初めてSSを書かせてもらいます。
一応江戸時代が舞台ですが、勉強不足なもので変なとこもあるかも。
そういうところは、SSだから!と広い心でスルーしてください。
幼稚な文で申し訳ないですが、そこもSSだから!とスルーしてください。
以上のことが大丈夫なイケメンであれば、最後までお付き合いください。
読みづらかったらごめんねっ!
694: 譲:2012/3/20(火) 01:08:01 ID:CcOIKZTUWA
早く春になれよ、などと無茶なことを付けたし、彼はまた家の方にと体の向きを変えた。赤くなってしまった手を擦り、息を吹きかける。指が取れそうだ、と冗談めかして笑う。
「お兄さん」
消えそうな声が聞こえた気がした。
一瞬、足を止め、振り返る。そこには何もいなく、気のせいかと苦く笑ったりもした。再び聡依が歩き出そうと踵を返すと、
「お兄さん。こちらですよ」
また、声が聡依を呼ぶ。
やや腹を立てつつ、声の方を向くと、先ほどの枝が目に入った。お前が呼んだ? まさかね、と笑うと、隣に淡い人影を見つける。揺れるその体をたどり、顔を上げれば、にっこりとこちらを見つめて微笑む、美しい女の姿があった。
「あれ?」
絶対に先ほどまではいなかった姿だ。しかも、彼女は今にも消えてしまいそうなほど、朧げな輪郭をしていた。
「驚かせてしまいましたか?」
悪戯っ子のような笑みを浮かべるその人に、聡依は首をひねる。全くいつ現れたのかが分からない。まさか、本当にこの木じゃないよな、と一人で笑っていると、彼女はその手を隣の枝にと伸ばした。
「雪を、払ってくださって」
「え?」
「ありがとうございます。お蔭でもう冷たい思いはしなくて済みます」
「はっ、はぁ……」
枝から聡依にと目を移し、彼女は再び柔らかい笑みを浮かべた。その彼女の持つ美しさや柔らかさ、そして儚さにどこか覚えを感じる。知り合いだったろうか、と首を捻っていると、彼女は聡依の手に手を重ねた。
「でも、お兄さんの手が冷たくなってしまいましたね」
柔らかな表情で、少しだけ物憂げに彼女は聡依の手を撫でる。触れた先から、絹に包まれたかのようにふんわりと温まる自分の手に、聡依は驚くばかりだった。
「私はいいのです。お兄さん、随分と薄着なようだから、お体には気を付けて」
優しさをたっぷりと含んだその言葉と笑みに、見知った色が重なった。それを見ると同時に、思わず声が漏れる。
695: 譲:2012/3/20(火) 01:09:14 ID:CcOIKZTUWA
「もしかして、あなたは」
彼女は微笑むだけで答えない。
「桜、の木?」
彼女は楽しそうに瞳を輝かせ、そしてその綺麗な唇を動かし、聡依に囁きかける。
「えぇ、正しくは桜の花、ですが」
彼女が動くたびに感じるその淡さを含んだ甘い香りに、花というのはぴったりだった。なるほどなぁ、と感心するように呟いた聡依を笑い、それから優しげな表情を浮かべる。
「さて、お兄さん。もうじき日が暮れますし、これからどんどん寒くなります。明日はまた暖かいかもしれませんが、夜はまだまだ寒いです。なるべく早く、おうちに帰ってください。そんな薄着で外を出歩くもんじゃありませんよ」
暖かさと同時に何とも言えないむず痒さを感じ、聡依は誤魔化す様に頬を掻いた。少し桜から離れ、両手を気取って広げ、おどけて見せる。
「でも、この格子柄、いいでしょう?」
桜はくすっと声を漏らして笑い、小さく何度か頷く。ハッと目を奪われるような、上品な仕草だった。
「えぇ、その臙脂色がとてもよくお似合いで」
「それは喜んでいいこと?」
首を傾げた聡依を、桜はますます可笑しそうに笑う。袂で口元を隠し、目元を丸めて笑うその姿は、聡依が今まで見てきた中で一番美しい姿だった。
それから何度か、聡依は暇ができるたびにその桜の木の元に通った。もちろん、毎日が休日のような男である。ほぼ毎日、飽きることなく彼女に会いに行っていたことになる。
「桜、なんだか最近、姿がはっきりしてきていない?」
豆大福を食べながら、ある日聡依はそんなことを尋ねた。ほとんど無くなった雪を集め、雪うさぎなどを作って遊んでいた桜は、きょとんと彼を見つめる。
「そうですか?」
「うん、なんかこう、前は幽霊みたいだった」
今も大差ないけど、と言うと、桜は怒るでもなく可笑しそうに笑った。彼女は本当に笑い上戸な人であった。
696: 譲:2012/3/20(火) 01:10:19 ID:CcOIKZTUWA
「えぇ、そう言えばいつだか私たちの姿は桜の花に関係していると聞いたことがあります」
「花に?」
彼女は雪うさぎの目にする小石を選びながら、軽く頷く。ふうん、と声を漏らした聡依に、楽しそうに寄り添う桜。彼女は歌うように囁いた。
「だから、花が満開に近づけば近づくほど、私たちの姿はより鮮明になるそうです。逆に、花が散ってしまえば、この姿消えてしまう」
「消える?」
眉を上げ、彼女を見つめる。桜は聡依の頬につく白い大福の粉を指で拭い、笑って見せた。
「えぇ。消えてしまいます。そのはずです。毎年同じことを繰り返しているはずなのに、自分の姿というのは分かりませんね」
楽しそうに笑う彼女の手が離れていく。聡依はその腕をつかみ、にこりともせずに桜に問うた。
「消えるって、いなくなっちゃうってこと?」
桜は笑みを浮かべたまま、やんわりと彼の手を外した。そしてその手を握りなおし、丁寧に指の腹で手の甲を撫でる。
「姿が見えなくなるだけです。また、少しずつ見え辛くなって、そして姿が見えなくなるだけ。ここにこの木がある限り、私はここにいますよ」
「ここにこの木がある限り?」
桜は小さく頷き、聡依の手に頬を寄せた。まだ硬い表情をしたままの聡依が、ぼんやりとした顔でそれを眺めている。彼女は小さな声で、何度か同じ言葉を繰り返す。
「たとえ見えなくとも、私はここにいるのです」
それは、他人より少しものが多く見える聡依にとっては、理解しがたい言葉だった。
また別の日の事。すっかり春が芽吹き、桜の木もその花を少しずつ咲かせていたころだ。聡依はこれまたうぐいす餅などを食べながら、その日も桜の隣に座っていた。
「そろそろお花見の季節ですね」
697: 譲:2012/3/20(火) 01:10:49 ID:CcOIKZTUWA
そんなことを切り出したのは彼女の方だった。すっかり雪も消え、どこを歩いていても桜の花が目に入る。そんな時期になったのだから、彼女の言葉は正しいものだった。しかし、この道ではそれは開かれないものかも知れない。
「桜は花見が好きなの?」
普段そう言う催しごとには参加しない聡依が彼女に尋ねる。この道には桜は彼女の木、一本でしかしない。ここで行われる花見などそうそうないのだろうが……、花見など遠巻きにしか見たことのない聡依にはわからなかったらしい。しかしその不躾な問いにも、彼女はさらりと笑みを浮かべる。
「えぇ。好きですよ。昔はここにもたくさん桜の木があったのです。その時、近所の人がお花見をしてくださいました。みなさん、とても楽しそうでした」
「でも、みんな桜なんか見てないよ。よくわかんないけど、ご飯とかお酒飲んで騒いでるだけに見える」
拗ねるようなその口調に、桜はまた優しげな笑みを浮かべる。彼女は懐かしそうに古い家々の屋根を眺めながら、ぽつりと言葉を漏らした。
「それでも、楽しいのです。私は人が好きですから。だから、人が楽しそうにご飯を食べたりお酒を飲んだりしているのを見るだけで、とても楽しいのです。とても幸せなのです」
「人が好き?」
言葉を繰り返した聡依に、彼女はしっかりと頷いた。そして何度か、自分で噛みしめるように頷く。
「えぇ、とても。とても好きです。何よりも好きです」
聡依は何となく言葉を見つけることが出来ず、ただ、うん、と子供の様に素直な返事を返した。桜もただ、いつものように儚げな笑みを返すだけだった。
698: 譲:2012/3/20(火) 01:11:32 ID:CcOIKZTUWA
桜の花は満開を終え、春風に揺らされ、少しずつその身を散らし始めた。久しぶりに桜の元を訪れた聡依は、彼女のまた淡くなった姿を見て目を細める。
「あら、お兄さん」
彼女はいつもと変わらぬ笑みを浮かべるだけだった。聡依も特にそのことに触れることはなく、彼女の隣に腰を下ろす。そして、懐から菓子を取り出した。
「今日はよもぎ餅ですか」
春ですね、と笑みを載せた声に、春だねぇと勤めて呑気な声を返す。遠慮もすることなくそれに齧り付き、やや黙ってその味に惚れ惚れとしていた。
「随分久しぶりですね」
それに応えず、ちらりと目をやれば、桜はただ笑って彼を見つめ返すだけ。聡依は掴めない彼女の感情から目を逸らし、再びよもぎ餅を口に運ぶ。桜はそんな彼に構うことなく、言葉を紡ぎ続けた。
「この前、どこかのお兄さんたちがここでお花見をしてくださいました。とても楽しそうで、見ていてとても楽しかったです」
声の出せない彼は、よかったね、と心の中で答える。口の中に一杯に広がる春の味を租借しながら、聡依は桜の柔らかな声に耳を傾けた。
「ですが、待っていた人は来ませんでした。風邪でも引いたのではないかと、心配していたのですが」
もう一度そちらに目をやれば、今度はやや怒った顔が聡依を見つめていた。誤魔化す様に笑みを浮かべ、口に残ったよもぎ餅を嚥下する。
「お花見、楽しかった?」
「えぇ、とても。お兄さんはされなかったんですか?」
意地悪な質問に、少しだけ視線をうろつかせ、黙って頷く。苦手なんだ、と言葉を付け加え、また口に餅を詰めようと手を動かした。
699: 譲:2012/3/20(火) 01:12:37 ID:CcOIKZTUWA
「お兄さん」
細い手が聡依の手首をしっかりと掴み、その目が彼の動きを縫い止めた。驚いたまま、何度か目を瞬き、桜を見つめ返す。
ふと、怒っていた顔が柔らかに緩み、彼女のもう片方の手が動いた。
「小豆が」
「え?」
「小豆が付いていますよ」
「あっ、あぁ」
聡依が自分の口元を拭う前に、彼女の指がその小豆を攫う。その動きを目で追っていた聡依は、小さな声で呟いた。
「お花見、行かなくてごめん」
えぇ、と桜は頷く。それはとても小さな声で。
「風邪、引いてたわけじゃないよ」
「それはよかった」
ねぇ、と小さな声が風に紛れ、桜に届く。いつの間にか俯いてしまった聡依の頭を、彼女はできる限り優しく、そっと撫でた。
「もうすぐ、いなくなっちゃう?」
小さな小さなその掠れた声に、桜は首を振った。いなくならないよ、と。彼女は何度でも繰り返す。
「いなくなるんじゃありません。見えなくなるだけです」
掴んだ手首を離し、その手を掴む。小刻みに震える手は、驚くほどに冷たいものだった。桜は、その緊張を何とか解そうと、もう一つの手で彼の手を包むように握りしめた。
「見えなくたって、私はいますよ。ずっとずっと、ここにいますから」
小さく頷いた彼の顔は見えない。それでも桜には、聡依がどんな顔をしているのかが見えるようだった。だから、余計悲しさが積もる。言っていることは分からないかもしれない。それでも、何度も彼女は繰り返した。
700: 譲:2012/3/20(火) 01:13:12 ID:CcOIKZTUWA
「大丈夫、大丈夫。何年経っても、私はここにいますよ。夏が来て、秋が来て、冬が来て。そしてまた春が来たら、その時に会いましょう?」
聡依の頭が頷くように揺れた。その体を抱きしめてしまいたい衝動に駆られるが、そうすればまた彼にも自分にも、寂しさを載せてしまうことになる。だから、その手に黙って頬を寄せた。
「お兄さん、ありがとう。あなたが私を見つけてくれたおかげで、私は今までで一番楽しい春を過ごせました」
聡依は何度か、深く頭を振った。それから、たっぷりと時間をかけて顔を上げ、桜を見つめ、笑って見せた。
「綺麗な桜をありがとう」
そんな言葉に、桜は顔を綻ばせた。そして一度だけ、その気持ちを飲み込むかのように、深く息を吸う。
彼女は歯を見せて笑うと、優しい言葉を彼に返した。
「それは、何よりです」
701: 譲:2012/3/20(火) 01:13:55 ID:CcOIKZTUWA
「聡依殿?」
不思議そうな声に引かれ、再びこの春にと意識を戻す。もう一度暁を見つめれば、きょとんとした顔は置いてかれたという不服が見える拗ねたものにと、すっかりと姿を変えていた。それを、わざと笑う。
「ぼーっとしてっ。もうっ、なんですか?」
「いや、なんでもないよ」
何でもなくない、と頬を膨らませる暁に構わず、聡依は黙ってその切り株を指差した。暁は一瞬、動きに釣られるように切り株を見つめたが、すぐに訝しげな顔を聡依の方に戻す。
「なんですか?」
「綺麗な桜だなと思って」
「え? 桜?」
切り株に近づき、花を寄せて見れば微かに春の香りがするような気がした。桜の木、と言われても納得できるような気もするが、その姿を想像することはできない。
「これ、桜の木なんですか?」
振り返って問うてみたが、答えはなかった。聡依は呑気に、大きく伸びなどをし、軽くあくびを漏らす。
「暁」
「はい?」
名を呼ばれ、何度か目を瞬いた。そんな彼の間抜け顔を、聡依はまたも笑う。
「だから、なんで笑うんですかって、もうっ」
怒る暁など気にも留めず、聡依はまた切り株を見つめて柔らかに笑みを浮かべた。そして、呟く。
「春だねぇ」
意味が全く分からなかった。不服なまま、言葉の意図を見つけようと頭を働かせる暁の鼻先を、柔らかな東風が通り抜ける。その時拾った甘さを含んだ香りと優しさに、暁もまた頬を緩めた。
「本当、春ですねぇ」
余計なことなどその場に放り捨て、顔を上げて空を眺めてみる。
薄く白んだ青空はまだ少しだけ、冬のそれだったが、微かに春の面影を抱いていた。
702: 譲:2012/3/20(火) 01:20:11 ID:CcOIKZTUWA
>>688
乙ありがとうございます!
>>689
楽しみだなんて、うれしいです。乙、ありがとうございます!
>>690
乙ありがとうございます!
そう言ってくださると、本当にうれしいです。
>>691
乙ありがとうございます!
寂しいとは、うれしい限りです。
また見かけたときは、読んでやってください。
調子に乗ってラスト、番外編投下してみました。
保管庫依頼しようと思ったら、パソコンさんが空気を読んでネットをつなげてくれたのでw
かなり無理やり詰めてしまったので、かなり読みづらいと思います。最後の最後まで、申し訳ないです。
ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございましたっ!
皆様に素敵な春が、訪れますことを祈って。
ではでは(*・ω・)ノシノシ
703: 真・スレッドストッパー:停止
停止しますた。ニヤリ・・・( ̄ー ̄)
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