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チーム:ハリュー【出会い】
[8] -25 -50 

1:🎏 名無しですが何か?:2012/3/4(日) 10:56:44 ID:1lvOPQUkic
お題【出会い】

下記の順番でお願いします。

◆WfagbE5V86
ゆこ ◆Ryuko..Wy.
繭 ◆TFyL7CT/Mk
龍 ◆RYU....FU.
すに ◆cjb8xYwtrY

>>1-10 >>11-20 >>21-30 >>31-40 >>41-50


28:🎏 繭 ◆TFyL7CT/Mk:2012/3/12(月) 13:03:29 ID:P2/yVcR/xs
俺には、見えない彼女のお祖母さんの小指の糸。
リボン結びどころか…誰とも繋がっているようには思えなかった。

どういうことなんだろう。
彼女が言う、祖父以外の男と繋がってしまった小指の糸とは…何なのか。

「遠い所からようこそ、この子が男の子を連れてくるなんて珍しいからビックリしたんですよ」

簡単な挨拶を交わしながらも、穏やかに笑うお祖母さんの様子からは、養女として引き取った娘に金の無心をするような人には見えなかったのだが…。
やはり、叔父絡みという事が大きいのだろうか。
お祖母さん自身が金に汚いのではなく、まだ会ったことのない叔父と言う存在が…何か。

そこまで考えたところで、
彼女に連れられて縁側まで赴く。
縁側、といったものの物凄く広い綺麗な庭と面しており普通の田舎の縁側…と思っていたら、大きく違う印象を持つだろう。

「……叔父さんに、お金が必要だからお母さんに頼んでいたんだよね」

「そうでしょうね、あの……クソ男が」

ギリッと憎々しげに唇をかみしめた彼女の横顔は普段の可憐さを塗り潰すほどに憎悪に彩られている。
何と声を掛ければいいのか分からなかったが、彼女の言っていた事故の時の話を思い出した。

叔父が、事故の一部始終を見ていた。
何故だろう。何故、見ていたのかが引っかかった。

酷い話だが、少し考えれば、事故を図ったのは叔父だ。
そしてそれは、義姉が亡くなった時に入る保険金を奪う目的から…でも、それだけじゃ無いような気がして仕方がなかったんだ。
車から必死に抜け出した彼女、その様子を見ていた…叔父。

「……貴女が、いたから…」

「……え…」

「叔父さんの目的は、お金だけじゃなくて貴女だったんじゃ────」

言い終わる前に、背後の襖が大きく開かれた。
29:🎏 龍 ◆RYU....FU.:2012/3/13(火) 19:35:13 ID:1lvOPQUkic
すみません。
読みにくくなると思ったので本文と違うレスで書かせて下さい。

>>28
の部分で間違い部分をスルーして下さい。
わかりやすいように灰色にして取消線をいれました。

>>26で父方の祖母に会いに行ってる設定で、金の無心などの会話も母方の両親の設定に今までの読んだらなってました!
この文章だと逆になってましたので。

これから本文書きます!
30:🎏 龍 ◆RYU....FU.:2012/3/13(火) 20:02:29 ID:1lvOPQUkic
背後の襖が大きく開かれ、振り返ってみると一人の男性が見下ろしていた。
おそらく叔父だろう。
それは彼女の反応を見て気づいた。
彼女は襖が開いた瞬間にチラリと見たらすぐに視線を戻し挨拶もせずに黙っていた。

俺「あ、おじゃましています。」

叔父らしき人物は俺の挨拶を無視し彼女を数秒見下ろし襖を閉めズカズカとした音と共にどこかへ行ったようだ。

祖母の糸が俺には見えない。
何故、父方の祖母の家に母方の叔父が一緒に住んでいるのか。
叔父の目的が彼女だったのではと思った理由を今言ってみるべきか。
叔父からも出来れば話を聞いてみたいとこだ。

疑問が色々あるが、さてどうするか。
31:🎏 すに ◆cjb8xYwtrY:2012/3/14(水) 10:10:41 ID:MvIrjkqYcM
祖母「2人とも、お茶菓子の用意が出来ましたよ」

彼女のおばあさんは温かい緑茶と芋羊羹を出してくれた。

俺「ありがとうございます。いただきます」

快くサービスを受けながら、俺はどうしたら良いものかと思考を巡らせていた。

彼女の家庭事情は複雑過ぎる。他人の俺で助けになるのだろうか…。

祖母「さて、今日はどうしたの?何か用があって来たんでしょう?」

彼女「ううん、特に用事は無いよ。おばあちゃん元気にしてるかなあって思って。今日は友達も一緒なんだ」

祖母「そう」

彼女とおばあさんがにこやかに会話を進める中、俺はそれを観察する。

一見普通のおばあさん、だよな。凄くお金持ちなところと叔父さんが居る以外全くもって普通だ。

ピーンポーン

突然インターホンが鳴った。おばあさんは僅かにうんざりした表情で立ち上がり、モニター越しに受話器を取る。

祖母「あら、あなたまた来たの?」

?『奥様!何かお変わりありませんか!?』

祖母「昨日も無いって言ったでしょう?大丈夫よ。そんな毎日様子見に来なくても平気。あなたこそ毎日来て大変ね」

?『奥様に万が一のことがあれば旦那様に合わせる顔がありません』

祖母「夫はもう9年も前に亡くなったのよ。いつまでも私の面倒なんて見なくていいの」

俺「ねえ、相手の人って…」

俺は小声で彼女に訊ねた。

彼女「きっと会社で雇っているボディガードね。毎日様子を見に来るみたい。年を取っているから余計に心配なんじゃないかしら」

続けて彼女が喋り出す。

彼女「会社を引き継いだ父の弟である叔父さんも、心配で毎日来させているんじゃないかしら」

そうだよな、財産もまだまだあるみたいだし、そりゃあ心配にもなる。ましてやご老体だ。

ボディガード『しかし御子息もとても心配なさっていて…!』

祖母「なら伝えて頂戴。私は元気だから、心配なんかしてないで仕事頑張りなさいって」

ボディガード『しかし奥様…』
32:🎏 龍 ◆RYU....FU.:2012/3/16(金) 07:08:47 ID:1lvOPQUkic
祖母はボディーガードと話し込んでいる。
いまのうちに叔父となんとか話せないだろうか。
彼女を連れて行くのは気が引けたので、彼女にトイレへ行ってくると告げた。

部屋の気配を探りながら歩いていると、人の気配がしたのでトイレを聞く振りでもしようと襖を開けた。

俺「あ、申し訳ないです。トイレがわからなくなってしまって」

叔父「……」

ジッとこちらを観察するように見た後、顔を背けて無視をされた。
感じが悪い男だ……。

俺「彼女さんの母方の叔父さんですよね?話は聞いてました。友人の俺です。よろしくお願いします。」

叔父「……」

俺「母方の叔父さんなのに父方の祖母と同居しているんですね。何か理由でもあるんですか?」

さすがにこれはまずかったか。
叔父の足が貧乏揺すりの様にカタカタ揺れ苛立っている様に感じた。
さすがに空気に耐えられず、トイレへ向かい作戦を練ることにした。

トイレへ向かおうと後ろを振り返ったが……






ガスッ






後ろを振り返った後すぐに叔父のいた方向から後頭部に鈍い感触と共に……

かすかな音だが脳内では大きく響き渡り俺は気を失った。
33:🎏 すに ◆cjb8xYwtrY:2012/3/16(金) 19:01:22 ID:e87X55SWVs


遅い…遅過ぎる…。

彼がトイレに立ってからもう15分が経つのに、未だ帰ってくる気配がない。広い家だけれど、トイレにそんなに時間は掛からないはず。

「お友達遅いわねぇ」

ボディーガードをうまく追い返した祖母も心配なようだ。

「ちょっと私見て来るね」

私は不安になって彼を探しに立った。


…居ない。

トイレの前まで来たが明かりは点いていない。一体どこに行ったの。

そういえば彼はトイレの場所を聞かないで行った。
そこまで考えてはっとした。
まさか…あいつに会いに行ったの…?

急に不安になった。あいつと彼が二人きりで無事なんて保証は無い。あいつは何をするか分からないもの。早く見つけなきゃ。

少々長い廊下を早足で進みながら、面している部屋を一つ一つ見て行った。

突き当たりの部屋に人の足が見えた。
彼かもしれない…!
急いで入ると案の定彼が倒れていた。

居た…!

側に駆け寄り揺すってみるが、起きない。もう一度揺すってみると苦しそうな顔をして彼は目を覚ました。

「いったっ…」

頭を抑えて起き上がろうとするのですかさず支える。

「一体どうしたんですか!?」

「それが…」

「俺だよ」

優しい声が聞こえて振り返ると、そこにはあいつが居た。

「久しぶりだね姪っ子ちゃん。また美人になったね。それはそうと、ずっと気になってたんだよ。その男はだあれ?」
34:🎏 ゆこ ◆Ryuko..Wy.:2012/3/16(金) 23:07:52 ID:1lvOPQUkic


俺「あんた、なにが目的なんだ?」

後頭部がズキズキと痛む。状況さえ許してくれるなら、とりあえず布団でも敷いてもらって横になりたい。
タンコブだけじゃ済まないだろーなと思いながら患部に手をやると、ぬちゃりとした不愉快な感触。
手を見ると血が付着していた。まぁこの程度なら問題ない。頭部は血がよく出るものだ。

叔父「目的?それは俺が聞きたいね。そうだろう?ここは俺の住まいであって、得体の知れない男が俺の住まいを探り歩いている」
俺「探り歩くなんて・・・」

彼女は一瞬俺に視線をやったが、すぐにまた冷たい目を叔父に向けた。

彼女「『俺の住まい』なんてどの口が言ってるの?ここはアンタの出入りしていい場所じゃない。出てって」

言い終わるやいなや、俺の手を引いて客間のほうへズンズンと歩いて行く彼女。
叔父「あー姪っ子ちゃん、あの話考えといてね。いい返事期待してるよ」
背後から追ってきた叔父の声が、彼女の手に力をこめさせた。ちょっと痛い。いや結構痛い。


_________________

祖母「あらあらあらあら。どうしたのその怪我は」
俺「いや、ちょっと転んでしまってハハハ」

おばあさんに傷口を消毒してもらいながら横目で彼女の様子を伺うが、何を思っているのかは全く読めない。
あの話とはなんだろうか。

おばあさんが薬箱を片付けに部屋を出て行ったとき、言うべきかと逡巡していた言葉を思わず吐き出してしまった。
それはきっと、叔父に殴られたことで俺は「糸が見える仲間」から「彼女の抱える問題の関係者」へとジョブチェンジしたと意識できたからだと思う。
もっと足を踏み入れていいはずだ。彼女の悩みを共有する権利があるはずだ。そう思った。

俺「おばあさん、糸ないんだけど」


彼女「え?」
俺「叔父さんにも、糸なんてなかった」
彼女「なにを言って・・・あの二人は赤い糸で繋がってるじゃない!嘘つかないで」


目に涙を溜めながら真っ直ぐに俺を見据える彼女。彼女が嘘をついていないことがわかる。
でも、俺も嘘はついていない。俺たちの見える糸には違いがあるのかもしれない。

俺「叔父さんの言っていた『あの話』とは?」
彼女「言ったでしょう、叔父は金に汚い男だって。私に、よ... 祖母「あなたは心配しなくていいの」

彼女の言葉を遮るように、いつの間にか部屋に戻って来ていたおばあさんが、少し大きな、そして反論を許さない響きを持った声で制した。


35:🎏 繭 ◆TFyL7CT/Mk:2012/3/17(土) 23:39:07 ID:P2/yVcR/xs



「心配しなくていいから、今日はもうゆっくりなさい。友人さんも、今日はどうぞお泊りになってくださいな」

「あ、いえ俺はお暇させて頂こうかと…」

「そう? でも今から帰ると時間も遅いし、お夕飯も大変でしょう?」

嬉しい申し出ではあるものの、何となく居座ってしまうのは色々とよくないと感じた。
特に、さっきのこともある。
もちろん、お祖母さんにはいえないから察してくれたらしい彼女と一緒にお暇することになった。

俺たちを見送るお祖母さんのまた来てね、という声に柔らかく笑っている彼女をチラリと見た。
本当にあの叔父はなんだったのか、と妙な不安も覚えるが考えても分からない。
見送りに顔を出すこともなく、あの後一切顔を見なかったのでとりあえずは気にしないことにした。


***


帰り道、相変わらず自分には見えない彼女の叔父と祖母を繋いでいるという小指の糸。
彼女と俺に見えてる糸の違いが、一体何なのかが気になっていた。
祖父母を繋いでいたのに、離れて全く関係ない男とつながってしまった糸とは一体…。

しかし、考えてもみれば最初からそんなことは頭になかったわけだ。
お互いの糸が見えるという情報は、あくまでも自分の目に写ってる糸がどうということしか分からないのだから。
きっとこんなふうに直接的に見る機会がなければ、気づかないまま過ごしていたような気もするし。


俺「一つ、確かめてみないか?」

彼女「…何を?」

俺「気になってたから……同じ人の小指を見て、糸があるかないかを確かめるんだ」

彼女はしばらく俺の言葉を頭で考えているらしい。
少しすると、お祖母さんの家で俺たちの見える糸に違いがあるということを思い出したらしく頷いてくれた。


俺「じゃ、えーっと……あっちの人から」

俺が指を差した方向を見た彼女が、俺の指差した人の左手を見つめていた。
36:🎏 すに ◆cjb8xYwtrY:2012/3/19(月) 12:14:03 ID:e87X55SWVs
彼女「あります」
俺「うん俺にも見える」
続けて隣の人を指差す。
彼女「この人もある」
俺「俺も見える」

そうして何人か調べたが、結果は一つ残らず一致した。全員「ある」これは何百人、何千人調査しても結果は同じかもしれないな。ふとある疑問が浮かんだ俺は、それを確かめるべくして必要な道具を買う為に百円ショップに向かった。

彼女「一体何を買うんですか?」
俺「うん、ちょっと知りたいことがあって」

全く答えになっていなかった。俺は目当ての商品を素早く買ってしまうと、その場で開封し始めた。

彼女「紙と…色鉛筆?」
俺「そう見ての通り紙と色鉛筆!」

俺と彼女、同時に使うので2セット用意した。

彼女「描けと…?」
俺「こりゃ話が早い」

俺がおどけて言うと、彼女はまあ良い提案ですねと微笑んで準備をしてくれた。俺がよしじゃあ目の前のレジの人と言うと彼女は無言で描き始めた。俺も倣って描き始める。

俺「…まじか」
彼女「嘘…」

完成した絵を見て二人とも驚いた。同じものを見ていたと思っていたけれど、彼女が見ているものは俺とは大きく異なっていた。

俺「糸が…二つ?赤と…青?」

これでは何人調査しても分からないはずだ。あんな『あるかないか』だけの調査なんかでは。

彼女「あなた…見えないの?あの青い糸が見えないの?」

驚きのあまり敬語が無くなっているよ。そんなツッコミをする余裕すらない程俺も吃驚していた。

俺「青い糸ってなんだよ!?」

冷静でいられなかった。今まで見ていたものが全てだと思っていたのに。それだけじゃないんだと知らされて、まるで高い塀に囲まれた巨大迷路に迷い込んでしまったような不安を覚えた。

彼女「多分…その人の死の原因に最も関わる人と繋がってる」
俺「死の原因…?」
彼女「中には青い糸がない人が居るんです。きっとその人は、寿命をまっとうして死ぬ人」
俺「病気の人は…?」
彼女「医者と繋がっていることが多いです。だから医者の方は指が見えないくらい沢山の糸が絡んで…なんだか見ていられないです」
彼女「私9年前、叔父と祖母は赤い糸で繋がったと思ってました。でも違った。今日見たら青い糸でした」
俺「…ということは」

彼女は頷くように俯いて、押し殺したような、泣きそうな、そんな声で言った。

彼女「あいつにおばあちゃんを殺させない…」
37:🎏 ◆WfagbE5V86:2012/3/19(月) 17:34:43 ID:Q.qnbvRKxQ

と言ってもまだ確定ではない。青い糸が繋がっているという事は叔父に祖母を殺すという意志があり、また殺せる力があると言うこと。そしてもう1つの可能性。

彼女「おばあちゃんを守る…絶対…」

………とてもじゃないが言い出せない。

彼女「捻って…縛って…裂いて…2つ共二度と使い物にならないようにしてやる…いや、いっそのこと引きちぎる…?」

いやいやいや物騒過ぎんだろ!殺人より危ないというか今度は君から青い糸が叔父にのびるよ!それに何故視線が下にあるんだ!

俺「………」

何やら下っ腹周りに彼女の殺気を感じる。具体的にこれ以上どことは言えない。

俺「と、にかく…今日はこの辺でいいですよ」

彼女「…握り潰して……え!?あ、そうですね…でも、念のため駅まで一緒しますよ。ほら、どうせ見えてますし」

店の窓からは確かに駅がみえている。案外近くだったようだ。あとどうでもいいのかよくないのかわからないが彼女は些か発想が物騒だ。口も悪いし。
まあその辺の生い立ちは後々知るとしよう。


店をでて並んで歩きだす。お互いに会話は無い。話すには二人共混乱しているし、正直今の彼女をあんまり刺激したくない。若干ピンチだし。いやいやどことは言わないよ?

そしてなんやかんやで駅の前につく。よくやった、俺。

彼女「今日は色々ありがとうございました
またわかったことあったらメールしますね」

俺「わかりました、まってます。俺もなんかあったらメールしますんで」

挨拶もそうそうに別れる。改札を通り、電車を待つ。
待ちながら俺はさっき行きついてしまった発想について考える。

彼女には青い糸がみえている。それは死に関すること。だけど彼女にはどちらがどちらの死に関しているのかはわからない。

つまり、お祖母さんが叔父を殺す可能性もあるということ。

だけどこれはあり得ないだろう。あの性格、力、諸々考えても無理だな。

彼女には言わないでおこうと結論がでて、電車がくる。

偶然か必然か、この駅は彼女と出会ったあの駅だった。


38:🎏 ゆこ ◆Ryuko..Wy.:2012/3/19(月) 23:38:59 ID:1lvOPQUkic
車掌「当駅にて少々停車します。ご乗車になりましてお待ちください------」

電車に乗り込み、車掌の声を聞き流しながら先程の新事実について思いを巡らす。

彼女は青い糸が見えている。そしてそれは人の死に関係するらしい・・・。
今までずっと俺も彼女も「赤い糸」と言ってきた。
それで会話に支障はなかったし、俺が「赤い糸」と最初に発言したときも、糸が見えることには驚いていたようだが、その糸が赤いことには動揺した様子はなかった。

ということは、彼女は、赤も青も見えているんじゃないだろうか?
世界の人々の幸も不幸も見続ける彼女の世界は、どんなにか辛いものだろうか。

まだ開いたままのドアからホームを眺める。いくつかの路線が乗り入れる大きな駅なだけあって、たくさんの人間がせわしなく通り過ぎて行く。
そういや、人身事故があったのはここだよな。数時間前のことなのに、駅はもういつもと何も変わらない顔で・・・

------彼女と次に会ったのはどこだった?
俺の自宅最寄り駅だ。なんでそんなところにいた?
今朝の人身事故が自殺じゃなく過失あるいは他殺だったとしたら、彼女は青い糸の片割れを追っていたんじゃないか?

まさかな。考え過ぎだ。
だが、元恋人と連絡をとろうとしないことの説明はつく。彼は「青い」糸で誰かと繋がっていたんだろう。だから。。。


車掌「間もなく発車いたします。ご利用のお客様は-------」



ほんとに、いろいろありすぎた1日だったな。。。
でも、素直に帰ればいいのに電車を飛び降りちまった俺の1日はまだ終わらねぇ。。。やべ、俺テラハードボイルド。
降りたところで何をすりゃいいのかわかんねーけどな。とりあえず、ばあさんちに戻るか。戻りながら考えればいい。




結局、最前のイヤな考えが頭から離れない。

おばあさんと叔父さんとが繋がった、死を司る青い糸。どちらがどちらの死を願っているのか。
順当に考えれば叔父がおばあさんを、だろう。
だが叔父は現在おばあさんの家で何不自由ない暮らし。彼女の話を鵜呑みにするならば、おばあさんから金銭の援助も得ていると推察できる。
保険金をかけている可能性は十分にあるが、別に殺す必要はないな。自然死でも問題ないはずだ。

『あなたは心配しなくていいの』
おばあさんの言葉が脳裏に蘇る。叔父さんは彼女に何らかの話を持ちかけていて、おばあさんは孫である彼女を守ろうとする。。。か。

おばあさんと話をしてみるか。。


ようやくおばあさんの家が見えてきたころ、門前の電信柱に人影を認めた。
小柄な、長い髪。

俺「帰ったんじゃないんスか」
39:🎏 繭 ◆TFyL7CT/Mk:2012/3/20(火) 16:18:23 ID:mGQ5RRjDh2

俺が声をかけると、電柱からスッと思った通りの姿が出てきた。

彼女「…ええ、もちろん帰ろうと思いましたよ」

彼女であったことに安堵すべきなのか、何故彼女もここにいるのかと問い詰めるべきなのかは判断しかねる。

彼女「でも、面倒くさい貴方の性格からいうと……糸のことを気にして、戻ってくるんじゃないかって」

当たりだったみたいですね、といつもの様子で近づいてくる彼女に不穏な気配は感じられなかった。
しかし、昼間から引っ掛かっていたことも考えると彼女の意思を汲み取るのは難しい。なにせ彼女からすれば大事な身内だ、不審な叔父はともかく。

未だに嫌な予感は拭えない、彼女には糸が繋がっていないなら彼女が何かすることはないだろう。
……一か八かだが、思い切って彼女に伝えてみようと思った。単なる知り合いから糸が見える仲間と呼んでくれた彼女なら、信じられるから。

「……こんなことを君に言うのも失礼かと思うけど、お祖母さんが叔父さんを殺すかも知れないと思ったんだ」

「……どうしてそんなこと思うんですか? 普通なら、逆でしょう?」

「お祖母さんは、君を叔父さんから守ろうとしてるように感じる」

彼女は黙っていた。視線を逸らすことも無く真剣な瞳で見つめられると、こちらも同じく黙ってしまいそうになるがそれでは進まない。

「もしかすると…君が見た青い糸が繋がった最初は本当に叔父さんの殺意から糸が繋がったのかも知れない。でも…今は君に危険が及ばないようにと考えたお祖母さんが叔父さんを殺そうとしてる」

「だから、確かめに?」

「あぁ……君と叔父さんの間に何があったのかは分からないけど、あの人(叔父さん)は少しおかしかったように思うから」

俺の返事に彼女は軽く俯いてから小さく頭を振る。諦めと悔しさが複雑に混じった、彼女からの返事だった。


「…あの卑劣な叔父のことなら、お祖母ちゃんはちゃんと分かってます」

「……え?」

「お祖母ちゃんがいなかったら、私が今頃あの叔父にどうされていたか分からない」

「それって…」

彼女は顔を上げて頬を伝う涙も気にせずに軽く笑った。どういうことなのか、一気に不安が押し寄せる。


「もう、遅いかも」


40:🎏 龍 ◆RYU....FU.:2012/3/20(火) 18:14:47 ID:1lvOPQUkic
不安と言う感覚が背中から頭に一直線に走る。
毛が逆立つような感覚にザワザワし、叔父がいた部屋まで走った。




そこには血だらけの叔父が倒れていた。

近くに祖母が座り込んで、目は遠くを見ていた。

俺「祖母さん……。こ、これは……。」

祖母「仕方なかったのよ。あの子を、"麻衣"を守る為に……。後悔はしてないわ」

もしや殺…え、彼女は麻衣と言うのか……と思った瞬間ッ!!!
今、なんて!?麻衣?麻衣と言ったのかッ!!!

繋がった、俺の中で彼女と繋がった。
今まで俺しか見えてないと思ってた糸が、初めて見えるという彼女と出会い……。
彼女の母が養子、そして俺と彼女だけ見える事に何故気づかなかったのか。



そうか……彼女は……いや、麻衣は俺の従……。



ドンッ



ん?何かが背中にぶつかった、後ろを振り向くと彼女がいた。

俺「あ、君は、いや、麻衣のお母さんのいた施設って……」

混乱の中、独り言の様に呟いているのか彼女に聞いているのかわからない状態で話しかけたが、
何か背中が熱い。

手を触れて見るとヌルリと気持ち悪い感触が。

赤い……糸の様に…真っ赤な色に染まった手……。

彼女「お、おばあちゃんを守らないと。し、知られちゃいけない。」



俺は倒れ、お風呂の中にいるように温かく感じながら、彼女のガタガタと震え真っ青な顔を見ながら、
次第に凍える様に寒くなり、深い…深い…闇へ意識が落ちていった……。
41:🎏 すに ◆cjb8xYwtrY:2012/3/21(水) 05:24:59 ID:RlHSxMP/3U
ガタンゴトン、ガタンゴトン。
誰も居ない電車の中で、俺と彼女が向かい合って座っている。
窓の外は延々と続く田園風景。いい天気だ。こんな日は日向ぼっこでもしたい気分。今も彼女が座っている方の席から暖かい日差しが差し込んできて、とても気持ちがいい。
そういえばいつも会社に行くときに利用している種類の列車だ。でも行き先を表示するはずの電子版には何も流れてこない。
あれ?壊れているのかな?
車内アナウンスも聞こえてはこないし、一体俺達はどこに向かおうとしているのだろう。

「あなたが悪いのよ…」

突然彼女が話し掛けてきた。

一体なんのことだ?俺が君に何かしたのか?

「家に戻って来たりなんかするから…こうするしかなかったの…」

あれは君のお祖母さんが気になったから話を聞こうと思ってさ。

「私を許して…」

なんで泣いてるんだよ。君が何をしたっていうんだ。俺が君を恨むようなことがあったか?ないだろ?

「お願い私を許して…っ」

泣きじゃくりながら許しを請う彼女。心配ないよ。何があったか知らないけれど、きっと俺は君を許すよ。そうに決まってる。君はやっと見つけた従妹なんだ。

彼女を抱き締めようと立ち上がろうとしたそのとき、もともと逆光で見え辛かった彼女の輪郭がだんだん小さくなっていって、しまいには辺り一面眩しい光に包まれた。俺は目を開けていられなくなってぎゅっと瞼を閉じた。

目を開けると、真っ白な天井だった。

「誠…?」

母さん…?ぼんやりする頭でそう思った。

「兄貴!?」

弟が驚いた声で聞いてくる。大声出すなよ。頭に響くんだよ。

「看護師さん!!息子が目を覚ましました!!早く!!早く来て下さい!!」

母さんうるさいよ。もう少し静かにしてくれよ。

そう言おうとしたけれど、俺の口からは『あ…あ…』という掠れた声しか出て来なかった。
暫くすると白衣を着た中年の男が入ってきて、目にライトを当てたり脈を計ったりしてきた。何か話してと言われたがやはり声が出ない。

「もう大丈夫です。刺されたところが脇腹で不幸中の幸いでしたね。三週間程入院して問題無ければ退院出来ますよ。声が出ないのも一時的なショックでしょう」

「…ありがとうございます!本当にありがとうございます!」

母が首が折れるんじゃないかという勢いで頭を下げた。隣には、同じように頭を下げる父がいた。
42:🎏 ゆこ ◆Ryuko..Wy.:2012/3/21(水) 22:45:26 ID:1lvOPQUkic


あれからどれくらいの時間が経過しただろう。
海の側の別荘で、波音に耳を傾けながら暖炉の火を眺める。もうすぐ春が来る。暖炉の薪は用意してある分だけで足りるだろう。

糸が見える仲間・・・誠と言ったっけ。彼は命に別状はないと聞いた。
お見舞いくらい行きたいけど、どんな顔で会えばいいのだろうか。いやむしろ会ってもらえるのだろうか。


あの日、家の付近を警備していたガードマンに発見され、警察の前に父方の叔父に連絡がいった。
クソ叔父も一命は取り留めてしまった。リハビリしてもいくらか障害は残るだろうとのことだったが。
まぁ平たく言えば叔父さんがすべてお金で解決してくれた。
叔父さんも大規模企業のトップである以上、母・・私の祖母の傷害事件など明るみにするわけにはいかなかったのだろう。
祖母は私が誠を刺した罪すら被り、そして父方の叔父は大事にならないようありとあらゆる手をつくしてくれた。

クソ叔父は少し前から私に養子にくるようにと言っていた。
運命の相手が見える赤い糸、そして死を司る青い糸が見える私を利用して、新たな金儲けをしようとしていたようだった。
書類の上だけとはいえ、あんな男の娘になるのは死ぬほどイヤだった。


だけど、今回の事件で全てが暴露された。

あの事故のとき、車から脱出した私は、両親と叔父とが青い糸で繋がっているのを見た。
青い糸の意味を理解すると同時に、叔父が両親を死に至らしめたことに気づく。幾ばくかの保険金のために。

祖父が亡くなるのと同時に、叔父は数枚の写真をネタにして祖母を強請り始めた。
いや、本当は私の両親のこともその写真で強請っていたらしいのだけど。
その写真というのが、私の母の・・・裸体。

クソッタレは、父との結婚が決まった幸せ絶頂の母を無理矢理・・・。
以降、その写真を元に両親を、そして祖母を強請り続けた。両親も祖母も、会社のために、そして私のためにクソッタレの言うなりになっていた。

今回、クソッタレがあのような状態になっても黙っているのは、叔父さんからの多額の慰謝料と、今までのその強請りの事実があるからだそうだ。

そして私は、、、あのクソッタレの娘だった。両親も祖母も、その事実をひたすら隠すために命を失い、罪を背負った。。。



パキン...ッ

自分で自分を殺めてしまいたい衝動にかられたところで、薪の爆ぜる音に我に返る。

従兄弟、誠は元気だろうか。彼にはたくさんの隠し事をしてしまったし、それ故にこんな薄汚い事件に巻き込んでしまった。
私を助けようと、力になりたいと言ってくれたのに、私は彼を刺してしまった。。。もう、二度と会うことはないだろう。
まさか従兄弟だったなんて。。


ぴんぽーん

フフと自嘲気味に笑みを漏らしたところで、インターホンがなった。
43:🎏 繭 ◆TFyL7CT/Mk:2012/3/21(水) 23:52:32 ID:P2/yVcR/xs

「はい」

「よっ、久しぶり」

「は…?」


きょとんとした声が返ってきたものの、良い別荘だなーとか外装を眺めている間もなくすぐに玄関の扉が開く。
出てきたのは少し疲れたような表情はしているものの、元気そうな従姉妹の姿。

「ちょ、ちょっと貴方……どうしてココ……。それよりも、まだ退院したばかりのはずでしょう!」

「いや、まあ……そうなんだけども」

軽く笑いながら答えると怪我人の癖に何をやっているのか!と凄い剣幕で怒られる。
どうやら本気で俺の身を案じてくれているらしく、先ほどから病院に戻れ戻れとしつこく言っては睨みを利かせてくる。
でも、無理やり追い出したりするようなことはせず、中に上げてくれた上にお茶までちゃっかり用意して貰ってしまっていたりする。
悪いな、というと怪我人なんだから…とブツブツ言われる。

まさか、あのバス停で彼女を目にしたときには従姉妹だなんて思わなかったし顔だって俺の知る限りでは親戚の中でとびっきりの美人だ。
口汚く罵られたり、小馬鹿にされることの方がとにかく多かったように感じるけど、彼女の優しい笑顔が見れた時は嬉しかったものだ。
彼女が俺にしたことを咎める気はない。
そりゃ、痛かったけどな。命に別条はないとは言っても、一応刺されたわけだし。

でも、何よりも一番精神的ダメージが強かっただろう彼女が元気で生きていてくれることが嬉しい。
俺には、彼女に青い糸が繋がってしまったとしてもそれを見ることが出来ないから。
こうして直接彼女の安否を確かめる以外にない。
自分を責めて彼女にまでもしものことがあったら…と考えるだけで、寒気がするのだから。


「麻衣、って…呼んでいいんだよな」

「それは…好きに呼んだらいいと思う、けど」

「じゃあ麻衣。あのさ」

「……何ですか?」

ツン、とした態度でいるものの名前を呼んだ時の彼女の顔は少しきょとんとしていて俺に呼ばれることに慣れてないんだなぁと思うと少し笑ってしまう。
もちろん、彼女の前で笑おうものならキッと目を吊り上げて睨むので表だって笑ったりはしないのだが。

「俺のことをこうして出迎えてくれたからこそ、一つ言いたいことがあって来たんだ」

「……何を?」

「一緒に、暮らさないか?」

44:🎏 龍 ◆RYU....FU.:2012/3/22(木) 00:36:36 ID:1lvOPQUkic
麻衣「えっ…いあ、でも…私、貴男の事刺し…」

俺「あー、まぁ、えと、とりあえず俺も部外者じゃないし叔父の事とか出来れば話してくれないか?」

麻衣「……」

麻衣「そうですね。私にも話す責任がありますよね。」


………

……




そして麻衣は全てを語ってくれた。

叔父にされた事……。
弱みを握っていた事……。
家族が何故、叔父にお金を渡していたのか……。

俺は飲み込む唾の音を隠したく、ふうっとお茶を一口唾と一緒に飲み込んだ。
聞いてはいけなかった様な、言いたくない事だが俺を刺した罪悪感を理由に無理やり聞き出したようで、なんて言っていいかわからなかった。

俺「そうか……。思い出したくない事を聞いてしまって悪かったな。」

麻衣「……」

余計に空気を悪くしてしまったようだ。
言葉が詰まった時の為に映画を持ってきたので、まずは雰囲気を変えてみるか。

俺「あ、ビデオ持ってきたんだ。話は後にして一緒に見ないか?」

麻衣「……うん。」

彼女もこの雰囲気の空気に戸惑っていたようなので、すんなりと承諾してくれた。
ビデオを見て空気を変えて、今後について話し合おう。
そう思い一緒にビデオを見た。



http://llike-2ch.sakura.ne.jp/ss/images/aa.gif



麻衣「なに…こ…れ…」


俺「アッー!!間違えたぁぁぁぁああああああああ」
45:🎏 ◆WfagbE5V86:2012/3/22(木) 23:19:17 ID:4Cv9sk.XOo

俺「くぁwsでfrtghyじゅきぉp;@:」

麻衣「・・・まあ趣味は人それぞれですからね・・・」

完璧に勘違いされてる!違う!これはホモの友達に妙に期待した顔で無理やり渡されたんだ!これ見たぐらいじゃ目覚めねぇから!

俺「ゴメン、本当にゴメン」

麻衣「とにかく早く映画みましょう」

目が死んでいた。麻衣の後ろにスタンドらしきものが見えた気がした。

俺「あ、こっちにしよう」

なんもかいてないDVDをてにとる。家から適当にもってきたやつだから心配だ・・・。

うぃぃんと起動音が部屋中に響く。
何故か正座する。手汗が半端ないのだが・・・。

映像がついた。トトロだった。

麻衣「・・・・・」

俺「(ふざけんなおれええええええええええええええええええ!!!!)」

麻衣「まあトトロいいですよね」

そしてトトロを見始めて少し、メイが小トトロを追いかけた当たりで麻衣が急に話し始めた。

麻衣「・・・私も昔はこんな子だった」
46:🎏 ゆこ ◆Ryuko..Wy.:2012/3/23(金) 00:22:36 ID:1lvOPQUkic
彼女の目はメイを通して過去の自分を見ていた。

麻衣「父のことも母のことも大好きで、泣き虫で、でも好奇心が旺盛で。今となってはこの素直さに憧れちゃうなー。」
俺「何も変わってないよ。むしろ、もっとメイっぽくなったんじゃないかな。他人に見えないものが見えるんだから」

びっくりしたように俺を見て、そしてクスリと笑う。

麻衣「じゃあ、あなたもメイなんですね」

言い終わるころには堪えきれずに腹を抱えて笑っていた。
なにが面白いのか俺にはわからないが、あの事件以来どうせ一人で全部抱え込んで、笑うことも忘れていたのだろう。だから歯止めがきかなくなってるんだ。

俺「あのさ、俺の母が君に会いたがってるんだ。『妹の忘れ形見』って」

笑い過ぎて流した涙を指で拭う彼女に、母から聞いた話をそのまま伝えた。
麻衣のお母さんであり、俺の母の妹である女性は、子供のころから糸が見えていたと。施設でのこと、ずっと案じていたこと、麻衣のことも娘のように思うと言っていたこと。。。


麻衣「そう・・・」

そう呟いて暖炉に目をやる。俺もつられて同じ方向へ視線をやるとパチパチと爆ぜる薪が心を落ちつかせてくれた。

俺「だから、一緒にry
麻衣「私は、その前にやらなくちゃいけないことがあるの。」

俺「やらなくちゃいけないこと?」
麻衣「彼・・・元彼ね。彼の安否を確認しなくちゃいけない。」
俺「やっぱり彼の指の糸は青だった・・・?」
麻衣「ええ。彼の先輩にあたる女性で、彼が常々『尊敬している』と言っていた人とね、つながっていたの」

麻衣「そんなこと言えないでしょう?あの女性があなたの死に関わっているなんて」
俺「・・・」

麻衣「ま、逃げただけなんだけどね。その女性から彼を守ればよかったのにそれも出来ずに。悲劇のヒロインを気取って、彼の死から逃げた」
俺「青い糸が見えて、麻衣はその運命を覆すことができると思う?そして、逆に彼がその女性の死に関わっているという可能性を考えたことは?」


大きな溜め息をつきながら一瞬天井を仰ぎ見て、そして真っ直ぐ俺に向き直る麻衣。
その目の中に信頼の色を見たのは初めてだった。

麻衣「ひとつめの質問の答えは、今のところノー。やり方によってはできるかもしれないけど、名案は浮かばない」


運命は運命、か-------------。

麻衣「二つめの質問は、イエス。だからこそ、運命を変えてみたい。彼を犯罪者にしたくない」
俺「俺も行くけど、いいよね?」

麻衣は無言で一枚のメモを差し出した。
どうやら、住所が書かれているようだった。
47:🎏 繭 ◆TFyL7CT/Mk:2012/3/23(金) 02:02:25 ID:mGQ5RRjDh2

俺「ここ、か…」

麻衣「ええ」

麻衣が頷いたのを確認して車から降りる。
道中、車の運転なんて出来たんですねと意外そうに言われてしまい少し悲しいものがあるが気にせずに車を走らせていた。
通勤に使っていないだけで乗れるんだとアピールしたら変なの、と笑ってくれたが車を降りてからの彼女の表情は真剣そのものだったのだが。

麻衣「……インターフォン、押しますね」

俺「ああ」

背を向けたままの麻衣に向けて短く返事をすると、ゆっくりと深呼吸を1つしてからインターフォンを押す。
ぴんぽーん、という安っぽいインターフォンのが鳴ったものの返事の返って来ないインターフォンを見つめていればチェーンを付けたまま音を立てて軽く玄関の扉が開く。
顔を少し出したのは暗い表情こそしているが、違いなくイケメンだった。
ちくしょう美男美女カップルだったのかと地団駄を踏みたいところだが、元彼氏のイケメンが麻衣の姿を確認すると目を大きく見開けばすぐにチェーンを外し大きく扉を開いてその姿を確認している。

「ま、麻衣…!?」

麻衣「修介…久しぶりね」

元彼氏は修介というらしい、俺のことなんて眼中にないらしく今にも抱きしめんばかりに麻衣のことを愛しいそうに見つめている。
念のために小指を確認するが、赤い糸が遠くに伸びているだけで麻衣と繋がっている様子はないし青い糸も見えなかった。

修介「? 麻衣、そっちの人は…」

麻衣「私の従兄弟のお兄さんよ」

俺「……ドウモ」

イケメン爆発しろと念じながらも軽く挨拶をすると、軽く会釈を返してくれた。悪いやつではないように見えるが、先輩の女性とやらの死に関わっているだろうという彼は誰かを殺したりするようには見えない。

修介「なんだか、ヨリを戻しに来てくれたわけじゃないみたいだね…」

麻衣「…突然、押し掛けてしまって悪いけど」

修介「……ううん、良いんだ」

麻衣「あなたにどうしても言いたいたいことがあって」

首を傾げる修介をまっすぐ見つめながら麻衣は口を開いた。

麻衣「単刀直入に言うわ。…先輩を殺したりしないで」

修介「は…? 先輩、って…」

麻衣「修介の先輩。…あなたが尊敬してるって言っていた人」

自分の尊敬してる先輩、と言われては思い当たった人物がいたからだろうか修介はあからさまに顔色を変えて動揺していた。

48:🎏 すに ◆cjb8xYwtrY:2012/3/23(金) 18:12:16 ID:n59Waca3nY


修介「な…に言ってんだよ…俺が先輩を殺すはずないじゃん!尊敬してるんだし?殺す理由なんてある訳ないだろ?」

はは…冗談キツいよ…と続ける彼の瞳は私を見てはいなくて、明後日の方を向いていた。隣に立っている誠さんも、私のいきなりの発言に驚いた様子だ。

修介「それよりさ、やっぱり俺お前が好きなんだ。また付き合ってくれないか?」
修介「俺あれから何人もの女と付き合ったけどさ、お前以上のやつなんて一人も居なかったよ」
私「修介」
修介「だから頼むよ。なあ?麻衣もほんとはそれ言いに来たんだろ?その人だって俺以外の奴に声掛けられないためのカモフラージュ…」
私「修介!」

ハッとして、彼は一旦喋るのをやめた。

修介「ごめん…」

私は彼の手を取ると言った。

私「その話はまた後でにしましょう?ね?」
修介「…わかった。じゃあ、取り敢えず上がって」

私達は彼の住むマンションへお邪魔することになった。

修介「散らかっててごめんな」

リビングに通されると彼が言った。そうはいうけれど、いつ客を呼んでも申し分ないほど部屋は片付いていた。几帳面な彼なりに気になるところがまだまだあるのだろう。
お茶を用意してくれた彼も席に着くと、私は早速話を切り出した。

私「さっきも言ったけど、もしあなたが先輩を殺す気なら、やめて欲しいの」
修介「…」
私「いきなりなんのことかわからないかもしれないけれど、冗談で言っているとかじゃないのよ。本気なの」

彼は黙り続けている。それを見て私は早まってしまったのか、と感じた。確かな証拠も無いのにいきなりこんなことを言って、不審に思われたに違いない。けれど、それ以外に方法が思い付かなかった。
すると彼が喋り始めた。

修介「…なんで、麻衣がそんなこと言うのか分からないけど、俺、確かにあいつを、先輩を殺したいと思った」

いざ彼の口からそう言われると、ショックだ。返す言葉が見当たらない。

修介「麻衣と別れた後さ、引きずって立ち直れなかった俺を慰めてくれたんだ。馬鹿な俺はそれだけでクラッときちまって、自然と俺達は付き合うようになった」

初めて聞く事実に驚きが隠せなかった。

修介「ある日酔ったあいつが言うんだよ」

先輩『あんたの元カノって馬鹿だよね〜。こ〜んな良い男と別れるなんてっ!ちょっと修介が私に気があるから別れろって脅したくらいでさあ』

修介「気付いたら俺はあいつを殴ってた」
49:🎏 ゆこ ◆Ryuko..Wy.:2012/3/23(金) 22:09:55 ID:1lvOPQUkic


修介「まぁ瞬間的な殺意ってやつ?今でも許せないけどさ、女殴った瞬間目が覚めたっていうか」

人は何かを隠そうとするとき饒舌になると言うものだ。この男もまさにそんな感じだった。
普段この男がどれくらいよく喋る奴なのかわからないから言い切ることはできないが、俺はそんなふうに思った。


修介「ry というわけで、この話は終わり!な!」

麻衣「えっと・・・私は先輩から脅されたことはないし、酔っぱらってたとはいえ、ありもしない、しかも自分の印象を悪くするようなことを言うなんて考えにくいのだけど」

修介の顔色がまた変わる。赤くなったり青くなったり。目も白黒させてい忙しい奴だ。
空気と化した俺はとりあえず洒落たグラスに注がれた烏龍茶をひたすら飲んでおく。

修介「あーもーうっせーな。いい加減にしてくれよ!久しぶりに顔見せたと思ったらなんなんだよ!」

麻衣「私達がまだ付き合ってるときから、貴方と先輩はお付き合いしていたようだけど・・・」


修介「・・・あ、おかわり入れるわ」


修介は俺の空のグラスを見て、逃げるようにキッチンへ去って行った。


麻衣「青い糸が、ないの」
とても小さな声で、でもはっきりと麻衣は言った。
俺「え?じゃ、じゃぁ」

麻衣「でも、おかしいのよ。何か変なの。貴方だってそう思うでしょ?あの様子はおかしいと思わない?」

俺「正常な状態の彼を知らない俺にはなんとも」


麻衣が軽く唇を噛んだところで、キッチンから声が聞こえてくる。

修介「麻衣は昔っから勘がするどかったよなー。
修介「お前が事故ったときさ、実は、お前の叔父さん?だっけ?あのオッサンから『麻衣の帰宅時間と帰宅ルート教えろ』って言われてさ
修介「まぁ金もらったし、何時に帰るか言うくらいいいかと思って。したら事故だもんなー。
修介「事故のあと、お前ちょっと様子おかしかったし、一瞬面倒かなーとか思って。先輩と遊んでたんだよね。

ずっと修介のターン。
不愉快な話をし続けながらキッチンから出てくる不愉快な男。
俺のお茶持ってねーじゃねーかボケ。

修介「お前と別れてしばらくしたら、アイツ『子供できちゃった』とか言うわけ。ほんと最悪だと思った」


後ろ手に何かを持っている。なにこの空気。火曜サスペンス劇場とかで見たことあるかも、この感じ。
50:🎏 繭 ◆TFyL7CT/Mk:2012/3/24(土) 00:12:51 ID:P2/yVcR/xs

「上手く行きそうだったのにな……なんで、勘付いて来ちゃうか、ホント」

修介の表情が暗い。
正面にいる麻衣からは腰を押さえてるくらいにしか見えてないかもしれないが、俺の角度からは何かが握られているのを認識できた。

「せっかく、先輩階段から落として清々してたってのに」

「……え?」

「これで気にすることないって、思ってたのに」

その言葉で気づいた。
修介と先輩とやらが繋がっていた青い糸が消えた理由。
嫌な予感って本当に勘弁してほしいな、勘が良いっていうのは麻衣も俺も一緒なのかもしれない。

「逃げるぞ!」

「え、ええ!?」

追いかけてきそうな修介に置いてあった何かのリモコンを投げつけ、テーブルを修介の方に向けて蹴り上げる。
驚いた表情の麻衣の手を引いて玄関まで急いだ。もちろん、いきなり物を投げつけられた上にテーブルがひっくり返って焦っているのだろう、ちゃんと靴を履く余裕くらいは作れた。

「何、まだ先輩についてちゃんと…!」

「麻衣が見た青い糸は先輩と繋がったんじゃない、先輩のお腹の中にいた子供と繋がったんだ!」

「じゃ、じゃあ青い糸が消えたのは…」

「修介が階段から落としたって言ってただろ、多分その時に…」

「誰も死なないように、説得に来たのに…!」

「そんなこと言ってる場合か!」

路駐はマナーが悪いが、それでも車を近場に止めていてよかったと思う。修介が持っているのは包丁だ、刺されたら溜まったもんじゃない!
走ったことで傷口がまだ若干痛むが、構っていたら傷口がもう一つ出来てしまいかねない。このまま車で逃げて警察に行った方が……

「うわっ!?」

「ちょ、ちょっと誠さん!」

俺も本気で走っていたからか、思わず転倒する。もちろん一緒に麻衣もバランスを崩したが、さすがに俺ほど派手にこけることは無かった。が、情けない限りだ。もしこれで足を挫いていたりしたらとんでもない。
麻衣が俺の方に駆け寄ってくると、すぐに後ろに修介の影が見えた。逃げるな、と喚いているらしい。
麻衣に怪我をさせたら天国にいるだろう、叔母さん達に申し訳ない。ポケットに手を突っ込んで車のキーを渡す。

「麻衣、先に車に入ってろ。それから、急いで携帯で警察呼べ!」

「あなた怪我人でしょう!?何馬鹿なこと…!」

51:🎏 龍 ◆RYU....FU.:2012/3/24(土) 09:37:22 ID:1lvOPQUkic
俺「いいから、早く車をッ!」

麻衣の目には今にも涙がこぼれそうなのがはっきりと見えた。
車に走ってる後ろ姿を見て安堵した。
傷口が開き、足手まといな俺と逃げていたら逃げ切れなかっただろう。


パスッ!パスッ!パスッ!


あぁ……またか……この感触は覚えてる……。
離れている車の中で大粒の涙を流しながら電話で何か叫びながらこっちを見ている麻衣がはっきりと見えた。
麻衣の元彼氏が何かを叫んで走り去ったが、何を言ったのかもう頭の中には入ってこなかった。

麻衣のひとつひとつの行動だけをスローモーションのように感じながら見つめていた。

麻衣「あ、あぁ、、、っ、、い、今救急車が、、すぐ来るから」

くすっとしてしまう。今まで毒舌だったのに泣きながら俺の手を握って動揺している姿に。

俺「ま、麻衣、、、ほら、見てごらん、、俺にも赤い糸が、、やっと出来たよ、、」
俺「従姉妹、、でも、、、恋人になれるかな、、、ははっ、、」

麻衣が握っていてくれてる手に俺の血が流れ、二人の小指に赤い糸が巻かれているようだった。
魚のように麻衣が口をパクパクさせている。

もう、何も聞こえない。

でも、俺は何か気持ちはすっきりしていた。

俺「麻衣と、、出会えて、、、よかった、、、」




ー数週間後ー




麻衣「誠ー。お茶入れたよ。」
麻衣「ほら、映画見に行くんでしょ!早く用意してよ!」
麻衣「前みたいな変な映画は見ないからね!ふふっ」




誰もいない部屋で独り言のようにブツブツ言っている麻衣の小指には、青い糸が巻かれていた。

       fin.
52:🎏 真・スレッドストッパー:停止
停止しますた。ニヤリ・・・( ̄ー ̄)
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名前:
sage:


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