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猫又「聡依殿っ」
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1: :2011/12/22(木) 21:41:43 ID:wu5lOnqMeM

初めてSSを書かせてもらいます。
一応江戸時代が舞台ですが、勉強不足なもので変なとこもあるかも。
そういうところは、SSだから!と広い心でスルーしてください。
幼稚な文で申し訳ないですが、そこもSSだから!とスルーしてください。
以上のことが大丈夫なイケメンであれば、最後までお付き合いください。

読みづらかったらごめんねっ!


654: :2012/3/16(金) 00:56:20 ID:OV6VKvhVKQ


どこか遠くで鐘の音が聞こえる。ふと、そとに目をやれば、薄い藍色が広がっていた。

さとりも暁も全く気が付かなかったが、部屋の中も薄暗くなっている。知らぬ間にかなり時間は過ぎて行っていたようだ。

「もうこんな時間ですか」

さとりも思わず声を漏らした。それに適当な返事をし、暁はぼんやりと空を見つめていた。

なぜだか、ひどく頭が疲れている。泣きすぎた次の日のように、頭がずっしりと重たく感じられた。

「私もそろそろお暇しませんとね」

さとりの言葉に、緩慢な動作で暁が目を戻す。こちらをじっと見つめたままの彼は、にっこりと暁に微笑みかけた。

「あの」

「はい、なんでしょうか」

「1つだけ、訊いてもいいですか?」

655: :2012/3/16(金) 00:58:56 ID:RGhT0WXoMQ

「えぇ、1つと言わず幾らでも」

その優しげな口調に甘え、暁は頷く。

しかし、訊くことは1つしかなかった。それは最初の方であっさりと流されてしまい、だがずっと気になっていたこと。若干不安もあるが、意を決し、口を開いた。

「聡依殿の憑き妖は、本当にあっしでいいんでしょうか」

一瞬、さとりはキョトンとした顔で暁を見つめた。その間に、暁の不安は膨れ上がる。

やっぱりダメなのか、と怯えに身を震わせていると、不意にさとりが声をこぼして笑い始めた。

予想外の反応に、暁は眉をひそめて彼を怪訝そうに窺う。

「いやいや、すみません。驚いてしまいまして……、ね」

驚いたのはこちらの方なのだが。しかし、莞爾と笑う彼に文句を言うこともできない。暁は間の抜けた声で返事をするだけで精一杯だった。

656: :2012/3/16(金) 00:59:14 ID:OV6VKvhVKQ

満足するまで笑ったさとりは、緩んだ口元を引き締めると、改めて暁と向き合う。暁もその真面目な雰囲気に、緩んだ気が引き締まるのを感じた。

「憑き妖にとって、大切なことは1つです」

さとりはとても穏やかに笑みを浮かべて言った。

「結び人がその妖を嫌いでないこと。そして、妖が結び人を嫌っていないこと」

その声はとても優しく響く。激しく揺れていた心が、不意に凪ぐのを感じた。

「ただ、それだけです」

657: :2012/3/16(金) 00:59:38 ID:OV6VKvhVKQ
今日はこの辺で
ノシノシ
658: :2012/3/16(金) 23:02:14 ID:GnN7FW4ixc
今日もとんとんと投下していきますねー
659: :2012/3/16(金) 23:04:16 ID:TMbkzyCM06

「まだ終わらないのか」

背の向こう側から、文句が聞こえてきた。

愚痴のような言葉を吐いたことを後悔しているのだろうか。聊か不機嫌に響く声に、聡依は苦笑いをこぼす。


山の主、というやつは想像しているよりもずっと自分勝手な生き物かも知れない。人といい勝負だな、と思いながら、後ろにちらりと目をやる。

「うん、もうちょっと。ごめんね、不器用で」

「全くだ」

嫌味のつもりで言った言葉をそのままの意味で解釈されたらしい。ますます顔に広がる苦い笑みに、聡依はため息を付け加えた。


660: :2012/3/16(金) 23:05:03 ID:GnN7FW4ixc

「それにしてもお前はうるさい男だな。男たるもの、寡黙な方がいい」

「それって偏見だよ。寡黙だとね、こう、取っ付き難いところがあるでしょ?」

「それこそ偏見だ」

1を聞いて10を喋る男は信用できなあ。そんなことを少女は偉そうに言った。

それにしても、よく喋るものだ。お喋りだと自他共に認める聡依ですらも、彼女のお喋りには敵わないかもしれない。他人のことを言えるのだか、彼は肩をすくめる。

「しん、としているのが苦手なんだよね」

「また、なぜ」

「なぜって言われてもなぁ」

飾りに集中しているふりをしながら、聡依は胸の内側を振り返る。あまり見ない領域に放り込まれたその理由を摘まみ上げ、そしてやっぱりその場に放った。わざわざ口に出したいと思うほど、綺麗なものではなかった。

661: :2012/3/16(金) 23:05:43 ID:TMbkzyCM06

「たぶん、あんたが人のことをずるいと思うのと似たようなものだよ」

「曖昧すぎてさっぱり分からん」

「随分と弱い頭だね」

若干鬱陶しそうに返し、聡依はあからさまなため息を吐いた。それに少女がムッとしたのが、背中を通して伝わる。

「つまりあれか。思い出したくもない何か、ということか。沈黙如きに」

「そちらこそ、山の主さまの癖して人なんかに」

何故だか互いに痛いところをつつき合っているような状態になってしまった。腹を立てながらも、険悪な雰囲気に途方に暮れる。

揃いも揃って意地を張ることだけは得意な所為か、そのまま二人はしばらく口を開かなかった。

「黙っているとさ、他人の声が聞こえるようで怖いんだよ」

「は?」

不意に口を開いた聡依に、少女は怪訝な声を出す。それを少しだけ笑い、彼は少女に構うことなく言葉を続けた。

662: :2012/3/16(金) 23:06:35 ID:TMbkzyCM06

「こんなの笑っちゃうくらい、下らない妄想だって分かってるんだけどさ。他の人は皆、どこか離れた場所から私を見ていて、そして笑われているような気分になる」

「どこか離れた場所?」

首を傾げる気配に、聡依は困ったような声で唸る。どうすればいいか、と暫し悩んだ後、首を掻きながらこう言った。

「檻と言う感じがぴったりくるかな。私は檻に入っていて、周りに人がいる。自分だけが隔離されている。そんな感じ?」

「そんな経験でもあるのか」

聡依は肩をすくめて見せる。答える気はないようで、それ以上何も言わなかった。


少女はぼんやりと宙を眺めながら、聊か胸に広がる苦味を味わう。聞くんじゃなかった、という後悔と、もう少し聞きたい、という好奇心が肩を並べて座り込んでいた。

「もう少しで終わるよ」

長くなった紙の端を、聡依が振って見せた。少女はそうか、てぼんやりとした声で返事をする。上の空の彼女に、ムッとしながらも、聡依は再び細工を解く作業に戻った。

「私がこれを解いたら、また独りぼっち?」

不意にそんなことを問うてみた。あまり深い意味はない。ただ何となく、この山に一人なら、ぞっとするほど寂しいのだろうと思っただけだった。

その向こうの彼女は、そんな聡依を嘲笑う。


663: :2012/3/16(金) 23:07:16 ID:GnN7FW4ixc

「あぁ、そうだよ」

彼の言葉を馬鹿にしきった調子で、少女は答えた。それに聊か眉をしかめながらも、ぐっと黙り込む。

今更何を? 冷たい声は、人である聡依にそんなことを言っているように聞こえた。あくまでも、人である彼に。

「一人だって何も困ることはない。僕はただ、ここから出られなくて退屈していただけだ。猫だって要らない。一人で結構。むしろありがたいくらいだ」

意地で何とか保っているのだろうか。答える声が、言葉に反してどことなく震えているような気がした。

聡依は目を伏せ、自分の手に集中する。もう少しで、本当に解け終わってしまう。そんなところまで来ていた。

「嫌じゃないの?」

また、鼻で笑われる。しかし、背を合わせている聡依にはわかった。少女の背中が微かに震えていることが。

堪えなくてもいいのに。そう思いながらも、それを口に出すことに躊躇われた。私だって、いつかはいなくなってしまう。それなのに、一人にしないなんて言えるか? 言えるものか。口が裂けたって、言えやしない。

ギリギリと首を絞められているような気分だった。この少女はとても優しかった。とても好感をもてる態度ではなかったが、その言葉や行動には、眠たくなってしまうような優しさがたっぷりと含まれていた。


664: :2012/3/16(金) 23:08:06 ID:TMbkzyCM06

だからこそ、どうしたらいいのかわからない。あれだけずるいと言っていた彼女に、安易に約束などできない。

だけど、このままにしておけるほど、聡依の心は都合良くできてはいなかった。

「これが私の役目だからな。ちっとも悲しくない、辛くもない。ただ、甘受するのみだ」

甘んじて受け止める。それはまるで自身に言い聞かせているようだった。

聡依は言葉を探すのを諦め、そう、とつまらない返事をする。誰にでも言えるようなことだ、思わず自分の拙さを笑った。

「もう終わるのか?」

「うん、もう終わるよ」

むしろ、これで終わり。そう呟きながら、最後の結び目を解く。意外とあっけなく解けたそれを、聡依は掲げて見せた。

「上出来でしょう?」

誤魔化すように笑った彼に、少女も笑う。上出来、と彼女が答えた瞬間、その場空気が一変した。


何か溜められていたものが一掃されたかのように、急によく冷え、澄んだ空気が入り込んでくる。

それに驚いていると、不意に背の支えがなくなった。バランスを崩しかけた聡依は、何とか片手を地面に付き、体を支える。

文句を言おうと振り返ると、そこにいるのは『少女』ではなかった。

665: :2012/3/16(金) 23:08:49 ID:GnN7FW4ixc

「なっ……」

声がどこかに逃げ出してしまったらしい。目を丸くし、口をパクパクとさせている彼に、彼女は声を上げて笑ってみせた。

「ぼうっとして。みっともない」

声はそのままなのが、余計に気持ち悪い。顔を歪めたまま、聡依は笑われたお返しとばかりに、舌打ちを漏らす。

「妙に歳のいった声だとは思っていたんだよ」

「失礼な」

どう見ても20代であろう女が、そこに立っていた。纏う着物は薄い萌黄色。あぁ、山に似合うな、と色に見とれてしまう。

「さて、少年」

「少年だなんて。若く見えるってことかな? ありがたいよ」

「抜かせ」

呆れた顔と冷たい言葉が返ってきた。その反応は辛いなぁ、と聡依は苦笑いを浮かべる。

「気を取り直して、だ。第16代、緑青の結び人。青木、聡依だったな?」

「あれ、知ってたの」

きょとん、と呆けた顔をする聡依に更に重ねられる嫌み。

「お前は僕が誰かも知らずに、あんなにベラベラと喋っていたのか。呆れるな」

「嫌みな年増は嫌われるだけだよ。女の子、だから許されてたんだって」

彼女が般若の形相で腕を振り上げた。まったく、他人を怒らせることには長けている男だ。

666: :2012/3/16(金) 23:09:51 ID:TMbkzyCM06

一瞬、本気で殴られると思った聡依は、さっと片手で頭を庇い、目を瞑る。

しかし、しらばくしてやって来たのは想像とは違う感触だった。

「あれ、意外」

「意外、か。山の主は心が広いんだ」

「ふうん」

目を開けた聡依は、自分の頭を柔らかに撫でるその手を眺めた。彼女は優しく聡依を撫でながら、目を伏せて呟く。

「まぁ、助かった。こんなことを言うと馬鹿にされそうだがな、お前がいなかったら面倒なことになっていただろう。感謝している」

「まっ、私もあんたがいなかったらあそこで死んでいただろうし。その返はお互い様ということで」

にやっと笑った聡依に、彼女も愉快げな笑みを浮かべる。そして軽く頭を叩き、気を取り直したかのように背筋を伸ばす。

「さて、青木聡依殿。約束を果たそうか」

「約束?」

身に覚えのない聡依は首をかしげるばかりである。彼女は口の端を楽しそうに吊り上げ、そして彼を存分に罵倒した。

「このへちま頭が」

「は? へちま……? えっ、あっ、中身がスカスカって、ちょっ……!」

その意味に気がついた聡依が言い返す前に、ぎゅっと柔らかに抱き締められる。一度、息が詰まるほど背中が痛んだが、それも気がつけば無くなっていた。


ただ、驚くばかりの彼は不意に自分の瞼が耐えられないほど重たくなってきたことに気がつく。

それに抵抗しようとした時にはもう遅かった。何かに引かれるように、その意識を暗い世界にと沈めていった。


667: :2012/3/16(金) 23:11:18 ID:TMbkzyCM06
今日はこの辺で終わりです

(´ω`)ノシノシ
668: :2012/3/17(土) 22:55:43 ID:IE9FPZTe0o
今日もさくっと投下していきますねー
669: :2012/3/17(土) 22:58:07 ID:IE9FPZTe0o

太助が夕食を、と呼びに来ないのをいいことに、悟りと暁はしばらく雑談で時間を潰していた。

さとりの話し方が上手いのだろうか。どんな些細な話でも聞いている内に引き込まれてしまう。

中でもさとりと初代の話は凄まじく、彼の主がどんな人であったかが、身に染みてくるようだった。


「なんだか、恐ろしい人ですね……」

しみじみと呟く暁に、さとりは笑う。声をあげ、存分に笑い終えると、ゆっくりと首を振った。

「いやいや、単なる意地っ張りの見栄っ張りだったんですよ。あの頃は、そうですね。結び人ていうのも認知されていませんでした。だから、彼もただの胡散臭い奴にならないよう、必死だったのですよ」

「なるほど」

670: :2012/3/17(土) 22:59:44 ID:LIH9xLQmeE

それにしてもまぁ、凄い人だったんだなと感心する。
想像することしかできないが、最初の緑青の結び人だ。その地位を確立させるのに、相当な苦労をしただろうと思うと、さとりのように笑うことはできない。


部屋の中は和やかな雰囲気に包まれていた。二人はまたも時間を忘れ、下らないあれこれを話しだす。

今度は暁が聡依の話をし、さとりを笑わせていたりもした。


と、不意に襖が開き、太助が現れた。ようやく夕食か、とそろそろ空腹が痛くなっていた暁がホッと息を吐くと、怪訝な顔の太助が目に入る。


「どうかしたんですか?」

声をかけると、彼はやや眉を寄せ、軽く頷いた。ちらりとさとりの方にも目をやったが、今は気にしないことにしたらしい。

「聡依を知らないか? 屋敷のどこにもいないんだ」
「聡依殿が? 清次殿のところでは……?」

太助が首を横に振る。彼もそう考え、家鳴りを迎えにやったのだが、来ていなかったという。

暁は慌てて立ち上がり、太助のもとに駆け寄った。

「散歩に出た……、にしては長いですよね」

671: :2012/3/17(土) 23:00:47 ID:IE9FPZTe0o

聡依がこの部屋を出たとき、外はまだ明るかった。昼八つ(午後2時)を回った頃だっただろうか。

暁はわかっていながらも、外を確認する。日は、とうに暮れていた。

「一体どこに……」

太助の顔に不安が映る。それを眺めている内に、暁の胸にも嫌な予感が広がってきた。

なぜ、あの時声をかけておかなかったのか。なぜこんな時間まで、聡依を放っておいたのか。

様々な不安を、首を振って打ち消し、彼は太助に向かって告げる。

「ともかく探しに行きます。聡依殿が行きそうなところを適当に当たって見ますね」

「おっ、おう。あっ、でも行き違いになるかもしれんぞ」

今にも駆け出しそうな暁を、太助は慌てて止めた。やや鬱陶しそうな顔で助けを見た暁は、少し唸って考えると、早口で答える。

「聡依殿が戻ってきたら適当に教えてください。ほら、ろくろ首殿でも連れてきて、首を伸ばしてもらうとか。何でもいいんで」

暁が考えた方法を聞き、悟りが無遠慮に吹き出す。太助と暁は同時にそちらに目をやったが、特に反応しなかった。

こういうところは、聡依の普段の行動のお陰で慣れているのかもしれない。


672: :2012/3/17(土) 23:01:45 ID:IE9FPZTe0o

「お前なぁ……。まぁ、わかったよ。何とかして教える」

「頼みます」

軽く頷いて見せた暁は、急いで庭に飛び降り、門にと向かった。

その姿を見送る太助は、彼の機敏さに呆気に取られたままである。

「なんか、随分しゃきっとしてきたなぁ」

何気なく呟いた彼の言葉は、まだ頬を緩めたままのさとりに届いたらしい。

「それはいい」

にっこりと無邪気な笑みと共に、言葉が返ってきた。一瞬、きょとんとした太助は、庭からさとりに目を移し、誰? と呟く。

「どうも、さとりと申します」

「はぁ……、どうも」

今一つ状況の掴めない太助は、不思議そうな顔で首を捻った。


673: :2012/3/17(土) 23:03:42 ID:LIH9xLQmeE


よく知った声が聞こえた気がして、ゆっくりと目を開ける。目に飛び込んできたのは、随分と古い切り株。それに、見覚えがあった。優しい思い出も。


「おい、おいってば」

まだぼんやりとしている聡依の肩を、誰かが叩いている。うるさいな、と顔をしかめ、そちらを向くと、これまたよく知った顔がこちらを見ていた。

「清次さん、何をしてるの?」

「何してる、じゃないよバカ。こんな道端で寝て。布団で寝なさい、布団で」

「失礼な。私は寝てなんかいないよ」

「ねーてまーしたー」

そんな下らないやり取りをし、二人は互いに睨み合う。

先に折れたのは清次の方だった。彼は軽くため息を吐き、曲げていた膝を伸ばす。

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sage:


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