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男「ここ……どこだ?」
[8] -25 -50 

1: ◆KCXDu/KctI:2012/2/11(土) 19:39:43 ID:MiGbYUJseU
目が覚めたら、俺は見覚えの無い部屋にいた。

「いやほんと、ここどこなの?」

上半身をベッドから起こし、もう一度呟く。

「それにしても、広い部屋だなおい」

漫画やアニメに出てくるような、洋風なお屋敷そのまんまという感じだろうか。
非常に広い。ビックリするほど広い。



2: ◆KCXDu/KctI:2012/2/11(土) 19:44:29 ID:MiGbYUJseU
「ってか、このベッドもでけえ!」

部屋の様子に気を取られて気付かなかったが、俺が寝ているベッドが、これまた大きい。
三四人は寝れるんじゃないかと思える位だ。

「あれ……昨日何かしたっけ……」

思い出そうとして気付く。記憶が一切無い。自分の名前や住んでいる家は思い出せる。

だが、家族や友人、知り合いに関しての記憶がすっぽり抜け落ちている。

それどころか、俺は何をしていた人間なのかすら思い出せない。
3: ◆KCXDu/KctI:2012/2/11(土) 20:02:59 ID:n9ecgHDJME
「おいおい、記憶喪失とかマジかよ……」

創作ではよくある記憶喪失。でも現実では聞いたことのない記憶喪失。

まさかそれが、自分の身に降りかかるとは思ってもいなかった。というか、記憶喪失の存在を信じてすらいなかった。

「……とりあえず寝たら元に戻るかもしれんな、うん」

と、寝ようと試みるも、全くといっていい程眠気が来ない。


4: ◆KCXDu/KctI:2012/2/11(土) 20:11:40 ID:56UEjhngyc
「……とりあえずもう一回起きるか。」

仕方ないのでもう一度体を起こす。起こすついでにベットから降りて、部屋をじっくり見てみる。

すると、さっきは気がつかなかった色々な物に気付く。
大きな壷や、凄そうな絵。美術館にありそうなやつだ。

「いったいどうなってんだ、全く」

このままじゃ埒が明かない。とりあえず部屋から出てみよう。そう思った時だった。

コンコン

不意に扉がノックされた。

5: ◆KCXDu/KctI:2012/2/11(土) 20:14:09 ID:56UEjhngyc
初SSです、よろしくお願いします。

スローペースになるかもですが、しっかり書いていきたいと思います!
6: ◆KCXDu/KctI:2012/2/12(日) 13:45:59 ID:mYM8Ym1HnU
!?

一瞬にして体が強張る。誰だというのか。自分をこんな所に連れてきた奴だろうか。

「目覚めたかい?失礼するよ」

そう言って一人の男が入ってきた。背は高め、二十歳かそこらだろうか。

俺が警戒を露わにしているのを見て取ったのか
「安心してくれ、僕は君に危害を加えようなどと考えていない」

俺に話しかけながら男がこっちに歩きだしたその時。
ガッという音と共に男がコケたのだ。どうも電飾に足をひっかけたらしい。

俺がポカーンとしていると扉の外から笑い声が聞こえてきた。
7: 名無しさん@読者の声:2012/2/12(日) 13:49:44 ID:xoGBRqKnAA
この人以外にも何人かいるのかな。

「えーっと、大丈夫ですか?」

放置するのもなんだから、一応声をかけてみる。外の人も気になるけど。
「あ、ああ、大丈夫だ、問題ない」
「問題ない、ですか」

「ああ、問題ない」


………………………なんかすっごく痛そうだけど、問題ないって言ってるし、いいよね、うん。

「えーと、それで、僕、今の状況がさっぱり分からないんですが」
状況どころか、記憶すらアヤフヤだけど。

「それは承知している。そもそも、我々が連れてきたからな。」

やっぱり、俺は連れてこられたのか。この事から、連想されるのは1つ。

「えっ、つまり誘拐ですか?うち、お金とかないですよ?」

表面上だけでも冷静を装う。動揺を見せたら負けだ。ってなんかで読んだ。

「おっと、説明不足だったな。連れてきざるをえなかった、と言った方が言いだろう」

8: ◆KCXDu/KctI:2012/2/12(日) 13:51:16 ID:mYM8Ym1HnU
「いや、何言ってるか分からないんですけど……」

連れて来ざるをえなかった?しょうがなくってことか?意味がわからん。何だか、余計に混乱してきた。

「ふむ、直ぐに理解は出来んだろう。そして、これから私が話す内容でますます混乱するだろう。だが、落ち着いて聞いて欲しい。」


『君は今、生死をさ迷っている状態だ。』


…………ナニを言ってるんだこの人は?セイシヲサマヨッテイル?ハハハソンナバカナ

「まあ、そう簡単には受け入れられんだろう。君じゃなくても、誰でも同じ反応をするハズだ。」


「人間は、産まれた時点で既に、いつ死ぬかが決まっている。運命というやつだ。人の世は全て必然なんだよ。」
9: ◆KCXDu/KctI:2012/2/12(日) 13:53:23 ID:mYM8Ym1HnU
「しかし、君に関してはそれが、通常認められている<運命の誤差>の範囲に収まらない異常な事態が発生した。」


「このような事は本来あってはならない。だからといって、我々には元通りにするだけの力はない。だが、方向を修正する手助け位であれば可能だ」

「結果、君をココに連れてきて、自分の手で原因を発見、解決して貰おうと考えた。私達には原因を発見する事は許されていないのだ。」
10: ◆KCXDu/KctI:2012/2/12(日) 13:54:59 ID:xoGBRqKnAA
というわけで、今日はここまでです。んー、1レスあたりの量が安定しません……
11: ◆KCXDu/KctI:2012/2/13(月) 14:16:20 ID:Vh7fPfLnts
それでは本日の更新を。見てる方がいるのか分かりませんが地道に書いていきます。
12: ◆KCXDu/KctI:2012/2/13(月) 14:27:53 ID:Vh7fPfLnts
男は、一気に捲し立てると、これ以上話すことはないかのような雰囲気で黙ってしまった。
仕方ないが、こちらから話しかけるしかないようだ。あまり関わりたくないが……

「あの、それ……本気で言ってるんですか?」

正直、頭がおかしいとしか思えない。生死をさ迷ってるって、現に体も意識もちゃんとあるじゃないか。

「冗談でこのような事を言うはずがないだろう。冗談は、笑えなければ意味がないからな。」



13: ◆KCXDu/KctI:2012/2/13(月) 14:35:55 ID:IRB1IpmjbM
……確かに正論だ。冗談にしては分かりにくすぎる。
ただ、いくらなんでも状況が突飛すぎる。突飛すぎるが、今はとりあえず信じてる風に装っておこう、うん。
どう考えても、反論するとめんどくさい系の人にしか見えない。

「で、あなたはいったい誰なんですか?」

「君はさっきの話をちゃんと聞いていなかったのかい?言っただろう、僕らは君がここから脱出するためのサポートをするんだよ」

男はそう言って手をさしのべてきた。

14: ◆KCXDu/KctI:2012/2/13(月) 14:40:41 ID:Vh7fPfLnts
「僕の名前は来栖(くるす) 唯。これからよろしく。君の名前は?」

「……浅井 涼です。」

とりあえず手を握り返す。正直信用ならないが。

「まったくもー、だめですよ唯さん。凉君が怖がってるじゃないですか」

すると、扉を開けて女性が入ってきた。長い黒髪で綺麗な人だ。結構タイプかも。

「そうだぜ来栖。少年がビビっちまってんじゃん」

続いてだらしなさそうな男が入ってきた。声的にさっきの笑い声はこの人だろう。どっちも俺より少し年上かな?


15: ◆KCXDu/KctI:2012/2/13(月) 14:56:55 ID:IRB1IpmjbM
「何を言うんだい二人とも、僕は彼に自らが置かれている状況の説明をだね……」

「あーはいはい、わかったわかった。なあ少年、コイツはなんかお堅い感じだけど、回りくどい言い方が好きなだけなんだ。」

来栖の話を遮ってラフな人が話しかけてくる。それにしても非常に馴れ馴れしい人だ。年上だろうから仕方ないけど。

「そういう訳だ。まあ適当に流してやってくれや」

「あ、はい。わかりました……」
って言っても、流せって言われて、素直に流せる内容でもないんだけどなぁ……

ピピピッピピピッ

いきなり鳴り出したアラーム。音源を探すと、お姉さんの携帯からなっているみたいだ。

「そろそろ時間ですね。唯さん、和くん、次の方の元へ向かいましょう」

「ふむ、もう時間か。それでは、君の健闘を祈る」

「えっ!あっ、はぁ。」

そう言い残し、三人は部屋から出ていった。
……健闘を祈るって、何をすりゃいいんだよ……
16: 名無しさん@読者の声:2012/2/13(月) 22:58:42 ID:lwvjmZ8Hy6
みてるよ(^ω^)
17: ◆KCXDu/KctI:2012/2/14(火) 15:09:39 ID:ki46t9YtMY
>>16
※ありがとうございますっ!励みになりますです!
ということで今日の分いきます。おそらく4レス程です。
18: ◆KCXDu/KctI:2012/2/14(火) 15:10:26 ID:niLTnM81LA
再び部屋に一人になってから5分。考えを巡らせてみるも、分かっていることが無さすぎてどうしようもない。

生死をさ迷ってる。ここから脱出すればいい。この二つ。一体この二つだけでどうしろというのだ。
このままでは埒が明かない。

「部屋から……出てみるか。」

彼らから、部屋を出てはいけないなんて事は言われていないし、大丈夫なはずだ。

19: ◆KCXDu/KctI:2012/2/14(火) 15:11:17 ID:niLTnM81LA
「すげえな、ホテルみたいだ」

部屋を出ると、赤い絨毯が敷き詰められた廊下が左右に伸びていた。

「いや、ホテルっていうより館か?」
まあ、照明が暗いのは館、明るいのがホテルっていう勝手な印象での判断だけど。

20: ◆KCXDu/KctI:2012/2/14(火) 15:16:00 ID:niLTnM81LA
なんとなく、部屋から離れるのは恐いがとりあえず散策してみよう。まずは右に行ってみようかな。
キィーーガチャン

「えっ、あっ、これ、まさかドア開かなくなったとかじゃないよな!?」

ホラー映画のワンシーンが脳裏をよぎり、慌ててドアを開けてみる。

キィーー

あっさり開いた。

「ホラー映画的な空間じゃないのか……よかった……」


21: ◆KCXDu/KctI:2012/2/14(火) 15:22:22 ID:ki46t9YtMY
気を取り直して、再度右へ向かう。同じような扉が延々と並んでいる。

「宿泊施設だよなぁ……どう考えても」

2分ほど歩いただろうか。突き当たりに到着。ここまで、階段やエレベーター、窓等なにもなく同じ扉が並んでいるだけ。

そう、同じ扉。
部屋番号すら書いていない。



「あっ……部屋……わかんねーじゃん……」



完全に盲点だった。まさかそんな罠があるとは。

「はぁ……どうすっかなー、取り敢えず逆に向かうか」

予想外の事に動揺しつつ、俺は反対側に歩き出した。
22: ◆KCXDu/KctI:2012/2/15(水) 18:20:30 ID:ydXzZUk3ko
>>7で、連れてきざるになってますが連れて来ざるですね修正忘れてましたorz

というわけで、気を取り直して今日の分いきまーす!
23: ◆KCXDu/KctI:2012/2/15(水) 18:21:04 ID:ydXzZUk3ko
来た道を戻って4分位。今度は突き当たりではなく、踊り場にでた。

階段で上下階に行けるようで、上への階段はホテルによくある感じだ。
ただ、下への階段は、大きな弧を描きながら広い場所に繋がっている。

たぶん、ここは二階で、下はエントランスかなにかなんだろう。ただ、エントランスに必要なドアが見当たらないけど。

24: ◆KCXDu/KctI:2012/2/15(水) 18:25:30 ID:ydXzZUk3ko
「なんかすげえな、ここ」

少し圧倒されてため息をつく。

「どうなっちまうんだろうな、俺」

正直、今後どうすればいいのか全く思い付かない。記憶がないのにどうしろというんだ。

そんなだから、問題を解決しろとかサポートするとか言われても困るのだ。

ってか、まず説明が意味不明なのが問題だ。思い出したらちょっとイライラしてきた。


25: ◆KCXDu/KctI:2012/2/15(水) 18:28:08 ID:uZOnOzXKHk
「まあいいや、とりあえず一階を見に行くか。長く住むことになるかもしれないからな」

自虐的に笑い、一階への曲線的な階段を降りていく。


「ん?」


ちょうど一階と二階の間くらいだろうか。急に空気が変わったように感じる。
どこが変わったのか明確には分からないが、何かが変わった。


「まさか一階は異世界だったりして。って、すでに異世界なんだっけ」

26: ◆KCXDu/KctI:2012/2/15(水) 18:41:34 ID:uZOnOzXKHk
「ふふっ、異世界……ですか。」

「えっ?」

驚いた。

一人言のつもりだった言葉に反応があった事もだが、何より、さっきから全く人の気配が無かったはずなのに、今は明確に存在を感じられる。

声のあった方を振り向く。さっきの女性だ。

「驚かせちゃいましたか?」

いたずらっ子のような顔でそういう女性。ドキッとしてしまうじゃないか。

「あっ、はい、ちょっとだけ。で、えーと、あ、あなたはどうしたんですか?」

よく考えたら、この人の名前聞いてないな……


27: ◆KCXDu/KctI:2012/2/15(水) 19:01:00 ID:ydXzZUk3ko
「あっ、そういえば自己紹介がまだでしたね。私は香村 穂香です。よろしくお願いしますね」

そう言って深々とお辞儀をする穂香さん。それにつられてつい

「こちらこそよろしくお願いします」

こっちもお辞儀してしまう。

それにしても、なんだか不思議な雰囲気の人だ。声を聴くと、こっちが落ち着いてくるというかなんというか。
28: 名無しさん@読者の声:2012/2/17(金) 00:06:55 ID:vr1VSwTGYA
つC
29: 名無しさん@読者の声:2012/2/17(金) 00:35:56 ID:TjuDwVsXHM
つCC
30: ◆KCXDu/KctI:2012/2/17(金) 12:35:01 ID:ZOkUPycZYs
毎日更新するつもりだったんですが、昨日は出来ませんでしたすいません!
>>28さん >>29さん支援ありがとうございますっ!
期待に答えられるか分かりませんが頑張って書いていきます!
それでは今日の分です。4〜5レスになると思います。
31: ◆KCXDu/KctI:2012/2/17(金) 12:36:36 ID:wBv.pXEq1w
「それでなんでしたっけ?ああ!私の用事についてでしたね」

その言葉に俺は頷く。天然なのかなこの人。
ま、まあ俺も一瞬用事がなんだったか忘れてたけど、それは秘密だ。

「1つ、アドバイスをしようかなって思って」

「アドバイス……ですか。」

いまいちピンとこない。アドバイスされるような事……あるか?


32: ◆KCXDu/KctI:2012/2/17(金) 12:37:30 ID:wBv.pXEq1w
「むぅ……信じてないでしょう私の事」

拗ねたようにそう言う穂香さん。これはこれで可愛い……じゃなくて、なんだ、顔に出てしまったか?

「い、いえ、あのー……信じる信じないというよりまず、アドバイスって言われてもなんかピンとこないというか……」

勘違いされるのはなんとなく嫌なので正直に言う。

「ピンとこない……ですか。やっぱり、まだ状況が把握できてませんか?」

「ここが、凄く広い建物ってこと位しか分かってないです」

「ふふっ、確かにこの建物は広いですね。皆さん、よく道に迷われてますよ」

楽しそうにそういう穂香さん。……ん?なんか今、皆さんって言わなかった?

33: ◆KCXDu/KctI:2012/2/17(金) 12:38:00 ID:wBv.pXEq1w
「皆さん……というと、ここは俺以外にも人がいるんですか?全く人の気配を感じないんですけど」
二階の廊下を端から端まで歩いたが、人の気配は皆無だった。
あんなに部屋がたくさんあるのに人がいないのを不思議に感じたのを覚えている。

「それに関しては、後で唯さんが説明してくれると思います。」

あの人また来るのか。今度はこけなきゃいいけど。

34: ◆KCXDu/KctI:2012/2/17(金) 12:39:03 ID:ZOkUPycZYs
「ふふふっ、もうこけないと思いますよ?」

…………これは俺が顔に出やすいんじゃなく、穂香さんが心読めるだけじゃないんだろうか。

「そんな、心なんか読めませんよ〜」

「今も読まれてる!」

穂香さんには逆らわない方が良さそうだ……ってこれも読まれてるか!!どうしろと!!
ま、まあ、今はもう気にするのはやめよう。

「えーと、それで、結局アドバイスというのは?」

完全に話が逸れていたのを元に戻す。いや、逸れすぎだろこれ。
「そうでした、アドバイスでしたね。私が涼くんに伝えたいのは─────」

35: ◆KCXDu/KctI:2012/2/18(土) 15:24:54 ID:Kkh511QEhI
穂香さんに部屋を教えて貰い、部屋に戻る。そして、先程の言葉を思い返す。

「─────ここには長居、そうですね、一週間以上留まらない方がいいです。といっても、涼くんが、ここにいる原因を見つけないとどうしようもないんですけどね。」

なんで長居しない方がいいのか聞いてみたが、残念ながら教えてもらえなかった。
ただ、何か良くない事であるというのは分かる。

だけど、ここにいる原因なんて分かる気がしない。記憶もない、ヒントもない状態でどうしろというのだ。

36: ◆KCXDu/KctI:2012/2/18(土) 15:27:17 ID:Kkh511QEhI
「意味わかんねー」

そう愚痴を溢し、ベッドに背中から倒れこむ。

「生死さ迷ってるとか、信じられるかよ……」

彼らの説明では、今の俺は生死をさ迷い中だ。そんな突拍子のない事をどうして信じられようか。

「考えても分からんし、取り敢えず寝るか。」

俺は、考えるのを止め、ベッドに身を任せることにした。

37: ◆KCXDu/KctI:2012/2/18(土) 15:36:20 ID:Kkh511QEhI


目が覚めると、記憶が戻って自分の部屋にいた。


なんて事はなく、やはり変わらず広い部屋の広いベッドの上だった。
分かってたさ、夢オチなんて創作の中だけだってこと。

「どれくらい寝たんだろ」

時計を見ようとして気付く。

時計がない。

更に思い出してみると、この建物内で時計を一切見ていない。こんな大きな建物だ。普通、時計の1つくらいあってもいいだろう。

「時間が分からないって、意外と嫌なもんだな……」

外の景色が見られれば、大体の時間は分かるだろうが、それすら叶わない。

38: ◆KCXDu/KctI:2012/2/18(土) 15:47:05 ID:Kkh511QEhI
「うーん、携帯でもいいから、なんか時間が分かるもんがあればいいんだけど」

そう言ってみたところで、携帯が出てくる訳でもなく。

「仕方ない、後であの人らに聞いてみるか」

取り敢えず、時間の事は今は気にしないことにする。

「うん、暇だ」

そうすると、考えることも無くなり、完全に時間を持て余している訳で。

「仕方ない、妄想でもするか。折角だし穂香さんで────」

「失礼するぞ」

最悪のタイミングで部屋の扉が開いた。
39: ◆KCXDu/KctI:2012/2/20(月) 10:06:34 ID:n9ecgHDJME
おはようございます。絵スレの方に穂香さんをうpいたしました。稚拙な作品ですが、見ていただけると嬉しいです。

続きに関しては午後に更新しますので、よろしくお願いします。
40: ◆KCXDu/KctI:2012/2/20(月) 21:23:45 ID:Hg2zDz.Ujs
「………………………」
「………………………」
「……また後にした方が良さそうだな」
「まま、待ってください!だだだ大丈夫です何もしてないですから!」


来栖さんはとても空気が読める人のようでした。

「……運がよかったな、私一人で。」
「だ、だから別に後ろめたいことをしようとはしてませんっ!」

間違いない、勘違いされてる。悪い方向に。
41: ◆KCXDu/KctI:2012/2/20(月) 21:42:33 ID:Hg2zDz.Ujs
「ほぉ。てっきり<自主規制>するつもりだったのかと思ったのだが」
「<じ、じ、自主規制>!?そんなことしません!」

な、なんてとんでもないことを言う人だ!

「ふむ。だが、うちの香村を妄想に使うつもりだったんじゃないのか?」

「ま、まあ!それはそうなんですけど!卑猥な事を考えるつもりはありません!」

「じゃあなんだと言うのだ?」

面倒くさそうにそう聞いてくる来栖さん。こんなことを追及しないで欲しい!

「えーっとですね……。ただ……」

「ただ、なんだ?」
42: ◆KCXDu/KctI:2012/2/20(月) 21:56:22 ID:Hg2zDz.Ujs
「ただ……穂香さんとのデートを……」

顔が異常に熱い。恥ずかしすぎて来栖さんの顔を見られない。
鏡を見たらリンゴ、いや、イチゴ並みに赤くなっているに違いない。

「うむ。君が年のわりに中身は幼いという事だけ分かった。」

なんだろう、スゴく酷いことを言われた気がするが、恥ずかしくて耳から言葉が入ってこない。

「ふっ、まあいい。このような話をしに来たわけではない。分かっいるとは思うがな。」

「いや、もう勘弁して……って、え?」

雰囲気が変わったことに気付き、顔をあげる。
来栖さんの顔からは、すでにさっきまでのような呆れた表情は消え、今のそれは真剣そのものだった。

「今から話すことは、君にとって非常に大事な事だ。心して聞くように」

そう前置きをし、来栖さんは荘厳に語り始めた。
43: ◆KCXDu/KctI:2012/2/21(火) 21:35:36 ID:vjJO9QEqdQ
「最初にも言った通り、君は生死をさ迷っている。これはいいな?」

良くはないが、とりあえず頷く。
「では、まずこの空間に関して説明しよう」

俺が今一番気になっている、この場所について。来栖さんはちゃんと説明してくれるようだ。

「ここは魂の一時保管所……とでも言えば分かってくれるかい?」

「分かりません」


44: ◆KCXDu/KctI:2012/2/21(火) 21:41:21 ID:vjJO9QEqdQ
さも当然だというように来栖さんはそう言ったが、俺には意味がわからない。
なんだよ魂の一時保管所って。これが厨二ってやつなのか?

「ふーむ、分からないか……。君は少し理解力が乏しいんじゃないか?」

哀れむようにそう話す来栖さん。
……これ、俺が悪いの?理不尽じゃね?キレていいよね?

「そう怒るな。冗談だ。」

「怒ってません」

怒ってるけど。あと、冗談は面白くないとダメって旨を話していたのはあなたでしたよね。


45: ◆KCXDu/KctI:2012/2/21(火) 21:44:48 ID:KGzAM8k2i2
「まあ、そんな事はどうでもいい。ニュース等で聞いたことあると思うが、意識不明の重体というのは知っているだろう?」

「いやまあ、それくらい知ってますが」

重体くらい知ってるだろ普通。なんかこの人、俺を見下してるよね、かなり。俺、なんかしたか?


「つまり、意識不明になってる間、その不明になってる意識がココに来るというわけだ」

「ああ、その言い方だとよく分かります」

魂の一時保管所って言いたかっただけじゃないんだろうか、この人。普通に説明した方が分かりやすいじゃないか。


46: ◆KCXDu/KctI:2012/2/21(火) 21:44:59 ID:KGzAM8k2i2
「何か不満そうだな」

そう言って睨んでくる来栖さん。やっぱり、顔に出やすいのかな、俺……

「いえ、別にそんな事は。話っていうのはそれだけですか?」

もうこの人と会話するの辛いよ……
早く切り上げてくれないだろうか……

「いや、まだだ。次はこの建物についてだ」

まだ……時間かかりそうですね……
47: ◆KCXDu/KctI:2012/2/21(火) 21:46:09 ID:vjJO9QEqdQ
今日の分は以上です。
話があまり進みませんが、ご了承ください。悪いのは来栖さんなんです。1は決して悪くないのです。
48: ◆KCXDu/KctI:2012/2/22(水) 21:39:54 ID:qQQzqfVdfw
「香村から聞いたが、部屋があるのに人がいない事に関して、疑問を持っていたようじゃないか」

「はい、聞きましたよ」

そういえば、唯さんが話してくれますって言ってたな。

「それに関してだが。確かに、部屋の数から分かる通り、この空間には君のような人達がたくさんいる」

「しかし、各々が存在している空間は、完全に一致しているわけではない。所謂、パラレルワールドというものだ。一つ一つの平面は、ほんの少しずつズレているのだよ」

49: ◆KCXDu/KctI:2012/2/22(水) 21:40:19 ID:qQQzqfVdfw
ぱ、ぱられるわーるど!?またそんなSFの王道を……
なーんか、現実感がないよなぁ……
それに、パラレルワールドというなら────

「沢山部屋を用意する必要ないんじゃないですか?」

「ほぅ……」

来栖さんは、俺の言葉に、少し驚いた様子だ。ちょっと、してやったりな気分。

「ふむ、なかなかいい所に気が付くじゃないか。理論上では、1部屋あれば充分だ。」

50: ◆KCXDu/KctI:2012/2/22(水) 21:40:42 ID:9gYoXiEfsA
ここで一度言葉を切り、彼はさらに続ける。

「しかし、それぞれの平面が、他の平面に与える影響は少なくない。パラレルワールドとはいえ、部屋が同じだと何らかの干渉が生じる可能性があるわけだ。だから、そうならない為の予防策として沢山部屋を用意している。分かったか?」

来栖さんはすこし誇らしげだ。あれだけの事を言えたら、そうなっても仕方ないよな。
だけど、イマイチ分からん。なんとなく要点は掴めた気がするけど。

51: ◆KCXDu/KctI:2012/2/22(水) 21:41:38 ID:qQQzqfVdfw
「まあ、雰囲気は伝わりました。とにかく、人はいるけど会えないということですね?」

「その程度の理解で充分だ。では、これで私からの話は終了だ。後は頑張りたまえ」

「ちょ、ちょっと待ってください!」

仕事は済んだという感じで、部屋から出ていこうとする来栖さんを呼び止める。
今の話を聞いていた中で、来栖さんについて、一つ気になったことがあるのだ。

「なんだね?私は他の人間の所にも行かねばならんのだ。君一人に長々と時間を割いている余裕はない」

今の言葉で、俺の中の疑問が大きくなる。

52: ◆KCXDu/KctI:2012/2/22(水) 21:41:54 ID:qQQzqfVdfw
「す、すぐ終わるので!えっとですね、あの、来栖さん達は一体どのような存在なんですか?」

俺の中で生まれた疑問。大きな疑問。
沢山の人が、それぞれ微妙に異なる世界に生きていると彼は言う。
だったら、それぞれの平面を往き来できる彼らは一体、なんだというのだ。

「なんだ、そんな事か。それは、私達が神に選ばれた者だからに決まっているだろう」


53: ◆KCXDu/KctI:2012/2/22(水) 21:44:16 ID:qQQzqfVdfw
はい、というわけで、来栖の話は明日まで続きます。
ややこしい話ですいませんm(__)m
疑問などあれば、お気軽にどうぞです!
54: ◆KCXDu/KctI:2012/2/23(木) 21:43:57 ID:1a9ezyriWs
それがさも当然の事だというように、言い切る来栖さん。

「えーと……、冗談……です……よね?」

「はぁ?君はこれが面白いと思うのか?冗談なわけないだろう。」
「じゃ、じゃあ、神に選ばれたってどういう事なんですか!?ちゃんと説明して貰いたいんですが!」

そう食い下がる俺に対して、あからさまに嫌な顔をする来栖さん。
「君は質問が多いな。まあ、いいだろう。神に選ばれたとはどういう事か、だな?そんなの、このような立場にいるなんて、神から選ばれる以外に何があるというのだ。」

55: ◆KCXDu/KctI:2012/2/23(木) 21:51:27 ID:1a9ezyriWs
……………えっ、根拠それだけ?

「もういいだろう。それでは私はもう行くからな」

俺の無言を納得によるものだと思ったのか、再び部屋を出ていこうとする来栖さん。
だけど、今度はもう止める気にならなかった。
というより、止めたところでこの人とは会話が成り立たないが目に見えている。

「では、頑張りたまえ」

ガチャン

来栖さんが出ていくのを、俺は無言で見送った。
56: ◆KCXDu/KctI:2012/2/23(木) 21:59:16 ID:1a9ezyriWs
来栖さんが去ってから数分。
俺はベッドに寝っ転がり、考える。

あの話を聞く限り、余計に彼らの存在を怪しいと感じるようになっただけだった。
穂香さんはまともな人って感じなのになぁ……

「そういや、もう1人の人はあれ以降見かけてないなぁ」

確か和くんと呼ばれていただろうか、軽い感じの男性。
彼からも一度話を聞いてみたい。

俺はそんな事を考えながら、意識を手放した。
57: ◆KCXDu/KctI:2012/2/24(金) 21:47:47 ID:Jrfetqurxk
───────
──────

目が覚める。相変わらずだだっ広い部屋のだだっ広いベッドの上。
ただ、少しは慣れてきた。時計もないし外も見えないが、体感的に一日経っているように感じる。
ただ、これが何日も続くと、精神的にキツそうだ。
もしかしたら、穂香さんのアドバイスはそういう事だったのか?

「うーむ、そういや腹が減らんなぁ」

よく考えたら、ここで何も食べていない。が、空腹感は全くない。というか、食欲自体ない。

58: ◆KCXDu/KctI:2012/2/24(金) 21:48:17 ID:.SoJTZsdJo
「ってか、生理現象が少ない……のか?」

歯磨きせずとも口内はスッキリしてるし、寝起きだが頭はフル回転。
人間らしさで残っているのは睡眠だけか?

「まさか、俺は人外に成りつつあるとかだったりして。いや、まさかね〜そんな訳ないわな〜」

言ってから気が付いたが、なんかこれ、俗に言う、フラグってやつじゃなかろうか。

「まあいいや、とりあえずまた探索するか。今日は昨日行けなかった一階だな」

そう決め、ベッドから立ち上がった直後。


59: ◆KCXDu/KctI:2012/2/24(金) 21:48:51 ID:Jrfetqurxk
「入るぞー」

ノックもなしに扉が開いた。


「おー、起きてたか。目覚めはどうだ?」

あの軽い人が入ってきた。やはり、今回も一人。

「おはようございます。でいいのかわかりませんが」

「ん?……あー、なんだ、おはよう」

なぜか挨拶につまっている軽い人。
もしかして、朝じゃなかった?

「まいったな……あいつ説明してねーのかよ……」

「あのー、何の話ですか?」

勝手に入ってきて、勝手に戸惑ってる。なんなんだこの人。

60: ◆KCXDu/KctI:2012/2/24(金) 21:49:16 ID:Jrfetqurxk
「お前、時間の説明……うけたか?」

「あっ、そういえば……」

結局、来栖さんに聞かず終いだったのを思い出す。

「やっぱ聞いてないか……あいつ、なーにしてんだよ」

雰囲気から察するに、来栖さんが話してくれるハズだったんだろう。やっぱりあの人、ちょっと抜けてる?

「えーと、じゃあ、教えていただけるんですか?」

「当然。っちゅうか、必ず説明しとかなきゃいけない事の一つなんだわ」

来栖さん、抜けてるってより、ただのダメな人なんじゃ……

61: ◆KCXDu/KctI:2012/2/24(金) 21:49:38 ID:Jrfetqurxk
「お前の考えてることはだいたい分かるけど、それ言ったらダメだからな」

そんなに!?そんなに顔に出てる!?

「で、時間に関してだが……。ここには時間という概念がないんだわ」

時間という概念がない?どーいう事だ?

「あー、それは、時間が止まってる……みたいな感じですか?」

「んー、正直、俺もそれ以上はよく分からないわ」

と、苦笑いしながら話す軽い人。
彼自身も、説明になってないという事は理解しているんだろう。
62: ◆KCXDu/KctI:2012/2/24(金) 21:54:29 ID:Jrfetqurxk
はい、今日も説明パートで終わってしまいました。
なにぶん設定が入り組んでいますので、説明パートが長くなっていますが、致し方無いのです。
ご了承いただけたらと思いますですはい。
63: 名無しさん@読者の声:2012/2/25(土) 21:53:28 ID:jMHkI2l3OY
「ま、とにかく、朝とか夜とかないわけよ。だから夜だから眠い、とか朝だから起きる、とか単純じゃないんだなこれが。」

「はぁ……なんとなく分かりました」

ただ、これがなんで必要な説明なのかは分からないけど。

「で、だ。俺はこんな話をしに来たわけじゃねーんだ。お前、ここより下の階には行ったか?」


64: ◆KCXDu/KctI:2012/2/25(土) 21:54:16 ID:e9xZwMYK/.
「まだ行ってないです。ってか、今からいこうと思ってました」

昨日は、階段で穂香さんと会って、そのまま部屋に戻ったし。
「そっか、ならちょうどよかったわ。基本ここから上は全部泊まるための部屋だから、探索するなら下にいきゃあいいよ」

「なるほど、ありがとうございます」

この人、最初は馴れ馴れしくてちょっと戸惑ったけど、話してみたらいい人じゃないか。
人は見た目で判断しちゃいけないな。

65: ◆KCXDu/KctI:2012/2/25(土) 21:54:43 ID:jMHkI2l3OY
「そうだ、ついでに一つ質問していいですか?」

がんばれよ〜なんて言いながら扉に向かっていく背中に声をかける。

「あなた達は一体何者なんですか?」

俺の質問に、扉を開け、顔だけこちらを向けて答える。

「神から選ばれた人間だよ」

マンガやアニメだったら、顔が輝いているエフェクトがかかりそうな位いい表情だ。

…………うん、やっぱりこの人もヤバそうだ。


66: ◆KCXDu/KctI:2012/2/25(土) 21:55:10 ID:jMHkI2l3OY
──────
────
──

たくさんのコンピューターが並んだ、清潔感のある真っ白の部屋の中、忙しなく白衣の男達が作業をしている。

その部屋の中心に、体を複数のコードで機械に繋がれ、ベッドで寝かされている、若い男と女。

彼らだけ時が止まっているかのように微動だにしない中、側にある機械は、休む事なく一定のリズムを刻んでいる…………



67: ◆KCXDu/KctI:2012/2/25(土) 21:57:06 ID:e9xZwMYK/.
───────
──────

「よし、気を取り直して、探索するか!」

彼らの思考自体は怪しいけれど、実際、何かあるなら下だろう。
今日は何か発見したい、そう思いながら俺は、階段までの長い廊下を歩き始めた。
68: ◆KCXDu/KctI:2012/2/25(土) 21:58:49 ID:e9xZwMYK/.
今日はここまでとなりますです〜
やっと、話が進みましたw
少しずつですが、確実に展開していきますので、よろしくお願いします!
69: ◆KCXDu/KctI:2012/2/26(日) 21:54:59 ID:WN5ViFqfkE
「2分35秒か。なんだ、どっちかというと3分か」

時間の概念が無いなんて言っていたので、階段までどれくらいかかるのか、実際に頭の中で数えてみた。

「ちゃんと大まかな時間は計れるし、時間の概念あるじゃん」

てっきり、時間を数えられなくなっていると思っていたから、若干拍子抜けだ。


70: ◆KCXDu/KctI:2012/2/26(日) 21:55:28 ID:WN5ViFqfkE
「また後で、もう一回聞いてみるかー」

そんな事を呟きながら、階段を降りていく。
と、同時に、昨日も感じた違和感。

「また、穂香さんと会ったら面白いんだけど」

なんて、1人でニヤニヤしているうちに階段を降りきり、一階に到着。

「おお、実際に立ってみると中々広いじゃん」

エントランスっぽい空間は、二回から見るより、広く感じられた。
たぶん、階段からじゃ見えない通路が伸びているからだろう。


71: ◆KCXDu/KctI:2012/2/26(日) 21:55:37 ID:WN5ViFqfkE
このエントランスっぽい空間、通路が3つあるのだが、どれも同じにしか見えない。

「うーん、どこから行こかな〜」

優柔不断な俺には、中々難しい選択肢だ。

とりあえず、左から順番に行くかと、5分程熟考した末結論を出したとき

「ねえ、あなた」

背後から少女の声が聞こえてきた。
72: ◆KCXDu/KctI:2012/2/28(火) 21:54:45 ID:9SCh7XQ65g
声が発された方へ振り向く。
そこには、小柄な猫耳の少女が立っていた。

「君……だよね?今呼んだのって」

「私以外、周りに誰もいないんだから、当然でしょ?」

不敵な笑みを浮かべながらそんな事を言う猫耳少女。

「そっか、そりゃそうだな。で、君はいったい?あの人達の仲間……でいいんだよね?」

来栖さんの話を信じるなら、あの人達以外とは会えない訳だし。
……この子が幻想とかじゃない限りは。

73: ◆KCXDu/KctI:2012/2/28(火) 21:55:21 ID:JmJ0cLVbXI
だけれども、彼女が次に口にした言葉は、俺の予想を見事なまでに打ち砕くものだった。


「ちょっと、私をあんな嘘つき集団と一緒にしないでくれない?」

それは、心の底から出た言葉のようで。
冗談には聞こえなくて。

俺は、すぐに言葉を発することが出来なかった。

「なに?急に黙っちゃって。どうしたの?」

俺の動揺に気が付いたのか、少し心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。
74: ◆KCXDu/KctI:2012/2/28(火) 21:55:46 ID:9SCh7XQ65g
「ちょ、ちょっと待って、落ち着かせて……」

目の前の少女に、なんとかそれだけ言い、目を瞑る。そして、大きく深呼吸。
頭の中に、酸素が巡っていく。
それと共に、ざわついていた心が落ち着き、思考停止していた脳が、働き始める。
彼女は、彼らの仲間ではない。
しかし、そうなると、一体何者だというのだ。

「君は、一体、なんなんだ?」

ゆっくりと、確認するように、彼女に疑問を投げ掛ける。

「私?私は、あなたの味方」


75: ◆KCXDu/KctI:2012/2/28(火) 21:56:10 ID:9SCh7XQ65g
返ってきた言葉は、俺を再び混乱させるには充分だった。
味方?味方という事は、つまり敵がいる?俺の状況は、一体どうなってるんだ?

「もー、さっきから難しい事考えてるような顔して。深く考えるような事じゃないでしょ?」

彼女は俺の脳内を見透かしたようにそんな事を言う。
だけど、これが深く考えるような事じゃなかったら、何が深く考えるような事だというのだ。

「話がよく分からないんだけど、味方って?どういうこと?」

「どういうことも、言葉そのままよ。私は、あなたの味方。あなたがここから帰る手助けをする為にいるの。あいつらと違って、本当にね」


76: ◆KCXDu/KctI:2012/3/1(木) 21:47:37 ID:W8SLmm0p9Q
「あいつらと違って?来栖さん達は、俺を手助けしてくれるって─────」

俺の言葉を遮って彼女は言う。

「じゃあ、あいつらから、手助けしてもらった?」

その言葉に、俺は何も返すことが出来なかった。
確かに説明は受けても、具体的に何をすればいいのか、ほとんど教えて貰っていない。

77: ◆KCXDu/KctI:2012/3/1(木) 21:48:02 ID:W8SLmm0p9Q
「その様子じゃ、思い付かないみたいね。私が言いたいこと、分かった?」

その問いに、俺は頷くことしか出来なかった。
ただ、少し気になることがある。

「君は、ここがなんなのか知ってるの?」

「ごめんなさい、そこまでの情報は持ってないの。ただ、あなたが生死をさ迷ってるなんて事はないわ」


78: ◆KCXDu/KctI:2012/3/1(木) 21:48:26 ID:ow4R0yVYSo
彼らと正反対の事を言う彼女。彼らも信用できないが、彼女も信用できない。

「あっ、私の事信用してないでしょー。まっ、気持ちは分からなくもないけどね」

彼女の言葉に少し驚く。来栖さんのように、自分が絶対だ!ってタイプだろうと勝手に考えていたから、いい意味で予想外だった。
「申し訳ないけど、やっぱり君の言うことを鵜呑みにはできないよ。少し時間をもらっていいかな?」

「いいわ。私を信用出来ると思ったら、またここに来てくれたらいいから」

「ありがとう、じゃあ俺は今からこっちに行くから」

そう言って、一番左の通路を指差す。
79: ◆KCXDu/KctI:2012/3/2(金) 21:41:58 ID:cf6cNYQFQo
「そう、別にいいんじゃない?ただ……」

「……ただ?」

さっきまでの、ハッキリした物言いから一転、急に口ごもる彼女。
その雰囲気の変化に、緊張してしまう。

「ううん、やっぱり今のは気にしないで?経験した方が早いと思うから」

「えっ、経験ってなに!?気になるから言ってよ!気にしないとか無理だから!」


80: ◆KCXDu/KctI:2012/3/2(金) 21:51:13 ID:cf6cNYQFQo
「まあまあ、いいから早く行きなさいよ。ずっと悩んで、やっと左って決めたんでしょ?」

「なんで知ってるの!?エスパー!?」

「だって見てたもん」

見られていたらしい。

「じゃあもういいよ!なんか怖いからやめる!行かない!」

そう言い、降りてきた階段の方に歩き出そうとしたが

「ちょっと待って」

止められた。さっきとは打って変わり、真剣味を含んだ声で。


81: ◆KCXDu/KctI:2012/3/2(金) 21:55:53 ID:cf6cNYQFQo
「……なに?」

「真面目に伝えとかないといけないことがあるの」

そして、一旦区切り、俺の目を見て再び口を話し始めた。

「あなたがここから出たいのなら、必ずこの3つの通路の先に行かなきゃいけない。でもね、何の知識も無しに行っても、混乱するだけなの」
82: ◆KCXDu/KctI:2012/3/3(土) 21:54:55 ID:amYUaxLhAw
「じゃあ、どうすればいいの?」

「だから、その為に私がいるんじゃない。私にはあなたにヒントをあげる義務があるから」

「ヒントをあげる義務?」

なんだそれ。また神から選ばれたとか言うんじゃないだろうな。

「そ。仕事よ仕事。私はこの空間の、本当の案内役なの」

仕事?ネコ耳つけて案内役ってどんな仕事だよ。

83: ◆KCXDu/KctI:2012/3/3(土) 21:55:16 ID:amYUaxLhAw
「そのヒント、今教えてっていっても、教えてくれないの?」

「別にダメではないんだけどね。私が嫌なの。ちゃんと、私を信じてくれないと話したくない」

子供の様な事を言ってそっぽを向く。何故か、その姿に安心感を覚える。

「分かった、とにかく考えてみるよ」

そう告げ、再び階段へと歩き出した。


84: ◆KCXDu/KctI:2012/3/3(土) 21:56:29 ID:amYUaxLhAw
──────
────
──

「どうだ、方法は見つかったか?」

白い部屋の中、白衣を着た中年男性が、沢山並んだコンピュータのうちの1つ、一番大きな物をを操作している青年に聞いている。

「んー、思い付く限りの事は試してみたんですが、どれも上手くいきません……」

少し悔しそうに答える青年。

「仕方ない、前例の無いことだ。だが、何があるかわからん。引き続き頑張ってくれ」

青年の肩をポンと叩き、彼もまた自分の持ち場へと帰っていく。

「彼らを信じるしかない……な」
85: ◆KCXDu/KctI:2012/3/4(日) 21:47:32 ID:bivGgb1DpA
───────
──────

ベッドに寝転がり、彼女の話した内容を反芻してみる。
来栖さん達は、言ってる事はちょっとアレだけど悪い人達には見えない。
ただ、具体的にどうすればいいのか、ほとんど教えて貰っていないし、教えてくれそうな雰囲気もないのは事実。

だからといって、彼女を信用するかと言われたら、そういうわけでもない。
案内することが仕事だと言っていた。仕事だというのなら、誰が雇い主なんだ?なんでここで働いてるんだ?
「神に選ばれたからやっている」方が、まだ理由はハッキリしている。

86: ◆KCXDu/KctI:2012/3/4(日) 21:47:57 ID:YIt2gET3bk
「あー、どうすりゃいいのかなー」

目を閉じ、天井に向かってそう溢す。
正直手詰まりだ。
どの通路を選ぶかでも時間がかかる程優柔不断な俺には、どっちを信じればいいなんて選べるはずもない。

こんな時、家族や友人がいれば相談出来るだろうし、相談するだろう。
だけど生憎、今は記憶がないし、なによりココにはいない。

87: ◆KCXDu/KctI:2012/3/4(日) 21:48:27 ID:bivGgb1DpA
「穂香さんが彼女だったらいいのに……」

無意識に呟いた言葉。

「ふふっ、嬉しいことを言ってくれますね」

それだけに、言葉が返ってきたのは予想外だった。しかも

「ほ、ほ、穂香さん!?」

声からして、どう考えても穂香さんです本当にありがとうございました。


88: ◆KCXDu/KctI:2012/3/4(日) 21:51:17 ID:bivGgb1DpA
パニクりながら、慌てて体を起こす。と同時に視界に穂香さんが入ってくる。

「はい、穂香ですよ?」

「あ、や、いや、えーと、はい、…………あっ、いつの間に部屋に?」

なんとか別の話題を捻り出す。顔真っ赤だろうから、意味ないけど。

「やっぱり気付いてなかったんですね。ノックしても反応がないので、今入ってきたんですよ〜。そしたら……ふふっ」

からかう様にそう言って俺を見る穂香さん。
この人には敵いそうにない、俺の本能がそう告げている。

「ま、まあ、いいじゃないですかそれは!ちょっと聞きたいことがあるんです!」

「うふふ、彼氏の有無ですか?」

「だあああ!違います!違いますから!」

いやまあ気になるけど!
89: ◆KCXDu/KctI:2012/3/6(火) 21:49:21 ID:ElXyDhEUa6
「ごめんなさい、涼君の反応が可愛いのでついからかいたくなっちゃいました」

完全に遊ばれてるよ……
可愛いなんて言われ、余計に恥ずかしくなってくる。

「と、とにかくですね!聞きたいことがあるんです!」

「はい、なんでしょう?」

俺は一度深呼吸をし、心を落ち着けてから微笑みを浮かべている穂香さんに、単刀直入に問う。


90: ◆KCXDu/KctI:2012/3/6(火) 21:49:51 ID:ElXyDhEUa6
「あの……俺が生死をさ迷ってるって、実は嘘なんじゃないですか?」

一瞬、穂香さんの瞳が揺れた気がした。

「そう、涼は死んでない。あなたは、あの少女を信じなさい。いいわね?」

穂香さんの、突然の変化。
口調、雰囲気が一変した。

「えっ…………」

91: ◆KCXDu/KctI:2012/3/6(火) 21:50:17 ID:ElXyDhEUa6
変化に着いていけず、呆然とする俺。
だが、これだけではなかった。
穂香さんの次の言葉は、俺をより混乱させることになる。

「はっ!す、すいません!ぼーっとしてました!えっと、聞きたいこと、ですよね?」

「!?」

元に、戻った。
口調も、雰囲気も。
しかも、さっきまでの事は無かったかのように。

92: ◆KCXDu/KctI:2012/3/6(火) 21:50:41 ID:ElXyDhEUa6
演技だろうか。でも、あの慌て方、演技には全く見えない。
一体どうなってるんだ……とうとう頭がおかしくなったんだろうか。

「って、涼君、大丈夫ですか?顔色が優れませんよ?」

さっきの慌てぶりから一転、心配そうに俺の顔を覗き込む穂香さん。

「は、ははは、大丈夫です。ちょっと立ち眩みがしただけですから」

今の俺には、そう誤魔化すので精一杯だった。

93: 名無しさん@読者の声:2012/3/8(木) 19:03:19 ID:7AAOSzGVqU
──────
────
──

部屋の中、一定のリズムを刻んでいた機械の1つが、突然リズムを変え、警告音を発し始める。

それと共に慌ただしくなる室内。
「どうした!何かあったか!」

「わかりません!前触れはありませんでした!」

そして、心臓マッサージをすべきだ、いや救急車を呼ぶべきだ等と揉めている内に

「戻りました!」

機械から警告音は消え、安定したリズムを再び刻み始めたのだった。

「一体、彼女に何があったんだ……」


───────
──────

94: ◆KCXDu/KctI:2012/3/8(木) 19:03:42 ID:7AAOSzGVqU
はぁ。自然と溜め息が出てしまう。
穂香さんが部屋からさって十数分、ようやく落ち着きを取り戻し始めた。

あの変化はなんだったのか。正直、考えても全くわからない。
切羽詰まったような雰囲気。鋭い物言い。穂香さんとは真逆だ。

だけど、なぜか懐かしい感覚。この空間に来てから、始めての感覚。そこに猛烈な引っ掛かりを覚える。

95: ◆KCXDu/KctI:2012/3/8(木) 19:05:45 ID:/YYDBeJ2g.
『そう、涼は死んでない。あなたは、あの少女を信じなさい。いいわね?』

まるで全てを知ってるかのような語り口。この言葉をどこまで信じていいのか。
いつもの俺なら、得体の知れない者からの言葉、一番疑うべきだと考えるだろう。

だけど、なぜか、この言葉を信じてみよう、そんな気持ちになっていた。

「一か八かの賭けだな」

そう呟き、少女のいる場所に向かった。
96: ◆KCXDu/KctI:2012/3/11(日) 21:48:25 ID:6xJ3UYyEi6
「あら、意外と早かったわね」

階段下ですでに待っていた猫耳少女に、今度は前から声をかけられる。

「まあちょっと、覚悟を決めたというかね」

さっきの事は話したってどうしようもないだろう。頭がおかしいと思われるのがオチだ。

「ふーん、まっ、いいわ。じゃあ、早速行きましょ」


97: ◆KCXDu/KctI:2012/3/11(日) 21:48:43 ID:6xJ3UYyEi6
マイペースというかなんというか、左の通路へ先々歩き出していく少女。
そして、後を追おうとして気付く。しっぽが生えていることに。しかも動いている。

「ね、ねえ……」

横に並びかけて声をかける。

「なに?」

そんな俺を一瞥すると、少しペースを落とし、返事をしてくれた。

98: ◆KCXDu/KctI:2012/3/11(日) 21:49:03 ID:lSG/jC.gCk
「あのさ……、その耳とかしっぽって……なに?」

「はあ?耳としっぽは耳としっぽでしょ?」

こいつ何言ってるんだ……、というような視線を向けられる。
確かに俺の聞き方も悪かったけど、そんな態度をとらないでもいいでしょう。
突っかかりたい気持ちを抑え、質問しなおす。

「あー、それ、アクセサリー?……だよね?」

動いている時点で、アクセサリーだという可能性は低い。が、本物だと彼女はただの人ではないことになる。

彼女は、少し悩むような態度をとった後、口を開いた。

「あなたが内心予想しているように、本物よ。そう、私は普通の人じゃない。自分でもなんなのかはよく解らないけどね」


99: ◆KCXDu/KctI:2012/3/14(水) 20:56:38 ID:KpeuxC5yu6
彼女は、ただの人ではない。その事実から、この空間の特異性を改めて感じる。


「正直……ね」

「えっ?」

今までとは違い、戸惑っているような、なにか躊躇しているような、そんな雰囲気で再び話を切り出してきた彼女に、つい間抜けな返答をしてしまう。

「正直、私、自分の存在が分からないの」

「えっ…………えっ!?」

100: ◆KCXDu/KctI:2012/3/14(水) 20:57:05 ID:nSWzlzpTug
衝撃のカミングアウト。脳が対応しきれていない。

「はっ?いやいや、何言ってるの?」

「そのまんまよ。私は自分の存在が分からない。それ以上でも以下でもないわ」

「いや、あのー、ね?もうちょっと分かりやすく説明してくれないかな?分からないって、なんで?」

これは聞いていいことなのか、それは分からない。けど、何かの手がかりになるかもしれない。

「ほんと、質問の多い男ね」

「あっ、ごめん……」

「まあいいわ。…………私、過去の記憶がないの。気が付いたら、この仕事をしなきゃいけない!って義務感が頭の中にあった」

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