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ターミナルの神様/epilogue
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1: ひととせ ◆EOQ3BRAmq.:2012/1/25(水) 16:15:39 ID:aLkl3hdfUg
・この作品は「ターミナルの神様」の番外短編集です。

・ものすごく多大なネタバレを含んでいますので、本編を読まれていない方はご注意ください。

・本編同様作者はsage進行ですが、レスの上げ下げはご自由にどうぞ。

・蛇足です。ていうか補足です。無理して読む必要はありませんから、閲覧は自己責任でお願いします。

・蛇足です。


131: ひととせ ◆EOQ3BRAmq.:2012/1/29(日) 15:24:56 ID:VMnJaffQ7E
再会した光くんは雰囲気や、顔つきも変わっていて、すぐには分からなかった。

俯いた表情はすさんでいて、曖昧な言葉の奥には痛みが滲んでいた。

家庭教師をしていた頃は、きらきらとした笑顔が眩しくて、そのまっすぐさが羨ましかった。

だから望みを、託して、別れたのに。

「じゃあぼく、もういいやあ」

男の子が満足したように笑う。

そして彼は長椅子から飛び降りると、ばいばいと手を振ってどこかに走り去った。
132: ひととせ ◆EOQ3BRAmq.:2012/1/29(日) 15:25:31 ID:VMnJaffQ7E
辛かった、苦しかった。

でも復讐できなかったのは、多分まだ、あの子を見限っていなかったから。

どれだけ甘いんだろう。

どれだけ損をしているんだろう。

それでも私は、きっと間違っていない。

「……あ、」

視界を横切った人に、思わず声を上げる。

呼び掛けに気付いて振り向いたのは、案内事務所にいた彼だった。

「尾上さん」

「こんにちは、ええと、」

「中谷です。中谷憩」
133: ひととせ ◆EOQ3BRAmq.:2012/1/29(日) 15:26:00 ID:VMnJaffQ7E
「……中谷君。この前は、どうも」

自分から声をかけたものの、年甲斐もなく大泣きしてしまった手前少し恥ずかしい。

何となくきまり悪くて小声で言うと、中谷君はいいえと優しく首を振った。

「今日は事務所じゃないの」

「はい。俺、クビにされちゃいました」

「えっ」

そんな軽いノリでと驚くと、中谷君が面白がっているように笑う。

「進むことに、決めたんです」

背中を押して貰った。

そう語る中谷君は少し寂しそうで、でも明るい顔をしていた。
134: ひととせ ◆EOQ3BRAmq.:2012/1/29(日) 15:26:31 ID:VMnJaffQ7E
「尾上さんは、どうされるんですか」

中谷君が尋ねる。

私は一瞬だけ言葉に詰まった。

理不尽に殺されて荒んだ気持ちで、成仏なんてできるはずがないと思っていた。

だけど、もしかしたら、今なら。

「……私も、前に行かなきゃならない」

思いを口に出してみると、中谷君は安堵したように、はい、と言った。

「結さんなら事務所にいますよ。切符を貰って、いちばん奥のホームに行くんです」
135: ひととせ ◆EOQ3BRAmq.:2012/1/29(日) 15:27:03 ID:VMnJaffQ7E
中谷君が事務所を指差す。

あの場所で私は泣いた。

あんなに感情を表に出したのは、久し振りだったかもしれない。

「ありがとう」

礼を言って、静かに微笑む。

あんな子供のような癇癪ではなくて、もっと穏やかな感謝を、今度は正直に表すことができるだろうか。

中谷君は満足したように頷くと、じゃあ、と言って軽く頭を下げた。

「さようなら」

「さよなら、……」
136: ひととせ ◆EOQ3BRAmq.:2012/1/29(日) 15:27:41 ID:VMnJaffQ7E
改札へ遠ざかる中谷君の姿を見送って、今後のことを考える。

まずはあの人に、謝りに行こう。

とても良くしてくれたのに、終始失礼な態度ではね除けてしまった。

そうしたら、さっきの男の子のことを話すんだ。

思ったことも全て、きっとあのときと同じ視線で聞いてくれるだろうから。

そして最後に、切符を貰おう。

今なら先に、行けるような気がした。

分かりきっていた、もう戻れないなら、私がすべきことはひとつだけ。

顔を上げて、もう一度前に進むんだ。






番外編5:光の差すほうへ おわり。
137: 名無しさん@読者の声:2012/1/29(日) 15:50:34 ID:sI.hF1SVaE
ここ読んでるとミルクティーが飲みたくなる

ひととせさんのペースで無理せず書いてください

支援
138: 名無しさん@読者の声:2012/1/29(日) 16:46:02 ID:0KNXJgXIeE
電車の中で読むんじゃなかった…(´;ω;`)

つCCCCC
139: 53:2012/1/29(日) 20:09:30 ID:mTdLBohn9A
53ですが宮田さんと葵ちゃんのお話を書いてくださってありがとうございました!
とても気になっていたので切なくなりながらも読ませていただきました。
お二人だけでなく、全ての人の行く先が輝きで満たされていますように。
140: ひととせ ◆EOQ3BRAmq.:2012/1/30(月) 19:49:39 ID:VMnJaffQ7E
>>137
っ【ミルクティ】ソッ
支援ありがとうございます(´ω`*)ゆっくりやらせて頂きますね。

>>138
電車の中って落ち着きますよね。好きです。
支援ありがとうございました!

>>139
こちらこそ、リクエストありがとうございました。
読んで頂けてすごく嬉しいです。
それぞれに報われる未来が待っていますよう、作者としても願っています。



皆さん、たくさんのリクエストをありがとうございました。
番外編のリクエストはこれにて締め切らせて頂きます。
明日の更新が「ターミナルの神様」番外編の最後になります。

今日は>>120さん、>>121さんのご希望で彰さんのその後です。
ひとつの物語というより、明日の更新分への布石のような感じです。
では今日の更新に参ります。
141: ひととせ ◆EOQ3BRAmq.:2012/1/30(月) 19:51:39 ID:SclZQjm4pU
じりじりと照りつける太陽が肌を焼く。

見上げた空は鮮やかな青色をしていて、灰色の視界とのコントラストが眩しい。

蝉の声がけたたましく響く中、立ち上る線香の香りが鼻についた。

汗ばむ手のひらを合わせると、僕は静かに目を閉じる。

「長峰」

目の前に語りかけてもあるのは墓石だけで、誰も何も、答えてくれない。

「君まで先に、行ってしまうんだね」

責めても何にもならないことは、二十年以上前から知っていた。






番外編6:ピリオド
142: ひととせ ◆EOQ3BRAmq.:2012/1/30(月) 19:52:18 ID:SclZQjm4pU
献花の包装紙やライターをまとめて袋に入れると、僕は立ち上がる。

袋を片手に、桶をもう片方の手に持って、僕は長峰の墓を離れた。

毎年恒例の盆の墓参りに、彼の墓が加わったのは今年からだった。

皆、僕を置いて行ってしまう。

取り残された悲しみに嘆くことはあれど、生憎と至って僕は健康体。

こんなことなら誰かと再婚しておけば良かった、なんて冗談混じりに苦笑する。

結、君は妬いてくれるかい。

もう他の人と生きることなんて、できないのだろうけれど。
143: ひととせ ◆EOQ3BRAmq.:2012/1/30(月) 19:52:47 ID:SclZQjm4pU
山の斜面に作られた墓地は、坂道と段差が多い。

鬱蒼と茂る木陰を抜けて、墓石に溶け込む石造りの階段を上る。

この年になると、体力が落ちて長い上りはきつくなってくる。

荒くなる息を吐き出して見上げた道の先は、空に続いて、天国のように見えた。

同じ場所に、早く。

そう焦がれ始めたのは、憩が死んだ後くらいだろうか。

「おじさん」

墓地を出たところで会ったのは、息子の昔の恋人だった。
144: ひととせ ◆EOQ3BRAmq.:2012/1/30(月) 19:53:18 ID:SclZQjm4pU
墓所前のバス停に降り立った加奈ちゃんは、礼儀正しくぺこりと頭を下げた。

「加奈ちゃんか。墓参りに?」

「はい。うちのじいちゃんと、憩の」

彼女とまともに話したのは、憩が死んだ後だった。

皮肉なものだと思う、それまでも話は聞いていたけれど、肝心の息子がいなくなってから知り合うなんて。

「おじさんは、今帰りですか」

「うん、そう」

走り去るバスを気にしながら、ごく普通の会話を交わす加奈ちゃんの、精神が未だ不安定なのを僕は知っている。

とはいえ事故の後は、僕もなかなか酷いものだったけれど。
145: ひととせ ◆EOQ3BRAmq.:2012/1/30(月) 19:53:43 ID:SclZQjm4pU
「寂しくなるものだね、周りの人間が次々に亡くなってしまうと」

ふいにその頃の気持ちが蘇って口を開く。

先立たれた者同士、こんなに若い女の子だけれど、仲間意識があったのかもしれない。

加奈ちゃんは少し表情を曇らせて、そうですね、と呟いた。

「加奈ちゃんが娘になってくれたら良かったのにな」

馬鹿なことを言ってしまったと、僕は代わりに冗談を言う。

「養子縁組でもしますか」

「あ、それいいね。うちの子になるかい」

「あはは」
146: ひととせ ◆EOQ3BRAmq.:2012/1/30(月) 19:55:04 ID:wKwNii9EEI
ひとしきり笑った後で、加奈ちゃんの表情がふっと陰る。

「三年、経つんですね」

やはり話題を引きずっていたらしい。

「寂しいかい」

「少し」

控え目に肯定する彼女は、痛いほどに純粋だ。

悲しみは悲しみのままに、綺麗な思い出に昇華させることにも躊躇って。

でも僕よりも、ずっと若い。

「加奈ちゃん、君には未来がある」
147: ひととせ ◆EOQ3BRAmq.:2012/1/30(月) 19:55:35 ID:wKwNii9EEI
僕は彼女を見据えた。

ハンカチで汗を拭う加奈ちゃんが、僕に視線を戻す。

せめてこの子には、僕のようになってほしくないから。

「きちんと違う人と、幸せになりなさい」

彼女の叔父夫婦から聞いていた。

まだ気持ちが不安定で、荒れることがあるのだと。

今は笑顔でいても、人を近付けずに、心を閉ざしてしまっているのだと。

加奈ちゃんは、静かに僕を見上げていた。

「できません」
148: ひととせ ◆EOQ3BRAmq.:2012/1/30(月) 19:56:01 ID:wKwNii9EEI
加奈ちゃんはきっぱりと言い切ると、おじさんも同じでしょう、と続ける。

「じゃあ何で、おじさんはまだひとりなんですか」

責めているような口調だった。

僕は弁解するように、袋を持ったまま両手を上げてみせる。

「機会がなかったんだよ。この年で今更、というのもね」

立ち直るタイミングを逃してそのまま、ずるずると。

おかしな形に癒着した心を、今更切り離すのは苦痛を伴う。

もしちょうど良い人が現れて、僕の隣で生きると言ってくれたとして、果たして僕は満たされるだろうか。
149: ひととせ ◆EOQ3BRAmq.:2012/1/30(月) 19:56:26 ID:wKwNii9EEI
「僕はもう、いいんだよ」

生きている君が幸せになってくれたら、それで。

僕が笑うと、加奈ちゃんはまだ何か言いたげにしていた。

分かっていた。

だからこそ僕は言わせなかった。

「……行かなくていいのかい」

僕はわざとらしく加奈ちゃんを促す。

加奈ちゃんは恨めしそうに僕を睨むと、それでも素直にじゃあ、と会釈をして墓に向かって行った。

一方的にエゴを押し付ける僕を許してほしい。

バスが来るのを待ちながら、僕は小さく自嘲混じりの懺悔をした。
150: ひととせ ◆EOQ3BRAmq.:2012/1/30(月) 19:56:52 ID:wKwNii9EEI
今更変わることは、僕にはもう難しい。

過去を懐かしんで振り返ることしか、僕はできそうにない。

だからこそ、君に望みを託したんだ。

君がいつか救われたら、そのときが僕の終止符になるだろう。






番外編6:ピリオド
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