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猫又「聡依殿っ」
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1: :2011/12/22(木) 21:41:43 ID:wu5lOnqMeM

初めてSSを書かせてもらいます。
一応江戸時代が舞台ですが、勉強不足なもので変なとこもあるかも。
そういうところは、SSだから!と広い心でスルーしてください。
幼稚な文で申し訳ないですが、そこもSSだから!とスルーしてください。
以上のことが大丈夫なイケメンであれば、最後までお付き合いください。

読みづらかったらごめんねっ!


674: :2012/3/17(土) 23:04:36 ID:IE9FPZTe0o

「ほら、帰るぞ。今日はお前んとこで夕飯いただくからな。直介さんのことも聞きたいし」

「えぇー、面倒くさいなぁ」

中々起き上がらない聡依に、清次が手を差し出す。それを掴み、起き上がろうとした聡依は、背中の痛みに顔をしかめた。


先ほどより大分良くはなっているが、まだ鈍く痛む。それを感じると同時に、あの山の主のことを思い出した。

「どうした?」

途中で止まった聡依を心配したのだろう。清次が顔を覗き込んでくる。とっさにその視線を避け、聡依は何でもないと首を振った。


もう会えない。そんな気がした。むしろ、もう会わないと。人はもうこりごりだ、そんな彼女の呟きを聞いた気がした。

一瞬でも忘れていたことが苦い。もちろん、胸に抱える苦さは、それだけが原因ではないのだが。聡依は強く、唇を噛んだ。

「なんだ、体が痛くて歩けないのか」

「え? いや、そういう訳じゃ……、え?」

言い訳を重ねようとした聡依に、清次が黙って背を向けた。そのまましゃがみこみ、ほらほらと腕を後ろに向ける。どうやら背負ってくれるらしい。

聡依は少し躊躇するように視線を泳がせ、そして軽くため息を吐いた。まるで、仕方ないとでも言っているかのように。

675: :2012/3/17(土) 23:08:51 ID:IE9FPZTe0o

「落としたら承知しませんからねー」

「乗る奴が何を」

「大体、清次さんってそんな力あるの?」

「お前みたいな大福くらいしか重さのない奴、造作もない」

照れ隠しのついでに憎まれ口を叩きあい、聡依を背負って歩き出す清次。

その背の暖かさは、聡依が細工を解いているときにずっと支えていてくれた、あの温もりを思い出させた。今更だが、重かったのでは、と不安になる。

「月が冷たそうだなぁ」

ポツリ、と清次が呟いた。釣られて月を見れば、白くつるりとした満月が浮かんでいる。

「触ってもいないのに、何でわかるのさ」

「バーカ、見た目だよ、見た目」

下らない言葉を聞き流し、聡依は浅く息をはく。まるで夢を見ているように、胡乱な時だったな、と思い返した。


676: :2012/3/17(土) 23:09:52 ID:IE9FPZTe0o

随分と静かな場所にいた。一人で寂しそうで、それでいて強がっていた。もうこりごりだ、と笑った顔は、子供でも分かるくらい、泣き出しそうだった。

全部見過ごしてきてしまったことを、今更後悔する。でも、それを指摘しても恐らく悔いていた。逆に傷つけていたかもしれない。

どうして、何もできなかったのだろう。心に溜まる苦い苦い気持ちに、涙が溢れそうだった。

熱くなった目元を乱暴に擦り、むしゃくしゃした気分のまま、目の前の背中に頭突きした。完全に八つ当たりである。

「何すんだよ」

不機嫌な声に、鼻を鳴らして答える。これで怒らないのが、清次の凄いところだ。

「眠いから寝る」

「お好きにどうぞ。屋敷に着いたら、容赦なく起こすからな」

それに返事をすることなく、聡依は勝手に目を閉じた。揺れる心地が、また眠気を誘う。

まるで不貞寝をしているような気にもなったが、実際それと大差がないので気にしないことにした。

677: :2012/3/17(土) 23:12:50 ID:IE9FPZTe0o

夢と現とをうろうろし始めたとき、不意に体を揺すられ、目を開ける。聡依が文句を言う前に、清次が残念な状況を告げた。

「おい、なんか怒ってるぞ。お前のとこの猫」

「え? ……あぁ」

肩越しに前を覗くと、こちらに向かって走ってくる影。どう見ても暁だ。それが清次の言う通り、毛を逆立てて怒っているようにしか見えないのが、とても残念である。

「どーすんの?」

「どうもしないよ。それより、清次さん」

「ん? なんだよ」

ゆっくりと、清次から降りながら、聡依はわざとらしいため息をはく。

「ちょっとはうちの猫のこと、オカシイとか思わないわけ?」

清次は肩をすくめて笑った。

「飼い主が飼い主だからなぁ」

聡依はムッと口を尖らせたが、それに言い返そうとはしなかった。


678: :2012/3/17(土) 23:13:38 ID:LIH9xLQmeE
今日はここまでです。
そして明日でラスト!
ではでは
ノシノシ
679: :2012/3/19(月) 00:37:59 ID:m8aDDB7I/U
今日もとんとんと投下していきますねー(´ω`)
680: :2012/3/19(月) 00:39:28 ID:m8aDDB7I/U


聡依たちの前に立った暁は、まず、息を整えようと深呼吸した。それからまた、大きく息を吸い、

「あっ、ネコ、あのさ」

「こんな時間まで、一体っ、どこでっ、何をっ、してたんですかぁぁああっ!」

言い訳をしようてする聡依を無視し、ひとまず怒鳴り付けた。うんざりとした顔の聡依に、平然としている清次。

「ほら、やっぱり怒ってる」

「それ、さっきも聞いたって」

二人をぎろりと睨み付け、暁はまず、清次に詰め寄った。

あれ? という顔で、清次は暁を見下ろす。そんな彼の足に、暁は容赦なく鋭い爪を立てた。

「いっ……!」

声にならない悲鳴が上がる。聡依は気の遠くなるような思いでそれを眺め、遠くの山の方へ、視線を逃がした。見ているだけで痛いようだ。

681: :2012/3/19(月) 00:40:26 ID:uKAdSKfV2o

「聡依殿を連れて、あんまりふらふらしないでください、ねっ!」

「いっ、いや、俺は……」

「言い訳は無用っ!」

「えっ、あっうわっあっ!」

無慈悲、だな。聡依は暁に聞こえないようにそうっと呟き、軽いため息を吐いた。苦痛の声を上げる清次に同情し、一歩、彼らから遠ざかる。清次を助けようという思いにならないのが、実に彼らしいところだ。

もちろん、暁もそんなことなど承知の上である。

「聡依殿?」

いつになく低い声でそう呼び掛けると、うん? と、いつもの返事が。それに思わず毒気が抜ける。

怒鳴る気も怒りも失せ、暁は腕を下ろした。俯き加減で、聡依の元に向かう。

「本当に心配したんですよ。何かあったんじゃないかって。胃の腑が縮み上がりましたよ、もうっ」

「よかったじゃないか。食費が浮く」

何処までもいつも通りな聡依に、暁は軽くため息を吐いた。爪を出す気にもなれず、ただ弱い猫パンチをその足に当てる。


682: :2012/3/19(月) 00:41:18 ID:uKAdSKfV2o

「本当に心配したんですから。いなくなったらどうしようって。見つからなかったら、どうしようって……」

知らないうちに涙がこぼれていた。怒りで隠れていたらしい、不安が溢れてきたかのように。そのままギュッと聡依の足に抱きつき、存分にその裾を濡らす。

「なんなんだ、この差は」

足を押さえたままの清次が、愕然と呟いた。聡依はちょっと困った顔で首をかしげ、

「ご飯あげているか、あげていないかの差」

と、茶化す。清次は眉を寄せ、俺もあげたぞ、と不満そうに呟いた。それを笑いながら、冗談だってと聡依は答える。

「全く、散々だな。今日はお前んとこで、一升は米を食ってやる」

ぶつぶつと文句を言いながら、清次が歩き出した。聡依は無理だということを知っているからなのか、楽しそうに笑って眺めている。

「あ、そうだ。清次さん、歩くの面倒だから、また背負ってよ」

「ふざけんなっ! お前んとこの猫の所為で、こっちは足が痛いんだよっ!」

すぐさま不機嫌な声が飛んできた。聡依は声を殺して笑い、自分の屋敷の方に歩いていく背中を見送った。
683: :2012/3/19(月) 00:42:59 ID:uKAdSKfV2o

「さてそろそろ……。帰ろうよ、暁」

暁は片手で涙を拭い、小さく頷いた。暁は聡依の足から離れ、一度だけ、腹立たしげに猫パンチを食らわせる。もちろん、爪の引っ込み、丸まったその手が、聡依を傷つけることはなかった。


聡依は小さく笑ってから、ゆっくりと歩き出す。先ほどのような苦い感情はなかった。

もちろん、山の主である彼女のことを忘れたわけではない。しかし、それを考えてグズグズ後悔をし続ける気は、もう無かった。そんなことをするくらいなら、明日からそこら中の山を歩き回り、彼女を探しだすほうがいい。

いつの間にか、そんなことを考えられるようになっていた。


少し遠くなった背中を見て、暁は駆け寄ろうと足を動かし、もう一度立ち止まる。ゆっくりと歩いていくその動きは、どこか痛いのだろうか。少し、ぎこちない。

聞いてみようか、そう考えてすぐにやめた。少しだけ、自信が足りなかった。

684: :2012/3/19(月) 00:45:11 ID:uKAdSKfV2o


「聡依殿っ」

背中に向かって声をかければ、聡依がこちらを向く。
うん? と、抜けた声でいつもの返事が戻ってくる。暁は少しだけ迷い、それから言葉を紡いだ。

「あっしは、嫌がられたってやめませんからねっ! ずっていますからっ?絶対にいなくなったりしませんからねっ!」

どこかで聞き覚えのある言葉に、暁は首をかしげる。いつか、どこかで言ったような気がした。

聡依にも覚えがあったのだろうか。少し離れた先で、なぜか腹を抱えて笑っている。

それにムッとしつつも、敢えて黙っていた。怒るのはいつでも出来る。暁はそれより、返事が聞きたかった。


685: :2012/3/19(月) 00:45:40 ID:m8aDDB7I/U


ひとしきり笑ったあと、ようやく満足したらしい。聡依はふっと息を吐いて、肩の力を抜いた。暁はただ、彼の言葉を待つ。

「言われなくても」

笑った名残のある優しい口調で、そんな答えが返ってきた。にやりと添えられた意地悪な笑みに、暁は腹が立つよりも笑ってしまう。

おいで、と差し出された腕に、暁は駆け出した。今度は微塵も迷うことなどなく。



「さっき、何で笑ったんですかぁあああっ!」

「え? いやだって、えっ? あっ、ちょっまっ」

今度は容赦なく、爪を立てた手を土産に。

686: :2012/3/19(月) 00:50:36 ID:m8aDDB7I/U


広く栄える城下町のすぐ近くに、とんと平凡な町がある。

小さなその町は、地図に載っていたとしても、すぐに忘れられてしまうような、ありふれた所だった。特に名産もない。


長閑さだけが取り柄のその町はずれに、時に置いてかれてしまったかのような、古びた屋敷が一つ。

ただ広いだけのそこでは、他人とは少しばかり違う日常が繰り広げられていた。


それはその他のものと違わず、いつかきっと終わってしまうであろう日常。


しかし、当人たちにとっては確かにある、そして他のありふれたそれと何一つ違わぬ、楽しいものであった。

おわり
687: :2012/3/19(月) 00:57:41 ID:uKAdSKfV2o
改めまして、こんばんは。

ようやく、完結しました。なんだか、ちょっと信じがたい。

色々思うことも有りますが、言うことは1つだけです。ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございました。もう本当に感謝以外の言葉が見つかりません。

長々と何か言うのは苦手なので、この辺で黙りますが、今までありがとうございました!

ではでは、またいつか。
ノシノシ
688: 名無しさん@読者の声:2012/3/19(月) 10:23:26 ID:cjmz5touQo
譲さん乙!
689: 名無しさん@読者の声:2012/3/19(月) 16:58:25 ID:67CEghovMM
毎日楽しみに読ませてもらってました!
お疲れさまでした(´ω`*)
690: 名無しさん@読者の声:2012/3/19(月) 17:19:40 ID:i7etF7UDUg
乙です!
もう終わっちゃったのかと思うと
なんか寂しいです(・ω・`)
691: 名無しさん@読者の声:2012/3/19(月) 19:45:53 ID:I0w3NG1wEs
譲さん本当に乙でした!!

終わっちゃったのかぁ…
なんか寂しくなります

またいつか譲さんの作品が読めることを祈ってます!!
692: :2012/3/20(火) 01:05:56 ID:CcOIKZTUWA


このSSを支えてくださった、すべての読者の皆様へ。
693: :2012/3/20(火) 01:06:50 ID:CcOIKZTUWA

 春になると、必ず思い出す光景がある。

「聡依殿?」

 不思議そうな声が聞こえ、初めて自分がぼうっとしていたことに気が付いた。慌てて取り繕うような笑みを浮かべ、そちらに顔を向ければ、きょとんと暁が見上げている。何でもない、と下手くそな言葉を呟き、それからまた、そこに目をやった。

 そこには、少し古い切り株があった。薄く雪の積もったそれには、聡依にしかわからない暖かさがある。

 目を細め、じっと切り株を見つめた。まだいる? 問いかければ、答えが返ってくるかのように、静かに心の中で呟く。

 それは忘れるには少し新しすぎるもので、思い出すには少し守りすぎている記憶だった。


 それは今と同じくらいの時期の事だった。

 ふわりと北風が東風に姿を変え、優しくもくすぐったい春の香りを運び始める。最近暖かくなったなぁ、などと呑気なことを言っているうちに、地面の雪が消え、その代りに土が顔を出し始めた。

 そんな季節の変わり目のある日。いつものように清次の貸本屋にと足を向け、その帰り道のことだった。

 ふと、見つけた知らない道に引かれ、そちらの方にと歩みを進めていく。人通りが少ないのだろう。ほとんど片されていない道には、雪がまだ残っていた。

「失敗だったかなぁ」

 すっかり草履を濡らし、うんざり顔で呟く。どうやらこの道は日の辺りも良くないらしく、雪がほとんど解けていない。少し解けているところも、夜の寒さに凍っており、呑気な顔で歩く道とは少し違うようだった。

「ここだけまだ冬みたいだ」

 隣の山を見上げたり、古い家々の屋根に積もる雪を眺めたりしていると、なんだか寒々としてきた。夕方になり、単に気温が下がっているだけなのかもしれないが、聡依にはこの周りの景色の所為にも思える。いつもの着流しに綿入れ半纏という軽装だったため、彼にはこの寒さが答えるらしい。両手を擦りながら、寒さに身を屈めるようにして歩いていた。

 そんなとき、ふと目に留まったのは淡い萌黄色だった。

「あれ?」

 痛いほどに白い雪に埋もれるように、それは小さな芽を出していた。目を凝らし、すれを確認すると、少しだけ近づく。山肌からやや倒れるようにして生えているその木の枝につく、ほんの淡い緑。

「あぁ、春なんだなぁ」

思わず頬を緩ませながら呟き、聡依は枝にと手を伸ばした。その冷たい雪を少しでも払ってやろうと思ったのだ。素手で触れる雪は凛と冷たく、それにまだまだ冬を感じる。雪を綺麗に地面に落とし、聡依は満足げに頷いた。

「これでよろしい」

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