目が覚めたら、俺は見覚えの無い部屋にいた。
「いやほんと、ここどこなの?」
上半身をベッドから起こし、もう一度呟く。
「それにしても、広い部屋だなおい」
漫画やアニメに出てくるような、洋風なお屋敷そのまんまという感じだろうか。
非常に広い。ビックリするほど広い。
241: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/9/8(土) 01:30:20 ID:f3PXl9nikM
「大したことじゃないさ。ただ空間内での僕達、つまり人工知能の事だが、それについての話を聞くだけさ」
「話すだけでいいんですか?」
「君が雑用やらなんやらしたいのであれば、やってくれて構わないが」
「嫌です」
「冗談だ、帰ろうとするんじゃない」
来栖さんの言葉を聞いて帰ろうとしたが、非常に残念な事に襟を捕まれて止められてしまった。
というか、真顔で言われたら冗談に聞こえないっちゅうの。
「ま、まあとにかく涼くんは詳しく話してくれたらいいですから、ね?」
「……穂香さんがそう言うなら」
「それは安心しました。良かったです〜」
あぁ、相変わらず笑顔が素敵な人だ。穂香さんに悪い印象を持たれないように真面目に話すかな。
242: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/9/8(土) 01:30:40 ID:f3PXl9nikM
───────────
「とまあ、こんな感じですかねー」
人口知能の事を中心に、電脳空間内での出来事を話始めてから約一時間。やっとこさ終わったという感じだ。
なんせ、来栖さんがいちいち突っ込んで聞いてくるから話が進まない。仕事だから色々聞いてくるのはまあ仕方ないとはいえ、人に聞く態度じゃない。
ちなみに、穂香さんは急用が出来たとかで途中で部屋から出ていってしまった。だから、今は来栖さんと2人という非常に息苦しい状態なのだ。
当の来栖さんは、さっきからずっと何かを紙に書いていて話終えたのに反応がない。
「あのー、もう帰っていいんですか?」
声をかけてみる、が、やはり反応がない。
「帰りますよー、いいですねー?反応がないのは了承したってことにしますからねー?」
243: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/9/8(土) 01:30:59 ID:f3PXl9nikM
どうせまた反応はないだろう、そう思って椅子から立ち上がろうとしたら、来栖さんが顔を上げた。
「ん?ああ、帰るのか?」
「はい、さっきから言ってましたが」
「すまない、集中してて全く聞こえてなかったよ」
「そうなんですか」
嘘くせぇ!
とはさすがに口には出さないけど。
「今日は協力ありがとう。それではまた会おう」
「それじゃあ俺はこれで」
……来栖さんが何か不穏なことを言った気がしたが、気にしない事にしとこう。
244: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/9/18(火) 00:19:50 ID:zKgklVefyE
───────────
「今からどうすっかなー」
時間は11時30分。昼飯にするには少し時間が早い。
素直に家に帰ったらいい話ではあるが、せっかく普段来れない大学に来たんだ、学食で食って帰りたい。
「下見代わりに大学内でもぶらつくか」
ここは一応志望大学だ。勉強へのモチベーションを上げるためにも見ていて損はないだろう。
「おっ、あそこに地図あるじゃん」
地図を発見した俺は、早速面白そうな場所を探す。
ふむふむ、あそこに見えてるのが有名な山田講堂なのか。で、この三五郎沼ってなんだ?ちょっと気になるな。
「よし、三五郎沼を見に行ってみるか!」
245: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/9/18(火) 00:21:13 ID:zKgklVefyE
───────────
…………おかしい、三五郎沼が見つからない。地図の場所から考えたらもう着いていてもおかしくないはずなんだけど…………まさか迷っちまった?
いやいや、この年になって道に迷うわけない。何を考えているんだ涼!自信を持て!やれば出来る子じゃないか!
………………………
…………………うん、誰かに聞こう。
とはいっても、道を聞くってなんか恥ずかしい。聞きやすそうな雰囲気の人がいたらいいんだけど、そんな人が都合良くいるわけ─────
246: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/9/18(火) 00:21:31 ID:zKgklVefyE
「ねえ、あなた」
背後から、聞き覚えのある少女の声が聞こえてきた。
声が聞こえた方へ振り向く。
そこには、決して忘れることのない、あの小柄な少女が立っていた。
247: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/9/18(火) 00:22:18 ID:zKgklVefyE
「どうしたの?まるでイカがタコ踊りしてる姿を見たってような顔して」
何かわけの分からない例えが聞こえた気がしたが、頭に入ってこない。
「ね、ね、猫…………」
「猫?イカより猫の方が良かったのかしら?」
真面目な顔でそんな事を言う少女。そう、あの───
「猫耳少女!!」
なのであった。
248: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/9/18(火) 00:22:35 ID:zKgklVefyE
「へぇ、あなたが実験室に拉致られた人だったのね〜」
衝撃の再会?から30分、俺と猫耳少女こと香村由奈は学食にいる。
“香村”、そう、穂香さんの妹である!
言われてみると確かに顔立ちなんかは似ている、が、性格の違いもあって言われないと絶対気付かない。
「それにしても、まさか初対面の相手に性癖を暴露してくる変態の人だったとはね」
「だからぁ、違うんだって!ちゃんと話したでしょ!?」
「そうだっけ?」
「君は30分前のことすら記憶にないのか!!」
「どうどう、ちょっと落ち着きなさいって。見られてるわよ?」
「くっ……」
目の前に座っている飄々とした態度の少女に遊ばれながら、俺は30分前の出会いを思い出す。
249: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/9/18(火) 00:22:54 ID:zKgklVefyE
─────────
───────
─────
「猫耳少女!!」
小柄な体躯に、肩まで伸びた綺麗な黒い髪。気が強そうな表情につり目が印象的な美少女、そう、電脳空間内で出会った猫耳少女───ってあれ?猫耳が付いてない。
「はい?いきなりなに?私は猫耳なんか付けてないわよ?」
「あっ、いや、なんでもないです。気にしないでください」
しまった、電脳空間内で会ってるからつい、知り合い感覚になってた。今目の前にいる少女はたぶん穂香さん達と同じでモデルになった人だろう。年下に見えるけど、もしかしてこの大学の人なんだろうか。
「気にしないでと言われたら気になるのが人間でしょ?是非とも猫耳少女という発言に関して詳しく聞かせて欲しいわ」
「ドSですね……」
「こう見えて、夜にはドMになったりするのよ?経験ないから予想だけど」
「適当に話すのはやめてください」
250: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/9/18(火) 00:23:11 ID:zKgklVefyE
なんなんだろう、この人。猫耳少女はあんなに扱いやすかったというのに。あれか?この人の双子の姉か妹がモデルになってるとかか?
うん、そっちの方がしっくりくる、間違いない。
「というか、なにか俺に用ですか?」
よく考えたら、この人に声かけられたんじゃん。
はっ、まさか!逆ナ───
「逆ナンではないと先に言っておくわね」
「……………………」
「私が逆ナンしそうなタイプに見える?」
「見えません」
うん、よく考えたら逆ナンしようとしてる人が、こんなわけの分からないこと言うわけないか。逆ナンされたことないからイメージだけど。
251: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/9/23(日) 00:50:30 ID:ANCw7VVvd.
「じゃあ何故?」
「真面目に答えるなら、あなたから迷子オーラが出てたからかしらね」
迷子オーラってどんなんだよ……
確かに迷ってはいたが、そんなオーラは出てないはずだ、たぶん。
「それで、道を案内しようとしてくれたんですか?」
「ええ、有料でね」
「お断りします」
「冗談よ、待ちなさい」
服の袖を思いっきり掴まれてしまった。これが違うシチュなら萌えるんだけどなぁ、残念だ。
「それで、どこに行きたいの?三五郎沼でしょ?」
「そうです。よく分かりましたね」
「だって、あなたが『よし、三五郎沼を見に行ってみるか!』って所から見てたもの」
252: 浪人生なマキシ ◆KCXDu/KctI:2012/9/23(日) 00:51:22 ID:ANCw7VVvd.
えっ、それって道に迷う前なんですけど。ずっと見てたってことだよな。まさかストーカーさん!?
「……なんでいきなり距離をあけるのかしら?」
「と、特に意味はありませんよ!?きょ、今日はいい天気ダナー」
「それで誤魔化せるのは二次元の鈍感主人公位じゃないかしら」
分かってたよ!ちくしょう!俺だってちょっと恥ずかしいんだよ!だからそんな冷たい目で見るな!
「さ、三五郎沼に見に行きたいけど、一人で見ると受験に落ちるっていうジンクスが気になって、誰か他に見に行く人を探してた訳じゃないんだからね!」
「なんでいきなりツンデレ風!?えっ、というか受験生?高3?」
「あなた、受験生が現役ばかりだと思わない方がいいわよ」
「あっ……すいません」
しまった、自分が現役だからって、受験生=現役と結びつけるのはよくなかったな……反省。
「まあ現役だけどね」
「なんだよ!!俺の反省を返せ!!」
「ちょっとしたお茶目よ。それに、相手が浪人の可能性があるのは事実よ?」
「…………すいません」
253: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/9/23(日) 00:51:56 ID:ANCw7VVvd.
「分かったなら、ほら、早く三五郎沼見に行きましょうよ猫耳萌え少年」
「そうですね……ってスルー出来るか!誰が猫耳萌え少年だ!」
「あなた」
「そういう事を言ってるんじゃない!あと指差すな!」
もう関わったのが間違いだった。声かけられた時に無視すりゃよかった……
「ごめんなさい、今の聞いてなかったわ」
「もういいよ……さっさと三五郎沼見て解放してくれ……」
254: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/9/29(土) 22:07:20 ID:QmasufvJ1.
──────────
────────
──────
はぁ……おかしいなぁ。三五郎沼を見たら逃げるつもりだったんだけどなぁ。なんで俺は一緒に飯食ってんだろうなぁ……
「人の、しかもこんな美少女の顔を見てため息をつくなんて失礼な男ね」
不思議だなぁ……電脳空間で出会った猫耳少女こと由奈ちゃんは性格も可愛かったのになぁ……どうして現実だとこんなに傍若無人なんだろうなぁ……
「ちょっとー、無視なの?放置プレイ?放置プレイなのね!?そんなの興奮しちゃうじゃない!」
…………もうやだ、なんなのこの娘。
でも、ここで相手にしないと余計に面倒くさくなるのは容易に想像できる。仕方ないから相手するか……
「えーと、で?君はなんで電脳空間計画について知ってるの?」
とりあえず、真面目な話を振ってみる。まだマトモな答えが返ってくる可能性は高いだろう。高いと信じたい。信じさせてくれ。
255: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/9/29(土) 22:08:26 ID:QmasufvJ1.
「実は私、電脳空間から生み出された妖精なの」
「いや、そういうのはいいから」
「私は自分が作り出された者だと知ってショックを受けたわ。それで自暴自棄になった私は、裏世界に身を投じたの」
「うん、俺の事完全に無視だね」
「でも、そこで私を正しい道に戻してくれたのがお姉ちゃんなの」
「よかったねー」
もはや何がしたいのかすら分からない。どうして奴はこんな話でドヤ顔なのか。面白いと思っているんだろうか。
「だけど、そんな私に再び悲劇が訪れた」
「まだ続きがあるんですか、へーすごいすごい」
「至上最悪のナンパ男、浅井涼に出会ってしまったのよ」
「おい待て」
256: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/9/29(土) 22:08:47 ID:QmasufvJ1.
「彼は私と遊ぶだけ遊んだら、すぐに他の女の所に行ってしまったわ。私はそれがショックでショックで…………シクシク」
「いや、嘘泣きとかいいから──って、マジで泣いてやがる!」
目の前少女はホントに涙を流し始めた。
周囲からの「あーあ、泣かせた」って視線が痛い。俺なにも悪くないのに。
「このっ……最低男!!」
「おまえが最低女だ!!」
……この状況、どーすんだよ。関わったらいけないタイプの人だったよホント。
あー、また何か語り始めた。もう知らん。好きにしてくれ。
そして俺は思考を放棄した。
257: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/10/14(日) 15:51:44 ID:Gw.rmFALzE
──────────
現在俺は、家にて晩飯の準備をしている。今日のメニューは麻婆豆腐。手軽なのに美味しいから、中華は魅力的だ。
なぜ俺が晩飯を作っているかというと、姉貴との二人暮らし故、姉貴の帰りが遅い時は俺が作らざるをえないのだ。
二人暮らしなのは、別にラブコメにありがちな両親が共に仕事で海外に行っているとかではない。
うちの実家は塾もないような田舎にあるので、対して受験勉強ができない。なので、都会で一人暮らしをしていた姉貴の所に、高校に上がるタイミングで住まわせてもらっているのだ。
258: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/10/14(日) 15:52:10 ID:Gw.rmFALzE
「それにしても、今日は厄日だったなー」
今日は本当に大変だった。由奈さん(こう呼べと言われた)と出会ってしまったのが、どうやら運の尽きだったようだ。
結局一日中絡まれ続け、最終的に携帯の番号やらメアドを交換する羽目になってしまった。
可愛い女の子と番号やメアドを交換するなんて滅多にない経験だし、普通なら俺だってテンションが上がる。
でも、由奈さんは例外だ。今日一日話して、関わってはいけないタイプの人間なんだと確信したのだ。いわゆる、周りを振り回すタイプのヒロインってやつだ。
259: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/10/14(日) 15:52:28 ID:Gw.rmFALzE
たとえ美少女だとしても、俺は定番である「ヒロインに振り回されつつも最終的には楽しんでしまう主人公」みたいな立ち位置にはいたくないのだ。
こーいう考えがすでにフラグっぽい気がしないでもないが、それでもこの考えは変わらない。
俺は普通の女の子と普通の関係がいいのだ。ほとんど主従関係と変わらないようなのは断じて望んでいないのだ。
260: マキシ ◆KCXDu/KctI:2012/10/14(日) 15:52:48 ID:Gw.rmFALzE
とは言ったところで、メールがすでに届いてるわけで。
「ったく、なんだよ」
俺はコンロの火を消し、机の上で光っている携帯を手に取る。画面にはしっかりと「香村由奈」という文字が表示されている。うん、見たくない。
見たくないが、無視したら何か悪いことがおきそうな気がして仕方ないので確認する。
─────────────
From 香村由奈
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Subject 初メール
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END
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