・この作品は「ターミナルの神様」の番外短編集です。
・ものすごく多大なネタバレを含んでいますので、本編を読まれていない方はご注意ください。
・本編同様作者はsage進行ですが、レスの上げ下げはご自由にどうぞ。
・蛇足です。ていうか補足です。無理して読む必要はありませんから、閲覧は自己責任でお願いします。
・蛇足です。
2: ひととせ ◆EOQ3BRAmq.:2012/1/25(水) 16:16:20 ID:aLkl3hdfUg
ひとつの命と引き換えに、僕の妻はこの世を去った。
忘れ形見の赤ん坊は、日を追うごとに成長していく。
番外編1:二度目の秋の回顧録
3: ひととせ ◆EOQ3BRAmq.:2012/1/25(水) 16:17:10 ID:aLkl3hdfUg
終業時間まで、あと三十分。
時計に目をやりながら、忙しなくキィを叩く。
僕は急いでいた。
子供は親に預けてある。
普段も意識こそするけれど、必要なら残って処理をするだろう。
でも今日だけは、どうしても早く帰りたい理由があった。
「先輩気合い入ってますね」
「定時に帰りたいからね」
後輩の長峰が僕の手元を覗き込む。
僕は休むことなくペンを走らせながら答えた。
「子供の誕生日なんだよ」
「ああ、」
一歳の、と僕は少し笑う。
つまり今日は結の一周忌でもあった。
4: ひととせ ◆EOQ3BRAmq.:2012/1/25(水) 16:18:00 ID:aLkl3hdfUg
「もうそんなに経つんですね」
「そう、早いだろう」
長峰が懐かしそうに目を細める。
彼もまた結を大切に思っていたことを、僕は知っていた。
「倉田さん似の、可愛い息子さんでしたよね」
「そうだよ、うちの息子本当に天使。目元の感じとかますます結に似てきてさあ。あ、写真見る?」
「遠慮しときます」
すげなく断られて、僕は渋々定期入れを仕舞い直した。
全くつれない後輩である。
5: ひととせ ◆EOQ3BRAmq.:2012/1/25(水) 16:18:36 ID:aLkl3hdfUg
「ていうか長峰、結は中谷だからね。な、か、た、に」
「彰先輩のモノとは思ってませんよ?」
未だに結を旧姓で呼ぶ長峰に溜め息が漏れる。
結婚以来ずっと、長峰に呼び方を変える気配はない。
「僕の嫁なんだから、いい加減諦めてくれないかなあ」
「諦めましたよ、不倫という願望まで打ち砕かれた今では」
「そんなこと企んでたの!?」
物騒なことを言う長峰に思わず突っ込みを入れると、彰先輩それ終わらせなくていいんですかと冷静に指摘された。
6: ひととせ ◆EOQ3BRAmq.:2012/1/25(水) 16:19:11 ID:aLkl3hdfUg
「……も、いい。これ家でやってくるよ、今日は早引けさせて貰う」
息子が気がかりで集中なんてできない。
僕は書類を纏めると、さっさと帰り支度を始めた。
「諦めましたよこの人」
「悪いかい」
いーえ別に、と長峰がにやつく。
僕はあえて無視すると黙ってコートを羽織った。
「先輩の不良ー」
「君に言われたくない」
軽い言動の多い後輩を小突いて鞄を取る。
比較的自由な職場で良かったと思うのはこんなときだ。
7: ひととせ ◆EOQ3BRAmq.:2012/1/25(水) 16:21:32 ID:2ho66zkJlw
「煙草なんて吸ってるから結に振られるんだよ、禁煙しなよ?」
去り際にびしり、長峰に指を突きつける。
長峰は気に障ったようにつんと横を向いた。
「余計なお世話です」
「ていうか今度憩の前で吸ったらシメるから」
「あれはごめんなさいってば……」
ようやくきまり悪そうに縮こまった長峰に、僕は満足して踵を返す。
早く、早く会いに行かなくちゃいけない。
逸る気持ちを抑えるのが精一杯だった。
8: ひととせ ◆EOQ3BRAmq.:2012/1/25(水) 16:22:03 ID:2ho66zkJlw
冷たい空気が肌を刺す中、足早に家路を急ぐ。
おもちゃ屋の袋をしっかりと腕に抱えて、我が子のもとへ。
親に預けっ放しで父親らしいことも多くはしてやれない自分を、もどかしく思うこともある。
もう一年が経ってしまった。
そろそろ、これからのことを考えなくてはいけない。
「って言ってもねえ……」
僕は溜め息をついた。
歩き慣れた住宅地は人もまばらで、遠くから子供たちの遊ぶ声がする。
9: ひととせ ◆EOQ3BRAmq.:2012/1/25(水) 16:23:12 ID:V5t1TG2Qic
数日前に、子供には母親が必要なのだと人に諭された。
僕も大方そう思う。
母親がいなければまともな人間に育たないとは考えないけれど、いないよりはいる方がいいだろう。
これから先、親に頼りきりではいつかきっと無理が出る。
世話の問題もあるし、子供がいじめに遭うかもしれない。
「でもね、結」
僕は彼女に語りかける。
頭で分かっていても、上手くいかないものだね。
「僕はまだ、君が傍にいるような気がするんだ」
10: ひととせ ◆EOQ3BRAmq.:2012/1/25(水) 16:23:56 ID:V5t1TG2Qic
突然強い風が吹いて、落ち葉が舞い上がる。
「っ、うわ……」
僕は思わず腕で顔を庇った。
細めた瞳で、何事かと懸命に目をこらす。
視線の向こう、落ち葉の隙間から夕陽の逆光に照らされて、人の影。
あの頃と変わらない彼女の姿が見えたような気がした。
「――……っ」
声を、上げようとしたときにはもう、彼女の姿は掻き消えていて。
僕は暫く立ち竦んでいたけれど、やがて静かに目を閉じた。
11: ひととせ ◆EOQ3BRAmq.:2012/1/25(水) 16:24:41 ID:V5t1TG2Qic
君は今も、そこにいますか。
そこで変わらず、笑ってくれてますか。
僕は歩き出す。
おもちゃ屋の袋を握り締めて、光の差すほうへ。
もうすぐ家に着く。
扉を開けたらいちばんに、憩の顔を見に行こう。
結、僕はきちんと笑えています。
君の残してくれた命のお陰で、僕は今、幸せなんです。
番外編1:二度目の秋の回顧録 おわり。
12: ひととせ ◆EOQ3BRAmq.:2012/1/25(水) 16:29:06 ID:99nh8st8DU
皆様数日ぶりです、こんにちは。エピローグってスペル可愛いですよね。
考えていた後日談や設定をお蔵入りにするのは嫌だという、もったいない精神が暴走してスレを立ててしまいました。
長々とやるのも未練がましいので、短期でさくっと終わらせる予定です。
ターミナルを読んでくださった方で、余計なことを書かれたくない方以外は、暇潰しに覗いてくださると有難いです。
それと、書きたい話はあとふたつですが、他に何か読みたい話があれば書きますので何でもどうぞ。
なかったらなかったで普通にやりますが、あまりに短いと、何となくスレが勿体ないので……
では、もう暫くの間、よろしくお願いします(*゚ω゚)ノシ
13: 名無しさん@読者の声:2012/1/25(水) 16:37:56 ID:0Xtugb9Fpc
ひととせさん、乙です。昨日、本編読ませて頂いたところでした。余韻の残っている今、番外編をリアルタイムで見られるなんて…!これからも、ガンバって下さい。CCC
14: 名無しさん@読者の声:2012/1/25(水) 16:55:02 ID:6aJeFT4DVQ
番外編きたあああっ(´;ω;`)
ひととせさん、おつおつです!
テスト勉強なんてポイして見させていただきますっ
つCCCCCC
15: 名無しさん@読者の声:2012/1/25(水) 18:23:01 ID:8l/Duq4nXw
支援支援!!!
16: 名無しさん@読者の声:2012/1/25(水) 18:34:43 ID:dfHWUS6auQ
支援!!
これから書くつもりだったら
ごめんなさい。
尾上を殺してしまった男の子の心境、男の子側のストーリーが読みたいです。
17: 名無しさん@読者の声:2012/1/25(水) 20:04:25 ID:Fob/PLgz0E
全力支援!!
ついさっき本編読み終わった者です。
小説を食らいついたように貪り読んだのは久しぶりでした。
最近はめっきり本も読まなくなり、ネットで偶然こんな神様みたいな作品に出会えるとは!
エピローグ本当に楽しみにしてます!!!!
18: 名無しさん@読者の声:2012/1/25(水) 21:21:19 ID:o4SekG.7js
まだ……まだレス数が789も残ってただろぉぉぉぉぉぉぉがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!
19: ひととせ ◆EOQ3BRAmq.:2012/1/25(水) 21:36:52 ID:wKwNii9EEI
>>13
読んでくださったんですか!(*゚∀゚)
支援ありがとうございます。こちらもリアルタイムで書きながら頑張りますw
>>14
ちょwwテスト勉強頑張ってwww
支援ありがとうございます!
>>15
支援ありがとうございます!頑張ります(´∀`*)
>>16
支援とリクエストありがとうございます!
正直すごく嬉しいです……あの話は、自分でももどかしいくらいに曖昧にしてしまったので……
全力で書かせて頂きますね(*´ω`*)
>>17
そんな風に読んで頂けたとは感激です!
これでまた、たくさん本を読んで貰えたら嬉しいなーとか(*・ω・`)
期待に応えられるよう頑張ります!支援ありがとうございました。
>>18
実はこういう訳なのです(´・ω・`)
http://llike-2ch.sakura.ne.jp/bbs/test/mread.cgi/ryu/1327088489/31
何にせよもう立ててしまったので、暫くはこのままやらせて頂きますね。
20: ひととせ ◆EOQ3BRAmq.:2012/1/25(水) 21:51:54 ID:c.gYySYfy6
番外編なのにたくさんレスを頂けて、正直驚いております((;゚Д゚)))
これは物語が埋まらないようたくさん投下しろというお告げですね!
現在>>16さんのリクエストを書き始めています。
明日の投下までの進み具合で、葵ちゃんを殺した男の子の話を先にやるか、ある程度書き溜めのある結さんの話を始めるか決める予定です。
できれば男の子の方を先に書きたいけど……どうなるでしょうか、まだ分かりません。
リクエストはまだまだ言って頂ければ書きますので、よろしければどうぞ。
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