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少女「止まないのう…雨」
[8] -25 -50 

1: ◆AhbsYJYbSg:2011/6/15(水) 22:57:24 ID:l7FkHhEbE2
SSスレです。内容はどちらかというとシリアスが中心になります。

では、よろしくです。
>>0


2: 名無しさん:2011/6/15(水) 22:57:48 ID:BDKRTRECcU
(´^し_、^` )
にげと
3: 名無しさん:2011/6/15(水) 22:59:04 ID:pob3n5xHUo
トトロと聞いて。
4: 名無しさん:2011/6/15(水) 22:59:32 ID:tC2Fo0C.cE
チェケラッチョ
5: 名無しさん:2011/6/15(水) 22:59:47 ID:wsAD9074xU
とろろ?
6:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/15(水) 23:05:27 ID:xmOAAvkvQo
6月某日(水)

ザアアァ


少女「まぁ、梅雨なんぞこんなものか」

少年「…あ!」

少女「!」

少年「あの…は、初めまして!」

少女「…」

少年「えっと…」

少女「何か用か?」

少年「ん…キ、キレイな髪の毛だねっ!」

少女「長髪がそんなにめずらしいか」

少年「う…」
7: 名無しさん:2011/6/15(水) 23:07:32 ID:BDKRTRECcU
進撃の巨人のジャンとミカサが初めて話したとこみたい
8:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/15(水) 23:10:11 ID:BDKRTRECcU
ザアアァ

少年「ぇっと…か、可愛い傘だねっ!」

少女「ただの黄色い傘じゃろう」

少年「くぅ…っ…えと…」

少女「まだ何か?」

少年「…ぐすっ」

9:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/15(水) 23:18:49 ID:Dsu7jkcuyE

少女「…」

少年「なんか…ごめん…」

少女「…」

少年「その…っ、友達に、なり」

少女「ことわる」

少年「……そ……か…」

少女「名前も名乗らず、いきなり友になれは無いじゃろう。小僧、名は?」

少年「!…あ、えと、りく!佐藤陸!!」

少女「りく…なんというか…ありきたりな名じゃな」

陸「ひど…っ!…君の、名前は?」

少女「ひみつ」

陸「えっ!」

10:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/15(水) 23:27:39 ID:NgAEs4NAMk

少女「ふ…冗談じゃ。わら…私の名は、」

少女「千代、じゃ」

陸「チヨジャ…ちゃん?外国人?」

千「違う!ち・よ!」

陸「チヨ…ちゃん?」

千「そうじゃ。生まれも育ちも東北の、れっきとした日本人。あとちゃん付けはやめろ」

陸「千代ちゃんは、こんなところで何してるの?」

千「人の話を聞けバカ者っ」

11: 名無しさん:2011/6/15(水) 23:38:32 ID:PtnBJHNVv6
あめーさんさんとー
12:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/15(水) 23:40:12 ID:xmOAAvkvQo

千「おぬしこそ…この公園で何をしておったのじゃ?」

陸「ん…おにごっこ」

千「一人でか?」

陸「……うん」

千「一人で走り回るのはただの『まらそん』じゃろ。友達はおらぬのか?」

陸「…皆…僕のこと、好きじゃないから…」

千「…」

陸「だから、いつも独りなんだ……あ!でも、別に寂しくないよっ」

千「…」

陸「一人でいるの、嫌いじゃ…ないし…」

千「…かくれんぼだったら、」

陸「え?」

千「付き合ってやっても、いい」

陸「!…うんっ!!」

千「…いいから、さっさと隠れろ!はいさーん、にーい、」

陸「ちょ…早っ!」

13:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/15(水) 23:47:33 ID:MtEPDD/kP2
―――

ザアアァ

陸「あー楽しかった!こんな風に誰かと遊んだの、すごく久しぶり…」

千「…良かったの。…さ、もう遅い。家に帰る時間じゃ」

陸「…うん、今日は…ありがとう…」

千「どうした?」

陸「…あの、さ…」

千「?」

陸「もし…良かったら、友」

千「だめじゃ」

陸「」

14: 名無しさん:2011/6/15(水) 23:49:17 ID:J/pYDrIQLY
C
15:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/16(木) 00:03:17 ID:MtEPDD/kP2

千「…と、思ったが…まぁ、たまーになら遊んでやっても良いぞ」

陸「っ!ほんと!?本当にっ!?」

千「(そんなにはしゃぐ事か…)あ、ああ…本当じゃ」

陸「じゃあ…はい!!」

千「?…これは?」

陸「折り紙だよ。何か分かる?」

千「…かえる」

陸「当たり!…友達の、しるし」

千「!」

陸「またね、千代ちゃん!!」バシャバシャ



千「…わらしをちゃん付けにするな、バカ者が…」ボソッ

千「…友達、か…懐かしい響きじゃ…」

(わしら、ずーっと友達でいよう。約束じゃ!)
(うんっ!)


千「…」

?「情でも移った?」

千「…」

?「あんま深入りしない方がいいよー。所詮人間なんだからさ」

千「…分かっておる…」

16:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/16(木) 00:26:40 ID:Dsu7jkcuyE

ザアアァ

陸「ただいまー!」

犬「ワン!ワンワン!」

陸「ただいま、ベル」

父「お帰り。遅かったなぁ」

陸「お父さんただいま!…遅くなってごめんなさい」

父「いいや、無事に帰ってくれてホッとした。学校は楽しかったかい?」

陸「……うんっ!もちろんっ」

父「そうか…それは何よりだ」

陸「…あのねお父さん、今日僕、新しい友達が出来たんだ!」

父「それは良かったね!…さあ、その話は後でゆっくり聞こう。早くカッパを脱いでシャワーを浴びて来なさい。今日の夕飯は陸の大好きなハンバーグだ」

陸「本当?やったー!!」トタトタ…バタン

父(…陸が良い子に育ってくれて、お父さんは嬉しいよ。
これでもう少し気が強ければ言うこと無いんだけど…それは高望みだろうね。

陸は君にそっくりの優しい子だよ、理恵…)


父「さて、と…ベルもごはんにするかい?」

犬「ワンっ!」

TV「…6月初めに発達した梅雨前線は、去年の数倍の勢力で全国に大雨をもたらしています。このままですと7月、8月も同様に大雨の可能性が…」


ザアアァ
17: 名無しさん:2011/6/16(木) 00:31:50 ID:dB0.cNFUyk
またSSか……
18: 名無しさん:2011/6/16(木) 00:34:16 ID:pYDFDfKhpo
ロリババア!!ロリババア!!
19: 名無しさん:2011/6/16(木) 00:41:22 ID:aSIlGt8xq.

支援つC
20:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/16(木) 00:49:05 ID:QLq5.Ixv3Y
6月某日(木)・弱雨

赤香町・ふれあい公園

サアアァ


陸「…あっ」

千「む」

陸「えへへ…また会えたね」

千「…わざわざこの雨の中来たのか…つくづく変わった奴じゃの」

陸「なんだか、会えるような気がしたんだ…今日は何して遊ぶ?」

千「…?…おぬし…」

陸「?」

千「その顔は…どうしたのじゃ?」

陸「!…ぇ…えと、か、階段で転んで…」

千「…陸。わら…私は、嘘は大嫌いじゃ。相手を悲しませる類のものは、特にの」

陸「う…」

千「誰にやられた?」

陸「…」

千「言うてみい。ほれ」

陸「…学校の、友達に…」

千「顔にあざが出来るほど殴るのが…友達か?」

陸「…っ」
21:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/16(木) 01:06:04 ID:G8lHzL2u4M
―――

サアアァ

千「そうか…いじめ、というやつじゃな」

陸「…きらいに、なった?」

千「?」

陸「僕のこと…」

千「何故じゃ?」

陸「だって、男のくせに弱いし…やり返すことも出来ない…情けないよ…」

千「男も女も関係ないじゃろ」

陸「…っ」

千「誰にでも得手不得手はある。確かにおぬしは人より気の弱いところがあるやもしれん。他人に殴られ、悔しい思いもするじゃろう」

陸「…」

千「じゃが、そこでやり返す事をせんのはおぬしの優しさ故。それを情けなく思う必要など、あるわけがない」

陸「そう…かな」

千「バカ者。もっと自信を持て」ナデナデ

陸「うん…ありがとう、千代ちゃん」

千「じゃからちゃん付けは…はぁ…もう良い。好きに呼べ」

陸「へへ…うん!」
22:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/16(木) 01:09:35 ID:QLq5.Ixv3Y
今夜はここまで。レス下さった皆さん、ありがとうございます。
(*^^*)
23:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/17(金) 21:44:25 ID:l7FkHhEbE2

千「さて…顔でそれなら、体はもっとあざだらけなんじゃろうな…今日は安静にしておれ。走り回るのは禁止じゃ」

陸「え…でも、それじゃ…」

千「体を使うものだけが遊びではない。例えば…そこのあずまやで、私に昨日の…かえるの折り方を教える…とか」

陸「えっ」

千「べ…別にあれが気に入ったとかでは無いぞ!?気分じゃ。そういう気分なんじゃ!!」

陸「気に入ってくれたの?わー!嬉しいな!」

千「じゃから人の話を」

陸「行こ、千代ちゃん!」バシャバシャ

千「…はぁ…まあ良いか…」


サアアァ
24: 名無しさん:2011/6/17(金) 21:48:25 ID:2HTPjV.xsc
面白い。
25:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/17(金) 21:57:40 ID:G8lHzL2u4M

千「なかなか難しいな…」オリオリ

陸「紙用意してたんだね…好きなの?折り紙」

千「…ふむ、まともに折れるのは鶴くらいじゃが…嫌いではない」

陸「そっか!僕も好きだよ。千代ちゃんは、誰かに教えてもらったの?」

千「ああ…昔、な…。おぬしこそ、どうやって折れるようになったんじゃ?」オリオリ

陸「僕は…教えてもらったんだ…お母さんに」

千「母上殿に?」

陸「うん。とっても優しくて、あったかい人なんだ…」

千「ほう…おぬしの優しさは母譲りか。ご両親は息災か?」

陸「お父さんは元気だよ。お母さんは…分かんない」

千「?」

26:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/17(金) 22:06:39 ID:tC2Fo0C.cE

陸「5年前…僕が4歳の時に、いなくなっちゃったんだ…」

千「…そうか…」

陸「うん。…でも、お父さんがいるから平気。…あ、ほら!そこを折れば、かえるの完成だよっ!」

千「む…できた!出来たぞりく!!」

陸「おめでと!」

千「よーし…あと百匹じゃ!」

陸「ちょっ…!」

27:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/17(金) 22:13:47 ID:jY3AzaRTlY

サアアァ

千「む…暗くなってきたな。陸、そろそろ帰る時間じゃ」

陸「もうそんな時間かぁ…千代ちゃんといると、あっという間だね」

千「…すまんの。おかげで蛙がますたーできた」

陸「ううん、とっても楽しかったよ。…そういえば千代ちゃんて、どこに住んでるの?」

千「知りたいか?」

千「私が住んでいる場所はの…」
28:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/17(金) 22:25:30 ID:vmvGe1KNEw

千「ひみつじゃ」ドーン

陸「えー」

千「…心配せずとも、ちゃんと帰る家はある」

陸「また…明日会える?」

千「ふむ。会ってやらんこともない」

陸「やったー!!…はい、これ」

千「!…これは…」

陸「今日のはアヤメ。…また明日ね!」

千「あぁ…また、明日」


サアアァ


千「ふふ…友達のしるし、か…」

?「深入りするなって言わなかったっけ?」
29:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/17(金) 22:35:47 ID:Dsu7jkcuyE

千「仕方ないじゃろう『からかさ』。わらしらのおる場所に来るんじゃ。相手をせぬ訳にもいくまい」

傘「分かってないな〜…人間だよ?相手してどうするつもり?」

千「…放っとけないんじゃよ…何故かな」

傘「そりゃ、君は子供のために生まれた妖怪、『座敷わらし』だもの。気になって当然さ」

千「…」

傘「子供はいつまでも子供じゃない。彼らに忘れられる苦しみは、もう嫌というほど味わったでしょう?」

千「…そうじゃな」

傘「ったくも〜…あ。そうだ言い忘れてた」

千「?」
30: ◆AhbsYJYbSg:2011/6/18(土) 09:14:17 ID:NgAEs4NAMk
>>24
ありがとうございますっ
31:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/18(土) 09:23:13 ID:G8lHzL2u4M

傘「今日の夜、『雪ん娘』がこの町に着くってさ」

千「…これで全員…いよいよ、か…」

傘「なんか乗り気じゃないね…まぁいいけど」

千「…からかさは…後ろめたくはないのか?」

傘「別に?だって僕『妖怪』だもん。僕を捨てた人間なんて、どうなろうと知らないさ」

千「…」

傘「顔合わせは夜中の2時から。僕らには…お似合いの時間だよね」

千「…そう、じゃな…」


サアアァ
32:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/18(土) 09:37:50 ID:G8lHzL2u4M

赤香町・佐藤家


陸「ただいまー」

犬「ワン!ワンワン!」

父「おかえりー。今日も遅かっ……陸!?どうしたんだその怪我!!」

陸「う、うん…学校の、階段で…」

―『…嘘は大嫌いじゃ。人を悲しませる類のものは、特にの…』―

陸「…」

父「?…陸?」

陸「…っ、ごめん…お父さん」

父「…」

陸「僕…本当は、学校でいじめられてて…」

父「…」

陸「頑張って…仲良しになろうとするんだけど…上手くいかなくて」

父「…」

陸「それで…新学期からずっと、無視されたり、物を隠されたり…でも今日、初めてこんなにいっぱい殴られたり、蹴られたりした…」

父「…陸…」

33:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/18(土) 09:53:32 ID:tC2Fo0C.cE

陸「ごめんお父さん。うそついてて…ごめ、っ!?」

父「…っ」ヒシッ

陸「!お父さん、濡れちゃうよ…」

父「陸は謝らなくていい。謝らなくちゃいけないのは、お父さんの方だ」ギュッ

陸「…お父さん…」

父「ごめん。陸がこんなに苦しんでるのに気付けなくて…本当に、本当にごめんな」

陸「…」ギュッ

父「今まで、独りで辛かったろうね」

陸「…ううん。そんなことないよ。1人だけ…『自信を持て』って、はげましてくれる子がいたから…」

父「?」

陸「その子…千代ちゃんと出会えたから、辛いのなんか…吹っ飛んじゃったよ!」

父「千代ちゃん…昨日話してくれた女の子かい?」

陸「うん!」

父「そうか…陸は、その子のことが大好きなんだね!」

陸「えへへ…うん。大好き」

犬「…クゥーン…」


ザアアァ

34:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/18(土) 10:05:09 ID:MtEPDD/kP2
6月某日(金)・雨

赤香町・無人の屋敷

ザアアァ

?「さてと…それでは、始めましょうか皆さん」

?「つーか…なんでおめぇが仕切ってんだよ」

?「相変わらずうるさい男ですね…ただでさえ暑苦しいっていうのに」

?「あ!?喧嘩売ってんのか伊達メガネ」

?「これだから筋肉馬鹿は…」

傘「はいストップ。いい加減にしようね〜、『夜叉』に『鎌いたち』」


35:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/18(土) 10:18:56 ID:NgAEs4NAMk

夜「これは私としたことが…申し訳ない」クイッ

鎌「…ふんっ」

?「ウフフ…男ん子は血の気が多いどすなぁ」

千「…全く…」

夜「おや…そういえば、雪ん娘さんはどちらに?」

傘「彼女は後から来るってさ」

?「アラ…雪ちゃん、具合が悪いんどすか?」

傘「心配しないで、『濡れ女』。多分、恥ずかしがってるだけだから」

千「…からかさ、その姿では不便じゃろう」

傘「ああ…そうだね」スゥッ

濡「あらぁ…相も変わらず、人型はずいぶん可愛らしいこと」ヒラヒラ

傘「さてと…皆初対面ってわけでも無いし、自己紹介はいらないよね。
僕らが集まった目的はただ一つ…『人間』に、復讐する為」

千「…」

36:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/18(土) 21:03:48 ID:vmvGe1KNEw

傘「ここに集まってもらったのは、それぞれ人間に恨みを持った妖怪たちだ。
皆も知っての通り、人間はどうしようもなく汚くて愚かな生き物…いや、生き物と呼ぶことすら、他の動物たちに失礼かもね…。
地球の資源を食い荒らし、僕たちを勝手に生み出したあげく…酷く裏切った。彼らは言わば、この星に巣くう『病原体』だ」

濡「…」

千「…っ」

傘「今回の計画には、世界中の妖怪・精霊が賛同してる。そして先陣を切るのがここ、東京の外れ…桜田市」

鎌「…なぁ、なんで最初っから首都を狙わねぇんだ?その方が手っ取り早いだろ」

夜「はぁ…貴方は脳みそまで筋肉なんですね」

鎌「ああっ!?」

夜「今回の計画は言わば、テストケースなんですよ。だからこそ、人口50万人以下の中規模都市を狙った…データをとる為に」

傘「そういうこと。
桜田市はその名の通り、桜の花の形をした市だ。中心にここ赤香町、周りの花びらに当たる場所には、北から時計回りに銀朱町・青丹山・瑠璃岬・藤ヶ丘・白練台がある。皆には、この六ヶ所を壊滅させてもらいたい…それぞれの能力でね」

37:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/18(土) 21:15:57 ID:BDKRTRECcU

傘「分かるかい?僕らの行動が、地球を救うんだよ!」

夜「可哀想な人間たち…いっそ安らかに眠ってもらいましょう」

鎌「ふん…興味ねぇな。俺は、派手に暴れられさえすりゃ何でもいい」

夜「…これが本当の戦闘バカですね…」ボソッ

鎌「…あんだとコラ」

濡「フフフ…ほんでもまぁ、憎い人間がやっといなくなるかと思うと、うれしーような、さみしーような…座敷はんはどない思う?」

千「…」

濡「座敷はん?」

千「本当に…これでいいんじゃろうか…」

夜「?」

鎌「あ!?」

傘「……はぁ…」

38:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/18(土) 21:29:13 ID:xmOAAvkvQo

千「確かに、人間は汚くて愚かかもしれん。じゃが、それはほんの一部のはず。中には心の清い者も…」

傘「いい加減にしてもらえる?どれだけ人間に裏切られれば気が済むわけ?」

千「…からかさ、」

傘「もう散々…50年以上も僕らは話し合ってきたよね。そしてこれが結論だ!今さらそれは無いんじゃないの?」

千「…じゃが、やはりこんな方法は間違っておる。
わらしらがやろうとしておることは、『地球の為』という大義名分に隠れて、ただ己れの恨みを晴らそうとしておるだけではないか!!」

傘「…………!」

傘「あ〜…なるほどね…」

千「…?」


39:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/18(土) 21:38:29 ID:jY3AzaRTlY

傘「あの子供が原因でしょ?やっぱり情が移ったんだね」

千「違っ…陸は関係ない!」

夜「?…なんの話ですか?」

鎌・濡「…?」

傘「深入りするなって、あれほど言ったのに…っ」

千「…あの子を…陸を、悲しませたくないんじゃ…」

傘「たかが2日でそこまで感情移入できるなんて、さすが座敷わらしだね!ほんっとどうかしてるよ」

千「…」

傘「…分かった…どうやら一番最初にすべきことは、あの子を消すことみたいだね…」

千「!止めろ、からかさ!!」

40:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/18(土) 21:53:05 ID:vmvGe1KNEw

?「…やめて…2人とも…」

傘「!」

千「…『雪ん娘』…」

雪「…今は…けんかしてる時じゃ…ない」

千「…」

傘「…確かにそうだね。何しろ計画実行まで、あと1ヶ月もないんだから」

雪「…おらも…迷ってる…人間が、ほんとに…ひどい生き物なのか…」

夜・鎌・濡「…」

雪「本当に…救うに値しない…のか」

千「雪ん娘…」

傘「はぁ…じゃあどうするの?このままで良いはず無いじゃん。それに、これは僕たちだけの問題じゃないんだよ」

濡「…なるほどなぁ…だいたい分かりましたわ。要はその『陸』ちゃんに、座敷はんが惚れてしもたんどすなぁ…」

千「な…ち、違うっ!//」

夜「そうなんですか!?…それはまた…」クイッ

鎌「あんだと!?座敷、お前…」

千「…時間を…くれぬか」

傘「…」

41:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/18(土) 22:03:42 ID:MtEPDD/kP2

千「10日…いや、一週間でいい!それまでに、妖怪皆に納得してもらえる方法を見つける…じゃから…」

傘「…無理に決まってるじゃん、そんなの」

千「…頼む」ペコッ

傘「はぁ…皆の意見は?」

夜「私はどちらでも。まぁしかし、人間を救うべきだとは思いませんがね」

鎌「ふん…座敷には恩があるからな…待ってやるよ」

濡「フフ、座敷はんのたっての頼み…断る理由はあらへんなぁ」

雪「…」ニコッ

千「!…みんな…」

傘「…分かった、一週間あげる…ただし、条件が一つ」

42:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/19(日) 20:03:19 ID:LYdCTbqa1c

傘「彼…佐藤陸に、自らの正体を明かし…受け入れさせること」

千「…!」

傘「そこまで言いきるんだったら、やってごらんよ。まあ、きっと妖怪だって分かっても、優しい陸くんなら友達のままでいてくれるはず…だよね?」

千「…ああ。わらしは、そう信じておる…」

傘「…決まりだね。じゃあ、今夜はこれでお開きにしよう。
皆には、しばらくの間待機してて欲しい。幸いこの屋敷の持ち主は今海外にいるから、好きに使ってかまわないよ。
じゃ、みんなまたね〜」スゥッ

夜「了解しました」シュッ

濡「そんなら、皆はんお休みよし…」スルッ

雪「…」フワッ

鎌「…」

千「?鎌いたち…どうした?お主も行かぬのか?」

43: 蝶・専半島:2011/6/19(日) 20:13:25 ID:sjK4Tuv5aE
こい牛鬼!
44:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/19(日) 20:16:18 ID:NgAEs4NAMk

鎌「座敷…いや、『千代』…お前、本気で人間の味方するつもりかよ?」

千「…」

鎌「忘れたのか?お前は昔、人間に…」

千「『疾風(はやて)』!」

鎌「!」ビクッ

千「それ以上は…言うなっ…!」

鎌「…わりぃ…」

千「とにかく…わらしはあの子を…陸を信じる。それだけじゃ…」フゥッ



鎌「…行っちまったか…」

鎌「『子供のために生まれた妖怪』、座敷わらし…なんでお前はいつも、自分が一番辛ぇ道を…選んじまうんだろうな…」


ザアアァ

45:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/19(日) 20:19:59 ID:NgAEs4NAMk
>>43
おうっ!!レスして頂けるなんて…ありがとうです。
(T_T)

46: 名無しさん:2011/6/19(日) 20:21:12 ID:GW4bkIoi/Q
先の展開が気になる支援
47:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/19(日) 20:25:28 ID:l7FkHhEbE2

?「…一週間?」クルクル

?「はい。時間が欲しいそうです」

?「ふ…まぁいいか。まだ時期ではないし…それにもう、何をしようと手遅れなのだからな…」クルクル

?「…そうですね」


48:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/19(日) 20:42:22 ID:Dsu7jkcuyE

赤香町・ふれあい公園

サアアァ

陸「…あれぇ…今日遅いなぁ、千代ちゃん…」

?「あ〜…やっぱりここにいたのか」

陸「?……っ!!」ザワッ

少年A「ったく…てめぇの親が学校に言いつけたせいで、昼間は散々怒られたんだけど」

少年B「どうおとしまえつけんだよ、あっ!?」

少年C「…」オドオド

陸「な、なんで…ここに…」

A「あ?…くくっ、当然だろ。学校じゃ有名だぜ?この公園で、毎日てめぇが独り寂し〜く遊んでるってよ」スタスタ

B「独りじゃあさみしいだろ?…おれらと遊ぼうぜぇ」ザクザク

C「…」

陸「ぅ…あ…」ガタガタ

49:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/19(日) 20:45:38 ID:MtEPDD/kP2
>>46
支援ありがとうです!とても励みになりますっ
50:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/19(日) 20:56:43 ID:LYdCTbqa1c

A「そうだな〜サッカーはどうだ?俺たちが選手で、ボールはもちろん、お前」ニヤッ

陸「…っ」ダダッ

A「おっと」ダッ…ガシッ

陸「!」

B「はっ…バカかお前!?Aは空手黒帯だぜ?運動おんちのてめぇが、逃げられるわけねぇだろ!!」

A「そういうことだ…なっ!っと」ドカッ

陸「わっ!」ドサッ

A「ん…なんだこりゃ?」カサッ

陸「…!」

51:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/19(日) 21:18:22 ID:NgAEs4NAMk

B「ぷっ…ははっ!なんだ?てめぇ男のくせに、折り紙なんかしてんのか?ダッセ〜!」

A「はっ…しかも今時、紙飛行機なんて作ってんのかよ?」

陸「っ…返せっ!」

A「…ふん…」グシャ

陸「!」

A「ちょっとは頭使えよ…
返すわけねぇだろ!!この俺が!」ニヤニヤ

B「いいぞA!あっはははっ!」ゲラゲラ

C「…っ…」オドオド

陸「…なんで…っ」

A「あ?…てめぇが気持ち悪いからに決まってんだろ」

陸「…っ」

A「俺たちが裏山でいじめてた子犬勝手に助けたり、担任のサイフ盗んだの知ってたり…目障りなんだよ、お前」

B「なぁー、早くコイツやっちまおーぜ」

陸「…っ」ジリッ

A「ふん…せいぜい泣けよ。こんな雨だ、どうせ誰も来な…」

?「おい」
52:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/20(月) 21:35:28 ID:jY3AzaRTlY

A「…っ!」

B「な、なんだ!?どっから声が…」

陸「!」

鎌「昼寝の邪魔だ…静かにしろ」

A「なんだコイツ…ずっと木の上にいたのか!?」

B「…っなんだよ!おめぇ、なんか文句あんの…」

鎌「…失せろ」ギラッ

B・C「…ひ…っ」ダダッ

A「あ、おいてめぇら!…くそ、おい陸!覚えとけよ。今度会ったらボコボコにしてやるからなっ!!」ダッ

陸「…」

鎌「…」

陸「…ぇと」

鎌「…」

陸「…あ、ありが」

鎌「なんで抵抗しねぇ?」

53:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/20(月) 21:46:52 ID:BDKRTRECcU

陸「えっ」

鎌「…」シュッ…スタン

陸「わっ!」

鎌「やられっぱなしでいいのか?…チビ。あのガキ共、多分また襲ってくるぞ」

陸「…む…チビじゃ、ない…」

鎌「チビだろ。俺の腰くれぇしかねぇし」

陸「でも…チビじゃないもん…」

鎌「ふん…お前、弱いだろ」

陸「!」

鎌「お前みたいにビクビクオドオドしてるヤツを見ると、苛々すんだよな…」

陸「…たしかに、僕はケンカは弱い…けどっ!」

鎌「…!?」

陸「心までは…弱く、ないっ!」

54:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/20(月) 22:01:07 ID:LYdCTbqa1c

鎌「…へぇ…!言うじゃねぇか。だったら、それが本当かどうか確かめてやるよ」

陸「え…?」

鎌「鍛えてやるってんだ。どうせ当分ヒマだしな」

陸「…えっと…ニート?」

鎌「ちっげぇし!ただヒマなだけだアホっ!」

陸「あはは…でも、僕は…」

鎌「なんだ…強くなりたくねぇのか?誰か守りたいヤツはいねぇのかよ?」

55:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/20(月) 22:09:50 ID:jY3AzaRTlY

陸「…!…いる」

鎌「へえ…彼女か?チビのくせに…」

陸「む…だから、チビじゃ…」

鎌「ははっ、まあいいや。よろしくな、チビ」

陸「むぅ……そういえば、お兄さんの名前は?」

鎌「なんでもいいぜ。好きに呼べよ」

陸「じゃあ…にー(と)さん」

鎌「却下」

陸「プーさん」

鎌「却下っ!てめぇ遊んでるだろ!!」

陸「えへへ…じゃあ…『兄ちゃん』」

鎌「…!」

56:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/20(月) 22:23:28 ID:Dsu7jkcuyE

(疾風兄ちゃんはえー!)
(いいなー。おれたちも、早く兄ちゃんみたいになりてぇや!)


陸「…?」

鎌「兄ちゃんか…悪くねぇな」


鎌「よし、じゃあ強くなるための特訓だ。俺の指導は厳しいぜ…?」ニヤッ

陸「よ、よろしくお願いします…」ペコリ

鎌「んじゃ、場所移動すっか。雨ん中で風邪引かれても困るしな」

陸「え…どこに?」

鎌「俺んち」

陸「うーん…でも知らないおじさんに着いてっちゃいけないってお母」

鎌「だ〜れが『おじさん』だって!?」ゴォッ

陸「ひぃ…冗談ですっ…」ガタガタ



サアアァ
57: 名無しさん:2011/6/20(月) 23:57:16 ID:IeeBRjbEJo
ワクワク(≧∇≦)
更新楽しみにしてます!!
58: ◆AhbsYJYbSg:2011/6/21(火) 22:35:52 ID:l7FkHhEbE2
>>57
ありがとう…っ
(T_T)
とっても嬉しい言葉です…!

拙いSSだけど、少しでも楽しんでくれたら幸せです。
59:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/21(火) 22:47:33 ID:G8lHzL2u4M

白練台・市立中央図書館


千「…(人間は汚くて愚か…か。確かにからかさの言う通り、奴らの歴史は血と欲にまみれておる)」パラ…

千「(じゃが、それだけではない…植林活動や環境保護…彼らも気づき始めたはずなのじゃ…地球は人間の所有物ではなく、彼らもまた地球の一部なのだと)」パラ…

千「人間は地球無しでは生きられぬ…そして我ら妖怪もまた、人間無しでは存在し得ない…何故もっと早く気付けなんだか…」ブツブツ

濡「あらぁ座敷はん!」ヒラヒラ

60:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/21(火) 23:04:47 ID:l7FkHhEbE2

千「濡れ女…!こんなところで会うとはの」

濡「雪ちゃんが絵本をぎょうさん読みたいやろと思って、連れてきたんどす。ほら、あのこ毎度雪山にこもってはるし…」

千「そうか、雪ん娘も…」

濡「雪ちゃんやけちゃいますえ?夜叉はんも一緒どす」

千「夜叉が?珍しいな、あやつが外をうろつくとは」

濡「なんやら『究極のレシピ』を探して、図書館中の料理本を漁ってはりますわ…。うちら妖怪は御膳の必要あらへんのに、ほんまけったいな人どすなぁ…」ヒラヒラ

千「…そうか…不思議じゃな」

濡「?」

千「人間の書いた本に、彼らを憎んでおるはずの妖怪が夢中になる…矛盾しておるとは思わんか?」

濡「そらちゃいます…なんしろ皆、ほんまは人間が大好きなんどすから」


61: ◆AhbsYJYbSg:2011/6/22(水) 12:53:00 ID:Dsu7jkcuyE

千「…!…」

濡「うちらは人間によって生まれ、一緒に長い時を暮らしてきた…嫌いになれるわけあらへん」

千「…なら、」

濡「そやさかい、余計許すわけにはいかへんのどす。座敷はんも知ってるやろ…人間がうちに何を与え、何を奪ったのか」

千「…可愛さあまって憎さが百倍、か…」

濡「そういう事どすなぁ…哀しいことやけど」

62: ◆AhbsYJYbSg:2011/6/22(水) 13:04:49 ID:NgAEs4NAMk

濡「うちやけではおまへん…ほとんどの妖怪は、人間を愛していると同時に、殺したいほど憎んでもいるはずどす。その感情は、大雨を降らす黒雲のごとく皆の心を覆っている…それを晴らすのは、簡単な事やないどすえ?」

千「ああ…痛いほど分かっておる」

濡「ふう…ほんでも座敷はんなら、きっと全員が幸せになれる方法を見つけられる…うちはそう信じてますわ」

千「…かたじけない。やはりおぬしは優しいのう、濡れ女よ」

濡「て、照れること言わんといて//人型が保てんようになってまう//」ヒラヒラ

千「ふふ…」

63:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/22(水) 13:19:31 ID:tC2Fo0C.cE

夜「ついに見つけましたよ濡れ女さん!これぞ究極のカレー…あれ、座敷わらしさん!こんなところで何を?」

千「おう夜叉。ちょっと調べものをな」

夜「座敷わらしさんが…ですか?なぜ?」クイッ

濡「そうそう、うちも気になってたんや…。
座敷はんなら、一度見た本の内容は一瞬で頭に入るし、絶対に忘れへんやろ?この図書館にある何倍もの本の記憶を持ってるはずやのに、わざわざここに来てページめくるんはどうしてどす?」

千「うむ。個人的に、少しこの市の歴史に興味があってな。それに、人間をより深く知るためには彼らと同じすぴーどで読むのが大切なんじゃ…時間はかかるがの」

傘「…そんなこと言って、ただの時間稼ぎなんじゃないの?」
64:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/22(水) 21:02:22 ID:xmOAAvkvQo

千「!…からかさ…お主も来ておったのか」

傘「まさか、忘れたわけじゃないよね?君が妖怪だってこと、早くあの子供に言いなよ」

濡「…からかさはん…」

夜「…」クイッ

千「わ、分かっておる!…っ」

傘「そうだ、ちょうどいいから今言いに行こうよ。彼は今、僕らの屋敷で鎌いたちと一緒にいるし」

千「陸が鎌いたちと!?なぜ…」

傘「知らない。
…さて、人間と妖怪がどれだけ歩み寄れるか、お手並み拝見といこうか…まぁ、もう結果は見えてるけどね」

千「…っ!」


サアアァ
65: ◆AhbsYJYbSg:2011/6/22(水) 21:13:52 ID:BDKRTRECcU

夜「行ってしまいましたね…」

濡「…」

雪「…」トテトテ…クイクイッ

濡「!あら、雪ちゃんどないしたん?」

雪「…これ…読んで…」

夜「ほう、絵本ですか。タイトルは…『雪おんな』。雪ん娘さんの、お母様の話ですね」

濡「雪女はんの話には、哀しい結末も多いけど…この本はハッピーエンドやから、雪ちゃんのお気に入りなんやもんね?」

雪「…みんな、しあわせ…だから…好き」

濡「フフフ、そうやんなあ。ほんまに…この絵本みたいに、人間と妖怪が共に助け合い、幸せに暮らしていけたらどんなにええか…」

夜「…」クイッ

66: 名無しさん:2011/6/22(水) 21:30:01 ID:j4BNa9nGck
支援
67: ◆AhbsYJYbSg:2011/6/22(水) 21:38:32 ID:vmvGe1KNEw

赤香町・佐藤家

サアアァ


TV「…本日も、雨足は衰える気配を見せません。一体この雨はいつまで続くのでしょうか…」

父「〜♪」カタカタ

父「さて…一区切りついたし、そろそろ夕飯の支度を…」


ピンポーン


父「?…なんだろう…宅配便かな?」

犬「…グルルル…」

?「…」フゥッ…ガチャ

父「!あれ…鍵は閉めたはずなのに、ドアが…」

?「やぁ…久しいな、草介」

父「!…お前は…碌(ろく)…!」

碌「おいおい呼び捨てかよ…一応先輩だぞ、おれ」

父「…何しにきた…!」

碌「陸に会いに来たんだが…いないようだな」

父「いまさらあの子に会ってどうする!お前は…」

碌「なんだ…父親が実の子に会うのに、部外者であるお前の許可が必要なのか?」

父「…っ」
68: ◆AhbsYJYbSg:2011/6/22(水) 21:41:22 ID:vmvGe1KNEw
>>66
ありがとうございます!
69:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/22(水) 21:57:50 ID:l7FkHhEbE2

碌「まぁ、いないなら仕方ないか…」

父「お前…9年間も子供を放っておいて、今さら父親気取りか!?ふざけるな!!」

碌「ふっ…父親気取りはお前の方だろう」

父「!」

碌「まぁいい…どちらにせよ、近いうち迎えに来るつもりだったからな」

父「…陸はお前なんかには渡さん!さっさと帰れ!!」ドンッ

?「…!」

?「…っ」ブワッ

父「うっ!…なんだ…体に、力が…入らな…」

碌「あーあー…フフ、じゃあな…草介…」スタスタ

?「…」パサッ

父「…ぅ…り、…りく…逃げ…っ…」ガクッ

犬「ワンっ!ワンワンっワンっ!!」


サアアァ

70: ◆AhbsYJYbSg:2011/6/22(水) 22:23:38 ID:Dsu7jkcuyE

赤香町・無人の屋敷


鎌「オラどうした!こんなもんかチビ!」

陸「ハア、ハア…ぐっ…ぷはあっ!」

鎌「ふん、やっと終了か…本来なら腹筋一万回やらせる所を、大まけにまけて40回にしてやったんだ…ありがたく思え」

陸「はぁ、それでも…多いよっ…はぁ…」ゼエゼエ

鎌「そうか?…まぁいい、大体チビのことは分かった。お前…左利きだろ?」

陸「えっ…!なんで…」

鎌「見りゃ分かんだよ、重心がずれてるしな。
ついでに体力は無し、身体は堅い、握力は並み以下…これじゃ、体育の成績はビリだろうな」

陸「う…」

鎌「唯一の救いは反射神経…これはかなり良い線いってるぜ。俺が鍛えりゃ、そこそこ戦えるようになんだろ」

陸「…戦う、か…」

鎌「心配すんな、ちゃんと強くしてやっから。
…さて、まずは…チビ、ちょっと立ってみ」

陸「?」

71:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/24(金) 19:43:31 ID:MtEPDD/kP2

鎌「まず最初は、自分の身体を知ることからだ。そうすりゃ、いざって時自分の思い通りに動かせるようになるし、相手の弱点も分かる」

陸「からだを…知る…?」

鎌「まぁ、言っても分かんねぇよな…見てろ」スッ

陸「?」

鎌「自らの力を最大限に活かすためには、ただ漠然と拳を突き出すだけじゃダメだ。
自分が今殴ろうとしているのはなんなのか、どこに当てれば一瞬で仕留められるのか…よく考えろ」

陸「…殴る…」

鎌「そうだ。呼吸を浅く、常に神経を張りつめて……ここだと感じた瞬間、突く!」ドンッ

72:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/24(金) 19:59:57 ID:tC2Fo0C.cE

ゴオオォッ!

ドゴオォーン!!…ガラガラ…

鎌「…」

陸「…ぇ」

鎌「…(ゃ…やっべ…!力抑えんの、忘れた…)」オロオロ

陸「…」ポカーン

鎌「えっ…と…」




陸「…わ…わー!兄ちゃんすごいね!カメ○メ波みたい!」アセアセ

鎌「お…おお!すげえだろ!?どうだ、鍛え続けりゃこんな技もだせるように…」

傘「…ねぇ…これは…なに…?」ゴゴゴ…

鎌「!」
73:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/24(金) 20:20:34 ID:jY3AzaRTlY

サアアァ


鎌「…こ、これはだな…その、突然空から隕石が!」

傘「…」ギロッ

鎌「…すんませんした」シュン

傘「はぁ…まったくもう…」

陸「あ…えと…初めまして!」

傘「…やあ、今日は陸くん」

陸「あれ…なんで、僕の名前を…」

鎌「…(…りく?…どっかで聞いたよーな)」

千「…」

陸「あ!千代ちゃん!なんでここに?」

千「(陸…本当に鎌いたちとおったのか…)」

鎌「千代……!あーお前!陸ってチビのことだったのか!!」

傘「てゆーか知らないで一緒にいたんだ…」

陸「?…えっと…」

千「…」

傘「ホラ、何か陸くんに言わなきゃいけない事があるんじゃないの?」

千「…っ。陸、あのな」

陸「?」

千「実は、わらしは…」


74: 名無しさん:2011/6/25(土) 11:43:46 ID:dXoWFF7u4w
続き気になる!

支援っC
75: ◆AhbsYJYbSg:2011/6/25(土) 22:03:40 ID:NgAEs4NAMk
>>74
支援うれしいです!

ありがとう…っ
(T_T)
76:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/25(土) 22:10:11 ID:xmOAAvkvQo

犬「ワンッ!」ピョンッ

傘・鎌・千「!」

陸「ベル!え…どうしてここに…なんで外に出て…」

犬「ワンッ!…っワンッ!!!!」

―キイィン…―

父(…りく……っ…)



陸「!!」

陸「お…父…さん…?」

77:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/25(土) 22:17:49 ID:NgAEs4NAMk

千「…陸?」

陸「…お父さんっ!!」ダダッ

犬「ワンワンッ」ダッ

鎌「な…!おいチビっ!!お前どこ行くんだ!」

千「…なにか胸騒ぎがする…。
鎌いたち!わらしを連れて、陸を追ってくれ!」

鎌「お…おう分かった…乗れ!」

千「うむ!」ガシッダダッ


サアアァ


傘「…(今のは…一体…)」

傘「…まさか、ね…」



78:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/25(土) 22:42:48 ID:QLq5.Ixv3Y

陸「…っはあ、はあ…」ダダッ

――

父『ごめんよ陸…父さん、その日はどうしても会社にいかないと…』

陸『…あ…ううん!言ってみただけだから、全然大丈夫!そっか…お仕事がんばってねっ!』

父『…り』

陸『大丈夫!…だいじょぶだから…あ、食器片付けてくるね!』カチャカチャ

父『…』

―――

陸「はあ、……っ!!」ダダダッ

――

陸『…』モグ…モグ

父『やあ、お待たせ』

陸『!お父さん!?え…だって、運動会来れなかったんじゃ…』

父『あーそのことなんだけど…お父さん、仕事辞めてきた』

陸『えっ…』

父『今度は、家でも出来る仕事を見つけたよ…息子と一緒にお弁当も食べられないんじゃ、父親失格だからね』

陸『…お父さん…』グスッ

父『…今までごめんよ陸。今日からは、毎日一緒に晩ごはんたべような』

陸『…うん!』

―――



陸「…っ、お父さんっ!」バンッ

陸「!!」


79:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/26(日) 18:41:03 ID:Dsu7jkcuyE

赤香町・佐藤家


千「陸っ!…!」

犬「…クゥーン…」

陸「お父さんっ!?お父…う…」ユサユサ

千「…!…落ち着け陸…大丈夫じゃ、息はある」

陸「!、ほんとに!?…よかった…よかっ…うぅっ」ヘタ

鎌「…チビ…っ」

千「疾風、救急車を頼む。至急じゃ!」

鎌「お、おう!チビ、電話はどこだ?」

陸「…ぐすっ…ぅ…」

鎌「…っ…てめぇ男だろうが!!泣いてるヒマねぇんだ、しゃきっとしねぇか!!」

陸「!…っ、うんっ!電話、こっち!」ドタドタ




千「…一体、何があったというのじゃ…」

カサッ

千「む?…これは…折り紙?」

千「!…闇色の折り鶴…!…まさか…」


ザアアァ
80:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/26(日) 19:01:34 ID:MtEPDD/kP2

――

?『…ひっく…うぅ…っ…ひっ…』

?『お〜千代、こんなとこにおったか』スタスタ

千『…っ、弥一…』

弥『また…あいつらにやられたのか?』

千『…』コクッ

弥『くっそ…身よりのない子らを育てるふりして、奴隷のようにこき使いおって…もう我慢できん!!あいつらただじゃ…』

千『よせ弥一!…おぬしはまだ子供じゃ。危ないことは…せんでくれ…』

弥『む…おぬしこそ子供ではないか!…千代はいいのか!?このままではおぬしの姉上のように、死ぬまであやつらにいたぶられ続けるのだぞ!?』

千『…わらしは…弥一とは違う…』

弥『…?』
81:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/26(日) 19:13:39 ID:xmOAAvkvQo

千『弥一は、あの父様と母様の…実の子ではないか…わらしらとは、違う』

弥『…違わん…』

千『いいや。…それに、おぬしは「をとこ」じゃ…悪いのは、「おなご」に産まれてしもうたわらしらが…』

弥『〜っ…をとこもおなごも関係あるかっ!!』ゴォッ

千『…!』ビクッ

弥『何故…なにゆえそのような哀しいことを言う!?実の子じゃないとか、そんなことも関係ねぇ!!
「千代」は「千代」じゃろうが!!!!』

千『!』


82:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/26(日) 19:24:57 ID:QLq5.Ixv3Y

弥『おぬしはわしの大切な…っ大切な友達なんじゃ!!その友達に手を上げるようなやつぁ…わしが成敗してくれりゅっ!!!!』




千『…』

弥『…』

千『………りゅ?』

弥『ぅ…そ、そこは聞き流す所じゃろうが!!千代のあほうっ!』

千『…ぷっ…あははは!』

弥『…//』

千『くくっ…す、すまぬ…』

弥『…ふ、やっと笑ったな…千代。やっぱりわしは、おぬしの笑っとる顔が大好きじゃ』ニカッ

千『…//…な、なにを言うとる…』

弥『ふ、ふん…//…そうじゃ、おぬしに良いものを見せてやろう…これじゃ!』デーン

千『!こ、これはなんじゃ!?』

83:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/26(日) 19:45:35 ID:BDKRTRECcU

弥『これはな千代、ここよりずうっと北の土地に住んどる、「つう」という鳥を模したものじゃ。その名も折り紙!どうじゃ、かっこいいじゃろう!!』

千『…ほー…』キラキラ

弥『…ほれ!』カサッ

千『!…く、くれるのか!?こんな高価なものを…』

弥『もちろんじゃ。…ただし、条件がある…』

千『…?』

弥『もう二度と、独りで泣くのは止めろ。泣くならわしのとなりで泣け。…胸くらいは、貸してやる』

千『…!…』

弥『…っ//…分かったのか!?へんじっ!』

千『…っおう!…ありがとう…弥一…』


―――


ーっ!


…代っ!



鎌「千代っ!!」

千「っ!」ビクッ

鎌「どうしたんだ千代、ボケっとしやがって…お前らしくもねぇ」

千「あ、ああ…すまぬ。ちと、昔を思い出しておってな…どうした?」

鎌「おう…チビの親父、もうすぐ目を覚ましそうだ。意識が徐々に浮かんでくるのを感じる…」

千「!…まことか…今いく!」スッタタッ


84:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/27(月) 19:14:20 ID:LYdCTbqa1c

銀朱町・市立さくら病院


父「…ん…ここは…」

陸「!お父さんっ!!」

千「!…」ホッ

鎌「気がついたか…」

父「陸…?私は、一体…」

医「ここは病院です、佐藤草介さん。貴方はご自宅で気を失っていたんですよ」

父「…病院…」

医「…何も覚えてませんか…無理もありません。おそらく日頃の疲れがたたったんでしょう。一週間ほど、こちらで安静になさっていて下さい」

陸「お父さん…うっ…うわぁん!」ヒシッ

父「陸…!…ごめんよ、心配させたね」

陸「う…ひっく…」

医「では、私はこれで…何かありましたら、こちらのナースコールを押してください」スタスタ

鎌「…千代、俺らも出るぞ」

千「…?」

鎌「バカ、男は女に涙見せたくねぇもんなんだよ…ほら行くぞ!」グイッ

千「お、おう…?」スタスタ

85:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/27(月) 19:23:41 ID:jY3AzaRTlY

鎌「しっかし、何だったんだありゃ…医者の話じゃ、体はどこも悪くねぇのに、まるで山ん中を何日もさ迷ってたように衰弱してたらしい…絶対変だぜ」

千「…」

鎌「千代?」

千「はっ…な、なんじゃ?」

鎌「どうしたよさっきから…心ここに在らずじゃねぇか」

千「…少し、気になることがあってな…」

鎌「気になること?なんだ?」

千「うむ。実は…」

?「…」ツカツカツカ…バンッ!!

千・鎌「!」

86:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/27(月) 20:19:00 ID:LYdCTbqa1c

?「…ふう…なんだ、生きてたんだ…驚かさないでよ、兄さん」

父「!葉子…どうしてここに」

陸「…おばさん…」

葉「元気?陸。…病院から電話があったのよ、突然倒れたって。全く…かんべんしてよね。忙しいのよ、あたしは」

父「…すまないな、わざわざ」

葉「別に。…パパとママも、顔には出さないだけで心配してるわ…例え勘当したとしても、息子は息子なのね」

父「…葉子、頼みがあるんだ」

葉「?」

父「私の代わりに、一週間くらい陸を預かってもらえないか…?」

葉「はあ!?…ムリよ。兄さんだって知ってるでしょう?うちの会社、今経営厳しいんだから…」

父「そこをなんとか頼む。頼れる身内は、お前しか…」

葉「えぇそうでしょうとも!!勝手なことして実家を追い出されたのよ?そんな兄さんに、誰も関わりたくないに決まってるじゃない!!」
87:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/27(月) 20:29:56 ID:l7FkHhEbE2

葉「パパの決めた相手放っといて、どこの馬の骨とも分からない女に熱上げて…その子だって、兄さんと血は一滴もつながって無…」

父「葉子!」

葉「!」ハッ

陸「…」

葉「…っ、と、とにかく、あたしは忙しいのよ!居なくなった兄さんの代わりに、社員7千人の会社を任されてるんだから!…帰る!」バンッ…ツカツカツカ…



千・鎌「…」

父「…陸…」

陸「…お父さん、のどかわいたでしょ?お茶買ってくるね!」ニコッ スタスタ




陸「…」ガラガラ…パタン

鎌「…チビ…」

陸「…」

千「…行こう、陸。自販機はこっちじゃ」

陸「……うん!」スタスタ


88: 名無しさん:2011/6/28(火) 01:53:16 ID:Yq8Nc6ra.g
深夜の支援あげ
89: 名無しさん:2011/6/28(火) 13:04:25 ID:vzB7b47Bik
支援!
90: ◆AhbsYJYbSg:2011/6/28(火) 21:54:17 ID:jY3AzaRTlY
>>88
支援サンクスです。深夜までお疲れ様ですっ
(>_<)
>>89
支援嬉しいです〜。最近暑いですね(汗
91:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/28(火) 22:27:54 ID:LYdCTbqa1c

赤香町・無人の屋敷

ザアアァ


傘「…それで…これはどういう事か説明してもらえる…?」ワナワナ



陸「…っ!おいし…このカレーすっごくおいしい!」

夜「……フッ…」バタン

陸「!あれ?だ、だいじょうぶですか!?」

濡「気にせんといて陸ちゃん。この人、料理は作っても他の人に食べさせたことあらへんから…美味しいちゅう言葉に、嬉しすぎて気絶してもうたんどすわ」ヒラヒラ

夜「う、うーん…幸せの極み…//」ゴロゴロ

鎌「…アホめ」ボソッ

夜「なんですってー!?」ガバッ!!

鎌「うおっ!てめぇ、相変わらず耳良すぎだろ!!」

濡「それにしても…可愛いなあ陸ちゃんは//今夜お姉さんと一緒にちゃいちゃい(お風呂)入れへん?」


92:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/28(火) 22:29:37 ID:Dsu7jkcuyE

陸「…え、…えっと…」アセアセ

雪「…」ムッ

濡「あ〜かんにんや雪ちゃん!もちろん、雪ちゃんもとーっても可愛いどすえ?」ナデナデ

鎌「…風呂……//」

夜「何赤くなってるんですか気持ち悪い」クイッ

鎌「な…っばかやろう!赤いのはカレーが辛すぎるからで…」

夜「ちゃ〜んと甘口にしましたー。やーいスケベ親父」ベー

鎌「…のやろっ!」

濡「あら…疾風はんも一緒に入る?」

鎌「…!」

濡「なんてな…冗談どす」ヒラヒラ

鎌「…ぐっ…//」





傘「…」ムスッ

千「えーっと、その…じゃな、からかさ。これには深ーい訳があって…」
93:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/28(火) 22:51:26 ID:BDKRTRECcU

―――

千『陸くんをうちに?…もちろん構いませぬが…お父上はそれでよろしいのですか?』

父『はい。…ご覧の通り、私は満足に体を動かすことも出来ません。
もしご迷惑でなければ、私が退院するまで陸を千代さんのお宅に置いては頂けないでしょうか…』

鎌『俺らはもちろんいいっすけど…大丈夫なんすか?初対面の相手信用して…』

千『これ、疾風!』

鎌『いや、だってよ…』

父『はは…大丈夫です。これでも私、人を見る目には自信があるんですよ。あなた方はとても良い人たちのようだ…。
それに千代さん。息子から、貴女のお話は聞いております。とっても可愛らしいお友達ができたと…』

千『…//』

陸『ちょ…お父さんっ!』

父『はは、ごめんよ陸。
…どうでしょうか?図々しいお願いとは思いますが…』

千『…分かりました。息子さんは、我々が責任をもって預かりましょう』



――


千「…という訳なのじゃ」

傘「ふ〜ん…言うことはそれだけ?」イライラ


94:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/29(水) 22:40:04 ID:Dsu7jkcuyE

千「…すまぬ、勝手に決めてしもうて…」

傘「ちょっと目を離すとこれだもの…
分かってる?僕たちはこれから日本を、そして世界を滅ぼそうと…」




濡「なあ陸ちゃん。うちのことは、流華(るか)お姉ちゃんってよんでな」

鎌「俺は疾風(はやて)だ。まあ、今まで通り『兄ちゃん』で構わねえよ」

雪『おら…深雪(みゆき)…よろしく…』ペコッ

夜「私は月夜(つくよ)です。…それより陸さん、お代わりあるのでたくさん食べて下さいね!
今日のカレーは玉ねぎをじっくり炒めて、カレー粉にはシナモン・グローブ・パプリカをバランス良くブレンドした私の自信作…」

鎌「誰も聞いてねっつの」ボソッ

夜「なんですとーっ!?」ガタン

鎌「ふん、この地獄耳…って冷たっ!水かけんなアホ!!」

濡「陸ちゃんサラダ食べ?お冷やも飲む?」ニコニコ

陸「あ、はい!いただきますっ」

濡「そんな〜敬語なんてよして?…でも礼儀正しいわあ…お父様の教育がよろしいんどすなあ…」

雪「…」モグモグ

夜「よっっっぽど私を怒らせたいようですね!!いいでしょう、受けて立ちますよ!!」ガタッ

鎌「あ?ケンカなら買うぞコラ。俺に因縁ふっかけてタダで済むと…」ガタッ

濡「…うっさいなぁ…」ボソッ
95: 名無しさん:2011/6/29(水) 22:46:20 ID:m0.OUcgNh2
雨々ふれふれもっとふれ
96:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/29(水) 22:53:17 ID:xmOAAvkvQo

夜・鎌「…っ…」ビクッ

濡「お2人はん…ほんのちびーっとだけ黙っとこか?」ニッコリ

夜・鎌「ご…ゴメンナサイ…」ガタガタ

陸「…えっと…」

雪「…」クイクイッ

陸「?」

雪「…あとで、絵本…読んで…?」

陸「あ…うん、いいよっ」

雪「…」ニコッ






傘「…なにこの家族団欒」

千「はは…」

傘「…」ギロリ

千「う…っ」

傘「…はあ……まぁ、過ぎたことは仕方ないか…何か知らないけど、皆楽しそうだしね」

千「…からかさ」

傘「だけど、勘違いしないでよ?妖怪と人間は決して相容れない…計画の変更なんてしないから」

千「…」


97: ◆AhbsYJYbSg:2011/6/29(水) 22:59:06 ID:xmOAAvkvQo
>>95
私のいい人連れてこいー
98: 名無しさん:2011/6/29(水) 23:00:00 ID:Q2aLegoeTs
面白い!
支援
99: 名無しさん:2011/6/29(水) 23:08:46 ID:TSVlBJhcN.
全力で支援します!
100:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/29(水) 23:23:24 ID:MtEPDD/kP2

傘「まあ、その代わりと言ってはなんだけど…
彼に正体を明かすのは、約束の最終日でもいい事にしてあげるよ」

千「!…からかさ」

鎌「おーい、おめぇらそんな隅っこで何話してんだよ。こっちで一緒に食おうぜ!」

傘「はいはい今行くよ…」シブシブ

千「…ふふ」



陸「えっと、君の名前聞いてなかったよね…何君っていうの?」

傘「あー、そういえばそうだったね…
僕は晴(はる)。よろしく、陸くん」

陸「晴くんかあ…素敵な名前だね!」

傘「…そ、そうかな…//」

陸「…はい!」カサッ

傘「!?…折り鶴?」

陸「さっき皆にも渡したんだ…友達のしるしだよ!」

傘「…友達、…」

鎌「へ〜、巧いもんだな。」シゲシゲ

千「陸は、折り紙を母上殿に教えて貰ったんじゃったな」

陸「うん!……あ、いや…」

千「?」

陸「このつるの折り方だけは、違うんだ…
ずーっと昔…誰か別の人が教えてくれた…そんな気がして…
でも、それが誰だったのか…今でも思い出せないまま…」





ザアアァ
101:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/29(水) 23:34:58 ID:l7FkHhEbE2
>>98
わ!サンクスですっ
面白いだなんて///もっと言って下さ(ry
>>99
ありがとうございます! 支援は私のガソリンであります。
(T_T)
102:
◆AhbsYJYbSg:2011/6/30(木) 00:02:26 ID:NgAEs4NAMk









碌「…ふふ、まさか妖怪とここまで打ち解けるとはな…さすがは理恵の子だ」クルクル

?「…よくもまあ飽きないもんじゃのう…日がな1日、その『ちきゅうぎ』とやらを眺め続けおって…」

碌「…ただの地球儀とは訳が違うさ。目を凝らせば地球上のどんな場所でも眺められる…俺の自信作だ」クルクル

?「ふん…神にでもなったつもりか?笑わせてくれる…」

碌「ああそうだ、じきに俺はこの世界の『神』になる…。
ところで…アレの配置は終わったのか?」

?「当然じゃろう。抜かりは無いさ」

碌「ふっ…これで、時期が来ればいつでも『動かせる』訳か…





ご苦労だったな、『弥一』」




弥「別に構わんさ。

全ては…『人間』への復讐を遂げるためじゃからな…」




―ザアアァ―――

103: ◆AhbsYJYbSg:2011/6/30(木) 00:35:20 ID:MtEPDD/kP2
このSSを読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。
一応ここで『第一部』完となります。続きは来週の月曜日から投下する予定です。
登場人物が多くなって来たので、ここで簡単な人物紹介をさせて下さい。
m(__)m


・陸(りく)…主人公。折り紙が得意。

・千代(ちよ)…妖怪座敷わらし。
能力1…膨大な記憶力

・疾風(はやて)…妖怪鎌鼬。
能力1…相手の身体機能の把握

・流華(るか)…妖怪濡れ女。可愛いものに弱い。
能力…?

・月夜(つくよ)…妖怪夜叉。料理が趣味。
能力…?

・深雪(みゆき)…妖怪ゆきんこ。内気な性格。
能力…?

・晴(はる)…妖怪唐傘。小学生の人型になれる。
能力…?


104: ◆AhbsYJYbSg:2011/6/30(木) 00:51:56 ID:MtEPDD/kP2
続き。


・父(草介)…陸の義父。しかし、2人の絆は強い。

・母(理恵)…陸の母親。

・犬(ベル)…佐藤家の飼い犬。

・少年ABC…陸を苛める3人組。

・葉子…草介の妹。実家の会社を継いだ。





・碌(ろく)…陸の実父

・弥一(やいち)…千代の友達。正義感の強い性格。


こんなもんでしょうか…汗

本っっ当に拙いSSですが、生暖かく見守って下さると嬉しいですっ
それでは…(__)
105: ◆AhbsYJYbSg:2011/6/30(木) 21:35:05 ID:tC2Fo0C.cE

―――


?『…うぅっ…すまぬ…、許してくれ千代ぉ…っ』

千(……?…この声は…)

弥『わしはお主を…守り切れんかった…っ』

千(…弥一…なぜ、泣いておる?
……………あぁそうか、わらしは…死んだのか…)

弥『千代…すまぬ…ちよ…っ…う、ぅ…』

千(……弥一…すまぬ。わらしはもう、おぬしを慰めることができぬ。

一緒に笑い合うことも、その手に触れることも…もう…。

じゃがせめて…おぬしの涙だけでも…止めることができたら…っ)

―――


弥『……ぅ…っ…、ちよ…』

千『…いつまで泣いておるつもりじゃ、この泣き虫』

弥『な…泣き虫とはなんじゃ!わしは……』クルッ

千『…』

弥『…?…

………!!!!』


106: ◆AhbsYJYbSg:2011/6/30(木) 22:09:28 ID:l7FkHhEbE2

千『あまりにもおぬしが泣きわめくから、五月蝿くて化けてしまったではないか…』ムスッ

弥『』ポカーン

千『…おーい』ヒラヒラ

弥『…ちよ…なのか…?』

千『ふん…他の誰だと言うんじゃ』

弥『……っちよぉ!!!!』ガバッ

千『あ…ばか』

スカッ

弥『ふぎゅっ』ドサー

千『すり抜けるに決まってるじゃろ…わらしは魂なんじゃから』

弥『……すまなかった、千代』スクッ

千『?』

弥『わしが弱かったばっかりに…お主は殺されてしもうた』

千『…仕方ないことじゃ。
あやつらは大人で、おぬしの実の父母…弥一を恨んではおらんよ。
わらしは死んでしもうたが、おぬしの人生はこれからじゃ…わらしの事は早く忘れて、幸せになれ。
それじゃ、達者でな…』フゥッ…




弥『…ありがとう、千代。

…じゃが、わしはやはり…あやつらが、許せぬのじゃ』ギュッ…


―――
107: 名無しさん:2011/7/1(金) 07:57:46 ID:ewlhFz6yw2
支援さげ
108: ◆AhbsYJYbSg:2011/7/1(金) 21:16:01 ID:Y7potMdNLI
>>107
支援ありがとうございます!
月曜までは、こっそり投下します(__)
109: ◆AhbsYJYbSg:2011/7/1(金) 21:33:27 ID:YgxuUT4qEk

弥『…ぅ…』ポタッ

千(……?…なんじゃ…?)

弥『…っ…』ポタッ…

千(…弥一…また、泣いておるのか?
………涙を……止めなければ…っ)スゥッ



―――

千『…弥一…』

弥『!…千代…久しぶり、じゃな』ゴシッ

千『…おぬし…成長したのう。もう立派な大人ではないか』

弥『はは、身体だけはな…。お主は…あの頃とちっとも変わらぬのう』

千『それはそうじゃ。わらしは既に死んでおる…。
…で、大人になったはずの弥一はどうして泣いておる?まるで小さい赤子のようでは、……っ!』

弥『…』ポタッ…ポタッ…

千『…弥一…?…っその血はなんじゃ!?まさか、どこかに怪我を…』

弥『違う。…わしの血ではない』

千『なら誰の………!!』



…ポタッ…


110:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/2(土) 22:49:20 ID:zffT4OvZNo

千『まさか…おぬし、自分の親を…』

弥『…あぁ、始末した…「ごみ2匹」をな』

千『…っ!!』

弥『これでもう、千代やお主の姉たちのような生け贄は生まれぬ…。
クク、あやつら考えもしなかったじゃろうなぁ…わしが、奴ら以上の「力」を身に付けておるなどと…』

千『…っ…あの「力」を…使ったのか…』

弥『そうじゃ。俗に云う「陰陽道」…式紙を使い、くず共に送ってやったのさ』ポタッ

千『…っなぜじゃ!?わらしは、おぬしに人殺しなどさせたくは無かったというのに!!ただ幸せに暮らしてくれれば、それで…』

弥『しあわせ…?…お主のおらん世界で、わしの幸せなど有りえぬ…』

千『弥一…』ギュッ


111: ◆AhbsYJYbSg:2011/7/2(土) 23:32:54 ID:zffT4OvZNo

弥『…千代…すまぬ。じゃが、わしは心底疲れてしもうたのじゃ…。
互いの足を引っ張り合い、まつりごとで人を簡単に殺す貴族ども…。
身内ですら裏切り、平気で略奪を繰り返す民草…。
そしてなにより、わしは汚らわしい「人間」が…憎い』

千『…っ馬鹿なことを言うでない!人は人として、皆精一杯日々を生きておる…。
おぬしとて、その「人間」ではないか!!』

弥『そうじゃ、千代。わしもまた人間…「陰陽師」という、人殺しの一族の血が流れておる』ポタッ

千『…っ』

弥『…見ろ、千代』パサッ

千『…』ギュッ

弥『わしは、その血に染まった「つう」と一緒じゃ…汚らわしい人間の一人…。
大好きな友達の一人も守れなかった、ただの屑じゃ…』

千『…やいち…』


――


千「…っ…」ツウッ…

雪「…ちよ?」ユサユサ

千「!」ハッ


112: 名無しさん:2011/7/3(日) 01:36:42 ID:apQwJMN9CQ
支援あげ
113: 名無しさん:2011/7/3(日) 10:24:03 ID:E4ejpxF5Ts
えーじーいー
114: ◆AhbsYJYbSg:2011/7/3(日) 22:58:52 ID:dJNSi9KCi6
>>112
ありがとうございます!
(*_*)
>>113
ageどうもですwまだ日曜ですが、投下していきますね
(__)
115:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/3(日) 23:22:37 ID:Y7potMdNLI

6月某日(水)・雨

(陸が屋敷に来てから5日後)

赤香町・(元)無人屋敷

ザアアァ


千「む…深雪(みゆき)…どうした?」

雪「…ぅん…うなされてた…」

千「わらしが?そうか…すまぬな、起こしてしもうたか」

雪「それに…泣いて、た…」

千「!…」ゴシゴシ

雪「…どう…したの…?」

千「…大丈夫じゃ、なんでもない。
なんでもないんじゃ…」

雪「…うそ」

千「!」

雪「…誰にでも、つらいときは…ある。
でもそれを…ずっと独りで、耐えてると…どんどん膨らんで、もっとつらく…なる」

千「…」

雪「無理しちゃ、だめ。…つらいときは、みんながいる…から」ナデナデ

千「…そうじゃったな。ありがとう、深雪…」

雪「…」ニコッ

千「…む…そういえば、からかさ…晴(はる)の姿が見えぬな」

雪「…ほんとだ…こんな夜中に、どこへ…?」


ザアアァ


―――

碌「さて…何故自分が呼ばれたか分かってるかな?からかさ君」クルクル
116:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/3(日) 23:53:58 ID:9ZI2B1cqd6

傘「…はい」ギュッ…

碌「ほう、なら話は早い。
確かに俺は、君達に一週間与えると言った…。
だが、「人間」と仲良く暮らせ、などとは一言も言ってないはずだがなぁ」クルクル

傘「…っ」


?「フ…人間ごときを対等に扱うとはな…若輩者共めが」

?「…ニクイ…ニンゲン…ニクイ…っ!!」ドンッ

?「へへ、いいっすねぇ人間(エサ)。メシの時間が待ちきれないっすよぉ」ジュルリ

?「クス…やっぱり、バカで平和ボケしてる日本妖怪たちには…荷が重すぎたんじゃないかしらね?」クスクス


傘「…っ、心配いりません…計画は、予定通り行わせます…」ギュッ

碌「…だといいんだが。
せいぜい気を抜かぬことだ。『彼ら』は君達のように、甘くはないのだからな。
…もういい。いけ」シッ

傘「……っ」タタッ




碌「さて、と…


おいで、『愚者』」


?「…」シュタン

碌「奴らを見張れ。
計画を邪魔されるわけにはいかんからな…屋敷へ潜り込み、奴らの人間への憎しみを思い出させるのだ…」

?「…」…コクリ


――
117:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/4(月) 23:26:19 ID:1JEnnakN/6

赤香町・(元)無人の屋敷


陸「…ただいま」ガチャ

鎌「おう、チビお帰り。意外と遅かったな」

陸「うん。学校終わったあと、お父さんのお見舞いに行ってきたんだ」

鎌「そうか…父ちゃん、元気だったか?」

陸「うん…良くなってるみたいだけど、まだ体動かすの辛そう…」

鎌「そ、か…早く退院出来るといいな」

陸「…」シュン

鎌「そう辛気くせぇツラすんなって。
…おし!気分転換でもすっか!」

陸「え…気分転換って?」

鎌「決まってんだろ…アレだよ、アレ」ニヤリ

陸「え〜…またぁ?」ガックリ


118:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/4(月) 23:58:47 ID:zffT4OvZNo

屋敷・裏庭

サアアァ



陸「はぁ…もう疲れたよ〜」トサッ

鎌「馬鹿野郎!まだ始まったばっかりだろうが!!」

陸「でも、なんで毎回訓練の前に『おじぎ』の練習を200回もしなきゃならないの?」ブー

鎌「ったく…いいか?『武道は礼に始まり礼に終わる』…聞いたことあんだろ?」

陸「?」

鎌「…まぁいい。
この言葉は、最初から最後まで相手に対する『礼儀』を忘れんなっつー教訓だ」
陸「うーん…『遠足は家に帰るまでが遠足です』…っていうのと一緒?」

鎌「違う。…惜しいけどな」

陸「むぅ〜よく分かんない…」

鎌「まあ取りあえず、準備運動もかねてやっとけ。
それとも…俺考案の、スペシャルメニューに変えるか?」

陸「?すぺしゃるって?」

鎌「そりゃもちろん、腹筋・背筋・腕立て・スクワット各一万回を6セットの超スペシャルな…」

陸「さー!おじぎ頑張るぞー!!」ブンブン

鎌「…ちぇ…つまんねぇの」ムス


119:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/5(火) 23:14:42 ID:EVC93ZrMa2

元無人屋敷・厨房


夜「〜♪」コトコト

犬「ワンっ」タタッ

夜「!おや、ベルさん。こんにちは」

犬「ワンワンっ」フリフリ

夜「これですか?今日の晩ご飯の豚汁です。それに煮物とホウレン草のごま和え、あとはお刺身用の皿を冷やして…」

犬「わぅ?」

夜「あ…失礼。人間のごはんの名前なんて、解りませんよね」

犬「クゥーン…ワン!」

夜「えぇ、もちろん!ベルさんの分のごはんも、ちゃんと用意してますよ」



濡「いつ見ても素敵な力どすなあ、動物と会話が出来るなんて」ヒラヒラ


120:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/6(水) 00:03:05 ID:zffT4OvZNo

夜「これは流華(るか)さん。その洗濯物は…」

濡「凄い量やろ、大家族のお母さんの気分どす。
月夜(つくよ)はんは、ベルちゃんと話せるんやろ?うちも話してみたいわあ」ヒラヒラ

夜「いや…そんな羨ましがられるほどの力じゃないですよ。
聞きたく無いことも、自然と聞こえてしまいますからね」

濡「聞きたく無いこと…?」

夜「ええ。
私は無駄に耳が良いですから、色んな場所から動物たちの声が聞こえてくるんです。
その中で、一番多い内容は何だと思いますか?」

濡「…?」

夜「動物たちの…悲鳴です」

濡「!」

夜「食用に加工される牛や豚は、食べ物になって人間の血肉となります。だからまだ救いがある、というわけではありませんが…。
問題は、犬や猫たち…身勝手な人間によって捨てられた彼らの末路には…絶望しかありません」
121:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/6(水) 00:19:53 ID:zffT4OvZNo

夜「年間35万頭…1日約千頭の犬猫が、施設…彼らにとっての『処刑場』で殺されます。
私には毎日彼らの声が聴こえるんです…痛い、苦しい、悲しい、助けて、まだ生きたい…。
何の罪もない動物たちを、自分たちの勝手な都合で殺しているという事実があるにも関わらず、人間はそこから目を背け生きている…私はそんな彼らに…絶望したんですよ」クイッ

濡「…」

犬「…ワンっ!!」ゲシッ

夜「!…え」

犬「ワンっ!ワンっ!!」ゲシゲシッ

夜「…!」

濡「ベルちゃん、落ち着いて…月夜はん、この子、なんやって?」

122:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/6(水) 19:33:44 ID:Y7potMdNLI

夜「…『ぼくは、にんげんにたくさんいじめられた。とってもこわくて、つらかった』」

濡「…」

夜「『でも、りくとぱぱはちがう。ぼくをたすけてくれた、たいせつなかぞく。
ふたりを、わるくいわないでっ』」

犬「…ワンっ」

濡「…ベルちゃん…」

夜「…そうですよね…人間のなかにも、陸さんやお父さんのような人たちもいる…。
すいませんでした、ベルさん。彼らは素晴らしい方たちですもんね」

犬「ワンっ!」フリフリ

濡「…やっぱり、動物と話せるその力…うちは素敵な能力やと思うよ?」クスクス

夜「…ありがとうございます。…そうですね…思ったより、悪くは無いかもしれませんね。
そう言う流華さんこそ、とても素晴らしい力をお持ちじゃないですか」クイッ

123:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/6(水) 19:56:59 ID:DhEiHvbrJU

濡「うちの力なんて…。精々こないなお湿り時に、お洗濯がラクになる程度ですわ」ヒラヒラ

夜「そんなご謙遜を。食器を乾燥させたり、お風呂を沸かす時も助かってます。水を操れる流華さんの能力は、とても役にたってますよ」クイッ

濡「うふふ…誉めてもなんも出ぇへんよ?
…それにしても、ほんに長いお湿り(雨)どすなあ…」スタスタ

犬「…ワン」

夜「?…雨、ですか?そうですよね…やっぱりベルさんも、お日さまの下で思いっきり走り回…」

犬「ワウッ!」ブンブン

夜「…?…え?」

犬「…キューン…」

夜「この雨は…おかしい?…普通の雨じゃ、無いってことですか?」

犬「クゥーン…」フリフリ



ザアアァ
124: 名無しさん:2011/7/6(水) 22:41:35 ID:Gh4s7KCnN.
age
125:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/6(水) 22:54:22 ID:dJNSi9KCi6
>>124
あげサンクスです!
つ芋けんぴアイス
126:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/6(水) 23:17:33 ID:6mwCN4HzZE

赤香町・イトウスーパー


千「…おお…っ!甘味が山のように…」キラキラ

雪「…千代…だめ、でしょ?…頼まれたのは…お刺身、だけ」グイッ

千「む…待ってくれ深雪、せめてこの『こ○らのまあち』だけでも…っ」

雪「だー…め」グイグイ

千「…くぅっ!さらばじゃ、期間限定かすたあどぷりん味ぃい…」ズルズル


―またお越しくださいませ〜―

ザアアァ


千「ふうむ…それにしても、『食事』がこれほど楽しいものだったとはな…。久しく忘れておったよ」スタスタ

雪「…そっか…千代は、昔…にんげん…だったもんね」テクテク

千「うむ。もっとも、今と比べればひどい内容の食い物じゃったがな…。当時は貧富の差も激しかったしのう…」スタスタ

雪「…でも…楽しかったん…でしょ?」

千「…あぁ、何故じゃろうな。
あんな奴隷同然の暮らしじゃったというのに、確かに『食事』は楽しかったと記憶しておる…」スタスタ

雪「…じゃあ、きっと…一緒に…食べてくれる、人が…いたんじゃない?」テクテク

千「…!…一緒に、か…」

―――


千『あーっ!それ、わらしの干し肉じゃろ、あね様!!』

127: 名無しさん:2011/7/6(水) 23:23:25 ID:SgaQdN.34M

もう雨の歌のレパートリーが尽きた…( ´△`)


128:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/6(水) 23:31:47 ID:dJNSi9KCi6

姉『ふん。ぼーっとしとる方が悪い』モグモグ

千『くっ…この外道!』バシッ

姉『な、何を!?誰が外道じゃこのちんちくりん!』ポカッ

千『うるさい老け頭!』ゲシッ

姉『ぬ…このまぬけ面め!』ポカポカ

弥『おーす、こっそりわしの分を持ってきて…ってお主ら、またけんかしておるのか?いい加減に…』

千・姉『ぼんぼんは黙っとれ!!!!』ゴオッ

弥『…ひぃっ…』ガタガタ


――


雪「どんなに、安い料理でも…誰かと一緒に、楽しく食べれば…ごちそうになる事も、ある…でしょ?」テクテク

千「あぁ…その通りじゃな、深雪」スタスタ

雪「…!…あ」ピタ

千「?…どうした?」

129:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/6(水) 23:34:23 ID:1JEnnakN/6
>>127
ぴーちぴーち、ちゃーぷちゃーぷ♪
130:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/7(木) 00:19:44 ID:SJzSf1p/CA

雪「…あれ」スッ

千「!…あれは…晴(はる)か…」


ザアアァ


傘「…」

千「晴!!」

傘「!…千代、深雪…」

千「どうしたんじゃ、こんな道ばたで。昨日から姿が見えなかったが…」

傘「うん、ちょっとね…。それより、これ」ヒョイッ

子猫「にゃーん」

千「!捨て猫か…」

雪「…かわいい、ね…三毛猫…?」

傘「きっと人間に捨てられたんだ…身勝手な理由でね…」



―――

子供「もうこんなダサい傘いらなーい」バキッ

母親「こら、勿体ないじゃないの。まだ使えたのに」

子供「だってダサいんだもーん。いいじゃん、たかが傘なんだから」

母親「まったくこの子ったら…今度買うときは、もっといいデザインの傘にしましょ」ポイッ

――


傘「…っ」グッ

131:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/7(木) 00:29:00 ID:YgxuUT4qEk

千「晴…」

雪「…」



?「(クックックッ…バカどもめ!すっかり騙されてやがる。
そう、何を隠そう私は碌さまに遣わされたスパイ、愚者『The Fool』なのだ!こりゃ思ったより簡単に潜りこめそうだな…)」クックッ


千「この猫、性別はどっちじゃろ?」

傘「うーん、オスじゃない?」

猫「三毛はメスしかいないにゃ」

傘「あ、そういえばs…え?」

猫「あっ」
132:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/7(木) 00:42:14 ID:1JEnnakN/6

千・雪・傘「…」

猫「…にゃーん」

雪「…今…しゃべった、よね…」

傘「うーん…きき間違いかな?」

千「いや、わらしも聞いたぞ…こやつ、本当にただの猫か?」

猫「そうだにゃーん」

傘「はい確定」ビシ

猫「にゃっ!…にゃぜバレたっ!?」ガーン

千(なんとべたな話し方を…)

猫(くそっ…誤算だ!まさかこんなに早くバレちまうとは…っ
ええい、こうなりゃヤケだ!!)

猫「い、いかにも!!にゃーは世紀の大妖怪、猫又の雨(うるる)!
おみゃーらに聞きたいことがあるにゃっ!!」ズビシッ

雪「…にゃー、だって…かわいい」ポッ

猫「みゃ、まじめに聞けぃ!
おみゃーら…本当に、この日本を滅ぼす気があるのかにゃ!?」

傘「!」

133:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/7(木) 00:53:44 ID:jXTA59XFaU

千「!…おぬし、その計画を知っておるのか…」

猫「ふん、あたりまえにゃ。妖怪が人間を滅ぼそうというこの計画、今や日本全土の妖怪たちのもっぱらの話題にゃ!!」

傘「…」

猫「この桜田市は、いわば全ての引き金にゃ。この市の壊滅により、計画の火蓋が切って落とされる…という手筈にも関わらず!!おみゃーらのその体たらくはどういうことにゃ!!」プンプン

千「…それは、…」

猫「ふん、あみゃい奴らめ。あの方がしびれを切らすのも時間の…」

傘「…ちょっと来て」グイッ

猫「にゃ!にゃにをするぅ…!」ズルズル

千・雪「…?」
134:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/7(木) 01:12:37 ID:1JEnnakN/6

ザアアァ


傘「まさか君…あの人に言われて来たの?」ヒソヒソ

猫「ふん、そうだにゃ。もとはと言えばおみゃーが不甲斐にゃいから…」ヒソヒソ

傘「…なら安心していいよ。計画は、予定通り行うから」ヒソヒソ

猫「どうだか…おみゃーは甘すぎるにゃ。
このままでは、あの恐ろしい西洋妖怪たち…『皇帝(The Emperor)』、『吊るされ男(The Hanged Man)』、『戦車(The Chariot)』、『恋人(The Lovers)』、そして『隠者(The Hermit)』が動き出すのも時間の問題にゃぞ!!」ヒソヒソ

傘「…っ、分かってる!だからこっちも必死で…」ヒソヒソ

千「おーい、なんの話をしとるんじゃ?」スタスタ

傘「!…あ、いや…」

雪「…早く、帰らないと…お刺身が、あったかく…なっちゃう…」ボソッ

猫「…!…しゃしみっ!?」キュピーン

傘「う…なんかまた面倒なことになりそう…」ガックリ

ザアアァ
135:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/7(木) 01:28:47 ID:9ZI2B1cqd6

赤香町・元無人屋敷


夜「…ねこ、ですか…」

濡「いやあーん//かわいいっ」ヒラヒラ

傘「うん、なんか知らないけど勝手に着いてきちゃって…」

猫「にゃから、にゃーは猫又にゃ!ただの猫じゃにゃいっ!」バンッ

濡「あら…月夜はん、猫ちゃん苦手?」クリクリ

猫「ふにゃあ〜ん//」ゴロゴロ

夜「…どうも苦手なんですよね…においが」クイッ

猫「にゃっ…!ちゃんと毎日お風呂入ってるにゃ!うら若き乙女になんてこと言うにゃ!!」ガバッ

濡「あぁ…可愛いなあ雨(うるる)ちゃん//」ナデナデ

猫「にゃあ〜ん//…ってしつこいにゃ!
それより、しゃしみはまだかにゃ?」ワクワク

傘「なんで食べる気満々なのさ」ムスッ

136:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/7(木) 16:37:03 ID:zffT4OvZNo

夜「やはり猫ですね…礼儀がなってません」クイッ

千「しかし、陸が帰ったらなんと言うべきか…」

雪「…しゃべる…ねこなんで、変…だもんね」

傘「そうだね…雨、悪いけど、ここにいる間は普通の猫のふりをしてもらえるかな」

猫「ふん…始めからそのつもりだったにゃ!」

鎌「うーす。帰ったぞ〜」ガチャ

陸「ただいま!疲れたー」スタスタ

千「おう、お帰り2人とも」

夜「お帰りなさい」クイッ

猫「おかえりにゃさ…ムグッ」

傘「また君は言ったそばから…っ」イライラ

猫「ふっふぁいふぁ(うっかりにゃ)」モゴモゴ
137:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/7(木) 16:58:38 ID:Y7potMdNLI

陸「!…あれ、その猫は?」

千「お、おう。道ばたに捨てられておってな…」

猫「にゃーん」

陸「へ〜…かわいいね!」ナデナデ

傘「見かけだけはね…」ボソッ

鎌「(ふーん、ありゃ妖怪だな…まぁいいけど)…つーか腹減った。メシ」ドカッ

夜「全く…ご飯の用意をお願いします、くらい言えないんですか?」クイッ

鎌「ゴハンノヨーイヲオネガイシマス」

夜「この…っ」ワナワナ

138:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/7(木) 22:04:07 ID:SJzSf1p/CA

陸「あ…僕手伝うよ、月夜お兄ちゃん!」ガタッ

夜「本当ですか?助かります!…聞きましたか?陸くんの方がよーっっっぽど大人ですね、誰かさんとは大違いです!」ガタッ

鎌「ぐっ…わーったよ!手伝えばいいんだろ、手伝えば!!」ガタッ、スタスタ…





傘「……ぶはぁっ」ゼイゼイ

千「ふう…なんとかばれずに切り抜けたな…」ホッ

雪「…でも、時間の…問題だと、思う…」チラ

猫「しゃかな・しゃかな・しゃかな〜♪」ワクワク

傘「…はぁ…なんで僕、こんなに苦労してるんだろ…」ゲッソリ

濡「晴ちゃん…元気だし?」ナデナデ

猫(クックックッ…上手く潜入してやったぜ!このままただの猫を演じて、あの人間を監視してやるのだ!!)
139:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/7(木) 22:14:27 ID:DgQGPfo82A
―3分後―


猫「しゃっしみー!!!!」ウヒョーイ

陸「えっ!猫が、しゃべった…!!」

猫「!」ハッ

傘「フフ…ムダだった…全部ムダだった…」シクシク

雪「…」ナデナデ

千「晴…どんまいじゃ」ビシッ

陸「…」ポカーン

傘「…くっ…!陸くん、これにはわけが…っ」ガタッ





陸「すっごーい!!君、名前は?」キラキラ

猫「む…にゃーは雨にゃ」

陸「うるるちゃん…よろしくね!
はい、これ雨ちゃんの分!」スッ

猫「にゃーい!!おみゃー、若いのに気が利くにゃあ!」モグモグ

傘「」
140: 名無しさん:2011/7/7(木) 22:56:06 ID:2//tYS24Ug
SHIEN
141:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/8(金) 07:13:41 ID:dJNSi9KCi6
>>140
支援ありがとうございます!
スレ分け前の最後の更新です…

142:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/8(金) 07:25:14 ID:jXTA59XFaU

千「ふむ…陸の順応性恐るべし、じゃな」モグモグ

濡「かわいい子ぉがぎょうさん…あぁ、うち幸せ…」ウットリ

夜「あっ!ちょっとそれ私の赤身ですよ!!」

鎌「いいじゃねぇか減るもんじゃねぇし」パクパク

夜「いや確実に減ってるじゃ…あ!また消えてるっ!!」

猫「油断大敵にゃ」モグモグ

夜「くぅ…私なのに…作ったの私なのに…」シクシク

雪「…豚汁…おいし」ズズッ

陸「ほんと、コクがあっておいしい!」モグモグ

夜「…いやあ//それほどでも//」ヘラヘラ

鎌「単純なやつ…っと」ヒョイッ


143:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/8(金) 07:42:45 ID:EVC93ZrMa2

千「あ…疾風、それは…」

鎌「ぶっ…!ゲホゲホッ!?」

夜「ふふん、二度同じ手はくいません…それはワサビをたっぷり塗ったトラップですよ!!」キラーン

鎌「…っでめっ…ごろずぎがっ!!」ゲホゲホ

濡「あかん…かわいいもんが多すぎて、うち気が遠…」フゥッ

陸「ちょ…っ!流華お姉ちゃん!!」

猫「騒がしいやつらだにゃあ」モグモグ

夜「あなたに言われたくないですけどね」クイッ

傘「…」



―ワイワイガヤガヤ―


傘「…はあ…なんか悩んでんのもバカらしいや…食べよ」パクッ



―――


碌「…ふうむ…」クルクル

弥「?…どうした」

碌「どうやら俺は…人選を間違えたらしいな」ポリポリ

弥「?」


――


ザアアァ

144: 名無しさん:2011/7/8(金) 09:22:25 ID:X9guocyElU
スタンドが出ると聞いて
145: ◆AhbsYJYbSg:2011/7/9(土) 16:12:48 ID:6mwCN4HzZE
幽波紋とはまた違うのです…
146:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/9(土) 16:32:15 ID:dJNSi9KCi6

6月某日(木)・霧雨

赤香町・元無人屋敷

サアアァ


猫「やはり鮭は塩焼きに限るにゃ」パクッ

傘「結局泊まってるし…」ブツブツ

夜「はい、なめこ汁ですよ。熱いので気を」

猫「あひゃいっ!!」ヒー

夜「…遅かったようで」クイッ

鎌「…ふわあぁ…はよ」ガタッ

濡「お早うさん。疾風はん…凄い寝ぐせ」クスクス

鎌「へ…?」ボケー

千「ぷっ…本当じゃな」

雪「…にわとり、さん…みたい…」クスッ

夜「これは酷い」プッ

鎌「あんだとテメェ!!」ゴオッ

夜「なんで私だけに怒るんですかっ!?」


147:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/10(日) 16:06:15 ID:Y7potMdNLI

濡「あらぁ?…まだ起きてへんの、陸ちゃんは」ヒラヒラ

千「む…そういえば。まだ寝とるのか?」

猫「…ほにぇが…取れにゃい…っ」プルプル

傘「ったくも〜…ホラ貸して!」ヒョイ

猫「すまにゃい」

雪「…おら…起こしにいって、くる…」カタッ

千「おう…悪いな、深雪」

夜「もしかして…連日の『特訓』とやらのせいで、疲れが溜まってるんじゃないですか?」ジロッ


鎌「なっ…俺のせいかよ!」

濡「確かになぁ…あん子、なんでかよう分からんけど、最近元気無うなってきとるような気がするわ…」ホゥ…

鎌「…ぇ…おれの…せいか…?」シュン…

千(…陸…。

おぬし一体、何を悩んでおるのじゃ…?)





―――

『こら!なんて酷いことすんだ陸!!』
148:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/10(日) 17:00:16 ID:DgQGPfo82A

陸『…!…おかあ、さん…』

母『桜の枝を折るなんて…この木だって、一生懸命に生きてるんだよ。陸だって、友達に叩かれたら痛いだろう?』

陸『…ごめん、なさい…』ポロポロ

母『…なんで、こんなことしたの?』

陸『…』

母『りーく。…黙ってたら分からないぞ?』ナデナデ

陸『…お花きれい、だったから…あげようと、おもったの…おかあさんに』

母『!…陸…。
ありがと。その気持ちはとても嬉しいよ。
でもね、生きてるものを無闇に傷つけてはいけないんだ。動物も植物も、みんな精一杯その時を生きている。その大切な時間を、私たち人間が奪う権利はどこにもない…分かるよね?』

陸『…?』

母『うーん…まだ陸には難しいかな?
例えば、今陸が枝を折った桜。普通の強い木ならなんてこと無いかもしれないけど桜は違う。少し傷がついただけですぐ元気を無くしてしまうし、病気にだってなりやすい。とても弱い木なんだよ』

陸『!…じゃあ、さくら死んじゃうの?…ぼくの、せいで…?』グスッ

149:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/10(日) 17:22:56 ID:Y7potMdNLI

母『…』スッ

ピトッ

陸『…?』

母『……大丈夫。この木は強いから、これくらいじゃ死なないってさ』パシン

陸『おかあさん、きとおはなしできるの?』キラキラ

母『ふふ、どうだ!凄いだろ〜』エッヘン

陸『ぼくも、はなせるかな?…ごめんなさい、したい…』シュン

母『…陸…』ギュッ

陸『…そうだ…!
このえだ、くっつければなおるかな?まだおったばっかりだし、きっと…』


150:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/10(日) 17:48:42 ID:jXTA59XFaU

母『陸。…残念だけど、それは無理』

陸『…え…?』ポロッ

母『漫画やアニメとは違う。一度失ったものは、もう二度と取り戻せない事のほうが多いんだ。
だからこそ、一度きりの「命」を…大切に大切にしないといけないんだよ』

陸『…』グスッ

母『…さあ、一緒に桜の木にごめんなさいしよう?』

陸『…ぅん…っ…さくらさん、ごめ…なさいっ!』ポロポロ

母『…ごめんなさい』ペコッ


…サワサワ…


151:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/10(日) 17:51:20 ID:DgQGPfo82A


父『…あ!やっと見つけた…探したよ〜』スタスタ

母『あれ、草介さん…あ!』ハッ

父『やっぱり忘れてたね…。もう飲み物は買ったから、早くお昼にしよう』

母『ごめんなさい、あたしすっかり…』オロオロ

陸『…?』

父『陸も早くおいで。今日は陸の大好きな…』

陸『!ハンバーグ!?やったあ!!』

父『はは、ばれちゃったか』ナデナデ

母『…』

父『…?理恵…どうした?』

母『いえ…ただ、なんとなく…。


幸せだな、と思って…』



…サワサワ…


――
152:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/10(日) 18:14:51 ID:1JEnnakN/6

雪「…りく…朝だよ、起き…」

陸「…」スヤスヤ

雪「…なんだか、幸せ…そう。
…どんな夢、みてる…のかな?」ニコッ


サアアァ


夜「…陸くんといえば、彼をいじめていた子供たちはどうしてるんでしょう?」マゼマゼ

濡「仕返しされるかもしれへんのやろ?心配どすなあ…」マゼマゼ

猫「にゃーはネギ抜きで頼むにゃ」

傘「納豆くらい自分で混ぜなよ!…ったくも〜」マゼマゼ

猫「すまにゃい」

鎌「ふん…まぁ、チビに何かしやがったら俺が許さねぇけどな」

千「疾風、いらぬのか?納豆。美味いぞ」マゼマゼ

鎌「う…俺にはお前らが信じらんねぇよ…」ウプ


153:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/10(日) 20:34:55 ID:YgxuUT4qEk

夜「あれれ〜、好き嫌いはいけませんねぇ」ニヤニヤ

鎌「うるせ。俺はこんなネバネバ、食い物とは認めねぇかんな」ムス

千「しかし、やはり陸が心配じゃ…もし学校で襲われでもしたら…」

濡「!…そんな千代はん、恐ろしいこと言わんといておくれやす」ブルッ

夜「確かに…我々の見えない所で襲撃されたら、どうすることも出来ませんからね…」クイッ

鎌「心配すんなって。あいつにはこの一週間、みっちり護身術を叩き込んでやったんだ…その辺のガキ共なんか、屁でもねぇさ」ゴクッ

傘「…だけど、万が一ってことも有るんじゃない?そのイジメっこ、空手の有段者なんでしょ?」マゼマゼ

154:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/10(日) 20:39:53 ID:dJNSi9KCi6

猫「にゃんだ、おみゃーまだ納豆混ぜてるのか?」モグモグ

傘「まだ僕の途中だったの!なのに君の分をやらされたのっ!!」ウガ-!

猫「すまにゃい」モグモグ

傘「全然反省してないでしょ…っ」ゼイゼイ

鎌「…まあな…。もしチビが怪我でもしたら、そん時は…
あいつらを、殺してやるよ…」ゴオッ…

千「これ疾風!めったなことを言うものでは…」











陸「…なに、それ」
155:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/10(日) 22:20:30 ID:zffT4OvZNo

鎌「!」

千「陸…起きたのか」

陸「殺すって…兄ちゃん今、なんの話してたの?」スタスタ

鎌「あ…あぁ、お前をいじめてた3人が許せなくて、つい…。
…でもよ、チビだってムカつくだろ?せっかく俺が色々教えてやったんだ、今度因縁つけて来やがったらボッコボコに、」

陸「兄ちゃんは…その為に僕を訓練してくれてたの?…人を傷つけて…殺すために?」

鎌「…チ…チビ…?」

雪「…りく、なんだか…いつもと、違う…」ギュッ

千「…」

陸「僕はただ…強くなって、守れるようになりたかったんだ。大切な友達を…家族を。お父さんが倒れた時も、僕がもっと強ければ…」ギュッ

千「陸!あれはおぬしのせいでは無いっ!」ガタッ

陸「それでも、僕はあの時何も出来なかった。…お父さんが苦しんでたのに、何も…」ギュッ

濡「…陸ちゃん…」

陸「だから兄ちゃんに色々教えてもらった。強くなって、皆を守るために。
なのに…どうして?なんでその兄ちゃんが、人を『殺す』なんて簡単に言うの?」
156:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/10(日) 22:45:34 ID:YgxuUT4qEk

鎌「っ…あんだよ!あんなクソみてぇな奴ら、死んだほうがマシだろ!!」ダンッ

千「!…はやてっ!少し落ち着けっ!!」

鎌「他人を見下すことでしか自分を保てねぇようなあんな奴ら、どうせこの先の人生もそうやって生きてくんだ!!あんなクズガキ共、生きてたって何の意味も…」

陸「…っ…意味の無い『命』なんか、無いっっっ!!!!」

鎌「!!」

夜・濡・傘「…!!」

千「!…り、…く…」

陸「草も、虫も、鳥も、犬も、猫も…人間も!全部大切な一度きりの人生なんだ!!意味無い『命』なんて、一つも無いよっ!」ダンッ

鎌「…、…っ」パクパク

157:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/10(日) 23:10:41 ID:YgxuUT4qEk

陸「…もう時間だから行かなきゃ。
月夜お兄ちゃん…朝ご飯、食べられなくてごめんなさい」ペコッ

夜「…ぁ…ああ、気にしないでください!
それより、何も食べなくて平気ですか?せめてオレンジジュースだけでも…」ガタッ…

陸「ううん、大丈夫。


…兄ちゃん」

鎌「…!」ビク

陸「おっきな声だしてごめん。
でも、僕はやっぱり…兄ちゃんの口からあんな、言葉…ききたく、なかったよ…っ」ポロポロッ

鎌「!!…チ、」ガタ…

陸「…いってきます!」ゴシッ…タタッ

濡「…りくちゃん…」

鎌「…っ…」ドサッ

千「…」ギュッ









猫「…鮭の皮はもっとカリカリに焼いてるほうが好みにゃ」クッチャクッチャ

傘「…むしろ君を焼いてあげようか…?」ゴゴゴ

猫「!?」
158:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/11(月) 17:51:51 ID:YgxuUT4qEk

赤香町・桜田市立第三小学校

サアアァ


先生「…んじゃ、次の段落から…佐藤くん、読んで」

陸「…」

先生「…佐藤くん?どうした?」スタスタ



A「…ふ…」ニタニタ

B「へへ…」ニヤニヤ



先「…これは…!
…駄目じゃないか、教科書をこんなに落書きだらけにして!!」バンッ

陸「…」ギュッ

先「こんなんじゃ文字も読めやしない…仕方ない、先生のを貸してあげるから!」スッ

陸「…すいません、ありが…」スッ…



―キィインー
159:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/11(月) 23:02:26 ID:EVC93ZrMa2




(…あ〜まじついてねぇ初めて担任したクラスでいじめとかやってらんねぇよ校長にばれたら出世遠のくだろまじ迷惑なんだよなんでよりによって俺のクラスなんだよこいつさっさと転校してくんねぇかな…)


―ィイン…―



陸「…」

先「?…どうした、佐藤くん?」

陸「…いえ…。



迷惑かけてすいません、先生」ニコッ




C「…」

160:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/12(火) 18:58:45 ID:9ZI2B1cqd6

キーンコーンカーンコーン♪

先「おっと、もうチャイムが…仕方ない、今日はここまで!」

「「きりーつ、礼
ありがとーございましたー」」


―ガヤガヤ―


C「さっ…佐藤、くん…っ」カタカタ

陸「!え…どうしたの?」

C「…この、きょ、教科書…っ」スッ

陸「え?これ、C君の…」

C「…っ、あぁあげるからっ!」ダダッ

陸「あ、ちょっ…C君!」ガタッ…


―――


C「はあ、はあ…っ」タタッ

スッ…


C「!っうわあっ!!」ドテッ

B「はは、だっせぇなあC!」ゲラゲラ

A「ふん…おいC、てめぇ…誰の許可であの『化け物』と仲良くしてんだよ?」
161:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/13(水) 20:16:05 ID:zffT4OvZNo

C「ぇ…な、なんのこ」

ダンッ!!

C「…ひ…っ!」カタカタ

A「とぼけんな。さっきアイツに教科書渡してたじゃねぇか?」スタスタ

B「へへ…お仕置き決定だな」ドスドス

C「…っ…!」

A「今さら自分だけ善人面しようってか?…甘ぇんだよっ!!」


バキッドスッ





陸「Cくんっ!!」ダダッ

A・B「!」

C「!…佐藤、くん…」

陸「…!…その、怪我…」

B「あ?なんだよ引っ込んでろ弱虫!」ダンッ

A「ふん…ちょうどいい、一緒にボコッてやろうぜ。どうせ教師は見てみぬふりだからな。
ほら、どうした?怖くて声も出な…」







陸「…くだらない」
162:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/13(水) 20:39:11 ID:DhEiHvbrJU

B「!?」

A「…あ?てめぇ、今なんて…」

陸「くだらない、って言った。…なんならもう一度言おっか?」

C「…佐藤、くん…?」

陸「自分達のしてる事がどれだけバカらしいか、まだ気付かない?…それとも怖い?自分を『弱い人間』って認めるのが」スタスタ

A「…!」

B「お前…誰に向かって…っ」ワナワナ

陸「AくんとBくんに向かって言ってる。
クラスの皆を脅して、僕を無視させて楽しかった?
勉強道具を隠したり、落書きして使えないようにして満足した?
自分より大人しい人を殴って、君たちの心は晴れたの?
…答えてよ」ピタッ

B「な、なんだコイツ…いつもと様子が…」ジリッ

A「…っるせぇな!!生意気なんだよ弱虫っ!!」ヒュッ


163:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/13(水) 21:02:39 ID:EVC93ZrMa2

スッ

A「!…うわっ!?」ステンッ

B「!こいつ…Aの突きをよけやがった…っ!」

陸「…」

A「く、くそっ…帰るぞB!!」タタッ

B「え!?…あ…待てよA!」ダダッ




陸「…」ギュッ

C「…佐藤、くん」

陸「!…あ…ケガ大丈夫だった!?」スッ

C「う、うん、平気。…でも、どうして?」

陸「?」

C「どうして、僕をた、助けてくれたの?僕は今まで、君を…」

陸「…謝って、くれたから…かな」

C「…え?僕は、何も…」

―――


陸『!え…どうしたの?』

C『…この、きょ、教科書…っ』スッ

―キィイン―



C(…ごめんなさいごめんなさいっ!止めたかったのに止めなきゃいけなかったのに僕が弱いから…言えなかったごめんなさいっ…ごめん…ごめん…っ…僕は…最低だ…)


―ィイン…―


――
164:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/14(木) 08:11:13 ID:EVC93ZrMa2

陸「うーんと…ほら、教科書渡してくれたでしょ?
その時に、Cくんが本当は優しい人だって分かったんだ」

C「そ、そんなことない…僕は酷いに、人間なんだ…。
殴られるのが怖くて、あの2人の言いなりになってた…。
止めなきゃいけないって分かってたのに、見てみぬふりをした。
ぼ、僕は…弱い、最低の…」

陸「Cくんは、強いよ」ポンッ

C「!?…ぇ」

陸「間違ってることに気づいて、正そうとした。それってとっても勇気がいることだよ。
…ありがとう」ニコッ

C「…っ…ご、」ポロッ

陸「?」

C「ごめ…んなざいっ!!…ごめん…っ…ごめ、」ブワッ

陸「ちょっ…!」


165:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/14(木) 08:34:06 ID:1JEnnakN/6




陸「…落ち着いた?」

C「…ずっと、あ…謝りたかった…ごめん」グスッ

陸「もういいよ。…これあげるから、もう泣かないでね」スッ

C「…え…これって」カサ

陸「紙ひこうき。…友達の、しるしだよ」ニコッ

C「…っ」ジワ…

陸「ストップストップ!!これ以上泣いたら涙渇れちゃうからっ!」アセアセ




C「…そ、そういえば…今日の佐藤くん、すごく堂々としてたよね」ゴシッ

陸「あ…ごめんね、なんだかイライラして、ついあんな大胆なこと…」

C「イライラ?…何か、あったの?」

陸「…うん、今日の朝ね。
大ゲンカしちゃったんだ。大切な、家族と…」



サアアァ
166:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/14(木) 20:32:06 ID:YgxuUT4qEk

ダダダッ

B「っ…おいA!ちょ、…待てって…っ」ゼエハア

A「(…弱い、だと…?この俺が…?)」ダダッ



―――



A父『ふん…また大会で優勝出来なかったのか…。お前はうちの道場の面汚しだ!』バシッ

A母『お兄ちゃんは本当に良い子だったのに…残念だわ。
これ以上失望させないでちょうだい。全く…信じられないわ。あなたみたいな出来の悪い子が、私たち夫婦の子供だなんて…』


――


A「…」ピタッ

B「うおっ!」キキーッ

A「…B…俺は、弱くなんか無い。…そうだよな?」

B「…A…?お前、一体…」

A「あいつは、この俺を『弱い』と言った。
…許さねえ…このままで済むと思うなよ。
あの『化け物』は、俺が…っ」メラッ

B「…A…っ」ゾクッ



167:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/14(木) 20:57:28 ID:jXTA59XFaU

赤香町・屋敷の裏庭

サアアァ



鎌「…っ…らあっ!!」


ビュオオッッ!…ドゴオォン…!!


鎌「…っ」ハアハア


―――


陸『…兄ちゃんの口からあんな、言葉…ききたく、なかったよ…っ』ポロポロッ


――


鎌「…くっそ…っ」ギリッ

夜「…おやおや…これで5回目ですか?
いい加減にしないと、塀が粉々になってしまいますよ」スタスタ

鎌「…月夜…」

夜「屋敷の壁の穴といい、いい加減にしてもらえませんか?全くこれだから筋肉バカは…だいたい貴方はいつも、」

鎌「…悪い」

夜「礼儀がなって無……え?」

鎌「悪かった…すまね」ペコッ

夜「…なんだか、調子が狂いますね…。
いつもの憎まれ口は、一体どこへ行ったんです?」クイッ

鎌「…ふん」フイッ

夜「ふう…。

『俺は、人間を許さねぇ。一人残らず殺してやる』」

鎌「…!!」
168:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/15(金) 19:03:05 ID:DhEiHvbrJU

夜「憶えていますか?かつて、貴方が私たちと行動を共にしていた時の言葉です。
あの頃のあなたは、人間への憎悪に満ちていた…どこかの村で戦(いくさ)があると聞くと真っ先に出掛けて行って、兵士たちを敵味方関係無く、皆殺しにしていました」

鎌「…ふん…懐かしい話だな。
イライラすんだよ…奴等は、毎度下らねぇ事で戦をしやがる…意味の無ぇ血を流す位なら、いっそ俺が全員殺してやった方が…」

夜「…村の子供たちが、理不尽に命を奪われることも無くなる…と」クイッ

鎌「!?…てめえっ!なんで…」

夜「我々が気付いて無いとでも?
陸君の事もそうです…貴方は人間が憎いと言いながら、いつだって子供たちには優しかったじゃありませんか」

鎌「…」グッ

夜「…重ね合わせていたんでしょう?彼らと、あなたの弟たちの事を…」

鎌「…っ」

夜「ご存知の通り、私たちは妖怪です。それも、近いうちにこの日本から人間を消そうとしている…。
その意味、理解していますか?『人間』ということはつまり、陸…」

鎌「…っ…やめろっ!!!!」ドンッ

ビュオオオッ!!

169:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/15(金) 19:57:37 ID:zffT4OvZNo

夜「…っ」ボオッ


ジュッ…


鎌「…!」ハッ

夜「危ないじゃないですか…!そんな風刃(ふうじん)、もし屋敷に当たったら粉々ですよ!」プンスカ

鎌「あ…わ、悪い!つい…」

夜「全く…相手が私だったから良かったものの…」ハア

鎌「…すまん…っ」ペコッ




夜「…どうしたんですか?本当に」クイッ


鎌「…怖ぇんだよ。あいつが…陸が居なくなっちまうのが…」

夜「…」

鎌「笑えるだろ?今まで散々人間を殺しておいて、たった一人のガキを死なせたくねぇなんてな…これじゃ、千代の事も責められやしねぇ…」

夜「…」

鎌「それに…今まで俺は、力が全てだと信じてきた。大事なもん守るためには、強ささえありゃいい。そのためなら敵を殺すこともいとわなかった…。
だが、陸を見て思ったんだ。もしかしたら、俺は間違ってたんじゃねぇのか…ってな」

鎌「なあ、月夜…俺たちは妖怪だ。人間を憎み続け、そして奴らをこの地球から消そうとしてる。今までは、その事になんの疑問も無かった。
だけど…これでいいのか?俺たち、本当は間違ってるんじゃ…」

夜「……ていうか、」

鎌「…?」

170:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/15(金) 20:37:07 ID:zffT4OvZNo

夜「そんなもの間違ってるに決まってるじゃないですか」シレッ

鎌「…へ?」

夜「陸君を死なせたくない?…んなこと当たり前です」スタスタ

鎌「な…ちょ、」

夜「貴方だけが悩んでるとでも思ってたんですか?私だって陸君と一緒に暮らして来たんですよ!?」ズンズン

鎌「まて…ちょっ…近」ジリ

夜「自分だけが悩んでるような顔して、独りで抱えこんで…これだからおのれは!!」ボオッ

鎌「落ち着けバカ!口調変わってるって!そして離れて下さいお願いしますっ!!」ギャーッ








夜「…死なせませんよ」

鎌「…!」

夜「あんないい子の暮らすこの町を、私たちが壊すわけにいかないでしょう?」ニコッ

鎌「え…でもお前、さっき…」

夜「ああ…貴方が余りにもグジグジ悩んでたんで、鎌かけさせてもらいました。すでに晴くん以外の方々は、千代さんの『答え』が出るまでも無く…
あの計画を、降りるつもりでいます」

鎌「!」
171:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/16(土) 19:49:31 ID:Y7potMdNLI

夜「…まぁ、あくまで『今は』ですけれどね。
人間を完全に許した訳ではありませんから」

鎌「…」

夜「さて、と…夕飯の支度があるので、そろそろ失礼します。
お気楽な貴方と違って、私は色々と忙しい身ですからね」スタスタ

鎌「…あ?ちょっと待て、誰がお気楽だコラ!!」

夜「あなた以外に誰が?」クイッ

鎌「ぉ…俺だってなあ!色々やることが、」

夜「ふーん…なら、さっさと壁に空いた大穴を直して貰えます?」ビシッ

鎌「ぐ…っ…わ、分かったよ…」シブシブ

夜「…あ!それともうひとつ」クルッ

鎌「?」

172:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/16(土) 20:23:55 ID:9ZI2B1cqd6

夜「…出来るだけ、早めに陸くんに謝っといたほうがいいですよ。こういうのはタイミングを逃すと逆に」

鎌「!っ余計なお世話だバカっ!!」ダンッ

夜「な…っバカとは何ですかバカとは!せっかく人が仲直りさせようと、」

鎌「それが余計なお世話だっつってんだよ!そもそも、俺は何も悪くねぇ!!」

夜「どう考えても貴方が悪いでしょうが!大体『殺す』だの『ボッコボコにしてやる』だの、今どき小学生でも言いませんよ!」ダンッ

鎌「な…うるせぇこの料理オタク!」

夜「ぐっ…このハゲ頭!」

鎌「俺禿げてねぇし!


…え?はげて無い、よな…?」サワッ

夜「…ぇ…なんか、すいまs」

鎌「ってまだ大丈夫に決まってんだろが!謝ってんじゃねえよ!!」ウガー!

夜「確か、電話番号はゼロゼロの黒g」

鎌「だーかーらっ!」ダンッ

夜「それか悩み無y」

鎌「もう…っ…許してくださいませんか…っ」グスッ




サアアァ

173:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/17(日) 19:54:03 ID:9ZI2B1cqd6

―――

―五年前―



母『―…そして、王子様と白雪姫は幸せに…』

陸『…くー…』スヤスヤ

母『…寝ちゃった、か…』パタン

父『…本当に、行ってしまうのかい?…理恵』

母『…ええ。夫のしようとしている事、見過ごす訳にはいきませんから』

父『…』

母『…そんな顔しないで下さいよ、草介先輩。
大学時代からなにかと気にかけて下さって、今ではこの子の父親代わりまで…。
感謝してます。本当に』ペコッ

父『…また、』

母『え?』

父『皆で行こうな、キャンプ。今度は碌も入れて。
…まあ、あいつは一発ぶん殴ってやらなきゃだけど…』ブツブツ

母『…(もしかしたら、あたしはもう戻って来れないかもしれない…)』

父『え?』

母『…いえ。
必ず…また行きましょうね』ニコッ


174:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/17(日) 19:56:15 ID:zffT4OvZNo

父『…本当に大丈夫かい?なんならもう少し…』

母『大丈夫ですよ。…陸のこと、よろしくお願いしますね。
じゃあ…いってきます』


キイ…バタン




母『…』スタスタ

母『…っ…』スタ…スタ

母『…ぅ…っ…』スタ…









父『…やっぱり無理してたね』

母『!?…そ、草介さん!…どうして…』

父『君は他人の心は読めるのに、自分の心は見ないふりをするからね…。
きっとその辺で泣いてるだろうと思ったら、案の定』スタスタ

母『う…』

父『…』スッ

母『!…だめです!あたしに触れたらっ』


175:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/17(日) 20:04:51 ID:1JEnnakN/6


キィイン

母『…っ』ガタガタ

父(…怖がらなくても大丈夫。僕は君を傷つけるような事、考えないから。…今まで考えたことも無いし)ギュッ

母『…草介、さん…』

父(待ってるから)

母『!』

父(陸と2人で、ずっと君を待ってる)

母『…』

父(だから…今は思いっきり泣いてもいいんじゃないかな?
ほら、ちょうど僕の胸が空いているし…)

母『…ぅ…

う…ぅあああぁあんっ!!』ブワッ

父『…』ナデナデ



――



サアアァ


父「…」

陸「…お父さん?」


176:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/18(月) 19:30:39 ID:jXTA59XFaU

銀朱町・市立さくら病院


陸「どーしたの?」

父「ん…?
…あぁ、ごめんごめん。ちょっとぼけっとしてて…」

陸「大丈夫?もしかして、寝不足とかじゃ…」

父「大丈夫。
少し思い出してたんだよ…お母さんのこと」

陸「本当に!?そういえば、僕も今日お母さんの夢見たよ!」

父「そうか陸もか。お母さん、綺麗だったかい?」

陸「うん、とっても!
夢でお母さんに会えたから、今日の朝はすごくうれし……っ…」

父「…?…陸?」

陸「…あのね、」

父「うん?」

陸「もし、大切な人の考えが間違ってるって思ったら…
お父さんなら、どうする?」


177:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/19(火) 21:48:37 ID:DgQGPfo82A

父「間違ってるっていうのは…誰かを傷付けようとしたり?」

陸「…うん…そんな感じ、かな」

父「…そうだな…まずは、たくさんその人と話し合う。
自分の意見を伝えるのはもちろんだけど、相手にも何か譲れないものがあるかもしれないしね。
とことん話して、とことん聞く。
でももし、それでも解決できなかったら…」

陸「…出来なかったら?」

父「一緒に、『間違って』みる」

178:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/19(火) 21:52:56 ID:YgxuUT4qEk

陸「…えっ?」

父「もちろん、それはとても危険な事だ。
例えば、陸の大切な人の『間違い』が銀行強盗だったとしよう。
もしかしたら一緒に警察に捕まるかもしれないし、人を殺してしまう事になるかもしれない」

陸「…」

父「だからこそ、『一緒に間違ってあげる』のさ。
少なくともそばにいる事さえ出来れば、一番大事なときにその人を救えるかもしれないだろ?」

陸「…間違ったフリをする、ってこと?」

父「ちょっと違うかな…だって陸の、大切な人を助けたいっていう気持ちは本物だろう?
だったら、相手だってそのうち分かってくれるかもしれない。
一番だめなのは、最初から『こいつはもうダメだ』と見放してしまうことだ。
僕なら、大事な人が間違っていると思ったら最後まで一緒にいてあげる。
例え正しい道に戻せなかったとしても、ブレーキ位にはなれるはずだからね」

陸「…そっか…」グッ

父「…少しは参考になったかな?」

陸「うん。ありがとう、お父さん」

父「いいや。これくらい当然さ。





…ところで、もう一つの悩みの方は…今相談しなくて平気かい?」

179:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/19(火) 21:56:52 ID:dJNSi9KCi6

陸「…え…?」ビクッ

父「…」

陸「…何言ってるのさ、お父さん!他に悩みなんて無いよ?」ニコッ

父「……そうか…なら、いいんだけどね」



コンコン



父「?はい」

医「失礼します…体調はいかがですか?」スタスタ

父「ええ、おかげさまで随分元気になりました…ありがとうございます」ペコッ

陸「先生…お父さん、もうすぐ退院できますか?」

医「そうだね…かなり体力が戻ってるみたいだし、明日の夕方には退院しても大丈夫だよ」

陸「本当ですか!?良かったね、お父さん!」

父「ああ…寂しい思いをさせてすまなかったね、陸」

陸「ううん。千代ちゃんたちがいたから、平気だったよ!

…じゃあ、僕はそろそろ帰るね。
先生、父をよろしくお願いします」ペコッ

医「はい。了解しました」ニコッ

陸「じゃあね、お父さん。明日の夕方、迎えに行くからっ!」スタスタ…





医「いやあ…それにしても、礼儀正しい息子さんですね」カンシン

父「…(やっぱり、まだ話してはくれない…か)」


180:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/19(火) 21:58:47 ID:jXTA59XFaU

医「…佐藤さん?」

父「あ…すいません、少し考え事を…。
そういえば、先生は何か僕に用事でも?」

医「あ!そうそう、最後に確認しておきたかったんですよ。
佐藤さんが倒れた瞬間の事なんですが…この一週間ほどで、何か思い出した事はありますか?」

父「いやあ…それが、全く何も覚えてな」




―サラッ―




父「…あれ…?」

医「?佐藤さん?」

父(なんだろう…倒れた時、顔を撫でられたような…

…この感触は、たしか…)





父「…長い…髪の毛…?」




サアアァ


181:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/21(木) 06:20:11 ID:zffT4OvZNo
赤香町・路上


C「エヘヘ…友達のしるし、かあ…」テクテク

C「…あれ?」ピタッ

C「あれは…AくんとBくん…帰る方向違うはずなのに、なんで…?」



サアアァ

―――


182: 名無しさん:2011/7/21(木) 15:53:15 ID:6XvhggnFM.
支援しちゃう
183: ◆AhbsYJYbSg:2011/7/22(金) 21:16:22 ID:SJzSf1p/CA
>>183
感謝しちゃう(*^^*)


184:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/22(金) 21:34:03 ID:YgxuUT4qEk

赤香町・ふれあい公園前


千「のう、晴…」スタスタ

傘「ダメ」テクテク

濡「なあ、晴ちゃん…」スタスタ

傘「ダメだってば!何度言われようと、計画は変更しないからね!」

雪「…ケチ…」ボソッ

傘「…ふ、ふん!」

猫「…このクソにゃろうめ」ボソッ

傘「ふん、なんとでも言えば良…ってちょっと!君は計画推進派だったろ!?」

猫「ふう…おみゃーはなんにも分かってにゃい」ヤレヤレ

傘「?」


185:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/24(日) 00:55:49 ID:SJzSf1p/CA

猫「人間が全部いなくにゃったら、一体誰が魚(しゃかな)を捕ってくれるのにゃ」シレッ

傘「結局それ!?…君の脳みそ、本当は魚で出来てるんじゃないの?」

猫「脳みそが魚…それも美味しそうだにゃあ」ウットリ

傘「くっ…皮肉が通じない…っ!」

千「タフな猫じゃな」カンシン

濡「天然な雨ちゃんも可愛いなあ//」ヒラヒラ

雪「…鈍感な、だけだと…思う」ボソッ




猫(ふ…馬鹿共め。私が本気で寝返る訳が無いだろう。
今はコイツらに合わせておいて、いざという時に裏切る…我ながらなんと素晴らしい作戦!やはり私は頭が良い。
ん?…まてよ、そういえば…)

猫「にゃあ、脳みそが魚になったら、どうやって生きていけば良」

傘「知らないから」ズバッ

186:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/25(月) 07:34:46 ID:9ZI2B1cqd6

千「…む?あれは…」




シトシト





鎌「…」ソワソワ

千「疾風、こんなところで何」スッ

鎌「うぎゃあっっ!!」ビクッ

千「うおっ!」ビクッ

鎌「な…なんだお前らかよ…い、いきなり脅かすなよな…っ」ドキドキ

千「いや、脅かされたのはこっちなんじゃが」

濡「なんや、背中にゴキブリ入れられたような反応どしたなあ…」ヒラヒラ

傘「…その例え、地味にリアルなんだけど」ブルッ


187:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/25(月) 07:37:57 ID:DhEiHvbrJU


雪「…こんなところで、しゃがんで…何、してたの…?」

猫「ましゃかストーカー…?堕ちたもんだにゃ」ヤレヤレ

鎌「ち、ちげえし!俺はただ、
チビに今朝のこと謝ろうと思ったけどさすがに皆の前じゃ恥ずかしいから、いつもアイツが帰る道で待ち伏せして、でも中々姿見せないから何かあったんじゃねぇかと心配してただけだっ!!断じてストーカーじゃねえ!!」ドーン

千「おぬし、自白剤でも飲んどるのか?」

濡「難儀なお人どすなあ…」

猫「人、それをストーカーと言うにゃ」ドヤッ

傘「ムカつくからドヤ顔止めてくれる?」イラッ

鎌「う、うるせえな!お前らこそ、こんなとこで何してんだよ?」

188:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/26(火) 21:07:08 ID:zffT4OvZNo

千「いや、月夜に大量の買い物を頼まれてな…その帰りじゃよ」

雪「…あ!…帰って、来たよ…陸」

鎌「ん…来たか。
お〜い、チ」

千「!待て…何か様子が変じゃ…」



シトシト



陸「…」テクテク

――

父『―…ところで、もう一つの悩みの方は…今相談しなくて平気かい?―』


――



ガサッ


陸「…!」ピタッ


189:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/27(水) 20:36:23 ID:SJzSf1p/CA

赤香町・ふれあい公園



B「おっと…悪いが、少し付き合ってもらうぜ」ザッ

陸「…Aくん、Bくん…」ギュッ

A「…ふん、俺の突きを一度かわしたくらいで良い気になるなよ。今度こそ、てめぇを叩きのめしてやる…
覚悟しろよ、『化け物』が!」ザッ

陸「…っ」ザリッ…








千「な…!あやつらは一体…」

夜「どうやら、陸くんを苛めていた子供たちのようですね」クイッ

犬「グルルル…」

猫「あいつらがそうにゃのか…確かに、悪い事してそうな顔だにゃ〜」フムフム

傘「いや、君にそれを言う資格は無…って月夜とベル!?いつのまに!?」

夜「いやあ…皆さんの帰りが遅いので、なんだか心細くて…ベルさんとお散歩してたんですよ。
ほら、あの屋敷ちょっと薄気味悪いじゃないですか。独りぼっちの時に、幽霊とか出たらと思うと…もう怖くて怖くてっ」ガタガタ

濡「月夜はん…何か大切なこと忘れてへん?」ニッコリ

190:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/27(水) 20:39:45 ID:9ZI2B1cqd6

千「こうしてはおれん!!今すぐ助けに行かねば…」タタッ…


スッ


千「!!疾風!?一体何の…」

鎌「まあ見てろって。
チビを鍛えたのは俺だぜ?あんな奴ら、十秒で片付けるだろうよ」フフン

千「…っ(なぜ分からぬのじゃ、疾風…それでは何の意味も…)」ギュッ

雪「…陸…」ハラハラ



シトシト





A「っらあ!!」ヒュンッ

191:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/28(木) 22:16:37 ID:dJNSi9KCi6

スッ

A「っ…くそっ!」ヒュンッ

ススッ

A「ぐ…なんでだ…なんで当たらねえ!?」ザリッ

陸「…」


鎌(―…戦う時は、まず敵の攻撃する間合いがどれくらいの広さかを掴め。そうすりゃ、下手に近づいて攻撃を受けなくて済むからな。
視線は常に敵の目に合わせろ。だが、目だけ見てもダメだ。相手の後ろにデカイ山を想像して、遠くを見るように身体全体を視界に入れるんだ…―)


A「くっ…そおおっ!!」ビュッ

B「…嘘、だろ…あんなに強いAが、こんな…」ガクガク


192:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/30(土) 18:44:17 ID:DgQGPfo82A
陸「…」スッ

B「こんな弱虫に、おされてるなんて!!」

A「くっ…てめえ卑怯だぞ!こそこそ逃げ回ってんじゃねえよっ!!」ハアハア

陸「…もう、止めようよ。人を傷つけたって、自分がもっと辛くなるだけ…」

A「…っるせえんだよ!!」ビュッ




スパアァン!!



193:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/30(土) 18:46:14 ID:DgQGPfo82A
B「!よし、入っ……え?」

A「…っ…!…こいつ…受け止めやがった…っ…」ググッ

陸「…」ググッ


鎌(―…人間の弱点は、身体の真ん中に集中してる。
敵は空手家なんだろ?だったら、鼻・あご・鳩尾・金的は要注意だ。真っ先に狙ってくるだろう。
だが逆を言えば、そこに意識を集中してりゃ、大抵の攻撃は対処出来るってこった。
目線の先を読めば、どこに攻撃が来るかも分かるようになる。
…そんなの無理?バカ、これから嫌ってほど訓練してやるから安心して…―)


A「う、手が動かねえ…この…生意気なんだよ…っ!」ググッ

陸「…分かるよ」ググッ

A「…あ!?」ググッ

194:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/30(土) 18:49:05 ID:DgQGPfo82A

陸「辛いのは分かる。でもそれを他人にぶつけた所で、倍になって自分に帰ってくるだけなんだ…」

A「!!」

陸「辛くても、受け止めなくちゃ。そうすれば、きっと」

A「黙れっ!!」バッ

陸「!」

A「…てめぇに何が分かるってんだ…自分の子供がいじめられてると分かったら、学校にわざわざ抗議に来てくれるような…そんな、親に愛されてるお前なんかに…何がっ!!」ビュッ


195:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/31(日) 22:36:22 ID:EVC93ZrMa2
陸「!」バッ

A「ふん…バカが!フェイントだよ!」ヒュッ

陸「…くっ!」

ガシッ

B「後ろから羽交い締め…はは、やったなA!
これでもう逃げられねえぜ弱虫!」ザッ

A「今だB!やっちまえ!!」

B「おうよ!!」ダダッ

陸「な…!!」

A「へへ…誰も一対一で、なんて言って無いだろ?」ニヤニヤ




シトシト
196:
◆AhbsYJYbSg:2011/7/31(日) 22:40:59 ID:6mwCN4HzZE




犬「…キューン…」

夜「なんて卑怯な…!」グッ

猫「ま…マズいんじゃにゃいか?このままでは…」ハラハラ

千「いかん…早く止めねば!」タッ

鎌「まだだ!」サッ

千「!いい加減にしろ疾風!!これでは余りに…」

鎌「男と男の勝負だろうが!部外者は引っ込んでろ!!
…大丈夫だ、あいつはこの位でやられる程ヤワじゃねぇ。それに、いざとなったら俺が助けに入る…」ゴクッ

傘・濡・雪「…っ」ハラハラ

千「…陸…」グッ



197: 名無しさん:2011/8/2(火) 08:05:11 ID:grtVS4a5bs
こっそり支援。
私はこのスレに投票したよ(ω)
198: ◆AhbsYJYbSg:2011/8/2(火) 23:00:09 ID:Bd/SJ6AwJc
>>197
もう…なんて言ったらいいか…っ(T-T)
と〜っても嬉しいです!これからも更新頑張りますね!


199:
◆AhbsYJYbSg:2011/8/2(火) 23:15:11 ID:Bd/SJ6AwJc


B「はは、覚悟しやがれ!!しょせんお前はただの弱虫なんだよ!!」ダダッ

陸「…」フー…

A「…(こ、こいつ…なんでこんなに落ち着いてられんだ…?)」グッ…



―――




陸『でも、なんで毎回訓練の前に「おじぎ」の練習を200回もしなきゃならないの?』ブー

鎌『ったく…いいか?「武道は礼に始まり―…


――



陸「…礼に、終わるっ!!」ガシッ


A「!?」


ペコッ…!

200:
◆AhbsYJYbSg:2011/8/2(火) 23:30:12 ID:Bd/SJ6AwJc

A「な…っ」フワッ

B「…げ、急には止まれ」ダッ…


ドッシーン!!


A・B「ふぎゅっっ!!」ドサッ



陸「…あ…
…ごめん!だ、大丈夫!?」オロオロ

B「」キュゥ

A「…ぅ…(くそっ…まさかBの突進に合わせて、俺を背負い投げでぶつけるとは…っ)」フラフラ…



スクッ



陸「Bくん大丈夫!?しっかりして!」ユサユサ

A「(…へへ…バカが…背中ががら空きだぜ…?)」ジリッ

B「…ぅ…あれ?オレは…」パチッ

陸「!良かった!!大丈」

A「くたばれ化け物がっっ!!」ビュオオッ

陸「!?」クルッ…



バッ…!!


201:
◆AhbsYJYbSg:2011/8/2(火) 23:36:32 ID:Bd/SJ6AwJc

A「!!な…てめぇ!!」イラッ


陸「!…C、くん…?」

C「…っ…さ、佐藤くんはっ…逃げて!!ここは、僕が…」
カタカタ

A「くそが…っ!邪魔してんじゃねぇよっ!!」ヒュンッ

陸「!!あぶない、Cくんっ」バッ…


バキッ…!!


陸「…っ」ドサッ

C「…ぁ…」ヘタッ

A「…はは…っ…


…やっと当たったぜえぇえぇえ!!!!」ヒュンッ



バキッ!!ドスッ!!

202:
◆AhbsYJYbSg:2011/8/3(水) 22:09:59 ID:R9V7IZrb0.
シトシト





鎌「!!チ…ビ…っ」

濡「キャアアッ!!陸ちゃん…っ!!」フラッ

雪「…!!…っ」オロオロ

千「っ…疾風!!もうこれ以上、
…!!」

鎌「っ…あいつらぁ…!!許さねえっ!!」ゴオッ

千「な…バカもん!!こんな所で力を解放し」


ガシッ


鎌「がっ!…離せ月夜!!あいつらぶっ殺してやんだ!!」ウガーッ

夜「落ち着きなさい!!こんな道のど真ん中で力を解放したら、どうなるか位想像出来るでしょうが!!」ググッ

猫「そ、そんにゃ事言ってる場合か!?早く助けにゃいと!!」ハラハラ

犬「っ…ワン!!」ダッ

傘「くっ…僕も行くよ!!」ダッ…

雪「!…待って」ガシッ

傘・犬「!?」グイッ

千「!深雪!?なぜ…」

雪「…あれ」スッ

千「…!!」


203:
◆AhbsYJYbSg:2011/8/3(水) 22:16:10 ID:R9V7IZrb0.




ガシッ!


A「なっ…離しやがれ!!」バキッドスッ

C「ぃ…いやだっ!佐藤君を…守るんだ!!」ガッチリ

A「この…てめぇだって、一緒にこいつの事苛めてただろうが!?なんで今さら…」

C「も…ぃ…んだ…」ボソッ

A「あっ?」

C「…っもうイヤなんだよ!!これ以上…
失望したくないんだ!自分にっ!!」
ポロポロ

A「!!」



―――



204:
◆AhbsYJYbSg:2011/8/3(水) 22:24:34 ID:R9V7IZrb0.



父『…お前には失望した。残念だ、あの子が生きていればな…』

母『失望だわ。本当にバカな子…ああ、お兄ちゃんはこんなんじゃ無かったのに…』フウ…






失望したよ失望した失望だ失望失望失望失望失望失望失望失望失望失望失望失望失望失望失望しつぼうしつぼうしつぼうしつぼうしつぼうシツボウシツボウシツボウシツボウシツボウシツボウ………



205:
◆AhbsYJYbSg:2011/8/3(水) 22:26:26 ID:R9V7IZrb0.









『ホラ…もう泣くなって。
お前には、兄ちゃんがついてるだろ?』ニコッ



――




A「ぐっ…どけぇええぇえっっ!!!!」ビュッ…



ガシッ



A「!!」

B「もう…止めろA!!俺たちは負けたんだ!」ググッ

陸「…A…くん…っ」フラッ

A「っ…はなせッ!!」ババッ

B・C「!!」

A「…っ」ダダッ

陸「あ…待って、Aくんっ!!」タタッ




シトシト

206: 名無しさん@読者の声:2011/8/4(木) 08:00:30 ID:VkmpehvOko
更新来た!
207:
◆AhbsYJYbSg:2011/8/4(木) 22:06:54 ID:5zkEImsvYs

A「ハア、ハア…」ダダッ

陸「…待ってよ、Aくん!!」タタッ

A「…っ…それ以上近付くな…『化け物』!!」

陸「!?」ピタッ

A「…俺知ってんだぜ…
てめぇ、近付いた相手の考えが読めんだろ!!」

陸「!!…なっ…なんのこ」

A「とぼけんな!!
俺の目は誤魔化せねえ…気味悪ぃんだよ化け物がっ!!」ペッ

陸「…

…ふーん…怖いんだ?」

208:
◆AhbsYJYbSg:2011/8/4(木) 22:10:20 ID:cpbQZ6uC9E
>>206
見ていただけて嬉しいです!
つアイスクリン
209:
◆AhbsYJYbSg:2011/8/4(木) 22:13:23 ID:6ONvXedXtY

A「…あ!?」イラッ

陸「怖いんでしょ?…本当の弱虫は自分だって、バレちゃうもんね」スタスタ

A「てめぇ…っ」ワナワナ

陸「他人を傷付けて、辛いことから逃げて…
もう気付いてるはずだよ。本当に悲鳴をあげてるのは、自分の方…」スタスタ

A「っ…黙れっ!!」ビュッ


キィイン


―――











(…だれか、たすけて)


――

210:
◆AhbsYJYbSg:2011/8/4(木) 22:18:47 ID:BCl/kv047Q


陸「うん、分かった」ニコッ


ピタッッ…


A「…」

陸「…」

A「…っ」ヘタッ

陸「…もう、強がらなくていいんだよ」

A「…っ…」ポロポロ

陸「…一体、何がAくんを苦しめてるのか…良かったら、話してみない?
誰かに聞いてもらうだけで、少しは変わることもあるんじゃないかな」ニコッ

A「……

3年前…兄貴が、死んでから…だった。父ちゃんと、母ちゃんが…変わったのは」ギュッ

陸「…」

A「兄貴は、俺なんかよりずっと優秀で…強くて。それにいつも優しかった。
うちの道場だって、兄貴が継ぐはずだったんだ。
なのに…死んじまった。飲酒運転の車に跳ねられて…あっけなく」





シトシト

211:
◆AhbsYJYbSg:2011/8/4(木) 22:22:19 ID:cpbQZ6uC9E

A「それからは地獄だった。
父さん母さんは…兄貴を失った悲しみを、俺にぶつけてきたんだ。
でも俺は耐えた。どんなに頑張っても、俺は兄貴みたいにはなれない…ならせめて、二人の期待に応えられるように頑張ろう…ってな。
だけど、段々苦しくなってきて…そんな時は、クラスメイトを苛めてストレスを発散した。誰かを見下してる時だけは、辛い現実を忘れられたんだ…。
いつも後で、死にたくなる程後悔した。…だけど…止められなかった」グッ

陸「…」

212:
◆AhbsYJYbSg:2011/8/4(木) 22:25:22 ID:RduMbp0AaY

A「…でも…一番、辛かったのはっ…

兄貴と比べられる度に、あんなに好きだった兄貴が…
どんどん憎く…嫌いになってったことだっ!!」ポロッ

陸「…」

A「大好きだったのに…あんなに優しかったのに!!
兄ちゃんとの思い出が、どんどん黒く、汚くなってくんだ…
なんでだよっ!?俺は…っ…ただ…」ポロポロッ

陸「…そっか…辛かったね…」ナデナデ

A「!…お前…なんで…っ」

213:
◆AhbsYJYbSg:2011/8/5(金) 21:45:05 ID:Bd/SJ6AwJc

A「…なんで、お前が泣いてんだよっ!?
俺は今まで、お前を沢山…傷つけて…っ」グスッ

陸「…助けたかった」ポロポロ

A「!?」

陸「Aくんが苦しんでるのは、ずっと前から分かってたから…。
でも、僕には勇気が無くて…」ギュッ

A「…」

陸「向き合うべきだったんだ、もっと早く。自分の力にも、Aくんにも。
だから…遅くなってごめんね」ペコッ

A「……なんで、謝るんだよ…
謝んなきゃいけないのは、俺なのに…おれが…っ」ポロポロッ






B「はあはあ…っA!」ダダッ

C「さ…佐藤、くんっ!」タタッ

214:
◆AhbsYJYbSg:2011/8/8(月) 00:04:06 ID:m3z7YbJwok
シトシト




陸「2人とも…」

B「ハア、ハア…すまんかったっ!!」ガバッ

陸「!?」

B「今さら遅いと思うだろうが…。
オレ達は、昔からAのダチだった。良いことも悪いことも、皆一緒に経験してきたんだ。
こいつが何か悩んでて、その不満をいじめで発散してるのは分かってた。友達なら、止めるべきだったろうに…オレらはあろうことか、それに手を貸してた。
でも…Aに言いなりだったはずのCが抜けて、何も出来ない、弱虫だと思ってた佐藤にコテンパンにされて…やっと目が覚めた気がすんだ。

…俺たちが間違ってた!!すまん!!」ゴチンッ

陸「…」

A「…B…っお前…」

B「…A…すまん。オレはお前が怖かった…段々と、オレの知らないお前に変わっていくようで…。
でも…もう、逃げるのは止めだ」

C「こ、これからは…一緒に背負うから。たとえ、何も出来ないとしても…そばに、いる」ギュッ

A「…っ…」ポロッ


215:
◆AhbsYJYbSg:2011/8/8(月) 00:13:55 ID:cpbQZ6uC9E

B「…?…A、お前…泣いてねぇか?」キョトン

A「なっ!…な、泣いてねぇよ!?」ゴシッ

C「え…で、でも、目が赤」

A「泣いてねぇの!」ギロッ

C「ひ…っ」

陸「泣いてるでしょ。さっきも号泣だったし」シレッ

A「な…お前、ばらしてんなよ!」

B「へ…?てことは、Aは泣きm」

A「言わせねぇよ!?」ガバッ

陸「泣き虫だね、完全に」サラッ

A「!?おまっ…ちょっとぉ…」

B「へぇ…」ジロジロ

A「…なっ…なんだよっ」タジ…

B「いや…別に?(…何年ぶりだろうな…こいつが涙を流すなんて…)」

陸「そっか…良かったね、Aくん。







ところで…今までの事、まさか簡単に許してもらえるとは思ってないよね…?」ゴゴゴゴ…

A・B・C「!?」
216:
◆AhbsYJYbSg:2011/8/9(火) 00:05:01 ID:m3z7YbJwok

陸「…罰として、」

A・B「っ…」ゴクッ

陸「…迷惑かけたクラスの皆、全員に謝ること」

A「…

…え…それだけ、か…?」

陸「あ…あと、もう掃除サボっちゃだめだよ?」

B「…佐藤…お前…」

陸「…もういいんだ。いつまでも怒ってたって、前に進めないしね」ニコッ

C「…佐藤くん…」グスッ

A「…佐藤、今まで本当に、ごめ」



…ドドドドドド!!



鎌「て・め・え・らあああっ!!」ゴオオッ

陸「!?」

217:
◆AhbsYJYbSg:2011/8/9(火) 23:22:23 ID:gYnmwBMPow

B「げ!あいつは…っ」

C「ま、前に、公園の木の上で寝てた…変な人!!」

A「なんなんだよ…あいつ、この公園に住んでんのか!?」

C「ぇ…そ、それってもしかして、ホーム」

鎌「ホームレスじゃねえしっ!!」ドドッ

A・B・C「聞こえてた!!」ギャー

陸「と、とにかく皆逃げて!!」

A「な…お前は大丈夫なのかよ!?」

陸「う、うん…大丈夫!(言えない…あんな鬼みたいな人と知り合いだなんて言えない…)」

鎌「このクソ餓鬼どもがあ!!」ドドッ

B・C「ひい…っ」ダダッ

A「…っ佐藤!」

陸「?」

A「今までごめん。それから…

…ありがとう」


タタッ


陸「…」




シトシト

218:
◆AhbsYJYbSg:2011/8/9(火) 23:32:58 ID:kLQdZSsZjo




鎌「…チビ!!大丈夫か?どっか痛くねぇか?」ザザッ

陸「兄ちゃん落ち着いて…平気だよ、どこも怪我してないから。
それに…あの3人とも、仲直り出来たし!」ニコッ

鎌「そ、か…良かった…

くそ…あの悪ガキども、次会ったら容赦しねぇ!!」メラッ

陸「ちょっ…話聞いてた!?」


ダダッ


夜「くっ、ちょっと拘束を解いた隙に…大丈夫ですか陸くん!!」ダダッ

犬「ワンワンッ!」ダッ

濡「陸ちゃん!」スルスルッ

雪「…」トトッ

千「…っ」タタッ

傘「ちょっ…なんで僕の頭に乗ってるのさ!」タタッ

猫「ケチケチするにゃ!」ガッシリ



陸「え…みんな、どうして…?」ポカン


219:
◆AhbsYJYbSg:2011/8/10(水) 20:55:54 ID:5zkEImsvYs

猫「偶然おみゃーを見かけたのにゃ。全く無茶して…大ケガしたらどうする気にゃ!!」プンプン

陸「…雨ちゃん…心配してくれたの?」ニコッ

猫「にゃっ!?
そ…そんにゃわけあるか!!にゃーは別に、おみゃーのことなんか…」フイッ

夜「分かりやすい猫ですね…」クイッ

濡「せやけど、ほんにもう無茶は止めてな?うち心臓が凍りそうどしたわ…」ブルッ

雪「…心配…した…」

陸「…みんな…ごめんね、心配かけ」



ギュッ

220: ◆AhbsYJYbSg:2011/8/11(木) 11:02:33 ID:6ONvXedXtY


陸「!?…千代、ちゃん…?」

千「…無事で、良かった…」ギュッ

濡「…千代はんは、一番ヒヤヒヤしてはりましたからなぁ…」ヒラヒラ

夜「申し訳ない、すぐにでも駆けつけようとしたんですが…どっかの『お馬鹿さん』のせいで、時間を食ってしまって…」ギロッ

鎌「うっ」グサッ

傘「ほんとほんと、ベルの方がよっぽど落ち着いてたよね…どっかの『お馬鹿さん』と違って」ギロリ

鎌「はうっ」グサッ


221: ◆AhbsYJYbSg:2011/8/11(木) 11:04:55 ID:BCl/kv047Q


千「…!?」ガバッ

陸「?」

千「あ…す、すすすまぬ、気が動転して、つい抱きついてしもうて…」アワアワ

陸「…」


ギュッ


千「!?」

陸「心配かけて、ごめんね…ありがとう」ポンポン

千「…りく…」










犬「…ワンッ」

陸・千「!!」パッ
222:
◆AhbsYJYbSg:2011/8/12(金) 22:19:41 ID:MpSTwCOAiE

千「…そ、そろそろ帰ろうかの!雨も降っておるし…」カクカク

陸「そ…そうだね!早く帰ろっか!」アセアセ

猫「?…一体何を焦ってるのにゃ?」

濡「ウフフ…雨ちゃんには、まだ早いかも分からへんね…」

猫「?」

鎌「うし、帰って飯食おうぜ!!」スタスタ

夜「ちょっと…そのご飯、一体誰が作ってると思ってるんですか?少しは感謝の心というものをですね!」プンプン

鎌「あ?んだとこの…」

陸「月夜お兄ちゃん、今日の晩ごはん何?」キラキラ

夜「今日はスパゲッティですよ〜」キラキラ

鎌「なんか扱い違くね!?」

223:
◆AhbsYJYbSg:2011/8/12(金) 22:24:59 ID:5zkEImsvYs

雪「…おら…和風おろしが…いい」トテトテ

傘「僕はミートソースかな」スタスタ

猫「にゃーは…
ピンクサーモンとツナのクリームパスタ、キノコ和えがいいにゃ」ガッシリ

傘「顔に似合わず洒落たものを…
って言うか、そろそろ降りてよ!重いんだけど!」

猫「硬いこと言わにゃい」フリフリ

犬「ワンッ」タタッ

濡「あらぁ…御膳が待ちきれへんみたいどすな、ベルちゃんは」クスクス

千「はは、本当じゃな。
きっと、ものすごく腹が減って…」スタスタ…










―……ょ…―




224: 名無しさん@読者の声:2011/8/12(金) 22:25:18 ID:vVMJxExFEA
支援したい
225:
◆AhbsYJYbSg:2011/8/12(金) 22:26:50 ID:cpbQZ6uC9E

千「!?」グルッ

濡「…?…千代はん?どないしたんどす?」

千「…いや…
何でもない、多分気のせいじゃ」スタスタ

濡「…?」





千(なんじゃ…?今、

誰かに、呼ばれたような…)








―『…ち…よ……』―





シトシト


226: ◆AhbsYJYbSg:2011/8/12(金) 22:29:27 ID:5zkEImsvYs
>>224
支援感謝です!
つ焼きマンゴー
227: 名無しさん@読者の声:2011/8/12(金) 22:36:18 ID:rvWps0dmnc
焼きマンゴーうまし



コピペください
228: ◆AhbsYJYbSg:2011/8/13(土) 00:21:15 ID:m3z7YbJwok
>>227
スレチなんでごめんなさい☆
つ焼きパイン×100
229:
◆AhbsYJYbSg:2011/8/13(土) 00:25:33 ID:zLoReEE0I2






―――


「…それで…アタシ達は、いつまで『ココ』にいればいいのかしら?
いい加減飽きてきたわ…」フウ…

「指示(メイレイ)があるまでは待機っスよ、姐さん。
だけど…俺の腹も、そろそろ限界っスねぇ…」グギュルル…

「ふん、軟弱者共が…この程度で音をあげるなど、日頃の鍛え方が足りないのではないか?
『恋人』に『吊るされ男』よ」

恋「アラ…貴方と一緒にしないで頂けるかしら、『皇帝』。
最も…鈍感な貴方には、1日も1年も大した違いは無いのでしょうけれど…」クスクス

皇「…ふん…」

恋「アラ…怒らないの?」

皇「…女にあげる拳は持たぬ」フイッ

吊「へへ…相変わらず男前(キザ)っスねぇ」ケラケラ


230:
◆AhbsYJYbSg:2011/8/13(土) 01:07:36 ID:cpbQZ6uC9E

ドカッ

吊「痛っ!…男には容赦無しっスかっ!!」ムカー!!

皇「ふん、当然だこのお調子者が。
…そして嘘を云うな。主が痛みを感じるはずがなかろう?」ギロッ

吊「…へへ、なんでもお見通しってワケっスね」ニヤ


バゴンッ!!!


恋・吊・皇「!」


「…ア…壊レタ、トビラ…」パラパラ…

吊「ちょ…心臓(ハート)に悪いっスよお!」ドキドキ

恋「相変わらずの怪力ね、『戦車』。これで何度目かしら?」クスクス

戦「ア〜…ゴメン…」ポリポリ


231:
◆AhbsYJYbSg:2011/8/13(土) 01:19:34 ID:5zkEImsvYs

皇「ふむ、これであの方…『隠者』を除き、西洋妖怪は全員集合というわけか。
ところで、あの方は最近姿が見えぬが…」

恋「『隠者』は大切なお仕事をされてるわ。あの方にしか出来ない、ね…」

戦「タイセツナ…シゴト?」

恋「そうよ…とっても重要な『お仕事』なの。
人間を滅ぼす為の、下準備といった所かしら?」クスクス

戦「…ニンゲン…っ」メラッ

吊「…しかし、一匹も人間(エサ)が食えないなんて生殺しも良いとこっスよね。
このままじゃ俺、餓死しちまう…」グスッ

恋「アタシも…早くいい男捕まえて、精気を絞り尽くしてあげたいわ…」ホウ…

皇「ふ…人間なら、一匹近くにいるではないか」ニヤッ

吊「へへ、アレはダメっスよぉ。一応、俺たちの頭(ボス)なんスから。
それにアイツにはいつだって、あの白い髪の『悪魔(The Devil)』がベッタリっスからね…」ケラケラ





弥一「…それはわしの事かな?『吊るされ男』よ」スッ
232: ◆AhbsYJYbSg:2011/8/13(土) 22:43:58 ID:RduMbp0AaY

吊「!!…な…っ」クルッ

皇「ほう、噂をすればなんとやら…だな」ヒュー

弥「あの男に危害を加えたら…どうなるか分かっておろうな…?」ギラッ

吊「(お、音も無く背後に立つとか…ぱねぇ…!)
か…勘弁して下さいよ弥一さん…マジ心臓止まっちまいますって…っ」ゴクッ

皇「ふ…もう止まっておるではないか」ニヤ

恋「それで?一体何のご用かしら…優秀なボディガードさん?」クスッ

弥「ああ…お主達に、計画の変更を伝えに来た。
この地を壊滅させるのは、当初予定していた1ヶ月後ではなく…


…『明日』じゃ」ニヤリ

233: ◆AhbsYJYbSg:2011/8/13(土) 22:54:24 ID:R9V7IZrb0.

吊「!…まじっスか!?」ウヒョーイ

恋「と、いうことは…『隠者』の仕事は終わったの?」

弥「ああ、ほとんど準備完了じゃ。
そしてもうひとつ、裏…」

皇「『裏切り者は始末せよ』…だろう?」ニヤッ

弥「…そうじゃ。
日本妖怪は人間側についた…今となっては、奴らはただの邪魔者でしかないからの…」

戦「ニンゲンモ…味方スル奴モ…コロス」グッ

皇「…そうか…『あの男』と闘えるのか…」クックッ

吊「喰い放題♪殺(く)い放題♪」ワクワク

恋「あぁん…やっとこの地下生活から解放されるのね…。
だけど、珍しいわね?アナタが一瞬でも彼のそばから離れるなんて…もうボディガード役は飽きたの?」クスクス

弥「…ふん…夫婦の再会に、水を差す気は無いさ」スタスタ…

恋「アラ…あの男、独身じゃ無かったんだ…ちょっと残念」クスッ






――





「…この野郎っ!…さっさとオリから出せっ!!」ガシャン

234:
◆AhbsYJYbSg:2011/8/14(日) 22:40:56 ID:cpbQZ6uC9E

碌「おいおい相変わらずだな。少しは女らしくなったと思ったら」

母「…は、こんなトコに閉じ込めといて…今さらなに言ってんのさ。
あたしは…アンタのペットじゃない!」ガシャンッ

碌「ふ…草介の前じゃ、それこそ借りてきた猫のように大人しくしてるくせに…。
それに、こんなトコとはご挨拶だな。この『上』には、俺たち家族の思い出の場所があるってのにさ」ニコッ

母「へぇ…家族だったら、監禁しても許されるわけ?
…ふざけるのも大概にしろよ」ギラッ

碌「仕方無いだろう…お前を自由にしたら、これまでの苦労が水の泡じゃないか。
そうだろう?妖怪『覚(さとり)』。今までも散々邪魔をしてくれて…本当に感謝しているよ」ニッコリ


235:
◆AhbsYJYbSg:2011/8/14(日) 22:43:35 ID:6ONvXedXtY

母「ふん…。
何しに来たのさ?あたしはもう、あんたと話すことなんか無い…」

碌「明日、決行する。…それだけ伝えに来た」

母「!?な…」ガシャン

碌「驚いたか?
少し様子を見るつもりだったがな…気が変わった」

母「あんた…一体何考えてんの!?人間を全て消すなんて、そんな事許されるわけ…」

碌「許されるさ。
だって、人間は皆『ゴミ』なんだから」

母「!?」

236: 名無しさん@読者の声:2011/8/14(日) 22:53:50 ID:TJWk.ac8Fw
恋人、吊るされ男、皇帝…タロットカードですね

面白いです
つ支援

237:
◆AhbsYJYbSg:2011/8/14(日) 23:10:45 ID:6ONvXedXtY

碌「他者を差別することで安心する子供、視野の狭い大人達…奴らは所詮、人間という『箱』の外には出られないのさ。
その中で醜く共食いし続ける位なら、いっそ箱を潰してしまえばいい。
汚いものは掃除する…当然の事だろう?」ニッコリ

母「…救いよう無いね、あんた」ハッ

碌「はは、かもな。

それはそうと理恵…前に話しただろう?この土地に伝わる、昔話を」

母「…」

碌「この地には太古の昔から、悪しきものを清める不思議な力があった。
ある時五体の伝説の妖怪達が蘇り、日本全土を混沌に陥れたそうだ。
民草が恐怖に怯える中、一人の陰陽師がそいつらを倒し、五つの心臓をこの地に封印したという…。
その時の陰陽師こそ、俺の先祖だってな」


238:
◆AhbsYJYbSg:2011/8/14(日) 23:13:27 ID:kLQdZSsZjo

母「…そしてそいつらの封印を、子孫であるあんたが解き…また暴れさせようって言うんでしょう?
…良い精神病院、紹介してあげるよ…」フウ…

碌「ははっ…それ、前も言われたっけ。

…だが、お前はその話を信じた。
だからこそ、これまで姿をくらませていたんだろう?
五つの心臓を、破壊するために」

母「!?…っ」

碌「知らないとでも思ってたのか?
まあ確かに、心臓はお前の手によって全て破壊された訳だが…。
すまんな、理恵」ニコッ

母「…?…」


239: ◆AhbsYJYbSg:2011/8/14(日) 23:22:19 ID:kLQdZSsZjo
>>236
わあ…ありがとうございます!!
タロットは一時期ハマってた事がありまして…今回使ってみました(*^^*)

240:
◆AhbsYJYbSg:2011/8/16(火) 21:41:00 ID:gYnmwBMPow
カサッ


碌「忘れたのか?…『これ』の存在を」スッ

母「!…紅い、折り鶴…!?
あんた…まさか、その式神を…」

碌「ああ、既に配置したよ。
新しい心臓として…な」カサッ

母「…っ馬鹿野郎!!あんた、それが一体どういう事か分かってんの!?
血を吸わせた式紙は、その強大な力と引き換えに…

使役者の命を、削り続けるんだよっ!?」ガシャンッ

碌「…ああ…よく分かってるさ」

母「どうして…?なんでそこまでするの!?

分かんないよ…あたしもう…あんたが、分かんない…っ」ワナワナ

碌「…理恵」スッ

母「!?」ハッ


241:
◆AhbsYJYbSg:2011/8/16(火) 21:45:14 ID:kLQdZSsZjo

ピトッ


母「…っ…」キイィン

碌「…これが…その理由だ」パッ

母「…そん、な…
そんなこと…っ」ギリッ

碌「…

待ってろ、理恵。
全て始末してやる。醜い人間は一人残らず、な…」スタスタ…




母「…っ」ヘタッ

母(…ダメだ…もうあたしのどんな言葉も、あの人には届かない……どうしたらいいの…?
お願い…誰か、助けて…あの人を、助けて…っ)ポタッ


母「草介さん…

…りく…っ」ギュッ



――


242: 名無しさん@読者の声:2011/8/19(金) 12:35:39 ID:tsGeUYJJo2
C揚げ
243: ◆AhbsYJYbSg:2011/8/19(金) 13:00:58 ID:m3z7YbJwok
>>242
支援感謝します。
つすっぱムーチョ
244:
◆AhbsYJYbSg:2011/8/19(金) 13:19:20 ID:gYnmwBMPow
赤香町・屋敷の裏庭


シトシト


千「…」

猫「あれ…おみゃー、なんでこんにゃとこに?」サクサク

千「!…うるる、か…」

猫「みんにゃの所にいかにゃいのか?もうすぐデザートの時間らしいぞ」フリフリ

千「うむ…食後の腹ごなしに、少し雨を見ておったんじゃよ。
月夜の料理は美味じゃから、ついつい食べ過ぎてしもうてな」

猫「確かに!あの眼鏡の料理は最高だにゃ。これでレディに対する礼儀があれば、言うことにゃいんだが…」ハァ

千「はは、なら、まずはお主が『れでぃ』にならんとな」プッ

245:
◆AhbsYJYbSg:2011/8/19(金) 13:20:59 ID:zLoReEE0I2

猫「そうそう、早く素敵にゃ淑女に…ってそれどういう意味にゃ!」ガバッ

千「はは、すまぬな。

ところで、ちょうど良かった…お主に聞きたい事があっての」

猫「ん?なんにゃ?何でも聞いてみそ!」エッヘン

傘(あれ、珍しい組み合わせだな…何話してるんだろ?)スタスタ…




千「お主と晴を操っておるのは…一体、何者なんじゃ?」
246:
◆AhbsYJYbSg:2011/8/20(土) 08:57:01 ID:kLQdZSsZjo

傘(!?)

猫「…」

千「お主と初めて会うた時、確かにお主は『あの方がしびれを切らすのも…』と言った。
そして、晴の頑なな姿勢も気になっておったんじゃ…それほど恐ろしいヤツなのか、其奴は」

猫「…よく覚えてるにゃ…そんにゃこと」

千「記憶力には自信があるんでな。
晴は…あやつは変わった。以前わらしらが共に暮らしていた頃は、もっと穏やかで…優しい子だったんじゃ。あんな苦し気な顔をするようになったのは…其奴が原因ではないのか?」

猫「…おみゃーらは…晴から、何も聞いてにゃいのか?」

千「…あぁ。しばらく姿を消していた晴が、一年前突然現れたんじゃ…人間を滅ぼす計画がある、と言ってな」



シトシト

247:
◆AhbsYJYbSg:2011/8/20(土) 09:06:18 ID:6ONvXedXtY


猫「あいつから何も聞いてにゃいなら…にゃーも、何も言えない」フイッ

千「…やはり、そうか」

猫「…?…にゃんだ、ずいぶんあっさり引き下がるにゃ」

千「仕方ないじゃろ。
日本妖怪が、産まれ育った故郷を滅ぼす…いくら人間を憎んでいるとはいえ、本来ならそれは、身を八つ裂きにされるより辛いはずなんじゃ。
それでも頑なに計画を進める理由…思い当たるとすれば、一つだけ」

猫「…」

傘(…っ)

千「お主ら…『人質』を、とられておるんじゃな?」
248:
◆AhbsYJYbSg:2011/8/20(土) 09:08:45 ID:zLoReEE0I2

猫「…っ…」フイッ

千「…やはり、か…」

猫「…仕方にゃいだろ…っ
計画に協力しなければ、大切な人が殺されるかもしれにゃい!だったら、言う通りにするしか…」

千「…そうだな。確かにその通りじゃ」

猫「…っにゃんで責めないんだ!!にゃー達は、おみゃーらを唆して…
日本を、滅ぼさせようとしてるのに!」

千「…皆が皆、自分より大切な者に出会えるとは限らない…。
そんな彼らが人質にされたんじゃ、わらしがお主らの立場でも、同じ事をしたじゃろう」

猫「…っ」グスッ

千「しかし、なんと卑劣な奴…。
ちなみに雨…お主と晴が人質にとられておるのは、誰なんじゃ?」

猫「…っにゃーは…昔、行き倒れににゃった所を救ってくれた恩人を。
そして、晴は…」
249: 名無しさん@読者の声:2011/8/21(日) 07:25:41 ID:NIDe6TyFkM
wktk
激しく支援!!!
250: 名無しさん@読者の声:2011/8/21(日) 22:43:54 ID:bt33hTJvps
('ω' )三 ('ω' )三 ('ω' )三
ジェットストリーム支援
251: ◆AhbsYJYbSg:2011/8/22(月) 09:57:11 ID:5zkEImsvYs
>>249
激しく感謝です!
つのり塩ポテチ
>>250
バーストストリーム感謝!つ紫いもタルト
252:
◆AhbsYJYbSg:2011/8/22(月) 10:01:17 ID:Bd/SJ6AwJc

ガサッ


千・猫「!!」

鎌「あ…?何してんだ、お前ら」スタスタ

千「…疾風…」ホッ

猫「にゃんだおみゃーか…」ホッ

鎌「?…変なやつらだな。
月夜が呼んでたぞ、せっかくのアイスが溶ける、ってな。確かハーゲンなんとか、つったか」

猫「アイス…
にゃんだ、デザートはカツオの叩きじゃ無かったのか…」シュン

鎌「馬鹿、ちげーだろ!
カツオは刺身で食うのが一番だろが!」

千「いやいや疾風、他につっこみ所があるじゃろ」ズビシ


253:
◆AhbsYJYbSg:2011/8/22(月) 10:07:49 ID:RduMbp0AaY

鎌「おら、早く行かねぇと溶けちまうぞ?」ニッ

猫「にゃっ…プリン味は渡さにゃいぞ!」ダダッ

千「なっ…何を言う!ぷりん味はわらしの物じゃ!」タタッ



シトシト



鎌「…おめーも早く来いよ。
でないと、お前の大好きなチョコ味は俺のもんだ」ニッ

スタスタ




傘「…(気付かれてた、か…)」カサッ

傘(…本当のことを知ったら…きっと皆、僕の事…許してくれないだろうな…)ギュッ

傘「…」

傘「…

…チョコが危ない…っ」ダダッ


シトシト

254: 名無しさん@読者の声:2011/8/23(火) 14:48:41 ID:6hvqYB35YI
初期から一途に見てます!
継続支援!
255: ◆AhbsYJYbSg:2011/8/24(水) 21:26:08 ID:Bd/SJ6AwJc
>>254
ありがとうございます!
もうこのSSを始めてから2ヶ月も経ったんですね…なんだかあっという間です。
これからも、出来る限り更新していきますね!
(*^^*)
256:
◆AhbsYJYbSg:2011/8/24(水) 22:00:51 ID:6ONvXedXtY

赤香町・元無人屋敷


シトシト


夜「それじゃ、あの三人組とは仲直りできたんですね?」パクッ

陸「うん!きっともう、弱い者いじめなんてしないと思う。
もう独りぼっちじゃないからね…3人とも」パクッ

濡「ふう…これで、ようやっと安心どすなぁ」ホッ

鎌「いや〜、俺も特訓してやった甲斐があったぜ…。
あそこでチビが背負い投げしたのも、俺の予想通りだったしな!」ウンウン

濡「…はぁん…?」ジロッ

夜「…一体どの口が…?」ジロッ

傘「…予想通り、ねぇ…?」ジロッ

鎌「…ウソデス…ゴメンナサイ…」ガタガタ


257:
◆AhbsYJYbSg:2011/8/24(水) 22:04:27 ID:5zkEImsvYs

陸「ま、まあまあ…。
特訓のおかげで、僕は強くなれたんだから…ありがとね、兄ちゃん!」ニコッ

鎌「お…おう!そうだよな!全部俺のおか」

濡・傘・夜「…」ギロリ

鎌「げっ…っ…」カタカタ





千「…」ジーッ

猫「…にゃんだ?」パクッ

千「わらしの…ぷりん味…っ」ムスッ

猫「どんみゃい」パクパク


258:
◆AhbsYJYbSg:2011/8/24(水) 23:08:25 ID:5zkEImsvYs

雪「…」モグ…

濡「?…どないしたん雪ちゃん?お抹茶味キライやったっけ?」

雪「…寂しいの…。
明日の夕方、陸は…帰っちゃう、から…」シュン

陸「!…」

千「そうか…明日じゃったな、陸のお父上の退院は…」

夜「…お父さんが元気になるのは、とても素晴らしいことです…」シュン

濡「せやけど、なんや寂しいなぁ…せっかく、家族が増えたと思うとったのに…」ホウ…

鎌「…心配すんなって!
家は近所だし、いつだって遊びに来りゃいいさ!
…なっ!……」シュン



シトシト
259:
◆AhbsYJYbSg:2011/8/24(水) 23:23:52 ID:6ONvXedXtY

陸「…皆…っ。
一週間、本当にありがとう。
皆のおかげで、とっても楽しかった。
なんだか、昔からずっと家族だったみたいで…僕、幸せだったよ」ニコッ

傘「…陸、君…」シュン

猫「…」グスッ

千「…おいおい…
皆、辛いのは分かるが…そう気を落とすでない。陸が困ってしまうではないか!
陸は元の生活に戻れるんじゃ。これほど嬉しいことは…」

猫「…と言いつつ、自分が一番泣きそうにゃ顔してるにゃ」ビシッ

千「ぐっ…それは!…」タジッ

夜「……!

そうだ…!明日陸くんの小学校は、創立記念日でお休みでしたよね!?」ガバッ

陸「あ…うん、そうだよ?」キョトン

夜「明日は、夕方まで時間もあるでしょうし…
全員でどこかへ出掛けませんか?陸くんとの、思い出作りに」ニコッ


260: 名無しさん@読者の声:2011/8/26(金) 06:13:32 ID:UA95J68pfw
支援!


更新は自分のペースでね!
261: ◆AhbsYJYbSg:2011/8/26(金) 15:58:28 ID:gYnmwBMPow
>>260
なんと優しい言葉…ありがとうございます!
つビスコ
262:
◆AhbsYJYbSg:2011/8/26(金) 16:04:54 ID:kLQdZSsZjo

陸「!…本当に!?」キラキラ

千「うむ、それはいい案じゃな」

傘「僕も賛成!そういえば、皆で出掛けたこと無かったもんね」

雪「おらも…いいと、思う…」ニコッ

鎌「へえ…お前にしては、珍しくいい事言うじゃねぇか、月夜」

夜「それはどうも。何しろ、誰かさんとは頭の出来が違いますからね…」フフン

鎌「…あ?んだとコr」ズドン!!

濡「…ほな、どちらに行くかは皆で決めたらええんちゃいます?」ニコニコ

263:
◆AhbsYJYbSg:2011/8/26(金) 16:12:01 ID:BCl/kv047Q

鎌「」シュウウ…

夜「…っ…」ガタガタ

傘(…流華…怒ると怖いんだよね…)ゴクッ

陸(…兄ちゃん…)


シトシト


雪「…みんなで、お出かけ…楽しみ」ポッ

猫「ふむ、どこがいいのかにゃ…」

千「市内で遊べる場所といえば…
瑠璃岬の水族館、藤ヶ丘の映画館…あとは青丹山の桜公園があるが、今は花見の季節では無いし…」フーム

陸「…そうだ!あそこはどうかな?

銀朱町に、『タワーハイランド』っていう遊園地があるんだけど…」




傘・猫「…!」ピクッ

264:
◆AhbsYJYbSg:2011/8/27(土) 20:52:36 ID:6ONvXedXtY

陸「そこは僕が小さいころ、家族で行った思い出の場所で…。
って言っても、昔お母さんから聞いただけで、記憶はほとんど無いんだけどね。
いつか、特別な日に行こうって…決めてたんだ」ニコッ

夜「いいですね…遊園地ですか」クイッ

千「それはいい!わらしは一度、『ごんどら』というものに挑戦してみたかったんじゃ」ワクワク

濡「うちは『メリーゴーランド』がええなあ…馬車に乗ると、お姫さんになった気ぃして…」ホゥ…

雪「コーヒー、カップ…乗りたい…」キラキラ


ワイワイ




傘「…マズいね」ボソッ

265:
◆AhbsYJYbSg:2011/8/27(土) 20:57:10 ID:kLQdZSsZjo

猫「どうするのにゃ?あそこの地下には…」ボソッ

傘「いや、でも人間との接触は固く禁止されてるはずだし…。
それに、計画は早くても3週間後のハズ。
大丈夫だよ、きっと…」ボソッ



シトシト



夜「…では、明日は『タワーハイランド』に遊びに行くということで…よろしいですね、皆さん?」クイッ

皆「「賛s」」

「ちょっと待ったーっ!!!」ガバッ

皆「「!?」」

266:
◆AhbsYJYbSg:2011/8/28(日) 15:13:31 ID:Bd/SJ6AwJc

陸「…え…どうしたの、兄ちゃん?」キョトン

鎌「いや、その…
…やっぱ、別の場所にしねぇか?明日は雨だろうしよ…」ポリポリ

千「それなら心配いらんぞ。『タワーハイランド』は屋内遊園地じゃからな」サラッ

鎌「ぐっ…
いや、でも…入場料金とか、滅茶苦茶高いんじゃ…」

夜「それぐらい、私のポケットマネーで充分まかなえますよ」サラッ

鎌「うっ…
いや、で、でもよ…」モジモジ

267:
◆AhbsYJYbSg:2011/8/28(日) 15:16:25 ID:zLoReEE0I2

猫「?にゃんでそんなに反対するのにゃ?」

傘「もしかして…
苦手なアトラクションがある、とか?」

鎌「っ…」ギクリ

濡「…そうなんどすか?」ヒラヒラ

陸「苦手なアトラクション…
ねぇ兄ちゃん、それってもしかしてジェッt…っ!!」ムグッ

鎌「シーッ!シーッ!」アワアワ

夜「…へぇ…」ニヤニヤ

濡「…ふうん…」ニコニコ

鎌「なっ…何っ、」ジリジリ

千「ふむ…どうやら、明日最初に乗るのは『じぇっとこぉすたあ』で決まりじゃな」キラーン

鎌「ふっ…ふざけんな!
俺は嫌だからな!?あんなもん、死んでも乗らな」

グイッ

鎌「!?」

雪「陸に…散々、やらせたんだから…
ハヤテも、するよね…『特訓』」ニコッ

陸「…兄ちゃん…
頑張ってね!」ビシッ

鎌「」チーン

268:
◆AhbsYJYbSg:2011/8/29(月) 14:25:46 ID:kLQdZSsZjo
―――


?「…」フオッ…



シトシト

――



陸「…ふあぁ…!…あれ…」ゴシゴシ

濡「ふふ、陸ちゃん眠そうやね…」ニコニコ

鎌「昼間あんだけ身体動かしたからな…疲れてんだろ」

千「明日に備えて、早めに眠ったらどうじゃ陸。ゆっくり休むといい」

陸「ん、分かった…
みんな、お休み。また明日ね…」フラフラ




パタン

269:
◆AhbsYJYbSg:2011/8/29(月) 21:49:32 ID:RduMbp0AaY

夜「…随分疲れてたみたいですね、陸くんは」クイッ

傘「うん…まぁ、今日は色々あったしね…」シミジミ

猫「ふむ…一体何があったというのにゃ?」

傘「それが、今日は陸くんといじめっ子の直接対決があって…
ってちょっと!君しっかり現場にいたじゃないか!」ガバッ

猫「あ〜、そういやそんにゃ事もあったようにゃ…」フムフム

傘「くっ…僕の頭に爪を立てたこと、忘れたとは言わせない…っ」ブツブツ



シト…サアアァ



千「…
皆、少し話があるんじゃが…良いかな?」

270:
◆AhbsYJYbSg:2011/8/29(月) 21:53:46 ID:BCl/kv047Q

鎌「ん…?…なんだよ、改まって」

千「実はな、見つかったんじゃよ…
人間を滅ぼすこと無く、妖怪みんなが納得できる方法がな」

傘「!…そっか、明日で一週間だもんね…。
覚えてたんだ…約束」

千「当然じゃろ、わらしは決して忘れんよ。
…もう一つの、約束もな…」

濡「!…千代はん、それってまさか…」

千「あぁ。明日わらしは…
…陸に、正体を明かす」

271:
◆AhbsYJYbSg:2011/8/29(月) 21:57:37 ID:BCl/kv047Q

夜「!」

鎌「な…なんだよ、それ…
今まで、せっかく…っ!」ガバッ

濡「…っ…千代はん、あかん。そないな事したら…!」バッ

猫「…?…にゃんの話だ?」キョロキョロ

雪「…」

傘「っ…もういいよ!あんな約束、無かった事に…」ガバッ…

千「疾風、流華、晴…もう、決めたんじゃ。
わらしはこれ以上…陸に嘘を吐き続ける事、耐えられそうも無い。
本当はお主らも…そうではないのか?」



サアアァ

272:
◆AhbsYJYbSg:2011/8/29(月) 22:02:08 ID:m3z7YbJwok

鎌「でも…っ…だけど…今まで楽しかったじゃねぇか!?
最初は俺が人間と仲良くするなんて、死んでもあり得ねぇと思ってた…今だって、心のどっかで奴らを許せねぇ自分がいる…
でも…『あいつ』は特別なんだよ!陸のおかげで、人間もまだまだ捨てたもんじゃねぇって思えたんだ…っ
いいじゃねえかよ!?別に今更ばらさなくたってっ!!」バンッ

夜「…私も、今度ばかりは疾風に賛成です。
今の段階で正体を告げる事に、意味があるとはとても思えません」クイッ

猫「…ふわぁあ〜…にゃんだか、眠くにゃってきたにゃ…」ゴシゴシ

傘「ちょっと!!人が真面目な話をしてる時に、なんで君はいつもいつも…」イライラ

猫「…だって、みんにゃ真実から逃げすぎにゃんだもん。
はっきり言ったらどうにゃ?
『自分達は化け物で、人間を滅ぼす悪魔だって陸に知られるのが怖くて仕方ない』…ってにゃ」フリフリ

273:
◆AhbsYJYbSg:2011/8/30(火) 20:16:31 ID:cpbQZ6uC9E

傘「!」

鎌「てめっ…よくもそんな…っ」ワナワナ

猫「…


だって、にゃーは怖いもん」

鎌「!」

猫「もし、陸に嫌われたら。真実を受け入れてくれなかったら。そう考えるだけで…恐ろしくて、たまらにゃい…っ」ポロッ

夜「…っ…」

濡「…うるるちゃん…」

鎌「っ…あぁそうだよ!俺達は、あいつに嫌われるのが…拒絶されるのが怖ぇんだ!!
深雪、お前も何とか言ってくれよ!そんで、千代の馬鹿な考えを変えてくれ!」

274:
◆AhbsYJYbSg:2011/8/30(火) 20:18:22 ID:zLoReEE0I2
雪「…
…大丈夫…
例え、私たちが何物でも…陸はきっと…受け入れて…くれる」ニコッ

鎌「なっ…そ、それはそうかも知れねぇけどよ…」ゴニョゴニョ

雪「それに…
やっぱり、『嘘』はだめ。無理しながら…じゃ、友達に失礼…でしょ?
千代は…信じてるの。陸の事を…誰よりも」

鎌「…深雪…」

千「…すまない、みんな…
…分かってくれ」




サア…ザアアァ

275:
◆AhbsYJYbSg:2011/8/30(火) 20:19:27 ID:Bd/SJ6AwJc


元無人屋敷・寝室


陸「…うぅ…眠い…」フラフラ

陸(どうしたんだろう…こんなに眠いの、産まれて初めて、かも…)

陸「ふわぁあ〜もうだめ、…お休み、なさい…」カクッ

陸「…」スースー…














恋「…クスッ」ナデナデ




ザアアァ…


ザアアアァ…


276: ◆AhbsYJYbSg:2011/9/1(木) 10:32:16 ID:Zf4HK0pmwo
人物紹介

・人間サイド

陸…「覚」の力を母から受け継ぐ。自分を押し殺してしまう所があるが、少しずつ改善されている模様。折り紙が得意。

千代…普通座敷わらしはおかっぱ頭だが、彼女だけは何故か黒の長髪。片仮名が苦手でプリンが大好き。

疾風…鎌いたち。陸に関しては極度のブラコンを発揮する。風を操ることが出来る。

月夜…夜叉。頭脳派だが心は暖かい。料理命で、「美味しい」という言葉に狂喜する。

流華…濡れ女。京ことばを話す(時々間違うのは1のせいであって彼女のせいでは無い)。水を操り、温めたり霧にしたり出来る。ただし凍らせるのは無理。

深雪…雪ん娘。話し方がたどたどしいのは方言を標準語に直すためだったりする。雪女の母がいる。

…………

晴…からかさお化け。陸と接するうちに人間に対する感情が変化していく。人質をとられている。

雨…猫又。天然ボケだが、考える時は考える。晴と同じく人質をとられている。

277: ◆AhbsYJYbSg:2011/9/1(木) 10:48:28 ID:AjwNNJJpcg

・西洋妖怪サイド

碌…陸の父親、人間。人間を滅ぼす為に妖怪達を暗躍させる。

弥一…千代の友達。今は何故か碌に協力している。
「皇帝」「恋人」「吊され男」「戦車」「隠者」…西洋妖怪。それぞれ強大な力を有する。


・その他

理恵…陸の母で妖怪「覚」の力を持つ。

草介…陸の養父。現在は入院中。

ベル…佐藤家の飼い犬。ABに苛められていた所を陸に助けられた。かなり頭が良い。


278: ◆AhbsYJYbSg:2011/9/2(金) 16:52:41 ID:nnYcv2It8A

およそ千年前・京都


サアアァ


グイッ…


弥一『…ふぅ、春雨を肴に飲む酒は…また格別じゃな』コトッ

千代『…』

弥『なんじゃその目は…何か不満でもあるのか、千代』

千代『…ふん、いい気なもんじゃな。
邸の外には腹をすかせ、今にも餓死せんとする民衆が万とおるのに…お主は毎日酒浸りとは』フイッ

弥『ふふ、まぁそう不満げな顔をするなよ。
わしがこのような贅沢な暮らしが出来るのも、帝やお偉方のくだらない願いを事あるごとに叶えてやっておるからさ…当然の対価じゃろう?』クイッ

千『…』

弥『そう言うお主こそ、わしが常に術を施してやらねば、一刻もせぬうちに消え失せてしまうではないか…少しは感謝したらどうじゃ』

千『…わらしはただ、お主を見張っていられればそれで良いんじゃ。
三年前、弥一…お主が自らの両親を殺したあの悲劇を…繰り返させぬ為にな』ギロッ

弥『ふふ…もう人の命は奪わせぬ、というのか?無駄な事を…
それに、何度も言わせるな。もうその名は捨てたんじゃ。
今のわしの名は…』



ダダダッ…バンッ!



『失礼いたします!一大事でございます…っ!…「阿倍晴明(あべのせいめい)」様!!』

279: ◆AhbsYJYbSg:2011/9/4(日) 07:22:40 ID:QcHWWyHcW2

弥『騒々しいヤツめ…一体何用じゃ』

従者『は、実は都の、……?…』キョトン

弥『どうした、はよう申せ』

従『は…はっ!(あ、あれ…確かに先刻、誰かの話し声が聞こえたんじゃが…空耳か?)』

千『…』

従『…申し上げます!先刻、寅の方角から馬が参ったのですが…
乗っていたはずの従者はおらず、代わりにこれが…』ススッ…カサッ

千『!』

弥『…ほう、血のついた文か…』ペラ…

従『はい。恐らく急を要する物ではないかと、取り急ぎ持って参りました』

弥『…ふむ…。
ご苦労だったな、下がってよいぞ』

従『は!…失礼いたします…』スッ…

弥『…あぁ!そうじゃ伝え忘れておった』パンッ

従『は、はい!?』ビクッ
280: 名無しさん@読者の声:2011/9/8(木) 06:45:12 ID:rDH.DyUNVE
だいすき支援!
281: ◆AhbsYJYbSg:2011/9/8(木) 17:10:55 ID:CKfXFt8lHg
>>280
なんと嬉しいお言葉…っありがとうございます!
つベッコウ飴

282: ◆AhbsYJYbSg:2011/9/8(木) 17:24:17 ID:6F2gnjkNdY
―ずずっ…ずっ…




弥『…邸の者に伝えよ。わしが戻るまで、地下の蔵に隠れておるように、とな』スクッ

従『は、はっ…晴明様、どちらかへお出掛けですか?』キョトン

弥『ふふ…何の力も持たぬというのは、案外幸せな事かもしれんな…。
良いからさっさと動け。わしはのろまは嫌いじゃ』シッ

従『はっ…はい!申し訳ありませんっ!』スッ…ダダダッ



千『…弥一』スッ

弥『あぁ…

来おったな』



―…ずずっ…ずずずずっ!

ドゴオオオン!!
283: ◆AhbsYJYbSg:2011/9/8(木) 17:52:08 ID:AjwNNJJpcg

『ぎしゃあああっ!!』ガラガラ


千『!…なんと巨大な…あれは…蜘蛛か?』フワッ

弥『あぁ…大金はたいたわしの城が…』シクシク

千『泣いとる場合か!早く退治せねば、民草に犠牲が!』フワフワ

弥『簡単に言うな馬鹿もん。霊魂のお主と違うて、わしはこの「飛の術」を自らにかけるので精一杯なんじゃ!』フワリ

千『…お主、それでも国一番の大陰陽師か?情けない…』ヤレヤレ

弥『なっ…!
ふ、ふん…発破かけようったってそうはいかんぞ。
それに、奴も空までは跳べまい。少し時をかせいで、反撃の瞬間をだな…』


『…しゃあああっ!』ビュッ

ねちゃっ!


弥『げっ!…こ奴、糸を…!』ネバー

千『!…いかん、弥一!早くそれを切り離…』



グイッ

284: ◆AhbsYJYbSg:2011/9/10(土) 23:24:34 ID:6UXBYePb8s

弥『なっ…―』ヒュルルル…


どさっ!


弥『ぐおっ!
…くっ…ぬかるみで助かったわ…』ヨロヨロ


土蜘蛛『…』ズズズ…


千『…この阿呆!さっさと式でも術でも使って、あの妖怪を倒さぬか!』フワ-リ

弥『簡単に言うな馬鹿もん!あ奴は速い上に糸を吐き、おまけに穴を掘って地中に潜むんじゃぞ!?
姿すら見えぬというのに、一体どうやっ』


…ずずずずずずっ!


千『!
危ない弥一!後ろじゃっ!』

弥『!』クルッ

土蜘蛛『…ぎっしゃあああっ!!』ドドドッ


ばくんっ


千『!』



サアアァ
285: ◆AhbsYJYbSg:2011/9/11(日) 22:23:01 ID:dJB8uFMcT2

千『や…いち…?』

土蜘蛛『…っ』ゴクン

千『…嘘じゃろ…
なあ…いつものように、そんな妖怪なんぞ蹴散らして…早う、あの憎たらしい笑顔を見せてくれよ…』ワナワナ

土蜘蛛『しゃあああ…』ニイッ

千『…や、いち…
…弥一っ!!』ギュッ







『じゃーから、その名はもう捨てたっつうに』

千『!』

土蜘蛛『!?』グルッ

弥『残念じゃったな妖怪。お主が喰うたのは式神じゃ』ヒラヒラ

土蜘蛛『ぎっ…』バッ…

弥『遅い…!「焔」』ポッ


ぼおぉおっ…!


土蜘蛛『ぎっ…しゃあああ…!』メラメラ


ズズン…―

286: ◆AhbsYJYbSg:2011/9/13(火) 18:16:07 ID:FKOF385I2I
サアアァ



弥『ふう…これにて一件落着、つってな』ニカッ

千『…っこの』

弥『む?』

千『…ばっかもんがあぁあ!!』ゴオッ

弥『ひっ…?』ビクッ

千『式神を遣うなら、なぜ先にそれを告げぬのじゃ!びっくりして、心の臓が止まる所だったではないかっ!?』フワフワ

弥『ぇ…い、いや…お主、既に止まって』

千『五月蝿いこの阿呆たれ!!
だいたいなんじゃ先刻の体たらくは?お主、それでも帝おかかえの大陰陽師か?あの程度の妖怪に手こずるとは、全く情けない奴じゃ!!』ガーッ

弥『むっ…仕方ないじゃろ!
あの程度とお主はいうが、こいつはわしが倒した中でも一番の強者だったんじゃ!少しはねぎらったらどうじゃこの薄情もの!』ゴオッ

千『…そういう事を、言うとるんじゃない…っ』グスッ

弥『ぇ…ち、千代…?』キョトン
287: ◆AhbsYJYbSg:2011/9/13(火) 18:20:58 ID:QcHWWyHcW2

千『わらしは…お主があまりに危うい戦いかたをするんで、不安なんじゃ…。
まるで、自分の命なんぞ何とも思っていないような…』ギュッ

弥『…』

千『…命はな、弥一。人間ひとりに一つだけ贈られた、大切な宝ものなんじゃ。
普段暮らしているうちは、そんなこと気づきもせぬがな…いよいよ死ぬるという時になって、突然輝きだすんじゃよ…人はその時初めて、ただ日々を生きるという事がどれだけ尊いか思い知らされるんじゃ…たくさんの、後悔とともにな』

弥『…千代…』

千『わらしはお主に、そんな思いはさせたくないんじゃ。頼むから、もっと自分を大事に…』

弥『ふん…下らんな』フイッ

千『弥一!』

弥『千代…お主は勘違いをしとる。命はお主が思うほど美しくはないし、尊くもない。
人を殺して平然としとるような奴など…死んだほうがましなんじゃ』グッ




千(弥一…わらしは知っとる。お主は、ちゃんとあの時の事を悔やんどるはずじゃ。
もどかしいのう…こんな時、お主を抱きしめられぬこの体が憎い。
せめて…せめて一瞬だけでも触れられたら、どんなに…)ギュッ



サアアァ

288: ◆AhbsYJYbSg:2011/9/13(火) 18:47:47 ID:6F2gnjkNdY

弥『…まあ、しかし…

ありがとな、千代』

千『…?』キョトン

弥『こんなわしを、何だかんだでいつも心配してくれるのは、お主くらいじゃからな…感謝しとる』ポリポリ

千『…

…真っ赤じゃぞ、お主』プッ

弥『なっ…//わ、笑うな馬鹿もん!ひ、人が真面目に…』カアッ

千『はは…すまんすまん。お主が「ありがとう」とはな…明日は雪でも降るのではないか?』クスクス

弥『〜っ…もう知らん!勝手にしろっ』プイッ

千『あー、すまん。なんだか嬉しくなってしまって、ついな…』クスクス

千(やはり、弥一…お主は変わっとらんな。
昔と変わらず、優しくて、不器用で…暖かい。
だからわらしは、お主のことを…)



サアアァ



弥『…ふんっ…
そういえば、まだあの文を最後まで読んどらんかったな』カサッ

千『…しかし、血のついた文とは…なんだか不吉じゃな』

弥『…

………な……!』ペラッ

千『!?なんじゃ弥一?一体何が書いて、』






土蜘蛛『』ガサッ

289: ◆AhbsYJYbSg:2011/9/13(火) 18:52:14 ID:FKOF385I2I

がさっがさがさっ

どしゃっ!



千『!…な、なんじゃこれは…いきなり妖怪の体が崩れて…』

弥『…』

千『これは、



…これは、なんじゃ……っ!』

弥『…どうやら、術が解けたらしいな…』スタスタ



ひょいっ…



千『これは…これは闇色の折り鶴…式神ではないか!
それに、その紅い塊は…』グッ

弥『そう…数多の式神を集め、核として「人」の心臓を使い、術で操る…陰陽道の禁術のひとつじゃ』スタスタ

千『な、なんと非道な…許せん!
では、この妖怪を操る陰陽師がどこかに居るんじゃな?そやつは一体どこに…』

弥『…千代』スッ

千『?』クルッ








弥『……「縛」』キュッ
290: ◆AhbsYJYbSg:2011/9/16(金) 07:52:33 ID:Tk1wfg8eLo

びしっ



千『ぐっ!…な、何を…』グッ

弥『…すまぬな、千代。ここでお別れじゃ』スッ

千『なんじゃと?一体どういう事じゃ!』ググッ

弥『…「魂」』ポウッ

千『!?』

千(これは…!…何とあたたかい…)フオッ

弥『…これで、当面消える心配はない…わしが死なん限りはな…』フラッ


どさっ


千『弥一!』


291: ◆AhbsYJYbSg:2011/9/16(金) 08:02:51 ID:nnYcv2It8A

弥『…案ずるな、少し…力を使いすぎただけじゃ』スクッ

千『どういうことなんじゃ…っ!何処へいくつもりじゃ!説明しろばかもん!』ググッ

弥『…何も言えん…今は、何も…』スタスタ

千『…おい…っ…このままにして行くでないっ!』グッ

弥『心配せんでも、三日ほどで動けるようになるさ。
じゃ、達者でな。わしは、やらねばならぬ事がある…』スタスタ

千『おい、どういう事じゃ!

行くな、やいちーっ!!』


弥『…』ヒラヒラ



サアアァ



千『何故じゃ…弥一、何故…。


…まさか…まさか、あの妖怪を操っておったのは……

お主なのか、弥一…?』ギュッ



292: ◆AhbsYJYbSg:2011/9/18(日) 21:25:22 ID:nnYcv2It8A


それから八年後・とある宿場の外れ…





どんっ!


牛鬼『グッ…オノレ…小童メガァ!!』ブンッ

弥一『おっと…「刃」』ブウン


ざくざくっ!


牛鬼『ギャッ!…コノ…っ!』ギリッ

弥『もう諦めたらどうじゃ?
ほかの四体はすでに倒した…主で最後じゃ。いさぎよく封印されてはくれぬか』

牛鬼『…キサマ…ユルサンッ!!タダデ殺シハセヌゾ…ジックリ皮ヲハギ、生キ地獄ヲ味ワワセテヤル!!』ググッ

弥『ふむ…交渉決裂、と…


「千刃」』ブウン…


――


293: ◆AhbsYJYbSg:2011/9/18(日) 21:30:02 ID:Zf4HK0pmwo




弥『これで…よし』ポンポン

町人『ありがとうございます。お陰さまで、皆も安心して暮らせるようになりました』フカブカ

弥『なあに、ついでじゃから気にするな。
この宿場町…「桜田宿」は強い霊力に満ちておるからな。
ここを中心に五つの心臓を配置すれば、もう奴らが暴れだす事もないじゃろうて』

町人『ご安心ください。心臓が封印された塚(つか)は、私が末代まで責任を持って護り続けます』

弥『うむ。頼んだぞ』

町人『お任せ下さい。

では、これにて…』スタスタ



弥(さて、これで妖怪共の封印は完了じゃ。
あの帝からの文を見るまでは、まさか国中に奴らが散っておるとは思わなんだがな…これで一応、千年は大人しくしとるじゃろうて。
問題は、奴らを生み出した「親」じゃが…。全土に散った妖怪が倒されたとなれば、きっと奴も黙ってはおらんだろう…恐らく、近いうちに何らかの手を打って…)




…ふわっ



?『…このっ、』ワナワナ

弥『!?』クルッ
294: 名無しさん@読者の声:2011/9/19(月) 09:32:51 ID:q/jWBYgD.2
さげ進行なのかー
おもしろいからしえーん
295: ◆AhbsYJYbSg:2011/9/20(火) 17:43:30 ID:Tk1wfg8eLo
>>294
しえんサンクスです!
つココアシガレット


296: ◆AhbsYJYbSg:2011/9/20(火) 20:24:30 ID:QcHWWyHcW2

千代『…っ薄情もんがあぁあ!!!』ゴオッ

弥『な…っち、千代!?』ドキッ

千『ようやっと探し当てた…。
あの時はよくも置き去りにしてくれたのう〜!!うらめしや〜』ドロドロ

弥『ま…まて、これには深いわけが…』

千『うるさい馬鹿もん!
何も説明無しで居なくなりおって…わらしがどれだけ…どれだけ心配したか…っ』ポロッ

弥『…!
…す、すまぬ千代…この通りじゃ!』ペコッ

千『…っ』グスッ

弥『あの時は、一刻も早く妖怪共を退治せねばと、それだけで頭が一杯になってしもうて…本当にすまんかった!』フカブカ

千『…

…五千回土下座』ボソッ

弥『うっ…』ジリッ

千『ほう…出来ぬと?
まあお主の謝罪の気持ちなど、そんなものじゃろうなぁ…』ジロッ

弥『い…いえ…

やらせて頂きます…』グスッ


297: ◆AhbsYJYbSg:2011/9/20(火) 20:27:40 ID:6F2gnjkNdY

―――



弥『ずっ…ずびばせんでした…っ』ゼエハア

千『ふん、やれば出来るではないか。
…まぁ何にせよ、お主が無事で良かった。許してやろう』ニコッ

弥『あ、有り難き幸せ…っ』ホッ

千『…それにしても…
わらしはてっきり、弥一があの妖怪共を操っておる陰陽師かと思っておったが…』ジッ

弥『なに、わしがか!?
…まぁ、確かに突然行方をくらませれば、そう思われても仕方ないが…だからってなぁ…』ブツブツ

千『では、違うんじゃな?』

弥『うむ、わしではないぞ!
あんな命を削る禁術、恐ろしくて使おうとも思わんよ…』ブルッ

千(…?…なら、強大な力をもつ陰陽師が他におるのか…

…まてよ、ならば何故…)

千『弥一、何故お主はわらしを置いていったんじゃ?魂だけの存在なら、妖怪に襲われても平気じゃったのに。
だからわらしは、お主が黒幕なのではと勘違いしたんじゃぞ?』

弥『…それは…』グッ

千『…それは?』






―パキイィィンッ
298: ◆AhbsYJYbSg:2011/9/23(金) 08:59:38 ID:rMHO5Kl4qg

千『!?』バッ

弥『…色々と、ややこしい訳があってだな…』ゴニョゴニョ

千『なんじゃ、今の大きな音は…っ!』キョロキョロ

弥『え…音?』キョトン

千『聴こえたじゃろう弥一!まるで大気が裂けたかのような…。
…まさか…聴こえなかったのか、お主?』



―バキィイン…



千『!ほら、またじゃ!』

弥『…な…っ!
これは…封印の術が、破られようとしておる…!』

千『封印?あの妖怪共のか!?』

弥『そうじゃ!
五つの心臓の中心、最も霊力の強い場所にかけた封印が…
こうしてはおれん、早く中心に向かわねば!』ダダッ…



ふらっ…どさっ!



千『弥一!』フワッ

弥『ぐっ…平気じゃ!』スクッ

千(おかしい…さっきといい今といい、弥一の様子が変じゃ…。
まさか力を使いすぎて、既にお主の体は…)




…ポツッ…ポツッ


ザアアァ
299: ◆AhbsYJYbSg:2011/9/23(金) 09:13:02 ID:dJB8uFMcT2

弥『なあに、ちゃちゃっと終わらせて戻ってくるさ。
じゃあの、千代』ニカッ

千『!…駄目じゃ弥一!行くなっ!』ガバッ



するりっ



弥『…「風」』フオッ



ヒュンッ…






千『…なぜ…

何故わらしの手は、こんなにも…無力なんじゃろうなぁ…っ』ギュッ




ザアアァ…

―――
300: 名無しさん@読者の声:2011/9/23(金) 17:53:26 ID:wsWgB.ht9c
300ゲトー
301: 名無しさん@読者の声:2011/9/25(日) 21:16:26 ID:9L9Kui0CGk
支援age
302: ◆AhbsYJYbSg:2011/9/28(水) 20:01:20 ID:Zf4HK0pmwo
>>300
オメデトウございます!
(^^)
>>301
支援有難うです!
最近、以前のように頻繁に更新出来てないですね…申し訳ないです。
ただ必ず完結させるので、長い目で見ていただけると嬉しいです。
303:
◆AhbsYJYbSg:2011/9/29(木) 18:52:19 ID:dJB8uFMcT2

時は戻り…


6月某日(金)・午前4時



皇帝「…おい、」


ジュルッ…ジュルッ…


皇「…もっと静かに食事せぬか…耳障りだ」


ジュルッ…ジュルッ…


皇「…貴様、その役に立たない耳を燃やしてやろうか?」イライラ

吊るされ男「っぷはあ!
…ったくうるさい人っスねぇ…
良いじゃないスか、食事(ディナー)位好きにさせてくれても!俺の勝手でしょっ!?」ガーッ

皇「黙れ愚か者!



『カルピス』はもっと静かに飲むものであろう!!」ドーン

304:
◆AhbsYJYbSg:2011/9/29(木) 18:55:53 ID:nnYcv2It8A

吊「なっ…なんなんスかその『自分ルール』!?
…とにかく、俺はストローで少しずつ飲むのが好きなんスっ!唯一の至福の時間なんスから、邪魔(ボウガイ)はやめてもらいたいっスねぇ!」プンプン

皇「ふん、邪道めが。
カルピスは初恋の味。その淡くほどける甘さは、高貴な我にこそふさわしい…。
だいたい、下劣な主には過ぎた代物よ。貴様にはカルピスなどでは無く、精々『脱脂粉乳』がお似合いではないか」フフン

吊「この…っ!牛乳(ミルク)も飲めないお子様のくせに…だから年の割りに背が小さいんスよっ!」ムカッ

皇「ぬっ…!き、貴様…言ってはならぬ事を…っ」


―ギャアギャア―


戦「…ナンテクダラナイ…

ハァ…早クニンゲン滅ボシテ、山ニカエリタイナ…」ショボン


ギイッ…
305:
◆AhbsYJYbSg:2011/9/29(木) 18:59:54 ID:6F2gnjkNdY

戦車「ア…オカエリ、『恋人』。ハヤカッタネ」

恋人「ただいま、『戦車』。
こっそり空飛んで来ちゃったわ、面倒だったし。
…アラ、またケンカ?困った人たちねぇ…」フウ…



皇・吊「「〜っ」」ギャアギャア



戦「…2人トモ、イライラシテル…恋人ガイナイト、イツモコウ」ヤレヤレ

恋「そう…でも、それも今日までね。
いよいよ、待ちに待った計画が始まるのよ…」クスッ

戦「ソウダネ…オイラ、沢山殺ス。死ンデイッタ、仲間タチノ分マデ…。
ソウイエバ、『恋人』ハ終ワッタノ?シゴト」

恋「えぇ、あの可愛い坊やには『暗示』をかけたわ。これで、明日の計画の下準備は全て完成…」

戦「…」ムスッ

恋「…?
どうしたの、『戦車』…恐い顔して」

306:
◆AhbsYJYbSg:2011/9/29(木) 19:10:15 ID:FKOF385I2I

戦「…カワイクナンカ、無イ…ニンゲンハ皆、醜イバケモノ。
アノ子供モ、キットソウ。オイラ達ヲ虐ゲタ奴ラト、同ジ」グッ

恋「…あの子は、違うわ」ボソッ

戦「エ?」キョトン

恋「…いいえ、なんでもないの。
はぁ、それにしても疲れたわ…なんだか肩が凝っt」

吊「はいさー、姐さんおまたっ!
マッサージ師の到着っス!」ヒュンッ

戦「速イ…コレガ『エロパワー』…!」カンシン

皇「ぬっ、主一人だけずるっ…!ゲホゲホ!
…おい貴様!まだ我との討論の途中であろうが!」ダンッ

吊「…へへ、姐さんの身体柔らけえなあ…それに良い匂い…」モミモミ

皇「ぬっ…//
貴様…良い度胸だな…」ワナワナ

吊「どっか凝ってるとこ無いっスか〜?

…ってあれ、姐さん?」キョトン

307:
◆AhbsYJYbSg:2011/9/29(木) 19:29:36 ID:CKfXFt8lHg


フウッ…


吊「なっ…幻覚(マボロシ)!?」ガーン

皇「ぬう、さすがは『恋人』…これは一本取られたな」ポリポリ

戦「変ワリ身ノ、術…
カッコイイ…!」キラキラ

吊「そんなあ…姐さん…っ」グスッ







――


恋(『あの子』の心…一見幸せそうだったけれど、中へ潜ったアタシには分かる。
不思議ね…あの子はどうして、心から笑えるの…?あれほど大きな『闇』を抱えながら。
…理解できないわ、とても)フウ…

恋「サトウリク…半分は妖怪、半分は人間…か。

…また会いましょうね、坊や…」クスッ



―――

308:
◆AhbsYJYbSg:2011/10/1(土) 21:17:39 ID:BA4ZmfDMAk

午前11時
銀朱町・遊園地『タワーハイランド』



ゴウンゴウン


鎌「…ぅ…ぁ…っ」ガタガタ

夜「あれ?どうしたんですか、そんなに震えて。
まさか、怖いとか?」ニヤニヤ

ゴウンゴウン


鎌「ばっ…馬鹿野郎!こっ…こここ怖いわけ、あ、あるか!
こいつは、む、武者震いってヤツだよっ!」ガタガタ

陸「兄ちゃん…さすがにその言い訳は苦しいよ…」ハァ

夜「ふふ、大丈夫ですよ…。
すぐに、何も分からなくなりますから」ニッコリ


ゴウンゴウンゴ…フウッ

…―ビュンッ!


309:
◆AhbsYJYbSg:2011/10/1(土) 21:21:49 ID:xGR/No6vHM


「「キャーッ!」」ゴーッ

鎌「っういやあぁああぁああっ!!…」







濡「あらぁ、疾風はんすごい悲鳴…」ヒラヒラ

傘「嫌なら乗らなきゃ良いのにね…全く」ハァ

猫「…」ガッシリ


クルクル


千「くぅ…あと少し、いっせんちで乗れたのに…悔しいのう、深雪」

雪「身長、せいげんで…晴もおらも、駄目だった…」シュン


クルクル


濡「みんな残念どしたなぁ…
ほんでもまぁ、メリーゴーランドもなかなか楽しおすえ?ほら、キレーな白馬さん」ニコニコ

猫「…(くっ…なぜ私がこのようなマネをしなければならないのだ)」イライラ


クルクル


猫「…にゃあ、にゃんで動いちゃいけな」モゾッ

傘「ちょっと!君がネコだって知られたら追い出されるんだから、ちゃんとぬいぐるみのフリしててよ!」イライラ

猫「…」ムスッ

310:
◆AhbsYJYbSg:2011/10/1(土) 21:25:35 ID:xGR/No6vHM

傘「ふん…僕だって、好きで『頭にぬいぐるみを乗せた痛い子』してるわけじゃないんだからね…」ブツブツ

濡(…結構まんざらでもなさそうやけど)クスリ







鎌「」シュウウ…

夜「いやー、楽しかったですね」ニコニコ

陸「に、兄ちゃん…大丈夫?」

鎌「」ポケッ

夜「平気ですよ陸くん。むしろ、このお馬鹿さんには良い薬じゃないですか?」ニヤニヤ

陸「つ、月夜お兄ちゃん…」

鎌「…

世界に足りないもの…それは『愛』」フッ

夜・陸「「…え?」」キョトン

鎌「兄弟たちよ、ともに戦うのです!世界を愛で満たすたm」

夜・陸「「お、お医者さーん!!」」ダダッ

311:
◆AhbsYJYbSg:2011/10/2(日) 08:12:09 ID:BA4ZmfDMAk

午後12時半
遊園地内・芝生広場



千「…それにしても、よくできた天井じゃな。まるで本物の青空のようじゃ」モグモグ

夜「ええ、この遊園地のドームは液晶パネルで出来てるらしいですからね…外はどしゃ降りでも、中は快晴ですよ」モグモグ

鎌「…む、このいなり寿司…。
美味しいよ月夜くん!さすが君は料理上手いなぁ!はっはっは」バンバン

夜「そ、それは…ありがとうございます…」タラッ

濡「…なぁ陸ちゃん…疾風はん、どないしたん…?」ボソッ

陸「うん…なんか、刺激が強すぎて性格が変わっちゃったみたいで…」ボソッ

鎌「この卵焼きも絶品だよ!君は天才だな!」ハッハッ

夜「は、はあ…」ゲッソリ

千「このままでは月夜が持たん…。これは一刻も早く元に戻さねばな…」

雪「…気持ち悪い、よね…」ボソッ







猫「…どうにゃ?」コソッ

傘「うん、半径10キロ…『視』える範囲には居ないと思う。たぶんみんな地下にいるんだよ…」コソッ

猫「信じていいんだろうにゃ?にゃー達の命運はおみゃーにかかってるんにゃぞ?」ゲシゲシ

傘「ちょっと静かにしててよ!西洋妖怪だって人型になってるだろうし、集中しないと見つからな」



ドンッ!
312:
◆AhbsYJYbSg:2011/10/2(日) 19:46:55 ID:BA4ZmfDMAk

傘・猫「「わっ!」」コテン

お婆さん「あらあら…ご免よ、大丈夫かい?」オロオロ

傘「ご…ごめんなさい、よそ見してて…。
お婆ちゃんこそ、ケガしなかった?」

婆「えぇ、平気ですよ。丈夫なだけが取り柄だからねぇ。
実は、孫とはぐれてしまってねぇ…ちょっと手を離したすきに、姿をくらませてしまって」フウ…

傘「そうなんだ…。ちなみに、その子の特徴は?」

婆「背は坊やと同じくらい、紺の帽子に水色の服で…
って言っても、この人ごみじゃあねぇ…」ホウ…

傘「…大丈夫、見つける」キュウン
313:
◆AhbsYJYbSg:2011/10/2(日) 19:48:43 ID:oiC72V.arM

チカッ


傘「!あ、あの子じゃない?『時計塔』の真下!」ビシッ

婆「あれ!本当に見つかった。
ありがとうねぇ、坊やにお嬢さん。おかげで助かったよ」ニコッ


スタスタ


傘「ふう、なんか良いことしたって感じ」キラキラ

猫「…」

傘「…?…どうしたの、雨?」

猫「…にゃあ、何で…」




陸「おーい、2人とも〜!お弁当無くなるよ〜!」ブンブン

猫「にゃっ!?早い者勝ちにゃ!」バッ…ダダッ

傘「ちょっ…だから追い出されるってば!!」ダダッ



314:
◆AhbsYJYbSg:2011/10/3(月) 21:18:41 ID:xGR/No6vHM

午後3時




『う〜ら〜め〜し〜や〜…』ヒュードロドロ…

鎌「いぎゃああぁあ助けてーっ!!…



…あん?
なんで俺、こんなとこにいんだ…?」パチクリ

夜「あ!いつもの貴方が戻ってきた!
良かった…っ…一時はどうなる事かと…」ウルウル

千「名付けて『お化け屋敷しょっく療法』、成功じゃな」ビシッ

濡「良かったどすなぁ、疾風はん。
これでも治らんかったら、うちが直接手を下すつもりやったさかい…手間が省けたわぁ」ニコニコ

陸「手を下すって…怖いよ、流華お姉ちゃん」ガタガタ

315:
◆AhbsYJYbSg:2011/10/3(月) 21:20:33 ID:BA4ZmfDMAk

濡「嫌やわぁ陸ちゃん、冗談に決まっとるやないの」ニッコリ

傘「…嘘だね」ボソッ

猫「うにゃ…あれは本気の目だったにゃ」ボソッ

鎌「う…な、なんかわかんねぇけど…危機一髪だったんだな、俺」ゴクリ

夜「本当に良かった…っ!普段の貴方もかなりのウザさですが、さっきのウザさといったらもう…もう…!」フルフル

鎌「あ?てめぇ喧嘩うっt」

夜「良かった!そのセリフが聞けたら、もう安心ですね!」キラキラ

鎌「う…(なんか調子狂うよな…)」ポリポリ

316:
◆AhbsYJYbSg:2011/10/3(月) 21:35:25 ID:CFD0b4ypFo

傘「…ねぇ…疾風も治ったことだし、こんなとこ早く出ようよ…」カタカタ

猫「にゃんだ、おみゃー怖がりだにゃー」プッ

傘「なっ…べ、別に怖くなんか無いよ」ムッ

鎌「はは、びびってションベンもらすなよ〜?」ニヤニヤ

夜「貴方に言われる筋合いは無いと思いますよ」サラリ

陸「…あれ?なんだろう、このボタン…」ポチッ


骸骨『ケキャキャキャキャッ!!』バンッ


鎌・夜・傘・猫「「いやぁーっ!お化けーっ!!」」ギャーッ


ダダダッ…





陸「あ、あれ…みんな?」キョトン

濡「…なんや、皆はん臆病どすなぁ…陸ちゃんの方が、よっぽど心臓丈夫やね」フフッ

千「こんなもの、ただの作り物なのにのう…」チョンチョン

雪(妖怪が、お化けをこわがるなんて…変なの)クスッ

317:
◆AhbsYJYbSg:2011/10/10(月) 22:21:42 ID:xGR/No6vHM







午後4時
タワーハイランド・地下劇場跡



戦「…ヤットダネ。モウスグニンゲン殺セル」ウズウズ

皇「ふん…あのような下等動物共なぞ、我等の敵では無い。せいぜい逃げ惑う様を楽しむとしよう…」クックッ

恋「…」

碌「…気を付けた方が良いぞ。奴らほど、恐ろしい生きものは居ないからな。
個人が集団になった途端、いとも簡単に理性を亡くした獣に変貌する…それが人間だ。
10年前、妻が妖怪だと知った村の連中は、我々夫婦を全員で殺そうとした…
まぁ、返り討ちにしてやったけど」クルクル

吊「な〜るほど、それで人間を駆除(ソウジ)することにしたワケっすか…愛(ラブ)っスねぇ」クスン

碌「ふふ、別に理由はそれだけじゃ無いさ。
まぁいずれにせよ、もう後戻りは出来ないんだ…」ブンッ


ガシャアアン


皇「!」ピクッ

戦(ア…アノ地球儀、欲シカッタノニ…割レチャッタ)シュン

碌「あとは前に進むのみ…この日本から、人間を抹消するんだ…跡形も無く」ニッ

ヒョイッ


吊「…へえ、あの地球儀(ボール)は、これを中に入れて操ってたんスね〜」シゲシゲ

碌「その式神…『闇鶴』には妖力が貯めてあるのさ。
『吊るされ男』、試しにそれを破ってみろ」

吊「?…こうスか?」ビリッ

318:
◆AhbsYJYbSg:2011/10/11(火) 17:50:39 ID:y.Lm0WtXBU
フオオオッ!


吊「うっ…
…ヒョー!!なんだコレ!
キタキタキタキタ!!」ググッ…


フッ


吊「キタキt…って、あれ?」キョトン

碌「と、こんな風に妖力が急上昇するってわけだ。
伝説の妖怪たちを蘇らせるには、莫大な『血』が必要だからな。人間を殺しすぎて、力が枯渇することもあるだろう。
全員念のために持っておけ。こっちは満タンにしておいた」スッ

皇「…ふん、このような物に頼らずとも…」カサッ

吊「へへ、オレは必要っスね」カサッ

恋「…」

戦「…『恋人』?イラナイノ、チカラ」カサッ

恋「…アタシ達との、約束…本当に守ってくれるんでしょうね?」

碌「…当然だ。お前たちそれぞれの『願い』は…必ずや叶えてやろう」

恋「クス…
その言葉、忘れないわ」カサッ



碌「さて…『隠者』は式神無しで平気だろうから、これで全ての準備は整ったな。
計画開始は一時間後、まずは邪魔者の始末からだ…準備しておけ」



――
319: 名無しさん@読者の声:2011/10/12(水) 13:40:21 ID:ZcWpf5xQ5g
雨可愛いよ雨
支援
320: ◆AhbsYJYbSg:2011/10/13(木) 21:02:09 ID:AdvBgLuYrI

>>319
支援ありがとうございます!


猫「にゃ…//…べ、別に嬉しくにゃいぞ…さかなクンと会えた方がよっぽど嬉しいんだからにゃ!」フリフリ

傘「…念のため言っておくけど、さかなクンは人間だよ?」

猫「にゃ…にゃんと!?そんな殺生にゃ…」ガーン

傘(一体なんだと思ってたんだろう…そして会えたら何するつもりだったんだろう…)

321:
◆AhbsYJYbSg:2011/10/13(木) 21:11:41 ID:CFD0b4ypFo
午後4時半
タワーハイランド・大観覧車




千「うひゃー高いのう!人が蟻のようじゃ」シゲシゲ

陸「…」

千「?…陸?」

陸「こわい…っ高すぎるよぅ…」ガタガタ

千「ほう、お主高所恐怖症だったのか…
…ふふ」キラーン


ユッサユッサ


千「はは、どうじゃ陸!揺れると更に楽しいじゃろ!」ギシギシ

陸「」

千「…陸?
…き、気絶しておる…!」アワアワ



322:
◆AhbsYJYbSg:2011/10/13(木) 21:26:39 ID:6BkTiQ0rv.

陸「ふ、ふう…なんか慣れてきたかも」カタカタ

千「(絶対嘘じゃろ…)
それにしても、綺麗な夕焼けじゃな…」ホウ

陸「ほんと、まるで本物だね。
皆も乗れば良かったのに…どうしたんだろ」

千「…」

陸「『2人で乗って来い』だなんて…皆、高いとこ嫌いなのかな?」

千「…それはな、わらしがそうするように頼んだからじゃよ」

陸「…え?」キョトン

千「陸。
お主に…大切な話がある」

陸「…千代、ちゃん…?」

323:
◆AhbsYJYbSg:2011/10/13(木) 22:03:12 ID:y.Lm0WtXBU
――


鎌「…っ…」ソワソワ

濡「2人が心配?疾風はん」ニコッ

鎌「べ…べべべ別にっ?」フイッ

濡(ほんま分り易いお人やね…)クスッ





夜「あの…ちょ…もう…限界なんですが…」グ-ルグ-ル

雪「楽しい…!コーヒー、カップ…」グルングルン

猫「にゃっ…負けてられにゃいぜ!」グイッ

傘「キャラ変わってるし…っていうか僕の髪はハンドルじゃないから!!」グルングルン

夜「あ、ぁの…ちょっと…助けt…」グールグール






濡「確かに気持ちは分かるけど…
でもな、例え陸ちゃんがウチらを受け入れてくれんでも、今日までの楽しい日々が消えるワケや無い…
その素敵な思い出が出来ただけでも、ウチはほんまに嬉しいんどす。
可愛い子供たちと暮らせて、幸せどしたわぁ」ヒラヒラ

鎌「はは…お前にとっちゃ、月夜や俺ですらガキ同然なんだろうな」プッ

濡「フフ…ほんに手のかかる不良息子どしたなぁ。

何度沈めようと思た事か…」ボソッ

鎌「…このお母さん怖い…」ガタガタ


324:
◆AhbsYJYbSg:2011/10/13(木) 22:34:08 ID:OYJdKI4SKU


鎌「…本当はな、どっちでも良いんだよ。チビが俺たちを受け入れても、そうじゃなくても。
あいつは俺の『弟』だ。どんな結果になろうと、これだけは揺るがねぇからな」フンッ

濡「…そやね」フフッ

鎌「俺はむしろ、千代の方が心配だぜ…
あんな酷い『答え』を出しやがってよ…『これで妖怪皆が納得出来るはず』、だと?無理してんのバレバレだっつの」イライラ

濡「…でもな、千代はんにあの『答え』を出させたのはウチらなんよ?
そんで何よりツラいコトは…あれが今考えられる最良の『答え』や、という事どす…」フウ…





――


陸「え…!ちょっと千代ちゃん、何を…っ」アセアセ


325: 名無しさん@読者の声:2011/10/13(木) 23:18:59 ID:BZtxKHno3Q
キスか!?
キスなのか!?
326: ◆AhbsYJYbSg:2011/10/14(金) 20:58:36 ID:OYJdKI4SKU
>>325
うーん…キスはもう少し先なのです(>_<)
つGABA
327:
◆AhbsYJYbSg:2011/10/14(金) 21:36:02 ID:xGR/No6vHM

千「まずは、お主に謝らねばならん。
陸、本当に…本当にすまない…っ」フカブカ

陸「や…やめてよ千代ちゃん、土下座なんて!
どうしてそんな…」アワアワ

千「…お主に…嘘をついておったからじゃよ。
まず、わらし達の正体は人間では無い…『妖怪』なんじゃ」グッ

陸「…」ピクッ

千「…信じられんかもしれんが、本当のことじゃ。
そしてつい2週間前まで…わらしらはお主の住む町を滅ぼし、そして…

お主を、殺そうとしていた」ググッ

陸「…っ…」

千「もちろん、今はそんな考えは微塵も持っておらん。

…赦してくれとは言わない。
謝った所で、お主を騙していた事に変わりは無いから…
でも…でもな陸、わらしは…わらしは…っ」ギュッ

陸「…

…〜っ」スッ

千「!?」ビクッ

陸「…あ〜、やっぱり…
だめだよ、そんな力いっぱい握っちゃ。
手のひらに爪が食い込んで、血がにじんでるじゃないか…」フゥ

千「り…り、く…?」キョトン

328:
◆AhbsYJYbSg:2011/10/14(金) 22:08:50 ID:BA4ZmfDMAk

陸「えっと…
はい、消毒して絆創膏貼るから手出して」スッ

千「(何故にそんなものを持ち歩いとる…)い…いらん。この程度の傷、ほっとけば治r」

陸「出・し・て?」ニッコリ

千「…はい…」カタカタ






千(うぅ…しみる…)グスッ

陸「…知ってたよ」ボソッ

千「…!?」

陸「皆が妖怪だって事も、間違いを犯そうとしてた事も…全部。
僕には…『覚(さとり)』の血が流れてるから」ヌリヌリ…ペタッ

千「さとり…
噂で聞いた事がある…他人の考えを読み、どんな生き物とも心を通わせる妖怪…だったな」

陸「うん。だから、僕もあやまらなくちゃ。
今まで嘘ついてて…ごめんなさい」ペコッ

千「そうか…


これで『おあいこ』じゃな」ニコッ

陸「…千代ちゃんは…気持ち悪くないの?僕のこと…」

千「お互い様じゃろ。わらしなんか『座敷わらし』じゃぞ?
気味の悪さなら、誰にも負けんわ」フフン

陸「うん、勝負するとこ間違ってるけどね」クスッ


329:
◆AhbsYJYbSg:2011/10/14(金) 23:18:31 ID:6BkTiQ0rv.

陸「あ〜なんかスッキリした!
…やっぱり、嘘は疲れるし…虚しいね。
このパネルに映った夕焼けもきれいだけど…本物には叶わないし」

千「…そうじゃな。
例え誰かの為の優しい嘘でも…それは必ず人の心を削り、少しずつ空っぽにしていく…
嘘ってのは、そういう虚しいもんなんじゃよ」

陸「…千代ちゃん…一つ、頼みがあるんだけど…聞いてくれる…?」

千「?…あぁ、いいぞ」

陸「千代ちゃんが導いた『答え』は、きっと何よりも正解に近いと思う。だから、それについては何も言わない。
…とっても、悲しいけど」ギュッ

千「…」

陸「でも、せめて…今日の別れ際は、いつも通りにして欲しいんだ。
明日また会えるって、そう信じられるように。
…それくらいの嘘は…きっと、神様も許してくれると思うから…」





330:
◆AhbsYJYbSg:2011/10/14(金) 23:22:07 ID:oiC72V.arM
遊園地前・路上


ザアアァ



陸「…それじゃ、僕はお父さんを迎えに行かなきゃいけないから…ここで。

みんな、『また明日』ね」ニコッ

鎌「…あぁ…『また』な、チビ。筋トレ忘れんなよ」ニッ

雪「『また』、ね…陸」モジッ

濡「…『また明日』な、陸ちゃん。今日はとっても楽しかったわぁ」ヒラヒラ

夜「『また』ごはんを食べに来て下さいね、陸くん。私のハンバーグは絶品ですよ」クイッ

猫「…ぅ…っ」グスッ

傘「…っ『またね』、陸くんっ!」フイッ

千「…
…『また明日』…会おうな、陸っ!」

陸「…うんっ

みんな…ありがとっ!」クルッ



ダダッ…





千「…さよなら…陸…」ポロッ



ザアアァ



331:
◆AhbsYJYbSg:2011/10/17(月) 21:36:27 ID:OYJdKI4SKU


夜「…こんな『答え』で…本当にいいんですね、千代さん」スタスタ

千「…いいんじゃ、月夜。
計画までの残り3週間で、日本中の妖怪達を説得して回る。人間との共生に協力してもらえるように、な。
皆が納得『できる』ではなく、『させる』…これがわらしが出した唯一の答えじゃ」スタスタ

傘「でも…だからって、何で陸君と二度と会わない事に決めたのさ!?
計画を阻止したあと、別に今まで通り会いにいけば…」

千「それでは駄目なんじゃよ、晴」スタスタ

傘「なんでさ!?」

濡「…昨日も千代はんが言うてはったやろ、晴はん。
うちらは一度、人間たちを滅ぼす計画に加わったんどす。その事実は絶対に消されへん。
うちらはもう、陸ちゃんに会うたらあかん。例えあん子が許してもな。
これはな、『けじめ』なんどすえ…」スタスタ

傘「そんな…おかしいよ…そんなの…っ
ねぇ疾風!君も何とか言ってよ!あんなに陸君のことかわいがってたじゃないかっ!!」バッ

鎌「…」フイッ

傘「…!…なんで…

…これじゃ、僕は…」ギュッ



ザアアァ
332:
◆AhbsYJYbSg:2011/10/18(火) 07:59:19 ID:AdvBgLuYrI

夜「…こうなったのは、貴方のせいじゃありませんよ。だから、もう自分を責めないで下さい…晴さん」

傘「…!」

夜「確かに、初め計画に誘ったのは晴さんですが…それに一度は賛同したんだから、皆同罪です。
それに…晴さんがきっかけで、陸くんと出会えたことも事実ですから…」ニコッ

傘「…っ…」

猫「ぅ…っひっく…」グスグス

雪「…うるる、ずっと泣いてるね…
よし、よし…」ナデナデ

猫「にゃっ…べつに、これは陸と離れるのが辛くて泣いてるわけじゃにゃいぞ!
これは…っ…これはにゃ、もう眼鏡の料理が食べられなくなるのが悲しくて…それで…っ」

雪「うん…そうだね。
とっても、悲しい…ね…」ギュッ

猫「うっ…
うにゃあぁん…っ!」ポロポロ


333:
◆AhbsYJYbSg:2011/10/18(火) 22:24:31 ID:UCE./nqCUc

夜「確かに、本来私たち妖怪は食事なんてしないですからね。これからは、毎日料理をする必要も…
…あ」ピタッ

濡「…?どないしたん?」

夜「…いえ、大したことでは無いんです。
今日の朝、いつもの癖で夕飯の仕込みをしていた事を思い出して…
…馬鹿ですよね、もう作る理由も無いのに。
誰かに食べて貰えるってことが、これほど当たり前になってたなんて…」

千「…」スタスタ

鎌「…

…ちっ…」ピタッ

千「?なんじゃ疾風、何故止まる?」

鎌「いや…ちっとな…忘れ物。
悪い、おれ後から行くわ」クルッ

千「あ…待て、お主…」


ビュンッ…!


夜「!…こんな所で風の力を使うとは…よほど大切な忘れ物みたいですね」クイッ

猫「にゃっ…ましゃかあいつ、一人だけ陸に会いに!?」ガーン

濡「しょうのないお人やね…
うちが連れ戻すさかい、先行ってておくれやす」ハア…



334:
◆AhbsYJYbSg:2011/10/18(火) 22:43:47 ID:6BkTiQ0rv.
午後5時
銀朱町・しらかば通り


ザアアァ


陸「…」トボトボ


――

千『…また明日…会おうな、陸っ!』

――


陸「…!」ポロッ

陸「…っ」ゴシゴシ

陸「…」ダダッ


ドンッ!


陸「ふわっ!!」コケッ

「アラアラ…ボク、大丈夫?
ホラ、つかまって?」スッ

陸「ご…ごめんなさい!!ありが」スッ…


ギュッ


陸「…ほえっ!?」ドキッ



恋人「クス…つかまえた♪
また会えてうれしいわ、坊や…」ナデナデ


335:
◆AhbsYJYbSg:2011/10/18(火) 23:02:44 ID:OYJdKI4SKU

吊るされ男「ああっ!?ズルい!オレも姐さんの胸(アイ)に包まれてーっス!」グスッ

陸「え…ど、どこかでお会いしましたっけ…?」キョトン

恋「アラ、もう忘れてしまったの?イケナイこね…

ホラ、『お母様がお待ちかね』よ…」キュウン

陸「…ぁ…っ」キュウン

恋「そう…いい子ね」ナデナデ

吊「あれ…その子(エサ)、どうしちゃったんすか?」

恋「きのう刷り込んだ合言葉で、暗示をかけたの。
この坊や、無意識に自分を守るカベを心に作っててね。一度術をかけたくらいじゃ効かないから、下準備が必要だったのよ…苦労したわ」クスッ

陸「…」ボ-ッ

吊「…ねぇ、姐さん…」ジュルリ

恋「アラ…ダメよ、この子をエサにしちゃ。
この坊やはね、ボスの大切な…」







鎌「おいテメェら!うちのチビに何してやがる!?」ザッ


336:
◆AhbsYJYbSg:2011/10/21(金) 07:29:49 ID:OYJdKI4SKU

ザアアァ


恋「アラ…邪魔者があらわれたわね」クスッ

鎌「妙な気配を感じて来てみりゃ…
てめぇら妖怪だな!?チビを離しやがれ!!」

吊「へへ、そーいうアンタこそ、妖怪じゃないスか。
たかが人間(エサ)と仲良くするなんて、頭イってんじゃねーの?」ケラケラ

鎌「…っ…てめぇ!!」ゴオッ


ダダッ!!



恋「…いい男ね…アタシがもらっていいかしら?」

吊「あ、いっスよ。妖怪は不味いっスから、オレはパス」ケラケラ




鎌「…っらあっ!!」ゴオオッ…





恋「…『お休み、ぼうや』」スッ


ヴオンッ…

337:
◆AhbsYJYbSg:2011/10/21(金) 18:29:10 ID:UCE./nqCUc

鎌「!な…んだ…体が…っ!!」カシッ

恋「ごめんなさいね…貴方の体だけ、眠ってもらったの。
アタシは『夢魔(サキュバス)』…ユメを操り、男を惑わす妖怪よ」

鎌「くっ…そ…
おいっ…チビ起きろ!!お前だけでも逃げるんだっ!!」ググッ

陸「…」ボー

吊「へへ…ムダムダ。姐さんの術は最強っスからね」ニヤニヤ

恋「…それにしても、たくましい身体ね…素敵。
遊びがいがあるわ…」クスッ

鎌「…っ」ググッ

吊(出た…姐さんの悪いクセ。
タイプを目の前にすると、我慢出来ないんスよね…)ハア

恋「ふふ、大丈夫よ…すぐに精気を吸いとってあげるからね…」スタスタ…






…フオオオッ

338:
◆AhbsYJYbSg:2011/10/25(火) 21:00:18 ID:xGR/No6vHM

恋「!?な、なによこれ…霧?」タジッ


ブツンッ


恋「!いけない、集中が切れて…」



鎌「っぶはあ!…お、やっと動いたぜ…すまねぇな、流華」グルングルン

濡「…」フオオッ



吊「…へえ、美人さん登場っスね…」ポー

恋「…なによ、あの女…

…ちょっと貴女、なんのつもり?アタシの楽しみを邪魔しないでく」

濡「…あ?」ギロッ

恋「れ……っ!」ゾッ


ザアアァ


濡「…なあ、疾風はん。ひとつ聞きたいんやけどな…


なんで陸ちゃん、あの女に捕まってるん?」ニッコリ

鎌「え…い、いや…俺が知りたいぐら」

濡「…あぁん?」ニッコリ

鎌「…っ!(す、すげぇ殺気…下手なこと言ったら殺される)」ガタガタ

濡「ふう、まぁええわ…
どうせウチが力づくで奪い返すさかいな…」フ…オオオッ!


恋「…っ!」


339:
◆AhbsYJYbSg:2011/10/25(火) 21:23:54 ID:AdvBgLuYrI
ドゴオオンッ!!



鎌「!?な…なんだこの音、爆発か!?」キョロキョロ

濡「…あの煙は…
!…っあかん!あっちは千代はん達のいる方向どす!!」バッ



吊「…そろそろ退き時っスね。
背中乗って下さい、姐さん」スッ


ブオンッ


鎌「なっ…巨大コウモリ!?テメェ一体…」

吊「へへ…オレは『吸血鬼(ヴァンパイア)』なんス。色んな動物に化け、血(ゴチソウ)をいただく妖怪っスよ」ニヤッ

恋「…アナタたち、ずいぶんこの坊やに肩入れしてるようだけれど…ムダな事よ。
この子はこれから『生まれ変わる』の。アナタたちのことなんて、一時間後にはすっかり忘れてるでしょうね」クスッ

濡「なんやて!?それはどういう意味…」



バサアッ…ビュンッ!
340:
◆AhbsYJYbSg:2011/10/25(火) 21:53:07 ID:oiC72V.arM
同時刻
銀朱町・けやき通り


シュウウゥ…


夜「くっ…
大丈夫ですか皆さん!」バッ

千「う…な、なんとかな…」ヨロッ

雪「…っ…大丈、夫」

傘「ぅ…ぼ、僕も何とか…
…?…雨?…うるる!!」ガバッ

猫「」

千「…大丈夫、気絶しとるだけじゃ」ホッ




皇帝「…ふむ、全員焼き払ってやろうと思ったのだが」ムスッ

戦車「蒼イ炎デ、防ガレチャッタネ…ザンネン」ポリポリ



夜「…っあなた方、一体何なんですか!?突然攻撃してくるなんて!!」バッ



ザアアァ
341:
◆AhbsYJYbSg:2011/10/26(水) 21:03:37 ID:yY3nABhL3k

皇「ふ…流石、我と同じ炎使い…なかなかやるではないか」クックッ

夜「こんな街中で、一体なんのつもりですか!?目的はなんです!」

皇「そう、我こそは西洋妖怪の次席、誇り高き『紅龍(ドラゴン)』…覚えておくがよい!」ドーン

夜「…だから、目的は何かと聞いて」

皇「見たか、先刻の我の炎!踊るように揺れるさまはさぞ美しかったであろう!」ワッハッハッ

夜「…」ブチッ

千「会話が通じぬとは…月夜の一番苦手なたいぷじゃ」ボソッ

夜「このウザさ…疾風以上ですね…」イライラ





戦「…」ジ-ッ

雪「…?…?」タジッ

戦「!…オマエ、モシカシテ…
ユキナ(雪那)のムスメカ?」

雪「!…なんで…母ちゃんの、名前を…?」

戦「…ヤッパリ、ソウナノカ…
オイラハ『雪男(イエティ)』。オマエノ母親…雪女トハ友達ダッタ。
オマエトハ、闘イタクナイ…ッ」



ザアアァ
342:
◆AhbsYJYbSg:2011/10/26(水) 21:43:02 ID:xGR/No6vHM

傘「そんな…いくらなんでも早すぎるよ!
だって、まだ計画は準備が整って無いはずなのに…どうしてあなた達が…!」

皇「ふ…『どうして』だと?簡単なことだろう。
あの男が、主たちの裏切りを予期していたからだ」ニヤッ

千「なるほどな…余計な事をされぬうちに、わらしらを始末するつもりか」

皇「ふむ、なかなか物分かりのいいお嬢さんだ。
さらに付け加えるなら、『準備』なぞとっくに終わっていたのだよ、主たちに知らせなかっただけでな。
これで心置き無く、この街を火の海に出来るというわけだ…」クックッ

傘「そんな…っ…」グッ

皇「ふ、哀れな若造よ…
命令に従っておれば、『人質』の命は奪われずにすんだものを」

千「…なんじゃと?」ピクッ

皇「なんだ…主ら知らぬのか。その若造が、必死で主らを計画に参加させようとした理由。
それはな…」

傘「!…言っちゃダメだ!」バッ

皇「主ら『日本妖怪』を、人質にとられておったからさ。
計画に参加させなければ、主らを殺す…そう脅されてな。
まぁ、今となっては全て手遅れ…全員大人しく灰になる事だ」ニヤリ



ザアアァ

343:
◆AhbsYJYbSg:2011/10/30(日) 07:44:13 ID:OYJdKI4SKU

夜「晴さん…貴方…だからあれほど必死で…」

傘「…」ギュッ

千「…馬鹿もん!!なにゆえわらしらに相談せんかったんじゃ!?
一言でもいい、打ち明けてくれていれば…一体何のための仲間じゃ、この大馬鹿もんが!!」ゴオッ

傘「…っ」

雪「…
…仲間だから…、大切だから言えないことも…ある。
もう許してあげて…千代。あなただって…晴の立場なら、きっと同じことをした…」

千「…分かっとる。
だからこそ、許せんのだ」プイッ

傘「…っ…」シュン




皇「あー…茶番は終了かな?
さて…『戦車』、いつまで意気消沈しておるつもりだ。主も手伝え」ゴオオ…

戦「…ン…仕方ナイ、ネ」ヒュオオ…



ザアアァ



夜「炎と吹雪…!これは…不味いですね。
どちらか片方ならともかく、両方来られたらひと堪りも…」クイッ

千「…
…大丈夫じゃよ」ボソッ

夜「え?」




皇「さて…主と闘えぬのは至極残念だが、致し方あるまい。
さらばだ、日本最強の妖怪…『夜叉』よ!」ドンッ

戦「…ゴメンネ…許シテネ…」ドンッ


ヒュゴオオッ!!
344:
◆AhbsYJYbSg:2011/10/30(日) 08:16:20 ID:xGR/No6vHM
…ドオオンッ!!



皇「フッ…
フハハハ!!やはり、日本妖怪共は軟弱であったわ!!
さて、残る二匹も始末するとしようか…少しは骨のある奴らだといいがな」クルッ…スタスタ

戦「…ゴメン、ユキナ…オイラハ、オマエの娘を…」トボトボ…





千「…わらしらが軟弱じゃと?失礼な奴らじゃな…」ムスッ

夜「えぇ全く、礼儀がなってませんね」クイッ




皇「!?な…っなんだと!確かに当たったはず…何故だ!?」グルッ

戦「!…」ホッ




千「…お主ら、『座敷わらし』がどんな妖怪か知らんようじゃな。
わらしは『幸運』を司る妖怪。お主らの攻撃は直前で外れたんじゃ…偶然にも、な」ニッ

皇「…フ…なるほど、それが主の能力か…面白いではないか。
どうやら考えを改めねばならんようだ。主らは軟弱ではないし、それに…
もっと後で殺すほうが愉しそうだ」ニヤリ

戦「…?…『皇帝』、一体ナニ考エテルノ?」キョトン


345: 名無しさん@読者の声:2011/10/30(日) 08:49:23 ID:zpxK//grCc
更新きたああああああ!
しえんっしえんっ!
346:
◆AhbsYJYbSg:2011/10/30(日) 09:00:28 ID:yY3nABhL3k

皇「主らに良いことを教えてやろう。我らはこれから、この桜田市に蠢く『下等生物』達を駆除するつもりだ。一匹残らず、な」

千・夜・雪「!?」

傘「…」

戦「チョ…!ダメダヨ『皇帝』、ソレ以上ハボスニ怒ラレル…」アワアワ

皇「黙っておれ、あいつも所詮だだの人間ではないか。
…何故そんな事をするか解るか?
大量の血を使い、蘇らせる為だ…日本に古来より伝わる、伝説の五体の大妖怪をな」ニヤッ

夜「…
…何故、そんな重要な話を私たちに?」

皇「フ…さあ、何故だろうな。
もう一つ教えてやろう…我ら西洋妖怪は5人、そしてこの市にある大きな町は、中心の赤香町を除いて5つ。
そして我らが最初に襲うのは、それぞれの場所で最も…」

戦「『皇帝』!!モウサスガニ喋リスギダ!!」プンプン

皇「おっと…口が過ぎたな。
まぁいいさ…せいぜい足掻け、日本妖怪共よ。少しは退屈しのぎになるといいがな…。
さて、そろそろゆくぞ、『戦車』」ブンッ…


バサアッ


戦「ヤレヤレ…全ク。怒ラレテモシラナイカラ」ムスッ

ヒュンッ…





千「…行ったか」ホウ

夜「…彼の話…本当だとすると、とんでもない計画ですね…」ブルッ

傘「…僕は…僕はみんなに、なんて事をさせようと…」ギュッ

千「…心配するな。
わらしらが計画を止める…必ず」ギュッ



ザアアァ
347: ◆AhbsYJYbSg:2011/10/30(日) 09:08:59 ID:yY3nABhL3k
>>345
しえん有り難うございます…!!(;_;)
つハッピーターン
348:
◆AhbsYJYbSg:2011/10/30(日) 09:47:20 ID:NvGMdMA3eI

雪「…あの、イエティさん…哀しい目を、してた…」ボソッ

千「うむ…そうじゃったな。
だが、今は一刻も早く奴らを阻止せねばならん…彼の話を聴くのはその後じゃ」ポン

雪「…」コクリ

夜「…あのキザったらしいドラゴンの話によれば、敵の5人はバラバラに町を襲うようですね。
そうなると気になるのは、彼が最後にいいかけた言葉ですが…」

千「あぁ、あれは恐らく、こう言いたかったんじゃろう。『最も人間が集まる場所』を最初に襲う…とな」

夜「なるほど…ということは、そこに先回りすれば…」

千「あぁ、奴らを止められるやもしれん…いや、絶対に止めるんじゃ」グッ




猫「…おい」ゲシッ

傘「!良かった、うるる意識が…」

猫「シーッ!静かにするにゃ!
…おみゃー、まさかあいつらと一緒に戦うつもりかにゃ?」ボソッ

傘「え…そんなの、当たり前じゃないか…」

猫「辞〜めといた方がいいにゃ!他の奴らはともかく、にゃーとおみゃーは戦いには向かにゃいぞ!あの化け物たちに、一瞬で殺されるのがオチにゃ…」グスッ

傘「…そうかも知れない…
でも、だからって黙って見てる訳にはいかないだろ!?弱い僕らでも、何か役に立つかも…」

猫「ほ〜ら、そういう根拠の無い自信が、死に繋がるのにゃ。
悪いことは言わにゃい、にゃーと一緒に、どこか遠くへ逃げ」


ダダッ


濡「…みなはん、エラいことどすえ!!
陸ちゃんが、西洋妖怪達にさらわれてしもた!!」タタッ


猫「待ってろ陸…今すぐ助けに行くにゃっ!!」ドーン

傘「…
…ほんと、最高だよね君って」クスッ


349:
◆AhbsYJYbSg:2011/11/1(火) 07:07:44 ID:1Z/UsIW8Is

――


……い…

陸(…?…)

…も……てくれない…

陸(…これは…あなたの、心のコエ…?)



恋(…誰も、アタシを愛してくれない)


――



陸「…ん…」パチッ

母「!…陸…気がついた?」

陸「…ぇ…
おかあ、さん…?」キョトン

母「…っりく!!」ギュッ

陸「っお母さん!!」ギュッ

母「あぁ陸…お母さん、あなたに話したい事がたくさんある…」ポロッ

陸「ぅう…僕も、いっぱいあるよ…っ
お母さぁん!!」ボロボロ




弥一「…ご苦労じゃったな、『恋人』。
さて、しばらくはあの小僧と母親の感動の対面を観賞しておるとするか。
まあ、それも束の間の幸せじゃがな…」

恋「…本当に…これでよかったのかしら…」ホウ

弥「なんじゃ、『夢魔』ともあろうものが迷い事を。なんにせよ、わしらに従っておれば間違いないなど無い。お主の望みも、必ず叶えられるだろうさ」ニヤッ

恋「…そうね。
坊やにお別れをいってくるわ…もう、『今』のあの子とは二度と会えないものね」スタスタ…

350:
◆AhbsYJYbSg:2011/11/1(火) 07:35:09 ID:1Z/UsIW8Is

陸「!…あ、あなたは…」

恋「クス…よかったわね、坊や…ママと会えて」ニコッ

母「なんだいアンタ…
陸に近づくな西洋妖怪!」バッ

陸「お母さん…大丈夫だよ」スッ

恋「…アナタに、お別れをいいにきたの。
これからアタシ達は、この町を滅ぼす。そしてそれが終わるころには、きっと今のアナタはここにいない。…残念だわ…せっかくママと会えたのにね…」クスッ

母「ちょっとアンタ…それ一体どういう意味!?」

恋「…すぐにわかるわ。
それじゃ、さよなら坊や…」スタスタ…

陸「…
あなたは、寂しいんだね」

恋「…!」ピタッ

陸「そして、自分が誰より孤独だと思い込んでる。
どうせ、誰も愛してくれない…って」

恋「…アナタ…まさか、アタシの心を…」

陸「ごめんね。読むつもりはなかったんだけど…。
…大丈夫。あなたはもう、一人ぼっちじゃないよ。
僕が、友達になってあげるからさ!」ニコッ

恋「…っ!」



弥「…『恋人』、計画の開始時間じゃ…お主の持ち場へいけ」

恋「…」

弥「…『恋人』?」

恋「…ごめんね…もう遅いのよ、なにもかも。
…でも…うれしかったわ、坊や」クルッ


フワッ…



陸「…」
351: 名無しさん@読者の声:2011/11/4(金) 21:02:33 ID:owdFNQ5OBY
主〜(゜ロ゜)
C置いておくよ〜(゜ロ゜)
早く来ないと腐っちゃうよ〜(゜ロ゜)

(ノ-o-)ノ┫CCCC
352: ◆AhbsYJYbSg:2011/11/5(土) 20:34:53 ID:cSpAHp.McE
>>351
Cありがとうございます!お待たせして申し訳ない…完結までもうすぐなので、頑張って更新しますね!
つ芋羊羮
353: 名無しさん@読者の声:2011/11/6(日) 10:35:16 ID:IPOYYxWBsA
おうえんっ
354:
◆AhbsYJYbSg:2011/11/6(日) 21:32:15 ID:Ams6nMNmjg
弥「…さて、じきに人間どもは滅ぼされるじゃろう。腰抜けの日本妖怪達と、同じようにな」フッ

陸「ぇ…それ、どういうこと!?まさか…」ガシャン

弥「あぁ…そういえば、お主は奴らと暮らしておったんじゃったな。
奴等はわしらを裏切ったんじゃ…今ごろ、全員処刑されておる頃だろうよ」クックッ

母「なんて酷い…」ギュッ

陸「…
…そんなの、信じない」グッ

弥「ふ…信じる信じないはお主の勝手じゃがな…こちらは皆、戦闘に秀でた西洋妖怪。奴らに勝ち目は無…」

陸「あるよ。みんなは絶対負けない!
だって、約束したもん。『また明日必ず会おう』って。だから…死ぬわけないよ」ギュッ


――





猫「…ここが、地下への階段…
奴らの隠れ家に通じる入口だにゃ」ギイッ

千「そうか…
ありがとな、雨。ここからはわらし一人で行こう。お主は帰るんじゃ」

猫「…ここで帰ったら、にゃーはきっと一生後悔する。
大トロのお寿司や、ブリの照り焼きより、ずっと大切なものがこの先にあるのにゃ!にゃにがにゃんでも着いてくぞっ!」フンッ

千「ふふ…変わったのう、お主。
分かった…なら、共に行こう。
大切なものを、取り戻しにな」ギイッ



――

355:
◆AhbsYJYbSg:2011/11/6(日) 21:36:57 ID:.F.3lH/78g

弥「!…この気配は…
…千代か」ギリッ

陸「え…千代ちゃん!?」ガシャン

弥「くそ、『皇帝』め失敗しおったな…忌々しい。
またあの女の憎たらしい顔を見なければならんとは」イライラ

陸(…あれ…
今気づいたけど、この人…何か変だ…
まるで、本当の自分の姿を隠しているような…)





「…久し振りの再開だろ?もっと喜んだらどうだ、『弥一』」

母「!」

陸「…」

弥「ふん、やっと来おったか…準備は?」

碌「完了だ。あとは…」クルッ

母「…っ」ギュッ

碌「…主役を招待するだけだ。
大きくなったな、陸」ニッコリ

陸「…

…はじめまして。

『父さん』」ニコッ


―――

356: 351:2011/11/7(月) 07:58:43 ID:VCHgmReH86
お、芋羊羮だw
替わりに新鮮なC、置いておきますね。

    C
   CCC
  CCCCC
 CCCCCCC
┗━━━┳━━━┛

━━┻━━
357: 351:2011/11/7(月) 08:00:03 ID:VCHgmReH86
めっちゃズレタぁぁぁ!!!orz

358:
◆AhbsYJYbSg:2011/11/7(月) 08:27:32 ID:.F.3lH/78g
午後5時40分
白練台・市営団地前広場


サアアァ


鎌「待てやこらあああ!!」ビュンッ

吊「くっ…しつこっ!!何なんスかあの男(バカ)…」バサッバサッ…


ピタッ


吊「…ちょっ、いつまで着いてくるつもりっスか!?オレはこれから食事(エサ)の時間なんスけど!!」ブオンッ

鎌「うるせぇ!!さっさとチビをこっちに…
ってあれ?あの女とチビは?」キョトン

吊「は?とっくに降ろしたっスけど…」

鎌「…
…なにーっ!?」ガーン

吊(こいつ…もしかして、ずっと勘違いしてオレを追ってたんスか…?)

鎌「そ、そうか…っ
分かったぞ!てめぇを倒せば、チビが現れる仕掛けだな?!」ビシッ

吊「ちょ…ちょっと待って、なんでそうなんスか!?素直に自分の間違いを認めたら…」

鎌「うるせぇ!!いいから覚悟しやがれ!!」ゴオッ

吊「えぇーっ!?」ガーン


359: ◆AhbsYJYbSg:2011/11/7(月) 20:14:36 ID:cSpAHp.McE
>>353
応援ありがとうございます!
つポッキー(苺)
>>357
ど、ドンマイ…でも、気持ちは伝わりました!
つみたらし団子
360:
◆AhbsYJYbSg:2011/11/7(月) 21:09:22 ID:SFi0c66N7.

鎌「てめぇを倒す前に、一つ聞きてぇ…てめぇら、なんでこんな史上最悪の計画に協力してんだ?妖怪としての誇りはねぇのかよ!?」

吊「…他の人らの理由は知らないっスけど、オレは…
大量殺人(バイキング)が出来るから、っスかね」ニイッ

鎌「…あ?」ピクッ

吊「人間の…特に子供(ガキ)の血は最高っス。とろけるような甘さ、程よい酸味…
この計画が成功すれば、ボスは日本中の子供の血(ゴチソウ)を好きなだけくれるって約束したんスよ!これで協力しないわけ無いっしょ…まるで天国(パラダイス)じゃないスか!!」ギャハハハ

鎌「…子供の血…そうか…
…許せねぇな」ピキッ

吊「へへ…今からオレは、この団地に住む全ての人間(エサ)を殺(く)い尽くすつもりっス。
アンタも邪魔すんなら、容赦はしない…食前の運動がてら、軽く遊んでやるっスよ」ケラケラ


バサアッ


鎌「容赦しない、だと…?
…そいつはなぁ…こっちのセリフだぜコウモリ野郎!!」ゴオオッ


361:
◆AhbsYJYbSg:2011/11/7(月) 21:36:11 ID:EKSJzxcqmM

青丹山・サクラ山道
天気・吹雪


ビュオオオ


戦「…モウスグダ、兄弟タチ…モウスグ…マタ会エル…」


サクッ…サクッ…


戦「…誰ダ!?」グルッ

雪「…この雪は…何…?
あなた、一体…何をする気なの…?」

戦「オマエ…ソウカ、オイラノ相手ハオマエカ…
…コノ山デ雪崩ヲ起コセバ、麓ノ町ハスグニ飲ミ込マレルダロウ。
オイラハコノ能力デ…憎イ人間達ニ、復讐シテヤルンダ!!」ビュオオ

雪「…させない」シャラン


パキンッ


戦「ナッ…カラダガ凍ッテ…」パキパキ

雪「復讐は…何も…生まない。
お願い、どうか…思い直して…」

戦「…優シイ娘ダナ…母親ニソックリダ」フッ

雪「…母ちゃんは…いつも、願ってた。妖怪と…人間とが、仲良く暮らせるように…って」

戦「ソウ…ソシテ彼女ハ、一人ノ人間ヲ愛シ…

ソノ人間ニ、殺サレタンダ」

雪「…!」


362:
◆AhbsYJYbSg:2011/11/8(火) 13:46:31 ID:EKSJzxcqmM
藤ヶ丘・ショッピングモール内・『キネマ柊』



―あなたを愛してる…例えあたしが死んでも、決して忘れないでね…―

―あぁ、僕も愛してる…例えこの命が消えても、君を愛し続けるよ…―

〜♪



恋「…ステキ…こんな歯の浮くようなセリフ、一度くらい言われてみたいわ…
そう思わない、僕?」ニコッ

男「ぅ、動けない…た、たすけて…」ガタガタ

恋「あなたの彼女、真っ先にあなたをおいて逃げ出したわね…。まぁ、現実なんてそんなものかしら」クスクス

男「い、一体…俺をどうするつもりなんだ…!」ガタガタ

恋「フフ、決まってるじゃない…アタシは『サキュバス』なのよ?
楽になさい、天国に連れていってあげるわ…死と引き換えにね」ブウン





濡「ひどい映画やね…これ」フウ…

恋「!貴女…あの時の…」ジリッ

濡「『愛』ってのは、こない軽々しく口にするもんと違います…静かに暖めながら、大事に大事にするもんなんよ」スタスタ

恋「…アラ…貴女に『愛』が分かるっていうの?」

濡「さぁ、どうやろね…

まぁ少なくとも、あんたみたいな『勘違い女』よりはよう分かっとるつもりやけどなぁ?」フフッ

恋「言うじゃない…

『おばさん』になると、知識だけは増えるのね…勉強になるわ」クスクス



…バチバチッ!


男(うう…俺、無関係なのに…)シクシク

363:
◆AhbsYJYbSg:2011/11/8(火) 14:48:38 ID:FM94wc4.O6

銀朱町・遊園地『タワーハイランド』



ザリッ



皇「…やっと来たか…待ちくたびれたぞ、『夜叉』」クルッ

夜「やはり、貴方はここにいましたか。
貴方たちの隠れ家がある、この場所に」スタスタ

皇「そうだ…我は強いからな。
それゆえ最も重要な場所を守るよう、指示を受けておるのだよ」フフン

夜「…なら、何故千代さんたちを見逃したんですか?彼女たちは既に地下にいます。貴方ほどの妖怪が、それをみすみす見逃すとは…」

皇「…なに、我にとっては計画なんぞどうでもいいのさ…日本最強と唄われる主と、こうして一戦を交える事が出来るならな。
そろそろ始めようか…いい加減、この姿は窮屈に感じておった所よ」ググッ


バサアッ


夜「深紅の鱗、鋼鉄の翼…なんて神々しい。
どうやら、貴方が西洋妖怪のトップみたいですね。
安心しました…貴方を倒せば、この計画も終わりでしょうから」ザッ

皇「…ふ…残念だったな。
我は2番目に強い西洋妖怪…長(おさ)は別にいる」

夜「…な…なんですって!?それじゃあ…」

皇「そのお方こそ、我らが西洋の…いや、世界最強の妖怪なのだ。
良かったな夜叉よ…『あの方』と戦っておれば、主はひとたまりも無かったであろう。
我に殺されることを、天に感謝するが良いぞ!」ゴオッ

夜(まさか…あと残っている場所といえば、瑠璃岬のみ…あそこには、確か…

…っ!)ハッ

夜「…いけませんね、早く倒して、彼を助けに行かなくては。
これは…久しぶりに、本気を出すことになりそうです…」ググッ


ブウンッ…


364:
◆AhbsYJYbSg:2011/11/8(火) 15:23:57 ID:vs1J6Bpbok

瑠璃岬・水族館内『シーサイドカフェ』


シトシト


―まもなく、アシカショーが始まります。観覧希望の方は、プールステージまでお越し下さい―



孫「おばあちゃん、アシカだって!見に行こう?」ワクワク

婆「ごめんよ、あたしはもう足が痛くてねぇ…
ここで待ってるから、一人で行っておいで」ナデナデ

孫「そっかぁ…分かった、なら少し休んだほうがいいね。
また後でね、お婆ちゃん!」タタッ

婆「ふふ…はいはい、焦って転ぶんじゃないよ」ニコニコ



傘「…可愛いお孫さんだね」スタスタ

婆「おや、坊やは遊園地にいた…
こんなとこで会うなんて、偶然だねぇ」ニコニコ

傘「…そうだね、おばあちゃん。
それとも…『西洋妖怪』って呼んだほうがいいかな?」ニコッ



シトシト
365:
◆AhbsYJYbSg:2011/11/8(火) 15:27:41 ID:cSpAHp.McE

婆「おや…なんのことだい?あたしはただの年寄りだよ」ニコニコ

傘「…最初におかしいと思ったのは、雨のことを『お嬢さん』て呼んだとき…ただの猫を、そんな風に呼ぶ人なんてなかなかいないからね」

婆「…」ニコニコ

傘「この天気も、貴女の能力でしょ?
西洋妖怪の長、『隠者』さん?」ニコッ

婆「…ふふ…坊や、世の中にはね。
知らない方が良いこともあるんだよ…」ズ…


ピシャアアン!!ザアアァッ!!


傘「…!!」ビクッ

婆「…そう…あたしは西洋妖怪の長、『海竜王(リヴァイアサン)』。
誉めてあげるよ坊や…このあたしに、たった一人で向かってきたその勇気をね…」クックッ

傘「…っ」ギュッ



ザアアァ
366:
◆AhbsYJYbSg:2011/11/9(水) 16:40:06 ID:aFLpXIlUeE

――30分前――



千『陸が…陸がさらわれたじゃと!?』バッ

濡『そうなんよ、2人の妖怪に突然連れて行かれてしもたんどす。
疾風はんは、陸ちゃんを追って一人で…』

夜『なんて…なんて卑劣な!!
人質をとるとは、妖怪の風上にも置けない方々ですね!しかもよりによって陸君を…許せません』メラッ

濡『はよう助けに行った方がええ。あの人ら、陸ちゃんに何かするつもりどすえ!』ハラハラ

雪『陸…必ず、助ける…』グッ

猫『よし、みんにゃで陸を助けに行くのにゃ!』

傘『…ちょっと待って!全員で陸くんを助けに行ったら、その間に町が大変なことになるよ!』

夜『…確かに…彼らが町の破壊を待ってくれるわけではありませんからね』フーム

濡『ほなら、一体どないしたら…』




千『…わらしが陸を助けに行こう。
他の皆は、「皇帝」とやらの言っておった「最も人が集まる場所」を探し、奴らを止めるんじゃ。
雨、道案内を頼む。奴らの隠れ家へのな』バッ

傘『…大丈夫なの?2人だけで行くなんて、もし何かあったら…』

千『…平気じゃよ、わらしは強いからの。
お主こそ大丈夫なのか?お主は決して、戦闘向きの妖怪では無いじゃろう?無理はせぬ方が…』

傘『心配しないでよ、危ないと思ったらすぐ逃げるから。
西洋妖怪の現れる場所は、僕の「眼」で探すよ。
皆…気を付けてね』



――

367: ◆AhbsYJYbSg:2011/11/12(土) 19:01:49 ID:g/4JcTXXFc

ザアアァ


婆「クク…あんた、ワザとあたしの所に来たね?仲間を危険に晒さないために。
確かに賢明な判断だよ…そこらの妖怪じゃ、肩慣らしにもなりゃしないからねぇ…」クックッ

傘(この人が、世界最強の妖怪…っ…
すごい威圧感だ…)ゴクッ

婆「あたしが少し手をかざせば、この辺りは一瞬で海の底さ。
さぁ、どうするんだい?一人で来たのは、何か勝算があっての事なんだろう?早くそれを見せてごらんよ」

傘「…

…ないよ」ボソッ

婆「…なんだって?」ピクッ

傘「勝算なんて無い。貴女に対抗する術なんて、ぼくは何ひとつ持って無い。
だから、ぼくに出来るのは…
こうすることだけ」ペコッ

婆「…」

傘「お願いします、ぼくの仲間を殺すのも、この町を破壊するのも止めてください!
その代わり、ぼくはどうなってもいいから…だからっ」フカブカ


368: ◆AhbsYJYbSg:2011/11/12(土) 19:06:26 ID:vs1J6Bpbok

婆「…坊や、あんた…」

傘「ぼくは…仲間を裏切った。
皆を助ける為に、それしか方法が無くて…。でも彼らをそそのかし、殺戮をさせようとした事実は変わらない。
だから、せめて…」

婆「…仲間の為に、自らの命を投げ出そうってのかい。
呆れたねぇ…坊や一人の命に、どれほどの価値があるっていうのさ」フウ…

傘「…っ」

婆「…ただ、その心意気は気に入ったよ。若いのに肝が据わってるじゃないか。

…坊やにチャンスをあげようかねぇ。あたしとの『ゲーム』に勝ったら、今回は見逃してあげてもいい」ニコッ

傘「!…本当!?」ガバッ

婆「ただし、もしあたしに負けたらその時は…
覚悟するんだねぇ」クックッ

傘「…やるよ。皆を助けられるなら…
ぼくは、何でもする」ギュッ


ザアアァ

369: ◆AhbsYJYbSg:2011/11/13(日) 07:40:22 ID:SFi0c66N7.
午後6時

遊園地『タワーハイランド』地下



猫「…にゃあ」タタッ

千「なんじゃ」タタッ

猫「これが終わったら…また、皆で暮らせたらいいにゃ」タタッ

千「…」

猫「眼鏡の料理を皆で食べて、そのあと暖かいお風呂に入る。
お風呂のあとは、枕投げして遊ぶのにゃ。にゃーは小さいから、晴の頭を借りる。皆で笑って、陸も笑って…」

千「やめるんじゃ、雨」ピタッ

猫「…」

千「言ったじゃろ、これは『けじめ』なんじゃ。わらしらは、もう二度と陸に会うことは許されぬ」

猫「…ケジメケジメって…
それにゃ、単に怖がってるだけじゃにゃいのか?」ビシッ

千「…」ピクッ

猫「お互いに隠し事をしてたおみゃー達と陸は、いわば偽りの関係にゃ。
そこから脱却して、新しい関係を築くのが怖いんだろ?今度はゼロからのスタートだもんにゃ」

千「違う!そんな単純な問題では…」

猫「違わない。
おみゃーといい晴といい、自分に無駄に厳しすぎるのにゃ。
もっと自分を甘やかせ。言えばいいじゃにゃいか…陸とずっと一緒にいたい、大好きだ…って」

千「!」

猫「…早く行こう。陸が待ってるにゃ!」タタッ

千「…っ」タタッ



370: 名無しさん@読者の声:2011/11/13(日) 13:09:27 ID:QvsrDr1sFA
更新きたっ
371: ◆AhbsYJYbSg:2011/11/15(火) 12:50:23 ID:FM94wc4.O6

タタッ


千「!見ろ雨、あそこに誰かいる!」タタッ

猫「にゃに!?ま、ましゃか西洋妖…
……!?」ピタッ

千「…?貴女は…」

母「…あなたが千代ちゃんね?初めまして、陸から話は聞いています。
それから…久しぶり、うるる」ニコッ

猫「…おっ…お師匠しゃま…っご無事で!?」ガバッ

千(何!?では、雨の人質というのは…)

猫「うぅ…お師匠しゃまぁ…」ポロポロ

母「こら、泣くのはあとよ雨。
…千代さん、陸の事なんだけどね…あの子は今、ある男の元にいるの。
そいつこそ、この馬鹿げた計画の首謀者…あたしの夫だった男よ」

千「!?では、陸の…」

母「えぇ、本当の父親。
あいつは昔から、強大な霊力を持っていてね。それを悪用させない為に、あたしも頑張ったんだけど…結果は見ての通り」

猫「陸は…陸は無事にゃのですか!?一体今、陸はどこに…」グスッ

母「あの扉の奥にいるわ。
お願いします千代さん。あたしと一緒に、陸を…陸を助けてちょうだい!」

千「…分かりました、必ずや陸は助け出して見せましょう。
ところで、ひとつお聞きしたいのですが…



…一体誰じゃ、お主?」ザッ


372: ◆AhbsYJYbSg:2011/11/15(火) 14:34:32 ID:SFi0c66N7.

母「…」

猫「ぇ…お…おみゃー、にゃに言ってるのにゃ?」キョトン

千「計画に反対しておる者が、このような場所に一人でおる筈がない…!
離れろ雨!そやつは偽物じゃ!」

母?「…なんじゃ、もうばれたか…相変わらず勘だけはいいのう、千代」キュッ

猫「…っ!」カハッ

母?「仕方ない…この馬鹿猫だけでも、始末するかのう…」ググッ

千「!…やめろ!」バッ


373: ◆AhbsYJYbSg:2011/11/16(水) 10:17:36 ID:SFi0c66N7.

ギュンッ…


母?「クク…無駄じゃよ」ググッ

千「なっ…わらしの能力が…効かぬ!
やめろ…雨を…雨を離せ!」ダダッ






?「…やめなよ」スッ

母?「…!」パッ


ドサッ


猫「げほっげほっ…!」ゼーハー

千「雨!」タタッ

母?「なんじゃ、良いところで邪魔しおって…
もう生まれ変わったのか、『陸』」

千「!」バッ

陸「…」スタスタ

千「陸…!
よかった!怪我は無いか?皆お主を心配して…」

陸「…


…誰?キミ」


374: 名無しさん@読者の声:2011/11/17(木) 22:18:33 ID:l18uzx.kt2
    C
   CCC
  CCCCC
 CCCCCCC
┗━━━┳━━━┛
┃======┃
┏━━━┻━━━┓
375: ◆AhbsYJYbSg:2011/11/21(月) 22:42:58 ID:cSpAHp.McE

キネマ柊・第4スクリーン
上映作品『キミとAIの唄』

―…あたしとそのロボット、一体どっちをとるワケ!?

―違うんだ!これには深いわけが!…

〜♪



濡「…『水牢・紫陽花』」フオッ


ガシャンッ


恋「!水蒸気が檻に…
そう…これが貴女の能力なのね」クスクス

濡「そないな事はどうでもええんどす。
あんはんら、陸ちゃんに一体何するつもりなん!?もしあん子をキズつけたりしたら…」

恋「クス…まるでお母さんね。
心配しなくてもいいわ…あの子を傷つけたりなんてしないから。
記憶を書き換えるだけよ…少しだけ、ね」クスッ

濡「!?」

恋「つまり…あの子が『父親』と過ごした日々の記憶を、そのまま『ボス』に置き換えるというわけ。
ボスの能力で坊やの脳を操作するから、貴女たちとすごした記憶も消えてしまうでしょうね…可哀想に」クスクス

濡「…」ワナワナ

恋「楽しみね…次会うときには、坊やは貴女たちを敵として見」

濡「…『霧刃・水仙』」シュンッ


ザクザクッ!



376: ◆AhbsYJYbSg:2011/11/21(月) 22:51:24 ID:aFLpXIlUeE
>>370
>>374
ありがとうございます。
うう…時間とれなくて全然更新できてない…本当申し訳ないです。
(_ _;)
377: ◆AhbsYJYbSg:2011/11/22(火) 16:51:54 ID:.F.3lH/78g


恋「アラ怖い…意外と短気なのね」バサッ


男(俺は夢でも見てるのか…?水の剣があのサキュバスを刺し殺したと思ったら、いつのまにか頭上に現れた…!)ゴクッ


濡「…幻覚やね。面倒なチカラや」チッ

恋「クス…そんなに怒ることないじゃない。
いつだって別れはつきもの…貴女に坊やの思い出があるだけ、幸せじゃないかしら?」バサバサ…ストン

濡「…ウチのことはどうでもええんどす。
許せへんのは、あん子からお父んの記憶を…『愛』を奪うゆうことや」

恋「…!」ピクッ

濡「親子の愛はな、他人がどうこうできるもんやない。まして、あん子のお父んとの絆はそら深いもんや…それを、どこの馬の骨とも分からん阿呆にとって代わられる…?

…ふざけるのも大概にせぇよ」ゴオッ

恋「そ…それの何がいけないっていうのよ!
アタシはね、計画後にはボスに記憶を移植してもらうの。
全ての男を虜にする夢魔は、引き換えに本当の愛を知ることができない…。だから代わりに、ちゃんと愛された人間の女の記憶をもらうのよ!
あの坊やだって、きっと幸せになれるわ!これからは偽りの父親なんかじゃなく、優しい『両親』と一緒に暮らせるんだから!」

濡「…よう分かった。どうやら…
あんたに『愛』は千年早いみたいやね」フウ

恋「…分かったでしょう?アタシは忙しいの。早く愛の記憶をもらわなくちゃ…

だから、これで終わらせるわ」カサッ



ビリッ
378: ◆AhbsYJYbSg:2011/11/24(木) 21:24:44 ID:.F.3lH/78g
…ザワッ!



濡(な、なんや…このおぞましい気配…!)ゾクッ

男「」キュウ…バタン

濡「!ちょっと、お前はん大丈夫どすか!?」バッ

恋「あァアあァ…っ!素敵よ…とってもいい気分っ!」メキメキ

濡「(あの女、完全に妖怪の姿に…!)あかん…『雨盾・紅梅―』」

恋「無駄よ!」ブンッ

濡「!(体が…!)」カシッ

恋「クス…さすがはボスの式神ね、力がみなぎってくるわ…!」クスクス

濡「…っ…」ギシギシ

恋「フフ、ごめんなさいね…こんなズルしちゃって。でも、アタシはどうしても…どんな事をしても…『愛』を知りたいのよ。
だから貴女は、ここで永遠に眠り続けてなさい…『あなたに、のぞみのゆめを』」ブオンッ…



フワッ…――
379: ◆AhbsYJYbSg:2011/11/25(金) 09:07:05 ID:SFi0c66N7.

『タワーハイランド』・大観覧車前


ヒュオオオッ


皇「ほう…我のスピードに着いてこれるとは…流石だな」ヒュンッ

夜「…」ヒュオオッ

皇「そしてその蒼く美しい姿…なるほど、日本最強に相応しい姿ではないか」ピタッ

夜「…もう止めませんか、下手な『演技』は」ピタッ

皇「…!」ピクッ

夜「…ずっと不思議でした。妖怪…いや、もはや霊獣と呼ぶに相応しい貴方が、何故こんな最低の計画に参加しているのか」

皇「…だから言ったであろう。我は日本最強と呼ばれる主と闘い、さらに強さを…」

夜「確かにそれもあるでしょう。ですが貴方には他に、どうしても果たしたい目的があった…」

皇「…」

夜「貴方は私を、『蒼く美しい』と言いましたが…。
蒼いのは、私の操る冷たい炎のみ。私の見た目は闇色の大狼…美とは程遠い姿です。

貴方…目が見えて無いですね?」



380: ◆AhbsYJYbSg:2011/11/26(土) 21:37:34 ID:EKSJzxcqmM


皇「…やはり気付かれたか…流石、だな」バサバサ

夜「貴方は、自らの視力を交換条件にしてるんですね。
気持ちは分かります。ですが…」

皇「っ…主に何が解るというのだ!」ゴオッ…ドン!!

夜「!…っ」ヒュンッ

皇「我はこの世に生を受けた時、自らの炎で両目を盲た…それ以来、常に暗闇の中で生きておるのだ!
雄大な太陽や美しい海は勿論、汚いゴミすら見ることは叶わぬ。

…愛する女の姿も…想像することしかできない」ボソッ

夜「…」

皇「だが…盲目になった我は、代わりに天性の聴力を得た。
知っておるか?ドラゴンのは地球上の全ての動物の言葉が分かるのだ。
主にも聞こえるであろう?数えきれぬ程の悲鳴・憂い・嘆き。この国のあちこちから聞こえる、人間の欲望の成れの果て…愛玩動物(ペット)共の叫びがな」

夜「…ええ…常に」グッ

皇「ならば、主こそ何故人間の味方をする!?我は『あの男』は好かぬが、奴の考え方には賛成だ…人間という害悪を一掃し、地球を元の在るべき姿に戻す、というな。
妖怪夜叉よ…何故だ?何故主は…」

夜「…正直に言いましょうか。



本当は…人間なんてどうなろうと構わないんです、私」サラッ


381: ◆AhbsYJYbSg:2011/11/27(日) 22:16:00 ID:g/4JcTXXFc

皇「何?…どういう…」

夜「その前に…貴方、『唐揚げ』という食べ物を知ってますか?」

皇「…カラアゲだと…?なんだそれは」ピクッ

夜「鶏肉を醤油とニンニク、生姜のたれに漬け込み、油でカラリと揚げた料理です。これが美味しいのなんのって…」ニンマリ

皇「ふん…くだらん。それが、主が人間側に付く事とどういう関係があると…」

夜「今日作る予定の晩御飯、唐揚げなんですよ。
それが…私が戦う理由です」

皇「…?」

夜「…以前の私には、日本妖怪最強という肩書きしかありませんでした…闘いの日々に疲れていた私が、偶然出会ったのが料理です。
肉や野菜と向き合う一時だけが、私が素になれる瞬間でした」

皇「…」

夜「ですが…私はついこの間まで、大切な事を見落としていたんです…

誰かに食べてもらう事で、始めて『料理』は完成する。それを私は、たった10歳の子に教えてもらいました」

皇「!…主、まさか…」

夜「『今日の夕飯を、大切な人たちと笑顔で食べる』
…それを叶えるためなら私は、命だって賭けられますよ」ゴオッ



382: 名無しさん@読者の声:2011/12/3(土) 14:37:03 ID:72Oo58upPU
久々支援
383:
◆AhbsYJYbSg:2011/12/3(土) 20:39:28 ID:Jdp./cgd1A
『タワーハイランド』・地下



千「…ぇ…」

陸「…」テクテク

猫「り、陸…ましゃか、記憶を…?」ケホッ

母?「ふん、よい所で邪魔をしおって…
その女と猫はわしが殺すんじゃ!お主は引っ込んで…」

陸「…るっさいなぁ…

『縛』」キュッ

母?「!…な…」ギシッ

陸「もう喋らないでいいよ、君ウザイから。
それに…この人達と遊ぶのは、僕だよ」ニコッ

千「!…その力…(陸、陰陽道を遣えるように…!)」

陸「…?…あぁ…自己紹介がまだだったね。
はじめまして!僕の名前は佐藤陸。


今から君たちを、殺してあげるね」ニッコリ


384:
◆AhbsYJYbSg:2011/12/3(土) 21:09:07 ID:ZcgS0N4ksY






陸「『槍』、『刃』、『矢』、『鎌』、『剣』」ヒュンヒュンッ

千「…っ」ブ…ンッ


バキイィン!


陸「『焔』、『雹』、『渦』、『雷』、『嵐』」ブオッ

千「…くっ…!」ブウ…ンッ


バシャアアン!


陸「あははっ、すごいすごい!
こんなに攻撃してるのに、全然かすりもしないや!」ケラケラ

猫「お、おい…大丈夫かにゃ?」オロオロ

千「…これが…大丈夫に…見えるか…?」ハアハア

猫「今にも死にそうに見える」ドーン

千「…少しはおぶらぁとに包め…」ゼェゼェ



陸「えへへ、楽しいなぁ…
ねぇ、もっと遊ぼうよ!」ニコニコ

千「くっ…聞こえるか陸!!わらしじゃ、千代じゃ!お主を助けにきた!!」

陸「次はどんな攻撃にしよっかな〜」ニコニコ

千「…っ」ギリッ

母?「…無駄じゃよ。今のあやつはただの戦狂いじゃ。
碌め、まさか自分の力まであの小僧に移すとは…なんと危うい事を」チッ

千「!…それは…どういう意味じゃ?」
385:
◆AhbsYJYbSg:2011/12/6(火) 20:11:17 ID:adi9mYDq.Y


母?「ふ、どうもこうも無い。あやつは記憶を書き換えられた上、さらに陰陽道を強制的に植え付けられたんじゃ。
碌は小僧を買い被っておるな…このままでは脳が耐えきれず、いずれ…」

陸「!!…っあ…」ガクッ

千「!陸…っ!」タタッ

陸「…っ近づくな!!

『壁』!」ズンッ

千「!」ピタッ

猫「にゃんだコレ…透明な壁のせいで、近づけにゃい!!」カリカリ

千「陸、聞くんじゃ!もう術を遣うのは止めろ!
このままでは、お主が死んでしまう!!」ガンッ

陸「…いいんだよ、それで。

だって…僕はずっと、死にたかったんだから」

千「!?…陸…?」


386:
◆AhbsYJYbSg:2011/12/6(火) 21:31:30 ID:VTCxrA1fX2

陸「ずっと思ってた…僕には、生まれてきた意味なんて無いんだって。
この『読心』の力に感謝したことも無い。だって、人の心はとっても汚いよ。そんな声をずっと聞いて、『普通』を演じるのがどれだけ大変か…君たちに分かる?」

千「…っ…」

陸「きっと、僕は生まれてきちゃいけなかったんだ…。こんな最低の能力を持ってたから、父さんも僕を捨てたんだよね…」カタカタ

千「陸…!それは違う。お主には、誰よりも心配してくれている人がおるではないか!
お主の父上はきっと今も、病院でお主が来るのを待っておるはずじゃ」

陸「…

何言ってるの?僕の父親は、碌父さん一人だよ?」キョトン

千「…!(まさか、お父上の記憶が抜けておるのか!?
あの優しいお父上との日々が消えてしもうたとしたら、今の陸は…)」

陸「あ〜ぁ…なんか、生きてんのもめんどくさいや…

『刃』」ブオン
387:
◆AhbsYJYbSg:2011/12/7(水) 09:27:34 ID:3lrZB.nf7I

千「!陸…やめるんじゃ!」ガンッ

陸「…もう、僕疲れちゃった…遊んでくれてありがと、
綺麗な髪の、女の子さん…」スッ…

猫「う…にゃあああっ!!陸、死ぬにゃ!!」カリカリカリカリッ

…ピッ


千「!これは…雨の爪で、壁に裂け目が!
…陸!今行くぞ!!」グッ…


バキイィン!


陸「…さよなら」ニコッ


ヒュンッ!!


猫「っ!り…」



ザクッ

388:
◆AhbsYJYbSg:2011/12/7(水) 21:23:05 ID:adi9mYDq.Y






――…

九年前・ふれあい公園



幼児「…ふえぇえん…」グスッ

千(…)

幼「…ぅう…え〜ん…」グスッ

千(…るっさいのう…)チッ


スウッ


千「おい小僧…静かにせぬと喰うぞ」ストン

幼「…ぁ〜う」ピトッ

千「な!?は、離れぬか!」ググッ

幼「やっ!!」グッ

千「わ…わらしを誰だと思うておる!
わらしは、この公園に古くから住んどる妖怪じゃぞ!?とっても怖い妖怪なんじゃ!ほれ、うらめしや〜!」ヒュードロドロ

幼「…ふ、

ふえぇええんっ!!」ビー

千「!こ、これ!そんな耳元で泣き喚くでない!
く…な、何か小僧の気を逸らす物は…

…!」カサッ


389:
◆AhbsYJYbSg:2011/12/8(木) 22:02:57 ID:hWr/.Uv3CU

千「ほ、ほれ!これを見ろ、千代紙じゃ!赤くてきれいじゃろ〜?」ピラピラ

幼「…

…びえぇえええっ!!」ギャー

千「あぁあ泣くでない!!
く…こうなったら…
『秘技・鶴折りの舞』!」シュバッ

幼「びええ……ぇ?」キョトン

千「ほおぉおお…!」シュババババ

幼「お〜っ」キラキラ

千「っと…できた!
どうじゃ小僧!これが『折り鶴』じゃ!」デーン

幼「おお〜!」パチパチ



―お〜い…―



千「!いかん、人間が来たか…
じゃあの小僧。これでお別れじゃ」

幼「…ふぇ…?」ショボン

千「…そう寂しそうな顔をするで無い。
…ほれ!」スッ

幼「!」カサッ

千「その鶴をやる。わらしらが、友になった印じゃ。
姿は見えずとも…わらしはずっと、お主を見守っておるよ…」スウッ…


390: 名無しさん@読者の声:2011/12/8(木) 22:49:21 ID:6bZnwfxYfA
(´-ω-)つC
391:
◆AhbsYJYbSg:2011/12/9(金) 08:41:19 ID:3BL/63Pnk2


父「陸くん、こんなところに…
…!」

幼「た〜ぃ!」キャッキャッ

父(碌がいなくなって、あんなにふさぎ込んでた陸が…笑ってる…

…?あれは…)

父「陸くん、その折り紙…誰かにもらったのかい?」

幼「たいっ!」ニコニコ

父「そうか…良かったね。
そうだ、折り紙なら確か、理恵ちゃ…お母さんが得意だったはずだよ。後で教えてもらおうね」ナデナデ

幼「きゃ〜ぃっ!」ニコニコ





――…








陸「…ぁ…」パチッ

千「陸…気がついたか?」ホッ

猫「…良かった…間一髪、千代の『幸運』で剣が横に逸れたにゃ」ホッ

陸「…千代ちゃん、君は…
ずっと昔から、僕のそばにいたんだね…」ポロッ

392:
◆AhbsYJYbSg:2011/12/11(日) 08:54:03 ID:TGVSMZXQN2

千「!陸、お主…」

陸「千代ちゃんの記憶が、僕の中に流れてきたよ…。
おかげで、全部思い出せた…ありがとう」ニコッ

千「…すまぬ。何度も言おうと思ったんじゃが、勇気がなくてな…。
本当は、お主の前に現れるつもりも無かったんじゃ。じゃが…今回の計画から、どうしてもお主を守りたくてな…その為に、毎日あの公園でお主を待っておったんじゃよ」

陸「…ごめんね」ギュッ

千「?」

陸「『死にたかった』、なんて言って」

千「…謝る必要は無いじゃろ。わらしは、お主がずっと苦しんでいたことを知っておる。
じゃが…お主が本当に謝らねばならん人は、他におるのではないか?」

陸「…うん。早くお父さんに…草介お父さんに、会いに行かなくちゃ…っ」ポロッ

猫「…良かったにゃ…陸…」グスッ

千(本当に良かった…『今度』はちゃんと、救うことが…)ホッ





母?「…茶番は終わりかのう?では、そろそろ…

皆で死ぬる時間じゃな」ギュウン

393:
◆AhbsYJYbSg:2011/12/11(日) 09:22:53 ID:adi9mYDq.Y

千「!…陸に近づくでない!」バッ

?「くく…悲しいのう千代、今はその小僧に夢中とはな」ウゥンッ…

千「!!…お…お主…

お主は…っ!!」

弥一「全く、淋しいのう…千代や」ニッコリ

千「…嘘じゃ…だってお主は…お主はあのとき…」カタカタ


――
約千年前


千『弥一、弥……!?』スウッ

弥『…じゃから…その名は…捨てたと…っ、』ググッ

千『あ…あぁあ…っ』ガタガタ

弥『ふ…大袈裟な…奴じゃな。
ただ…腹に大穴が開いておる…、…だけではないか』ドクドク

千『嘘じゃ…嘘じゃぁああっ!!!』バッ


スカッ


千『うぅ…血が、血が止まらぬ!!』ポロポロッ

弥『…すまぬな千代。どうやら、ここで…お別れ、じゃ』ニコッ

千『…っいやじゃ…いやじゃ!!』ガバッ


スルッ


千『何故じゃ!何故この手は…こんなにも無力なんじゃあっ!!』ポロポロッ

弥『……最期に…わしから、
お主に…た、たのみが…、ある…』

―――

394:
◆AhbsYJYbSg:2011/12/11(日) 09:30:58 ID:VTCxrA1fX2


千「あ…あぁ…っ!」カタカタ

猫「にゃっ…おみゃー、一体どうしたのにゃ!?」アワアワ

陸「…」

弥「くく…苦しかったぞ千代…お主はただ見ておるだけで、わしに何もしてはくれなんだ…」スタスタ

千「…っぁ…」ジリッ

弥「お主を恨みながら死んだわしは、こうして妖怪として生まれ変わったんじゃよ…」スタスタ

千「…っ確かに…お主が妖怪になったのだとしたら、それはわらしのせいじゃ…
すまぬ…すまぬ、弥一!!」ガバッ

弥「ふ…憎い千代め…今こそ、お主に復讐を…」






陸「ねぇ…もう止めたら?そんなウソ」
395:
◆AhbsYJYbSg:2011/12/11(日) 09:44:13 ID:Jdp./cgd1A
弥「!?」ピタッ

千「ぇ…陸…?」

陸「…思い出して千代ちゃん。本当の彼は、あんな風に人を傷つけるような人だったのかを」

千「…本当の…弥一…」



――

弥『……最期に…わしから、
お主に…た、たのみが…、ある…』ググッ

千『…ぅう…』グスッ

弥『…「千魂」』ポッ

千『!?』ポウッ

弥『これでお主は…千年の間、消える心配は…ないじゃろう…。
そして…』

千(あぁ…この温かさ、生きていた頃と似ておる…
…!まさか…)スッ


ピトッ


弥『…人にも、触れられるように…なる』ニコッ

千『…今、触れられても…
もう、…遅いではないか…っ!』ギュッ

396:
◆AhbsYJYbSg:2011/12/11(日) 10:08:31 ID:VTCxrA1fX2

千『わらしは…もっと早く、お主に触れたかった!!
もっと手を繋いで、もっと抱きしめて…そうすれば、きっと…。

お主を…救えたやもしれぬのに…!!』ギュッ

弥『…千代…だからこそ、お主は生きろ。そして…不幸な子供たちを、救ってやってくれ…。
わしのように…道を…踏み外す、前…に…』

千『…弥一…弥一!!』

弥『…千…代。


…あ、り…が………』


トサッ…



ザアアァ…

―――



千「…そうじゃ。弥一は…
本当に優しく…強い男じゃった。

お主は、弥一では無い!」グスッ

弥「な…何を言うて…」

陸「…もう止めなよ。貴女は弥一さんじゃ無い。
他人の振りで人を惑わすなんて、卑怯だよ…。


…『解』」ピッ

397:
◆AhbsYJYbSg:2011/12/11(日) 10:13:18 ID:adi9mYDq.Y

弥?「!」パキパキッ

陸「…千代ちゃん、良く聞いて」ボソッ

千「…?」

陸「これから起こることは、君にとってすごく辛い事だと思う…それでも…」

千「…何となく、心の隅では分かっておったよ」ボソッ

?「ぐ…お、おのれぇ…」パキパキッ

陸「!…千代ちゃん…」

千「ただ、信じたくなかったんじゃ…弥一がその事実を必死で隠しておったから、余計にな…。
じゃが、もう平気じゃ。わらしは…
もう、独りではないからの」ギュッ

?「ぐあ……っ!!」バキパキ…


パキィインッ





千「…相変わらず、美しい白髪じゃ…千余年ぶりじゃな、



……姉様」
398: 名無しさん@読者の声:2011/12/20(火) 19:58:19 ID:7fxGs1aA16
上げつつ支援
(-.-)ノ⌒CCCC
399:
◆AhbsYJYbSg:2011/12/21(水) 00:20:28 ID:TGVSMZXQN2

午後6時
白練台・団地前広場


ザアアァ



鎌「が…っ!くそ…何でだよ…!」ガクン

吊「ヒャハハ!ムダっスよー、アンタじゃあオレに傷1つ付けらんないっス」バサバサ

鎌(く…変な紙を破ったと思ったら、急にチカラが上がりやがった!傷もすぐに治っちまうし…反則くせぇ…)ハアハア

吊「アンタもそろそろ、妖怪の姿に変化(トランス)したらどっすか?でないと…すぐに殺っちゃうっスよ?」ケラケラ

鎌「…ふん…やなこった。
俺は、二度と妖怪の姿にはならねぇって決めてんだ。そこらのガキどもが、俺の姿見て怖がるといけねぇからな」スクッ

吊「あー、アンタも子供(ゴチソウ)が大好きなんすね〜。分かる分かる」ウンウン

鎌「…テメェとは意味が違ぇ。
昔から決めてんだ…目の前で危ない目に遭ってるガキは、俺が絶対護ってやる…ってな」

吊「…ふ〜ん、そっスか…

なら、さっきからあそこに隠れてる女の子(エサ)も…同じように護れるといいっすね!?」ヒュンッ



400:
◆AhbsYJYbSg:2011/12/21(水) 00:50:13 ID:AsNnnQNsYU

鎌「!?…な…」バッ

幼女「あ…ぁ…っ」ガタガタ

吊「ウッヒョー!処女(バージン)の血とか最高っス!!」ヒュオオッ

鎌「くっ…そっ!」ヒュンッ


バッ…


吊「へへっ…やっぱそう来るっスよね♪」ヒュンッ


ザクッ!


鎌「がっ…!!」ヨロッ

幼「!ぁ…っ…血が…」グスッ

鎌「!…泣くなよ…?俺なら、全然平気だからな」ギュッ

吊「あっハハァ!!ちょっとちょっと、それはオレのエサっスよぉ?
さっさと…


食わせろ・喰わせろ・殺わせろ・奪わせろ・くわせろ・クワセロッ!!」ザクッザクッ

幼「……っ!」ギュッ

鎌「あぁ…心配すん…な。俺が…護って、や…」ガクガク


…ザンッ!



ザアアァ


401:
◆AhbsYJYbSg:2011/12/21(水) 07:07:30 ID:3BL/63Pnk2
青丹山・さくら街道


ビュオオオ

戦「…オイラハ、ニンゲンニ殺サレタ皆ヲ、生キ還ラセテミセル…。
同ジク母ヲ殺サレタオマエナラ…コノ気持チ、分カッテクレルダロウ?」ググッ…

ガシャッ!

雪「!(氷の拘束が…!)」

戦「モウ一度会イタインダ。父ヤ母、仲間タチニ。ソノ為ナラ…」カサッ


ビリッ

…ザワッ!


戦「…オイラハ、何ダッテデキル!!」ゴゴゴ

雪「!…だめ!」シャラン…
ガシャッ!


戦「…ムダ、ダ」ゴゴゴ…

ドンッ!

雪「きゃっ…!」トサッ

戦「…ニクイ人間ドモ…雪崩ニ潰サレルガイイ!!」ズゴゴゴ…

雪「!…雪崩が…町に…

止め、なきゃ…」ググッ

戦「…何故ダ…何故オマエハ、人間ノ味方ヲスル!?オマエ母ヲ殺シタノハ、」

雪「…違う、の」

戦「…?」

雪「べつに母ちゃんは…人間に、殺された訳じゃ…ない。
母ちゃんを、殺したのは…

おら、だから」

402:
◆AhbsYJYbSg:2011/12/21(水) 07:39:59 ID:gVhZb/DwRE

戦「!?」

雪「雪女は…死期を悟ると、自らの…魂の一部を雪の結晶にして、子孫を残す…

だから…母ちゃんが死んだのは、おらのせい。おらを産むために…命を、削った…」

戦「…」

雪「…でも、母ちゃんは…幸せそう…だった。一緒に過ごせたのは、一年くらいだったけど…『人間』の父ちゃんと共に、おらを…育ててくれた」

戦「…違ウ、オマエハ騙サレテル!キットソノ人間ガ、雪那ヲ…」ガシガシ

雪「…あなたの気持ちは…分かるよ。
仲間を生き返らせて…こう、伝えたいんでしょう?

『助けられなくて、ごめん』…て。

おらも…ずっと後悔してるから。おらさえ、産まれなければ…もしかしたら母ちゃんは、もっと…」

戦「…違ウ!
…オマエハ、悪クナイ!」ガバッ

雪「!」

戦「…覚エテルンダロウ?幸セダッタ日々ヲ。ナラ…ソレデ、イイジャナイカ…」

雪「…やっぱり…あなたは、やさしい人…だね」ニコッ

戦「…!」ハッ
403:
◆AhbsYJYbSg:2011/12/22(木) 08:50:39 ID:ZcgS0N4ksY

ヒュオオ…


雪「もう…やめよ?
こんなことしたら、きっと…あなたの仲間は、すごく悲しむ…絶対」ギュッ

戦「…

…ソウ…ダネ。オイラガ、間違ッテタ。
待ッテテ、今雪崩ヲ止」


…ギュウンッ!!


戦「!?ガ…アァッ!!」ズ…

ビュオオオッ!!



雪「!?…イエティ…さん!」タタッ


バッ


雪「!」ピタッ

戦「近ヅイチャ…イケナイ!
今ノ…オイラジャ、チカラ…制御…デキ無…ッ!

…逃ゲロ!!」ググッ

雪(そんな…このままじゃ、イエティさんも…町も、助け…られない!
どうしたら…いいの?


…母、ちゃん…)ギュッ



ビュオオオ…
404: 名無しさん@読者の声:2011/12/22(木) 21:42:36 ID:4P2n7.iSEg
支援
405:
◆AhbsYJYbSg:2011/12/23(金) 14:44:31 ID:1hy.F3UU1M
瑠璃岬・水族館内『シーサイドカフェ』


ザアアァ


婆「ある者は、喪った同胞の命を。またある者は、ただ己の食欲を充たさんが為…。西洋妖怪たちは、それぞれ何らかの『願い』を叶える為、この計画に参加してるんだよ。
『ゲーム』というのは簡単さ。あたしの『願い』は何なのか当ててごらん。
ただし!制限時間は三分、質問は三回まで。そしてあたしはその内、どれか一つには必ず『嘘』で答える…どうだい?面白いだろう」クックック

傘(く…そんな事、三つ質問したぐらいで分かる訳ないじゃ無いか!しかも、その内の一つは嘘だなんて…っ。
何か…何か方法は…)アセアセ

婆「…おや、いいのかい?早くしないと、あっという間に時間が過ぎてくよ。
この歳になると、時間の過ぎ去るのが早くってねぇ…」

傘(…時間…そうだ!)ハッ

傘「…ねぇ、質問じゃなく、最初から直で答えてもいいの?」

婆「構わないよ。もし当たってれば、そこでゲーム終了さ…」クック

傘「分かった。なら…。
貴女の望みは、自らの『寿命』…そうだよね?」ゴクッ

406:
◆AhbsYJYbSg:2011/12/23(金) 15:14:48 ID:1hy.F3UU1M
ザアアァ


婆「…ふ…寿命、ねぇ…。
坊や、知らないのかい?あたしは不死身なのさ。この世界が滅びるまではね。

だから、『外れ』」

傘「…っ…」ギリッ

婆「というわけで、質問は残り『二つ』だねぇ…」

傘「!?え…」ガバッ

婆「おや、当然だろう?
直に答えるってのは、『〜は答えか?』と質問してるのと一緒だからねぇ。
つまり、どんな内容でも『?』がつけばそれは『問い』なのさ。
残り二つの質問を、有意義に使うことだねぇ…」クックック

傘(…しまった…)ギュッ

婆「まぁ、三つ全てを『〜は答えか?』という形にするのも自由だよ。その場合は『どれか一つは嘘』というルールは適用されず、その後改めて答えを言う機会が与えられる。
ただ…この情報の少ない状況で、その選択は自殺行為だとあたしは思うけどねぇ…ま、よ〜く考える事だよ」

傘(…そうか…。どんな質問をするかが、このゲームのカギ…質問一つでどれだけの情報量を引き出せるかにかかってるんだ…っ!
なのに、僕は質問を一つ…無駄にしてしまった…)ギュッ

婆「…さぁ、次の質問はなんだろうねぇ…?」クックック


ザアアァ
407: 名無しさん@読者の声:2011/12/23(金) 21:25:30 ID:Xjydrs6GU2
C


ばばあ早速嘘つきやがったwwww
408: ◆AhbsYJYbSg:2011/12/23(金) 21:57:17 ID:Jdp./cgd1A
この辺で支援への感謝を…

>>382
いつも見て頂けて嬉しいです。これからもよろしくお願いします!
>>398
いやぁ…ありがたいです(^_^)支援ほど嬉しい物はないので…
>>404
Cサンクスです!
>>407
ありがとうございます。実は、まだ彼女は嘘ついて無(ry


気がつけば、このSSを始めてから半年も経ったんですよね…なんとか年内に終わらせたいな…^^;
409:
◆AhbsYJYbSg:2011/12/23(金) 22:20:32 ID:hWr/.Uv3CU

傘(く…どうしたらいいんだ…

…待てよ?もしかして、さっきの答えが『嘘』…?いやでも、直に『願い』の内容を質問した場合は『嘘』のルールは適用されないから、さっきのは『本当』か…。
……そうだ!)

傘「…じゃあ、質問。その『願い』の内y」

婆「言い忘れてたけど、『願いの内容は何か』という質問も当然禁止だよ。それじゃ面白くないからねぇ」

傘「…ですよねー…」ハハ…

傘(…う…そりゃそうだよね、それじゃ簡単すぎるし…。
もっとお婆さんについての情報がないとな…)ムム…

婆「さぁ、残り2分…どうなるか楽しみだね…」クックック

傘「…じゃあ、二つ目の質問。
もし、僕がこのゲームに負けたら…貴女はどうやって、この町を壊滅させるつもり?」

410:
◆AhbsYJYbSg:2011/12/23(金) 22:59:08 ID:VTCxrA1fX2
ザアアァ



婆(くく…なかなか良い質問をする。自分が負けた時の被害を想定するのは、確かに重要なことだよ…だが、気付いてるかい?)

婆「もし坊やが負けたら、その時は…」

婆(その質問をした時点で…坊やは既に、自らの負けを意識し始めてるのさ…!)

婆「…この瑠璃岬は、海の底に消える…坊やがゲームに負けた瞬間にね」

傘「…!」

婆「くく…驚いて声も出ないかい?それとも、あまりに現実とかけ離れていて信じられない?
…いいものを見せてあげるよ。窓をみてごらん」スッ

傘「…?」


411:
◆AhbsYJYbSg:2011/12/23(金) 23:02:28 ID:3BL/63Pnk2

ザアアァ……ピタッ!


傘「…!雨が、止んだ…!」

婆「…あたしにとって、天候を操るのは何より簡単な事なのさ…。

これで分かったろう?坊やは決して負けられない」スッ


……ポツッ…ポツッ…


…ザアアァ


婆「さあて…残り時間は一分、質問は一つ。
果たして、坊やにあたしが倒せるかね?」クックック

傘(…



…分かった。多分、今の答えが『嘘』だ。

とすると、問題は…)

傘「貴女を倒さなきゃ…皆に会わせる顔が無いんだよね」ニコッ

傘(次の質問で、いかに彼女の『本音』を引き出せるかだ…!)ギュッ

婆「…(おや、この眼の色…諦めた男の色じゃないね。
…まさか、いまの『答え』が嘘だとばれたのかい?…一体、どうして…?
…どうやらあたしは…この子供を甘く見ていたようだ…!)」クックック

傘「…三つ目の質問、行くよ」

412:
◆AhbsYJYbSg:2011/12/23(金) 23:55:12 ID:QkTKZZsjgQ

傘「…貴女にとって、一番大切なものは何?」

婆「…。
なんだい、そんな事を聞いて一体どうす」

傘「いいから。…答えて」

婆「…あたしの一番大切なものは…。

やっぱり、『孫』かねぇ。
生まれてから今まで、ずっと孤独だったあたしにとって…あの子が今、唯一の『生き甲斐』なんだよ」

傘「…」

婆「…さぁ、これで質問は終わり、制限時間も0だ。
聞かせて貰おう…あたしの『願い』はなんなのかを」

傘「…貴女の願い、それは…」

婆(…少し酷だったかねぇ…。これだけの情報で、あたしの『願い』を当てられる訳が無い。
ま、運が悪かったのさ…すまないね、坊や)フウ…

傘「…『寿命』。そうでしょう?」ビシッ

婆「…ふう…。
…だから言ったじゃないか、あたしは不死身…」

傘「『貴女』のじゃない。お婆さんの望みは、



…『お孫さん』の寿命だ」

婆「…!」ピクッ
413:
◆AhbsYJYbSg:2011/12/24(土) 08:06:15 ID:3lrZB.nf7I

傘「そもそも、このゲームにはとてもおかしな所があった…『貴女のメリットが一切無い』、というね。
最初はラッキーだと思ったけど…よくよく考えれば、正体がバレた時点でお婆さんは僕を消すことも出来たはずなんだ…。なのに、あえて回りくどい方法をとった。
この事実から言えることはまず一つ…『貴女には、時間を稼ぐ必要があった』」

婆「…」

傘「そして、次におかしいと思ったのは二回目の質問の時。さっきも言った通り、貴女にはいつでも僕を殺す…いや、この町を消す力があった…『この町を海に沈める』というのも、貴女には一瞬だろうしね」

婆「…ちょっと待っとくれ。なら、何故二つ目の答えが『嘘』だと思ったんだい?あたしはあんたに、天候を操ることで自らの力を証明したじゃないか!」

傘「…そう…だけど、僕はそれにスゴい違和感を感じたんだ。
だってさ…力を証明するなら、大波を起こしたり、雷を落としたり、竜巻を発生させるとか色々方法があるでしょう?まして、もうすぐ自分が壊滅させる場所だ。多少好き勝手やったって何も変わらないはず…。
でも、貴女はあえて『誰も傷つけない方法』で僕に力を証明した。ここから導き出されること、それは…
『貴女は、本当は町を壊滅させたくない』」

婆「…っ…」



ザア…アァ…

414:
◆AhbsYJYbSg:2011/12/25(日) 08:01:48 ID:gVhZb/DwRE

傘「そこで、僕はあることを思い出した…貴女と初めて会った時、貴女とお孫さんは遊園地にいたよね?」
婆「…あぁ、いたねぇ。それが何だっていうんだい?」

傘「あの状況は、『あり得ない』んだよ。
僕の仲間には鎌いたちっていう、『妖怪』の気配を察知出来る妖怪がいるんだ。貴女は伝説の神獣、気配を消すのも容易いだろうけど…『もう一人』の気配に、彼が気付かないはずが無いんだよ」

婆「…何が…言いたいんだい?」

傘「つまりこういう事。疾風は気配を察知出来なかったんじゃなくて、する必要が無かったんだ。

だって貴女のお孫さんは…『人間』なんだから」

婆「…」

傘「それが分かれば、後は簡単だ…。
貴女が時間を稼いでいたのは、お孫さんにアシカショーをゆっくり見せてあげるため。
町を破壊しなかったのは、お孫さんを驚かせたくなかったから。
そして…彼の青白い顔色と、肌身離さず被っている帽子の意味は…」


…ガタンッ!
415:
◆AhbsYJYbSg:2011/12/26(月) 11:05:16 ID:3lrZB.nf7I

婆「もう…っ、止めとくれ!
あたしの…敗けだよ…」グッ

傘「…」


サアアァ


――


孫(えへへ、アシカのぬいぐるみもらっちゃった…おばあちゃんにあげたら、喜んでくれるかな?)タタッ


――


婆「坊やの言う通り…あたしの願いは、あの子の病を治し…寿命を延ばすこと。
…ふふ…情けないねぇ。地球が生まれた頃から生きてるあたしが、たった一人の人間の病気も何とかできないなんてさ…」

傘「…だから…この計画に参加したの?」

婆「…日本に来たのは、一年前…腕の良い医者を探しに来たんだよ。けれど…どこも匙を投げてね。
そんな折、あの男…碌と出会ったのさ。どうやらあいつは、あたしら妖怪の気配を察知できるらしい。
あいつはあたしに、あの子は助かると言ってくれた…初めてだったよ。初めて、光がさした」

傘「一人の人間の為に…他の人間は、どうなってもいいって事?」

婆「あぁ、どうでもいいねぇ。あの子が助かればそれで。
例えそのために大勢の人間が犠牲になろうとも、あたしは…」






孫「…おばあ、ちゃん…?」ポトッ

婆「…!?」ガタッ
416:
◆AhbsYJYbSg:2011/12/26(月) 18:14:46 ID:hWr/.Uv3CU

ザア…ア…ァ


孫「なんの、話…?

ぼくの病気を治す為に…お婆ちゃん、皆を殺すつもり…なの?」

婆「……っ」グッ





傘「ち…、違うよ!」ガタッ

婆「!?」

傘「た…例えばだよ、例えば!君のお婆ちゃんは、それくらい君の事を思ってる、って言いたかったんだ!」

孫「…そう…なの?」キョトン

傘「そうそう!だから、何も心配いらない…」

婆「坊や。

もういいよ…ありがとうねぇ。こんなあたしを庇ってくれて。

…『ロン』…よくお聞き…あたしはね、お前を助ける為に、この国の人達を犠牲にしようとしてたんだよ」

孫「…!…ダメだよ、そんなの!!」バッ

婆「分かってる…お前は優しい子だものねぇ。こんな方法で助かったって、喜ぶ訳も無いのに…あたしが馬鹿だったよ。
…坊や、あんたの勝ちだ。約束通り、この計画から手を引く…」ガタッ…




傘「…待って。
…本当にいいの?それで」

417:
◆AhbsYJYbSg:2011/12/26(月) 20:07:46 ID:TGVSMZXQN2
ポツッ…ポツッ…


婆「…仕方ないだろう?他にどんな方法があるっていうんだい?」

傘「うん…。
ちなみに、彼に残された時間は…?」

孫「お医者さんは、あと3年くらいだって言ってたよ!」ニコッ

婆「…ロン…」ギュッ

傘「そっか…。
もしかしたら、なんとかなるかもしれない…『彼』なら」

婆「…!本当かい!?」ガバッ

傘「うん。今すぐは無理だけど…3年あれば、きっと」ニコッ

孫「お婆ちゃん…!」ギュッ

婆「良かったねぇ、ロン!
坊や…ありがとう。だけど、あたしは敵だよ?どうしてそこまでしてくれるんだい…?」

傘「…敵とか味方とか、関係ないよ。
ただ、苦しんでる人達を簡単に見捨てるような…そんな奴に、自分がなりたくないってだけなんだ。
それに…ここで見捨てたりなんかしたら、陸君に怒られちゃうしさ」ニコッ


418:
◆AhbsYJYbSg:2011/12/26(月) 20:29:11 ID:VTCxrA1fX2

婆「…そうかい…。お礼に、良いことを教えてあげよう…。
早いとこ、この桜田の地を離れた方がいいよ」

傘「え…でも、五体の大妖怪は大量の血が無いと蘇らないんでしょ?
僕達が町の破壊を阻止してるんだから、彼らは復活出来ないはずじゃ…」

婆「碌はそう言ってたけどね…ありゃ嘘なのさ。
もともと、この地には大量の霊力があってね…封印さえ解いてしまえば、後は時が来るまで待てば良かったんだよ」

傘「じゃあ…まさかあいつは、ただ人間を殺させたかっただけ…?一体どうして…!」

婆「さあ…あたしにゃ検討もつかないよ。
そして、あたしが頼まれた仕事ってのはね…この地から川を伝って流れ出る霊力を、『雨』に変えてもとの場所に留める事なのさ」

傘「…じゃあ…今の桜田市は、霊力がパンパンに溢れてるって事!?
大変だ…このままじゃ、大妖怪が…!」

婆「それも確かに恐ろしいけどねぇ…本当に大変なことは別にある。
それが、あいつの真の狙い…『世界を滅ぼす』事に繋がるのさ」

傘「…?…」ゴクッ



――




恋「…最期は意外とあっけなかったわね…オバサン?」クスクス
419:
◆AhbsYJYbSg:2011/12/27(火) 18:35:04 ID:VTCxrA1fX2
キネマ柊・第4スクリーン
上映作品『キミとAIの唄』


―ワタシ、シアワセデシタ…サヨナラ…―

―待って…待ってくれ、俺は…―

―ちょっと!あんなロボットのどこがいいのよ!?―


〜♪


男「な…ぁ、あんた!一体この人に何しやがった!?」タタッ

恋「クス…別に大したことじゃないわ…。
『ユメ』を見せただけよ。彼女が一番望んでる内容の、ね」スタスタ

男「…ちょっと、大丈夫ですか!?…おい!」ユサユサ

濡「…」スヤスヤ

恋「ムダよ。アタシのユメはね…強力な『麻薬』なの。
抗う術はない…彼女は永遠に眠り姫ね」クスクス

男「…てめぇ…っ」ギリッ

恋「アラ…この女より、自分の心配をしたらいかがかしら?」スッ


…ヴオンッ


男「…っ」ギシッ

恋「威勢のいい男は好きよ?
フフ…美味しそうな身体…」スタスタ

男「…よっ…寄るなっ!」ガタガタ

恋「大丈夫。すぐに…

なにも、解らなくなるわ」ズ…


420:
◆AhbsYJYbSg:2011/12/27(火) 19:23:24 ID:gVhZb/DwRE

――


…パチパチッ



子「かっちゃ!おきゃーり」スッ

濡「こら、『御代わり』やろ?まったくこん子は…」スッ

夫「母ちゃん、わしも『おきゃーり』頼むわ」スッ

濡「ちょっと!あんたが言葉間違うてどないすんの!」

夫「ええやんか別に〜。お前のメシが旨いーゆうこっちゃ。
な〜ボウズ?」ニィッ

子「な〜?」ニィッ

濡「っとにもー…真似して欲しゅう無いとこばっかり似るんやから…」ブツブツ

夫「まぁまぁ…お前によう似て優しい子ぉに育ったんやさかい、これでオアイコ。
…ひゃっこいな、火ぃ足すか」ポイッ


パチッ…パチッ!




濡「…

…ごめんな、あんた。ウチ…」

夫「なんも言わんでええ。わしもボウズも、お前に会えて幸せやった…。
あの世でのんびり待ってるさかい…ゆっくり来たらええ」

子「…まけんなよ、かっちゃ!」ニコッ

濡「もちろんどす…おおきにな」ニコッ



パチパチッ…


パチンッ…ー
421:
◆AhbsYJYbSg:2011/12/28(水) 19:26:09 ID:3BL/63Pnk2
――



男「っ…ぁ…」トロン

恋「クス…どう?だんだんまぶたが重たくなって来たでしょう?
そのまま、ゆっくりと天国へ連れていって…」




濡「…『水牢・紫陽花』」フオッ


ガシャンッ!


男「…っぷはあ!」ハアハア

恋「!…な…っ!?

貴女どうして…!一体、どうやってアタシの『ユメ』から覚めたっていうの!?」バッ

濡「…『望みの夢』か…ほんに、幸せな夢どしたなぁ。このまま覚めとうないって、本気で思ったさかい…」

恋「なら、一体…」

濡「…『夢』は『夢』や。いくら似せようと、それは現実やない。
それに、アンタには悪いけどな…。
ウチは旦那と子供の夢なんて、もうウン億万回と見てるんよ…今さら騙されたりせぇへんわ」フオッ…


ヴオン…ッ!


恋「…!この力…!
…貴女、ずるいわよ!最後まで本当の力を隠してたのね!?」ガシャン

濡「別に隠してたわけとちゃいます…ウチは本気になったら、変化が解けて醜い姿になるさかい…それが嫌やったんよ。
ほんでも…今は仕方あらへんな…」パキパキッ


フオンッ…


男「…!」
422:
◆AhbsYJYbSg:2011/12/29(木) 09:41:50 ID:AsNnnQNsYU

濡「…どや?醜い姿やろ…」スル…

男(…あぁ、なんて…)

恋「…蛇の下半身なんて…ほんと、醜い女ね…!」クスクス

男(なんて、美しいんだ)




―ロボットだって構わない!俺は…アイが好きだ!―

―ホントウニ…?―

―あぁ…ずっと一緒に暮らそう…2人で―

〜♪

―END―



濡「さぁ、映画もちょうど終いや…アンタも大人しく、往生しいや」スル…

恋「…っいやよ!アタシは負けない!

今まで、アタシに言い寄ってきた男は星の数ほどいたわ…だけど、誰一人本当のアタシを見ようとはしなかった!
皆あたしの外見ばかりを褒め称えた…まるで、アタシの存在価値がそれしかないって言うように!
どうしても知りたいのよ!愛されるって事が、どんな素晴らしいものか…」

濡「…あんたには、決定的に欠けてるもんが一つある…それはな、

『自分から誰かを愛する気持ち』や」

濡「!」
423: ◆AhbsYJYbSg:2012/1/3(火) 15:37:33 ID:N/WUOWexy.

濡「誰かを愛して、愛されて。お互いを労りながら生きて行く…それがほんまモンの愛や。
あんたの望んでるのはな、愛とちゃう。ただの偽者…一方通行のお遊びどすえ?」

恋「…っ…黙りなさい!

『あなたに…』」ヴ…

濡「『湯縛り・蓮花』」フオンッ


ビシッ


恋「…!…く…」ギシッ

濡「ウチは暴力は嫌いやさかい、ほんまは話し合いで解決したかってんけど…ムリみたいやね。

…悪く思わんでな」ズ…

恋「なんでよ…なにがいけないの!?
他人がいくら死のうが、どうだっていいじゃない!愛は勝ち取るものでしょう!?」

濡「愛はゆっくり育むもんや。それが分からん子供は…少し水ん中で頭冷やしんさい。
『波之花・仇桜(あだざくら)』」


――
424: ◆AhbsYJYbSg:2012/1/3(火) 15:48:33 ID:Ma2nBUKySI



濡「…さて…。早いとこ、千代はんらに加勢せな…っ!?」グラッ

男「!…危ない!」ガシッ

濡「あ…おおきに。

…あんた、怖くあらへんの?ウチは妖怪…」

男「…助けてくれた相手を怖がるなんて、俺はそんなクズじゃないっすよ。
ありがとう、ございました」ニコッ

濡「…けったいなお人どすな。
せやけど、ムリせんでええよ?さっきの姿、自分でも醜いと思うし…」

男「そんな…そんなことないっす!
その…なんていうか…っ」

濡「…?」

425: ◆AhbsYJYbSg:2012/1/3(火) 16:23:40 ID:TvUmzdgtiI

男「綺麗でした…すごく」ポリポリ

濡「…あんた…

…爬虫類フェチなん?」ニコッ

男「そうなんすよ、特にアナコンダが好き…って違う!

…んと…俺馬鹿なんで、上手く言えないんすけど…
誰かを護ろうって気持ちが伝わった、っていうか…とにかく、あの時あなたを綺麗だと思ったんです!」カアッ

濡「…」


――


夫『…わしは好きやけどな〜、お前のあやかし姿。ほら、ウロコがキラキラ光ってて、えらい綺麗や…』ニイッ


――


濡「…久し振りやなぁ…あの姿を褒められたん…」ポッ

男「…それで、なんすけど…もし良かったら、俺と」

濡「嫌や」

男「付き合って…って即答!?
ぇ…もうちょい悩んでくれても…むしろ告白くらい最後まで言わせてくれても…」シクシク




ズル…


恋「ぅ…まだ、よ…」ユラァ

濡「!?」

426: ◆AhbsYJYbSg:2012/1/3(火) 16:49:01 ID:v0sJxCq82Y

恋「アタシは、まだ死ねない…愛の記憶を…手に入れるまでは!」バサアッ


ヒュンッ!


濡「あんた!ちょっと待ち…っ!?」ガクンッ

男「無理しない方がいいっすよ!きっと、疲労が限界なんです。
あの妖怪だって、かなりボロボロのはずだし…どうせ何もできないっすよ」

濡「…そうやないんどす」

男「?」

濡「あん子は多分、親玉の所に戻ろうとしてるんやろうけど…計画に失敗した妖怪が、歓迎されるわけがない。
このままじゃアカン…早いとこ…、…助け…に…」ドサッ…

男「!…おいあんた!大丈夫かよ!?」ユサユサ

濡「…」ス-ス-…

男「…寝ただけか…良かった。本当、素敵な人だよな…。
諦めないっすよ、俺」ニコッ





――


弟1『兄ちゃん…兄ちゃんてばっ!』ゼェゼェ

弟2『速すぎだっつの…もっと、ゆっくり…っ』ゼェハァ

鎌『…んだよ、もうバテたのか?軟弱な奴らだぜ』ピタッ

弟2『兄ちゃんが速すぎなんだろが!』ムッ

弟1『そうだそうだ!横暴はんたーい』プンプン

427: ◆AhbsYJYbSg:2012/1/3(火) 17:20:28 ID:Ma2nBUKySI

鎌『ハァ…あのなぁ、風の妖怪「鎌いたち」がそんなんでどうすんだよ。
ただでさえ、今はニンゲン同士の戦が増えてんだぞ?いざって時に備えて、こうして鍛えてんだろが』

弟1『へーきだよ。いまだって、僕らより速いニンゲンなんていないもん!』エッヘン

弟2『兄ちゃんは心配しすぎなんだよ。俺たちだって結構強いんだぜ?自分の身は自分で守れるっつの!

…木枯(こがらし)、あそこの木まで競争しようぜ!』ビュンッ

弟1『あ…ずるいよ凪(なぎ)、待って!』ビュンッ

鎌『…ったく、この餓鬼どもが…。


…?』ピクッ



カサッ…



弟2『よっしゃ!俺の勝ちだな』ニヤッ

弟1『くそぉ…もう一回!今度はあの林まで…』

鎌『…!

伏せろ、お前ら!!』ビュ…


…ズギュンッッ!


428: ◆AhbsYJYbSg:2012/1/3(火) 17:53:02 ID:ooUpiuLqko

弟2『…あ?何の音…

…木枯?』キョトン


ドサッ


弟2『!…おい!どうしたんだよ!
…っ…なんで、こんなに血が出てんだ…おい!』ユサユサ

武士『…貴様らだな?ここらに巣食っておる妖怪というのは。
わしが退治してくれるわい…』チャッ

弟2『あ…?なんだその鉄の棒。そんなもんで何を…』

鎌『…っ逃げろ凪!!「それ」は駄目だ!!』ビュオッ…


ズギュンッ…!


弟2『…ぁ…。

…兄、ちゃん…』ドサッ

429: ◆AhbsYJYbSg:2012/1/3(火) 17:55:53 ID:Ma2nBUKySI


鎌『凪!…っ』ザザッ

武士『ふ…貴様で最後のようだな。
やはり、将軍様から頂いたこの鉄砲(てつはう)の威力は凄いな…ちょうど試し打ちが出来て良かったわい!』フハハ

鎌『凪…なぎ!』ギュッ

弟2『…ごめん…兄ちゃん…。
俺たち、結局…一度も兄ちゃんに…勝てな…かった……な…』トサッ…

鎌『…っ…』ギュッ

武士『はは、貴様も大人しく』


…ヒュンッ


武士『この鉄砲の餌食に…

…ってあれ?』ズルッ


ドチャッ


鎌『…木枯…凪…


ぅ…

…ぅウオおオォオぉオオオアアあアアアあアァアァアアアアアアアアアアアア――!!』




――
430: ◆AhbsYJYbSg:2012/1/3(火) 19:55:04 ID:tCjBGwNmgs
白練台・市営団地前広場



吊「へっへ…やっと死〜んだ♪」ケラケラ

幼「いや…しんじゃだめ、お兄ちゃん!」ユサユサ

吊「ん〜とっても残念っスけどねお嬢ちゃん。そのお兄さまはもうただの死体(ゴミ)っス。こんだけ血が出たら、いくら妖怪でもねぇ…」

幼「そんなことない!…守ってくれるって、やくそくしたもん!」ポロポロッ

吊「…世の中にはねぇ…守られなかった約束事なんて、山のようにあるんス。誰かを信じた時点で負けなんスよ。
…一つ勉強になって良かったっスね?まぁ、すぐ死んじゃうんだけどぉ!」ゲラゲラ




鎌「…っ…なよ」ボソッ

幼「!…お兄ちゃん!?」バッ

吊「…へぇ、まだご存命とはね」ニヤッ

鎌「…てめぇと…一緒にすんなよ。
俺は…約束破ったり、しねぇ」ググッ

431: ◆AhbsYJYbSg:2012/1/3(火) 20:25:08 ID:ooUpiuLqko

吊「そんなボッロボロの体で、どうやってその子を守るっていうんスか?
ちなみに…オレはその餌を喰ったら、次はあの陸って餓鬼の血を頂くつもりっス。
あんたは結局、大切なモノは何も守れずに死ぬんスよ!ヒャハハハ…」ゲラゲラ

鎌「…お前じゃ無理だろ」

吊「ハハ……はっ?何が?」ピクッ

鎌「お前ごときが、チビを…俺の『弟』を倒すことなんて、できる訳ねぇだろ。
あいつは俺が鍛え上げたんだ。雑魚に殺られやしねぇ。
まぁその前に…てめぇはここで、俺に倒されるんだけどな」ニヤッ

吊「へぇザコ…そうスか…!なら、」ビキビキ




鎌「…おい、2秒だけ目ぇつぶってろ」ボソッ

幼「…え?でも…」キョトン

鎌「心配すんな。目ぇ開けたら、全部終わってっから」ニカッ



吊「…倒してみたらどうっスか!?この雑魚(オレ)をさぁ!!」ギュンッ

鎌「…」ズ…



ヒュオンッ…!
432: ◆AhbsYJYbSg:2012/1/3(火) 21:23:22 ID:tCjBGwNmgs

ビュオオオ…


幼「…い〜ち、」


…オオオン…!


幼「…に〜い」パチッ


鎌「…ふう、間に合ったぜ」キキッ…ヴオンッ

吊「…ぁ…ほぇ…?」グールグール

幼「あれ…?お兄ちゃん、このひと…どうしたの?」キョトン

鎌「ん?あぁ…ちょっと本気で、目ぇ回してやったのさ。
コウモリは三半規管っつう、耳の器官が滅茶苦茶発達しててな…高速で回転させっと、こんな風にぐでんぐでんになっちまう訳だ。当分起き上がれねぇよ」ニヤッ

吊「…ひぅ…」グールグール

幼「…あいてを傷つけないで、たおしたんだね!」ニコッ

鎌「まあ…殺したりなんかしたら、うちのチビに絶交されちまうしな。
なんにせよ…良かったぜ。

…今度は…護れ、て…」フラッ…


ドサッ!


幼「!…お兄ちゃん!」タタッ

433: ◆AhbsYJYbSg:2012/1/3(火) 21:58:49 ID:TvUmzdgtiI
青丹山・さくら街道




戦「…ン…」パチッ

(あ…やっと起きた)ニコッ

戦「アレ…オイラ、一体…。
確カ、吹雪ガ暴走シテ…ソウダ!アノ女ノ子ハ…」ガバッ

(深雪なら大丈夫。わぁ(私)が守ったから)

戦「…?コノ柔ラカナ声ハ、マサカ…
雪那(ユキナ)カ!?ドコニ…」キョロキョロ

雪那(探しても無駄だよ。わぁはもう意識しかないし、もうすぐそれも消える。
深雪を産んだ時ね…『雪女』の力と一緒に、わぁの魂を注いだんだ。あの子が一人前になるまで、守ってあげられるように。
生きてる間は、何もしてあげられなかったから…)

戦「…ジャア、オイラヲ助ケテクレタノモ…?

…アリガトウ、ユキナ」ペコッ

雪那(いいの。だって友達でしょ?
それから…あなたに、頼みがあるんだ)

戦「…?」

434: ◆AhbsYJYbSg:2012/1/3(火) 22:12:41 ID:N/WUOWexy.

雪那(深雪に伝えて。

『もう自分を責めるのは止めなさい。母ちゃんはあなたを産んで幸せだった。
…ずっと、愛してる』

…お願い、できる?)

戦「マカセロ!ナニシロ…

友達ノ、頼ミダカラナ」ニコッ

雪那(ふふ…ありがと。

それじゃ、もう行くね…元気で…)フウッ…



――




雪「…母ちゃんが…そんな、事を…?」

戦「アァ…。
彼女ハ…本当ニオマエヲ、愛シテタンダナ…」

雪「…っ」ポロポロッ

戦「…!?ドッ…ドウシタ!?」ビクッ


435: ◆AhbsYJYbSg:2012/1/3(火) 22:35:33 ID:Av4ajQZmDk

雪「ずっと…本当は、ずっと…不安だったの…っ。

もしかしたら…母ちゃんは、オラの事…」ポロポロ

戦「…恨ンデルンジャナイカ、ッテ…?」

雪「…っ…」コクン

戦「ソンナ…

ソンナ訳、ナイダロウ…ッ!?」ギュッ

雪「!」

戦「ドコノ世界ニ、命ガケデ産ンダ我ガ子ヲ…恨ム親ガイルンダ!
モシ仮ニイタトシテモ、雪那ハ絶対ニ違ウ!!」ギュッ

雪「…うぅ…。

うわあぁあん…っ!」ボロボロッ




――




戦「…落チ着イタカ…?」

雪「…」コクン

戦「!…ア…ゴメン!痛カッタ?」パッ

雪「…ううん、大丈夫。

ありがと…イエティ、さん」ニコッ

戦「…イイヤ。礼ヲ言ウノハコチラノ方ダ。

助ケテクレテ、アリガトウ…深雪」


436: ◆AhbsYJYbSg:2012/1/3(火) 22:50:59 ID:Le4E195ks2
銀朱町・タワーハイランド


皇「フハハハハハ!」

夜「ふっふっふ…」

皇「フッハハハハハァ!!」

夜「ふっふっふ…!」





皇「…身体が動かんっ!」ドーン

夜「奇遇ですね…
私もですっ!」ドーン

皇「く…まさか相討ちとは、なんたる恥辱!
いっそひと思いに殺せ…っ!」ジタバタ

夜「無理ですよ…私も指一本動きませんから」フゥ…

皇「…ふん…まあいい。どうせ計画は失敗だ…見ろ」スッ

夜「?」


437: ◆AhbsYJYbSg:2012/1/4(水) 00:05:46 ID:N/WUOWexy.

皇「崩れて穴の空いた天井から、雨が降ってこない…どうやら、『隠者』は負けたようだ。
長が倒されたとあらば、我らも引くしかあるまい…」フウ…

夜「…一つ聞いても構いませんか?
何故、『奥の手』を使わなかったんです?それを使っていれば、おそらく貴方は…」

皇「なんだ…知っておったのか?この『式神』の事を」カサッ

夜「…」

皇「ふん…簡単なこと。

我は『王』だぞ?何故このようなモノに頼らねばならんのだ」ポイッ

夜「…ですね」クスッ
438: ◆AhbsYJYbSg:2012/1/6(金) 14:47:48 ID:v0sJxCq82Y

夜「でも、良かったんですか?せっかくのチャンスを棒に振って。
私は貴方がどんな手を使っても、その目を治すつもりだと思ってました」

皇「…始めは思っていた。この目が見えるなら何を犠牲にしてもいい、とな。
だが、思い出したのだ…我が何故、視力を取り戻したかったのかを」

夜「…」

皇「我はな…美しい世界が見たかった。人間がいようがいまいが関係無い。ありのままの、夕日に染まる海や霧に霞む森、どこまでも広がる晴天が…。
だが…我等の戦った跡を見てみろ。盲目の我でも、瓦礫に覆われた惨状は分かる。
このままでは…自らの手で、大切な世界を汚し続けてしまう。そうなれば我は、深く後悔するだろう。王に後悔は似合わぬ…」

夜「…」

皇「…そんなことより夜叉よ…一つ、頼みがあるのだが…聞いてはくれぬか?」クルッ

夜「…内容によりますね」クイッ…


439: ◆AhbsYJYbSg:2012/1/6(金) 15:21:09 ID:bVCdsd2A3M

皇「その…先刻主の言っておった、今日の夕飯の『カラアゲ』とかいう…」

夜「…?唐揚げが、何か?」

皇「いや、その…。
決して食べてみたい訳では無く、ただの興味本位、むしろ少し気になる程度で別に食べたい訳では無いのだが…」チラッ

夜(食べたいんだ…)

皇「その…本当に、余ったらで良いのだ!もし…主が許してくれるのであれば、せめて欠片だけでも…」チラッチラッ

夜「…別に良いですよ、幾らでも食べて下さい。
なんなら、晩ごはんに同席しても構いませんし」フウ…

皇「!ほ…本当か!?」ワクテカ

夜「ええ…誰であれ、自分の料理を食べてもらえるのは嬉しい事です。
さて…そろそろ鶏肉に味が充分行き渡った頃ですし…帰って、料理…を…」トサッ

皇「!?…おい、夜叉…?」

夜「…」スピー

皇「なんだ…寝ておるのか。
…仕方ない、起きるまでカラアゲはお預けだな。
我も少し寝るとするか…」スッ


フワッ…


皇「?…この気配…まさか!」ググッ…


440: ◆AhbsYJYbSg:2012/1/7(土) 21:28:25 ID:bUag6GOqLU
午後6時30分

タワーハイランド・地下



母「もう…もうやめて碌!このままじゃ、あんた…本当に死んじゃうよ!」ガシャン

碌「…ふん…まだこの程度では死なんさ。
それよりもうすぐだ…黙って見てろ」スッ


ギュウンッ


碌「…市の中心にあった封印の石碑は、既に破壊した…あとは五大妖怪の心臓の代わり、血染めの式神に力を注げば…!」ググッ


…シュン…


碌「!?…何故だ!何故復活しない!?霊力は充分、心臓の設置も終えた…なのに何故…」

母「…復活なんてしないよ。
あたしが、『彼ら』を説得したから」

441: ◆AhbsYJYbSg:2012/1/7(土) 21:43:07 ID:bVCdsd2A3M

母「あたしだってこの数年間、何もしてこなかった訳じゃない。
五大妖怪の魂…それぞれの気配を追って、日本中を廻ってたんだ。
いつかあんたが、彼らの復活を企んだとき…それに応じないよう、説得する為にね」

碌「…妖怪の復活には、心臓・魂・霊力の三つが揃う事が絶対条件…。

…さとりの力は、魂とも対話出来るのか…盲点だったよ」フウ…

母「これで分かったでしょう!?もう馬鹿なことは止めな。
もう五体の妖怪は復活しない。あんたの計画は失敗したんだ!」

碌「…いや、まだだ。

まだ、『六体目』が残ってる」ニヤリ

母「…え…?」
442: ◆AhbsYJYbSg:2012/1/7(土) 22:11:01 ID:Le4E195ks2

碌「おかしいと思わなかったのか?何故、この桜田の地が異常に霊力を溜め込んでいるのか。
その答えは…太古の昔から封印されていた、とてつもなく強大な力を持つ『何か』によるものだ。先祖である陰陽師も、五大妖怪の封印にその力を利用する程の…な」ニヤッ

母「…まさか…あんた、最初からその『何か』を狙って…」

碌「あぁそうだ。
川から流れ出る霊力を雨に変え、出口を塞ぐ。そして西洋妖怪に町を破壊するよう指示し、さらに五大妖怪を復活させる…。
そうすれば眠りを妨げられた『何か』は地上に現れ、日本中を混沌に陥れる…はずだった。しかし…」

母「…残念だったね。町は破壊されてないし、妖怪も復活してない。これで…」

碌「…だから、無理矢理起こすのさ…」


タタッ!


陸「…っお母さん!」タタッ

母「!陸…来ては駄目!」ガシャンッ



碌「…あの子を、使ってな」ニヤリ


443: ◆AhbsYJYbSg:2012/1/8(日) 13:22:36 ID:v0sJxCq82Y

猫「お師匠しゃまーっ!!」ピュンッ

母「!雨…!?あなた、どうしてこんな所に?」

猫「話は後ですにゃ!待っててくだしゃい、すぐに檻を壊してみせます!」ガシャンガシャン




碌「…?陸、お前…記憶を取り戻したのか?」

陸「うん。あなたは『お父さん』じゃない。
僕のお父さんは、一人だけだ。
僕は…あなたを止める」ザリッ

碌「そうか。
それは、残念だ…『影』」キュッ

陸「!?うわぁっ!」ギュルンッ

碌「洗脳が解けたなら仕方ない。力ずくでも協力してもらうぞ。
アレを復活させるには、少なくとも二人以上の陰陽師が必要…わざわざその為に、お前に力を与えたのだから」スタスタ

陸「…く…っ」ググッ






恋「…『おねむりなさい、ぼうや』」ヴオンッ

碌「!?」クラッ
444: ◆AhbsYJYbSg:2012/1/8(日) 13:49:44 ID:tCjBGwNmgs

陸「!あなたは…」

碌「…『恋人』。どうかしたのか?」スクッ

恋「(そんな…効いてないなんて…)…どうしても欲しいのよ…っ愛の記憶が!。
約束したでしょう?計画が終わったら…くれるって…」フラッ

碌「あぁ。そうだな…。
約束したさ、計画が『成功』したら、記憶を移植してやる…とな。お前は失敗しただろう?」

恋「…っ…なら…。
多少強引にでも、記憶を頂くことにするわ…!」ギュウンッ…

碌「…そろそろ、か…」ボソッ

恋「…?…!!」バキンッ


…ギュルンッ!


恋「…ッキャアアア…ッ!!」バタッ

陸「!」

碌「お前たちに渡した式神にはな…遣った霊力に比例して、持ち主の命を奪う術が施してある。
まぁ…因果応報、だな」ククッ

恋「ぁ…っ…あなた…最初からアタシたちを…捨て駒に…!?」ハア…ハア

碌「当然だろ。
幸せになるのは、俺たち家族だけでいいんだから」ニヤリ

陸「…っ逃げて!恋人さんっ」ググッ

碌「たっぷり愛して貰えばいいさ…地獄でな。

『闇千刃』」ジャラッ…ヒュンッ

ドドドド…ッ!!
445: ◆AhbsYJYbSg:2012/1/8(日) 14:34:11 ID:TvUmzdgtiI

…ポタッ


恋「…?…!!
ぁ…貴方、アタシをかばって…!?
どうしてこんな事…っ!」

皇「…ふ、どうして…だと?
王はな、自らの民を守るもの。当然の…ことを、した…まで…」フラッ


ドサリ


恋「い…イヤアアァッ!皇帝!!」ギュッ

碌「ふ…馬鹿な事を。
まぁ手間は省けたか…どうせ皆殺しだ」スタスタ




皇「…恋人。主は…美しいな」ポタッ

恋「…違うわ…アタシは心の無い人形。
いくら外見が良くてもね…本当に愛してくれる人なんて、いないの」ギュッ

皇「…美しいさ…目の見えぬ我が言うのだ。
それに…真に主を愛する男なら、ここに…いる」スッ

恋「!!

…っ…バカ、ね…」ポロッ




碌「…続きは、あの世でゆっくり話せばいい。
じゃあな…『闇千刃』」ジャラッ…ヒュンッ



トゥルンッ!



碌「…?
…『とぅるん』…だと…?」キョトン

446: 名無しさん@読者の声:2012/1/8(日) 20:27:25 ID:P/3Z/Hd7EE
支援支援支援
447: 名無しさん@読者の声:2012/1/9(月) 14:51:25 ID:PlpNruQFh6
まじめにとぅるんって言うなwwww
448: ◆AhbsYJYbSg:2012/1/9(月) 23:46:35 ID:ooUpiuLqko

蛙『…痛いゲコ』ヌルリン

陸「間に合って良かった…盾になってくれてありがと、『蛙』さん」スッ

蛙『…また何時でも喚ぶゲロ』ポンッ


…カサッ





猫「と…突然大きにゃカエルが現れたと思ったら、今度は折り紙に…ぁ…あれは一体…?」ポカン

母「…『能力の固有化』ね」

猫「え?」

母「…陰陽道の術者はね、ある程度のレベルになると、自らの『心』に応じて能力が変化するの。
あの子は、昔から折り紙が大好きだから…」

猫「にゃるほど〜、その性質が表れてる訳ですにゃ…。

…って、そんにゃ事言ってる場合じゃにゃかった!早く檻を…っ」ガリガリ

母(でも変だ…あの子は、まだ力を得て間もないはずなのに…どうして…)




碌(…まさか、折り紙を実体化させるとは…力を与え過ぎたか)チッ

陸「…ぇっと…そうだ!
…『蓮花』」ポンッ




449: ◆AhbsYJYbSg:2012/1/10(火) 01:12:23 ID:tCjBGwNmgs

陸「2人とも、早くこっちへ!」サッ

皇・恋「…?」フラッ

蓮花『…』ポウッ


パアアァ…


皇「…これは…!」フオオ

恋「怪我が、治っていく…!

でも…どうして助けてくれるの?坊や。アタシ達は…」

陸「言ったでしょ?友達になってあげる、ってさ。
だから…助けるのに、理由なんていらないよ」ニコッ

恋「!…ぁ…」

皇「…かたじけない。
なんと、礼を…言えば良いか…っ…」ズルッ…ドサッ

恋「!…皇帝!?」

陸「…大丈夫。安心して、気が抜けただけみたい。

ありがとう、『れんげ』さん」スッ


蓮花『…///』ポンッ…カサッ

450: ◆AhbsYJYbSg:2012/1/12(木) 16:48:18 ID:2c0xmgTsyY

陸「2人とも、下がってて。あの人は僕が…」

碌「…『影鎖』!」ギュンッ

陸「止める」タッ


ヒュオオ…ッ!


恋(!すごい…あんな速度の攻撃を、いとも簡単にかわすなんて…)

碌「…その身のこなし…お前、誰かに鍛えられたな?」ギュンッ

陸「うん!疾風兄ちゃんに」ヒョイッ

碌「ほう…あの日本妖怪にか。
いいのか陸?こんな所で油を売っていて。お前を家族として受け入れてくれた妖怪達が、今まさに危機に陥っているかもしれんというのに」

陸「…」

451: ◆AhbsYJYbSg:2012/1/12(木) 17:30:26 ID:Le4E195ks2

碌「特にあの、千代とかいう座敷わらしの相手…あの女はまさに悪魔だぞ。
あいつとは長い付き合いだがな…頭には、人間に対する『憎悪』のみが渦巻いている。
今頃お前の愛しい座敷わらしは、無惨にも殺されているかもな…?」ククッ

陸「…そうかな?」フッ

碌「ほう…ずいぶん信頼してるじゃないか。どこにその根拠がある?」

陸「…『必ず勝つ』って、約束してくれたから」

碌「…?…それだけ?」キョトン

陸「それだけ。
約束ってね、すごい力があるんだよ。指切りをするだけで、その人の為に全力で頑張ろうって思える。心が暖かくなって、力が湧いてくるんだ」ギュッ

碌「…
…それで、お前はあの座敷わらしに…何を約束したんだ?」

陸「…『これが終わったら、みんなで晩ごはんを食べよう』って」ニコッ

碌「そうか。それは…負けられないな。

ならば、倒してみるがいい…この俺を!!」ダダッ


ギュオンッ!
452: ◆AhbsYJYbSg:2012/1/12(木) 18:36:25 ID:bUag6GOqLU
――


「あるところに、仲の良い夫婦がおったそうな。
2人は『陰陽道』という、奇異な力の持ち主じゃった。彼らはその力で、人間なら一度は求める禁断の薬を作ろうとした…『不老不死』の薬を。
儀式の研究は進み、薬を精製するには齢十の女子が材料として必要だと分かった。2人は沢山の子供を集め、殺していった」

「実験は進み、666人目の儀式の時…それは起こった。黒い翼と角を持つ異形が姿を現し、一瞬で消え失せたのだ。夫婦は研究が着実に身を結んでいることを喜んだ。
しかし、召喚された異形は、実はまだ消えてはいなかった」

姉「その異形…西洋でいう『悪魔』に、儀式の材料とされ霊となった子供は願った。汚い人間どもを滅ぼす力が欲しい、と。悪魔は了承し、対価としてその子供と身体を融合させた。半端な儀式の影響で、悪魔の存在自体も危うかったのだ。

こうして、わしは産まれた…人間でも妖怪でも無く、悪魔ですら無い。半端な怪物…『疫病神』がな」

千代「…くっ…」バッ…

姉「何度やっても同じじゃ…わしに攻撃は効かぬよ、千代。
わしが司るのは『不幸』…お主の『幸運』では、万に一つも勝ち目など無い」クックッ

453: 名無しさん@読者の声:2012/1/20(金) 09:42:59 ID:4c6./S/36M
マダー?
454: 名無しさん@読者の声:2012/1/22(日) 21:48:02 ID:apl6Sgg8wc
まだかな−(・ω・`)

455: ◆AhbsYJYbSg:2012/1/23(月) 13:22:05 ID:Ma2nBUKySI
あぁあお待たせして申し訳ありません!!(*_*)

また投下していきます…よろしくお願いします。
456: 名無しさん@読者の声:2012/1/23(月) 18:55:02 ID:Pw/lscaFwo
ワーイ!(´ワ`)
457: ◆AhbsYJYbSg:2012/1/23(月) 19:32:58 ID:v0sJxCq82Y

千「なぜ…っ…何故ですか姉様!
あれほど美しく優しかった貴女が、なぜ…」ギュッ

姉「…なぜ?

『人間が憎い』…それ以外に理由なぞ無いさ。
…じゃが、わしはな千代…お主が一番憎い」

千「!?」

姉「あの人間…陸とかいう子供と、随分楽しく暮らしておったではないか…わしは、こんなに…こんなにも苦しんでおるというに…」フルフル


ギュウンッ


姉「じゃから千代…お主も苦しめ。
どうじゃ?この姿…懐かしいじゃろう。
お主が救えなかった男…『弥一』じゃ。この顔で、お主を殺してやる」クックッ

千「…

もう、止めませぬか姉様…こんな無意味な事は」

458: ◆AhbsYJYbSg:2012/1/23(月) 19:50:55 ID:h/oj4U2FzY

姉「…なんじゃと?」ピクッ

千「千代は知っています…貴女は、本当に素晴らしい人じゃった。屋敷に集められた女子たちを励まし、支えていたのは姉様じゃった。わらしは…貴女のお陰で、あの辛い日々を耐えられた」

姉「…」

千「だからこそ、貴女がここまで歪んでしもうた事が…わらしは哀しくて、哀しくて…っ」ポロッ

姉「…わしの為に泣いてくれるのか…千代。
涙…か。久しぶりに見たのう。お主は泣いてばかりの子供じゃったな…。
その度に、わしと弥一が2人で慰めたものじゃった」フッ

千「!…姉様…」

姉「まぁ、その弥一を殺したのは…わしなんじゃがな?」クックッ

千「…っ!」

459: ◆AhbsYJYbSg:2012/1/23(月) 20:21:03 ID:v0sJxCq82Y

姉「低能な陰陽師どもを唆し、その心臓を供物に妖怪を産み出したのもわし。
そ奴らをけしかけ、弥一…『晴明』を殺そうとしたのもわしじゃ。まぁ、それは失敗してしもうたがな…。じゃが、あの雨の日…ついにあの男は、わしの力に屈したんじゃ」クックッ

千「…」

姉「…じゃが、奴もしぶとかった…。弥一が死に際に放った術のせいで、それから長い年月、わしは封印されておったのだから」

姉「…しかし、今から十年前…わしは封印から解放された。弥一と同じ家系の血筋を先祖に持つ、あの男…碌の手によって」

千「…そして、『人間を滅ぼす』という共通の目標をかがげ…今まで暗躍していた、というのですか…っ」ギュッ

姉「そうじゃ。

そして、計画はもうすぐ完成する…西洋妖怪を暗躍させたのも、五大妖怪を復活させようとしたのも計画の一部。
全ては、太古からこの地に眠る伝説の妖怪を目覚めさせる下準備でしか無い…」

千「…伝説の、妖怪…?」
460: ◆AhbsYJYbSg:2012/1/24(火) 20:56:34 ID:2c0xmgTsyY

姉「そうじゃ。
強大な霊力を有する、最強最古の妖怪…その名は、

…『九尾の狐』」ニヤリ



――



碌「…『黒死矢』!」ギュンッ


ドドドドドドッ!


陸「…『紙飛行機』!」スッ

ポンッ


飛行機「…ゥェイウェイウェーイ!!オレのエンジンが火を吹くぜィエアァア!!!
サァ乗んな、ぼうず!」キラーン

ドドドドドッ…!

陸「…っ!」ヒョイッ


ヒュオンッ






猫「…しゅ、しゅごい戦いだにゃ…」アングリ

母(確かに、陸はすごい才能の持ち主だわ…これほど短期間でここまで陰陽道を扱えるなんて、ほとんど奇跡に近い…。
…だけど…)

猫「行け陸!そのままボスを倒すのにゃ!」ウヒョーイ

母「…ダメだ…このままじゃ、あの子は勝てない」ギリッ

猫「ふぇっ!?
にゃ…にゃぜですかっ?陸は、あんにゃに折り紙を使いこなしてるじゃ…」

母「…雨、あの子の顔色…みてごらん」
461: ◆AhbsYJYbSg:2012/1/24(火) 21:25:16 ID:TvUmzdgtiI

猫「?」ジッ



陸「…っ」ハアハア



猫「!…顔色が…みゃっ青だにゃ…」ゴクッ

母「このままじゃいずれ、意識が混濁して力が暴走を始めてしまう…せめて、近くで力の使い方を教えてあげられたら…っ!

あぁ、りく…!」ガシャンッ

猫「…お師匠、しゃま…」
猫(…雨にも、お師匠様の悔しさがひしひしと伝わって来ます…。

覚えていますか?猫又の癖に自由に化ける事も出来ず、仲間の元を追い出された私に…貴女は優しくしてくれた。
ずっと独りぼっちだった私を拾って…一緒に、いてくれた。
百年千年感謝しても、まだ足りないほどのご恩がございます。
だから、雨は…)」

猫「…お師匠しゃま。
ごめんにゃしゃい…雨の爪では、この檻は壊せにゃいみたいです」スッ

母「…?…雨?」

猫「だけど安心してくだしゃい、お師匠しゃま。
必ず、助け出しますから」ニコッ

462: ◆AhbsYJYbSg:2012/1/24(火) 21:39:58 ID:TvUmzdgtiI
母「…!…あなた、まさか…」ハッ

猫「こんにゃ出来損ないのにゃーでも…最期に、貴女を助け出すカギになれるなら…こんにゃに幸せな事はにゃい」グッ

母「…だめだよ雨っ!
貴女の霊力は、生まれつきとても少ないの!
もし何かに変化(へんげ)したとしても、それは一回限りで…もう元には戻れないんだよ!?」ガシャンッ

猫「今まで、こんにゃおバカにゃ雨と一緒にいてくれて…ありがとう、ございました!」ペコッ

母「お願い止めてうるる!!
あたしは、あなたを犠牲になんて…っ!!」ガシャンッ

猫「…さようなら、お師匠しゃま」ニコッ




ポンッ!


…チャリン

463: ◆AhbsYJYbSg:2012/1/25(水) 20:16:23 ID:v0sJxCq82Y

母「…


……っ…」ギュッ


…ポタッ…


――




母『…じゃあさ!あたしと来ない?
まぁ、そんなに楽はさせてあげられないと思うけれど…』

猫『…!?…っ…』フルフル

母『あら…ごめん、嫌だったかな?』

猫『…っ…め゛っ…めい、わくに…にゃ、にゃる…から…』シュン

母『まぁ…そんなこと気にしてるの?
迷惑なんてとんでもない…あたしとあなた、2人共独りぼっちでいるくらいなら、2人ぼっちになった方が何倍もいいじゃないか。
大丈夫だよ、一緒においで!』ニコッ

猫『…!…

…ぅ…っ…』コクンッ

母『それでよし。
そうだ…貴女の名前、まだ訊いてなかったよね?』

猫『…?…にゃ、にゃまぇ…?』グスン


464: ◆AhbsYJYbSg:2012/1/25(水) 20:46:31 ID:Ma2nBUKySI

母『?…そっか…あなた、名前が無いんだね?』

猫『…ぅっ…』グスッ

母『あ〜ほらもう泣かない!
本当によく泣く子だなぁ…まるで雨(あめ)みたい…。
…!そうだ!』ポンッ

猫『…!?』ビクッ

母『じゃあ、あたしが名前をつけてもいい?
…雨(うるる)、ってどうかな?
漢字はねぇ、こう書くんだよ…』ガリガリ

猫『…ぅ…る、る…?』グスッ

母『そう。

あたしの、一番好きな天気』ニコッ


―――


母「…どうして…うるる…っ」ポタポタッ

恋人「…」スッ


ガチャッ…キイィ…


恋「…このオリは、ボスが貴女の霊力をおさえるために造った特別なモノ…。
このネコちゃんはそれをわかっていて、貴女を助けられる一番確実な方法を選んだのね…」ソッ

母「…だからって…こんなの、おかしいよ…っ」グスッ

恋「…それは、この娘だって痛いほど分かってたはずよ。
…さぁ、立ちなさい。
猫ちゃんの『愛』を、無駄にしてはダメ」スッ

母「…

…あんたに言われなくたって…無駄になんてしないよ、絶対に」ゴシゴシッ



ギュッ…スクッ
465: ◆AhbsYJYbSg:2012/1/28(土) 17:50:33 ID:N/WUOWexy.




飛行機『ヒャッハァ!もう何者もオレのスピードを止める事は出来ないゼェ!?

坊主、手ェ離すなよオオオッ!!』ギュンッ

陸「ちょ…っ…は、速…」ガタガタ




碌「…ふん、ちょこまかとウザったい奴らだ…。

…『黒焔』」ポッ


…ボオオオッ!


陸「!」

碌「そのおしゃべり飛行機も、元は折り紙…さぞ良く燃える事だろうな」フッ

陸「っ…飛行機くん、よけて!」

飛行機『アイヨお!急旋回に注意しな!!』ギュンッ


…ボオオオッ!


飛行機『!?…なんだコイツ…オレのスピードに着いてくるだとォ…!?』ヒュオンッ

碌「その黒焔は追尾機能つき…振り切ることは不可能だ」ニヤッ

飛行機『チィ…ヤッコさんもなかなかヤるじゃねぇか!
坊主、霊力一気に投入してくれ、そうすりゃ振り切れる!!』

陸「分かった!今…

…っ…!?」クラッ

466: ◆AhbsYJYbSg:2012/2/1(水) 22:54:46 ID:aFLpXIlUeE

陸「…っぁ…」グラリ

飛行機『な…お、オイ坊主イケネェ!!今気ィ失ったらスピードが落ちて、火が…』フラフラ…


ゴオオオッ!


飛行機『…くっ…

っオラアアァアッ!!』ギュンッ


…チッ


ドサッ!


飛行機『…

…ふう…なんとか火ィ避けれたぜ!!ヘーキか?坊主!』ニイッ

陸「ぅ…うん、だいじょ…!

…ごめん飛行機くん、僕の…せいで…」ギュッ


パチパチッ


飛行機『あぁ…気にすんなって!
オレはオメェの式神…主を護れたなら、本望だぜぃ!』カッカッカ


ボオッ!


陸「…ありがとう、飛行機くん…」グスッ

飛行機『…勝てよ坊主!オレとの…約束、だぜぇ…?』ニカッ



ボオッ…カサッ


467: ◆AhbsYJYbSg:2012/2/1(水) 23:11:38 ID:AZN8vEPq8w

碌「…『影』」スッ


ギャルンッ!


陸「!」ギシッ

碌「全く手こずらせてくれる…。
だが、これでもう身動きは取れまい」フゥ

陸「…離してよ」

碌「ダメだ。お前には、伝説の妖怪復活に協力してもらう。
出来れば、自ら進んで力を貸してくれると嬉しいんだが…?」

陸「…

ぜーーーー……………


……ったいに、イヤだ!!」イーッ

碌「ふ…ちゃんと、自分の気持ちを言えるようになったんだな…偉いぞ陸。


…さてそれじゃあ、もう一度記憶を操作することにしよう」ニヤッ


スタスタ


陸「…約束したんだ…もう一度、みんなに…。千代ちゃんに、会うって!
妖怪復活なんて、そんなこと…絶対にさせるもんかっ!!」ググッ





―…キイィン…
468: ◆AhbsYJYbSg:2012/2/1(水) 23:52:35 ID:1Z/UsIW8Is

陸「!(あれ、この感じ…人の心が流れ込んで来るときの…。
でも…誰にも触れてないのに、なんで…)」









母(…陸?聞こえる?)

陸(!…お母さん!?ぇ…どうして…?)

母(あたしの『覚(さとり)』の力を、恋人の『夢』の力であなたに繋げてるの。
そのままで聞いてちょうだい…このままじゃ、あなたは碌に負ける。あいつは間違いなく、歴代で一・二を争う陰陽師だ…それは分かってるね?)

陸(…うん…)

母(だけど、陸にも手が無い訳じゃない。
あたしたち『覚』には、『読心』の他にもう一つだけ、ある力が有るの…それは――)


469: ◆AhbsYJYbSg:2012/2/1(水) 23:55:26 ID:FM94wc4.O6




陸「…」

碌「さて…じゃあな陸。今度こそは、従順に生まれ変われよ?」スッ

陸「…知ってる?父さん」

碌「…?」

陸「…僕いま、反抗期なんだよね」ニヤリ


…フオンッ!





―――



母(…もう一つの力…その名は『心解(しんかい)』。
相手の心に入り、直接その人の魂と対話する力…それを使えば、あるいはまだ碌を説得できるかもしれない。
あたしの力では碌に弾かれてしまうけれど、より純粋な陸ならあるいは…。
ただね…自分の心を強く持たないと、こちらに戻って来られない事もある…危険な技なの…)

陸(…分かった、やってみるよ。
たとえ危険でも、頑張る…見てて、お母さん!)

母(…うん。

…必ず戻るって信じてるよ…陸…)


――
470: 名無しさん@読者の声:2012/2/2(木) 00:46:07 ID:t7E5lq3912
最上級の支援
471: ◆AhbsYJYbSg:2012/2/7(火) 11:12:45 ID:1Z/UsIW8Is






姉「…今頃、あの小僧も洗脳し直されておるじゃろう…九尾復活の為にな。
さぁ…そろそろ戯れは終いじゃ、千代。
まぁ、既に動く事すら出来ぬだろうが…」クックッ

千「…ぅ…っ!(一体…なんなんじゃこの力は!まるで…)」ハア…ハア

姉「どうじゃ、千代。『三日山で遭難』した気分は」ニヤリ

千「!…っ姉様…まさか、陸の父上を襲ったのは…」ググッ

姉「ふん、今ごろそれに気づくとはな…。
そう、あの男を衰弱させたのも、わしの力…『因果流転(いんがるてん)』によるものじゃ。

…ところで千代…その『右手の火傷』は、一体いつ出来たんじゃ?」ニヤッ

千「火傷…?

…!!」ボオッ


ジュウッ!
472: ◆AhbsYJYbSg:2012/2/11(土) 15:59:01 ID:aFLpXIlUeE

千「―っぁああっ!!」ジュウッ

姉「どうじゃ…赤く熱した鉄を、無理矢理押し付けられたかのようじゃろう?
あらゆる『不幸』を現実とする…それがわしの能力じゃ。
そう、例えば…」スッ

千「…ぐ…。

…っ!?」バッ


…ガシャンッ!


姉「『天井から割れたガラスが大量降ってくる』…とかのう…」ニヤッ

千「…っ…!!」ザクザクッ

姉「…もう諦めろ、千代…お主では、わしには勝てぬ…」

千「…わらしはっ…負ける、わけには…」ハアハア

姉「何を必死になっておるのじゃ…っ。なぜお主は、腐り果てた人間共をかばう!?
忘れた訳ではあるまい?わしや千代を下らぬ願望の為に犠牲にしたのは、他ならぬ人間ではないか!!奴らを救う価値など、一片たりとも無いわ!!」

473: ◆AhbsYJYbSg:2012/2/11(土) 16:11:39 ID:EKSJzxcqmM

千「…そう、かも…しれませぬ。
確かに世界には、腐った人間たちが…山のようにおります…」ググッ

姉「…やっと理解したか千代。そうじゃ、だからこそ奴らを駆逐…」

千「だからこそ!
そのどうしようもない人間達のせいで、苦しんでおる人々も山のようにいるはずじゃ!!
戦争や虐待…みんな、腐った人間が生み出す『負』の連鎖じゃ。断ち切る事は難しい…。
じゃが、これだけは言える…難しいからといって、全てを無に帰すのは間違っておる!!一方的に奪われる命など、決してあってはならないんじゃ!!」ハア…ハア

姉「…意志は岩よりも硬い、か…。ふん、つまらん奴よ。
あの馬鹿…弥一は、簡単にわしの口車に乗ったというのに…」ボソッ

千「…?
姉様…口車、とは…?」


474: ◆AhbsYJYbSg:2012/2/14(火) 21:36:29 ID:FM94wc4.O6

姉「ふ…大した事ではないよ。
わしの復讐の為に、あ奴を操り利用しただけじゃ…あの頃は、わし独りでは『奴ら』を殺せなかったから、な…」

千「…?…復讐…?
『奴ら』とは、一体誰の…」

姉「鈍いやつじゃな…。

弥一の両親…あの腐った陰陽師夫婦を殺したのは、このわしだと言うとるんじゃ。
千代を喪い、悲しみにくれる弥一の心に取りついてのう…」クックッ

千「…」

姉「全く、あの時は傑作じゃったよ!想像できるか?自らの両親を手にかけたあ奴は、次の瞬間ぶるぶると震えだし泣き出したんじゃ!!あの時の絶望の顔、今でも思い出しただけで笑いが…―」






475: ◆AhbsYJYbSg:2012/2/16(木) 15:23:07 ID:1Z/UsIW8Is




―…もう二度と、独りで泣くのは止めろ。泣くならわしのとなりで泣け。…胸くらいは、貸してやるー


―わしは、その血に染まった「つう」と一緒じゃ…汚らわしい人間の一人…。
大好きな友達の一人も守れなかった、ただの屑じゃ…―


―千代…お主は勘違いをしとる。命はお主が思うほど美しくはないし、尊くもない。
人を殺して平然としとるような奴など…死んだほうがましなんじゃ―



―…千代…だからこそ、お主は生きろ。そして…不幸な子供たちを、救ってやってくれ…。
わしのように…道を…踏み外す、前…に…―





『…千代。

…あ、り…が…』



―ありがとう…―







千(あぁ、そうか…)


姉「―…の後、わしはあの夫婦の魂を喰らい、強大な力を身につけたという訳じゃ。…分かったか千代。お主はどう足掻いてもわしには、…?……聞いとるのか千代?」


…ォオオ…


千「…やっと分かったよ…弥一。
本当の『屑』は…このわらしだったんじゃな…」フオオ…

姉「…?…」

476: ◆AhbsYJYbSg:2012/2/19(日) 07:52:45 ID:cSpAHp.McE

姉「ふん…よう解らぬが…まぁいい。
そろそろお主も、永い時をたゆたう不毛な人生から解放されたいじゃろう?
わしが冥土へ送ってやる。安心して死ぬるがいい」クックッ

千(そう…かもしれぬ。
姉様を救えず、弥一を疑ったわらしなど…このまま現世に留まった所で、醜態をさらすだけ…)フオオ…

姉「…さあ、楽になるがいい!『お主は元から、存在しなかった』んじゃ!!」ギュンッ


ブワッ!


千(…あぁ、それでも…)



―…また必ず会おう、千代ちゃん…


千「…わらしの頭にこだまする優しい声が、まだそれを許してはくれないんじゃ!!」ザリッ


ザンッ!!

…バチッ!


姉「!?
お主、一体何を…!」
477: ◆AhbsYJYbSg:2012/2/19(日) 08:11:34 ID:.F.3lH/78g

フオオ…


千「…座敷童となった時…わらしは弥一と、不幸な子供達を出来るだけ多く救う、という約束をした…じゃがその為には、誰よりも永い時を生きる必要があった」フオオ…

姉(こ奴…先刻わしが落とした硝子で、自らの黒髪を…切り落としおった…!)

千「じゃからわらしは…余った霊力を『髪』に封じ、なるだけ使わないようにしてきたんじゃ。未練たらしく『寿命』を延ばす為にな」フオオ…

姉「…ほ、ほう…今のお主は、これ迄とは違うようじゃな…だが、それも無駄な事!」バッ


…ガサガサッ


姉「見るがいい!わしの身体は、闇色の折鶴…霊力の宝庫、式神で出来ておるんじゃ!!
それにどうせ、おぬしの幸運ではわしの不幸には叶わ…」


…フオンッ


姉「無い……っ!?」ガクッ
478: ◆AhbsYJYbSg:2012/2/19(日) 08:39:22 ID:1Z/UsIW8Is

姉(…馬鹿な…!)ググッ

千「…言い忘れておりましたが…わらしは千年、この髪に力を溜め込んできました。
姉様の式神と、どちらが強いでしょうな…?」フオオ

姉「…っふざけるでない!!このような事が…あってたまるか!!
わしがどれだけ独りぼっちで苦しんで来たと思っておる!?お主や女児を、いくら自分が辛くとも励まし、自分の分の食事も分け与え…そのあげく、一番最初に殺されて…っ!
それに引き替え、お主の周りには常に誰かがおる…っ!…んで…なんで、いつもお主ばかりが…!!」ワナワナ

千「…姉様、貴女は…。

ずっと、寂しかったのですね…」ツウッ

姉「っ泣くな!…お主に…何が分かるというのじゃ!何が…」

千「…解ります。

…姉様は、弥一の事が…」

姉「っ……。

…っだまれぇええええ!!!!」ブワッ!!

千(…それくらい分かる。だってわらしは、

2人とも、大好きだったから…)ポロッ


スッ


…フオオンッ!!


――
479: ◆AhbsYJYbSg:2012/2/19(日) 08:57:14 ID:g/4JcTXXFc




?「おい」

陸(…)

?「おいコラ糞餓鬼」ケリッ

陸「痛っ!…あれ?ここは…?」パチッ

?「テメ、誰に許可もらって俺んちに入ってんだコラ。ぶっとばすぞ!」シュッシュッ

陸「…(僕がいる)」パチクリ

ペタペタ


?「なっ…気安くさわんなチビ!」ケリッ

陸「ふぐっ!

……あ…違った。僕こんなに髪クルクルじゃないし」ポンポン

?「なっ…!
て、天然パーマはオレのコン…チャームポイントだぞ!!」

陸「コンプレックス?」

?「チャームポイントだっ!」

陸「コンプレックス?」

?「ふぅっ…ちゃ、チャーム…ポイントぉ…っ…うぅ」ポロポロ

480: ◆AhbsYJYbSg:2012/2/19(日) 09:07:04 ID:XUvetU6So.

陸「えっと…とりあえず、君は誰?」

?「テメ、人に名を聞きたきゃまずは自分から名乗るのが筋ってもんだろ!」グイッ

陸「チャームポイント?」

?「ふぅっ…ろ、ろく…六ですっ…!」グスッエグッ

陸(ろく…じゃあこの子は、父さんの分身なんだ…)グッ

陸「ねぇ六くん…君はどうして、人間が嫌いになったの?」

六「…」

481: ◆AhbsYJYbSg:2012/2/19(日) 09:15:57 ID:FM94wc4.O6

六「だって…虐めんだもん」シュン

陸「六くんを?…確かにいじめは辛いよね…でもだからって、みんなを滅ぼすなんて…」

六「ちげぇ!そんな単純な問題じゃねんだ。
これ、見てみろ」ポンッ

陸「!これは…地球儀?」

六「そだ。オレの宝物の一つ。あと2つあってな、それは」

陸「で、これがどうかしたの?」シレッ

六「えぐぅっ!…こ、これを見てみろ…ふぅっ…」スッ


ギュウンッ
482: ◆AhbsYJYbSg:2012/2/19(日) 09:37:16 ID:cSpAHp.McE


―ギャオオオ…!!


陸「!これは…」

六「すげぇだろ?これはどんな時代の、どんな場所でも体験出来んだ。
ここは6700万年前の北アメリカ…ちょうどティラノサウルスが狩りの真っ最中だ」ニヤリ

陸「…この時代に、君が人間を嫌う原因が…?」キョロキョロ

六「ちゃう。ただ観たかっただけ〜」キラキラ

陸「…」イラッ

六「う…ま、まぁそう焦んなって。今度こそ、目的の時間だからさ…」スッ


ギュウンッ!


483: ◆AhbsYJYbSg:2012/2/19(日) 14:39:22 ID:g/4JcTXXFc

かなーり遅れてしまいましたが、>>470さん支援ありがとうございます!
つ冬のくちどけ

保守してくださった方々も、ありがとうございました!
484: ◆AhbsYJYbSg:2012/2/19(日) 14:53:25 ID:SFi0c66N7.


碌『…結婚してくれ。きっと幸せにする』スッ

母『!…でも、あたしには…』

碌『妖怪の血が流れてる?それなら、俺だって普通の人間とは違う。
…ずっと一緒にいて欲しいんだ、理恵…いいだろ?』

母『…はい…//』ポッ







陸「」

六「これが12年前、お前の両親が夫婦になった瞬間だ。さすがオレだな、男らし〜い!」エッヘン

陸「…なっ…なっ…」フルフル

碌「んあ?」

485: ◆AhbsYJYbSg:2012/2/19(日) 15:09:17 ID:g/4JcTXXFc

陸「なん…//なんでこんなもの見せっ!」カアッ

六「こんなんで照れるなんて、まだまだ甘いぜ。こっからさらにキ」

陸「っ早送りっ!!」ギュウンッ

六「あっ…チェ、いいとこだったのに…」ブツブツ

陸「ていうか、六くんは恥ずかしくないの…?」ゼエゼエ

六「なんで?だって恥ずかしいのは大人の碌で、オレじゃないじゃん」サラリ

陸(…同情するよ父さん…)

六「そろそろだな…こっからが肝心だ。目ぇかっぽじってよっく見とけよ!」スッ

陸(んな事したら死んじゃうけどね…)


ギュウンッ

486: ◆AhbsYJYbSg:2012/2/20(月) 17:34:33 ID:aFLpXIlUeE


母『―てよ…どうして…っ!』ドンッ

碌『…』



六「あちゃ、ちと行きすぎちまったな…」ポリポリ

陸「…ぇ…(父さんの服に、黒い染みがついてる……まさか…!)」



ポタッ…

母『もう、あの力は遣わないっていったじゃない!!なんでよ…なんで…っ』ギュッ

碌『…奴らは、お前と陸を…殺そうとした。
理由なら、それで充分だ…』ポタッ


487: ◆AhbsYJYbSg:2012/2/20(月) 17:37:13 ID:XUvetU6So.


六「ま、いっか…。
これはな、お前が産まれてしばらく後の事件。
妖怪の血を引くお前を守るため、夫婦はある小さな村で暮らすようになったんだ…。だけど、幸せな日々は長くは続かなかった」

陸「…」

六「バレちったんだな〜…これが。『妖怪』が村にいる、ってさ。当然、ブルった村人たちは武器を持って押し寄せた…」

陸「だから…父さんが怒った」ギュッ

六「そゆこと。まぁ碌にかかりゃ、村人の30や50屁のかっぱだしな。さすがはオレ、これが強いのなんのって…」

陸「…どう…して…?」

六「…ん?」

陸「どうして…こんなことに…」

六「…それはなー…、


『お前』が原因なんだぜ?陸」

488: ◆AhbsYJYbSg:2012/2/20(月) 17:52:48 ID:AZN8vEPq8w

陸「!」

六「お前の力は、産まれた時から『覚』の域を越えてた。村人が近づいただけで、手当たり次第そいつの心を乗っ取り…意識を奪うほどだ。
たぶん、妖怪と陰陽師の血がうまい具合に作用しちまったんだろうな…そりゃま、バレないほうがオカシイ…」

陸「…の、せい…」カタカタ

六「…へ?」

陸「僕のせいだ…お母さんが寂しい思いをしたのも、碌父さんが人を殺したのも…全部」ガタガタ

六「お…おいちょい待ち、まだ続きが…」

陸「やっぱり…僕は、産まれなかった方がよかっ」



ズドンッ!
489: ◆AhbsYJYbSg:2012/2/20(月) 21:18:17 ID:aFLpXIlUeE

陸「…っっっ………



…ったああああっ!!」ガバッ

六「うるせぇこの石頭!殴る方だって痛いんだぞぉっ!」グスッ

陸「なっ…なんでいきなり…っ!」ジンジン

六「お前が最後まで話し聞かねっからだろが!
いーか!まず第一に、村人は1人も死んじゃいねぇ!」ビシッ

陸「…ふぇ?」キョトン

六「たしかに碌は、式神で奴らを倒した。だけんど、そりゃただ単に気を失わせただけ。服についた血は、奴自身のもんだ」

陸「…そっ…か」ホッ

六「第二にぃ!!」ビシッ

陸「!」ビクッ
490: ◆AhbsYJYbSg:2012/2/20(月) 21:36:47 ID:EKSJzxcqmM


六「……産まれてこなきゃ良かったなんて、言うなよ」

陸「…」

六「確かに、村を追われた原因はお前だ。でもそりゃ、きちんと対策を講じなかった碌(オレ)が悪ぃ。
どんな力を持って産まれようが、『産まれない方がいい人間』なんていねんだよ」

陸「…ん…」

六「殺人鬼だろうが大泥棒だろうが、親の育てかた次第じゃ総理大臣にだってなれたかもしんね〜。だから、全部を自分一人で背負おうとすんな。どうせ背負えるわけないんだから」

陸「…」

六「何のために、家族〜だの友達〜だの、やたらとこっ恥ずかしいモンがいると思ってんだよ。ありゃ着せ替え人形か?ちげーだろ。

お前に足りないのはなぁ、『人に頼る勇気』だよ、陸」
491: ◆AhbsYJYbSg:2012/2/21(火) 11:27:25 ID:vs1J6Bpbok

陸「…君(父さん)に、そんな事言われるなんて…思わなかった」

六「へ…お前(碌)が言うな、ってか?
そーだな…誰よりも人を頼ろうとしてないのは、他でもないオレ自身だ。だから、お前はそーなるんじゃね〜ぞ?
独りで背負うのは楽だけんど、時々死にたくなるからさ」

陸「…ん…」

六「ん。

さて…この事件をきっかけに、碌はある考えにたどり着いた。
つまり、妖怪の血を引く理恵と陸を守るには…」

陸「…守るには?」

六「『妖怪しかいない世界』を創りゃいい。要するに、全人類の抹殺だ」

陸「!じゃあ、碌父さんは…」

六「そ。奴は『家族』の為に計画を進めてんだ。
だから…強ぇ」ニヤッ
492: ◆AhbsYJYbSg:2012/2/21(火) 12:22:47 ID:Ams6nMNmjg

陸「そんな…!じゃあ、一体どうしたら…」ギュッ

六「どーしよーもねんじゃね?あいつは、それが家族の為になるって信じ込んでっからな〜。
あーなったら、もうただの頑固オヤジだ」ケラケラ

陸「そんな…!」


…ポオオ…


陸「…!ぼ、僕の体が光って…これは…?」ポオオ

六「…時間切れ、だな。もうすぐ、お前はこの世界から出て行かなくちゃなんね。
楽しかった。ありがとな、陸」ニコッ

493: ◆AhbsYJYbSg:2012/2/21(火) 12:26:08 ID:SFi0c66N7.

陸「ちょっと待って!僕はまだ、あきらめる訳にいかないんだ!
本当に、本当に考えを変える方法は無いの!?このままじゃ、僕は…」ポオオ

六「実は…ひとつだけある」キッパリ

陸「!」

六「…かもしれない」

陸「…っ」ズルッ

六「しゃーねぇ、ヒントやるよ。『お前と碌の関係』は、なんだ?」

陸「え…」

六「そこを突け。それが、奴(オレ)の弱点だ」ニヤリ

494: ◆AhbsYJYbSg:2012/2/24(金) 16:17:12 ID:vs1J6Bpbok

陸(僕と父さんの、関係…)

六「大サービスで、も一つヒントだ。
『奴(オレ)は、意外と精神攻撃に弱い』
…ここまで言や、もー分かるよな?」

陸「…!」ハッ

六「ぶちかましてやれ、陸!応援してっから」ニカッ

陸「うん!

六くん、ありが―」カッ


シュンッ!




六「…
オレさ…もう疲れちった、陸。

きっと碌(オレ)を、止めてくれな…」ポロッ


――



陸「…っ」ハッ

495: ◆AhbsYJYbSg:2012/2/24(金) 21:02:54 ID:EKSJzxcqmM

碌「ぐ…(なんだったんだ、一瞬気が遠くなったが…)」フラッ

陸(…天井から差し込む夕陽の色が変わらない。
そっか…心に入ってた時間は、こっちじゃ一瞬だったのか…)

碌「ふん、何をしたかは知らんが…全て無駄だ」スッ

陸「…っ」キュッ

母「陸っ…!(…『心解』は、相手の心に訴える技…心を殺してる今の碌には、通じなかったか…)」ギリッ

恋「坊や…っ」ハラハラ

碌「さあ…終わりだ、陸。
変えてやろう…『父親』の言うことには絶対に反抗しない、良い子に…」ギュウンッ

母「…っやめてぇ…っ!!」バッ…







陸「…あのー…まさかとは思うけれど…」

碌「?」

陸「父親ってさー…自分の事言ってるわけ?」ニッコリ


496: ◆AhbsYJYbSg:2012/2/24(金) 21:23:26 ID:vs1J6Bpbok

碌「…」

陸「何年も放っておいたくせに、今さら父親面…?

ずいぶん都合がいいよね」ニコニコ

母(陸…?一体、何を言ってるの…?)キョトン

陸「僕が産まれてから、何回抱っこしてくれた?何年一緒にいてくれた?
毎日御飯作ってくれたのは?一緒に遊んでくれたのは?
…貴方じゃないよね。だって父さんは、さっさと僕を捨てたんだもん」ニコニコ

碌「…」

陸「『家族』の為に人間を滅亡させるって…それさ、本気で僕とお母さんが望んでるとでも思ってるの?
…だとしたら、相当頭おかしいと思う」ニコニコ

恋(坊やの黒い笑顔…恐ろしい…)ガタガタ

母(!…そうか、精神攻撃…。
…でも、今の碌に効くかどうか…)チラッ

碌「」ガーン

母(あ…滅茶苦茶効いてる)ゴクッ
497: ◆AhbsYJYbSg:2012/2/24(金) 21:49:29 ID:AZN8vEPq8w

陸「独りで悩んで、独りで全部背負うのがカッコイイとでも?
色んな人に迷惑かけて心配かけてるくせに、結局自分の頭には『計画』の二文字だけ…。
だだの自己中じゃん。すごーくカッコ悪いよ」ニッコリ

碌「ぐ…っ違う!俺は…」

陸「何が違うの?
僕を洗脳したのも、お母さんを監禁したのも…自分の邪魔されたくなかったからだよね?
死ぬほど自分勝手じゃん」サラリ

碌「…っ」グサグサッ


母「…(実は碌、昔から精神的に打たれ弱いんだよね…。それに陸が産まれた時、あの人デレデレだったからなぁ…これはキツいわ。
…あたしも、ずっと陸の側にいられた訳じゃなし…ある意味同罪ね。

ま、自業自得か…甘んじて受けな、碌)」フウ…

陸「…何か反論は?」ジロリ

碌「…く…」フラリ

陸「…それから、最後に一つだけ。



…『そばにいてあげられなくって、ごめんね』」

498: 名無しさん@読者の声:2012/2/26(日) 09:34:11 ID:XrXt4U/td.
CCCCC
499: ◆AhbsYJYbSg:2012/2/26(日) 18:31:07 ID:EKSJzxcqmM
>>498
Cがいっぱい…感謝です!
つうまい棒(コンポタ)
500: ◆AhbsYJYbSg:2012/2/26(日) 18:38:49 ID:Ams6nMNmjg

碌「!」

陸「独りぼっちは、寂しいもんね。…ずっと辛かったよね。
止めてあげられなくてごめんね、父さん…」

母「…陸…」

陸「…もう、終わりにしよう?これからは、独りじゃない…ううん、独りになんてさせない。約束する」







碌「…


最後に言いたい事は…それだけか?」スッ

母「!…ちょっとあんた、そんな言い方…」

陸「うん。それだけだね」スッ

母「!…陸!?」
501: ◆AhbsYJYbSg:2012/2/26(日) 19:01:18 ID:g/4JcTXXFc

碌「お前がなんと言おうと、計画は実行する。
例え、この世にたった2人だけの家族に罵られようが、恨まれようが…それがお前たちの為だからだ」

陸「そう言うと思ってたよ…ほんと頑固だよね。友達いないでしょ?」ズバッ

碌「ふん、なんとでも言え…っ。
お前こそ、チビでその上ガチガチの石頭のくせに。だから虐められるんじゃないのか?」フフン

陸「…」イラッ





母「ちょ…ちょっと2人とも、いい加減に…」タッ…


スッ


母「こ…『恋人』!?どうして止めるのさ!」

恋「…時には、こどもを信じることも必要じゃなくて?

それに、あの2人…」


…ギャアギャア…


恋「なんだか…親子がキャッチボールしてるように見えない?」クスッ
502: ◆AhbsYJYbSg:2012/2/28(火) 19:50:47 ID:SFi0c66N7.

母「!(…そっか…考えてみたら、碌と陸がこんなに言葉を交わしたのは初めてかも…。
キャッチボール、か…そうだよね、親子だもんね…)」

恋「ふしぎだわ…あんなに悪口を言い合ってるのに、なんだか微笑ましく見えるんだもの…あれも一つの『愛』ね」クスクス

母「…ほんとだ。(ああ、まるで…)」




陸「…ふん、だいたい、今時『人類滅亡』なんて古いんだよ!
いい年して、考えることは幼稚園児並みですか〜?」ベー

碌「仕方ないだろ、それしか思い付かなかったんだから!
それに幼稚園児は余計だ!自分は『年長さん』なみの身長のくせにな」フフン

陸「…(プチン)

…『チャームポイントはクルクルパーマ』」ボソッ

碌「なっ…!?お前、なぜ俺の黒歴史を知って…っ」フラッ



母(会えなかった月日を…埋めようとしてるみたいだ…)
503: ◆AhbsYJYbSg:2012/3/2(金) 16:54:45 ID:HTBgGj87.M

碌「ハアハア…ったく、まさかお前が、こんなに頑固だったとは…一体誰に似たんだ」フウ…

母(アンタだよアンタ)

陸「それは僕のセリフだ!僕だって、父さんがこんなに石頭だとは思わなかった!

…でもま、知れて良かったけどね」ニッ

碌「…まあな」ニッ

母「!碌、あんた…」ホッ

碌「お前の意志が固いのはよくわかった…だが、俺の信念は曲げない。
どうしても邪魔をするというのなら…この俺を倒してみるがいい。

『黒炎・死神龍』」スッ



…ずるり

504: ◆AhbsYJYbSg:2012/3/2(金) 17:22:12 ID:i7etF7UDUg

黒龍『…ギッ…シャアアアッ!』ズルズル

恋「!なんなの、あの力…なんて禍々しい…」ゴクッ

母「(!?あれは…碌の遣う中でも、最強の式神…。
あいつ、本気で陸を…っ)

…陸!」タタッ


黒龍『…』ブウンッ


…ゴオオッ!


母「!これは…炎の壁!?
そんな…りくーっ!!」ボオオッ






碌「…信念を貫く為にはな…必ず犠牲が必要なんだ。
それが多ければ多いほど、与えられる物は大きくなる。
この龍は、俺の『心』そのもの。陸…お前に、俺の信念が砕けるか?」ズズ…

陸「うん。だって、僕は独りじゃないもん」サラッ

505: ◆AhbsYJYbSg:2012/3/2(金) 17:40:16 ID:k8jkmRk.Bk

碌「!…なにを言ってる?
今のお前は一人だ。あの日本妖怪共や、母親の助けも届かない。どう見てもひとりぼっちだろ?」

陸「…父さんには、分からないよ。
本当にひとりぼっちの人なんていない。必ず、応援してくれる『誰か』が心の隅にいるはずなんだ。
…父さんだって、そうでしょう?」

碌「…」

陸「だけど…父さんの『信念』は、きっと皆の『誰か』を消してしまう。
そんな悲しい計画なんか…僕が全部壊してやる!」ギュッ

碌「ふ…口だけは一人前だな。
ならば俺を倒せ。そして証明してみろ!
この世界に、まだ守る価値があるということを!!
…焼き払え、黒龍!」スッ


黒龍『…ッ』ボッ


…ボオオオッ!!


陸「…終わりにしよう、父さん。




…『千羽鶴』」ポオッ

506: ◆AhbsYJYbSg:2012/3/2(金) 17:51:43 ID:k8jkmRk.Bk


――


姉『…っ…ぐ…』ハアハア


スタスタ


弥『おーい「―」、飯の時間…!
お主、その傷…』

姉『…』ギュッ

弥『またか…また奴らか!!』グッ

姉『…自分を産んでくれた両親を、「奴ら」などと呼ぶものでは無いよ、弥一。
わしなら平気じゃ…放っとけ、ぼんくら息子』シッシッ

弥『…。

お主は強いな、「―」』

姉『…?』

507: ◆AhbsYJYbSg:2012/3/2(金) 18:06:49 ID:dG2jpSBg82

弥『わしは今まで、お主が涙ぐむ所すら見たことが無いぞ』

姉『…あいにく、下に何十人も妹達がおるでな…泣く暇が無いだけじゃよ』フン

碌『それもそうか……!』クスッ

姉『?…なんじゃ?』

碌『いや…顔立ちはそくっりなのに、千代とは正反対だと思ってな。泣き虫な所も、髪の色も…』

姉『…』

碌『…待ってろ、今薬を持ってきてやる』タッ…





姉(…ちがうよ、弥一。


…わしは、本当は…)








千「…姉様!」

姉「!」パチッ
508: ◆AhbsYJYbSg:2012/3/4(日) 11:44:34 ID:dG2jpSBg82

姉「千代…わしは…」ググッ

千「!…動いてはなりませぬ!
姉様の体は、もう…」ギュッ

姉「…そうか。
わしは、負けたのか…」フウ


ポタッポタッ…


姉「…ふ…泣き虫め。今度は何を泣いておる?
そんなに、惨めなわしが可哀想か」フン

千「違います…悔しいのです」ポタッ

姉「…?」

千「姉様を…救えなかった自分が許せなくて…泣いておるのです」ポタッポタッ…
509: ◆AhbsYJYbSg:2012/3/4(日) 12:01:31 ID:jyBeSMxwJA

姉「…

…千代、わしはな…ずっとお主が羨ましかった」

千「…?」グスッ

姉「千代は赤子の時から、全身全霊で泣いておったじゃろう?悲しければ泣き、痛ければ泣き…。
わしには、最期まで無理じゃったよ…お主のように、しっかりと自らの思いを示す事が…」

千「そんな…っそれは違います。
わらしはただ…ただ弱かっただけ。
…わらしなんかよりずっと強かった姉様に、うらやましがられる事など…」

姉「ふふ…わしは強くなどないよ。
今になって分かる…泣くことも『強さ』だったんじゃと。
…もっと…もっと、泣けば良かった」ポタッ

千「!…姉、様…」

姉「どうしようもなく飢えておった時も、痛め付けられた時も…声を上げて泣けば良かった。
自らを殺して耐えた所で…自分が壊れてしまっては、意味が無いんじゃ…!」
510: ◆AhbsYJYbSg:2012/3/6(火) 19:37:17 ID:HTBgGj87.M

千「…それでも、わらしは…姉様に、救われました」

姉「…」

千「…ずっと一緒にいてくれて、励ましてくれて…。
もし姉様と弥一が居なかったら、自分は赤子のままで生涯を終えていたやもしれませぬ。
…ありがとう、ございました」ペコリ

姉「…
…ばかじゃな、お主は」フッ

千「?」

姉「あれほどの悪行を築いたわしが、憎まれこそすれ、まさか感謝されるとは」フン

千「…姉様…」

姉「わしのした事に…後悔はしない。
…後悔なぞ、する資格すら無い」ギュッ

千「…」

姉「じゃが…そう、一つだけ…。
弥一には…あの男にだけは、誤解して欲しくなかったよ。
『強い』自分なぞ、本当のわしではない。…結局、それを伝えることもできず…わしは悪魔に身を委ね、そして…」ガタガタ

千「…

知っておりましたよ…弥一は」


511: ◆AhbsYJYbSg:2012/3/6(火) 21:57:14 ID:k8jkmRk.Bk

姉「!」

千「弥一は姉様がまだ存命だった頃、口癖のように申しておりました。『強くなりたい』と。…その理由、お分かりになりますか?」

姉「…?…」

千「姉様が、強がらなくても良いように…辛いとき、自分の胸を貸せるように。
…貴女が何時でも泣けるように、強くなりたい…と」

姉「…弥一が、そんな事を…」



――



ザアアァ…


姉『…くっ…


はははは!!惨めじゃのう…っ弥一よ?やはりお主のように…罪深い陰陽師は、地に這いつくばり…血を垂れ流す姿が、似合いじゃ…!
お主は死ぬが…、わしは封印されるだけ!馬鹿な男よ…最初から、消滅の術を遣っておれば…そのように無様な姿を晒す事も、無かったであろうに…!!』シュウウ…

弥『…っ…、』ハアハア

姉『ふ、ふ…なんじゃ、最期に…何か言いたげではないか。
封印される前に…聞いてやるぞ。どうせ、お主はすぐに…』シュウウ…

弥『…ま…っ』ギュッ

姉『?』

弥『…すま、ぬ…「―」っ…』



ザアアァ…―


512: ◆AhbsYJYbSg:2012/3/9(金) 20:26:24 ID:k8jkmRk.Bk
――


姉「…

千代、最期に…約束、してくれぬか」…カサッ

千「…?」

姉「わしを…決して許すな。
恨み続けてくれ。わしがちゃんと、地獄へ行けるように。
…よいな、妹よ…」ガサガサッ…


ザアアァ…ッ



千「…そんなこと…っ。


出来るわけ、な…!…ぅっ」ポタッ


…うわあああ…―



――



碌「…やられた」ボロッ

母「陸っ!」タタッ

陸「お母、さん」フラッ

母「よく頑張ったね…偉いぞ、陸!」ギュッ

陸「…へへ」ギュッ

碌「く…卑怯だ。あれほどの数の霊力の固まりを、防ぎきれるはずが…」ブツブツ

母「どの口が言ってんのさ、この大馬鹿者!」ケリッ

陸「お、お母さん…」

碌「…分かってる。俺の…完敗だ。
お前の勝ちだ、陸…計画は中止しよう」フン
513: ◆AhbsYJYbSg:2012/3/12(月) 14:38:33 ID:HTBgGj87.M

陸「!…父さん…」

母「ふうん…もっとごねるかと思ってたけど、案外あっさりじゃない」

父「…仕方ないだろ。ここまでコテンパンにやられたら、九尾を復活させるだけの力なんて残らないさ」フゥ

母「…!

陸、後ろ」トントン

陸「…?……!」クルッ…


タタッ


千「陸!良かった、怪我はない…

……!?」ピタッ


ギュッ


514: ◆AhbsYJYbSg:2012/3/12(月) 21:01:30 ID:1HASR0l9Qw

千「り…く…?」ギュッ

陸「全然良くないよ。

君が怪我してる。それに…」スッ

千「っ!」ビクッ

陸「…髪も、短くなった…」ナデナデ

千「…//」カアッ




碌・母「…」ジーッ

千「そっ…!

そそそういえば、雨(うるる)の姿が見えぬが…どこにおる?」アタフタ

陸「あれ…そういえば、恋人さん達もいないや…」キョロキョロ

母「…恋人たちは、さっき出ていったよ。陸に『ありがとう』、ってさ」

陸「…そっか…行っちゃったんだ。
それから、雨は?」

母「…雨、はね…」ギュッ

千・陸「…?」

母「その…あの子は、あたしを助ける為に…っ」ギュッ



碌「…

…『魂』」ボソッ

515: 名無しさん@読者の声:2012/3/15(木) 19:42:16 ID:QCThRSSDfI
私怨
516: ◆AhbsYJYbSg:2012/3/16(金) 09:05:50 ID:0UW08OXRsc
>>515
私怨…汗
ありがとうございます!更新が遅くて申し訳ないです…。
つホットケーキ
517: ◆AhbsYJYbSg:2012/3/16(金) 09:55:55 ID:dQogQk0cu.
ポンッ!


猫「…にゃ…?」ポケッ

陸・母「!」

千「雨…!お主、一体何処から…?」キョトン

猫「…にゃ…

…うにゃあああっ!?陸じゃにゃいか!!」ガバッ

陸「ふぐぇ」ドサッ

猫「無事で良かったにゃああ…!」スリスリスリ

陸「ぅ…口に毛が…っ…!」

518: ◆AhbsYJYbSg:2012/3/16(金) 09:57:57 ID:duvE1jn2iI


碌「…全く、うるさい奴らだな…。
こんな所で油を売っていていいのか、陸。
未然に防いだとはいえ、九尾の封印は解ける寸前。もう一度術をかけ直した方がいいぞ」ググッ

陸「…分かった。教えてくれてありがとう。
行こう、千代ちゃん、雨」タタッ

千「な…し、しかし…」

母「こいつのことは任せて、千代さん。
雨と一緒に、陸をお願いします」ペコリ

千「…解り、ました」ペコッ


タタッ


碌「…ふう、やっと静かになっ」


バチンッ


519: ◆AhbsYJYbSg:2012/3/16(金) 10:00:54 ID:Q.qnbvRKxQ
碌「…いて」

母「あと千発は入れたいとこだけど…雨を助けてくれたことに免じて、これで許してあげる」フン

碌「手厳しいな」フッ

母「…あんたの、何が一番許せないか分かる?

たった一つの『命』を、粗末にする所だよ」フルフル

碌「…なんだ…気づいてたのか…」

母「おかしいと思ってた。いくらあんたでも、その霊力の強さはあり得ない。
…何を、犠牲にしたの?」

碌「…『睡眠』と引き換えに、力を得た。

だから俺は、もうすぐ…死ぬだろう」

520: ◆AhbsYJYbSg:2012/3/16(金) 10:02:50 ID:dQogQk0cu.

母「…馬鹿だね」ギュッ

碌「あぁ…バカだな。

…陸に、よろしくな…」

母「大馬鹿者だよ…っ…ホントに」グスッ

碌「…

…なあ、理恵。

寝る前に…あの話しをしてくれ…ないか。
ほら、よく3人…で読んだ、だろ?」

母「…っ…」ポタポタ

碌「…頼む、よ」ニッ

母「…

『昔、ある国にそれはそれは美しい…―』」




521: ◆AhbsYJYbSg:2012/3/16(金) 10:04:00 ID:Q.qnbvRKxQ


――



赤香町・ふれあい公園


千「ここが、桜田市の中心…九尾を封印した場所じゃったとはの(弥一が死んだのも、ここじゃったな…)」タタッ

陸「すごい霊力だ…!もしかして、もう…」タタッ

雨「そんにゃ…陸が洗脳されなければ、復活もしにゃいんじゃ…」

陸「分からない。ひょっとしたら、さっきの父さんとの戦いで復活が促されたのかも…

…!」ピタッ


ゴゴゴゴ…


?『たれじゃ…妾の眠りを…妨げる者は…』ゴゴゴ…
522: ◆AhbsYJYbSg:2012/3/16(金) 10:57:09 ID:AUdLdHLZEE

千「!…遅かったか…」

陸「あれが…『九尾の狐』」ゴクッ

猫「…す、すごい迫力だにゃ…!」ガタガタ











狐(…はぁ…お腹空いたよぅ…)グウウ

陸「…きゅっ…九尾さん!!」タタッ

狐『(あらぁ可愛い子達。
…きゅーび、って…?妾の事かしら)
…なに用か、人間』ジロッ

陸・千「お願いします!日本を滅ぼすのは、やめてください!」

狐(…滅ぼす…?あ、なるほど妾がこの國を滅ぼす……、

ってええぇえ!?なんで!?)ガーン

523: ◆AhbsYJYbSg:2012/3/16(金) 10:58:43 ID:i7etF7UDUg

千「どうか…どうか…っ!」ギュッ

狐(ちょっと待ってちょっと待って…ぇ…なんで妾、目覚めた瞬間ワルモノ!?
そんな…確かに見た目はちょっと怖いかもしれないけど、少しでも可愛く見えるように美容と健康には気を使ってるのに…。

…きっと…そう、多分聞き間違いよ!平和主義で有名な妾が悪役だなんてそんな)

千「かくなる上は、わらしの命を生け贄にしても…!」グッ

陸「そんな…いやだよ千代ちゃん!」ギュッ

狐(完・全に極悪人です本当にありがとうござ…っておかしい!おかしいこんなの!
きっと話せば分かってくれるはず…ファイトだ自分!)グッ

狐『ふむ…そなたらの願い、聞いてやらぬ事もないが…ただではのう…(そう、せっかくの縁だし、妾と友達に!)』ニコニコ

千「や、やはり生け贄が必要なのか…っ」ガクッ

陸「心配しないで千代ちゃん。その時は僕も…!」ギュッ

狐(ごっ…!


誤解よぉおお!)ボーン

524: 名無しさん@読者の声:2012/3/17(土) 00:30:13 ID:wyiq/WzH/Y
狐のキャラがw
思ってたのと違うww


アゲル(・ω・)/C
525: ◆AhbsYJYbSg:2012/3/17(土) 10:00:49 ID:AUdLdHLZEE
>>524
Cありがとうです!
つ堅揚げポテト
526: ◆AhbsYJYbSg:2012/3/17(土) 10:02:08 ID:0UW08OXRsc

狐(ど、どうしたら分かって貰えるの…?
昔から人見知りが激しくて、つい無愛想な態度をとっちゃうのは妾の悪い癖。
あぁもう、妾のバカバカバカ!)ポカポカ

千「きゅっ…九尾殿が怒っておられる…!まさか、まだ生け贄が足りないのか…?」ガタガタ

猫「しょうがにゃい…2人で足りにゃいなら、にゃーの命も差し出す。死ぬときは皆一緒にゃ!!」カタカタ

陸「うるる…千代ちゃん…」ギュッ

狐(違うのに!違うのに!!

あぁもう、どうしたら…

…!)ピコーン

狐『…ふん、矮小な命の火なぞいらぬ。腹の足しにもならぬからのう。
それよりも肉じゃ。妾は肉が欲しい(お食事を一緒にすれば、きっと仲良くなれるはず!やだぁ妾天才♪)』ワクワク


527: ◆AhbsYJYbSg:2012/3/17(土) 13:05:34 ID:dQogQk0cu.

陸「に、『肉』って…まさか…。

この町の人達を差し出せってこと…?!」ガーン

千「な…なんと無慈悲な…っ」ガクッ

猫「ぅう…もう終わりだにゃ…」グスッ




狐(…

ぅん…うん、いいの。誤解されるのは…慣れてる。

…あ、れ…なんでかな、目頭が…熱く…っ)ブワッ








…ぐうううっ!


528: ◆AhbsYJYbSg:2012/3/17(土) 13:08:58 ID:dG2jpSBg82

猫「…//」

千「お…お主、こんな時に何をのんきに腹など鳴らしておるんじゃ!」ペシッ

猫「す…すまにゃい、にゃんだか無性にお腹が空いて…」グウッ

陸「あれ…でもさ、なんかいい匂いしない?」キョロキョロ

狐(ん…?この匂い…)ピクッ


タタッ…


夜「出来た!できましたよ皆さん、この唐揚げは最高傑作です!」ジュウウ

狐(かっ…唐揚げ…!)ジュルリ

千「月夜…!お主、無事だったのか!」ホッ

陸「えっと…月夜お兄ちゃん、それ…」

夜「陸君や皆が帰ってきたときにお腹を空かせているだろうと思って、一足先に帰って作っていたんです。
見てください、このジューシーな肉汁、すばらしい色合い!あまりの出来に感動していた所、窓から皆さんが見えたので思わず持ってきちゃいました」ニコニコ

529: ◆AhbsYJYbSg:2012/3/17(土) 13:13:55 ID:dG2jpSBg82

千「つ…月夜、すまぬが今…」

夜「さらに!昼間あまった油揚げで、稲荷寿司もたっぷりと!」ジャーン

狐(……!!……っ!!!)ダラダラ

猫「う…美味そうだにゃあ」ジュルリ

千「月夜、今はそれどころではないんじゃ!
この国が滅びるかどうかという大事な瀬戸際…」

狐『…それでよい』プルプル

千・陸「…え?」クルッ

狐『…だから、その貧乏臭い食事で勘弁してやると…言う………ッッ





…っっあ゛ぁー!!もうぅ我慢できないっ!
妾は腹ペコなのよぉお!!友達が欲しいのよぉおお!!!
一緒に食べましょうよぉおおお!!!』ウワアアン



皆「…」


――
530: ◆AhbsYJYbSg:2012/3/24(土) 12:10:31 ID:bZAFLw.CyI
タタッ


皇「待て…どうしたというのだ、恋人よ!」ガシッ

恋「…離してちょうだい」

皇「恋人…」

恋「…はじめて、なの」カタカタ

皇「?」

恋「…どうしてこんな事を思うのか、自分でも分からない…でも、あなたに嫌われるのが怖いの。
だから離して!アタシはこれからも独りで…」バッ…


ギュッ


恋「!」

皇「…分かるか?我も、主と同じだ」カタカタ

恋「皇、帝…」

皇「怖いのは本気だからだ、恋人。
…共に、生きてはくれぬか。これからは悪事ではなく、友である妖怪たちを救っていこう。あの子供に、教えられたように」

恋「…皇帝…っ!」ギュッ







吊「…リア充氏ねリア充氏ねリア充氏ねリア充氏ね…」ブツブツ

戦「良カッタネ、愛ダネ」ニコニコ

吊「…うぅ…オレの姐さァん…あんな低身長(チビ)のどこがいいんスかァ…」シクシク

531: ◆AhbsYJYbSg:2012/3/24(土) 12:39:39 ID:bZAFLw.CyI
戦「…吊レ男ハ、コレカラドウスルノ?」

吊「オレは…どうするっスかねぇ。
ここで食事(バイキング)しようにも、あの鎌いたち(キンニク)に変なツボを押されたらしくて、子供の血が飲めなくなっちまって…」フウ…

戦「オイラハフィンランドニ戻ッテ、仲間達ノ墓ヲ建テ直スンダ。
…良カッタラ、一緒ニ来ナイ?」

吊「マジっスか!?うおおー、やっぱ持つべきモノは友だちッス!」ワーイ

戦「ア…デモソノ前ニ…」

吊「?」

戦「深雪ニ、挨拶シテ行コウカナ…//」ポッ

吊「…やっぱアンタも敵ッス!!」ウワーン




―――

ふれあい公園


狐「…ッ!…ッ!!」ガツガツ


532: ◆AhbsYJYbSg:2012/3/24(土) 13:08:58 ID:bZAFLw.CyI

千「す、すごい食べっぷりじゃな…」ゴクリ

狐「からあげ追加お願い!…あったりまえじゃない、妾の飢餓は三千年分よ!?」ガツガツ

夜「お待ちどうさま!さあジャンジャン作りますよー!!」ジュウウ

鎌「おいおい…なにもキャンプ用品まで出す事ねぇだろ。どんだけ料理馬」

夜「あ、食べないんですね?了解しましたー」ヒョイッ

鎌「食べます嘘ですスンマセンしたぁ!!」ズザーッ

雪「食卓で…シェフに逆らっちゃ…だめ」モグモグ

傘「あ!なんか僕のからあげ減ってるんだけど!」ガタッ

猫「…気のひぇいひゃにゃいか?」モグモグ

533: ◆AhbsYJYbSg:2012/3/24(土) 13:31:46 ID:bZAFLw.CyI
傘「…一体どの口が言ってるのかな?」メラッ

濡「どうベルちゃん、おいし?」

犬「…ワンッ!」ガツガツ


陸「…でも、本当に良かった。みんなが無事で」ニコッ

鎌「ったりめぇだろ?弟子が頑張ってんのに、師匠が負けるわけにいかねぇかんな」エッヘン

濡「…そう言う割りには、ずいぶんボロボロにされてもたみたいやけど…?」フフッ

猫「陸は強かったぞ!きっとおみゃーなんて、一瞬でやられちゃうにゃ!」ニヤニヤ

鎌「あんだと…?よっしゃチビ!今から勝負だ!」ウオー

雪「やめて、よ…大人気ない」ズバッ

鎌「っ!」ザクッ


534: 名無しさん@読者の声:2012/3/24(土) 19:08:17 ID:wa9yfBBJgA
よし、支援だ
535: ◆AhbsYJYbSg:2012/3/24(土) 21:46:07 ID:2a1pYsQwAA
>>534
ありがとうございます、励みになります!
つ堅揚げポテト(コンソメ)
536: ◆AhbsYJYbSg:2012/3/24(土) 21:47:49 ID:2a1pYsQwAA

陸「みんな…ううん。

兄ちゃん、晴くん、流華お姉ちゃん、雨、月夜お兄ちゃん、深雪ちゃん、それから…千代ちゃん。

人間の為に、戦ってくれてありがとう。…またこうして会えて、本当に嬉しいや」ヘヘッ

鎌「なんだよ水くせぇな。当たり前じゃねぇか」

濡「そうどすえ?陸ちゃんの大切なモンは、ウチらにとっても大切なんよ」ニコッ

陸「…だから、僕も…嘘なんかじゃなく本当の事、言うね」ギュッ

千「!…(陸…)」

陸「僕には…半分、妖怪さとりの血が流れてるんだ。近づいた相手の心なら、それが人間でも妖怪でも関係なく読めてしまう。
だから…嘘ついててごめんなさい。皆が妖怪だって事、最初から分かってた…っ」フルフル

雪「…」

傘「陸君…」

陸「今は昔よりも力を制御できるようになってきたけど、それでもこれから先…皆に不快な思いをさせると思うんだ。

…だけど…それでも僕は、みんなと…一緒にいたい!」ポロッ


537: ◆AhbsYJYbSg:2012/3/24(土) 22:10:38 ID:2a1pYsQwAA

陸「僕にとって、皆はお父さんと同じくらい大切な家族なんだ!
ごめん…わがままだって…自分勝手だって分かってる。
でも、僕はみんなが…大好きだから…っ!」ポロポロッ

鎌「…

チビ、よく聞け。俺は妖怪鎌いたち。風を操る妖怪だ。
たまに、寝ぼけて天井をぶっ壊しちまうかもしんねぇが…そんときはまぁ、大目に見てくれよな」ニッ

陸「…?」グスッ

流華「ウチは妖怪濡れ女。今はこんな格好やけど、本体はそれはそれは醜い蛇の体どす。
…陸ちゃんが見たら、気絶してまうかも…」クスクス

月夜「私は夜叉。日本最強と謳われた、炎を操る恐ろしい妖怪です。
ちなみに料理を残す人には容赦はしません。よ〜く覚えておいてくださいよ」キラーン
538: ◆AhbsYJYbSg:2012/3/24(土) 22:43:53 ID:2a1pYsQwAA

雪「おら…雪ん娘。
お風呂、凍らせちゃうけど…ごめん、ね?」ペコッ

陸「…っ」ボロボロ

傘「僕は唐傘お化け。本体は一つ目の、気持ち悪〜い妖怪さ」ニヤッ

猫「にゃーは妖怪猫又。…イライラさせることがあったらゴメンにゃ?決して悪気がある訳じゃにゃいのにゃ」ポリポリ

傘「どうだかね…」フッ

陸「ぅう…っ…、みんな…っ!!」ボロボロッ

千「…分かったじゃろ、陸。お主の思いは決してわがままでは無い。
誰かと一緒にいたいというのは、生き物全てが心の底で願っておる事じゃ。
…当然、わしらもな」ニコッ

猫「わーい!これからもみんな一緒だにゃ!!」ウヒョー

鎌「おらチビ、いつまで泣いてんだよ!」ポンポン

陸「えへへ、うん…でも、なんだか嬉しくってさ」グスッ

夜「…さあ、今日は陸君と私たちの家族記念日です!皆さんでお祝いしましょう!」ニコニコ



―ワイワイ―


千「…」


…ズキン…
539: ◆AhbsYJYbSg:2012/3/25(日) 21:42:20 ID:WGYzPBZgJc


陸「あ、そうだ!僕そろそろお父さんを迎えに行かなくっちゃ!きっと待ちくたびれてる」ガタッ

鎌「一人で平気か?なんなら着いて…」

陸「ううん、大丈夫!」タタッ…

千「…っ…陸!!」ガタッ

陸「…ん?」クルッ

千「……いや。

…気を、つけてな」ニコッ

陸「…?…うん。
千代ちゃんも、今日はゆっくり休んでね」ニコッ


タタッ


千「…っ…」ズグン…

濡「?…千代はんどないしたん?顔が真っ青どすえ?

千「…あぁ、さすがに疲れが溜まっておるようじゃ…心配ないさ」クラッ

540: ◆AhbsYJYbSg:2012/3/25(日) 21:44:32 ID:WGYzPBZgJc


狐(ああ…しあわせ〜。夢にまで見た食事、団欒…もう最っ高!

…あれ……妾、なーんか大事なことを忘れているような…?)モグモグ



傘「ねえ疾風…実は、君にお願いがあるんだけど…ちょっとついてきて」ガタッ

鎌「おう、どうしたよ改まって(ラッキー、これで堂々と片付けサボれるぜ)」ガタッ




狐『(お願い…あ!)…ひょうだ、ほっとひゃなは!』トントン

千「え…わらしですか?」キョトン

狐『ひつは、はなはひふぁいぶぁばっ…ゲホゲホッ!!』モゴモゴ

千「あの…せめて口を空に」タラッ

狐『ゴクゴクっ…ぷはあ!ごめんなさい妾としたことが…。
実は、あなたに会いたがってる人がいるんだ。ちょっと付き合ってもらえる?』ガタッ

千「?…わらしに…?」ガタッ


――


千「…わらしは…夢でも見ておるのか…?」アングリ
541: ◆AhbsYJYbSg:2012/3/25(日) 21:46:18 ID:WGYzPBZgJc

狐『今から千年くらい前、一度だけ妾の封印が解けそうになったことがあって…結局その時は不発に終わったんだけれど、妾の意識に一瞬だけ触れた魂があったの。
なんだかこの世に未練ありまくりみたいだったから、消える前に妾の霊力で保護してあげてたんだよね〜』ドヤァ

千「…弥一…!」ポロッ

弥『…じゃから、その名は捨てたと言うとるじゃろ?
…久しぶりじゃな、千代。泣き虫なのは…変わらんようじゃな』ニカッ

千「…ばか、たれ」ポロポロ

弥『ん』

千「…っこのど阿呆!あんぽんたん!気障野郎!」ガーッ

弥『ん…そうじゃな』

千「…このっ…このっ…!」ハアハア

弥『…髪、似合うな』ボソッ

千「…っ!」ヒュッ


パァアン!!
542: ◆AhbsYJYbSg:2012/3/25(日) 21:49:03 ID:WGYzPBZgJc

弥『いっ…
…たああ!!な…何ゆえ褒めたのに殴られねばならんのじゃ!!』ガーン

千「…おなご、というものはのう…あまりに待たされ続けると、仏の心も鬼に変わるもんなんじゃ!よく覚えとけ!!」フンッ

弥『…そうか…待ってて、くれたんじゃな』フッ

千「!…ふ、ふん…//」カアッ



狐(…うっわ〜完璧場違いじゃん妾…。
みっ…見てなさい!今年こそは妾も、いい男捕まえて見せるんだからっ)キーッ



弥『…髪を切ったということは…よほどの強敵と当たったようじゃな』

千『ああ…姉様を、倒す為に』ギュッ

弥『…そうか。

…本当にこれで良かったんじゃな、千代?髪を切ったということは…』

千「…分かっておるさ。わらしはもうすぐ…

寿命が尽きて、消えるじゃろう」
543: ◆AhbsYJYbSg:2012/3/26(月) 15:36:00 ID:7OYnA6STbw

――


鎌「な…俺に、三年で医者になれっつうのか!?んなもん無理に決まって…」

傘「お願いだよ疾風!君なら、余命三年のロン君の病気もなおせるはずなんだ。
鎌いたちは昔から、人体の構造にもっとも詳しい妖怪でしょう?」

鎌「あのなぁ…簡単に言うが、体に詳しいからって薬も簡単に作れるわけねぇだろ。第一、俺の一族に伝わる医術書はとっくに燃えちまってるし…」フウ

傘「…

ふーん、見捨てるんだね…」ジーッ

鎌「…!」グサッ

傘「まあそうだよね…誰でも自分が一番大切だもんね…。

あぁ…っ!かわいそうなロン君…っ」オーイオイ

鎌「…

…半年だ」フルフル

傘「え?」ピクッ
544: ◆AhbsYJYbSg:2012/3/26(月) 15:38:41 ID:7OYnA6STbw

鎌「余命三年だぁ?…上等じゃねぇかっ!!三年といわず半年で薬を作ってみせらぁ!!」ドーン

傘「本当!?ありがとう疾風!(ふ…ちょろいね)」ニヤリ

鎌「あったりめぇだろ!!俺を誰だと思っ…

…!?」ハッ

傘「?…疾風?どうしたのさ」キョトン

鎌「…傷が…」

傘「え?」

鎌「俺の傷が、治ってる…」ポオオ



――



千「…ふう。さすがに…きつい、な」トサッ

弥『…残った幸運の力を、この戦いで傷ついた物・人・妖怪全てに分け与えるとは…相変わらず、超のつくお人よしじゃな』ヤレヤレ

千「…お主とて…似たような、ものではないか」フウ

弥『…まあな。

もう一度聞くが…本当に、これで良かったんじゃな?』

千「…わらしは、もう十分生きた。もはや…思い残すことなど…」





―…千代ちゃん…―

545: ◆AhbsYJYbSg:2012/3/26(月) 15:41:01 ID:7OYnA6STbw




千「…

…弥一、最後に…頼みが、あるんじゃが」ゼエゼエ

弥『…今度は、いつぞやと立場が逆になったようじゃな。…聞こう』

千「陸に…あの子に、伝えてくれ…―」




――


陸「…!」ピタッ

父「…陸?どうしたんだい」キョトン

陸「…っごめんお父さん、僕先に行ってる!

…『紙飛行機』!」スッ


ポンッ!


飛『…ウェイウェーイ!!また会えて嬉しいぜ坊主!!』キラリン

陸「ごめん飛行機くん、すぐ出発して!!」ヒョイッ

飛『おう、なんか急いでんだな!?飛ばしてくぜぇええええ!!!』ギュンッ!


――



546: 名無しさん@読者の声:2012/3/30(金) 00:17:45 ID:xMKVCy8GCA
しえんー
つキャラメルスコーン
547: ◆AhbsYJYbSg:2012/4/2(月) 19:40:43 ID:Ih/mfrdMYI
>>546
おお、ありがとうございます!
今日で終わりなので、皆さんぜひ最後まで付き合って下さい。
つマロングラッセ

548: ◆AhbsYJYbSg:2012/4/2(月) 19:45:36 ID:Ih/mfrdMYI


陸「…うそ、だよね…?」

弥『…お主が、陸か…

…千代の最後のことばじゃ。「約束を守れなくて、すまぬ」…と』




犬「…キューン…」シュン

鎌「ふざけんなよ千代!!…おい目ぇ開けろ!!」ユサユサ

雪「…っ…」ポタポタ

猫「おい!こんなのってにゃいぞ!!せっかく…せっかく皆で…っ」ポロポロ

狐『ごめんなさい…妾が気付いた時には、もう…』グスッ

濡「うちが…うちがもっと早う気付いてれば…」ギュッ



陸「…」スタ…スタ



夜「…誰のせいでもありません。まさか、もう彼女の霊力がわずかだったなんて、誰も…」グッ

傘「千代!…お願いだから起きてよ、千代ぉ!」ポタポタ



陸「…

…ずるいよ、千代ちゃん」


549: ◆AhbsYJYbSg:2012/4/2(月) 19:50:04 ID:Ih/mfrdMYI

陸「いつもそうだよね…自分一人で背負って、勝手にいなくなる…残された人の気持ち、少しは考えてよ…」スタスタ

弥(…話しかけても無駄じゃが…まあ、好きにさせてやるか。
千代の体はもうすぐ跡形も無く消える。そう、魂すら…)

陸「初めて会った時のこと…覚えてる?
あの時の僕はね…半分死んでたようなものだった。辛い現実から逃げて…何もかもあきらめてた。
…だけど、今は違う。なんでか分かる?
君に…千代ちゃんに、出会えたからだよ」ニコッ


550: ◆AhbsYJYbSg:2012/4/2(月) 19:51:11 ID:Ih/mfrdMYI
陸「君は言ってくれたよね、『自信をもて』…って。だからこそ、僕は今こうしてここにいる。…勇気をくれたのは、いつだって千代ちゃんだった」

弥(…)

陸「…そう…君のおかげで、僕はわがままになった。たくさん、いろんな『望み』が生まれた。
…だけど…知ってる?そのたくさんの望みを思い浮かべるとさ…なぜか真っ先に、君の笑顔が思い浮かぶんだよ」ポロッ

弥(…

…千代のやつ…思い残すことはない、じゃと…?あの大嘘つきめ)フウ

陸「…君を死なせるわけにはいかない。だって、知ってるから。

君が誰より生きたがってた事…僕は知ってる。だから…」スッ

皆「!!」


――


母「…小枝を踏む音で、悲しみに沈む小人たちは後ろを振り返りました。
そこにいたのは王子様。森の散策の途中、小人たちの嘆きを耳にしたのです」

碌「…」

母「…王子様は白雪姫に近づき、静かに跪きました。そして…―」


――



狐『あ…キス…//』ポッ

陸「…戻ってきてよ…千代ちゃん!!」スッ




…フオオッ!!!…―
551: ◆AhbsYJYbSg:2012/4/2(月) 19:54:30 ID:Ih/mfrdMYI

―――

――




三年後

銀朱町・市立さくら病院

天気・雨のち晴


ザアアァ…


父「…元気そうだな、碌。足の具合はどうだ?」バタン

碌「ふん…相変わらず、ウンともスンとも言わない。
もう諦めてるよ…あれだけの事をしたんだ。報いがあって当然だろう?
…それより、今日は何の用だ」

父「…
陸がな…小学校を卒業したんだ」

碌「…」

父「子供の成長は早いよな…この間まで、ほんの赤ん坊だったのに」クスッ

碌「…なぜそれを俺に話す。あの子はもう、お前の子だろう。
…用はそれだけか。だったらさっさと…」

父「…もうひとつ。
あの時止めてやれなくて、ごめんな」

碌「…」

父「あの日…お前が旅に出るって言い出したとき、無理にでもついて行けば良かったよ。
お前は俺にとって、大切な親友だったのに…俺は…」ギュッ

碌「…
やっぱり、陸はお前の子だな」ボソッ

父「…え?」

碌「用がすんだら帰れ。

…陸に、よろしくな」

552: ◆AhbsYJYbSg:2012/4/2(月) 19:56:11 ID:Ih/mfrdMYI
――



碌「…」

姉「ふん、無様な姿じゃのう碌よ。醜く『生』にしがみつくなど」ドロン

碌「…俺はあの時、確かに死んだはずだった…だが、どうやらまだそれは許されないらしい。どんなに辛くても、生きろ…ってことか。
お前もそうだろう?あの時確かに消滅したお前も、こうしてこの世界にいるんだからな」

姉「まあ…そうじゃな。
…消えた後…真っ白い世界で、わしは懐かしい声を聞いた…その声に導かれ、気がつくと…」

碌「俺も同じだ。…つぐなえ、ってことなのかもな」

姉「…つぐない、か…心当たりがありすぎる…」フウ

碌「とりあえずお前は、あの千代という妹に謝ることから始めたらどうだ。
えっと……!」

姉「…?なんじゃ」

碌「これは驚いたな…十年近く一緒にいたのに、俺はお前の名前すら知らない」

姉「そういえば、確かに名乗った覚えはないが…いまさら過ぎぬか?」

碌「そんなことは無いさ。…教えてくれ」

姉「…

わしの名はの…『八重』、というんじゃ」フッ

碌「そうか…いや、さらに驚きだな」ホウ

姉「?」

碌「『ヤエト・ユーンジャ』…まさか外国人だったとはな。出身は東南アジアか?」

姉「…(わしは馬鹿にされておるのだろうか)」

553: ◆AhbsYJYbSg:2012/4/2(月) 19:57:48 ID:Ih/mfrdMYI


藤が丘・フラワーショップ「雪華」

サアアァ…


濡「…ほんに明日行ってしまうん?もう少し延ばしたら…」

雪「ううん…決めたの。おら…いっぱい、外の世界を…見てみたい。
気付いたの…雪山にこもってるだけじゃ、だめだって」

濡「…せやね…。
雪ちゃんのお母さんも、旅が大好きな人だったんよ。血は争えんモノどすなぁ…」フゥ

雪「…ありがとう、流華。今まで…。
おらにとって、流華は…もうひとりのお母さん、だよ」ニコッ

濡「…っ元気でな…雪ちゃん…!」ヒシッ

雪「うん…流華も、ね」ギュッ



白練台・いたち小児科クリニック


鎌「…ふーむ…」

婆「…っ」ハラハラ

鎌「…ん。影もキレイさっぱり消えてるし、こりゃ完治だ。
…よくがんばったな」ニッ

孫「ほんとう!?…おばあちゃん…!」ヒシッ

婆「ロン…!…良かった…っ良かったよ…」ギュッ

鎌「ただし無理はすんなよ。一年に一回は必ず顔出すこと。…いいな?」

孫「うん!ありがとうございました、先生!」ペコッ

婆「…本当に…っ本当にありがとうねぇ…この恩は…一生、忘れません…」ポロポロ

傘「…」ホッ

554: ◆AhbsYJYbSg:2012/4/2(月) 19:59:58 ID:Ih/mfrdMYI
――

傘「…ありがと、疾風…ロン君を救ってくれて」

鎌「…あの婆さん、泣いて喜んでたんだよな…複雑だぜ」フウ

傘「…?」

鎌「だってそうだろ?妖怪の寿命は人間よりはるかに長ぇ…。いつかは死に別れなくちゃなんねぇんだ…」

傘「…それは、人間同士だってそうだよ。どちらかは必ず先にしんでしまう。
どんなに辛くても、残された人は先に進まなくちゃならないんだ。先に逝った人たちの為にもね…」

鎌「…俺もいつかは、忘れちまうんかな…弟たちや陸、千代のことも…」

傘「…忘れないよ、絶対。だって、僕らは妖怪だもん」ニコッ

鎌「…そうだな。
…よし、今度は記憶力の良くなる薬を開発してやんぜ!!今度も手伝ってくれよ、優秀な助手くん!」ゴオッ

傘「(本当に開発しちゃうんだろうな…)それよりさ…疾風も来るんでしょ、今日の夜、月夜の店で…」

鎌「『陸の卒業祝い&深雪の旅立ち祝い』…だろ?
行くに決まってんじゃねえか!大事な仲間の門出だ。しっかり祝ってやんねぇとな」ニッ

555: ◆AhbsYJYbSg:2012/4/2(月) 20:01:21 ID:Ih/mfrdMYI
赤香町・グリル『月の狐』

〜本日は午後より団体貸切の為休業〜



母「じゃ、あたしはオムライスにしようかな」

猫「さーばみそっ♪さーばみそっ♪」ルンルン

夜「オムライスとさばの味噌煮定食ですね。かしこまりました」ジュウゥ

狐「あ、妾はきつねうどん…」

夜「駄目です」ピシャッ

狐「えぇ!?けち〜!」ブー

夜「あなた店員でしょうが!!働かないとクビですよクビ!」

狐「なっ…なによ!わらわはこの世で最も強大な妖怪なのよ!?それを」

夜「…油揚げの入荷、少し減らしましょうかね…」フウ

狐「お客様、お水でございますわ♪」シュバッ

556: ◆AhbsYJYbSg:2012/4/2(月) 20:02:38 ID:Ih/mfrdMYI
母「それにしても、もうあれから三年か…早いもんだね」コトッ

猫「そうですにゃ…」シンミリ

夜「…私たち妖怪は、月日の流れをことさら早く感じます。ですが…この三年は私にとって、自分の人生を考えさせられる特別なものでした。
このレストランを開業できたのは、陸くんのおかげだと思ってますよ」ニコッ

母「…そっか」フフッ

猫「あっ…でも、屋敷を改造するっていうアイディアを出したのはにゃーだぞ!?」ガタッ

狐「名前を考えたのは妾よ!?」ガタッ

夜「…よっ…と」ジュウッ

猫・狐「無視すんな(にゃ)ー!!」ガーッ






赤香町・桜田市立第三小学校


ポツッ…ポツッ…


A「今日でもう、ここに来る事もねぇんだな…」ホウ

B「なんか寂しいよな…四人ともバラバラの中学だしよ…」

C「…そう、だね…」フウ

陸「…大丈夫」

A・B・C「え?」

陸「離れたって、僕らが友達なのは変わらないよ。…でしょ?」ニコッ

A「…だな」ニッ

B「…そうだよな!よし、みんなたまには集まろうぜ!」

C「うん!」ニコッ

C(ほんと、変わったな陸くん。前は弱々しいだけだったのに、今じゃみんなの中心だもん…)

557: ◆AhbsYJYbSg:2012/4/2(月) 20:04:00 ID:Ih/mfrdMYI

陸「…!」ピタッ

A「あ…先生…」

先「やあ、君たちは三年生の時の…卒業おめでとう」ニッコリ

B「…あ、ども」

先「それにしても、結局君たちの中でレベルの高い中学に行けたのは佐藤だけか…情けない」フウ

陸「…」

A「……は?」ムッ

先「少しは他の三人も見習ったらどうかな?まぁ、もう遅いかもしれ」

陸「先生、僕ね…先生を見習って、教師になろうと思うんです」スッ

A(え…陸…?)

先「へぇ、教師に!そうか…至らない所もあったかもしれないけど、少しは僕の教えも役に立ったかな」ニコ

陸「はい、とっても役に立ちましたよ…逆の意味で」ニッコリ

先「…ん?」キョトン

陸「いじめられている子を自分の出世のために切り捨てたり、生徒のお金を着服したり、学校の肩書きで人を差別するような…

…そんな教師にだけはならないようにするので、先生も応援してて下さいね」ニコニコ

先「」

陸「それじゃ、失礼します」クルッ

558: ◆AhbsYJYbSg:2012/4/2(月) 20:05:05 ID:Ih/mfrdMYI


A「…

…なんか、陸って…本当、変わったよな…」ポカン

B「…お、おう…」

C「…でもさ、変わってない所も…あるよ。

仲間思いなところは…相変わらず」クスッ



――



赤香町・ふれあい公園


ポツッ…ポツッ…





タタッ


陸「!…迎えに来てくれたの?千代ちゃん」ニコッ

559: ◆AhbsYJYbSg:2012/4/2(月) 20:06:24 ID:Ih/mfrdMYI

千「ん…べるの散歩ついでに、な」

犬「…ワンっ」ハッハッ


スタスタ


千「…いまだに不思議なんじゃ…ここにこうしておる事が、夢のような気がしてな。
生き返ることが出来ただけではなく、まさか人間になってしまうとは…」スタスタ

陸「…」

千「弥一の魂は消え、陸の陰陽師の力も消えたが…わらしは生き永らえた。…それにどんな意味があるのか、わらしには分からない。
それにな…時々恐ろしい思いに囚われるんじゃよ。この楽しい日々は全て夢で、わらしは本当は死んでおるんじゃないか…とな」

陸「…あの時は、僕も無我夢中だったけど…でも、これだけは言える」ピタッ



ギュッ



千「!!」


陸「…これが、現実だ。…分かった?」ギュッ

千「…わ…わかった…//」カアッ

陸「…本当に?」ギュウウ

千「分かった!!分かったから離せ!!」バッ

陸「…ん、ならよし」ニコッ

千(…は、恥ずかしい…)カアアッ

560: ◆AhbsYJYbSg:2012/4/2(月) 20:07:55 ID:Ih/mfrdMYI
陸「…きっと、彼…弥一さんが、力を貸してくれたからじゃないかな」

千「…?」

陸「千代ちゃんが、もう一度人間に戻れたのは…弥一さんがそれを望んでたからなんだよ、きっと」

千「…そうか…
…なら、いつまでも夢見ごこちではいかんな…。生かされた命、精一杯生きねばなるまい」グッ

陸「それでこそ、僕の好きな千代ちゃんだ。…なんならもう一回抱きしめようか?」ニコッ

千「も…もういい!//」カアッ

陸「…」

千「まったく、人をからかうのもいい加減に…」

陸「あれ…聞こえなかった?」

千「…?」

陸「一応、したんだけど…告白」

千「………ぇ…」

561: ◆AhbsYJYbSg:2012/4/2(月) 20:09:33 ID:Ih/mfrdMYI












犬「…ワンッ!」フリフリ

千「!」ハッ

陸「…ま、いいや!返事はまた今度ね!」ニコッ

千「…//(な、なんだか振り回されっぱなしじゃな…わらしは)」フウ

千(…どうやら、馬鹿な事を考えておる暇はないようじゃ。
人間として生きるのは久しぶりで、苦労の連続かもしれぬが…わらしなりにがんばってみるよ、弥一…)






陸「あ…見て、虹だ!!」

千「本当じゃ…!

…やっと止んだんじゃな…雨」






おわり
562: ◆AhbsYJYbSg:2012/4/2(月) 22:57:43 ID:Ih/mfrdMYI
今まで読んでくれた皆さん、お待たせして本当に申し訳ありませんでした。
更新遅い・キャラ多すぎ・無駄に長いというこの三重苦をものともせず、辛抱強く読み続けて下さった皆さんには感謝の言葉しかありません。ありがとうございました。
たくさんの支援、とても励みになり、勇気づけられました。もし支援がひとつも無かったら、このSSは完走できなかったと思います。
そして、約一年弱も掲示板を貸して頂いた龍さん、いろいろ勉強になりました。ありがとうございます。
最後に、この掲示板の人全てに幸せがありますように…。


つコアラのマーチ
つキャラメル
つ綿飴
つリンゴ飴
つココアシガレット
つ都こんぶ

563: 名無しさん@読者の声:2012/4/3(火) 11:45:35 ID:UeQfYoAN2o
乙です!
コアラのマーチはもらったぁぁ(・ω・´)
564: 名無しさん@読者の声:2012/4/3(火) 12:20:53 ID:vaBTECTeLg
乙でしたぁあああ!!
565: 名無しさん@読者の声:2012/4/3(火) 15:13:25 ID:76wnS2A8H2
乙でした(^O^)
566: 真・スレッドストッパー:停止
停止しますた。ニヤリ・・・( ̄ー ̄)
342.28 KBytes

名前:
sage:


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