お題【出会い】
下記の順番でお願いします。
◆WfagbE5V86
ゆこ ◆Ryuko..Wy.
繭 ◆TFyL7CT/Mk
龍 ◆RYU....FU.
すに ◆cjb8xYwtrY
>>1-10 >>11-20 >>21-30 >>31-40 >>41-50
3:🎏 ゆこ ◆Ryuko..Wy.:2012/3/4(日) 17:53:07 ID:1lvOPQUkic
占いなども自分のことは占えないと言うものだし、
子供の頃はそんなものかなと思って疑問には思ったものの特段悩むことはなかった。
ただ年齢が長じるにつれ少しずつ悩みの一部になっていった。
特定の女性に好意を寄せても、その女性の薬指から伸びるその赤い糸はどこか自分の知らない場所の誰かと繋がっている。
合コンに誘われても、紹介するよと言われても、自分と繋がらない赤い糸を眺めることは苦痛でしかない。
次第に考えることをやめていった。
社会人になった今、友人の中でも早い奴はちらほら結婚するだなんだと聞く。
中には以前自分がキューピッドをして取り持ったふたりなんかもいる。
彼らはきっと死ぬまで仲良く暮らしていくのだろう。
そしてまた原点回帰する。
なぜ自分の糸は見えないのだろうと。
自分の糸は見えないのか、そもそも糸は存在しないのか。。。
存在しないのなら仕方ない。
でも見えないだけだとしたら、相手を見つけることができたとき、その薬指には糸はないではないだろうか?
4:🎏 繭 ◆TFyL7CT/Mk:2012/3/4(日) 18:23:44 ID:P2/yVcR/xs
自分の左手をじっと見つめながらそこまで考えたものの、簡単に答えは出ない。
分からないことだらけだ、なんて思っては肩を落として溜息混じりに視線をあげた。
いつもと変わらない、人々が行き交う街の中。
そして変わらず見えているのは、小指を繋いでいる赤い糸。
カップルが愛を囁き合いながらも、違う誰かと赤い糸が繋がっている姿は少しばかり滑稽だったりもする。
歩きながらでも、仕事をしながらでも、癖のように他人の小指を見ては赤い糸を確認してしまう。
そんな自分に気づいては苦笑を漏らすのはもう当たり前になっている。
今の時期、もう卒業式も終わった人も結構いるのだろうか?学生らしき男女は昼間でもよく手を繋いでいた。
それを羨ましいということもないが、自分は今は仕事先に向かっている最中、だから頭を切り替えなければならない。
しかし、そんな時だった。
いつもの駅で座ってバスを待っていると、右側にいくつか席を挟んだところに女性が座って本を読んでいた。
それだけなら、特に何だということもないのだが、彼女の左手の小指にも自分と同じように、赤い糸が見えなかったのだ。
それに気づいた時には遅く、彼女は来たばかりのバスに乗り込んでしまい思わず声を掛けようと伸ばした手は行き場をなくした。
自分にとっては初めての、赤い糸が見えない相手だったのに。
5:🎏 龍 ◆RYU....FU.:2012/3/4(日) 18:34:43 ID:1lvOPQUkic
糸が見えなかった女性が気になって最近寝不足だし、他人の糸も見えるため最近目も疲れてきた。
ふぅ。と溜め息をつきコーヒーを一口飲み、俺はふと目薬をさしてみた……。
その名も『サンテfx』
「きたあああああああああああ」
「見える!見えるぞ!俺の赤い糸が見える!」
俺は自分の赤い糸が見えるようになり、その赤い糸を全速力で辿って行った。
そして行き着いた先に見えた人物が後ろを振り向こうとしていた!
やらないか?
/ ̄ ̄ ̄~ ̄\
/ ヽ
/ ッ〜ー〜zッノ〜-ィ|
|| ソ ||
||=== ==||
f Y f旬ヽ /f旬‖
|(|  ̄/ |ミ ̄‖
ヽ_ | |
|| ^ー′ /
ハ|ヽ -==ァ /
/ | \ 二 /
/ /| ヽ \__/|\
いやああああああああああああああああああ
という夢をみたんだ。
自分の糸が見えたのも、全て夢だったようだ。
6:🎏 すに ◆cjb8xYwtrY:2012/3/5(月) 03:15:02 ID:YrMya5fMYo
こんな夢を見るのも久しぶりだ。思春期にはよく見ていた。おそらく欲望の投影だったのだろう。今日久しぶりに見たのは、最近あの女性のことをずっと考えていたからかもしれない。
変な夢を見たせいで、最近あまり寝ていなかったのにも関わらずすっかり眠気が覚めてしまった。時計を見ると5時24分。もう一度床につく時間でもないし、このまま会社へ行く支度をしよう。順調に準備を終えた俺は、早起きして気分が良いので一駅分歩くことにした。
おっ、こんなところにラーメン屋が出来たのか。うまそうだな。今夜にでも行くか。
新しい発見があり、ますます俺のテンションは上がっていった。
バスに乗り換える駅に着いたときだった。
電車を待つたくさんの人が並ぶその列の真ん中に、あの女性の姿が見えた。
驚いた俺は固まって動けなかった。最近俺を悩ませ続けてきた張本人が今、確かに目の前に居るのに。
動けないでいる俺をよそに、並んでいた人々はぞろぞろと電車の中に雪崩れ込んできて、俺はとうとう降りるはずの駅では降りられなかった。
7:🎏 ◆WfagbE5V86:2012/3/5(月) 06:48:05 ID:AUdLdHLZEE
ガタンゴトンと少々混んだ電車の中で俺は考えていた。
(っべーよマジやべーよどれくらいヤバいかって言うとマジヤバい)
テンションがあがっておかしくなってるのか知らないがヤバいしか浮かばなかった。どれくらいヤバいって考えたかって言うとマジヤバい。
思わず鞄を持ち直し少し、ほんの少しだけ息が荒くなる。すると隣の禿げたおっさんが頬を赤らめながら俺を見上げてきた。
そしてぼそっと
「やだ…」
と呟いた。
てめーがやだわ。
8:🎏 ゆこ ◆Ryuko..Wy.:2012/3/5(月) 10:14:52 ID:wi73M/12xo
昨夜の夢もあり、念のため俺は禿げの手元を確認した。念のためだ、念のため。
よかった。ない。。。
ない?糸がないだ…と?
あぁ、俺が確認したのは右手だったようだ。ない毛を撫で付けようと禿げが左手をあげたときに赤いものが確認できた。
やはり俺は疲れているのだろうか?左右を間違えるなんてな。。
大きく長いため息をついたところで、電車は次の停車駅に到着したようだった。
ここで降りて折り返さなければならない。早起きのおかげで時間にはまだ余裕もある。彼女に声をかけなければ。
でもどうやって?なんて言えばいい?
あなたには糸がありませんねって?いや俺もないんですよ、ほらね。いやー奇遇だなーハハハ!って言えばいいのか?
おまわりさんこいつですって言われるのが関の山じゃないか。
ここは彼女の下車駅でもあったようだ。彼女は改札へ続く階段に向かって歩いていく。
小走りで追いかけ、声をかける。引き止めることが先決だ。
俺「あ、あの…」
今まで手元にばかり注目していたが、振り向いた彼女は予想外に可愛らしい人だった。
糸がないことに気をとられ容姿にまで意識が向かなかった俺は、突然のカウンターにテンパることしかできない。
とっさに彼女の左手を掴み、「あ…あn…あああ…」
彼女「おまわりさんこいつです」
9:🎏 繭 ◆TFyL7CT/Mk:2012/3/5(月) 12:46:10 ID:EKSH3Udb8c
予想通りの言葉を言われてしまった。
さすがに予想していたとはいえ、実際に言われると結構グサリと突き刺さる言葉だ。
というか、本気で言われた気がする。
俺「いや、違…そうじゃなくて!」
彼女「おまわりさーん、誰かー。痴漢です痴漢、変態がいますう」
俺「いや違います!話を聞いて下さいお願いしますっ!!」
周りのおばさん達がこちらを見ながらヒソヒソと話しているのが分かった。ちくしょう、だから誤解だ。俺はただ糸の確認をしたかっただけなのに。
胸の内で主張してはみたものの、彼女や周りに届くわけもない。
彼女「…何ですかいきなり、というかあなた誰ですか?」
俺「いや、その……」
考えてみれば、まずは引き留めようと考えたものの…その先は詳しく考えていなかった。
とはいえ、いきなり糸の話をしたら再度おまわりさーんとか叫ばれかねないのだから下手なことも言えない。
どうにかしなければ。
俺「実は貴女に、どうしても聞きたいことがあって…」
彼女「靴の裏みたいな顔して何を言うかと思えば……新手のナンパですか?」
何だか聞いてはいけなかった単語があったような気がして思わず硬直する。まさかの発言だった。
可憐な見た目に反して言葉はかなりアグレッシブで、理解が追い付かなかった俺の頭にクリティカルヒットした。これは酷い。
俺「いや、別にナンパとかでもなくて…」
彼女「とりあえず手を離しやがれってんです」
10:🎏 龍 ◆RYU....FU.:2012/3/5(月) 14:52:09 ID:1lvOPQUkic
男(な、なんて言葉使いの悪い女だ……。)
警察を呼ばれても説明は無理だな。
赤い糸が見えるなんて言ったら異常者扱いされそうだ。
ここは一度引くしかないな。
と、思った矢先。
ホームの方からキャーキャーと叫び声が聞こえてきた。
彼女から逃げたい気持ちもあり、彼女を残し騒ぎの方へ向かった。
騒ぎの中心で人が丸く固まっていた。
気になり人混みをかき分け覗いてみる。
俺「ちょっと、すみません。ほい、すみませんね。」
俺(うわ!飛び降り自殺か!死ん…でる…?)
俺(死体なんて初めて見ちまったよ)
サラリーマンの中年男性が落ちたのか飛び降り自殺なのか
電車に引かれて血だらけで横たわってる光景が目に入った。
しかし、そこで衝撃な事を目にする!
ない!赤い糸が見えない!
赤い糸が見えないのは彼女だけではなかったって事か!
その瞬間、頭に電気が走るような感覚である事が浮かんでしまった。
まさか……。そんなまさか……。
死んだ人や死ぬ人の赤い糸が見えないとしたら!?
実際、生まれてこのかた死体なんて初めて見た。
もし、もし、仮にそうだとしたら……。
はッ!!
か、彼女はどこへ行った!?
11:🎏 すに ◆cjb8xYwtrY:2012/3/6(火) 01:24:48 ID:TcGwlw8SdI
気付いたときにはもう遅く、彼女は人混みの中へと消え去ってしまっていた。俺は彼女から目を離したことを後悔した。
クソッ…!一時の感情で諦めるなんて、なんで俺はいつも逃げてばかりなんだ…!
彼女が出来ないのだって、赤い糸が見えるせいじゃない。本当は、運命の人じゃないからと最初から諦めていた俺のせいだ。
俺は今までの自分を深く後悔した。
暫くして後悔の波が引いたとき、突然激しい吐き気に襲われた。咄嗟に線路に身を乗り出して、ホームにそれをさらけ出してしまうのを防ぐ。
「大丈夫ですか?」
近くに居た若い女性が背中をさすってくれた。違う。君じゃないんだ。俺が捜しているのは君じゃない。
周囲の騒々しさが邪魔をしてか、俺はなかなか回復しなかった。声が出せない。けれどそれでも手で大丈夫と合図をすると、その女性はまだ少し心配そうな顔をして去っていった。
ネットのニュースなどで多少噂は聞いていたが、ここまでとは…。人身事故の現場を直視してしまった俺は、ただただ恐怖におののいていた。横たわっているとはいっても、死体はほとんどバラバラになっていたからだ。線路の隅に落ちていたカバンと、ボロボロになったスーツから咄嗟にサラリーマンと判断したにすぎない。運良く左手は形が残っており、先の考えに至ったのだった。
正直あの女性を捜すどころではない。このまま出社しても仕事も手に着かないだろう。俺は冷たくなった手で会社へと電話を掛けた。
12:🎏 名無しですが何か?:2012/3/6(火) 11:59:23 ID:HTBgGj87.M
数回コールがなった後たまたま上司がいたとの事で上司に繋いでもらった。
上司「もしもし」
俺「あ…俺、です…」
上司「なんだ、君か!どうした?テンション低いぞ?」
俺「すいません…今日休ませてもらいます…」
上司「は!?なんだいきなり」
俺「すいません、埋め合わせは必ずするんで。本当にすいません」
上司「いやだからちょっとま(ブツッ)
勝手にこっちから切ってしまった。会社にいったらこってり絞られるだろう。どうでもいいが保留音がなぜア○パンマンなんだ。
携帯をぱたんと閉じたら駅員に話しかけられ、別室へつれて行かれた。
主に体調について聞かれたので大丈夫を連呼してだしてもらい、家へ帰るホームに行き一本分休み電車に乗った。
見えない赤い糸、口が悪い女性、阿部さん、死体、ラーメン屋、とこの前から色々あったな…と考えていたら疲れてきた。眠い。どうせ終点が最寄りだし、一眠りしよう…と考え気づいたら眠りに入っていた。
13:🎏 ゆこ ◆Ryuko..Wy.:2012/3/6(火) 13:52:47 ID:1lvOPQUkic
気がつくと俺はラーメン屋の前にいた。
(あぁ、さっき見つけたラーメン屋か...ちょっと食って行くか)
昼どきだというのに客はまばらだ。仕方ないか、駅にほど近いとはいえ大きな駅でもない。
それに今日は平日だしな。
カウンター真ん中あたりの席に通され、味噌ラーメンを注文する。
カウンター右端には作業着を着た青年、左端には長めの髪をひとつに結わえた若い女性が座っている。
ラーメンを食べるときにさらっと髪をひとつにする女性の仕草にそそられるのは俺だけだろうか?
そんなどうでもいいことを考えながら麺の湯を切る店員の手元を眺めていた。
この人にも糸がないんだな...
今まで糸があるのが当たり前だと思っていたから、糸がない人がいても脳内で補完していたのかもしれない。
そうだよな、糸がない人だっているに違いないんだ、だって。。。
右隣の男が話しかけてきた。
青年「糸がないんですよ。やはり同性同士では結ばれないものなんですかね」
えっ
返事をする間もなく左隣の女性が口をひらく。
女性「糸がないからってわたしがあなたの運命の相手だとでも思いました?」
えっ
右見て左見てもう一度右を見て、それぞれが最近見た顔だと思い至ったとき、店員がラーメンを運んできた。
店員「死んだら...糸ってなくなっちゃうんですかねぇ?相手に出会うことなく死ぬ人間には糸はないんですかねぇ?」
びっくりして顔をあげると、店員だと思っていたソレはボロボロのスーツをまとった肉の塊となっていた。
唯一左手だけが、ソレが元は人間だったのだと示す。
青年「同性だからって運命ってあってもいいと思わないか」
肉塊「私には、家内いたんですよ。今の家内の手に糸はあると思いますか。。」
女性「ねぇ。私死んじゃうの?だから糸ないの?靴の裏みたいな人と運命って言われるよりいいのかな」
やめてくれ。。俺だってわからないんだ、もう、もう勘弁してくれ。
俺「やめろぉぉぉぉおおおおおおおお」
自分の声に驚いて顔を上げると、そこは電車の中で。
誰もいない車内で目の前に駅員と思われる人物が驚いた顔で俺を見下ろしていた。
駅員「終点、ですよ。。。?」
14:🎏 繭 ◆TFyL7CT/Mk:2012/3/6(火) 17:39:45 ID:P2/yVcR/xs
俺「あ、ああ……すいませんでした。起こして下さってありがとうございます」
駅員「いえ、気を付けてお帰り下さい」
頭を下げて駅員に礼を言うと、柔らかく笑顔で返してくれた。
夢であった、ということだろうか。
いまいち判断がつかず、胸にモヤモヤとしたものが浮かんでいるままだった。
駅を出るまで悶々と不思議な夢の内容に首を傾げていると、スッと長髪の女性が通って行った。
間違いない、彼女だ。奇遇なのか何なのか、良く見かけるような気がする。それよりも、言ってしまう前に今度こそ…!
慌てて走って追いかけ、彼女の左手を自分の左手で掴んだ。
思わず掴んだ左手にはやはり糸がなかった。しかし、彼女の手はしっかりと触れることが出来た。
俺「はぁ…っ、は……よ、良かった…」
死んでない、幽霊とかじゃないんだ。
安堵の溜息を吐き、荒くなった息を整える。
しかし、幽霊でないのなら何故彼女の手には……。
彼女「…何かと思えば、また貴方ですか? 性懲りもなく人の前に現れるなんて…」
俺「ど、どうしても聞きたくて…」
彼女「貴方に聞きたいことがあろうが、私にはないんですよストーカー」
俺「スト……ああ、もう!何でそっち方向に持っていくかな!?」
彼女「普通、それ以外に考えられないじゃないですか?それともドMなんですか?この変態野───ッ!?」
相変わらず油断していたら蹴られそうな視線を浴びつつ、呆れたように口を開いた彼女はまた俺を罵ろうとしたらしいが、ある一点を見つめて彼女が固まってしまった。
一体、どうしたの言うのだろうか。
彼女「……糸が……ない…」
俺「……え?」
彼女は、俺の左手の小指を真っ直ぐに見つめていた。
15:🎏 龍 ◆RYU....FU.:2012/3/6(火) 18:32:01 ID:1lvOPQUkic
俺「え…ま、まさか!他人の赤い糸が見えますかッ!?」
誰にも秘密を言った事はなかったのに、驚きよりも仲間意識に近い嬉しさが込み上げて咄嗟に聞いてしまった。
彼女「え?あ……。え?」
俺「俺も他人の赤い糸が見えるんですよ!でも貴女の糸が見えなくて、どうしても聞きたくて!」
実際、赤い糸が見えるなんて言うつもりはなかったし何を聞こうとしてたのか自分でもわかっていなかった。
衝動的に追いかけて手を掴んでしまったとは言えなかった……。
彼女「そんな…まさか貴男も……。見える人が他にもいたなんて。」
彼女「だったらそう言ってくれればいいじゃないですか」
俺(言えるはずがないだろう。第一最初からストーカー扱いしたくせに……。)
俺「あ、申し訳ないです。まさか貴女も糸が見えるとは想像もしてなかったのですが、話したい事があるんです!」
糸が見えない人を見つけて動揺していたが、ホームでの事故の事。もし、もし仮説が正しかったら……。
彼女に不安を与えるだけかもしれないが、どうしても話さなくてはならない。
俺「色々と話したい事があるんですが、少しだけお時間を頂けないですか?」
彼女「……。……。そうね。私も初めて糸が見える人、そして糸が見えない人と出会ったし少しなら。」
俺「あまり人に聞かれてもあれなので、移動しませんか?」
そう言うと彼女も不安な顔は隠せないが承諾してくれた。
糸が見えなかった経験。ホームでの出来事。仮説。関係ないと思い込みたい夢のこと。
すべて…すべて話さなければ。
そして二人で場所を変えようと歩き始めると……。
腐った肉塊のような匂いが鼻をつき、背後から『フシュー。フシュー。』と聞こえてきた。
夢がよぎる。胸がドキンドキンと痛みを覚えるくらいに鳴り出す。
恐る…恐る…後ろを振り向くと……
そこには何もいない。
しかしまた腐った肉塊の匂いと『フシュ』と音がなる。
俺(はッ!!!こ、これは!!!!!!)
俺がすかしっ屁をした匂いと音だった……。
俺「 」
くせぇ…。
彼女「 」
16:🎏 すに ◆cjb8xYwtrY:2012/3/6(火) 23:39:41 ID:BwUAYK.Plk
最悪だ…。初めから良い出会いではなかったが、これは無い。会ったばかりの女性の前ですかしっ屁をしてしまうとは…。これでは俺が『臭い変態』として彼女の記憶に刻まれてしまう。しかも先程、胃の中身を戻してしまっていたから、余計に今の俺は臭い。
バレていなと信じ、俺は何度も深呼吸をした。
しかし…困った。何から話せば良いのだろう。
そう思っていると彼女から話し掛けられた。
彼女「あなたは、いつから見えるんですか?」
俺「えっ、俺ですか?」
情けない。俺以外に誰に話し掛けると言うんだ。馬鹿じゃないか。
俺「俺は物心ついた頃には既に」
彼女「…そう」
俺「あなたは?」
彼女「私は10年前に事故に遭ってから。初めは幻覚でも見ているのかと思いました」
驚いた。どうやらこれは、先天性と後天性とあるものらしい。
彼女「当時付き合っていた彼が居たんです。けれど彼と私の小指は結ばれていなくて、そのせいで私が勝手にブルーになって、そのまま別れてしまいました」
憂いを帯びる彼女の声は、なんだか色っぽかった。
17:🎏 ◆WfagbE5V86:2012/3/7(水) 00:53:55 ID:i7etF7UDUg
とっても好きだったのだろう。あったばかりの俺にさえ彼女の"愛しい"という感情がひしひしと伝わってくる。
彼女「変ですよね…あんなに好きだったのに糸が繋がってなかっただけで一気にさあっと冷めちゃって。
彼に詳しい理由も言わないまま一方的に別れるって言って別れちゃいました」
大事なもの、もらったのに…と呟きながら彼女は左手の小指を擦りながら苦笑した。
彼女「あは、初対面の人になにいってんだろう…馬鹿みたい、私」
俺は先ほどとは違いシリアスな儚い雰囲気を醸し出している彼女に戸惑いつつも励まそうと声をかけようとした。
なんとなく、なんとなくだけど彼女を悲しませちゃいけない気がしたのだ。
もっと悲しむ事があるようで。
俺「…でも君は!
彼女「しかもこんなすかしっ屁野郎に」
………」
前言撤回。
彼女はただの毒舌女だった。
俺は自分が悪いのに内心んだよちくしょーとキレていたら彼女の擦っている左手の小指の付け根に隙間をあけて存在する二つの線らしきものを見つけた。
線…というか繋ぎ目…?
少し内側にへこんでいる何かと何かを繋ぎ合わせたような…。
ふと、俺は立ち止まってしまった。
さっき彼女はなんて言っていた?彼氏に?大事なものをもらった?彼女には十年前に事故に合い赤い糸がない。そしてあの左手も…。
ドクドクと心臓が早鐘を打つのが聞こえる。
振り返りきょとんとしている彼女に俺は唾を飲み込み、きいた。
俺「あの、その彼氏さん今は?」
彼女「? 数年前から連絡が取れていませんが…」
18:🎏 ゆこ ◆Ryuko..Wy.:2012/3/7(水) 11:14:40 ID:r38l2DxFBw
俺はない頭をフル回転させて仮説に仮説を重ねていった。
それに集中しすぎて、「話が話だからカラオケのような密室のほうが落ち着けるんですけどねー。またオナラされたら困るんで」などという戯れ言も聞こえないことにできたわけだが。
彼女に連れられるままに喫茶店へ行き、コーヒーを頼む。
俺「貴女は…嘘をついていますね?」
彼女「えっ?」
小指の繋ぎ目…なんらかの理由、たとえば件の事故で相手の男性の指を貰ったのかと考えた。
しかし、そもそもそんな偶然があるだろうか?事故で指を損失したとして、健康な指を移植することはありえない。
二人が同時に事故にあい、かつ二人ともが小指を切断していない限り。
それでも、拒否反応があるだろう。適合するなんてどこまで偶然が重なればいいんだ?
彼女「なんのことでしょうか?」
俺「彼と別れた理由ですよ」
ミルクをたっぷり注いだコーヒーをグルグルとスプーンでかき混ぜ続ける彼女。そこに彼女の心境が投影されているのだろうか。
思わず取っ手を持ちカップを支える彼女の左手を見つめてしまう。
彼女「彼と糸が繋がっていなかったのは本当です。でも好きだった…。そんなことで別れるつもりはなかったんです」
コーヒーを混ぜる速度を落としながら顔を上げた彼女は、俺の視線に気づいたようだった。
彼女「あぁ…これですか。この傷は皮膚移植の跡です。事故のとき手袋をしていました。そこに引火して…」
彼女「指輪って金属だからすごい高熱になるんですよね。手ぜんぶ火傷しましたけど、この部分だけは手の施しようがなくて」
確かによくよく見れば手が指先を中心に他の肌の色とは違うような。。注意深く見るか、言われるかするまで気づかない程度のものではあるが。
彼女「放っておいたら壊死してしまうので。でもそんなことより、指輪を切ってしまったのが辛かった」
彼女「彼のお母様の形見だったんです。小柄な方だったので私は小指にしかはまりませんでしたけど。」
彼女はどこか遠くを見つめながら口元を硬く結んだ。言うか言うまいか悩むように。
彼女「あの指輪のサイズを直して、結婚指輪にしようねって……」
やはり、彼女は嘘をついていた。自分にも彼氏にも。優しい嘘を。
きっと母親の形見を失くしてしまったことへの罪悪感と、彼の指に糸がないことへの悲しみとが、彼と自分自身へ嘘をつかせたのだろう。
冷めてしまったなんて。。。
俺「自分を責めてはダメです。事故にあったのも見えるようになったのも、貴女の責任ではないですから」
彼女「優しいんですね。見た目によらず」
俺「。。。」
やっぱり少しくらい自責の念にかられてしまえばいい。でもその目が今までより少し柔らかくなった気がした。
俺「さて、いろいろ話したいことがあるんです」
返事の代わりだろう、彼女はスプーンをソーサーへ置いた。
19:🎏 繭 ◆TFyL7CT/Mk:2012/3/7(水) 16:32:05 ID:PqFQMjIQ5.
俺「…貴女にも、俺の指の糸は見えないんですよね?」
彼女「ええ。どうして糸がないのかと驚いたんですが……多分、貴方も見えるからですね」
俺「…そうかも知れません」
彼女の目を見れず、少し俯いたまま静かに喋る。
俺が妙に落ち着いて…というよりも、暗い雰囲気になってしまっているからか彼女は片眉を上げつつも冷静に応答をしてくれる。
目を伏せて、暫く興味が薄い様子で俺の話を聞いていたようだが、やがて口を開く。
口元にあったカップを下ろして、彼女は俺にしっかりと向き直る。
彼女「貴方は元から糸が見えていたなら、これまで当たり前であったことを…そんなに不安に思うことも無いと思います」
俺「今までずっと悩んでいたから。自分に糸が結ばれていないのを。でも、そんなことは誰かに話しても分かってもらえる話でもない」
苦笑気味にそう言うと、彼女は黙り込んでしまった。
俺と彼女は境遇が違う。辛い過去に重なる様ににおかしなことが起こってしまったようなもの…彼女にとってはそれが当たり前になっているはずだ。
置かれているカップの中を見つめると、自分の顔が確かに映っていた。
俺「実は少し前に、死人の指にも糸がないのを見て、混乱したんです。だから糸がない貴女も、ましてや俺もそうなんじゃないかって…」
彼女「……勝手に人を殺さないで下さい」
素直にすいませんと謝れば、珍しくきょとんとした彼女は別に良いですよ、というシンプルな返事をくれた。
俺「でも、そうじゃなくて…良い偶然が重なったことかなって」
俺は顔をあげて彼女を見つめる。
俺「だからこれは、運命の出会」
彼女「調子に乗るな」
さっきまでソーサーに置かれていただろうスプーンは彼女の手の中にあって、更に俺に向けられている。何だろう、この感じ。物凄く冷や汗が流れる。
彼女「言っておきますが、私にとったらここまでの貴方は変態害虫野郎!それがようやく顔見知りになった程度だったんです、勘違いも甚だしい…」
…いきなり手をつかんだりお巡りさんと呼ばれそうになったり(いや実際に呼んでた、来なかったけど)色々あったが、少し前に出会って今初めてこんなに真面目に話した。彼女のいうことは、もっともだった。
しかし、彼女はスプーンを下ろしてから緩く首を振った。
彼女「…でも。私も貴方も、こうして会話をしたことでお互いのことを少し知りました。ですから、これで赤い糸が見える仲間です」
そう言って俺に向けて初めて柔らかく微笑んでくれた。
20:🎏 龍 ◆RYU....FU.:2012/3/8(木) 07:39:38 ID:1lvOPQUkic
毒舌な彼女だが、初めて見た微笑みにドキッとしてしまった。
動揺を悟られないように隠そうと口元を触ったり周りを見渡したふりをしたりしてしまった。
彼女に見とれてる場合ではない。
さて、どうするか。
不安を煽るわけではないが、万が一仮説が正しければ彼女の身にこれから何かあるかもしれない。
かといって、確証もないし今後どうすればいいかわからない。
考えてる沈黙の空気に耐えきれず、
俺「ごめん、トイレに行ってくるね。」
彼女「いっといれ。」
…。
ふむ。…ふむ。
トイレでようをたしてる間に今後どうするか、彼女になんて言えばいいか考えよう。
そして、トイレに行くと壁に一枚の写真が貼ってあった。
http://llike-2ch.sakura.ne.jp/ss/images/photo.jpg
俺「なんだこれ……。」
21:🎏 すに ◆cjb8xYwtrY:2012/3/9(金) 06:05:33 ID:39sqobllec
イタズラかはたまた店員のお茶目な自己紹介か。どちらだろうが正直どうでも良かった。俺が探しているのは『赤いシャー』ではなく『赤い糸』なのだから。だいたい赤いのはシャーではなくザグだ!けしからん!とかつてガンザムオタクであった俺の魂が叫んだ。
その左下にあった相合い傘紛いのものは特に興味もなかったのでスルーした。残念だが俺はノンケなのだよ。
「おかえりなさい」
彼女は穏やかな微笑みで迎えてくれる。初対面で感じなかった優しい視線がそこにはあった。
「ところで肝心の要件についてまだ伺っていないような気がしますけど」
「それは…」
俺は意を決して喋り始めた。
「あなたはどう思いますか?俺達が、俺達の運命が、誰とも繋がっていないことについて」
彼女はカップに手を添えたまま少し俯いて、それから窓の外を見つめる。何かを思い出しながら聞いているのだろうか。彼女の目は外の景色を見ているようで、何もみてなどいないように見えた。
「何故自分の小指には何もないのかとか、もしかしたら運命の人なんて存在しないんじゃないかとか…それに!!!
『一人死ぬ運命にあるんじゃないか』とか、そんな…ことです」
周りに聞こえない精一杯大きな声で、今まで彼女に言わなくてはと半ば使命感で思っていたことを告げた。
彼女は相変わらず窓の外を見つめていて、その視線の先にある突然降り出してきた雨が俺達の心を余計にぐちゃぐちゃしたものにしてしまうような気がした。
暫く黙っていた彼女がゆっくりと喋りだした。
「私、こんなものが見えるようになりましたけど信じたいんです。好きって気持ちが運命を作っていくんだって。好きな気持ちさえあれば死んだ人とだって繋がっていられるんだって」
「死んだ人…と?」
まさか、先天性の俺でさえ見たことがないものを、見え始めて10年そこらの彼女が見えたというのだろうか。
「見えるようになって一年経った頃、父方の祖父が亡くなりました。そのお葬式で見たんです。祖母と棺の中の祖父が結ばれているのを」
彼女の話はあまりに衝撃だった。確かに俺は恵まれているのか、身内の不幸というものに遭遇したことがない。両親兄弟共に今でもピンピンしているし、両祖父母は俺が生まれる以前に亡くなっていた。今まで出会ってきた人が亡くなることも奇跡的に無かったのだ。そのせいでこの年になっても法事に行ったことがない。
「…なんというか、吃驚仰天」
22:🎏 名無しですが何か?:2012/3/9(金) 09:09:15 ID:dQogQk0cu.
⇔
私「でしょう?」
あの日の事を思いだしながら私は苦笑しつつも彼の目をみた。黒く輝いている瞳からは驚愕の色がみてとれる。薄々思っていたが彼は子供っぽいのかも知れない。両方の意味で。
私「出棺って言うんでしたっけ?それの前に祖母が冷たくなっている祖父の手をとりました」
私「祖父の左手を両手で包む祖母の左手から、確かに赤い糸がのびていました。」
二人の白い手に赤い糸がよく映えていたのを覚えてる。その後も二人の赤い糸は繋がっていた。結局祖父が火葬されて指そのものがなくなるまで繋がっていた。
私「ですから、私は信じたい。たとえ住む世界が違っても、運命の二人はずっと繋がっている、と」
彼「………」
まあ運命なんてコロコロ変わりますがね…なんて小声で付け加える。コーヒーを飲みながら彼をちらっとみる。まだ納得がいかないようだ。仕方がない、とどめだ。
私「それに、赤い糸がないなら作ればいいじゃないすか。私は確かに別れましたが今でもあの人を愛していますよ」
そう。赤い糸も様々な状況に応じて変わるもんだ。ないなら作ればいい。それだけ。
私はメモをちぎった紙に連絡先を書いてお代と共にテーブルにおく。
私「これ、連絡先です。非常識な時間じゃなきゃ多分いつでもでれるんで」
彼「は、……え?」
私「それじゃ」
彼「ちょ…ちょっと待って下さいよ!」
待たない。すたすたと歩きながら私は再び思い出した。これは彼には言ってないが、私が住む世界が違っても繋がってると信じたい理由はもう2つ。
は祖父との糸がきれた祖母は左手を右手で包みながら優しく微笑んでいた時、祖父と繋がっていた糸が小指の付け根のとこで優しくリボン結びになった。祖母は見えていないはずのそれを優しく撫でていた。
それが第一の理由。
第二は、そのリボン結びになった糸がほどけて葬式にきていた女癖、金癖、私生活のみっつがだらしがないと評判の叔父さんと繋がったことだ。
私はぎりっと奥歯を噛み締めた。
なにがなんでも祖母をあの男の犠牲にはしない。
絶対に!
私に恐怖を植え付けたあの男には!!!
⇔
23:🎏 ゆこ ◆Ryuko..Wy.:2012/3/9(金) 23:37:33 ID:1lvOPQUkic
ベッドに横になってちぎられたメモを眺める。
喫茶店からの帰り道にコンビニで弁当を買って自宅に戻った。
気がつけば夕方で、昼飯を食べそびれていたのだが、精神的なものなのか疲れからくるものなのか食欲はまったくなかった。
090から始まる11桁の数字の羅列を眺めながら、それでも意識は全く別のところにあった。
(いろいろあった1日だったな。。。)
昨夜の夢から始まった長い1日を思い返す。
(彼女は...まだなにか隠している)
それが何かはさっぱり見当がつかないが、第六感というやつだろうか、妙な胸騒ぎがする。
赤い糸が見える仲間に出会って、この一種の能力についての考えを共有した。彼女とのやりとりを思い返してみても、自分の悩みの原点は解決されていなかった。
むしろ闇の奥深くへ入り込んでしまったような、、もう昨日までの自分には戻れない、知らない街に置き去りにされた捨て犬みたいな感覚。
なぜ自分の糸が見えないのか。
...相手に出会うことなく死を迎えるから。または能力者だから。
なぜ糸がない人間がいるのか。
...相手に出会うことなく死を迎えるから。言わないだけで実は能力者だから?いやそれは確率的にないだろう。
...相手が、既に亡くなっているから、、か。だが。
死んだら糸は消滅するのか。
...彼女は消滅しないと言った。それは肉体が消滅しても?肉体がなければ能力者の俺にだって糸を確認する術はない。
そうか、彼女の話に納得しきれなかったのはココだ。彼女の祖父が荼毘に伏されたあとまでは聞かされていない。
彼女の祖母の糸はその後どうなったのだろう?
そして......
そう、もうひとつ。彼女はまだ逃げている。現実から。
赤い糸がないなら作ればいい。そう言った彼女の表情を思い出す。彼を愛していると言った彼女の瞳は何を見ていた?
数年前から連絡がとれていない彼を、なぜ探さない?
だめだ。わからないことばかりだ。彼女から全てを聞きたい。彼女の抱える苦しみを知りたい。
知ってどうする?自分に何ができる?
ただひとつだけ言えることがある。俺は今日、彼女に救われた。糸がないなら作ればいい。そんな簡単な一言に、俺は一筋の光を見たんだ。
彼女の力になりたいと思うのに、それだけの理由があれば十分じゃないか?
左手で目の前に掲げていたメモの11桁の数字が、やっと視界に入った。これが電話番号だと、やっと本当の意味で認識できた。
俺「まだ迷惑な時間とは言わない。。よなw」
24:🎏 繭 ◆TFyL7CT/Mk:2012/3/10(土) 15:11:09 ID:RlHSxMP/3U
恐らく彼女も起きているだろう、子供ではないのだし……そんな考えの元、貰った番号と違わぬように身長に携帯に打ち込む。
しかし、会っているのに電話は何故か緊張してしまう。とりあえず落ち着こうと深呼吸をして携帯を見つめる。
「…よし」
通話ボタンを押し、耳に当てれば自然と機械的な接続音が響いた。…暫くしても、接続音が続いている。おかしいな、とは思いながらも待っていると、短い音と共に違う音が耳に入ってきた。
「─…ピーッという発信音のあとに、お名前と用件を──」
「留守電?」
一度電話を切り、ディスプレイに表示される時間を見る。案外早寝なのだろうか、と悩んでいたがすぐ携帯に着信がきた。
「…もしもし?」
「あ、良かった…繋がらないから寝ちゃったのかと」
「…何だ、貴方だったんですか。サイレントにしてたから気づかなかったんですよ」
そうだったのか、と安堵の溜め息を漏らす。彼女に眠くないかと訊ねたが馬鹿にしているのか貴様、と一蹴されたのでそれ以上は触れないことにする。
「で、どうかされたんですか?」
「あ…うん、何と言うかその……ええと」
「…歯切れが悪い。ハッキリ言って下さい」
相談に乗りたい相手に促されるとは情けないが、こんな話をズバズバというような奴はデリカシーに欠けているような気がするわけで…。
でも彼女のイライラを溜めるわけにもいかない。いや、イライラはしてないのかも知れないが待たせるのは悪い。それは違いない。
「……何か、力になれたらって」
「? ありがとう、今は特に困ってませ」
「や、そっちじゃなくて! 君がまだ話すに値しないと思っていたら別だけど…」
俺の言葉で沈黙が訪れてしまう。何か地雷を踏んだのか、まずいことを言ってしまったのか、また馬鹿だとか言われるのか。何にしても不安を煽られる。
「…貴方もなかなか面倒くさい人間ですね、人のこと言えたものでもないですが」
「嫌だったら」
「──私がまだ好きな別れた彼。私と糸が繋がってなかった…ってお話しましたね」
「あ、うん…聞いたよ」
「もし私が、彼と糸が繋がっている女性が二人で幸せそうに歩いてるとこを見てしまったとしたら……どう思うかなんて分かりますよね」
25:🎏 龍 ◆RYU....FU.:2012/3/10(土) 16:03:00 ID:1lvOPQUkic
⇔
喫茶店で叔父さんの事を思い出してから私はイライラしていた。
私の記憶に刻み込まれた恐怖の"あの事"が頭から離れず優しい言葉を言う余裕がなくなっていた。
彼「…あ、ごめっ…でも…」
私「しつこいわね!貴男には言ってなかったけど、祖父が亡くなった後に祖母は違う男と赤い糸が繋がったわ!
だから貴男もその内赤い糸が繋がる人が出来るわよ!これで満足した?もう私の事は放っておいて!」
感情が高ぶり祖母の糸が違う人と繋がった事を言ってしまった。
でもこれで彼はもう付きまとわないでくれるだろう……。
彼「それはっ!」
私「運命の人が見つかるといいわね。じゃ」と切ろうとした瞬間、
彼「ま、待ってくれ!それはおかしいだろう!?」
彼が何を言っているのかわからず、不意に耳を傾けた。
彼「赤い糸が違う人に変わるなら、貴女は何故好きな人と別れたんだ?
自分に繋がるまで一緒にいればよかったのではないですか?
第一、今まで見た中でみんなが繋がっていた。それは会った事さえない遠い人と繋がってる人もいる。
糸がころころ変わってしまうなんて、それは"運命の糸"じゃなくなるだろう?」
たしかに言われてみると、糸が見えなかったのも彼だけで初めての経験だったし、糸が変わるなんて祖母以外見た事なかった。
好きな人が私以外の女性と繋がって幸せそうに歩いている所を見て思考を止めてしまったのかもしれない。
彼「祖母は現在も生きているのですか?」
私「え、ええ。」
彼「何か……。言葉には表せられないが、何かがある気がする!」
私「……。」
彼「もしよければ二人で様子を見に行きませんか?」
私は戸惑っていた。
祖母に会いに行くという事は、叔父にも会うかもしれない。
彼には"あの事"も秘密にしている。
しかし彼の言っている事に矛盾が感じられなかった。
何故なら自分も糸が変わる事なんて祖母しか見た事なかったからだ。
⇔
26:🎏 すに ◆cjb8xYwtrY:2012/3/11(日) 10:09:01 ID:8uVvYmpqnQ
「さぶっ」
俺は彼女との待ち合わせ場所である最寄り駅に来ていた。少し早く来過ぎたな。3月の風は寒がりな俺にはちときつい。それなのに手袋を忘れてしまって、ポケットから手が出せないでいた。マフラーも鼻まで隠して巻いているのにどうにも寒さが身に染みる。耳当てがあるのに鼻当てが無いとはどういうことだ。
どうしようもない疑問を抱きながら暫く待っていると、彼女がキョロキョロと辺りを見回しながらこちらに近付いて来た。
手を挙げて彼女に見つかり易くする。
「もう来てたんですか、早いですね」
早いですね、じゃない。待ち合わせ時間は5分前だぞ!しかしそんなことを言うのもみみっちい男だと思われそうなのでやめた。代わりに極小スマイルで返答した。
「じゃあ行きましょうか。案内お願いしますね」
「言われずともそうします」
…いちいち鼻につく女だ。落ち着けよ俺。いちいち気にしていたらストレスで死んじまう。良いな、気にするな。
「ふぅ」
自分に決意をさせた俺は一度深呼吸をした。深呼吸は良いねえ。深呼吸は便利だよー。さっきムカついてたことなんてどうでも良くなるんだからさあ。凄いよなあ深呼吸って。
なんてどうでもいいことをダラダラと考えていると、乗る電車が到着した。
彼女は黙って乗る。電車に乗り隣同士の席に座ったものの、俺たちの間で会話はない。まあ流石に電車の中じゃあ同乗者全員に話しているようなものだ。ここで話して良い話でもない。
ブーッ…ブーッ…ブーッ…
突然俺の携帯が鳴った。確認してみると、隣にいる彼女からのメールだった。メールアドレスを聞いていなかったので、さっき電車を待っている間に交換したのだ。
件名:今日のこと
本文:電車の中では聞かれてはまずいのでメールにします。
件名:Re:今日のこと
本文:それでしたらチャットとかどうですか?ここの部屋1で待ってます。
http://chat.jp/
送信してすぐ行くと彼女もまもなく来た。人数制限をしているので、外に流出する恐れも無いだろう。
『この方がロスタイムが出にくいですね』
『でしょう。提案して良かったです』
『今日行くところですが、父方の祖母の家です。非常に厄介なことに母方の叔父=昨日電話で少し出た人が何故か一緒に住んでいます。非常に胸糞が悪いです。正直行きたくはありません』
おいおい引き返すなんて言わないでおくれよ。
27:🎏 ゆこ ◆Ryuko..Wy.:2012/3/11(日) 20:28:29 ID:1lvOPQUkic
俺『叔父さん、苦手なんですか?』
彼女『苦手?はっきり言って殺したいくらい憎んでいます。』
俺はなんて言っていいかわからなくて車窓から見える景色に心の安定を求めた。でも夜の車窓は戸惑った自分自身を映すばかりで。。。
俺『なぜ?』
送信ボタンを押してから少し後悔した。踏み込みすぎただろうか?でも、なぜか答えてもらえるような気がした。ネットにはそんな不思議な力があると思う。
彼女『話せば長くなります。祖父はいわゆる成功者でした。一代で財を成して私も何不自由なく育てられた。
彼女『母は詳しくは聞かせてもらえませんでしたが養女だと聞いています。幼少のころは随分苦労したようです。
彼女『養子を迎えたからといって母の実家が裕福だったわけではなく、父と出会って結婚した後は、母方の祖父母は何度も母に金の無心をしたようです。
携帯のキーを一心不乱に押し続ける彼女と、更新ボタンを押す度に綴られる彼女の家庭の事情。俺は口を挟むことはできなかった。
予想以上に複雑な家系を思い浮かべていた。
http://llike-2ch.sakura.ne.jp/ss/images/kakeizu.jpg
彼女『母は、養女だったからなのか、それとも精神的な何かがあるのかわかりませんが、実家に・・・特に私の叔父、母の義理の弟には頭があがらなかった。
彼女『母の実家からの両親への金の無心はほとんどが叔父絡みでした。起業するからとか、事業に失敗したからとか。』
俺『そんなに何度も?お父さんは断らなかった?』
彼女『1回1回が大金ですから、、我が家もかなり逼迫しましたね。そこが理解できないのです。父は母の実家から連絡があるたびに、いくらだ、と。それだけしか。。。』
それぞれの家庭にはそれぞれの事情があって、それぞれ考え方は違うだろう。
だが家計が逼迫するほどの大金をなにも言わず用意するとなると、何かあるはずだ。彼女に伝えていない両親の秘密が。
俺『事故について詳しく聞かせてもらえますか?糸が見えるようになったヒントがあるかもしれない』
「ヒントなんて...」と言いながら、つと顔をあげた彼女は、やはり車窓を一瞥して、深い溜め息をついた。戸惑う自分の表情を見せつけられると、どうしようもなく無力に思えるものだ。
彼女『まぁ、ありきたりな交通事故です。父の運転する車に母と私が乗っていた。旅行帰りでした。突然父が旅に出ようなんて言い出して。
彼女『その帰り道に、横から突然出てきたトラックに追突されて。父も母も即死でした。私はシートベルトのおかげで無事だった。ひしゃげた車体から脱出するのに手間取って。。。』
手袋の上から左手を撫でる彼女。俺はその左手と、手袋の下にあるだろう痛々しい移植の痕を見つめることしかできない。
なんて無力なんだろうか。意識的に窓のほうへ顔を向けることはしなかった。これ以上、自分の不甲斐なさを思い知りたくない。
パタン...と携帯をとじる音がした。
彼女「車から出て、見つけたんです。あの男を。叔父は事故の様子を陰からずっと見ていたんです」
駅のホームに入っていく電車。明るいホームのおかげで窓に自分の表情を見つけることができなかった。それに少なからず安心した。
そしてそれは彼女も同じ気持ちだったかもしれない。先程とは違う、何か意を決したような瞳で立ち上がった。
彼女「つきましたよ」
__________
彼女の祖母の家は、財を成したと言うだけのことはある大きな。。本当に立派な家だった。庶民の生活しか知らない俺には表現する術がないのだけど。
インターホン越しに彼女とおばあさんが挨拶をし、俺たちはその後、客間へ通された。いつもの癖で、飲み物を出してくれたおばあさんの左手を見つめた。
...え。糸はどこに.......?
28:🎏 繭 ◆TFyL7CT/Mk:2012/3/12(月) 13:03:29 ID:P2/yVcR/xs
俺には、見えない彼女のお祖母さんの小指の糸。
リボン結びどころか…誰とも繋がっているようには思えなかった。
どういうことなんだろう。
彼女が言う、祖父以外の男と繋がってしまった小指の糸とは…何なのか。
「遠い所からようこそ、この子が男の子を連れてくるなんて珍しいからビックリしたんですよ」
やはり、叔父絡みという事が大きいのだろうか。
お祖母さん自身が金に汚いのではなく、まだ会ったことのない叔父と言う存在が…何か。
そこまで考えたところで、
縁側、といったものの物凄く広い綺麗な庭と面しており普通の田舎の縁側…と思っていたら、大きく違う印象を持つだろう。
「……叔父さんに、お金が必要だからお母さんに頼んでいたんだよね」
「そうでしょうね、あの……クソ男が」
ギリッと憎々しげに唇をかみしめた彼女の横顔は普段の可憐さを塗り潰すほどに憎悪に彩られている。
何と声を掛ければいいのか分からなかったが、彼女の言っていた事故の時の話を思い出した。
叔父が、事故の一部始終を見ていた。
何故だろう。何故、見ていたのかが引っかかった。
酷い話だが、少し考えれば、事故を図ったのは叔父だ。
そしてそれは、義姉が亡くなった時に入る保険金を奪う目的から…でも、それだけじゃ無いような気がして仕方がなかったんだ。
車から必死に抜け出した彼女、その様子を見ていた…叔父。
「……貴女が、いたから…」
「……え…」
「叔父さんの目的は、お金だけじゃなくて貴女だったんじゃ────」
言い終わる前に、背後の襖が大きく開かれた。
29:🎏 龍 ◆RYU....FU.:2012/3/13(火) 19:35:13 ID:1lvOPQUkic
すみません。
読みにくくなると思ったので本文と違うレスで書かせて下さい。
>>28
の部分で間違い部分をスルーして下さい。
わかりやすいように灰色にして取消線をいれました。
>>26で父方の祖母に会いに行ってる設定で、金の無心などの会話も母方の両親の設定に今までの読んだらなってました!
この文章だと逆になってましたので。
これから本文書きます!
30:🎏 龍 ◆RYU....FU.:2012/3/13(火) 20:02:29 ID:1lvOPQUkic
背後の襖が大きく開かれ、振り返ってみると一人の男性が見下ろしていた。
おそらく叔父だろう。
それは彼女の反応を見て気づいた。
彼女は襖が開いた瞬間にチラリと見たらすぐに視線を戻し挨拶もせずに黙っていた。
俺「あ、おじゃましています。」
叔父らしき人物は俺の挨拶を無視し彼女を数秒見下ろし襖を閉めズカズカとした音と共にどこかへ行ったようだ。
祖母の糸が俺には見えない。
何故、父方の祖母の家に母方の叔父が一緒に住んでいるのか。
叔父の目的が彼女だったのではと思った理由を今言ってみるべきか。
叔父からも出来れば話を聞いてみたいとこだ。
疑問が色々あるが、さてどうするか。
31:🎏 すに ◆cjb8xYwtrY:2012/3/14(水) 10:10:41 ID:MvIrjkqYcM
祖母「2人とも、お茶菓子の用意が出来ましたよ」
彼女のおばあさんは温かい緑茶と芋羊羹を出してくれた。
俺「ありがとうございます。いただきます」
快くサービスを受けながら、俺はどうしたら良いものかと思考を巡らせていた。
彼女の家庭事情は複雑過ぎる。他人の俺で助けになるのだろうか…。
祖母「さて、今日はどうしたの?何か用があって来たんでしょう?」
彼女「ううん、特に用事は無いよ。おばあちゃん元気にしてるかなあって思って。今日は友達も一緒なんだ」
祖母「そう」
彼女とおばあさんがにこやかに会話を進める中、俺はそれを観察する。
一見普通のおばあさん、だよな。凄くお金持ちなところと叔父さんが居る以外全くもって普通だ。
ピーンポーン
突然インターホンが鳴った。おばあさんは僅かにうんざりした表情で立ち上がり、モニター越しに受話器を取る。
祖母「あら、あなたまた来たの?」
?『奥様!何かお変わりありませんか!?』
祖母「昨日も無いって言ったでしょう?大丈夫よ。そんな毎日様子見に来なくても平気。あなたこそ毎日来て大変ね」
?『奥様に万が一のことがあれば旦那様に合わせる顔がありません』
祖母「夫はもう9年も前に亡くなったのよ。いつまでも私の面倒なんて見なくていいの」
俺「ねえ、相手の人って…」
俺は小声で彼女に訊ねた。
彼女「きっと会社で雇っているボディガードね。毎日様子を見に来るみたい。年を取っているから余計に心配なんじゃないかしら」
続けて彼女が喋り出す。
彼女「会社を引き継いだ父の弟である叔父さんも、心配で毎日来させているんじゃないかしら」
そうだよな、財産もまだまだあるみたいだし、そりゃあ心配にもなる。ましてやご老体だ。
ボディガード『しかし御子息もとても心配なさっていて…!』
祖母「なら伝えて頂戴。私は元気だから、心配なんかしてないで仕事頑張りなさいって」
ボディガード『しかし奥様…』
32:🎏 龍 ◆RYU....FU.:2012/3/16(金) 07:08:47 ID:1lvOPQUkic
祖母はボディーガードと話し込んでいる。
いまのうちに叔父となんとか話せないだろうか。
彼女を連れて行くのは気が引けたので、彼女にトイレへ行ってくると告げた。
部屋の気配を探りながら歩いていると、人の気配がしたのでトイレを聞く振りでもしようと襖を開けた。
俺「あ、申し訳ないです。トイレがわからなくなってしまって」
叔父「……」
ジッとこちらを観察するように見た後、顔を背けて無視をされた。
感じが悪い男だ……。
俺「彼女さんの母方の叔父さんですよね?話は聞いてました。友人の俺です。よろしくお願いします。」
叔父「……」
俺「母方の叔父さんなのに父方の祖母と同居しているんですね。何か理由でもあるんですか?」
さすがにこれはまずかったか。
叔父の足が貧乏揺すりの様にカタカタ揺れ苛立っている様に感じた。
さすがに空気に耐えられず、トイレへ向かい作戦を練ることにした。
トイレへ向かおうと後ろを振り返ったが……
ガスッ
後ろを振り返った後すぐに叔父のいた方向から後頭部に鈍い感触と共に……
かすかな音だが脳内では大きく響き渡り俺は気を失った。
33:🎏 すに ◆cjb8xYwtrY:2012/3/16(金) 19:01:22 ID:e87X55SWVs
⇔
遅い…遅過ぎる…。
彼がトイレに立ってからもう15分が経つのに、未だ帰ってくる気配がない。広い家だけれど、トイレにそんなに時間は掛からないはず。
「お友達遅いわねぇ」
ボディーガードをうまく追い返した祖母も心配なようだ。
「ちょっと私見て来るね」
私は不安になって彼を探しに立った。
…居ない。
トイレの前まで来たが明かりは点いていない。一体どこに行ったの。
そういえば彼はトイレの場所を聞かないで行った。
そこまで考えてはっとした。
まさか…あいつに会いに行ったの…?
急に不安になった。あいつと彼が二人きりで無事なんて保証は無い。あいつは何をするか分からないもの。早く見つけなきゃ。
少々長い廊下を早足で進みながら、面している部屋を一つ一つ見て行った。
突き当たりの部屋に人の足が見えた。
彼かもしれない…!
急いで入ると案の定彼が倒れていた。
居た…!
側に駆け寄り揺すってみるが、起きない。もう一度揺すってみると苦しそうな顔をして彼は目を覚ました。
「いったっ…」
頭を抑えて起き上がろうとするのですかさず支える。
「一体どうしたんですか!?」
「それが…」
「俺だよ」
優しい声が聞こえて振り返ると、そこにはあいつが居た。
「久しぶりだね姪っ子ちゃん。また美人になったね。それはそうと、ずっと気になってたんだよ。その男はだあれ?」
34:🎏 ゆこ ◆Ryuko..Wy.:2012/3/16(金) 23:07:52 ID:1lvOPQUkic
⇔
俺「あんた、なにが目的なんだ?」
後頭部がズキズキと痛む。状況さえ許してくれるなら、とりあえず布団でも敷いてもらって横になりたい。
タンコブだけじゃ済まないだろーなと思いながら患部に手をやると、ぬちゃりとした不愉快な感触。
手を見ると血が付着していた。まぁこの程度なら問題ない。頭部は血がよく出るものだ。
叔父「目的?それは俺が聞きたいね。そうだろう?ここは俺の住まいであって、得体の知れない男が俺の住まいを探り歩いている」
俺「探り歩くなんて・・・」
彼女は一瞬俺に視線をやったが、すぐにまた冷たい目を叔父に向けた。
彼女「『俺の住まい』なんてどの口が言ってるの?ここはアンタの出入りしていい場所じゃない。出てって」
言い終わるやいなや、俺の手を引いて客間のほうへズンズンと歩いて行く彼女。
叔父「あー姪っ子ちゃん、あの話考えといてね。いい返事期待してるよ」
背後から追ってきた叔父の声が、彼女の手に力をこめさせた。ちょっと痛い。いや結構痛い。
_________________
祖母「あらあらあらあら。どうしたのその怪我は」
俺「いや、ちょっと転んでしまってハハハ」
おばあさんに傷口を消毒してもらいながら横目で彼女の様子を伺うが、何を思っているのかは全く読めない。
あの話とはなんだろうか。
おばあさんが薬箱を片付けに部屋を出て行ったとき、言うべきかと逡巡していた言葉を思わず吐き出してしまった。
それはきっと、叔父に殴られたことで俺は「糸が見える仲間」から「彼女の抱える問題の関係者」へとジョブチェンジしたと意識できたからだと思う。
もっと足を踏み入れていいはずだ。彼女の悩みを共有する権利があるはずだ。そう思った。
俺「おばあさん、糸ないんだけど」
彼女「え?」
俺「叔父さんにも、糸なんてなかった」
彼女「なにを言って・・・あの二人は赤い糸で繋がってるじゃない!嘘つかないで」
目に涙を溜めながら真っ直ぐに俺を見据える彼女。彼女が嘘をついていないことがわかる。
でも、俺も嘘はついていない。俺たちの見える糸には違いがあるのかもしれない。
俺「叔父さんの言っていた『あの話』とは?」
彼女「言ったでしょう、叔父は金に汚い男だって。私に、よ... 祖母「あなたは心配しなくていいの」
彼女の言葉を遮るように、いつの間にか部屋に戻って来ていたおばあさんが、少し大きな、そして反論を許さない響きを持った声で制した。
35:🎏 繭 ◆TFyL7CT/Mk:2012/3/17(土) 23:39:07 ID:P2/yVcR/xs
「心配しなくていいから、今日はもうゆっくりなさい。友人さんも、今日はどうぞお泊りになってくださいな」
「あ、いえ俺はお暇させて頂こうかと…」
「そう? でも今から帰ると時間も遅いし、お夕飯も大変でしょう?」
嬉しい申し出ではあるものの、何となく居座ってしまうのは色々とよくないと感じた。
特に、さっきのこともある。
もちろん、お祖母さんにはいえないから察してくれたらしい彼女と一緒にお暇することになった。
俺たちを見送るお祖母さんのまた来てね、という声に柔らかく笑っている彼女をチラリと見た。
本当にあの叔父はなんだったのか、と妙な不安も覚えるが考えても分からない。
見送りに顔を出すこともなく、あの後一切顔を見なかったのでとりあえずは気にしないことにした。
***
帰り道、相変わらず自分には見えない彼女の叔父と祖母を繋いでいるという小指の糸。
彼女と俺に見えてる糸の違いが、一体何なのかが気になっていた。
祖父母を繋いでいたのに、離れて全く関係ない男とつながってしまった糸とは一体…。
しかし、考えてもみれば最初からそんなことは頭になかったわけだ。
お互いの糸が見えるという情報は、あくまでも自分の目に写ってる糸がどうということしか分からないのだから。
きっとこんなふうに直接的に見る機会がなければ、気づかないまま過ごしていたような気もするし。
俺「一つ、確かめてみないか?」
彼女「…何を?」
俺「気になってたから……同じ人の小指を見て、糸があるかないかを確かめるんだ」
彼女はしばらく俺の言葉を頭で考えているらしい。
少しすると、お祖母さんの家で俺たちの見える糸に違いがあるということを思い出したらしく頷いてくれた。
俺「じゃ、えーっと……あっちの人から」
俺が指を差した方向を見た彼女が、俺の指差した人の左手を見つめていた。
36:🎏 すに ◆cjb8xYwtrY:2012/3/19(月) 12:14:03 ID:e87X55SWVs
彼女「あります」
俺「うん俺にも見える」
続けて隣の人を指差す。
彼女「この人もある」
俺「俺も見える」
そうして何人か調べたが、結果は一つ残らず一致した。全員「ある」これは何百人、何千人調査しても結果は同じかもしれないな。ふとある疑問が浮かんだ俺は、それを確かめるべくして必要な道具を買う為に百円ショップに向かった。
彼女「一体何を買うんですか?」
俺「うん、ちょっと知りたいことがあって」
全く答えになっていなかった。俺は目当ての商品を素早く買ってしまうと、その場で開封し始めた。
彼女「紙と…色鉛筆?」
俺「そう見ての通り紙と色鉛筆!」
俺と彼女、同時に使うので2セット用意した。
彼女「描けと…?」
俺「こりゃ話が早い」
俺がおどけて言うと、彼女はまあ良い提案ですねと微笑んで準備をしてくれた。俺がよしじゃあ目の前のレジの人と言うと彼女は無言で描き始めた。俺も倣って描き始める。
俺「…まじか」
彼女「嘘…」
完成した絵を見て二人とも驚いた。同じものを見ていたと思っていたけれど、彼女が見ているものは俺とは大きく異なっていた。
俺「糸が…二つ?赤と…青?」
これでは何人調査しても分からないはずだ。あんな『あるかないか』だけの調査なんかでは。
彼女「あなた…見えないの?あの青い糸が見えないの?」
驚きのあまり敬語が無くなっているよ。そんなツッコミをする余裕すらない程俺も吃驚していた。
俺「青い糸ってなんだよ!?」
冷静でいられなかった。今まで見ていたものが全てだと思っていたのに。それだけじゃないんだと知らされて、まるで高い塀に囲まれた巨大迷路に迷い込んでしまったような不安を覚えた。
彼女「多分…その人の死の原因に最も関わる人と繋がってる」
俺「死の原因…?」
彼女「中には青い糸がない人が居るんです。きっとその人は、寿命をまっとうして死ぬ人」
俺「病気の人は…?」
彼女「医者と繋がっていることが多いです。だから医者の方は指が見えないくらい沢山の糸が絡んで…なんだか見ていられないです」
彼女「私9年前、叔父と祖母は赤い糸で繋がったと思ってました。でも違った。今日見たら青い糸でした」
俺「…ということは」
彼女は頷くように俯いて、押し殺したような、泣きそうな、そんな声で言った。
彼女「あいつにおばあちゃんを殺させない…」
37:🎏 ◆WfagbE5V86:2012/3/19(月) 17:34:43 ID:Q.qnbvRKxQ
と言ってもまだ確定ではない。青い糸が繋がっているという事は叔父に祖母を殺すという意志があり、また殺せる力があると言うこと。そしてもう1つの可能性。
彼女「おばあちゃんを守る…絶対…」
………とてもじゃないが言い出せない。
彼女「捻って…縛って…裂いて…2つ共二度と使い物にならないようにしてやる…いや、いっそのこと引きちぎる…?」
いやいやいや物騒過ぎんだろ!殺人より危ないというか今度は君から青い糸が叔父にのびるよ!それに何故視線が下にあるんだ!
俺「………」
何やら下っ腹周りに彼女の殺気を感じる。具体的にこれ以上どことは言えない。
俺「と、にかく…今日はこの辺でいいですよ」
彼女「…握り潰して……え!?あ、そうですね…でも、念のため駅まで一緒しますよ。ほら、どうせ見えてますし」
店の窓からは確かに駅がみえている。案外近くだったようだ。あとどうでもいいのかよくないのかわからないが彼女は些か発想が物騒だ。口も悪いし。
まあその辺の生い立ちは後々知るとしよう。
店をでて並んで歩きだす。お互いに会話は無い。話すには二人共混乱しているし、正直今の彼女をあんまり刺激したくない。若干ピンチだし。いやいやどことは言わないよ?
そしてなんやかんやで駅の前につく。よくやった、俺。
彼女「今日は色々ありがとうございました
またわかったことあったらメールしますね」
俺「わかりました、まってます。俺もなんかあったらメールしますんで」
挨拶もそうそうに別れる。改札を通り、電車を待つ。
待ちながら俺はさっき行きついてしまった発想について考える。
彼女には青い糸がみえている。それは死に関すること。だけど彼女にはどちらがどちらの死に関しているのかはわからない。
つまり、お祖母さんが叔父を殺す可能性もあるということ。
だけどこれはあり得ないだろう。あの性格、力、諸々考えても無理だな。
彼女には言わないでおこうと結論がでて、電車がくる。
偶然か必然か、この駅は彼女と出会ったあの駅だった。
38:🎏 ゆこ ◆Ryuko..Wy.:2012/3/19(月) 23:38:59 ID:1lvOPQUkic
車掌「当駅にて少々停車します。ご乗車になりましてお待ちください------」
電車に乗り込み、車掌の声を聞き流しながら先程の新事実について思いを巡らす。
彼女は青い糸が見えている。そしてそれは人の死に関係するらしい・・・。
今までずっと俺も彼女も「赤い糸」と言ってきた。
それで会話に支障はなかったし、俺が「赤い糸」と最初に発言したときも、糸が見えることには驚いていたようだが、その糸が赤いことには動揺した様子はなかった。
ということは、彼女は、赤も青も見えているんじゃないだろうか?
世界の人々の幸も不幸も見続ける彼女の世界は、どんなにか辛いものだろうか。
まだ開いたままのドアからホームを眺める。いくつかの路線が乗り入れる大きな駅なだけあって、たくさんの人間がせわしなく通り過ぎて行く。
そういや、人身事故があったのはここだよな。数時間前のことなのに、駅はもういつもと何も変わらない顔で・・・
------彼女と次に会ったのはどこだった?
俺の自宅最寄り駅だ。なんでそんなところにいた?
今朝の人身事故が自殺じゃなく過失あるいは他殺だったとしたら、彼女は青い糸の片割れを追っていたんじゃないか?
まさかな。考え過ぎだ。
だが、元恋人と連絡をとろうとしないことの説明はつく。彼は「青い」糸で誰かと繋がっていたんだろう。だから。。。
車掌「間もなく発車いたします。ご利用のお客様は-------」
ほんとに、いろいろありすぎた1日だったな。。。
でも、素直に帰ればいいのに電車を飛び降りちまった俺の1日はまだ終わらねぇ。。。やべ、俺テラハードボイルド。
降りたところで何をすりゃいいのかわかんねーけどな。とりあえず、ばあさんちに戻るか。戻りながら考えればいい。
結局、最前のイヤな考えが頭から離れない。
おばあさんと叔父さんとが繋がった、死を司る青い糸。どちらがどちらの死を願っているのか。
順当に考えれば叔父がおばあさんを、だろう。
だが叔父は現在おばあさんの家で何不自由ない暮らし。彼女の話を鵜呑みにするならば、おばあさんから金銭の援助も得ていると推察できる。
保険金をかけている可能性は十分にあるが、別に殺す必要はないな。自然死でも問題ないはずだ。
『あなたは心配しなくていいの』
おばあさんの言葉が脳裏に蘇る。叔父さんは彼女に何らかの話を持ちかけていて、おばあさんは孫である彼女を守ろうとする。。。か。
おばあさんと話をしてみるか。。
ようやくおばあさんの家が見えてきたころ、門前の電信柱に人影を認めた。
小柄な、長い髪。
俺「帰ったんじゃないんスか」
39:🎏 繭 ◆TFyL7CT/Mk:2012/3/20(火) 16:18:23 ID:mGQ5RRjDh2
俺が声をかけると、電柱からスッと思った通りの姿が出てきた。
彼女「…ええ、もちろん帰ろうと思いましたよ」
彼女であったことに安堵すべきなのか、何故彼女もここにいるのかと問い詰めるべきなのかは判断しかねる。
彼女「でも、面倒くさい貴方の性格からいうと……糸のことを気にして、戻ってくるんじゃないかって」
当たりだったみたいですね、といつもの様子で近づいてくる彼女に不穏な気配は感じられなかった。
しかし、昼間から引っ掛かっていたことも考えると彼女の意思を汲み取るのは難しい。なにせ彼女からすれば大事な身内だ、不審な叔父はともかく。
未だに嫌な予感は拭えない、彼女には糸が繋がっていないなら彼女が何かすることはないだろう。
……一か八かだが、思い切って彼女に伝えてみようと思った。単なる知り合いから糸が見える仲間と呼んでくれた彼女なら、信じられるから。
「……こんなことを君に言うのも失礼かと思うけど、お祖母さんが叔父さんを殺すかも知れないと思ったんだ」
「……どうしてそんなこと思うんですか? 普通なら、逆でしょう?」
「お祖母さんは、君を叔父さんから守ろうとしてるように感じる」
彼女は黙っていた。視線を逸らすことも無く真剣な瞳で見つめられると、こちらも同じく黙ってしまいそうになるがそれでは進まない。
「もしかすると…君が見た青い糸が繋がった最初は本当に叔父さんの殺意から糸が繋がったのかも知れない。でも…今は君に危険が及ばないようにと考えたお祖母さんが叔父さんを殺そうとしてる」
「だから、確かめに?」
「あぁ……君と叔父さんの間に何があったのかは分からないけど、あの人(叔父さん)は少しおかしかったように思うから」
俺の返事に彼女は軽く俯いてから小さく頭を振る。諦めと悔しさが複雑に混じった、彼女からの返事だった。
「…あの卑劣な叔父のことなら、お祖母ちゃんはちゃんと分かってます」
「……え?」
「お祖母ちゃんがいなかったら、私が今頃あの叔父にどうされていたか分からない」
「それって…」
彼女は顔を上げて頬を伝う涙も気にせずに軽く笑った。どういうことなのか、一気に不安が押し寄せる。
「もう、遅いかも」
40:🎏 龍 ◆RYU....FU.:2012/3/20(火) 18:14:47 ID:1lvOPQUkic
不安と言う感覚が背中から頭に一直線に走る。
毛が逆立つような感覚にザワザワし、叔父がいた部屋まで走った。
そこには血だらけの叔父が倒れていた。
近くに祖母が座り込んで、目は遠くを見ていた。
俺「祖母さん……。こ、これは……。」
祖母「仕方なかったのよ。あの子を、"麻衣"を守る為に……。後悔はしてないわ」
もしや殺…え、彼女は麻衣と言うのか……と思った瞬間ッ!!!
今、なんて!?麻衣?麻衣と言ったのかッ!!!
繋がった、俺の中で彼女と繋がった。
今まで俺しか見えてないと思ってた糸が、初めて見えるという彼女と出会い……。
彼女の母が養子、そして俺と彼女だけ見える事に何故気づかなかったのか。
そうか……彼女は……いや、麻衣は俺の従……。
ドンッ
ん?何かが背中にぶつかった、後ろを振り向くと彼女がいた。
俺「あ、君は、いや、麻衣のお母さんのいた施設って……」
混乱の中、独り言の様に呟いているのか彼女に聞いているのかわからない状態で話しかけたが、
何か背中が熱い。
手を触れて見るとヌルリと気持ち悪い感触が。
赤い……糸の様に…真っ赤な色に染まった手……。
彼女「お、おばあちゃんを守らないと。し、知られちゃいけない。」
俺は倒れ、お風呂の中にいるように温かく感じながら、彼女のガタガタと震え真っ青な顔を見ながら、
次第に凍える様に寒くなり、深い…深い…闇へ意識が落ちていった……。
41:🎏 すに ◆cjb8xYwtrY:2012/3/21(水) 05:24:59 ID:RlHSxMP/3U
ガタンゴトン、ガタンゴトン。
誰も居ない電車の中で、俺と彼女が向かい合って座っている。
窓の外は延々と続く田園風景。いい天気だ。こんな日は日向ぼっこでもしたい気分。今も彼女が座っている方の席から暖かい日差しが差し込んできて、とても気持ちがいい。
そういえばいつも会社に行くときに利用している種類の列車だ。でも行き先を表示するはずの電子版には何も流れてこない。
あれ?壊れているのかな?
車内アナウンスも聞こえてはこないし、一体俺達はどこに向かおうとしているのだろう。
「あなたが悪いのよ…」
突然彼女が話し掛けてきた。
一体なんのことだ?俺が君に何かしたのか?
「家に戻って来たりなんかするから…こうするしかなかったの…」
あれは君のお祖母さんが気になったから話を聞こうと思ってさ。
「私を許して…」
なんで泣いてるんだよ。君が何をしたっていうんだ。俺が君を恨むようなことがあったか?ないだろ?
「お願い私を許して…っ」
泣きじゃくりながら許しを請う彼女。心配ないよ。何があったか知らないけれど、きっと俺は君を許すよ。そうに決まってる。君はやっと見つけた従妹なんだ。
彼女を抱き締めようと立ち上がろうとしたそのとき、もともと逆光で見え辛かった彼女の輪郭がだんだん小さくなっていって、しまいには辺り一面眩しい光に包まれた。俺は目を開けていられなくなってぎゅっと瞼を閉じた。
目を開けると、真っ白な天井だった。
「誠…?」
母さん…?ぼんやりする頭でそう思った。
「兄貴!?」
弟が驚いた声で聞いてくる。大声出すなよ。頭に響くんだよ。
「看護師さん!!息子が目を覚ましました!!早く!!早く来て下さい!!」
母さんうるさいよ。もう少し静かにしてくれよ。
そう言おうとしたけれど、俺の口からは『あ…あ…』という掠れた声しか出て来なかった。
暫くすると白衣を着た中年の男が入ってきて、目にライトを当てたり脈を計ったりしてきた。何か話してと言われたがやはり声が出ない。
「もう大丈夫です。刺されたところが脇腹で不幸中の幸いでしたね。三週間程入院して問題無ければ退院出来ますよ。声が出ないのも一時的なショックでしょう」
「…ありがとうございます!本当にありがとうございます!」
母が首が折れるんじゃないかという勢いで頭を下げた。隣には、同じように頭を下げる父がいた。
42:🎏 ゆこ ◆Ryuko..Wy.:2012/3/21(水) 22:45:26 ID:1lvOPQUkic
⇔
あれからどれくらいの時間が経過しただろう。
海の側の別荘で、波音に耳を傾けながら暖炉の火を眺める。もうすぐ春が来る。暖炉の薪は用意してある分だけで足りるだろう。
糸が見える仲間・・・誠と言ったっけ。彼は命に別状はないと聞いた。
お見舞いくらい行きたいけど、どんな顔で会えばいいのだろうか。いやむしろ会ってもらえるのだろうか。
あの日、家の付近を警備していたガードマンに発見され、警察の前に父方の叔父に連絡がいった。
クソ叔父も一命は取り留めてしまった。リハビリしてもいくらか障害は残るだろうとのことだったが。
まぁ平たく言えば叔父さんがすべてお金で解決してくれた。
叔父さんも大規模企業のトップである以上、母・・私の祖母の傷害事件など明るみにするわけにはいかなかったのだろう。
祖母は私が誠を刺した罪すら被り、そして父方の叔父は大事にならないようありとあらゆる手をつくしてくれた。
クソ叔父は少し前から私に養子にくるようにと言っていた。
運命の相手が見える赤い糸、そして死を司る青い糸が見える私を利用して、新たな金儲けをしようとしていたようだった。
書類の上だけとはいえ、あんな男の娘になるのは死ぬほどイヤだった。
だけど、今回の事件で全てが暴露された。
あの事故のとき、車から脱出した私は、両親と叔父とが青い糸で繋がっているのを見た。
青い糸の意味を理解すると同時に、叔父が両親を死に至らしめたことに気づく。幾ばくかの保険金のために。
祖父が亡くなるのと同時に、叔父は数枚の写真をネタにして祖母を強請り始めた。
いや、本当は私の両親のこともその写真で強請っていたらしいのだけど。
その写真というのが、私の母の・・・裸体。
クソッタレは、父との結婚が決まった幸せ絶頂の母を無理矢理・・・。
以降、その写真を元に両親を、そして祖母を強請り続けた。両親も祖母も、会社のために、そして私のためにクソッタレの言うなりになっていた。
今回、クソッタレがあのような状態になっても黙っているのは、叔父さんからの多額の慰謝料と、今までのその強請りの事実があるからだそうだ。
そして私は、、、あのクソッタレの娘だった。両親も祖母も、その事実をひたすら隠すために命を失い、罪を背負った。。。
パキン...ッ
自分で自分を殺めてしまいたい衝動にかられたところで、薪の爆ぜる音に我に返る。
従兄弟、誠は元気だろうか。彼にはたくさんの隠し事をしてしまったし、それ故にこんな薄汚い事件に巻き込んでしまった。
私を助けようと、力になりたいと言ってくれたのに、私は彼を刺してしまった。。。もう、二度と会うことはないだろう。
まさか従兄弟だったなんて。。
ぴんぽーん
フフと自嘲気味に笑みを漏らしたところで、インターホンがなった。
43:🎏 繭 ◆TFyL7CT/Mk:2012/3/21(水) 23:52:32 ID:P2/yVcR/xs
「はい」
「よっ、久しぶり」
「は…?」
きょとんとした声が返ってきたものの、良い別荘だなーとか外装を眺めている間もなくすぐに玄関の扉が開く。
出てきたのは少し疲れたような表情はしているものの、元気そうな従姉妹の姿。
「ちょ、ちょっと貴方……どうしてココ……。それよりも、まだ退院したばかりのはずでしょう!」
「いや、まあ……そうなんだけども」
軽く笑いながら答えると怪我人の癖に何をやっているのか!と凄い剣幕で怒られる。
どうやら本気で俺の身を案じてくれているらしく、先ほどから病院に戻れ戻れとしつこく言っては睨みを利かせてくる。
でも、無理やり追い出したりするようなことはせず、中に上げてくれた上にお茶までちゃっかり用意して貰ってしまっていたりする。
悪いな、というと怪我人なんだから…とブツブツ言われる。
まさか、あのバス停で彼女を目にしたときには従姉妹だなんて思わなかったし顔だって俺の知る限りでは親戚の中でとびっきりの美人だ。
口汚く罵られたり、小馬鹿にされることの方がとにかく多かったように感じるけど、彼女の優しい笑顔が見れた時は嬉しかったものだ。
彼女が俺にしたことを咎める気はない。
そりゃ、痛かったけどな。命に別条はないとは言っても、一応刺されたわけだし。
でも、何よりも一番精神的ダメージが強かっただろう彼女が元気で生きていてくれることが嬉しい。
俺には、彼女に青い糸が繋がってしまったとしてもそれを見ることが出来ないから。
こうして直接彼女の安否を確かめる以外にない。
自分を責めて彼女にまでもしものことがあったら…と考えるだけで、寒気がするのだから。
「麻衣、って…呼んでいいんだよな」
「それは…好きに呼んだらいいと思う、けど」
「じゃあ麻衣。あのさ」
「……何ですか?」
ツン、とした態度でいるものの名前を呼んだ時の彼女の顔は少しきょとんとしていて俺に呼ばれることに慣れてないんだなぁと思うと少し笑ってしまう。
もちろん、彼女の前で笑おうものならキッと目を吊り上げて睨むので表だって笑ったりはしないのだが。
「俺のことをこうして出迎えてくれたからこそ、一つ言いたいことがあって来たんだ」
「……何を?」
「一緒に、暮らさないか?」
44:🎏 龍 ◆RYU....FU.:2012/3/22(木) 00:36:36 ID:1lvOPQUkic
麻衣「えっ…いあ、でも…私、貴男の事刺し…」
俺「あー、まぁ、えと、とりあえず俺も部外者じゃないし叔父の事とか出来れば話してくれないか?」
麻衣「……」
麻衣「そうですね。私にも話す責任がありますよね。」
………
……
…
そして麻衣は全てを語ってくれた。
叔父にされた事……。
弱みを握っていた事……。
家族が何故、叔父にお金を渡していたのか……。
俺は飲み込む唾の音を隠したく、ふうっとお茶を一口唾と一緒に飲み込んだ。
聞いてはいけなかった様な、言いたくない事だが俺を刺した罪悪感を理由に無理やり聞き出したようで、なんて言っていいかわからなかった。
俺「そうか……。思い出したくない事を聞いてしまって悪かったな。」
麻衣「……」
余計に空気を悪くしてしまったようだ。
言葉が詰まった時の為に映画を持ってきたので、まずは雰囲気を変えてみるか。
俺「あ、ビデオ持ってきたんだ。話は後にして一緒に見ないか?」
麻衣「……うん。」
彼女もこの雰囲気の空気に戸惑っていたようなので、すんなりと承諾してくれた。
ビデオを見て空気を変えて、今後について話し合おう。
そう思い一緒にビデオを見た。
http://llike-2ch.sakura.ne.jp/ss/images/aa.gif
麻衣「なに…こ…れ…」
俺「アッー!!間違えたぁぁぁぁああああああああ」
45:🎏 ◆WfagbE5V86:2012/3/22(木) 23:19:17 ID:4Cv9sk.XOo
俺「くぁwsでfrtghyじゅきぉp;@:」
麻衣「・・・まあ趣味は人それぞれですからね・・・」
完璧に勘違いされてる!違う!これはホモの友達に妙に期待した顔で無理やり渡されたんだ!これ見たぐらいじゃ目覚めねぇから!
俺「ゴメン、本当にゴメン」
麻衣「とにかく早く映画みましょう」
目が死んでいた。麻衣の後ろにスタンドらしきものが見えた気がした。
俺「あ、こっちにしよう」
なんもかいてないDVDをてにとる。家から適当にもってきたやつだから心配だ・・・。
うぃぃんと起動音が部屋中に響く。
何故か正座する。手汗が半端ないのだが・・・。
映像がついた。トトロだった。
麻衣「・・・・・」
俺「(ふざけんなおれええええええええええええええええええ!!!!)」
麻衣「まあトトロいいですよね」
そしてトトロを見始めて少し、メイが小トトロを追いかけた当たりで麻衣が急に話し始めた。
麻衣「・・・私も昔はこんな子だった」
46:🎏 ゆこ ◆Ryuko..Wy.:2012/3/23(金) 00:22:36 ID:1lvOPQUkic
彼女の目はメイを通して過去の自分を見ていた。
麻衣「父のことも母のことも大好きで、泣き虫で、でも好奇心が旺盛で。今となってはこの素直さに憧れちゃうなー。」
俺「何も変わってないよ。むしろ、もっとメイっぽくなったんじゃないかな。他人に見えないものが見えるんだから」
びっくりしたように俺を見て、そしてクスリと笑う。
麻衣「じゃあ、あなたもメイなんですね」
言い終わるころには堪えきれずに腹を抱えて笑っていた。
なにが面白いのか俺にはわからないが、あの事件以来どうせ一人で全部抱え込んで、笑うことも忘れていたのだろう。だから歯止めがきかなくなってるんだ。
俺「あのさ、俺の母が君に会いたがってるんだ。『妹の忘れ形見』って」
笑い過ぎて流した涙を指で拭う彼女に、母から聞いた話をそのまま伝えた。
麻衣のお母さんであり、俺の母の妹である女性は、子供のころから糸が見えていたと。施設でのこと、ずっと案じていたこと、麻衣のことも娘のように思うと言っていたこと。。。
麻衣「そう・・・」
そう呟いて暖炉に目をやる。俺もつられて同じ方向へ視線をやるとパチパチと爆ぜる薪が心を落ちつかせてくれた。
俺「だから、一緒にry
麻衣「私は、その前にやらなくちゃいけないことがあるの。」
俺「やらなくちゃいけないこと?」
麻衣「彼・・・元彼ね。彼の安否を確認しなくちゃいけない。」
俺「やっぱり彼の指の糸は青だった・・・?」
麻衣「ええ。彼の先輩にあたる女性で、彼が常々『尊敬している』と言っていた人とね、つながっていたの」
麻衣「そんなこと言えないでしょう?あの女性があなたの死に関わっているなんて」
俺「・・・」
麻衣「ま、逃げただけなんだけどね。その女性から彼を守ればよかったのにそれも出来ずに。悲劇のヒロインを気取って、彼の死から逃げた」
俺「青い糸が見えて、麻衣はその運命を覆すことができると思う?そして、逆に彼がその女性の死に関わっているという可能性を考えたことは?」
大きな溜め息をつきながら一瞬天井を仰ぎ見て、そして真っ直ぐ俺に向き直る麻衣。
その目の中に信頼の色を見たのは初めてだった。
麻衣「ひとつめの質問の答えは、今のところノー。やり方によってはできるかもしれないけど、名案は浮かばない」
運命は運命、か-------------。
麻衣「二つめの質問は、イエス。だからこそ、運命を変えてみたい。彼を犯罪者にしたくない」
俺「俺も行くけど、いいよね?」
麻衣は無言で一枚のメモを差し出した。
どうやら、住所が書かれているようだった。
47:🎏 繭 ◆TFyL7CT/Mk:2012/3/23(金) 02:02:25 ID:mGQ5RRjDh2
俺「ここ、か…」
麻衣「ええ」
麻衣が頷いたのを確認して車から降りる。
道中、車の運転なんて出来たんですねと意外そうに言われてしまい少し悲しいものがあるが気にせずに車を走らせていた。
通勤に使っていないだけで乗れるんだとアピールしたら変なの、と笑ってくれたが車を降りてからの彼女の表情は真剣そのものだったのだが。
麻衣「……インターフォン、押しますね」
俺「ああ」
背を向けたままの麻衣に向けて短く返事をすると、ゆっくりと深呼吸を1つしてからインターフォンを押す。
ぴんぽーん、という安っぽいインターフォンのが鳴ったものの返事の返って来ないインターフォンを見つめていればチェーンを付けたまま音を立てて軽く玄関の扉が開く。
顔を少し出したのは暗い表情こそしているが、違いなくイケメンだった。
ちくしょう美男美女カップルだったのかと地団駄を踏みたいところだが、元彼氏のイケメンが麻衣の姿を確認すると目を大きく見開けばすぐにチェーンを外し大きく扉を開いてその姿を確認している。
「ま、麻衣…!?」
麻衣「修介…久しぶりね」
元彼氏は修介というらしい、俺のことなんて眼中にないらしく今にも抱きしめんばかりに麻衣のことを愛しいそうに見つめている。
念のために小指を確認するが、赤い糸が遠くに伸びているだけで麻衣と繋がっている様子はないし青い糸も見えなかった。
修介「? 麻衣、そっちの人は…」
麻衣「私の従兄弟のお兄さんよ」
俺「……ドウモ」
イケメン爆発しろと念じながらも軽く挨拶をすると、軽く会釈を返してくれた。悪いやつではないように見えるが、先輩の女性とやらの死に関わっているだろうという彼は誰かを殺したりするようには見えない。
修介「なんだか、ヨリを戻しに来てくれたわけじゃないみたいだね…」
麻衣「…突然、押し掛けてしまって悪いけど」
修介「……ううん、良いんだ」
麻衣「あなたにどうしても言いたいたいことがあって」
首を傾げる修介をまっすぐ見つめながら麻衣は口を開いた。
麻衣「単刀直入に言うわ。…先輩を殺したりしないで」
修介「は…? 先輩、って…」
麻衣「修介の先輩。…あなたが尊敬してるって言っていた人」
自分の尊敬してる先輩、と言われては思い当たった人物がいたからだろうか修介はあからさまに顔色を変えて動揺していた。
48:🎏 すに ◆cjb8xYwtrY:2012/3/23(金) 18:12:16 ID:n59Waca3nY
⇔
修介「な…に言ってんだよ…俺が先輩を殺すはずないじゃん!尊敬してるんだし?殺す理由なんてある訳ないだろ?」
はは…冗談キツいよ…と続ける彼の瞳は私を見てはいなくて、明後日の方を向いていた。隣に立っている誠さんも、私のいきなりの発言に驚いた様子だ。
修介「それよりさ、やっぱり俺お前が好きなんだ。また付き合ってくれないか?」
修介「俺あれから何人もの女と付き合ったけどさ、お前以上のやつなんて一人も居なかったよ」
私「修介」
修介「だから頼むよ。なあ?麻衣もほんとはそれ言いに来たんだろ?その人だって俺以外の奴に声掛けられないためのカモフラージュ…」
私「修介!」
ハッとして、彼は一旦喋るのをやめた。
修介「ごめん…」
私は彼の手を取ると言った。
私「その話はまた後でにしましょう?ね?」
修介「…わかった。じゃあ、取り敢えず上がって」
私達は彼の住むマンションへお邪魔することになった。
修介「散らかっててごめんな」
リビングに通されると彼が言った。そうはいうけれど、いつ客を呼んでも申し分ないほど部屋は片付いていた。几帳面な彼なりに気になるところがまだまだあるのだろう。
お茶を用意してくれた彼も席に着くと、私は早速話を切り出した。
私「さっきも言ったけど、もしあなたが先輩を殺す気なら、やめて欲しいの」
修介「…」
私「いきなりなんのことかわからないかもしれないけれど、冗談で言っているとかじゃないのよ。本気なの」
彼は黙り続けている。それを見て私は早まってしまったのか、と感じた。確かな証拠も無いのにいきなりこんなことを言って、不審に思われたに違いない。けれど、それ以外に方法が思い付かなかった。
すると彼が喋り始めた。
修介「…なんで、麻衣がそんなこと言うのか分からないけど、俺、確かにあいつを、先輩を殺したいと思った」
いざ彼の口からそう言われると、ショックだ。返す言葉が見当たらない。
修介「麻衣と別れた後さ、引きずって立ち直れなかった俺を慰めてくれたんだ。馬鹿な俺はそれだけでクラッときちまって、自然と俺達は付き合うようになった」
初めて聞く事実に驚きが隠せなかった。
修介「ある日酔ったあいつが言うんだよ」
先輩『あんたの元カノって馬鹿だよね〜。こ〜んな良い男と別れるなんてっ!ちょっと修介が私に気があるから別れろって脅したくらいでさあ』
修介「気付いたら俺はあいつを殴ってた」
49:🎏 ゆこ ◆Ryuko..Wy.:2012/3/23(金) 22:09:55 ID:1lvOPQUkic
⇔
修介「まぁ瞬間的な殺意ってやつ?今でも許せないけどさ、女殴った瞬間目が覚めたっていうか」
人は何かを隠そうとするとき饒舌になると言うものだ。この男もまさにそんな感じだった。
普段この男がどれくらいよく喋る奴なのかわからないから言い切ることはできないが、俺はそんなふうに思った。
修介「ry というわけで、この話は終わり!な!」
麻衣「えっと・・・私は先輩から脅されたことはないし、酔っぱらってたとはいえ、ありもしない、しかも自分の印象を悪くするようなことを言うなんて考えにくいのだけど」
修介の顔色がまた変わる。赤くなったり青くなったり。目も白黒させてい忙しい奴だ。
空気と化した俺はとりあえず洒落たグラスに注がれた烏龍茶をひたすら飲んでおく。
修介「あーもーうっせーな。いい加減にしてくれよ!久しぶりに顔見せたと思ったらなんなんだよ!」
麻衣「私達がまだ付き合ってるときから、貴方と先輩はお付き合いしていたようだけど・・・」
修介「・・・あ、おかわり入れるわ」
修介は俺の空のグラスを見て、逃げるようにキッチンへ去って行った。
麻衣「青い糸が、ないの」
とても小さな声で、でもはっきりと麻衣は言った。
俺「え?じゃ、じゃぁ」
麻衣「でも、おかしいのよ。何か変なの。貴方だってそう思うでしょ?あの様子はおかしいと思わない?」
俺「正常な状態の彼を知らない俺にはなんとも」
麻衣が軽く唇を噛んだところで、キッチンから声が聞こえてくる。
修介「麻衣は昔っから勘がするどかったよなー。
修介「お前が事故ったときさ、実は、お前の叔父さん?だっけ?あのオッサンから『麻衣の帰宅時間と帰宅ルート教えろ』って言われてさ
修介「まぁ金もらったし、何時に帰るか言うくらいいいかと思って。したら事故だもんなー。
修介「事故のあと、お前ちょっと様子おかしかったし、一瞬面倒かなーとか思って。先輩と遊んでたんだよね。
ずっと修介のターン。
不愉快な話をし続けながらキッチンから出てくる不愉快な男。
俺のお茶持ってねーじゃねーかボケ。
修介「お前と別れてしばらくしたら、アイツ『子供できちゃった』とか言うわけ。ほんと最悪だと思った」
後ろ手に何かを持っている。なにこの空気。火曜サスペンス劇場とかで見たことあるかも、この感じ。
50:🎏 繭 ◆TFyL7CT/Mk:2012/3/24(土) 00:12:51 ID:P2/yVcR/xs
「上手く行きそうだったのにな……なんで、勘付いて来ちゃうか、ホント」
修介の表情が暗い。
正面にいる麻衣からは腰を押さえてるくらいにしか見えてないかもしれないが、俺の角度からは何かが握られているのを認識できた。
「せっかく、先輩階段から落として清々してたってのに」
「……え?」
「これで気にすることないって、思ってたのに」
その言葉で気づいた。
修介と先輩とやらが繋がっていた青い糸が消えた理由。
嫌な予感って本当に勘弁してほしいな、勘が良いっていうのは麻衣も俺も一緒なのかもしれない。
「逃げるぞ!」
「え、ええ!?」
追いかけてきそうな修介に置いてあった何かのリモコンを投げつけ、テーブルを修介の方に向けて蹴り上げる。
驚いた表情の麻衣の手を引いて玄関まで急いだ。もちろん、いきなり物を投げつけられた上にテーブルがひっくり返って焦っているのだろう、ちゃんと靴を履く余裕くらいは作れた。
「何、まだ先輩についてちゃんと…!」
「麻衣が見た青い糸は先輩と繋がったんじゃない、先輩のお腹の中にいた子供と繋がったんだ!」
「じゃ、じゃあ青い糸が消えたのは…」
「修介が階段から落としたって言ってただろ、多分その時に…」
「誰も死なないように、説得に来たのに…!」
「そんなこと言ってる場合か!」
路駐はマナーが悪いが、それでも車を近場に止めていてよかったと思う。修介が持っているのは包丁だ、刺されたら溜まったもんじゃない!
走ったことで傷口がまだ若干痛むが、構っていたら傷口がもう一つ出来てしまいかねない。このまま車で逃げて警察に行った方が……
「うわっ!?」
「ちょ、ちょっと誠さん!」
俺も本気で走っていたからか、思わず転倒する。もちろん一緒に麻衣もバランスを崩したが、さすがに俺ほど派手にこけることは無かった。が、情けない限りだ。もしこれで足を挫いていたりしたらとんでもない。
麻衣が俺の方に駆け寄ってくると、すぐに後ろに修介の影が見えた。逃げるな、と喚いているらしい。
麻衣に怪我をさせたら天国にいるだろう、叔母さん達に申し訳ない。ポケットに手を突っ込んで車のキーを渡す。
「麻衣、先に車に入ってろ。それから、急いで携帯で警察呼べ!」
「あなた怪我人でしょう!?何馬鹿なこと…!」
51:🎏 龍 ◆RYU....FU.:2012/3/24(土) 09:37:22 ID:1lvOPQUkic
俺「いいから、早く車をッ!」
麻衣の目には今にも涙がこぼれそうなのがはっきりと見えた。
車に走ってる後ろ姿を見て安堵した。
傷口が開き、足手まといな俺と逃げていたら逃げ切れなかっただろう。
パスッ!パスッ!パスッ!
あぁ……またか……この感触は覚えてる……。
離れている車の中で大粒の涙を流しながら電話で何か叫びながらこっちを見ている麻衣がはっきりと見えた。
麻衣の元彼氏が何かを叫んで走り去ったが、何を言ったのかもう頭の中には入ってこなかった。
麻衣のひとつひとつの行動だけをスローモーションのように感じながら見つめていた。
麻衣「あ、あぁ、、、っ、、い、今救急車が、、すぐ来るから」
くすっとしてしまう。今まで毒舌だったのに泣きながら俺の手を握って動揺している姿に。
俺「ま、麻衣、、、ほら、見てごらん、、俺にも赤い糸が、、やっと出来たよ、、」
俺「従姉妹、、でも、、、恋人になれるかな、、、ははっ、、」
麻衣が握っていてくれてる手に俺の血が流れ、二人の小指に赤い糸が巻かれているようだった。
魚のように麻衣が口をパクパクさせている。
もう、何も聞こえない。
でも、俺は何か気持ちはすっきりしていた。
俺「麻衣と、、出会えて、、、よかった、、、」
ー数週間後ー
麻衣「誠ー。お茶入れたよ。」
麻衣「ほら、映画見に行くんでしょ!早く用意してよ!」
麻衣「前みたいな変な映画は見ないからね!ふふっ」
誰もいない部屋で独り言のようにブツブツ言っている麻衣の小指には、青い糸が巻かれていた。
fin.
52:🎏 真・スレッドストッパー:停止
停止しますた。ニヤリ・・・( ̄ー ̄)
82.67 KBytes
[4]最25 [5]最50 [6]最75
[*]前20 [0]戻る [#]次20
【うpろだ】
【スレ機能】【顔文字】