初めてSSを書かせてもらいます。
一応江戸時代が舞台ですが、勉強不足なもので変なとこもあるかも。
そういうところは、SSだから!と広い心でスルーしてください。
幼稚な文で申し訳ないですが、そこもSSだから!とスルーしてください。
以上のことが大丈夫なイケメンであれば、最後までお付き合いください。
読みづらかったらごめんねっ!
670: 譲:2012/3/17(土) 22:59:44 ID:LIH9xLQmeE
それにしてもまぁ、凄い人だったんだなと感心する。
想像することしかできないが、最初の緑青の結び人だ。その地位を確立させるのに、相当な苦労をしただろうと思うと、さとりのように笑うことはできない。
部屋の中は和やかな雰囲気に包まれていた。二人はまたも時間を忘れ、下らないあれこれを話しだす。
今度は暁が聡依の話をし、さとりを笑わせていたりもした。
と、不意に襖が開き、太助が現れた。ようやく夕食か、とそろそろ空腹が痛くなっていた暁がホッと息を吐くと、怪訝な顔の太助が目に入る。
「どうかしたんですか?」
声をかけると、彼はやや眉を寄せ、軽く頷いた。ちらりとさとりの方にも目をやったが、今は気にしないことにしたらしい。
「聡依を知らないか? 屋敷のどこにもいないんだ」
「聡依殿が? 清次殿のところでは……?」
太助が首を横に振る。彼もそう考え、家鳴りを迎えにやったのだが、来ていなかったという。
暁は慌てて立ち上がり、太助のもとに駆け寄った。
「散歩に出た……、にしては長いですよね」
671: 譲:2012/3/17(土) 23:00:47 ID:IE9FPZTe0o
聡依がこの部屋を出たとき、外はまだ明るかった。昼八つ(午後2時)を回った頃だっただろうか。
暁はわかっていながらも、外を確認する。日は、とうに暮れていた。
「一体どこに……」
太助の顔に不安が映る。それを眺めている内に、暁の胸にも嫌な予感が広がってきた。
なぜ、あの時声をかけておかなかったのか。なぜこんな時間まで、聡依を放っておいたのか。
様々な不安を、首を振って打ち消し、彼は太助に向かって告げる。
「ともかく探しに行きます。聡依殿が行きそうなところを適当に当たって見ますね」
「おっ、おう。あっ、でも行き違いになるかもしれんぞ」
今にも駆け出しそうな暁を、太助は慌てて止めた。やや鬱陶しそうな顔で助けを見た暁は、少し唸って考えると、早口で答える。
「聡依殿が戻ってきたら適当に教えてください。ほら、ろくろ首殿でも連れてきて、首を伸ばしてもらうとか。何でもいいんで」
暁が考えた方法を聞き、悟りが無遠慮に吹き出す。太助と暁は同時にそちらに目をやったが、特に反応しなかった。
こういうところは、聡依の普段の行動のお陰で慣れているのかもしれない。
672: 譲:2012/3/17(土) 23:01:45 ID:IE9FPZTe0o
「お前なぁ……。まぁ、わかったよ。何とかして教える」
「頼みます」
軽く頷いて見せた暁は、急いで庭に飛び降り、門にと向かった。
その姿を見送る太助は、彼の機敏さに呆気に取られたままである。
「なんか、随分しゃきっとしてきたなぁ」
何気なく呟いた彼の言葉は、まだ頬を緩めたままのさとりに届いたらしい。
「それはいい」
にっこりと無邪気な笑みと共に、言葉が返ってきた。一瞬、きょとんとした太助は、庭からさとりに目を移し、誰? と呟く。
「どうも、さとりと申します」
「はぁ……、どうも」
今一つ状況の掴めない太助は、不思議そうな顔で首を捻った。
673: 譲:2012/3/17(土) 23:03:42 ID:LIH9xLQmeE
よく知った声が聞こえた気がして、ゆっくりと目を開ける。目に飛び込んできたのは、随分と古い切り株。それに、見覚えがあった。優しい思い出も。
「おい、おいってば」
まだぼんやりとしている聡依の肩を、誰かが叩いている。うるさいな、と顔をしかめ、そちらを向くと、これまたよく知った顔がこちらを見ていた。
「清次さん、何をしてるの?」
「何してる、じゃないよバカ。こんな道端で寝て。布団で寝なさい、布団で」
「失礼な。私は寝てなんかいないよ」
「ねーてまーしたー」
そんな下らないやり取りをし、二人は互いに睨み合う。
先に折れたのは清次の方だった。彼は軽くため息を吐き、曲げていた膝を伸ばす。
674: 譲:2012/3/17(土) 23:04:36 ID:IE9FPZTe0o
「ほら、帰るぞ。今日はお前んとこで夕飯いただくからな。直介さんのことも聞きたいし」
「えぇー、面倒くさいなぁ」
中々起き上がらない聡依に、清次が手を差し出す。それを掴み、起き上がろうとした聡依は、背中の痛みに顔をしかめた。
先ほどより大分良くはなっているが、まだ鈍く痛む。それを感じると同時に、あの山の主のことを思い出した。
「どうした?」
途中で止まった聡依を心配したのだろう。清次が顔を覗き込んでくる。とっさにその視線を避け、聡依は何でもないと首を振った。
もう会えない。そんな気がした。むしろ、もう会わないと。人はもうこりごりだ、そんな彼女の呟きを聞いた気がした。
一瞬でも忘れていたことが苦い。もちろん、胸に抱える苦さは、それだけが原因ではないのだが。聡依は強く、唇を噛んだ。
「なんだ、体が痛くて歩けないのか」
「え? いや、そういう訳じゃ……、え?」
言い訳を重ねようとした聡依に、清次が黙って背を向けた。そのまましゃがみこみ、ほらほらと腕を後ろに向ける。どうやら背負ってくれるらしい。
聡依は少し躊躇するように視線を泳がせ、そして軽くため息を吐いた。まるで、仕方ないとでも言っているかのように。
675: 譲:2012/3/17(土) 23:08:51 ID:IE9FPZTe0o
「落としたら承知しませんからねー」
「乗る奴が何を」
「大体、清次さんってそんな力あるの?」
「お前みたいな大福くらいしか重さのない奴、造作もない」
照れ隠しのついでに憎まれ口を叩きあい、聡依を背負って歩き出す清次。
その背の暖かさは、聡依が細工を解いているときにずっと支えていてくれた、あの温もりを思い出させた。今更だが、重かったのでは、と不安になる。
「月が冷たそうだなぁ」
ポツリ、と清次が呟いた。釣られて月を見れば、白くつるりとした満月が浮かんでいる。
「触ってもいないのに、何でわかるのさ」
「バーカ、見た目だよ、見た目」
下らない言葉を聞き流し、聡依は浅く息をはく。まるで夢を見ているように、胡乱な時だったな、と思い返した。
676: 譲:2012/3/17(土) 23:09:52 ID:IE9FPZTe0o
随分と静かな場所にいた。一人で寂しそうで、それでいて強がっていた。もうこりごりだ、と笑った顔は、子供でも分かるくらい、泣き出しそうだった。
全部見過ごしてきてしまったことを、今更後悔する。でも、それを指摘しても恐らく悔いていた。逆に傷つけていたかもしれない。
どうして、何もできなかったのだろう。心に溜まる苦い苦い気持ちに、涙が溢れそうだった。
熱くなった目元を乱暴に擦り、むしゃくしゃした気分のまま、目の前の背中に頭突きした。完全に八つ当たりである。
「何すんだよ」
不機嫌な声に、鼻を鳴らして答える。これで怒らないのが、清次の凄いところだ。
「眠いから寝る」
「お好きにどうぞ。屋敷に着いたら、容赦なく起こすからな」
それに返事をすることなく、聡依は勝手に目を閉じた。揺れる心地が、また眠気を誘う。
まるで不貞寝をしているような気にもなったが、実際それと大差がないので気にしないことにした。
677: 譲:2012/3/17(土) 23:12:50 ID:IE9FPZTe0o
夢と現とをうろうろし始めたとき、不意に体を揺すられ、目を開ける。聡依が文句を言う前に、清次が残念な状況を告げた。
「おい、なんか怒ってるぞ。お前のとこの猫」
「え? ……あぁ」
肩越しに前を覗くと、こちらに向かって走ってくる影。どう見ても暁だ。それが清次の言う通り、毛を逆立てて怒っているようにしか見えないのが、とても残念である。
「どーすんの?」
「どうもしないよ。それより、清次さん」
「ん? なんだよ」
ゆっくりと、清次から降りながら、聡依はわざとらしいため息をはく。
「ちょっとはうちの猫のこと、オカシイとか思わないわけ?」
清次は肩をすくめて笑った。
「飼い主が飼い主だからなぁ」
聡依はムッと口を尖らせたが、それに言い返そうとはしなかった。
678: 譲:2012/3/17(土) 23:13:38 ID:LIH9xLQmeE
今日はここまでです。
そして明日でラスト!
ではでは
ノシノシ
679: 譲:2012/3/19(月) 00:37:59 ID:m8aDDB7I/U
今日もとんとんと投下していきますねー(´ω`)
680: 譲:2012/3/19(月) 00:39:28 ID:m8aDDB7I/U
聡依たちの前に立った暁は、まず、息を整えようと深呼吸した。それからまた、大きく息を吸い、
「あっ、ネコ、あのさ」
「こんな時間まで、一体っ、どこでっ、何をっ、してたんですかぁぁああっ!」
言い訳をしようてする聡依を無視し、ひとまず怒鳴り付けた。うんざりとした顔の聡依に、平然としている清次。
「ほら、やっぱり怒ってる」
「それ、さっきも聞いたって」
二人をぎろりと睨み付け、暁はまず、清次に詰め寄った。
あれ? という顔で、清次は暁を見下ろす。そんな彼の足に、暁は容赦なく鋭い爪を立てた。
「いっ……!」
声にならない悲鳴が上がる。聡依は気の遠くなるような思いでそれを眺め、遠くの山の方へ、視線を逃がした。見ているだけで痛いようだ。
681: 譲:2012/3/19(月) 00:40:26 ID:uKAdSKfV2o
「聡依殿を連れて、あんまりふらふらしないでください、ねっ!」
「いっ、いや、俺は……」
「言い訳は無用っ!」
「えっ、あっうわっあっ!」
無慈悲、だな。聡依は暁に聞こえないようにそうっと呟き、軽いため息を吐いた。苦痛の声を上げる清次に同情し、一歩、彼らから遠ざかる。清次を助けようという思いにならないのが、実に彼らしいところだ。
もちろん、暁もそんなことなど承知の上である。
「聡依殿?」
いつになく低い声でそう呼び掛けると、うん? と、いつもの返事が。それに思わず毒気が抜ける。
怒鳴る気も怒りも失せ、暁は腕を下ろした。俯き加減で、聡依の元に向かう。
「本当に心配したんですよ。何かあったんじゃないかって。胃の腑が縮み上がりましたよ、もうっ」
「よかったじゃないか。食費が浮く」
何処までもいつも通りな聡依に、暁は軽くため息を吐いた。爪を出す気にもなれず、ただ弱い猫パンチをその足に当てる。
682: 譲:2012/3/19(月) 00:41:18 ID:uKAdSKfV2o
「本当に心配したんですから。いなくなったらどうしようって。見つからなかったら、どうしようって……」
知らないうちに涙がこぼれていた。怒りで隠れていたらしい、不安が溢れてきたかのように。そのままギュッと聡依の足に抱きつき、存分にその裾を濡らす。
「なんなんだ、この差は」
足を押さえたままの清次が、愕然と呟いた。聡依はちょっと困った顔で首をかしげ、
「ご飯あげているか、あげていないかの差」
と、茶化す。清次は眉を寄せ、俺もあげたぞ、と不満そうに呟いた。それを笑いながら、冗談だってと聡依は答える。
「全く、散々だな。今日はお前んとこで、一升は米を食ってやる」
ぶつぶつと文句を言いながら、清次が歩き出した。聡依は無理だということを知っているからなのか、楽しそうに笑って眺めている。
「あ、そうだ。清次さん、歩くの面倒だから、また背負ってよ」
「ふざけんなっ! お前んとこの猫の所為で、こっちは足が痛いんだよっ!」
すぐさま不機嫌な声が飛んできた。聡依は声を殺して笑い、自分の屋敷の方に歩いていく背中を見送った。
683: 譲:2012/3/19(月) 00:42:59 ID:uKAdSKfV2o
「さてそろそろ……。帰ろうよ、暁」
暁は片手で涙を拭い、小さく頷いた。暁は聡依の足から離れ、一度だけ、腹立たしげに猫パンチを食らわせる。もちろん、爪の引っ込み、丸まったその手が、聡依を傷つけることはなかった。
聡依は小さく笑ってから、ゆっくりと歩き出す。先ほどのような苦い感情はなかった。
もちろん、山の主である彼女のことを忘れたわけではない。しかし、それを考えてグズグズ後悔をし続ける気は、もう無かった。そんなことをするくらいなら、明日からそこら中の山を歩き回り、彼女を探しだすほうがいい。
いつの間にか、そんなことを考えられるようになっていた。
少し遠くなった背中を見て、暁は駆け寄ろうと足を動かし、もう一度立ち止まる。ゆっくりと歩いていくその動きは、どこか痛いのだろうか。少し、ぎこちない。
聞いてみようか、そう考えてすぐにやめた。少しだけ、自信が足りなかった。
684: 譲:2012/3/19(月) 00:45:11 ID:uKAdSKfV2o
「聡依殿っ」
背中に向かって声をかければ、聡依がこちらを向く。
うん? と、抜けた声でいつもの返事が戻ってくる。暁は少しだけ迷い、それから言葉を紡いだ。
「あっしは、嫌がられたってやめませんからねっ! ずっていますからっ?絶対にいなくなったりしませんからねっ!」
どこかで聞き覚えのある言葉に、暁は首をかしげる。いつか、どこかで言ったような気がした。
聡依にも覚えがあったのだろうか。少し離れた先で、なぜか腹を抱えて笑っている。
それにムッとしつつも、敢えて黙っていた。怒るのはいつでも出来る。暁はそれより、返事が聞きたかった。
685: 譲:2012/3/19(月) 00:45:40 ID:m8aDDB7I/U
ひとしきり笑ったあと、ようやく満足したらしい。聡依はふっと息を吐いて、肩の力を抜いた。暁はただ、彼の言葉を待つ。
「言われなくても」
笑った名残のある優しい口調で、そんな答えが返ってきた。にやりと添えられた意地悪な笑みに、暁は腹が立つよりも笑ってしまう。
おいで、と差し出された腕に、暁は駆け出した。今度は微塵も迷うことなどなく。
「さっき、何で笑ったんですかぁあああっ!」
「え? いやだって、えっ? あっ、ちょっまっ」
今度は容赦なく、爪を立てた手を土産に。
686: 譲:2012/3/19(月) 00:50:36 ID:m8aDDB7I/U
広く栄える城下町のすぐ近くに、とんと平凡な町がある。
小さなその町は、地図に載っていたとしても、すぐに忘れられてしまうような、ありふれた所だった。特に名産もない。
長閑さだけが取り柄のその町はずれに、時に置いてかれてしまったかのような、古びた屋敷が一つ。
ただ広いだけのそこでは、他人とは少しばかり違う日常が繰り広げられていた。
それはその他のものと違わず、いつかきっと終わってしまうであろう日常。
しかし、当人たちにとっては確かにある、そして他のありふれたそれと何一つ違わぬ、楽しいものであった。
おわり
687: 譲:2012/3/19(月) 00:57:41 ID:uKAdSKfV2o
改めまして、こんばんは。
ようやく、完結しました。なんだか、ちょっと信じがたい。
色々思うことも有りますが、言うことは1つだけです。ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございました。もう本当に感謝以外の言葉が見つかりません。
長々と何か言うのは苦手なので、この辺で黙りますが、今までありがとうございました!
ではでは、またいつか。
ノシノシ
688: 名無しさん@読者の声:2012/3/19(月) 10:23:26 ID:cjmz5touQo
譲さん乙!
689: 名無しさん@読者の声:2012/3/19(月) 16:58:25 ID:67CEghovMM
毎日楽しみに読ませてもらってました!
お疲れさまでした(´ω`*)
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