そう言ってドラえもんは腹部のポケットに手を伸ばした。
そして先ほど大活躍したタケコプターを取り出して、言葉を連ねたのだった。

「確認したいことの二つ目は、秘密道具をどう有効に使うか、だよ」
124: :2012/5/11(金) 22:44:05 ID:NeNQDk43GY
言われてみたら確かにそうだ。僕達にはドラえもんがいる。
そしてドラえもんには四次元ポケットという反則技がある。
となれば、反則技をいかに有効に使うかというのも、クリアへの足掛かりになるだろう。
じゃあ早速道具を確認しようってなったところで、ゲームクリアに関係ない疑問が生まれたので僕は率直に聞いてみた。

「……このゲームって魂を移してやるものなんだよね?何でポケットまで再現されてるの?」
「うふふ、じゃあ逆に聞くけど、何でのび太くんのメガネは再現してあるの?」

言われて気付いた。そうだ、日常的に使ってるこのメガネだって、結局は道具に過ぎず、僕の魂だけを移すというならここにあるのは不自然な気がする。

「未来の研究でいろいろわかったんだけど、魂は裸体で表現されるんだ。でも、それだと律義に魂だけゲームに移したら大変だろ?」

確かにドラえもんの言う通りだ。それだと僕はメガネメガネ……って探すはめになっちゃう。
しずかちゃんだって「キャー!のび太サノバビッチ!」みたいになってたと思う。
……しずかちゃんの裸体は見たいけど。
125: :2012/5/11(金) 22:44:47 ID:NeNQDk43GY
「ゲーム会社の人もいろいろ考えててね。プレイヤーがゲーム世界に移る際に、コントローラーから状態をチェックして身につけてる物を再現するプログラムを入れてるんだよ」

なるほど、だから僕はメガネ有りでここにこれたし、ドラえもんは四次元ポケットを持ってこの世界にやってきたわけか。
……よくよく考えるとドラえもんって機械だから魂も糞もないと思うのだが、これなら一応納得できるかな。
僕のメガネや四次元ポケットも無事再現してるんだから、ここにドラえもんがいても何もおかしくないよね!……おかしくないよね?
126: :2012/5/11(金) 22:46:36 ID:NeNQDk43GY
「それはわかったから秘密道具の確認をしようぜ」

ジャイアンが話を戻してくれた。僕達は確実なゲームクリアを求めて、若干チート気味であるドラえもんの秘密道具の有効活用法を模索することにした。
結果から言うと芳しい成果はあげられなかった。
まず、攻撃系の秘密道具は役に立たない。このゲーム世界の戦闘ルール的に、秘密道具を使った攻撃ではHPを削れないからだ。
防御系の秘密道具もそうだ。たとえばヒラリマントだとか、一応は防げるものもあったが、その場合攻撃ができなくなる。敵を倒すには防御系の秘密道具を最終的には仕舞わないといけないからあまり意味はないように感じる。
移動系の秘密道具も然り。どこでもドアや通り抜けフープなどは現実空間用に作られてるようで、このゲーム空間では使用できなかった。
結局まともに使えるのはタケコプターくらいのものだという結論に至ったのだった。
……秘密道具に詳しい方がいても、「これなら有効に使えるだろ」みたいな指摘は御遠慮願いたい。頼むよ?

「まあでもタケコプターが使えるなら、強敵から逃げるのはどうにかなりそうだね」

喜べない結果でも、ドラえもんは前向きに捉えようとしていた。
この状況でこれほど前を向けるのもすごいもんだ。僕なら前方など疾うに見失ってるだろう。
127: :2012/5/11(金) 22:47:17 ID:NeNQDk43GY
こうしてドラえもんの確認事項も終了した。
強い敵はタケコプターを駆使して逃げる。これが今回得た教訓である。
とりあえずイベント無視してバグるのが怖いので、タケコプターで各地を飛ばして行くというのは禁止事項にした。
こうして秘密道具の扱いを決めることに成功した僕たちはレベル上げに戻ったのだった。
128: :2012/5/11(金) 22:48:30 ID:NeNQDk43GY
この毒湖の迷宮の敵は逃げるまでもない弱さなので、さっさとお金と経験値に化けてもらうことにした。毒々しい紫色の壁に囲まれるこの地に長くは留まりたくないしね。
しかし、ボスの強さも考慮して目標レベルを高く設定しているため、この気持ちと裏腹に留まる時間は長くなる。
気持ち悪い場所で気持ち悪い敵と延々戦い続ける。気が滅入るよね、ほんと。
雑魚敵との戦闘を何十回、いや何百回と繰り返すうちに、僕たちはようやく高めに設定した目標レベルに到達した。
スネ夫を失った時の2倍、レベル20である。パーティで一番防御力のない僕ですら、雑魚敵から受けるダメージは1になった。
RPGの平均クリアレベルは40〜50くらいの印象がある。ということは、レベル20は中盤くらいと言えるだろうか。
僕もホミイより上位の回復魔法であるベホミイを覚えた。さすがにこれほどの戦力を序盤で備えれば安全に進めるだろう。
……ボス戦でも一撃死ということはないと思われる。とうとうこの糞ったれた迷宮から抜け出す時が来たのだ。
129: 今回はここまで:2012/5/11(金) 22:50:16 ID:NeNQDk43GY
「やっと次に進めるのかー。長かったぜー」

滅入っていたのはジャイアンも一緒だったようだ。
この世界に時間の概念はないみたいだが、体感的に言えば子どもは寝る時間になってるくらい経ってると思える。
ゲーム世界じゃなかったら、眠気に襲われてゲームどころではないだろうね。だけどここはゲーム世界。
幸か不幸か、眠気も疲れも従順で牙を向けないので、不休で進むこととなるのだった。
どうやら毒湖の迷宮にボスはいないらしい。特に問題なく抜けると、爽やかな草木が僕らを迎えてくれた。

「あーやっぱり緑はいいねー」

我ながら若人らしからぬ台詞だとは思うが、自然と生まれた言葉だ。本音だよ。人間には豊かな緑が必要だよ。
だけど感動してる場合ではない。僕たちは目を瞑ってメニューを開き、マップを確認した。

「ここから東に町があるね」

今ドラえもんが言った台詞が全てだ。わざわざ相槌を打つ必要もない。
僕達の次なる目的地はそこだ。
130: 名無しさん@読者の声:2012/5/11(金) 23:19:36 ID:dpsI3OZ9u6
書いていいのかな?めっちゃ楽しみに読んでます
131: :2012/5/12(土) 23:15:39 ID:NeNQDk43GY
>>130
レスありがとうございます!
救われますよ、そういう言葉に、俺は。
俺、前のSSで、否定的な感想のレスした人に対して「俺は俺のために書いてんすよキリッ」とかやってたんですけど。割と真面目にそう考えてるんですけど。
でも、やっぱり人から喜ばれるのは俺にとっても至上の喜びです。よーしパパSS頑張っちゃうぞーってなりますwww
今感じてもらってる楽しいが、最後まで楽しいであり続けるよう頑張りたいと思います。よかったら最後までお付き合いください。
132: :2012/5/12(土) 23:16:38 ID:NeNQDk43GY
爽やかな緑の上をひたすら歩き、僕達は目的の町に到着した。
魔物の侵攻が酷い今日で、それでもその町は活気に満ちていた。
少なくとも、さきほどの村の惨劇を目の当たりにしたこちらとしては、心から安心できる光景だ。
最初の王都ほどの都会ではなく、むしろ人によっては田舎と判断されそうだけども。
それでも一人一人から笑顔がこぼれている。そこは立派に町を、集落を形成していた。

「おー!武器屋や防具屋があるぜー!」
「これで装備を整えられるね。お金はいっぱいあるから、武器の方も贅沢できるかもね」

ジャイアンやドラえもんはそのようなことを気にしてたけど、僕の関心は全く別の部分に向いていた。
……王都から戦士を派遣されたあの村でさえ酷い状態だったのに、どうしてここは無事なんだろう?
いや、まあ良いことだから理由とか別にいいんだけどね。でも気になるじゃない。
133: :2012/5/12(土) 23:17:37 ID:NeNQDk43GY
露店形式で武器屋を経営しているおばちゃんのところへと真っすぐ進み、ジャイアンは武器を要求した。

「おばちゃん!どんな武器があるか見せてくれよ!」
「あなた方は……もしかして予言の勇者様じゃないかい?」

ジャイアンの望む返答はこなかった。
それどころか、おばちゃんのこの発言をきっかけに、町の人達は僕らを囲んでしまった。
どうやらイベントが起こったみたいだ。残念だね、ジャイアン。待望の武器購入はもうしばらくおあずけだ。
やがて町の代表みたいな人がやってきて、僕達に話しかけるのだった。意外なことに若い男性だ。
134: :2012/5/12(土) 23:18:54 ID:NeNQDk43GY
「勇者様の噂はここにも流れ着いておりました。私達のために、世界救済を目指して旅をしていると。本当にありがとうございます」

いえいえそれほどでもーと、日本人特有の謙虚さを見せつける僕らをよそに、代表の男性は更に言葉を連ねた。

「旅の途中でお疲れでしょう。今日はこの町で泊まって行っては如何でしょう?もちろん宿代はタダとさせていただきますゆえ」

言葉面だけでは甘美な提案が僕らの下に舞い降りた。
どうするよ?と残りの二人に意見してみたところ、イベントだし消化しないとまずいだろって結論に至って、御言葉に甘えさせていただくことにした。
というわけで、今は宿屋の一室である。
イベントということで、部屋に入った瞬間に夜になった。こうも急速に景色が変わるというのも不思議な感覚だ。
さて、イベントも一息ついたようなので、僕は相談してみることにした。
135: 名無しさん@読者の声:2012/5/12(土) 23:19:14 ID:GB2l8BsnBs
アムロとシャアのSSの人か
136: :2012/5/12(土) 23:19:41 ID:NeNQDk43GY
「このイベント、どう思う?」
「強制的な宿泊だからな。敵襲の可能性もありそうで怖いよな」

答えたのはジャイアンだ。確かに、前情報がない状態で、RPGで無条件に良くされると、逆に良くないイベントなのではと疑ってしまう。
実は町の人は敵とグルだったとか、休んでるところに魔物が町を襲うとか、そういう感じになりそうな気がする。深読みしすぎだろうか?
とにかく一応警戒はしといた方がいいよねって会話をしていたその瞬間に、自室のドアがノック音を鳴らした。
タイミングがタイミングだけに、僕らに緊張が走る。

「……どうぞ」

恐る恐るドラえもんが答える。そしてドアは開かれた。
そこにいたのは……昼間に話しかけてきた代表の男性だった。
137: :2012/5/12(土) 23:20:35 ID:NeNQDk43GY
「勇者様、夜分遅くに申し訳ありません。お話があるのですがよろしいでしょうか?」

どうやら敵襲の類ではないようだ。無駄に緊張してしまい、何だよって気持ちが湧きあがるも、とりあえず我慢して話を聞いてあげることにした。
肝心の話題は僕が気になっていたことだった。そう、何故この町は無事なのかという疑問である。

「勇者様方には遠く及ばないでしょうが、私も武術の心得があります。この町に対する魔物の攻撃は今まで私が防いできました」

ふうん。で?って感じだ。いや、お話があるって言ってはいたけど、一方的に自慢しに来ただけじゃないよね?
もちろんそうじゃなかったらしく、前置きを終えた彼は本題に突入した。
138: :2012/5/12(土) 23:21:27 ID:NeNQDk43GY
「しかしそれも最早これまでかもしれません。実は……私は重い病に侵されたのです」
ほう。
「このままでは私は長くないでしょう。時代が時代ならそれも運命と思えるかもしれませんが」
うん。
「魔物の脅威が人をおびやかす現在、今私が亡くなればこの町まで道連れにしてしまうでしょう」
ああ。
「勇者様は世界の平和を見据える御方。いつまでもこの町に留まって守っていただくわけにはいきません。……つまり私は今死ぬわけにはいかないのです」
なるほどねー。
139: :2012/5/12(土) 23:22:06 ID:NeNQDk43GY
結局彼は勇者様御一行に何を求めたいのか。

「この町から北にある岩山……その山頂に生える薬草はどんな病気にも効くとされています」
はあ。
「しかしその岩山に巣食う魔物はこの周辺のとは比べ物にならないほど強いとされます」
へえ。
「そこでその薬草の入手だけは勇者様にお願いしたいのです!」
ふう。
「勇者様の冒険の時間を少しでもお借りするのは心苦しいですが、この町を守るためと思って、どうかお願いします!」
以上が代表の言いたいことだそうだ。
140: :2012/5/12(土) 23:23:16 ID:NeNQDk43GY
これに対して僕達はどうすべきだろうか。
……まあ、相談せずとも僕達の答えは決まっているけど。
この世界を救う勇者としても、仲間を救うためにも……僕らの気持ちは一緒だ。
青き勇者は仲間の意思も訊ねずに答えたのだった。

「わかりました!岩山へ向かうとしましょう!」
141: 今回はここまで:2012/5/12(土) 23:24:20 ID:NeNQDk43GY
代表との会話を終え、部屋には僕らが残された。するとその瞬間に世界は朝を迎えた。
このゲーム世界は、基本的には夜という時間帯は存在しないらしい。ちゃんとHPやMPは回復してるものの、休んだ気はしない。
ゲーム世界なので疲れも眠気も存在しないけど、気持ち的にはゆっくり休んで安らぎたいよね。
まあそんなことも言ってられないけども。
僕達に限っては意味を成さないとわかってても、一応宿屋のセーブポイントでセーブを行ってから外に出る。
そしてジャイアン待望の装備購入タイムで僕らの装備は一新された。
準備万端。もう過ちは繰り返さない。誰一人欠けることなく、次なるダンジョンを攻略しよう!
142: :2012/5/12(土) 23:31:24 ID:NeNQDk43GY
>>135
はい、その通りでございます。
紅白ララァのやつですね。思いつきで書きたくなって、さっさと書き溜めたら100レス未満だったから一気に終わらせた奴ですwww
前も書きましたけど、俺はあれ最初から最後のオチまでかなり気に入ってんですよね。
特にギンガナムの「西田と哲夫がうける時〜」云々の台詞が個人的には会心の一撃でした。自画自賛www
まあそんな感じですね。こちらもお気に入りのSSになるといいですねえ。
143: :2012/5/13(日) 23:25:25 ID:NeNQDk43GY
町を出て、いつものように目を瞑ってマップを確認する。それから北方向に歩を進めると、それは姿を現した。

山麓にはまだいくつか緑を宿しているものの、視線をあげればあげるほど灰色に角ばっていくそれは紛れもなく岩山だ。
到底人が登る山とは思えない険しい道が続くが、それでも進まなければならないと思うと頭が痛い。
加えて、代表の男性の発言を考えると、魔物も出現する。こんな足場で戦闘がままなるのかと不安は募るばかりだ。
疲れも痛みもない世界だけども、それでもこの岩山は僕らを苦しめるだろう。それが容易に想像できる脅威の障害物が立ちはだかった。

僕は前方の二人を確認する。後姿だけでも、テンションが下がってるのはわかる。
僕はと言うと……我がパーティの前向き二人組がこれなんだ。言わなくてもわかってもらえると思う。
144: :2012/5/13(日) 23:26:02 ID:NeNQDk43GY
「……本当にこれを登るのかよ?」

ジャイアンは不安そうにドラえもんに訊ねてる。
無理もない。僕だって仲間の安否がかかってなければ即座にやめようと提案する自信がある。
だけどドラえもんは後ろを向かない。

「登ろう。薬草を採らないとあの町が危険だし、僕らもたぶんクリアに近づけないし」

そう言って、ゴツゴツした道を進み始めた。
リーダーが先陣切って進んでいるのだ。僕らが進まないわけにはいかない。
というわけで、難易度ベリーハードの登山が始まった。
145: :2012/5/13(日) 23:27:28 ID:NeNQDk43GY
登りながら思うのは、やっぱりこれは人が登る山じゃないということだ。
頂上に近づけば近づくほど、全身をフルに使わないと登れなくなるような、そんな鋭角で険しい山だ。
ゲーム世界で本当によかった。疲れが反映されてたら何日かは動けなくなるような、そんな重労働だ。
この過酷さを説明するならば、そうだね……ハイパーバトルサイボーグであるジャイアンが戦闘でちょくちょく攻撃をくらっている。
やっぱりレベルが高いのか、くらうダメージは1であるものの、あのジャイアンが攻撃をくらうということが問題なのだ。
敵が地形を無視できる飛行系なのも原因のひとつだろうが、何よりも地形のせいで思うように動けないのが一番の原因と言える。
僕やドラえもんはともかく、ジャイアンですらこうなってしまうんだ。どう?どんだけふざけた足場なのか伝わるかな?
たまらず僕はタケコプターで頂上まで飛んで行こうと提案したが、ドラえもんに突っぱねられてしまった。

「道中でイベントがあったりして、それを飛ばしてバグったらどうするの?いいから自力で登っていこう」

はいはいわかりましたよ。自力で登りますよ、ちくしょう。
146: :2012/5/13(日) 23:28:27 ID:NeNQDk43GY
登山が始まってしばらく経ったが、未だ山頂は見えないでいた。
飛行系魔物の嫌がらせは続くし、ただ登るだけでも高難易度だし、イライラは順調に溜まっている。
短気さなら誰にも負けないジャイアンもかなり御怒りの様子だ。その怒りが僕に向かないことを祈るしかない。飛行系魔物にぶつけてくれ。
溜まる怒り、届かない頂上、いつまでも続く同じ作業に集中力もだいぶ切れてきた。
あーこの岩山、リポビタンDのCM収録に向いてるなあ、なんてどうでもいいことが頭を支配してきたその時だった。

「あ!あれ頂上じゃない!?」

先頭を行くドラえもんから待望の台詞が耳に届いたのだ。
疲れを知らないこの世界では、行動力はテンションが物を言う。
ドラえもんの発言で一気に元気を取り戻した僕とジャイアンは、この発言をエネルギーにして、最後の追い上げを見せるのだった。
147: :2012/5/13(日) 23:29:36 ID:NeNQDk43GY
着いた。
いろんな意味で鋭角を極めたこの岩山も、頂上だけは平らで行動しやすい。
しかし、そんな普通に動ける感動を味わう暇なんてなさそうだ。
頂上に着いた僕達を待ち構えていたのは、木の枝で作られた場違いな鳥の巣だった。
何故に鳥の巣が?って感じだ。どうでもいいと言いたいところだけど、僕らがその鳥の巣を無視できない二つの要素が存在した。
まずひとつ。この鳥の巣、とてつもなくでかいのである。
どれくらいって、人が入れるくらい?ううん、そんなもんじゃない。とりあえず野球で内野陣は成形できる。少し狭いが外野陣のスペースも確保できるだろう。
そしてもうひとつ。僕らが登山を始めた理由は病気に効く薬草採取のためであるが。
それと思われる草が鳥の巣のど真ん中に置いてあるのだ。
この薬草を求めて登山家と化した僕達としては、これをゲットせずには帰られない。
148: :2012/5/13(日) 23:31:48 ID:NeNQDk43GY
ただ、謎の鳥の巣の中央に薬草はポツンと置いてあるのだ。……怪しいだろ?
怪しさ満点な状況を前にして、僕らは恐る恐る行動するしかなかった。
そーっと鳥の巣に侵入、そーっと薬草に手を伸ばした、その時。
当然と言えば当然だけど、何のイベントも無しにゲットできるはずがなかった。
……そう、この巣の主が帰ってきたのだ。
巣のスケールに負けないくらいの巨体の鳥だ。いわゆる怪鳥という奴だろうか。
本当に大きな体で、その翼を振るだけで、僕らは強風に見舞われるのだった。

「貴様ら、我が巣で何をしている?」

喋ったよ。魔物のくせに喋るなんて、最初のボスである巨人以来だ。まあ、わかりきってることだけど、つまりはそういうことだ。
こいつは今回のボスってことだろう。三人態勢では初めてのボス戦になるわけだ。
149: 今回はここまで:2012/5/13(日) 23:33:01 ID:NeNQDk43GY
「その薬草は魔王様への献上品だ。貴様ら人間なんぞにやるわけにはいかないな」

魔物の上下関係もなかなかに厳しいようだ。ていうか、魔王薬草欲してんの?何か病気なの?

「待てよ……人間の肉もあわせて献上すれば、魔王様はもっと御喜びになるかもしれんな」

人としては聞き捨てならない台詞を吐かれた。くそ、人を食料と見やがって。あと、病気してる人には肉系はきついんじゃないの?
……なんて内心ふざけていられるのもここまでだろう。そろそろこいつが襲いかかってくると見た。

「悪いな、人間よ。我が魔王様のため、ここで死ぬがいい!」

ほらね。2回目のボス戦だ。
今度は僕達のレベルで通用するのだろうか。わからないけどやるしかない。
僕はジャイアンやドラえもんを回復でサポートするんだ。もう誰も死んでほしくない。
仲間を守るためにも、僕らはこいつを倒す!
150: :2012/5/14(月) 22:43:57 ID:NeNQDk43GY
ボス戦が始まった。
見た目こそ逃げ放題だけど、戦闘開始と同時に巣を囲むように半透明の壁が現れた。やはりボス戦は逃亡不可のルールらしい。
ただ、天井まで出来てるわけではないようで、相変わらず怪鳥はこちらに強風を送りながら空を舞っている。
一向に下りてくる様子はなく、地に生きる人間に対して、上空から火球を吐きつけて攻撃してきた。
僕らはそれをどうにか避ける。
その後、強風を用いた攻撃や、卵を産んで雑魚モンスターを召喚するなど、空からの攻撃を繰り返して怪鳥はやっと巣に降り立った。
これは好機だとジャイアンが新調した剣で怪鳥に斬りかかった。斬撃は怪鳥に届き、その結果15のダメージを与えることに成功した。
怪鳥の頭上に表示されたHPで単純計算すると、あと40回前後切りかからなければならない。
しかも、怪鳥は攻撃をくらうと、再び空へと移ってしまった。

「なるほど、敵の攻撃を全部防げば攻撃のチャンスが来るってわけか。で、一回攻撃して……それを40回繰り返すわけか」

戦闘大好きジャイアンの冷静な分析である。怪鳥の攻撃もけっこう長いため、これを40回も繰り返すのは気が遠くなる。
こうなるとスネ夫がいないのが悔やまれる。スネ夫の攻撃魔法があれば、降り立つのを待たずして攻撃できるのに。
151: :2012/5/14(月) 22:45:06 ID:NeNQDk43GY
僕の悔しそうな表情を見て心情を察したのか、ドラえもんは口元だけ緩めて僕に、僕達にこう言ってきた。

「あの鳥が下りてこなくても、僕達には攻撃手段があるじゃない!」

……ああ、そうだよ!何で忘れてたんだろう。言われて僕は気がついた。
さっそくドラえもんから受け取ると、いつものように頭に装着して、僕らは空へ出発した。
そう、タケコプターがあれば、空のアドバンテージなどなくなるのだ。
同じ土俵に上がれば、暴力大魔王ジャイアンに喧嘩で敵う奴などそういない。
怪鳥は自らの聖域で倒されるのを待つしかなくなるんだ。
……そう思っていたけど、さすがに怪鳥は空育ちということもあって、空中戦は相手に分があるようだった。
ジャイアンの斬撃がかわされることも多く、怪鳥の攻撃もどうにか避けれるという感じだ。
これなら長くて面倒でも地上にいた方がいいかもしれない。見ててひやひやする、なんて思ってたその時だった。
152: :2012/5/14(月) 22:46:10 ID:NeNQDk43GY
判断を誤ったのか、怪鳥の吐いた火球がジャイアンに直撃してしまった。
スネ夫に放たれた巨人の蹴りが嫌でも脳裏に蘇る。一瞬で、僕達の尊い絆を断ち切る悪意の攻撃に、僕は叫ばずにはいられなかった。

「ジャイアン!!」

叫びながらジャイアンのHPを目視する。
そこには、全体の約1/3ほど削られたHPが表示されていた。
よかった。これを少ないとみるか多いとみるかは人それぞれだろうけど、とにかくレベル上げは無駄じゃなかった。
一撃死の脅威はもうない。僕達は2、3発は耐えられる耐久力をレベル上げで得たんだ。
即座に僕はジャイアンに回復魔法・ベホミイを唱えた。それによって直撃した火球はなかったことになった。
153: :2012/5/14(月) 22:47:10 ID:NeNQDk43GY
僕の中で希望が広がる。内心でいろいろ考えてたって、本当は怖かった。
また仲間を失うんじゃないかと思って。僕が死ぬのも怖い。僕が残されるのも怖い。
だから、本当にボスの攻撃を、余裕を持って耐えられた事実が嬉しいんだ。
ジャイアンが、ドラえもんが戦闘を頑張って。
僕が彼らを回復して。
常に前を向いてられるドラえもんの勇気についていけば。
僕らはもう仲間を失わない。僕らは仲間を救える。
回復サンキュー、と言ってくれたジャイアンに、僕は渾身のエールを送る。

「頑張れ!そんな奴、いつものように片づけてくれ!!」
154: :2012/5/14(月) 22:48:20 ID:NeNQDk43GY
戦うために生まれてきたのかと勘違いするほど、ジャイアンの戦闘センスは抜群だ。
空中戦を始めて数分、もうコツを掴んだのか、ジャイアンは怪鳥を圧倒するようになっていた。
そして、

「とどめだ!タンドリーチキンになりやがれえええ!!」

叫びながら、ジャイアンは最後の攻撃を放った。
何故にタンドリーチキン?などと思ったが、まあそれは些細なことだ。どうでもいい。
重要なのは今の一撃で怪鳥のHPが0になったことだ。
命の数字を零にされた怪鳥は力なく自らの巣に落下した。
155: :2012/5/14(月) 22:49:08 ID:NeNQDk43GY
体全体を巣に伏して、しかし首だけを動かしてこちらを睨むと、弱弱しくもこう発言した。

「まさか人間如きにやられるとは……魔王様に報告せねば……」

そして怪鳥は、僕達から逃げるようによろよろと空を飛んでいった。
ボスはここからいなくなった。
つまり勝ったんだ、僕たちは。誰も欠けることなく、ボスに!
156: :2012/5/14(月) 22:50:41 ID:NeNQDk43GY
「よっしゃあ!!見たかってんだ!!」

ジャイアンも御覧の通り超ご機嫌だ。
そりゃあそうだろう。誰も欠けることなく勝てたという事実は僕達にとって大きな希望だ。
レベル上げは無駄ではなかった。スネ夫がやられた時は、努力なんて無駄なのか、と疑いを待たずにはいられなかったけど。
僕らの努力は報われた。頑張れば、ボスにだって通じるんだ。
ボスに通じるんなら、もう仲間は失わないんだ。
仲間を失うことがないなら、皆を助けることができるんだ。
今回の戦闘で得た希望はとてもとても大きかった。僕らは子どものように喜びあった。いや、子どもですけども。
きっと、きっと皆心のどこかで不安はあったのだろう。それが、この勝利によって除去されたわけだ。
主を失った巣の中で、僕達3人は向き合い、抱き合い、喜びを表現し続けたのだった。
157: :2012/5/14(月) 22:51:33 ID:NeNQDk43GY
だけどいつまでも喜んでる時間はない。
代表の男性が所望する品である薬草をきっちりとゲットして僕らは帰ることにした。
せっかく上がったテンションではあるが、帰りを思うと下がってしまう。あれを歩いていくのか……。

「ねえドラえもん。帰り道にイベントなんてないよ。もうさ、タケコプターでピューンと行っちゃおうよ」
「……そうだね。タケコプターを使って、爽快に帰るとしようか」

ありゃ、意外にも乗り気だ。喜ばしい結果に気を良くしてるのだろうか。
何はともあれ、帰路は爽快な移動となった。どんなに道が険しかろうと、空を飛べば関係ない。
そうして僕たちは登山と比べて圧倒的に早く下山を済まし、緑映える草原に戻ってきたのだった。
158: :2012/5/14(月) 22:53:30 ID:NeNQDk43GY
町に戻って、代表の家を訪ねる。あ、家の場所は武器屋のおばさんに聞いた。
出迎えた代表に薬草を渡すと、涙ながらに感謝された。

「ありがとうございます!これで私は死なずに……この町は死なずに済みます!」

自分達の行動で町の人達が助かったのだと思うと、とても晴れやかな気持ちになる。
無粋な考えだとゲームキャラに命は宿ってないって言えるかもしれないが、やはり人の命は救われないといけないと思う。
……だからしずかちゃんもスネ夫もちゃんと救われないといけないよね。
代表は何かお礼がしたいと言ってる。いえいえそんな〜と遠慮するのが日本人だろうが、クリアを目指す身として、ここは素直に受け入れる姿勢を形成する。
159: 今回はここまで:2012/5/14(月) 22:54:42 ID:NeNQDk43GY
「……そうだ!ここから東に行くと港町があります。一応私も船を持っているのですが、私はもうこの町を守り続けると決めています」

代表はそんなことを言い出した。なるほど、海か。RPGのお約束と言えばお約束だけど、少し早いようにも思える。
まあRPGがどうとか言ってる場合じゃないんだけどね。先読みしてしまったけど、会話の流れ的には確定と言っていいだろう。次に代表はこう言うはずさ。

「勇者様は世界を平和にするため旅をする御方。そこで、私の船を差し上げますので、どうか旅に役立ててください!」

ってね。断る理由なんてどこにも見当たらないので、素直に受け入れる。
さあ、次の目的地も決まった。ここより東に歩んだ地にある港町だ。
薬草を貰った代表、船を貰った僕達がお互いに感謝を済ませ、そして僕らは大海賊時代を見据えて町を旅立つのだった。
160: :2012/5/15(火) 22:53:36 ID:NeNQDk43GY
それは代表が守る町からそう遠くはなかった。
東へ向かって歩いてる僕達の目に飛び込んできたのは、濁り一つない青き水平線だった。
有り体に言えば海だ。海が見えたのだ。
この世界で僕らが見てきた液体と言えば、毒に侵された紫色の湖くらいだ。
それと比べて、透き通るこの青は対極と言わざるを得ない。心洗われる美しい青色が目の前に溢れているのだ。

「おお!海が見えてきたぜ!」

ジャイアンもテンションアップだ。確かに、綺麗な海はどこか心を躍らせる。
この青色と同化して、どこまでも自由に泳げたらどんなに素晴らしいことだろうか。泳げない僕がこう思うほどの代物である。
161: :2012/5/15(火) 22:54:45 ID:NeNQDk43GY
「町もあるね。さっそく入って、あの人の船を捜すとしよう」

ドラえもんだけが海に着目することなく、淡々とストーリー進行を見据えていた。
なんだよ、この海を前に感動しないのかよ。それとも、同じ青色として嫉妬してるのだろうか。大人げない。
何はともあれ、戦士と僧侶は、先を急ぐ勇者の後を追って港町へと入っていった。

港町というだけあって、肌の焼けた屈強な漁師が目立った。
ジャイアンが喧嘩したって勝てないんだろうな。一目でそう思わせるほどの筋肉魔人がごろごろいやがる。
そんな漁師達が集う港町ではあるが、停泊している船は漁船というより海賊船って感じだ。いわゆる帆船という奴だ。とにかくでかい。
まあゲームの世界設定的には仕方ないのかもしれない。ここの漁師達は海賊船に乗って魚を仕留めに行くのだ。うん、そういうことにしよう。
162: :2012/5/15(火) 22:55:47 ID:NeNQDk43GY
港町の感想はそれぐらいにしておいて、とりあえずは情報収集だ。
町なだけあって、新しい武器屋や防具屋がある。ごねるジャイアンを納得させるために装備品を新調した。
それから、町の人達に話しかけて情報収集だ。よくよく考えると自分から話しかけて情報を集めるのは初めてな気がする。RPGの基本なのに。
まあそれはいいとして。隣町の代表さんから船を譲り受けたんですが、みたいに聞きまわってると、一人の漁師が反応を示した。

「へえ、旦那から船を譲ってもらったのかい」

どうやらこの漁師は代表と知り合いらしい。そんな彼はもちろん代表の船を知っていた。
これから僕達のものになるその船が、一体どれなのかを教えてもらうことになった。
163: :2012/5/15(火) 22:57:24 ID:NeNQDk43GY
「これが旦那の船だ」

僕達がもらった船は、思いの外立派なものだった。
勇者が乗る船と考えれば相応なのかもしれないが、実質乗るのは僕ら3人だよ?いいのか?
まあ気負いしても結果は変わらないからいいか。もらえるものはもらっておこう。そう考えて船を見ていた僕達に、誰かが話しかけてきた。
そいつは全身を鎧で覆った男のようだった。ようだった、と言うのは、顔すらも洋風の兜で隠しているため、声で判断しているからだ。
戦士というよりは騎士って感じのそいつは、話を聞く分には、どうやら王都からやってきたらしい。何しに?

「王様より伝言があって参りました。王都の予言士が新たな予言をしたのです」

新たな予言。重要そうなそのキーワードに反応した僕らは、とりあえずその予言の内容を聞いてみることにした。
164: :2012/5/15(火) 22:58:12 ID:NeNQDk43GY
以下、予言の内容。

世界を救いに現れた異世界の勇者は、この世界に存在する六つの魔法石を集めるだろう。
それを用いて魔法陣が完成される時、魔界への門は開かれる。
勇者は果敢に魔界へと攻め行くだろう。
邪悪なる魔王城に潜む魔王、彼奴を倒し、世界に平和を呼び戻してくれるだろう。
そして勇者は、人知れず自分の世界に帰っていく。
魔王亡きこの世は、人々の笑顔で満ちることとなる。

……以上だ。
165: :2012/5/15(火) 22:59:00 ID:NeNQDk43GY
ちょっと待ってほしい。え、これだけ?
とりあえずこれからその石探しに船旅しろっていうのはわかったんだけど、具体的にどこ行けとかいう指示はないのか?
思わず僕は目を瞑ってマップを確認する。
今いるこの大地を含めて、このゲーム世界には六つの大陸があるのが確認できる。なるほど、大陸一つに石一個って感じかな。わかりやすい。
ただ、具体的な次なる目的地の名前が出てこなかったことに驚愕するしかなかった。
166: 今回はここまで:2012/5/15(火) 23:01:23 ID:NeNQDk43GY
洋風騎士スタイルの王の使いを問いただしても、予言以外の言葉は生まれなかった。
とりあえず僕らの目標は決まった。六つの魔法石とやらを集めることだ。
しかし次なる目的地に関しては一切説明がなかった。ここを除いて五つある大陸から、自分で探し出せということだろうか?
ヒントがないと手当たり次第に当たっていくしかない。とんでもなく面倒臭い作業だ。
ただ、それでもやらないわけにはいかない。気の進まない展開でも、ドラえもんは前を向いていた。

「地道に探せば次の目的地はいずれわかるよ。とりあえず船に乗ろう。じゃないと始まらないよ」

こうやって引っ張ってくれるのは本当にありがたいね。やる気が下げられても、こうやって一緒に頑張れる仲間がいれば僕も前を向いてられるよ。
面倒臭いし、先がはっきりしなくて怖いというのはあるけども、そうも言ってられない。こうしてドラえもん海賊団は爆誕し、ドラえもん号を海へと走らせた。
167: :2012/5/16(水) 22:10:28 ID:NeNQDk43GY
というわけで、今は海上である。乗組員はたったの3人。どこぞの海賊団みたいな少数精鋭スタイルだ。
船の操縦なんてできるわけがないのだけど、そこはゲーム世界だ。操縦席には舵と前進後退のボタンしかない。子どもが考えそうな操縦席だ。
そんな代物だから、素人集団の僕らでも問題なく操縦できてるわけだ。ちなみに僕が操縦している。

「これからどこに行くんだよ?」

ジャイアンが言った。僕に言ったのか、ドラえもんに言ったのか、その辺微妙だと思ってたけど、ドラえもんが反応してくれた。

「目的地がはっきりしないからね。とりあえず近場の大陸に上陸してみようよ」

そう提案してドラえもんは目を瞑ってマップを確認し、操縦してる僕に進む方向を指示してきた。
面舵・取舵で指示してくるドラえもんに対して、わかんないよ右左で言ってよ、と僕は要求し、そんな他愛無い会話を交えて数分が経過。
目の前には新たな大陸が姿を現していた。遠目に見ても森が特徴とわかる大陸だ。
168: :2012/5/16(水) 22:10:58 ID:NeNQDk43GY
海岸に船を止め、僕らは上陸を果たした。
砂浜と森の境目がしっかりとわかるほど、この大陸は森で覆われていた。
これはマップ移動だけでも大変そうである。まあでも覚悟を決めて進むしかないだろう。
生い茂る草木を掻き分けて、僕らは草木の要塞へと足を踏み入れた。
169: :2012/5/16(水) 22:11:43 ID:NeNQDk43GY
森の中を歩いて数分、その間でわかったことがひとつある。
いや、正直踏み入る前からわかってたことだけど。この大陸、すごく動きづらい。
長い年月を経て大きく成長した木は根っこまで相当な物で、それで地面をデコボコにしてしまっている。
草は草で腰の高さまで伸びており、僕らの進行を的確に邪魔している。
おまけに草木で視界は遮られる。上空を囲う葉のせいで太陽の光もまともに浴びてない。
なんていうか、もうどこをどう歩いているのかさえわからなくなってくる。目を瞑ってもマップが表示されない仕様だったら絶対遭難する。ていうか、もうしてる?
とにかくマップと前方を行くドラえもんを確認しながら、必死に歩いていくしかなかった。
170: :2012/5/16(水) 22:12:36 ID:NeNQDk43GY
「マップを見る限りでは、この先に集落があるみたいだね。そこまで頑張ろう」

ドラえもんが後ろを向いて僕達にそう言ったその時だった。

「あっ!」

と叫ぶしかなかった。某モンスター捕獲型RPGのように、草むらから何かが飛び出してきたのだ。
それは、黒いローブに身を包んだ何者かだった。そしてドラえもんと接触すると、お互いの頭上にHPが表示された。
なるほど、モンスターか。そう思って身構えたその時、そのローブの魔物は特殊な動作に打って出た。
どこから出したのか、ローブの魔物は杖を振りかざした。すると、僕らと魔物の四人は半透明の箱に閉じ込められた。
いうなれば怪鳥の時のようだ。ただし、こちらはしっかりと天井も作っている。
厄介なことに、逃亡を許さない魔物のようだ。逃げるコマンドを封じられた今、こいつを倒す以外に選択肢はない。
171: :2012/5/16(水) 22:13:31 ID:NeNQDk43GY
巨大な立方体に閉じ込められた僕達の戦いが唐突に始まった。
とはいえ、雑魚戦ならどうとでもなる……そう思っていたが、ここで、僕達にとってとんでもないイレギュラーが発生した。
ローブの魔物は、その格好と所持品のイメージ通り、魔法を用いるタイプの魔物だった。
そういえば敵が魔法を使うのは初めてかな、と悠長に思っていると、早速ローブの魔物は攻撃魔法を披露した。
それがまずかった。何と、見ただけで上級の魔法だとわかるような、凄まじい炎を出してきたのだ。スネ夫のラメとは比べ物にならない。
それがドラえもんに直撃した。すると、頭上に表示されたHPがギリギリまで削られてしまった。
びっくりした。単純な表現だけど、ただただびっくりした。ボスである怪鳥の攻撃でも削れたのは1/3だけだったのに。
172: :2012/5/16(水) 22:14:46 ID:NeNQDk43GY
「のび太くん!のび太くん!!」

ドラえもんの怒鳴り声で我に返った。そうだ、回復は僕の役目だ。ドラえもんを助けないと。
僕はベホミイを2回唱え、ドラえもんのHPを大方回復させた。
その間ジャイアンは、呪文を唱えようとするローブの魔物に対して斬撃を繰り返していた。
しかし呪文を唱えるまでにその高いHPを削りきるまでには至らず、ジャイアンも攻撃魔法を受けてしまった。
どうやら魔法は回避できない仕様のようで、つまり呪文を発動されればくらうしかないのだ。この強烈な攻撃魔法を。
HPを大きく減らされたジャイアンに、僕は再びベホミイを2回唱えた。こんなハイペースで唱えてたら正直MPが持たないが、それでも死なせないためにはやらなければならない。
結局この後2回ほど攻撃魔法を受けて、僕は合計で8回ベホミイを唱えたのだった。その間に攻撃し続けたことで、ようやくローブの魔物は倒れた。
こいつを倒したことで得た経験値とお金をチェックして確信する。ここはまだ早い、もっと後から来るマップだったのだ。でなければ、この高い経験値に説明がつかない。
ドラえもんもそれを即座に理解したようで、四次元ポケットを探りながら僕とジャイアンにこう指示した。

「船まで戻ろう!タケコプターを使って!急いで!」
173: :2012/5/16(水) 22:16:03 ID:NeNQDk43GY
僕達はタケコプターを装着して船を目指した。
しかし、望むほどの逃亡スピードは得られなかった。草木が邪魔をして思うように移動できないからだ。
上へ飛ぼうにも、太陽の光を完全に遮断する程の木の枝や葉が邪魔して突破できない。つまり低空飛行しかできないわけだ。
しかも最悪なことに、さきほど戦ったローブの魔物は、ひとたび出現すると、こちらも飛んで僕達を追いかけてくる。魔法で飛んでる設定だろうか。
再び草むらから飛び出したこいつからタケコプターを用いても逃げきれず、再度戦闘に入ってしまった。
先ほどの要領で挑んだが、それはつまり僕も回復魔法を連発するということだ。そしてとうとう……。

「ドラえもん!MPが切れちゃったよ!」

僕らの回復手段は断たれてしまった。いや、あるにはあるのだが、回復アイテムの回復量じゃローブの魔物の魔法ダメージ量に追いつかない。
今回の戦闘はどうにか生還できたのだが、全員ダメージを負ったまま戦闘を終えてしまった。つまり、もう一度戦闘に入れば、100%僕らは全滅するのだ。
174: :2012/5/16(水) 22:17:16 ID:NeNQDk43GY
最悪なことに、またあいつが出てきた。飛んで僕達を追いかけている。マップで回復してる暇はない。
更にこちらが律義に低空飛行してれば追いつかれてしまうことはさっき証明してしまった。万事休すか。

「一か八かだ!上へ逃げよう!!」

そう言ってドラえもんは上空の枝や葉に向かって突っ込んで行った。
なるほど、勢いで枝などをへし折って突破する作戦か。
成功したかどうかは下からではわからないが、とにかくドラえもんは葉が形成する天井に突っ込んで姿を消した。
四の五の言っていられない。僕やジャイアンも、ドラえもんと同様にフルスピードで枝や葉に突っ込んだ。
……どうしてこうもついてないのか。僕は比較的最初の方で枝にひっかかり、腰から下を木の葉の天井から露出した状態で身動きが取れなくなってしまった。
175: :2012/5/16(水) 22:18:09 ID:NeNQDk43GY
頭は葉の中に突っ込んでるので見えないが、きっとあのローブの魔物は追いかけてきてるだろう。
そして僕に接触すれば戦闘が始まって、僕は殺されるんだ。あいつ、壁を作って逃げられなくするし。
怖いなあ。死んだらどうなるんだろ。意識ってあるのかな?
とにかく、僕はここで終わりだ。死後に意識があるのなら、ドラえもんとジャイアンのクリアを祈ろう。
できれば現実の世界で再会したいな……。

「全く、心の友は世話が焼けるぜ」

僕は驚いた。下からジャイアンの声が聞こえたからだ。
え?何で!?ジャイアンは脱出したんじゃないのか!?
176: :2012/5/16(水) 22:19:36 ID:NeNQDk43GY
「仲間の攻撃じゃダメージは負わない……確認しててよかったな。それじゃあ心の友よ、次は現実で会おうぜ」

ジャイアンが何を言ってるのか理解できない。何をする気だ?
いろいろ考えてると、突然僕の足裏に衝撃が走った。
すごい衝撃だ……悠長にそう思ってると、突然僕の体が超スピードで上昇を始めたのだ。
上昇は止まることなく、そのまま葉の大群を突破し、僕の体は青空に投げ出された。

「のび太くん!」

声の方を向くと、そこにはドラえもんが飛んでいた。

「ドラえもん!ジャイアンは!?」

僕は本能に従って、今一番確認したいことを訊ねた。ドラえもんは少し表情を暗くしてから答えた。

「……君を助けると言って、森の中に戻ったんだよ」
177: :2012/5/16(水) 22:20:56 ID:NeNQDk43GY
僕を助ける?

「僕とジャイアンは脱出できたんだけど、のび太くんの姿がないことに気付いた。そしたらジャイアンは絶対に助けるって言って……」

ドラえもんの説明、森でジャイアンが放った台詞、そして足裏の衝撃……これらのピースから僕は真実を組み立てた。
ジャイアンは僕を助けに再び森に突入し、枝にひっかかって動けなくなってる僕を見つけたんだ。
そして、仲間同士の攻撃ではHPが減らないのを利用して、足裏に斬撃を当てて僕を助けたんだ。
攻撃の勢いで僕をひっかけてた枝は折れ、攻撃の勢いとタケコプターの力で、この空まで押し上げられたということだろう。
それはいい。よく理解できた。ただ、よく理解できないことがあるんだ。いや、理解できないんじゃなくて、理解したくないというのが正しいのか。

「……ドラえもん、何でジャイアンはここに戻ってこないの?」
178: :2012/5/16(水) 22:21:51 ID:NeNQDk43GY
ドラえもんは黙っている。訊ねておいてこう言うのもなんだけど、答えなくたって僕はもうわかってる。
ローブの魔物と僕の位置関係、そこに駆け付けたジャイアンがあの台詞を放ったんだ。わからない方がおかしい。
……ジャイアンはもう戦闘に入ってる頃だろう。
エンカウントの際に30m離れてただろうから、僕とドラえもんは戦闘不参加で済んでるけど、ジャイアンは今頃きっと立方体の中で死を待ってる。

「助けに行こう!ジャイアンが死んじゃうよ!」

僕はこう提案したが、ドラえもんは首を横に振った。

「……今僕らが行っても、全員のHPが0になるだけだよ。僕らは空から船に戻ろう」
179: :2012/5/16(水) 22:23:02 ID:NeNQDk43GY
ドラえもんの発言に僕はカッとなってしまった。
わかってる。理屈じゃドラえもんが正しいってわかってる。でも……。

「見捨てるの!?ジャイアンは危険を顧みず僕を助けてくれたんだ!なのに、僕らは危険だからって見捨てるのか!」
「助けようとして自分まで助からなくなったら本末転倒だろ!」
「じゃあ何でドラえもんはジャイアンを止めなかったんだ!」
「止めようとしたよ!でもジャイアンは言うことを聞かなかった!僕は止められなかった!」
「何でだ!何で僕が生きてるんだ!ジャイアンが生きた方がクリアに近付くってのに!」
「ジャイアンは……僕とのび太くんが残った方がクリアに近付くって言ってたよ」

……そんな馬鹿な。普段は我儘な暴力野郎でも、いざという時は度胸と力と優しさで僕らを引っ張るガキ大将よりも。
クズでのろまで内心毒づいてるだけの何にも役に立たない僕なんかの方がクリアに役立つって言うのか。
わからないよ、ジャイアン。僕にはわからない。
180: :2012/5/16(水) 22:24:27 ID:NeNQDk43GY
重苦しい空気の中、僕らは空を渡って船へと帰還した。
ここまでくれば安心だ。だけど、ジャイアンは未だ森に……。
……ははは、いつか僕は思ったっけ。ボスに通じる僕らの努力があればもう仲間を失うことはないって。
嘘っぱちじゃないか!毒の湖であんな長い時間をかけてレベルを上げたのに!
何の変哲もない、マップに出てきた雑魚にやられたって、どんな冗談だよ!
しかもやられたのはジャイアンだ!ドラえもんはともかく、僕なんかが残ってしまった!
誰にも侵されない心の中で自分を棚に上げて毒づくだけの駄目人間が残ってしまったんだぞ!
これじゃあ……これじゃあ……。

「……クリアなんて無理じゃないか。そうだよ、もう僕らは現実になんて帰れないんだ!」

……声に出てしまった。
そんな僕の弱気な発言に、ドラえもんが勇気づけるようにこう言った。

「大丈夫だよ!まだ僕達が残ってる!ジャイアンも言ってたけど、僕とのび太くんなら、どんな逆境だってはね返せるよ!」
181: :2012/5/16(水) 22:25:26 ID:NeNQDk43GY
……僕は全然そんな気がしない。
こんな僕を励ますために、無理にでも前向きに頑張ろうとしてるだけに思える。
自分の中で負の感情がふつふつとわきあがる。駄目だ、これは正しくない。これをドラえもんにぶつけてはならない。いけないのに……。

「うるさい!気休めなんて聞きたくないんだよ、僕は!」
止まらない。
「そこまで言うなら根拠を聞かせてくれよ!どうせ適当に言ってるだけなんだろ!」
「僕なんか助けて犠牲になったジャイアンは馬鹿だ!止めなかったお前も馬鹿だ!」
止まらない。
「だいたい全部お前が悪いんだよ!こんなゲーム買ってきて!」
「何でお前の失敗に僕らが巻き込まれなくちゃならないんだ!」
「助けてよ!責任持てよ!怖いんだよ、僕は!!」
止まらない。
182: :2012/5/16(水) 22:26:53 ID:NeNQDk43GY
自分が間違ったことをしてるのは理解してる。
ジャイアンの行動も、ドラえもんの行動も全然馬鹿げてない。
前者は仲間を想う優しさだし、後者は冷静で適切な判断と言える。
それに、悪いのは勝手にこのような改造をしている謎の人物であって、ドラえもんは悪くない。
これでドラえもんが悪いのなら、そもそもスネ夫に最新ゲームで対抗したいと考えた僕が諸悪の根源だ。
これだけわかってるのに、何故ああも的外れな意見をしたのか?簡単だ。
この絶望的な状況で、誰かを責めて誰かのせいにして、楽になりたいのだ。
僕は最低だ。何よりも汚い生物だ。

「……ごめん」

ドラえもんは僕に謝ってきた。これほど馬鹿げた相手でも、自分が引いてあげられる優しい大人だ。
楽になりたい、なんて動機でついた悪態でも、実際は微塵も楽になんてなれない。苦しい。自分のクズさと厳しい状況が僕の重荷となる。
183: :2012/5/16(水) 22:29:04 ID:NeNQDk43GY
ドラえもんの謝罪を最後に、僕らは黙り込んでしまった。
船についてから僕らは無言のまま最初の大陸に戻った。
そして港町で、僕のMPを回復する目的で宿に泊まった。
ゲームの設定で即座に朝となり、ステータス上では僕らは完全復活を果たした。

「これからどうしよう?」

ドラえもんが訊ねてきた。
聞かれたところで考える気力が湧かない。正直、もう無理だという気持ちが強いんだ。諦めたい、もう楽になりたい。
ドラえもんがいることは確かに心強いが、その相方が僕なんだからさ。プラマイゼロで可能性は断たれたと、そう思ってる。
184: 今回はここまで:2012/5/16(水) 22:30:13 ID:NeNQDk43GY
悪態をついてしまって空気が悪くなってるのも重なって、僕は適当に返事をしてしまった。

「ドラえもんの好きにやればいいでしょ」

悪いとわかってても、冷たい反応をしてしまう。もはやドラえもんの前向きな姿勢が、僕には辛いからなのだろうか。

「……じゃあ大陸を順に回ろう。敵には気をつけて、僕らのレベルで通用しそうな大陸を見つけるんだ」

大人なドラえもんは僕の態度に怒ることなく、冷静な考えを披露する。
立派だ。よくこの状況でこんな冷静に考えられるな。やめてよ、どんどん僕の汚さが浮き彫りになるじゃないか。
もう嫌だよ。ドラえもんと一緒に進んだら、僕はもう楽にはなれないよ。自分と君を比較したくないんだよ。それに、もう諦めたいんだよ。
発言するとまたドラえもんを無意味に傷つけるような気がして、僕は黙ったまま船に乗り込むのだった。
ドラえもんも黙って乗り込んだ。その表情は、どこか悲しそうに見えた。
185: :2012/5/17(木) 22:54:56 ID:NeNQDk43GY
それからのことを少し駆け足で説明する。
この一件をきっかけに、僕らの関係はドライなものになってしまった。
ドラえもんがあまりにも前向きだから、僕はドンドン卑屈になった。僕が足を引っ張るからどうせ無理なのにって感じで。
あと、変に意地になってた部分もあるのかもしれない。なんていうか、謝れないのだ。悪態をついてドラえもんを困らせ続けた。
我ながら、本当にクズだと思う。でも辛いんだよ、前を向くことが。
そんなだから、ドラえもんも困り果て、関係はぎすぎすしていったのだ。
186: :2012/5/17(木) 22:55:24 ID:NeNQDk43GY
ストーリーに関しても軽く説明しておこう。
森でジャイアンを失った後、ドラえもん案で僕らは地道に大陸を探し続けた。
純白の雪に包まれた大陸、マグマ燃えたぎる火山の大陸等、様々な島に上がったが、どこも雑魚敵が格上だった。頭上のHPで判断し、あとはタケコプターで逃げただけなので本当にそうとは言い切れないが。
極めつけは、大陸とはとても言えない小さな島の洞窟である。そこの雑魚敵が一番脅威的に感じた。HPの桁からして違うのだから。
あれはきっとストーリー本編には関係ないやり込み用のダンジョンであって、一週目から挑むのは玄人くらいのものだ、と判断して去るしかなかった。
こういった四苦八苦の末、ようやく僕らは妥当な大陸を発見したのだった。足元が重い砂漠の大陸だ。
表示された雑魚敵のHPは大したことなく、僕ら二人で問題なく倒せたからまず間違いないだろう。
こうしてようやく次なる冒険の地を得たのだ。
187: :2012/5/17(木) 22:56:04 ID:NeNQDk43GY
そこでレベル上げを開始した。ぎすぎすしてて、会話も何もない、ただ敵を倒すだけの作業。
苦痛だった。僕はもちろん、ドラえもんもたぶんそうだっただろう。
レベルを上げて、町に行って情報収集し、ダンジョンの情報を仕入れてそこに向かう。砂漠に佇む威厳ある遺跡であった。
そこにいるボスは相変わらず反則的な強さだったけど、異常なレベル上げと執拗な回復重視戦法でどうにか戦うのだった。
遺跡を守るスフィンクス風のボスを倒すと、そいつはアイテムを落としていった。
そう、始まりの大陸で集めるよう言われた魔法石、その記念すべき一個目である。
話してしまえばすぐだが、長い時間をかけてようやく手に入れた魔法石だ。だけど、入手までの道のりの割に喜びはなかった。
目の前のボスを倒したところで、この世界が危険なことに変わりはないし、僕の中ではこれらも無駄な足掻きでしかなかったからだ。
188: :2012/5/17(木) 22:57:00 ID:NeNQDk43GY
あとはこれを繰り返すだけだった。
僕らが挑むに妥当な大陸を探してレベル上げして、町で情報収集してダンジョンに行ってボスを倒す。そして魔法石を得る。
この繰り返しをまともな会話もないままに僕らは続けた。
沼地が支配する大陸、雪の敷き詰まった大陸と、魔法石だけ順調に三つそろった頃、僕らの精神はいろいろと限界を迎えていた。
……それは、始まりの大地の港町で一息ついていた時に起こった。
189: :2012/5/17(木) 22:58:16 ID:NeNQDk43GY
「のび太くん。雑魚敵の強さから察するに、次の大陸は……あの森の大陸だよ」

ドラえもんが僕にそう説明した。
僕らにとってはいわくつきの地だ。そう、ジャイアンを仕留めた魔性の森。

「そう。じゃあそこでもう死のうよ。ジャイアンの魂が僕らを迎えに来てくれるかもよ」

もはやいつも通りになってしまった悪態。
どうせもうクリアは無理なんだから、はやく諦めたいんだ。絶望の中で強かに頑張り続けるのは辛いんだ。
全てが無駄になるのなら、最初から何もしない方が合理的だろ?
だけどドラえもんはそうは思ってない。前向きと後ろ向きのミスマッチは確実に互いを悪く刺激し合ってたようで、ドラえもんは唐突に怒鳴ったのだ。
190: :2012/5/17(木) 22:59:28 ID:NeNQDk43GY
「いい加減にしてよ!確かに皆を巻き込んでしまったのは悪かったけど……そこまで露骨に悪態つかなくたっていいじゃないか!」
「うるさいなあ!僕がこんな風になるのは、ドラえもんが頑張るからでしょ!だったらもう諦めてよ!」
「諦めたらクリアできないじゃないか!諦めたら皆を助けられないじゃないか!」
「頑張ってもできないよ!このゲームはジャイアンすらも倒したんだぞ!いくらドラえもんがいたって、僕がいる限り可能性は0だよ!」
「何でそんなに自分を貶めるんだ!僕も、ジャイアンだって君のことを信頼してるのに!」
「自分の駄目さ加減は誰よりも僕が知ってるよ!僕なんかに構うから皆駄目になるんだよ!」
「のび太くんは!!自分の力がわかってない!!」
「ドラえもんは!!僕の人柄を勘違いしてる!!」

ひとしきり叫んでから、僕らは睨みあった。
191: :2012/5/17(木) 23:01:22 ID:NeNQDk43GY
「……そんなに諦めたいなら、もう君一人で諦めてくれ。僕だけでもゲームクリアを目指すよ」

突然、こんなことを言い出した。
ああもうそれでいい。ぶっちゃけ、僕がいない方がクリアの可能性は上がるだろう。
ドラえもんがいなくなれば、自分の汚さが浮き彫りにならず、そんな自分に嫌悪感を向けなくて済むんだ。
僕が旅から離脱すれば、わずかでも可能性が生まれるんだ。
それでも不可能だと思うけど、ドラえもんなら、もしかしたら僕さえいなければ現実の日常を取り返すかもしれない。
……日常を取り戻したって、僕らの関係までは戻らないかもしれないけどね。

「わかった。そうしてくれ。僕はもう何もしないよ」

僕ははっきりと言い放った。
192: 今回はここまで:2012/5/17(木) 23:04:06 ID:NeNQDk43GY
ドラえもんの表情は、何だかうまく言い表せない物となっている。今彼の中にあるのは怒りか、悲しみか……それはきっとドラえもんにしかわからない。
しかしその胸の内を明かすこともせず、無言のままドラえもんは船に乗り込み、出発した。
船が出港した。タケコプターも手元にはない。つまり、僕は始まりの大陸に一人取り残されたわけだ。
置いて行かれたという形になるが、僕の心は晴れやかだ。
もう無駄な努力もしなくていい。
ドラえもんが一人になったから、まだマシになる。
僕は適当に、ただここに在るだけでいい。ゲーム世界に残るのならそれも受け入れるし、万が一現実に戻れても、それもいい。
僕は町を出た。草原が風と共に踊っている。素晴らしい景色だ。この地も解き放たれた僕を祝福してくれてるのかな。
193: :2012/5/18(金) 23:32:52 ID:NeNQDk43GY
僕は少し斜面になっている場所を見つけると、そこに寝そべった。
このゲーム世界に投げ出された瞬間から、この草原は僕のお気に入りだった。一回ここでゆっくりと寝てみたいと願ってたんだよね。
陽と草に包まれながら僕は目を閉じた。しかしそこに闇はなくて、代わりにすっかり見慣れたメニュー画面が表示された。
……そうだった。この世界では眠気に誘う暗闇なんて存在しないのだった。さらに言えば眠るという行為自体封じられた世界なのだ。
仕方がない。僕は始まりの大陸を適当に散歩してみることにした。
194: :2012/5/18(金) 23:33:41 ID:NeNQDk43GY
スライムがいる。
思えばしずかちゃんはこいつにやられたんだったな。懐かしいなあ。と言っても、体感的に何十時間か前のことだけど。
レベル上げだけは惰性でこなしてきた。僕のレベルは今では60だ。下手なRPGなら隠し要素に挑むレベルだろう。
こんなレベルでもマップによっては詰みかねないこのRPGでも、スライム相手ならもう怖くない。
デフォルメ的な可愛らしいスライムと僕は戯れてみた。向こうにその気があるかは知らないが、僕は遊んでる。
だけど、言葉も通じず、心も通わせられない状態で戯れたって、すぐに飽きがくる。
一定のリズムで攻撃をくらって僕のHPが1ずつ減っていくだけだ。これの何が楽しいのだろうか。むなしくなってくる。
僕はスライムに攻撃して、ちんけな金と経験値を得てからその場を離れた。
195: :2012/5/18(金) 23:34:31 ID:NeNQDk43GY
ゲームに向き合ってる時は大して気にならなかったけど、やはりこの世界はゲームなんだ。どんなにリアルでも、現実ではない。
ゲームをやるために作られたこの世界は、人間が人間らしく楽しく生きるのには不向きだ。
寝ることもできない。食べることもできない。遊びもままならない。
この世界の人間もゲームに関することしか喋らない。生きてる人の会話なんて望めない。
ゲームをやるために作られたこの世界で、人間が人間らしく楽しく生きるなんて出来っこないんだよ。
今更ながら気付いてしまった。こんなことに気付きもせず、受け入れられるつもりでいた自分に呆れる。反吐が出る。
196: :2012/5/18(金) 23:35:26 ID:NeNQDk43GY
楽になりたい。
ジャイアンが犠牲になったあの時から、今までずっと僕が思い続けた願いだ。
だけど今気付いた。ここに安楽なんてないんだ。
ここに人としての幸せはないんだ。それに、幸せっていうのは困難を越えて初めて得られる物なのだろう。
クリアを目指して前進するドラえもんを見てると、何だかそのように思えた。
ああ、本当に今更だけど気付いた。いや、最初からわかってたはずだった。
こんなもん望んじゃいない。望みはいつだって、皆と共に在る現実だった。
努力を無下にされるのが怖くて、自分の非力さを認めたくなくて、無理だと自分に言い聞かせて逃げたんだ。
本当に望む物のために足掻くべき局面で、努力やそれに伴う苦しみを嫌って僕は逃げたんだ。
197: :2012/5/18(金) 23:36:13 ID:NeNQDk43GY
謝りたい。身勝手だけど、本当に身勝手だけど、僕はそう思った。
謝って、メンバーに戻してもらって、少しでもドラえもんの役に立ちたい。
こんな最低で足手まといな僕でも、やりようによっては役に立てると思う。敵からドラえもんを守る盾くらいにはなれるだろう。
とにかく、ドラえもんに会いたい。
僕の望みは、努力から逃げることでも、この世界に閉じこもることでもない。仲間と共に在ることだ。
やっと見つけた。やっと向き合えた。今なら。今なら僕でも前を向ける気がする。
前方のどこかにあるはずの希望を、ドラえもんと並んで見据えたい。その過程がどんなに辛くても、その希望に向かって共に進みたい。
僕は港町に戻るように駆け出した。
198: :2012/5/18(金) 23:36:47 ID:NeNQDk43GY
港町に着き、いつも船を止めるところに向かった。
しかし、当然ながら船はなかった。
当たり前だ。僕がドラえもんを拒絶して、彼は一人旅立ったのだから。
それでも。それでも僕は。

「ドラえもん!ドラえもん!!」
「僕が悪かった!何もかも僕が間違っていた!」
「もう辛くても、前を向くのをやめない!ドラえもんを支えたい!」
「ドラえもん!帰ってきてよ、ドラえもん!」

どんなに叫んでも、僕の声は海の向こう側に消えるだけだった。
199: :2012/5/18(金) 23:37:56 ID:NeNQDk43GY
自ら切り捨てた存在が、どれほど大切だったかを思い知った。
僕は取り返しのつかないことをしてしまったのだ。
船のいない港で僕は両膝をついた。続いて両手をつき、大声で泣き喚いた。
これほど大声で泣いても、町の人は見向きもしない。それもそのはず、彼らはゲームでしかないのだから。
ドラえもんだったら、きっと心配してくれるのだろう。たとえ僕が悪態をついて喧嘩してしまってる今の状況でも、きっと。
ドラえもんは優しい。
優しさを持ち続けること、頑張り続けること、この二つは難しいことだ。とても辛いことだ。
それをドラえもんはできるんだ。
僕は辛いのは嫌いだ。でも、本当に望む物はその辛さの向こうにあるんだ。
一人では挫折しても、ドラえもんがいれば頑張れるんだ。
ドラえもんと一緒にいたいんだ。仲間と共に帰りたいんだ。
それがようやくわかったのに……僕はもうそこには行けないんだ。
自業自得ではあるが、それでも悔しさから涙は止まらなかった。
200: :2012/5/18(金) 23:38:49 ID:NeNQDk43GY
どれほど経っただろうか。僕はあれからずっと港でボーッとしてた。
たぶん2時間くらいは経ってると思う。すっかり涙も枯れてしまった。
ここに取り残された僕は、何もすることがない。来るかもわからない勇者の船を待つことしかできなかった。
視線は常に水平線の彼方に向いていた。何を見てるのか、自分でもよくわからない。
このまま忠犬のように待ち続けてたら、ご主人様がやってきてくれるとでも思ってるのか。
そんなことがあるわけないだろうに。

「……っ!?」

そう思った直後に、我が眼は、水平線の彼方より待望の姿をキャッチした。
そう、いつだったか町の男性から譲り受けた船の姿である。
201: :2012/5/18(金) 23:39:28 ID:NeNQDk43GY
「ドラえもん!!」

自分でも驚くくらい、自然に大声は発せられた。
渾身の力で張り上げるから、喉が痛い。それでも構わずに僕は大切なその名前を叫び続ける。
やがて港に到着したその船より、青き勇者は姿を現した。

「のび太くん!!」
「ドラえもん!!」

彼は船から駆け降りた。
僕は彼の下へ駆け出した。
やがて両者の距離は0となった。
202: :2012/5/18(金) 23:40:25 ID:NeNQDk43GY
抱き合いながら、涙を流しながら、僕らはたくさんの「ごめん」を交えた。
僕は、怖さや辛さから逃げだして迷惑をかけたことを謝った。
ドラえもんは、今回の事件を自分の責任として、僕の不満を拒絶したことを謝ってきた。
あんなもの、全て僕が悪かったのに、やっぱりドラえもんは優しい。こんなに優しくて頼れる君を、僕はもう見失いたくない。
どう考えても僕が一方的に悪いにもかかわらず、お互いに自分を悪く言いながら謝罪し、長い時を経て僕達は仲直りしたのだった。
203: :2012/5/18(金) 23:41:13 ID:NeNQDk43GY
……それにしても、なぜドラえもんは戻ってきてくれたんだろう?
僕がそれを訊ねると、ドラえもんは素直に教えてくれた。

僕と別れてから次なる大陸を目指したドラえもんだったが、しばらくして一人でいることに恐怖したという。
それは難易度的な意味で?と、僕が訊くと、首を横に振って、その心の内を明かした。
命を感じられないこのゲーム世界で、ただ一人いることが怖くなったらしい。そこは僕と一緒だ。

「屁理屈言って困らせて、怠けることに知恵を絞って、口喧嘩だって絶えないけど、良くも悪くも人間臭い君の存在が僕は好きだと気付いたんだ」
「困難を前にして紆余曲折こそ経るけども、最後には向き合って切り開いていける、君の力と勇気が必要だと気付いたんだ」

だから謝ろう、君を迎えに行こうと思ったんだ。と、ドラえもんはそうまとめた。
過大評価だと思うけど、今は素直に嬉しい。大切な友達と、共に在る今が何より愛おしい。
204: :2012/5/18(金) 23:41:46 ID:NeNQDk43GY
「そうだ」

ドラえもんは僕に道具を渡してきた。
それは銃だった。このゲーム世界の武器だそうだ。
装備してみて、と言われて僕は素直にそれに従った。目を閉じてステータスを確認してみる。
驚く他なかった。その銃は、今まで買ってきたどの武器よりも攻撃力を上昇させていたのだから。

「ドラえもん、これどうしたの!?」
「……のび太くんは孤島のダンジョンを覚えてる?」
205: :2012/5/18(金) 23:43:02 ID:NeNQDk43GY
孤島のダンジョン。もちろん覚えてる。
どの大陸よりも強い雑魚敵が現れるダンジョンで、僕はそこをやり込み用のダンジョンだと決めつけた。
最近のゲームにはやり込み要素という物がある。本編クリアには関係ない上に難易度は最高クラスのダンジョン等がそうである。
苦労してダンジョンを攻略すれば、レアアイテムだったり、攻略した証が貰えたりする。そういうのを取るのがプレイヤーの喜びに繋がるわけだ。
とことん極めたいというプレイヤーのための隠し要素とも言える物で、最近のゲームではこういった要素が比較的多く含まれる傾向にある。
とにかく、雑魚敵の異常な強さから、孤島のダンジョンはクリアには関係ないやり込み用だと、僕はそう決めつけていた。

「のび太くん、こういうダンジョンにはレアアイテムがあるって言ってたよね。だから……」
「一人で挑んだの!?」

遮って訊ねると、ドラえもんは首を縦に振った。
206: :2012/5/18(金) 23:43:56 ID:NeNQDk43GY
あそこの雑魚敵は、今まで戦ってきたボスも含めて、一番高いHPを誇った。おそらくは他のステータスも高いだろう。僕らが現状で挑めるダンジョンではない。
なのにどうやって挑んだのか訊くと、ドラえもんは戦闘自体は行ってないらしい。

「秘密道具を駆使して逃げて、どうにかアイテムだけ回収できないかなって」

その作戦は功を奏したわけだ。
この銃はそこで手に入れた物らしい。ドラえもん自身も強力そうな剣や用途のわからないアミュレットなど、使える物や使えない物を含めた多くのレアアイテムをゲットしていた。
ドラえもんはこれを仲直りに役立てたくて、取ってきたという。

「のび太くんは銃の扱いがうまいからちょうどよかったよ。クリアに向けて、僕頑張ったから……また一緒に旅してくれる?」
207: 今回はここまで:2012/5/18(金) 23:45:00 ID:NeNQDk43GY
ドラえもんは本当に僕のために行動してくれる。
過ちに気付いて、役に立ちたいと僕が願ったその直後に、こんなアイテムをくれるのだから。
ありがたい。これならきっと僕だってドラえもんの力になれるはずだ。
ドラえもんがこれほどまでに僕のために頑張ったんだ。
今度は僕が、ドラえもんのために頑張る番だ。
あのダンジョンから生還するほどの奇跡を起こしていけるドラえもん。そんな彼を僕が支えて、仲間を、現実を取り戻すんだ!

「こっちこそ、一緒の旅を願ってたんだよ。また一緒に頑張ろう!」

ジャイアンを失ってからずっと止まってた僕らの時間がようやく動き出した。
208: :2012/5/19(土) 21:58:28 ID:NeNQDk43GY
僕らは船で次なる大陸を目指していた。
今までクリアした大陸は三つ。砂漠の大陸、沼地の大陸、雪の大陸だ。
残るは森の大陸と火山の大陸。その二つのうち、今回挑むのは、ジャイアンを失った森の方である。
到着し、その大陸に足を踏み入れた僕達を緊張が襲う。
209: :2012/5/19(土) 21:59:03 ID:NeNQDk43GY
「ここでジャイアンはやられたんだよね……」
彼は僕を庇ってやられてしまったのだ。

「……大丈夫だよ、のび太くん。今の僕たちなら、きっと」
ドラえもんが僕を励ましてくれた。
そうだ、今の僕達はあの時とは違う。
レベルだって20から60になってるし、ドラえもんのおかげで強力な武器も手に入れた。
そして何より、今の僕らは心が一つとなっている。きっと大丈夫だ。今なら信じられる。

「行こう、ドラえもん。ジャイアンの仇を打つんだ!」
210: :2012/5/19(土) 22:01:32 ID:NeNQDk43GY
いろんな遠回りを経て、ようやく僕らは草木の要塞に戻ってきた。
相変わらず草が歩行を邪魔してくる。立ちはだかる木々によって視界が狭まるのも以前と同じだ。
そしてこの草むらから突然魔物が襲いかかるのも変わらなかった。黒いローブの魔物がまた現れたのだ。
かつてそうしたように、魔物は箱を作って僕らを閉じ込め、呪文を唱え始めた。
しかし僕らは動じない。僕らの頭にあるのは、こいつを倒すという思いだけだ。
僕は新たな武器の試し撃ちを兼ねて、銃を魔物目掛けて発射した。
ゲームのお約束と言うべきか、弾数制限はない。僕は引き金を引き続ける。
すると、銃弾が当たった物とは思えない爆発を起こして、魔物のHPを大幅に減らした。やはりこの武器は使える。
攻撃力が高いし、僕の唯一の取り柄とも言える射撃能力と重なれば強大な力となる。
211: :2012/5/19(土) 22:02:46 ID:NeNQDk43GY
あっという間に虫の息となった魔物に、接近したドラえもんがとどめを刺した。
勝った。ジャイアンを奪ったこの敵から、僕らは攻撃魔法も使わせないままに勝ったのだ。
明確な形となって現れた努力の成果に僕らは喜びあった。
ジャイアンすら倒した相手に僕らが勝った意味はとても大きい。緩やかにでも、クリアに向かって前進していると実感できたのだから。
やはりドラえもんがいれば、希望は、奇跡は、幻ではなくなるんだ。きっと仲間を助けられるという希望が僕の中に満ちていく。
ひとしきり喜んだ僕達は、あの時は辿り着けなかった森の中の集落を目指して先を急いだ。
ドラえもんを全力でサポートして、日常を取り戻そう。ひそかにそう誓って、僕はドラえもんの後を追うのだった。
212: :2012/5/19(土) 22:03:46 ID:NeNQDk43GY
マップを確認しながら、ようやく集落に辿り着いた。
一応人がいるにはいるが、少し……いや、だいぶ時代を遡った人達だった。
商売なんてやってる様子は微塵もなく、仕方がないのでさっさと情報収集することに決めた。
言葉は通じるのか?と一瞬不安になったものの、とりあえず言葉は通じるようだ。
僕達は葉っぱのテントに入り、裸体に近い格好の人達に話を聞いて回った。
すると、青年からある情報を仕入れることに成功した。

「川辺に木の化物が住み着いちまって、飲み水が確保できねえんだ。このままじゃ俺達はおしまいだ……」
213: :2012/5/19(土) 22:04:45 ID:NeNQDk43GY
木の化物。雑魚敵にそのような魔物はいなかったはずだ。
となると、この情報は……。

「たぶんボスのことだろうね」

僕が思っていたことをドラえもんが代わりに答えてくれた。うん、僕もそう思う。
目を閉じてマップを見てみると、この集落から西に行ったところに川があるのが確認できる。
おそらくはそこだろう。川沿いのどこかにボスがいるのだ。
魔法石を手に入れるためにも、そしてここの人達の森での生活のために、僕らは川へ向かった。
214: :2012/5/19(土) 22:05:26 ID:NeNQDk43GY
雑魚を倒しながら進むと、川辺に到着した。
流れる水は透き通っており、綺麗な川を想像する時の理想像と言っても過言ではないほどだった。
周りの緑に囲まれた風景も重なって、自然の絶景と言えよう。なるほど、これだけ綺麗なら飲み水としても通用しそうだ。

「ここにボスがいるんだね……とりあえず下ってみようか」

ドラえもんのその提案に乗っかって、僕らは川の流れる方へ歩むことにした。
長い草が邪魔する森の中と違って、川辺は比較的歩きやすい。僕らはドンドン進むのだった。
215: :2012/5/19(土) 22:06:31 ID:NeNQDk43GY
道中の雑魚を倒しながら川を下るように歩いていると、広場のような場所を見つけた。
草木が支配するこの森で、木や長い草が存在しないその空間は異様な雰囲気に包まれていた。

「……行ってみよう」

ドラえもんもそれを察したのか、その空間を目的地にして川辺コースから外れた。
僕も同じように川と別れて、その空間に侵入を果たしたのだった。
実際に立ち寄ってみると、異様な雰囲気はより強くなった。
植物が好き勝手暴れてるこの大陸において、ここだけが整備の行き届いた球場のようになってるのだ。違和感を感じない方がおかしい。
216: :2012/5/19(土) 22:07:38 ID:NeNQDk43GY
僕達が空間に入ると、その空間の中心部に異変が起こった。
地面が盛り上がり、ひび割れたかと思うと、そこから鋭利な枝が突き出したのだ。
出現したその枝は上昇していった。上昇につれて幹や根も地面から姿を現した。
でかい。最初に出た枝の先端を見ようとすれば、アッパーを喰らったかのように顔を上向ける必要があった。
このままでは首がきついと、緩やかに視線を落としてみると、僕はようやくその枯れ木の幹に顔があると気付いた。
言うまでもないだろう。

「人間がわしの領域に何の用じゃ?」

こいつがここのボス、あの人が言っていた木の化物だ。
217: 今回はここまで:2012/5/19(土) 22:08:35 ID:NeNQDk43GY
「この島の自然の恩恵を一人占めして、許さないぞ!」

ドラえもんが威勢よく啖呵を切った。本当にちゃんと勇者をやってるなあ、と感心するよ。
それに大して木の化物は、小馬鹿にするようにケラケラ笑った。

「何故わしが弱く傲慢な人間のために妥協せねばならぬ?強いわしは好きに振る舞う権利があるのじゃ!」
「この島の清き水も、良い土も、全てはわしの物じゃ!人間などは死に絶えて肥料になればよい!」

自分良ければ全て良しの悪役的考えだ。これだけわかりやすければ、勇者一行としても倒し甲斐があるというものだ。
魔法石のため、この島の人達の明日のため、青き勇者とその仲間は木の化物へと立ち向かった。
218: :2012/5/20(日) 13:12:54 ID:NeNQDk43GY
先手必勝だ。
僕は木の化物目掛けて銃を発射した。
幹に浮かぶ顔に弾は当たり、ゲームらしい爆発のエフェクトが起こる。

「どうだ!」
「……のび太くん」

我ながら素晴らしい先制攻撃だというのに、ドラえもんの声は沈んでいる。
どういうことだと確認を迫ったところ、木の化物の頭上のHPを指さしたので僕はそれを見た。
そこには、1すら減っていない新品同様のHPが表示されていた。
219: :2012/5/20(日) 13:13:44 ID:NeNQDk43GY
バカな。確かに攻撃したはずだ。
何かの間違いではないかと、僕は二度三度引き金を引いた。
しかし、それでも木の化物のHPが減ることはなかった。

「何で!?防御力が馬鹿みたいに高いのか!?」
「いや、それにしたって1も減らないのはおかしいよ!」

ドラえもんに言われて気付いた。
確かに、僕だってレベル60でありながらスライムからの攻撃でHPを1減らしたんだ。
ステータス差があるとしても、一つも減らないのはおかしいと自ら証明してしまってる。
220: :2012/5/20(日) 13:14:27 ID:NeNQDk43GY
戸惑ってる僕達を木の化物が待ってくれるはずもなく、今度はこちらの番だと言わんばかりに攻撃を仕掛けてきた。
枯れてるはずの枝先から葉っぱが生えてきたかと思うと、それを僕達に飛ばしてきたのだ。
フィールドを駆けてなんとかそれを回避する僕達。しかし攻撃はそれだけでは止まらない。
足元に違和感を覚えた。下を見てみると、ボスの物と思われる木の根っこが僕の両足を捕獲していたのだ。
ドラえもんも捕まっている。それどころか、地面から出てきた根っこが全ての足場を支配していた。
動けなくなった僕達がお互いに心配してると、異変はそこで起き、僕らは声を重ねた。

「「大変だ!HPが減ってる!」」
221: :2012/5/20(日) 13:15:16 ID:NeNQDk43GY
お互いに教え合い、言われて今度は自分のHPをチェックする。
確かに、自分も相手に指摘したのと同じようにHPが減っていた。
でも何で?僕が混乱してるところに、ドラえもんがハッと気づいて大声をあげた。

「根っこだ!きっと、根っこが僕達のHPを吸収してるんだ!」

そうか。確かにこの現象は根っこに捕まってから始まった。
ドラえもんの言葉を受けて、僕は足元の根っこに向けて銃を撃った。味方の攻撃ではHPは減らないんだから、自滅もノーカウントだろう。
その予想通り、銃の爆風に巻き込まれたものの、その分のHP減少は発生しなかった。
ドラえもんも剣を足元に向かって振るい、ようやく根っこの呪縛から解き放たれていた。
222: :2012/5/20(日) 13:16:10 ID:NeNQDk43GY
根っこの攻撃によって、お互いのHPは虫の息となっていた。
捕まっていた時間はそんなに長くないと自負してるが……どこぞの掃除機のような吸引力だ。
レベルを60まで上げた高いHPでこれなんだから、通常プレイだったらと思うと……うん、考えるのはやめよう。
僕は即座に、さりげなく覚えておいた全回復魔法マホベを2回唱え、あの吸引力をなかったことにした。

「のび太くん、地上は危ない!空に逃げよう!」

ドラえもんの言葉に頷き、タケコプターを貰ってから、僕は空に上がった。
このボスのエリアは整備された球場状態で、要するに木々がないので飛行も邪魔されない。この森の大陸において、悠々と飛行できる唯一の場所だった。
223: :2012/5/20(日) 13:16:51 ID:NeNQDk43GY
空に逃げたことで、地より襲い来る根っこ攻撃の脅威はなくなった。
これで敵の攻撃に関しては、葉っぱ攻撃だけに集中できる。

「これで死ぬ可能性はグッと下がったね。あとはどうしたらあいつにダメージが届くかを考えよう」

ドラえもんの言葉通り、僕らは葉っぱ攻撃を避けながら、ボスに有効な攻撃方法を模索していった。
一番順当なものとして、まずは何か弱点があるのではないかと考えた。
アクションゲームのボスとしてはお約束の要素である弱点。適切な場所を攻めるとか適切な手順で行動を起こすなどしてようやくダメージが通るようになるパターンだ。
疑似的アクションRPGと言えるこのゲームでもある意味それはお約束と言えるのではないだろうか。
というわけで、今となっては遠距離攻撃担当となった僕は、飛びまわりながら木の化物のあちこちを撃ちまくった。
224: :2012/5/20(日) 13:17:34 ID:NeNQDk43GY
結果をさっさと言ってしまえば、どこも駄目だった。
考え得る限り様々な場所を滅多撃ちにしてやったが、それでもボスの頭上のHPが減ることはなかった。
こうなってくるとさすがにしんどくなってくる。向こうの攻撃は有効で、こっちの攻撃は無効だなんて、やる気がそぎ落ちるというものだろう。
気持ち的に萎えた僕は視線を落とす。地面では相変わらず大量の根っこがうようよしてる。地上にはもう誰もいないのにご苦労なことだ。

「……うん?」

根っこがうようよしてる大地を空から見下ろしたことで、僕はあることに気付いた。
何カ所か根っこが出てない場所がある。なるほど、あそこが安地で、あそこに行けば根っこ攻撃を喰らわずに済むのか。初見殺しだなー。
いや、気付いたことの中で重要なのはそれじゃないのだけども。
225: :2012/5/20(日) 13:18:24 ID:NeNQDk43GY
よく見ると、根っこの中にひとつだけ色が違う物があるのだ。
何であれだけ色違いなんだろう、と気軽に考えていたのも束の間、僕は弱点探しで躍起になっている現状を思い出した。
本体のどこに攻撃しても通らないダメージだけど、もしかしたら……僕は色違いの根っこ目掛けて銃を発射した。
その瞬間、木の化物が苦しみ出した。やったか?とHPを確認して見たけど、HPは減ってない。

「な、何?のび太くん、何をしたの?」
「それより早くあいつに攻撃しよう!早く!!」

事情がわからずうろたえながらも、ドラえもんは接近して斬撃を放った。
するとどうだろう。木の化物のHPはその瞬間に初めて下降したのだ。
226: :2012/5/20(日) 13:19:09 ID:NeNQDk43GY
「やっぱり!ドラえもん、こいつの攻略法がわかったよ!」

わからないことだらけで混乱してるドラえもんに、僕はその説明を早口で捲し立てた。

「こいつは根っこに急所みたいなのがあるんだ!それを刺激すると、一定時間本体にダメージが通るようになるんだ!」

今の僕の説明が全てである。
こいつにダメージを与えようとするには、あの危険なHP掃除機の群れに接近しなければならない。
なんという鬼畜な難易度であろうか。しかし、僕にはドラえもんがくれた銃が、遠距離攻撃の術がある。
HPを吸われない空という安全地帯から刺激し、本体への攻撃はドラえもんに任せれば、かなり安全にボスを倒せる。
ドラえもんも説明からそれを察してくれたようで、本体への攻撃に集中してくれた。
さあ、種は明かされた。あとは一気に倒すだけだ!
227: :2012/5/20(日) 13:19:48 ID:NeNQDk43GY
役割分担をして木の化物を手玉に取ってからは早かった。
みるみるうちに減っていったボスのHPは、ついにドラえもんの斬撃の前に底を突いたのだった。

「ぐあああ!!わ、わしが人間などにやられるとはぁ……!」

敗北時のお約束みたいな台詞を吐きながら、もともと枯れ木だったボスはその身を更に枯らして、最終的には朽ちて地面と同化してしまった。
さっきまで奴がいた場所には、小さな魔法石が置かれてある。
今まで多くの大陸をクリアしてきた僕達には、それの意味がわかる。僕達は今、この森の大陸を攻略したんだ。
228: :2012/5/20(日) 13:20:23 ID:NeNQDk43GY
「やったね、ドラえもん!」
「ああ!のび太くん、僕達やったんだよ!」

かつてジャイアンを退けた魔性の森、その森を完全に攻略できたこと、それが嬉しくて僕達は喜びあった。
このゲームを開始してから、多くの絶望が僕を襲った。
しずかちゃんの離脱に、何者かによるゲーム改造の事実を知らされたことから始まり。
多くの努力を重ねたにもかかわらず、スネ夫やジャイアンを失って、僕の心は折れた。
それが原因で堕落し、諦めてしまっていた。
そんな僕を救ってくれたのがドラえもんだった。
229: 今回はここまで:2012/5/20(日) 13:21:51 ID:NeNQDk43GY
ドラえもんのおかげで僕は立ち直れた。
ドラえもんは一時は堕落した僕を見捨てず許してくれた。
ドラえもんのおかげで絶望の暗闇から、僅かでも希望の光を見出せた。
ドラえもんがいれば、不可能も可能になるんだ。
ドラえもんが隣に居れば、僕達はこのゲームをクリアできるんだ。

ありがとう。口には出さないで、心の中で僕はドラえもんに告げた。
当然本人には届いてない。でも、それでいいんだ。
感謝の気持ちは数えきれないけど、それをその都度伝えていたらきりがないしね。ドラえもんも謙遜するだろうし。
何より伝えたいありがとうは、ゲームをクリアした時に言うんだ。それまでは、ひたすら共に頑張るだけだ。

二人で喜びあってる中、僕はこのように考えていたのだった。
230: :2012/5/20(日) 22:23:01 ID:NeNQDk43GY
ひとしきり喜んだ僕達だったけど、いつまでも喜んでばかりいられない。

「……そろそろ次に進もうか。最後の……火山の大陸へ」

そう、最後の大陸を攻略する時がきたのだ。

このゲーム世界には六つの大陸が存在する。
そして僕達は、具体的に表現してないものもあるけど、そのうち五つの大陸を攻略している。
始まりの大陸、砂漠の大陸、沼地の大陸、雪の大陸、そしてたったいま攻略した森の大陸だ。
魔法石も順調に四つ集まっている。とりあえず残り二つのうち一つが火山の大陸にあることは間違いないだろう。
231: :2012/5/20(日) 22:24:12 ID:NeNQDk43GY
かつてレベルが低い時に火山の大陸に上陸した時はすぐに引き返した。
そこの雑魚敵のHP的に格上の相手だと判断して、ここは時期尚早だと判断して敵前逃亡、船に戻ったのだ。
だから情報はない、ということはない。実は情報だけは各大陸で仕入れているのだ。
表現してないだけで、各大陸の集落で火山の大陸について語る人が何人かいたのだ。
そしてその人達の話をまとめると次の通りとなる。

火山の大陸に人は住んでいない。純粋なる魔物の大陸である。
その魔物の巣窟を統べるドラゴンは、とてつもない強さを誇る。
そのドラゴンに万一遭遇してしまった場合は、とにかく逃げた方がいい。

以上が各地の人達から得た火山情報の全てだ。
232: :2012/5/20(日) 22:24:48 ID:NeNQDk43GY
「どう思う?ドラえもん」
「……逃げろっていうのが気になるね」

僕もドラえもんに同意見だ。
人々の発言から察するには、火山のボスはそのドラゴンだろう。
しかし、ボスは今までの戦闘でもわかるように、逃亡禁止のルールが適用されてきた。
それが今になって、逃げられるようなことを言ってくるのはどういうことだろうか。

「それだけドラゴンが強いってことだろうね」

ドラえもんが結論を出した。
恐らくはそういうことだろう。逃げてもいいというほどに強いのだ、そのドラゴンは。
233: :2012/5/20(日) 22:25:59 ID:NeNQDk43GY
「僕達はゲームオーバーが許されない立場にあるからね。これまで以上に念入りにレベルを上げていこう」

ドラえもんが最良の提案をしてきた。
……最良だとはわかっていても、レベル上げの作業が苦痛には違いない。
ましてや僕達は既に高いレベルで、この森の雑魚が相手だと雀の涙ほどの経験値しか入らない。
嫌だなーって思うけど、それ以外に道がないのも残念ながら事実である。
ゲームクリアのためにも、ここはこっちが折れて、繰り返しの作業に身をなげうった。
234: :2012/5/20(日) 22:26:52 ID:NeNQDk43GY
地味で、苦痛で、永遠かとも思える作業を僕達はやり遂げた。
今や僕とドラえもんのレベルは80台だ。
普通のRPGだったら、2週目の隠しボス等も撃破を狙えるレベルと言えよう。
ここまで辿り着くのは相当に辛かったけど、それでも僕らは成し遂げた。
これで準備はOKだ。新天地へ乗り込む時は今だろう。

「そろそろ船に戻ろうか。火山の大陸を目指すんだ!」

ドラえもんも同じ気持ちだ。僕らは草をかき分けながら、船を置いた海岸を目指して歩き出した。
235: :2012/5/20(日) 22:28:08 ID:NeNQDk43GY
僕らは船を止めてる海岸にたどり着いた。緑に覆い尽くされる環境もこれで最後だろう。
さっさと船に乗り込むと、目を閉じてマップを表示し、それを頼りに船を走らせた。
目指すは新天地。上げたレベルでクリアの道を切り開くのだ。
そうして僕らは火山の大陸にたどりついた。

「……相変わらず暑そうな場所だねえ」

僕はそう呟いた。
このゲーム世界では、そういうのを感じることはないとわかってても、何だか暑くなった気になる。
それほどまでにこの大陸は赤々と燃えている。
火口からマグマが流れ出るその様は、現実じゃなかなかお目にかかれないだろう。現実なら即避難するレベルだろうし。
そんな現実的には危険な場所を僕らはひた進むのだった。
236: :2012/5/20(日) 22:29:07 ID:NeNQDk43GY
しばらく進んでいるうちに、この大陸の雑魚敵に遭遇した。
この場所にぴったりな、溶岩のような魔物だ。
レベルを80とした僕達が、この大陸で通用するかどうかをチェックするにふさわしい実験体と言えるだろう。
許せ、魔物よ。僕達の戦闘力チェックとして息絶えてくれ。

というわけで、戦闘開始だ。
溶岩の魔物は動きが遅かった。接近を許すまでのその間は僕が銃で攻撃し、HPを順調に減らした。
溶岩の魔物が攻撃範囲内に入ったことで、その右腕を振り上げたが、彼にとっては残念ながら、ドラえもんの斬撃の方が速かった。
そしてその一撃で魔物は倒されてしまったのだ。
237: :2012/5/20(日) 22:30:11 ID:NeNQDk43GY
戦闘力チェックの結果は、ノーダメージ完封だ。これ以上の望ましい結果もないだろう。
今回も努力の成果を遺憾なく発揮できた。僕とドラえもんは言葉を生まずに、でも見つめ合って表情を同じ笑顔とした。
言わなくたって僕にはわかる。これなら大丈夫だね。ここも二人一緒に切り抜けようね。
そんなメッセージをその笑みから読みとって、音のないコミュニケーションを経て僕らは火口へと歩みを進めた。

いつか登った岩山を思わせる険しき道に、表情も険しくなる。
かつて登ったそれほど険しくはないのだけども、それでも人が歩くのには向かない場所には違いない。
しかし、タケコプターを使ってショートカット、などと考えてはいけない。
イベントなどを飛ばしてバグってはいけないからと、かつてドラえもんと交わした約束なのだから。
238: :2012/5/20(日) 22:32:03 ID:NeNQDk43GY
……と思ってたら、なんとドラえもんの方からタケコプターを差し出してきた。
イベントは大丈夫なの?と訊ねたところ、それを手渡した思惑は別のところにあるようだ。

「ここのボスは逃亡を許可する程に強いみたいだから。敵わないと察したら、即座に逃げれるように先に渡しておこうかなって」

ああ、なるほど。さすがドラえもんだ。よく考えてるよ。
あまり考えたくはないけど、これが必要になる時もくるかもしれない。
僕はその時を想定して、先にタケコプターを頭に装着した。
……ああ、この山道をショートカットしたくなる。疲れのない世界だけど、面倒臭いことに変わりはないのだから。
239: :2012/5/20(日) 22:33:12 ID:NeNQDk43GY
心の中に湧く怠けの衝動を抑えながら、僕らは足で空へと近づいていった。
未だ雲は上空にあるけれど、それに追いつく前に目的地に着いたので、歩みをストップさせる。
捻らずストレートに伝えるならば、火口付近に到着したのだ。

「たぶんここがボスの場所だと思うけど……」

ドラえもんはそう言うけど、ボスのボの字も見当たらない。
はてさて、どうしたものか。僕はすぐそこを流れてるマグマを無視して、火口で燃えたぎってる方を覗いてみた。
現実では絶対に無理なことだろう。うーむ、赤色にオレンジや黄色が混ざって、高温であることがひしひしと伝わる。
240: 今回はここまで:2012/5/20(日) 22:35:46 ID:NeNQDk43GY
そんな感じでマグマを観察していると、突然異変は起きた。
溜まっているマグマが中心部から盛り上がってきたのだ。
噴火を疑ったけど、どうやらそうではないらしい。マグマの代わりに火口から現れたのは、探していたボスだった。
大きな体に長い首と尾。小さな腕にずっしりとした足。鋭い牙に鋭い目。
その巨体を大きな翼で空に浮かべる赤いそいつは、紛う事無きドラゴンだった。

「こいつか……!」

突然飛びあがったドラゴンの姿を確認して、ドラえもんも覚悟を決めたようだ。
僕も覚悟を決めよう。二人でこいつを倒す!
241: :2012/5/21(月) 21:51:00 ID:NeNQDk43GY
今までのボスと違い、ドラゴンは喋ろうとはしなかった。
しばらく火口上空をふわふわ浮いていただけだった。HPもまだ表示されていない。
そんな中、ドラゴンは突然咆哮した。
これが凄まじかった。大げさでなく、大地が震えているように感じた。
けたたましい雄たけびをあげた後、ドラゴンは僕らを敵意の眼差しで捉えた。
それと同時にHPが表示される。戦闘開始の合図だ。
242: :2012/5/21(月) 21:52:15 ID:NeNQDk43GY
突然の咆哮に面食らったが、怖気づいてもいられない。
大地を震撼させた様は並々ならぬ強敵だと予感させるが、そんなことは関係ない。
僕達は事前に用意していたタケコプターで空を飛び、僕は装備している銃でドラゴンを射撃した。
我ながら高い精度だ。弾はドラゴンの眉間を襲った。
即座にドラゴンの頭上のHPを確認する。

「う、嘘だろ……」

レベル80まで鍛え上げた僕の射撃は、ドラゴンのHPを10しか減らせなかった。
これは高いドラゴンのHPを1/100も減らせてないことを意味する。
243: :2012/5/21(月) 21:53:02 ID:NeNQDk43GY
「そ、そんな……」

高く高く上げたレベル、その一撃を僅かなダメージで済まされてしまったショックは大きく、僕達は呆然としてしまった。
そして空翔る赤きドラゴンは、その隙を逃さずに大きな火球を吐き出してきた。
火球そのものが大きい上に、油断も重なって、ドラえもんは燃え盛る紅蓮の餌食となってしまった。

「ドラえもん!大丈夫!?」

返事を待たずして僕は視線をドラえもんの頭上に移した。
……なんてこった。ドラえもんの命を表す数字は、ドラゴンの火球攻撃で75%も削られていた。

「マホベッ!」

ほぼ反射的に僕は全回復魔法を唱えていた。
一応それで事なきを得たのだが、相当に鍛えたレベルでこの結果という驚愕までは拭えなかった。
244: :2012/5/21(月) 21:54:08 ID:NeNQDk43GY
「のび太くん!退くよ!」

このレベルでは太刀打ち不可能と判断したのか、ドラえもんは早々に撤退を決定した。
そうだ、今回のボス戦は逃亡可能なんだ。
強大な力を前に退くも勇気、僕らが死ぬことは許されないのだ。
事前につけておいたタケコプターで既に僕らは空にいる。後はこのまま空を行き、ドラゴンから30m離れればいい。
火山から去りゆく形で戦闘を終わらせようとした僕らだったが、事はそううまくはいかないみたいだ。
空をいくら翔けても消えないHP表示に不審がった僕が思わず振り返ったその時に見た光景。
それは、逃げる僕達を追って飛行するドラゴンの姿だった。
245: :2012/5/21(月) 21:55:03 ID:NeNQDk43GY
まさかの展開だった。
逃亡OKのルールを事前に聞いていた僕ら。
それに倣って逃げたわけだが、ドラゴンはそれを許さず、追跡してきたわけだ。
敵とのステータス差は先の戦闘で明らかである。つまり、僕らは逃げるしかない状況である。
となれば、どうにかして振り切るよりほかはない。命を賭けた空の鬼ごっこが開始されたのだ。

「船まで逃げれば大丈夫だと思う!それまでどうにか凌ぐんだ!」

ドラえもんが今言った言葉が全てだ。おそらく船は魔物にとって不可侵なる僕らの聖域だと思われる。
船まで逃げれば僕らの勝ち。それまでに捕まれば……そういうことだ。
246: :2012/5/21(月) 21:55:53 ID:NeNQDk43GY
今まで歩いた道を下に、僕らは風を切る。
爽やかなその感触を堪能する暇は皆無だ。後方のドラゴンを振り切ろうと必死に加速する。
しかし、スピードは五分五分のようで、その差は一向に離れる様子がない。
それどころか、ドラゴンは追跡しながらもしっかりと火球で攻撃しているようだ。突然僕のHPが激減したのだ。
逃げるのに全力を注ぐ今、ずっとドラゴンの方を向いてるわけにもいかない。前方不注意で何か障害物にひっかかればアウトだからだ。
そのため、僕らは後方より襲い来るドラゴンの攻撃を目視できない。意図して避けることは不可能と言っていいだろう。
ならばやることはひとつだ。

「……マホベ!」

攻撃をくらう度に回復する。レベルを上げた僕なら、船に着くまでMPが持つはずだ。
ドラえもんとの努力の時間を信じるんだ!
247: :2012/5/21(月) 21:56:58 ID:NeNQDk43GY
回復魔法を叫びながら空を進み続けた僕ら。
長らく続いた恐怖の鬼ごっこだったが、ついに僕らはこれを制したのだ。

「のび太くん!船だよ!」

そう、望んだ助け舟が僕らの目に飛び込んできたのだ。
ひとまず中に逃げ込めばもう安心のはずである。僕とドラえもんは、飛んだまま船の入り口に突っ込んだ。

結果は絶望だった。船は持ち主二人を拒絶し、はね返してしまったのだ。
何かの力ではね返された僕らは、進んできた方向とは真逆に数十m戻されてしまった。
それによってドラゴンと鉢合わせする可能性もあったが、幸運なことにすれ違うだけで済んだ。
ただ、なおも30mは離れてないようで、ドラゴンは即座にUターンし、再び僕らを追いかけた。
わけもわからぬまま、僕らは再び逃亡劇に身を投じたのだった。
248: :2012/5/21(月) 21:58:05 ID:NeNQDk43GY
再び火口を目指すように逃げ始めた僕らは、何故拒絶されたのかを必死に考えていた。
僕には皆目見当もつかなかったわけだが、ドラえもんはある考えに至ったようで、逃げつつそれを説明してくれた。

そもそも船や街などは魔物の出現しない安全地帯である。
敵が出ないよう設定されてるようで、先ほども言ったようにプレイヤーの聖域とも言えるような場所である。
そのため、戦闘中では魔物を連れているということで、そういった場所に入れなくなるのではないかと考えたのだ。
そうかもしれない。ていうか、そう思わないとやってられない。くそっ!逃げられたと思ったのに……!
249: :2012/5/21(月) 21:59:11 ID:NeNQDk43GY
船を無視して、タケコプターで飛んで大陸を離れようかとも考えたけど、それも無駄だった。
岩山のボスである怪鳥や、森に出現したローブの魔物の時のような、見えない壁が大陸を覆っていた。
つまり、この大陸の中で、僕らはドラゴンを振り切らねばならない。
しかし、どうやって?奴は僕らのどんな動きにも対応して追いかけてくる。なおかつスピードも同等か、下手すりゃ向こうの方が早いかもしれない。
考えれば考えるほど、ある言葉が僕の脳裏を脳裏を掠める。

逃げるのは、無理なのではないか?
250: :2012/5/21(月) 21:59:51 ID:NeNQDk43GY
ドラえもんの表情も険しい。たぶん、同じ結論に至っているのではなかろうか。
延々と続けられる空の鬼ごっこだ。そろそろ集中力が切れてもおかしくない。
集中力が切れれば、逃亡の際に判断ミスして追いつかれる可能性も生じる。
加えて、僕のMPもそろそろなくなってしまう。鬼ごっこが最悪の形で終わる瞬間が確実に迫っていた。
解決策もない今、このままでは死ぬしかない。万事休すか……。
そう思っていた僕に、ドラえもんは突然切り出した。

「……せめて一人だけでも生き残ろう」

山頂付近の上空を飛びまわっている時のことだった。
251: :2012/5/21(月) 22:00:46 ID:NeNQDk43GY
その発言に僕は驚いた。
言ってしまえば一人を犠牲にするという非情なる結論だ。怒りすら沸々と込み上げる。
しかし、冷静になって考えると、これしかないと思えてくる。
このままでは二人とも死ぬのだ。二人が死ぬよりは、一人だけ死ぬ方がいいに決まっている。一応は希望が繋がるのだから。
情に流されては決して見えない、現在の最善策と言えよう。やっぱりドラえもんはすごいや。広い視野で、ちゃんとした考えを発揮できる。
僕らのゲームクリアという目的を果たすためには、もうこれしかない。この策を提案してきたドラえもんに対して、僕は頷いて了解の意を示す。

ただ、問題はどちらが犠牲になるかだ。
252: :2012/5/21(月) 22:01:48 ID:NeNQDk43GY
問題などと言ったが、その答えは明白だ。

僕だ。僕が犠牲になればいい。

当然だ。僕はのろまだ。馬鹿だ。
自分では何もできない。人に、ドラえもんに頼って初めて何かに挑めるような、ろくな人間ではないんだ。
何者かによって改悪されたこのゲームで、現実世界に帰ることを目指す以上、クリアを望める者を残した方がいいだろう。

力のある者。
知恵を有する者。
勇気溢れる者。
可能性を秘めた者。
……全てはドラえもんのためにある言葉だ。そこに僕の居場所なんてない。
誰が考えたってわかる。生き残るのはドラえもんだ。犠牲になるのは僕でいい。
253: :2012/5/21(月) 22:02:49 ID:NeNQDk43GY
ただ、犠牲になるということは、それは死ぬことを意味する。
死……僕は死を受け入れられるのか?
しずかちゃん、スネ夫の散る瞬間を思い出す。二人はHPを0にした時、砂と化して消えた。
森が視界を遮ったせいで、ジャイアンの散り際は確認できなかったけど、きっと同じように消えてったのだろう。
体が砂となって消えるのか……それってどんな気持ちなのだろう。
消えた後はどうなるのだろう。意識はあるのか。皆とは会えるのか。
もし意識がなくて、仮にドラえもんがクリアに失敗したら、これが最後の僕の意思となるのか。
……怖い。怖い!怖い怖い怖い!!
254: :2012/5/21(月) 22:03:42 ID:NeNQDk43GY
嫌だ!消えたくない!無になんてなりたくない!
……こんな思いがとめどなく僕の心を駆け巡る。
言い訳っぽいけど、誰だって思うことだろう?これから死のうというのだ。恐怖を感じるなっていう方が無理って話だろう。
……だけど、我儘を言うのはもうやめだ。
死を恐れて、恐怖から逃げて、努力を嫌がって、悪態をついた。僕はたくさんドラえもんに迷惑をかけた。
決めたんだ。もうドラえもんを邪魔するようなことはしないって。クリアのために、僕は恐怖と向き合い、挑むって、そう決めたんだ。
むしろ痛みのないこの世界で死ぬんだからラッキーだと思え。……そう思え!クリアの道を繋げるために、覚悟を決めるんだ!!
……僕は、今からここで死ぬ!
255: 今回はここまで:2012/5/21(月) 22:04:57 ID:NeNQDk43GY
「ド、ド……ドラえもん!僕が犠牲に」

言い切る前に、ドラえもんは僕の頭からタケコプターを外した。

え?

飛ぶ能力を奪われた僕の体は重力に引かれて落下を開始した。
地面に背を向けて僕は落ちる。
視界一面に青を映した僕の眼は、一人の親友と赤いドラゴンの姿を捉えた。
親友は勇敢にドラゴンに立ち向かう。ドラゴンは動きを止めて、それに応じる。
斬撃を繰り返す親友だったが、そのどれもが決定打とはならず、逆にドラゴンの攻撃の前に散った。

散った。

親友は砂となった。消えた。

ドラえもんが、消えた。
256: 名無しさん@読者の声:2012/5/22(火) 01:32:17 ID:GB2l8BsnBs
ドラえもぉぉーーーーーん!
257: :2012/5/22(火) 21:21:36 ID:NeNQDk43GY
>>256
レスありがとうございます!
自分の好きなように書いてくスタンスとは言え、読んでくれている人がいるのかわからない中で、それがわかると凄い安心できますね。
他のスレと比べて、支援とかが極端に少ないんで、このスレこんなに不人気なのかと驚愕する毎日ですwww
でも、こうしてレス残してもらえると元気が溢れます。ありがとうございました。明日プリン買ってお祝いします。

関係ないんですけど>>256見てドラえもんの64ソフトの「三つの精霊石」思い出しました。
OPで情けなく声を張り上げるのび太を思い出しました。なんか今すぐやりたくなってきましたwww
258: 本編に戻りまーす:2012/5/22(火) 21:22:57 ID:NeNQDk43GY
嘘だ。嘘だって。いや、嘘だって!嘘だよ!!
ドラえもんが、何でだ!?何でドラえもんが消えるんだよ!?
何でドラえもんが消えるんだよ!何で僕が残るんだよ!

混乱の間も僕は落下しており、山頂付近に落ちた。痛みはない。HPも減らない。
そしてそのまま、岩肌の斜面を転がり落ちた。何ら抵抗しない僕の体は、それはもう豪快に転がっていった。
麓まで運ばれて、ようやく僕の体は止まった。
どうやら僕は戦闘から逃げられたようで、HP表示は消えていた。ドラゴンも追っては来ない。
しかし、今の僕にとってそれはどうでもいい。問題は別にあるんだ。
……ドラえもんが死んだ。
259: :2012/5/22(火) 21:23:38 ID:NeNQDk43GY
僕の頭は現状を理解できなかった。いや、理解を拒んでいた。
だって、ドラえもんは何をした?
ドラえもんはこのゲームをクリアするのに必要不可欠な存在だよ。
だから死ぬことなんて許されないんだ。ましてや僕の代わりに死ぬなんて論外だよ。
冗談はやめてさ、はやく現れてよ。いつまで隠れてるの。
……いや、冗談なんかじゃないよ。しっかりしてよ、僕。ちゃんと見たじゃない。
ドラえもんは、僕を生かすために、ドラゴンの足止めをして、死んだんだよ。
もうこの世界にはいないんだよ。

「うあああああああ!!」
「ああああああああああああああああああ!!!!」
260: :2012/5/22(火) 21:24:19 ID:NeNQDk43GY
何でだ!何でなんだよ!!
何で君が犠牲になるんだよ!!
この世界で、この世界で僕が!希望を!見出せたのは!
他ならぬ君がいたからじゃないか!
何で君が犠牲になるんだ!おかしいよ!
どう考えたって、君が生き残らないとゲームクリアなんて無理だろ!
ゲームクリアをするために犠牲になる作戦を決行したんだろ!
君が死んでどうする!?僕なんかを生かしてどうするんだよ!?
糞狸がっ……最後の最後でミスしやがって……!
261: :2012/5/22(火) 21:25:03 ID:NeNQDk43GY
どうする?どうすればいい?
僕が残って、僕がゲームクリアするにはどうすればいい?
どうしようもないじゃん。
僕が、僕がさ。このゲーム世界で険しいクリアの道をさ、歩めるようになったのはさ。
他ならぬドラえもんがいたからなんだよ。それがさ、一人じゃ何もできないクズを生かすために死んじゃってどうするの。
あーもう、無理だよ。僕の心はたったいま粉々に打ち壊されちゃったよ。
もう絶対無理。無理無理。
ドラえもんを支えるからこそ、僅かながらも僕だって力になれたんだよ。
ドラえもんがいなきゃクズだよ。無能だよ。口だけのカスだよ。
262: :2012/5/22(火) 21:25:33 ID:NeNQDk43GY
もうむりだわー。あきらめるしかないじゃん。
あーおっかしー。ばかみたい。ばかじゃん。

何もかも無駄になったよ
?結局無駄だったじゃこ
はなんかやらなきゃんん
力げ作業上げたとよ返な
努上のら意味なこかしク
のルあなろだいろってズ
あベよんぬ死皆でたよを
よレだんたっだ痛苦時生
だらなとこなんこを間か
んたっだ何さでいせたし

しぬしかないなもうだめ
だずっとゲーム世界で生
きてかないといけない希
望のみちは既に途絶えた
だからちゃんと死ぬしか
ないんだほんとうに救い
はない絶望とぺアを組み
死に行くだけだろう僕は
もうドラえもんとぺアを
組むこともないんだろう
263: :2012/5/22(火) 21:26:12 ID:NeNQDk43GY
あーもう自分の考えがよくわかんないや。
何言ってんのこいつ?あ、言ってるのか思ってるのかも、もうよくわかんないや。
なんかまとまりのない文字を羅列しててよくわかんないけど、もうどうでもいいって気持ちだけはわかる。
あーもう本当にどうでもいい。おかしい。笑いが込み上げてくる。
あはは。はははは。あっはっは。ぎゃはははは。
とりあえず適当なところでこの世界を見限って死ぬとするかなー。
でもその前に時間が欲しいな。死んだら無の世界って可能性もあるんだし、少しくらい思い出に浸ってもいいだろ。
皆との思い出を少し探ってみようか。
264: :2012/5/22(火) 21:26:49 ID:NeNQDk43GY
まずはスネ夫かな。こいつも僕と同じでクズっぽかったなあ。
生まれの幸運に胡座を掻いたおぼっちゃまだったな。
除け者にされることも多かったけど、なんだかんだ金持ち特有の貴重な体験はさせてもらってたかな。まあドラえもんほどじゃないけど。
悪い奴では決してなくて、二人してジャイアンの脅威に晒された時は共闘してたっけか。
まあ立ち回り上手い奴だから、ほとんどジャイアンの隣に立って僕の前に立ちはだかってたけど。
もし、この世界の死後に意識等があったら、クリアできずにのこのこ死んできた僕をジャイアンは許さないだろう。
その時は、できればこっち側についてほしいな。無理か。
265: :2012/5/22(火) 21:27:27 ID:NeNQDk43GY
しずかちゃんは綺麗で優しくて、高嶺の花だったなあ。
出木杉の野郎が鬱陶しかったけど、最終的に結ばれるのは僕なんだよ、ざまあないぜ。
素かわざとかわからないけど、時々刺々しいというか、毒づくような瞬間もあったけど、それすらも魅力的な女の子だったね。
ああもう何から何まで僕は君にぞっこんだったよ。ドラえもんの道具を悪用して風呂覗くのが何よりも至福な瞬間だったよ。
こんなゲーム世界に閉じ込めちゃって悪いけど、死後に意識があるのならば、君の悲しみがなくなるように努めてみようかと思うよ。
ごめんね、しずかちゃん。だけど、僕の無能っぷりはしずかちゃんだって知ってるだろう?
もはや死ぬしか道はないんだよ。いくらでも謝るから、怒ったり悲しむような表情は見たくないな。
266: :2012/5/22(火) 21:27:56 ID:NeNQDk43GY
ジャイアンは、もう本当に最低に最高な友達だよ。
普段は理不尽に僕をいじめてさ。日常の中で、お前への憎しみがいくつ生まれたか数えきれないよ。
そうやっていじめてくるだけのクズかと思えばそうでもなくて、いざという時は頼れるガキ大将になってたよね。
度胸と腕っ節は百点満点で、大きな悪に立ち向かう時なんかは本当に頼もしかった。
今回のゲームだってそうだ。君の力と勇気のおかげで僕は今もここに在るんだ。
まあ今となってはお前のせいでここに在るって感じでもあるけどね。それは言わないでおこう。
ありがとう、親愛なる糞野郎。僕は君が大嫌いで、大好きだよ。
267: :2012/5/22(火) 21:28:28 ID:NeNQDk43GY
そしてドラえもん。ドラえもんは僕にとってかけがえのない存在だったよ。
最後にはこんなことになっちゃったけど、今までこのゲームをやってきて、本当に何度もドラえもんに救われてきた。
ドラえもんは僕の不幸なる未来を変えるために、未来よりやってきた猫型ロボット。
どう見ても猫じゃないし、狸のが似合ってるけどね。そんな青いロボットは僕に対して親身に接してくれた。
時に厳しく、でも本当は優しく、いつだって僕のために手を差し伸べてくれた。
クズで最低な僕でも、ドラえもんがいたから夢を見てこれたんだ。本当に感謝してる。本当だよ。
大好きで、尊敬してて、僕はドラえもんのようになりたかった。……ふふ、努力もできないクズが何言ってんだか。
そんなドラえもんと過ごした毎日は宝物だよ。いつの日か交わした言葉だって即座に思い出せるよ。

『のび太くんが努力を続ければ、最後には絶対にうまくいくよ』

……え?
268: :2012/5/22(火) 21:28:50 ID:NeNQDk43GY
思い出したドラえもんの言葉は、僕には相応しくないものだった。
違うよ。僕はドラえもんと違って、可能性も何もない駄目人間なんだよ。
努力をしても無駄だし、そもそも努力もできやしない真性のクズなんだよ。
……それなのに、ドラえもんの言葉は僕の頭の中で、何度も何度も響く。
違うって言ってるじゃないか。ドラえもんは優しくて、適切な判断を下せる大人で、いつだって完璧なんだよ。
そんな完璧なドラえもんが、僕なんかを評価するのに、間違った言葉を投げかけてはならないよ。
僕なんかは見下すほどの高みにいるんだ。そんなドラえもんが、僕なんかを褒めちゃいけないよ。
そう思ってるのに、心の中のドラえもんは僕を評価するような言葉をいくつもぶつけてくる。
違うって言ってるだろ……
「違うって言ってるだろ!!」
269: :2012/5/22(火) 21:30:22 ID:NeNQDk43GY
「違うんだよ!僕はクズなんだよ!僕なんかが努力したって、何も変わらないよ!」
『何でのび太くんは自分の力で解決しようとしないの』
「僕の力なんかじゃ出来っこないからだよ!皆死んでしまって、僕は一人ぼっちだ!もう無理に決まってる!」
『なんで最初から諦めるの。自分の力で立ち向かう努力をしようよ』
「立ち向かってどうなるって言うんだよ!僕がやったって、そんなのは無駄な努力だよ!」
『無駄じゃないよ。のび太くんが努力を続ければ、最後には絶対にうまくいくよ』

どれだけ僕が否定しても、ドラえもんの声は僕を奮い立たせようとする。
思えばいつだってドラえもんは僕にこんな言葉を投げかけていた。
どうして?僕だよ?どうして僕なんかにそんな気休めの言葉をぶつけてくるの?
それとも、まさかとは思うけど、それらを本気で言ってるの?
270: :2012/5/22(火) 21:31:01 ID:NeNQDk43GY
まさか。ありえない。僕なんかが努力を成功に導けるような男であるわけがない。
ドラえもんが間違ってるとしか言えない。でも、本当にそうだろうか?
ドラえもんのことを僕はよく知ってる。優しさと厳しさを兼ね備えたロボットで、いい加減な発言をするような奴じゃない。
そんなドラえもんは、僕のことを凄い奴だと言う。だとすると、僕にだって何かを成し遂げる力があるというのか?
そんな意見は信じられない。でもこれは、大好きなドラえもんの意見だ。僕はドラえもんを信じられないのか?

「そんなことあるもんか!僕はドラえもんを信じてる!」

ならば一連の発言をどう受け取る?ドラえもんは、僕を信じているんだぞ。
いつだって、ドラえもんは僕に言い聞かせてきた。努力をすれば、のび太くんは変われると。
そしてドラえもんは僕を生かした。情に流されることなく、一人を犠牲にする作戦をとりながら、僕を生かしたんだ。
それは、ドラえもんが生き残るよりも、僕が生き残った方がゲームクリアに近づくと判断したからじゃないか?
271: :2012/5/22(火) 21:31:42 ID:NeNQDk43GY
僕に皆を救う可能性が秘められているのか。
信じられない。
だけどドラえもんはそれを信じているのだろう。
だから僕を生かした。
それが正しいなんて微塵も思えないけど、だからってドラえもんが間違ってるとも考えたくない。
僕はドラえもんを信じたい。
ならば、ドラえもんが信じる僕の力も信じるしかないのか。
僕はドラえもんが好きだ。
軽はずみな言動をして嘘を振りまくような奴ではないことを知ってる。
ドラえもんを嘘吐きにしたくない。
ならば僕は、ドラえもんが嘘吐きなんかじゃないと証明するしかないだろう。
どうやって?
このゲームをクリアして証明するんだ。
ドラえもんが信じてくれる僕を信じて、ドラえもんが垣間見た可能性を現実のものとするんだ。
ドラえもんの期待に応えるために、ドラえもんから独り立ちして、僕がこのゲームをクリアするんだ。
272: 今回はここまで:2012/5/22(火) 21:32:26 ID:NeNQDk43GY
「……ふふ」

思えば、ドラえもんと喧嘩別れしたときだってそうだ。
堕落した僕を引き上げてくれたのは、ドラえもんの存在だった。
今も諦めかけた、ていうか正直諦めの気持ちは拭えてないけど。
ドラえもんの言葉が、再び僕を立ちあがらせた。
正直、今も僕は僕を信じていいのか不安でしょうがないけど。
ドラえもんを信じて、無駄かもしれない努力に今一度向かうとしよう。
御託をどれだけ並べようと、もうクリアを目指せるのは僕だけなんだしね。
ドラえもん。苦しいけど、もう少し頑張ってみるよ。
ドラえもんがずっと言い続けてくれた僕の可能性を信じてみて、皆を救う道を模索してみる。
だから待ってて。ドラえもんの言ってることが本当だったその時は、それを今まで信じなかったことを現実世界で謝るから。
僕は今から、自分の力で困難を打破する。
273: :2012/5/23(水) 22:53:52 ID:NeNQDk43GY
まずはレベル上げをしよう。
レベル80が二人いてこの有様だ。一人になったのだから、もっともっと高いレベルが必要だろう。
何レベルまで頑張ろうか。
どこの雑魚を倒し続けようか。
何十時間必要なんだろうか。
そんな疑問を投げかけても、答えてくれる仲間はもういない。
全て自分で考え、全て自分で決めなければならない。
……なんだか早速くじけそうだ。自分で考えて、自分で行動するっていうのは、なかなかに怖いものだ。
とりあえず僕は火山の大陸から出ることにした。
レベル上げだけなら火山の雑魚敵で問題ないけど、一応ここにはあのドラゴンがいる。
何かの間違いでエンカウントするのも怖いしね。僕は森の大陸でレベル上げすることにした。
274: :2012/5/23(水) 22:54:20 ID:NeNQDk43GY
船を操縦して森の大陸に上がった。
何気にこことも長い付き合いになった。これでもう三度目の顔合わせだ。
今となってはそれほど脅威的でもない、目に優しい自然の要塞に足を踏み入れる。
自由に生え誇る草をかき分けて進むのも、もう慣れっこだ。魔物の出現を待つ。
そうしてローブの魔物がいつかのように現れた。

戦闘に入る。前の時と同じように、逃亡を禁ずる壁を作って僕を閉じ込める。
まあでもこっちは逃げる気など少しも持ち合わせてはいない。さっさと銃を取り出して、攻撃魔法を唱える前に発射する。
多くの数は必要としない。片手で数えられる程度の数だけ発射して、戦闘はさっさと終わってしまった。
……かつてこいつはジャイアンを仕留めた強敵だったんだ。レベルが上がったんだなあとしみじみ思う。

だけど目指すは更なる高みだ。レベル80にはしけた経験値を貰って、次の戦闘に気持ちを向ける。
今貰った経験値で考えると、レベルを一つ上げるのでも何百回の戦闘が必要だ。
正直面倒臭いが、そうも言ってられない。僕は一人で作業を始めたのだった。
275: :2012/5/23(水) 22:55:35 ID:NeNQDk43GY
長い間、同じことを一人で繰り返す。
これはけっこう精神的にくる。
何より言葉が生まれないのがきつい。言おうと思えば言えるのだが、どこからも声は返ってこない。
一人で孤独に静かに魔物を嬲って遙かな時間を僅かに進んで行く。
それをひたすらに繰り返す。何時間も、何十時間も。
何度も何度もやめたくなる。悪魔のささやきが僕を翻弄する。
しかし、そんなときはドラえもんの言葉を思い出して、どうにか迷いを振り払う。
ドラえもんのためだというのもあるし、僕の中で自分が本当に変われる人間なのか見届けたい気持ちが芽生えつつある。
時間がたくさん必要ってことは、逆に言えば時間をかけさえすれば確実に辿り着けるということだ。
基本的にネガティブな自分を励ますように、ポジティブに考えてこの苦境を乗り切ろう。
そう想いながら、魔物を倒す作業を続けていった。
276: :2012/5/23(水) 22:56:18 ID:NeNQDk43GY
何十時間経っただろう。はっきりとはわからないが、たくさんの時間を重ねたのだけは断言できる。
森で数百、数千と魔物を狩り続けて、今や僕のレベルは101だ。
中途半端に思えるかもしれないが、一応理由はある。レベルの上限を調べたかったんだ。
99になってもまだレベルは上がった。100になってもまだレベルは上がった。ということは、レベルの上限はまだまだ先である。
この辛い作業とサヨナラできるかと期待したが、どうやらこれから先もお世話になる可能性がある。考えたくはないな。
277: :2012/5/23(水) 22:57:15 ID:NeNQDk43GY
とりあえず今はこれくらいでいいだろう。僕はそう判断して、森の大陸を去ることを決意した。
次なる目的地は火山の大陸だ。今こそドラゴンにリベンジする時だろう。
ドラえもんはもういない。それは、ドラえもんの体の一部としてゲーム世界に具現化された秘密道具も消えたことを意味する。
当然タケコプターもない。……もう逃げることはできないだろう。
奴に勝つか、負けて死ぬかの二つに一つだ。僕の努力で本当に道は切り開かれるのか、確かめてやる。
278: :2012/5/23(水) 22:58:46 ID:NeNQDk43GY
乗組員一名の寂しい航海を経て、僕は火山の大陸に戻ってきた。
相変わらず暑そうな場所だ。僕の感想もワンパターンだな。
代わり映えのない我が感性は置いといて、僕はさっさと山頂を目指した。

道中の雑魚を軽く倒しながら、岩肌を歩む。
一歩進むごとに足が重くなるような、そんな気がする。
道が険しくなってきてるからとか、そんな理由ではない。恐らくは精神的なものが原因だろう。
死にたいとか、犠牲になるとか、今まで散々自ら死ぬんだ、みたいなことをほのめかしてきたけれど。
それでもやっぱり怖いのは怖い。消えたいとか考えるくせして、それに伴う恐怖を受け入れられないわけだ。
我ながら優柔不断で支離滅裂で、駄目人間だと思う。本当にこんなのに、未来を切り開く力があるのか?
考えど考えど答えは見つからない。不安の大きさと比例して、僕は山頂へと近付いていった。
279: 今回はここまで:2012/5/23(水) 22:59:32 ID:NeNQDk43GY
そしてとうとう僕は辿り着いた。空翔る魔獣の庭に。
手順は前回で把握している。火口を覗きこめば奴はアクションを起こすだろう。
燃えたぎるマグマを見下ろすと、案の定変化が起こった。かつて見たのと同じ光景。マグマがぐんぐんと盛り上がっていく。
そこから出てきたのは、忘れもしない……親友を死に追いやったドラゴンである。
前と同じように、しばらくはただ浮いてるだけで、開戦を知らせる凄まじい咆哮を放ってから、ようやくHPを表示させた。
戦闘開始だ。もう逃げるのは叶わないだろう。タケコプター無き今、機動力は完全に向こうが上だ。
倒すしかないんだ……こうなりゃヤケだ。やってやろうじゃん!
280: :2012/5/24(木) 21:32:02 ID:NeNQDk43GY
湧きあがる恐怖をごまかすように、僕は行動していく。
まずは上空のドラゴンに向かって銃を乱射する。

「うおおおおおお!!」

叫んだ意味はない。強いて言うなら、黙ってるよりも多少は恐怖が和らぐから、だろうか。
多くの弾を仕向けたわけだが、ドラゴンは華麗に空を舞って全てをかわした。弾が空に消えていく。
それどころか、無数の火球で地上の僕を襲ってくる。
この空襲によって、地上から安全地帯は消滅した。転がるように回避してみたけど、それも無駄な足掻きに過ぎず、結局ダメージを受けてしまった。
レベルを上げた分、前よりダメージは減ったが、それでも大ダメージには違いない。二、三発くらったことで、僕のHPは残り10%を切っていた。
281: :2012/5/24(木) 21:33:06 ID:NeNQDk43GY
「マホベ!」

即座に回復魔法を唱える。
いくらレベルを三桁にしてMPも多く蓄えたからと言って、当然ながら限度はある。
回復魔法を無限にできるわけでもないので、はやくドラゴンの攻略法を見つけなくては……。
その想いとは裏腹に、僕は空のドラゴンを銃で仕留めることができなかった。
翼を使ったドラゴンの移動は本当に素早い。タケコプターを使ってたと言えど、よくこれとの鬼ごっこを対等にこなしたものだ。
敵ながら天晴、と褒めてやりたいところだが、感心してる場合でもない。僕はこの現状を前にして、どうすればいいかわからなくなった。

「ドラっ」

えもん、という残りの言葉はどうにか飲みこんだ。
そうだ、今は僕一人だ。どうしていいかわからなくても、自分で決めるしかないんだ。
間違ってるかもしれない。正しいかもしれない。それすらわからなくて怖いけど、でも、自分で道を選ぶほかないんだ。
282: :2012/5/24(木) 21:33:55 ID:NeNQDk43GY
自分一人で考えて……僕は攻撃をやめることにした。
ここから撃っても当たらないのであれば意味がない。
撃ち続ければ一発くらい当たるかも、なんてことも考えてはみたのだが。
その間にドラゴンも攻撃してきてることも忘れてはならない。
攻撃に集中するとすれば、他が疎かになってしまい、ドラゴンの攻撃も多く食らうだろう。
そうなれば、回復魔法は必至だ。MP消費も著しくなる。
たった一発のまぐれ当たりのためにMPを多く消費するのは割に合わない。
ここは攻撃を諦め、MPを温存する意味で防御に徹しよう。いつか戦った怪鳥のように、こちらの攻撃のチャンスが来ることを信じて。
正しいかどうかわからないが、自分の考え得る限りの最善策だ。怖いけど、信じてみよう。
283: :2012/5/24(木) 21:36:30 ID:NeNQDk43GY
ドラゴンの攻撃を形振り構わず避けようと試みてから少しの時間が経過した。
待ち焦がれたその瞬間がようやく訪れたのだ。
そう、飛行をやめたドラゴンが地上に舞い降りたのだ。
そのずっしりとした足で大地に降り立ったドラゴンの鋭い眼差しは何ら変わりない。しかし、確かに変わったものが一つだけある。
スピードだ。
大きな見た目とは違って意外と地上でも素早い動きなのだが、空の時と比べればさすがにスピードは大幅に落ちている。
試しに僕はドラゴンを撃ってみた。こちらの攻撃に合わせてドラゴンは回避行動をとる。
しかしそれは間に合わず、巻き起こった爆風に合わせてドラゴンの頭上の数字が減少した。
要するに僕の銃弾が命中したのだ。
284: :2012/5/24(木) 21:38:16 ID:NeNQDk43GY
減ったのはわずかに20だけだが、今は当たったことが嬉しい。
僕の判断は間違いじゃなかった。地上戦に持ち込めば、僕にも勝機がある。
僕の中で僅かでも希望が生まれた。しかし、その小さな希望すらも、ドラゴンは打ち砕かんとする。
戦場を陸地に移したドラゴンの攻撃が、空襲のそれとは比較にならないほど激しさを増したのだ。

口から火炎放射を吐き、背中の翼の風圧でそれをたくみにコントロールする。
火球のような真っすぐの軌道でなく、不規則に僕だけを付け狙う独特の軌道。運動神経のない僕には炎に包まれるしかなかった。
HPの減りも凄まじい。たまらず僕は回復魔法に口にする。
……こちらの攻撃は通るようになったけど、MP消費も激しくなってきた。
僕の命が続いてる間に、このドラゴンを倒すことは可能なのか?
見出せない答えに、拭えない不安。しかし、ドラゴンはそんな僕を待ってくれない。
待ってくれないなら……考えながら戦うしかない。出来る出来ないじゃない、やるしかなんだ!
285: :2012/5/24(木) 21:39:16 ID:NeNQDk43GY
ドラゴンの火炎放射はまだ続く。
無様でもなんでもいい、とにかくそれを避ける方法を模索するが、結果はどれも同じでHPは減っていった。
避けるのが無駄だというなら、相打ち覚悟で銃を乱射してやろうか。

「うおあああああ!!」

自らを鼓舞するように銃を乱射する。一発のダメージは少なくても、間を置かず攻め立てれば、それなりにテンポよくHPは減っていく。
これだけなら気分爽快、問題無しだ。ただ、残念ながら問題は存在する。その間も自分のHPを減らされてるってことだ。
鼓舞目的で叫んでる場合じゃない。僕は再び回復魔法を叫んだ。

……駄目だ!相打ち戦法では、どう考えてもこっちが先にガス欠する。
これじゃ相手に我が命を献上するだけだ!
286: :2012/5/24(木) 21:40:27 ID:NeNQDk43GY
これじゃ駄目だ、とわかっていても、じゃあどうすればいいのかって、全くわからない。
対応の術も見出せず、ドンドンとHPを減らされる。それに合わせて、自らMPを減らしていく。
どうすればいい?このままじゃ負けてしまう。どうすればいい?

諦めてしまえよ。

……僕の脳裏で、負の感情が呼びかけてくる。

諦めろよ。もう無理だよ。死にたかったんだろ?ちょうどいいじゃん。

……黙れ!確かに諦めたかった時もあった!死にたいって考えた時もあった!でも、僕はドラえもんを信じて、自分の可能性を証明すると決めたんだ!

可能性なんてないさ。努力も続かないし、続いたところで何も変わらなかっただろう。ドラえもんなんか信じてどうする?のび太を生かした馬鹿なんだぞ。

封じ込めたと思っていた僕のネガティブな感情が、立ち塞がった困難をきっかけに蘇ってきた。
ドラえもんの言葉を信じて自分を信じる、なんて言っても、やっぱり根本にある自分への不信感はごまかしきれない。こうして簡単に復活してしまった。
だけど、正直な話、今この感情は邪魔なだけだ。ドラゴンの恐怖と湧き出る不信感の板挟みに苛まれて、僕は軽くパニック状態だ。
287: :2012/5/24(木) 21:41:58 ID:NeNQDk43GY
気付けば僕は山を降るように逃げ出していた。
誰に言い聞かせるわけでもないのに、「ドラゴンの攻撃から離れるには有効だから」などと言い訳を考えつつ、僕は走った。
実のところは恐怖で混乱し、とにかく逃げ出したかっただけなのに。つくづく僕はクズだと思う。こんなんだから信じることも難しいんだよな。
そんな僕の逃走をドラゴンは見逃そうとしない。その巨体には似つかわしくない俊敏な動きで僕を追う。
逃げれない。本当は逃げちゃ駄目なんだから、かえって好都合と言えるのだが、恐怖に支配された僕の心は良い方に捉える事ができない。心の中で文句が次々と生まれる。

くそ!何で追っかけてくるんだ!何のために逃げてると思ってんだよ!お前が怖くて、お前といると汚い自分が蘇ってくるからなんだぞ!
だいたい何だよ!このボスだけ逃げていいって言ったって、こんな速さで追いかけてくるなら意味ないじゃないか!なんでこいつの時だけこんなルールがあるんだ!

……待てよ。もしかしたら……。

心の中で文句を並べている時に、一つの考えが生まれた。
288: :2012/5/24(木) 21:42:56 ID:NeNQDk43GY
ここのボスに限って逃亡可能というルールがある。
しかし、ドラゴンの機動力で追いかけられては、そのルールも意味を成さない。おそらくは、人類には不可能なことと言えよう。
ドラえもんがしたように、仲間の誰かを犠牲にして、その間に逃げでもしないと出来っこないだろう。
しかし、それだと一人プレイをしてるプレイヤーはどうなる?一人のプレイヤーは諦めてさっさと死ねとでも言うのだろうか。
……もしかしたら、このルールはプレイヤーを戦闘から逃げさせるために設けたのではないのかもしれない。
289: :2012/5/24(木) 21:43:51 ID:NeNQDk43GY
逃げられないボスに共通してたこと。それは、見えない壁などでプレイヤーを閉じ込めていたこと。
それは、同じ場所で戦い続けることを意味する。
そして今回のボス。逃亡可能のルールがあるので、見えない壁で閉じ込められることはなく、とりあえず大陸のどこにでもいける。
それは、戦う場所を変えられることを意味する。
……もしかしたら、このドラゴンを相手に、有利に戦える場所がどこかにあるのかもしれない。
290: :2012/5/24(木) 21:44:39 ID:NeNQDk43GY
よくよく考えれば、僕はこの大陸をしっかりと模索していない。
船を降りてから真っ直ぐ山頂へと向かっただけで、この大陸の他の場所をよく知らない。
タケコプターで逃げてる時は大陸中の空を翔けたけど、逃げるのに必死で地形の確認などしていなかった。
僕は火山を探し回るように走り続けた。その間もドラゴンは追ってきている。
それでも構わず僕は走る。走って走って走り続ける。そして……。

「……ここなら」

僕は凹凸の激しい場所に来た。岩肌が盛り上がったり、陥没してる。
この地形を盾に使えば、ドラゴンの火炎放射をうまく防げるかもしれない。
291: :2012/5/24(木) 21:45:44 ID:NeNQDk43GY
僕が足を止めたので、ドラゴンも足を止めて攻撃を再開した。僕に炎が襲い来る。
僕は慌てて盛り上がった岩を盾にするようにして隠れた。
……やった。思惑通り、岩は炎を防いでくれた。
間違いない。この場所はドラゴン攻略の糸口なのだ。
ネガティブなのも役に立つ時があるんだな。ドラゴンの恐怖から逃げたのが、結果として成功に繋がったのだから。
岩に隠れながら僕は銃を撃った。ドラゴンのHPが少しずつ減っていく。
いける。これなら、もしかしたら僕だけで勝てるかもしれない。
292: :2012/5/24(木) 21:46:33 ID:NeNQDk43GY
調子に乗って撃ち続けてると、防いでるはずの火炎がカーブを描き、岩の盾をかわして僕を襲った。
……そうだった。ドラゴンはある程度火炎放射をコントロールできるんだった。
僕は他の岩へと移って炎への体勢を整えた。油断せず、確実に攻撃を防ぎながら倒すんだ!

物陰からの狙撃を続けてしばらく経った。
岩から岩へと移って炎の攻撃を防ごうとしたものの、運動音痴なせいか何度か攻撃を受けてしまっていた。
でも、ノーガードで攻撃しあってた時と比べたら、こちらが受けるダメージが劇的に減ったと言える。
MPにもまだ余裕がある。下手をして大ダメージを受けても、あと何回かは回復魔法でダメージをなかったことにできる。
これなら断言できる。このままいけば僕が勝つ!
293: :2012/5/24(木) 21:47:38 ID:NeNQDk43GY
逸る気持ちを抑えながら、あせらず的確に相手を防ぎ、攻撃していく。
高いドラゴンのHPもあと少しで底を突く。あと少し……あと少しだ……。

「これで!終わりだあああ!!」

僕が発射した銃弾がドラゴンの体に接触して爆発を起こした。
それに伴い、ドラゴンの頭上に表示されたHPが0となり、ドラゴンは苦しみだした。
そして僕に背を向けて、よろよろと山頂に飛んで行ってしまった。
ドラゴンは何故戻っていったのか、などという疑問が生じてはいるものの、確かなことはひとつだけある。
……僕がドラゴンを倒したんだ!
294: 今回はここまで:2012/5/24(木) 21:48:32 ID:NeNQDk43GY
ドラゴンの行方が気になるところではあるが、僕はそれどころではなかった。
ドラえもんと共に挑んでも倒せなかったドラゴンを僕一人の力で倒したのだ。
ドラえもんは間違ってなかった。こんな僕でも、やりようによっては道を切り開けるのだ。
それに、初めて自分の力だけで挑み、やり遂げた。自分の力で成功させること、それがこんなに嬉しいものだったなんて。

「……ありがとう、ドラえもん」

僕はぽつりと呟いた。
ドラえもんが僕を信じて生かしてくれたから、この瞬間が生まれた。
僕は初めて自分の力でやり遂げる嬉しさと素晴らしさを知った。
ドラえもんがいなかったら、この瞬間は一生訪れなかったと思う。
普段の駄目な僕しか見てないのに、それでも僕を信じてくれて、ありがとう。
今、その期待に少しだけでも応えられた気がするよ。ありがとう、ドラえもん。
295: :2012/5/25(金) 21:03:39 ID:NeNQDk43GY
いつまでも溺れていたいほど心地良い心境なのだが、そういうわけにもいかない。
そろそろ行動を起こすことにした僕は、ドラゴンを追って山頂を目指すことにした。

山頂にたどり着くと、そこにはもがき苦しむドラゴンの姿があった。
地面を転がり苦しそうな声を出すドラゴン。仕方ないとは言え、少しだけ罪悪感に襲われる。
ドラゴンはそのまま転がって、火口の中へと落ちていった。その瞬間、マグマの活動が活発になった。
噴火かと思って慌てたが、噴き出す様子は見られない。マグマは火口を蓋するように盛り上がると、そこで固まってしまった。
マグマの赤みも消えて、完全に岩肌と同化して、ただの山になってしまった。
そうしてできた足場の中央には、勇者の集めるべきアイテムである魔法石が置いてあった。
296: :2012/5/25(金) 21:04:24 ID:NeNQDk43GY
現実的にはまだ高温で足を踏み入れるなど到底不可能だろうが、これはゲームだ。僕は数秒前までマグマだった地面を踏み締めて中央へと歩み寄った。
身を屈めて魔法石を拾う。これで必要な六個のうち、五個を集めたことになる。

「……クリアは近いのかな」

言葉が返ってくることもないのを知りつつ、それでも僕はそう発した。
とりあえず船に戻ろう。そう思って下山を開始しようとした僕は、足元に落ちてるアイテムを見つけた。それは、

「ドラえもん……」

ドラえもんが所持していたアイテムだった。
仲間が死亡した場合、アイテムだけは残して消えてしまう。スネ夫の時だって、あいつはランプだけ残して消えただろう?
ジャイアンの場合は森の中で死亡したので、アイテムを見つけることはできなかったけども。
ドラえもんはここの上空であいつにやられたから、落っこちてここにあるってことだろう。
297: :2012/5/25(金) 21:05:16 ID:NeNQDk43GY
僕はそれを回収した。用途のわからないものがほとんどなので、拾ったところで収納袋の奥底に眠ってもらうことになるだろうけど。
ドラえもんの残したアイテムと考えると、拾わずにはいられない。
落ちてたアイテムを拾い上げて、今度こそ僕は大陸を出ることにした。

下山を終えて、今は船の中である。僕は船を海上に漂わせながら、今後について考えていた。
この世界には六つの大陸がある。僕らは……今となっては一人だけど、僕らはそれを全て攻略した。
しかし手元にある魔法石は五つだ。これは明らかに不自然だと言えよう。
そこで次なる目的地を始まりの大陸にしようというわけである。
確かにボスを倒し、各ダンジョンを攻略した始まりの大陸ではあるが、魔法石に関するイベントは、ここだけ発生してないのだ。
298: :2012/5/25(金) 21:06:06 ID:NeNQDk43GY
大陸と魔法石。両方とも六つであることを考慮すれば、一つの大陸に一つの魔法石があると考えるのが妥当だろう。
しかし始まりの大陸では魔法石関連のイベントは起こらなかった。
当時は何も起こらなかった場所だが、魔法石を五つ集めた今、新たなイベントが起こるかもしれない。
そう結論付けて、僕は船を始まりの大陸に向けて走らせた。

港町に船を置き、毒の湖の迷宮を通り、久方ぶりに王都へと足を運んだ。
本当に久し振りだ。ゲームを始めた頃、草原の綺麗さに感動し、王都の豪壮さに圧倒されたのを覚えている。
かつてそうしたように、見張りの兵士二名にチェックさせて、古風な街に再び僕は入ったのだった。
299: :2012/5/25(金) 21:07:18 ID:NeNQDk43GY
いろんな施設のある街だけど、僕は真っすぐに城を目指す。何かあるならここだと思うし。
城に行くと、予言の勇者であることを理由に、アポ無しで王との対面が許されることとなった。
……勇者は死に、残ったのは銃を扱う僧侶っていう、意味のわからん状況なんだけどね、本当は。
王の間に行くと、相変わらず王様って感じの外見の王様が豪勢な椅子に腰かけている。

「えっと……王様、予言者さんの言う通りに魔法石を集めまして、それで、えっと、今五つあるんですけど……」

ゲームのキャラだとわかってても、お偉いさんと話をするのは緊張する。
よくよく考えるとドラえもんは立派に勇者してたなあ。はきはき喋って、勇者っぽいこと言って。本当に尊敬するよ。
それはともかく、その報告を受けて、王様はこのようなことを言い出した。

「そうですか……ついにこの時が来たのですね」

どうやらビンゴっぽい。何やら魔法石関連でイベントが起こりそうな雰囲気だ。
300: :2012/5/25(金) 21:08:44 ID:NeNQDk43GY
「実は我が王家は魔法石を封じていました。脅威なる魔界への門を開く石ということで、人間の世を守るためにです」
「一度魔界への門が開かれれば、今この世界に蔓延る魔物以上に凶悪な魔物が攻め入ることとなるでしょう」
「しかし、予言士は魔界の門を開けることこそ平和の道と読み、それに伴い勇者様は魔法石を集めてみせました……」
「こうなれば、我々は勇者様を信じるのみです。魔法石をお渡しください。魔法陣を完成させ、魔界への道を完成させましょうぞ」

以上が王様の御言葉である。
どうやら今まで集めた魔法石を王様にあげれば、魔界に行けるようになるらしい。
嘘か真か僕にはわからないけど、どちらにせよ手渡す他に道はない。僕は五つの魔法石を王様に渡した。
魔法陣の完成は明日になるから勇者様は宿屋でお休みください、なんてことを言われた。イベントを進めるためにも素直に従うとしよう。
301: :2012/5/25(金) 21:10:00 ID:NeNQDk43GY
王都の宿屋に行き、僕には意味がないと知りつつも一応セーブをする。そしてはした金を払って部屋へと案内された。
部屋に入ってすぐにベッドに転がる。このまま寝れたらどれだけ気持ちいいだろうか。しかしこのゲーム世界に睡眠の概念はない。
それに宿屋に泊まると、この世界の太陽は高速移動を始める。一瞬で暗くなり、再び明るくなるのだ。こうして10秒も経たぬうちに翌日になった。
HPとMPは回復しても、全然休んだ気にはならない。まあそれにも慣れてしまったけれども。僕は城に向かうことにした。

城に向かう途中、街の広場に人だかりができていた。その中央には王様と黒いローブに身を包んだ魔法使い風の老婆がいた。
王様たちと人だかりは、円形の何かを囲んでいるようだった。それをよく見てみると、魔法石を使用した六芒星な魔法陣であることがわかった。
そうか。これが魔界への扉を開ける魔法陣って奴か。
王様が僕に気付くと、人ごみをかき分けながら走り寄ってきた。
302: :2012/5/25(金) 21:11:26 ID:NeNQDk43GY
「勇者様!魔法陣は完成しました!後は呪文を唱えるだけで海面に魔界への通り道を作ることができます!」

魔界からは海面から行くことになるのか。海面の扉……っていうことは、魔界は地下的な世界ということだろうか。
よろしいですね?と確認をとってくる王様に対して、僕はGOサインを出した。王様はそれを見て老婆に合図を送り、呪文は唱えられ始めた。
すると僕の頭脳に突然海面が映し出された。何事かと思ったけど、どうやらムービーシーンを脳内に直接送り込んでる感じらしい。
六つの大陸のちょうど中央に位置する海面に、このゲーム二度目のモーゼの十戒的現象が起こっていた。
ただし、こちらは底なしの穴を作っている感じだ。底の見えないほど深い穴である。魔界に行くにはここを落ちないといけないのか?怖いなあ……。

やがて脳内で再生されるムービーは終わったみたいで、僕の視界は再び王都に戻っていた。
老婆の呪文も終わったようだ。これで僕は魔界に行けるようになったみたいだ。
303: :2012/5/25(金) 21:12:30 ID:NeNQDk43GY
「勇者様。準備は整いました。今、この世界と魔界は繋がったのです」

見てたから知ってるよ、なんて空気の読めない発言はさすがにできず、僕は黙って聞いていた。

「この判断がどのような結果を生むかわかりません……しかし我々は勇者様を信じると決めました。どうかこの世界を御救いください!」

信じる……か。最近のホットなキーワードだなあ。
僕だって信じるさ。ドラえもんを。そして、ドラえもんが信じてくれた僕を。
心の奥底では未だ疑ってる本当の自分もいるみたいだから、完全にそれが出来てるかは知らないけど。
想うことで生まれる力っていうのを、僕はドラゴン戦で知ったような気がする。
その真理を完全には理解できてないけど、あの戦いを経た今、断言できることが一つある。
僕への信頼を、今の僕は力に変えられるってことだ。

「……任せてください!かならずこの世界を平和にしてみせます!」

僕は力強く王様に答えた。
304: :2012/5/25(金) 21:13:26 ID:NeNQDk43GY
王都を出て、毒の湖を突破し、僕はまた港町にやってきた。
もちろん船に乗り込んで、海面の穴へと向かうためだ。
すっかり乗りなれた愛船を自由に操り、僕は穴の前へと到着した。

「ここを落ちていくのか……」

ムービーでもそうだったように、覗きこんでも底が見えない。相当に深い穴だ。
今からこれを落ちるのか……正直、気が進まない。
気が進まなくても、ここを進まなければ魔界には行けない。
半ば自棄になって、僕は船を進ませて自分ごと穴へと落とした。
305: :2012/5/25(金) 21:14:10 ID:NeNQDk43GY
「うああああああ!!」

ジェットコースターなんて比じゃない恐怖だ。これ、死ぬんじゃないか?って不安すら頭をよぎる。
永遠と思うほど長らく落下を続けた船は、ようやく船のあるべき場所へと帰ってきた。そう、下に海面が見えたのである。
赤い海面に強烈に叩きこまれ、高らかに波しぶきをあげた。
それはもう高く厚い波しぶきだ。一瞬、滝かと勘違いするほどである。
しかしそれも長くは続かず、赤い波の壁が消えた時、僕の目には魔界の光景が飛び込んできたのである。
306: 今回はここまで:2012/5/25(金) 21:14:53 ID:NeNQDk43GY
空は黒く濁り、海は赤く染まっていた。遠くに見える大陸も全体的に暗い色で構成されており、人の考え得る負の世界がそこには展開されていた。
わかりやすいほどに魔界の風貌だった。とにかく僕は生きて魔界に降り立った。

「そろそろラストなのかな……」

誰も答えてくれないと知りつつ、そんなことを呟きながら、とりあえず遠くに見える大陸を目指して船を進めたのだった。
307: :2012/5/26(土) 23:17:07 ID:NeNQDk43GY
結論から言えば、まだラストではなかった。
人間の方の世界とは違って、魔界は大陸が複数あることはなくて一つきりだった。
そして船が泊められるような場所は一カ所しかなく、そこは魔王城から遠い場所だった。
目を閉じてステータス画面を表示し、マップを確認してみると、さりげなく魔界仕様になっていた。
それで地理を確認すると、魔王城はまだまだ先だったっていう話である。
道中にはいくつかダンジョンっぽい場所も確認できる。あーあ、また頑張らなくちゃならないのか。
愚痴ったところで何も進展しない。気を取り直して、僕は魔界を進んで行くことにした。
308: :2012/5/26(土) 23:17:47 ID:NeNQDk43GY
それからのことを少し駆け足気味に語ろうと思う。

魔界は魔界でいくつかのダンジョンがあり、その都度攻略していかないと進めない仕組みになっていた。
ダンジョンの数だけ足止めをくらい、その度に僕のレベルは時間と気力を犠牲にして上がっていった。
そしてボスを倒す。気のせいかもしれないけど、どのボスも火山のドラゴンより強いようには感じなかった。
そういうわけで、六つの大陸編よりは苦戦しなかったと思う。
しかし、襲い来る不安が払拭されたかって、そんなことはなく、いつでも僕は不安と隣合わせだった。
頑張ることが辛くて、自分で自分に諦めることを勧めるようなことも多々あった。
それでも僕は、見苦しかろうと形振り構わず、どうにかこうにか頑張って成功を収め続けた。
309: :2012/5/26(土) 23:18:57 ID:NeNQDk43GY
本当に、時間だけは嫌と言うほどに有り余っていた。
そのため、レベル上げのような単調な作業の時に、考え事をすることも多くなった。
考えることはいつも一緒。僕の可能性についてだ。

僕は無能な人間だと自覚している。
勉強も出来ない、運動もできない、容姿も良くない。
そして、そんなだから努力をしても成功しないと考えてて、徹底的に努力から遠ざかって生きてきた。
このゲームを始める前は完全にドラえもんに甘えていたし、ゲーム中は絶望のあまり激昂して迷惑をかけた時もあった。
とにかく、努力から逃げて逃げて、でもとうとう一人になって、自分がやらなきゃどうしようもなくなった。
その時も僕は努力したところで成功しない、どうせ死ぬしかないと考えていた。いつだったかドラえもんが僕にかけてくれた言葉のおかげで頑張ろうと思えるようになったが。
結局頑張ったところで、僕はドラえもんのように完璧にはなれず、無様な姿を晒した結果になったと言えるだろう。

ただ、それでも僕はドラゴンに勝つことが出来た。
310: :2012/5/26(土) 23:19:36 ID:NeNQDk43GY
頑張ったところで無能に違いなく、しかしそれでも僕は成功を収めた。

僕は、前々から成功を収めるには完璧にならなくてはいけないんだと思っていた。
賢くなるには、出木杉みたいにならないといけない。強くなるには、ジャイアンみたいにならないといけない。
そして、人として完成するには、ドラえもんのように優しくならないといけないって思っていた。
でも、僕が頑張ったところで出木杉にはなれないし、ジャイアンにもなれない。
そして何より、大好きで尊敬してて憧れてるドラえもんにはなれるわけがないと知っていた。
頑張ったところで彼らのような能力は得られない。能力を得られないなら成功することもないだろうと思って、堕落の中に溺れる日常を選んできた。
でも、このゲームにおいて、無能に変わりないまま僕はドラゴンに勝った。
311: :2012/5/26(土) 23:20:19 ID:NeNQDk43GY
それから、魔界を駆けてきた。
不安を拭えず、相変わらず無能で、弱音もたくさん吐いて、戦闘は無様で、それでも僕は勝ち続けた。
それを重ねたことで、ようやく僕は真理を見つけた気がする。
このゲーム内で、僕の考えはころころ変わっていたと思う。それは、僕の心に弱い部分があり、それを排除できないことが原因だったと思う。
でも、排除しなくていいんだ。
変わることも、力を得ることも大切だけど、何より大切なのは頑張り続けることだ。
人間は平等じゃない。人種や環境で能力はだいぶ左右されるだろう。
そして僕は弱い人間だ。頭もよくない。運動もできない。容姿もよくない。
でも、そんな僕でも、頑張り続けることでチャンスは生まれるんだ。僕はこのゲームでチャンスをずっと掴んできた。
312: :2012/5/26(土) 23:21:15 ID:NeNQDk43GY
自分の無能を言い訳にして、努力から逃げて、成功を諦めていた。
それらはドラえもんみたいに完璧な存在にだけ許された頂だと思っていた。
でも、そうじゃない。成功の規模などに差は出るかもしれないが、僕でも努力すれば道は開けるんだ。

僕はドラえもんに憧れていた。
僕はドラえもんのようになりたかった。
でも、僕はドラえもんにはなれない。
なる必要はない。
僕は僕だ。
野比のび太だ。
のろまで馬鹿で、心に弱さをかかえているけども、それを含めて僕だ。
そんな僕にも道は開ける。僕だからこそできることもある。
僕が僕でありながら、僕にできることを確実にやっていくことこそが大切なんだ。
313: :2012/5/26(土) 23:28:28 ID:NeNQDk43GY
今となっては、このゲームに巡り合えてよかったと思ってる。
いつだったか、買ってきたドラえもんに逆切れした時もあったけど。
このゲームで努力を覚え、成功を知り、人間として成長出来た気がする。
知力や体力といった、能力的な変化はなくても、僕は確かに進化したんだと断言できる。
ドラえもんにだって、胸を張って今の僕を見せてあげられる。ドラえもんもきっと喜んでくれるはずだ。
僕は、自分の無能さを言い訳にして、努力を怠ってきたことをドラえもんに謝りたい。
自分を犠牲にして、僕に努力と成功を知るきっかけを作ってくれたことに感謝したい。
これらを「したい」から「する」に変えるために、僕はゲームをクリアして皆を救うんだ。
314: :2012/5/26(土) 23:29:26 ID:NeNQDk43GY
一刻も早くその瞬間を迎えたい。だから……。

「お前はとっとと消えろ!」

そう叫びながら、ボスである悪魔に向けて発砲した。
それでHPを0にされた悪魔は何やら叫んだ後に消滅してしまった。断末魔の叫びと言う奴だな。
その悪魔はアイテムを落としていた。駆け足説明のために省略していたが、魔王城に行くために必要な魔力石だ。
魔界には四天王なる魔物がいるらしい。
そいつらを仕留めると落とす魔力石を四つ全て集めると、空中に浮かぶ魔王城と大地を結ぶ階段が出現するという話らしい。
で、今倒したのが四匹目だったりする。
ボスを圧倒するほどになった今の僕のレベルは200だ。どうやらこれが上限らしくて、これ以上は上がらなかった。
315: 今回はここまで:2012/5/26(土) 23:30:53 ID:NeNQDk43GY
「これで魔王城に行けるはずだけど……」

言い切る前に、四つ集めた魔力石が独りでに動き出した。
二つは地面に埋まり、二つは浮かび上がって自由に飛び交いながら魔王城へと向かっていった。
飛んだ二つの魔力石が、浮遊する魔王城の前まで辿り着くと、その軌跡をなぞるように階段が出現した。
かくして魔王城への道は切り開かれたのだ。

……これで本当に最後のはずだ。
ゲーム内時間ではもう何十、いや何百時間と過ごしてきていると思う。長い冒険になった。
だけどそれもここで終わりだ。
しずかちゃんが死んだときに響いたあの言葉……あれを信じるならば、クリアすれば皆と一緒に現実へ帰れるんだ。
僕は現実へ帰る。しずかちゃん、スネ夫、ジャイアン、そしてドラえもんと共に。
決意を胸に秘め、僕は出現した階段をのぼりはじめた。
316: :2012/5/27(日) 12:33:00 ID:NeNQDk43GY
野比のび太は邪悪なる魔王城の扉を開いた。重々しく軋む音が恐怖を駆り立てる。
だが、今の彼はそれで怖気づくような心境ではない。のび太の心の中には皆を助けるという強い想いで満ちていた。
薄暗く、あちこちが汚れている魔王の城を、一歩一歩確実に歩んで行った。

ラストダンジョンと考えると不思議なくらい雑魚敵がいなかった。
これにはのび太も不思議に思っていたようで、プレイヤーに優しい現状が逆に怪しいように感じて、警戒心を強めていた。

(それだけラスボスが強いってことなのかな?)

その疑問が解決されることなく、のび太は魔王城の王の間手前の広間までやってきた。
317: :2012/5/27(日) 12:33:29 ID:NeNQDk43GY
今ののび太には知りようはないのだが、王の間の空中には、アインスの牢屋によって捕らえられている仲間達がいる。
現在地と王の間を隔てる壁、そのドアを開けることで念願の再会を果たせるわけだ。
だが、事はそううまくはいかなかった。
そのドアを開けて、広間にある者がやってきたのだ。

「驚いたぞ。人間如きが我ら魔物をここまで追い詰めるとは……」

それは、このゲームにおける最後の敵、魔王その人だった。
318: :2012/5/27(日) 12:34:21 ID:NeNQDk43GY
人のような外見をしている魔王は、ドアを閉めてから発言を続けた。

「我が部下からいくつか報告も聞いている。どうやら我が配下は皆やられてしまったようだ」
「そ、そうだ!お前らは僕が……僕達がやっつけた!」

勇者の責務を果たそうと、のび太も必死に発言する。
そんな残された一人の勇者を前にして、魔王は小馬鹿にするような笑みを浮かべていた。

「そして我をもここで倒し、人間の世に完全なる平和をもたらす算段か」
「実現させるんだ。この世界の人達のためにも、そして何より僕達のためにも!」
「ふふふ……ふはははは!」
「笑うな!何がおかしいんだよ!」

追い詰められてるこの現状で、不気味に笑う魔王に思わずのび太は怒鳴った。
その怒号にひるむ様子もなく、変わらぬ調子で魔王はハッキリとこう言い放った。

「おかしくもなるさ。今ここで、お前の命ごと人間の希望が潰えるのだからな!」
319: :2012/5/27(日) 12:35:04 ID:NeNQDk43GY
「さあ、その命を散らせてみせろ!」

そう叫ぶと同時に、魔王の頭上にHPの数字が表示された。
このゲームにおける、開戦の合図である。
戦闘への切り替わりを即座に察知したのび太は、得意の射撃で驚異の早撃ちを披露した。
魔王はそれを被弾し、特殊な弾丸が即座に爆発を起こす。
のび太の親友であるドラえもんからその武器を授かって以来の、のび太の必勝法である。
レベルマックスの200を誇るのび太の一撃。これでどれだけHPが減るのか確認するため、爆発による煙が晴れるのを待った。

「……え?」

煙が消え、魔王の姿を目視できるようになった時、のび太は驚愕した。
得意の一撃で魔王に与えたダメージは0。つまり、ダメージを与えられなかったのだ。
320: :2012/5/27(日) 12:36:02 ID:NeNQDk43GY
(どういうことだ!?いつか戦った木の化物みたいに、弱点を攻めないと駄目なタイプなのか!?)

うろたえるのび太を魔王は待ってはくれない。今度は魔王がのび太に攻撃を仕掛けてきた。
掌を上に向けると、そこから無数の魔力の球を放出させた。
そしてそれらを、腕を横に払う動作に合わせて次々と発射させていった。
魔力の球が、凄まじい速度でのび太に襲う。
転がるようにして回避を試みたのび太だったが、結果は芳しくなく、四発ほど受けてしまって瀕死状態に陥った。
たまらず回復魔法マホベを唱えた。レベルがマックスなだけあって、攻撃は何発か耐えられるようだが、相手にダメージを与えられないなら絶望に違いはない。
321: :2012/5/27(日) 12:36:48 ID:NeNQDk43GY
のび太は、魔王に何か弱点があるのだろうと判断し、怪しい部分を探すことにした。
魔王本人はもちろんのこと、見えない壁で囲まれた戦いの舞台にも目を向けて、攻略の糸口を必死に探した。
しかし、結局怪しい部分は見つけられなかった。その間も魔王の攻撃はのび太のHPとMPをおびやかし続けた。
自棄になって乱射するも、ダメージは変わらず0のままだった。このままでは敗北まで一直線である。

(くっ……諦めるな!最後まで考えるんだ!諦めなければチャンスは訪れる!)

冒険の中で得た真理を信じて、親愛なるドラえもんが自らに向けてくれた信頼を信じて、のび太は諦めることをしない。
しかし、そんな直向きな姿勢もむなしく、魔王の激しい攻撃の前にHPとMPを減らすしかなかった。
322: :2012/5/27(日) 12:37:29 ID:NeNQDk43GY
のび太が魔王を相手に苦戦している頃、王の間の方も騒がしくなっていた。
今現在に牢屋に入ってるメンバーのほとんどがいろいろ言葉を発している。黙っているのはアインスくらいである。
その中でも特に大きな声を発していたのは、フィーアだった。

「ちょっとアインス!どうなってるのよ!?ラスボスまで辿り着いちゃったじゃない!」

クリアされれば自分達の脱獄が失敗するとあって、ずいぶんと御怒りの様子だ。
反論するでもなく、ただ笑っているだけのアインスに、フィーアのイライラはヒートアップする一方だ。
そんな時空犯罪者達の様子を見てジャイアンは調子に乗った。

「ざまあ見ろってんだ!このゲーム、俺達の勝ちだぜ!」
「それは違うな」

ジャイアンの勝利宣言を受けて、ようやくアインスが口を開いた。
323: :2012/5/27(日) 12:38:16 ID:NeNQDk43GY
勝利気分に水を差されたジャイアンは、怒鳴り気味に反論を開始した。

「ああ!?何でだよ!俺達の仲間がもうそこまで来てるんだぜ!きっとクリアして俺達を助けてくれる!」
「甘いな、太った少年よ。お前達はこのゲームを何もわかっちゃいない」
「誰がデブだ!それに、わかってようがなんだろうが、ここまできたら絶対にクリアして……」
「ドラクエ50。このゲームのラスボスは、あることをしておかないとダメージが通らない」

アインスの発した言葉に、ようやくジャイアンの怒号が鳴りを潜めた。
それを機に、ここからは俺の番だと言わんばかりにアインスは捲し立てたのだった。
324: :2012/5/27(日) 12:38:54 ID:NeNQDk43GY
「未来じゃこのドラクエ50はクソゲーとかガッカリゲー等とプレイヤーから評価されている」
「何故かわかるか?このゲームはいろんな部分が理不尽に難しいんだよ」
「異常に高いボスのステータスに、初見殺しな行動パターンもそうなのだが……」
「何より理不尽なのは、ラスボス相手には事前にあることをしてないと絶対に倒せないってことだ」
「しかも、それに関してはノーヒントだ。ゲーム世界の隅々まで探しても、その情報を得られることはない」
「故に、初見プレイヤーで自力クリアした猛者はいないとされてるような、そんなゲームなんだ。皆無とまではいかなくても、本当に数えるくらいしかいなんだろうよ」
「さて……お前らの頼もしいお仲間さんは、初見プレイでその頂に辿り着けるのかな?」

アインスの言葉にジャイアン達は黙り込んでしまった。
自分達も少なからずゲームをやるからわかる。それがどれほど理不尽で、プレイヤーにとって絶望的な状況なのかを。
325: :2012/5/27(日) 12:39:36 ID:NeNQDk43GY
ただ、ひとり。それでも信じている仲間がいた。静香だ。

「それでも私達はこのゲームをクリアするわ!私達五人は、いつだって皆で困難を乗り越えてきたもの!」
「魔王を倒す条件があっても、きっとそんなの既に達成してるわ!」
「あとは倒すだけなんだから!私は諦めない!私はここから応援して力になる!」

そうして静香は牢獄から声を張り上げた。壁の向こう側で魔王と戦っているのび太に向かって、頑張れ!頑張れ!……と。
それに引っ張られるように、残りのメンバーも応援を始めた。
その様子を小馬鹿にするように見ているアインスに、フィーアが耳打ちしてきた。

「アインス……本当に大丈夫なの?クリアされないよね?」
「出来るもんか。無敵の魔王にやられるだけさ」
326: :2012/5/27(日) 12:40:11 ID:NeNQDk43GY
その壁の向こう側、のび太は一体どうなっているだろうか。

「く、くそっ!何だ?どうすればダメージは通るんだ?」

未だ魔王にダメージを与えることに成功しておらず、少しずつゲームオーバーに近付いていた。

「MPがそろそろなくなる……!」

回復魔法も連発し、そのエネルギー源は底を突こうとしていた。
強いられる苦境に、見出せない活路。その状況がのび太の精神を追いやっていく。
そんな混乱状態の中にあるのび太は、壁の向こう側から聞こえる仲間の声に気付けなかった。

「〜〜〜!!」
「〜〜〜〜〜!!」
「〜〜〜〜〜!!」
(なんだ?何か聞こえるけど……何かわからない……)
327: :2012/5/27(日) 12:40:45 ID:NeNQDk43GY
魔王に追い詰められたのび太の脳裏には、とうとうあの言葉が浮かぶようになっていた。
そう、諦めるという言葉である。

(……ここまで頑張ったんだけどな。どうにかならないのか……)

考えても考えても、現状で出来ることはやりつくしたという結論に至り、のび太としてはもはや選択肢はないと考えていた。

(ここまでかもしれない……ごめん、皆……)



「のび太くん!!」



「ドラえもん!?」
328: :2012/5/27(日) 12:42:04 ID:NeNQDk43GY
のび太は確かにドラえもんの声を聞いた。
思い出の中のドラえもんが心に呼びかける等ではなく、ハッキリとドラえもんの声を耳にしたのだ。
懐かしい声に少しだけ気力を取り戻したのび太は、意識を戦闘に戻すことに成功した。
そして気付いた。さきほどから聞こえるのは、静香の、スネ夫の、ジャイアンの、皆の声だと。

「皆……皆この向こう側にいるのか!」

のび太はこの世界で死んだことがない。故にその仕組みを知っておらず、死んだ仲間がこの世界に残っていることを知らなかった。
でも、たった今、直接声を聞いたことで、仲間が向こうにいることを知った。
ずっと、ずっと望んでいた仲間の存在。それを確認できたことで、のび太の中に元気が溢れかえった。

ただ、元気になったところで、魔王の攻略法がわかってないのに変わりはない。
気持ちは前向きになっても、このままではやられるしかない。
329: :2012/5/27(日) 12:42:54 ID:NeNQDk43GY
……どうにかならないのかな。
でも僕はもうやれることは全部試した。
攻略法がわからないんだ。どうしようもないんだ。
ごめんね、ドラえもん。せっかく僕に言葉をかけてくれたのに。

……ドラえもん?

ドラえもんの名をきっかけに、僕は二つほど思い出した。
330: :2012/5/27(日) 12:43:42 ID:NeNQDk43GY
一つは、ドラえもんが残してくれたアイテムのこと。
用途不明で、ドラえもんが持ち続けていたアイテム。
仲直りのきっかけを探すために、ドラえもんが超難易度の洞窟からどうにか取ってきたアイテムの中の一つ。
ドラえもんが死んでから、それからは僕がずっと持っていたアイテム。
もしかして……袋の奥底に仕舞っておいた謎のアミュレットを僕は取りだした。
そして魔王に向けてみた。すると……
331: :2012/5/27(日) 12:44:43 ID:NeNQDk43GY
思い出したもう一つのことは、かつてドラえもんが僕に言ってくれた言葉に続きがあったこと。
僕が努力を続けられるようになるきっかけとなった、ありがたい言葉。

『のび太くんが努力を続ければ、最後には絶対にうまくいくよ』
そしてこれは、こう続くんだ。
『努力しても駄目だったら、その時は僕だって力になるよ』
……ありがとう、ドラえもん。本当に君はいつでも僕のことを思って優しくしてくれるね。
君の力のおかげで、僕は努力を無駄にしないで済むよ。僕は皆を助けられるよ。
ありがとう……。
332: :2012/5/27(日) 12:45:32 ID:NeNQDk43GY
……すると、そのアミュレットは、魔王に向かって飛んでいき、無理やり魔王に装着してしまった。
それと同時に魔王が苦しみ出した。

「ぐああああ!!ば、馬鹿な!!これは……魔封じのアミュレット!我が力を封じる忌々しい装飾品!」
「我が脅威と成り得るこれは、辺境なる洞窟の奥底に封じ込めたはずなのに……どうして貴様が!?」

僕の考えは正しかった。ドラえもんの残してくれたこれは、魔王攻略の鍵だったんだ。
間違いない。この状況なら、僕の攻撃も奴に届く。確信と共に、僕は引き金を引いた。
当たりだ。レベルマックスの僕の攻撃は効くらしく、けっこうなダメージを与えることに成功した。
これなら……勝てる!僕の努力に、ドラえもんの力を重ねて、僕らはこいつに勝つんだ!
333: :2012/5/27(日) 12:46:43 ID:NeNQDk43GY
『魔封じのアミュレット』
のび太が今使ったこのアイテムは、ドラクエ50のラスボスを倒すのに必須なアイテムである。
アインスが言っていたように、作中ではこのアイテムの存在や魔王攻略のヒントを得ることは出来ない。
しかし、実はヒントはこのゲームのキャッチコピーに隠されているのだ。

『僕達は今、始まりを思い出す』
これが今作のキャッチコピーだ。前に説明した通り、原点回帰として初期のRPGを意識して作られたことを意味する。
最近のRPGにやり込み要素や2週目要素などが組み込まれるのは自然だが、最初期にはそのような概念はなかった。
つまり、最初期をイメージして作られた今作にやり込み要素などはないのだ。
334: :2012/5/27(日) 12:47:27 ID:NeNQDk43GY
そしてそこから、あの鬼畜とも言える難易度の洞窟はやり込み要素でも何でもなく、本編攻略に必要なダンジョンだと捉えなければならないというわけだ。
最近のRPGに慣れている多くのプレイヤーは、その圧倒的に高い難易度から、洞窟をやり込み要素かなんかだと判断し、スルーしてしまうのだ。
そしてラスボス戦で詰むという流れだ。これには多くのプレイヤーも不満を訴えたし、実際のび太達も最初は洞窟を見逃そうとしていた。
しかし、紆余曲折を経てのび太達は……ドラえもんはそれを手にした。
そしてそれが、五人の運命を救いだす結果に繋がったのだった。

「うああああああ!!」

絶叫しながら、最後となる弾丸をのび太は放った。
335: :2012/5/27(日) 12:48:04 ID:NeNQDk43GY
それによって、魔王のHPは0となった。

「馬鹿な!この我が!この我があああ!!」

絶叫しながら、魔王の体は消滅していった。
それを見届けて、のび太は座り込んでしまった。今までの緊張が抜けてしまったからだろうか。
目の前で起こったことをうまく受け入れられず、しばらく呆然としていた。しかし、頭が展開に追いついた時、彼は言い表せない喜びに支配された。

「勝った……終わった……僕が勝ったんだ……!」

そしてのび太は喜びを爆発させた。
才能も何もない自分が努力を重ねたことで皆を助けられたという事実が、のび太にとって嬉しくて嬉しくて仕方なかった。
336: :2012/5/27(日) 12:49:13 ID:NeNQDk43GY
魔王が消えてからちょっとして、王の間への扉は開かれた。
のび太がそこに足を踏み入れた瞬間、上空から叫び声が聞こえてきた。それはアインスのものだった。

「嘘だ!このゲームのクリアなんて出来るはずがないんだ!俺の脱獄が失敗するはずないんだ!!」

アインスにとっては予想外の結果に、半狂乱になって叫ぶしかできなかった。
他の時空犯罪者達も、この結果に対してそれぞれの反応をしている。

「失敗するなんて聞いてないわよ!!絶対に成功するって言うから乗ったのに……!!」

これはフィーアによるものだ。
それをなだめるようにツヴァイがこう言った。

「だ、大丈夫だよ……他のプレイヤーがやった時に、そいつらの体を貰えば……」

それを即座にジャイアンが遮る。

「バーカ!俺達がこのゲームを、お前たちを見逃すと思うか?ゲーム機ごとタイムパトロールに突き出してやるぜ!」

今のジャイアンの発言が全てである。クリアしたのび太達は現実世界に戻れる。アインス達はゲーム世界に残る。
あとはこの凶悪に改造されたゲームを誰にもやらせることなく、通報して御用にさせればいいだけだ。
337: :2012/5/27(日) 12:49:52 ID:NeNQDk43GY
つまり、ゲームをクリアされてしまったアインス達の脱獄の機会は永久に閉ざされたということだ。

「あああああああああああああああああああ!!」

光を失った自らの人生を前に、アインスはもはや叫ぶことしかできなかった。
そんな時空犯罪者達は置いといて、のび太達にとって待望の瞬間が訪れた。
そう、エンディングのイベントが始まったのだ。
338: 今回はここまで:2012/5/27(日) 12:50:55 ID:NeNQDk43GY
「よく頑張りましたね、異世界の勇者達よ」

どこからともなく聞こえた女性の声を聞いた次の瞬間に、牢獄からジャイアン達の姿が消えた。
アインスが言っていた、ゲーム内のプレイヤーを強制的に集めるイベントである。
それによってのび太の仲間たちは牢屋から脱出し、いつの間にか王の間の床を踏み締めていた。
感動の再会……のはずだったが、囚われていた仲間と世界を救った勇者はお互いに困惑した表情を見せていた。
やがてのび太とジャイアンが、声を揃えて疑問を発した。

「「ドラえもんは?」」

そう、そこにはドラえもんの姿がなかったのだ。
339: :2012/5/27(日) 20:57:16 ID:NeNQDk43GY
「のび太、ドラえもんはどこにいるんだ?何でここにいないんだ?」
「そ……そんなのこっちの台詞だよ!何で皆とドラえもんは一緒じゃないんだ!?」
「こっちは俺が牢獄に来たのが最後で……ドラえもんと二人でクリアしたんだろ?」
「ドラえもんはやられたよ!僕は、僕はその瞬間を目撃してるんだぞ!」

両者の発言はただただ食い違うだけで、四人は状況が掴めないままだった。
特にのび太は、アインス達が何者で、上空の牢屋は何なのか等々、そこからわからない。
静香から説明を受けることで、ようやくのび太も恐るべき脱獄計画の全貌を知るところとなった。
340: :2012/5/27(日) 20:57:59 ID:NeNQDk43GY
すべてを知った上で、のび太はアインスに訊ねるため、上空に向かって叫んだ。

「答えろ!僕達の仲間が一人いないんだ!これは一体どういうことだ!?」

しかし律義な返答はこなかった。脱獄に失敗したというショックによって、アインスの心は壊れかけていた。

「あはははは!ひひひぃあははははは!!」

のび太の言葉などもはや届いてなかった。
もうあいつから情報は聞き出せない。そう判断したのび太は自分で原因を考え始めた。
そして、ある結論に至ったようだ。ハッとしたのび太の表情からそれを察知し、ジャイアンが訊ねた。

「わかったのか!?どういうことなんだ!?」
「まさか……そんな……」
341: :2012/5/27(日) 20:58:55 ID:NeNQDk43GY
以下はのび太の考察である。

22世紀。その時代の技術は発達しており、ロボットも格段なる進化を遂げていた。
人と同じように喋り、怒り、悲しみ、笑い、食し、泣き……人と同じようにロボットも感情を持って生きる時代である。
そんな時代の娯楽は人間だけのものではない。同じように心を宿すロボットもまた対象であると言えるだろう。
むろんこのゲームもそうだ。魂を移すゲームでありながら、何故ドラえもんは参加できたのか?……ロボットにも楽しめるようプログラムされてるからだろう。
おそらくは記憶データなどをゲーム内に移し、具現化するようなプログラムになっているのだろう。
そこまでは問題ない。ただ、問題なのはこれがアインスによって改造されたゲームであるということだ。
342: :2012/5/27(日) 21:00:12 ID:NeNQDk43GY
本来あるはずのセーブポイントからゲームを終える機能は潰されてる。
死亡した際に肉体に魂を戻すプログラムも潰されている。
代わりに追加されたのは、死亡したプレイヤーの魂を牢屋に移すものである。
そしてこれは、アインスが僅かな時間で仕上げた未完成のものだ。
そういった不完全なプログラムのせいで、ロボットの記憶データという人の魂とは違う物に反応できず、ドラえもんにはこのプログラムが作動しなかったのではないか。
そうだとして、じゃあドラえもんはどうなったのか?
具現化した記憶データが消えてる状態で、体に戻ることも牢屋に行くこともできなかった。そんな消えてる状態が続いてしまい……
本当に消滅してしまったのではないかと考えた。
そしてそれは、ドラえもんが本当に死んだことを意味する。
343: :2012/5/27(日) 21:00:59 ID:NeNQDk43GY
「嘘だ!」

自ら導きだした答えをのび太は受け入れられなかった。
仲間との再会を、ドラえもんとの再会を信じて疑わなかったからこそ、どうにかここまで頑張ってこれたのだ。
それなのに、その結末が永遠の別れというのだ。突きつけられた残酷な状況をのび太は受け入れるわけにはいかなかった。
しかし、この考えならば、今の状況に説明がついてしまう。
残りのメンバーもそれが真相だと考えていた。

「……のび太さん、ドラちゃんはもう……」
静香が諭すように言う。

「うるさい!僕は聞いたんだ!記憶の中の彼が心に呼び掛けるとかじゃない!戦いの中で、ドラえもんの声を僕は聞いたんだよ!」
彼が愛する静香の声でも、彼の怒りが静まることはなかった。
344: :2012/5/27(日) 21:02:04 ID:NeNQDk43GY
本当なら感動のエンディングなのだが、異常事態に見舞われた勇者一行はそれどころではない。
しかし、そんな勇者の都合は関係ないと、エンディングのイベントは順調に進んでいた。

どうやらこの世界には人の世を守る女神がいて、魔王の人間界侵略の際にこの魔王城に封じられてしまったようだ。
その女神様も、さきほど魔王を倒したおかげで復活を果たせたそうだ。
魔物を牛耳る魔王が消滅し、人を守る女神が復活した今、人間の世の平和は確たるものとなったらしい。

「この世界はあなた達のおかげで救われました。ありがとうございました」
「この世界はもう大丈夫です。私と人間で平和を守ってみせます」
「お礼をしたいところですが、私達とあなた方では本来住んでいる世界が違います。せめて異世界の勇者様方がお戻りになられるのを手伝いましょう」
「本当にありがとうございました。勇者様方の偉大なる勇気と知恵が、そちらの世界も平和に導くと信じて……」

順調にエンディングイベントをこなしていった女神は、台詞を言い切ってから光を放った。
四人はその光に包まれていき、そして……
345: :2012/5/27(日) 21:02:46 ID:NeNQDk43GY
「んっ」

のび太が目覚めると、そこは懐かしの我が家だった。
目の前のテレビはスタッフロールを流していた。

「……ああ、クリアしたんだ」

カレンダーの日付を確認すると、ゲームを始めたあの日のままだ。時間を確認すると夕暮時くらいになっていた。

(ドラえもん、言ってたもんな……現実世界とゲーム世界じゃ時間の感じ方が違うって)
(僕達の何百時間という冒険は、現実では数時間のものでしかなかったんだな……)

そのようなことを考えて、彼は気付いた。

「ドラえもんは!?」
346: :2012/5/27(日) 21:03:39 ID:NeNQDk43GY
仲間たちの魂は、のび太と同様に戻っていた。
彼と同じよう目覚めて、戻ってきた現状を把握しようとしている。
だが、青いロボットに関しては、目を閉じたまま微動だにしなかった。

「どらえもん!」

叫びながらのび太は青いロボットに駆け寄った。

「ドラえもん!起きてよ!僕達、戻ってこれたんだよ!ねえ、冗談はやめてよ!戻ってるんだろ!?返事をしてよ!」

必死に呼びかけるのび太だったが、青いロボットは命も感情も宿さないただの鉄と化していた。
347: :2012/5/27(日) 21:04:37 ID:NeNQDk43GY
「ドラえもん!僕頑張ったんだよ!ドラえもんが生かしてくれたから、頑張れたんだよ!」
「ドラえもんが残してくれたアイテムのおかげでクリアすることができたんだよ!」
「僕は君に感謝もしたいし謝罪もしたいんだ!」
「ドラえもんが信じてくれたから僕は変われたんだ!ドラえもんの言葉を信じなかった今までを謝りたいんだ!」
「生きてる君に今の僕を伝えたいんだ!だから……目を開けてよ!」
「ねえ!僕……僕、いい子になるから!自分の、自分の力で変わっていくからぁ!」
「勉強だってちゃんとやる!浮き輪も使わず泳げるようになる!自転車だって乗れるようになる!」
「僕はこれから自分の力で頑張るからぁ!お願いだから……目を開けてよ!開けてくれよぉ!!ドラえもん……!!」

のび太の言葉と四つに重なる泣き声が響くだけで、その場にドラえもんの声が生まれることはなかった。
その日、のび太達と共に数々の冒険を切り抜けてきた猫型ロボット・ドラえもんは、現実世界から消えたのだった。
348: :2012/5/27(日) 21:05:36 ID:NeNQDk43GY
その日は大変だった。
夕暮時でも帰ろうとしない友達に、泣き声の四重奏を聞いて、心配になったのび太の母親・玉子が二階に駆け付けた。
彼女は現状を把握できなかったが、ただならぬ雰囲気だけは察して、必死に息子とその友達をなだめた。
その甲斐あってか、だいぶ落ち着きを取り戻したのび太は、ゲームの細かい説明は抜きにして次のように母に説明した。
ドラえもんは、もう二度と直ることのない故障をしてしまった、と。
349: :2012/5/27(日) 21:06:22 ID:NeNQDk43GY
しばらくしてのび太は、友達と母親を置いてタイムマシンに乗って未来へと発った。
操縦は簡単なので、のび太でも問題ない。程なくして未来に辿り着いた。
そしてのび太は、自分の子孫であるセワシと、ドラえもんの妹にあたるロボットであるドラミを頼ったのである。
事の次第を説明すると、兄の危機的状況を知ったドラミはすぐに過去へと行ってしまった。
セワシの方はドラミより冷静で、脱獄犯の入ったゲームをどうにかしてもらうべく、タイムパトロールに通報してからのび太の時代に向かったのだった。

セワシとタイムパトロールを連れて現代に戻ると、動かなくなった兄を前にして涙する妹の姿があった。
タイムパトロールはアインス達の入ったゲームを直ちに確保した。そしてのび太は、セワシに親友の亡きがらを渡すことにした。
350: :2012/5/27(日) 21:07:55 ID:NeNQDk43GY
「ごめん、セワシくん。僕の力が及ばなくてドラえもんを死なせちゃったよ……」
「ううん、気にしないで、おじいさん。悪いのはその脱獄犯で、おじいさんは悪くないよ」
「ドラミちゃんもごめん……」

のび太の謝罪は聞こえていたが、ドラミはこの時涙を零すばかりで、その言葉に応じることができなかった。
のび太もそれを察し、それ以上は言葉をかけないと決めた。そこにセワシがこんな提案をしてきた。

「おじいさん。言い方は悪いけど……ドラえもんはロボットだ。新品の記憶データを用意すれば、動くには動くけど……」
「……いいよ。新しい記憶データだったら、それはドラえもんと同型のロボットにすぎないよ。僕からすればそれはドラえもんじゃない」

記憶も何もかも全て消去された新たな出会いをのび太は拒絶した。
今の彼は、自分を助けてくれるロボットが欲しいんじゃなくて、自分の親友に戻ってきてほしいと思っている。
そしてそれが不可能だと知っていたので、もう何かを望むこともしなかった。
351: :2012/5/27(日) 21:09:25 ID:NeNQDk43GY
タイムパトロールは、脱獄犯をゲーム機ごと再逮捕して未来へと戻ることになった。
帰り際に、脱獄を許した自分達の不手際のせいで犠牲者を出してしまったことをのび太達に謝罪した。
それをのび太は受け入れる。最も悪くて、責められるべき人物は彼らではない。今ののび太はそれを理解している。

タイムパトロールが戻ったのを見届けて、セワシも未来へ帰ることにした。一人のロボットと一体の鉄の塊を連れて。
鉄の塊となった親友をのび太は最後まで見届けた。最早ただの鉄だとしても、それの形はのび太にとって大切な姿だ。可能な限り、その目に焼き付けておきたかった。
やがてセワシ達は時空の歪みの中に消えていった。あまりにあっけなくて、あまりに悲しい永遠の別れだった。

全てが終わり、ようやく落ち着いてきた仲間達は、自分たちの帰る場所へと戻っていった。
こうしてのび太達の悪夢のような冒険は完全に終わりを告げた。
親友との永遠の別れという、残酷な結末を経て……。
352: :2012/5/27(日) 21:10:34 ID:NeNQDk43GY
翌日は学校の日だ。その日の朝、野比家には自ら早起きするのび太の姿があった。
あのゲームを経て、のび太は決心したのだ。自分を変えていくために努力していくと。
まずは生活から自分を高めていこうという表れがこの早起きだった。
そんなのび太を見ていて両親は心配していた。

「のびちゃん……昨日、あんなことがあって辛いでしょ?今日くらいは無理しなくても……学校休んだっていいのよ?」

熱心な教育ママである玉子ですら、このようなことを言うのだ。
のび太にとってドラえもんを失うということが、どれほどの絶望なのかを両親は理解していた。
しかし、のび太はその提案を払いのけた。
353: :2012/5/27(日) 21:11:33 ID:NeNQDk43GY
「……ドラえもんは機械だからね。こう考えるのはおかしいかもしれないけど……」
「天国だとか、そういう僕からは見えないようなところで、ドラえもんは見守っててくれてると思うんだ」
「ドラえもんはね、僕が努力さえすればちゃんとできるってことを前から見抜いてたんだ」
「そして、そういう僕をドラえもんは待ち焦がれてたと思う」
「一緒の空間でその姿を見せてあげられないのは残念だけど……」
「せめて、遠いどこかから見守ってくれてるドラえもんに、今の僕を、これからの僕を届けていきたいんだ」
「だから毎日を無駄にはできないよ。……悲しむのは、昨日でおしまい!」
「ドラえもんのために、そして自分のこれからのために、前向きに頑張っていくんだ!」

その発言は、確かな成長を感じさせるものだった。
両親は我が息子の突然の変化に戸惑うしかなかったが、それは何百時間ものゲーム内冒険がのび太に与えた経験値の表れだった。
354: :2012/5/27(日) 21:14:12 ID:NeNQDk43GY
十分に学校に間に合う余裕ある時間の中で、のび太は家を発った。
どこか清々しい気分だった。気持ちの上では生まれ変わった結果、世界の映し方をも変えてしまったのだろうか。
きっと今日から人生の第二章が始まったのだ。小学生ながらにのび太はそう結論付けた。

「今まで散々さぼってきたからなあ。勉強に運動に……忙しくなるぞぉ!」

必要以上の声を張り上げて、のび太は駆けだした。
根拠はないけども、自らがこれから進む道は希望で満ちてるような、そんな気がしていたのだった。
355: :2012/5/28(月) 00:48:58 ID:NeNQDk43GY
「お兄ちゃんはきっと死んでない!」

のび太の時代より遙かなる未来、22世紀でのドラミの発言だ。

「……ドラミちゃん、信じたくない気持はわかるけど、現実逃避したって……」

呆れ気味に諭そうとしているのはセワシだ。

「おじいさんから聞いただろ?ゲーム内のプレイヤーが集まるイベントでドラえもんは現れなかった。つまりそれは、ドラえもんのデータは消滅したってことだよ」
「……あの時はそう聞いて納得したけど、私あれから考えてみたの!違う可能性もあるんじゃないかって!」

知識面で信頼を寄せているドラミが示した可能性とやらに、セワシは反応した。
聞くだけなら何も問題ないとして、セワシはそれを聞き入れる姿勢を示した。それを受けて、ドラミは考えを喋り出したのだった。
356: :2012/5/28(月) 00:51:01 ID:NeNQDk43GY
プレイヤーが集まるイベントで、ドラえもんは現れなかった。
あの時のゲームプレイで、プレイヤーとして参加していたのはのび太達五人だ。
どういう形であれ、のび太達の魂がゲーム世界に存在していれば、例のイベントで集結するわけだ。
なのに、ドラえもんは魂の牢獄にも現れず、イベントでも現れなかった。つまり、ドラえもんは存在してなかったわけである。

「だからそう言ってるじゃないか。全てのプログラムに弾かれて行き場を失った記憶データは消滅してしまって……」
「もし……消滅してなかったとしたら?」
「……え?」
357: :2012/5/28(月) 00:52:10 ID:NeNQDk43GY
先人たちの努力によって、22世紀の魂を移すゲームは確かな安全を保障されたものとなった。
顧客の命を扱うのだから、安全面で努力をするのは当然と言えば当然である。
そんな安全を目指す中で、バグか何かで魂や記憶データがプログラムから弾かれて放置された場合に、安易にそれを削除するように設定されてるだろうか。
もしかしたら、ドラえもんはゲームの中でまだ生きてるのではないか。ドラミはそのように考えたのだった。

「ゲーム中の……マップでもアイテムでも何でもいいわ。作品の空き容量などに収納されて助かってる……そういう風には考えられない?」
「で、でも……助かってるなら何で最後のイベントで集まらなかったんだよ?」
「いい?お兄ちゃんは空き容量に収納されてゲームの一部となってデータ消滅を免れたの。その場合「プレイヤー」の魂を集めるイベントには反応しないわ」
「……なるほど、プレイヤーとしては存在してなくて、ゲームの一部になってたってことか。でも、そう考えられる根拠はあるのかい?」
「何言ってるの!根拠のない考えは死亡説も一緒でしょ!その時はそれしか考えられなかったってだけで!」
358: :2012/5/28(月) 00:53:20 ID:NeNQDk43GY
言われてみればそうである。
ドラえもんの記憶データがゲーム内で消滅してしまったという明確な証拠はない。その時はそれしか考えられず、そうだと決めつけたに過ぎない。

「どちらにせよ、調査不足だと思わない?お兄ちゃんの安否を確認するために、私達が動くしかないと思うの!」
「動くったって……どうするつもりだよ?」
「真実を焙り出すにはいつの時代も現場を調べるに限るでしょ!」
「現場って、まさか……」
「私達もゲーム内に行こう!お兄ちゃんを見つけ出すの!」

そう言い切って、ドラミは脱獄犯達の入ってるゲームを求めてタイムパトロールを訪ねるために出発したのだった。
その大胆な行動を放ってはおけないと、セワシもドラミを追って家を後にした。
359: :2012/5/28(月) 00:54:30 ID:NeNQDk43GY
かくして二人はタイムパトロール本部に辿り着いた。
面会ですか、等と訊かれたが、ある意味では面会のようなものだ。

「……私はゲームで脱獄を図った犯人達の被害者であるロボットの妹です」

立場を説明すると、タイムパトロールは犠牲者を出してしまったことを謝罪してきた。
ドラミはそれを受け取ってから、ゲームに関するその後を訊ねてみた。

「ゲーム内に残ってる犯人達はどうなったんですか?」
「今もそのまま残ってるよ。脱走当時は死亡したと判断して体を処理してしまった……彼らはもう現実には戻れないよ」
360: :2012/5/28(月) 00:55:36 ID:NeNQDk43GY
「彼らの寿命があと40年くらいだとしたら……ゲーム世界の時間の感覚だと2000年くらいまで魂が朽ちることはない。自業自得とはいえ、少しかわいそうに思うよ」
「2000年……ですか」
「彼らは終身刑の身だったんだが……寝ることも食べることも許されないゲーム世界で、さすがにそれは酷かと思って……ゲームソフトを破壊する形で死刑にしようかと思ってる」
「は、破壊!?ちょっと待ってください!」

ドラミの慌てようを不審がったタイムパトロール。その隙を突くように、ドラミは本題に入った。
そう、兄がまだ生きてるかもしれないという可能性があり、それに関する調査をしたいという旨を伝えたのだ。

「……なるほど。確かに調査不足なのは否めないな」
「お願いです!大切なお兄ちゃんの命がかかってるんです!是非とも調査させてください!」
361: :2012/5/28(月) 00:56:22 ID:NeNQDk43GY
言い切って、ドラミは頭を下げた。
ここまでだんまりを決め込んでいた、同席しているセワシも同様に頭を下げた。
気持ちとしてはドラミと同じだ。可能性が僅かでも存在するなら、それにかけてみたかった。
それに対して、タイムパトロールはどのように反応したのか。

「……わかった。調査しよう。我々としても、救えるかもしれない命があるなら、全力を注ぐ所存だ」

その発言によって顔を上げた二人の表情は希望色に染まっていた。
もう二度と叶わないと思っていたドラえもんとの再会に大きく前進し、内心喜びを隠せない状態にあった。
362: :2012/5/28(月) 00:57:10 ID:NeNQDk43GY
「……ただし」

タイムパトロールは、調査に当たって以下の条件を出した。

まず、タイムパトロール側で技術者を用意し、プログラム等を外部からチェックして異変を探すという。
ドラミの言うとおり、空き容量などに紛れこんでいるのなら、プログラムの合間に何かしらの異変があってもおかしくない。
それをプログラミング言語の群れから探してみようというのだ。

それでも駄目な場合は、直接ゲーム内に入って探してみるという。
ただ、今もなおこのゲームはアインス達によって改悪された状態である。
なので、ゲーム内調査をする場合、ゲーム内容にまた手を出して、調査に適したものにしなければならない。
具体的に言えば、セーブポイントからのゲーム終了機能を蘇らせるのだ。
363: :2012/5/28(月) 00:58:20 ID:NeNQDk43GY
ついでに、敵のステータスなども全て最弱にし、スムーズな調査が可能になるよう工夫するという。

「これらを行う場合、我々の技術ではけっこうな時間を要するだろう。それ故、結果を伝えるのは数日後になると思うが、了承してもらえるか?」

その提案に、ドラミは黙って頷く。
それを確認して、タイムパトロールは更にこう続けた。

「あと、君も調査に加わりたいようだが、それは駄目だ。調査は我々だけで行う」

自らゲーム内に赴き、兄を救出するつもりでいたドラミにしっかりと釘を刺しておいたのだ。
攻略しやすい環境に変えるとは言え、危険が伴うことには変わりない。それを考えると、一般人を巻き込まないようにするこの判断は妥当と言えるだろう。
しかし、それでもドラミは諦めることが出来なかった。自らの手で、兄に降りかかったゲームの呪縛から救いたいと願っていた。
364: :2012/5/28(月) 00:59:18 ID:NeNQDk43GY
始めは提案した方針を折るまいと必死に拒絶していたタイムパトロールだったが、最終的にはドラミの熱意に負け、調査の参加を許可したのだった。

「……しょうがないな。でも、単独調査は絶対に許さないからね。我々と同伴し、無理そうだったらセーブポイントから脱出すること。いいね?」
「っ!は、はい!ありがとうございます!」

こうしてドラミ達はドラえもんを求めてのゲーム内への旅立ちが決まった。
まだドラえもんが生きていると決まったわけでもないし、技術者による外部からの調査で全てが片付く可能性も現段階ではあるのだが。
しかし、ドラミは自分が行動することで、兄を救えると心から信じているのだった。
365: :2012/5/28(月) 00:59:57 ID:NeNQDk43GY
結論から言えば、ドラミ達のゲーム内冒険は確定的になった。
タイムパトロール本部を訪ねてから数日、セワシ宅にゲーム内調査を行うという旨の連絡が来たのである。
技術者を集めた上で、ゲーム内からではなくゲーム外から調査したところ、特に異変を発見することはなかったという。

「じゃあゲーム内を探せばお兄ちゃんは見つかるのね!」
「ドラミちゃん、消滅しているという可能性もあるよ。希望を持ちすぎるのも危ないかもしれないよ」

セワシが言った通り、今のところ両方の可能性が残されている。
とはいえ、調べないことにはどちらが正解なのかわからないのも事実だ。真相を確かな物にすべく、ドラミ達は本部に行くことにした。
366: :2012/5/28(月) 01:01:00 ID:NeNQDk43GY
本部に着くと、既にゲームはセッティングされていた。
あとはコントローラーを握って、ゲームを始めるだけだ。

「まずは私が始めるから、君たちは私に続く形でゲームを開始してくれ」

そう指示してきたタイムパトロールの手には攻略本が握られている。
プレイヤーの身につけてる物も具現化されるシステムを利用して、スムーズな調査に役立てようというのだろう。
指示してから程なくして、そのタイムパトロールは抜け殻と化した。

「ドラミちゃん、僕達も行こう!」

続いてセワシがコントローラーを握り、同様に魂をゲーム内に移した。
魂を失った男性二人の体を見て、ドラミは兄の今を思い出した。
それ故、恐怖に支配されたが、それも一瞬のこと。兄を救うために勇気を奮い、コントローラーを持ってゲーム世界へと出発した。
367: :2012/5/28(月) 01:01:47 ID:NeNQDk43GY
気がつくと、ドラミの目の前には草原が広がっていた。
ゲーム世界に移ったのだと、彼女は一瞬で理解した。
ただ、不可解な点もあって、それに関して訊ねずにはいられなかった。

「あの、私の……私達の体が青白く光ってるんですけど」

そう、集いし三人の体から不自然に光が発せられているのだ。

「それも我々が施した改造のひとつだ」

どうやらこの現象はタイムパトロールが意図して起こしているらしい。
目的を理解できずにいるドラミとセワシ両名に理解してもらうべく、彼はこれの説明を開始した。
368: :2012/5/28(月) 01:03:24 ID:NeNQDk43GY
ドラミの推理では、ドラえもんはゲームの一部と化して生き残っている。
それが事実なら、マップ上にその姿を現すことはなく、見つけ出すのは困難だと思われる。

「そこで、この光が役立つんだ。これは魂や記憶データに反応して光を発するというプログラムだ」
「……そうか!それならマップやアイテムと同化してても、光でドラえもんがいるかどうかがわかる!」

セワシの解釈通り、これはドラえもんを発見するための改造結果だった。
技術者の協力の下、ゲーム終了機能の復活や敵の弱体化に加え、魂・記憶データから発光する機能を搭載させていたのだ。

「これらを施すのに数日かかったよ。……脱走の僅かな時間で改造を済ましたあいつはやはり天才だった。道さえ誤らなければな……」

そう言ったタイムパトロールの表情からは、相当な無念が容易に見て取れた。
369: :2012/5/28(月) 01:04:20 ID:NeNQDk43GY
その話を聞いて、やはりゲームのプログラミングって難しいんだなあ、と気楽にドラミはそう思っていた。
そう考えた流れの中で、同時に疑問も生まれた。それを素直にタイムパトロールにぶつける。

「そんなに難しい物なんですか。それって、仮にお兄ちゃんを見つけても、現実のお兄ちゃんの体に戻せるんですか?」
「プレイヤーでなくなってるのは確かだから難しいかもしれないけど……どこにいるかさえわかれば、時間をかければ助け出せるだろう」

それを聞けたら一安心である。つまり、見つけ出しさえすれば、ドラえもんの復活は確定するのだ。
あとはドラミ説が真実であることを祈って、ゲームの隅から隅まで探すだけである。

「よーし……待っててね、お兄ちゃん!絶対現実に戻してみせるから!」
370: :2012/5/28(月) 01:05:08 ID:NeNQDk43GY
ドラミの威勢のよい宣言を以て本格的なゲーム内調査を開始した一行。
だが、何時間、何十時間とかけて調査しても、無情にも青白い光を見つけ出すことはできなかった。
現実では数十分の出来事だが、ゲーム内の彼女達は食事・睡眠を取らぬまま一日中調査してる感覚である。
特にこういった調査に慣れていないドラミとセワシの二人は、精神的にだいぶ参っていた。

「……のび太さん、よくこんな環境でクリアまで頑張ったわね」
「そうだね。僕だったら途中で参っちゃうよ。おじいさん、すごいなあ……」

雑談を交えてどうにか乗り切ろうとし、弱体化した雑魚敵効果でさくさくシナリオを進めていた。
371: :2012/5/28(月) 01:06:15 ID:NeNQDk43GY
しかし一向に見つかる気配はなく、とうとう火山の大陸をクリアするところまで来てしまった。
ここはドラえもんがやられた場所である。それをのび太から聞いていた一同は、ここがドラえもんの眠る最有力地と踏んでいた。
だが、結果は今までと同じだった。火山の大陸のどこにも青白い光は存在しなかった。
一同の表情に暗さが宿る。条件的にここしか考えられなかったので、諦めの感情が芽生えたのだ。

「……ここにもいない。プログラミングにも異常が見られない。……悪いがこれは消滅したと結論付けていいだろう」

タイムパトロールがそう切り出した。答えはしなかったがセワシもそれに同意していた。
ただ、一人だけ諦めていなかった。言うまでもなくドラミのことである。
372: :2012/5/28(月) 01:06:51 ID:NeNQDk43GY
「待ってください!まだ隅々まで探したわじゃ……」
「被害者の一人である少年の証言では、ロボットはここでやられたんだ。ここしか考えられないし、ここにいないならもう消滅しか考えられない」

タイムパトロールの反論を受けて、ドラミは考え込んだ。
ここしか考えられない。消滅しか考えられない。……本当にそうだろうか。
可能性を広げるために、ドラミはのび太の証言を必死に思い出していた。
373: :2012/5/28(月) 01:07:41 ID:NeNQDk43GY
(お兄ちゃんはここでやられた。それは間違いない)
(だけどここにはいない。……マップに同化したわけじゃないのかも)
(だったらアイテム?でも、どのアイテムに?)
(……そういえば、のび太さん、こんなこと言ってたな)
(魔王戦で確かにお兄ちゃんの声を聞いたって)
(隣の部屋にいた皆の声も届かなかったのに、お兄ちゃんの声をハッキリと聞いたんだよね)
(……つまり、隣の皆より近くにいたから?)
(お兄ちゃんがやられた時に、お兄ちゃんに一番近かったアイテム……)
(のび太さんが魔王と戦ってたときに、のび太さんに一番近かったアイテム……)

しばらく考え込んだ後、ハッとした表情を見せながらドラミはこう叫んだ。

「……魔封じのアミュレット!」
374: :2012/5/28(月) 01:08:45 ID:NeNQDk43GY
……ドラえもんがいなくなってから2週間ほど経過した。
今日はテストが返ってきたんだけど、驚くなかれ、75点だった。
以前の僕とは大違いだ。しかもまぐれで取ったんじゃない。勉強して、内容を理解した上で75点を取ったんだ。
水泳に関しては季節を待つしかないとして、自転車とか他のスポーツ等も挑戦してて、緩やかに成長中である。
やっぱり努力次第で人は変われる。必ず頂点を掴めるわけじゃなくても、自分なりの成功は必ず掴めるんだと思う。
それもこれも努力を覚えた成果だ。命と引き換えに僕に教えてくれたドラえもんには感謝するしかない。
……今の僕を直接見せてあげたかったな。叶わぬ想いだとわかっていても、やはり後悔は消えない。
まあでも悔やんで進むのをやめたくはない。僕のためにも、ドラえもんのためにも、努力して成長していくと決めたのだから。
とにかく、今はママへの報告を目指そう。褒めてくれるかな?それともまだ甘いとか言われるのかな?
375: :2012/5/28(月) 01:09:32 ID:NeNQDk43GY
とにもかくにも家に着かねば始まらない。
学校が終わってからひたすらに歩き続けた僕は、自らを自宅の前まで運んだ。
玄関にさっさと移って、そのドアノブを捻った。

「ただいまー!」



「のび太くん!!」



ドラえもん のび太の電脳大戦記
おしまい
376: 後書き的な感じ:2012/5/28(月) 01:11:04 ID:NeNQDk43GY
というわけでおしまいです。
名前の通りなんですけど、今から後書きみたいなの書いていきます。
あ、そういうのどうでもいいですっていう方は、名前が1に戻るまでスルーしてください。

とりあえず、まずは完結出来てよかったです。
スレ立て時点で8〜9割くらいの書き溜めが完了してたので、大丈夫だろうとは思ってましたが。
とりあえずスレ立てから今日まで毎日更新できて、そこは満足でした。
とにかく、自分の中でこれを完結させなきゃいけない理由があったので、今この瞬間を迎えて、そこは安心しております。
377: 後書き的な感じ:2012/5/28(月) 01:12:09 ID:NeNQDk43GY
俺、一応「自分が楽しむために書いてる」って書きましたけど。
いろいろあって、今となってはこのスタンスで書いていこうと決意してるんですけども。
さすがに今回はやばいなと反省しております。
どういうことか説明しますと、レス少なすぎじゃね?ってことです。
人気のあるスレは支援が、そうでないスレは批判や中傷がけっこうあるってイメージなんですけども。
その両方がこのスレにはあまりにもないんじゃないかと思いまして。
話題にあがることもないので、このスレは多くの方々にとって本当にどうでもいいって立ち位置なんだというのをひしひし感じて心折れましたwww
本当に自分だけ楽しみたいだけならそもそもここに投稿する必要がないし、優先順位として負けてるだけで読者方の満足にも一応気をつけたい気持ちはあります。
それでこの状態なので、けっこう罪悪感あります。本来謝る必要のないことですけど、謝りたいっていう俺の自己満足のためにも謝ります。すみませんでした。
……まあでも結局自分の書きたいを今後も優先していきますけどね。支離滅裂ですねwww
378: 後書き的な感じ:2012/5/28(月) 01:13:24 ID:NeNQDk43GY
あんまり自虐に走ると、もし好意的に見てくれてる方がいましたら、その人に迷惑なので次のステップに行きます。
レス少ないと書きましたけど、少ないってことは書いてくれてる人も確かにいるってことで、その方々には大変感謝しております。
少ないと全部紹介できるんで、そこは良かったって言える要素ですねwww
>>102>>130>>135>>256の方々、レスしてくださって本当にありがとうございました。途中で心が折れるのを阻止できたのはあなた方のおかげですwww
どれだけいるかわかりませんが、ここまで読んでくれた方々にもお礼が言いたいです。書いてるからこそ楽しかったけど、俺が読む側ならスルーする内容なので尚更感謝しますwww
とにかく、このスレに関わってくれた人、向き合ってくれた人に感謝したいです。ありがとうございました!
これって後書きなのかなって書いてて思いましたけど、実は謝りたかっただけなので、これでいいことにしてくださいwww
379: :2012/5/28(月) 01:14:20 ID:NeNQDk43GY
後書き中に感謝の意は述べましたけど、スルーした人用にもう一度。
ここまで読んでくれた皆様方に、ありがとうございました。
レスしてくれた>>102>>130>>135>>256の方々に、ありがとうございました。
最後までお付き合いしてくださって、本当にありがとうございました!
終わります!
380: 名無しさん@読者の声:2012/5/28(月) 01:23:28 ID:HdlmA75v5Y
いや申し訳ない
今ある小説では一番楽しみだった。
毎日更新してくださるし、一気に読めたので、レスしたら支障が出るんじゃないかと思った。
そして乙!
381: 130のものです。:2012/5/28(月) 07:18:57 ID:4c43ZsuP02
まずはお疲れ様でした。楽しみに更新を待ってたのですが、支援は作者様のプレッシャーになりうるかと遠慮がちになるものかと。
次回作も楽しみにしています

長文失礼
382: 名無しさん@読者の声:2012/5/28(月) 11:50:00 ID:Wl0IamGCHw
欠かさず見てました
完結おめでとうございます、してお疲れさまです!
ドキドキハラハラ、ウルッとしたり、楽しかったです。次回作も楽しみに待ってますね((´ω`*´ω`))
383: :2012/5/28(月) 21:28:38 ID:NeNQDk43GY
あー、けっこう見てくださってる方いたんですねえ。
なんていうか、それだけでもわかってホッとしました。アイフルのCMのバナナマン日村よりホッとしてます。たぶん。

>>380
そういう言葉が聞けて感無量です。あーもう本当不人気なんだなあって思ってて軽くへこんでたので、救われました。涙でそうwww
あと、無駄に謝らせてしまって悪いと思ってます。でも、こっちもこっちで謝罪したかったんで、どうしても後書きは書きたかったんです。ご容赦くださいwww

>>381
個人的には「自分が楽しむことを優先する」と公言してる手前、そこまでプレッシャーにならないって感覚です。作風に関して否定や要望や命令があっても、嫌なら普通に断りますし。
それどころか、読者方に返レスするの好きだったりするんで、支援も批判もけっこう気軽に書いてもらって構わないって感覚ですね。中身のないただの中傷はNGですけども。
とはいえ、レスなかったのは配慮してくださった結果だったんですね、ありがとうございます。ちょっとその辺察することができませんでしたwww

>>382
ありがとうございます。そう言ってもらえて、毎日欠かさず更新してよかったです。
>>381さんへの返事にもなりますが、次回作は幼稚なギャグになると思います。俺も書いてて「くだらねえww」ってなるような、そんな感じです。
とにかくこのSSとは真反対の内容になるので、同じ感覚で読み始めると面食らうかもしれません。それでよければ、次回もよろしくお願い致します。

できればID変わらないうちにスレ立てたいですねー。
384: 名無しさん@読者の声:2012/5/29(火) 20:24:25 ID:GB2l8BsnBs
普通に泣いた
385: :2012/5/30(水) 23:51:19 ID:Zm658tqylc
>>384
俺はそう言ってもらえて泣いた。
ありがとうございます。たぶんですけどID的に前作からお世話になってる方だと思うんですよ。
前にレスもらってるのもそうですし、今回好意的な感想ももらえて、本当に僕満足って感じです。
前作も合わせて、ここまでお付き合いくださってありがとうございます。細かくレスくれて、本当元気出てました。

これで、携帯で偶然ID被ってるだけで別人だったとしたら、どうしましょうwww
まあその時はその時ってことで、スルーしてくださいwww
386: 名無しさん@読者の声:2012/5/31(木) 00:47:36 ID:GB2l8BsnBs
別人じゃないです
感動をありがとう
387: :2012/5/31(木) 01:53:42 ID:Zm658tqylc
>>386
本人ですか。まあそうですよねwww
ここまで極端にID被るケースなんて俺一回しか知らないですし、そうそう起こるもんじゃないですから、そりゃまあそうですよねwww
まあでも一応同一人物じゃなかった時の保険かけておいてのあの文章ですwww

真面目な話をすると、レスたくさんくれて精神的に助かりました。
見てくれてる人がいるのがわかるのって、けっこう安心できるんですよね。
自分優先で書いてると言ってますから読者さん側の批判も仕方ないと思ってますが、友好的でも敵対的でもレスもらえると安心できます。
次回は感動のかの字もないくだらないスレ立てる予定ですし、そもそもどんなスレでも強制させるは気はありませんけれども。
あなたさえよければ、また次回もお付き合いください。
388: 名無しさん@読者の声:2012/5/31(木) 01:56:22 ID:GB2l8BsnBs
ええ、一番に行かせて頂きますともww
389: 真・スレッドストッパー:停止
停止しますた。ニヤリ・・・( ̄ー ̄)
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