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猫又「聡依殿っ」
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1: :2011/12/22(木) 21:41:43 ID:wu5lOnqMeM

初めてSSを書かせてもらいます。
一応江戸時代が舞台ですが、勉強不足なもので変なとこもあるかも。
そういうところは、SSだから!と広い心でスルーしてください。
幼稚な文で申し訳ないですが、そこもSSだから!とスルーしてください。
以上のことが大丈夫なイケメンであれば、最後までお付き合いください。

読みづらかったらごめんねっ!


634: :2012/3/14(水) 01:09:35 ID:Z.rFMziDCI

その言葉に深くため息を吐き、聡依が顔を手で覆った。ひどく脱力してしまったらしい。そんな彼を気遣いながら、少女はすまんな、ともう一度謝る。

「いや、いいよ。なんだかそんな感じもしたし」

乾いた笑い声を響かせ、聡依は彼女にそう言った。そうか、と少女は応えるが、未だに申し訳なさそうである。

しかしねぇ、と呟きながら、聡依は少女に目をやった。

「なんであんなことを? 猫たちの間じゃ、猫が食べられているって噂になってたよ?」

「猫を食べる? 僕にそんな趣味はない」

「だろうね。だけど、猫を集める趣味はあるのかい?」

635: :2012/3/14(水) 01:10:03 ID:Z.rFMziDCI

少女は聡依を鼻で笑った。まさか、と首を振り、小さくため息を吐く。

何やら込み入った事情でもあるのか。聡依は少女の言葉をじっと待っていると、彼女はやや疲れた顔で、言葉を紡ぎ出した。

「妙な結界が張られてから一月。まぁ、それまでも暇だったんだがね。ここから出られなくなって、ひどく退屈していたんだ。そうしたら、妙な猫がやって来て、北側の猫をみんな山に閉じ込めてくれないか、と言ってきた。その報酬は何でもくれると。笑ってやったよ」

南北猫戦争か、と聡依は思い当たった。

彼女は鼻を鳴らし、うんざりと呟く。


636: :2012/3/14(水) 01:10:55 ID:6HFVrt4Uww
今日はこの辺で
ノシノシ
637: :2012/3/15(木) 00:42:09 ID:xZgsXzpN3.
今日も投下していきますねー(´ω`)
638: :2012/3/15(木) 00:44:02 ID:8EzdbQEYJk
「だけど、退屈だったんだ。そんなくだらないことにも頷いてしまうほど」

「退屈、ねぇ」

先程から何度もはかれる退屈、という言葉。それは寂しかった、の間違いではないのか。

聡依は彼女を窺う。少女は聡依を支えながら、俯き、こちらを見てはいなかった。

「もうあんなことはやめるよ。僕はね、もともと報酬なんて要らなかったんだから」

結界が解ければ、猫も返せるさ。彼女は小さな、小さな声で呟いた。


639: :2012/3/15(木) 00:44:34 ID:8EzdbQEYJk

僕も困ってたんだ、と言葉を付け足す彼女に、元気はない。聡依は軽く眉を上げ、その様子をただ黙って眺めていた。


「ここだよ」

彼女が指差した所には一本の木が。その幹に何やら妙なものがくくりつけられている。聡依は目を細め、首をかしげた。

「見たこと、ある?」

「いや……、ないよ」

よく見るような札ではない。陰陽道系なのだろうか。細かい花のような細工のそれを手に持ち、聡依はますます首をかしげた。

彼女はそんな聡依を訝しげに眉をひそめ、眺めている。

「触れるのか?」

「ん? あぁ、ちょっと嫌な感じはするけどね。今は体の方が痛いし、気にならないよ」

これでも一応は人だし、という言葉に苦笑いを添える。少女は何も言わず、ただ聡依の傍らに立っていた。

640: :2012/3/15(木) 00:45:07 ID:8EzdbQEYJk

その場に腰を下ろし、聡依はその細工を解き始めた。少女は彼の体を支えようと、その背に背をつけて座る。ちらりと瞳だけを動かし、小さな声で聡依は礼を呟いた。

「あんたは触れられなかったのか」

何かそういうものでもあるのかもしれない。彼女が頷くのが、振り向かなくてもわかった。

聡依は紙でできたそれを解いていく。まるで飾りのようなそれは、随分と器用な人が作ったのだろう。引き千切ってもいいのだが、後が怖い。

暇人め、と苦笑いをこぼしつつ、彼は地道に手を動かしていった。

「解けそうか?」

「うーん、たぶん」

通して引いて、慎重に。それにしても、解いている内に気がついたが、どうやら一本の紙切れでできているらしい。捻ってあるものの、よく千切れずにこんな細かいものができたな、と妙に感心してしまう。

「これ、この周りに4つあるんだが、全部解くのか?」

少女の声が背中に響く。くすぐったいその感触に、聡依は小さく笑いを漏らした。彼女が不思議そうに首をかしげているのがわかる。

641: :2012/3/15(木) 00:45:34 ID:8EzdbQEYJk

「いや、多分さ、4つでぐるっと結界を張ってるはずだから。1つ解けば問題ないと思う。まぁ、ダメだったらもう、全部引き千切るよ」

「気の短い男だな」

少女が聡依を鼻で笑った。彼はそれに苦笑いを返し、また黙々と手を動かす。少女も何も言わず、ただ聡依に背を預けていた。


耳が痛いほどの沈黙が、二人を包む。程好く冷えた夜の空気は、息を吐けば白く色づいた。

「それにしても、随分と静かだね」

固くなってしまったところに苦戦しながら、聡依が呟く。うん? と、柔らかな声が聞こえた。

「そりゃここにいるのは、僕と動物くらいだからな」

ふうん、と相槌を打つ。ちらりと後ろを窺ったが、彼女の顔は見えなかった。細工に目を戻し、一瞬迷ってから再び口を開く。

「人恋しくない? こんなところに一人で」

「人恋しい? まさか」

ハッと、少女は聡依をバカにするように笑った。小さく何度か首を振りながら、馬鹿馬鹿しいと呟く。

「人なんかと馴れ合ってどうする。僕はこの山の主だぞ?」

642: :2012/3/15(木) 00:46:03 ID:8EzdbQEYJk

「あっ、そうだったんだ」

拍子抜けするほどあっさりと言った聡依に、少女は目を向いた。この男の呑気具合に呆れ返ったのだろう。それから気を取り直すように小さなため息を吐き、少しだけ寂しそうな目で、空にポカリと浮かぶ月を見上げる。

「誰かにいてほしいなんて思ったことはないさ。お前たちは貧弱で、それから凄まじく自分勝手だ。永遠なんてあり得ないのに、平気な顔でそう口にする。」

それは聡依に向けられた言葉にしては、妙なものだった。相槌を打ちながら、誰のことを言っているのだろう、と思案を巡らす。もちろん考えてもわかるはずかないのだが、考えずにはいられなかった。

「お前たちは僕のことなんか忘れる。何かあったときだけ、僕を頼る。ずるい、ずるくてそして、……ずるい」


643: :2012/3/15(木) 00:46:47 ID:xZgsXzpN3.

ずるい、を三度重ねた彼女は、言葉に飢えていた。どんな風に言えばいいのかわからない。もしくは、分かっているけれどその言葉を口に出したくない。そんな戸惑いが、背中越しに伝わってくる。

「でも、僕はお前たちのことなんか忘れられない。お前たちが忘れても、僕らはずっと覚えている。だから、お前たちはずるい」

深いため息が聞こえてきた。聡依は何も言わず、ただ黙々と手を動かすのみ。

徐々に小さくなる飾り。この作業もそろそろ終わりに近づいてきていた。
644: :2012/3/15(木) 00:47:47 ID:xZgsXzpN3.

一瞬、部屋の中が静まり返った。固唾を呑む暁に、余裕のある笑みを浮かべたままのさとり。

彼は卓上の湯飲みを撫でると、不意に口を開いた。

「私は悪戯ばかりするどうしようもない妖でした。人にさとりの目を与え、その反応を見て弄んだり。私が一生を狂わせてしまった人もいました。そんな私を退治しに来たのが、主でした」

退治に来たはずが、気が付けば彼の憑き妖にされていたのだという。随分と強引で、自分の意見など全く聞き入れてくれなかった。彼は苦笑いをこぼしながら、そう呟いた。

「私は断ることを諦め、仕方なく彼の憑き妖になりました。思えば、そういう作戦だったのかもしれませんね」

否定をすれば怒鳴られ、反対をすれば嫌がられる。常に一方的に押し付けられ、彼を心の底から恨んでいた、とさとりは言った。

彼は目の包帯を触り、これも主に言われたのだと明かす。


645: :2012/3/15(木) 00:49:18 ID:xZgsXzpN3.

「人というのは、こんなにも嫌な生き物なのかとうんざりとしていました。しかし、知らぬ間に私は人を好きになっていました。主に苛められる私が可哀想だったのでしょう。周りの人は、とても優しかった」

主以外の人はみんな仏のように思えた、とさとりが漏らす。目を丸くしている暁に、彼は陽気に微笑んだ。

「彼は私によく、人は好きかと尋ねました。私はそれに、あなた以外の人は好きだと返していました。するといつも笑うのです。よくよく考えると、あの顔は策に嵌まる私をバカにしていたのでしょう。とても愉快げでした」

そんなことを言うさとりの顔はとても穏やかだった。

ふと、暁は夢売りのことを思い出す。そしてろくろ首のことも。彼らは一様に、自分の主の話をするとき、穏やかな顔をした。自分はどうなのだろうか。そんな、疑問にぶつかる。

「嫌なことはたくさんありました。それでも、一人、人に悪戯していた頃よりは断然穏やかで、幸せな日々でした。そんなある日、主が亡くなりました。まだ、30になったばかりでした」

646: :2012/3/15(木) 00:50:03 ID:xZgsXzpN3.
中途半端ですが、今日はこの辺で
ノシノシ
647: :2012/3/16(金) 00:50:18 ID:OV6VKvhVKQ
今日も投下していきますねー
648: :2012/3/16(金) 00:52:20 ID:RGhT0WXoMQ

「30で……」

思わず漏らした暁に、さとりは軽く頷いた。確か、先代の春芳も20代の内に亡くなっている。

まさか、と暁の口が動いた。声が、でなかった。

「お察しの通り、結び人は短命な方が多い。稀に人並みに生きる方もいますが、大抵は急ぎ足でその生涯を遂げてしまう。理由はわかりません。私が、教えて貰いたいくらいです」

さとりは自嘲的な笑みを浮かべ、軽く頭を振った。短命である、その事実に、暁は動けない。

「彼は私に手紙を残してくれました。それには色々なことが書かれていました。今までの態度を詫びる言葉、彼の本音、それから最初で最後の、頼み」

先ほども聞いた言葉だった。最初で最後の頼み。

さとりはそれを言うのを躊躇しているのだろうか。少し苦い笑みを浮かべ、すっかり冷めてしまった湯飲みに手を伸ばす。暁は口を挟むことなく、ただ彼の言葉を待った。

649: :2012/3/16(金) 00:53:05 ID:OV6VKvhVKQ

「それはこれから生まれるであろう結び人を支えてくれ、というものでした。しかし、私にそれはできません。理由はわかるかと思いますが、私はあくまでも初代だけの憑き妖だからです」

優しい表情が、さとりの顔に浮かんだ。暁はゆっくりと頷いて見せる。言わんとしていることは、よくわかった。

「ですが、言われたことを放っておくこともできません。だからせめて、私はこうして妖の支えになろうと思ったのです」

結び人を支える憑き妖を。目を伏せたさとりがそう呟く。暁はそれに黙って頷き、続きを促した。

「今まで話していて何となくわかっていただけたかもしれませんが。このように、私たち、憑き妖と結び人の関係というのは、彼らが死ぬまでのものではありません。彼らは何かしら、私たちに遺していきます。それは私の主のように頼みであることもありますし、単なる思い出かもしれません。しかし、それらは必ず、私たちを縛ります。いつになるかわからない、私たちの死ぬときまで、ずっと」
暁は何も言えず、俯いた。さとりの言葉はよく分かる。

ろくろ首も、夢売りも、彼が今まで見てきた憑き妖は皆、自分の主のことを忘れてなどいなかった。

650: :2012/3/16(金) 00:53:46 ID:RGhT0WXoMQ

200年も経ったというのに、未だに先代に執着する夢売りの姿が目に浮かぶ。
自分だけは大丈夫だと言える自信はなかった。

もし、聡依がいなくなったら? もし、彼が自分に何かを言い残したら? 聡依本人がいないこの世で、それを全うすることなどできるだろうか。考えるだけで、寂しさで気を違えそうになる。

「もちろん、結び人の中には何も頼まず亡くなられる方もいました。そちらの方が多いかもしれません。しかし、役目がないのもまた辛いこと。今更自分のために生きろと言われても、私たちには空しいだけなのですよ」

黙ったままの暁に、さとりはやや冷たい口調で告げた。

「こんなことを言うと、怒られるかもしれませんが、あなたにも選ぶことが出来ます」

「え?」

「あなたは無理をして憑き妖でいる必要はないということです。ただの猫として彼のそばにいることだって、できるのですよ」

651: :2012/3/16(金) 00:54:36 ID:RGhT0WXoMQ

その言葉に、暁の心臓が大きく跳ね上がった。なぜだろう、一度望みもしたことなのに体が強張る。ここでそうしますと言ってしまえば、どれだけ楽なのだろうか。それでも……。

膝の上で震える両の手は、彼に答えを教えていた。彼自身も、それをよくわかっていた。だから、俯いたまま首を振る。目を上げれば怯えているのがさとりにばれてしまいそうな気がして、それもまた怖かった。さとりが怪訝そうな顔をしているのが、何となく伝わってくる。

暁はギュッと強く目を閉じ、それからゆっくりと顔を上げた。恐る恐る目を開け、さとりを見つめる。その頃には、もう、怖じ気も怯えも消えていた。

「もう、今更無理です。あっしは死ぬまで猫又なんです。だから、今更猫に戻ることなんかできません。それはつまり、どう足掻いても聡依殿より長く生きるということです。そして彼の思い出も言葉も、抱えて独りになるということです」

暁の言葉に、さとりはゆっくりと微笑んだ。そこに、先ほどの冷たさは感じられない。むしろ、わずかだが嬉しさすら滲んでいるようだった。

「どうせ同じなら……、あっしは聡依殿が望んでくれた形で一緒にいたいです。それにもう、今更聡依殿から離れようなんて思いもしませんよ」

652: :2012/3/16(金) 00:55:11 ID:RGhT0WXoMQ

一瞬でも迷った自分がアホらしかった。暁は自分を笑い、しばらくそのままさとりを見つめる。さとりはじっと彼を値踏みするように見つめ、やがて、浅い息を吐き出した。

「こんなことを私が言うのは可笑しいですが……、人というのは、本当に魔性の生き物ですね」

「魔性?」

言葉の意図がわからず、思わず声に出して繰り返す。さとりはそれを軽く笑い、頷いた。

「えぇ、魔性、です。彼らは不思議ですね。私たちにとんでもない物を植え付けて、私たちより先にいなくなってしまう。なのに、一度関わったら忘れることができない。……、とんだ魔物です」

その辺の妖なんかより数倍質が悪い、とさとりは苦笑いをこぼした。まったくだ、と暁も賛同する。

軽く呆れたように首を振りながら――彼が一体、誰に呆れているのかは分からないが、さとりは深くため息を吐き出した。

653: :2012/3/16(金) 00:55:44 ID:OV6VKvhVKQ

「私たち妖は、生まれた瞬間から忌み物のようなものです。誰かに優しくされたことなど無い。温もりを与えてもらったことも、目をかけてもらったことも……。一度でもそれを与えられてしまえば、一体どうして忘れることができるのでしょうか。忘れることなんかできませんよ。人、というのはひどく優しい。だけど、それ以上に残酷ですね」

暁はそれに頷くことが出来なかった。元々猫だった彼は、人に愛されて育ってきた。元から妖だったわけではない。生き物の延長としつ、彼は妖になったのだから。

それを分かっているのだろうか。さとりはそれ以上、何も言わなかった。

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