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幼い兄、進むはモノクローム
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1: :2012/3/13(火) 20:41:31 ID:JCMcRY0PdY

とある森。

光を浴びた小さな草むら。

花の香りの染み付いた、朽ちた梯子は木にもたれ、その脇近くの土の上には虫が群がる。そこから少しの距離置いて、またも群がる小さな虫。

静かな森に二つの羽音が広がった。




172: :2012/8/19(日) 08:55:27 ID:SW8nJ9Dce2

それは色の付いた記憶でした
モノクロームに包まれて
色彩を忘れていた少年の

いつかのどこかの、その記憶
もう少しで届きそうなのに届かない


その記憶


必死でその記憶を探っていると、
いつの間にか少年が手をついていた壁は無くなっていました
代わりに、真っ暗で先の見えない
洞窟のような穴が目の前にありました
173: 早いですがこれで更新終了です:2012/8/19(日) 09:01:01 ID:SW8nJ9Dce2

少年は虚をつかれ、
ただ奥の暗闇を見据えることしかできません

ふいに吹いた突風が
少年を穴の奥へいざなって

その姿は暗闇に消えて行きました


174: :2012/8/19(日) 23:52:14 ID:ei5XHQhyKM
つい先程知ったのですが、なんとこの話が今回のSSランキングに入っているようです!
まさかランクインしているとは思っていなかったので、とても驚きました。

投票して下さった皆さん、ありがとうございます!!
自分が思っていたよりもこの話を読んで下さっている方がいると判り、ちょっと舞い上がっております。

改めて、この話に目を通して下さった皆さんに最大級の感謝を。本当にありがとうございます。
もしよければ、あともう少しの間お付き合い頂ければと思います。

それでは、また明日。失礼いたします。

175: :2012/8/20(月) 19:30:52 ID:pBtoJZVKDU

少年が飲み込まれた真っ暗な穴
その奥には森が広がっていました

突風に押されたその体は、ひんやり冷たい土の上
勢い良く叩きつけられます
その強い衝撃に、少年は意識を手放しました

気を失っていくばくか、


少年は目を覚まします

ぽつり、草むらに四肢を投げ出して
目を数度しばたかせ
土と草の冷たい感触を手に感じ
少年は一人、立ち上がります

視界にひろがるモノクロームのこの森は
少年がはじめに目覚めたあの景色と同じものでした
まったく同じものでした


176: :2012/8/20(月) 19:34:09 ID:fJfrMk8NYA

少年は振り出しに戻って来たのです

何故、どうして、
そんな疑問よりも真っ先に、少年の瞳には絶望の色が浮かびます


しかし少年はもう止まりません

だって、だって、
少年は妹に会いたいのです


177: :2012/8/20(月) 19:44:03 ID:pBtoJZVKDU

さわりと揺れる空気に包まれ
帽子のつばをくいとひき
ぱきり小枝を足で踏み
輝き変わらぬそのまなこは前見据え

数時間前と同じ景色の中
とにかく前へ前へと進みます


壁の前で一度見た、
脳裏にこびりついて離れない
でも思い出せないあの景色が何なのか
心の隅で考えながら

178: :2012/8/20(月) 19:52:48 ID:fJfrMk8NYA

少年はもう、初めの様に身軽に障害物を乗り越えて進むことは出来ませんでした
慎重に坂を下り、木々の凹凸を歩きます

小さな障害物を進んで行けば
もうすぐあの大きな川が見えるはずでした

しかし進めども進めども、数時間はあったはずのあの川にあたることはありません

同じ道を進んでいるはずなのに
段々と数時間前とは掛け離れた風景が広がっていくのです

そして、
進んだ先にあったのは、



179: :2012/8/20(月) 20:00:19 ID:pBtoJZVKDU

蝶々がはらりと飛び回り
花の香りがふらり漂う、
光を浴びた草むらです

そこには少女がいました

あそこで一度見かけた幻覚と同じ風景でした

木漏れ日にきらきら髪を輝かせ
綺麗な梯子のかかったその脇で
せっせと花つむ小さな少女

今度は幻ではないだろうか、消えてしまわないだろうか
少年は少し疑います

あの幻想は少なからず少年の恐怖になっていたのですから


180: :2012/8/20(月) 20:02:03 ID:pBtoJZVKDU

しかし花の香りは本当です
少女が動く度にさわりと揺らぐ、草の音も本当です

間違えるはずがありません

あれは、確かに
本当に探していた妹だ


大切な大切な、妹だ



181: 1 本日の更新はここまでです:2012/8/20(月) 20:04:25 ID:fJfrMk8NYA

踏みしめるように、

一歩、
また一歩と妹の元へ歩み寄ります

ふいに少女が、頭を上げました
驚いて少年は、立ち止まります


そして、少年は思い出しました



182: :2012/8/21(火) 19:06:00 ID:bEGGp0MEuA

      * * *


少年には妹がいます
無邪気で少し泣き虫な、大切な妹です

あるとき少年と妹は絵本を読みました
少年と少女が森を冒険するお話です

絵本の中の冒険に憧れた二人は目を輝かせ
いつか森へ行くことを指切りしました

183: :2012/8/21(火) 19:07:59 ID:nomryNie92

それから少しの時が経ち

二人はありったけのお小遣いを持ち合わせ
遠くを目指してバスへ乗り込みました

二人の家はコンクリートに囲まれた都会の真ん中
近くに森などないのです

幼い二人はこのささやかな遠出を冒険に見立て
綺麗な瞳を輝かせます

バスの終点、
大きな森のそのふもと
お金は何とか足りました


184: :2012/8/21(火) 19:08:51 ID:bEGGp0MEuA

今から始まる冒険に、
二つの小さなその胸は期待でいっぱいに膨らんで


これから起きる出来事を予期など、出来たはずがないのです



185: :2012/8/21(火) 19:10:06 ID:nomryNie92

木々が鬱蒼と生い茂る森の中
少年と妹は仲良く手を繋ぎ
さくさく地面をならしながら森の奥へと進みます

木の葉がそよぐその音が
青葉の間から漏れる光が
土から漂うひんやりとした空気が、匂いが

全てが二人には新しく
疲れも忘れて歩を進めます


186: :2012/8/21(火) 19:13:25 ID:bEGGp0MEuA

ふと少女が小さく悲鳴をあげました
少女の足に大きな蜘蛛が這い寄ってきていたのです

このままでは妹が泣いてしまう、

少年も虫が苦手でしたが
妹のために勇気を振り絞り、足元にあった太い木の棒を拾い振りかぶって
真っ黒な蜘蛛をめった打ちにしました


ばらばらになった後、
ぴくり、と一度動いた蜘蛛の足が不気味だったのを少年は覚えています

もはや粉々になった蜘蛛は見向きもせず、二人はまた手を繋いで歩きだしました



187: :2012/8/21(火) 19:16:02 ID:bEGGp0MEuA

少女は歩いては立ち止まり、森に落ちているものを珍しそうに拾い上げます

拾った物の一つの王冠を、嬉しそうに少年に手渡します
少年はそれを受け取ると大切そうにポケットにしまいました


はらり、白い蝶々が少年と少女を追い越して行きました
二人は森の随分奥に進んだようでした

二人は蝶々を追って走り出します

188: :2012/8/21(火) 19:25:07 ID:nomryNie92

少年が妹を引っ張り走って行くと、色とりどりの花々が目に入りました

気づくと二人は木漏れ日眩しい小さな花畑に出ていました

少女は少年の手を離しその中に駆け出します
花畑の真ん中でしゃがみ、にこにこしながら花を摘み始めます


花摘みに夢中になった妹が面白くない少年は、
その花畑の脇にある大木に近づくと木登りすることにしました

189: :2012/8/21(火) 19:30:07 ID:bEGGp0MEuA

ごつごつした幹の突起につかまり上へ、上へ
とても高い所まで登ります

少年は、分岐した枝の一つが妹のいる花畑の方に伸びている事に気づきました
元々身軽な少年はしなる細い木の枝を平均台のように渡り、
妹のちょうど真上に立ったのです

見下ろすと、下にいる妹がただの豆粒の様に見えてなんだか楽しくなりました
こんなに高い所まで来たのだと、妹を驚かそうと声を上げかけた時です


190: :2012/8/21(火) 19:33:02 ID:nomryNie92

みし、木の枝が嫌な音を立てました

少年は危機を察して枝の付け根に走って戻りました

少年が走ったその拍子
木の枝は少年の足場を残し、ばきり折れてしまいました


191: :2012/8/21(火) 19:34:01 ID:bEGGp0MEuA

折れた木の枝は真っ逆さま
太く鋭いその棘は
加速し静かに落ちてゆく
幼い少女はそれに気づかず花を摘む


少年ぱちりと瞬きをした、その瞬間


折れた木の枝少女を貫く


一拍おいて少女は倒れる
その手にあるのは赤一色の花二つ


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