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男「ここ……どこだ?」
[8] -25 -50 

1: ◆KCXDu/KctI:2012/2/11(土) 19:39:43 ID:MiGbYUJseU
目が覚めたら、俺は見覚えの無い部屋にいた。

「いやほんと、ここどこなの?」

上半身をベッドから起こし、もう一度呟く。

「それにしても、広い部屋だなおい」

漫画やアニメに出てくるような、洋風なお屋敷そのまんまという感じだろうか。
非常に広い。ビックリするほど広い。



2: ◆KCXDu/KctI:2012/2/11(土) 19:44:29 ID:MiGbYUJseU
「ってか、このベッドもでけえ!」

部屋の様子に気を取られて気付かなかったが、俺が寝ているベッドが、これまた大きい。
三四人は寝れるんじゃないかと思える位だ。

「あれ……昨日何かしたっけ……」

思い出そうとして気付く。記憶が一切無い。自分の名前や住んでいる家は思い出せる。

だが、家族や友人、知り合いに関しての記憶がすっぽり抜け落ちている。

それどころか、俺は何をしていた人間なのかすら思い出せない。
3: ◆KCXDu/KctI:2012/2/11(土) 20:02:59 ID:n9ecgHDJME
「おいおい、記憶喪失とかマジかよ……」

創作ではよくある記憶喪失。でも現実では聞いたことのない記憶喪失。

まさかそれが、自分の身に降りかかるとは思ってもいなかった。というか、記憶喪失の存在を信じてすらいなかった。

「……とりあえず寝たら元に戻るかもしれんな、うん」

と、寝ようと試みるも、全くといっていい程眠気が来ない。


4: ◆KCXDu/KctI:2012/2/11(土) 20:11:40 ID:56UEjhngyc
「……とりあえずもう一回起きるか。」

仕方ないのでもう一度体を起こす。起こすついでにベットから降りて、部屋をじっくり見てみる。

すると、さっきは気がつかなかった色々な物に気付く。
大きな壷や、凄そうな絵。美術館にありそうなやつだ。

「いったいどうなってんだ、全く」

このままじゃ埒が明かない。とりあえず部屋から出てみよう。そう思った時だった。

コンコン

不意に扉がノックされた。

5: ◆KCXDu/KctI:2012/2/11(土) 20:14:09 ID:56UEjhngyc
初SSです、よろしくお願いします。

スローペースになるかもですが、しっかり書いていきたいと思います!
6: ◆KCXDu/KctI:2012/2/12(日) 13:45:59 ID:mYM8Ym1HnU
!?

一瞬にして体が強張る。誰だというのか。自分をこんな所に連れてきた奴だろうか。

「目覚めたかい?失礼するよ」

そう言って一人の男が入ってきた。背は高め、二十歳かそこらだろうか。

俺が警戒を露わにしているのを見て取ったのか
「安心してくれ、僕は君に危害を加えようなどと考えていない」

俺に話しかけながら男がこっちに歩きだしたその時。
ガッという音と共に男がコケたのだ。どうも電飾に足をひっかけたらしい。

俺がポカーンとしていると扉の外から笑い声が聞こえてきた。
7: 名無しさん@読者の声:2012/2/12(日) 13:49:44 ID:xoGBRqKnAA
この人以外にも何人かいるのかな。

「えーっと、大丈夫ですか?」

放置するのもなんだから、一応声をかけてみる。外の人も気になるけど。
「あ、ああ、大丈夫だ、問題ない」
「問題ない、ですか」

「ああ、問題ない」


………………………なんかすっごく痛そうだけど、問題ないって言ってるし、いいよね、うん。

「えーと、それで、僕、今の状況がさっぱり分からないんですが」
状況どころか、記憶すらアヤフヤだけど。

「それは承知している。そもそも、我々が連れてきたからな。」

やっぱり、俺は連れてこられたのか。この事から、連想されるのは1つ。

「えっ、つまり誘拐ですか?うち、お金とかないですよ?」

表面上だけでも冷静を装う。動揺を見せたら負けだ。ってなんかで読んだ。

「おっと、説明不足だったな。連れてきざるをえなかった、と言った方が言いだろう」

8: ◆KCXDu/KctI:2012/2/12(日) 13:51:16 ID:mYM8Ym1HnU
「いや、何言ってるか分からないんですけど……」

連れて来ざるをえなかった?しょうがなくってことか?意味がわからん。何だか、余計に混乱してきた。

「ふむ、直ぐに理解は出来んだろう。そして、これから私が話す内容でますます混乱するだろう。だが、落ち着いて聞いて欲しい。」


『君は今、生死をさ迷っている状態だ。』


…………ナニを言ってるんだこの人は?セイシヲサマヨッテイル?ハハハソンナバカナ

「まあ、そう簡単には受け入れられんだろう。君じゃなくても、誰でも同じ反応をするハズだ。」


「人間は、産まれた時点で既に、いつ死ぬかが決まっている。運命というやつだ。人の世は全て必然なんだよ。」
9: ◆KCXDu/KctI:2012/2/12(日) 13:53:23 ID:mYM8Ym1HnU
「しかし、君に関してはそれが、通常認められている<運命の誤差>の範囲に収まらない異常な事態が発生した。」


「このような事は本来あってはならない。だからといって、我々には元通りにするだけの力はない。だが、方向を修正する手助け位であれば可能だ」

「結果、君をココに連れてきて、自分の手で原因を発見、解決して貰おうと考えた。私達には原因を発見する事は許されていないのだ。」
10: ◆KCXDu/KctI:2012/2/12(日) 13:54:59 ID:xoGBRqKnAA
というわけで、今日はここまでです。んー、1レスあたりの量が安定しません……
11: ◆KCXDu/KctI:2012/2/13(月) 14:16:20 ID:Vh7fPfLnts
それでは本日の更新を。見てる方がいるのか分かりませんが地道に書いていきます。
12: ◆KCXDu/KctI:2012/2/13(月) 14:27:53 ID:Vh7fPfLnts
男は、一気に捲し立てると、これ以上話すことはないかのような雰囲気で黙ってしまった。
仕方ないが、こちらから話しかけるしかないようだ。あまり関わりたくないが……

「あの、それ……本気で言ってるんですか?」

正直、頭がおかしいとしか思えない。生死をさ迷ってるって、現に体も意識もちゃんとあるじゃないか。

「冗談でこのような事を言うはずがないだろう。冗談は、笑えなければ意味がないからな。」



13: ◆KCXDu/KctI:2012/2/13(月) 14:35:55 ID:IRB1IpmjbM
……確かに正論だ。冗談にしては分かりにくすぎる。
ただ、いくらなんでも状況が突飛すぎる。突飛すぎるが、今はとりあえず信じてる風に装っておこう、うん。
どう考えても、反論するとめんどくさい系の人にしか見えない。

「で、あなたはいったい誰なんですか?」

「君はさっきの話をちゃんと聞いていなかったのかい?言っただろう、僕らは君がここから脱出するためのサポートをするんだよ」

男はそう言って手をさしのべてきた。

14: ◆KCXDu/KctI:2012/2/13(月) 14:40:41 ID:Vh7fPfLnts
「僕の名前は来栖(くるす) 唯。これからよろしく。君の名前は?」

「……浅井 涼です。」

とりあえず手を握り返す。正直信用ならないが。

「まったくもー、だめですよ唯さん。凉君が怖がってるじゃないですか」

すると、扉を開けて女性が入ってきた。長い黒髪で綺麗な人だ。結構タイプかも。

「そうだぜ来栖。少年がビビっちまってんじゃん」

続いてだらしなさそうな男が入ってきた。声的にさっきの笑い声はこの人だろう。どっちも俺より少し年上かな?


15: ◆KCXDu/KctI:2012/2/13(月) 14:56:55 ID:IRB1IpmjbM
「何を言うんだい二人とも、僕は彼に自らが置かれている状況の説明をだね……」

「あーはいはい、わかったわかった。なあ少年、コイツはなんかお堅い感じだけど、回りくどい言い方が好きなだけなんだ。」

来栖の話を遮ってラフな人が話しかけてくる。それにしても非常に馴れ馴れしい人だ。年上だろうから仕方ないけど。

「そういう訳だ。まあ適当に流してやってくれや」

「あ、はい。わかりました……」
って言っても、流せって言われて、素直に流せる内容でもないんだけどなぁ……

ピピピッピピピッ

いきなり鳴り出したアラーム。音源を探すと、お姉さんの携帯からなっているみたいだ。

「そろそろ時間ですね。唯さん、和くん、次の方の元へ向かいましょう」

「ふむ、もう時間か。それでは、君の健闘を祈る」

「えっ!あっ、はぁ。」

そう言い残し、三人は部屋から出ていった。
……健闘を祈るって、何をすりゃいいんだよ……
16: 名無しさん@読者の声:2012/2/13(月) 22:58:42 ID:lwvjmZ8Hy6
みてるよ(^ω^)
17: ◆KCXDu/KctI:2012/2/14(火) 15:09:39 ID:ki46t9YtMY
>>16
※ありがとうございますっ!励みになりますです!
ということで今日の分いきます。おそらく4レス程です。
18: ◆KCXDu/KctI:2012/2/14(火) 15:10:26 ID:niLTnM81LA
再び部屋に一人になってから5分。考えを巡らせてみるも、分かっていることが無さすぎてどうしようもない。

生死をさ迷ってる。ここから脱出すればいい。この二つ。一体この二つだけでどうしろというのだ。
このままでは埒が明かない。

「部屋から……出てみるか。」

彼らから、部屋を出てはいけないなんて事は言われていないし、大丈夫なはずだ。

19: ◆KCXDu/KctI:2012/2/14(火) 15:11:17 ID:niLTnM81LA
「すげえな、ホテルみたいだ」

部屋を出ると、赤い絨毯が敷き詰められた廊下が左右に伸びていた。

「いや、ホテルっていうより館か?」
まあ、照明が暗いのは館、明るいのがホテルっていう勝手な印象での判断だけど。

20: ◆KCXDu/KctI:2012/2/14(火) 15:16:00 ID:niLTnM81LA
なんとなく、部屋から離れるのは恐いがとりあえず散策してみよう。まずは右に行ってみようかな。
キィーーガチャン

「えっ、あっ、これ、まさかドア開かなくなったとかじゃないよな!?」

ホラー映画のワンシーンが脳裏をよぎり、慌ててドアを開けてみる。

キィーー

あっさり開いた。

「ホラー映画的な空間じゃないのか……よかった……」


21: ◆KCXDu/KctI:2012/2/14(火) 15:22:22 ID:ki46t9YtMY
気を取り直して、再度右へ向かう。同じような扉が延々と並んでいる。

「宿泊施設だよなぁ……どう考えても」

2分ほど歩いただろうか。突き当たりに到着。ここまで、階段やエレベーター、窓等なにもなく同じ扉が並んでいるだけ。

そう、同じ扉。
部屋番号すら書いていない。



「あっ……部屋……わかんねーじゃん……」



完全に盲点だった。まさかそんな罠があるとは。

「はぁ……どうすっかなー、取り敢えず逆に向かうか」

予想外の事に動揺しつつ、俺は反対側に歩き出した。
22: ◆KCXDu/KctI:2012/2/15(水) 18:20:30 ID:ydXzZUk3ko
>>7で、連れてきざるになってますが連れて来ざるですね修正忘れてましたorz

というわけで、気を取り直して今日の分いきまーす!
23: ◆KCXDu/KctI:2012/2/15(水) 18:21:04 ID:ydXzZUk3ko
来た道を戻って4分位。今度は突き当たりではなく、踊り場にでた。

階段で上下階に行けるようで、上への階段はホテルによくある感じだ。
ただ、下への階段は、大きな弧を描きながら広い場所に繋がっている。

たぶん、ここは二階で、下はエントランスかなにかなんだろう。ただ、エントランスに必要なドアが見当たらないけど。

24: ◆KCXDu/KctI:2012/2/15(水) 18:25:30 ID:ydXzZUk3ko
「なんかすげえな、ここ」

少し圧倒されてため息をつく。

「どうなっちまうんだろうな、俺」

正直、今後どうすればいいのか全く思い付かない。記憶がないのにどうしろというんだ。

そんなだから、問題を解決しろとかサポートするとか言われても困るのだ。

ってか、まず説明が意味不明なのが問題だ。思い出したらちょっとイライラしてきた。


25: ◆KCXDu/KctI:2012/2/15(水) 18:28:08 ID:uZOnOzXKHk
「まあいいや、とりあえず一階を見に行くか。長く住むことになるかもしれないからな」

自虐的に笑い、一階への曲線的な階段を降りていく。


「ん?」


ちょうど一階と二階の間くらいだろうか。急に空気が変わったように感じる。
どこが変わったのか明確には分からないが、何かが変わった。


「まさか一階は異世界だったりして。って、すでに異世界なんだっけ」

26: ◆KCXDu/KctI:2012/2/15(水) 18:41:34 ID:uZOnOzXKHk
「ふふっ、異世界……ですか。」

「えっ?」

驚いた。

一人言のつもりだった言葉に反応があった事もだが、何より、さっきから全く人の気配が無かったはずなのに、今は明確に存在を感じられる。

声のあった方を振り向く。さっきの女性だ。

「驚かせちゃいましたか?」

いたずらっ子のような顔でそういう女性。ドキッとしてしまうじゃないか。

「あっ、はい、ちょっとだけ。で、えーと、あ、あなたはどうしたんですか?」

よく考えたら、この人の名前聞いてないな……


27: ◆KCXDu/KctI:2012/2/15(水) 19:01:00 ID:ydXzZUk3ko
「あっ、そういえば自己紹介がまだでしたね。私は香村 穂香です。よろしくお願いしますね」

そう言って深々とお辞儀をする穂香さん。それにつられてつい

「こちらこそよろしくお願いします」

こっちもお辞儀してしまう。

それにしても、なんだか不思議な雰囲気の人だ。声を聴くと、こっちが落ち着いてくるというかなんというか。
28: 名無しさん@読者の声:2012/2/17(金) 00:06:55 ID:vr1VSwTGYA
つC
29: 名無しさん@読者の声:2012/2/17(金) 00:35:56 ID:TjuDwVsXHM
つCC
30: ◆KCXDu/KctI:2012/2/17(金) 12:35:01 ID:ZOkUPycZYs
毎日更新するつもりだったんですが、昨日は出来ませんでしたすいません!
>>28さん >>29さん支援ありがとうございますっ!
期待に答えられるか分かりませんが頑張って書いていきます!
それでは今日の分です。4〜5レスになると思います。
31: ◆KCXDu/KctI:2012/2/17(金) 12:36:36 ID:wBv.pXEq1w
「それでなんでしたっけ?ああ!私の用事についてでしたね」

その言葉に俺は頷く。天然なのかなこの人。
ま、まあ俺も一瞬用事がなんだったか忘れてたけど、それは秘密だ。

「1つ、アドバイスをしようかなって思って」

「アドバイス……ですか。」

いまいちピンとこない。アドバイスされるような事……あるか?


32: ◆KCXDu/KctI:2012/2/17(金) 12:37:30 ID:wBv.pXEq1w
「むぅ……信じてないでしょう私の事」

拗ねたようにそう言う穂香さん。これはこれで可愛い……じゃなくて、なんだ、顔に出てしまったか?

「い、いえ、あのー……信じる信じないというよりまず、アドバイスって言われてもなんかピンとこないというか……」

勘違いされるのはなんとなく嫌なので正直に言う。

「ピンとこない……ですか。やっぱり、まだ状況が把握できてませんか?」

「ここが、凄く広い建物ってこと位しか分かってないです」

「ふふっ、確かにこの建物は広いですね。皆さん、よく道に迷われてますよ」

楽しそうにそういう穂香さん。……ん?なんか今、皆さんって言わなかった?

33: ◆KCXDu/KctI:2012/2/17(金) 12:38:00 ID:wBv.pXEq1w
「皆さん……というと、ここは俺以外にも人がいるんですか?全く人の気配を感じないんですけど」
二階の廊下を端から端まで歩いたが、人の気配は皆無だった。
あんなに部屋がたくさんあるのに人がいないのを不思議に感じたのを覚えている。

「それに関しては、後で唯さんが説明してくれると思います。」

あの人また来るのか。今度はこけなきゃいいけど。

34: ◆KCXDu/KctI:2012/2/17(金) 12:39:03 ID:ZOkUPycZYs
「ふふふっ、もうこけないと思いますよ?」

…………これは俺が顔に出やすいんじゃなく、穂香さんが心読めるだけじゃないんだろうか。

「そんな、心なんか読めませんよ〜」

「今も読まれてる!」

穂香さんには逆らわない方が良さそうだ……ってこれも読まれてるか!!どうしろと!!
ま、まあ、今はもう気にするのはやめよう。

「えーと、それで、結局アドバイスというのは?」

完全に話が逸れていたのを元に戻す。いや、逸れすぎだろこれ。
「そうでした、アドバイスでしたね。私が涼くんに伝えたいのは─────」

35: ◆KCXDu/KctI:2012/2/18(土) 15:24:54 ID:Kkh511QEhI
穂香さんに部屋を教えて貰い、部屋に戻る。そして、先程の言葉を思い返す。

「─────ここには長居、そうですね、一週間以上留まらない方がいいです。といっても、涼くんが、ここにいる原因を見つけないとどうしようもないんですけどね。」

なんで長居しない方がいいのか聞いてみたが、残念ながら教えてもらえなかった。
ただ、何か良くない事であるというのは分かる。

だけど、ここにいる原因なんて分かる気がしない。記憶もない、ヒントもない状態でどうしろというのだ。

36: ◆KCXDu/KctI:2012/2/18(土) 15:27:17 ID:Kkh511QEhI
「意味わかんねー」

そう愚痴を溢し、ベッドに背中から倒れこむ。

「生死さ迷ってるとか、信じられるかよ……」

彼らの説明では、今の俺は生死をさ迷い中だ。そんな突拍子のない事をどうして信じられようか。

「考えても分からんし、取り敢えず寝るか。」

俺は、考えるのを止め、ベッドに身を任せることにした。

37: ◆KCXDu/KctI:2012/2/18(土) 15:36:20 ID:Kkh511QEhI


目が覚めると、記憶が戻って自分の部屋にいた。


なんて事はなく、やはり変わらず広い部屋の広いベッドの上だった。
分かってたさ、夢オチなんて創作の中だけだってこと。

「どれくらい寝たんだろ」

時計を見ようとして気付く。

時計がない。

更に思い出してみると、この建物内で時計を一切見ていない。こんな大きな建物だ。普通、時計の1つくらいあってもいいだろう。

「時間が分からないって、意外と嫌なもんだな……」

外の景色が見られれば、大体の時間は分かるだろうが、それすら叶わない。

38: ◆KCXDu/KctI:2012/2/18(土) 15:47:05 ID:Kkh511QEhI
「うーん、携帯でもいいから、なんか時間が分かるもんがあればいいんだけど」

そう言ってみたところで、携帯が出てくる訳でもなく。

「仕方ない、後であの人らに聞いてみるか」

取り敢えず、時間の事は今は気にしないことにする。

「うん、暇だ」

そうすると、考えることも無くなり、完全に時間を持て余している訳で。

「仕方ない、妄想でもするか。折角だし穂香さんで────」

「失礼するぞ」

最悪のタイミングで部屋の扉が開いた。
39: ◆KCXDu/KctI:2012/2/20(月) 10:06:34 ID:n9ecgHDJME
おはようございます。絵スレの方に穂香さんをうpいたしました。稚拙な作品ですが、見ていただけると嬉しいです。

続きに関しては午後に更新しますので、よろしくお願いします。
40: ◆KCXDu/KctI:2012/2/20(月) 21:23:45 ID:Hg2zDz.Ujs
「………………………」
「………………………」
「……また後にした方が良さそうだな」
「まま、待ってください!だだだ大丈夫です何もしてないですから!」


来栖さんはとても空気が読める人のようでした。

「……運がよかったな、私一人で。」
「だ、だから別に後ろめたいことをしようとはしてませんっ!」

間違いない、勘違いされてる。悪い方向に。
41: ◆KCXDu/KctI:2012/2/20(月) 21:42:33 ID:Hg2zDz.Ujs
「ほぉ。てっきり<自主規制>するつもりだったのかと思ったのだが」
「<じ、じ、自主規制>!?そんなことしません!」

な、なんてとんでもないことを言う人だ!

「ふむ。だが、うちの香村を妄想に使うつもりだったんじゃないのか?」

「ま、まあ!それはそうなんですけど!卑猥な事を考えるつもりはありません!」

「じゃあなんだと言うのだ?」

面倒くさそうにそう聞いてくる来栖さん。こんなことを追及しないで欲しい!

「えーっとですね……。ただ……」

「ただ、なんだ?」
42: ◆KCXDu/KctI:2012/2/20(月) 21:56:22 ID:Hg2zDz.Ujs
「ただ……穂香さんとのデートを……」

顔が異常に熱い。恥ずかしすぎて来栖さんの顔を見られない。
鏡を見たらリンゴ、いや、イチゴ並みに赤くなっているに違いない。

「うむ。君が年のわりに中身は幼いという事だけ分かった。」

なんだろう、スゴく酷いことを言われた気がするが、恥ずかしくて耳から言葉が入ってこない。

「ふっ、まあいい。このような話をしに来たわけではない。分かっいるとは思うがな。」

「いや、もう勘弁して……って、え?」

雰囲気が変わったことに気付き、顔をあげる。
来栖さんの顔からは、すでにさっきまでのような呆れた表情は消え、今のそれは真剣そのものだった。

「今から話すことは、君にとって非常に大事な事だ。心して聞くように」

そう前置きをし、来栖さんは荘厳に語り始めた。
43: ◆KCXDu/KctI:2012/2/21(火) 21:35:36 ID:vjJO9QEqdQ
「最初にも言った通り、君は生死をさ迷っている。これはいいな?」

良くはないが、とりあえず頷く。
「では、まずこの空間に関して説明しよう」

俺が今一番気になっている、この場所について。来栖さんはちゃんと説明してくれるようだ。

「ここは魂の一時保管所……とでも言えば分かってくれるかい?」

「分かりません」


44: ◆KCXDu/KctI:2012/2/21(火) 21:41:21 ID:vjJO9QEqdQ
さも当然だというように来栖さんはそう言ったが、俺には意味がわからない。
なんだよ魂の一時保管所って。これが厨二ってやつなのか?

「ふーむ、分からないか……。君は少し理解力が乏しいんじゃないか?」

哀れむようにそう話す来栖さん。
……これ、俺が悪いの?理不尽じゃね?キレていいよね?

「そう怒るな。冗談だ。」

「怒ってません」

怒ってるけど。あと、冗談は面白くないとダメって旨を話していたのはあなたでしたよね。


45: ◆KCXDu/KctI:2012/2/21(火) 21:44:48 ID:KGzAM8k2i2
「まあ、そんな事はどうでもいい。ニュース等で聞いたことあると思うが、意識不明の重体というのは知っているだろう?」

「いやまあ、それくらい知ってますが」

重体くらい知ってるだろ普通。なんかこの人、俺を見下してるよね、かなり。俺、なんかしたか?


「つまり、意識不明になってる間、その不明になってる意識がココに来るというわけだ」

「ああ、その言い方だとよく分かります」

魂の一時保管所って言いたかっただけじゃないんだろうか、この人。普通に説明した方が分かりやすいじゃないか。


46: ◆KCXDu/KctI:2012/2/21(火) 21:44:59 ID:KGzAM8k2i2
「何か不満そうだな」

そう言って睨んでくる来栖さん。やっぱり、顔に出やすいのかな、俺……

「いえ、別にそんな事は。話っていうのはそれだけですか?」

もうこの人と会話するの辛いよ……
早く切り上げてくれないだろうか……

「いや、まだだ。次はこの建物についてだ」

まだ……時間かかりそうですね……
47: ◆KCXDu/KctI:2012/2/21(火) 21:46:09 ID:vjJO9QEqdQ
今日の分は以上です。
話があまり進みませんが、ご了承ください。悪いのは来栖さんなんです。1は決して悪くないのです。
48: ◆KCXDu/KctI:2012/2/22(水) 21:39:54 ID:qQQzqfVdfw
「香村から聞いたが、部屋があるのに人がいない事に関して、疑問を持っていたようじゃないか」

「はい、聞きましたよ」

そういえば、唯さんが話してくれますって言ってたな。

「それに関してだが。確かに、部屋の数から分かる通り、この空間には君のような人達がたくさんいる」

「しかし、各々が存在している空間は、完全に一致しているわけではない。所謂、パラレルワールドというものだ。一つ一つの平面は、ほんの少しずつズレているのだよ」

49: ◆KCXDu/KctI:2012/2/22(水) 21:40:19 ID:qQQzqfVdfw
ぱ、ぱられるわーるど!?またそんなSFの王道を……
なーんか、現実感がないよなぁ……
それに、パラレルワールドというなら────

「沢山部屋を用意する必要ないんじゃないですか?」

「ほぅ……」

来栖さんは、俺の言葉に、少し驚いた様子だ。ちょっと、してやったりな気分。

「ふむ、なかなかいい所に気が付くじゃないか。理論上では、1部屋あれば充分だ。」

50: ◆KCXDu/KctI:2012/2/22(水) 21:40:42 ID:9gYoXiEfsA
ここで一度言葉を切り、彼はさらに続ける。

「しかし、それぞれの平面が、他の平面に与える影響は少なくない。パラレルワールドとはいえ、部屋が同じだと何らかの干渉が生じる可能性があるわけだ。だから、そうならない為の予防策として沢山部屋を用意している。分かったか?」

来栖さんはすこし誇らしげだ。あれだけの事を言えたら、そうなっても仕方ないよな。
だけど、イマイチ分からん。なんとなく要点は掴めた気がするけど。

51: ◆KCXDu/KctI:2012/2/22(水) 21:41:38 ID:qQQzqfVdfw
「まあ、雰囲気は伝わりました。とにかく、人はいるけど会えないということですね?」

「その程度の理解で充分だ。では、これで私からの話は終了だ。後は頑張りたまえ」

「ちょ、ちょっと待ってください!」

仕事は済んだという感じで、部屋から出ていこうとする来栖さんを呼び止める。
今の話を聞いていた中で、来栖さんについて、一つ気になったことがあるのだ。

「なんだね?私は他の人間の所にも行かねばならんのだ。君一人に長々と時間を割いている余裕はない」

今の言葉で、俺の中の疑問が大きくなる。

52: ◆KCXDu/KctI:2012/2/22(水) 21:41:54 ID:qQQzqfVdfw
「す、すぐ終わるので!えっとですね、あの、来栖さん達は一体どのような存在なんですか?」

俺の中で生まれた疑問。大きな疑問。
沢山の人が、それぞれ微妙に異なる世界に生きていると彼は言う。
だったら、それぞれの平面を往き来できる彼らは一体、なんだというのだ。

「なんだ、そんな事か。それは、私達が神に選ばれた者だからに決まっているだろう」


53: ◆KCXDu/KctI:2012/2/22(水) 21:44:16 ID:qQQzqfVdfw
はい、というわけで、来栖の話は明日まで続きます。
ややこしい話ですいませんm(__)m
疑問などあれば、お気軽にどうぞです!
54: ◆KCXDu/KctI:2012/2/23(木) 21:43:57 ID:1a9ezyriWs
それがさも当然の事だというように、言い切る来栖さん。

「えーと……、冗談……です……よね?」

「はぁ?君はこれが面白いと思うのか?冗談なわけないだろう。」
「じゃ、じゃあ、神に選ばれたってどういう事なんですか!?ちゃんと説明して貰いたいんですが!」

そう食い下がる俺に対して、あからさまに嫌な顔をする来栖さん。
「君は質問が多いな。まあ、いいだろう。神に選ばれたとはどういう事か、だな?そんなの、このような立場にいるなんて、神から選ばれる以外に何があるというのだ。」

55: ◆KCXDu/KctI:2012/2/23(木) 21:51:27 ID:1a9ezyriWs
……………えっ、根拠それだけ?

「もういいだろう。それでは私はもう行くからな」

俺の無言を納得によるものだと思ったのか、再び部屋を出ていこうとする来栖さん。
だけど、今度はもう止める気にならなかった。
というより、止めたところでこの人とは会話が成り立たないが目に見えている。

「では、頑張りたまえ」

ガチャン

来栖さんが出ていくのを、俺は無言で見送った。
56: ◆KCXDu/KctI:2012/2/23(木) 21:59:16 ID:1a9ezyriWs
来栖さんが去ってから数分。
俺はベッドに寝っ転がり、考える。

あの話を聞く限り、余計に彼らの存在を怪しいと感じるようになっただけだった。
穂香さんはまともな人って感じなのになぁ……

「そういや、もう1人の人はあれ以降見かけてないなぁ」

確か和くんと呼ばれていただろうか、軽い感じの男性。
彼からも一度話を聞いてみたい。

俺はそんな事を考えながら、意識を手放した。
57: ◆KCXDu/KctI:2012/2/24(金) 21:47:47 ID:Jrfetqurxk
───────
──────

目が覚める。相変わらずだだっ広い部屋のだだっ広いベッドの上。
ただ、少しは慣れてきた。時計もないし外も見えないが、体感的に一日経っているように感じる。
ただ、これが何日も続くと、精神的にキツそうだ。
もしかしたら、穂香さんのアドバイスはそういう事だったのか?

「うーむ、そういや腹が減らんなぁ」

よく考えたら、ここで何も食べていない。が、空腹感は全くない。というか、食欲自体ない。

58: ◆KCXDu/KctI:2012/2/24(金) 21:48:17 ID:.SoJTZsdJo
「ってか、生理現象が少ない……のか?」

歯磨きせずとも口内はスッキリしてるし、寝起きだが頭はフル回転。
人間らしさで残っているのは睡眠だけか?

「まさか、俺は人外に成りつつあるとかだったりして。いや、まさかね〜そんな訳ないわな〜」

言ってから気が付いたが、なんかこれ、俗に言う、フラグってやつじゃなかろうか。

「まあいいや、とりあえずまた探索するか。今日は昨日行けなかった一階だな」

そう決め、ベッドから立ち上がった直後。


59: ◆KCXDu/KctI:2012/2/24(金) 21:48:51 ID:Jrfetqurxk
「入るぞー」

ノックもなしに扉が開いた。


「おー、起きてたか。目覚めはどうだ?」

あの軽い人が入ってきた。やはり、今回も一人。

「おはようございます。でいいのかわかりませんが」

「ん?……あー、なんだ、おはよう」

なぜか挨拶につまっている軽い人。
もしかして、朝じゃなかった?

「まいったな……あいつ説明してねーのかよ……」

「あのー、何の話ですか?」

勝手に入ってきて、勝手に戸惑ってる。なんなんだこの人。

60: ◆KCXDu/KctI:2012/2/24(金) 21:49:16 ID:Jrfetqurxk
「お前、時間の説明……うけたか?」

「あっ、そういえば……」

結局、来栖さんに聞かず終いだったのを思い出す。

「やっぱ聞いてないか……あいつ、なーにしてんだよ」

雰囲気から察するに、来栖さんが話してくれるハズだったんだろう。やっぱりあの人、ちょっと抜けてる?

「えーと、じゃあ、教えていただけるんですか?」

「当然。っちゅうか、必ず説明しとかなきゃいけない事の一つなんだわ」

来栖さん、抜けてるってより、ただのダメな人なんじゃ……

61: ◆KCXDu/KctI:2012/2/24(金) 21:49:38 ID:Jrfetqurxk
「お前の考えてることはだいたい分かるけど、それ言ったらダメだからな」

そんなに!?そんなに顔に出てる!?

「で、時間に関してだが……。ここには時間という概念がないんだわ」

時間という概念がない?どーいう事だ?

「あー、それは、時間が止まってる……みたいな感じですか?」

「んー、正直、俺もそれ以上はよく分からないわ」

と、苦笑いしながら話す軽い人。
彼自身も、説明になってないという事は理解しているんだろう。
62: ◆KCXDu/KctI:2012/2/24(金) 21:54:29 ID:Jrfetqurxk
はい、今日も説明パートで終わってしまいました。
なにぶん設定が入り組んでいますので、説明パートが長くなっていますが、致し方無いのです。
ご了承いただけたらと思いますですはい。
63: 名無しさん@読者の声:2012/2/25(土) 21:53:28 ID:jMHkI2l3OY
「ま、とにかく、朝とか夜とかないわけよ。だから夜だから眠い、とか朝だから起きる、とか単純じゃないんだなこれが。」

「はぁ……なんとなく分かりました」

ただ、これがなんで必要な説明なのかは分からないけど。

「で、だ。俺はこんな話をしに来たわけじゃねーんだ。お前、ここより下の階には行ったか?」


64: ◆KCXDu/KctI:2012/2/25(土) 21:54:16 ID:e9xZwMYK/.
「まだ行ってないです。ってか、今からいこうと思ってました」

昨日は、階段で穂香さんと会って、そのまま部屋に戻ったし。
「そっか、ならちょうどよかったわ。基本ここから上は全部泊まるための部屋だから、探索するなら下にいきゃあいいよ」

「なるほど、ありがとうございます」

この人、最初は馴れ馴れしくてちょっと戸惑ったけど、話してみたらいい人じゃないか。
人は見た目で判断しちゃいけないな。

65: ◆KCXDu/KctI:2012/2/25(土) 21:54:43 ID:jMHkI2l3OY
「そうだ、ついでに一つ質問していいですか?」

がんばれよ〜なんて言いながら扉に向かっていく背中に声をかける。

「あなた達は一体何者なんですか?」

俺の質問に、扉を開け、顔だけこちらを向けて答える。

「神から選ばれた人間だよ」

マンガやアニメだったら、顔が輝いているエフェクトがかかりそうな位いい表情だ。

…………うん、やっぱりこの人もヤバそうだ。


66: ◆KCXDu/KctI:2012/2/25(土) 21:55:10 ID:jMHkI2l3OY
──────
────
──

たくさんのコンピューターが並んだ、清潔感のある真っ白の部屋の中、忙しなく白衣の男達が作業をしている。

その部屋の中心に、体を複数のコードで機械に繋がれ、ベッドで寝かされている、若い男と女。

彼らだけ時が止まっているかのように微動だにしない中、側にある機械は、休む事なく一定のリズムを刻んでいる…………



67: ◆KCXDu/KctI:2012/2/25(土) 21:57:06 ID:e9xZwMYK/.
───────
──────

「よし、気を取り直して、探索するか!」

彼らの思考自体は怪しいけれど、実際、何かあるなら下だろう。
今日は何か発見したい、そう思いながら俺は、階段までの長い廊下を歩き始めた。
68: ◆KCXDu/KctI:2012/2/25(土) 21:58:49 ID:e9xZwMYK/.
今日はここまでとなりますです〜
やっと、話が進みましたw
少しずつですが、確実に展開していきますので、よろしくお願いします!
69: ◆KCXDu/KctI:2012/2/26(日) 21:54:59 ID:WN5ViFqfkE
「2分35秒か。なんだ、どっちかというと3分か」

時間の概念が無いなんて言っていたので、階段までどれくらいかかるのか、実際に頭の中で数えてみた。

「ちゃんと大まかな時間は計れるし、時間の概念あるじゃん」

てっきり、時間を数えられなくなっていると思っていたから、若干拍子抜けだ。


70: ◆KCXDu/KctI:2012/2/26(日) 21:55:28 ID:WN5ViFqfkE
「また後で、もう一回聞いてみるかー」

そんな事を呟きながら、階段を降りていく。
と、同時に、昨日も感じた違和感。

「また、穂香さんと会ったら面白いんだけど」

なんて、1人でニヤニヤしているうちに階段を降りきり、一階に到着。

「おお、実際に立ってみると中々広いじゃん」

エントランスっぽい空間は、二回から見るより、広く感じられた。
たぶん、階段からじゃ見えない通路が伸びているからだろう。


71: ◆KCXDu/KctI:2012/2/26(日) 21:55:37 ID:WN5ViFqfkE
このエントランスっぽい空間、通路が3つあるのだが、どれも同じにしか見えない。

「うーん、どこから行こかな〜」

優柔不断な俺には、中々難しい選択肢だ。

とりあえず、左から順番に行くかと、5分程熟考した末結論を出したとき

「ねえ、あなた」

背後から少女の声が聞こえてきた。
72: ◆KCXDu/KctI:2012/2/28(火) 21:54:45 ID:9SCh7XQ65g
声が発された方へ振り向く。
そこには、小柄な猫耳の少女が立っていた。

「君……だよね?今呼んだのって」

「私以外、周りに誰もいないんだから、当然でしょ?」

不敵な笑みを浮かべながらそんな事を言う猫耳少女。

「そっか、そりゃそうだな。で、君はいったい?あの人達の仲間……でいいんだよね?」

来栖さんの話を信じるなら、あの人達以外とは会えない訳だし。
……この子が幻想とかじゃない限りは。

73: ◆KCXDu/KctI:2012/2/28(火) 21:55:21 ID:JmJ0cLVbXI
だけれども、彼女が次に口にした言葉は、俺の予想を見事なまでに打ち砕くものだった。


「ちょっと、私をあんな嘘つき集団と一緒にしないでくれない?」

それは、心の底から出た言葉のようで。
冗談には聞こえなくて。

俺は、すぐに言葉を発することが出来なかった。

「なに?急に黙っちゃって。どうしたの?」

俺の動揺に気が付いたのか、少し心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。
74: ◆KCXDu/KctI:2012/2/28(火) 21:55:46 ID:9SCh7XQ65g
「ちょ、ちょっと待って、落ち着かせて……」

目の前の少女に、なんとかそれだけ言い、目を瞑る。そして、大きく深呼吸。
頭の中に、酸素が巡っていく。
それと共に、ざわついていた心が落ち着き、思考停止していた脳が、働き始める。
彼女は、彼らの仲間ではない。
しかし、そうなると、一体何者だというのだ。

「君は、一体、なんなんだ?」

ゆっくりと、確認するように、彼女に疑問を投げ掛ける。

「私?私は、あなたの味方」


75: ◆KCXDu/KctI:2012/2/28(火) 21:56:10 ID:9SCh7XQ65g
返ってきた言葉は、俺を再び混乱させるには充分だった。
味方?味方という事は、つまり敵がいる?俺の状況は、一体どうなってるんだ?

「もー、さっきから難しい事考えてるような顔して。深く考えるような事じゃないでしょ?」

彼女は俺の脳内を見透かしたようにそんな事を言う。
だけど、これが深く考えるような事じゃなかったら、何が深く考えるような事だというのだ。

「話がよく分からないんだけど、味方って?どういうこと?」

「どういうことも、言葉そのままよ。私は、あなたの味方。あなたがここから帰る手助けをする為にいるの。あいつらと違って、本当にね」


76: ◆KCXDu/KctI:2012/3/1(木) 21:47:37 ID:W8SLmm0p9Q
「あいつらと違って?来栖さん達は、俺を手助けしてくれるって─────」

俺の言葉を遮って彼女は言う。

「じゃあ、あいつらから、手助けしてもらった?」

その言葉に、俺は何も返すことが出来なかった。
確かに説明は受けても、具体的に何をすればいいのか、ほとんど教えて貰っていない。

77: ◆KCXDu/KctI:2012/3/1(木) 21:48:02 ID:W8SLmm0p9Q
「その様子じゃ、思い付かないみたいね。私が言いたいこと、分かった?」

その問いに、俺は頷くことしか出来なかった。
ただ、少し気になることがある。

「君は、ここがなんなのか知ってるの?」

「ごめんなさい、そこまでの情報は持ってないの。ただ、あなたが生死をさ迷ってるなんて事はないわ」


78: ◆KCXDu/KctI:2012/3/1(木) 21:48:26 ID:ow4R0yVYSo
彼らと正反対の事を言う彼女。彼らも信用できないが、彼女も信用できない。

「あっ、私の事信用してないでしょー。まっ、気持ちは分からなくもないけどね」

彼女の言葉に少し驚く。来栖さんのように、自分が絶対だ!ってタイプだろうと勝手に考えていたから、いい意味で予想外だった。
「申し訳ないけど、やっぱり君の言うことを鵜呑みにはできないよ。少し時間をもらっていいかな?」

「いいわ。私を信用出来ると思ったら、またここに来てくれたらいいから」

「ありがとう、じゃあ俺は今からこっちに行くから」

そう言って、一番左の通路を指差す。
79: ◆KCXDu/KctI:2012/3/2(金) 21:41:58 ID:cf6cNYQFQo
「そう、別にいいんじゃない?ただ……」

「……ただ?」

さっきまでの、ハッキリした物言いから一転、急に口ごもる彼女。
その雰囲気の変化に、緊張してしまう。

「ううん、やっぱり今のは気にしないで?経験した方が早いと思うから」

「えっ、経験ってなに!?気になるから言ってよ!気にしないとか無理だから!」


80: ◆KCXDu/KctI:2012/3/2(金) 21:51:13 ID:cf6cNYQFQo
「まあまあ、いいから早く行きなさいよ。ずっと悩んで、やっと左って決めたんでしょ?」

「なんで知ってるの!?エスパー!?」

「だって見てたもん」

見られていたらしい。

「じゃあもういいよ!なんか怖いからやめる!行かない!」

そう言い、降りてきた階段の方に歩き出そうとしたが

「ちょっと待って」

止められた。さっきとは打って変わり、真剣味を含んだ声で。


81: ◆KCXDu/KctI:2012/3/2(金) 21:55:53 ID:cf6cNYQFQo
「……なに?」

「真面目に伝えとかないといけないことがあるの」

そして、一旦区切り、俺の目を見て再び口を話し始めた。

「あなたがここから出たいのなら、必ずこの3つの通路の先に行かなきゃいけない。でもね、何の知識も無しに行っても、混乱するだけなの」
82: ◆KCXDu/KctI:2012/3/3(土) 21:54:55 ID:amYUaxLhAw
「じゃあ、どうすればいいの?」

「だから、その為に私がいるんじゃない。私にはあなたにヒントをあげる義務があるから」

「ヒントをあげる義務?」

なんだそれ。また神から選ばれたとか言うんじゃないだろうな。

「そ。仕事よ仕事。私はこの空間の、本当の案内役なの」

仕事?ネコ耳つけて案内役ってどんな仕事だよ。

83: ◆KCXDu/KctI:2012/3/3(土) 21:55:16 ID:amYUaxLhAw
「そのヒント、今教えてっていっても、教えてくれないの?」

「別にダメではないんだけどね。私が嫌なの。ちゃんと、私を信じてくれないと話したくない」

子供の様な事を言ってそっぽを向く。何故か、その姿に安心感を覚える。

「分かった、とにかく考えてみるよ」

そう告げ、再び階段へと歩き出した。


84: ◆KCXDu/KctI:2012/3/3(土) 21:56:29 ID:amYUaxLhAw
──────
────
──

「どうだ、方法は見つかったか?」

白い部屋の中、白衣を着た中年男性が、沢山並んだコンピュータのうちの1つ、一番大きな物をを操作している青年に聞いている。

「んー、思い付く限りの事は試してみたんですが、どれも上手くいきません……」

少し悔しそうに答える青年。

「仕方ない、前例の無いことだ。だが、何があるかわからん。引き続き頑張ってくれ」

青年の肩をポンと叩き、彼もまた自分の持ち場へと帰っていく。

「彼らを信じるしかない……な」
85: ◆KCXDu/KctI:2012/3/4(日) 21:47:32 ID:bivGgb1DpA
───────
──────

ベッドに寝転がり、彼女の話した内容を反芻してみる。
来栖さん達は、言ってる事はちょっとアレだけど悪い人達には見えない。
ただ、具体的にどうすればいいのか、ほとんど教えて貰っていないし、教えてくれそうな雰囲気もないのは事実。

だからといって、彼女を信用するかと言われたら、そういうわけでもない。
案内することが仕事だと言っていた。仕事だというのなら、誰が雇い主なんだ?なんでここで働いてるんだ?
「神に選ばれたからやっている」方が、まだ理由はハッキリしている。

86: ◆KCXDu/KctI:2012/3/4(日) 21:47:57 ID:YIt2gET3bk
「あー、どうすりゃいいのかなー」

目を閉じ、天井に向かってそう溢す。
正直手詰まりだ。
どの通路を選ぶかでも時間がかかる程優柔不断な俺には、どっちを信じればいいなんて選べるはずもない。

こんな時、家族や友人がいれば相談出来るだろうし、相談するだろう。
だけど生憎、今は記憶がないし、なによりココにはいない。

87: ◆KCXDu/KctI:2012/3/4(日) 21:48:27 ID:bivGgb1DpA
「穂香さんが彼女だったらいいのに……」

無意識に呟いた言葉。

「ふふっ、嬉しいことを言ってくれますね」

それだけに、言葉が返ってきたのは予想外だった。しかも

「ほ、ほ、穂香さん!?」

声からして、どう考えても穂香さんです本当にありがとうございました。


88: ◆KCXDu/KctI:2012/3/4(日) 21:51:17 ID:bivGgb1DpA
パニクりながら、慌てて体を起こす。と同時に視界に穂香さんが入ってくる。

「はい、穂香ですよ?」

「あ、や、いや、えーと、はい、…………あっ、いつの間に部屋に?」

なんとか別の話題を捻り出す。顔真っ赤だろうから、意味ないけど。

「やっぱり気付いてなかったんですね。ノックしても反応がないので、今入ってきたんですよ〜。そしたら……ふふっ」

からかう様にそう言って俺を見る穂香さん。
この人には敵いそうにない、俺の本能がそう告げている。

「ま、まあ、いいじゃないですかそれは!ちょっと聞きたいことがあるんです!」

「うふふ、彼氏の有無ですか?」

「だあああ!違います!違いますから!」

いやまあ気になるけど!
89: ◆KCXDu/KctI:2012/3/6(火) 21:49:21 ID:ElXyDhEUa6
「ごめんなさい、涼君の反応が可愛いのでついからかいたくなっちゃいました」

完全に遊ばれてるよ……
可愛いなんて言われ、余計に恥ずかしくなってくる。

「と、とにかくですね!聞きたいことがあるんです!」

「はい、なんでしょう?」

俺は一度深呼吸をし、心を落ち着けてから微笑みを浮かべている穂香さんに、単刀直入に問う。


90: ◆KCXDu/KctI:2012/3/6(火) 21:49:51 ID:ElXyDhEUa6
「あの……俺が生死をさ迷ってるって、実は嘘なんじゃないですか?」

一瞬、穂香さんの瞳が揺れた気がした。

「そう、涼は死んでない。あなたは、あの少女を信じなさい。いいわね?」

穂香さんの、突然の変化。
口調、雰囲気が一変した。

「えっ…………」

91: ◆KCXDu/KctI:2012/3/6(火) 21:50:17 ID:ElXyDhEUa6
変化に着いていけず、呆然とする俺。
だが、これだけではなかった。
穂香さんの次の言葉は、俺をより混乱させることになる。

「はっ!す、すいません!ぼーっとしてました!えっと、聞きたいこと、ですよね?」

「!?」

元に、戻った。
口調も、雰囲気も。
しかも、さっきまでの事は無かったかのように。

92: ◆KCXDu/KctI:2012/3/6(火) 21:50:41 ID:ElXyDhEUa6
演技だろうか。でも、あの慌て方、演技には全く見えない。
一体どうなってるんだ……とうとう頭がおかしくなったんだろうか。

「って、涼君、大丈夫ですか?顔色が優れませんよ?」

さっきの慌てぶりから一転、心配そうに俺の顔を覗き込む穂香さん。

「は、ははは、大丈夫です。ちょっと立ち眩みがしただけですから」

今の俺には、そう誤魔化すので精一杯だった。

93: 名無しさん@読者の声:2012/3/8(木) 19:03:19 ID:7AAOSzGVqU
──────
────
──

部屋の中、一定のリズムを刻んでいた機械の1つが、突然リズムを変え、警告音を発し始める。

それと共に慌ただしくなる室内。
「どうした!何かあったか!」

「わかりません!前触れはありませんでした!」

そして、心臓マッサージをすべきだ、いや救急車を呼ぶべきだ等と揉めている内に

「戻りました!」

機械から警告音は消え、安定したリズムを再び刻み始めたのだった。

「一体、彼女に何があったんだ……」


───────
──────

94: ◆KCXDu/KctI:2012/3/8(木) 19:03:42 ID:7AAOSzGVqU
はぁ。自然と溜め息が出てしまう。
穂香さんが部屋からさって十数分、ようやく落ち着きを取り戻し始めた。

あの変化はなんだったのか。正直、考えても全くわからない。
切羽詰まったような雰囲気。鋭い物言い。穂香さんとは真逆だ。

だけど、なぜか懐かしい感覚。この空間に来てから、始めての感覚。そこに猛烈な引っ掛かりを覚える。

95: ◆KCXDu/KctI:2012/3/8(木) 19:05:45 ID:/YYDBeJ2g.
『そう、涼は死んでない。あなたは、あの少女を信じなさい。いいわね?』

まるで全てを知ってるかのような語り口。この言葉をどこまで信じていいのか。
いつもの俺なら、得体の知れない者からの言葉、一番疑うべきだと考えるだろう。

だけど、なぜか、この言葉を信じてみよう、そんな気持ちになっていた。

「一か八かの賭けだな」

そう呟き、少女のいる場所に向かった。
96: ◆KCXDu/KctI:2012/3/11(日) 21:48:25 ID:6xJ3UYyEi6
「あら、意外と早かったわね」

階段下ですでに待っていた猫耳少女に、今度は前から声をかけられる。

「まあちょっと、覚悟を決めたというかね」

さっきの事は話したってどうしようもないだろう。頭がおかしいと思われるのがオチだ。

「ふーん、まっ、いいわ。じゃあ、早速行きましょ」


97: ◆KCXDu/KctI:2012/3/11(日) 21:48:43 ID:6xJ3UYyEi6
マイペースというかなんというか、左の通路へ先々歩き出していく少女。
そして、後を追おうとして気付く。しっぽが生えていることに。しかも動いている。

「ね、ねえ……」

横に並びかけて声をかける。

「なに?」

そんな俺を一瞥すると、少しペースを落とし、返事をしてくれた。

98: ◆KCXDu/KctI:2012/3/11(日) 21:49:03 ID:lSG/jC.gCk
「あのさ……、その耳とかしっぽって……なに?」

「はあ?耳としっぽは耳としっぽでしょ?」

こいつ何言ってるんだ……、というような視線を向けられる。
確かに俺の聞き方も悪かったけど、そんな態度をとらないでもいいでしょう。
突っかかりたい気持ちを抑え、質問しなおす。

「あー、それ、アクセサリー?……だよね?」

動いている時点で、アクセサリーだという可能性は低い。が、本物だと彼女はただの人ではないことになる。

彼女は、少し悩むような態度をとった後、口を開いた。

「あなたが内心予想しているように、本物よ。そう、私は普通の人じゃない。自分でもなんなのかはよく解らないけどね」


99: ◆KCXDu/KctI:2012/3/14(水) 20:56:38 ID:KpeuxC5yu6
彼女は、ただの人ではない。その事実から、この空間の特異性を改めて感じる。


「正直……ね」

「えっ?」

今までとは違い、戸惑っているような、なにか躊躇しているような、そんな雰囲気で再び話を切り出してきた彼女に、つい間抜けな返答をしてしまう。

「正直、私、自分の存在が分からないの」

「えっ…………えっ!?」

100: ◆KCXDu/KctI:2012/3/14(水) 20:57:05 ID:nSWzlzpTug
衝撃のカミングアウト。脳が対応しきれていない。

「はっ?いやいや、何言ってるの?」

「そのまんまよ。私は自分の存在が分からない。それ以上でも以下でもないわ」

「いや、あのー、ね?もうちょっと分かりやすく説明してくれないかな?分からないって、なんで?」

これは聞いていいことなのか、それは分からない。けど、何かの手がかりになるかもしれない。

「ほんと、質問の多い男ね」

「あっ、ごめん……」

「まあいいわ。…………私、過去の記憶がないの。気が付いたら、この仕事をしなきゃいけない!って義務感が頭の中にあった」

101: ◆KCXDu/KctI:2012/3/17(土) 21:52:53 ID:fAzrzYYGY6
「ごめん……よく分からない」

そういうと、彼女は振り返り、
「私もよく分からないんだから当然よ」

と、笑顔で、だけどそれは本心には見えなくて。
そんな彼女に俺は何も言うことが出来ない。自分が情けない。

「あなたって顔に出るってよく言われない?私より、まず自分の事を心配しなさい」

さっきとは打って代わり、心からに楽しそうにそう言う彼女。その表情に少しドキッとする。

「そ、そうだね。と、ところでまだ歩くの?」

つい焦って言葉に詰まり話を変えてしまう。どう考えても不自然だか仕方ない。
102: ◆KCXDu/KctI:2012/3/21(水) 21:09:36 ID:wwyrd7k546
「ほんっと、分かりやすいわね。まっ、いいわ。もう少し歩くわよー」

やっぱり誤魔化しきれてはいなかったみたいだけど、追求はしないでくれた。

それにしても、ここはどうしてこんなに長い通路ばっかりなのか。
しかもこの通路、ただ白い壁が続いてるだけで何にもない。正直飽きてくる。

「ほら、もう入り口が見えてきたわ」

視線を横から前に戻すと、小さくだが確かにここより明るい光が見えている。

「入り口って……なに?洞窟かなんかあるの?」

「なんで室内に洞窟があるのよ。部屋の入り口よ」


103: ◆KCXDu/KctI:2012/3/24(土) 13:03:24 ID:/YYDBeJ2g.
「うん……そうだよね……洞窟なんかあるわけないよね……」

自分の頭の悪さに絶望する。なんで洞窟なんだよ……

「ええっ!ちょ、ちょっとなんでいきなりそんな凹んでるの!?」

「どうせ俺なんか……」

「えっ、なにこの人。もう!いいから早く歩く!」

ズルズルと彼女に引っ張られる俺。
このまま引っ張られ続けるのもあれだから、気持ちを切り替えてちゃんと歩き始める。
104: ◆KCXDu/KctI:2012/3/25(日) 12:17:22 ID:fnmsbMb4Pg
「あっ……」

段々と白い光点がハッキリとした物に変わっていく。
少し開いた扉の隙間から明るい光が差している。
しかし、何か違和感がある。だが、その違和感がどこから来るものなのかは分からない。


「さっ、目を瞑って」

そんな俺を無視し、また唐突にわけの分からない指示が出される。
「いやっ、なんでいきなり?」

「いいから言うこと聞きなさい。目を瞑った方が楽しめるわよ」

「楽しむってなんの話だよ。まあ、いいや……」

105: ◆KCXDu/KctI:2012/3/25(日) 12:17:43 ID:jJfr80yPWk
彼女には何を言っても無駄なのはこの短時間で充分理解していた俺は諦めて目を瞑る。

「じゃっ、足下に気を付けてね」
何かと思ったら、手首を掴まれ引っ張られ始めた。
転けそうになったが、なんとか手を引かれてついていく。目を瞑って歩くのは意外と怖い。

少し歩くと、顔に当たる光が強くなったのを感じる。扉の先に着いたのだろうか。
だけど、扉を開けた音がしなかった。遠目で見えていた感じだと、扉の隙間は通れるような幅ではなかった。一体どういうカラクリだ?
と、いきなり彼女が止まった。

「じゃ、目を開けて」

やはり扉の先に着いたようだ。そう確信し目を開く。 そこには摩訶不思議な光景が広がっていた。
106: ◆KCXDu/KctI:2012/3/28(水) 17:15:45 ID:lyzzgvlo.E
「おいおい、どういう事だよ……」

視界に飛び込んできたのは巨大な椅子や机。
もう一度目を瞑り、再び目を開けても、視界に写っている景色は変わらない。

「あー、そっか、夢なんだなこれ。納得なっ───」

「現実逃避すんじゃないわよ。ほら痛いでしょ?」

107: ◆KCXDu/KctI:2012/3/28(水) 17:16:12 ID:ny1PSd/Tj6
現実逃避を阻止されたどころか、頭を叩かれた。痛い。

「じゃあなんなの?意味が分からないよ。なに?なんでデカイの?この椅子の足とかビルみたいじゃん」

椅子だけじゃない。机なんかドーム球場の屋根みたいだし、部屋の端はかなり遠い。全てが大きすぎて、椅子と机以外になにがあるのかすら把握できない。

「これはね、私達が小さくなったの」

サラッととんでもないことを言われた気がする。俺達が……小さくなった?
いやいや、そんなドラ○もんの世界じゃあるまいし。

「小さくなったって、どうやってだよ。小さくなる要素なんかなかっただろ」

意味が分からない。そのイライラで語調が強くなってしまう。

108: ◆KCXDu/KctI:2012/3/28(水) 17:29:32 ID:ny1PSd/Tj6
「なんでかは私には分からないわ。たぶん、廊下を歩いてるうちにだんだん小さくなってたんでしょうね」

特に動揺することもなく、落ち着き払っている猫耳少女。

「なんだよそれ……。一体何の意味があるんだよ……。」

頭が働かない。いや、働かせる気もおきない。

「もういいよ、どうでも。ほら、もう戻ろう」

投げやりになって、元の場所に戻ろうと歩き出す。しかし、

「その意味が、あなたのこの先に大きく関わってるって言っても、どうでもいい?」

そんな俺の背中に言葉がぶつけられた。
109: ◆KCXDu/KctI:2012/3/31(土) 18:59:07 ID:SHIfJkK4AE
「それは……仮定の話?それとも本当?」

振り向いた先にあった彼女の顔からはその真偽は窺えない。

「本当よ。私の知っている情報が正しいと仮定すれば、だけどね」
彼女の情報が正しければ……か。本当かどうかは分からない。
けど、疑って信じなかったとして、他にここから出る案があるのかというと、全くといっていい程無い。
だったら、彼女の持っている情報を信じてみるのが得策だろう。


「分かった、君を信じるよ。だから、早く次の部屋に行こう」

110: ◆KCXDu/KctI:2012/3/31(土) 18:59:34 ID:SHIfJkK4AE
〜40分後〜

「疲れた……」

残りの二部屋も見終わり、元の場所の階段に腰を掛ける。

「君も座ったら?」

立ちっぱなしの彼女を座るように促す。
無視されるかと思ったけれど、意外と素直に座ってくれた。

「同じ内装の部屋が3つ、サイズ違いであったってことでいいんだよね?」

残りの二部屋は、普通の部屋と全てが小さい部屋だった。ただ、その内装自体は同じでサイズだけが違ったように見えた。
だから、最初の部屋も内装は同じだったんじゃないかと考えた上での質問だ。

111: ◆KCXDu/KctI:2012/3/31(土) 18:59:56 ID:SHIfJkK4AE
「正解。あなたって意外と鋭いのね。あれは大きさが違うだけで全部同じ部屋であってるわ」

「つまり、その理由が鍵なわけだよな?」

「私の情報が正しければ、ね」

そう予防線を張ってはいるものの、確信を持った表情に見える。

「ただなぁ……イマイチ解らないんだよな……」

手掛かりというと、サイズが違う部屋or人の大きさが大小する部屋って事だけだ。これの意味、理由としてなにも思い付かない。
というか、思い付く方が異常だろう。

112: ◆KCXDu/KctI:2012/3/31(土) 19:00:24 ID:SHIfJkK4AE
「はぁ……何のために私がいると思ってるの?」

「あっ」

そういえば、この猫耳少女は俺にヒントを出すのが仕事だとか言ってたっけ。

「ほんとは、部屋を見て回る前に言うべきだったかもしれないんだけどね〜。うっかり忘れてたわ」
なんて事を、彼女はニヤニヤしながら言う。申し訳ないという気持ちがないどころか、これは絶対

「わざとだろ、おい」

「酷い!私の事を疑うのね!」

「そんなキャラだったか!?誤魔化そうったってダメだからな!」
「もー、そんなにムキにならないでよ。ヒントあげないわよ?」

「……うっかり忘れてたでいいよ」

113: ◆KCXDu/KctI:2012/3/31(土) 19:00:52 ID:eycZAGN556
ファンシーな姿をしてるくせに、なんたる策士。こいつぁ、大物になるタイプだ、間違いない。

「なんか変なこと考えてるわね、あなた」

「そんな事まで表情で分からないだろ!絶対エスパーだろ!」

「冗談よ、カマかけてみただけ。当たってたみたいだけどね」

「………………」

なんだこれ、完全に手玉に取られちゃってないか?少し泣きたくなってきた。

「もー、凹まないでよ。あなた豆腐メンタルねー。ほら、ヒント教えてあげるから、ね?」


114: ◆KCXDu/KctI:2012/4/3(火) 02:09:47 ID:X1YWo.vK2U
「豆腐メンタルってのが気になるけど……教えて下さい」

彼女には無駄に抵抗しない。俺は1つ大切な事を学んだ。

「素直でよろしい。ヒント、それはね、この世界はwonderland」
115: ◆KCXDu/KctI:2012/4/3(火) 02:10:48 ID:X1YWo.vK2U
───────
──────

彼女からのヒントを得、部屋に戻ってきた今、その意味を再び考えてみる。
この世界はwonderland、ということがいったい何を意味しているんだろうか。
真偽は分からないが、彼女自身それの意味までは知らないと言う。
だから、ここからはノーヒント、自力で解決しないといけない。

「でもなぁ……よく分からんよなぁ……」

やっぱり、よく分からない。ヒントはあったものの、解決に向けては足踏み状態だ。
116: ◆KCXDu/KctI:2012/4/3(火) 02:11:59 ID:X1YWo.vK2U
「結局、あの部屋とかもよく分からないし。うーん謎だ」

彼女曰く、アレは部屋のサイズではなく体が大小していると言っていたが、関係あるのか?

「まあ、関係あるから言ったんだろうけどさぁ。もう一度来栖さん達にも話を聞いてみるか?」

もしかしたら、あの人達からも何か話を聞けるかもしれないし。

「っても、あの人達がどこにいるか分からないし……」
117: ◆KCXDu/KctI:2012/4/7(土) 21:47:05 ID:ucUb6hQsFA
まずあの人達がいつどこで行動してるのかすら分からない。

「まあいいや、ひとまず寝るか」
彼らが寝起きに現れることを祈って。

────────
─────
──

起床を確認、プログラム始動

────────
───────

「調子はどうかな?涼君」

目が覚めたら、目の前に来栖さんがいた。何を言ってるか分からないかもしれないが、俺にもわからない。
まさか、ほんとに寝て起きたら来栖さんがいるとは思わなかった。

「あのー、もしかしてこの部屋にカメラとか付いてます?」

「なんだね、人の質問に反応しないと思えば、唐突にそんなことを。カメラなんて付いているわけがないだろう」

そう言う来栖さんは、嘘をついているような雰囲気ではない。やっぱりたまたまか……
118: ◆KCXDu/KctI:2012/4/11(水) 21:46:42 ID:9hTQ2BmDc6
「で、調子でしたっけ?まあまあです」

「ふむ、そうか。それで、君は手がかりはみつけられたのかい?」
「あー、えーっと……」

猫耳少女の事は言ってもいいんだろうか。なんとなく言わない方がいい気もするんだよなぁ。

「歯切れが悪いな。何か隠し事でもあるのか?」

「い、いえ、別にそういうわけでは……」

「君は隠し事が下手だな。私は隠し事をされるのが大嫌いなんだがな」

少しドスを効かせた声で脅される。やっぱり言うしかないか……

「えーと、その、猫耳の生えた女の子に色々と教えてもらいました」


119: ◆KCXDu/KctI:2012/4/11(水) 21:48:47 ID:s0y4X5hzxo
「それは一体どういう事だ?そんな奴、ここにいるはずがない」

「いるはずないって、実際に会ったんですって」

「それは君の夢だ。夢の内容と現実を混同したんだろう」

哀れみを含ませた表情でそう言う来栖さんに、カチンとくる。

「失礼ですね、そんなわけないでしょう、馬鹿にしてるんですか!」

「何を怒っているんだね?事実存在しないんだから仕方がないだろう。ここの事は私が一番知っている」

「はぁ?神に選ばれたとかワケわからない事言ってるやつの事を信じられるわけないでしょ!」

「ワケわからない……だと……」
言ってはいけないことを言ってしまったことに気がついたが、もう遅い。

「そ、それは神への冒涜だ!!処刑してやる!!」
120: ◆KCXDu/KctI:2012/4/15(日) 14:19:43 ID:8XfcXKeuZA
「はぁ!?いきなり何言ってるんですか!?」

この人、とんでもないことを言い出したぞ。処刑て。

「神を侮辱する者は処刑に決まっている!!斬首刑だ!!」

「殺す気ですか!?」

「当たり前だ!!」

やばいやばい、目がマジだ。これはホントに殺されるかもしれん、逃げないと。
だけど俺はベッドの上だし、逃げれる気がしない。
とにかく考える時間を稼がないと。
121: ◆KCXDu/KctI:2012/4/15(日) 14:20:04 ID:8XfcXKeuZA
「あ、あんたは俺をサポートするんじゃなかったのかよ!!」

「神を侮辱したとなると話は別だ!!」

「あんた狂信者か!!」

「狂信者だと!?私のどこが狂っているというのだ!」

「全部に決まってるだろ!!」

まずい、余計に怒らせた気がする。
けど、今の時間で逃げる方法は思い付いた。
チャンスは一回、上手くタイミングを図らないと終わりだ。

122: ◆KCXDu/KctI:2012/4/15(日) 14:20:24 ID:8XfcXKeuZA
「私ではなく君が狂っているんだろう!!」

「はぁ!?無茶苦茶だ!!ホントに頭おかしいなあんた!」

俺の言葉に、来栖さんは天を仰ぐ。ここだ!!

「ふぅ、ここまでくると可哀そっっっっ!」

俺のパンチが見事来栖さんの急所に適中!!完全に卑怯だけど今はそんなことを気にしている時じゃない!!

「ま……待て……」

ベッドから飛び降り扉へ走り出した俺を引き留める声。

「待たない!!」

待つわけがない。待ったら死ぬかもしれないのにどうして待つことがあろうか、いやない。

俺は部屋から出ると、猫耳少女がいた場所へ向かった。
123: 名無しさん@読者の声:2012/4/17(火) 22:13:18 ID:8E81UA/D2g
こういうの好きです!支援!
124: 123さん、支援ありがとうございます! ◆KCXDu/KctI:2012/4/18(水) 09:01:31 ID:GK1Bwyo1Rk
────────

「そんなに息を切らしてどうしたのよ。何かあった?」

一階に到着すると、すぐに猫耳少女は姿を現してくれた。

「やばいよ!殺されかけたよ!」

「殺され……かけた?殺されかけたって、まさかあいつらに?」

「それ以外誰がいるんだよ!」

俺の言葉に、彼女は急に黙り込んだ。何かを考えているのだろうか、声をかけることが憚られる、そんな雰囲気。

一分ほど沈黙が続いただろうか、彼女は唐突に言葉を発した。

125: ◆KCXDu/KctI:2012/4/18(水) 09:01:52 ID:GK1Bwyo1Rk

「ヒントなのかもしれない」

「急になに?ヒントって?」

「殺そうとしたことよ。いくらあいつらでも、ここに来た人を殺すことはないわ、絶対」

「何を根拠に。実際、殺されかけたんだぞ?」

「殺されかけた、それはどうやって?」

「えっ、それはまあ……」

「それはまあ、なに?」

「……処刑だって言ってただけ」

「ほら、行動に移そうとはしてなかったでしょ?」

確かに、処刑だと言っていたがだからといってソレを行おうとはしていなかった。

126: ◆KCXDu/KctI:2012/4/18(水) 09:02:24 ID:W8rJvuzTbs
「じゃあ、なんでそれがヒントと結び付くんだよ」

「同業者としての勘かな」

「勘!?」

なにか根拠があるのかと思ったら、ただの勘って……

「それ……本気で言ってるのか?」

「当たり前でしょ?わざわざ嘘つく必要ある?」

「嘘だと言ってるわけじゃないけど……勘を信じろって無理があるでしょ」

「確かに、その言い分はもっともだと思うわ。でもね、そうとしか考えられないの。お願い、私を信じて」

彼女のその真剣な顔に、俺は疑う気が無くなってしまった。

「……分かった、信じるよ」

「良かったぁ、それじゃあこのヒントの意味を考えましょ」


127: ◆KCXDu/KctI:2012/4/21(土) 17:26:18 ID:S6XxbTUDhU
「考えるかー。とりあえずなんだっけ、この世界はワンダーランドなんだっけ?」

「私の知っていることが正しかったらね」

必ず予防線を張るやつだな。意外と弱気なのかも。

「ワンダーランドってなんか聞いたことある気がすんだよなー。なんだっけかなー。あとはなに?処刑?処刑がヒントって、あまり穏やかじゃないな」

「ちょっと、部屋の事を忘れてるわよ。しっかりしなさいよ」

「おっと、完全に抜け落ちてたわ。そうだよなー、それもあったよな」

うわっ、スゲー呆れられてるよ。ちょっと悲しくなってきた。

128: ◆KCXDu/KctI:2012/4/21(土) 17:26:48 ID:c3pmxDS.yo
「う、うっかりする事位あるだろ!」

「別に何も言ってないじゃない」
「うっ……」

完全に手玉にとられてる気がする。だから今のは自爆じゃない!

「ほら、早く考えなさいよ」

「そう急かすなよ。こーいうのってパッと出てくるもんで、考えてたら逆に思い付かねーんじゃないかな」

「ん……確かにそれは一理あるわね」

「だろ?うーん、なんか引っ掛かるんだよなー。その単語の集まりっていうのかな、なんか聞いたことあるっていうのかな。ただ、それが何かもうちょっとで出てこない」
129: ◆KCXDu/KctI:2012/4/23(月) 22:44:33 ID:rNxH1wTJXg
「じゃあ、もう一回部屋に行ってみましょ。ヒントが増えた状態で見るとまた違うかもしれないし」
「確かにそれは一理あるな。よし、行ってみるか」
130: ◆KCXDu/KctI:2012/4/23(月) 22:45:52 ID:rNxH1wTJXg
────────

「うーん、改めて見ると普通の部屋だな」

俺達はサイズが変わらない部屋を見に来ていた。部屋の中身について見るなら当然ここが一番分かりやすいからだ。

「それにしても、なんでぬいぐるみが1つだけあるんだろう」

そう、普通の部屋なのだが、その中で1つ、ポツンと置いてある白いウサギのぬいぐるみが異彩を放っている。
131: ◆KCXDu/KctI:2012/4/23(月) 22:46:38 ID:rNxH1wTJXg
「1つだけなのは、確かにちょっと変な気もするわね。なにか意味があると思うわ」

「白いウサギかー。白いウサギって言ったらアリスに出てくるよな〜」

「アリス?なにそれ?」

「アリスって知らない?主人公が夢の中で変な体験をする話なんだけど……………………」

ちょっと待て。アリス。不思議の国のアリス。今の状況はアリスに似てないか?
今まで出てきたヒント、全てが当てはまるじゃないか。
132: ◆KCXDu/KctI:2012/4/23(月) 22:47:17 ID:rNxH1wTJXg
「……?ちょっといきなり黙っちゃって、どうしたの?」

そうだ、この少女が猫耳なのもチャシャ猫の役割を持っているからだと考えたら納得がいく。

「分かったよ」

「分かったって……もしかして手掛かりが?」

「ああ。この世界は不思議の国のアリスの模倣だ。俺がアリスの役なんだ!」
133: ◆KCXDu/KctI:2012/4/23(月) 22:47:56 ID:rNxH1wTJXg
猫耳少女の驚いた表情が目に入ると同時に、急に頭が重くなる。

「うっ……なんだ……これ……」
立っていられず、膝をつく。だが、頭から体全体が重くなっていき、体がいうことを聞いてくれない。猫耳少女が何か言っているが、全く聴こえない。

そして、俺は意識を失った。
134: ◆KCXDu/KctI:2012/4/23(月) 22:48:35 ID:rNxH1wTJXg
───────
──────

「教授!涼くんの脳波が急激に乱れ始めました!」

コンピューターの画面見ていた青年が、焦ったように叫ぶ。
教授と呼ばれた中年男性は、すぐさま駆け寄って行った。

「これは……意識が戻ってくるかもしれないぞ!」

教授のその言葉に、部屋の中にいる者達から歓声があがる。

「どうしますか?理事長を呼びますか?」

「いや……止めとこう。この事はまだ知らせない方がいいだろう」
「了解です」

「よーし、それでは作業を続けてくれ」

部屋の中は再び、キーボードを叩く音で満たされ始めた。
だが、雰囲気が明るくなったのは、きっと気のせいではないだろう。
135: 名無しさん@読者の声:2012/4/28(土) 14:12:21 ID:VwJa/7HTIM
っC
136: 135さん、支援ありがとうございます! ◆KCXDu/KctI:2012/4/28(土) 22:52:13 ID:R.EvEflBBs
────────

音のない真っ暗な空間。だけど自分の体はしっかりと見える。
光がない、というよりは、黒い物に包み込まれている感じなのだろうか。

手も足も動かない。首だけが動かせる、そんな状態。
今の状態に気が付いたのがいつだったか、それすらも分からない。
存在している。ふわふわとした思考の中、唯一しっかりとした意識。

俺は、存在している。

やにわに、周囲が明るくなり始めた。真っ白な心地いい光に包まれていく。懐かしく、でもしっくりくる感覚…………
137: ◆KCXDu/KctI:2012/4/28(土) 22:55:01 ID:R.EvEflBBs
────────
───────
──────

…………なんだか、周りがうるさいな。カチャカチャカチャカチャ、なんの音だよ。
せっかく人が気持ちよく寝てたっていうのに、目が覚めたじゃないか。
ん?そういえば、いつ寝たんだっけ?えーと、そうだ、変な屋敷に入り込んで……

ここは!?

勢いよく体を起こす、が、何かに引っ張られ、それを遮られる。

そして、視界に入ってきたのはたくさんのコンピューターとそれを操作するたくさんの人。
そして、俺の方を見て驚いたような表情をしている人達。
138: ◆KCXDu/KctI:2012/4/28(土) 22:55:44 ID:R.EvEflBBs
「りょ、涼くんが起きました!!」

誰かが発したその言葉に、部屋中から歓声が上がる。

俺が起きることが、そんなに嬉しいことなのか。
何か言おうと思ったが、上手く頭の中でまとまらない。

屋敷は?猫耳は?

頭の中で疑問がグルグルと渦巻いている。

「涼くん!僕が分かるかい?」

中年の男性が俺に呼び掛けてきている。だけど、それに対してどう答えたらいいのか分からない。  分かるかい?と言われてもまず見たことがない。
139: ◆KCXDu/KctI:2012/4/28(土) 22:56:28 ID:R.EvEflBBs
「……そうか、これが繋がったままだからか」

中年が何か呟いたかと思うと、俺の視界から外れる。

どうしたんだろう?そう疑問に思った直後、背中から何かが外れる感覚。それと同時に、頭の中に情報が流れ込んでくる。
過去の記憶が蘇る。頭の中の情報が上手く整理され始める。

「どうだい?意識はしっかりとしてきたかい?」

そうだ、思い出した。このおじさん、岡田さんと俺は飯を食っていたんだ。
140: ◆KCXDu/KctI:2012/5/3(木) 23:38:15 ID:0ea2j4icKY
────────
─────
──

夜ご飯を食べに行かないか、そんなメールが岡田さんから届いたのは金曜の昼間だったろうか。

岡田さんは、姉貴も在籍している大学内研究所を統括しているおじさんで、姉弟共々色々と世話になっていた。特に俺は、歳の差はあるものの、趣味が合うこともあり岡田さんを慕っていた。


その日は姉貴の帰りが遅くなるということだったので、渡りに舟と快諾した。


場所は大学近くの居酒屋、色々とどーでもいい話をしていた記憶がある。

確か……そこで急に眠くなって……
141: ◆KCXDu/KctI:2012/5/3(木) 23:39:05 ID:0ea2j4icKY
────────
──────

「もしかして……岡田さん、一服盛りましたか?」

その言葉に、諦めたような表情をする岡田さん。

「さすが、涼くん。志穂くんの弟なだけあるね」

「今は姉貴は関係ないでしょう」

俺の姉である浅井志穂は非常に頭がいい。昔から常に学年で五本の指にはいる程成績はよく、今は日本一と言われる大学の研究室で働いている。
そんな姉貴を俺は尊敬しているが、一方で“浅井志穂の弟”と扱われることの多さに嫌気が差しているのも事実だ。

「ふむ、ちょっと横を見てくれるかな?」

いきなり何を……。そう言おうとするも、視界に入ってきた光景に頭の中からその言葉の存在は消されてしまった。
142: ◆KCXDu/KctI:2012/5/7(月) 23:27:35 ID:0ea2j4icKY
全く気がつかなかった。
いや、気づかないふりをしていただけかもしれない。

姉が、浅井志穂がコードをたくさん繋がれ横たわっていた。

「っ!……どういう事か説明して貰えませんか?」

一瞬、声を荒げそうになったものの、なんとか理性で抑え込む。

「言われなくてもそのつもりだよ。ところで、君は不思議な空間にいた記憶はないかい?」

あの館の事……だよな、間違いなく。どうして、どうして知っているんだ。

「思い当たる節はあるようだね、安心したよ。僕らの実験は間違ってはいなかったようだ」

「実験?いったい何の話ですか?」

「それなのだが……これを読んで欲しい」


岡田さんはそう言うと、B5サイズの紙束を差し出した。
143: ◆KCXDu/KctI:2012/5/7(月) 23:28:49 ID:0ea2j4icKY
『電脳空間計画』


聞いたこともないSFのようなそんな計画について延々と書かれているソレは、俺にとって衝撃的な内容だらけだった。

館の事。来栖さん達の事。猫耳少女の事。

その全てが“作られたもの”だというのだ。

「なるほど、ある程度理解は出来ました。でも一つ解らないことがあるんです」

「なにかな?」

「どうして、部外者の俺が実験台になったのか、です」

この一点、なぜ俺が実験台に選ばれたのかということだけは、どこにも書いていないのだ。
144: ◆KCXDu/KctI:2012/5/12(土) 22:13:25 ID:0ea2j4icKY
「それなんだが……本来なら君が実験台になる予定は当然ながらなかったんだ。しかし……」

なぜかそこで口ごもる岡田さん。そのはっきりしない様子に少し苛つく。

「しかしなんなんですか?俺には理由を聞く権利があると思います」

「う、うむ、そうなのだが……」

「あーもう、とりあえず今はいいですよ。それで、姉貴に関してですが……どういうことですか?」
145: ◆KCXDu/KctI:2012/5/12(土) 22:14:04 ID:0ea2j4icKY
俺が実験台に選ばれたのなら、姉貴までも実験台になる必要はないはずだ。
なにより、姉貴は研究室の中でも立場が上だと聞いたことがある。普通、上の立場にいる人間が実験台になるなんてないんじゃないだろうか。

「志穂くんの事だが…………。いや、ダメだ。やはり君が選ばれた理由を隠したままでは、話が出来ないな……」

そう呟くと、岡田さんは何か覚悟を決めたように、切り出した。

「今から、君に全てを話そう」
146: 名無しさん@読者の声:2012/5/14(月) 22:28:47 ID:GVugBxIOzU
続きwktk
っC
147: 146さんありがとうございます!そして間が空いて申し訳ないです ◆KCXDu/KctI:2012/5/18(金) 19:47:20 ID:Y5bUPMbUks
「まず知っといてもらわないといけないのだが、この計画、電脳空間計画はうちの学長が主導して始められたものなんだ」

「涼くんも、SF小説やマンガ等で見たことがあるんじゃないかな。頭にコードを繋いで、精神だけ別空間に移動させる。そこではまるで現実と同じように体を動かせる、というような物だ」

確かに、昔コ○ンの映画で見た記憶がある。それは体全体を包み込む様なものだったが。

「つまり、電脳空間計画はそれなんだよ。実際に体験した涼くんなら言ってる意味が解るだろう?」
148: ◆KCXDu/KctI:2012/5/18(金) 19:47:48 ID:Y5bUPMbUks
その質問に対して、俺は素直に頷く。
あの空間での事は鮮明に思い出せる。食欲がないという点以外、特に体の面での違和感はなかった。

「それで、だ。元々の研究内容と近いということで我が研究室に白羽の矢が立ったわけなんだ」

「そして、コレが試作第一号というわけだ。君の言う通り、当初は研究室内の誰かが実験台になる予定だったんだ。だが、ここで少し厄介なことがあってね……」

「学長が、外部の人間を実験台にしろと言い出したんだよ。何も知らない人間を使った方がいいとね」

149: ◆KCXDu/KctI:2012/5/18(金) 19:48:10 ID:Y5bUPMbUks
「勿論僕らは反対した。しかし、だ。反対するなら他の研究室に計画を継がせて、うちの研究室を潰すと言い出してね……」

「だからといって、保身のために部外者を危険性のある実験台にするということは許されることではないとは分かっている。本当に申し訳ない」

そう言うや否や、土下座をする岡田さん。

「ちょ、ちょっと頭を上げてください!すぐに許せるわけではないですけど、事情に関しては理解できますし。それより続きを話してください」

なにより、姉貴だってここのメンバーだ。迂闊に訴えたりは出来ない。もしかしたら、俺が選ばれたのはそれが理由かもしれない。
150: ◆KCXDu/KctI:2012/5/18(金) 19:48:30 ID:Y5bUPMbUks
「本当にすまない。……それで、なぜ君が選ばれたかだが、これに関しては研究室内のメンバーの親類から選考しろと命令されてね。おそらく、身内なら訴えられにくいと学長は考えたんだろう」

やっぱり、そうだったか。俺の想像は間違っていなかったようだ。
「さらにその中から複数ある条件、具体的にいうと、体力面や時間面等での問題をクリア出来る人間となると、君しかいなかったんだ」

「当然、志穂くんからは強く反対されたよ。しかし、みな自分の身内を実験台にはしたくない。だから誰も志穂くんには賛同しなかった」

「ただ、だからといっても、一人でも反対者がいるのなら行動することが出来ないので、暫く保留状態だったんだ」


151: ◆KCXDu/KctI:2012/5/18(金) 19:48:50 ID:Y5bUPMbUks
「だけど、学長がその事を知ってね。志穂くんに気付かれないように涼くんを連れてこいと言ってね……逆らうことが出来なかったんだ。志穂くんには、君の携帯から、友人宅に泊まるとメールで連絡をし誤魔化すよう指示もされた」

「それで、なぜ志穂くんがコードに繋がっているか……だが、一晩は誤魔化せても、志穂くんが研究室に来たら、君が部屋の真ん中で、コードに繋がれ寝かされているんだ。気付かないわけがない」

「志穂くんは混乱したんだろうね。君を助けに行くと言って、未完成の接続コードを自ら繋げて、電脳空間に入ってしまったんだよ」
152: 名無しさん@読者の声:2012/5/18(金) 19:51:04 ID:ca3k1/BLTo
「今の段階では、外からは何も出来なくてね、僕らに出来ることは祈ることしかなかった。そして君が電脳空間に入ってから3日経った今、涼くん、君がこっちに戻ってきたというわけだ」

岡田さんは、話終わるともう一度俺に向かって、深く頭を下げた。

「とりあえず、今はその事についてはいいです。学長さんがいないと意味がないですから。それより、姉貴はちゃんと戻ってくるんですよね?」

153: ◆KCXDu/KctI:2012/5/18(金) 19:51:25 ID:Y5bUPMbUks
かなり、嫌な予感がする。
さっき岡田さんが言っていた、“未完成の”接続コードという発言が気になるのだ。
わざわざ、そう言ったということは、何か意味があるはずだ。

「残念ながら……分からない。君ですら、戻ってくるという確証はなかったんだ。志穂くんの場合、未完成の接続コードを使用しているから、全く確証はないんだ……」

「……だいたい分かりました。つまり、運に任せてただ祈って待つ、それだけだということですね」
154: ◆KCXDu/KctI:2012/5/18(金) 19:55:04 ID:Y5bUPMbUks
「…………いや、君が戻ってきた今、一応手がないことはないんだ。ただ、それはハイリスクな賭けだ」



「涼くん、君がもう一度電脳空間に戻り、そしてまたこっちに連れ戻すんだ。一度電脳空間を経験した君以外、適任はいないんだ」



「……分かりました、やりますよ、それ。ただ祈って待つくらいならこっちから行動します」

姉貴が、俺を助けようとしてくれたのなら、俺はその恩を返すべきだ。
待っているだけなんて、出来るはずがない。

「また君に危険を冒させてしまって、本当に申し訳ない。この事に関してはちゃんと、何らかの形で償うつもりだよ」


「岡田さん、そういうことは終わってからにしましょう。それより、早速作戦を考えましょう」
155: ◆KCXDu/KctI:2012/5/22(火) 21:40:29 ID:1t4A0xigss
「うむ、そうだな。よし、金子くん、ちょっと来てくれ」

俺の正面、大きな画面の中心辺りにあるPCから金子くん、と岡田さんに呼ばれた、姉貴と同い年か、少し上位に見える男性がこちらにやって来た。

「システム開発を臨時で統括してる金子くんだ。本来ならシステム開発は志穂くんが統括してるんだがね」

「はぁ、そうなんですか」

「おっと、今はそんな悠長な紹介をしている場合じゃなかったね。早速、電脳空間について教えてくれないかな」

「教えてくれって、最初から話せばいいんですか?」

俺の問いに岡田さんが頷く。

156: ◆KCXDu/KctI:2012/5/22(火) 21:42:47 ID:1t4A0xigss
「えーと、まず目が覚めたら自分の名前以外の記憶がほとんど抜けてましたね」

「それは本当!?」

金子さんは目が飛び出しそうなほど驚いて、そう聞いてきた。
心なしか、少し部屋内がどよめいたようにも感じる。

「え、ええ。わざわざ嘘を言う意味はないですし」

「なるほど……。A班!至急原因を探して!」

俺の答えを聴くや否や、指示を出す金子さん。

「記憶が抜けているっていうのは完全に予想外だ……。それで、他にはなにかあった?」
157: ◆KCXDu/KctI:2012/5/22(火) 21:43:12 ID:ddyyP9wyno
「他には……っていうか、さっきの続きですけど、男の人たちが出てきて、生死をさ迷ってるとか、なんかそんな感じの事を聞かされました」

2人からは特に反応がない。あれは予定通りだったわけか。

「その後は確か…………猫耳の少女に案内されて、ヒント貰ったりして答えに辿り着いたって感じですかね」

「なるほどな……。やはりというか、君の様子から想像はついていたが、志穂くんが君の前に現れることは無かったわけだね?」

「無かったです」

「ふむ……これに関しては金子くんはどう思うかい?」

俺の返事を聞き、岡田さんは金子さんに意見を求める事にしたようだ。

「そうですね……理論上では出会っていてもおかしくないんですが……試作品故のバグだとしたら厄介ですね」

158: ◆KCXDu/KctI:2012/5/22(火) 21:43:33 ID:1t4A0xigss
金子さんが何か不吉なことを言った気がする。もしバグだとしたら、俺がまたあの空間に行っても打つ手がない可能性が高い。

「ふぅむ……。涼くん、他に何か変わったことは無かったかい?」
岡田さんの質問を受け、改めて思考を巡らせる。何か、変わったこと。
まず、あの空間事態が変わったことだった。その中でも更に変わったことというと……
159: ◆KCXDu/KctI:2012/5/22(火) 21:43:53 ID:ddyyP9wyno
猫耳少女が本当の猫のようだった事……これは関係ないだろう。
必ず目が覚めたら誰かが現れた事……これはきっとプログラムかなんかだったんだろう。

穂香さんがいきなり豹変したこと……これもきっとプログラムかなんか……


(……そう、涼は死んでない。あなたは、あの少女を信じなさい。いいわね?……)


待てよ?これはまさか……



160: ◆KCXDu/KctI:2012/5/22(火) 21:44:23 ID:1t4A0xigss
「1つ、ありました。空間内の女性が、一度だけ姉貴みたいになったんです」

記憶の戻った今だから気がつけた。あの感じは、姉貴そのものだった。

「りょ、涼くん!それについて詳しく教えてくれ!」

「あれは……猫耳の少女の言うことを信じるかどうか悩んでた時だったと思います。穂香さん……空間内の女性と話していると、急に口調や雰囲気が変わったんです。」

「その時は何か分からなかったんですが、今なら分かります。あれは姉貴でした、間違いないです」
メモを取りながら俺の話を聞いていた二人。俺が話し終わっても、何も言わず、何か考えている様子だ。

どちらかが口を開くの待って、二三分程経っただろう、岡田さんが顔を上げて話を切り出した。
161: ◆KCXDu/KctI:2012/5/27(日) 00:53:18 ID:Q3W5xzWuSA
完全に盛り上げ企画忘れてた……。こんばんは、久しぶりに話以外を書き込んでる気がします。
まず、名前を出していただいた読者様!ありがとうございます!
まさか、第一回目から名前が出るとは思ってもいなかったので、
とても嬉しいです!
正直、二度見しましたw

それで本編の方ですが、また間が空いてしまい申し訳ありません……
ただでさえ筆が遅いのに、体調を崩してしまいまして。
とりあえず、月曜日までには更新したいと思います。
それでは、今後も読者の皆様よろしくお願い致しますm(_ _)m

162: 名無しさん@読者の声:2012/5/28(月) 19:27:53 ID:VJxIIv43dw
「ちょっと信じられんことが起こっているのかもしれない。志穂くんは……人工人格と同調してしまった可能性がある」

「人工人格と……同調?というか、人工人格というのがまず初耳です」

「ふむ、あの資料の中に書いていたんだが……。人口人格というのは、君が言う所の中にいる人、というやつだよ

「彼らは別の研究室の計画でね、人口人格、つまり電脳空間上に擬似的人格を作るという物なんだ。それで、うちが電脳空間の実験をするという事で、彼らの実験も兼ねることになったんだよ」

163: 名無しさん@読者の声:2012/5/28(月) 19:28:14 ID:VJxIIv43dw

岡田さんの言葉に多少驚きは感じたが、それは想定外な事による驚きではなく、想定内な事による驚きだ。

電脳空間という話を聞いた時点で、来栖さん達が自分とは違う位置にいるのだろうとは予想していたからだ。

それでも、あれが作られたものだという事実は中々に信じ難い。
俺には生身の人間にしか感じられなかった。

「そうだったんですか……。全く違和感がありませんでしたよ。ちょっと信じられないです」

164: 名無しさん@読者の声:2012/5/28(月) 19:28:40 ID:VJxIIv43dw
「それに関しては、後でまたそっちの研究室の人達にも話を聞かれると思うから、その時はしっかり話してあげて欲しい。それで、だ。志穂くんが同調しか可能性があるという話だが……」

「……はっきり言って、最悪の事態として想定していた事だ。すぐに空間から離脱できるプログラムというものがあるのだが、同調してしまっていると、それが効かないんだよ」

「だったら、同調をどうにかして解けばいいじゃないですか」

「そう上手くいくのなら、最悪の事態とは言わないよ、涼くん」

分かっていた、分かってはいたが言わずにはいられなかった。最悪の事態なんて言われてすんなり納得いくはずがない。


165: 名無しさん@読者の声:2012/5/28(月) 19:29:06 ID:VJxIIv43dw
「じゃあ、どうするっていうんですか!!」

出来る限り冷静にいようと心掛けていたが、岡田さんの他人事の様な態度につい声を荒らげてしまう。

「涼くん、落ち着いてくれ。手掛かりが無いことはないんだ。一度、志穂くんの心拍が大きく乱れたことがあった。それが、同調から解けたタイミングだった可能性が高い」

「おそらく、自分で同調を解くことは可能なのだろう。ただ、短時間でも相当な危険が伴っているのは、心拍の乱れから間違いない。だから、外からの力で同調を解く必要がある」

166: 名無しさん@読者の声:2012/5/28(月) 19:29:41 ID:VJxIIv43dw
「そこで涼くん、君が切っ掛けを作るんだ。何が切っ掛けになるかは分からない。分からないが、志穂くんの精神的な面が強く揺さぶられること、理性より先に喜怒哀楽等の強い感情が出るようなことが有効なんじゃないだろう」

強い感情が出るようなこと……か。一体、どうすれば強い感情を与えられるんだろうか?

「ただ、悠長に切っ掛けを探している時間はない。空間にいる間、寝ている体に点滴を打っているとはいえ、体力的には一週間が限界だろう。今の時点ですでに4日経っているからね」

残された時間は3日ということか。そういえば、穂香さんも一週間以上いない方がいいとか言っていたっけ。

167: 名無しさん@読者の声:2012/5/28(月) 19:29:59 ID:fjLtMaiiBI
「金子さん!記憶が無くなる原因が発見できました!早速プログラムの修正お願いします」

「わかった、今いく。涼くん、ありがとう参考になったよ」


PCに向かって作業をしていた一人に呼ばれ、金子さんは席を立った。
岡田さんも、もう話すことはないとばかりに黙ってしまっている。

ここからは、俺自身の行動に掛かっているという事か。
プログラムの修正が終われば、すぐに空間に入ることになるだろう。それまでに何か切っ掛けに成りうる事を考えなければ。


168: 名無しさん@読者の声:2012/5/28(月) 19:30:16 ID:VJxIIv43dw
なにも思い付かないまま、10分程経っただろうか。金子さんが再びこちらにやって来た。

「教授、プログラムの修正が完了しました。これで大丈夫なはずです」

「おお、そうか。早かったじゃないか。それじゃあ涼くん、早速準備をしよう」

そう言うと、俺の背後にある機械を操作し始めた。

「よし、きちんと動いているな。それじゃあ涼くん、準備はいいかな?」

覚悟を決め、それに頷く。

「それでは始めよう」

岡田さんのその言葉と同時に、背中に何かを付けられる感触。
それを感じた瞬間、強烈な目眩に襲われ、俺は意識を手放した。

169: 名無しさん@読者の声:2012/5/28(月) 19:30:42 ID:fjLtMaiiBI
────────
──────
────

目が覚めると、見覚えのある大きな部屋の大きなベッドの上にいた。どうやら金子さんが修正したプログラムはちゃんと機能したようだ。

周囲を見回し、ホントにここが作られた空間なのだと改めて実感する。
現代の技術の発展は凄いな、なんて他人事の様に感じている自分に気付き、それに苦笑しつつベッドから降りようとした時。

ノックと共に記憶に新しい声が聞こえてきた。


170: 名無しさん@読者の声:2012/5/28(月) 19:31:01 ID:fjLtMaiiBI
「目覚めたかい?失礼するよ」

あの時と全く同じ台詞。

「安心してくれ、僕は君に危害を加えようなどと考えていない」

そんな事より、足元に気を付けた方がいいですよ、あなたは。

思った通り、転けた来栖さんと外から聞こえる笑い声。


あの時と一緒。唯一違うのは、俺に記憶がある点のみ。だけど、それで充分だ。


適当に話を合わせ、一度聞いた事のある話を聞き流しつつ、今後の行動を考える。

確か、俺がこの後穂香さんと2人で会うのは二回。つまり、その二回で何とか同調を解かなければならないわけだ。

これは相当大変な事になってしまったぞ。

部屋から出ていく三人を見送りながら、俺はこの難問に頭を抱えていた。

171: 前回コテつけ忘れてましたね(汗) ◆KCXDu/KctI:2012/6/3(日) 23:05:00 ID:6Ybnqx7OSQ
「この後、階段の方で穂香さんと会うんだよな……」

穂香さんと二人になるタイミング、その一回目はここに来てすぐの事だ。
だったら、ノープランで会いに行くのは貴重な一回を無駄にしかねない。ある程度ここで考えを纏めてからの方がいいだろう。

「ってか、これ同調解いたとしてどう帰ればいいんだ?前回のアレと同じでいいのか?」

よく考えたら、岡田さん大事なことを教えてくれてねぇよ……

172: ◆KCXDu/KctI:2012/6/3(日) 23:06:27 ID:6Ybnqx7OSQ
「まあ、今そんなこと考えても仕方ないか」

まずは同調を解く方法だ。帰る方法は同調を解いてからでも何とかなるだろう。

「んー、強い感情が出ることだよな……。俺だったらどんな時だろ」

想像を巡らしてみるものの、やはり思い付かない。下手すると、ここから戻る時より難しいかもしれない。

「んー、ビックリさせる系でいってみるかなー?っても、真っ正直から驚かせるってどうすりゃいいんだ」
173: ◆KCXDu/KctI:2012/6/3(日) 23:07:10 ID:6Ybnqx7OSQ
穂香さんとの遭遇は、一回目も二回目も突然現れたことで、むしろ俺が驚かされた。
だったら、こっちが急に現れて驚かせればいいんじゃないか?

「でも、どっから現れるか分からないのがなー」

一回目、階段で出会った時は、足音も存在感も何もない空間から突然現れように感じられた。
おそらく俺が階段に着いたら現れるように決まっているんだろう。
となると、この方法は無理だということになる。

「後は……虫とかが急に出てきたらビックリするか」

といっても、この空間で虫を見た記憶は一切ない。となると、この方法も無理そうだ。
174: ◆KCXDu/KctI:2012/6/12(火) 08:15:28 ID:WlB95nz5kU
「これ完全に詰んでる……」

全くといっていい程何も思い付かない。
普段から人を驚かせる事もないし、驚かされる事も少ない。経験値が低すぎるのだ。

「仕方ない……一回目はノープランでいくしかねーな」

考えることを諦め、俺は階段へ向かうことにした。



ドアが延々と続く廊下を抜け、階段に到着。デカい屋敷だな、もう何度目か分からない感想を抱く。
階段を一段一段降りていくと、やはり空気が変わるのを感じる。

175: ◆KCXDu/KctI:2012/6/12(火) 08:15:54 ID:WlB95nz5kU
「なんか、異世界みたいだな」

前回と同じような言葉を口に出す。一応流れは同じの方が安心だし。

「ふふっ、異世界……ですか」


後ろから聞こえてきた言葉の主の方向に顔を向ける。

「驚かせちゃいましたか?」

あの時と同じ、いたずらっ子の様な表情。穂香さんと話す最初のタイミングだ。

「ええ、少し。それで、俺に何か用事ですか?」

「いえ、特に何かある訳ではないんですけどね。なんとなく気になったので」

「あ、そうなんですか」

「そうなんです」

………………なんか違うぞ!?
アドバイスしに来たんじゃないのか!?


176: ◆KCXDu/KctI:2012/6/12(火) 08:16:24 ID:GvKIsJSJeQ
「どうかしましたか?」

「い、いえ!何でもないですよ」

どどどどうしよう!!ただでさえ何も考えてない!!

「ほ!穂香さんは今日もお綺麗ですね!?」

だあああああ何いっちゃってんだああああ!!声裏返ったし!!

「あらあら、嬉しいことを言ってくれるじゃないですか〜。あれ?そういえば、私自己紹介しましたっけ?」

「えっ!?し、してましたよ!?」

しまったああああ!!うっかり名前呼んじまったあああ!!まだ自己紹介されてなかったよ!!

「あらー、そうでしたっけ?」

「そっ、そうですよ!」

うわっ!めっちゃ怪訝そうな顔してるよ!これホントにプログラムなの?

「んー、記憶にないですけど……まあいいです。ところで涼くんは今から下に行くんですか?」

「あっ、はい、そのつもりです」
「ふふっ、そうですか。それでは私は邪魔にならないようにもう行きますね」

そう言うと、クルリと体を翻して上の階へ昇っていった。


177: ◆KCXDu/KctI:2012/6/20(水) 21:26:53 ID:K6sI.lcXfM

「…………何やってんだ、俺」

激しい後悔の念に苛まれつつ、次の行動を考える。穂香さんにはああ言ったものの、実際に下に行くつもりはない。

「まあ、前と同じように部屋に戻ればいいか。」

……前は穂香さんに連れて行ってもらったけど。また前と違うけど。

そうして、部屋に戻ろうと一段上がったところで足を止める。

ほんとうに、部屋に戻っていいのだろうか?

そんな疑問が頭の中から湧き出てくる。

178: ◆KCXDu/KctI:2012/6/20(水) 21:27:09 ID:piWl26.X1.
前回との相違点が少しずつ現れている今、本当に前回と同じ行動をとる事が正しいのだろうか?
悠長にしていられる時間は、ない。
だったらこっちから先に動いた方が良いんじゃないだろうか?


姉貴は、俺を救う為に危険を省みずに行動した。それならば、弟である俺が保守的であっていいはずがない。
リターンを得るためには、リスクを背負わなければならないのだ。
待っていてはダメだ。自分から動くしかない。

だったら、俺が今からすべき事は?

答えは、初めから決まっていた。

179: ◆KCXDu/KctI:2012/6/20(水) 21:27:46 ID:K6sI.lcXfM

「猫耳少女の所に行ってみよう」

俺は再び一段上った階段を、再び降り始めた。


階段下に広がる、エントランスのような空間。
ここに、俺が求める彼女はいる。さっきから、前とは違うことが立て続けに起こっているにも関わらず、なぜか俺には自信があった。
人はそれを根拠のない物だとバカにするかもしれない。
だけど、一度この空間で過ごした俺にはなんとなく分かる。ここで出会えると。
部屋に繋がる3つの通路。そのどれかに俺が向かおうと動けば、きっと現れる。そう予想し、一歩踏み出す。



180: ◆KCXDu/KctI:2012/6/20(水) 21:30:34 ID:K6sI.lcXfM

「ねえ、あなた」

背後から届く、俺が待ち望んでいた、最近聴いたばかりだというのに、なぜか懐かしくさえ感じる声。

声が聴こえてきた方向、俺の真後ろに向かって振り返る。

そこに彼女はいた。

俺が求めていた少女は、現れてくれた。

181: ◆KCXDu/KctI:2012/6/26(火) 23:22:01 ID:NQSocqUEKk
「………君は?」

二度も同じミスは犯さない。落ち着いて、初めて出会ったような態度を装う。

「私?私は、あなたの味方」

彼女は、プログラムされた人工知能。
岡田さんからプログラムだと聞いたときには驚いた。生身の人だと思っていた相手が、実はロボットでしたと言われたらビックリするだろう。それと同じようなものだ。

俺は、勝手にショックを受け、勝手に壁を作っていた。
どうせ、指定された通りにしか動けないし話せないんだろうと決め付けていた。

182: ◆KCXDu/KctI:2012/6/26(火) 23:22:32 ID:NQSocqUEKk
だけれども、接していて何か違和感があったかというと、そんな事は一切ない。
俺を答えへと導くための作られたプログラム。作られた存在。
そんなことは、全く関係ない。
前と同じように、普通に接したらいいだけだ。
彼女なら、また俺の力になってくれるんじゃないか。そんな気がした。

「もしもーし、聞いてますか〜?」

っと、彼女を無視して考え込んでしまっていたようだ。我ながら素晴らしい集中力。

183: ◆KCXDu/KctI:2012/6/26(火) 23:23:03 ID:NQSocqUEKk
「ごめんごめん、ちょっとボーッとしちゃってた。で、なんだっけ?」

俺の言葉に彼女は嘆息する。

「だからぁ、私はあなたの味方だって言ったの。ああもう、なんだか気が抜けちゃったわ」

「ええっ!味方!?つまり俺の手助けをしてくれるってこと!?」

わ、我ながらなんてわざとらしい態度だろうか。これじゃただのマ○オさんだ。

「ふふん、そーいうことになるわ」

よ、喜んでる!!こんなんで喜んでるよ!!……意外と単純だぞこの猫耳。

「えーと、じゃあ君にちょっと相談にのって欲しいんだけど……」

「なにかしら?って、私にかかれば何の事か予想はついてるけどね」

「ほんと!?さすがだなぁ。じゃあ話すよ?」

「どうぞ?」

自信満々な彼女に、俺は告げる。

184: ◆KCXDu/KctI:2012/6/26(火) 23:23:41 ID:NQSocqUEKk
「女の人をビックリさせたいんだけど、どうすればいいかな?」


「そう、ここから出るためには………………って、え?今あなたなんて言った?」

「いやだからー、女の人をビックリさせるにはどうすればいいかな?って」

「は?……え、えと、こっから出るための事じゃなくて?お、女の人を……ビックリさせる?」

「うん。こっから出るとか今はあんまり興味ない」

「そ、そう。な、なんとなくそーいう気がしてたわ」

いやいや絶対嘘だろ。動揺しまくりじゃないか。

「だったら話が早い!何かいい案、あるよね?」

動揺を隠せない猫耳少女に、更に追い討ちをかける。あれ?もしかして俺Sっ気あるのか?

「と、当然あるわよ?でも…………、えーと、そう!あなたが私の事を信用してるか分からないから教えられないわ」

185: ◆KCXDu/KctI:2012/6/26(火) 23:24:05 ID:NQSocqUEKk
あ、なんか同じようなこと聞いた記憶があるぞ。うーん、日数的なタイミングだったら次は来栖さんだけど、猫耳少女とのこのやりとりの後に穂香さんと最後の話をしたわけだし……
ここは引き下がらない方がいいかもしれないな。
さて、だったらどうやって信用してもらうか……

そこまで考えた時点で、最近読んだマンガに載っていたセリフが頭をよぎる。うん、これだな。

「ねえ」

目線の高さを猫耳少女と同じところまで下げて呼びかける。

「なに?話さないわよ?」

今のちょっとした間で冷静さを取り戻したようだ。だがしかし、その冷静さを俺はぶち壊す!!
186: ◆KCXDu/KctI:2012/6/26(火) 23:24:39 ID:NQSocqUEKk
「そんな綺麗な瞳をした君を、信用しないわけがないだろう?」

俺の、受け売りの気取った台詞を聞くや否や、顔を真っ赤にさせる彼女。

「………………」

なにか言おうとしたのか口をパクパクさせている。声が出てないけど。

「ふーむ、少し刺激が強すぎたか……」

自分で言った事ではあるが、ここまでの反応をされるのは正直予想外。これじゃ、復活までちょっと時間かかりそうだ。
187: ◆KCXDu/KctI:2012/7/5(木) 22:47:37 ID:l03b3J/Cf.
〜5分後〜

「おーい、無視しないでくれよー。味方じゃなかったのかよー」

猫耳少女は、思考停止から復活したものの、今度は俺を完全に無視。全く顔を合わせてくれない。そんなわけで、彼女を宥めているのである。

「俺が悪かったよ。ちょっと悪ふざけが過ぎた自覚はあるよ」

俺のこの発言に、無視を決め込んでいた猫耳少女の肩が揺れた。
彼女の顔が、ゆっくりと俺の方に向く。その表情からは、感情を掴むことが出来ない。


188: ◆KCXDu/KctI:2012/7/5(木) 22:48:02 ID:l03b3J/Cf.
「あれは、悪ふざけなのね?」

その雰囲気に一瞬たじろいでしまいそうになるが、グッと堪え、彼女の目をしっかりと見つめて、その問いに真摯に答える。

「君の事を信用しているというのは悪ふざけなんかじゃない、嘘偽りない気持ちだよ」

俺の言葉を聞いてもなお、表情を変えずジッと俺を見つめる猫耳少女。
その目力に負けて、視線を逸らそしそうになっていたところで、彼女はフッと表情を緩めた。

「私も、あなたを信用するわ」

そう言う彼女が見せた微笑みに、俺はドキッとしてしまう。

「そ、そっか」

まさか、今度は俺が動揺させられとは。

189: ◆KCXDu/KctI:2012/7/5(木) 22:48:30 ID:l03b3J/Cf.
「それで、あなたの相談内容についてだけど、詳しい状況を説明してくれないかしら?」

「詳しい状況かー。うーん、俺の部屋に突然ある女性が現れるから、逆にその人を驚かせたい……って感じ?」

まあ、次に来るのが穂香さんかどうかは分からないけど。来栖さんと五分五分ってところか。

「なかなか突飛な状況ね、それ」

た、確かに。客観的に見ると相当突飛だ。全く違和感を感じてなかった辺り、感覚が麻痺してるな、俺。

「うんまあ、そうなんだけど。あと、いつ現れるかが分からないのがネックなんだよね」

「それって、ほとんど情報がないに等しいじゃない。ほんとに他に何もないの?」

他に……か。なにかあったっけか……………………あっ。

「そう言えば、寝起きとかベッドにいる時が多いような」

「ベッドにいる時……ねぇ」

そう言うと、彼女は俯いて考え込んでしまった。
うーむ、大して役に立ちそうに情報だよなぁ、たぶん。彼女は考えてくれているけど、この少ない情報ではいい案が思い付くのは至難の技だろう。まあ、それこそ姉貴みたいに賢い人なら思い付くんだろうけど。

190: ◆KCXDu/KctI:2012/7/5(木) 22:48:54 ID:l03b3J/Cf.
「その驚かせたい女性とは、どういう関係?親しいのか、それともあまり面識はないのか」

猫耳少女は、急に顔を上げたかと思うと、そんなどっちでもいいような質問を繰り出してきた。

「うーん、まあ親しい……ってことになるけど、ちょっと違うというかなんというか」

姉との関係性を親しいと表現するのはなんとなく違和感があるが、姉だとはさすがに言えないし……

「……もしかして彼女さん?」

「ちょっ!何言っちゃってんの!?」

口の中に飲み物を含んでたら吹いていた、間違いなく。

「あなたの説明だと、どう考えても彼女という結論にしか至らないのだけど」

191: ◆KCXDu/KctI:2012/7/5(木) 22:49:24 ID:l03b3J/Cf.
うん、確かにね。俺も話ながら若干思ってたよ。でもね、君には説明出来ないの!だからあんまりつっこまないで!

「じゃあもう、とりあえずそう思っといて」

もうめんどくさいし、いいか。ここで勘違いされてもリアルに戻れば影響ないし、説明するのもめんどうだし。

「違うんだけど説明するのがめんどくさい、みたいな態度が気にくわないけど、まあ今はいいわ。親しいのなら私の考えた方法が使えそうだからね」

「うん、気にしないのが正解だと俺も思う。実際聞く側もめんどくさい話だし」

「そう」

「うん」

「……」

な、なんか急に黙ったと思ったら、凄く冷たい視線を向けてくるんだけど。俺、何か言っちゃった?
192: ◆KCXDu/KctI:2012/7/5(木) 22:50:07 ID:l03b3J/Cf.
「あなたって……もしかして注意力ない?」

「急になに!?……いや、そんな事はないと思うけど」

俺がそう言うと、彼女は盛大にため息を吐いた。むっ、ちょっとイラっとしたぞ。

「さっき私、いい方法が思い付いたって事を言ったんだけどなぁ」

「…………それ、本当?」

「わざわざ今、嘘をつく理由があると思うの?」

「ないです。ってことは、マジなのか。えっと、いつ言った?ってか方法ってどんな?早く聞かせてくれ!」

「ちょっと落ち着きなさいよ。というか、ほんっとに気付いてなかったのね。ビックリだわ」

「うっ、うるさいなぁ。それより、ほら落ち着いたから早く早く」

「どう見ても落ち着いてないと思うけど……。ま、いいわ。私が考えた方法は……」

彼女はここで一旦間を空けた。そして直後に衝撃的な言葉を発する。
193: ◆KCXDu/KctI:2012/7/5(木) 22:50:39 ID:l03b3J/Cf.
「私と一緒に寝る」


………
……………
…………………
………………………はい?

「ちょっと、なにポカンとしてるの?何か言ったらどう?」

あれかな、俺の聞き間違いかな。なんか猫耳少女も平然としてるし。そうだな、聞き間違いだな。間違いなく聞き間違い。間違いが多くてややこしいぜHAHAHA

「って、そんなわけあるかあああああ!!」

「きゃっ!?な、なに!?」

俺が突然叫んだせいで、クールな猫耳少女らしからぬ可愛い悲鳴をあげてしまった。こりゃあ、なかなかレアかもしれん。
うん、完全に逃避だね。逃避でもしてられないとやってられないね。だって意味が分からないんだもの。
仕方ない、ちゃんと真意を聞いてみるか。

194: ◆KCXDu/KctI:2012/7/5(木) 22:51:06 ID:l03b3J/Cf.
「なあ、寝るってなんでよ?」

「だって、もし寝起きに現れたら、もうどうしようもないでしょ?だったら寝る前に仕込むしかないじゃない」

「うっ。確かにそうだけど……他にも何か方法はあるんじゃないか?」

「何かって……何も思い付かなくて私を頼ったあなたに言われても説得力ないわよ」

ぐっ、痛いところを突いてきやがる。俺から頼ったんだもんなぁ、否定するのは失礼だな。

「わかった。それでいこう。でも、いいの?俺も一応男だよ?何するかわからないよ?」

いや、何もしないけどさ。ここだと睡眠欲以外、生理的な欲は一切おこらないし。

「さっきも言ったでしょ?あなたを信用するって」

「そっか。……よし、じゃあ早速俺の部屋に移動しますか」
195: ◆KCXDu/KctI:2012/7/15(日) 12:45:07 ID:u6RcMEvSbw
そんなこんなで、俺の隣で猫耳少女が寝ています。


「いやいやいやいや、これはいかん。何だかわからないけど、とにかくいかん」

中高と男子校だった俺は、女の子と手を繋いだことすらない。それなのに、いきなり添い寝ですよ?ちょっと段階飛ばしすぎじゃないですか?
いくらムラムラしないとはいえ、緊張するし、照れもする。当然ながら、猫耳少女に背を向けて寝ている。
というか、無駄に猫耳少女が美少女だから困る。なんで美少女に作っちゃったの!?教えてよ!!
196: ◆KCXDu/KctI:2012/7/15(日) 12:45:44 ID:u6RcMEvSbw
「ああ、本当にいかん」

「もう、さっきからなに?あなたって、結構ウザイって言われない?」

「失礼な。2日に一回くらいしか言われないぞ」

「それは多い部類にはいるんじゃないかしら……」

なんて失礼なやつだ。もう怒っちゃうぞ、ぷんぷん

「うわぁ…………」

「!?」

まるで俺の頭の中を読んでいたとしか思えない彼女の反応に、咄嗟に顔を彼女に向ける。
その表情からは侮蔑しか読み取れない。というか、読み取りたくなかったけど、あからさま過ぎてどうしようもなかった。
197: ◆KCXDu/KctI:2012/7/15(日) 12:46:10 ID:u6RcMEvSbw
「…………無意識か知らないけど、口に出てたわよ」

ま、まじかよ……無意識こえぇ……
そして、俺を侮辱する様な雰囲気がバリバリ出ててとても辛いです。

「……ぷんぷん」

「やめて!恥ずかしくて死んじゃうから!ホントに!」

「仕方ないわねぇ…………ププッ」

「思い出し笑いもやめて!ってかわざとだよね!?どー考えても!?」

「うん、当然でしょ?」

「くっ、これが小悪魔ってやつなのか!もう寝てやる!」

「独り言で私の睡眠を邪魔しといて、自分だけ先に寝ようとするあなたも酷いと思うけど」
198: ◆KCXDu/KctI:2012/7/15(日) 12:47:48 ID:u6RcMEvSbw
なんか凄く的確な指摘をされたけど、無視。反論のしようが無かったわけでは決してない。いやホントに。

ただ、寝るとは言ったものの眠気が来ないことにはどうしようもない。この空間だと、眠気は脈絡もなく急激に来るから困るのだ。
ただ、ちゃんとベッドにいる時に眠気は来るので、なんらかのプログラム、いわゆる仕様という物なんだろう。

「これは困った。本当に困った。」

「だからぁ、静かにしなさいって言ってるじゃない!」

こんな毒にも薬にもならないような会話をしていると、

カランッ

背中の方から何かが床に落ちたような音が聞こえた。

不思議に思い振り向く。

そこで俺の視界に入ってきたのは、横にいる猫耳少女を越えた先、部屋の扉の前に呆然とした表情で突っ立っている穂香さんだった。
199: ◆KCXDu/KctI:2012/7/24(火) 00:09:20 ID:uKlIxk.vNo
「ん、どうかした?」

猫耳少女は空気が変化したことを感じ取ったようだ。そして、俺の視線が自分以外の場所を見ていることに気付いたようで、俺が見ている方へ顔を向ける。


無音。部屋の中に三人いるのに、完全な静寂。

永遠にも感じられた数十秒。その沈黙を壊したのは穂香さんだった。



「お前なにやっとんじゃあああああああ!!!」


えっ!?なに!?キレてる!!めっさキレてる!!
どういうこと!?なんで!?
あっ、あれか。ラブコメにありがちな「この泥棒猫め!!涼くんは私の物なんだから!」みたいなそんな────
200: ◆KCXDu/KctI:2012/7/24(火) 00:09:54 ID:uKlIxk.vNo
「私に養ってもらってる分際で子作りかごらぁぁぁぁああああ」

ですよね!!ごめんなさい!!って、あれ?

「もしかして姉貴?」

「あたりまえでしょーが!!って、おお!!ホントだ!!体乗っ取れた!!」

体乗っ取るて……。完全に悪役の台詞だよ。とりあえず誤解解いとかないと。猫耳少女は思考停止したまんまフリーズ状態だし。

「えーと、姉貴?勘違いしてるみたいだけど、如何わしいことはしてませんよ?ほらよく見て服着てるし」

無罪を証明するため、体を起こして服を着てることを見せる。
201: ◆KCXDu/KctI:2012/7/24(火) 00:10:24 ID:uKlIxk.vNo
「涼……着衣とはまたマニアックな……」

「ええええ!?なんでそーいう発想になるんですかお姉さま!?ほ、ほら君も固まってないでなんか言って!」

「はっ!!な、なんだっけ?私とあなたが付き合ってるって話だっけ?」

猫耳少女がとんでもない事を言いやがりました。助けを求めたつもりなのに火に油を注ぎやがりました。

「何の話!?したことも聞いたこともないから!!どーした何があった!!」

202: ◆KCXDu/KctI:2012/7/24(火) 00:10:49 ID:uKlIxk.vNo
ちらっと姉貴の方を見る。……うん、なんかめっちゃニコニコしてる。もうなんか恐いくらいの笑顔だよ。

「りょーうー?いつも、先の事を考えて行動しろって言ってたと思うんだけどねぇ?覚えてないかなぁ?」

「いや、だからさ!誤解だって!ってか今はこの話はどうでもいいから!」

「どうでもいい……しょぼーん……」

俺の言葉に凹む猫耳少女。いちいちめんどくせぇ!ってか、なにいつの間にフラグ立ったの!?あれか!?上手くもないキザな台詞で立ったのか!?

「今大事なのは、こっから戻ることだろ!!姉貴、しっかりしてくれ!!」

「すっかり忘れてたわ。うっかりうっかり」

「戻る気あるのか!?俺の覚悟を返せ!!」

「てへぺろ」

…………頭が痛くなってきた。

203: ◆KCXDu/KctI:2012/7/24(火) 00:12:30 ID:uKlIxk.vNo
こんばんわ。まさかのランキング入りに驚きを隠せない1です。
投票してくださった皆様ありがとうございますm(__)m
ランキング入りなんて自分とは縁の無いことだと思っていたので、とても嬉しいです。本当に読者様には感謝してもしきれません。
物語は終わりが近付いてきていますが、今後も手を抜かず全力で書いていきますので、あともう少しお付き合いいただけたら幸いです。それではよろしくお願いします!
204: ◆KCXDu/KctI:2012/7/29(日) 07:46:33 ID:Cd8hYwu6K6
「まあ冗談はこれくらいにして、どうやって帰るかの話なんだけど」

「そりゃあのキーワードじゃねーの?」

「涼はね、それでいいんだけど。私はこの体と繋がりが出来ちゃってるみたい、だからそれが使えないんだねー」

他人事みたいにサラッと凄いこと言わなかったかおい。どーすんだよ!!

「ね、ねえ、私には状況がさっぱり分からないんだけど……」

猫耳少女が困惑した表情で俺の方を見る。こっちもこっちでめんどくさいな……
仕方ない、先にこっちを済ませよう。

205: ◆KCXDu/KctI:2012/7/29(日) 07:47:20 ID:Cd8hYwu6K6
「とりあえず姉貴は戻る方法を考えといて。俺は今からこいつに状況説明するから」

「はいはい」

とは言ったものの、ちゃんと説明しようと思うとプログラムうんぬんを話さないといけなくなる。でも、猫耳少女本人に「君は作られたプログラムだ」とは言いたくない。
し、仕方ない、ここは適当に説明するか

「えーっとだなー、なんかよく分からないけど、うちの姉貴が穂香さんと同調して取り込まれて。で、今は色々あって逆に穂香さんの体を乗っ取ったっていう感じ」

「うん、全然分かんない」

「なんで!?」

「それじゃー分からんでしょー、私が説明しようか?」

戻る方法を考えとけって言ったのになんか姉貴が口を挟んできた。

「いや、姉貴は自分のことに集中しといてくれよ」

「うん、それはもう解決してるから大丈夫」

「なら大丈夫だな。……って早!一分ちょいでよく考え付いたな!」
206: ◆KCXDu/KctI:2012/7/29(日) 07:47:57 ID:Cd8hYwu6K6
「強制帰還プログラムを設定してたのを思い出した」

「そんなのあるのかよ!!」

なんだか頑張って手がかり探してたのが馬鹿らしく思えてきた涼です。


「そーいうわけで、由奈ちゃんには私が説明してあげよう」

「えっ……あなたはどうして私の名前を知っているの?」

猫耳少女って名前あったの!?ってかあったのなら言えよ!!
姉貴が知ってるのは……姉貴が名前付けたとかか?

「どうしてって?それはね…………私が神だから」

………………またわけの分からないことを言い出したぞおい。なんだよ神って。
姉貴の発言にポカーンとしていた猫耳少女が俺に耳打ちしてくる。

「怪しいと思ってたけど、やっぱりヤバイ人なんじゃないの?それかやっぱり中身も香村だったりとか」

「た、確かにヤバイ人なのは間違いないわ……。ただ、穂香さんはもっとマトモだからアレは姉貴で間違いないかな」

「それは……色々残念ね」

「ほんとにね……」


207: ◆KCXDu/KctI:2012/7/29(日) 07:48:18 ID:Cd8hYwu6K6
おーい、聞こえてるぞー、失礼だぞー」

超小声だったのに聞こえていたらしい。地獄耳だな、姉貴。……いや、この場合は穂香さんが地獄耳なのか?
って、そんな事考えてる場合じゃなかった!超うっかり!

「あーもうなんか色々姉貴がめんどくさくなってきた。申し訳ないけど、あれ以上の説明は俺に出来ないわ。ごめん」

「ううん、大丈夫気にしてないから」

「本当に申し訳ない。ほら、姉貴は早く強制帰還プログラムとやらを教えてくれよ」

「はいよ、じゃあ強制帰還プログラム教えるよー。……ん、紙とペンない?」

「うーん、俺は持ってない。部屋探せばあるんじゃないか?」

とは言ったものの、無いよね、見た感じでは。壺とか絵とか飾る前に、机とか椅子とか置けよ。いや、この場合は置けというより作れか?まあどっちでもいいや。
208: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/8/6(月) 00:35:35 ID:kG/avPe5U.
そんな事を考えていたら、横から袖を引っ張られた。見ると、猫耳少女が上目遣いで俺の袖をギュッと掴んでいた。
…………あれだね、うん、そう、あれ。俺は初めて分かったよ、萌えの意味が。

「なな、なにかな!?」

「……はい、これ」

何かと思ったら、鉛筆と紙を渡された。ってか、なんで急にしおらしくなってるの!?なんなの!?この気持ちはあれか!!ギャップ萌えか!!

「あ、ありがとう」

まずい、なんか直視できない!!俺のライフはもう0だよ!!

209: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/8/6(月) 00:36:42 ID:kG/avPe5U.
「姉貴、ほ、ほらこれ」

「由奈ちゃんサンキューね」

鉛筆と紙を受け取った姉貴は、おもむろに何か書き始めた。

き、気まずい!!何話せばええねん!!なんか分からへんけど関西弁になってもうたわ!!もう分からへん!!知らん!!

「だ、大丈夫?」

俺が一人でテンパって頭を抱えているのを見るに見兼ねてか、猫耳少女が心配そうに見つめてきた。

「大丈夫だ、問題ない」

「そ、そう……ならいいんだけど……」

まあ全然大丈夫じゃないですけどねっ!!姉貴早くしてくれっ!!
210: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/8/6(月) 00:37:09 ID:kG/avPe5U.
そんな俺の願いが通じたのか、どうやら姉貴は書き終わったようだ。

「はい、これが強制帰還プログラムの始動キーね」

紙にはなにやら長い言葉が書かれている。

『ビンケクショイ・サクコシカデトーキュ・ハホシイサア』

意味が分からん。そして何度見ても長い。普通パスワードって長くても8字じゃね?よく覚えてるなこんなの。さすが天才。

「じゃ、私は先に行くわね」

「了解。…………って待て待て」

「なに?」

「なに?じゃねぇ!姉貴が先に戻ったら、俺は穂香さんの対応しなきゃいけなくなるんだけど!」

「それは盲点」

「おいおい……」
211: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/8/6(月) 00:37:35 ID:kG/avPe5U.
危ない危ない。本来の穂香さんと猫耳少女、この2人が顔を合わせるってのは間違いなく面倒臭いだろうし。

「とにかく、一緒に戻るぞ。えーと由奈さん?色々ありがとうね」

猫耳少女から返事はない。というか、こっちを見てくれない。なんだよ冷たいな……

「よし。じゃ、行くよー、せーの」

『ビンケクショイ・サクコシカデトーキュ・ハホシイサア』

言い終わると同時に、急激に体が重くなる。前にも感じたことのある感覚。
チラッとこっちを見た猫耳少女に微笑みかけ、目を瞑る。
今度こそ……ちゃんと戻れることに安堵しながら。
212: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/8/14(火) 15:21:58 ID:H3td87KdjY
────────

音も光もない真っ暗な空間。前と変わらず、自分の体だけはしっかりと確認できる。
普通なら、あの館より現実感のないこんな空間、不安が湧き出してきそうなものだが、全くといっていいほど不安を感じない。むしろ、安心感の方が強い。
そんな安心感に暫く身を任せていると、あの時と同じように、少しずつ体が明るく優しい光に包まれていく。
あぁ、ホントにこれで帰れるんだ……強く実感しながら、光に身を任せた。

213: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/8/14(火) 15:22:58 ID:H3td87KdjY
────────
───────
──────

身の回りが何やら騒がしい。頭がボーッとする。何だか、前にもこんな事があった様な無かったような……

「涼くん!!よくやってくれた!!」

いきなり視界の中にオジサンの顔が入ってくる。なんか見た事あるような気が……無いような。
ボーッとしていると、背後から衝撃、刹那、意識がハッキリしてくる。

「またコレを外すのを忘れていたよ」

見た事あるようなオジサン、もとい岡田さんがコードの束をプラプラと俺に見せる。

「そうだ!姉貴は!?」

急いで姉貴が寝かされていた方を見る。

「いな……い……?」

そこには、空のベッドがあるだけだった。
214: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/8/14(火) 15:23:17 ID:H3td87KdjY
岡田さんの方を見る。
しかし、目が合うと同時に顔を逸らされてしまう。

「ちょっと!なんでいないんですか!」

しかし、俺の問い掛けには誰も答えてくれない。
頭の中に嫌な考えがよぎる。そして、そうなるともう止まらない。
ああ、もしかして……いや、しかし……


215: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/8/14(火) 15:24:04 ID:H3td87KdjY
「なになにどうした?そんなに私の事が恋しいのかい?」

「ちょっと今は黙っててくれ……って、えっ?」

「そんなに私がいない事に慌てて、涼はシスコンだったのか〜。まあ気持ちはわかるよ、こんなに美しい姉が身近にいるんだから仕方ないよ」

「いや、えっ、はい?」

あ、あれ?幻覚か?さっきまでいなかったのに……頭おかしくなっちまったのか?

「志穂くん、からかうのはその辺にしてあげたらどうだい?涼くんが可哀想だよ」

「あなたに指図されるのは気に食わないですけど……まあ仕方ないですね」

からかう?一体どーいう事だ?まさか……

「今までの事……全部嘘……とか?」

216: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/8/14(火) 15:24:26 ID:H3td87KdjY
「正解!……ではないんだな。涼が実験台に使われたのも、涼のお陰で助かったのもホント」

「じゃあ、からかうってなんの話だよ」

「いやー、私が意識取り戻した時点では、涼はまだ寝てたからさー。ちょっとビックリさせようと思ってベッドの下に隠れてました〜。てへぺろ」

えーと、つまりなんだ……

「……姉貴は、命の恩人である弟に対して嫌がらせをカマしてくれたと」

「大体あってるね。ただ、一つ忘れて貰ったら困るのは、私も涼にとって命の恩人って事ね」

た、確かにそれを言われたら言い返せないけど……それとこれとはまた別の話な気がする。言えないけど。逆らえないけど。

「さて、岡田さん、覚悟はいいですか?」

姉貴は俺をからかう事に飽きたのか、側に立っていた岡田さんに視線を向ける。
今までとは一転して、とても険しい表情で。

「ああ、当然だよ。私は保身の為に研究者としてやってはいけない事をしてしまった。当然責任はとるつもりだよ」

そう話す岡田さんを観察するようにジッと見る姉貴。
少し間が空いた後、姉貴が口を開いた。
217: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/8/14(火) 15:24:47 ID:H3td87KdjY
「嘘は……言ってないみたいですね。とりあえず、この話は学長がいなければ意味がありませんから、今度じっくり話し合いましょう。今日はもう帰ります。ずっと寝てただけとはいえ、精神転位が長くて流石にしんどいです」

そう言うと、姉貴は帰り支度を始めてしまったので、俺も急いで寝かされていたベッドから下りる。

結局、俺は行き当たりばったりで、がむしゃらにやっていただけだった。
きっと、姉貴ならもっと上手く確実にやっただろう。

「なーに暗い顔してんの。どーせまた自分はダメだとか思ってるんでしょー」

「さすが姉貴、なんでもお見通しか」

「そりゃあね。全くもー、もっと自信持ちなさい!涼は私より凄いことしたんだから」

そう言って優しく微笑む姉貴を見ると、益々敵わないなと感じる。だけど、不思議とさっきまでの嫌な気持ちは無くなっていた。

「ほら、帰るよー。また明日から色々忙しくなるんだから」

「おう、そうだな」

218: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/8/14(火) 15:25:13 ID:H3td87KdjY
こうして、俺の世にも奇妙な経験は幕を閉じることとなった。
終わりよければ全てよし、という言葉があるが、まさにその通り、無事元の世界に、日常に戻ってこれただけで今は満足だ。
色々と大変だったが、この経験もいつか役に立つ日がくるかもしれない。そんな事を思いながら、久しぶりの家に向かって歩き始めた。



「そうそう、明日は被験者としてもう一個の研究室の方への説明に行かなきゃだからよろしく頼むねー」


…………まだもう少し、俺は日常には戻れないようだ。
219: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/8/14(火) 15:25:36 ID:H3td87KdjY
……というわけで、本編完結です!!
書き始めてから半年!どんだけ時間かかってるんだって話ですね。
何度か途中で止めようと思ったこともありましたが、ここまで走り抜けられたのは読んでくださる皆様のお陰です。本当にありがとうございます!


そんなこんなで、“本編”完結、と書いたように、あともう少しエピローグ的なのがあります。そんなに長くはないと思いますけど、10レスとかで終わる程短くもないと思います。
……まだプロットだけなのでどうなるか分かりませんが。

そして、そのエピローグの前に、作中で詳しく書けなかった『電脳空間計画』に関しての説明を書く予定です。

というわけで、あともう少しだけお付き合いいただけたら嬉しいです。よろしくお願いします!
220: 名無しさん@読者の声:2012/8/14(火) 16:10:10 ID:SXFmfK/83U
才色兼備なお姉さまにっC
 
エピローグとサイドストーリーも頑張れっC
221: 名無しさん@読者の声:2012/8/14(火) 20:35:35 ID:1DiEvISuTM
天使な猫耳少女由奈ちゃんに!C

超面白かったです、エピローグも期待!
222: 名無しさん@読者の声:2012/8/15(水) 00:31:13 ID:uTJazoZN.o
涼くんにC

>>1乙ー
面白かった!エピローグも最後まで読むよ
223: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/8/18(土) 20:29:42 ID:QM6uo3651s
>>220
志穂「うふふ、私が才色兼備だなんて、あなた分かってるね〜!Cありがとね♪」

>>221
由奈「て、天使!?わ、わ、私が!?あ、ありがとうございます……///」

>>222
涼「ううっ、こんな俺にCをくれるなんて……あなたは神ですか!!ありがとうございます一生ついていきます!」


というわけでCありがとうございます!嬉しすぎて、勢いで慣れないキャラによるレス返をしてみましたが、いかがでしょうw


というわけで、予告していた様に話の背景に関しての説明をしたいと思います。ぶっちゃけ、長いです。ほんとは涼が一度戻った時の岡田氏との会話に組み込む予定だったんですけど、本編内に入れるには長すぎるので……。
折角なので志穂と涼の会話形式にしてみました。岡田さんより志穂の説明の方がなんかいいですしね。それに、この姉弟の会話は書いてて楽しいですw
結局、この話の時系列的に本編すぐで、エピローグの前になります。なんとなく終わった感がないですが、そこはまあ気にせずいってみましょー!
224: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/8/18(土) 20:30:31 ID:QM6uo3651s
─帰路にて─

「なあ姉貴、聞きたいことがあるんだけど」

俺が巻き込まれた『電脳空間計画』とかいう、まるでSF小説の様なプロジェクト。落ち着いて思い出すと、色々と疑問点が出てくる。
どうしても知りたい!という訳でもないが、せっかく隣に開発責任者様がいるのに聞かない手はないだろう。

「聞きたいこと?なに?私のスリーサイズ?もーシスコンなんだからー」

「姉貴の貧相な体についてのデータなんて興味ないです」

「へー、そんな事言っていいと思ってるのかな〜?電脳空間というのをいい事に、女の子と添い寝をしていた浅井涼くん?」

「姉貴の素晴らしいスタイルについてのデータはとても気になりますが、とりあえずそれについては後にして貰ってよろしいでしょうか」

「後で聞きたいんだー、やっぱり変態なシスコンさんだったんだー」

「姉貴ホント最低だな!!」

225: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/8/18(土) 20:30:51 ID:QM6uo3651s
なんでいちいちこんな不毛なやり取りをせにゃならんのだ。この短時間で一気に精神的な疲れが溜まった気がする。

「冗談冗談。で?スリーサイズじゃなかったら何が聞きたいの?」

「電脳空間計画についてだよ、普通に」

何で俺がスリーサイズを聞くと思ったのかが気になるが、長くなりそうな上にストレスも溜まりそうだから触れるのは止めておく。

「ああ、そっちか」

だからなんで意外そうなんだよ。

「で、何が聞きたいの?計画書読んだんでしょ?」

「読んだって言っても、軽く流し読みしただけだし」

「そっかそっか」

「で、まあ一つ目の質問なんだけど…………神に選ばれたとかどーとかの件、嘘だったら言う必要あんの?」

いくつかある疑問の中でも、最大の疑問がコレだ。来栖さんが長々と説明してくれたけど、あれ嘘なんだったら必要か?

「あーそれね。涼は、あの説明を聞いて彼らの事をどう感じた?」

「うーん、胡散臭い、かなぁ?」

「それ。それを狙っての事なの」

226: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/8/18(土) 20:31:12 ID:QM6uo3651s
「それを狙ってって……胡散臭く感じさせるのが目的って事だよな。なんでまたわざわざ」

「それはね、由奈ちゃんの事を信用させやすくする為なの。んー、言ってること分かる?」

「うん、分からん」

きっと俺が漫画のキャラだったら、横にキリッなんて書かれていただろう。

「つまりね、先に奇想天外な思想を持つ人に会わせておくことで、その後に出会うマトモな人よりマトモに見せるっていう事なの。ハードルを下げるって言えば分かりやすいかな」

「なるほどな……でも俺、姉貴の助言がなかったら信用しきれてなかったと思うんだけど」

「それは盲点」

「おいっ!計画ユルユル過ぎないか!?」

「ごめん冗談冗談。ホントはね、更にもう一押し、穂香が神うんぬんの話をするプログラムだったんだけど、私の精神が干渉しちゃったからか穂香だけは若干プログラムとは違う行動しててね。あの時もそういう雰囲気だったから、頑張って体乗っ取ったの」
227: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/8/18(土) 20:31:33 ID:QM6uo3651s
「そうだ、まずその体乗っ取るってのも若干分からないんだけど?意識して出来るんなら直ぐにでも戻れたんじゃ」

「意識して体乗っ取っるのって大変なのよ。意識だけが他人の体の中にあるって経験したことあったら分かって貰えると思うんだけどね〜」

そんな経験したことあるやつは、姉貴か悪霊位しかいねーよ。

「…………で、どう大変なわけよ?」

「うんとねぇ、重量挙げをする感じかな、例えるなら。体の持ち主の意識を押し挙げるの。それで、乗っ取っる状態を維持する為にはずっと重りを挙げっぱなしにしとかなきゃいけない感じだから、ほとんど他の事は何も出来ない同然なの」

「あぁ、その説明なら分かるわ。じゃあ、なんであの時は長いことずっと乗っ取った状態を維持できたんだ?」

あの時、姉貴はかなり長いこと穂香さんの体を乗っ取っていた。それが出来るのなら、一回目に俺が戻ろうとしていた時にも出来たんじゃないだろうか。

「んー、それに関しては私もよく分からないんだよね。気付いたら穂香の体を乗っ取ってた、そんな感じ」

「おいおい、開発者がそんなんで良いのかよ」

「やってみないと分かんないこととか、やってみても分かんないことは研究には付き物なんだよ?研究対象に人間が絡むなら余計に、ね」

そんな姉貴らしい発言に、俺は理解は出来ていないが、何故か納得してしまった。
姉貴の言葉には、人を納得させる何かがある、そんな気がする。
228: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/8/18(土) 20:31:52 ID:QM6uo3651s
「じゃあちょっと別の質問。電脳空間内のあの館、あれってあんなに部屋いるか?魂の置き場だかなんだかじゃない訳だし」

「確かに、実験段階では必要ないんだけどね。今後の利用方法として、大人数の同時使用も目指してるから、その為にもう準備してあるの。因みに、微妙に平面をズラしてるってのもホント。今回みたいに、同じ入力装置に接続したら同じ平面に入れるんだけどね」

「ちょ、ちょっと待って。こう、一つの話の最中に、要素を上乗せしてくるのは混乱するから勘弁して」

なんだよ入力装置って。聞いたことないぞおい。

「まっ、大事な説明でもないから、分かんなかったら分かんなかっでいいんじゃない?」

「じゃあ、まあいいか」

こう、頭の出来の違いを見せつけられた感じが非常に気に食わないが、実際問題よく分からないから仕方ない。昔ならここで食い下がっていたが、俺も成長した。無駄な抵抗はしないのだ。
229: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/8/18(土) 20:32:15 ID:QM6uo3651s
「あっ、そうだ忘れてた。まだ聞きたいことあったんだ。穂香さんについてなんだけど」

「さすがに穂香のスリーサイズは知らないなぁ……」

「またスリーサイズ!?姉貴は俺をどう認識してんだよ!!」

「えっ、それ聞きたい?言っちゃっていいの?」

「あっ、いや、いいです。さっきのは取り消しで」

本能的に聞かない方が良いと悟る。やっぱりあると思うよ、第六感は。

「ごめんごめん、それで何が聞きたいの?」

「あー、もう何かいいわ。聞く気なくなった」

「とか言っちゃって、気になってるくせに〜」

うっ、ま、まあそりゃ気になってるけどさ。大人になったとはいえ、なんかここまで姉貴の掌の上なのはさすがにプライドが許さないというか。

「別に……」

「まあ、予想はつくけどねー。なんで他の2人と違って穂香だけ最初と二回目で同じ行動を取らなかったのか?とかでしょ?」

230: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/8/18(土) 20:32:38 ID:QM6uo3651s
「…………………………」

やっぱり、うちの姉は将来の魔王かなんかじゃないでしょうか。頭良い、勘も鋭い、怒ると無敵。誰か早めに退治してください。
……うん、やっぱり勇者でも勝てない気がする。

「その沈黙は当たりってことでいいのかなん?」

「はいはい当たりですよ」

「ふふーん、やっぱりね〜。それじゃあ志穂お姉さんが丁寧に教えてあげましょ〜。って、実はさっきも軽く触れたんだけどね。私の精神が干渉した影響で行動が変わったって」

「へーふーん、そうですかー、それは良かったですね。…………ん?一回目も二回目もずっと干渉してるんだから、逆にそれで同じ行動になったりしねえの?」

「涼って、話をちゃんと聞いてないような態度の時でも、実はちゃんと聞いてるよね。そのツンデレ具合が可愛いんだけど♪」

「はぁ!?ツンデレじゃねえし!!いいから質問に答えろっての!!」


231: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/8/18(土) 20:32:56 ID:QM6uo3651s
「えーと、一回目も二回目も干渉してるのに、どうして同じ行動にならないか。これは私の推測だけど、時間が経つ程私の体力が消耗していって、穂香への影響が小さくなっていったから、かな?それにしても、さっきから良いところに目を付けるね〜。さすがツンデレ!」

「なるほどね、姉貴の体力の問題か。あとツンデレ関係ないし、ツンデレじゃねぇし」

とりあえずツンデレどうこうは置いといて、姉貴の体力的にギリギリだったかもしれないと考えると、今思い返しても冷や汗が出そうだ。あとツンデレじゃねぇ。

「ツンデレさんは、みんな言うよね〜、自分はツンデレじゃない!って」

「姉貴だって俺に、姉貴はツンデレだなっていったら否定するだろ?」

「んーん?そんなことないよ?……わ、私がツンデレ!?な、何言ってるのよ、ばっかじゃないの!?で、でもそれだけ私を見てくれてるって事なのかな……///って、今なんか言ったかって?別に何も言ってないわよ!!…………って感じに答えるね〜」

「一人芝居が長いわ!!」

232: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/8/18(土) 20:33:14 ID:QM6uo3651s
そして地味に完成度が高い。絶対これ一人で練習してるわ、間違いない。あと回りに人がいないからいいけど、外でやるのは勘弁して欲しい。めんどくさいから言わねーけど。

「はぁ…………なんかパワーアップしてない?」

「ふふん♪そりゃあ、涼からの姉貴大好きラブパワーを受け取ったからね〜」

「なんだそれは!?全く渡してねぇ!!」

「はいはいツンデレツンデレ♪」
「だーかーらー!!」



家に着くまで姉貴に振り回されっぱなしの涼なのであった。

233: ◆KCXDu/KctI:2012/8/18(土) 20:36:20 ID:QM6uo3651s
というわけで、これで一通り説明は出来たかな〜と思います。パスワードについては入ってませんが、もう完全に「これ○ン」の方法を拝借してますはい。
他に何か質問等あれば、よろしくお願いします。
というわけで、エピローグまで暫しお待ちを……
234: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/8/26(日) 22:31:57 ID:PRodd2c.eI
「はぁ……なんで俺がこんな目に……」

電脳空間からの帰還した翌日、なぜか俺は眠い目をこすりながら姉貴の大学に向かっている。

「こっちの都合お構い無し過ぎるだろ……」

別に他に用事があったわけではない。でも、昨日の晩に久々に家に帰ったわけだ。一日くらい空けてくれてもいいだろう。
しかも俺は部外者。どうして積極的に協力しないといけないのか。

「ほんとめんどくせぇ……」

今日何度目かも分からない、そんなボヤキをこぼす。


235: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/8/26(日) 22:32:16 ID:PRodd2c.eI
「何かメリットがあれば…………ん?」

大学の入り口すぐ近くまで来たときに、反対方向の道から大学に入っていく一人の少女が視界に入る。

「あれって……」

しかし、俺が入り口に到達したときにはもう建物の中に入ってしまったのだろうか、少女の姿は見つからなかった。

「気のせいか……」

先程の少女が気になるものの、頭を切り替えて今日の目的地に足を向けた。

236: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/8/26(日) 22:32:44 ID:PRodd2c.eI
「失礼しまーす」

昨日まで俺が寝かされていた部屋がある建物の上階、そこのとある部屋が今日の目的地だ。

「どうぞ〜」

なんだか最近聞いたような声と共に、内側から扉が開けられる。見ると、声の主であろう綺麗な女性がドアを開けてくれていた。

「あっ、すいませんありがとうございます」

「いえいえ、大丈夫ですよ」

そのまま部屋の隅にある、長テーブルの椅子に案内された。

「ちょっと待っていてくださいね」

「あっ、はい」

そう言うと女性は、恐らく隣の部屋に繋がっている扉の先に入っていった。



237: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/8/26(日) 22:33:47 ID:PRodd2c.eI
一人になって、少し状況を整理しようと試みる。俺は今、非常に混乱している。頭がどうにかなっちまいそうだ。なぜかって?そりゃ…………

どう考えたって今の人は穂香さんなんですけど!!!

聞いたような声っていうか、完全に一致だよ!!どういう事!?また知らないうちに電脳空間に来ちゃってるの!?

「い、いや落ち着け。今のはきっと目の錯覚かなんかだ。疲れでちょっとおかしくなってるんだろう」

自分にそう言い聞かせ、落ち着きを取り戻す。
しかし、その落ち着きはすぐに乱されることになる。なぜなら……

「ふむ、君が涼くんか。よろしく」

穂香さんと共に来栖さんまでが俺の前に現れたからだ!
238: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/9/8(土) 01:28:38 ID:f3PXl9nikM
「すいません、ちょっと頬をツネってもらっていいですか?」

来栖さんがツネってくれました。痛いです。そして明らかに引いてます本当にありがとうございました。

「って、電脳空間は夢じゃないから痛みあるじゃん……」

完全にうっかりしていた。これじゃあツネられ損だ。

「さっきから何をブツブツ言ってるんだ、ドエム君」

「気にしないでください。あとドエムとかじゃないですから」

さらっとドエム認定されてしまった。なにか釈然としないものがあるが、今はそれは置いておこう。

239: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/9/8(土) 01:29:35 ID:f3PXl9nikM
「ふふっ、涼くんは私達を見てビックリしてるんですよ。なんで電脳空間じゃないのにって」

「そうか、そういえば彼は知らないのか」

「??すいません、話の流れが読めないんですが……」

穂香さんの口から電脳空間というワードが出てきたという事は、やっぱりここは現実なんだよな。そうなると余計に訳が分からないよ。

「よし、では簡潔に説明しよう。君が電脳空間内で出会った来栖達は、私達をベースに作られた人工知性だ」

えっと……つまり……

「あの来栖さん達には本物がいて、それが今目の前にいると」

「はい、そうなりますね♪」

………………………………
……………………………
…………………………ええええええええええ!?!?
240: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/9/8(土) 01:29:57 ID:f3PXl9nikM
──────────

「落ち着きましたか?」

あの衝撃の事実を聞かされてから約5分。ようやく混乱が収まってきた。

「はい、大体整理できました。取り乱してすいません」

「いえいえ、混乱するのも無理ないですから」

「あんなに驚くとは思わなかったがな」

………………うん、なんていうか性格とか態度も結構忠実に作ってあったんですね。

「なんだい?その不満げな顔は」

しまった、また顔に出てたのか。注意しないとな。

「いえ、別に。それで結局、今日はなにをすればいいんですか?」

姉貴に言われて来たはいいが、よく考えたら一体何をするのか詳しいことを一切聞いていない。

241: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/9/8(土) 01:30:20 ID:f3PXl9nikM
「大したことじゃないさ。ただ空間内での僕達、つまり人工知能の事だが、それについての話を聞くだけさ」

「話すだけでいいんですか?」

「君が雑用やらなんやらしたいのであれば、やってくれて構わないが」

「嫌です」

「冗談だ、帰ろうとするんじゃない」

来栖さんの言葉を聞いて帰ろうとしたが、非常に残念な事に襟を捕まれて止められてしまった。
というか、真顔で言われたら冗談に聞こえないっちゅうの。

「ま、まあとにかく涼くんは詳しく話してくれたらいいですから、ね?」

「……穂香さんがそう言うなら」

「それは安心しました。良かったです〜」

あぁ、相変わらず笑顔が素敵な人だ。穂香さんに悪い印象を持たれないように真面目に話すかな。
242: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/9/8(土) 01:30:40 ID:f3PXl9nikM
───────────

「とまあ、こんな感じですかねー」

人口知能の事を中心に、電脳空間内での出来事を話始めてから約一時間。やっとこさ終わったという感じだ。
なんせ、来栖さんがいちいち突っ込んで聞いてくるから話が進まない。仕事だから色々聞いてくるのはまあ仕方ないとはいえ、人に聞く態度じゃない。
ちなみに、穂香さんは急用が出来たとかで途中で部屋から出ていってしまった。だから、今は来栖さんと2人という非常に息苦しい状態なのだ。
当の来栖さんは、さっきからずっと何かを紙に書いていて話終えたのに反応がない。

「あのー、もう帰っていいんですか?」

声をかけてみる、が、やはり反応がない。

「帰りますよー、いいですねー?反応がないのは了承したってことにしますからねー?」


243: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/9/8(土) 01:30:59 ID:f3PXl9nikM
どうせまた反応はないだろう、そう思って椅子から立ち上がろうとしたら、来栖さんが顔を上げた。

「ん?ああ、帰るのか?」

「はい、さっきから言ってましたが」

「すまない、集中してて全く聞こえてなかったよ」

「そうなんですか」

嘘くせぇ!
とはさすがに口には出さないけど。

「今日は協力ありがとう。それではまた会おう」

「それじゃあ俺はこれで」

……来栖さんが何か不穏なことを言った気がしたが、気にしない事にしとこう。

244: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/9/18(火) 00:19:50 ID:zKgklVefyE
───────────

「今からどうすっかなー」

時間は11時30分。昼飯にするには少し時間が早い。
素直に家に帰ったらいい話ではあるが、せっかく普段来れない大学に来たんだ、学食で食って帰りたい。

「下見代わりに大学内でもぶらつくか」

ここは一応志望大学だ。勉強へのモチベーションを上げるためにも見ていて損はないだろう。

「おっ、あそこに地図あるじゃん」

地図を発見した俺は、早速面白そうな場所を探す。

ふむふむ、あそこに見えてるのが有名な山田講堂なのか。で、この三五郎沼ってなんだ?ちょっと気になるな。

「よし、三五郎沼を見に行ってみるか!」



245: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/9/18(火) 00:21:13 ID:zKgklVefyE
───────────

…………おかしい、三五郎沼が見つからない。地図の場所から考えたらもう着いていてもおかしくないはずなんだけど…………まさか迷っちまった?
いやいや、この年になって道に迷うわけない。何を考えているんだ涼!自信を持て!やれば出来る子じゃないか!

………………………
…………………うん、誰かに聞こう。

とはいっても、道を聞くってなんか恥ずかしい。聞きやすそうな雰囲気の人がいたらいいんだけど、そんな人が都合良くいるわけ─────
246: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/9/18(火) 00:21:31 ID:zKgklVefyE
「ねえ、あなた」


背後から、聞き覚えのある少女の声が聞こえてきた。


声が聞こえた方へ振り向く。
そこには、決して忘れることのない、あの小柄な少女が立っていた。


247: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/9/18(火) 00:22:18 ID:zKgklVefyE
「どうしたの?まるでイカがタコ踊りしてる姿を見たってような顔して」

何かわけの分からない例えが聞こえた気がしたが、頭に入ってこない。

「ね、ね、猫…………」

「猫?イカより猫の方が良かったのかしら?」

真面目な顔でそんな事を言う少女。そう、あの───

「猫耳少女!!」

なのであった。


248: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/9/18(火) 00:22:35 ID:zKgklVefyE
「へぇ、あなたが実験室に拉致られた人だったのね〜」

衝撃の再会?から30分、俺と猫耳少女こと香村由奈は学食にいる。
“香村”、そう、穂香さんの妹である!
言われてみると確かに顔立ちなんかは似ている、が、性格の違いもあって言われないと絶対気付かない。

「それにしても、まさか初対面の相手に性癖を暴露してくる変態の人だったとはね」

「だからぁ、違うんだって!ちゃんと話したでしょ!?」

「そうだっけ?」

「君は30分前のことすら記憶にないのか!!」

「どうどう、ちょっと落ち着きなさいって。見られてるわよ?」

「くっ……」

目の前に座っている飄々とした態度の少女に遊ばれながら、俺は30分前の出会いを思い出す。
249: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/9/18(火) 00:22:54 ID:zKgklVefyE
─────────
───────
─────

「猫耳少女!!」

小柄な体躯に、肩まで伸びた綺麗な黒い髪。気が強そうな表情につり目が印象的な美少女、そう、電脳空間内で出会った猫耳少女───ってあれ?猫耳が付いてない。

「はい?いきなりなに?私は猫耳なんか付けてないわよ?」

「あっ、いや、なんでもないです。気にしないでください」

しまった、電脳空間内で会ってるからつい、知り合い感覚になってた。今目の前にいる少女はたぶん穂香さん達と同じでモデルになった人だろう。年下に見えるけど、もしかしてこの大学の人なんだろうか。

「気にしないでと言われたら気になるのが人間でしょ?是非とも猫耳少女という発言に関して詳しく聞かせて欲しいわ」

「ドSですね……」

「こう見えて、夜にはドMになったりするのよ?経験ないから予想だけど」

「適当に話すのはやめてください」

250: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/9/18(火) 00:23:11 ID:zKgklVefyE
なんなんだろう、この人。猫耳少女はあんなに扱いやすかったというのに。あれか?この人の双子の姉か妹がモデルになってるとかか?
うん、そっちの方がしっくりくる、間違いない。

「というか、なにか俺に用ですか?」

よく考えたら、この人に声かけられたんじゃん。
はっ、まさか!逆ナ───

「逆ナンではないと先に言っておくわね」

「……………………」

「私が逆ナンしそうなタイプに見える?」

「見えません」

うん、よく考えたら逆ナンしようとしてる人が、こんなわけの分からないこと言うわけないか。逆ナンされたことないからイメージだけど。
251: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/9/23(日) 00:50:30 ID:ANCw7VVvd.
「じゃあ何故?」

「真面目に答えるなら、あなたから迷子オーラが出てたからかしらね」

迷子オーラってどんなんだよ……
確かに迷ってはいたが、そんなオーラは出てないはずだ、たぶん。

「それで、道を案内しようとしてくれたんですか?」

「ええ、有料でね」

「お断りします」

「冗談よ、待ちなさい」

服の袖を思いっきり掴まれてしまった。これが違うシチュなら萌えるんだけどなぁ、残念だ。

「それで、どこに行きたいの?三五郎沼でしょ?」

「そうです。よく分かりましたね」

「だって、あなたが『よし、三五郎沼を見に行ってみるか!』って所から見てたもの」

252: 浪人生なマキシ ◆KCXDu/KctI:2012/9/23(日) 00:51:22 ID:ANCw7VVvd.
えっ、それって道に迷う前なんですけど。ずっと見てたってことだよな。まさかストーカーさん!?

「……なんでいきなり距離をあけるのかしら?」

「と、特に意味はありませんよ!?きょ、今日はいい天気ダナー」

「それで誤魔化せるのは二次元の鈍感主人公位じゃないかしら」

分かってたよ!ちくしょう!俺だってちょっと恥ずかしいんだよ!だからそんな冷たい目で見るな!

「さ、三五郎沼に見に行きたいけど、一人で見ると受験に落ちるっていうジンクスが気になって、誰か他に見に行く人を探してた訳じゃないんだからね!」

「なんでいきなりツンデレ風!?えっ、というか受験生?高3?」

「あなた、受験生が現役ばかりだと思わない方がいいわよ」

「あっ……すいません」

しまった、自分が現役だからって、受験生=現役と結びつけるのはよくなかったな……反省。

「まあ現役だけどね」

「なんだよ!!俺の反省を返せ!!」

「ちょっとしたお茶目よ。それに、相手が浪人の可能性があるのは事実よ?」

「…………すいません」

253: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/9/23(日) 00:51:56 ID:ANCw7VVvd.
「分かったなら、ほら、早く三五郎沼見に行きましょうよ猫耳萌え少年」

「そうですね……ってスルー出来るか!誰が猫耳萌え少年だ!」

「あなた」

「そういう事を言ってるんじゃない!あと指差すな!」

もう関わったのが間違いだった。声かけられた時に無視すりゃよかった……

「ごめんなさい、今の聞いてなかったわ」

「もういいよ……さっさと三五郎沼見て解放してくれ……」
254: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/9/29(土) 22:07:20 ID:QmasufvJ1.
──────────
────────
──────

はぁ……おかしいなぁ。三五郎沼を見たら逃げるつもりだったんだけどなぁ。なんで俺は一緒に飯食ってんだろうなぁ……

「人の、しかもこんな美少女の顔を見てため息をつくなんて失礼な男ね」

不思議だなぁ……電脳空間で出会った猫耳少女こと由奈ちゃんは性格も可愛かったのになぁ……どうして現実だとこんなに傍若無人なんだろうなぁ……

「ちょっとー、無視なの?放置プレイ?放置プレイなのね!?そんなの興奮しちゃうじゃない!」

…………もうやだ、なんなのこの娘。
でも、ここで相手にしないと余計に面倒くさくなるのは容易に想像できる。仕方ないから相手するか……

「えーと、で?君はなんで電脳空間計画について知ってるの?」

とりあえず、真面目な話を振ってみる。まだマトモな答えが返ってくる可能性は高いだろう。高いと信じたい。信じさせてくれ。

255: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/9/29(土) 22:08:26 ID:QmasufvJ1.
「実は私、電脳空間から生み出された妖精なの」

「いや、そういうのはいいから」

「私は自分が作り出された者だと知ってショックを受けたわ。それで自暴自棄になった私は、裏世界に身を投じたの」

「うん、俺の事完全に無視だね」

「でも、そこで私を正しい道に戻してくれたのがお姉ちゃんなの」

「よかったねー」

もはや何がしたいのかすら分からない。どうして奴はこんな話でドヤ顔なのか。面白いと思っているんだろうか。

「だけど、そんな私に再び悲劇が訪れた」

「まだ続きがあるんですか、へーすごいすごい」

「至上最悪のナンパ男、浅井涼に出会ってしまったのよ」

「おい待て」



256: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/9/29(土) 22:08:47 ID:QmasufvJ1.

「彼は私と遊ぶだけ遊んだら、すぐに他の女の所に行ってしまったわ。私はそれがショックでショックで…………シクシク」

「いや、嘘泣きとかいいから──って、マジで泣いてやがる!」

目の前少女はホントに涙を流し始めた。
周囲からの「あーあ、泣かせた」って視線が痛い。俺なにも悪くないのに。

「このっ……最低男!!」

「おまえが最低女だ!!」

……この状況、どーすんだよ。関わったらいけないタイプの人だったよホント。
あー、また何か語り始めた。もう知らん。好きにしてくれ。

そして俺は思考を放棄した。
257: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/10/14(日) 15:51:44 ID:Gw.rmFALzE
──────────

現在俺は、家にて晩飯の準備をしている。今日のメニューは麻婆豆腐。手軽なのに美味しいから、中華は魅力的だ。
なぜ俺が晩飯を作っているかというと、姉貴との二人暮らし故、姉貴の帰りが遅い時は俺が作らざるをえないのだ。
二人暮らしなのは、別にラブコメにありがちな両親が共に仕事で海外に行っているとかではない。
うちの実家は塾もないような田舎にあるので、対して受験勉強ができない。なので、都会で一人暮らしをしていた姉貴の所に、高校に上がるタイミングで住まわせてもらっているのだ。

258: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/10/14(日) 15:52:10 ID:Gw.rmFALzE
「それにしても、今日は厄日だったなー」

今日は本当に大変だった。由奈さん(こう呼べと言われた)と出会ってしまったのが、どうやら運の尽きだったようだ。
結局一日中絡まれ続け、最終的に携帯の番号やらメアドを交換する羽目になってしまった。
可愛い女の子と番号やメアドを交換するなんて滅多にない経験だし、普通なら俺だってテンションが上がる。
でも、由奈さんは例外だ。今日一日話して、関わってはいけないタイプの人間なんだと確信したのだ。いわゆる、周りを振り回すタイプのヒロインってやつだ。
259: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/10/14(日) 15:52:28 ID:Gw.rmFALzE
たとえ美少女だとしても、俺は定番である「ヒロインに振り回されつつも最終的には楽しんでしまう主人公」みたいな立ち位置にはいたくないのだ。
こーいう考えがすでにフラグっぽい気がしないでもないが、それでもこの考えは変わらない。
俺は普通の女の子と普通の関係がいいのだ。ほとんど主従関係と変わらないようなのは断じて望んでいないのだ。
260: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/10/14(日) 15:52:48 ID:Gw.rmFALzE
とは言ったところで、メールがすでに届いてるわけで。

「ったく、なんだよ」

俺はコンロの火を消し、机の上で光っている携帯を手に取る。画面にはしっかりと「香村由奈」という文字が表示されている。うん、見たくない。
見たくないが、無視したら何か悪いことがおきそうな気がして仕方ないので確認する。

─────────────
From 香村由奈
─────────────
Subject 初メール
─────────────
あなたのアドレスを早速出会い系サイトに登録しておいてあげたから、これであなたにも彼女が出来るわね


           END
─────────────

261: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/10/14(日) 15:53:05 ID:Gw.rmFALzE
ん?ちょっと意味がわからないぞ?この子は一体何を言っているのかな?さっぱりわからないやHAHAHA

なんて現実逃避してる場合じゃねぇ!!

早速、知ったばかりの電話番号を呼び出す。
まるで電話がかかってくる事を予見していたように、2コール目に入らないうちに繋がった。

『もしもし』

「おい!何やってんだよ!」

『すいません、どちらさまですか?ちょっと誰だか分からないんですけど』

「あっ、すいません。浅井です。……って電話に表示されるだろ!!」
『それは盲点』

「絶対嘘だろ!!」

『うん、嘘』

「だろうと思ったわ!何がしたいんだよ!」

『何がしたいって……嫌がらせ?』

「最悪だなおい」

『ちなみにメールの内容は冗談だから安心して』

「冗談なのかよ!本格的に何がしたいんだよ!」

『嫌がらせ』

「無駄に一貫してんな!!」

『それじゃあ、私はあなたと違って忙しいからもう切るわね』

「おいちょっと待て!……ホントに切りやがった」

262: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/10/14(日) 15:53:24 ID:Gw.rmFALzE
なんなのこの無駄な時間。勿体無さすぎる。というか、忙しいならあんなメールすんなよ。

「ただいまー」

俺のテンションが著しく下がっていたところで、姉貴が帰ってきた。

「ああ、おかえり」

「なんか疲れてるみたいけど、大丈夫?」

「ああうん、そっとしといて……」

「何があったか気になるけど、まあいいや。ところで、穂香のとこはどうだった?」

ああ、そういえば今日の本題はそっちだったか。完全に忘れていた。というか、どうだったって言われても答えようがない気がする。ただ聞かれたことに答えてただけだし。

「まあ役に立ったんじゃない?」

「ちゃんと挨拶した?」

「したした」

「礼儀正しくしてた?」

「してたしてた」

「ナンパもした?」

「したした──って言うと思ったか!!」

「引っ掛からなかったかー、残念」

263: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/10/14(日) 15:53:40 ID:Gw.rmFALzE
そもそも、なんでここでナンパが出てくる。流れに無理がありすぎだろ。というか、挨拶した?とか18に言う台詞か?

「俺、そっとしといてって言ったよな?」

「ごめんごめん、うっかりしてた」

「ああ、それなら仕方ないな」

姉貴は俺に「わざとだろ!」って感じにつっこんで欲しそうな雰囲気を醸し出していたが、疲れてるからスルーだ。今日は姉貴の相手までする元気はないのだ。
俺だっていつも姉貴の思うように動くわけじゃないんだぜ、ふふん──なんて考えていたら、姉貴がニヤリと口の端を釣り上げた。


264: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/10/14(日) 15:54:04 ID:Gw.rmFALzE
「そーいえば〜、涼は今日、由奈ちゃんとイチャイチャしてたらしいね〜」

「な、な、何の話カナ!?」

動揺しまくりです、本当にどうもありがとうございました。

「隠しても無駄だよ〜?だって本人から聞いた話だからね〜」

アイツが黒幕かああああああああ!!!
もはや天敵と言っても過言ではないかもしれない!

「電脳空間内の由奈ちゃんともイチャイチャしてたもんね〜」

これ以上に、ニヤニヤしているという表現がピッタリ当てはまる表情は無いと言えるくらいにニヤニヤしている姉貴。俺には家にすら心を休められる場所がないのでしょうか?

「い、言っとくけど、イチャイチャなんて良いもんじゃなかったからな!単に振り回されていただけだからな!」

「美少女に振り回されるのはモテる主人公の特権だと思わない?」

「それはフィクション限定だ!」

今まではヘタレ主人公うぜぇ、なんて思っていたが、意外と世の中の主人公達も大変なのかもしれないなと、今は同情したい気分だ。

265: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/10/14(日) 15:58:28 ID:Gw.rmFALzE
「まあ、でもね」

さっきまでの雰囲気とは一変、優しげな表情で切り出す姉貴。俺は相づちを打つことなく、続きを待つ。

「あれでも彼女なりに仲良くなりたいと思ってるんだよ」

「そうは全然見えなかったんだけど?」

「ほら、変化球気味のツンデレってことよ」

「いやいや、全く分からないよ!?」

「とにかく、由奈ちゃんとは仲良くしなさい。分かった?」

「とりあえず善処するよ。っても今後会うことはあんまりないと思うけど?」

「ふふふ、今に分かるわよ」

「こわっ!なにその預言者風な語り口」

「ま、今は無駄なことしないで勉強に集中しなさい。もうそんなに無いんだから」

「姉貴の俺弄りが一番無駄な気がするから、今後は無視でいい?」

「それはダメ」

266: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/10/14(日) 15:58:49 ID:Gw.rmFALzE
その後、無事に大学に進学した俺は再び香村由奈と出会うことになる。
やはりというべきか、俺は彼女に度々振り回され、色々な経験をすることになるのだが、それはまたの機会にしよう。

267: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/10/14(日) 15:59:33 ID:Gw.rmFALzE
はい、というわけで、ついに完結です!やったねちゃんと終わったよ!
最初の投稿が2月ですからね、約8ヶ月。文章の量のわりに時間がかかったもんです。
こんな遅筆に付き合ってくださった読者の皆様には感謝してもしきれません。
また、ランキングに入ることはないだろうな、なんて思っていたので、一度だけとはいえランキング入り出来たのは良い思い出です。
センターまで100日切りましたし、これで暫く書くことは無くなるかと思いますが、受験が一段落ついたらまた何か書きたいなと考えていますので、その時は是非よろしくお願いします!

何か質問などありましたら御気軽にどうぞです!無さそうであれば保管庫依頼してきますね。


最後になりますが、この作品を読んでいただき、本当にありがとうございました!また次作品の投稿時にはよろしくお願いします!
268: 名無しさん@読者の声:2012/10/16(火) 01:46:13 ID:DQWY5sGu1o
乙ー!続きが期待できる終わり方で良かった!
蛇足ですが僕も受験生です、センター頑張りましょうね!C
269: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/10/17(水) 00:02:59 ID:Gw.rmFALzE
>>268
乙ありです!!次作でも何らかの形で登場させたいと思っていますよん♪
お互い勉強頑張りましょうっ!!
270: 真・スレッドストッパー:停止
停止しますた。ニヤリ・・・( ̄ー ̄)
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sage:


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