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チーム:ハリュー【出会い】
[8] -25 -50 

1:🎏 名無しですが何か?:2012/3/4(日) 10:56:44 ID:1lvOPQUkic
お題【出会い】

下記の順番でお願いします。

◆WfagbE5V86
ゆこ ◆Ryuko..Wy.
繭 ◆TFyL7CT/Mk
龍 ◆RYU....FU.
すに ◆cjb8xYwtrY

>>1-10 >>11-20 >>21-30 >>31-40 >>41-50


23:🎏 ゆこ ◆Ryuko..Wy.:2012/3/9(金) 23:37:33 ID:1lvOPQUkic
ベッドに横になってちぎられたメモを眺める。
喫茶店からの帰り道にコンビニで弁当を買って自宅に戻った。
気がつけば夕方で、昼飯を食べそびれていたのだが、精神的なものなのか疲れからくるものなのか食欲はまったくなかった。

090から始まる11桁の数字の羅列を眺めながら、それでも意識は全く別のところにあった。
(いろいろあった1日だったな。。。)

昨夜の夢から始まった長い1日を思い返す。
(彼女は...まだなにか隠している)
それが何かはさっぱり見当がつかないが、第六感というやつだろうか、妙な胸騒ぎがする。

赤い糸が見える仲間に出会って、この一種の能力についての考えを共有した。彼女とのやりとりを思い返してみても、自分の悩みの原点は解決されていなかった。
むしろ闇の奥深くへ入り込んでしまったような、、もう昨日までの自分には戻れない、知らない街に置き去りにされた捨て犬みたいな感覚。


なぜ自分の糸が見えないのか。
...相手に出会うことなく死を迎えるから。または能力者だから。

なぜ糸がない人間がいるのか。
...相手に出会うことなく死を迎えるから。言わないだけで実は能力者だから?いやそれは確率的にないだろう。
...相手が、既に亡くなっているから、、か。だが。

死んだら糸は消滅するのか。
...彼女は消滅しないと言った。それは肉体が消滅しても?肉体がなければ能力者の俺にだって糸を確認する術はない。
そうか、彼女の話に納得しきれなかったのはココだ。彼女の祖父が荼毘に伏されたあとまでは聞かされていない。
彼女の祖母の糸はその後どうなったのだろう?


そして......


そう、もうひとつ。彼女はまだ逃げている。現実から。

赤い糸がないなら作ればいい。そう言った彼女の表情を思い出す。彼を愛していると言った彼女の瞳は何を見ていた?
数年前から連絡がとれていない彼を、なぜ探さない?

だめだ。わからないことばかりだ。彼女から全てを聞きたい。彼女の抱える苦しみを知りたい。
知ってどうする?自分に何ができる?


ただひとつだけ言えることがある。俺は今日、彼女に救われた。糸がないなら作ればいい。そんな簡単な一言に、俺は一筋の光を見たんだ。

彼女の力になりたいと思うのに、それだけの理由があれば十分じゃないか?


左手で目の前に掲げていたメモの11桁の数字が、やっと視界に入った。これが電話番号だと、やっと本当の意味で認識できた。


俺「まだ迷惑な時間とは言わない。。よなw」


24:🎏 繭 ◆TFyL7CT/Mk:2012/3/10(土) 15:11:09 ID:RlHSxMP/3U

恐らく彼女も起きているだろう、子供ではないのだし……そんな考えの元、貰った番号と違わぬように身長に携帯に打ち込む。
しかし、会っているのに電話は何故か緊張してしまう。とりあえず落ち着こうと深呼吸をして携帯を見つめる。

「…よし」

通話ボタンを押し、耳に当てれば自然と機械的な接続音が響いた。…暫くしても、接続音が続いている。おかしいな、とは思いながらも待っていると、短い音と共に違う音が耳に入ってきた。

「─…ピーッという発信音のあとに、お名前と用件を──」

「留守電?」

一度電話を切り、ディスプレイに表示される時間を見る。案外早寝なのだろうか、と悩んでいたがすぐ携帯に着信がきた。

「…もしもし?」

「あ、良かった…繋がらないから寝ちゃったのかと」

「…何だ、貴方だったんですか。サイレントにしてたから気づかなかったんですよ」

そうだったのか、と安堵の溜め息を漏らす。彼女に眠くないかと訊ねたが馬鹿にしているのか貴様、と一蹴されたのでそれ以上は触れないことにする。

「で、どうかされたんですか?」

「あ…うん、何と言うかその……ええと」

「…歯切れが悪い。ハッキリ言って下さい」

相談に乗りたい相手に促されるとは情けないが、こんな話をズバズバというような奴はデリカシーに欠けているような気がするわけで…。
でも彼女のイライラを溜めるわけにもいかない。いや、イライラはしてないのかも知れないが待たせるのは悪い。それは違いない。

「……何か、力になれたらって」

「? ありがとう、今は特に困ってませ」

「や、そっちじゃなくて! 君がまだ話すに値しないと思っていたら別だけど…」

俺の言葉で沈黙が訪れてしまう。何か地雷を踏んだのか、まずいことを言ってしまったのか、また馬鹿だとか言われるのか。何にしても不安を煽られる。

「…貴方もなかなか面倒くさい人間ですね、人のこと言えたものでもないですが」

「嫌だったら」

「──私がまだ好きな別れた彼。私と糸が繋がってなかった…ってお話しましたね」

「あ、うん…聞いたよ」

「もし私が、彼と糸が繋がっている女性が二人で幸せそうに歩いてるとこを見てしまったとしたら……どう思うかなんて分かりますよね」


25:🎏 龍 ◆RYU....FU.:2012/3/10(土) 16:03:00 ID:1lvOPQUkic



喫茶店で叔父さんの事を思い出してから私はイライラしていた。
私の記憶に刻み込まれた恐怖の"あの事"が頭から離れず優しい言葉を言う余裕がなくなっていた。

彼「…あ、ごめっ…でも…」

私「しつこいわね!貴男には言ってなかったけど、祖父が亡くなった後に祖母は違う男と赤い糸が繋がったわ!
  だから貴男もその内赤い糸が繋がる人が出来るわよ!これで満足した?もう私の事は放っておいて!」

感情が高ぶり祖母の糸が違う人と繋がった事を言ってしまった。
でもこれで彼はもう付きまとわないでくれるだろう……。

彼「それはっ!」

私「運命の人が見つかるといいわね。じゃ」と切ろうとした瞬間、

彼「ま、待ってくれ!それはおかしいだろう!?」

彼が何を言っているのかわからず、不意に耳を傾けた。

彼「赤い糸が違う人に変わるなら、貴女は何故好きな人と別れたんだ?
  自分に繋がるまで一緒にいればよかったのではないですか?
  第一、今まで見た中でみんなが繋がっていた。それは会った事さえない遠い人と繋がってる人もいる。
  糸がころころ変わってしまうなんて、それは"運命の糸"じゃなくなるだろう?」

たしかに言われてみると、糸が見えなかったのも彼だけで初めての経験だったし、糸が変わるなんて祖母以外見た事なかった。
好きな人が私以外の女性と繋がって幸せそうに歩いている所を見て思考を止めてしまったのかもしれない。

彼「祖母は現在も生きているのですか?」

私「え、ええ。」

彼「何か……。言葉には表せられないが、何かがある気がする!」

私「……。」

彼「もしよければ二人で様子を見に行きませんか?」

私は戸惑っていた。
祖母に会いに行くという事は、叔父にも会うかもしれない。
彼には"あの事"も秘密にしている。
しかし彼の言っている事に矛盾が感じられなかった。
何故なら自分も糸が変わる事なんて祖母しか見た事なかったからだ。




26:🎏 すに ◆cjb8xYwtrY:2012/3/11(日) 10:09:01 ID:8uVvYmpqnQ
「さぶっ」

俺は彼女との待ち合わせ場所である最寄り駅に来ていた。少し早く来過ぎたな。3月の風は寒がりな俺にはちときつい。それなのに手袋を忘れてしまって、ポケットから手が出せないでいた。マフラーも鼻まで隠して巻いているのにどうにも寒さが身に染みる。耳当てがあるのに鼻当てが無いとはどういうことだ。
どうしようもない疑問を抱きながら暫く待っていると、彼女がキョロキョロと辺りを見回しながらこちらに近付いて来た。

手を挙げて彼女に見つかり易くする。

「もう来てたんですか、早いですね」

早いですね、じゃない。待ち合わせ時間は5分前だぞ!しかしそんなことを言うのもみみっちい男だと思われそうなのでやめた。代わりに極小スマイルで返答した。

「じゃあ行きましょうか。案内お願いしますね」

「言われずともそうします」

…いちいち鼻につく女だ。落ち着けよ俺。いちいち気にしていたらストレスで死んじまう。良いな、気にするな。

「ふぅ」

自分に決意をさせた俺は一度深呼吸をした。深呼吸は良いねえ。深呼吸は便利だよー。さっきムカついてたことなんてどうでも良くなるんだからさあ。凄いよなあ深呼吸って。

なんてどうでもいいことをダラダラと考えていると、乗る電車が到着した。

彼女は黙って乗る。電車に乗り隣同士の席に座ったものの、俺たちの間で会話はない。まあ流石に電車の中じゃあ同乗者全員に話しているようなものだ。ここで話して良い話でもない。

ブーッ…ブーッ…ブーッ…

突然俺の携帯が鳴った。確認してみると、隣にいる彼女からのメールだった。メールアドレスを聞いていなかったので、さっき電車を待っている間に交換したのだ。

件名:今日のこと
本文:電車の中では聞かれてはまずいのでメールにします。

件名:Re:今日のこと
本文:それでしたらチャットとかどうですか?ここの部屋1で待ってます。
http://chat.jp/

送信してすぐ行くと彼女もまもなく来た。人数制限をしているので、外に流出する恐れも無いだろう。

『この方がロスタイムが出にくいですね』
『でしょう。提案して良かったです』
『今日行くところですが、父方の祖母の家です。非常に厄介なことに母方の叔父=昨日電話で少し出た人が何故か一緒に住んでいます。非常に胸糞が悪いです。正直行きたくはありません』

おいおい引き返すなんて言わないでおくれよ。
27:🎏 ゆこ ◆Ryuko..Wy.:2012/3/11(日) 20:28:29 ID:1lvOPQUkic
俺『叔父さん、苦手なんですか?』
彼女『苦手?はっきり言って殺したいくらい憎んでいます。』

俺はなんて言っていいかわからなくて車窓から見える景色に心の安定を求めた。でも夜の車窓は戸惑った自分自身を映すばかりで。。。

俺『なぜ?』

送信ボタンを押してから少し後悔した。踏み込みすぎただろうか?でも、なぜか答えてもらえるような気がした。ネットにはそんな不思議な力があると思う。

彼女『話せば長くなります。祖父はいわゆる成功者でした。一代で財を成して私も何不自由なく育てられた。
彼女『母は詳しくは聞かせてもらえませんでしたが養女だと聞いています。幼少のころは随分苦労したようです。
彼女『養子を迎えたからといって母の実家が裕福だったわけではなく、父と出会って結婚した後は、母方の祖父母は何度も母に金の無心をしたようです。

携帯のキーを一心不乱に押し続ける彼女と、更新ボタンを押す度に綴られる彼女の家庭の事情。俺は口を挟むことはできなかった。

予想以上に複雑な家系を思い浮かべていた。
http://llike-2ch.sakura.ne.jp/ss/images/kakeizu.jpg

彼女『母は、養女だったからなのか、それとも精神的な何かがあるのかわかりませんが、実家に・・・特に私の叔父、母の義理の弟には頭があがらなかった。
彼女『母の実家からの両親への金の無心はほとんどが叔父絡みでした。起業するからとか、事業に失敗したからとか。』

俺『そんなに何度も?お父さんは断らなかった?』
彼女『1回1回が大金ですから、、我が家もかなり逼迫しましたね。そこが理解できないのです。父は母の実家から連絡があるたびに、いくらだ、と。それだけしか。。。』

それぞれの家庭にはそれぞれの事情があって、それぞれ考え方は違うだろう。
だが家計が逼迫するほどの大金をなにも言わず用意するとなると、何かあるはずだ。彼女に伝えていない両親の秘密が。

俺『事故について詳しく聞かせてもらえますか?糸が見えるようになったヒントがあるかもしれない』

「ヒントなんて...」と言いながら、つと顔をあげた彼女は、やはり車窓を一瞥して、深い溜め息をついた。戸惑う自分の表情を見せつけられると、どうしようもなく無力に思えるものだ。

彼女『まぁ、ありきたりな交通事故です。父の運転する車に母と私が乗っていた。旅行帰りでした。突然父が旅に出ようなんて言い出して。
彼女『その帰り道に、横から突然出てきたトラックに追突されて。父も母も即死でした。私はシートベルトのおかげで無事だった。ひしゃげた車体から脱出するのに手間取って。。。』

手袋の上から左手を撫でる彼女。俺はその左手と、手袋の下にあるだろう痛々しい移植の痕を見つめることしかできない。
なんて無力なんだろうか。意識的に窓のほうへ顔を向けることはしなかった。これ以上、自分の不甲斐なさを思い知りたくない。

パタン...と携帯をとじる音がした。

彼女「車から出て、見つけたんです。あの男を。叔父は事故の様子を陰からずっと見ていたんです」

駅のホームに入っていく電車。明るいホームのおかげで窓に自分の表情を見つけることができなかった。それに少なからず安心した。
そしてそれは彼女も同じ気持ちだったかもしれない。先程とは違う、何か意を決したような瞳で立ち上がった。
彼女「つきましたよ」

__________

彼女の祖母の家は、財を成したと言うだけのことはある大きな。。本当に立派な家だった。庶民の生活しか知らない俺には表現する術がないのだけど。
インターホン越しに彼女とおばあさんが挨拶をし、俺たちはその後、客間へ通された。いつもの癖で、飲み物を出してくれたおばあさんの左手を見つめた。


...え。糸はどこに.......?

28:🎏 繭 ◆TFyL7CT/Mk:2012/3/12(月) 13:03:29 ID:P2/yVcR/xs
俺には、見えない彼女のお祖母さんの小指の糸。
リボン結びどころか…誰とも繋がっているようには思えなかった。

どういうことなんだろう。
彼女が言う、祖父以外の男と繋がってしまった小指の糸とは…何なのか。

「遠い所からようこそ、この子が男の子を連れてくるなんて珍しいからビックリしたんですよ」

簡単な挨拶を交わしながらも、穏やかに笑うお祖母さんの様子からは、養女として引き取った娘に金の無心をするような人には見えなかったのだが…。
やはり、叔父絡みという事が大きいのだろうか。
お祖母さん自身が金に汚いのではなく、まだ会ったことのない叔父と言う存在が…何か。

そこまで考えたところで、
彼女に連れられて縁側まで赴く。
縁側、といったものの物凄く広い綺麗な庭と面しており普通の田舎の縁側…と思っていたら、大きく違う印象を持つだろう。

「……叔父さんに、お金が必要だからお母さんに頼んでいたんだよね」

「そうでしょうね、あの……クソ男が」

ギリッと憎々しげに唇をかみしめた彼女の横顔は普段の可憐さを塗り潰すほどに憎悪に彩られている。
何と声を掛ければいいのか分からなかったが、彼女の言っていた事故の時の話を思い出した。

叔父が、事故の一部始終を見ていた。
何故だろう。何故、見ていたのかが引っかかった。

酷い話だが、少し考えれば、事故を図ったのは叔父だ。
そしてそれは、義姉が亡くなった時に入る保険金を奪う目的から…でも、それだけじゃ無いような気がして仕方がなかったんだ。
車から必死に抜け出した彼女、その様子を見ていた…叔父。

「……貴女が、いたから…」

「……え…」

「叔父さんの目的は、お金だけじゃなくて貴女だったんじゃ────」

言い終わる前に、背後の襖が大きく開かれた。
29:🎏 龍 ◆RYU....FU.:2012/3/13(火) 19:35:13 ID:1lvOPQUkic
すみません。
読みにくくなると思ったので本文と違うレスで書かせて下さい。

>>28
の部分で間違い部分をスルーして下さい。
わかりやすいように灰色にして取消線をいれました。

>>26で父方の祖母に会いに行ってる設定で、金の無心などの会話も母方の両親の設定に今までの読んだらなってました!
この文章だと逆になってましたので。

これから本文書きます!
30:🎏 龍 ◆RYU....FU.:2012/3/13(火) 20:02:29 ID:1lvOPQUkic
背後の襖が大きく開かれ、振り返ってみると一人の男性が見下ろしていた。
おそらく叔父だろう。
それは彼女の反応を見て気づいた。
彼女は襖が開いた瞬間にチラリと見たらすぐに視線を戻し挨拶もせずに黙っていた。

俺「あ、おじゃましています。」

叔父らしき人物は俺の挨拶を無視し彼女を数秒見下ろし襖を閉めズカズカとした音と共にどこかへ行ったようだ。

祖母の糸が俺には見えない。
何故、父方の祖母の家に母方の叔父が一緒に住んでいるのか。
叔父の目的が彼女だったのではと思った理由を今言ってみるべきか。
叔父からも出来れば話を聞いてみたいとこだ。

疑問が色々あるが、さてどうするか。
31:🎏 すに ◆cjb8xYwtrY:2012/3/14(水) 10:10:41 ID:MvIrjkqYcM
祖母「2人とも、お茶菓子の用意が出来ましたよ」

彼女のおばあさんは温かい緑茶と芋羊羹を出してくれた。

俺「ありがとうございます。いただきます」

快くサービスを受けながら、俺はどうしたら良いものかと思考を巡らせていた。

彼女の家庭事情は複雑過ぎる。他人の俺で助けになるのだろうか…。

祖母「さて、今日はどうしたの?何か用があって来たんでしょう?」

彼女「ううん、特に用事は無いよ。おばあちゃん元気にしてるかなあって思って。今日は友達も一緒なんだ」

祖母「そう」

彼女とおばあさんがにこやかに会話を進める中、俺はそれを観察する。

一見普通のおばあさん、だよな。凄くお金持ちなところと叔父さんが居る以外全くもって普通だ。

ピーンポーン

突然インターホンが鳴った。おばあさんは僅かにうんざりした表情で立ち上がり、モニター越しに受話器を取る。

祖母「あら、あなたまた来たの?」

?『奥様!何かお変わりありませんか!?』

祖母「昨日も無いって言ったでしょう?大丈夫よ。そんな毎日様子見に来なくても平気。あなたこそ毎日来て大変ね」

?『奥様に万が一のことがあれば旦那様に合わせる顔がありません』

祖母「夫はもう9年も前に亡くなったのよ。いつまでも私の面倒なんて見なくていいの」

俺「ねえ、相手の人って…」

俺は小声で彼女に訊ねた。

彼女「きっと会社で雇っているボディガードね。毎日様子を見に来るみたい。年を取っているから余計に心配なんじゃないかしら」

続けて彼女が喋り出す。

彼女「会社を引き継いだ父の弟である叔父さんも、心配で毎日来させているんじゃないかしら」

そうだよな、財産もまだまだあるみたいだし、そりゃあ心配にもなる。ましてやご老体だ。

ボディガード『しかし御子息もとても心配なさっていて…!』

祖母「なら伝えて頂戴。私は元気だから、心配なんかしてないで仕事頑張りなさいって」

ボディガード『しかし奥様…』
32:🎏 龍 ◆RYU....FU.:2012/3/16(金) 07:08:47 ID:1lvOPQUkic
祖母はボディーガードと話し込んでいる。
いまのうちに叔父となんとか話せないだろうか。
彼女を連れて行くのは気が引けたので、彼女にトイレへ行ってくると告げた。

部屋の気配を探りながら歩いていると、人の気配がしたのでトイレを聞く振りでもしようと襖を開けた。

俺「あ、申し訳ないです。トイレがわからなくなってしまって」

叔父「……」

ジッとこちらを観察するように見た後、顔を背けて無視をされた。
感じが悪い男だ……。

俺「彼女さんの母方の叔父さんですよね?話は聞いてました。友人の俺です。よろしくお願いします。」

叔父「……」

俺「母方の叔父さんなのに父方の祖母と同居しているんですね。何か理由でもあるんですか?」

さすがにこれはまずかったか。
叔父の足が貧乏揺すりの様にカタカタ揺れ苛立っている様に感じた。
さすがに空気に耐えられず、トイレへ向かい作戦を練ることにした。

トイレへ向かおうと後ろを振り返ったが……






ガスッ






後ろを振り返った後すぐに叔父のいた方向から後頭部に鈍い感触と共に……

かすかな音だが脳内では大きく響き渡り俺は気を失った。
33:🎏 すに ◆cjb8xYwtrY:2012/3/16(金) 19:01:22 ID:e87X55SWVs


遅い…遅過ぎる…。

彼がトイレに立ってからもう15分が経つのに、未だ帰ってくる気配がない。広い家だけれど、トイレにそんなに時間は掛からないはず。

「お友達遅いわねぇ」

ボディーガードをうまく追い返した祖母も心配なようだ。

「ちょっと私見て来るね」

私は不安になって彼を探しに立った。


…居ない。

トイレの前まで来たが明かりは点いていない。一体どこに行ったの。

そういえば彼はトイレの場所を聞かないで行った。
そこまで考えてはっとした。
まさか…あいつに会いに行ったの…?

急に不安になった。あいつと彼が二人きりで無事なんて保証は無い。あいつは何をするか分からないもの。早く見つけなきゃ。

少々長い廊下を早足で進みながら、面している部屋を一つ一つ見て行った。

突き当たりの部屋に人の足が見えた。
彼かもしれない…!
急いで入ると案の定彼が倒れていた。

居た…!

側に駆け寄り揺すってみるが、起きない。もう一度揺すってみると苦しそうな顔をして彼は目を覚ました。

「いったっ…」

頭を抑えて起き上がろうとするのですかさず支える。

「一体どうしたんですか!?」

「それが…」

「俺だよ」

優しい声が聞こえて振り返ると、そこにはあいつが居た。

「久しぶりだね姪っ子ちゃん。また美人になったね。それはそうと、ずっと気になってたんだよ。その男はだあれ?」
34:🎏 ゆこ ◆Ryuko..Wy.:2012/3/16(金) 23:07:52 ID:1lvOPQUkic


俺「あんた、なにが目的なんだ?」

後頭部がズキズキと痛む。状況さえ許してくれるなら、とりあえず布団でも敷いてもらって横になりたい。
タンコブだけじゃ済まないだろーなと思いながら患部に手をやると、ぬちゃりとした不愉快な感触。
手を見ると血が付着していた。まぁこの程度なら問題ない。頭部は血がよく出るものだ。

叔父「目的?それは俺が聞きたいね。そうだろう?ここは俺の住まいであって、得体の知れない男が俺の住まいを探り歩いている」
俺「探り歩くなんて・・・」

彼女は一瞬俺に視線をやったが、すぐにまた冷たい目を叔父に向けた。

彼女「『俺の住まい』なんてどの口が言ってるの?ここはアンタの出入りしていい場所じゃない。出てって」

言い終わるやいなや、俺の手を引いて客間のほうへズンズンと歩いて行く彼女。
叔父「あー姪っ子ちゃん、あの話考えといてね。いい返事期待してるよ」
背後から追ってきた叔父の声が、彼女の手に力をこめさせた。ちょっと痛い。いや結構痛い。


_________________

祖母「あらあらあらあら。どうしたのその怪我は」
俺「いや、ちょっと転んでしまってハハハ」

おばあさんに傷口を消毒してもらいながら横目で彼女の様子を伺うが、何を思っているのかは全く読めない。
あの話とはなんだろうか。

おばあさんが薬箱を片付けに部屋を出て行ったとき、言うべきかと逡巡していた言葉を思わず吐き出してしまった。
それはきっと、叔父に殴られたことで俺は「糸が見える仲間」から「彼女の抱える問題の関係者」へとジョブチェンジしたと意識できたからだと思う。
もっと足を踏み入れていいはずだ。彼女の悩みを共有する権利があるはずだ。そう思った。

俺「おばあさん、糸ないんだけど」


彼女「え?」
俺「叔父さんにも、糸なんてなかった」
彼女「なにを言って・・・あの二人は赤い糸で繋がってるじゃない!嘘つかないで」


目に涙を溜めながら真っ直ぐに俺を見据える彼女。彼女が嘘をついていないことがわかる。
でも、俺も嘘はついていない。俺たちの見える糸には違いがあるのかもしれない。

俺「叔父さんの言っていた『あの話』とは?」
彼女「言ったでしょう、叔父は金に汚い男だって。私に、よ... 祖母「あなたは心配しなくていいの」

彼女の言葉を遮るように、いつの間にか部屋に戻って来ていたおばあさんが、少し大きな、そして反論を許さない響きを持った声で制した。


35:🎏 繭 ◆TFyL7CT/Mk:2012/3/17(土) 23:39:07 ID:P2/yVcR/xs



「心配しなくていいから、今日はもうゆっくりなさい。友人さんも、今日はどうぞお泊りになってくださいな」

「あ、いえ俺はお暇させて頂こうかと…」

「そう? でも今から帰ると時間も遅いし、お夕飯も大変でしょう?」

嬉しい申し出ではあるものの、何となく居座ってしまうのは色々とよくないと感じた。
特に、さっきのこともある。
もちろん、お祖母さんにはいえないから察してくれたらしい彼女と一緒にお暇することになった。

俺たちを見送るお祖母さんのまた来てね、という声に柔らかく笑っている彼女をチラリと見た。
本当にあの叔父はなんだったのか、と妙な不安も覚えるが考えても分からない。
見送りに顔を出すこともなく、あの後一切顔を見なかったのでとりあえずは気にしないことにした。


***


帰り道、相変わらず自分には見えない彼女の叔父と祖母を繋いでいるという小指の糸。
彼女と俺に見えてる糸の違いが、一体何なのかが気になっていた。
祖父母を繋いでいたのに、離れて全く関係ない男とつながってしまった糸とは一体…。

しかし、考えてもみれば最初からそんなことは頭になかったわけだ。
お互いの糸が見えるという情報は、あくまでも自分の目に写ってる糸がどうということしか分からないのだから。
きっとこんなふうに直接的に見る機会がなければ、気づかないまま過ごしていたような気もするし。


俺「一つ、確かめてみないか?」

彼女「…何を?」

俺「気になってたから……同じ人の小指を見て、糸があるかないかを確かめるんだ」

彼女はしばらく俺の言葉を頭で考えているらしい。
少しすると、お祖母さんの家で俺たちの見える糸に違いがあるということを思い出したらしく頷いてくれた。


俺「じゃ、えーっと……あっちの人から」

俺が指を差した方向を見た彼女が、俺の指差した人の左手を見つめていた。
36:🎏 すに ◆cjb8xYwtrY:2012/3/19(月) 12:14:03 ID:e87X55SWVs
彼女「あります」
俺「うん俺にも見える」
続けて隣の人を指差す。
彼女「この人もある」
俺「俺も見える」

そうして何人か調べたが、結果は一つ残らず一致した。全員「ある」これは何百人、何千人調査しても結果は同じかもしれないな。ふとある疑問が浮かんだ俺は、それを確かめるべくして必要な道具を買う為に百円ショップに向かった。

彼女「一体何を買うんですか?」
俺「うん、ちょっと知りたいことがあって」

全く答えになっていなかった。俺は目当ての商品を素早く買ってしまうと、その場で開封し始めた。

彼女「紙と…色鉛筆?」
俺「そう見ての通り紙と色鉛筆!」

俺と彼女、同時に使うので2セット用意した。

彼女「描けと…?」
俺「こりゃ話が早い」

俺がおどけて言うと、彼女はまあ良い提案ですねと微笑んで準備をしてくれた。俺がよしじゃあ目の前のレジの人と言うと彼女は無言で描き始めた。俺も倣って描き始める。

俺「…まじか」
彼女「嘘…」

完成した絵を見て二人とも驚いた。同じものを見ていたと思っていたけれど、彼女が見ているものは俺とは大きく異なっていた。

俺「糸が…二つ?赤と…青?」

これでは何人調査しても分からないはずだ。あんな『あるかないか』だけの調査なんかでは。

彼女「あなた…見えないの?あの青い糸が見えないの?」

驚きのあまり敬語が無くなっているよ。そんなツッコミをする余裕すらない程俺も吃驚していた。

俺「青い糸ってなんだよ!?」

冷静でいられなかった。今まで見ていたものが全てだと思っていたのに。それだけじゃないんだと知らされて、まるで高い塀に囲まれた巨大迷路に迷い込んでしまったような不安を覚えた。

彼女「多分…その人の死の原因に最も関わる人と繋がってる」
俺「死の原因…?」
彼女「中には青い糸がない人が居るんです。きっとその人は、寿命をまっとうして死ぬ人」
俺「病気の人は…?」
彼女「医者と繋がっていることが多いです。だから医者の方は指が見えないくらい沢山の糸が絡んで…なんだか見ていられないです」
彼女「私9年前、叔父と祖母は赤い糸で繋がったと思ってました。でも違った。今日見たら青い糸でした」
俺「…ということは」

彼女は頷くように俯いて、押し殺したような、泣きそうな、そんな声で言った。

彼女「あいつにおばあちゃんを殺させない…」
37:🎏 ◆WfagbE5V86:2012/3/19(月) 17:34:43 ID:Q.qnbvRKxQ

と言ってもまだ確定ではない。青い糸が繋がっているという事は叔父に祖母を殺すという意志があり、また殺せる力があると言うこと。そしてもう1つの可能性。

彼女「おばあちゃんを守る…絶対…」

………とてもじゃないが言い出せない。

彼女「捻って…縛って…裂いて…2つ共二度と使い物にならないようにしてやる…いや、いっそのこと引きちぎる…?」

いやいやいや物騒過ぎんだろ!殺人より危ないというか今度は君から青い糸が叔父にのびるよ!それに何故視線が下にあるんだ!

俺「………」

何やら下っ腹周りに彼女の殺気を感じる。具体的にこれ以上どことは言えない。

俺「と、にかく…今日はこの辺でいいですよ」

彼女「…握り潰して……え!?あ、そうですね…でも、念のため駅まで一緒しますよ。ほら、どうせ見えてますし」

店の窓からは確かに駅がみえている。案外近くだったようだ。あとどうでもいいのかよくないのかわからないが彼女は些か発想が物騒だ。口も悪いし。
まあその辺の生い立ちは後々知るとしよう。


店をでて並んで歩きだす。お互いに会話は無い。話すには二人共混乱しているし、正直今の彼女をあんまり刺激したくない。若干ピンチだし。いやいやどことは言わないよ?

そしてなんやかんやで駅の前につく。よくやった、俺。

彼女「今日は色々ありがとうございました
またわかったことあったらメールしますね」

俺「わかりました、まってます。俺もなんかあったらメールしますんで」

挨拶もそうそうに別れる。改札を通り、電車を待つ。
待ちながら俺はさっき行きついてしまった発想について考える。

彼女には青い糸がみえている。それは死に関すること。だけど彼女にはどちらがどちらの死に関しているのかはわからない。

つまり、お祖母さんが叔父を殺す可能性もあるということ。

だけどこれはあり得ないだろう。あの性格、力、諸々考えても無理だな。

彼女には言わないでおこうと結論がでて、電車がくる。

偶然か必然か、この駅は彼女と出会ったあの駅だった。


38:🎏 ゆこ ◆Ryuko..Wy.:2012/3/19(月) 23:38:59 ID:1lvOPQUkic
車掌「当駅にて少々停車します。ご乗車になりましてお待ちください------」

電車に乗り込み、車掌の声を聞き流しながら先程の新事実について思いを巡らす。

彼女は青い糸が見えている。そしてそれは人の死に関係するらしい・・・。
今までずっと俺も彼女も「赤い糸」と言ってきた。
それで会話に支障はなかったし、俺が「赤い糸」と最初に発言したときも、糸が見えることには驚いていたようだが、その糸が赤いことには動揺した様子はなかった。

ということは、彼女は、赤も青も見えているんじゃないだろうか?
世界の人々の幸も不幸も見続ける彼女の世界は、どんなにか辛いものだろうか。

まだ開いたままのドアからホームを眺める。いくつかの路線が乗り入れる大きな駅なだけあって、たくさんの人間がせわしなく通り過ぎて行く。
そういや、人身事故があったのはここだよな。数時間前のことなのに、駅はもういつもと何も変わらない顔で・・・

------彼女と次に会ったのはどこだった?
俺の自宅最寄り駅だ。なんでそんなところにいた?
今朝の人身事故が自殺じゃなく過失あるいは他殺だったとしたら、彼女は青い糸の片割れを追っていたんじゃないか?

まさかな。考え過ぎだ。
だが、元恋人と連絡をとろうとしないことの説明はつく。彼は「青い」糸で誰かと繋がっていたんだろう。だから。。。


車掌「間もなく発車いたします。ご利用のお客様は-------」



ほんとに、いろいろありすぎた1日だったな。。。
でも、素直に帰ればいいのに電車を飛び降りちまった俺の1日はまだ終わらねぇ。。。やべ、俺テラハードボイルド。
降りたところで何をすりゃいいのかわかんねーけどな。とりあえず、ばあさんちに戻るか。戻りながら考えればいい。




結局、最前のイヤな考えが頭から離れない。

おばあさんと叔父さんとが繋がった、死を司る青い糸。どちらがどちらの死を願っているのか。
順当に考えれば叔父がおばあさんを、だろう。
だが叔父は現在おばあさんの家で何不自由ない暮らし。彼女の話を鵜呑みにするならば、おばあさんから金銭の援助も得ていると推察できる。
保険金をかけている可能性は十分にあるが、別に殺す必要はないな。自然死でも問題ないはずだ。

『あなたは心配しなくていいの』
おばあさんの言葉が脳裏に蘇る。叔父さんは彼女に何らかの話を持ちかけていて、おばあさんは孫である彼女を守ろうとする。。。か。

おばあさんと話をしてみるか。。


ようやくおばあさんの家が見えてきたころ、門前の電信柱に人影を認めた。
小柄な、長い髪。

俺「帰ったんじゃないんスか」
39:🎏 繭 ◆TFyL7CT/Mk:2012/3/20(火) 16:18:23 ID:mGQ5RRjDh2

俺が声をかけると、電柱からスッと思った通りの姿が出てきた。

彼女「…ええ、もちろん帰ろうと思いましたよ」

彼女であったことに安堵すべきなのか、何故彼女もここにいるのかと問い詰めるべきなのかは判断しかねる。

彼女「でも、面倒くさい貴方の性格からいうと……糸のことを気にして、戻ってくるんじゃないかって」

当たりだったみたいですね、といつもの様子で近づいてくる彼女に不穏な気配は感じられなかった。
しかし、昼間から引っ掛かっていたことも考えると彼女の意思を汲み取るのは難しい。なにせ彼女からすれば大事な身内だ、不審な叔父はともかく。

未だに嫌な予感は拭えない、彼女には糸が繋がっていないなら彼女が何かすることはないだろう。
……一か八かだが、思い切って彼女に伝えてみようと思った。単なる知り合いから糸が見える仲間と呼んでくれた彼女なら、信じられるから。

「……こんなことを君に言うのも失礼かと思うけど、お祖母さんが叔父さんを殺すかも知れないと思ったんだ」

「……どうしてそんなこと思うんですか? 普通なら、逆でしょう?」

「お祖母さんは、君を叔父さんから守ろうとしてるように感じる」

彼女は黙っていた。視線を逸らすことも無く真剣な瞳で見つめられると、こちらも同じく黙ってしまいそうになるがそれでは進まない。

「もしかすると…君が見た青い糸が繋がった最初は本当に叔父さんの殺意から糸が繋がったのかも知れない。でも…今は君に危険が及ばないようにと考えたお祖母さんが叔父さんを殺そうとしてる」

「だから、確かめに?」

「あぁ……君と叔父さんの間に何があったのかは分からないけど、あの人(叔父さん)は少しおかしかったように思うから」

俺の返事に彼女は軽く俯いてから小さく頭を振る。諦めと悔しさが複雑に混じった、彼女からの返事だった。


「…あの卑劣な叔父のことなら、お祖母ちゃんはちゃんと分かってます」

「……え?」

「お祖母ちゃんがいなかったら、私が今頃あの叔父にどうされていたか分からない」

「それって…」

彼女は顔を上げて頬を伝う涙も気にせずに軽く笑った。どういうことなのか、一気に不安が押し寄せる。


「もう、遅いかも」


40:🎏 龍 ◆RYU....FU.:2012/3/20(火) 18:14:47 ID:1lvOPQUkic
不安と言う感覚が背中から頭に一直線に走る。
毛が逆立つような感覚にザワザワし、叔父がいた部屋まで走った。




そこには血だらけの叔父が倒れていた。

近くに祖母が座り込んで、目は遠くを見ていた。

俺「祖母さん……。こ、これは……。」

祖母「仕方なかったのよ。あの子を、"麻衣"を守る為に……。後悔はしてないわ」

もしや殺…え、彼女は麻衣と言うのか……と思った瞬間ッ!!!
今、なんて!?麻衣?麻衣と言ったのかッ!!!

繋がった、俺の中で彼女と繋がった。
今まで俺しか見えてないと思ってた糸が、初めて見えるという彼女と出会い……。
彼女の母が養子、そして俺と彼女だけ見える事に何故気づかなかったのか。



そうか……彼女は……いや、麻衣は俺の従……。



ドンッ



ん?何かが背中にぶつかった、後ろを振り向くと彼女がいた。

俺「あ、君は、いや、麻衣のお母さんのいた施設って……」

混乱の中、独り言の様に呟いているのか彼女に聞いているのかわからない状態で話しかけたが、
何か背中が熱い。

手を触れて見るとヌルリと気持ち悪い感触が。

赤い……糸の様に…真っ赤な色に染まった手……。

彼女「お、おばあちゃんを守らないと。し、知られちゃいけない。」



俺は倒れ、お風呂の中にいるように温かく感じながら、彼女のガタガタと震え真っ青な顔を見ながら、
次第に凍える様に寒くなり、深い…深い…闇へ意識が落ちていった……。
41:🎏 すに ◆cjb8xYwtrY:2012/3/21(水) 05:24:59 ID:RlHSxMP/3U
ガタンゴトン、ガタンゴトン。
誰も居ない電車の中で、俺と彼女が向かい合って座っている。
窓の外は延々と続く田園風景。いい天気だ。こんな日は日向ぼっこでもしたい気分。今も彼女が座っている方の席から暖かい日差しが差し込んできて、とても気持ちがいい。
そういえばいつも会社に行くときに利用している種類の列車だ。でも行き先を表示するはずの電子版には何も流れてこない。
あれ?壊れているのかな?
車内アナウンスも聞こえてはこないし、一体俺達はどこに向かおうとしているのだろう。

「あなたが悪いのよ…」

突然彼女が話し掛けてきた。

一体なんのことだ?俺が君に何かしたのか?

「家に戻って来たりなんかするから…こうするしかなかったの…」

あれは君のお祖母さんが気になったから話を聞こうと思ってさ。

「私を許して…」

なんで泣いてるんだよ。君が何をしたっていうんだ。俺が君を恨むようなことがあったか?ないだろ?

「お願い私を許して…っ」

泣きじゃくりながら許しを請う彼女。心配ないよ。何があったか知らないけれど、きっと俺は君を許すよ。そうに決まってる。君はやっと見つけた従妹なんだ。

彼女を抱き締めようと立ち上がろうとしたそのとき、もともと逆光で見え辛かった彼女の輪郭がだんだん小さくなっていって、しまいには辺り一面眩しい光に包まれた。俺は目を開けていられなくなってぎゅっと瞼を閉じた。

目を開けると、真っ白な天井だった。

「誠…?」

母さん…?ぼんやりする頭でそう思った。

「兄貴!?」

弟が驚いた声で聞いてくる。大声出すなよ。頭に響くんだよ。

「看護師さん!!息子が目を覚ましました!!早く!!早く来て下さい!!」

母さんうるさいよ。もう少し静かにしてくれよ。

そう言おうとしたけれど、俺の口からは『あ…あ…』という掠れた声しか出て来なかった。
暫くすると白衣を着た中年の男が入ってきて、目にライトを当てたり脈を計ったりしてきた。何か話してと言われたがやはり声が出ない。

「もう大丈夫です。刺されたところが脇腹で不幸中の幸いでしたね。三週間程入院して問題無ければ退院出来ますよ。声が出ないのも一時的なショックでしょう」

「…ありがとうございます!本当にありがとうございます!」

母が首が折れるんじゃないかという勢いで頭を下げた。隣には、同じように頭を下げる父がいた。
42:🎏 ゆこ ◆Ryuko..Wy.:2012/3/21(水) 22:45:26 ID:1lvOPQUkic


あれからどれくらいの時間が経過しただろう。
海の側の別荘で、波音に耳を傾けながら暖炉の火を眺める。もうすぐ春が来る。暖炉の薪は用意してある分だけで足りるだろう。

糸が見える仲間・・・誠と言ったっけ。彼は命に別状はないと聞いた。
お見舞いくらい行きたいけど、どんな顔で会えばいいのだろうか。いやむしろ会ってもらえるのだろうか。


あの日、家の付近を警備していたガードマンに発見され、警察の前に父方の叔父に連絡がいった。
クソ叔父も一命は取り留めてしまった。リハビリしてもいくらか障害は残るだろうとのことだったが。
まぁ平たく言えば叔父さんがすべてお金で解決してくれた。
叔父さんも大規模企業のトップである以上、母・・私の祖母の傷害事件など明るみにするわけにはいかなかったのだろう。
祖母は私が誠を刺した罪すら被り、そして父方の叔父は大事にならないようありとあらゆる手をつくしてくれた。

クソ叔父は少し前から私に養子にくるようにと言っていた。
運命の相手が見える赤い糸、そして死を司る青い糸が見える私を利用して、新たな金儲けをしようとしていたようだった。
書類の上だけとはいえ、あんな男の娘になるのは死ぬほどイヤだった。


だけど、今回の事件で全てが暴露された。

あの事故のとき、車から脱出した私は、両親と叔父とが青い糸で繋がっているのを見た。
青い糸の意味を理解すると同時に、叔父が両親を死に至らしめたことに気づく。幾ばくかの保険金のために。

祖父が亡くなるのと同時に、叔父は数枚の写真をネタにして祖母を強請り始めた。
いや、本当は私の両親のこともその写真で強請っていたらしいのだけど。
その写真というのが、私の母の・・・裸体。

クソッタレは、父との結婚が決まった幸せ絶頂の母を無理矢理・・・。
以降、その写真を元に両親を、そして祖母を強請り続けた。両親も祖母も、会社のために、そして私のためにクソッタレの言うなりになっていた。

今回、クソッタレがあのような状態になっても黙っているのは、叔父さんからの多額の慰謝料と、今までのその強請りの事実があるからだそうだ。

そして私は、、、あのクソッタレの娘だった。両親も祖母も、その事実をひたすら隠すために命を失い、罪を背負った。。。



パキン...ッ

自分で自分を殺めてしまいたい衝動にかられたところで、薪の爆ぜる音に我に返る。

従兄弟、誠は元気だろうか。彼にはたくさんの隠し事をしてしまったし、それ故にこんな薄汚い事件に巻き込んでしまった。
私を助けようと、力になりたいと言ってくれたのに、私は彼を刺してしまった。。。もう、二度と会うことはないだろう。
まさか従兄弟だったなんて。。


ぴんぽーん

フフと自嘲気味に笑みを漏らしたところで、インターホンがなった。
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うpろだ
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