目が覚めたら、俺は見覚えの無い部屋にいた。
「いやほんと、ここどこなの?」
上半身をベッドから起こし、もう一度呟く。
「それにしても、広い部屋だなおい」
漫画やアニメに出てくるような、洋風なお屋敷そのまんまという感じだろうか。
非常に広い。ビックリするほど広い。
246: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/9/18(火) 00:21:31 ID:zKgklVefyE
「ねえ、あなた」
背後から、聞き覚えのある少女の声が聞こえてきた。
声が聞こえた方へ振り向く。
そこには、決して忘れることのない、あの小柄な少女が立っていた。
247: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/9/18(火) 00:22:18 ID:zKgklVefyE
「どうしたの?まるでイカがタコ踊りしてる姿を見たってような顔して」
何かわけの分からない例えが聞こえた気がしたが、頭に入ってこない。
「ね、ね、猫…………」
「猫?イカより猫の方が良かったのかしら?」
真面目な顔でそんな事を言う少女。そう、あの───
「猫耳少女!!」
なのであった。
248: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/9/18(火) 00:22:35 ID:zKgklVefyE
「へぇ、あなたが実験室に拉致られた人だったのね〜」
衝撃の再会?から30分、俺と猫耳少女こと香村由奈は学食にいる。
“香村”、そう、穂香さんの妹である!
言われてみると確かに顔立ちなんかは似ている、が、性格の違いもあって言われないと絶対気付かない。
「それにしても、まさか初対面の相手に性癖を暴露してくる変態の人だったとはね」
「だからぁ、違うんだって!ちゃんと話したでしょ!?」
「そうだっけ?」
「君は30分前のことすら記憶にないのか!!」
「どうどう、ちょっと落ち着きなさいって。見られてるわよ?」
「くっ……」
目の前に座っている飄々とした態度の少女に遊ばれながら、俺は30分前の出会いを思い出す。
249: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/9/18(火) 00:22:54 ID:zKgklVefyE
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───────
─────
「猫耳少女!!」
小柄な体躯に、肩まで伸びた綺麗な黒い髪。気が強そうな表情につり目が印象的な美少女、そう、電脳空間内で出会った猫耳少女───ってあれ?猫耳が付いてない。
「はい?いきなりなに?私は猫耳なんか付けてないわよ?」
「あっ、いや、なんでもないです。気にしないでください」
しまった、電脳空間内で会ってるからつい、知り合い感覚になってた。今目の前にいる少女はたぶん穂香さん達と同じでモデルになった人だろう。年下に見えるけど、もしかしてこの大学の人なんだろうか。
「気にしないでと言われたら気になるのが人間でしょ?是非とも猫耳少女という発言に関して詳しく聞かせて欲しいわ」
「ドSですね……」
「こう見えて、夜にはドMになったりするのよ?経験ないから予想だけど」
「適当に話すのはやめてください」
250: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/9/18(火) 00:23:11 ID:zKgklVefyE
なんなんだろう、この人。猫耳少女はあんなに扱いやすかったというのに。あれか?この人の双子の姉か妹がモデルになってるとかか?
うん、そっちの方がしっくりくる、間違いない。
「というか、なにか俺に用ですか?」
よく考えたら、この人に声かけられたんじゃん。
はっ、まさか!逆ナ───
「逆ナンではないと先に言っておくわね」
「……………………」
「私が逆ナンしそうなタイプに見える?」
「見えません」
うん、よく考えたら逆ナンしようとしてる人が、こんなわけの分からないこと言うわけないか。逆ナンされたことないからイメージだけど。
251: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/9/23(日) 00:50:30 ID:ANCw7VVvd.
「じゃあ何故?」
「真面目に答えるなら、あなたから迷子オーラが出てたからかしらね」
迷子オーラってどんなんだよ……
確かに迷ってはいたが、そんなオーラは出てないはずだ、たぶん。
「それで、道を案内しようとしてくれたんですか?」
「ええ、有料でね」
「お断りします」
「冗談よ、待ちなさい」
服の袖を思いっきり掴まれてしまった。これが違うシチュなら萌えるんだけどなぁ、残念だ。
「それで、どこに行きたいの?三五郎沼でしょ?」
「そうです。よく分かりましたね」
「だって、あなたが『よし、三五郎沼を見に行ってみるか!』って所から見てたもの」
252: 浪人生なマキシ ◆KCXDu/KctI:2012/9/23(日) 00:51:22 ID:ANCw7VVvd.
えっ、それって道に迷う前なんですけど。ずっと見てたってことだよな。まさかストーカーさん!?
「……なんでいきなり距離をあけるのかしら?」
「と、特に意味はありませんよ!?きょ、今日はいい天気ダナー」
「それで誤魔化せるのは二次元の鈍感主人公位じゃないかしら」
分かってたよ!ちくしょう!俺だってちょっと恥ずかしいんだよ!だからそんな冷たい目で見るな!
「さ、三五郎沼に見に行きたいけど、一人で見ると受験に落ちるっていうジンクスが気になって、誰か他に見に行く人を探してた訳じゃないんだからね!」
「なんでいきなりツンデレ風!?えっ、というか受験生?高3?」
「あなた、受験生が現役ばかりだと思わない方がいいわよ」
「あっ……すいません」
しまった、自分が現役だからって、受験生=現役と結びつけるのはよくなかったな……反省。
「まあ現役だけどね」
「なんだよ!!俺の反省を返せ!!」
「ちょっとしたお茶目よ。それに、相手が浪人の可能性があるのは事実よ?」
「…………すいません」
253: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/9/23(日) 00:51:56 ID:ANCw7VVvd.
「分かったなら、ほら、早く三五郎沼見に行きましょうよ猫耳萌え少年」
「そうですね……ってスルー出来るか!誰が猫耳萌え少年だ!」
「あなた」
「そういう事を言ってるんじゃない!あと指差すな!」
もう関わったのが間違いだった。声かけられた時に無視すりゃよかった……
「ごめんなさい、今の聞いてなかったわ」
「もういいよ……さっさと三五郎沼見て解放してくれ……」
254: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/9/29(土) 22:07:20 ID:QmasufvJ1.
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はぁ……おかしいなぁ。三五郎沼を見たら逃げるつもりだったんだけどなぁ。なんで俺は一緒に飯食ってんだろうなぁ……
「人の、しかもこんな美少女の顔を見てため息をつくなんて失礼な男ね」
不思議だなぁ……電脳空間で出会った猫耳少女こと由奈ちゃんは性格も可愛かったのになぁ……どうして現実だとこんなに傍若無人なんだろうなぁ……
「ちょっとー、無視なの?放置プレイ?放置プレイなのね!?そんなの興奮しちゃうじゃない!」
…………もうやだ、なんなのこの娘。
でも、ここで相手にしないと余計に面倒くさくなるのは容易に想像できる。仕方ないから相手するか……
「えーと、で?君はなんで電脳空間計画について知ってるの?」
とりあえず、真面目な話を振ってみる。まだマトモな答えが返ってくる可能性は高いだろう。高いと信じたい。信じさせてくれ。
255: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/9/29(土) 22:08:26 ID:QmasufvJ1.
「実は私、電脳空間から生み出された妖精なの」
「いや、そういうのはいいから」
「私は自分が作り出された者だと知ってショックを受けたわ。それで自暴自棄になった私は、裏世界に身を投じたの」
「うん、俺の事完全に無視だね」
「でも、そこで私を正しい道に戻してくれたのがお姉ちゃんなの」
「よかったねー」
もはや何がしたいのかすら分からない。どうして奴はこんな話でドヤ顔なのか。面白いと思っているんだろうか。
「だけど、そんな私に再び悲劇が訪れた」
「まだ続きがあるんですか、へーすごいすごい」
「至上最悪のナンパ男、浅井涼に出会ってしまったのよ」
「おい待て」
256: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/9/29(土) 22:08:47 ID:QmasufvJ1.
「彼は私と遊ぶだけ遊んだら、すぐに他の女の所に行ってしまったわ。私はそれがショックでショックで…………シクシク」
「いや、嘘泣きとかいいから──って、マジで泣いてやがる!」
目の前少女はホントに涙を流し始めた。
周囲からの「あーあ、泣かせた」って視線が痛い。俺なにも悪くないのに。
「このっ……最低男!!」
「おまえが最低女だ!!」
……この状況、どーすんだよ。関わったらいけないタイプの人だったよホント。
あー、また何か語り始めた。もう知らん。好きにしてくれ。
そして俺は思考を放棄した。
257: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/10/14(日) 15:51:44 ID:Gw.rmFALzE
──────────
現在俺は、家にて晩飯の準備をしている。今日のメニューは麻婆豆腐。手軽なのに美味しいから、中華は魅力的だ。
なぜ俺が晩飯を作っているかというと、姉貴との二人暮らし故、姉貴の帰りが遅い時は俺が作らざるをえないのだ。
二人暮らしなのは、別にラブコメにありがちな両親が共に仕事で海外に行っているとかではない。
うちの実家は塾もないような田舎にあるので、対して受験勉強ができない。なので、都会で一人暮らしをしていた姉貴の所に、高校に上がるタイミングで住まわせてもらっているのだ。
258: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/10/14(日) 15:52:10 ID:Gw.rmFALzE
「それにしても、今日は厄日だったなー」
今日は本当に大変だった。由奈さん(こう呼べと言われた)と出会ってしまったのが、どうやら運の尽きだったようだ。
結局一日中絡まれ続け、最終的に携帯の番号やらメアドを交換する羽目になってしまった。
可愛い女の子と番号やメアドを交換するなんて滅多にない経験だし、普通なら俺だってテンションが上がる。
でも、由奈さんは例外だ。今日一日話して、関わってはいけないタイプの人間なんだと確信したのだ。いわゆる、周りを振り回すタイプのヒロインってやつだ。
259: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/10/14(日) 15:52:28 ID:Gw.rmFALzE
たとえ美少女だとしても、俺は定番である「ヒロインに振り回されつつも最終的には楽しんでしまう主人公」みたいな立ち位置にはいたくないのだ。
こーいう考えがすでにフラグっぽい気がしないでもないが、それでもこの考えは変わらない。
俺は普通の女の子と普通の関係がいいのだ。ほとんど主従関係と変わらないようなのは断じて望んでいないのだ。
260: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/10/14(日) 15:52:48 ID:Gw.rmFALzE
とは言ったところで、メールがすでに届いてるわけで。
「ったく、なんだよ」
俺はコンロの火を消し、机の上で光っている携帯を手に取る。画面にはしっかりと「香村由奈」という文字が表示されている。うん、見たくない。
見たくないが、無視したら何か悪いことがおきそうな気がして仕方ないので確認する。
─────────────
From 香村由奈
─────────────
Subject 初メール
─────────────
あなたのアドレスを早速出会い系サイトに登録しておいてあげたから、これであなたにも彼女が出来るわね
END
─────────────
261: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/10/14(日) 15:53:05 ID:Gw.rmFALzE
ん?ちょっと意味がわからないぞ?この子は一体何を言っているのかな?さっぱりわからないやHAHAHA
なんて現実逃避してる場合じゃねぇ!!
早速、知ったばかりの電話番号を呼び出す。
まるで電話がかかってくる事を予見していたように、2コール目に入らないうちに繋がった。
『もしもし』
「おい!何やってんだよ!」
『すいません、どちらさまですか?ちょっと誰だか分からないんですけど』
「あっ、すいません。浅井です。……って電話に表示されるだろ!!」
『それは盲点』
「絶対嘘だろ!!」
『うん、嘘』
「だろうと思ったわ!何がしたいんだよ!」
『何がしたいって……嫌がらせ?』
「最悪だなおい」
『ちなみにメールの内容は冗談だから安心して』
「冗談なのかよ!本格的に何がしたいんだよ!」
『嫌がらせ』
「無駄に一貫してんな!!」
『それじゃあ、私はあなたと違って忙しいからもう切るわね』
「おいちょっと待て!……ホントに切りやがった」
262: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/10/14(日) 15:53:24 ID:Gw.rmFALzE
なんなのこの無駄な時間。勿体無さすぎる。というか、忙しいならあんなメールすんなよ。
「ただいまー」
俺のテンションが著しく下がっていたところで、姉貴が帰ってきた。
「ああ、おかえり」
「なんか疲れてるみたいけど、大丈夫?」
「ああうん、そっとしといて……」
「何があったか気になるけど、まあいいや。ところで、穂香のとこはどうだった?」
ああ、そういえば今日の本題はそっちだったか。完全に忘れていた。というか、どうだったって言われても答えようがない気がする。ただ聞かれたことに答えてただけだし。
「まあ役に立ったんじゃない?」
「ちゃんと挨拶した?」
「したした」
「礼儀正しくしてた?」
「してたしてた」
「ナンパもした?」
「したした──って言うと思ったか!!」
「引っ掛からなかったかー、残念」
263: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/10/14(日) 15:53:40 ID:Gw.rmFALzE
そもそも、なんでここでナンパが出てくる。流れに無理がありすぎだろ。というか、挨拶した?とか18に言う台詞か?
「俺、そっとしといてって言ったよな?」
「ごめんごめん、うっかりしてた」
「ああ、それなら仕方ないな」
姉貴は俺に「わざとだろ!」って感じにつっこんで欲しそうな雰囲気を醸し出していたが、疲れてるからスルーだ。今日は姉貴の相手までする元気はないのだ。
俺だっていつも姉貴の思うように動くわけじゃないんだぜ、ふふん──なんて考えていたら、姉貴がニヤリと口の端を釣り上げた。
264: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/10/14(日) 15:54:04 ID:Gw.rmFALzE
「そーいえば〜、涼は今日、由奈ちゃんとイチャイチャしてたらしいね〜」
「な、な、何の話カナ!?」
動揺しまくりです、本当にどうもありがとうございました。
「隠しても無駄だよ〜?だって本人から聞いた話だからね〜」
アイツが黒幕かああああああああ!!!
もはや天敵と言っても過言ではないかもしれない!
「電脳空間内の由奈ちゃんともイチャイチャしてたもんね〜」
これ以上に、ニヤニヤしているという表現がピッタリ当てはまる表情は無いと言えるくらいにニヤニヤしている姉貴。俺には家にすら心を休められる場所がないのでしょうか?
「い、言っとくけど、イチャイチャなんて良いもんじゃなかったからな!単に振り回されていただけだからな!」
「美少女に振り回されるのはモテる主人公の特権だと思わない?」
「それはフィクション限定だ!」
今まではヘタレ主人公うぜぇ、なんて思っていたが、意外と世の中の主人公達も大変なのかもしれないなと、今は同情したい気分だ。
265: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/10/14(日) 15:58:28 ID:Gw.rmFALzE
「まあ、でもね」
さっきまでの雰囲気とは一変、優しげな表情で切り出す姉貴。俺は相づちを打つことなく、続きを待つ。
「あれでも彼女なりに仲良くなりたいと思ってるんだよ」
「そうは全然見えなかったんだけど?」
「ほら、変化球気味のツンデレってことよ」
「いやいや、全く分からないよ!?」
「とにかく、由奈ちゃんとは仲良くしなさい。分かった?」
「とりあえず善処するよ。っても今後会うことはあんまりないと思うけど?」
「ふふふ、今に分かるわよ」
「こわっ!なにその預言者風な語り口」
「ま、今は無駄なことしないで勉強に集中しなさい。もうそんなに無いんだから」
「姉貴の俺弄りが一番無駄な気がするから、今後は無視でいい?」
「それはダメ」
266: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/10/14(日) 15:58:49 ID:Gw.rmFALzE
その後、無事に大学に進学した俺は再び香村由奈と出会うことになる。
やはりというべきか、俺は彼女に度々振り回され、色々な経験をすることになるのだが、それはまたの機会にしよう。
267: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/10/14(日) 15:59:33 ID:Gw.rmFALzE
はい、というわけで、ついに完結です!やったねちゃんと終わったよ!
最初の投稿が2月ですからね、約8ヶ月。文章の量のわりに時間がかかったもんです。
こんな遅筆に付き合ってくださった読者の皆様には感謝してもしきれません。
また、ランキングに入ることはないだろうな、なんて思っていたので、一度だけとはいえランキング入り出来たのは良い思い出です。
センターまで100日切りましたし、これで暫く書くことは無くなるかと思いますが、受験が一段落ついたらまた何か書きたいなと考えていますので、その時は是非よろしくお願いします!
何か質問などありましたら御気軽にどうぞです!無さそうであれば保管庫依頼してきますね。
最後になりますが、この作品を読んでいただき、本当にありがとうございました!また次作品の投稿時にはよろしくお願いします!
268: 名無しさん@読者の声:2012/10/16(火) 01:46:13 ID:DQWY5sGu1o
乙ー!続きが期待できる終わり方で良かった!
蛇足ですが僕も受験生です、センター頑張りましょうね!C
269: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/10/17(水) 00:02:59 ID:Gw.rmFALzE
>>268
乙ありです!!次作でも何らかの形で登場させたいと思っていますよん♪
お互い勉強頑張りましょうっ!!
270: 真・スレッドストッパー:停止
停止しますた。ニヤリ・・・( ̄ー ̄)
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