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ドラえもん のび太の電脳大戦記
[8] -25 -50 

1: :2012/5/2(水) 22:55:37 ID:NeNQDk43GY
ドラえもんのSSを書いていきます。
映画風なタイトルですけど、一つ問題があるとすると、俺映画のドラえもんは見たことないです。
なので、本当に映画っぽくするとかそういう作風ではないはずです。お気を付け下さい。
それでも良いという方は、最後まで頑張るつもりなので、何卒よろしくお願い致します。


2: :2012/5/2(水) 22:56:30 ID:NeNQDk43GY
時は22世紀。終身刑を言い渡された5人の時空犯罪者が脱獄をした。

「はあ……はあ……ほ、本当にうまくいくんだろうな?」

大柄な男は、その巨体を揺らしながら小柄な男に問いかけた。

「ああ、間違いない。1日程度時間を稼げれば……俺達は自由の身だ」

小柄な男はそう答え、空きビルへと姿を消していく。残りの4人もそれに続き、巨大な箱に自らを隠した。
それは追手を振り払うための手段であり、事実、5人を追っていたタイムパトロールは彼らを見失ってしまった。
3: :2012/5/2(水) 22:57:09 ID:NeNQDk43GY
「くそ、見失った!」
「まだ近くにいるはずだ!いいか、絶対に逃すんじゃないぞ!」

そんなやり取りの後、タイムパトロール達は街中に散らばっていった。……秘密道具使えばすぐ見つかるんじゃねーの?ってツッコミは御遠慮願いたい。
何はともあれ、一時的に追手をやり過ごした時空犯罪者達。しかしこのままでは再逮捕も時間の問題なのは誰の目からも明らかである。

「本当に大丈夫なの?私、ちょっと怖いんだけど」

薄汚れたビルの一室で、埃を払って腰掛けながら、5人の中の唯一の女が再確認を行う。
それに対して小柄な男は再度答える。

「大丈夫だ。間違いなく成功するはずだ……」
4: :2012/5/2(水) 22:57:51 ID:NeNQDk43GY
答えてから小柄な男はノッポな男にある物を調達するよう指示した。
彼らはたった今脱獄してきた身である。当然、金銭の類は持ち合わせていない。
となれば、調達方法は強奪しかないのである。それも、タイムパトロールがうろつく街中でやらなくてはならない。
当然ノッポな男は拒否したが、彼に拒否権はないようで、しぶしぶ調達に向かったのだった。

「はあ……はあ……と、取ってきたよ」

時空犯罪者達にとっては永遠とも思える長い時間、静寂。それらを打ち破ってノッポな男は戻ってきた。
その手には、小柄な男が指示した物があった。それを確認し、小柄な男の口角が上がる。

「よくやった。これで……これで全てうまくいくはずだ」
5: :2012/5/2(水) 22:58:29 ID:NeNQDk43GY
小柄な男が、調達してきたそれに向かって何か作業を始めてから数時間が経過した。
小柄な男の脱獄計画は順調に進んでいた。しかし、いつの世も悪事はなかなかうまくいかないもので……

「やばいぞ!ここがパトロール共に見つかった!」

計算外の事態を知らせたのは5人の中の1人、猫背の男の言葉だった。
その発言とほぼ同時にタイムパトロールがビル内になだれ込む。

「ここにいたぞ!」
「1人も逃がすな!」

計算ではもう少し時間が取れるはずだったが、この計算の狂いは想定外で、小柄な男の作業も途中だった。
6: :2012/5/2(水) 22:59:06 ID:NeNQDk43GY
「まずいな。まだ完成してないんだが……」
「ど、どうするのよ!?あんたがうまくいくって言うから脱獄に付き合ったのに!」

弱気な発言に女は思わず努号を浴びせた。それに臆する様子のない小柄な男は、冷静に残り4人にこう告げた。

「未完成なのは確かだ。不完全ではあるが……しかし脱獄には問題ないだろう。計画を実行するぞ」

そしてノッポを除く3人に、調達した物に近づくよう指示した。
7: :2012/5/2(水) 22:59:38 ID:NeNQDk43GY
「未完成」「不完全」という言葉に恐怖を覚えたのか、女はその指示に従おうとはしなかった。
しかし、
「時間がない!刑務所に戻りたいのなら勝手にしろ!」
と、小柄な男に言われ、しぶしぶ指示に従ったのだった。
こうして調達した物を取り囲んだ4人。それを確認して小柄な男はそれを起動する。
それと同時にタイムパトロールが部屋に飛び込んだ。

「もう逃げられないぞ!」

そう叫びながら銃口を時空犯罪者達に向けた。
8: :2012/5/2(水) 23:00:13 ID:NeNQDk43GY
突入したタイムパトロールが目にしたのは、バタバタと倒れる4人の姿だった。
その手にある銃を時空犯罪者に発射したわけではない。勝手に倒れてしまったのだ。
それに動揺したタイムパトロールは、調達した物を持って走るノッポをまたも逃してしまった。

「くそ、俺は奴を追う!お前はそこの4人を頼む!」
「あ、ああ。頼む!」

逃げたノッポを残りの仲間に託し、空きビルに残されたタイムパトロールは倒れた4人の安否を確認。その結果、絶句する他なかった。

「……う、嘘だろ?」

4人は既に事切れていたのだ。
9: 今日はここまで:2012/5/2(水) 23:01:14 ID:NeNQDk43GY
一方、唯一逃亡を図ったノッポもまた、謎の死を遂げた。何故かデパートに逃げ込んだノッポは、ホビーコーナーの一画で亡き者となっていた。
何人かのタイムパトロールが、彼が逃亡の際に何かを持っていたのを確認していた。しかし、彼の死体からはそれが見つからなかった。
何か重要な物である可能性も考慮し、死体収集を終えた後、近辺の捜索を行ったが、結局それらしい物は見つからなかった。
当の5人も死亡しているし、もう真相を知る術はないと判断、タイムパトロールは捜査を切り上げたのだった。

こうして時空犯罪者の脱獄劇は死という形で幕を閉じた。……少なくとも、タイムパトロールは、世間は、そう思っていた。
しかし彼らは知らなかった。この5人の脱獄計画は未だ終わっておらず、最悪な形で実行されてしまうことを……
10: :2012/5/3(木) 14:17:18 ID:NeNQDk43GY
「ドラえも〜ん!」

ジャイアンに苛められた僕はいつものようにドラえもんに泣きつく。
腕力で敵わない僕にはドラえもんしか対抗手段がない。馬鹿で間抜けな僕の唯一の味方で、僕の人生に希望を灯してくれた頼れる狸型ロボットさ!

……一応自己紹介をしておこうと思う。僕の名前は野比のび太。自分で言うのも悲しいけれど、何の取り柄もない小学5年の男の子だ。
だけど今の僕には大切な存在がいる。さっき言った狸型ロボット、ドラえもんだ。……猫?何のこと?
ドラえもんは遠い未来……22世紀からタイムマシンでやってきた。何でも、悲惨な僕の未来を変えるためにやってきたそうな。
このドラえもんのおかげで僕の人生は一変したんだ!ダメな僕を支えてくれる、とても便利なロボットなんだ。
……ケチケチしてるのがたまにきずなんだけど。

「何?言っておくけど、秘密道具は貸さないよ」

ほらね。
11: :2012/5/3(木) 14:17:57 ID:NeNQDk43GY
「何でだよ!僕、ジャイアンに苛められたんだよ!ドラえもんの道具がないと仕返しできないじゃないか!」
「何でのび太くんは自分の力で解決しようとしないの!」
「僕だけの力でジャイアンに勝てるわけないじゃない!」
「なんで最初から諦めるの!男の子でしょ?自分の力で立ち向かう努力をしようよ!」
「何で無駄な努力をする必要があるのさ?ドラえもんの力を頼って何が悪いのさ!」
「無駄じゃないよ!のび太くんが努力を続ければ、最後には絶対にうまくいくよ!努力しても駄目だったら、その時は僕だって力になるよ!」

……今日はなかなかにしぶとい。こうやって協力してくれない時は、あの作戦に限る。
12: :2012/5/3(木) 14:18:43 ID:NeNQDk43GY
「あ、ドラえもん。そこ、ネズミがいるよ」

それを聞いた瞬間、ドラえもんは飛び跳ねた。
ドラえもんには苦手な物がある。それは今のでわかると思うけど、ネズミだ。
こうしてネズミがーって叫んでおけば、後は勝手に混乱してくれるんだ。ドラえもんをディズ○ーランドに連れてったらどうなるんだろうね。ハハッ!

「ネズミー!いやー!ネズミー!」
などとはしゃいでるドラえもんの腹部から、ポケットをお借りする。大丈夫、死ぬまで借りる、なんて言いだしたりはしないから。
13: :2012/5/3(木) 14:19:32 ID:NeNQDk43GY
ドラえもんの腹部にあるポケット。これは普通のポケットではない。
このポケットの正式名称は四次元ポケットっていうんだ。何でも入っちゃう魔法のポケットさ。
そしてその中には不思議な秘密道具が詰まってるんだ。
一瞬で遠くまでいけるようになるドア、空を自在に飛べるようになる装置など、夢のようなアイテムがたくさん詰まってる。いいでしょう?
僕はこれを用いて、苛めたジャイアンに報復するんだ。今日もばっちり仕返ししたよ。

こんな感じで僕らの日々は流れていた。僕の人生にはいつだってドラえもんが傍にいて、ぐちぐち文句を言いながらも協力してくれる。
だからダメ人間な僕でも輝かしい未来を夢見て毎日を過ごせるんだ!

……こういう風に思ってた。でも、人生の転機って本当に突然来るんだなあって、思い知らされる日が来るんだ……
14: :2012/5/3(木) 14:20:18 ID:NeNQDk43GY
その日、僕はスネ夫に呼ばれて、家に向かっていた。その道中で1人の女の子と出会った。

「あら、のび太さん。のび太さんもスネ夫さんに呼ばれたの?」
「あ、しずかちゃん!そうなんだよ〜」

今僕がしずかちゃんと呼んだ女の子、名前は源静香っていうんだ。本当にかわいい女の子で、僕はもうメロメロ。
これが本当に映画作品で、映像がついてたら皆にも見せてあげられるのにね。残念!しずかちゃんの可愛さは僕が独り占めするよ。

「急に呼び出して何なんだろうね?」
「スネ夫さん、何か見せたい物があるって言ってたわ」

また自慢か。あの金持ちは本当にろくなことしないんだから。
でもまあその見せたい物には純粋に興味があるし、しずかちゃんと並んで歩ける今は至福でしかない。だったら行くよ、スネ夫ん家にだってさ。
15: :2012/5/3(木) 14:21:21 ID:NeNQDk43GY
そうこうしてるうちにスネ夫の家に到着。相変わらず豪邸だなあ、ここの家は。
そしてその玄関前にはあいつの姿が。

「ようのび太!しずかちゃんも一緒か」

さっきから名前だけはちらほら出ているこの男、ジャイアンである。
ジャイアンっていうのはあだ名で、本名は剛田武っていうんだ。この男が傍若無人のド畜生で、僕は度々こいつの暴力の犠牲になってる。
だけどたまに、本当にたまに、ごく稀に、良い奴になっちゃうから憎みきれない。普段はドラえもんの道具で仕返しもできるしね。
その腐れ外道、ジャイアンと合流した僕達は、三人そろって呼び鈴を押した。
16: :2012/5/3(木) 14:22:11 ID:NeNQDk43GY
「やあ、よく来たね君達」

出てきたのはとんがりコーンひじき味、じゃなかった、僕達を呼び出した張本人、スネ夫だ。
この骨川スネ夫は金持ちの息子だ。世紀末リーダー伝たけしで言うと、社長の息子ポジション。
自分の手柄でもないのに、金の臭いをばらまいては自慢する、世紀末ヘアファッションのおぼっちゃまだ。

「よう、スネ夫。見せたい物ってなんだよ?」
「まあまあジャイアン慌てないで。ほら、皆上がりなよ」

言われて僕達はお邪魔する。いつものように遊ぶ時の部屋へと歩を進める。
こうしていつもの豪華な部屋へとたどり着いた。ただ、そこには見慣れない物もあった。
17: :2012/5/3(木) 14:22:57 ID:NeNQDk43GY
「おお!それプレステ3じゃねえか!」

ジャイアンの発言で僕はテレビ方向へ目をやった。でかいテレビの前に何か機械が設置されてる。
それは先日発売されたばかりのゲーム機「プレイステッカー3」だった。……決してステーションではない。決して。

「実は僕のパパの知りあいにゲーム会社の社長がいてね。最新ゲーム機をソフトとセットでプレゼントしてもらったのさ」

スネ夫は早速得意技を繰り出した。そう、それは「パパの知りあい」である。
顔の広いスネ夫のパパは、何故かいろんな物を恵んでもらえる立場にあるらしい。そしてその甘い汁をこのとんがりコーンひじき味が啜るシステムだ。
18: :2012/5/3(木) 14:23:36 ID:NeNQDk43GY
「セットでもらえたソフトはなんだよ?」
と、ジャイアンが確認すると、とんがり(ryは後ろ手で隠していたソフトを高々と掲げた。

「名作間違いなしと言われてるRPG、ドラクエ10さ!」

なんとスネ夫の持ってたソフトは発売前から話題になってたゲームソフト「ドラコンクエスト10」だった。……決してドラゴンではない。決して。
19: :2012/5/3(木) 14:24:26 ID:NeNQDk43GY
ジャイアンがおーっと声を上げる中、スネ夫はプレステにソフトを入れて起動した。

「せっかくだから皆で楽しもうと思って皆を呼んだんだ」

その発言に、ウィンドミルで喜びを表現しようとした(ウィンドミルできないけど)その時だった。
そう、僕は忘れていたのだ。スネ夫にはもう一つ得意技があったことを。

「……ただ、残念なことに、このゲーム3人用なんだ。悪いけどのび太は帰ってもらえるかな?」

……これだよ。いつもこれだよ。なんか知らないけどいつも僕だけ仲間外れにするんだよ、この気違いヘアーは。
20: 今日はここまで:2012/5/3(木) 14:25:30 ID:NeNQDk43GY
「な、何でだよ!僕も一緒にやったっていいじゃないか」
「だから言ってるだろう?このゲーム、3人用だって」
「そんな中途半端な人数制限あるかよ!パッケージにだって4人用って……違う、そもそも1人用じゃないか!」
「そんなの誤植だよ。3人用だって言ってるだろう?」

この言いあいにジャイアンも参戦する。

「のび太のくせに往生際が悪いぞ!いいから帰れよ!」

拳を振り上げた状態でそう言われると、僕にはもう従うことしかできない。
その拳が自らの頭に落ちる前に、僕は回れ右して退散するしかなかった。
21: :2012/5/4(金) 00:53:03 ID:NeNQDk43GY
仕方なくスネ夫ハウスを後にした僕。その瞬間に悔しさがこみ上げる。

「う……うぅ……うわああぁぁん!!」

僕は泣きながらその場を駆け出した。この時のスピードは尋常じゃなかったなあ。
たぶんウサイン・ボルトと100m勝負しても互角に渡り合うような、それくらい速かったと思う。
そんな超スピードで僕が向かったのは、ドラえもんが待っている愛しの我が家である。そう、こんな時はドラえもんに泣きつくに限る。
僕は自宅に戻ると即座に階段を駆け上がり、狸型ロボットの待つ自室へ帰還した。

「ドラえも〜ん!」
「どうしたの、のび太くん?」

どうやら今日は案外素直に話を聞いてくれる日のようだ。そういう日は話がサクサク進むからいいんだよね。

「スネ夫の奴が……詳しくは読んできてよ」
「わかったよ。ふむ……こ、これは酷い!」
22: :2012/5/4(金) 00:53:47 ID:NeNQDk43GY
ドラえもんは話を読み返してくれ、更には僕に賛同してくれた。これは非常に良い流れだ。
この好機をやすやす見逃すほど僕は落ちぶれてはいない。最強機械人形を味方にすべく一気にたたみかける。

「あの腐れ坊ちゃんをも黙らせるような素晴らしい秘密道具を出してよー」
「それが……ちょっと該当するような秘密道具がないんだ」
「あらら」ズコー
「……ドラえもんに詳しい読者の諸君、この場面に相応しい道具があったとしてもツッコまないでね」
「ドラえもん、何を言ってるのさ?」
23: :2012/5/4(金) 00:54:48 ID:NeNQDk43GY
とち狂ったピザ狸が変なことを言い出したけど問題はそこじゃない。どうやらスネ夫をぎゃふんとかひぎいとか言わせるような道具はないみたいだ。
それならこの狸に用なんてない。使えないこの狸にどう天罰を与えてやろうかと考えてた時、機械は再び音声を流し始めた。

「……そうだ!スネ夫が持ってたゲームはなんていうタイトルだった?」

それを知ってどうするつもりだ、と言いかけたけど、言ったところでやり取りが2、3行増えるだけだ。無駄な労力を好まない僕は素直にタイトルを告げた。
するとハゲ狸はタイムマシンに乗ってどこかへと出かけていってしまった。逃げたかな?
すぐに帰ってくる様子もなく、無駄に時が流れるのを好まない僕は、時間を有効活用するべく眠りにつくことにした。
24: :2012/5/4(金) 00:56:35 ID:NeNQDk43GY
僕が夢の中で素敵な時間を送っていると、やっと帰ってきたのだろう、ドラえもんの声によって起こされた。

「もう、なんだよ。せっかく夢の中でジャイアンをカナディアンデストロイで倒したところだったのに」
「どういう技だよ、それ。それより、ほら!これ見てよ!」

ドラえもんの手には見慣れない機械があった。新しい秘密道具だろうか?

「これは22世紀から買ってきた最新ゲーム機のプレステ20だよ!」

なんとドラえもんがタイムマシンに乗ってどこかへ行ったのは、ゲーム機購入が目的だったそうな。
更にドラえもんは続ける。……続けるんだけども、ちょっと長くなりそうだから詳しくは次のレスで書こう。
25: :2012/5/4(金) 00:57:50 ID:NeNQDk43GY
以下、ドラえもんの説明。

のび太くんが言ったタイトル……ドラクエは僕にも聞き覚えがあった。
だから未来でもシリーズが続いてるソフトじゃないかと考えたんだ。
そこで未来に帰ってみると、案の定、最新作のドラクエ50が売られてたよ。
現代ではスネ夫の持ってるプレステとドラクエが最新作……同じ物を買ってもスネ夫に対抗するには弱いかもしれない。
でも、未来の最新作ならスネ夫は買うことはできない。これなら対抗し得る力となる。スネ夫に自慢し返せるでしょ。

……だってさ。
26: 今回はここまで:2012/5/4(金) 00:58:40 ID:NeNQDk43GY
「これでスネ夫にらめえおかしくなっちゃうぅって言わせることができるよ!」
「ありがとうドラえもん!愛してるよ!」

さっすがドラえもん。ここぞって時に頼りになるんだからあ。
もうホント……青色が素敵。よっ、狸界のプリンス!マジでブルーコスモス。青き清浄なる世界のために。
27: :2012/5/4(金) 12:00:40 ID:NeNQDk43GY
ドラえもんのファインプレイに気を良くした僕は、自慢するために行動に出た。
ドラクエ50購入から数日が経過して、その日は日曜日だった。
僕は休日を利用してしずかちゃんとブタゴリラとひじきバランを家へと招待した。
スネ夫はこないだの件を掘り返して自慢げにアヒル口をしてきたけど、プレステ20を見た途端に愕然としていた。アヒル口は直らなかったけど。

「の、のび太!これどうしたんだよ!?」

僕はうろたえるスネ夫へと経緯を説明してやった。これは本当に気持ちいい。今日この瞬間のために生まれてきたと錯覚するくらいだ。
悔しがるスネ夫の横で、デブとしずかちゃんは未来のゲーム機に興味津津だ。

「おい、のび太!これ、俺にやらせろよ!」
「のび太さん、私達もやっていいの?」

僕はorz状態になってるスネ夫を横目に、
「いいよ!僕はどこかの勝手に人数制限かける腐ったとんがりコーンとは違うからね!」
と言ってやった。スネ夫がorzからor2に進化している。ざまあないぜ!
28: :2012/5/4(金) 12:01:38 ID:NeNQDk43GY
とにもかくにもゲーム開始だ。しかしここで根本的な疑問が生まれた。

「……ドラえもん、プレステ20ってどうやるの?」

現代に輝く僕が、遥か未来のゲーム機のことなどちんぷんかんぷんで、うまいこと扱えるわけがなかったのだ。
じゃあどうするのかって?こうするしかないでしょう。

「ドラえもん、プレステ20は任せたよ!」

こういう時はドラえもんに任せるに限る。大丈夫、大体のことはドラえもんが解決するように世界はできてるんだ。
ドラえもんも自分が設置することは覚悟していたのか、案外素直に作業に取り掛かった。

……さて、ここから少しの間、ドラえもんが語り手ポジションの方が都合がいいと思う。そんなわけでちょっと交替するよ。ドラえもん!
29: :2012/5/4(金) 12:02:44 ID:NeNQDk43GY
僕、ドラえもんです!というわけで、ここから少しの間、僕が語り手となるよ。

未来のゲーム機を扱うのは厳しいと判断してか、のび太くんは僕に任せた。僕も最初からそのつもりだったし、さっさと取り付けるとしよう。
と言っても、やることは現代とそう変りないんだ。機械とテレビをケーブルでつないで、コンセント刺して起動。ほらね、変わらないでしょう?
のび太くんはもっと未来的なハイテクを期待していたのか、露骨にがっかりしていた。
……うふふふふ。すごいのはここからなんだよ?

「あとはソフトを入れて……はい、これで準備完了だよ!」
「なんだか普通だね。拍子抜けしちゃった」

こんな感じでがっかりしてるのび太くんにコントローラーを握らせる。
テレビ画面には起動したドラクエ50の画面が出ている。「最初から」「続きから」「オプション」の文字が並び、矢印は「最初から」を指している。
30: :2012/5/4(金) 12:04:00 ID:NeNQDk43GY
当然僕達は初めてやるのだから、最初からを選ぶよう指示する。

「わかったよ。さーて、どんなゲームなのか……」

と言っていたのび太くんが突然その場に倒れ込んだ。
当たり前だけど皆は慌てていた。

「お、おい!のび太!?」

のび太くんの元に駆け寄るジャイアン。普段はイジワルしちゃうけど、本当は気にかけてくれてるんだよなあ。なんだかんだいい友達だよ。
そんな良きお友達を安心させるため、ゲームの仕組みをジャイアンに教えてあげた。

「うふふふふ……実はね、今のび太くんはゲームの世界に移動しているんだ」
31: :2012/5/4(金) 12:05:17 ID:NeNQDk43GY
ワッツハプン状態のジャイアンに理解させるため、僕は少し長めの説明に入った。

未来では画期的なプログラムのシステムが導入された。
それは、人間の魂をゲーム世界に移すというものだ。簡単に言えば魂限定のグリードアイランドだ。
これによって様々な利点が生まれた。
まず、画面前でプレイするよりリアルで迫力あるプレイが可能となったこと。当たり前だ、ゲームの世界に入ってるのだからリアルに違いない。
更に、生身で画面を直視する必要がないため、視力低下の問題が生じなくなった。
極めつけは、ゲーム時間と現実の時間は流れが別なのだ。精神と時の部屋のようで、長い間大冒険に身を投じても現実では数分しかかからない。
導入当初こそ魂を移すのは危険ではないかと問題視されたが、導入後に死亡事故などが起こることもなく、やがてゲームの主流となるまでに至ったのだ。

「……というわけだから、のび太くんの魂がゲーム世界にいってるんだよ」
「最初から、続きからが選ばれたときに、コントローラーを持ってる人間の魂をゲーム世界に移すようにプログラムされてるんだ」
「今ここにあるのはのび太くんの抜け殻ってわけさ」
32: :2012/5/4(金) 12:06:12 ID:NeNQDk43GY
一気に説明したことで、とりあえずは理解してもらえたようだ。

「ドラえもん、これは俺達もできるのか?」
「もちろん!入るのは1人ずつだけど、特に人数制限が定めてあるゲームじゃないからね!」

それを確認したジャイアンは、勢いよくコントローラーを握ると、
「待ってろのび太!今そっちに行くぜ!」
などと言いながらゲーム世界へと旅立った。
しずかちゃんも恐る恐るジャイアンに続いて冒険へ。残るは僕とスネ夫だ。
33: 今回はここまで:2012/5/4(金) 12:07:05 ID:NeNQDk43GY
いじけてるスネ夫に向かって僕はこう言った。

「スネ夫はやらなくていいの?」
「……やるよ畜生!」

そういってコントーラーを握ると、間もなくゲーム世界へ出発した。
さて、最後は僕だ。そろそろ語り手ものび太くんに戻ってもらおう。
……最後に一応言っておくけど、僕は猫型ロボットだからね!誰が狸だ!
と、言っておいて……ゲーム世界へ向かうと同時に語り手をのび太くんにバトンタッチだ。
34: :2012/5/5(土) 00:38:18 ID:NeNQDk43GY
もう、何これ!?なんなのここ!?
僕さっきまでゲームやろうと思ってたのに、何か草原に投げ出されてさあ!泣きそうだよもう!
ゲームって家で画面に向かってやるものでしょう!?マジここどこなの?
くっそー、あの糞狸、わけわからんもの買ってきやがって!ぜってー許さんからな!

……みたいな感じで突然知らない土地に投げ出され、泣きそうになってたわけだけど、しばらくしてから豚饅頭、しずかちゃん、トゲ頭がやってきた。
そしてドラえもんが教えてくれたという説明を受けた。最初に言えよ!怖いだろ、急にこんなことなったら!
やがて戦犯の狸もやってきた。事情を知った僕は怒りの言葉を吐きかけた。
35: :2012/5/5(土) 00:38:58 ID:NeNQDk43GY
「ごめんごめん。驚かしてやろうと思ってさ」

驚くってレベルじゃなかったよ、ホントに。……まあ無事だったからいいけどさ、もう。
少し落ち着いたのでゲーム世界を見回してみる。

そこは広大な草原だった。
透き通った青い空の下に広がる生い茂った緑。地平線の彼方まで続く綺麗な緑に僕は思わず息を呑んだ。
生い茂った草原という景色はきっと地球上にいくつも存在するのだろうが、ここはそのどれよりも美しい。
全てを知ってるわけでもないのに、そう確信させるまでに幻想的な草原だった。
36: :2012/5/5(土) 00:39:28 ID:NeNQDk43GY
「見ろよ、あそこに街があるぜ」

余韻に浸ってるところを豚ボイスで邪魔された。

「きっとあそこが最初の街だね。行ってみよう!」

そう言ってドラえもんが駆け出したので、僕らはそれに続いた。
記念すべきドラクエ50の初めての街へと向かって。
37: :2012/5/5(土) 00:40:14 ID:NeNQDk43GY
その街は城壁に守られたいた。
草原に住み着いているであろう魔物共の侵入を拒む高き壁。外から確認できるのは、その壁から飛び出るほどの高さを誇る城だけだ。
その出入り口を見張る2人の兵士からチェックを受け、それから街中へと歩を進めた。
中の様子は古代を思わせる石畳とレンガの街並みだった。ああ、異空の地に冒険へ来たのだという気分が強まる。良い感じだ。

「すっげーなあ!」

ジャイアンがその世界観に驚嘆している。僕だってそうだ。
その気持ちは皆も共通のようなんだけど、ドラえもんだけはなんだか慣れた様子だった。ホントに未来じゃこれが当たり前なのか。
38: :2012/5/5(土) 00:41:05 ID:NeNQDk43GY
「最初の街に来たんだから、イベントが起こってもいいのにね」

ってドラえもんが言った瞬間に、そのイベントとやらが起こったようだ。

「おお、あなた方はもしや異境からやってきた勇者様では?」

やってきた馬車から声がすると思ったら、ある人物が下りてきた。
僕は彼を知らないけどこれだけは間違いない。この人、王様だよ。THE王様って感じの格好をした小太りのおじさんだった。
39: :2012/5/5(土) 00:41:54 ID:NeNQDk43GY
イエスもノーも言ってないのに、王様ルックのおじさんは勝手に勇者だと解釈していた。

「やはり勇者様でしたか!ようこそおいでくださいました!」

王様と思われるおじさんは僕らを勇者と決めつけると、大げさにかしこまった。。
だがしかし、僕は勇者のゆの字にすら心当たりがない。仕方なく僕はドラえもんに尋ねる。

「僕らって勇者なの?」
「説明書を読んできたからね、プレイヤーはそういう設定なんだって」
40: :2012/5/5(土) 00:42:58 ID:NeNQDk43GY
ドラえもんから確認すると同時に、王様は馬車内に入るよう促した。

「実は勇者さまに折り入って相談したいことがございます。よければ城まで来てくださいませんか?」
「……どうする?」
「いや、こりゃ断ってもループするパターンだぞ。ゲームも進めたいし素直に聞こうぜ」

僕が皆に訊いたところ、ジャイアンに先ほどのように言われたので、僕達は馬車で城に移動することにした。
馬車に揺られて間もなく城に到着した。外から見ても巨大だったのだ。近くから見るともっと大きく見える。
あんまり立派な城だから、僕なんかが入っていいのか?と疑問に思えてくるほどだ。
しかし王様は微塵もそんなことは考えてないようで、皆も皆で堂々入っていったから、僕はそれについていく形で入城したのだった。
41: :2012/5/5(土) 00:43:43 ID:NeNQDk43GY
RPGで王様と女王様がセットになって居るような、いわゆる王の間につれてこられた。
王様はそこの豪勢な椅子に腰かけると、僕達に向けて言葉を発し始めた。

「さて、相談というのは他でもありません。……魔王のことです」

こちらもRPGではお約束の存在、魔王という単語が出てきた。
それから王様は本格的にこのゲーム世界の現状を語り始めた。
42: :2012/5/5(土) 00:44:41 ID:NeNQDk43GY
平和に過ごしてた人々の生活を突然魔物達が脅かし始めた。
平和な人の世を守ろうと、人々は魔物に立ち向かったが、まるで歯が立たなかった。
人は魔物に殺され、村や町も潰され、ついにはこの王都陥落の危機にまで陥った。
人々が絶望にまみれたその時、有名な王都の予言士の言葉から、わずかな希望が産声を上げた。
異境の地よりやってきた勇者(僕達のことみたい)が世界を救うという予言が読まれたのだ。
そして予言通り勇者はこの世界にやってきた。だからこの世界を救ってほしい……王様が言うには、こういう世界観だそうだ。

……普通だ。僕は率直にそう思った。
50までシリーズが続いてるんだから、世界観ってどうなってるんだろうと思ったけど……いつの世もストーリーは王道がいいってことなのかな。
43: 今回はここまで:2012/5/5(土) 00:45:36 ID:NeNQDk43GY
「どうか……どうか世界を救ってください!」

そう言って王様は頭を下げた。
こちとらゲームプレイのために、すなわち世界救済のためにこの世界に舞い降りたのである。断る理由がどこにあるもんか。
ということで、僕達は快くそれを引き受けた。

「王様、邪悪なる魔王は僕達が討ちとってみせます!」

僕らを代表してドラえもんがそう告げる。ドラえもんってどう見ても魔物側だよねって言ったらドラえもん怒るかな?
けっこうシリアスなこの場面で怒られても仕方がないので口には出さなかった。そんなことを思ってる間に話はついて、僕達の冒険に明確な目的が誕生した。

「シンプルに魔王を倒せばクリアってわけだね」

今スネ夫が言った通りである。これから世界を救う冒険が始まるんだ。わくわくするなあ。
44: :2012/5/5(土) 22:09:44 ID:NeNQDk43GY
城を後にした僕達は、今後について相談していた。

「これからどうしたらいいのかしら?」
「まずはお店に寄ってみるべきじゃないかな?」
「武器屋に行こうぜ!魔王をなぎ倒す力は必要だろ!」

小学生各位が思うところを好き勝手ぶちまける。……特に書いてないけど、どれが誰の台詞かはわかるよね?
それを聞いてた僕はある疑問が浮かんだので、ドラえもんにひとつ訊ねてみた。

「……僕達、お金って持ってるの?」

それを聞いてスネ夫が言葉が重ねてきた。

「ていうか、ステータス画面とかはどうやって確認するのさ?」

僕とスネ夫のツイン質問に動じる様子もなく、ドラえもんは説明書知識をひけらかし始めた。

「うふふふふ。皆、目を瞑ってごらん」
45: :2012/5/5(土) 22:10:59 ID:NeNQDk43GY
もったいぶってねーでストレートに教えろや、なんて考えたけど、こんなところでもめても仕方ない。僕は素直に従って目の前を暗くした。
するとあら不思議。暗くなるどころか目の前には鮮明なるある景色が広がっていた。

「目を瞑ることでステータス画面が脳裏に浮かぶように設定されてるんだ」

狸の言うとおり、そこにはRPGでよく見る画面が映し出されていた。
そこにある項目は「つよさ」「所持金」「経験値」「マップ」の四つ。
「話す」や「調べる」、「装備」はないのかと一瞬思ったが、当たり前だ。ゲーム世界に入ってるんだからそんなの自分でできる。でもないのはちょっと寂しい。
感覚を説明するのは難しいが、脳裏に浮かんだその画面はコントローラー操作のように自在に動かせた。
僕は早速所持金を調べてみる。50Gだった。まあこんなものだろう。
とんがりひじきはマップを調べたようで、あそこにあんな店がある、とか言っていた。
その発言を頼りに僕達はある場所へと向かった。

それは「ダーマの酒場」と呼ばれる酒場だった。……混ざってない?
まあそれはともかく、ここではキャラクター、つまり僕達のゲーム内での職業を決められるそうだ。
46: :2012/5/5(土) 22:11:30 ID:NeNQDk43GY
「RPGではメンバー全員でバランス良くなるよう職業を決めるのがいいんだ」

当たり前のことをブラックバランがドヤ顔で喋り出した。
うるせえそのアヒル口縫い付けるぞって言おうとしたが、しずかちゃんの発言に遮られた。

「まあ、スネ夫さんって物知りなのね」

僕がドヤ顔で喋ればよかった。
まあ後悔しても仕方がない。とりあえず皆と相談しながらの職業決めが始まった。
47: :2012/5/5(土) 22:12:36 ID:NeNQDk43GY
まずジャイアン。これは本人含めて意見が全員一致したのでさっさと転職。
「これで俺は戦士だぜ!魔物を片っ端からぶっ殺してやる!」

次にしずかちゃん。本人は皆に任せるといい、皆の意見も一致したのでこれに。
「私は僧侶かあ……皆を回復してあげればいいのね?」

ここから少しもめた。本人の希望と皆のイメージが一致しなかったのだが、多数決でスネ夫はしぶしぶこの職についた。
「商人って全然勇者一行っぽくないじゃないか!ママー!」

僕も多数決の餌食となった。僕は勇者になりたかったのに、最終的には強制されてこんなことに……
「何で僕は遊び人なのさ!皆みたいにちゃんとしたのになりたかったよ!」

最後はドラえもん。魔物という職業がなかったのと、勇者一行なのに勇者が一人もいないのはまずいということで、
「僕が勇者だ!うふふふふ、世界を救うぞお!」

……なんかいろいろと納得できない。ていうかこれもうイメージの問題じゃないか。バランスはどこいった?
48: :2012/5/5(土) 22:13:21 ID:NeNQDk43GY
こうして僕達は奇妙な勇者達へと変貌を遂げた。装備などに関しては、まだお金が少ないということでこの街では見送り。
このゲームのセーブポイントだという宿屋でセーブしてから、ついに本格的な冒険が始まりを告げた。

「相変わらずすごい草原だな〜」
と漏らしつつ、僕は目を瞑ってマップを確認する。
視認ではどこまでも草原が続く感じだが、マップ確認によって、この街から西に行けば村があることがわかった。

「まずはここが目的地だね」

ドラえもんがそう言うと皆はそれに頷く。考えることは皆一緒だ。
というわけで、僕達はこの村を目指して歩き出したのだった。
49: :2012/5/5(土) 22:14:02 ID:NeNQDk43GY
今まで触れなかったけど、この草原、普通に魔物がいる。
マップ上を自由気ままに魔物達がうろついてるのを見る限り、シンボルエンカウント制のようだ。

「敵を倒して金と経験値を集めようぜ!」

とジャイアンが言ったから、今日は魔物記念日。そんな記念日を飾る魔物はRPGのお約束、スライムである。
マップ上のスライムに接触して早速バトル開始。すると僕達の頭上に突然数字が浮かんだ。
50: :2012/5/5(土) 22:14:38 ID:NeNQDk43GY
「これがHPだよ。0にされないように気をつけてね」

僕らの説明書、ドラえもんはそう説明した。
ぷるぷるしている目前の魔物を半ば無視して、僕は戦闘における疑問をぶつけてみた。

「ドラえもん、バトルってどうやるの?」

これは普通のRPGではない、ゲーム世界に自分が来て、自分が戦うのだ。
となれば、この世界でのバトルルールがよくわからない。だから説明が欲しいところなのだ。
51: :2012/5/5(土) 22:15:51 ID:NeNQDk43GY
「うふふふふ、よく見ててね」

と言ってドラえもんはスライムと向き合った。自ら手本を見せる気らしい。勇者になったから浮かれてんのかな?

「ゲームだけど、基本的には現実的な戦いと一緒だよ。ターンはなく、攻撃で相手を懲らしめるんだ」

ターン制でないのはわかった。んで、攻撃も相手を倒せるならなんでもいいのかい?
って思ってたら、そうじゃなくて、ダメージを与えるルールは次のような物が存在するらしい。
1、自分の体で直接攻撃。
2、この世界の武器を用いて攻撃。
3、この世界の魔法を用いて攻撃。
……以上の三つが「HPの数字を減らす」のに有効な行動だそうだ。
一応ドラえもんには四次元ポケットがあって、攻撃的な道具も使えるけど、それではHPの数字を減らすことはできないらしい。
事実、ドラえもんの空気砲ではスライムを倒すことができなかった。

「……こんな感じで戦闘していけば大丈夫だよ」

スライムの頭上に表示されたHPを0にして、ドラえもんはそう言った。結局は疑似リアルファイトじゃないか。何このジャイアン無双。
52: :2012/5/5(土) 22:17:03 ID:NeNQDk43GY
とりあえずこれらの戦闘で痛みは感じないらしい。ただし、HPの数字はしっかり減るので、その辺は気をつけないといけない。
レベルをあげまくる!と張り切って魔物に突っ込むジャイアンを放置して、僕はあることを確認した。

「ねえドラえもん。HPが0になるとどうなるの?」

そう、ゲーム内での僕達の命、HPのことである。

「大丈夫。魂がゲーム機の前にある体に戻るだけだよ。やられたプレイヤーは「続きから」でセーブしたところからやり直せるよ」
53: :2012/5/5(土) 22:17:51 ID:NeNQDk43GY
そんなことを言ってる間に、メンバーの中の1人が危篤状態にまで陥っていた。

「ねえドラちゃん、私のこの数字、少なくなってきてるんだけど大丈夫?」

……そう、しずかちゃんである。どうやらスライムがかわいくて戯れてるうちに危篤状態になったみたいで。
ドラえもんは丁寧に、さっき僕にした説明を皆にしていた。よくよく聞くと死ぬことでの所持金のペナルティなどもないみたい。イージーだね。

「じゃあしずかちゃんがやられたら、さっきの街まで迎えにいくとして、今は修行しようぜ!」

脳筋肉団子がそう提案し、確かにペナルティがないならそれもいいかと、僕達はレベル上げに勤しむことにした。
54: :2012/5/5(土) 22:18:44 ID:NeNQDk43GY
順調にレベルが上がり、皆がレベル5くらいになった時、それは訪れた。

「あ……0になっちゃった」

しずかちゃんのHPが0になったのだ。
すると、しずかちゃんの姿が足元から砂のようにさらさらと空気に溶け始めた。これがゲームオーバーの演出らしい。
やがてその全身は完全に空気と同化、この場から綺麗さっぱり消えてしまった。

「これでしずかちゃんは今現実世界に戻っているはずだよ。皆で宿屋まで迎えに行こう」
「ついでに貯まった金で装備やアイテムを買おうぜ!そして次の村へレッツゴーだぜ!」

ドラえもんやジャイアンにそう言われ、反対する理由も見つからないので、その方向で行動しようとした、その時だった。
55: :2012/5/5(土) 22:19:51 ID:NeNQDk43GY
「あー、あー、聞こえてるかね?プレイヤー諸君」

知らない誰かの声が頭に直接響いたのだ。
それは僕だけじゃないようで、皆の表情にも動揺が見て取れた。
中でも一番動揺しているのはドラえもんのようで、それで僕はこの声がイレギュラーなものなのだと理解した。
56: :2012/5/5(土) 22:20:59 ID:NeNQDk43GY
「君達の仲間が今、HP0になったはずだ。いやあ残念だったね」
「だけど君達にはもっと残念な報告をしなくちゃならないんだ」
「実はこのゲーム、正規な物じゃないんだ」
「こっちの都合でね、HPが0になると魂が体に戻るんじゃなくて、このゲーム内に縛りつけられるよう改造しちゃってんだ」
「ホント悪いねえ、でもこっちにも都合があるから」
「たぶん君達のうち一人でもクリアする奴が出たら、HP0になった仲間は現実に戻れるはずだ。これから先0になる奴も含めて」
「だけど、君達全員ゲームオーバーになれば、皆で仲良くゲーム世界に閉じ込められるってわけだ」
「デバッグしてねえから何とも言えないけど、たぶんちゃんとそういう感じでプログラム働くだろうよ」
「ま、そういうことだ。精々クリア目指して頑張ってくれ。俺は全員ゲームオーバーを願っておくよ」

長々と喋ってから、謎の声は響かなくなった。まあそれはいいや。
……今、この声はなんて言った?もう現実には戻れない?
57: :2012/5/5(土) 22:21:54 ID:NeNQDk43GY
「……街に戻ろう!しずかちゃんの安否を確認するんだ!」

突然の事態に呆然としていた僕達だったが、ドラえもんの声が僕らの意識をここに呼び戻した。
そうだ、今の言葉が本当なんて証拠はない。全くのでたらめだってこともあるじゃないか。
するべきことは、しずかちゃんが今どうなってるかの確認だ。それですべてがはっきりする。

「ドラえもん、どう確認するの!?」
「普通のゲームオーバーなら今頃コンティニューして戻ってるはずだよ!ゲーム世界に戻ってなかったら、現実世界に戻って確認すればいい!」
「現実世界に戻るにはどうすればいいの!?」
「セーブポイントから戻れるよ!とにかく今は街に急ごう!」

ドラえもんからそう教えてもらった僕は、街へと向かう足に力を込め直し、その速度を更に速めた。
真っすぐ戻ってきたから街に着くのも早かった。僕らは街の人にぶつかるのもためらわず、がむしゃらに走った。
58: 今回はここまで:2012/5/5(土) 22:23:07 ID:NeNQDk43GY
「しずかちゃん!」

叫びながら宿屋のドアを開けた僕だったが、セーブポイントにしずかちゃんの姿はなかった。
そこに在ってほしかった姿がなくて、僕はがくっと膝をついた。そんな僕の横を通り過ぎてドラえもんがセーブポイントに向かう。しかしこれが更なる混乱を生むこととなる。

「……な、なんでゲーム世界から出れないんだ!?」

ドラえもんは確かにそう言った。それを聞いてジャイアンが詰め寄る。

「どういうことだよ!?セーブポイントから戻れるんじゃなかったのか!?」
「ぼ……僕だってわからないよ!普通だったら、こんなことにはならないんだ!」

お互い感情が高ぶってるせいか、いとも簡単に口論へと突入した。汚い言葉が僕らを支配する。
この異常な空気に耐えられず、スネ夫は泣き出してしまった。それでも二人の罵声が消えることはなかった。
僕はというと、膝をついたままそれを静観していた。なんていうか、わけがわかんなかった。
どういうことなんだよ、これ……?誰か、誰か教えてよ……
59: :2012/5/6(日) 22:49:49 ID:NeNQDk43GY
源静香は混乱していた。
未来の猫型ロボット・ドラえもんが言うには「HPが0になると魂は現実世界の体に戻る」とのことだった。
しかし、今彼女がいる場所は現実とは到底思えない場所だった。
荘厳な城、その王の間の空に浮かぶ牢獄に彼女は捕らえられていた。暗く汚い雰囲気から、先ほど入ったあの城とは違う場所だとわかる。
ひとつだけ確かなのは、自分は未だゲーム世界に身を置いているということだけだった。

「最初の生贄は可愛い女の子か。君もついてないね」

知らない声に静香は驚き振り向く。何故今まで気付かなかったのだろう、静香はそう思った。この牢獄には彼女以外に5人の人間が入っていたのだ。
60: :2012/5/6(日) 22:51:05 ID:NeNQDk43GY
「あ、あなた達は誰ですか?」

静香がそう訊ねると、5人の中で一番小柄な男性がその問いに答えた。

「誰ですか、か。本名を名乗るつもりはないけど……アインスとでも名乗ろうか」

アインスと名乗る小柄な男性のこの自己紹介に続く形で、残りの人も名前を自己紹介を始めた。

「じゃあ僕はツヴァイと名乗るかな」と、ノッポな男性。
「それでは俺はドライを選ぼう」と、猫背の男性。
「……ああ、なるほどね!じゃあ私はフィーアだ!」と、女性。

本名ではない、何か規則性のあるコードネームのようだが、大柄な男性はそれに気付いてないようで、頭の上に?を浮かべていた。
いつまでたっても名乗る様子のない大柄な男性の代わりに、アインスと名乗った男が名前を告げた。

「……君はフュンフだな。呼び名ぐらいあった方がいいだろ。覚えておいてくれ」

フュンフという名前を貰ったものの、ピンと来ないのか、大柄な男性は首を傾げっぱなしだ。
61: :2012/5/6(日) 22:52:07 ID:NeNQDk43GY
そんなフュンフを無視してアインスは静香に話しかけた。

「わざわざ君に事情を説明する必要はないが……この牢獄に入った以上、何もできないのも事実だ。ここはひとつ、余興として小話を聞かせてあげよう」

以下はアインスが静香に語った内容である。

時空犯罪者として逮捕されたアインス。しかしアインスには犯罪の意識はなく、むしろ世のために活動を続けなければと考えていた。
そのような思考から、脱獄をしようという結論に至るまで、多くの時間は要さなかった。
だが問題があった。無策で脱獄したところで、再逮捕が落ちである。
ではどうするか。その答えは、彼にとっては簡単なことだった。

「ゲームを改造すればよかったわけだよ」
62: :2012/5/6(日) 22:53:03 ID:NeNQDk43GY
22世紀のゲームは魂を移す物が主流だ。このプログラムは先人達の努力によって安全を約束されたものだった。
しかし、アインスの頭脳を以てすれば、危険な内容に書き換えることなど容易だった。
彼はさきほどのび太達が説明を受けたような内容の改造を1本のゲームソフトに施していたのだ。
自らの魂をそれに封じ、後は売れるのを待つだけでいい。実際、ドラえもんが購入し、今このような状態になっている。

しかし疑問も生じる。何故プレイヤーをゲーム世界に縛りつけることが脱獄の策となるのだろうか?
静香もそう思ったようで、気付けばアインスに説明を要求していた。
63: :2012/5/6(日) 22:54:42 ID:NeNQDk43GY
「今、俺達が入ってるこの牢獄があるだろう?ここがプレイヤーの魂を閉じ込めておく場所さ」

静香のHPが0になった時、気がつけば彼女はここにいた。
通常、HPが0になると、現実世界の抜け殻に魂が戻るよう設定してあるのだが、アインスの改造によってゲーム内に作ったこの牢獄に移るようになっているのだ。

「ただ……実はこの牢獄、人数制限が設定してある。ゲーム終了時に、牢獄に5人以上いたら、古い魂から放出されて5人に調整されるんだ」

アインスが言うには、ゲームが終了した時……すなわち、クリアした時か、セーブポイントから全員が終了した時か、全員がゲームオーバーになった時に5人以上牢獄にいると、制限人数に収まるように前もって束縛されてた魂から解放するそうである。
64: :2012/5/6(日) 22:55:57 ID:NeNQDk43GY
「そしてこのゲームは改造によってセーブポイントで終了する機能を潰している。つまり、君達全員がゲームオーバーになると、5人制限のルールによって俺達は全員解放されるわけだ」
「いきなり全員分の生贄が揃うなんてね。私達、かなりいけてるんじゃない?」

アインスとフィーアが談笑しているところに、静香はまだ納得していないのか、割って入って質問を重ねた。

「待ってください。今ゲーム機の前にあるのは私達の体です。あなた達は自分の体に戻れないんじゃないですか?」
「それだよ!」

待ってましたと言わんばかりの大声を炸裂させるアインス。突然の咆哮に静香は耳を押さえる。

「俺達は指名手配の身だ。その体には、本名には、逃れられない呪縛があるというわけだ」
65: :2012/5/6(日) 22:56:45 ID:NeNQDk43GY
そこまで聞いて静香は気付いた。この者達の恐ろしい脱獄計画、その全貌に。

「まさか……体を、名前を変えて、指名手配から逃れようって?」
「その通りさ!体や名前が変わろうと、記憶は残る……魂は変わってないのだからな。これでタイムパトロールから追われることなく改革を続けられるのさ!」

アインス達はアインス達としての脱獄など考えてなかった。タイムパトロールにマークされた名前や容姿を捨て、別人として生まれ変わるつもりだった。

「加えて時代まで変えられるとは思ってもみなかったよ。これならより安全に脱獄できるな」
「私の体は可愛い女の子ね。よかったー、アインスの脱獄話に乗っかって」
「我々時空犯罪者は……タイムパトロールのせいで犯罪者などといわれるが、実際は次代を切り開く革命家だ。俺の技術が革命家の救出に役立って良かったよ」

再び談笑を始めたアインスやフィーアとは対照的に、静香の表情はみるみる曇っていった。
ゲームに閉じ込められるばかりか、自分自身の存在すら奪われようとしているのだ。事態を把握した今、恐怖に打ち震えるしかなかった。
66: :2012/5/6(日) 22:57:36 ID:NeNQDk43GY
「……助かる方法はないんですか?」

絞り出すように静香は呟いた。声から元気は感じられない。
それもそのはず、ここは敵地のようなものだ。そんな敵の本拠地で、天才と思われるこの男が自分に不利な設定を残すはずがない。
絶望にまみれながら、諦め気味に訊ねてしまった言葉だった。
しかし返事は予想の物とは違った。

「あるよ」

アインスが簡単に言ってのけたその発言内容に思わず静香は呆気にとられた。

「あ、あるんですか!?」
「本当はそんな方法残したくなかったけど、改造時間が足りなくって、細工できなかったんだよ」

ここまできたら最後まで説明してあげよう。アインスはそう言ってプレイヤー側が助かる方法を説明しだした。
67: :2012/5/6(日) 22:58:50 ID:NeNQDk43GY
このゲームでは、ラスボスを倒すとイベントが起こってクリアとなる。
そしてクリアすればゲームは終了、プレイヤーの魂はゲーム機の前の体に戻るというわけである。
なにより重要なのは、最後のイベントは強制的にメンバーが集まるという点である。
メンバーのうち、誰か一人でもラスボスを倒せば、残りのメンバーがどこで何をしていようと、強制的にイベントに参加させられるのだ。

「つまり、この牢獄にいようと、君も最後のイベントに参加することになるだろう」
「本当ですか!?」
「HPは0だけど、このゲーム内にプレイヤーとして存在する以上はそのプログラムが働くはずだ」
「つまりドラちゃん達がゲームをクリアすれば……」
「君はイベントに参加するためこの牢獄を出る。そして牢獄から出たままイベントによってゲームが終了する。つまり牢獄のルールから解放されてゲームから出れる」
68: :2012/5/6(日) 22:59:56 ID:NeNQDk43GY
それを聞いて、静香の中で希望が灯った。打って変わって笑顔になっている。
その様子を見てアインスも笑う。ただし、静香のそれとは決定的に違う、邪悪に満ちた笑顔であったが。

(クリアすればお前達は全員助かるよ。クリアすれば……ね)

本心は隠したままに、アインスは笑顔のまま静香に話しかけた。

「そうそう、女は笑顔の方がいいよ。これからしばらくは一緒にいるんだ。険悪になるより仲良くしようぜ」
「そうよ。せっかく可愛い顔してるんですもの。楽しい牢獄ライフを送りましょ!」

フィーアも続いて語りかけてきたが、静香はそれらを無視して、力強くこう言った。

「強がっていられるのも今のうちですよ!きっと……ドラちゃん達が助けに来てくれるんだから!」
(それはこっちの台詞だ……いつまで希望を見てられるかな?)

こうして源静香は牢獄に囚われたのだった。ドラえもん達のクリアを信じて、彼女はひたすらに待ち続けるのだった。
69: :2012/5/6(日) 23:01:19 ID:NeNQDk43GY
……僕達がこの事態を把握できる術はなく、汚い言葉はいつまでも飛び交っていた。
ただ、さすがに喋りつかれたのか、ジャイアンの口数は減っていて、両者ともに口論を始めた時よりは冷静になっていた。
スネ夫もいつしか泣きやんでいた。ここぞとばかりにドラえもんが健全的な提案をした。

「とにかく僕たちには、あの謎のナレーションしか手がかりがない。確証がなくて不安かもしれないけど、今はあの言葉を信じて活動しよう」

そう、悪い情報だけが先行してしまったけど、あの声は確かに言っていた。「クリアすれば全員が助かる」と。

「じゃあ魔王とやらをぶっとばせば、しずかちゃんは助かるんだな?」

ジャイアンの問いかけに、ドラえもんは力強く頷く。

「きっとそうだよ。僕達で魔王を倒して、しずかちゃんを助け出そう!」
70: 今回はここまで:2012/5/6(日) 23:02:06 ID:NeNQDk43GY
ドラえもんの発言に、ジャイアンはおう!と力強く返事をした。
泣いていたスネ夫も、いつしか決意の表情を浮かべていた。
そうだ。こうなったらやるしかない。
今までだって、ドラえもんは数々の困難を乗り越えてきた。ドラえもんがいれば、僕らはきっと無敵だ。
だから今回だって、たぶん僕らは大丈夫なんだ。
しずかちゃんを救う、僕達だけのドラクエ50は今始まったのだ。
71: :2012/5/7(月) 23:40:20 ID:NeNQDk43GY
激昂して暴言を浴びせてしまったことを謝りながら、ジャイアンは今後について相談し始めた。

「この後はどうすればいいんだ?」
「せっかく最初の街に戻ってきてるんだからね。職業をちゃんとした方がいいと思うよ」

セーブポイントからの脱出を図って僕らは始まりの街に戻ってきた。
最初にこの街に到着した時は、ダーマの酒場にてイメージで職業を決めた。
しかし、今はあの時とは立場が違う。今の僕達には絶対にクリアしないといけない義務がある。
そこで、真剣にクリアを目指す職業にしようとドラえもんは提案したのだ。
特に異議はなく、僕たちは再びダーマの酒場に足を運んだのだった。
72: :2012/5/7(月) 23:41:11 ID:NeNQDk43GY
ジャイアンとドラえもんは特に変更しなかったけど、僕とスネ夫は職業を変えた。
スネ夫は遠距離からの攻撃が出来る魔法使い。
そして僕は僧侶だ。後方から味方の補助や回復を務めるサポート役の立ち回り。
戦闘は主に戦士のジャイアンが務める。普段から僕達にふるってる暴力を活かすわけだ。
そして勇者のドラえもんが戦況に応じて適切な動きをしていく。
僕達の基本的な戦法はこのように決まった。
死ぬわけにはいかない。戦闘に関しては細かく役割を決めて、生き残るようにしないといけないのだ。
買い物も、生き残るために防具や回復アイテムの購入を優先する。ガンガン攻撃派のジャイアンは不満げだが、我慢してもらうしかない。
73: :2012/5/7(月) 23:42:17 ID:NeNQDk43GY
こうして準備を整えた僕たちは、新たな目標を胸に秘め、草原を歩き出したのだった。
一歩一歩を確かに踏みしめながら、ドラえもんは僕達に再度確認をする。

「いいかい?僕達が今後のゲームプレイで何より優先しなくてはならないのは、生き残ることだ」

青き勇者の後方を歩く僕達三人はその言葉に頷く。後ろを向いてそれを確認したドラえもんは言葉を連ねる。

「だからしばらくは弱いスライムでレベル上げをしようと思う。目標は……そうだね、レベル10にしよう」
「ええ〜!あんな弱いモンスターじゃ戦った気にならないぜー!?」
「それでいいじゃない。どうせジャイアンは現実でも僕らを一方的に殴るんだから、ここでぐらい我慢してよ」

スネ夫の発言にジャイアンの拳は自然と弧を描いた。終着点は言うまでもない、スネ夫の尖った頭部だ。どっちが痛いのかよくわからない絵面だ。
74: :2012/5/7(月) 23:43:20 ID:NeNQDk43GY
「痛っ!……くはないんだった。でも何するんだよ!?」
「スネ夫のくせに生意気言うからだ」

普段通りのやり取りに僕は思わず笑った。
笑ってから気がついた。なんだか久し振りに笑った気がする。
実際の時間で考えたらそんなに久しいものではないだろうが、感覚だけで言っていいなら、遙かなる時間を越えてようやく楽になれたような、そんな感じだ。
ドラえもんもジャイアンの暴力ショーを楽しんでから、僕にこう言ってきた。

「何やら大変なことになったけど、だからって普段から強張る必要はないよ。楽しむぐらいの気持ちで、しずかちゃんを助けるとしよう」

確かにあのイレギュラーが起きてから、皆の心から余裕は消え、緊張に支配され重苦しい空間に僕らはいた。
でも、それでは心身が持たない。確かにドラえもんの言うとおりだ。ぼくも普段通り、内心では毒付くとしよう。
75: :2012/5/7(月) 23:45:37 ID:NeNQDk43GY
青狸と会話を交えた後、なんちゃって勇者はスネ夫を見て何やら呟いた。

「……味方の攻撃ではHPは減らないみたいだね」

言われて気付いた。確かにジャイアンはとんがりひじきを攻撃したが、その頭部の上に表示されるHPの数字に変動はなかった。

「命大事にって言ってるそばから攻撃して、これでHP減ってたらジャイアンをぶちのめすところだったよ」
「仮に減っちゃうシステムだったら、それでジャイアンのHPも減って……壊滅騒ぎになるとこだったんだね」

物騒なことを言い出したドラえもんに僕は軽く反応しといてあげた。
76: :2012/5/7(月) 23:46:22 ID:NeNQDk43GY
よくよく考えると、わからないことだらけのゲーム世界で、ジャイアンの行動はあまりにも軽率で褒められたものではないけど。
まあでもそのおかげで戦闘ルールがひとつ明確になった。
以前ドラえもんが説明書を以て披露した戦闘ルール三ヶ条に、次の一文を加えてよさそうだ。
4、味方からの攻撃で味方のHPは減らない。
……この情報が何の役に立つかは知らないけどね。

「つまり俺様はいくらでもスネ夫を殴っていいわけだな!」
「やめてよ!痛くないしHPも減らないけど、気持ちのいいもんじゃないんだから!」
77: 今回はここまで:2012/5/7(月) 23:47:32 ID:NeNQDk43GY
ジャイアンとスネ夫の主従漫才を楽しみながら、スライムだけを相手に慎重に慎重にレベル上げをしていった。
そして僕らはとうとうレベルを10とした。主にはジャイアンとドラえもんが頑張って、恩恵だけは僕とスネ夫もちゃっかり受け取り、いまや全員が二桁突入済みだ。
僕は目を瞑ってステータス画面を確認した。こんな僕にも使える魔法ができたんだ。
僕が覚えたのはホミイという回復魔法だ。決して文字の順番が違うとケチをつけてはならない。
魔法使いをやってるスネ夫もいくつか攻撃魔法を覚えた。これなら序盤はもう怖くないだろう。
ドラえもんもそう判断したようで、高らかに声をあげた。

「そろそろ次に進もう!これだけ強くなればHPがなくなる心配もないだろうしね」

それに異を唱える者もなく、僕達の次なる目的地は決定した。
始まりの王都より西に進んだ村である。強くなった僕たちは、意気揚々と村へと向かうのだった。
78: :2012/5/8(火) 22:26:03 ID:NeNQDk43GY
意気揚々な気分も、村につくとみるみる下がってしまった。

その村にテーマを一つ加えるならば、間違いなくそれは絶望になるだろう。
ずらっと並ぶ木製の家は、例外なく全てが破壊され、家としての機能を失っていた。
壁のところどころに見える赤い染みは……想像通りの物だろう。
田畑も荒され、作物が実る状況ではないのは素人目にも明らかである。
そこにあるのは人間の集落ではなかった。とても住めないその荒れ地に、それでもここの村の人達は、苦しみに目を濁ませつつも確かに在るのだった。

ゲーム世界の、架空の集落だと頭のどこかでは理解してても、その光景からは悲しみを禁じ得ない。
王都で王様が言っていた通り、ここの世界は魔物によって苦しみのどん底に突き落とされてるようだ。
79: :2012/5/8(火) 22:26:47 ID:NeNQDk43GY
村に入ってしばらく呆然としていると、男性の老人から話しかけられた。

「もしやあなたがたは……予言の勇者様では?」

予言の勇者?と疑問に思ったが、そこで王様の言ってたことを思い出す。そういえば予言で読まれた異世界からの勇者って設定だったね。

「はい。僕達は魔王を倒す旅の途中にここに立ち寄ったのです」

ドラえもんが勇者として100点満点の受け答えをする。すると、重い静寂に包まれた村に歓喜の声があがる。

「おお!魔王を倒す勇者様がついに!」
「この村を御救いください!」
「このままでは村はおしまいです!どうか救いの手を!」

どこにいたんだと思うほどに村人たちが駆け寄ってきた。それぞれが僕達に希望を託そうとする。
しかし僕たちは聖徳太子ではなく、一度に聞き分けられるほど器用でもないので、とりあえず皆が落ち着くのを待つしかなかった。
80: :2012/5/8(火) 22:27:37 ID:NeNQDk43GY
しばらくして、村人たちを代表して、最初に話しかけられた老人から詳細を聞くことに成功した。
魔物の侵攻が著しい今日、この村も同様に魔物の狂気に晒されてしまった。
たび重なる襲撃に村は壊滅状態。王都から派遣された戦士も既にこの世から去ってしまった。
そうして防衛の手段もなく一方的に攻撃され、今のこの惨状に陥っているらしい。

「その魔物達の住処はわからないのですか?」

ドラえもんが老人に訊ねると、彼は村人達を苦しめる魔物の巣窟の場所を教えてくれた。

「この村から南に向かうと、そこに洞窟がございます。魔物はそこを住処とし、この村を襲っているようです」

どうやら次の目的地が定まったようだ。絶対にストーリー本編にかかわるイベントだろうし、何よりこの惨状を見て何もしないのは心苦しい。
皆も同じ気持ちのようで、何となくその表情からは決意が見て取れる。
やがてドラえもんの口から次のような発言が飛び出した。

「わかりました!魔物は僕達が倒すので安心してください!」
81: :2012/5/8(火) 22:28:35 ID:NeNQDk43GY
僕たちは村を出た。もちろん例の洞窟へと向かっているのだ。
目を閉じてメニュー画面を表示し、マップを選んで確認する。

「あ、洞窟があったよ。おそらくこれがそれだろうね」

ブラックとんがりがそんなことを言ってた。言われなくても皆もう自分で確認してるって。
そう思いながら目をあけると、老人との会話後にもらったアイテムであるランプを振り回してるジャイアンの姿が飛び込んできた。

「洞窟へ向かうならってランプをもらったけど、そんなに暗い洞窟なんかな」
「村でのイベントを先にこなさないと攻略できないんだろうね」

ジャイアンの疑問をゲーム的に答えるドラえもん。夢がないとガキ大将に不満を言われているさなか、青いのは急に歩を止めたのだった。

「……どうやらついたみたいだよ」
82: :2012/5/8(火) 22:29:36 ID:NeNQDk43GY
言われて前方を確認してみる。
岩壁に穴が出来てる様は、紛うことなき洞窟の姿だった。
なるほど、相当に奥まで続いてるのがわかる。入口より差された光が、瞬く間に闇に飲まれていることからそれが容易に想像できる。

「……こりゃランプがないと詰むなあ」

ジャイアンがぽつりと呟いた。確かにランプの灯がなければ迷子は免れないだろう。
しかし僕らはランプを手にしてる。照明係になるのが嫌だったのか、ジャイアンはスネ夫にランプを押しつけて洞窟内へと進んで行った。

「何で僕が持つんだよ!?おい、のび太!お前が持てよ!」

当然僕はそれを無視してジャイアンを追う。観念してくれ、とんがりコーン。
83: :2012/5/8(火) 22:30:20 ID:NeNQDk43GY
最後にスネ夫が入ると、洞窟内部はランプによって照らされ、僕らは初めて洞窟内を見たのだった。
中に入ってみると、意外に広いなと僕はそう思った。
しかしゲームではよくあることだ。外見と内部で大きさが違うなんてことは。
それよりも、何故洞窟がここまで広いのかが気になる。そこでドラえもんに訊ねてみると、次のような返事がきた。

「たぶん戦闘になってもうまいこと動けるようにってことだと思うよ」

それはつまり、この洞窟内で魔物に襲われるということだよね?
まあでも当たり前か。ダンジョンに魔物が出るのは当然だし、そろそろ最初のボスが出てくる頃だろう。
84: :2012/5/8(火) 22:31:13 ID:NeNQDk43GY
ドラえもんの言った通り、洞窟内には魔物が現れた。
シンボルエンカウント制なので戦う前から魔物の姿が確認できるのだが、洞窟に入ったということで、真新しい魔物ばかりだ。
生き残り優先な僕達の旅なので、なるべく戦闘は控えようか?僕がそうドラえもんに提案すると、ドラえもんは首を横に振った。

「とりあえず今のレベルで通用するか、一回戦った方がいいかも。今ならのび太君が回復してくれるしね」

そう言われるとそうかもと思い、コウモリ型の魔物と接触して戦闘を開始した。
だけど心配なんて何もなかった。レベル二桁は伊達じゃないということか。ジャイアンはコウモリを簡単に片づけてしまった。
少しだけダメージを負ったが、誰がどう見ても圧勝という、あっぱれな勝ちっぷりだ。
85: :2012/5/8(火) 22:32:32 ID:NeNQDk43GY
「おう、ドラえもん!これなら心配しなくてよさそうだぜ!」
「そうみたいだね。でも少しだけHPを減らされちゃったね。一応回復しておこう」

そう言うとドラえもんは僕の方を見てきた。何だよ青狸僕にときめいたか?なんて思ってから数秒、ようやく僕が回復魔法担当だったことを思い出した。
何気に初となる僕の回復魔法・ホミイでジャイアンを癒してやろう。そう思った僕にひとつの疑問が生まれた。

「……魔法ってどうやるのさ?」

そう問うと、ドラえもんは説明書知識をさも自分の手柄のように話し出した。

「確か……手ぶらなら指さして、武器を装備してたらそれを対象者に向けた上で呪文名を発すれば発動するよ」

非戦闘員の僕はしっかりばっちり手ぶらなので、ジャイアンを指さしてホミイ!と叫んでみた。
すると指先から青い霧みたいなのが発生し、瞬く間にジャイアンを包んだ。
そしてジャイアンのHPは無事に回復したのだった。
86: :2012/5/8(火) 22:35:42 ID:NeNQDk43GY
「へー、呪文ってこうやるんだね」
「魔法使いのスネ夫にも関係あることだから覚えておいてね」

ドラえもんがそう言うと、黒いトゲトゲはランプを持ってる手とは反対の手を軽く挙げて了解の意を示した。喋ろや。
まあ何はともあれ、コウモリとの実験的戦闘は大成功に終わった。初めてのボス戦(たぶん)の前に僕達の戦闘知識も深まった。
これで怖いものなど何もない。後は洞窟を進んでボスを倒すだけだ。

じめじめとした岩肌の洞窟をどれだけ進んだだろう。現実的にはランプの燃料が持つのか心配になってくる頃だ。ゲームなのでたぶん大丈夫だと思うが。
しかし、何もない洞窟を歩くだけの作業によって、ジャイアンの落ち着き度はわかりやすいほどに擦り減っていた。今にも怒りの鉄拳が炸裂しそうな、その時だった。
87: :2012/5/8(火) 22:38:51 ID:NeNQDk43GY
「あ!大広間に出た!」

先頭を歩いていたドラえもんがそう叫んだ。程なくして、僕は自分の目で広間の存在を確認した。電気が通ってるかのように明るかったせいか、一瞬洞窟の中ということを忘れそうになった。
そんな洞窟内の特別空間に、見たこともない大きな魔物はいた。間違いない。ボスという奴だろう。

「愚かな人間が私に何の用だ?」

今までの魔物と違ってこいつは喋れるみたいだ。
88: :2012/5/8(火) 22:39:52 ID:NeNQDk43GY
威厳たっぷりにそう言った魔物は、人とゴブリンを足して2で割ったような外見をしていた。
バイオでハザードなあのゲームの4つ目に出てくるエルヒなにがしみたいな感じだ。
なんていうか、最初のボスとは思えないほどの威圧感である。本当にこれ最初のボスか?などと思ったが、あのゲームでも彼は序盤のボスだったな、そう言えば。

「人間の村を襲って困らせてるのはお前だな!許さないぞ!」

ドラえもんはボスキャラの威圧感にも負けずに啖呵を切った。この御方は本当に恐怖を知らぬ御方やで。
89: 今回はここまで:2012/5/8(火) 22:40:55 ID:NeNQDk43GY
「人間風情が私に歯向かうか……面白い!」

巨人が勝手に面白がってると、突然ゴゴゴと大きな地響きが僕達を襲った。
音と振動でうまく身動きできずにいると、スネ夫の真後ろ、つまり広間の出入り口が壁で塞がれてしまった。

「退路を封じたわけか……」

ドラえもんの言うとおり、僕たちはこの広間に閉じ込められてしまった。
目の前に巨人。周りは岩壁の密室空間。逃げ場は無し。生きるために残された選択肢など一つしかない。
こいつを倒す!ただそれだけだ。
90: :2012/5/9(水) 22:52:16 ID:NeNQDk43GY
かくして初のボス戦は洞窟の密室空間で開始された。
巨人の頭上にHPが表示される。さすがはボスといったところで、雑魚敵とはリアルに桁が違った。
それに僕たちは一瞬だけ怖気づいたが、一人だけお構い無しな男が。

「うおおおお!先手必勝だぜ!」

我らがガキ大将、ジャイアンである。あんな巨人に突っ込んでいけるのは素直に関心する。怖くないのか?
巨人の足元に真っすぐ駆け込み、実は王都で買っていた安物の剣を振り下ろす。
安かろうと扱うのは我が学び舎の暴力魔人・ジャイアンだ。初戦のボス戦では高いであろう10というレベルも相俟って、相当なダメージが期待できる。
……そう僕は思っていたわけだが。
我がパーティで一番の力を誇るジャイアンの攻撃でも巨人に与えたダメージは10だった。あと30回くらいは攻撃しないと巨人のHPは0にならない。

「マジかよ!?」

攻撃した当人もこのように驚くしかない状態である。
91: :2012/5/9(水) 22:53:02 ID:NeNQDk43GY
ダメージ量がショックだったのか、ジャイアンは巨人のHPに釘付けになっていた。
そのため、その間に巨人が何をしようとしていたか、ジャイアンは気付くのが遅れてしまった。

「あっ!ジャイアン!」

ドラえもんの声で我に返ったジャイアンの目が捉えたのは、迫りくる巨人の大きな足だった。
迫力満点のキックを全身で浴びたジャイアンはそのまま壁まで吹き飛ばされてしまった。
壁に叩きつけられ、地面に倒れたジャイアン。その光景は凄まじく、思わず僕は彼の名を叫んでいた。

「ジャイアン!!」
「おう、大丈夫だ!」

普通に立ちあがった。あ、そうか。この世界では痛みは感じないんだ。それをわかってても、あれくらってピンピンしてるジャイアンが超人に見える。
92: :2012/5/9(水) 22:53:44 ID:NeNQDk43GY
「それより俺のHPはどうなってる!?」

そうだった。何より確認しなくてはならないのはHPである。
言われて僕はジャイアンの頭上を確認した。

「……うわあ!ジャイアン、残りが2しかないよ!」
「マジかよ!?のび太、ホミイ!ホミイ!!」

大事なことなので二回言ったジャイアンに対して、慌てた僕も二回ホミイをかけてしまった。
しかしそれでちょうどダメージ分を補うくらいの回復となった。
うちのパーティで一番タフネスなジャイアンがたった一撃で死亡手前まで追い込まれてしまった。
つまりそれは……

「ジャイアンでこれなら……僕達は一撃で死んでしまうんじゃないか!?」

あ、ドラえもんが言いたかったこと言ってくれた。そう、僕達の場合は一撃で終わってしまうのだ。
93: :2012/5/9(水) 22:54:48 ID:NeNQDk43GY
「何で!?レベルがまだ足りないっていうの!?」
「いや、でも雑魚敵は問題なく倒せて……」

予想外のピンチにスネ夫とドラえもんがもめはじめた。正直なところ、僕も混乱してるから混ざってやろうかとも思った。
そのため、その間にも巨人が接近していることに気付いてなかった。気付いていたのはただ一人。

「……試したいことがある。のび太、失敗した時は、またホミイ頼むぞ!」

僕にそう告げると、再びジャイアンは巨人に突っ込んで行った。
リプレイかと思うくらい同じ動作で巨人の足元を切りつける。巨人も同じく足元のジャイアン目掛けてキックを放つ。
ところが今回はジャイアンがそれを回避した。キックに対して左方向に飛び込んだのだ。
転がりながらも着地はしっかりとし、すぐさま姿勢を整えた。そしてジャイアンは僕らの方を見て叫んだ。

「やっぱりだ……こいつの攻略法つかんだ!ノーダメで倒せるぞ!」
94: :2012/5/9(水) 22:55:49 ID:NeNQDk43GY
ジャイアンの口から驚きの言葉が生まれたので、僕たちは詳細を訊ねずにはいられなかった。
巨人の動きに注意しつつ、ジャイアンは僕達の疑問を解決すべく、早口気味に説明を開始した。

「いいか!?あいつは接近戦しか仕掛けてこない!それにその直接攻撃も動作が大きくて軌道を読むのは容易い!つまり相手を良く見て先読みすれば攻撃を受けることはないんだ!」

普段から争いに身を投じるジャイアンならではの見事な考察である。

「さっすがジャイアン!よっ、暴力大将!」
「安雄をアームロックでギプス生活に追い込んだだけはあるね!」

その洞察眼を褒めたたえるため、僕やスネ夫はこう発言したのだが、何だか悪口にしか聞こえない。まあ言われた本人が喜んでるからいいか。
気を良くしたジャイアンは、攻撃にドラえもんとスネ夫も参加させて、一気に巨人を倒しにかかったのだった。
95: :2012/5/9(水) 22:56:43 ID:NeNQDk43GY
ドラえもんとジャイアンの直接攻撃に加え、スネ夫の「ラメ」という、大人向け作品で女性が言ってそうな炎系攻撃魔法で巨人を攻め立てた。
その甲斐あって、巨人のHPも半分を切り、折り返し地点に到達したのだった。

「いける!これならこいつを倒せるよ!」

ドラえもんがフラグのような発言をしてしまった。
そしてそのフラグを即座に回収するように、HPが折り返し地点を回ったところで、巨人の動きに変化が起こった。
巨人が突然背伸びをするように両手を掲げたのだ。
これは今までに見たことのない動きで、暴力大将ことジャイアンは警戒して巨人から距離を取った。
結果論で言えばこれがまずかった。
96: :2012/5/9(水) 22:57:39 ID:NeNQDk43GY
高く掲げたその両手を、巨人は素早く地面に叩きつけた。
するとどうしたことか、地面が激しく揺れ出したではないか。その揺れはすさまじく、僕達四人はその場から動けなくなってしまった。
しかも、巨人の方は揺れを苦にせず真っすぐ僕達に向かってきている。逃げなくてはならないが、地面の揺れのせいで足が言うことを聞いてくれない。
一方的に自由を得た巨人が向かった先は、スネ夫の方だった。
97: :2012/5/9(水) 22:58:25 ID:NeNQDk43GY
「スネ夫、逃げろ!」

逃げられないのは身を以て理解してるというのに、それでも叫ばずにはいられなかった。冷静に考えれば酷なことを言ってしまってる。
案の定移動ができるはずもないスネ夫は、すぐそばで自身を蹴ろうとしている巨人の姿を見届けることしかできなかった。
そして、

「あ……ああ……ママアァァー!!」

巨人の蹴りはスネ夫を吹き飛ばしたのだった。
98: :2012/5/9(水) 22:59:33 ID:NeNQDk43GY
ジャイアンの時と同じように、壁に叩きつけられ、地面に落ちる。
スネ夫には悪いかなと思いつつ、僕は当人の安否よりも頭上の数字の確認を優先した。

「そんな……」

スネ夫のHPは0になっていた。
つまりそれは、スネ夫の消失を意味していた。

「ママァー……」

叫びも途中のまま、しずかちゃんの時と同様にスネ夫は消えてしまった。
またも仲間を失ってしまったのだ。それも、今度は真剣に死なないように心がけた上で。
なおも地面は揺れている。だけど、揺れ以上に今はショックで動けなかった。
しかし巨人は待ってくれない。なんということだろう、巨人は次なるターゲットに僕を選んで歩きだしたのだ。
99: :2012/5/9(水) 23:01:47 ID:NeNQDk43GY
近づく巨人を見て、二人の最後の姿が脳裏に浮かんだ。
しずかちゃん、そしてたった今消えてったスネ夫。二人が砂となり空気に溶けゆく瞬間。
僕も今からそうなるのだろうか?ああなると、現実に戻れない僕の魂はどうなってしまうのか?
いろいろ考えてたら、それはいつしか僕の中で死の恐怖と化していった。
嫌だ、怖いよ……動けよ!僕の体!消えたくない、怖いよ!

「助けてよ、ドラえもん!!」
「のび太くん!!」

声のする方を向くと、視界はタケコプターで塞がれた。ドラえもんがこっちに投げてきたのだ。
顔面にあてながらもどうにかキャッチすると、ドラえもんは僕に指示してきた。

「本来は反則だろうけど、そうも言ってられない!ここは空中戦に持ち込もう!」
100: :2012/5/9(水) 23:02:34 ID:NeNQDk43GY
なるほど、咄嗟に秘密道具でやり過ごす作戦を思いついたのか。
迷ってる暇などない。僕はタケコプターを用いて揺れる地面から脱出したのだった。
空を飛んでから確認すると、ドラえもんもジャイアンも既に脱出を終えた後だった。

「ちくしょう!スネ夫の弔い合戦だ!覚悟しろよ豚野郎!!」

そう言ってジャイアンは巨人に突撃したのだった。
持ち場を空に変えても、ジャイアンの戦いっぷりは見事だった。
さすがははる夫をアンクルホールドで松葉杖生活に追い込んだだけはある。天性の戦闘センスというべきか。
地震は巨人の切り札だったのだろうが、空中戦でそれを封じた以上、もはやジャイアンの敵ではなかった。
数分後、我が方の戦士が巨人のHPを0にしたのだった。
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